説明

石炭火力発電所における燃料タンクの運用方法

【課題】石炭火力発電所における石炭専焼後の重油タンクの新たな運用方法を提供すること。
【解決手段】No1重油タンク(1A)及びNo2重油タンク(1B)を備えた石炭火力発電所において、No2重油タンク(1B)には重油を貯蔵せず、No1重油タンク(1A)のみに重油を貯蔵する。そして、石炭専焼後の発電用ボイラに対し、No1重油タンク(1A)のみから重油を供給し、No2重油タンク(1B)は重油を貯蔵しない状態で空運用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所における石炭専焼後の燃料タンクの運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電用ボイラの燃料として石炭燃料が主として用いられる火力発電所が知られている。しかしながら、石炭は着火性・燃焼性が悪いため石炭焚ボイラの起動時等の補助燃料として重油燃料の使用を欠くことができない。そのため、石炭火力発電所であっても大型の燃料タンクが設けられていることが一般的である。
【0003】
このような燃料タンクにおけるタンク内に貯蔵された燃料の量を管理する方法として、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−260552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、石炭火力発電所における重油の使用量は、石炭火力発電所の運転開始時が最も多くなる。すなわち、石炭の着火性・燃焼性の悪さから、試運転調整期間の約半年間に亘り多量の重油が使用される。このような運転開始時の重油使用量を賄うため、石炭火力発電所には、大型の重油タンクが複数設けられている(具体的には、1,2000klの重油タンクが2基設けられている)。しかしながら、石炭火力発電所の通常運用に入ると、発電用ボイラは石炭専焼により運転され、重油がほとんど使用されなくなる。すなわち、発電用ボイラの起動停止時及び停止後の起動時にわずかに使用されるだけであり、具体的には、年間に600kl程度の重油しか使用されない。
【0006】
ここで、図7を参照して従来から行われている、石炭専焼後における2基の重油タンクの運用方法について説明する。No1重油タンク1A及びNo2重油タンク1Bは共に容量12,000klの大型の重油タンクである。従来の運用方法では、No1重油タンク1A及びNo2重油タンク1Bの両方に重油Xを入れておき、発電用ボイラの起動停止時及び停止後の起動時に重油を供給していた。この場合において、2基の重油タンクに貯蔵される重油Xの流動性及び燃焼性を高めなければならず、加温蒸気によりNo1重油タンク1A及びNo2重油タンク1B内の重油Xを加温すべく加温蒸気弁10A及び10Bを共に開放していた。
【0007】
ところで、石炭専焼後に使用される重油量は年間600kl程度であり、容量12,000klの大型の重油タンク2基を用いて供給する従来の運用方法の見直しが求められていた。特に、加温蒸気で2基の重油タンクを加温しなければならない従来の運用方法では、加温蒸気の使用量も増加するため、環境保護の観点からも運用方法の見直しが求められていた。また、発電所における大型の重油タンク(特定屋外タンク貯蔵所)は、消防法により定期的な(8年毎)保安検査が義務付けられているところ、従来の運用方法では保安検査において無駄な工程が生じ、2基の重油タンクの保安検査に長期間かかってしまう問題があった。
【0008】
本発明は、このような要望に鑑みてなされたものであり、石炭火力発電所における石炭専焼後の燃料タンクの新たな運用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、2基の重油タンクのうち1基の重油タンクに重油を入れず空運用し検証することにより、本発明を完成するに至った。なお、以下において「空運用」とは、タンク内部に重油を貯蔵することなく運用することをいう。また、「定期的な点検」とは、例えば、消防法により規定される保安検査をいう。また、「燃料」とは、重油や軽油等の液体燃料をいう。
【0010】
(1) 複数の燃料タンクを備えた石炭火力発電所における石炭専焼後の前記燃料タンクの運用方法であって、複数の前記燃料タンクのうち1の燃料タンクから発電用ボイラに燃料を供給する工程と、前記1の燃料タンク以外の他の燃料タンク内の燃料を空にし、前記他の燃料タンクを空運用する工程と、を含むことを特徴とする燃料タンク運用方法。
【0011】
(1)の運用方法によれば、石炭専焼後の発電用ボイラには複数の燃料タンクのうち1の燃料タンクにのみ燃料を貯蔵し、それ以外の他の燃料タンクには燃料を貯蔵しない。そして、この1の燃料タンクのみから燃料を供給し、他の燃料タンクは空運用する。
これにより、従来複数の燃料タンクを用いていた石炭専焼後の燃料タンクの運用方法について新たな運用方法を提供することができる。特に、空運用する燃料タンクについての日常補修費や攪拌機動力費等といった運用コスト(ランニングコスト)を低減することができる。
【0012】
(2) 複数の前記燃料タンクは、2つの燃料タンクからなることを特徴とする(1)に記載の燃料タンク運用方法。
【0013】
(2)の運用方法によれば、発電用ボイラに燃料を提供する1の燃料タンクと、空運用される他の燃料タンクの2つの燃料タンクと、によって石炭専焼後の燃料タンクが運用される。
【0014】
(3) 前記空運用する工程の前に、前記他の燃料タンク内を清掃する工程を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の燃料タンク運用方法。
【0015】
(3)の運用方法によれば、空運用される他の燃料タンクは清掃された状態であるため、空運用期間中におけるタンク内部の腐食を防止することができる。
【0016】
(4) 空運用中の前記他の燃料タンク内の燃料を加温する加温蒸気を停止する工程を更に含むことを特徴とする(1)から(3)の何れかに記載の燃料タンク運用方法。
【0017】
(4)の運用方法によれば、空運用される燃料タンクに加温蒸気を提供する必要がないため、加温蒸気の使用から排出される温室効果ガスを軽減することができ、従来の運用方法に比べて環境保全に適している。
【0018】
(5) 空運用中の前記他の燃料タンク内を通気する工程を更に含むことを特徴とする(1)から(4)の何れかに記載の燃料タンク運用方法。
【0019】
(5)の運用方法によれば、空運用期間中におけるタンク内部の温度・湿度等を調整することができ、タンク内部の腐食を防止することができる。
【0020】
(6) 複数の前記燃料タンクについての定期的な点検において、空運用中の前記他の燃料タンクから先に点検することを特徴とする(1)から(5)の何れかに記載の燃料タンク運用方法。
【0021】
(6)の運用方法によれば、定期的な点検において空運用されていた他の燃料タンクから先に点検するため、点検時に貯蔵されていた燃料を移送する工程を省略することができ、点検工期の短縮を図ることができる。
また、清掃された状態で空運用されていた場合には、点検時に燃料タンク内部を清掃する工程をも省略することができる。
【0022】
(7) 前記定期的な点検において前記他の燃料タンクの点検が終了した後、前記他の燃料タンクに前記1の燃料タンク内の燃料を移送する工程と、空になった前記1の燃料タンクの清掃及び点検を行う工程と、前記1の燃料タンクを空運用する工程と、を更に含むことを特徴とする(6)に記載の燃料タンク運用方法。
【0023】
(7)の運用方法によれば、定期的な点検前に空運用されていた他の燃料タンクを用いて定期的な点検後に発電用ボイラに燃料を供給し、定期的な点検前に発電用ボイラに燃料を供給していた1の燃料タンクを定期的な点検後に空運用する。これにより、定期的な点検後においても、加温蒸気の使用量を軽減することができる。また、空運用される1の燃料タンクは清掃及び点検後に空運用されるため、空運用期間中におけるタンク内部の腐食を防止することができ、その後の定期的な点検において点検時の工程を省略でき、点検工期の短縮を図ることができる。
【0024】
(8) 前記他の燃料タンクの点検と前記1の燃料タンクの点検とを連続的に行うことを特徴とする(7)に記載の燃料タンク運用方法。
【0025】
(8)の運用方法によれば、空運用していた燃料タンクの点検周期見直しによるコスト増加を最小に抑えることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、石炭火力発電所における石炭専焼後の燃料タンクの新たな運用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の燃料タンク運用方法の概略を示す図である。
【図2】タンク空運用に対する健全性の検証結果を示す図である。
【図3】本発明の燃料タンク運用方法と従来の燃料タンク運用方法との点検工程の比較を示す図である。
【図4】本発明の燃料タンク運用方法における定期点検スケジュールを示す図である。
【図5】本発明の燃料タンク運用方法の処理を示すフローチャートである。
【図6】従来の燃料タンク運用方法の概略を示す図である。
【図7】2基の重油タンク間の重油移送方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図1〜図6を参照して説明する。なお、以下においては、重油タンクを例にとって、本発明の燃料タンク運用方法について説明するが、軽油タンク等の他の燃料タンクにも本発明の燃料タンク運用方法は適用可能である。
【0029】
[燃料タンク運用方法の概略]
図1を参照して、本発明の燃料タンク運用方法の概略について説明する。
【0030】
No1重油タンク1A及びNo2重油タンク1Bは、石炭火力発電所に設けられた容量12,000klからなる大型の重油タンクである。No1重油タンク1A及びNo2重油タンク1Bは、ポンプPを介して発電用ボイラに重油を供給可能に設けられている。No1重油タンク1A及びNo2重油タンク1Bには、加温蒸気弁10A及び10Bが開放されることで加温蒸気が供給され、この加温蒸気によりタンク内部に貯蔵されている重油Xが加温される。なお、加温蒸気は発電用ボイラから取得される。また、No1重油タンク1A及びNo2重油タンク1Bには、その側板にマンホール20A・21A、20B・21Bが設けられている。マンホール20A・21A、20B・21Bは、内部点検の際に点検者がタンク内部に入るため等に用いられる。
【0031】
ここで、本発明の燃料タンク運用方法では、No1重油タンク1Aに重油Xを貯蔵し、No2重油タンク1Bには重油Xを貯蔵しない。すなわち、No2重油タンク1Bを空運用する。そして、No1重油タンク1Aからのみ発電用ボイラへ重油を提供する。この場合において、空運用するNo2重油タンク1Bの加温蒸気弁10Bは閉じ、No2重油タンク1Bに加温蒸気が供給されないようにすることが好ましい。また、空運用するNo2重油タンク1Bは、予めその内部を清掃しておくことが好ましい。
【0032】
このように、本発明の燃料タンク運用方法は、複数の重油タンクのうち1の重油タンクのみから重油を供給し、その他の重油タンクを空運用することを特徴とする。
【0033】
[タンク空運用に対する健全性の検証]
ところで、従来2基運用していた重油タンクのうち1基の重油タンクを空運用とした場合、空運用を予定されていない重油タンクの健全性が懸念される。そこで、本発明者は、4年6ヶ月の検証期間中に健全性の検証を行い、問題がないことを確認した。図2を参照して、重油タンク空運用に対する健全性の検証結果について説明する。
【0034】
(タンク内部)
重油タンクを空運用した場合に、タンク内部に腐食が発生するか懸念された。そこで、タンク内部について検証期間中に1年に1度内部点検を実施した。この点検の結果、錆びの発生もなくタンク内部が健全であることが確認された。また、消防法規定の前回定期点検時に施行した塗装も健全であり、タンク内部に腐食は発生していなかった。
【0035】
(タンク外部)
また、重油タンクを空運用した場合に、夏場において外気温度差による側板等の伸縮による異音が発生するか懸念されたところ、重油タンクからの異音は確認されず、側板等の異常も確認されなかった。
【0036】
なお、検証期間中の4年目の梅雨〜秋ごろには、マンホールを開放し、重油タンク内部を通気すると共に、通気期間のタンク内部の腐食や内部の温度差の変化を確認した。その結果、通気期間のタンク内部の腐食は確認されず、また、タンク内部の温度差も通気期間を通して異常は見られなかった。
【0037】
このように、重油タンクを長期間空運用した場合における重油タンクの健全性が確認された。なお、重油タンクを空運用する際には、例えば、梅雨時期や夏場には側板に設けられたマンホールを開放し通気を行い、温度・湿度の調整を行うことが好ましい。タンク内部の腐食を防止すると共に、外気温度差を小さくすることができるためである。
【0038】
[重油タンク運用見直し前後の工程比較]
発電所における大型の重油タンク(特定屋外タンク貯蔵所)は、消防法により定期的な(8年毎)保安検査が義務付けられている。この定期点検ではその工程短縮が望まれるところ、図3を参照して、本発明の燃料タンク運用方法と従来の燃料タンク運用方法との点検工程の比較を示す。
【0039】
図3上段は2基の重油タンクにより重油を供給していた従来の燃料タンク運用方法の点検工程であり、図3下段は1基の重油タンクのみにより重油を供給する本発明の燃料タンク運用方法の点検工程である。タンク保安検査は、タンク清掃工事、非破壊検査工事、付属品点検工事、及び塗装・防水工事からなり、全ての重油タンクについて行われる。
【0040】
従来の2基運用方法では、2基の重油タンクのそれぞれに重油が貯蔵されているため、保安検査に際しいずれかの重油タンクから他の重油タンクに貯蔵されている重油を移送する必要があった。また、残油を移送した後の重油タンクを清掃しないことには保安検査を行うことができず、移送後に空になった重油タンクを清掃する必要があった。そのため、従来の2基運用方法では、1基目の重油タンクについても、タンク清掃工事100を行う必要があった。
【0041】
これに対し、本発明の燃料タンク運用方法(1基運用)では残りの重油タンクが空運用されるため、1基目の保安検査を空の重油タンクから行った場合、重油の移送を行う必要がない。また、前回の保安検査から空運用している場合には、前回の保安検査においてタンク内部の清掃も終了しており、タンク内部の清掃を行う必要がない。その結果、本発明の燃料タンク運用方法では、1基目の重油タンクについてタンク保安検査時におけるタンク清掃工事を省略できる。
【0042】
なお、タンク清掃工事には約1ヶ月かかるため、本発明の燃料タンク運用方法によれば、従来の燃料タンク運用方法に比べて保安検査の延べ月数を1月短縮することができる。
【0043】
[重油タンク運用見直し前後の保安検査のスケジュール]
このように、本発明の燃料タンク運用方法では、空運用していた重油タンクから保安検査することで、保安検査の工期を短縮する。そのため、本発明の燃料タンク運用方法では、保安検査のスケジュールについて図4に示す特徴を有している。以下、図4を参照して、重油タンク運用見直し前後の保安検査のスケジュールについて説明する。
【0044】
図4上段は2基の重油タンクを用いていた従来の燃料タンク運用方法の保安検査のスケジュールであり、図4下段は1基の重油タンクのみを用いる本発明の燃料タンク運用方法の保安検査のスケジュールである。
【0045】
従来の燃料タンク運用方法では、No1重油タンク1A及びNo2重油タンク1Bは共に8年毎に保安検査を行う。すなわち、No1重油タンク1Aは前回保安検査から8年後である9年度の5月〜7月に保安検査を行い、No2重油タンク1Bは前回保安検査から8年後である10年度の5月〜7月に保安検査を行う。
【0046】
これに対し、本発明の燃料タンク運用方法では、空運用していた重油タンクから次回保安検査を行う。ここで、空運用される重油タンクは、重油を貯蔵せず清掃済みの重油タンクであるため、前回保安検査において後に保安検査が行われた重油タンク(前回保安検査において残油移送基となった重油タンク)である。そのため、本発明の燃料タンク運用方法では、前回保安検査において後に保安検査が行われた重油タンクを、次回保安検査において先に保安検査を行う。
【0047】
このように、本発明の燃料タンク運用方法によれば、空運用されていたNo2重油タンク1BをNo1重油タンク1Aの保安検査前に保安検査するため、No2重油タンク1Bの保安検査時期を繰り上げる。これにより、図3に示したように2基の重油タンクについての保安検査の工程を短縮することができる。
【0048】
なお、本発明の燃料タンク運用方法では、これまで空運用していた重油タンクと今後空運用する重油タンクとを連続的に保安検査することが望ましい。空運用する重油タンクを先に保安検査することにより生ずる点検周期見直しのコスト増加を最小にするためである。ここで、重油タンクの保安検査を6月間に亘り連続して行うことは、作業員を確保する面から困難であったところ、本発明の燃料タンク運用方法では、連続的な保安検査の延べ月数が5月となるため、作業員の確保が可能となり、2基の重油タンクの連続的な保安検査が可能となる。
【0049】
[本発明の燃料タンク運用方法の処理]
次に、図5を参照して、本発明の燃料タンク運用方法の処理について説明する。
【0050】
S101〜S103:No1重油タンク1Aにおいて保安検査(タンク内清掃工事を含む)が終了すると、No1重油タンク1Aにおいて通常運用が開始される。この場合において、No1重油タンク1A内の重油の流動性、燃焼性を高めるため、No1重油タンク1Aには加温蒸気が提供される。
【0051】
S201〜S203:一方、No2重油タンク1Bでは、保安検査が終了すると空運用を開始する。このとき、No2重油タンク1Bには重油が貯蔵されていないため、No2重油タンク1Bには加温蒸気を供給しない。また、No2重油タンク1Bでは、例えば、梅雨や夏の時期にマンホール20B,21Bを開放し、タンク内部を通気する。
【0052】
S204、S205:その後、No1重油タンク1Aの保安検査前に、空運用していたNo2重油タンク1Bの保安検査を開始する。このとき、前回の保安検査(S201)において既に清掃が終了しているため、清掃工事を行う必要がなく、非破壊検査工事等を行えば足りる。
【0053】
S104、S105、S206、S207:空運用していたNo2重油タンク1Bの保安検査が終了すると、No1重油タンク1Aの保安検査が開始し、No1重油タンク1AからNo2重油タンク1Bに残油移送が行われる。その結果、空運用されていたNo2重油タンク1Bに重油が貯蔵される一方で、No1重油タンク1Aに貯蔵されていた重油が空になる。なお、残油移送の詳細については、図6を参照して説明する。
【0054】
S208、S209:残油を受け入れたNo2重油タンク1Bは、その後、通常運用を開始し、No2重油タンク1Bには加温蒸気が提供される。
【0055】
S106、S107:一方、残油を移送したNo1重油タンク1Aでは、保安検査として、タンク内部の清掃工事が行われ、その後、非破壊検査工事等が行われる。
【0056】
S108〜S110:そして、No1重油タンク1Aに対する保安検査が終了すると、No1重油タンク1Aの空運用を開始する。このとき、No1重油タンク1Aには加温蒸気を供給せず、また、マンホール20A,21Aを開放し、タンク内部を通気する。
【0057】
S111、S112:その後、No2重油タンク1Bの保安検査前に、空運用していたNo1重油タンク1Aの保安検査を開始する。このとき、前回の保安検査(S106)において既に清掃が終了しているため、清掃工事を行う必要がなく、非破壊検査工事等を行えば足りる。
【0058】
S113〜S115、S210〜S212:No1重油タンク1Aの保安検査が終了すると、No2重油タンク1Bの保安検査が開始し、No2重油タンク1BからNo1重油タンク1Aに残油移送が行われる。その後、残油を受け入れたNo1重油タンク1Aは、通常運用を開始し、残油を移送したNo2重油タンク1Bでは、タンク内部の清掃工事、非破壊検査工事等の保安検査を行う。
【0059】
[残油移送方法]
ここで、図6を参照して、本発明の燃料タンク運用方法における残油の移送方法について説明する。図6では、No1重油タンク1Aから空運用されていたNo2重油タンク1Bに残油が移送される例を示す。
【0060】
No1重油タンク1AからNo2重油タンク1Bに残油を移送するには、タンク戻り弁31を開放すると共に、タンク戻り切換弁32Bを開放する。なお、タンク戻り切換弁32Aは、No1重油タンク1Aに重油を戻す際に用いられ、タンク戻り切換弁32Bは、No2重油タンク1Bに重油を戻す際に用いられる。そして、No2重油タンク1Bに重油を受け入れるタンク戻り弁33を開放することで、No1重油タンク1AからNo2重油タンク1Bに残油を移送する。
【0061】
[本発明の燃料タンク運用方法の作用効果]
本発明の燃料タンク運用方法によれば、石炭専焼後の発電用ボイラには複数の重油タンクのうち1つの重油タンクからのみ重油を供給し、それ以外の重油タンクは空運用とする。このとき、空運用される重油タンクにはタンク内部の重油を加温する加温蒸気を供給しない。そのため、加温蒸気使用量を減らすことができ、結果として温室効果ガスの排出を低減することができる。
【0062】
なお、空運用する重油タンクについては、日常補修費に加え、タンク内部の重油を加温する加温用蒸気代や、タンク内部の重油を攪拌するための攪拌機動力費がかからない。そのため、本発明の燃料タンク運用方法によれば、空運用する重油タンクについての日常的な運用コスト(ランニングコスト)を低減することができる。
【0063】
また、清掃済みの重油タンクを空運用すると共に、空運用する重油タンクは適宜その内部の通気を行う。そのため、空運用する重油タンク内部の腐食を防止することができ、長期間空運用した場合であっても健全性を確保することができる。
【0064】
また、保安検査においては、空運用していた重油タンクから先に保安検査を行うため、空運用していた重油タンク内部の清掃工事を行う必要がなく、工期を短縮することができる。
【0065】
また、空運用していた重油タンクの清掃工事費及び残油移送費を低減することができるため、保安検査の際に生じるコストの低減を実現することができる。なお、本発明の燃料タンク運用方法によれば、空運用する重油タンクの保安検査の点検周期を見直す必要があるものの、点検周期見直し(保安検査の前倒し)によるコスト増加よりも、清掃工事費及び残油移送費によるコスト低減が大きいため、本発明の燃料タンク運用方法によれば、従来の2基運用方法に比べてコスト低減を図ることができる。
【0066】
ここで、本発明の燃料タンク運用方法では、これまで空運用していた重油タンクと今後空運用する重油タンクとを連続的に保安検査することが望ましい。点検周期見直しの期間を最小とすることで、点検周期見直しのコスト増加を最小にするためである。
【0067】
以上、本発明の燃料タンク運用方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。
【0068】
例えば、上述の実施形態では容量12,000klの重油タンクを例に説明したが、これに限られるものではなく、石炭火力発電所における石炭専焼後の重油使用量(例えば、600kl)を供給可能な重油タンクであれば、本発明の燃料タンク運用方法は適用可能である。なお、「石炭火力発電所における石炭専焼後の重油使用量を供給可能な重油タンク」とは、その容量が「防油提分の容量+年間重油使用量」以上の重油タンクをいう。
【0069】
また、上述の実施形態では、2基の重油タンクを用いた燃料タンク運用方法について説明したが、2基に限られるものではなく、3基以上の重油タンクについても適用可能である。
【0070】
また、上述の実施形態では、燃料タンクの一例として重油タンクを例にとって説明したが、これに限られるものではなく、軽油タンク等の他の燃料タンクについても適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1A,1B 重油タンク
10A,10B 加温蒸気弁
20A,20B,21A,21B マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料タンクを備えた石炭火力発電所における石炭専焼後の前記燃料タンクの運用方法であって、
複数の前記燃料タンクのうち1の燃料タンクから発電用ボイラに燃料を供給する工程と、
前記1の燃料タンク以外の他の燃料タンク内の燃料を空にし、前記他の燃料タンクを空運用する工程と、
を含むことを特徴とする燃料タンク運用方法。
【請求項2】
複数の前記燃料タンクは、2つの燃料タンクからなることを特徴とする請求項1に記載の燃料タンク運用方法。
【請求項3】
前記空運用する工程の前に、前記他の燃料タンク内を清掃する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料タンク運用方法。
【請求項4】
空運用される前記他の燃料タンク内の燃料を加温する加温蒸気を停止する工程を更に含むことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の燃料タンク運用方法。
【請求項5】
空運用される前記他の燃料タンク内を通気する工程を更に含むことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の燃料タンク運用方法。
【請求項6】
複数の前記燃料タンクについての定期的な点検において、空運用される前記他の燃料タンクから先に点検することを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の燃料タンク運用方法。
【請求項7】
前記定期的な点検において前記他の燃料タンクの点検が終了した後、前記他の燃料タンクに前記1の燃料タンク内の燃料を移送する工程と、
空になった前記1の燃料タンクの清掃及び点検を行う工程と、
前記1の燃料タンクを空運用する工程と、
を更に含むことを特徴とする請求項6に記載の燃料タンク運用方法。
【請求項8】
前記他の燃料タンクの点検と前記1の燃料タンクの点検とを連続的に行うことを特徴とする請求項7に記載の燃料タンク運用方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−255967(P2010−255967A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108732(P2009−108732)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】