石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法
【課題】本発明は、プラント特有のゆらぎ変動を考慮して炭種の判別を正確、且つ迅速に行ない、炭種に対応した石炭焚きボイラの運転を可能にした石炭焚きボイラの炭種判別装置を提供。
【解決手段】制御対象の石炭焚きボイラの計測信号をもとに炭種を判別する石炭焚きボイラの炭種判別装置は、制御対象から計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、制御対象から取り込んだ計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、モデルによって推定したモデル出力がモデル出力の目標値を達成するようにモデル入力の生成方法を学習する学習部と、計測信号データベースに保存された計測信号とモデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、推定部で算出した推定測信号に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えて構成する。
【解決手段】制御対象の石炭焚きボイラの計測信号をもとに炭種を判別する石炭焚きボイラの炭種判別装置は、制御対象から計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、制御対象から取り込んだ計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、モデルによって推定したモデル出力がモデル出力の目標値を達成するようにモデル入力の生成方法を学習する学習部と、計測信号データベースに保存された計測信号とモデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、推定部で算出した推定測信号に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えて構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電用プラントに用いられる石炭焚きボイラは、燃料の安定供給の観点から世界各地より輸入した石炭を燃料として多用するのが一般的である。石炭の輸入先の産地によって気候や土質などが異なるために石炭化の過程にも違いが生じ、結果として石炭性状にも幅ができる。
【0003】
石炭性状が異なると石炭の燃焼特性も変化することから、石炭焚きボイラのボイラ効率にも大きく影響する。従って、石炭の炭種の種別を把握し、炭種に対応させて石炭焚きボイラを運転することが必要である。
【0004】
従来は、運転員の経験的知識に従って炭種の種別を判断し、石炭焚きボイラの運転制御装置に装備されている運転制御用パラメータの計算プログラムに該当炭種を設定して石炭焚きボイラの運転を行ない、必要に応じて運転制御用パラメータを運転員が手動によって調整していたが、炭種の判別が正確に出来ないという問題があった。
【0005】
そこで、石炭焚きボイラを含めたプラントの種々の状態量から炭種を識別する技術や、石炭燃焼後の石炭灰を分析して石炭灰中の未燃分などを計測することで炭種を判別する技術が提供されている。
【0006】
前者としては、例えば特許第3746528号公報に、石炭焚きボイラの火炉及び再熱器の温度、圧力、流量等の流量計測データから火炉及び再熱器の吸収熱量をそれぞれ推定し、予め計算しておいた基準炭ベースの吸収熱量との相対的な差を基に燃料比に対応する信号を算出することで、炭種を識別する技術が開示されている。
【0007】
また特開平3−191205号公報に、石炭焚きボイラの種々の状態量の検出値をもとに、各状態量の相関を多変量解析法の内の確率的距離の概念を用いて炭種と混炭率を判別する技術が開示されている。
【0008】
後者としては、例えば特開2003−74833号公報に、石炭焚きボイラから排出される石炭燃焼で発生した石炭灰をレーザ誘起ブレークダウン方法を用いて、その組成成分であるSi、Al、Fe、Ca、Cの信号強度を検出して石炭灰中の未燃分を算出し、この未燃分に基づき石炭を微細化するミルの運転制御を行なうことで、石炭灰中の未燃分を減少させて石炭焚きボイラの燃焼効率を向上させる技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3746528号公報
【特許文献2】特開平3−191205号公報
【特許文献3】特開2003−74833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、炭種に応じて石炭焚きボイラを運転制御をする場合、炭種等を判別する際に石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して検出した石炭焚きボイラの状態量を処理する必要がある。
【0011】
特許第3746528号公報に記載された技術では、石炭焚きボイラの状態量の計測信号をもとに計算した吸収熱量と基準炭ベースの吸収熱量との相対的な差を算出しているが、石炭焚きボイラの状態値を検出した計測信号を伝送する際に何らかの原因でこの計測信号に付加されるノイズ成分や、圧力、流量等の計測対象で生じる突発的な計測信号の変動といったプラント特有のゆらぎや変動が生じると、これらの算出値も変動するために炭種の正確な判別が困難となる。
【0012】
また特開2003−74833号公報に記載された技術では、石炭焚きボイラで燃焼後の石炭灰を分析してその組成成分から未燃分を算出しているため、この分析結果をボイラの運転制御に反映するまでに時間を要する。そしてこの分析結果が出るまでの間は石炭焚きボイラの運転には炭種の影響が反映されないので炭種を迅速に判別することができない。
【0013】
また特開平3−191205号公報に記載された技術では、石炭焚きボイラのプラントの状態量の平均と分散・共分散行列をもとに相関関係を炭種ごとの確率的距離で表し、その距離に応じて炭種の種別と混炭率を決定しているが、前記平均と分散・共分散行列の演算に時間が掛かり炭種を迅速に判別することができないという問題がある。
【0014】
更に、上記技術では各状態量が石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を受けた場合は考慮されていないので、プラント特有のゆらぎ変動が生じると前記の算出値が変動して炭種の正確な判別が困難となる。
【0015】
本発明の目的は、計測した石炭焚きボイラの状態量に生じる石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して炭種の判別を正確且つ迅速に行ない、炭種に対応した石炭焚きボイラの運転を可能にした石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の石炭焚きボイラの炭種判別装置は、制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする。
【0017】
また本発明の石炭焚きボイラの炭種判別装置は、制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデルの出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明による石炭焚きボイラの炭種判別方法は、制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した推定信号に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする。
【0019】
また本発明による石炭焚きボイラの炭種判別方法は、制御対象から得られる計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、計測した石炭焚きボイラの状態量に生じる石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して炭種の判別を正確且つ迅速に行ない、炭種に対応した石炭焚きボイラの運転を可能にした石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法について図面を参照しながら以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法を示すものである。
【0023】
図1において、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置は、後述する石炭焚きボイラが制御対象100となっており、この制御対象100を制御するボイラ制御装置1000は、石炭焚きボイラで燃料として供給される石炭の炭種を判別する炭種判別装置200と、この炭種判別装置200を保守する保守ツール910と、制御対象100の運転員が前記保守ツール910に入力するための入力装置900と、各種データを表示する画像表示装置950を備えている。
【0024】
下記する各種計測器で計測される石炭焚きボイラである制御対象100の各種状態量の情報は、計測情報1として炭種判別装置200に伝送される。
【0025】
そして図2に示すように、前記炭種判別装置200の演算によって判別された後述する炭種、または混炭率をボイラ制御装置1000に入力させ、このボイラ制御装置1000で演算処理して石炭焚きボイラである制御対象100に対する指令信号として石炭焚きボイラの操作端となる後述する空気ダンパ160、161、162、163に出力してそれぞれ操作し、炭種、または混炭率に応じて石炭焚きボイラを効率良く運転する。
【0026】
図1に示したように、前記炭種判別装置200には制御対象100からプラントの状態量を測定した計測信号1を炭種判別装置200に取り込む外部入力インターフェイス210が設置されており。この外部入力インターフェイス210を介して制御対象100からの計測信号1を取り込む。
【0027】
また、炭種判別装置200には、外部出力インターフェイス270が設置されており、前記炭種判別装置200の判断部700で判断した炭種のデータを外部出力インターフェイス270を介して保守ツール910に設置したデータ送受信処理部930に対して出力信号51として送信する。
【0028】
制御対象100から外部入力インターフェイス210を介して取り込んだ計測信号2は、前記炭種判別装置200に設置された計測信号データベース220に伝送されて保存されると共に、該炭種判別装置200に設置された切替部230に伝送される。
【0029】
切替部230では該切替部230から出力する切替信号20に応じて、計測信号2を前記炭種判別装置200に設置されたモデル作成部300、あるいは推定部600にそれぞれ伝送する。
【0030】
切替部230から出力する切替信号20が「モデル作成」であれば、切替部230からモデル作成部300に計測信号4を伝送する。
【0031】
また、切替部230から出力する切替信号20が「推定」であれば、切替部230から推定部600に計測信号8を伝送する。
【0032】
前記炭種判別装置200に設置された学習部500は、該炭種判別装置200に設置されたモデル400と接続されている。
【0033】
前記モデル400は、制御対象の石炭焚きボイラ100を特性炭種ごとに模擬する機能を持つ。すなわち、前記炭種判別装置200から出力信号51を制御対象の石炭焚きボイラ100に与えた結果として、制御対象の石炭焚きボイラ100から状態量の計測信号1を得るのと同じように、モデル入力12をモデル400に入力して該モデル400で石炭焚きボイラ100の運転の模擬を行ない、その模擬結果としてモデル出力13を出力する。
【0034】
このモデル400から出力するモデル出力13は、計測信号1の予測値である。
【0035】
前記モデル400は、制御対象の石炭焚きボイラ100の特性を模擬するものであり、物理法則に基づくモデル式、あるいは統計的手法を用いてモデル入力12に対するモデル出力13を模擬して計算する機能を持つ。
【0036】
モデル400に必要なモデルパラメータ7は、前記炭種判別装置200に設置されたモデル作成部300からこのモデル400に入力される。
【0037】
前記モデル作成部300は、前記炭種判別装置200に設置されたモデルパラメータデータベース240に保存されている前回モデルパラメータ5と、前記切替部230から伝送される計測信号4とを用いて前記モデル400を生成する機能を持つ。
【0038】
また前記モデル作成部300は、モデルパラメータデータベース240に前回モデルパラメータ5が無い場合には、乱数等によって新たに生成したモデルパラメータと切替部230から伝送される計測信号4とを用いて、モデル400を生成する機能を持っている。
【0039】
また、前記モデル作成部300では、この新たに作成したモデルパラメータを現モデルパラメータ6としてモデルパラメータデータベース240に保存するようにしている。
【0040】
前記モデル作成部300は学習部500と接続しており、学習に必要なモデルパラメータ7をモデルパラメータデータベース240から抽出して前記学習部500に伝送する。
【0041】
学習部500では、モデルパラメータデータベース240に保存されているモデルパラメータ7をモデル作成部300を介して得ることになる。
【0042】
前記学習部500では、モデルパラメータ7と、更にモデル出力13を用いてモデル400に入力させるモデル入力12を学習して生成する。
【0043】
この学習部500では、モデル入力12とモデル出力13を介してモデル400内のモデルパラメータ7を更新し、その更新した学習情報を、更新モデルパラメータ10としてモデルパラメータデータベース240に送信する。
【0044】
前記炭種判別装置200に設置された推定部600は、切替信号20にて切替部230に「推定」が入力された際に前記切替部230から伝送される計測信号8と、切替信号20を同様に受けたモデル作成部300から推定用のモデルパラメータ7が伝送されたモデル400で模擬されて得られるモデル出力14とを得て、推定信号9を生成する。
【0045】
前記推定部600で生成した推定信号9は、前記炭種判別装置200に設置された判別部700および外部出力インターフェイス270に伝送される。
【0046】
前記判別部700では、推定部600から得た推定信号9に基づいて炭種判別と混炭率を演算し、演算の結果得られた炭種及び混炭率の判別信号15を外部出力インターフェイス270に伝送する。
【0047】
石炭焚きボイラである制御対象100の運転員は、キーボード901とマウス902で構成される入力装置900、及び画像表示装置950に接続されている保守ツール910を用いることにより、炭種判別装置200に備えられた種々のデータベースに保存されている情報にアクセスすることができる。
【0048】
保守ツール910は、外部入力インターフェイス920と、データ送受信処理部930と、外部出力インターフェイス940を備えて構成されている。
【0049】
入力装置900で生成した入力信号31は、外部入力インターフェイス920を介して保守ツール910に取り込まれる。データ送受信処理部930では外部入力インターフェイス920を介して入力する入力信号32の情報に従って、炭種判別装置200に備えられているデータベース情報30を取得する。
【0050】
データ送受信処理部930では、炭種判別装置200のデータベース情報30を処理した結果得られる出力信号33を外部出力インターフェイス940に送信し、この外部出力インターフェイス940から出力信号34として画像表示装置950に出力して表示する。
【0051】
尚、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置では、データベースが全て炭種判別装置200の内部に配置されているが、これらを炭種判別装置200の外部に配置することもできる。また、本実施例では出力信号51を生成するための信号処理機能が全て炭種判別装置200の内部に配置されているが、これらを炭種判別装置200の外部に配置してもよい。
【0052】
次に本発明を石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントに適用した実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置について、本実施例の炭種判別装置に設置したデータベースに保存されている情報、及び信号処理機能について説明する。
【0053】
まず、図2を用いて制御対象100の石炭焚きボイラを備えた火力発電プラント発電の仕組みについて説明する。
【0054】
図2において、燃料の石炭は、石炭を貯蔵しているコールバンカー111から給炭器112を介してミル110に供給される。ミル110では内部のローラにより石炭を細かく砕いて微粉炭にして石炭搬送用の1次空気、及び燃焼調整用の2次空気と共に石炭焚きボイラを構成する火炉101に設置したバーナ102を通じて火炉101に投入し、火炉101内部で燃料の微粉炭を燃焼させる。
【0055】
燃料の微粉炭と1次空気は配管134から、2次空気は配管141からバーナ102に導かれ、2段燃焼用のアフタエアを、火炉101に設置したアフタエアポート103を通じて火炉101に投入する。
【0056】
このアフタエアは、配管142からアフタエアポート103に導かれる。
【0057】
燃料の石炭を火炉101の内部で燃焼させて発生した高温の燃焼ガスは、火炉101を矢印で示した経路に沿って下流側に流れ、火炉101に配置された熱交換器106を通過して熱交換した後、燃焼排ガスとなって火炉101から排出されて火炉101の外部に設置されたエアーヒーター104に流下する。
【0058】
エアーヒーター104を通過した燃焼排ガスはその後、図示していない排ガス処理装置で燃焼排ガスに含まれている有害物質を除去した後に、煙突をから大気に放出される。
【0059】
火炉101を循環する給水は、タービン108を経た蒸気を復水に凝縮する復水器113から給水ポンプ105を介して火炉101に導かれ、火炉101に設置した熱交換器106において火炉101の内部を流下する燃焼ガスによって加熱されて高温高圧の蒸気となる。尚、本実施例では熱交換器106の数を1個として図示しているが、熱交換器を複数個配置してもよい。
【0060】
熱交換器106で発生した高温高圧の蒸気は、タービンガバナ弁107を介して蒸気タービン108に導かれ、蒸気の持つエネルギーによって蒸気タービン108を駆動し、この蒸気タービン108に連結した発電機109を回転させて発電する。
【0061】
火力発電プラントの運転状態である状態量を検出する様々な計測器として、例えば図2には、火炉101に配設した熱交換器106で発生した蒸気を蒸気タービン108に供給する経路には温度計測器151と圧力計測器152とを設置して、前記蒸気の温度Tと圧力Pをそれぞれ測定している。
【0062】
また、蒸気タービン108を流下した蒸気を冷却して復水に凝縮する復水器113からこの復水を前記熱交換器106に供給する経路には流量計測器150を設置して供給される復水の流量を測定し、また発電機109には発電出力計測器153を設置して前記発電機109で発電した電力量を測定している。
【0063】
また、火炉101には、燃料の微粉炭を火炉101の内部で燃焼させて生じた燃焼ガス中のNOx濃度及び/又はCO濃度を計測する濃度計測器154が設置されている。
【0064】
尚、一般的には図2に図示した以外にも多数の計測器が火力発電プラントに配置されているが、ここでは図示を省略する。
【0065】
そして、前述したこれらの各種計測器で計測された石炭焚きボイラである制御対象100の各種状態量の情報は、計測情報1として炭種判別装置200に伝送される。
【0066】
そして前記炭種判別装置200の演算によって決定された炭種、または混炭率はボイラ制御装置1000に入力し、このボイラ制御装置1000で演算処理されて石炭焚きボイラである制御対象100に対する指令信号に基づいて石炭焚きボイラの操作端となる下記する空気ダンパ160、161、162、163をそれぞれ操作して、炭種、または混炭率に応じて石炭焚きボイラを効率良く運転することが出来る。
【0067】
次に、制御対象100である石炭焚きボイラの火炉101に設置されたバーナ102から火炉101内に投入される1次空気及び2次空気、火炉101に設置されたアフタエアポート103から火炉101内に投入されるアフタエアの経路について説明する。
【0068】
1次空気は、ファン120から配管130に導かれ、途中でエアーヒーター104の内部を通過する配管132とエアーヒーター104をバイパスする配管131とに分岐し、これらの配管132及び配管131を流下した1次空気は再び配管133で合流してミル110に導かれる。
【0069】
エアーヒーター104を通過する空気は、火炉101から排出される燃焼排ガスにより加熱されるが、この1次空気を用いてミル110で生成される微粉炭を配管133を通じてバーナ102に搬送する。
【0070】
2次空気及びアフタエアは、ファン121から配管140に導かれ、エアーヒーター104の内部を通過する配管140を流下して加熱された後に、配管140の下流側で2次空気用の配管141と、アフタエア用の配管142とに分岐して、それぞれ火炉101に設置されたバーナ102とアフタエアポート103に導かれるように構成されている。
【0071】
図2に示した制御対象100である石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントには、火力発電プラントの運転状態を検出する前記した各種の計測器が配置されており、これらの計測器から取得された制御対象100の火力発電プラントの状態量を示す計測信号1は、炭種判別装置200に設置された外部入力インターフェイス210に入力するように構成されている。
【0072】
また、図3に示すように、エアーヒーター104の内部に配設された配管140の下流側で分岐した2次空気用の配管141及びアフタエア用の配管142には空気ダンパ162及び空気ダンパ163が配置されおり、同様にエアーヒーター104の内部に配設された配管132、及びエアーヒーター104をバイパスした配管131には空気ダンパ161及び空気ダンパ160がそれぞれ配置されている。
【0073】
これらの空気ダンパ160、161、162、163をそれぞれ操作することによって配管131、132、141、142内で空気が通過する面積が変更され、これらの配管131、132、141、142を通過して火炉101に供給される空気流量が個別に調整される。
【0074】
そして、制御対象100から入力した石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの状態量を示す計測信号1に基づいて炭種判別装置200において判断した炭種の出力信号51を出力し、この出力信号51に基づいて前記給水ポンプ105、ミル110、並びに空気ダンパ160、161、162、163などの操作機器を操作して石炭焚きボイラ100の運転を制御するように構成している。
【0075】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置した計測信号データベース220、及び推定信号データベース230に保存する情報について説明する。
【0076】
図4は本実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置200に設置した計測信号データベース220に保存されている情報の態様を説明する図であり、図5は本実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置200に設置したモデル400のモデル構造の概略を説明する図である。
【0077】
図4に示したように、前記炭種判別装置200の計測信号データベース220には、制御対象の石炭焚きボイラ100で計測された状態量を示す計測信号1である計測信号データの情報が、設置された計測器毎に外部入力インターフェイス210を介して入力し、各計測時刻と共に保存される。
【0078】
例えば、図2に示した火力発電プラントに設置された流量計測器150、温度計測器151、圧力計測器152、発電出力計測器153、濃度計測器154によってそれぞれ計測した流量値F、温度値T、圧力値P、発電出力値E、及び燃焼ガスに含まれるNOx濃度Dが、時間の情報と共に炭種判別装置200の計測信号データベース220に保存される。
【0079】
尚、図4に示した計測信号データでは1秒周期でデータを保存しているが、データ収集のサンプリング周期は任意に設定することが可能である。
【0080】
計測信号データベース220に格納されている計測信号データを容易に活用できるようにするために、各計測信号データにはPID番号という固有の番号が割り当てられている。
【0081】
また、前記推定信号データベース250に保存される情報も同様に、図5のモデル400のモデル構造に示すように、ノイズ成分を取り除くように推定した信号や、推定部600で処理した際に算出される各種信号が、時間の情報と共に前記推定信号データベース250に保存される。
【0082】
前記炭種判別装置200に設置したモデル作成部300は、切替信号20に応じてモデル400にモデルパラメータを設定する。切替信号20が「モデル作成」であれば、モデルを新たに構築する場合に必要なモデルパラメータ7をモデル作成部300からモデル400に出力して新たなモデルを設定する。
【0083】
過去のモデルパラメータを活用する場合には、モデルパラメータデータベース240に保存されている過去のモデルパラメータをロードする。切替信号20が「推定」であれば、推定に用いるモデル400のモデルパラメータ7をモデルパラメータデータベース240からモデル作成部300を経由してモデル400にロードする。
【0084】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデル400と学習部500の動作について説明する。
【0085】
図5は、モデル400のモデル構造を説明した図である。このモデル構造としては、入力層、マッピング層、ボトルネック層、デマッピング層、出力層からなり、各層のノードが相互的に結合した構造となっている。
【0086】
ノード部は線形あるいは非線形関数を用いるが、シグモイド関数を用いるのが一般的である。各ノードの結合には重み係数があり、各ノードの相互関係の強さを表している。通常、モデルパラメータとは、この重み係数を指す。
【0087】
モデル400に対する入力信号には、石炭焚きボイラである制御対象100から取り込まれた関連する計測信号を入力する。炭種に関する場合は熱吸収量に関連する計測信号を選択すればよい。例えば、火炉101内にある熱交換器106付近の温度や圧力などである。
【0088】
また、天候により貯炭地に含まれる水分量が異なる。水分量が異なると同じ炭種でも燃焼のしかたが異なるため、モデル400に対する重要な入力信号の候補となる。ただし、これに限定することではない。
【0089】
学習部500で、このモデル400に対するモデルパラメータを決定する。手法としては、モデルの出力信号に教師信号を与え、その差の絶対値あるいは二乗誤差が小さくなるようにパラメータを修正する。一般に、このようなパラメータ修正法を学習と呼んでいる。
【0090】
モデル400では、図5にこのモデル400を構成するモデル構造を示したように5層でボトルネック層を中心に対称的なノード数となる自己連想型ニューラルネットワークを用いている。なお、自己連想型ニューラルネットワークの構造やその学習方法については、周知の技術であるため、次の“M.A.Kramer:Nonlinear Principal Component Analysis Using Autoassociative Neural Networks, AlChE Journal、Vol.37、No.2、1991”を参考文献として示しておく。
【0091】
自己連想型ニューラルネットワークの特徴は、入力信号と同じ信号を教師信号として与えることにある。このモデル400に入力信号を与えると学習により、入力信号と同じ信号が出力信号として得られるようになる。
【0092】
これにより、入力信号間にある非線形の関係をモデル400内に構築することが可能である。また、ボトルネック層の個数は、基本的に入力信号の個数よりも少なくすることが一般的であり、これによって、入力信号の主成分のみを抽出する機能も合わせ持つ。よってこのモデル400を炭種ごとに用意しておけば、炭種ごとの推定モデルを構築することができる。
【0093】
モデル400のノードには、一般的な関数であるシグモイド関数を用いてもよいが、プラントの計測信号は多くのゆらぎ要素があり、また、データ数にも散らばりがあるため、分布で表現する方が適切である場合が多い。そこで、各ノードには、ガウス関数を用いるモデル400を適用する。この場合、各ノードの平均および分散がパラメータとして加わる。学習方法としては、Radial Basis Functionネットワークとして、先ほど述べた参考文献にも記載されている。
【0094】
図6は、炭種とノードの出力値である計測信号Aとの関係をプロットしたものである。プラントの状況により、グラフにプロットできる点数は異なる。例えば、新設プラントでは、設計値情報などから求めることになるが、少ないデータ数となる。一方、運転年数の多いプラントでは、データ数が多くなる。
【0095】
このようにプラント状況によりデータ数に差異が生じるため、各データに分布を仮定し、データ数の差異を分布の形状で表現することにする。データ数が少ない場合には、分散が大きいのでひろがった分布となる。データ数が多い場合には、分散が小さくなるので尖った分布となる。
【0096】
データに対する事前情報がある場合には、分布形状を仮定することができるが、新規データなどの場合には、事前情報が無く得られたデータをもとに分布を推定する必要がある。データのみから分布を推定する手法は多数知られているが、母集団分布が何であってもデータ数の増加によりその分布は正規分布に近づくという中心極限定理から正規分布を仮定すればよい。
【0097】
分布が仮定できれば平均と分散より形状を決定することができる。なお、中心極限定理による正規分布の仮定については、例えば、“統計学入門、東京大学教養学部統計学教室編、東京大学出版会、1991年7月10日出版”に詳しく述べられている。
【0098】
以上の観点から、各ノード関数にガウス関数を用いる方がより適切である。また、自己連想型ニューラルネットの基底関数にガウス関数を適用した事例はなく、この組み合わせにより、データ数を反映しプラントの変動にもロバストな推定モデルが構築可能となる。
【0099】
図7は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデル400を作成するための学習部500における演算処理のフローチャートを説明する図である。尚、本フローチャート実行に必要なパラメータについては、モデルパラメータデータベース240に保存されている。このモデルパラメータデータベース240に保存されている情報の形態については後述する。
【0100】
図7に示すように、ステップ401では過去に設定したモデルパラメータを用いるのか、あるいは新規にモデルパラメータを作成するのかを選択する。
【0101】
新規にモデルパラメータを作成する場合には、ステップ402でモデルパラメータの初期値を乱数を用いて設定する。
【0102】
次に、ステップ403では計測信号データベース220からモデル400の入力信号および教師信号となる計測信号4を抽出する。
【0103】
ステップ404では、学習部500において学習回数や学習係数、ノード数など学習に必要なパラメータを設定する。新規にモデルパラメータを作成する場合には、モデルパラメータデータベース240に保存されているデフォルト値を用いる。
【0104】
ステップ405では、学習部500においてモデルパラメータを学習により初期値から逐次更新する。学習によるモデルパラメータの更新方法は、Back Propagation法などを用いる。この学習方法については、“ニューラルネットと計測制御、西川・北村編著、朝倉書店、1995年1月25日出版”に詳しく述べられている。
【0105】
基本的には、モデル400に入力信号を与えたときの出力信号と教師信号の差が無くなるように、学習部500においてモデルパラメータを更新する。モデル400からの出力信号と教師信号の差は、一般的には二乗誤差で表現され、評価関数と呼ばれる。各モデルパラメータを変動させた場合の評価関数の変動分を偏微分計算し、得られた値に学習係数を掛けたものをモデルパラメータの更新分とする。
【0106】
これを学習部500において繰り返していくと、モデル400の出力信号と教師信号の差が無くなり、評価関数がゼロに近づく。評価関数がゼロに近づくと、偏微分の値もゼロに近くなり、モデルパラメータの更新量がセロに近づく。
【0107】
数値計算では、完全にゼロになることは無いので、ステップ406にて、評価関数が設定された値以下になると学習部500における学習が終了したとみなし、モデル作成を終了する。学習の終了条件に満たない場合には学習の繰り返し回数が設定された回数に達した時点で、繰り返し計算をストップし、ステップ404に戻って、再度、学習用パラメータを設定する。
【0108】
ステップ401にて、過去のモデルパラメータの使用を選択した場合、ステップ407で過去のモデルパラメータを初期値とし学習によって修正するかどうか選択する。修正する場合には、ステップ403に進む。修正しない場合には、過去のモデルパラメータをそのまま使用するため、モデル400を再構築する必要がなく、モデル作成は終了となる。
【0109】
尚、本実施形態では、ノードにガウシアン関数を用いたRadial Basis Functionネットワークを用いているが、制御対象であるプラントの状況や計測信号の特徴などから他の基底関数を用いたネットワークモデルを用いてもよい。
【0110】
図8は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデルパラメータデータベース240に保存されている情報の形態を説明する図である。
【0111】
図8には、モデルパラメータデータベース240には、複数の炭種と、これらの炭種に対応したID、作成日時、学習係数、学習回数、終了条件、ノード数(入力/出力層、マッピング/デマッピング層、ボトルネック層)、パラメータ値の具体例が示されている。
【0112】
ここで、パラメータ値とは、重み係数と基底関数を決めるためのパラメータのことである。重み係数はノードの相互結合分あり、それぞれW11、W12、・・・として保存されている。基底関数を決めるパラメータは、例えば、シグモイド関数の場合は傾きと入力側の平行移動量を、ガウス関数の場合は中心値、分散値、入力信号の平行移動量である。尚、IDの値が000のものは、該当炭種のモデルパラメータを新規に作成する場合の学習パラメータのデフォルト値を示している。新規作成用のため、ノード数およびパラメータ値の箇所は通常、ブランクとなっている。
【0113】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデル400と推定部600の動作について図1を用いて説明する。推定部600は制御対象100から得られた計測信号2をもとに各炭種の推定度合を算出する。
【0114】
図1において、はじめに、切替信号20が「推定」となった場合、モデル作成部300から各炭種の推定に用いるモデルパラメータ7がモデル400に設定される。
【0115】
また、切替部230より計測信号データベース220に保存した計測信号8がモデル400と推定部600にそれぞれ入力される。
【0116】
モデル400では、モデル作成部300で設定されたモデルパラメータ7によって構築された各炭種のモデルに計測信号8を入力信号として入力する。その結果、モデル400の演算によって得られた出力信号をモデル出力14として推定部600に伝送する。
【0117】
推定部600では、モデル出力14と計測信号8の差を時間ごとに計算し、モデル出力14とともに推定信号9として判断部700に出力する。そして判断部700では下記する演算によって判断した炭種を決定して外部出力インターフェイス270、及び推定信号データベース250に出力する。
【0118】
次に判断部700の動作について詳細に説明すると、判断部700では、推定部600から入力する推定信号9をもとに、炭種と混炭率を決定する。推定信号9には、炭種ごとのモデル400に計測信号8を入力した際のモデル出力14と計測信号8との差が含まれている。
【0119】
モデル400は炭種ごとに用意されており、そのときの関係がモデル化されているため、計測信号8の炭種と同じモデル400の出力信号と計測信号8との差はほとんど無い。つまり、判断部700では、この推定信号9の大きさをもとにどの炭種かを判断すればよいことになる。ただし、この判断を単に、しきい値を設定することで炭種を判定すると、石炭焚きボイラの状態値を検出した計測信号を伝送する際に何らかの原因でこの計測信号に付加されるノイズ成分や、圧力、流量等の計測対象で生じる突発的な計測信号の変動といったプラント特有のゆらぎや変動に影響を受けてしまうことになる。そこで、判断部700においては炭種と混炭率の判定に、(1)式に示す対数尤度比を用いる。
【0120】
【数1】
【0121】
(1)式において、Xnは推定信号9の時刻nの値である。H0は例えば炭種Aで成立する仮説を、H1は炭種Aではない仮説を表している。つまり、P(Xn|H0)はXnが炭種Aである確率を、P(Xn|H1)は炭種Aでない確率を表している。H0とH1の確率分布は例えば正規分布で表されることが一般的であり、その中心値と分散は炭種の持っている特性をもとに設定する。
【0122】
例えば、図6に示した各炭種とノード出力値との関係を示した分布図をもとに設定するのが適切である。(1)式は、推定信号9が大きくなる、つまり炭種Aでない分布に近づくと式の値はプラスになる。逆に推定信号9が小さくなると、(1)式の値はマイナスになる。従って、炭種Aではない状態が継続すると、(1)式の値が大きくなる。この値が大きくなると下記の(2)式で定めた値よりも大きくなると炭種Aではないと判断する。
【0123】
【数2】
【0124】
(2)式において、αは誤検知の確率、βは検出もれの確率である。一般的には、両方とも0.001に設定される。また、下記の(3)式で決定した値よりも小さくなると炭種Aと判断する。
【0125】
【数3】
【0126】
この手法では、同じ状態が継続されると(1)式の値が変化するため、石炭焚きボイラの状態値を検出した計測信号を伝送する際に何らかの原因でこの計測信号に付加されるノイズ成分や、圧力、流量等の計測対象で生じる突発的な計測信号の変動といった石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎや変動では、(1)式の値の変化は小さく、その影響を受けにくい。
【0127】
この判断部700における炭種の判定では、入力される信号ごとに計算されるため、炭種ごとのモデル400について、入力信号ごとの上述の判定で該当する入力信号が一番多いモデル400を選択し、そのモデル400が模擬している炭種を、現在の炭種と判別する。
【0128】
また、推定信号9を合計した値、あるいは、平均した値を改めてXnとして上述の方法にて炭種を判断することも可能である。
【0129】
次に、燃料の石炭が2つ以上の炭種が混合している場合について、判断部700における炭種の判定と混炭率の決定方法について述べる。
【0130】
石炭として2つ以上の炭種が混炭している場合には、2つ以上の炭種が該当すると前述した手法で判定される。
【0131】
例えば、混合している炭種に炭種Aと炭種Bが該当すると仮定すると、判断部700にて炭種Aの入力信号ごとの推定信号9の差を合計し、炭種Bの入力信号ごとの推定信号9の差を合計する。その二つの値を合計したものを分母とし、それぞれの値を分子とすることで相対比が求まるため、これを混炭率とする。
【0132】
また、合計値の代わりに平均値あるいはメディアン値を用いて計算することも可能である。メディアン値を用いるとプラント特有の突発的な変動が発生しても、影響が少ないため、対象プラントの特性に応じて、合計値、平均値、メディアン値を用いる手法を適用する。
【0133】
次に、図9に示したように、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置した推定信号データベース250には、例えば、複数の炭種と、炭種毎のPID、入力信号、モデル出力14、推定信号9が時刻ごとに格納される。
【0134】
外部出力インターフェイス270は、判断部700で判別した炭種と、算出した混炭率を出力信号51として保守ツール910に伝送する。
【0135】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置において、制御対象100である石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの運転員が、保守ツール910を用いて画像表示装置950に判断した炭種、混炭率、及び各データベースの情報を表示させる方法について説明する。
【0136】
図10〜図14は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置950に表示される画面の実施例である。運転員は、入力装置900のキーボード901や、マウス902を用いてこれら画面の空欄となっている箇所にパラメータ値を入力するなどの操作を実行する。
【0137】
図10は、画像表示装置950に表示される初期画面である。運転員は、図10に示した学習条件設定ボタン951、推定条件設定ボタン952、情報表示ボタン953の中から必要なボタンを選択し、マウス902を用いてカーソル954を移動させ、マウス902をクリックすることによりこれらの中から必要なボタンを選択して押す。
【0138】
図11は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200において学習条件設定画面を説明する図である。図10において運転員がマウスで学習条件設定ボタン951をクリックすることにより、図11の画面が表示される。
【0139】
運転員は、炭種ごとにモデル400に必要な設定を入力する。図11の画面の右上に表示された炭種切替メニュー963にて炭種を選択する。図11の画面のモデル生成欄961には、図7に示した学習部500における学習処理のフローチャートを実行するために必要な、学習係数、学習回数及び終了条件を、モデル固有のIDをもとに入力あるいは既に入力されている値を修正することができる。
【0140】
また、この機能を用いて、IDが000であるデフォルト値を運転員が変更することができる。図11の画面のモデル構造欄962には、モデル400の構造、及びノードに設定する基底関数の種類とそのパラメータを設定するのに必要な値を入力する。
【0141】
図11の下部に表示された保存ボタン964をクリックすることにより、モデル生成欄961、及びモデル構造欄962に入力された情報は、図2の炭種判別装置200におけるモデルパラメータデータベース240に炭種切替メニュー963に入力された炭種ごとに保存される。
【0142】
また、上記モデル生成欄961、及びモデル構造欄962に入力された情報は、図2の炭種判別装置200において、切替信号20に「モデル学習」を設定するとともに、モデル作成部300に転送される。
【0143】
また図11の下部に表示されたキャンセルボタン965をクリックすると、モデル作成欄961、モデル構造欄962、炭種切替メニュー963に入力された情報がキャンセルされる。また、戻るボタン966をクリックすることにより、図10の画面に戻る。
【0144】
図12は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200において推定条件設定画面を説明する図である。図10において運転員がマウスで推定条件設定ボタン952をクリックすることにより、図12の画面が表示される。
【0145】
運転員は、炭種ごとに推定に用いるモデル400を図12の画面の右上に表示された推定用炭種切替メニュー973にて炭種を選択する。図12の画面のモデル生成情報欄971には、選択した炭種のモデル固有のID、学習に用いた学習係数、学習が終了した際の学習回数と学習誤差を表示する。IDが000であるモデル400は表示されない。
【0146】
図11の画面のモデル構造情報欄972には、選択したモデル400の構造、基底関数、及び基底関数に設定したパラメータの情報が表示される。また、判別設定値欄977では、誤検知の確率、及び検出もれの確率を入力する。
【0147】
図12の下部に表示された転送ボタン974をクリックすることにより、モデル生成情報欄971、モデル構造情報欄972、及び判別設定欄977に入力された情報は、図2の炭種判別装置200における切替信号20に「推定」を設定するとともに、モデル作成部300に転送される。モデル作成部300は、転送された情報をもとに、推定部600にモデルパラメータ7を設定する。
【0148】
また、図12の下部に表示されたキャンセルボタン975をクリックすると、モデル作成情報欄971、モデル構造情報欄972、推定炭種切替メニュー973に入力された情報がキャンセルされる。また、戻るボタン976をクリックすることにより、図10の画面に戻る。
【0149】
図13は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200において、計測信号データベース220、及び推定信号データベース250に保存されている情報を画像表示装置950に表示させるため、その条件を設定する画面である。
【0150】
図10において運転員がマウスで情報表示ボタン953をクリックすることにより、図13が表示される。
【0151】
運転員は、画像表示装置950に表示させたい計測信号、あるいは操作信号を図13の入力欄981に、そのレンジ(上限/下限)と共に入力する。また、表示させたい時間を時刻入力欄982に入力する。
【0152】
図13の下部に表示された表示ボタン983をクリックすることにより、図14に示したようなトレンドグラフが画像表示装置950に表示される。また図14の下部に表示された、戻るボタン991をクリックすることにより、図13の画面に戻る。
【0153】
また、図13の下部に表示された、戻るボタン984をクリックすることにより、図10の画面に戻ることができる。
【0154】
尚、以上で述べた画像以外にも、炭種判別装置200内のデータベースに保存されている任意の情報を、任意の態様で画像表示装置950に表示することもできる。
【0155】
上記した本実施例によれば、計測した石炭焚きボイラの状態量に生じる石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して炭種の判別を正確且つ迅速に行ない、炭種に対応した石炭焚きボイラの運転を可能にした石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の一実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置の概略構成を示す制御ブロック図。
【図2】図1に示した本発明の実施例の炭種判別装置が適用される石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの概略構成図。
【図3】図2に示した石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントのエアーヒーターを示す部分図。
【図4】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した計測信号データベースに記憶されたデータの態様を示す説明図。
【図5】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデルの構造を示す説明図。
【図6】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデル化対象となる炭種とノード出力との関係を示す説明図。
【図7】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデル作成部における動作を示すフローチャート。
【図8】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデルパラメータデータベースに記憶されたデータの態様を示す説明図。
【図9】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した推定信号データベースに記憶されたデータの態様を示す説明図。
【図10】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される初期画面。
【図11】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される学習条件設定画面の前半画面。
【図12】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される推定条件設定画面の前半画面。
【図13】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される表示情報設定画面。
【図14】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される計測値のトレンドグラフ。
【符号の説明】
【0158】
100:制御対象、200:炭種判別装置、210:外部入力インターフェイス、220:計測信号データベース、230:切替部、240:モデルパラメータデータベース、250:推定信号データベース、260:学習パラメータデータベース、300:モデル作成部、400:モデル、500:学習部、600:推定部、700:判断部、900:入力装置、901:キーボード、902:マウス、910:保守ツール、920:外部入力インターフェイス、930:データ送受信処理部、940:外部出力インターフェイス、950:画像表示装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電用プラントに用いられる石炭焚きボイラは、燃料の安定供給の観点から世界各地より輸入した石炭を燃料として多用するのが一般的である。石炭の輸入先の産地によって気候や土質などが異なるために石炭化の過程にも違いが生じ、結果として石炭性状にも幅ができる。
【0003】
石炭性状が異なると石炭の燃焼特性も変化することから、石炭焚きボイラのボイラ効率にも大きく影響する。従って、石炭の炭種の種別を把握し、炭種に対応させて石炭焚きボイラを運転することが必要である。
【0004】
従来は、運転員の経験的知識に従って炭種の種別を判断し、石炭焚きボイラの運転制御装置に装備されている運転制御用パラメータの計算プログラムに該当炭種を設定して石炭焚きボイラの運転を行ない、必要に応じて運転制御用パラメータを運転員が手動によって調整していたが、炭種の判別が正確に出来ないという問題があった。
【0005】
そこで、石炭焚きボイラを含めたプラントの種々の状態量から炭種を識別する技術や、石炭燃焼後の石炭灰を分析して石炭灰中の未燃分などを計測することで炭種を判別する技術が提供されている。
【0006】
前者としては、例えば特許第3746528号公報に、石炭焚きボイラの火炉及び再熱器の温度、圧力、流量等の流量計測データから火炉及び再熱器の吸収熱量をそれぞれ推定し、予め計算しておいた基準炭ベースの吸収熱量との相対的な差を基に燃料比に対応する信号を算出することで、炭種を識別する技術が開示されている。
【0007】
また特開平3−191205号公報に、石炭焚きボイラの種々の状態量の検出値をもとに、各状態量の相関を多変量解析法の内の確率的距離の概念を用いて炭種と混炭率を判別する技術が開示されている。
【0008】
後者としては、例えば特開2003−74833号公報に、石炭焚きボイラから排出される石炭燃焼で発生した石炭灰をレーザ誘起ブレークダウン方法を用いて、その組成成分であるSi、Al、Fe、Ca、Cの信号強度を検出して石炭灰中の未燃分を算出し、この未燃分に基づき石炭を微細化するミルの運転制御を行なうことで、石炭灰中の未燃分を減少させて石炭焚きボイラの燃焼効率を向上させる技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3746528号公報
【特許文献2】特開平3−191205号公報
【特許文献3】特開2003−74833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、炭種に応じて石炭焚きボイラを運転制御をする場合、炭種等を判別する際に石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して検出した石炭焚きボイラの状態量を処理する必要がある。
【0011】
特許第3746528号公報に記載された技術では、石炭焚きボイラの状態量の計測信号をもとに計算した吸収熱量と基準炭ベースの吸収熱量との相対的な差を算出しているが、石炭焚きボイラの状態値を検出した計測信号を伝送する際に何らかの原因でこの計測信号に付加されるノイズ成分や、圧力、流量等の計測対象で生じる突発的な計測信号の変動といったプラント特有のゆらぎや変動が生じると、これらの算出値も変動するために炭種の正確な判別が困難となる。
【0012】
また特開2003−74833号公報に記載された技術では、石炭焚きボイラで燃焼後の石炭灰を分析してその組成成分から未燃分を算出しているため、この分析結果をボイラの運転制御に反映するまでに時間を要する。そしてこの分析結果が出るまでの間は石炭焚きボイラの運転には炭種の影響が反映されないので炭種を迅速に判別することができない。
【0013】
また特開平3−191205号公報に記載された技術では、石炭焚きボイラのプラントの状態量の平均と分散・共分散行列をもとに相関関係を炭種ごとの確率的距離で表し、その距離に応じて炭種の種別と混炭率を決定しているが、前記平均と分散・共分散行列の演算に時間が掛かり炭種を迅速に判別することができないという問題がある。
【0014】
更に、上記技術では各状態量が石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を受けた場合は考慮されていないので、プラント特有のゆらぎ変動が生じると前記の算出値が変動して炭種の正確な判別が困難となる。
【0015】
本発明の目的は、計測した石炭焚きボイラの状態量に生じる石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して炭種の判別を正確且つ迅速に行ない、炭種に対応した石炭焚きボイラの運転を可能にした石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の石炭焚きボイラの炭種判別装置は、制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする。
【0017】
また本発明の石炭焚きボイラの炭種判別装置は、制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデルの出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明による石炭焚きボイラの炭種判別方法は、制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した推定信号に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする。
【0019】
また本発明による石炭焚きボイラの炭種判別方法は、制御対象から得られる計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、計測した石炭焚きボイラの状態量に生じる石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して炭種の判別を正確且つ迅速に行ない、炭種に対応した石炭焚きボイラの運転を可能にした石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法について図面を参照しながら以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法を示すものである。
【0023】
図1において、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置は、後述する石炭焚きボイラが制御対象100となっており、この制御対象100を制御するボイラ制御装置1000は、石炭焚きボイラで燃料として供給される石炭の炭種を判別する炭種判別装置200と、この炭種判別装置200を保守する保守ツール910と、制御対象100の運転員が前記保守ツール910に入力するための入力装置900と、各種データを表示する画像表示装置950を備えている。
【0024】
下記する各種計測器で計測される石炭焚きボイラである制御対象100の各種状態量の情報は、計測情報1として炭種判別装置200に伝送される。
【0025】
そして図2に示すように、前記炭種判別装置200の演算によって判別された後述する炭種、または混炭率をボイラ制御装置1000に入力させ、このボイラ制御装置1000で演算処理して石炭焚きボイラである制御対象100に対する指令信号として石炭焚きボイラの操作端となる後述する空気ダンパ160、161、162、163に出力してそれぞれ操作し、炭種、または混炭率に応じて石炭焚きボイラを効率良く運転する。
【0026】
図1に示したように、前記炭種判別装置200には制御対象100からプラントの状態量を測定した計測信号1を炭種判別装置200に取り込む外部入力インターフェイス210が設置されており。この外部入力インターフェイス210を介して制御対象100からの計測信号1を取り込む。
【0027】
また、炭種判別装置200には、外部出力インターフェイス270が設置されており、前記炭種判別装置200の判断部700で判断した炭種のデータを外部出力インターフェイス270を介して保守ツール910に設置したデータ送受信処理部930に対して出力信号51として送信する。
【0028】
制御対象100から外部入力インターフェイス210を介して取り込んだ計測信号2は、前記炭種判別装置200に設置された計測信号データベース220に伝送されて保存されると共に、該炭種判別装置200に設置された切替部230に伝送される。
【0029】
切替部230では該切替部230から出力する切替信号20に応じて、計測信号2を前記炭種判別装置200に設置されたモデル作成部300、あるいは推定部600にそれぞれ伝送する。
【0030】
切替部230から出力する切替信号20が「モデル作成」であれば、切替部230からモデル作成部300に計測信号4を伝送する。
【0031】
また、切替部230から出力する切替信号20が「推定」であれば、切替部230から推定部600に計測信号8を伝送する。
【0032】
前記炭種判別装置200に設置された学習部500は、該炭種判別装置200に設置されたモデル400と接続されている。
【0033】
前記モデル400は、制御対象の石炭焚きボイラ100を特性炭種ごとに模擬する機能を持つ。すなわち、前記炭種判別装置200から出力信号51を制御対象の石炭焚きボイラ100に与えた結果として、制御対象の石炭焚きボイラ100から状態量の計測信号1を得るのと同じように、モデル入力12をモデル400に入力して該モデル400で石炭焚きボイラ100の運転の模擬を行ない、その模擬結果としてモデル出力13を出力する。
【0034】
このモデル400から出力するモデル出力13は、計測信号1の予測値である。
【0035】
前記モデル400は、制御対象の石炭焚きボイラ100の特性を模擬するものであり、物理法則に基づくモデル式、あるいは統計的手法を用いてモデル入力12に対するモデル出力13を模擬して計算する機能を持つ。
【0036】
モデル400に必要なモデルパラメータ7は、前記炭種判別装置200に設置されたモデル作成部300からこのモデル400に入力される。
【0037】
前記モデル作成部300は、前記炭種判別装置200に設置されたモデルパラメータデータベース240に保存されている前回モデルパラメータ5と、前記切替部230から伝送される計測信号4とを用いて前記モデル400を生成する機能を持つ。
【0038】
また前記モデル作成部300は、モデルパラメータデータベース240に前回モデルパラメータ5が無い場合には、乱数等によって新たに生成したモデルパラメータと切替部230から伝送される計測信号4とを用いて、モデル400を生成する機能を持っている。
【0039】
また、前記モデル作成部300では、この新たに作成したモデルパラメータを現モデルパラメータ6としてモデルパラメータデータベース240に保存するようにしている。
【0040】
前記モデル作成部300は学習部500と接続しており、学習に必要なモデルパラメータ7をモデルパラメータデータベース240から抽出して前記学習部500に伝送する。
【0041】
学習部500では、モデルパラメータデータベース240に保存されているモデルパラメータ7をモデル作成部300を介して得ることになる。
【0042】
前記学習部500では、モデルパラメータ7と、更にモデル出力13を用いてモデル400に入力させるモデル入力12を学習して生成する。
【0043】
この学習部500では、モデル入力12とモデル出力13を介してモデル400内のモデルパラメータ7を更新し、その更新した学習情報を、更新モデルパラメータ10としてモデルパラメータデータベース240に送信する。
【0044】
前記炭種判別装置200に設置された推定部600は、切替信号20にて切替部230に「推定」が入力された際に前記切替部230から伝送される計測信号8と、切替信号20を同様に受けたモデル作成部300から推定用のモデルパラメータ7が伝送されたモデル400で模擬されて得られるモデル出力14とを得て、推定信号9を生成する。
【0045】
前記推定部600で生成した推定信号9は、前記炭種判別装置200に設置された判別部700および外部出力インターフェイス270に伝送される。
【0046】
前記判別部700では、推定部600から得た推定信号9に基づいて炭種判別と混炭率を演算し、演算の結果得られた炭種及び混炭率の判別信号15を外部出力インターフェイス270に伝送する。
【0047】
石炭焚きボイラである制御対象100の運転員は、キーボード901とマウス902で構成される入力装置900、及び画像表示装置950に接続されている保守ツール910を用いることにより、炭種判別装置200に備えられた種々のデータベースに保存されている情報にアクセスすることができる。
【0048】
保守ツール910は、外部入力インターフェイス920と、データ送受信処理部930と、外部出力インターフェイス940を備えて構成されている。
【0049】
入力装置900で生成した入力信号31は、外部入力インターフェイス920を介して保守ツール910に取り込まれる。データ送受信処理部930では外部入力インターフェイス920を介して入力する入力信号32の情報に従って、炭種判別装置200に備えられているデータベース情報30を取得する。
【0050】
データ送受信処理部930では、炭種判別装置200のデータベース情報30を処理した結果得られる出力信号33を外部出力インターフェイス940に送信し、この外部出力インターフェイス940から出力信号34として画像表示装置950に出力して表示する。
【0051】
尚、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置では、データベースが全て炭種判別装置200の内部に配置されているが、これらを炭種判別装置200の外部に配置することもできる。また、本実施例では出力信号51を生成するための信号処理機能が全て炭種判別装置200の内部に配置されているが、これらを炭種判別装置200の外部に配置してもよい。
【0052】
次に本発明を石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントに適用した実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置について、本実施例の炭種判別装置に設置したデータベースに保存されている情報、及び信号処理機能について説明する。
【0053】
まず、図2を用いて制御対象100の石炭焚きボイラを備えた火力発電プラント発電の仕組みについて説明する。
【0054】
図2において、燃料の石炭は、石炭を貯蔵しているコールバンカー111から給炭器112を介してミル110に供給される。ミル110では内部のローラにより石炭を細かく砕いて微粉炭にして石炭搬送用の1次空気、及び燃焼調整用の2次空気と共に石炭焚きボイラを構成する火炉101に設置したバーナ102を通じて火炉101に投入し、火炉101内部で燃料の微粉炭を燃焼させる。
【0055】
燃料の微粉炭と1次空気は配管134から、2次空気は配管141からバーナ102に導かれ、2段燃焼用のアフタエアを、火炉101に設置したアフタエアポート103を通じて火炉101に投入する。
【0056】
このアフタエアは、配管142からアフタエアポート103に導かれる。
【0057】
燃料の石炭を火炉101の内部で燃焼させて発生した高温の燃焼ガスは、火炉101を矢印で示した経路に沿って下流側に流れ、火炉101に配置された熱交換器106を通過して熱交換した後、燃焼排ガスとなって火炉101から排出されて火炉101の外部に設置されたエアーヒーター104に流下する。
【0058】
エアーヒーター104を通過した燃焼排ガスはその後、図示していない排ガス処理装置で燃焼排ガスに含まれている有害物質を除去した後に、煙突をから大気に放出される。
【0059】
火炉101を循環する給水は、タービン108を経た蒸気を復水に凝縮する復水器113から給水ポンプ105を介して火炉101に導かれ、火炉101に設置した熱交換器106において火炉101の内部を流下する燃焼ガスによって加熱されて高温高圧の蒸気となる。尚、本実施例では熱交換器106の数を1個として図示しているが、熱交換器を複数個配置してもよい。
【0060】
熱交換器106で発生した高温高圧の蒸気は、タービンガバナ弁107を介して蒸気タービン108に導かれ、蒸気の持つエネルギーによって蒸気タービン108を駆動し、この蒸気タービン108に連結した発電機109を回転させて発電する。
【0061】
火力発電プラントの運転状態である状態量を検出する様々な計測器として、例えば図2には、火炉101に配設した熱交換器106で発生した蒸気を蒸気タービン108に供給する経路には温度計測器151と圧力計測器152とを設置して、前記蒸気の温度Tと圧力Pをそれぞれ測定している。
【0062】
また、蒸気タービン108を流下した蒸気を冷却して復水に凝縮する復水器113からこの復水を前記熱交換器106に供給する経路には流量計測器150を設置して供給される復水の流量を測定し、また発電機109には発電出力計測器153を設置して前記発電機109で発電した電力量を測定している。
【0063】
また、火炉101には、燃料の微粉炭を火炉101の内部で燃焼させて生じた燃焼ガス中のNOx濃度及び/又はCO濃度を計測する濃度計測器154が設置されている。
【0064】
尚、一般的には図2に図示した以外にも多数の計測器が火力発電プラントに配置されているが、ここでは図示を省略する。
【0065】
そして、前述したこれらの各種計測器で計測された石炭焚きボイラである制御対象100の各種状態量の情報は、計測情報1として炭種判別装置200に伝送される。
【0066】
そして前記炭種判別装置200の演算によって決定された炭種、または混炭率はボイラ制御装置1000に入力し、このボイラ制御装置1000で演算処理されて石炭焚きボイラである制御対象100に対する指令信号に基づいて石炭焚きボイラの操作端となる下記する空気ダンパ160、161、162、163をそれぞれ操作して、炭種、または混炭率に応じて石炭焚きボイラを効率良く運転することが出来る。
【0067】
次に、制御対象100である石炭焚きボイラの火炉101に設置されたバーナ102から火炉101内に投入される1次空気及び2次空気、火炉101に設置されたアフタエアポート103から火炉101内に投入されるアフタエアの経路について説明する。
【0068】
1次空気は、ファン120から配管130に導かれ、途中でエアーヒーター104の内部を通過する配管132とエアーヒーター104をバイパスする配管131とに分岐し、これらの配管132及び配管131を流下した1次空気は再び配管133で合流してミル110に導かれる。
【0069】
エアーヒーター104を通過する空気は、火炉101から排出される燃焼排ガスにより加熱されるが、この1次空気を用いてミル110で生成される微粉炭を配管133を通じてバーナ102に搬送する。
【0070】
2次空気及びアフタエアは、ファン121から配管140に導かれ、エアーヒーター104の内部を通過する配管140を流下して加熱された後に、配管140の下流側で2次空気用の配管141と、アフタエア用の配管142とに分岐して、それぞれ火炉101に設置されたバーナ102とアフタエアポート103に導かれるように構成されている。
【0071】
図2に示した制御対象100である石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントには、火力発電プラントの運転状態を検出する前記した各種の計測器が配置されており、これらの計測器から取得された制御対象100の火力発電プラントの状態量を示す計測信号1は、炭種判別装置200に設置された外部入力インターフェイス210に入力するように構成されている。
【0072】
また、図3に示すように、エアーヒーター104の内部に配設された配管140の下流側で分岐した2次空気用の配管141及びアフタエア用の配管142には空気ダンパ162及び空気ダンパ163が配置されおり、同様にエアーヒーター104の内部に配設された配管132、及びエアーヒーター104をバイパスした配管131には空気ダンパ161及び空気ダンパ160がそれぞれ配置されている。
【0073】
これらの空気ダンパ160、161、162、163をそれぞれ操作することによって配管131、132、141、142内で空気が通過する面積が変更され、これらの配管131、132、141、142を通過して火炉101に供給される空気流量が個別に調整される。
【0074】
そして、制御対象100から入力した石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの状態量を示す計測信号1に基づいて炭種判別装置200において判断した炭種の出力信号51を出力し、この出力信号51に基づいて前記給水ポンプ105、ミル110、並びに空気ダンパ160、161、162、163などの操作機器を操作して石炭焚きボイラ100の運転を制御するように構成している。
【0075】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置した計測信号データベース220、及び推定信号データベース230に保存する情報について説明する。
【0076】
図4は本実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置200に設置した計測信号データベース220に保存されている情報の態様を説明する図であり、図5は本実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置200に設置したモデル400のモデル構造の概略を説明する図である。
【0077】
図4に示したように、前記炭種判別装置200の計測信号データベース220には、制御対象の石炭焚きボイラ100で計測された状態量を示す計測信号1である計測信号データの情報が、設置された計測器毎に外部入力インターフェイス210を介して入力し、各計測時刻と共に保存される。
【0078】
例えば、図2に示した火力発電プラントに設置された流量計測器150、温度計測器151、圧力計測器152、発電出力計測器153、濃度計測器154によってそれぞれ計測した流量値F、温度値T、圧力値P、発電出力値E、及び燃焼ガスに含まれるNOx濃度Dが、時間の情報と共に炭種判別装置200の計測信号データベース220に保存される。
【0079】
尚、図4に示した計測信号データでは1秒周期でデータを保存しているが、データ収集のサンプリング周期は任意に設定することが可能である。
【0080】
計測信号データベース220に格納されている計測信号データを容易に活用できるようにするために、各計測信号データにはPID番号という固有の番号が割り当てられている。
【0081】
また、前記推定信号データベース250に保存される情報も同様に、図5のモデル400のモデル構造に示すように、ノイズ成分を取り除くように推定した信号や、推定部600で処理した際に算出される各種信号が、時間の情報と共に前記推定信号データベース250に保存される。
【0082】
前記炭種判別装置200に設置したモデル作成部300は、切替信号20に応じてモデル400にモデルパラメータを設定する。切替信号20が「モデル作成」であれば、モデルを新たに構築する場合に必要なモデルパラメータ7をモデル作成部300からモデル400に出力して新たなモデルを設定する。
【0083】
過去のモデルパラメータを活用する場合には、モデルパラメータデータベース240に保存されている過去のモデルパラメータをロードする。切替信号20が「推定」であれば、推定に用いるモデル400のモデルパラメータ7をモデルパラメータデータベース240からモデル作成部300を経由してモデル400にロードする。
【0084】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデル400と学習部500の動作について説明する。
【0085】
図5は、モデル400のモデル構造を説明した図である。このモデル構造としては、入力層、マッピング層、ボトルネック層、デマッピング層、出力層からなり、各層のノードが相互的に結合した構造となっている。
【0086】
ノード部は線形あるいは非線形関数を用いるが、シグモイド関数を用いるのが一般的である。各ノードの結合には重み係数があり、各ノードの相互関係の強さを表している。通常、モデルパラメータとは、この重み係数を指す。
【0087】
モデル400に対する入力信号には、石炭焚きボイラである制御対象100から取り込まれた関連する計測信号を入力する。炭種に関する場合は熱吸収量に関連する計測信号を選択すればよい。例えば、火炉101内にある熱交換器106付近の温度や圧力などである。
【0088】
また、天候により貯炭地に含まれる水分量が異なる。水分量が異なると同じ炭種でも燃焼のしかたが異なるため、モデル400に対する重要な入力信号の候補となる。ただし、これに限定することではない。
【0089】
学習部500で、このモデル400に対するモデルパラメータを決定する。手法としては、モデルの出力信号に教師信号を与え、その差の絶対値あるいは二乗誤差が小さくなるようにパラメータを修正する。一般に、このようなパラメータ修正法を学習と呼んでいる。
【0090】
モデル400では、図5にこのモデル400を構成するモデル構造を示したように5層でボトルネック層を中心に対称的なノード数となる自己連想型ニューラルネットワークを用いている。なお、自己連想型ニューラルネットワークの構造やその学習方法については、周知の技術であるため、次の“M.A.Kramer:Nonlinear Principal Component Analysis Using Autoassociative Neural Networks, AlChE Journal、Vol.37、No.2、1991”を参考文献として示しておく。
【0091】
自己連想型ニューラルネットワークの特徴は、入力信号と同じ信号を教師信号として与えることにある。このモデル400に入力信号を与えると学習により、入力信号と同じ信号が出力信号として得られるようになる。
【0092】
これにより、入力信号間にある非線形の関係をモデル400内に構築することが可能である。また、ボトルネック層の個数は、基本的に入力信号の個数よりも少なくすることが一般的であり、これによって、入力信号の主成分のみを抽出する機能も合わせ持つ。よってこのモデル400を炭種ごとに用意しておけば、炭種ごとの推定モデルを構築することができる。
【0093】
モデル400のノードには、一般的な関数であるシグモイド関数を用いてもよいが、プラントの計測信号は多くのゆらぎ要素があり、また、データ数にも散らばりがあるため、分布で表現する方が適切である場合が多い。そこで、各ノードには、ガウス関数を用いるモデル400を適用する。この場合、各ノードの平均および分散がパラメータとして加わる。学習方法としては、Radial Basis Functionネットワークとして、先ほど述べた参考文献にも記載されている。
【0094】
図6は、炭種とノードの出力値である計測信号Aとの関係をプロットしたものである。プラントの状況により、グラフにプロットできる点数は異なる。例えば、新設プラントでは、設計値情報などから求めることになるが、少ないデータ数となる。一方、運転年数の多いプラントでは、データ数が多くなる。
【0095】
このようにプラント状況によりデータ数に差異が生じるため、各データに分布を仮定し、データ数の差異を分布の形状で表現することにする。データ数が少ない場合には、分散が大きいのでひろがった分布となる。データ数が多い場合には、分散が小さくなるので尖った分布となる。
【0096】
データに対する事前情報がある場合には、分布形状を仮定することができるが、新規データなどの場合には、事前情報が無く得られたデータをもとに分布を推定する必要がある。データのみから分布を推定する手法は多数知られているが、母集団分布が何であってもデータ数の増加によりその分布は正規分布に近づくという中心極限定理から正規分布を仮定すればよい。
【0097】
分布が仮定できれば平均と分散より形状を決定することができる。なお、中心極限定理による正規分布の仮定については、例えば、“統計学入門、東京大学教養学部統計学教室編、東京大学出版会、1991年7月10日出版”に詳しく述べられている。
【0098】
以上の観点から、各ノード関数にガウス関数を用いる方がより適切である。また、自己連想型ニューラルネットの基底関数にガウス関数を適用した事例はなく、この組み合わせにより、データ数を反映しプラントの変動にもロバストな推定モデルが構築可能となる。
【0099】
図7は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデル400を作成するための学習部500における演算処理のフローチャートを説明する図である。尚、本フローチャート実行に必要なパラメータについては、モデルパラメータデータベース240に保存されている。このモデルパラメータデータベース240に保存されている情報の形態については後述する。
【0100】
図7に示すように、ステップ401では過去に設定したモデルパラメータを用いるのか、あるいは新規にモデルパラメータを作成するのかを選択する。
【0101】
新規にモデルパラメータを作成する場合には、ステップ402でモデルパラメータの初期値を乱数を用いて設定する。
【0102】
次に、ステップ403では計測信号データベース220からモデル400の入力信号および教師信号となる計測信号4を抽出する。
【0103】
ステップ404では、学習部500において学習回数や学習係数、ノード数など学習に必要なパラメータを設定する。新規にモデルパラメータを作成する場合には、モデルパラメータデータベース240に保存されているデフォルト値を用いる。
【0104】
ステップ405では、学習部500においてモデルパラメータを学習により初期値から逐次更新する。学習によるモデルパラメータの更新方法は、Back Propagation法などを用いる。この学習方法については、“ニューラルネットと計測制御、西川・北村編著、朝倉書店、1995年1月25日出版”に詳しく述べられている。
【0105】
基本的には、モデル400に入力信号を与えたときの出力信号と教師信号の差が無くなるように、学習部500においてモデルパラメータを更新する。モデル400からの出力信号と教師信号の差は、一般的には二乗誤差で表現され、評価関数と呼ばれる。各モデルパラメータを変動させた場合の評価関数の変動分を偏微分計算し、得られた値に学習係数を掛けたものをモデルパラメータの更新分とする。
【0106】
これを学習部500において繰り返していくと、モデル400の出力信号と教師信号の差が無くなり、評価関数がゼロに近づく。評価関数がゼロに近づくと、偏微分の値もゼロに近くなり、モデルパラメータの更新量がセロに近づく。
【0107】
数値計算では、完全にゼロになることは無いので、ステップ406にて、評価関数が設定された値以下になると学習部500における学習が終了したとみなし、モデル作成を終了する。学習の終了条件に満たない場合には学習の繰り返し回数が設定された回数に達した時点で、繰り返し計算をストップし、ステップ404に戻って、再度、学習用パラメータを設定する。
【0108】
ステップ401にて、過去のモデルパラメータの使用を選択した場合、ステップ407で過去のモデルパラメータを初期値とし学習によって修正するかどうか選択する。修正する場合には、ステップ403に進む。修正しない場合には、過去のモデルパラメータをそのまま使用するため、モデル400を再構築する必要がなく、モデル作成は終了となる。
【0109】
尚、本実施形態では、ノードにガウシアン関数を用いたRadial Basis Functionネットワークを用いているが、制御対象であるプラントの状況や計測信号の特徴などから他の基底関数を用いたネットワークモデルを用いてもよい。
【0110】
図8は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデルパラメータデータベース240に保存されている情報の形態を説明する図である。
【0111】
図8には、モデルパラメータデータベース240には、複数の炭種と、これらの炭種に対応したID、作成日時、学習係数、学習回数、終了条件、ノード数(入力/出力層、マッピング/デマッピング層、ボトルネック層)、パラメータ値の具体例が示されている。
【0112】
ここで、パラメータ値とは、重み係数と基底関数を決めるためのパラメータのことである。重み係数はノードの相互結合分あり、それぞれW11、W12、・・・として保存されている。基底関数を決めるパラメータは、例えば、シグモイド関数の場合は傾きと入力側の平行移動量を、ガウス関数の場合は中心値、分散値、入力信号の平行移動量である。尚、IDの値が000のものは、該当炭種のモデルパラメータを新規に作成する場合の学習パラメータのデフォルト値を示している。新規作成用のため、ノード数およびパラメータ値の箇所は通常、ブランクとなっている。
【0113】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置したモデル400と推定部600の動作について図1を用いて説明する。推定部600は制御対象100から得られた計測信号2をもとに各炭種の推定度合を算出する。
【0114】
図1において、はじめに、切替信号20が「推定」となった場合、モデル作成部300から各炭種の推定に用いるモデルパラメータ7がモデル400に設定される。
【0115】
また、切替部230より計測信号データベース220に保存した計測信号8がモデル400と推定部600にそれぞれ入力される。
【0116】
モデル400では、モデル作成部300で設定されたモデルパラメータ7によって構築された各炭種のモデルに計測信号8を入力信号として入力する。その結果、モデル400の演算によって得られた出力信号をモデル出力14として推定部600に伝送する。
【0117】
推定部600では、モデル出力14と計測信号8の差を時間ごとに計算し、モデル出力14とともに推定信号9として判断部700に出力する。そして判断部700では下記する演算によって判断した炭種を決定して外部出力インターフェイス270、及び推定信号データベース250に出力する。
【0118】
次に判断部700の動作について詳細に説明すると、判断部700では、推定部600から入力する推定信号9をもとに、炭種と混炭率を決定する。推定信号9には、炭種ごとのモデル400に計測信号8を入力した際のモデル出力14と計測信号8との差が含まれている。
【0119】
モデル400は炭種ごとに用意されており、そのときの関係がモデル化されているため、計測信号8の炭種と同じモデル400の出力信号と計測信号8との差はほとんど無い。つまり、判断部700では、この推定信号9の大きさをもとにどの炭種かを判断すればよいことになる。ただし、この判断を単に、しきい値を設定することで炭種を判定すると、石炭焚きボイラの状態値を検出した計測信号を伝送する際に何らかの原因でこの計測信号に付加されるノイズ成分や、圧力、流量等の計測対象で生じる突発的な計測信号の変動といったプラント特有のゆらぎや変動に影響を受けてしまうことになる。そこで、判断部700においては炭種と混炭率の判定に、(1)式に示す対数尤度比を用いる。
【0120】
【数1】
【0121】
(1)式において、Xnは推定信号9の時刻nの値である。H0は例えば炭種Aで成立する仮説を、H1は炭種Aではない仮説を表している。つまり、P(Xn|H0)はXnが炭種Aである確率を、P(Xn|H1)は炭種Aでない確率を表している。H0とH1の確率分布は例えば正規分布で表されることが一般的であり、その中心値と分散は炭種の持っている特性をもとに設定する。
【0122】
例えば、図6に示した各炭種とノード出力値との関係を示した分布図をもとに設定するのが適切である。(1)式は、推定信号9が大きくなる、つまり炭種Aでない分布に近づくと式の値はプラスになる。逆に推定信号9が小さくなると、(1)式の値はマイナスになる。従って、炭種Aではない状態が継続すると、(1)式の値が大きくなる。この値が大きくなると下記の(2)式で定めた値よりも大きくなると炭種Aではないと判断する。
【0123】
【数2】
【0124】
(2)式において、αは誤検知の確率、βは検出もれの確率である。一般的には、両方とも0.001に設定される。また、下記の(3)式で決定した値よりも小さくなると炭種Aと判断する。
【0125】
【数3】
【0126】
この手法では、同じ状態が継続されると(1)式の値が変化するため、石炭焚きボイラの状態値を検出した計測信号を伝送する際に何らかの原因でこの計測信号に付加されるノイズ成分や、圧力、流量等の計測対象で生じる突発的な計測信号の変動といった石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎや変動では、(1)式の値の変化は小さく、その影響を受けにくい。
【0127】
この判断部700における炭種の判定では、入力される信号ごとに計算されるため、炭種ごとのモデル400について、入力信号ごとの上述の判定で該当する入力信号が一番多いモデル400を選択し、そのモデル400が模擬している炭種を、現在の炭種と判別する。
【0128】
また、推定信号9を合計した値、あるいは、平均した値を改めてXnとして上述の方法にて炭種を判断することも可能である。
【0129】
次に、燃料の石炭が2つ以上の炭種が混合している場合について、判断部700における炭種の判定と混炭率の決定方法について述べる。
【0130】
石炭として2つ以上の炭種が混炭している場合には、2つ以上の炭種が該当すると前述した手法で判定される。
【0131】
例えば、混合している炭種に炭種Aと炭種Bが該当すると仮定すると、判断部700にて炭種Aの入力信号ごとの推定信号9の差を合計し、炭種Bの入力信号ごとの推定信号9の差を合計する。その二つの値を合計したものを分母とし、それぞれの値を分子とすることで相対比が求まるため、これを混炭率とする。
【0132】
また、合計値の代わりに平均値あるいはメディアン値を用いて計算することも可能である。メディアン値を用いるとプラント特有の突発的な変動が発生しても、影響が少ないため、対象プラントの特性に応じて、合計値、平均値、メディアン値を用いる手法を適用する。
【0133】
次に、図9に示したように、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200に設置した推定信号データベース250には、例えば、複数の炭種と、炭種毎のPID、入力信号、モデル出力14、推定信号9が時刻ごとに格納される。
【0134】
外部出力インターフェイス270は、判断部700で判別した炭種と、算出した混炭率を出力信号51として保守ツール910に伝送する。
【0135】
次に、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置において、制御対象100である石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの運転員が、保守ツール910を用いて画像表示装置950に判断した炭種、混炭率、及び各データベースの情報を表示させる方法について説明する。
【0136】
図10〜図14は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置950に表示される画面の実施例である。運転員は、入力装置900のキーボード901や、マウス902を用いてこれら画面の空欄となっている箇所にパラメータ値を入力するなどの操作を実行する。
【0137】
図10は、画像表示装置950に表示される初期画面である。運転員は、図10に示した学習条件設定ボタン951、推定条件設定ボタン952、情報表示ボタン953の中から必要なボタンを選択し、マウス902を用いてカーソル954を移動させ、マウス902をクリックすることによりこれらの中から必要なボタンを選択して押す。
【0138】
図11は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200において学習条件設定画面を説明する図である。図10において運転員がマウスで学習条件設定ボタン951をクリックすることにより、図11の画面が表示される。
【0139】
運転員は、炭種ごとにモデル400に必要な設定を入力する。図11の画面の右上に表示された炭種切替メニュー963にて炭種を選択する。図11の画面のモデル生成欄961には、図7に示した学習部500における学習処理のフローチャートを実行するために必要な、学習係数、学習回数及び終了条件を、モデル固有のIDをもとに入力あるいは既に入力されている値を修正することができる。
【0140】
また、この機能を用いて、IDが000であるデフォルト値を運転員が変更することができる。図11の画面のモデル構造欄962には、モデル400の構造、及びノードに設定する基底関数の種類とそのパラメータを設定するのに必要な値を入力する。
【0141】
図11の下部に表示された保存ボタン964をクリックすることにより、モデル生成欄961、及びモデル構造欄962に入力された情報は、図2の炭種判別装置200におけるモデルパラメータデータベース240に炭種切替メニュー963に入力された炭種ごとに保存される。
【0142】
また、上記モデル生成欄961、及びモデル構造欄962に入力された情報は、図2の炭種判別装置200において、切替信号20に「モデル学習」を設定するとともに、モデル作成部300に転送される。
【0143】
また図11の下部に表示されたキャンセルボタン965をクリックすると、モデル作成欄961、モデル構造欄962、炭種切替メニュー963に入力された情報がキャンセルされる。また、戻るボタン966をクリックすることにより、図10の画面に戻る。
【0144】
図12は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200において推定条件設定画面を説明する図である。図10において運転員がマウスで推定条件設定ボタン952をクリックすることにより、図12の画面が表示される。
【0145】
運転員は、炭種ごとに推定に用いるモデル400を図12の画面の右上に表示された推定用炭種切替メニュー973にて炭種を選択する。図12の画面のモデル生成情報欄971には、選択した炭種のモデル固有のID、学習に用いた学習係数、学習が終了した際の学習回数と学習誤差を表示する。IDが000であるモデル400は表示されない。
【0146】
図11の画面のモデル構造情報欄972には、選択したモデル400の構造、基底関数、及び基底関数に設定したパラメータの情報が表示される。また、判別設定値欄977では、誤検知の確率、及び検出もれの確率を入力する。
【0147】
図12の下部に表示された転送ボタン974をクリックすることにより、モデル生成情報欄971、モデル構造情報欄972、及び判別設定欄977に入力された情報は、図2の炭種判別装置200における切替信号20に「推定」を設定するとともに、モデル作成部300に転送される。モデル作成部300は、転送された情報をもとに、推定部600にモデルパラメータ7を設定する。
【0148】
また、図12の下部に表示されたキャンセルボタン975をクリックすると、モデル作成情報欄971、モデル構造情報欄972、推定炭種切替メニュー973に入力された情報がキャンセルされる。また、戻るボタン976をクリックすることにより、図10の画面に戻る。
【0149】
図13は、本実施例の石炭焚きボイラの炭種判別装置を構成する炭種判別装置200において、計測信号データベース220、及び推定信号データベース250に保存されている情報を画像表示装置950に表示させるため、その条件を設定する画面である。
【0150】
図10において運転員がマウスで情報表示ボタン953をクリックすることにより、図13が表示される。
【0151】
運転員は、画像表示装置950に表示させたい計測信号、あるいは操作信号を図13の入力欄981に、そのレンジ(上限/下限)と共に入力する。また、表示させたい時間を時刻入力欄982に入力する。
【0152】
図13の下部に表示された表示ボタン983をクリックすることにより、図14に示したようなトレンドグラフが画像表示装置950に表示される。また図14の下部に表示された、戻るボタン991をクリックすることにより、図13の画面に戻る。
【0153】
また、図13の下部に表示された、戻るボタン984をクリックすることにより、図10の画面に戻ることができる。
【0154】
尚、以上で述べた画像以外にも、炭種判別装置200内のデータベースに保存されている任意の情報を、任意の態様で画像表示装置950に表示することもできる。
【0155】
上記した本実施例によれば、計測した石炭焚きボイラの状態量に生じる石炭焚きボイラのプラント特有のゆらぎ変動を考慮して炭種の判別を正確且つ迅速に行ない、炭種に対応した石炭焚きボイラの運転を可能にした石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、石炭焚きボイラの炭種判別装置及び石炭焚きボイラの炭種判別方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の一実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置の概略構成を示す制御ブロック図。
【図2】図1に示した本発明の実施例の炭種判別装置が適用される石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの概略構成図。
【図3】図2に示した石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントのエアーヒーターを示す部分図。
【図4】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した計測信号データベースに記憶されたデータの態様を示す説明図。
【図5】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデルの構造を示す説明図。
【図6】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデル化対象となる炭種とノード出力との関係を示す説明図。
【図7】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデル作成部における動作を示すフローチャート。
【図8】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置したモデルパラメータデータベースに記憶されたデータの態様を示す説明図。
【図9】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した推定信号データベースに記憶されたデータの態様を示す説明図。
【図10】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される初期画面。
【図11】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される学習条件設定画面の前半画面。
【図12】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される推定条件設定画面の前半画面。
【図13】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される表示情報設定画面。
【図14】図1に示した本発明の実施例である石炭焚きボイラの炭種判別装置に設置した画像表示装置に表示される計測値のトレンドグラフ。
【符号の説明】
【0158】
100:制御対象、200:炭種判別装置、210:外部入力インターフェイス、220:計測信号データベース、230:切替部、240:モデルパラメータデータベース、250:推定信号データベース、260:学習パラメータデータベース、300:モデル作成部、400:モデル、500:学習部、600:推定部、700:判断部、900:入力装置、901:キーボード、902:マウス、910:保守ツール、920:外部入力インターフェイス、930:データ送受信処理部、940:外部出力インターフェイス、950:画像表示装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項2】
制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデルの出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置に設置された前記判定部は、前記推定部で算出した前記推定信号とその対数尤度比とに基づいて炭種又は混炭率を決定するように構成されていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項4】
請求項1に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置に設置された前記判定部は、前記計測信号データベースに保存された計測信号と炭種ごとのモデルによって推定した計測信号との差の絶対値を算出し、この絶対値の合計値、平均値、メディアン値のうち少なくとも一つを用いた相対比をもとに炭種又は混炭率を決定するように構成されていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、外部入力機能として炭種判別装置にモデルの構造、基底関数の種類、及び基底関数の形状をそれぞれ決定するパラメータのうち少なくとも一つを入力するユーザーインターフェイスを備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、外部入力インターフェイスから取り込んだ制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号である火炉の熱吸収量に関係する計測信号、及び石炭の水分に関係する計測信号の少なくとも1つを用いて前記モデルを作成するモデル作成部を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置に備えられた前記モデルは、前記計測信号データベースに保存された計測信号をもとに、炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルとして自己連想型ニューラルネットワークを用いて炭種ごとに前記計測信号の推定値を算出するように構成されており、前記推定部は、計測信号と前記モデルから得られる計測信号の推定値との差を算出するように構成していることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、計測信号、炭種ごとの推定値、計測信号と推定値の差、炭種、及び混炭率のうちの少なくとも1つを時間の経過とともに表示する表示装置を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項9】
制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した推定信号に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項10】
制御対象から得られる計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記計測信号データベースに保存された前記計測信号とこの推定した前記計測信号の推定値との差は、両者の絶対値を算出してこの絶対値の合計値、平均値、及びメディアン値のうちの少なくとも一つを用いた相対比を基に炭種と混炭率を決定することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
石炭焚きボイラから得られる計測信号のうち火炉の熱吸収量に関係する計測信号、及び石炭の水分に関係する計測信号のうち少なくとも1つを取り込み、火炉の熱吸収量に関係する計測信号、及び石炭の水分に関係する計測信号の少なくとも1つを用いて前記モデルを作成することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項13】
請求項9又は請求項10に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記モデルでは、前記計測信号データベースに保存された計測信号をもとに、炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルとして自己連想型ニューラルネットワークを用いて炭種ごとに前記計測信号の推定値を算出することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項14】
請求項9又は請求項10に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
計測信号、炭種ごとの推定値、計測信号と推定値の差、炭種、及び混炭率の少なくとも1つを時間の経過と共に表示装置に表示することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項1】
制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項2】
制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、前記制御対象から前記計測信号を取り込む外部入力インターフェイスと、前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を保存する計測信号データベースと、制御対象の石炭焚きボイラに操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルと、前記モデルによって推定したモデルの出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習する学習部と、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記モデルによって推定した計測信号との差を推定信号として算出する推定部と、前記推定部で算出した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を決定する判定部を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置に設置された前記判定部は、前記推定部で算出した前記推定信号とその対数尤度比とに基づいて炭種又は混炭率を決定するように構成されていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項4】
請求項1に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置に設置された前記判定部は、前記計測信号データベースに保存された計測信号と炭種ごとのモデルによって推定した計測信号との差の絶対値を算出し、この絶対値の合計値、平均値、メディアン値のうち少なくとも一つを用いた相対比をもとに炭種又は混炭率を決定するように構成されていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、外部入力機能として炭種判別装置にモデルの構造、基底関数の種類、及び基底関数の形状をそれぞれ決定するパラメータのうち少なくとも一つを入力するユーザーインターフェイスを備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、外部入力インターフェイスから取り込んだ制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号である火炉の熱吸収量に関係する計測信号、及び石炭の水分に関係する計測信号の少なくとも1つを用いて前記モデルを作成するモデル作成部を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置に備えられた前記モデルは、前記計測信号データベースに保存された計測信号をもとに、炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルとして自己連想型ニューラルネットワークを用いて炭種ごとに前記計測信号の推定値を算出するように構成されており、前記推定部は、計測信号と前記モデルから得られる計測信号の推定値との差を算出するように構成していることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載された石炭焚きボイラの炭種判別装置において、
前記炭種判別装置は、計測信号、炭種ごとの推定値、計測信号と推定値の差、炭種、及び混炭率のうちの少なくとも1つを時間の経過とともに表示する表示装置を備えていることを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別装置。
【請求項9】
制御対象の石炭焚きボイラから得られる状態量の計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した推定信号に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項10】
制御対象から得られる計測信号の値をもとに石炭焚きボイラに使用する炭種又は混炭率を算出する石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記制御対象から取り込んだ前記計測信号を計測信号データベースに保存し、前記制御対象に操作信号を与えた時に得られる炭種の計測信号の値をモデルを用いて炭種ごとに推定し、前記モデルによって推定したモデル出力がノイズを取り除いた計測信号に近づくように前記モデルに与えるモデル入力の生成方法を学習させ、前記計測信号データベースに保存された計測信号と前記学習の結果を反映して前記モデルによって推定した計測信号との差を算出して推定信号として推定し、前記推定した前記推定信号とその対数尤度比に基づいて炭種又は混炭率を判定することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記計測信号データベースに保存された前記計測信号とこの推定した前記計測信号の推定値との差は、両者の絶対値を算出してこの絶対値の合計値、平均値、及びメディアン値のうちの少なくとも一つを用いた相対比を基に炭種と混炭率を決定することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
石炭焚きボイラから得られる計測信号のうち火炉の熱吸収量に関係する計測信号、及び石炭の水分に関係する計測信号のうち少なくとも1つを取り込み、火炉の熱吸収量に関係する計測信号、及び石炭の水分に関係する計測信号の少なくとも1つを用いて前記モデルを作成することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項13】
請求項9又は請求項10に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
前記モデルでは、前記計測信号データベースに保存された計測信号をもとに、炭種の計測信号の値を炭種ごとに推定するモデルとして自己連想型ニューラルネットワークを用いて炭種ごとに前記計測信号の推定値を算出することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【請求項14】
請求項9又は請求項10に記載された石炭焚きボイラの炭種判別方法において、
計測信号、炭種ごとの推定値、計測信号と推定値の差、炭種、及び混炭率の少なくとも1つを時間の経過と共に表示装置に表示することを特徴とする石炭焚きボイラの炭種判別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−228995(P2009−228995A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75695(P2008−75695)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]