説明

砒素イオンの電気化学測定方法

【課題】 本発明は、水溶液中の三価砒素イオン及び五価の砒素イオンを低コストで迅速且つ簡便に測定することができる電気化学測定方法を提供する。
【解決手段】 砒素イオンと、砒素イオンと結合する電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする砒素イオンの電気化学測定方法。電子メディエーターとしては、チオール基を有する化合物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素イオンの電気化学測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水溶液中の砒素イオン濃度を測定する技術として、原子吸光測定装置やHPLC−ICP/MS等を用いることにより、三価砒素イオン及び五価砒素イオンの総量を測定する方法が確立されているが、上記分析装置は高価である、前処理及び測定に時間がかかるという問題があった。
【0003】
一方、安価な分析手段として水質検査用パックテストやジエチルカルバミン酸法等の迅速検査法が確立されているが、これらの測定方法はあくまでもスクリーニングに使用される程度の検出感度であり、又、これら迅速検査法によって陽性となった薬毒物が必ずしも含まれているとは限らず、機器分析をはじめとする複数の検査法を使用しての確認分析が必要とされる。
【0004】
更に、迅速且つ簡便な分析手段として電気化学的測定方法も採用されているが、電気化学的測定方法では三価砒素イオンのみならば迅速に測定できるものの、電気化学的に不活性種として知られている五価砒素イオンを測定することはできなった。
【0005】
その為、五価砒素イオンを測定するには、五価砒素イオンを三価砒素イオンに還元するための冗長な前処理工程が必要であり、そのメリットである迅速性が失われてしまうという欠点があった(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Anal Chem(1982)311:187−191
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、水溶液中の三価砒素イオン及び五価の砒素イオンを低コストで迅速且つ簡便に測定することができる電気化学測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の砒素イオンの電気化学測定方法は、砒素イオンと、砒素イオンと結合する電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする。
【0008】
上記電子メディエーターは、砒素イオンと結合し、砒素イオンを電気化学測定方法で測定可能にする化合物である。従って、電子メディエーターは、従来電気化学測定方法で測定不可能であった五価の砒素イオンと結合し、電気化学的に活性となる化合物が好ましい。
【0009】
上記電子メディエーターとしては、砒素イオンと結合しうるチオール基を有する化合物が好ましく、例えば、D−システイン、L−システイン、システインのラセミ体、システイン塩酸塩などの塩類、D−ホモシステイン、L−ホモシステイン、ホモシステインのラセミ体、D−N−アセチルシステイン、L−N−アセチルシステイン、N−アセチルシステインのラセミ体、その他N置換システインとその塩類、L−システインメチルエステル、その他エステル化システインとその塩類等のシステイン;アミノベンゼンチオール、ア
ミノエタンチオール、ベンゼンジチオール、ブタンチオール、ブタンジチオール、プロパンチオール、プロパンジチオール、エタンチオール、エチレンジチオール、ドデカンチオール等が挙げられる。
【0010】
又、電子メディエーターとしては、電気化学測定方法で測定した際に砒素イオンと結合した複合体の酸化電流値のピークが、砒素イオン及び電子メディエーターのそれぞれ単体におけるピークと干渉しない新たな酸化電位を有し、水溶性であって測定の際に有機溶媒を添加する必要がなく、且つ、廃棄の際に特別な処理をする必要のないシステインが好適に使用される。
【0011】
電子メディエーターの含有量は、特に限定されるものではないが、定量分析する際には電子メディエーターと五価の砒素イオンが全て結合するように、五価の砒素イオンに対し大過剰に含まれているのが好ましい。
【0012】
請求項1記載の砒素イオンの電気化学測定方法においては、砒素イオンと、砒素イオンと結合するメディエーターが水に溶解されると、両者は水中に共存した状態若しくは結合した状態で存在することになるので、その状態の水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定する。
【0013】
電気化学測定方法とは、電極間に電位を印加するか又は電極間に電流を流すことにより、被検出物質に対し電気的な信号を印加して化学的な反応を起こさせたり、応答信号から内部で起こっている化学的反応を追跡する検出方法であって、本発明においては、砒素イオンの酸化電流値を測定する。
【0014】
上記電気化学測定方法としては、例えば、ボルタンメトリ法、ストリッピングボルタンメトリ法、アンペロメトリ法、ポテンシオメトリー法、クーロンメトリ法が挙げられる。
又、これらの電気化学測定方法に際して印加する電圧や電流の波形としては、例えば、適宜パルス波、微分パルス波、三角波、ステップ波等が挙げられる。
【0015】
上記ボルタンメトリ法とは、作用電極と参照極の間に電位を印加し、その時に流れる電流と印加電位の関係を調べるものである。ボルタンメトリ法で使用する電極は、作用電極と対極に参照電極を加えた3電極系であることが望ましい。参照電極は、印加電位の大きさに関わらず、常時一定の電位を示すため、参照電極を基準にすることにより、作用極に印加した電位の絶対値の決定に有用である。
【0016】
上記ストリッピングボルタンメトリ法とは、被検出物質の還元に適当な電位を作用極に印加することにより作用極上に被検出物質の還元体を濃縮し、次いで被検出物質の酸化に適当な電位を印加することにより、被検出物質の還元体を作用極より脱離する手法である。
【0017】
このとき、脱離は被検出物質に特有の電位にて生じるため、被検出物質の種類を特定することができ、同時に生じる電流を測定することにより、被検出物質の濃度を特定することができる。作用極上に被検出物質の還元体を濃縮するという工程を含むため、より感度の高い分析が可能である。この測定法においても、絶対的な電位を知るために、作用電極、対極及び参照電極から成る3電極系であることが望ましい。又、ストリッピングボルタンメトリ法の中でもリニアスイープボルタンメトリ法又はスクウェアウェブボルタンメトリ法が好ましい。
【0018】
上記アンペロメトリ法とは、作用電極と参照極の間に一定電位を印加しておき、電流の時間変化をモニタリングする測定法である。この測定法においても、絶対的な電位を知るために、作用電極、対極及び参照電極から成る3電極系であることが望ましい。
【0019】
上記ポテンシオメトリー法とは、作用電極と対極の間に適当な電流を流し、そのときの電位変化をモニタリングする測定法である。この測定法においても、絶対的な電位を知るために、作用電極、対極及び参照電極から成る3電極系であることが望ましい。
【0020】
上記クーロメトリー法とは、作用電極と参照極の間に電位を印加することにより被検出物質を電気析出させ、そのクーロン量を測定するものである。
【0021】
上記作用極の材質は、特に限定されるものではないが、砒素イオン若しくはその溶媒、分散媒、溶存酸素等により腐食や酸化を受けない材質であることが必要である。又、一般にどんな材質の電極でも、負電位側で電極表面に水素イオンを吸着し、正電位側で酸素皮膜を形成するが、水素イオン又は酸化皮膜が形成された状態は、通常の状態と電気伝導度が異なるため、この状態は電気化学測定に用いる電極として好ましい状態ではない。
【0022】
従って、水素イオン膜を形成する電位と、酸化皮膜を形成する電位の電位差(=電位窓)が広ければ広いほど良く、このような条件を満たす金属種を、電極材料として用いることが好ましく、例えば、白金、金、水銀、銀、ビスマス等が挙げられ、電子メディエーターとの相性のいい金が好ましい。
【0023】
上記作用極の構造は、特に限定されるものではないが、電極面積を微小化、即ち、一般に微小電極と言われる構造にすることにより、被検出物質の作用極上の物質拡散を高速化することができる。
【0024】
上記対極の材質は特に限定されるものではないが、被検出物質もしくはその溶媒、分散媒、溶存酸素等により腐食や酸化を受けない材質であることが必要であり、白金が好適に用いられる。
【0025】
上記参照電極は、電位が安定していることが必要であり、例えば、水素電極、飽和カロメル電極(=水銀/塩化水銀電極)、銀/塩化銀電極等が挙げられ、材料の汎用性や加工コストの観点から、銀/塩化銀電極が好ましい。
【0026】
電気化学測定する際にはポテンションスタットを用いて、電位の変化に伴う酸化電流値を測定するのが好ましく、その計測方法としては、ストリッピング電位に対応した電流値が得られるストリッピングボルタンメトリ法が好ましく、特に、リニアスイープボルタンメトリ法又はスクウェアウェブボルタンメトリ法が好ましい。
【0027】
請求項2記載の砒素イオンの電気化学測定方法は、砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを添加し、砒素イオンと電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする。
【0028】
以下、請求項1と異なる点を中心に説明する。
【0029】
請求項2記載の砒素イオンの電気化学測定方法においては、砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを添加して、砒素イオンと電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液を得る。
【0030】
砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを添加する方法は、特に限定されず、公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、砒素イオンを含
有する1M塩酸水溶液に電子メディエーターを添加し、溶解させる方法が挙げられる。
【0031】
請求項3記載の砒素イオンの電気化学測定方法は、砒素イオンを含有する水溶液を、砒素イオンを吸着する担体に作用させた後、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む溶離液を前記担体に作用させ、得られた溶離液に電極を接触し、溶離液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする。
【0032】
上記担体は、特に限定されず、従来よりクロマトグラフの吸着担体として使用されている任意の担体が使用可能であり、膜、微粒子、多孔質体のいずれの形態であってもよく、又、それらの組み合わせであってもよい。
以下に、それぞれの形態を具体的に説明する。
【0033】
膜構造の担体は主として繊維によりフィルター状に形成される。アニオン交換膜、高分子膜、金属膜に適当な孔を開けたものとすることもできる。膜構造の例としては、表面の形態により被測定対象物質に対する吸着機能を持つもの、表面を官能基で修飾したことにより同様の吸着機能を持つもの、繊維に特定機能を有する粒子を担持させたものが挙げられる。
【0034】
微粒子としては、微粒子表面の形態により被測定対象物質吸着機能を持つもの、微粒子表面を官能基で修飾したことにより同様の吸着機能を持つものがある。微粒子を、流路の長手方向に約10mm以上にわたって延びるカラム状に充填すれば、クロマトグラフィーを行うことが出来る。充填の形状は、直方体状、円筒状のいずれでもよい。
【0035】
多孔質体は、多数の連通孔を有する担体である。例えば、多孔質セラミック、多孔質ガラス等のモノリス型多孔質無機材料、ポリアクリルアミドゲル、スチレンジビニルベンゼン共重合体等を多孔質化したものなどが挙げられる。
【0036】
又、連通孔表面の形態により被測定対象物質吸着機能を持つもの、連通孔表面を官能基で修飾したことにより同様の吸着機能を持つものがある。連通孔を有する担体が一体構造を有する場合には、「モノリス」と呼ばれる。
【0037】
クロマトグラフィーができる長さより小さい場合には、モノリスディスクと呼ばれ、クロマトグラフィーができる長さのものは、これをモノリスカラムと呼ばれ、いずれも用語は目的に応じて使い分けられている。
【0038】
モノリスカラムは、樹脂充填カラムに比べて相対的に低圧力で通液することが可能であるため、低圧送液ポンプを用いることができ、同じ分析性能を有する機器でも、より小型化、低消費電力化が可能にである。
【0039】
モノリスディスクも、同様の理由で低圧力での送液が可能であるため機器の小型化が容易である。モノリスカラム及びモノリスディスクとも、一体化された構造を有するので、カートリッジ式マイクロリアクタ内に設置する際の取り扱いが容易である。
【0040】
担体を構成する材料の例としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリレート樹脂、ポリヒドロキシメタクリレート樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレンープロピレン共重合体等に代表されるポリオレフィン、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、エチレンークロロトリフルオロエチレン共重合体に代表されるオレフィン−ハロゲン化オレフィン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等に代表されるハロゲン化ポリオレフィン及びポリスルホン、シリカ、アルミナなどが挙げられる。
【0041】
繊維状の担体の場合には、セルロース系材料、綿や麻などの植物性繊維、絹や羊毛などの動物性繊維に代表される各種の天然繊維あるいは再生繊維、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の各種合成繊維等の繊維状材料が用いられる。
【0042】
又、上記構造をとらない場合でも、流路の壁面が被測定対象物質に対する吸着機能を有する場合には、同様に濃縮機能を生じることができる。担体の表面に砒素に対する吸着機能を持たせるためには、表面が砒素に対する相補的な構造を有するか、又はイオン結合、配位結合、キレート結合、疎水性相互作用、分子内極性による相互作用等を起こす機能性分子が固定化されるようにすればよい。
【0043】
相互作用を有する機能性分子としては、例えば、スルホ基、第4級アンモニウム基、オクタデシル基、オクチル基、ブチル基、アミノ基、トリメチル基、シアノプロピル基、アミノプロピル基、ニトロフェニルエチル基、ピレニルエチル基、ジエチルアミノエチル基、スルホプロピル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、スルホキシエチル基、オルトリン酸基、ジエチル(2−ヒドロキシプロピル)アミノエチル基、フェニル基、イミノジ酢酸基、エチレンジアミン、硫黄原子を含むキレート形成基、例えば、各種メルカプト基、ジチオカルバミン酸基、チオ尿素基などの官能基や、アビジン、ビオチン、ゼラチン、ヘパリン、リジン、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、プロテインA、プロテインG、フェニルアラニン、ヒママメレクチン、デキストラン硫酸、アデノシン5' リン酸、グルタチオン、エチレンジアミン二酢酸、プロシオンレッド、アミノフェニルホウ酸、牛血清アルブミン、ポリヌクレオチド(例えばDNA)、タンパク質(例えば抗体)等の原子団が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を同時に用いてもよい。
【0044】
具体的な担体としては、3M社からAnion−SRの商標により入手可能なエムポア(TM)ディスクカードリッジが挙げられ、溶離液として、1M−塩酸(pH≦約2)を用いることができる。
【0045】
この担体は、粒径50〜100μmの微粒子を繊維状ポリテトラフルオロエチレンに固着させ、0.5〜0.75mmの厚みの膜状にしたものであり、微粒子表面は4級アミン基により修飾されている。
【0046】
担体によっては、サンプル液を通過させる前に担体を活性化する液体を通過される必要があるものがある。例えば、砒素、セレン、六価クロムを吸着する4級アミンは、水酸イオンと接触することにより吸着性能を発揮するようになるが、これは、目的とする陰イオンが水酸イオンと置換する反応を利用するものである。この場合には、担体活性化液が使用される。担体活性化液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが用いられる。
【0047】
担体の大きさは、担体の吸着容量が、目的とする成分を吸着するにあたって飽和とならない範囲で、自由に決定できる。測定対象物質を含む溶液中に、担体に吸着しうる物質がどの程度含まれているかを予め想定し、担体の大きさを決定する。
【0048】
担体の吸着容量が小さい場合には、濃縮倍率を上げやすいが、飽和吸着となり易いため、所望の吸着容量が得られる大きさの担体とすることが必要である。また、吸着部にクロマトグラフィ作用を期待する場合には、少なくとも流路方向に10mm以上の長さを有するカラム形状とすることが必要である。
【0049】
担体の空隙率、連通孔の大きさ等は、溶液との接触を確実に行うことができ、目詰まり
が問題とならない範囲で決定する。膜構造の場合には、その目の粗さは0.3μm程度以上、微粒子を用いる場合には、その粒子径は2〜50μm程度、モノリスカラムの場合の連通孔は1〜50μm程度が好ましい。
【0050】
上記溶離液は、担体に吸着している砒素イオンを、担体から離脱させるためのものであり、吸着の形態に応じて有効な溶離液は異なるので、吸着の化学的特性から判断して、適当な溶離液が選定されればよい。
【0051】
例えば、担体表面に吸着しやすいイオンを含有する溶液であって、この溶液が担体を通過するときに、担体に既に吸着しているイオンの形態の測定対象成分が溶離液中のイオンと交換することによって、測定対象成分を担体から離脱させることができる。
【0052】
請求項3記載の砒素イオンの電気化学測定方法においては、砒素イオンを含有する水溶液を、砒素イオンを吸着する担体に作用させて吸着させた後、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む溶離液を前記担体に作用させて、砒素イオンを離脱させる。
【0053】
従って、得られた溶離液には、砒素イオンと砒素イオンと結合する電子メディエーターが、共存した状態若しくは結合した状態で存在するので、電極を接触し、溶離液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定するのである。
【0054】
例えば、砒素イオンを含有する水溶液をアニオン交換膜に通液させて、アニオン交換膜に砒素イオンを吸着させ、次いで電子メディエーターを含む溶離液(例えば、1M塩酸ー1.5M L−システイン溶液)を通液して砒素イオンを離脱させ、得られた砒素イオンと電子メディエーター(L−システイン)が、共存した状態若しくは結合した状態で存在する溶離液に電極を接触し、溶離液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定するのである。
【0055】
請求項7記載の砒素イオンの電気化学測定方法は、砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする。
【0056】
上記砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む電極とは、電極が砒素イオンと結合する電子メディエーターを含有しているものであって、一般には、電極の表面に砒素イオンと結合する電子メディエーターが付着している電極である。
【0057】
上記電極の作成方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法で作成されればよく、例えば、電子メディエーターが溶解されている電解液(例えば、1M塩酸ー1.5M L−システイン溶液)と電極を接触させ、電極に電位を印加して、電極表面に電子メディエーター(L−システイン)を吸着させる方法が挙げられる。
【0058】
上記電極としては、前述の電極が使用されるが、金で製造された電極が好ましく、特に、システイン含有金電極が好ましい。
【発明の効果】
【0059】
請求項1記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、砒素イオンと、砒素イオンと結合する電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定するのであるから、砒素イオンを電気化学測定方法により低コストで迅速且つ簡便に測定することができる。
【0060】
請求項2記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを添加し、砒素イオンと電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定するのであるから、砒素イオンを電気化学測定方法により低コストで迅速且つ簡便に測定することができる。
【0061】
請求項3記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、砒素イオンを含有する水溶液を、砒素イオンを吸着する担体に作用させた後、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む溶離液を前記担体に作用させ、得られた溶離液に電極を接触し、溶離液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定するのであるから、砒素イオンを濃縮することができ、電気化学測定方法により高精度で低コスト、迅速且つ簡便に測定することができる。
【0062】
請求項4記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、電子メディエーターが、五価の砒素イオンに結合する電子メディエーターであるので、電気化学測定方法によって、五価の砒素イオンを低コストで迅速且つ簡便に測定することができる。又、三価の砒素イオンと五価の砒素イオンを同時に測定することもできるし、価数による分別測定することもできる。
【0063】
請求項5記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、電子メディエーターが、チオール基を有する化合物であるので、三価の砒素イオン及び五価の砒素イオンの両方の砒素イオンをより正確に低コストで迅速且つ簡便に測定することができる。
【0064】
請求項6記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、チオール基を有する化合物がシステインであるので、システインと砒素イオンと結合した複合体の酸化電流値のピークが、砒素イオン及びシステインのそれぞれ単体におけるピークと干渉しない新たな酸化電位を有するので、砒素イオンを定量的に正確に測定することができる。
又、システインは水溶性であって、電気化学測定の際に有機溶媒を添加する必要がなく、且つ、廃棄の際に特別な処理をする必要のない。
【0065】
請求項7記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定するのであるから、砒素イオンと結合する電子メディエーターを砒素イオンを含有する水溶液に溶解する必要がなく、砒素イオンを電気化学測定方法により高精度で低コスト、迅速且つ簡便に測定することができる。
【0066】
請求項8記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む電極が、システイン含有金電極であるので、砒素イオンを電気化学測定方法によりより高精度で低コスト、迅速且つ簡便に測定することができる。
【0067】
請求項9記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、電気化学測定方法が、ストリッピングボルタンメトリ法であるので、砒素イオンを定量的に正確に測定することができる。
【0068】
請求項10記載の砒素イオンの電気化学測定方法の構成は上述の通りであり、ストリッピングボルタンメトリ法が、リニアスイープボルタンメトリ法又はスクウェアウェブボルタンメトリ法であるので、砒素イオンをより定量的に正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
図1は実施例1で使用した電気化学測定装置を示す模式図である。図中1は金電極である作用電極であり、2は銀−塩化銀電極である参照電極であり、3は白金線である対極である。
【0071】
ガラス製セル容器5に、検体水溶液{0〜20ppmの各濃度の砒酸水素二ナトリウム及び/又は三酸化二砒素を溶解したL−システインの1N塩酸溶液(64g/l)}6を供給し、その検体水溶液に作用電極1、参照電極2及び対極3を浸漬し、各電極からリード線を出し、ポテンションスタット(ECO CHEMIE社製、商品名AUTOLAB
PGSTAT12)4に結線した。
【0072】
測定・解析ソフトウェアGPES上でリニアスイープボルタメトリー法により、各濃度の検体水溶液の測定を行い、得られボルタモグラムを図2に示した。
【0073】
尚、図中7は10ppm三価砒素イオンと10ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラムであり、8は4ppm三価砒素イオンと6ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラムであり、9は2ppm三価砒素イオンと6ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラムであり、10は6ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラムであり、11は4ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラムであり、12は2ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラムであり、13はコントロール(砒素イオンを含まない検体水溶液)のボルタモグラムである。
【0074】
三価砒素イオン、五価砒素イオン共に直線的に濃度と電流感度が比例しており、定性測定だけではなく定量測定も十分可能であることが確認できた。
【0075】
(比較例1)
実施例1において、L−システインを添加せずに測定を行ったところ、三価砒素イオンは定量的に検出されるものの、五価砒素イオンは検出できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1で使用した電気化学測定装置を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られたボルタモグラムである。
【符号の説明】
【0077】
1 作用電極
2 参照電極
3 対極
4 ポテンションスタット
5 ガラス製セル容器
6 検体水溶液
7 10ppm三価砒素イオンと10ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラム
8 4ppm三価砒素イオンと6ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラム
9 2ppm三価砒素イオンと6ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラム
10 6ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラム
11 4ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラム
12 2ppm五価砒素イオンを含む検体水溶液から得られたボルタモグラム
13 コントロール(砒素イオンを含まない検体水溶液)のボルタモグラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素イオンと、砒素イオンと結合する電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項2】
砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを添加し、砒素イオンと電子メディエーターが共存した状態若しくは結合した状態で存在する水溶液に、電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項3】
砒素イオンを含有する水溶液を、砒素イオンを吸着する担体に作用させた後、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む溶離液を前記担体に作用させ、得られた溶離液に電極を接触し、溶離液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項4】
電子メディエーターが、五価の砒素イオンに結合する電子メディエーターであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項5】
電子メディエーターが、チオール基を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項6】
チオール基を有する化合物が、システインであることを特徴とする請求項5記載の砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項7】
砒素イオンを含有する水溶液に、砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む電極を接触し、水溶液が接触された電極に流れる砒素イオンの酸化電流値を測定することを特徴とする砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項8】
砒素イオンと結合する電子メディエーターを含む電極が、システイン含有金電極であることを特徴とする請求項7記載の砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項9】
電気化学測定方法が、ストリッピングボルタンメトリ法であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の砒素イオンの電気化学測定方法。
【請求項10】
ストリッピングボルタンメトリ法が、リニアスイープボルタンメトリ法又はスクウェアウェブボルタンメトリ法であることを特徴とする請求項9項記載の砒素イオンの電気化学測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−189400(P2006−189400A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3125(P2005−3125)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度科学技術振興機構委託開発事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)