研削盤
【課題】クーラントの流量切替え時に発生する径方向の切込みを防止でき、しかも、端面方向の切込みによる発熱を抑制できる研削盤を提供する。
【解決手段】工作物Wの粗研削時に大流量のクーラントを工作物に供給するとともに、工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段49と、粗研削終了後であってかつクーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に砥石台17をバックオフさせるバックオフ実行手段(S4)とを備えた。
【解決手段】工作物Wの粗研削時に大流量のクーラントを工作物に供給するとともに、工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段49と、粗研削終了後であってかつクーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に砥石台17をバックオフさせるバックオフ実行手段(S4)とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の粗研削終了後に砥石台をバックオフさせ、バックオフ後に工作物を仕上研削する研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、円筒研削盤においては、粗研削から仕上研削の切替え時に、工作物に供給するクーラントの流量を大流量から小流量に切替えるようにしている。すなわち、粗研削時には大流量のクーラントを研削個所に供給することにより、研削個所を十分に冷却して、研削による熱の発生を効果的に抑制するようにしている。ところが、大流量のクーラントを研削個所に供給すると、工作物と砥石車との間にクーラントによる動圧が発生するため、この動圧によって工作物が砥石車から離れる方向に撓められる。従って、研削による熱の発生がそれほど大きくない仕上研削時には、クーラントの流量を小流量に切替えて、工作物と砥石車との間に発生する動圧を低下させ、動圧による工作物の撓みを小さくして、仕上研削精度を向上するようにしている。
【0003】
この場合、例えば、特許文献1に示すように、砥石車によってクランクシャフトのジャーナル部の円筒部と端面部を研削するものにおいては、クーラントの流量の切替えによって工作物が砥石車側に戻ることにより、ジャーナル部の端面方向にも切込みが加わり、クーラント流量が小流量の条件の下でジャーナル部の円筒部および端面部が短時間で研削されるようになる。
【0004】
ところで、クランクシャフトのジャーナル部には、例えば、特許文献2に示すように、油穴が形成されており、この油穴がジャーナル部の回転によって砥石車に対応する所定の角度位置に割出されると、ジャーナル部と砥石車との間に介在するクーラントが油穴より排出されるため、油穴が開口する所定の角度位置においてジャーナル部と砥石車との間に発生する動圧が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−86066号公報
【特許文献2】特開平9−277166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に記載のものにおいては、図9に示すように、粗研削時の研削抵抗によってクランクシャフトWが一点鎖線のように撓み、この撓みによって粗研削の間、心押台センタ1が主軸台センタ2に対して軸方向に前進する。このために、クーラント流量の切替えによる動圧の低下によってクランクシャフトWが砥石車3側に接近する方向(図9の矢印方向)に変位して撓みが小さくなると、クーラント流量が小流量の条件の下でジャーナル部Jの円筒部が短時間で研削されるようになり、研削焼けが発生しやすくなる。また、この際、クランクシャフトWの撓みが小さくなることによって、加工すべきジャーナル部Jの軸方向位置も変化し、ジャーナル部Jの径方向のみならず端面方向にも切込みが与えられることになる。しかも、このときジャーナル部Jの端面部には十分な量(大流量)のクーラントが供給されていないため、ジャーナル部Jの端面部においても研削焼けが発生しやすくなる。
【0007】
また、ジャーナル部Jに形成した油穴W1の影響によってジャーナル部と砥石車との間に発生する動圧が低下すると、ジャーナル部の撓みが小さくなり、ジャーナル部が砥石車によって研削されるため、ジャーナル部の円周上一部に、図10に示すような凹みW2が発生する。凹みW2が発生した状態で振れ止め装置5を挿入すると、図11に示すように、振れ止め装置5の横シュー5aが凹みW2に接触することにより、ジャーナル部の中心が振れ止め装置5側に移動する。このような工作物の挙動によって、工作物の外周には凹みW2の反対側に凸部W3が発生し、このような凹凸が一度発生すると、以後いくら仕上研削を行っても工作物の外径形状はあまり改善されず、真円度不良が発生する。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題点を解決するためになされたもので、クーラントの流量切替え時に発生する径方向の切込みを防止でき、しかも、端面方向の切込みによる発熱を抑制できる研削盤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の特徴は、砥石台に支持した砥石車によって工作物を粗研削し、該粗研削終了後に前記砥石台をバックオフさせ、該バックオフ後に前記砥石車によって工作物を仕上研削する研削盤において、前記工作物の粗研削時に大流量のクーラントを前記工作物に供給するとともに、前記工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段と、前記粗研削終了後であってかつ前記クーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に前記砥石台をバックオフさせるバックオフ実行手段とを備えたことである。
【0010】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記砥石車は、前記工作物の円筒部を研削する円筒研削部と前記工作物の端面部を研削する端面研削部を備え、前記クーラント供給手段は、前記工作物の円筒部にクーラントを供給する円筒部クーラント供給部と、前記工作物の端面部にクーラントを供給する端面部クーラント供給部とを有し、前記端面部クーラント供給部は、前記円筒部に供給されるクーラントが大流量から小流量に切替えられた後の仕上研削の途中に、前記端面部に供給するクーラントを大流量から小流量に切替えるようになっていることである。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項2において、前記研削盤は、工作物を振れ止めする振れ止め装置を備え、該振れ止め装置を前記工作物が所定量仕上研削された後に前記工作物に挿入するようにしたことである。
【0012】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項3において、前記工作物の円筒部には油穴が径方向に形成され、前記振れ止め装置を、前記粗研削時に生じた前記油穴部分の凹みを前記仕上研削によって小さくした後に前記工作物に挿入するようにしたことである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、工作物の粗研削時に大流量のクーラントを工作物に供給するとともに、工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段と、粗研削終了後であってかつクーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に砥石台をバックオフさせるバックオフ実行手段とを備えているので、クーラントの小流量への切替え時の動圧の低下による工作物の撓みの開放を、砥石台のバックオフ状態、すなわち、工作物が砥石車より離れた状態で行うことができ、動圧変化による砥石車の切込みを生じないようにすることができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、砥石車は、工作物の円筒部を研削する円筒研削部と工作物の端面部を研削する端面研削部を備え、クーラント供給手段は、工作物の円筒部にクーラントを供給する円筒部クーラント供給部と、工作物の端面部にクーラントを供給する端面部クーラント供給部とを有し、端面部クーラント供給部は、円筒部に供給されるクーラントが大流量から小流量に切替えられた後の仕上研削の途中に、端面部に供給するクーラントを大流量から小流量に切替えるようになっているので、砥石台のバックオフ時には、工作物の端面部に十分な量のクーラントを供給し続けることができ、これによって、砥石台のバックオフによる工作物の撓みの除去作用によって工作物の端面部に砥石車が切込まれても、工作物の端面部に発生する研削焼けを抑制することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、研削盤は、工作物を振れ止めする振れ止め装置を備え、振れ止め装置を工作物が所定量仕上研削された後に工作物に挿入するようにしたので、工作物の円周上一部に凹みを有するものであっても、この凹みを振れ止め装置が挿入する前の仕上研削によって小さくすることが可能となり、振れ止め装置が挿入されても、工作物の外周に凸部が発生するのを抑制することができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、工作物の円筒部には油穴が径方向に形成され、振れ止め装置を、粗研削時に生じた油穴部分の凹みを仕上研削によって小さくした後に工作物に挿入するようにしたので、円筒部には油穴を開口したクランクシャフトのジャーナル部のようなものに対しても、振れ止め装置の挿入によって、工作物の外周に凸部が発生するのを防止することができ、工作物の真円度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す研削盤の全体を示す平面図である。
【図2】砥石車によって工作物を研削加工する状態を示す図である。
【図3】工作物にクーラントを供給するクーラント供給手段を示す図である。
【図4】研削サイクルを示す図である。
【図5】研削加工のステップを示す流れ図である。
【図6】工作物に振れ止め装置を挿入した状態を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態を示すクーラント供給手段を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示す研削サイクルを示す図である。
【図9】工作物の撓み状態を示す図である。
【図10】工作物に設けられた油穴によって生じた凹みを示す図である。
【図11】凹みを生じた工作物に振れ止め装置を挿入した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、研削盤の全体を示す平面図である。当該研削盤は、工作物であるクランクシャフトWのジャーナル部Jを研削加工する例で示してある。研削盤のベッド11上には、テーブル案内面12がZ軸方向(図1の左右方向)に沿って形成され、このテーブル案内面12にテーブル13がZ軸方向に摺動可能に案内支持されている。テーブル13は、エンコーダ付きのZ軸サーボモータ14によりボールねじ機構を介してZ軸方向に摺動されるようになっている。また、ベッド11上には、砥石台案内面16がZ軸方向と直交するX軸方向(図1の上下方向)に沿って形成され、この砥石台案内面16に砥石台17がX軸方向に摺動可能に案内支持されている。砥石台17は、エンコーダ付きのX軸サーボモータ18によりボールねじ機構を介してX軸方向に摺動されるようになっている。
【0019】
テーブル13上には、クランクシャフトWを支持する主軸台21と心押台22がZ軸方向に所定間隔隔てて設置されている。主軸台21には、図略の主軸がZ軸と平行な軸線の回りに回転可能に軸承され、この主軸の先端にクランクシャフトWの一方の軸端を把持するチャック24が取付けられている。一方、心押台22には、クランクシャフトWの他方の軸端を回転可能に支持するセンタ25が取付けられている。主軸には、主軸駆動モータ27が連結され、主軸駆動モータ27によりチャック24を介してクランクシャフトWが回転駆動されるようになっている。
【0020】
なお、クランクシャフトWのジャーナル部Jには、図10に示すように、クランクシャフトWが自動車等に搭載されて使用される際の焼付けを防止するために、潤滑油循環用の油穴W1が形成されており、この油穴W1は、ジャーナル部Jの径方向に形成されている。
【0021】
砥石台17には、クランクシャフトWのジャーナル部Jを研削する砥石車32が、Z軸と平行な軸線の回りに回転可能な砥石軸を介して軸承され、図略の砥石軸駆動モータによって回転駆動されるようになっている。砥石車32は、図2に示すように、ジャーナル部Jの円筒部Waを研削する円筒研削部32aと、その両端部にジャーナル部Jの端面部Wbを研削する端面研削部32bを有している。クランクシャフトWのジャーナル部Jが砥石車32に対応するZ軸方向位置にテーブル13を位置決めした状態で、砥石台17をX軸方向に前進させることにより、砥石車32の端面研削部32bによってジャーナル部Jの端面部Wbが研削加工されるとともに、円筒研削部32aによってジャーナル部Jの円筒部Waが研削加工される。
【0022】
ベッド11上には、研削抵抗によるクランクシャフトWの撓み(振れ)を防止する3点接触式の振れ止め装置33が、クランクシャフトW(ジャーナル部J)を挟んで砥石台17と反対側に設置されている。振れ止め装置33は、図6に示すように、クランクシャフトWのジャーナル部Jを砥石車32に対向する横方向から支持する横シュー34と、クランクシャフトWのジャーナル部Jを上方向から支持する上シュー35と、クランクシャフトWのジャーナル部Jを下方へ振れるのを抑制する下シュー36を備えている。横シュー34、上シュー35および下シュー36は、クランクシャフトWのジャーナル部Jの径の減少につれて同期的にジャーナル部Jの軸心部に向かって移動され、ジャーナル部Jを主軸の回転中心位置に保持する求心機能を有している。振れ止め装置33は、図略のシリンダ装置によってクランクシャフトWに向かって進退されるようになっており、ジャーナル部Jの研削加工時の適宜の時期にジャーナル部Jに挿入され、クランクシャフトWを振れ止めするようになっている。
【0023】
砥石台17には、砥石車32を覆う砥石カバー40(図1参照)が固定されている。砥石カバー40には、図3に示すように、砥石車32の円筒研削部32aの研削点に向けてクーラント流を噴出する第1クーラントノズル41が固定されている。さらに、砥石カバー40には、砥石車32の端面研削部32bの研削点より砥石車32の回転方向上流側の第1位置に向かってクーラントを噴出する第2クーラントノズル42と、第1位置より研削点に近い第2位置に向かってクーラントを噴出する第3クーラントノズル43が固定されている。第1クーラントノズル41は、電磁開閉弁44を介してクーラントポンプ45に接続され、また第2および第3クーラントノズル42、43は、電磁開閉弁46を介してクーラントポンプ45に接続されている。上記した第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43、電磁開閉弁44、46ならびにクーラントポンプ45によってクーラント供給手段49を構成している。
【0024】
第2クーラントノズル42は、特開2006−305675号公報に記載されているように、第2クーラント流が砥石車32の端面研削部32bに連れ回りする空気層を遮断するように、砥石車32の回転軸線とクランクシャフトWのジャーナル部Jの回転軸線を含む平面と平行な方向に砥石車32の正面側から見て、端面研削部32bに対して第2クーラント流の射出方向が45°〜75°の範囲内の所定角度傾斜するように配置されている。さらに、第2クーラントノズル42は、砥石車32の回転軸線と工作物Wの回転軸線を含む平面と直交する方向に見て、第2クーラント流の噴出方向が砥石車32の端面研削部32bに対して90°〜120°の範囲内の所定角度傾斜するように配置されている。これにより、第2クーラントの噴射方向は、砥石車32の回転軸線と平行な方向に見て、砥石車32の法線方向となる。
【0025】
一方、同じく特開2006−305675号公報に記載されているように、第3クーラントノズル43は、第3クーラント流が第2クーラント流により連れ回り空気層が遮断された第2位置P1で砥石車32の端面研削部32bに付着するように、砥石車32の回転軸線と工作物Wの回転軸線を含む平面と平行な方向に砥石車32の正面側から見て、端面研削部32bに対して第3クーラント流の噴射方向が第2クーラント流の傾斜角度よりも小さい15°〜30°の範囲内の角度で傾斜するように配置されている。これにより、第3クーラント流の噴射方向は、砥石車32の回転軸線と平行な方向に見て、砥石車32の接線方向となる。
【0026】
第2クーラントノズル42より噴射される第2クーラント流の流速および流量は、第3クーラントノズル43より噴射される第3クーラント流の流速および流量より小さく、または同じにする。第2クーラント流の流速および流量を、砥石車32の端面研削部32bに連れ回りする空気層を遮断する程度の比較的小さい流速および流量にすることにより、クーラントの飛散を防止することができる。
【0027】
電磁開閉弁44、46は、第1クーラントノズル41あるいは第2および第3クーラントノズル42、43に供給するクーラント流量を、大流量と小流量に切替えできるように、図3に示すように、ソレノイドの励磁、非励磁によって2位置に位置決め可能な弁にてそれぞれ構成されている。すなわち、ソレノイドが非励磁の状態において、クーラントポンプ45が起動されると、第1クーラントノズル41あるいは第2および第3クーラントノズル42、43に大流量のクーラント流が供給されるようになっている。また、ソレノイドが励磁されると、各絞り47、48の作用によって、第1クーラントノズル41あるいは第2および第3クーラントノズル42、43に小流量のクーラント流が供給されるようになっている。
【0028】
研削盤を制御する数値制御装置50は、図1に示すように、中央処理装置(CPU)51と、種々の制御値およびプログラムを記憶するメモリ52と、インターフェィス53、54から主に構成されている。
【0029】
メモリ52には、入出力装置55から入力された制御パラメータと研削加工を実行するためのNCプログラムがそれぞれ記憶されている。また、メモリ52には、研削加工サイクルに従って、砥石台17をバックオフさせるに必要なデータ等が記憶されている。数値制御装置50には、入出力装置55を介して種々のデータが入力されるようになっており、入力装置55は、データの入力等を行うためのキーボード、データの表示を行う表示装置を備えている。
【0030】
数値制御装置50は、X軸駆動ユニット57を介して砥石台17をX軸方向へ移動させるX軸サーボモータ18に駆動信号を与えるようになっており、X軸サーボモータ18に取付けられたエンコーダ58がX軸サーボモータ18の回転位置、すなわち、砥石台17の位置を数値制御装置50へ送出するように構成されている。また、数値制御装置50は、Z軸駆動ユニット59を介してテーブル13をZ軸方向へ移動させるZ軸サーボモータ14に駆動信号を与えるようになっており、Z軸サーボモータ14に取付けられたエンコーダ60がZ軸サーボモータ14の回転位置、すなわち、テーブル13の位置を数値制御装置50へ送出するように構成されている。
【0031】
前記数値制御装置50は、メモリ52に記憶されたNCプログラムの目標位置指令とエンコーダ58、60からの現在位置信号との偏差により、Z軸およびX軸サーボモータ14、18をそれぞれ駆動し、テーブル13および砥石台17をそれぞれ目標位置に位置決め制御する。
【0032】
次に上記した実施の形態における研削盤の動作について、図4のサイクル線図および図5の流れ図に基づいて説明する。
【0033】
テーブル13上の主軸台21と心押台22との間にクランクシャフトWを支持させた状態で、テーブル13をZ軸サーボモータ14により移動させて、最初に加工すべきジャーナル部Jを砥石車32に対向する位置に位置決めする。その状態で、砥石台17がX軸サーボモータ18によりまず早送りで前進される(ステップS1)。砥石車32の端面研削部32bがジャーナル部Jの端面部Wbに接触する直前まで早送り前進されると、クーラントポンプ45が起動され、電磁開閉弁44、46を介して第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43にそれぞれ大流量のクーラント流が供給され(ステップS2)、これらクーラント流は、クランクシャフトWのジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbの研削個所に供給され、研削により発生する熱の上昇を抑制する。
【0034】
また、砥石台17が、砥石車32の端面研削部32bがジャーナル部Jの端面部Wbに接触する直前まで早送り前進されると、砥石台17の送り速度が粗研削送りに変換され、その粗研削送り速度にて砥石車32の端面研削部32bによってジャーナル部Jの端面部Wbが粗研削加工される(ステップS3)。砥石台17が粗研削送り速度にて所定量前進されると、砥石車32の円筒研削部32aがジャーナル部Jの円筒部Waに接触し、ジャーナル部Jの円筒部Waの粗研削加工も開始される。
【0035】
ジャーナル部Jの端面部Wbおよび円筒部Waの粗研削加工時においては、研削抵抗によってクランクシャフトWが、図9の一点鎖線に示すように、砥石車32から離れる方向に撓められる。また、ジャーナル部Jの円筒部Waに供給される大流量のクーラントによって、ジャーナル部Jと砥石車32との間に動圧が発生し、この動圧の作用によってもクランクシャフトWが砥石車32側から離れる方向に撓められる。このようにクランクシャフトWが撓むと、この撓みによって心押台22のセンタ25が主軸のチャック24に対して軸方向に前進するため、砥石車32によって研削されているジャーナル部Jも軸方向に僅かに変位される。
【0036】
ところで、ジャーナル部Jに油穴W1が形成されている場合には、この油穴W1が砥石車32に対応する所定の角度位置においては、油穴W1からクーラントが排出されるようになるため、ジャーナル部Jと砥石車32との間に発生する動圧が低下し、動圧の低下によってジャーナル部Jが砥石車32に近づく方向に変位する。この結果、ジャーナル部Jの円周上一部、すなわち、油穴W1が砥石車32に対応する角度位置部分において、図10に示すような凹みW2が発生し、粗研削加工時におけるジャーナル部Jの真円度が低下することになる。
【0037】
このようにして、砥石台17が粗研削送り速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、砥石台17の送り速度が一旦停止され、砥石台17は砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置まで一定量後方にバックオフされる(ステップS4)。この砥石台17のバックオフの実行によって、研削抵抗によって撓められていたクランクシャフトWが砥石車32側にスプリングバックし、クランクシャフトWの撓みが解消される。なお、上記したステップS4によって、請求項におけるバックオフ実行手段を構成している。
【0038】
砥石台17が所定量バックオフされると、ジャーナル部Jの円筒部Waにクーラントを供給する第1クーラントノズル41に接続された電磁開閉弁44が、ソレノイドが励磁されることによって切替えられ(ステップS5)、これによって、第1クーラントノズル41よりジャーナル部Jの円筒部Waに供給されるクーラントが絞り47の作用によって小流量(粗研削時よりも少ない流量)に切替えられる。しかしながら、ジャーナル部Jの端面部Wbにクーラントを供給する第2および第3クーラントノズル42、43に接続された電磁開閉弁46は切替えられず、ジャーナル部Jの端面部Wbには依然として大流量のクーラントが供給されている。
【0039】
このように、粗研削終了後のクーラントが大流量から小流量に切替えられる前に、砥石台17を砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置までバックオフさせるようにしたので、砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとの間において、クーラントの大流量から小流量への切替えの影響による動圧変化を生じないようにすることができる。このため、従来のクーラントの流量切替え時のように、動圧変化に伴ってクランクシャフトWの撓み量が短時間で変動することにより、ジャーナル部Jの円筒部Waが研削されることを防止することができる。
【0040】
また、砥石台17のバックオフによって、クランクシャフトWの撓みが解消されると、クランクシャフトWの撓みによって軸方向に僅かに変位されていたジャーナル部Jも元の軸方向位置に復帰するため、ジャーナル部Jの端面部Wbの一方が砥石車32の一方の端面研削部32bに切り込まれることになる。しかしながら、ジャーナル部Jの端面部Wbには大流量のクーラントが供給され続けているため、ジャーナル部Jの端面部Wbへの十分なクーラントの供給によって、ジャーナル部Jの端面部Wbの研削焼けの発生を抑制できるようになる。
【0041】
砥石台17が一定量バックオフされてクランクシャフトWの撓みが解消されると、次いで、砥石台17がバックオフ分だけ前進され、その後、砥石台17は第1仕上研削送り(精研削送り)速度にて前進され、ジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbが砥石車32の円筒研削部32aおよび端面研削部32bによって精研削加工される(ステップS6)。
【0042】
なお、ジャーナル部Jの円筒部Waの精研削加工時には、ジャーナル部Jの円筒部Waに供給されるクーラントが小流量に切替えられているため、ジャーナル部Jと砥石車32の円筒研削部32aとの間に発生する動圧が低下され、この動圧の低下によってクランクシャフトWの撓み量が小さくなる。従って、粗研削加工時に油穴W1による影響によってジャーナル部Jの円周上一部に発生していた凹みW2(図10参照)が精研削加工によって徐々に除去されるようになり、ジャーナル部Jの真円度が高められる。
【0043】
さらに、砥石台17が第1仕上研削送り(精研削送り)速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、ジャーナル部Jの端面部Wbにクーラントを供給する第2および第3クーラントノズル42、43に接続された電磁開閉弁46がソレノイドの励磁によって切替えられ、これによって、第2および第3クーラントノズル42、43よりジャーナル部Jの端面部Wbに供給されるクーラントが絞り48の作用によって小流量(第1仕上研削時よりも少ない流量)に切替えられる(ステップS7)とともに、図4に示すように、振れ止め装置33が前進されて、各シュー34、35、36がジャーナル部Jに挿入され、研削抵抗によるジャーナル部Jの振れを防止する。
【0044】
同時に、砥石台17が第1仕上研削送り速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、砥石台17の送り速度が第2仕上研削送り(微研削送り)速度に変更され、ジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbが砥石車32の円筒研削部32aおよび端面研削部32bによって微研削加工される(ステップS8)。
【0045】
このように、振れ止め装置33を、油穴W1の影響によって発生した凹みW2が精研削加工によって除去された状態で挿入するようにしたので、従来のように、凹みが存在している状態で振れ止め装置33を挿入することによって発生した不具合、すなわち、振れ止め装置33の横シュー34が凹みに接触することによる凸部の発生を抑制することができ、ジャーナル部Jの真円度不良の発生をなくすることができる。
【0046】
上記したように、砥石台17が、ジャーナル部Jが目標寸法となる予め定められた位置まで前進されると、砥石台17の前進が停止され、ジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbが一定時間スパークアウトされ、しかる後、砥石台17が早送り速度で原位置まで戻され(ステップS9)、ジャーナル部Jの研削加工が終了される。
【0047】
次いで、テーブル13がZ軸サーボモータ14によってZ軸方向に所定量移動され、次に加工すべきジャーナル部Jを砥石車32に対向する位置に位置決めする。その状態で、当該ジャーナル部Jを上記した研削サイクルに従って研削加工し、これを繰り返すことにより、クランクシャフトW上の全てのジャーナル部Jを研削加工する。
【0048】
図7、図8は本発明の第2の実施の形態を示すもので、第1の実施の形態における第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43から供給するクーラントの大流量から小流量への切替えを同時に行うようにしたものである。以下、第1の実施の形態と異なる点について主に説明し、第1の実施の形態と同一の構成部品については、同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0049】
すなわち、第2の実施の形態においては、図7に示すように、第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43が、電磁開閉弁144を介してクーラントポンプ45に接続されている。
【0050】
そして、図8のサイクル線図に示すように、砥石台17が所定位置まで早送りで前進された後、クーラントポンプ45が起動されて第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43にそれぞれ大流量のクーラント流が供給されるとともに、砥石台17の送り速度が粗研削送りに変換され、その粗研削送り速度にて砥石車32の端面研削部32bおよび円筒研削部32aによってジャーナル部Jの端面部Wbおよび円筒部Waが粗研削加工される。
【0051】
また、砥石台17が粗研削送り速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、砥石台17の送り速度が一旦停止され、砥石台17は砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置まで一定量後方にバックオフされる。この砥石台17のバックオフにより、研削抵抗によって撓められていたクランクシャフトWが砥石車32側にスプリングバックし、クランクシャフトWの撓みが解消され、その後、第1の実施の形態で述べたと同様に、砥石台17の送り速度が第1仕上研削(精研削送り)速度に変換される。
【0052】
砥石台17がバックオフされると、電磁開閉弁144が切替えられ、第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43よりジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbに供給されていたクーラントが絞り147の作用によって小流量に切替えられる。これによって、クーラントの大流量供給時にジャーナル部Jと砥石車32の円筒研削部32aとの間に発生する動圧によって撓んだクランクシャフトWが、クーラントの小流量への切替えによる動圧の低下により、撓みが小さくなるが、この撓みの変化が、砥石台17のバックオフ状態、すなわち、砥石車32の円筒研削部32aがジャーナル部Jの円筒部Waより離れた状態で行われるので、クーラントの流量切替え時におけるクランクシャフトWの撓み量が短時間に変動することがなくなる。これにより、ジャーナル部Jの円筒部Waが砥石車32の円筒研削部32aに短時間で切り込まれるような挙動を抑制することができ、ジャーナル部Jの円筒部Waの研削焼けの発生を抑制することができる。
【0053】
このように、上記した第1および第2の実施の形態によれば、粗研削終了後のクーラントが大流量から小流量に切替えられる前に、砥石台17を砥石車32の円筒研削部32aとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置までバックオフさせるようにし、その状態で、クーラントを大流量から小流量に切替えて仕上研削を行うようにした。これによって、クーラントの大流量から小流量への切替えを、砥石車32の円筒研削部32aがジャーナル部Jの円筒部Waより離れた状態で行うことができ、砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとの間において、クーラントの大流量から小流量への切替えの影響による動圧変化を生じないようにすることができる。このため、従来のクーラントの流量切替え時のように、クランクシャフトWの撓み量の減少によって、ジャーナル部Jが短時間で研削される事態を防止することができる。
【0054】
また、上記した第1の実施の形態によれば、クランクシャフトWのジャーナル部Jの円筒部Waにクーラントを供給する第1クーラントノズル41と、ジャーナル部Jの端面部Wbにクーラントを供給する第2および第3クーラントノズル42、43を別個に切替えることができるようにしたことにより、ジャーナル部Jの端面部Wbに供給されるクーラントの流量を仕上研削に移行されるまで、大流量に維持することができる。
【0055】
従って、砥石台17のバックオフにより、クランクシャフトWの撓みが解消されると、クランクシャフトWの撓みによって軸方向に僅かに変位されていたジャーナル部Jも元の軸方向位置に復帰するため、ジャーナル部Jの端面部Wbの一方が砥石車32の一方の端面研削部32bに切り込まれるようになるが、ジャーナル部Jの端面部Wbには大流量のクーラントが供給され続けているため、端面部Wbへの十分なクーラントの供給によって、端面部Wbの研削焼けの発生を抑制できるようになる。
【0056】
上記した実施の形態においては、クランクシャフトWのジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbを研削加工する例について述べたが、本発明は、クランクシャフトのピン部の円筒部および端面部を研削するクランクピン研削盤にも適用可能である。しかも、本発明が適用可能な工作物は、クランクシャフトに限定されるものでなく、また、端面部を持たない円筒研削にも適用できるものである。
【0057】
また、上記した実施の形態においては、油穴を有した円筒部を振れ止め装置を用いて研削加工する例について述べたが、本発明は、振れ止め装置を用いることなく、かつ油穴を持たない円筒部の加工にも適用できるものである。
【0058】
以上、本発明を実施の形態に即して説明したが、本発明は実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の形態を採り得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る研削盤は、工作物に供給するクーラントの流量を大流量から小流量に切替えながら、工作物を粗研削および仕上研削するものに適している。
【符号の説明】
【0060】
13…テーブル、17…砥石台、21…主軸台、22…心押台、32…砥石車、32a…円筒研削部、32b…端面研削部、33…振れ止め装置、34…横シュー、40…砥石カバー、41、42、43…クーラントノズル、44、46…電磁開閉弁、49…クーラント供給手段、50…数値制御装置、W…クランクシャフト、J…ジャーナル部、W1…油穴、W2…凹み。
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の粗研削終了後に砥石台をバックオフさせ、バックオフ後に工作物を仕上研削する研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、円筒研削盤においては、粗研削から仕上研削の切替え時に、工作物に供給するクーラントの流量を大流量から小流量に切替えるようにしている。すなわち、粗研削時には大流量のクーラントを研削個所に供給することにより、研削個所を十分に冷却して、研削による熱の発生を効果的に抑制するようにしている。ところが、大流量のクーラントを研削個所に供給すると、工作物と砥石車との間にクーラントによる動圧が発生するため、この動圧によって工作物が砥石車から離れる方向に撓められる。従って、研削による熱の発生がそれほど大きくない仕上研削時には、クーラントの流量を小流量に切替えて、工作物と砥石車との間に発生する動圧を低下させ、動圧による工作物の撓みを小さくして、仕上研削精度を向上するようにしている。
【0003】
この場合、例えば、特許文献1に示すように、砥石車によってクランクシャフトのジャーナル部の円筒部と端面部を研削するものにおいては、クーラントの流量の切替えによって工作物が砥石車側に戻ることにより、ジャーナル部の端面方向にも切込みが加わり、クーラント流量が小流量の条件の下でジャーナル部の円筒部および端面部が短時間で研削されるようになる。
【0004】
ところで、クランクシャフトのジャーナル部には、例えば、特許文献2に示すように、油穴が形成されており、この油穴がジャーナル部の回転によって砥石車に対応する所定の角度位置に割出されると、ジャーナル部と砥石車との間に介在するクーラントが油穴より排出されるため、油穴が開口する所定の角度位置においてジャーナル部と砥石車との間に発生する動圧が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−86066号公報
【特許文献2】特開平9−277166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に記載のものにおいては、図9に示すように、粗研削時の研削抵抗によってクランクシャフトWが一点鎖線のように撓み、この撓みによって粗研削の間、心押台センタ1が主軸台センタ2に対して軸方向に前進する。このために、クーラント流量の切替えによる動圧の低下によってクランクシャフトWが砥石車3側に接近する方向(図9の矢印方向)に変位して撓みが小さくなると、クーラント流量が小流量の条件の下でジャーナル部Jの円筒部が短時間で研削されるようになり、研削焼けが発生しやすくなる。また、この際、クランクシャフトWの撓みが小さくなることによって、加工すべきジャーナル部Jの軸方向位置も変化し、ジャーナル部Jの径方向のみならず端面方向にも切込みが与えられることになる。しかも、このときジャーナル部Jの端面部には十分な量(大流量)のクーラントが供給されていないため、ジャーナル部Jの端面部においても研削焼けが発生しやすくなる。
【0007】
また、ジャーナル部Jに形成した油穴W1の影響によってジャーナル部と砥石車との間に発生する動圧が低下すると、ジャーナル部の撓みが小さくなり、ジャーナル部が砥石車によって研削されるため、ジャーナル部の円周上一部に、図10に示すような凹みW2が発生する。凹みW2が発生した状態で振れ止め装置5を挿入すると、図11に示すように、振れ止め装置5の横シュー5aが凹みW2に接触することにより、ジャーナル部の中心が振れ止め装置5側に移動する。このような工作物の挙動によって、工作物の外周には凹みW2の反対側に凸部W3が発生し、このような凹凸が一度発生すると、以後いくら仕上研削を行っても工作物の外径形状はあまり改善されず、真円度不良が発生する。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題点を解決するためになされたもので、クーラントの流量切替え時に発生する径方向の切込みを防止でき、しかも、端面方向の切込みによる発熱を抑制できる研削盤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の特徴は、砥石台に支持した砥石車によって工作物を粗研削し、該粗研削終了後に前記砥石台をバックオフさせ、該バックオフ後に前記砥石車によって工作物を仕上研削する研削盤において、前記工作物の粗研削時に大流量のクーラントを前記工作物に供給するとともに、前記工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段と、前記粗研削終了後であってかつ前記クーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に前記砥石台をバックオフさせるバックオフ実行手段とを備えたことである。
【0010】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記砥石車は、前記工作物の円筒部を研削する円筒研削部と前記工作物の端面部を研削する端面研削部を備え、前記クーラント供給手段は、前記工作物の円筒部にクーラントを供給する円筒部クーラント供給部と、前記工作物の端面部にクーラントを供給する端面部クーラント供給部とを有し、前記端面部クーラント供給部は、前記円筒部に供給されるクーラントが大流量から小流量に切替えられた後の仕上研削の途中に、前記端面部に供給するクーラントを大流量から小流量に切替えるようになっていることである。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項2において、前記研削盤は、工作物を振れ止めする振れ止め装置を備え、該振れ止め装置を前記工作物が所定量仕上研削された後に前記工作物に挿入するようにしたことである。
【0012】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項3において、前記工作物の円筒部には油穴が径方向に形成され、前記振れ止め装置を、前記粗研削時に生じた前記油穴部分の凹みを前記仕上研削によって小さくした後に前記工作物に挿入するようにしたことである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、工作物の粗研削時に大流量のクーラントを工作物に供給するとともに、工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段と、粗研削終了後であってかつクーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に砥石台をバックオフさせるバックオフ実行手段とを備えているので、クーラントの小流量への切替え時の動圧の低下による工作物の撓みの開放を、砥石台のバックオフ状態、すなわち、工作物が砥石車より離れた状態で行うことができ、動圧変化による砥石車の切込みを生じないようにすることができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、砥石車は、工作物の円筒部を研削する円筒研削部と工作物の端面部を研削する端面研削部を備え、クーラント供給手段は、工作物の円筒部にクーラントを供給する円筒部クーラント供給部と、工作物の端面部にクーラントを供給する端面部クーラント供給部とを有し、端面部クーラント供給部は、円筒部に供給されるクーラントが大流量から小流量に切替えられた後の仕上研削の途中に、端面部に供給するクーラントを大流量から小流量に切替えるようになっているので、砥石台のバックオフ時には、工作物の端面部に十分な量のクーラントを供給し続けることができ、これによって、砥石台のバックオフによる工作物の撓みの除去作用によって工作物の端面部に砥石車が切込まれても、工作物の端面部に発生する研削焼けを抑制することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、研削盤は、工作物を振れ止めする振れ止め装置を備え、振れ止め装置を工作物が所定量仕上研削された後に工作物に挿入するようにしたので、工作物の円周上一部に凹みを有するものであっても、この凹みを振れ止め装置が挿入する前の仕上研削によって小さくすることが可能となり、振れ止め装置が挿入されても、工作物の外周に凸部が発生するのを抑制することができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、工作物の円筒部には油穴が径方向に形成され、振れ止め装置を、粗研削時に生じた油穴部分の凹みを仕上研削によって小さくした後に工作物に挿入するようにしたので、円筒部には油穴を開口したクランクシャフトのジャーナル部のようなものに対しても、振れ止め装置の挿入によって、工作物の外周に凸部が発生するのを防止することができ、工作物の真円度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す研削盤の全体を示す平面図である。
【図2】砥石車によって工作物を研削加工する状態を示す図である。
【図3】工作物にクーラントを供給するクーラント供給手段を示す図である。
【図4】研削サイクルを示す図である。
【図5】研削加工のステップを示す流れ図である。
【図6】工作物に振れ止め装置を挿入した状態を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態を示すクーラント供給手段を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示す研削サイクルを示す図である。
【図9】工作物の撓み状態を示す図である。
【図10】工作物に設けられた油穴によって生じた凹みを示す図である。
【図11】凹みを生じた工作物に振れ止め装置を挿入した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、研削盤の全体を示す平面図である。当該研削盤は、工作物であるクランクシャフトWのジャーナル部Jを研削加工する例で示してある。研削盤のベッド11上には、テーブル案内面12がZ軸方向(図1の左右方向)に沿って形成され、このテーブル案内面12にテーブル13がZ軸方向に摺動可能に案内支持されている。テーブル13は、エンコーダ付きのZ軸サーボモータ14によりボールねじ機構を介してZ軸方向に摺動されるようになっている。また、ベッド11上には、砥石台案内面16がZ軸方向と直交するX軸方向(図1の上下方向)に沿って形成され、この砥石台案内面16に砥石台17がX軸方向に摺動可能に案内支持されている。砥石台17は、エンコーダ付きのX軸サーボモータ18によりボールねじ機構を介してX軸方向に摺動されるようになっている。
【0019】
テーブル13上には、クランクシャフトWを支持する主軸台21と心押台22がZ軸方向に所定間隔隔てて設置されている。主軸台21には、図略の主軸がZ軸と平行な軸線の回りに回転可能に軸承され、この主軸の先端にクランクシャフトWの一方の軸端を把持するチャック24が取付けられている。一方、心押台22には、クランクシャフトWの他方の軸端を回転可能に支持するセンタ25が取付けられている。主軸には、主軸駆動モータ27が連結され、主軸駆動モータ27によりチャック24を介してクランクシャフトWが回転駆動されるようになっている。
【0020】
なお、クランクシャフトWのジャーナル部Jには、図10に示すように、クランクシャフトWが自動車等に搭載されて使用される際の焼付けを防止するために、潤滑油循環用の油穴W1が形成されており、この油穴W1は、ジャーナル部Jの径方向に形成されている。
【0021】
砥石台17には、クランクシャフトWのジャーナル部Jを研削する砥石車32が、Z軸と平行な軸線の回りに回転可能な砥石軸を介して軸承され、図略の砥石軸駆動モータによって回転駆動されるようになっている。砥石車32は、図2に示すように、ジャーナル部Jの円筒部Waを研削する円筒研削部32aと、その両端部にジャーナル部Jの端面部Wbを研削する端面研削部32bを有している。クランクシャフトWのジャーナル部Jが砥石車32に対応するZ軸方向位置にテーブル13を位置決めした状態で、砥石台17をX軸方向に前進させることにより、砥石車32の端面研削部32bによってジャーナル部Jの端面部Wbが研削加工されるとともに、円筒研削部32aによってジャーナル部Jの円筒部Waが研削加工される。
【0022】
ベッド11上には、研削抵抗によるクランクシャフトWの撓み(振れ)を防止する3点接触式の振れ止め装置33が、クランクシャフトW(ジャーナル部J)を挟んで砥石台17と反対側に設置されている。振れ止め装置33は、図6に示すように、クランクシャフトWのジャーナル部Jを砥石車32に対向する横方向から支持する横シュー34と、クランクシャフトWのジャーナル部Jを上方向から支持する上シュー35と、クランクシャフトWのジャーナル部Jを下方へ振れるのを抑制する下シュー36を備えている。横シュー34、上シュー35および下シュー36は、クランクシャフトWのジャーナル部Jの径の減少につれて同期的にジャーナル部Jの軸心部に向かって移動され、ジャーナル部Jを主軸の回転中心位置に保持する求心機能を有している。振れ止め装置33は、図略のシリンダ装置によってクランクシャフトWに向かって進退されるようになっており、ジャーナル部Jの研削加工時の適宜の時期にジャーナル部Jに挿入され、クランクシャフトWを振れ止めするようになっている。
【0023】
砥石台17には、砥石車32を覆う砥石カバー40(図1参照)が固定されている。砥石カバー40には、図3に示すように、砥石車32の円筒研削部32aの研削点に向けてクーラント流を噴出する第1クーラントノズル41が固定されている。さらに、砥石カバー40には、砥石車32の端面研削部32bの研削点より砥石車32の回転方向上流側の第1位置に向かってクーラントを噴出する第2クーラントノズル42と、第1位置より研削点に近い第2位置に向かってクーラントを噴出する第3クーラントノズル43が固定されている。第1クーラントノズル41は、電磁開閉弁44を介してクーラントポンプ45に接続され、また第2および第3クーラントノズル42、43は、電磁開閉弁46を介してクーラントポンプ45に接続されている。上記した第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43、電磁開閉弁44、46ならびにクーラントポンプ45によってクーラント供給手段49を構成している。
【0024】
第2クーラントノズル42は、特開2006−305675号公報に記載されているように、第2クーラント流が砥石車32の端面研削部32bに連れ回りする空気層を遮断するように、砥石車32の回転軸線とクランクシャフトWのジャーナル部Jの回転軸線を含む平面と平行な方向に砥石車32の正面側から見て、端面研削部32bに対して第2クーラント流の射出方向が45°〜75°の範囲内の所定角度傾斜するように配置されている。さらに、第2クーラントノズル42は、砥石車32の回転軸線と工作物Wの回転軸線を含む平面と直交する方向に見て、第2クーラント流の噴出方向が砥石車32の端面研削部32bに対して90°〜120°の範囲内の所定角度傾斜するように配置されている。これにより、第2クーラントの噴射方向は、砥石車32の回転軸線と平行な方向に見て、砥石車32の法線方向となる。
【0025】
一方、同じく特開2006−305675号公報に記載されているように、第3クーラントノズル43は、第3クーラント流が第2クーラント流により連れ回り空気層が遮断された第2位置P1で砥石車32の端面研削部32bに付着するように、砥石車32の回転軸線と工作物Wの回転軸線を含む平面と平行な方向に砥石車32の正面側から見て、端面研削部32bに対して第3クーラント流の噴射方向が第2クーラント流の傾斜角度よりも小さい15°〜30°の範囲内の角度で傾斜するように配置されている。これにより、第3クーラント流の噴射方向は、砥石車32の回転軸線と平行な方向に見て、砥石車32の接線方向となる。
【0026】
第2クーラントノズル42より噴射される第2クーラント流の流速および流量は、第3クーラントノズル43より噴射される第3クーラント流の流速および流量より小さく、または同じにする。第2クーラント流の流速および流量を、砥石車32の端面研削部32bに連れ回りする空気層を遮断する程度の比較的小さい流速および流量にすることにより、クーラントの飛散を防止することができる。
【0027】
電磁開閉弁44、46は、第1クーラントノズル41あるいは第2および第3クーラントノズル42、43に供給するクーラント流量を、大流量と小流量に切替えできるように、図3に示すように、ソレノイドの励磁、非励磁によって2位置に位置決め可能な弁にてそれぞれ構成されている。すなわち、ソレノイドが非励磁の状態において、クーラントポンプ45が起動されると、第1クーラントノズル41あるいは第2および第3クーラントノズル42、43に大流量のクーラント流が供給されるようになっている。また、ソレノイドが励磁されると、各絞り47、48の作用によって、第1クーラントノズル41あるいは第2および第3クーラントノズル42、43に小流量のクーラント流が供給されるようになっている。
【0028】
研削盤を制御する数値制御装置50は、図1に示すように、中央処理装置(CPU)51と、種々の制御値およびプログラムを記憶するメモリ52と、インターフェィス53、54から主に構成されている。
【0029】
メモリ52には、入出力装置55から入力された制御パラメータと研削加工を実行するためのNCプログラムがそれぞれ記憶されている。また、メモリ52には、研削加工サイクルに従って、砥石台17をバックオフさせるに必要なデータ等が記憶されている。数値制御装置50には、入出力装置55を介して種々のデータが入力されるようになっており、入力装置55は、データの入力等を行うためのキーボード、データの表示を行う表示装置を備えている。
【0030】
数値制御装置50は、X軸駆動ユニット57を介して砥石台17をX軸方向へ移動させるX軸サーボモータ18に駆動信号を与えるようになっており、X軸サーボモータ18に取付けられたエンコーダ58がX軸サーボモータ18の回転位置、すなわち、砥石台17の位置を数値制御装置50へ送出するように構成されている。また、数値制御装置50は、Z軸駆動ユニット59を介してテーブル13をZ軸方向へ移動させるZ軸サーボモータ14に駆動信号を与えるようになっており、Z軸サーボモータ14に取付けられたエンコーダ60がZ軸サーボモータ14の回転位置、すなわち、テーブル13の位置を数値制御装置50へ送出するように構成されている。
【0031】
前記数値制御装置50は、メモリ52に記憶されたNCプログラムの目標位置指令とエンコーダ58、60からの現在位置信号との偏差により、Z軸およびX軸サーボモータ14、18をそれぞれ駆動し、テーブル13および砥石台17をそれぞれ目標位置に位置決め制御する。
【0032】
次に上記した実施の形態における研削盤の動作について、図4のサイクル線図および図5の流れ図に基づいて説明する。
【0033】
テーブル13上の主軸台21と心押台22との間にクランクシャフトWを支持させた状態で、テーブル13をZ軸サーボモータ14により移動させて、最初に加工すべきジャーナル部Jを砥石車32に対向する位置に位置決めする。その状態で、砥石台17がX軸サーボモータ18によりまず早送りで前進される(ステップS1)。砥石車32の端面研削部32bがジャーナル部Jの端面部Wbに接触する直前まで早送り前進されると、クーラントポンプ45が起動され、電磁開閉弁44、46を介して第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43にそれぞれ大流量のクーラント流が供給され(ステップS2)、これらクーラント流は、クランクシャフトWのジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbの研削個所に供給され、研削により発生する熱の上昇を抑制する。
【0034】
また、砥石台17が、砥石車32の端面研削部32bがジャーナル部Jの端面部Wbに接触する直前まで早送り前進されると、砥石台17の送り速度が粗研削送りに変換され、その粗研削送り速度にて砥石車32の端面研削部32bによってジャーナル部Jの端面部Wbが粗研削加工される(ステップS3)。砥石台17が粗研削送り速度にて所定量前進されると、砥石車32の円筒研削部32aがジャーナル部Jの円筒部Waに接触し、ジャーナル部Jの円筒部Waの粗研削加工も開始される。
【0035】
ジャーナル部Jの端面部Wbおよび円筒部Waの粗研削加工時においては、研削抵抗によってクランクシャフトWが、図9の一点鎖線に示すように、砥石車32から離れる方向に撓められる。また、ジャーナル部Jの円筒部Waに供給される大流量のクーラントによって、ジャーナル部Jと砥石車32との間に動圧が発生し、この動圧の作用によってもクランクシャフトWが砥石車32側から離れる方向に撓められる。このようにクランクシャフトWが撓むと、この撓みによって心押台22のセンタ25が主軸のチャック24に対して軸方向に前進するため、砥石車32によって研削されているジャーナル部Jも軸方向に僅かに変位される。
【0036】
ところで、ジャーナル部Jに油穴W1が形成されている場合には、この油穴W1が砥石車32に対応する所定の角度位置においては、油穴W1からクーラントが排出されるようになるため、ジャーナル部Jと砥石車32との間に発生する動圧が低下し、動圧の低下によってジャーナル部Jが砥石車32に近づく方向に変位する。この結果、ジャーナル部Jの円周上一部、すなわち、油穴W1が砥石車32に対応する角度位置部分において、図10に示すような凹みW2が発生し、粗研削加工時におけるジャーナル部Jの真円度が低下することになる。
【0037】
このようにして、砥石台17が粗研削送り速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、砥石台17の送り速度が一旦停止され、砥石台17は砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置まで一定量後方にバックオフされる(ステップS4)。この砥石台17のバックオフの実行によって、研削抵抗によって撓められていたクランクシャフトWが砥石車32側にスプリングバックし、クランクシャフトWの撓みが解消される。なお、上記したステップS4によって、請求項におけるバックオフ実行手段を構成している。
【0038】
砥石台17が所定量バックオフされると、ジャーナル部Jの円筒部Waにクーラントを供給する第1クーラントノズル41に接続された電磁開閉弁44が、ソレノイドが励磁されることによって切替えられ(ステップS5)、これによって、第1クーラントノズル41よりジャーナル部Jの円筒部Waに供給されるクーラントが絞り47の作用によって小流量(粗研削時よりも少ない流量)に切替えられる。しかしながら、ジャーナル部Jの端面部Wbにクーラントを供給する第2および第3クーラントノズル42、43に接続された電磁開閉弁46は切替えられず、ジャーナル部Jの端面部Wbには依然として大流量のクーラントが供給されている。
【0039】
このように、粗研削終了後のクーラントが大流量から小流量に切替えられる前に、砥石台17を砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置までバックオフさせるようにしたので、砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとの間において、クーラントの大流量から小流量への切替えの影響による動圧変化を生じないようにすることができる。このため、従来のクーラントの流量切替え時のように、動圧変化に伴ってクランクシャフトWの撓み量が短時間で変動することにより、ジャーナル部Jの円筒部Waが研削されることを防止することができる。
【0040】
また、砥石台17のバックオフによって、クランクシャフトWの撓みが解消されると、クランクシャフトWの撓みによって軸方向に僅かに変位されていたジャーナル部Jも元の軸方向位置に復帰するため、ジャーナル部Jの端面部Wbの一方が砥石車32の一方の端面研削部32bに切り込まれることになる。しかしながら、ジャーナル部Jの端面部Wbには大流量のクーラントが供給され続けているため、ジャーナル部Jの端面部Wbへの十分なクーラントの供給によって、ジャーナル部Jの端面部Wbの研削焼けの発生を抑制できるようになる。
【0041】
砥石台17が一定量バックオフされてクランクシャフトWの撓みが解消されると、次いで、砥石台17がバックオフ分だけ前進され、その後、砥石台17は第1仕上研削送り(精研削送り)速度にて前進され、ジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbが砥石車32の円筒研削部32aおよび端面研削部32bによって精研削加工される(ステップS6)。
【0042】
なお、ジャーナル部Jの円筒部Waの精研削加工時には、ジャーナル部Jの円筒部Waに供給されるクーラントが小流量に切替えられているため、ジャーナル部Jと砥石車32の円筒研削部32aとの間に発生する動圧が低下され、この動圧の低下によってクランクシャフトWの撓み量が小さくなる。従って、粗研削加工時に油穴W1による影響によってジャーナル部Jの円周上一部に発生していた凹みW2(図10参照)が精研削加工によって徐々に除去されるようになり、ジャーナル部Jの真円度が高められる。
【0043】
さらに、砥石台17が第1仕上研削送り(精研削送り)速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、ジャーナル部Jの端面部Wbにクーラントを供給する第2および第3クーラントノズル42、43に接続された電磁開閉弁46がソレノイドの励磁によって切替えられ、これによって、第2および第3クーラントノズル42、43よりジャーナル部Jの端面部Wbに供給されるクーラントが絞り48の作用によって小流量(第1仕上研削時よりも少ない流量)に切替えられる(ステップS7)とともに、図4に示すように、振れ止め装置33が前進されて、各シュー34、35、36がジャーナル部Jに挿入され、研削抵抗によるジャーナル部Jの振れを防止する。
【0044】
同時に、砥石台17が第1仕上研削送り速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、砥石台17の送り速度が第2仕上研削送り(微研削送り)速度に変更され、ジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbが砥石車32の円筒研削部32aおよび端面研削部32bによって微研削加工される(ステップS8)。
【0045】
このように、振れ止め装置33を、油穴W1の影響によって発生した凹みW2が精研削加工によって除去された状態で挿入するようにしたので、従来のように、凹みが存在している状態で振れ止め装置33を挿入することによって発生した不具合、すなわち、振れ止め装置33の横シュー34が凹みに接触することによる凸部の発生を抑制することができ、ジャーナル部Jの真円度不良の発生をなくすることができる。
【0046】
上記したように、砥石台17が、ジャーナル部Jが目標寸法となる予め定められた位置まで前進されると、砥石台17の前進が停止され、ジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbが一定時間スパークアウトされ、しかる後、砥石台17が早送り速度で原位置まで戻され(ステップS9)、ジャーナル部Jの研削加工が終了される。
【0047】
次いで、テーブル13がZ軸サーボモータ14によってZ軸方向に所定量移動され、次に加工すべきジャーナル部Jを砥石車32に対向する位置に位置決めする。その状態で、当該ジャーナル部Jを上記した研削サイクルに従って研削加工し、これを繰り返すことにより、クランクシャフトW上の全てのジャーナル部Jを研削加工する。
【0048】
図7、図8は本発明の第2の実施の形態を示すもので、第1の実施の形態における第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43から供給するクーラントの大流量から小流量への切替えを同時に行うようにしたものである。以下、第1の実施の形態と異なる点について主に説明し、第1の実施の形態と同一の構成部品については、同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0049】
すなわち、第2の実施の形態においては、図7に示すように、第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43が、電磁開閉弁144を介してクーラントポンプ45に接続されている。
【0050】
そして、図8のサイクル線図に示すように、砥石台17が所定位置まで早送りで前進された後、クーラントポンプ45が起動されて第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43にそれぞれ大流量のクーラント流が供給されるとともに、砥石台17の送り速度が粗研削送りに変換され、その粗研削送り速度にて砥石車32の端面研削部32bおよび円筒研削部32aによってジャーナル部Jの端面部Wbおよび円筒部Waが粗研削加工される。
【0051】
また、砥石台17が粗研削送り速度にて予め定められた位置まで前進したことがエンコーダ58からのフィードバック信号によって検出されると、砥石台17の送り速度が一旦停止され、砥石台17は砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置まで一定量後方にバックオフされる。この砥石台17のバックオフにより、研削抵抗によって撓められていたクランクシャフトWが砥石車32側にスプリングバックし、クランクシャフトWの撓みが解消され、その後、第1の実施の形態で述べたと同様に、砥石台17の送り速度が第1仕上研削(精研削送り)速度に変換される。
【0052】
砥石台17がバックオフされると、電磁開閉弁144が切替えられ、第1、第2および第3クーラントノズル41、42、43よりジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbに供給されていたクーラントが絞り147の作用によって小流量に切替えられる。これによって、クーラントの大流量供給時にジャーナル部Jと砥石車32の円筒研削部32aとの間に発生する動圧によって撓んだクランクシャフトWが、クーラントの小流量への切替えによる動圧の低下により、撓みが小さくなるが、この撓みの変化が、砥石台17のバックオフ状態、すなわち、砥石車32の円筒研削部32aがジャーナル部Jの円筒部Waより離れた状態で行われるので、クーラントの流量切替え時におけるクランクシャフトWの撓み量が短時間に変動することがなくなる。これにより、ジャーナル部Jの円筒部Waが砥石車32の円筒研削部32aに短時間で切り込まれるような挙動を抑制することができ、ジャーナル部Jの円筒部Waの研削焼けの発生を抑制することができる。
【0053】
このように、上記した第1および第2の実施の形態によれば、粗研削終了後のクーラントが大流量から小流量に切替えられる前に、砥石台17を砥石車32の円筒研削部32aとジャーナル部Jの円筒部Waとが接触しなくなる位置までバックオフさせるようにし、その状態で、クーラントを大流量から小流量に切替えて仕上研削を行うようにした。これによって、クーラントの大流量から小流量への切替えを、砥石車32の円筒研削部32aがジャーナル部Jの円筒部Waより離れた状態で行うことができ、砥石車32の円筒研削部32bとジャーナル部Jの円筒部Waとの間において、クーラントの大流量から小流量への切替えの影響による動圧変化を生じないようにすることができる。このため、従来のクーラントの流量切替え時のように、クランクシャフトWの撓み量の減少によって、ジャーナル部Jが短時間で研削される事態を防止することができる。
【0054】
また、上記した第1の実施の形態によれば、クランクシャフトWのジャーナル部Jの円筒部Waにクーラントを供給する第1クーラントノズル41と、ジャーナル部Jの端面部Wbにクーラントを供給する第2および第3クーラントノズル42、43を別個に切替えることができるようにしたことにより、ジャーナル部Jの端面部Wbに供給されるクーラントの流量を仕上研削に移行されるまで、大流量に維持することができる。
【0055】
従って、砥石台17のバックオフにより、クランクシャフトWの撓みが解消されると、クランクシャフトWの撓みによって軸方向に僅かに変位されていたジャーナル部Jも元の軸方向位置に復帰するため、ジャーナル部Jの端面部Wbの一方が砥石車32の一方の端面研削部32bに切り込まれるようになるが、ジャーナル部Jの端面部Wbには大流量のクーラントが供給され続けているため、端面部Wbへの十分なクーラントの供給によって、端面部Wbの研削焼けの発生を抑制できるようになる。
【0056】
上記した実施の形態においては、クランクシャフトWのジャーナル部Jの円筒部Waおよび端面部Wbを研削加工する例について述べたが、本発明は、クランクシャフトのピン部の円筒部および端面部を研削するクランクピン研削盤にも適用可能である。しかも、本発明が適用可能な工作物は、クランクシャフトに限定されるものでなく、また、端面部を持たない円筒研削にも適用できるものである。
【0057】
また、上記した実施の形態においては、油穴を有した円筒部を振れ止め装置を用いて研削加工する例について述べたが、本発明は、振れ止め装置を用いることなく、かつ油穴を持たない円筒部の加工にも適用できるものである。
【0058】
以上、本発明を実施の形態に即して説明したが、本発明は実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の形態を採り得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る研削盤は、工作物に供給するクーラントの流量を大流量から小流量に切替えながら、工作物を粗研削および仕上研削するものに適している。
【符号の説明】
【0060】
13…テーブル、17…砥石台、21…主軸台、22…心押台、32…砥石車、32a…円筒研削部、32b…端面研削部、33…振れ止め装置、34…横シュー、40…砥石カバー、41、42、43…クーラントノズル、44、46…電磁開閉弁、49…クーラント供給手段、50…数値制御装置、W…クランクシャフト、J…ジャーナル部、W1…油穴、W2…凹み。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石台に支持した砥石車によって工作物を粗研削し、該粗研削終了後に前記砥石台をバックオフさせ、該バックオフ後に前記砥石車によって工作物を仕上研削する研削盤において、
前記工作物の粗研削時に大流量のクーラントを前記工作物に供給するとともに、前記工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段と、前記粗研削終了後であってかつ前記クーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に前記砥石台をバックオフさせるバックオフ実行手段とを備えたことを特徴とする研削盤。
【請求項2】
請求項1において、
前記砥石車は、前記工作物の円筒部を研削する円筒研削部と前記工作物の端面部を研削する端面研削部を備え、
前記クーラント供給手段は、前記工作物の円筒部にクーラントを供給する円筒部クーラント供給部と、前記工作物の端面部にクーラントを供給する端面部クーラント供給部とを有し、
前記端面部クーラント供給部は、前記円筒部に供給されるクーラントが大流量から小流量に切替えられた後の仕上研削の途中に、前記端面部に供給するクーラントを大流量から小流量に切替えるようになっていることを特徴とする研削盤。
【請求項3】
請求項2において、前記研削盤は、工作物を振れ止めする振れ止め装置を備え、該振れ止め装置を前記工作物が所定量仕上研削された後に前記工作物に挿入するようにしたことを特徴とする研削盤。
【請求項4】
請求項3において、前記工作物の円筒部には油穴が径方向に形成され、前記振れ止め装置を、前記粗研削時に生じた前記油穴部分の凹みを前記仕上研削によって小さくした後に前記工作物に挿入するようにしたことを特徴とする研削盤。
【請求項1】
砥石台に支持した砥石車によって工作物を粗研削し、該粗研削終了後に前記砥石台をバックオフさせ、該バックオフ後に前記砥石車によって工作物を仕上研削する研削盤において、
前記工作物の粗研削時に大流量のクーラントを前記工作物に供給するとともに、前記工作物の仕上研削時にクーラント流量を小流量に切替えるクーラント供給手段と、前記粗研削終了後であってかつ前記クーラント流量が大流量から小流量に切替えられる前に前記砥石台をバックオフさせるバックオフ実行手段とを備えたことを特徴とする研削盤。
【請求項2】
請求項1において、
前記砥石車は、前記工作物の円筒部を研削する円筒研削部と前記工作物の端面部を研削する端面研削部を備え、
前記クーラント供給手段は、前記工作物の円筒部にクーラントを供給する円筒部クーラント供給部と、前記工作物の端面部にクーラントを供給する端面部クーラント供給部とを有し、
前記端面部クーラント供給部は、前記円筒部に供給されるクーラントが大流量から小流量に切替えられた後の仕上研削の途中に、前記端面部に供給するクーラントを大流量から小流量に切替えるようになっていることを特徴とする研削盤。
【請求項3】
請求項2において、前記研削盤は、工作物を振れ止めする振れ止め装置を備え、該振れ止め装置を前記工作物が所定量仕上研削された後に前記工作物に挿入するようにしたことを特徴とする研削盤。
【請求項4】
請求項3において、前記工作物の円筒部には油穴が径方向に形成され、前記振れ止め装置を、前記粗研削時に生じた前記油穴部分の凹みを前記仕上研削によって小さくした後に前記工作物に挿入するようにしたことを特徴とする研削盤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−31366(P2011−31366A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182460(P2009−182460)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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