説明

研磨治具用空気注入装置

【課題】シール性能が高いとともに、注入口部材の本体から容易に外れることがなく、しかも安価なシール部材を備えた研磨治具用空気注入装置を提供する。
【解決手段】研磨治具2の空気注入口16に挿入される注入口部材4を備える。注入口部材4は、円柱状の本体33と、この本体33の外周部に装着されたシール部材34とを備える。本体33の外周部には、この本体33の外周面33aと平行な周壁42と、この周壁42から径方向の外側に延びる一対の側壁43,44とを有する環状溝41が形成される。シール部材34は、弾性体によって環状溝41の周方向の全域に延びる円環状に形成され、環状溝41の中に挿入されている。シール部材34の外径は、空気注入口16の内径より大きく形成されている。シール部材34と環状溝41との間には、弾性変形したシール部材34によってシールされる隙間Sが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気圧で膨らむバルーン部材を備えた研磨治具に空気を注入するための研磨治具用空気注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡レンズのレンズ面を研磨するための研磨装置としては、たとえば特許文献1に記載されているように、空気圧で膨らむバルーン部材を備えた研磨治具を使用するものがある。この特許文献1に示す研磨治具は、前記バルーン部材と、このバルーン部材を支持する支持部材と、この支持部材に形成された空気通路を開閉するバルブなどによって構成されている。
【0003】
前記空気通路は、前記支持部材の一端面に開口する空気注入口からバルーン部材の内部に延びるように形成されている。前記バルブは、前記空気注入口に供給された空気の圧力によって開く構造のものである。
前記バルーン部材への空気の注入は、研磨治具を空気注入装置に装着して行われている。この空気注入装置は、研磨治具が載置される設置台と、前記空気注入口に挿入される注入口部材と、この注入口部材の空気出口から空気を吐出させるための空気供給装置などを備えている。
【0004】
前記注入口部材は、前記設置台に研磨治具を載置することによって空気注入口に挿入されるように、設置台に突出する状態で取付けられている。この注入口部材は、円板状に形成された本体と、この本体と空気注入口との間をシールするためのシール部材とによって構成されている。前記空気出口は、前記本体の外周面に開口している。前記シール部材は、弾性材料によって前記本体の外周部を囲むカップ状に形成されており、自らの弾性で前記本体に保持されるように構成されている。
【0005】
このシール部材の外周部分は、前記本体とともに前記空気注入口内に挿入された状態で空気が本体の空気出口から吐出されることにより、径方向の外側に膨らんで空気注入口の壁面に密着する。このようにシール部材が変形することによって、注入口部材と空気注入口との間がシールされる。空気出口から吐出された空気は、前記本体と前記シール部材との間の隙間を通ってシール部材の中心部から空気注入口内に流入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−106117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すシール部材は、注入口部材の本体に被せられる特殊な形状の専用部品であるから、研磨治具用空気注入装置の製造コストが高くなるという問題があった。また、前記シール部材は、たとえば長期間にわたって使用して劣化すると、前記本体を挟む力が低下することがある。このような場合は、シール部材が注入口部材の本体から外れ易くなってしまう。
【0008】
たとえば、空気の注入が終了した後に研磨治具を空気注入装置から取り外すときに、シール部材が空気注入口に付着した状態で注入口部材の本体から外れてしまうことがある。シール部材が前記本体から外れてしまうと、研磨治具を研磨装置に装填する作業が中断され、研磨の効率が低下することになる。なお、このような不具合を解消するに当たっては、シール部材のシール性能が低下するようなことは避けなければならない。
【0009】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、シール性能が高いとともに、注入口部材の本体から容易に外れることがなく、しかも安価なシール部材を備えた研磨治具用空気注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明に係る研磨治具用空気注入装置は、空気圧で膨らむバルーン部材を有する眼鏡レンズ用研磨治具の空気注入口に挿入される注入口部材と、前記眼鏡レンズ用研磨治具が載置される設置面を有しかつ前記注入口部材を前記設置面から突出する状態で支持する研磨治具用設置台と、前記注入口部材の突出側端部に形成された空気出口から空気を吐出させる空気供給装置とを備え、前記空気注入口は、前記眼鏡レンズ用研磨治具における前記設置面と対向する取付面に開口形状が円形となるように開口し、前記注入口部材は、円柱状に形成されかつ前記空気出口に接続された空気通路を有する本体と、前記本体の外周部に装着されたシール部材とを備え、前記本体の外周部には、この本体の外周面と平行な周壁と、この周壁から径方向の外側に延びる一対の側壁とを有する環状溝が形成され、前記シール部材は、弾性体によって前記環状溝に沿って周方向の全域に延びる円環状に形成されて前記環状溝の中に挿入され、このシール部材の外径は、前記空気注入口の内径より大きく形成され、前記シール部材と前記環状溝との間には、注入口部材が前記空気注入口内に挿入されることにより弾性変形したシール部材によってシールされる隙間が形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、前記発明において、前記隙間は、前記環状溝の前記側壁と前記シール部材との間に形成されているものである。
本発明は、前記発明において、前記隙間は、前記環状溝の前記周壁と前記シール部材との間に形成されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シール部材は、注入口部材の本体とともに空気注入口内に挿入されることによって、前記環状溝との間に形成されている隙間に入るように圧縮される。このため、シール部材は、環状溝内で圧縮された状態であっても弾性を失うことはないから、環状溝と空気注入口との間を確実にシールする。また、このシール部材は、注入口部材の環状溝に挿入されているから、注入口部材から容易に外れることはない。さらに、シール部材は、安価な既製品を使用することができる。
したがって、本発明によれば、シール性能が高いとともに、注入口部材から容易に外れることがなく、しかも安価なシール部材を備えた研磨治具用空気注入装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】研磨治具と設置台の構成を示す断面図である。
【図2】研磨治具の空気注入口部分を拡大して示す断面図である。
【図3】設置台に取付けられた注入口部材の断面図である。
【図4】注入口部材が空気注入口に挿入された状態を示す断面図である。
【図5】注入口部材の他の実施の形態を示す断面図である。
【図6】注入口部材が空気注入口に挿入された状態を示す断面図である。
【図7】注入口部材の他の実施の形態を示す断面図である。
【図8】注入口部材が空気注入口に挿入された状態を示す断面図である。
【図9】実験時の各部の寸法を示す断面図である。
【図10】実験結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る研磨治具用空気注入装置の一実施の形態を図1〜図4によって詳細に説明する。
図1に示す研磨治具用空気注入装置1は、眼鏡レンズ用研磨治具2が載置される設置台3と、この設置台3に突設された注入口部材4と、この注入口部材4に空気通路5を介して接続された空気供給装置6とを備えている。
【0015】
前記研磨治具2は、特許文献1に記載されている研磨治具と同等のもので、本発明に係る空気注入装置1によって空気が注入された後に図示していない研磨装置に装填される。この実施の形態による研磨治具2は、空気圧によって膨らむゴム製のバルーン部材11と、このバルーン部材11を支持するための支持部材12とを備えている。バルーン部材11は、後述する空気供給装置6から空気が供給されて膨らみ、表面が所定の曲率となるように膨らんだ状態で図示していない研磨パッドが装着される。所定の曲率とは、研磨の対象となる眼鏡レンズのレンズ面の曲率である。
【0016】
前記支持部材12には、前記バルーン部材11内に空気を注入したり、バルーン部材11内から空気を排出したりするための空気通路13が形成されている。この空気通路13は、支持部材12に穿設された断面円形の円形孔14と、この円形孔14とバルーン部材11との間に設けられたバルブ15とによって構成されている。前記円形孔14におけるバルーン部材11とは反対側に位置する一端は、支持部材12の平坦な取付面12aに空気注入口16として開口している。この空気注入口16は、前記取付面12aに開口形状が円形となるように開口し、この取付面12aとは直交する方向に延びるように形成されている。
【0017】
前記バルブ15は、図2に示すように、ボール21と円錐コイルばね22とからなる逆止弁23と、前記ボール21と対向する排気用ピン24を有する排気機構25とを備えている。前記逆止弁23は、空気を空気注入口16側からバルーン部材11内にのみ通す構造が採られている。前記排気用ピン24は、前記ボール21を円錐コイルばね22のばね力に抗して押圧するためのものである。この排気用ピン24は、図2に示す後退位置と、この排気用ピン24の前端部がボール21を押圧する排気位置との間で進退できるようにバルブハウジング26に支持されている。また、前記排気用ピン24は、バルブハウジング26との間に設けられた円錐コイルばね27によってボール21から離間する方向に付勢されている。
【0018】
前記設置台3は、図1に示すように、前記研磨治具2が載置される平坦な設置面3aを有する板状に形成されている。また、この設置台3は、図示していない移動装置に支持されており、研磨治具が着脱される治具着脱位置と、図示していない高さ測定位置との間で移動できるように構成されている。高さ測定位置は、空気圧で膨らんだバルーン部材11の高さを高さ測定装置(図示せず)が測定する位置である。
【0019】
バルーン部材11は、設置台3に載置された状態で後述する空気供給装置6から空気が供給されて膨らむ。バルーン部材11の表面の曲率は、バルーン部材11の高さに対応して変化する。このため、バルーン部材11には、前記高さ測定装置によって測定された高さと、目標とする曲率(研磨される眼鏡レンズのレンズ面の曲率)に対応した高さとが一致するまで空気が供給される。
【0020】
前記注入口部材4は、図3に示すように、前記設置台3のねじ孔31に螺着されたねじ部32を有しかつ前記設置面3aから突出する円柱状の本体33と、この本体33の外周部に装着された弾性体からなるシール部材34とによって構成されている。
前記ねじ孔32は、前記空気通路5を介して前記空気供給装置6に接続されている。空気供給装置6は、エアコンプレッサー(図示せず)を空気供給源とするものである。
【0021】
円柱状を呈する前記本体33の外径Aは、前記研磨治具2の空気注入口16の内径B(図2参照)より小さく形成されている。この本体33の軸心部には、貫通孔35が穿設されている。この貫通孔35の一端は、前記本体33の突出側端面に空気出口36として開口している。貫通孔35の他端は、前記空気通路5に接続されている。
【0022】
前記本体33の外周部には、後述するシール部材34を保持するための環状溝41が周方向に延びるように形成されている。この実施の形態による環状溝41は、前記本体33の外周面33aと平行な周壁42と、この周壁42から径方向の外側に延びる第1の側壁43および第2の側壁44とによって形成されている。第1の側壁43および第2の側壁44は、設置台3の前記設置面3aと平行になるように形成されている。
【0023】
前記シール部材34は、弾性体によってされており、前記環状溝41の中に挿入されている。シール部材34の形状は、前記環状溝41に沿って周方向の全域に延びる円環状である。この実施の形態で使用しているシール部材34は、既製品のOリングである。
このシール部材34の内径d1は、前記周壁42の外径Dと等しくなるように形成されている。また、シール部材34の太さWは、環状溝41の溝幅(第1の側壁43と第2の側壁44との間隔)Gより小さくなるように形成されている。すなわち、このシール部材34が環状溝41内に挿入された状態においては、環状溝41の第1の側壁43と第2の側壁44とのうち少なくともいずれか一方とシール部材34との間に隙間Sが形成される。さらに、シール部材34の外径d2は、空気注入口16の内径Bより大きく形成されている。
【0024】
すなわち、シール部材34は、図4に示すように、注入口部材4の本体33とともに研磨治具2の空気注入口16に挿入されることによって、空気注入口16の壁面16aによって径方向の内側に押される。このとき、シール部材34は、内周部が前記周壁42に接触していて径方向内側への変形が規制されているために、前記隙間Sに向けて弾性変形する。この結果、前記隙間Sは、弾性変形したシール部材34によってシールされることになる。言い換えれば、前記隙間Sは、注入口部材4が空気注入口16内に挿入されることにより弾性変形したシール部材34によってシールされるように形成されている。
【0025】
なお、シール部材34は、Oリングに限定されることはなく、前記環状溝41の周方向の全域に延びる形状の弾性体であれば、どのようなものであっても使用することができる。たとえば、このシール部材34は、リング状に成形された弾性体を用いることができるし、リングが周方向の1箇所で切断された形状の弾性体を用いることもできる。このように1箇所で切断されたリング状の弾性体をシール部材34として用いると、C字状に拡げることができるから、環状溝41に挿入する作業と、環状溝41から取り外す作業とを容易に行うことができる。
【0026】
シール部材34を形成する弾性体の材料は、たとえばフッ素ゴム(FPM)を使用することができる。フッ素ゴムは、自己潤滑性を有するため、シール部材34を研磨治具2の空気注入口16に出し入れするときに抵抗が小さくなる。このため、研磨治具2の着脱が容易になるとともに、シール部材34が摩耗し難くなる。
【0027】
上述したように構成された研磨治具用空気注入装置1を用いて研磨治具2のバルーン部材11に空気を注入するためには、先ず、治具着脱位置に位置している設置台3に研磨治具2を載置させ、図4に示すように、注入口部材4を空気注入口16に挿入する。注入口部材4が空気注入口16内に挿入されると、シール部材34が圧縮されて前記隙間Sに入るように弾性変形する。このシール部材34は、環状溝41内で圧縮された状態であっても弾性を失うことはない。このため、シール部材34は、環状溝41の周壁42と、第1、第2の側壁43,44と、空気注入口16の壁面16aとに適度な弾発力で密着し、注入口部材4と空気注入口16との間をシールする。
【0028】
次に、設置台3を高さ測定位置に移動させ、空気供給装置6を動作させて空気を空気通路5に吐出させる。空気通路5内の空気は、注入口部材4の貫通孔35を通って空気注入口16内に流入する。このとき、シール部材34が環状溝41の各壁42〜44と空気注入口16の壁面16aとに密着しているから、空気が空気注入口16と注入口部材4との間を通って漏洩することはない。
【0029】
空気注入口16内に供給された空気は、空気注入口16内の圧力が上昇してバルブ15が開くことによって、バルブ15を通ってバルーン部材11内に流入する。バルーン部材11は、空気が注入されることによって膨らむ。バルーン部材11への空気の注入は、高さ測定装置によって測定されたバルーン部材11の高さが目標の高さに達するまで行われる。この目標の高さは、研磨の対象としている眼鏡レンズの曲率と対応した高さである。
【0030】
設置台3は、上述したようにバルーン部材11への空気の注入が終了した後に治具着脱位置に戻される。研磨治具2は、設置台3が治具着脱位置に移動した後に設置台3から取り外され、研磨装置に装填される。研磨治具2を設置台3から取り外すときは、シール部材34に注入口部材4から引いて外すような力が作用する。しかし、シール部材34は、環状溝41内に挿入されて保持されているから、注入口部材4から外れるようなことはない。
【0031】
したがって、この実施の形態による研磨治具用空気注入装置1は、シール部材34として既製品のOリングを使用しているから、製造コストを低く抑えることができた。また、この実施の形態による研磨治具用空気注入装置1は、シール部材34が環状溝41内で圧縮された状態であっても弾性を失うことはないから、高いシール性能を得ることができるとともに、研磨治具2の着脱時にシール部材34が摩耗することを防ぐことができる。
【0032】
高いシール性能が得られる理由は、シール部材34が環状溝41の各壁42〜44と空気注入口16の壁面16aとに適度な弾発力で押し付けられるからである。すなわち、シール部材34がこれらの壁の表面に形成されている微小な凹凸に倣うように変形できるから、シール性能が高くなる。
シール部材34の摩耗を防止できる理由は、シール部材34が空気注入口16の壁面16aに過大な力で押しつけられることがなく、この壁面16aに対して摺動するときの摩擦抵抗が相対的に小さくなるからである。
【0033】
さらに、この実施の形態による研磨治具用空気注入装置1は、シール部材34が環状溝41に挿入されていて注入口部材4から外れることはないから、研磨治具2を空気注入後に設置台3から研磨装置に装填する作業が中断されることがない。このため、この空気注入装置1を使用することにより、眼鏡レンズの研磨を効率よく行うことが可能になる。
【0034】
(第2の実施の形態)
注入口部材とシール部材は図5および図6に示すように形成することができる。図5および図6において、前記図1〜図4によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し、詳細な説明は適宜省略する。
【0035】
図5に示すシール部材34の外径d2は、図3,4に示すシール部材34と同様に空気注入口16の内径Bより大きく形成されている。しかし、このシール部材34の太さWは、環状溝41の溝幅(第1の側壁43と第2の側壁44との間隔)Gと一致するように形成されている。また、このシール部材34の内径d1は、環状溝41の周壁42の外径Dより大きく形成されている。
【0036】
すなわち、この実施の形態においては、環状溝41の周壁42とシール部材34の内周部との間に隙間Sが形成されている。この実施の形態によるシール部材34は、空気注入口16内に挿入されることによって、図6に示すように、前記隙間Sに入るように径方向の内側に向けて弾性変形する。このようにシール部材34が弾性変形することにより前記隙間Sがシールされる。
この実施の形態においても、シール部材34が弾性を失うことはないから、上述した実施の形態を採るときと同等の効果を奏する。
【0037】
(第3の実施の形態)
注入口部材とシール部材は図7および図8に示すように形成することができる。図7および図8において、前記図1〜図4によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し、詳細な説明は適宜省略する。
【0038】
図7に示すシール部材34の外径d2は、図3,4に示すシール部材34と同様に空気注入口16の内径Bより大きく形成されている。また、このシール部材34の太さWは、環状溝41の溝幅(第1の側壁43と第2の側壁44との間隔)Gより小さく形成されている。さらに、このシール部材34の内径d1は、環状溝41の周壁42の外径Dより大きく形成されている。
【0039】
すなわち、この実施の形態においては、環状溝41の第1、第2の側壁43,44のうち少なくとも一方の側壁とシール部材34との間に隙間S1が形成されているとともに、周壁42とシール部材34の内周部との間に隙間S2が形成されている。この実施の形態によるシール部材34は、空気注入口16内に挿入されるときに、空気注入口16の壁面16aとの接触により第2の側壁44に向かう方向に押されるとともに、径方向の内側に向けて押される。
【0040】
この結果、シール部材34は、図8に示すように、径方向の内側に位置する隙間S2に入るように径方向の内側に向けて弾性変形するとともに、他方の隙間S1に入るように軸線方向に弾性変形する。このようにシール部材34が弾性変形することによって、前記隙間S1と隙間S2とがシールされる。
この実施の形態においても、シール部材34が環状溝41内で圧縮されるにもかかわらず弾性を失うことはないから、上述した実施の形態を採るときと同等の効果を奏する。
【0041】
この実施の形態で示した注入口部材4は、図9に示す寸法で試作して実際に研磨治具2に空気注入を行ったところ、空気が漏洩したりシール部材34が脱落することなく繰り返し使用することができた。この実験に用いた注入口部材4の本体33の外径Aは12.6mmであり、環状溝41の周壁42の外径Dは7.2mm、溝幅Gは3.7mmである。シール部材34の内径d1は7.5mmであり、太さWは3.55mmである。このため、シール部材34の外径は14.6mmである。シール部材34は、形式AS568-203と呼称されているOリングを用いた。このOリングの材料はフッ素ゴム(FPM)である。
【0042】
この実験は、実際に研磨を行う複数の研磨治具2を用い、各研磨治具2について着脱と空気の注入とを100回ずつ行った。実験時には、研磨治具2の着脱時にシール部材34の脱落の有無を確認し、空気注入時に空気漏洩の有無を確認した。実験の結果は、シール部材34が外れることなく研磨治具2を着脱できた回数が95回以上であるときに着脱に関して合格とし、空気が漏洩することなく空気を注入できた回数が95回以上であるときに空気注入に関して合格とした。
【0043】
この実験の結果は、図10に示すように、全ての研磨治具2において、研磨治具の着脱と空気注入とに関してそれぞれ合格であった。図10においては、各研磨治具2について合格を○で示す。図10に示す各研磨治具2のAサイズとBサイズは、空気注入口16の内径Bを互いに直交する2方向から測定した値である。この実験で使用した研磨治具2の空気注入口16の内径Bは、図10から分かるように、14.0〜14.32mmである。空気注入口16の大きさは、公差があるために研磨治具2毎に異なっている。
【0044】
発明者が上述した実験で使用した注入口部材4と従来の注入口部材とについて、それぞれ着脱と空気の注入とを繰り返し行って比較したところ、下記のように本発明の効果を検証することができた。以下においては、上記実験で使用した注入口部材4を「本発明品」といい、従来の注入口部材を「従来品」という。この効果の検証を行うにあたっては、実際の研磨工程の状態を想定して特定の研磨治具のみを繰り返し使用することは避け、実際の研磨工程で用いる複数の研磨治具2を全てが検証の対象となるよう使用した。
【0045】
(1)注入作業ミスの頻度:
従来品は、シール部材が外れることがあり、100回の注入作業のうち注入作業ミスが5回発生した。すなわち、従来品の注入作業ミスの頻度は5%になる。
本発明品は、100回の注入作業のうち注入作業ミスは1回であった。すなわち、本発明品の注入作業ミスの頻度は1%になる。
(2)着脱作業の作業性:
従来品は、シール部材がいわゆるカバータイプのものであるために外れ易く、着脱作業の作業性が低いものである。
本発明品は、シール部材がいわゆる嵌め込みタイプのものであるために外れることはなく、着脱作業の作業性が高いものである。
(3)交換頻度:
従来品の交換頻度は、1日に注入作業を100回実施すると、1ヶ月(30日)当たり約2回である。すなわち、従来品は、3000回の注入作業を実施するうちに2回の交換が必要であった。
本発明品の交換頻度は、1日に注入作業を100回実施すると、2ヶ月(60日)で約1回である。すなわち、本発明品は、1回の交換で空気を6000回注入することができる。
(4)耐久性:
従来品の耐久性と本発明品の耐久性は同等であった。
(5)コスト(単価):
従来品は、1個当たり3590円で、本発明品は、1個当たり200円である。
(6)1ヶ月当たりのランニングコスト(推定):
従来品のランニングコストは、従来品の交換頻度が1ヶ月当たり2回とすると、1ヶ月当たり7180円になる。
本発明品のランニングコストは、本発明品の交換頻度が1ヶ月当たり0.5個とすると、1ヶ月当たり100円になる。
(7)その他:
従来品は、いわゆる加工製品であるために、製造するために必要な時間が相対的に長くなる。
本発明品は、汎用のOリングを使用して製造できるために、製造するために必要な時間は従来品に較べて著しく短くなる。
【0046】
上述した各実施の形態においては、シール部材34として断面円形のOリングを使用する例を示したが、シール部材34の断面形状は楕円形や長円形など適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…研磨治具用空気注入装置、2…研磨治具、3…設置台、3a…設置面、4…注入口部材、6…空気供給装置、12a…取付面、16…空気注入口、33…本体、36…空気出口、34…シール部材、41…環状溝、42…周壁、43…第1の側壁、44…第2の側壁、S,S1,S2…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧で膨らむバルーン部材を有する眼鏡レンズ用研磨治具の空気注入口に挿入される注入口部材と、
前記眼鏡レンズ用研磨治具が載置される設置面を有しかつ前記注入口部材を前記設置面から突出する状態で支持する研磨治具用設置台と、
前記注入口部材の突出側端部に形成された空気出口から空気を吐出させる空気供給装置とを備え、
前記空気注入口は、前記眼鏡レンズ用研磨治具における前記設置面と対向する取付面に開口形状が円形となるように開口し、
前記注入口部材は、円柱状に形成されかつ前記空気出口に接続された空気通路を有する本体と、
前記本体の外周部に装着されたシール部材とを備え、
前記本体の外周部には、この本体の外周面と平行な周壁と、この周壁から径方向の外側に延びる一対の側壁とを有する環状溝が形成され、
前記シール部材は、弾性体によって前記環状溝に沿って周方向の全域に延びる円環状に形成されて前記環状溝の中に挿入され、
このシール部材の外径は、前記空気注入口の内径より大きく形成され、
前記シール部材と前記環状溝との間には、注入口部材が前記空気注入口内に挿入されることにより弾性変形したシール部材によってシールされる隙間が形成されていることを特徴とする研磨治具用空気注入装置。
【請求項2】
請求項1記載の研磨治具用空気注入装置において、前記隙間は、前記環状溝の前記側壁と前記シール部材との間に形成されていることを特徴とする研磨治具用空気注入装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の研磨治具用空気注入装置において、前記隙間は、前記環状溝の前記周壁と前記シール部材との間に形成されていることを特徴とする研磨治具用空気注入装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載の研磨治具用空気注入装置において、前記シール部材は、Oリングによって形成されていることを特徴とする研磨治具用空気注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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