説明

砥粒の回収方法、及び回収装置

【課題】研磨システムにおいて、使用済みのスラリーから、加工屑と使用済みの砥粒を分離して未使用の砥粒を再利用することができる砥粒の回収方法、及び回収装置を提案する。
【解決手段】本発明の砥粒の回収方法は、研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーを分離筒に収容した状態で、回転させて径方向に遠心力を作用させつつ、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での電極を狭めた状態で電界をさせる処理を施すことにより、径方向の内側から研磨屑や使用済み砥粒と研磨屑の結合物を分離し、径方向の外側から砥粒を回収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨システムにおいて、使用済みのスラリーから、研磨屑(加工屑)や使用済みの砥粒を分離して未使用の砥粒を再利用することができる砥粒の回収方法、及び回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の分野、例えば多種の材料や各種分析に使用する検査用器具の製造及び調整にて、砥粒を分散したスラリーに電界を与えながら加工する方法や装置に関する研究を重ね、幾つかの研究成果として特許文献1〜7に提案する方法を得た。
そして、これら特許文献1〜7に提案した方法では、例えば従来、適用できなかった微細な物品や複雑な形状の物品の研磨にも適用できたり、しかも極めて加工精度が高くできたり、また短時間での仕上げ研磨を果たせるようになったことも成果の一つとして見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−170791号公報
【特許文献2】特開2003−300131号公報
【特許文献3】特開2003−329679号公報
【特許文献4】特開2004−167613号公報
【特許文献5】特開2004−249417号公報
【特許文献6】特開2007−83369号公報
【特許文献7】特開2008−137124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1〜7に記載の方法や或いはそれ以外の手法に用いるスラリーは、研磨に際して対象物(被研磨物)から加工屑(研磨屑)が生ずるので、そのままスラリーを使い続けることにより、スラリー中に分散した研磨屑が対象面を傷付ける現象が発生するため、研磨効率が低下してしまう。そのため、定期的にスラリーを取り替える必要があったが、使用後のスラリー中には未使用の砥粒も含まれているため、これを廃棄処理すると、システム自体に膨大な費用がかかるものであった。また、使用後のスラリーには、対象物から剥がれた加工屑や、その加工屑に砥粒が付着したもの、或いはその他にも研磨によって塊状化した砥粒も含まれるので、これらの加工屑、加工屑に砥粒が付着したもの、及び塊状化した砥粒も分離する必要があった。
【0005】
そこで、本発明は、使用後のスラリーから、研磨に悪影響を与える研磨屑を分離し、未使用の砥粒を回収して新たな研磨に再利用することができる砥粒の回収方法及び回収装置を提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーを分離筒に収容した状態で、軸を中心に回転させて径方向に遠心力を作用させつつ、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での配設間隔を狭めた状態で電界を作用させる処理を施すことにより、径方向の内側に設けた排出口から研磨屑や使用済み砥粒と研磨屑の結合物を分離し、径方向の外側に設けた回収口から砥粒を回収することを特徴とする(未使用)砥粒の回収方法に関するものである。
【0007】
また、本発明は、前記砥粒の回収方法において、分離筒底面のテーパー角度を3〜45度とし、その回転数を50〜1000rpmとし、印加電圧を1.0〜4kV(オフセット0.5〜2kV)とし、周波数を1〜200Hzとし、スラリー濃度を0.5〜30wt%とすることを特徴とする砥粒の回収方法をも提案する。
【0008】
さらに、本発明は、研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーを収納可能な分離筒と、該分離筒内の研磨スラリーに遠心力を作用する回転機構と、前記分離筒内の研磨スラリーに回転軸方向に電界を作用する印加機構と、を備え、前記分離筒には、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での配設間隔を狭めて配置させ、少なくとも径方向の内側に研磨屑の排出口を、径方向の外側に砥粒の回収口を周設してなることを特徴とする砥粒の回収装置をも提案するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の砥粒の回収方法は、研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーに遠心力を作用させつつ、回転させる径方向の外側により強く働く電界による吸引力を用いて研磨屑を分離するものであって、電界研磨において被研磨物に傷を与える虞がある研磨屑を除いて砥粒を回収でき、繰り返して電界研磨に使用することができるものであり、その経済的効果は極めて大きいものである。例えば本発明の方法は、例えばフルイを用いた分離法などに比べて極めて優れた処理能力を有するものである。
【0010】
また、分離筒底面のテーパー角度やその回転数、印加電圧、周波数、及びスラリー濃度をそれぞれ特定の範囲に規定することにより、前記回収方法による分離処理を繰り返して行う必要が無く、1回のみの分離処理にて研磨屑を分離して未使用の砥粒を回収することができる。
【0011】
さらに、本発明の砥粒の回収装置は、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での電極を狭めて配置させ、少なくとも径方向の内側に研磨屑の排出口を、径方向の外側に砥粒の回収口を周設してなる分離筒と、回転機構と、印加機構と、からなり、特殊な設備を必要としないので、比較的容易に作成することができ、実用的価値が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における分離メカニズムを模式的に示す説明図である。
【図2】本発明を実施するスラリー分離実験装置内の分離筒内の一例を示す側断面図である。
【図3】分離筒内(電極配置)の4つの形状態様(種類)を示す片側断面図である。
【図4】分離筒の底部に配する電極の9つの平面形状の態様(種類)を示す平面図である。
【図5】(a)未使用スラリー内の砥粒を示すSEM(走査型電子顕微鏡)撮影画像の複写図、(b)使用済みの研磨スラリー内の粒子を示すSEM撮影画像の複写図である。
【図6】(a)未使用スラリー内の砥粒の粒度分布計の測定結果を示すグラフ、(b)使用済みの研磨スラリー内の粒子の粒度分布計の測定結果を示すグラフである。
【図7】(a)未使用スラリー内の砥粒の高さ分布の測定結果を示すグラフ、(b)使用済みの研磨スラリー内の粒子の高さ分布の測定結果を示すグラフである。
【図8】分離筒回転数(3水準)を変化させて「排出部遠心」、「排出部外」、「排出部内」でのスラリー分離実験結果を示すグラフである。
【図9】印加電圧(4水準)を変化させて「排出部遠心」、「排出部外」、「排出部内」でのスラリー分離実験結果を示すグラフである。
【図10】分離筒形状(4種類)を変化させて「排出部遠心」、「排出部外」、「排出部内」でのスラリー分離実験結果を示すグラフである。
【図11】スラリー濃度(3水準)を変化させて「排出部遠心」、「排出部外」、「排出部内」でのスラリー分離実験結果を示すグラフである。
【図12】電極形状(9種類)を変化させて「排出部遠心」、「排出部外」、「排出部内」でのスラリー分離実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の回収方法は、研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーに遠心力及び電界による吸引力を用いて研磨屑や使用済み砥粒と研磨屑の結合物を分離することを特徴とするものである。
具体的には、図1に示すように研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーを分離筒に収容した状態で、軸を中心に回転させて径方向に遠心力を作用させつつ、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での配設間隔を狭めた状態で電界を作用させる処理を施すことにより、径方向の内側に設けた排出口から研磨屑や使用済み砥粒と研磨屑の結合物を分離し、径方向の外側に設けた回収口から(未使用の)砥粒を回収する。
なお、研磨屑としては、前述のように対象物から剥がれた加工屑ばかりでなく、その加工屑に砥粒が付着したもの、或いはその他にも研磨によって塊状化した砥粒も含むものとする。
【0014】
前記本発明における分離筒内の研磨スラリーには、当然のことながら重力が働く他に、軸を中心とした回転による遠心力を作用させ、さらに上下に電極を臨ませて径方向の内側より外側での配設間隔を狭めた状態で電界を作用させる。重力は当然下方へ作用し、遠心力は径方向外側へ作用し、前記電界(クーロン力)は外側上方へ作用する。即ち下側電極を傾斜させて設置することにより、作用するクーロン力は外側ほど強くなる。
研磨スラリーに含有される研磨屑は、図1(a)に示すように砥粒に比べて質量が大きく、クーロン力の作用も低い又はほとんどないため、重力と遠心力の作用にて砥粒よりも沈降速度が速く、径方向の内側にて分離排出される。
これに対し、研磨スラリー中に含まれる砥粒は、図1(b)に示すように研磨屑に比べて軽く、外側ほど強く作用するクーロン力の作用を受けるため、クーロン力と遠心力の作用で沈降を抑制されながら、径方向の外側から回収することができる。
【0015】
本発明に対象物として適用される研磨スラリーは、前述のように各種の電界研磨方法に使用した後のスラリー中に研磨屑と砥粒を含有するものが用いられる。また、電界研磨方法に使用したスラリーに限らず磁性研磨方法に使用したスラリーに対し、磁界を作用して磁性粉を分離した後のスラリーを本発明の方法又は装置に適用して研磨屑を分離処理することが可能である。
また、詳細は、後述する実施例にて説明するが、適宜に分散媒を追加して(希釈して)スラリー濃度を低くして前記処理に適用することが望ましい。
【0016】
また、本発明の砥粒の回収装置は、前記回収方法を実施できる装置であり、後述する実施例に示すように、研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーを収納可能な分離筒と、該分離筒内の研磨スラリーに遠心力を作用する回転機構と、前記分離筒内の研磨スラリーに回転軸方向に電界を作用する印加機構と、を備え、前記分離筒には、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での配設間隔を狭めて配置させ、少なくとも径方向の内側に研磨屑の排出口を、径方向の外側に砥粒の回収口を周設してなる構成である。
【0017】
なお、分離筒内には、前述のように少なくとも径方向の内側に研磨屑の排出口を、径方向の外側に砥粒の回収口を周設しているが、後述する実施例にて説明するように合計2つ以上(実施例では3つ)の取り出し口を形成してもよい。
【0018】
後述する実施例に示すように、分離筒底面のテーパー角度やその回転数、印加電圧、周波数、及びスラリー濃度をそれぞれ特定の範囲に規定することにより、効率よく研磨屑を分離して未使用の砥粒を回収することができることが確認された。
上記特定の範囲とは、分離筒底面(下部電極の表面)のテーパー角度を3〜45度,より好ましくは8〜12度とし、回転数を50〜1000rpm,より好ましくは100〜400rpmとし、印加電圧を1.0〜4kV(オフセット0.5〜2kV)とし、周波数を1〜200Hz,より好ましくは10〜30Hzとし、スラリー濃度を0.5〜30wt%以下,より好ましくは2〜10wt%とした場合に好適な結果を見出した。
【実施例】
【0019】
・分離回収装置
印加電圧、周波数、回転数、分離筒内形状、電極形状をパラメータとして研磨スラリー中の砥粒を効果的に分離可能な条件を得る。
分離回収装置の実施例は、研磨後のスラリー中に含まれる砥粒と研磨屑(加工屑)を、遠心力及び電界による吸引力を用いて分離する実験装置であり、その分離筒内の構造を図2に示す。
各種条件下で分離効果を評価するため、印加電圧、周波数、回転数の各パラメータに加え、分離筒の大容量化を行い、分離筒内形状、電極形状などの交換可能な実験装置に改造した。
なお、分離筒の構造は、排出位置による砥粒分布の影響を検討するため、図2に示すように3箇所から分離排出が可能な構造(「排出部内」、「排出部外」、「排出部遠心」)とした。さらに、略平坦状の上部電極に対し、下部電極は当該図2では平坦状に示しているが、実際には前記図1や図3に4種の筒内形状を示したように、外側に向かって肉厚になるように(その対向間隔は狭くなるように)配されており、砥粒に作用するクーロン力は外側ほど強くなるように形成した。
分離筒内の容積を1.5倍とし、遠心力の作用を検討するために、分離筒内(電極配置)の形状は図3に示す4種類の形状を製作した。また、電界効果について検討するため、電極の平面形状を図4に示す9種類に製作した。
【0020】
・研磨スラリー(実験試料)
はじめに図5にSEMを用いて観察した未使用スラリー内の砥粒と使用済みスラリー内の砥粒や加工屑を観察した。使用済みのスラリーは、電界研磨に用いたものであって、そのスラリー中には加工屑を含む粒径の大きな粒子が混在することが確認できた。これに対し、未使用スラリーは、そのスラリー中にほぼ均一な粒子(=砥粒)が分散されていることが確認された。
これらのスラリー中の粒度分布については、粒度分布計を用いて測定した結果を図6に示し、スラリーをスライドガラス上に滴下、乾燥させた状態の粒子の高さ分布をZYGO製NEW VIEW6300を用いて測定した結果を図7に示す。
どちらの計測結果も同様に、スラリー中の未使用砥粒は0.3μm、使用済みスラリーは1.2μm周辺に粒子のピークが存在していることから、0.5μm以下の粒度分布を有する粒子を未使用砥粒群(=砥粒)とし、1.2μm以上の粒度分布を有する粒子を加工屑を含む使用済み砥粒群(=研磨屑)であると定義した。
また、本研究では、粒度分布計の測定結果と同様なピークを示し、測定が容易なことからZYGO製NEW VIEW6300を用いた解析方法を用いた。
【0021】
・分離回収実験
1.2μm以上の研磨に悪影響を与えると想定される研磨屑を含むスラリーと、0.5μm以下の砥粒を多く含むスラリーを効率的に分離する条件を得ることを目的とし、前記構成の使用済みスラリーを用いて、(A)分離筒回転数、(B)印加電圧、(C)分離筒内形状、(D)スラリー濃度、(E)電極形状の各パラメータについて、それぞれ数種の分離実験を行い、「排出部内」、「排出部外」、「排出部遠心」の3つの排出箇所から得られたスラリー中の粒子サイズの分布計測を行い、それぞれの箇所の粒子サイズの分布から分離状態の評価を行った。なお、電界周波数については最適値20Hzを採用した。
【0022】
(A)分離筒回転数
固定条件:分離筒形状A
印加電圧2kV(オフセット1kV)
周波数20Hz スラリー濃度10%
電極形状A
図8に示すように回転数を150rpm,200rpm,300rpmの3水準に振り、各回転数における実験結果を得た。
図8より明らかなように「排出部遠心」には0.3μm付近のピークが存在する。
特に200rpmのときに「排出部遠心」に0.3μmサイズを含む小サイズの粒子(=砥粒)が最も多く分布し、大サイズの粒子(=研磨屑)の分布は比較的少なかった。これに対し、その他の2箇所からは大サイズの粒子(=研磨屑)の分布が多く得られたことから、分離筒回転数は200rpmの時に分離効率が高く適値と考えられた。
【0023】
(B)印加電圧
図9に示すように電圧依存性について、無電界(0kv),2.0kv(オフセット1kV),2.5kV(オフセット1.25kV),3.0kV(オフセット1.5kV)の3水準に振り、各印加電圧による実験結果を得た。
図9より明らかなように、無電界では3か所の分布に殆ど違いが見られず、分離ができていないことがわかった。このことより、重力と遠心力だけでは、研磨屑と砥粒とを分離できないことが確認された。
一方、電界を与えることによって、「排出部外」、「排出部内」に含まれる小サイズの粒子(=砥粒)の分布が減少し、分離が行われている様子が確認できた。
更に、2.0kVにおいて「排出遠心」に0.5μm付近の小サイズの粒子(=砥粒)が多く分布していることから、印加電圧は2.0kVが適値である。
【0024】
(C)分離筒内形状
固定条件:回転数200rpm
印加電圧2kV(オフセット1kV)
周波数20Hz
スラリー濃度10%
電極形状A
分離筒の筒内形状(電極配置)は、前記図3に示すA〜Dの4種類に振った。
図10に示すように筒内形状A〜Dの依存性についての実験結果を得た。
図10より明らかなように電極配置Aの「排出部遠心」において0.5μm以下の粒子群が分布し、その他の2箇所の排出口においては大サイズの粒子群が分布している。
電極配置Aと電極配置Cは図3に示すようにテーパー角度が同角度であって電極配置Bや電極配置Eよりも急角度であることから、大サイズの粒子(=研磨屑)はテーパー面を駆け上がる力を必要となるため、重力作用によって径方向の内側へ留まり易く、小サイズの粒子(=砥粒)は電界効果によって「排出部遠心」へ引き込まれ、多く排出されていると考える。また、電極配置Cにおいては「排出部外」にも小サイズの粒子(=砥粒)の分布が見られ、0.5mmの段差を設けたことで、小サイズの粒子(=砥粒)の排出が抑制されてしまったためであると考える。
このことから、電極配置A,B,C,Dにおいては急角度且つ段差を有しない電極配置Aが最適の形状である。
【0025】
(D)スラリー濃度
固定条件:分離筒形状A
回転数200rpm
印加電圧2kV(オフセット1kV)
周波数20Hz
電極形状A
図11に示すようにスラリー濃度依存性について、10,20,30%の3水準で振り、各スラリー濃度による実験結果を得た。
図11より明らかなように、スラリー濃度10wt%の「排出部遠心」の位置に0.3μm付近の小サイズの粒子(=砥粒)の分布が多く見られる。
これに対し、20wt%および30wt%では「排出部遠心」に大サイズの粒子(=研磨屑)の分布が存在し、選択的に分離されていなかった。
この要因としては、スラリー濃度の増加に伴い、粘度も増加し、粒子の挙動の妨げとなったため、効率的な分離ができなかったのではないかと考えられる。
このことから、スラリー濃度10wt%以下において良好な分離効率が得られるものと考えられる。
【0026】
(E)電極形状
固定条件:分離筒形状A
回転数200rpm
印加電圧2kV(オフセット1kV)
周波数20Hz
スラリー濃度10%
電極の平面形状は、前記図4に示すA〜Iの9種類に振った。
図12に示すように分離筒内の電極形状A〜Iの依存性についての実験結果を得た。
これらの9種類の条件は、電極の分離筒内における半径位置と円周方向のカバー率との組み合わせとして設定した。半径位置についてはφ38〜φ82までの全面をカバーする電極(A〜D)とφ56を中点とし、φ56〜φ82までをカバーする電極(E〜H)、φ38〜φ56までをカバーする電極(I)として設定した。また円周方向は、それぞれを切り欠く形で設定した。(B〜D、F〜H)
図12より明らかなように、円周方向に切り欠いた電極(B〜D、F〜H)では、同様径の全周を覆う電極(A,E)の分離効果に到達しなかった。これは、電極を切り欠いたことで電界の効果が弱められた結果であると考える。
また、半径方向依存性について、電極(A、E、I)を比較すると、分離筒内の内側のみをカバーする電極Iの分離効果は弱く、「排出部遠心」で大サイズの粒子(=研磨屑)の分布が見られた。外側のみをカバーする電極Eにおいては「排出部外」にも小サイズの粒子(=砥粒)の分布が見られる。これより、電極Aのφ38〜82の全面を覆う電極に優位性があることを確認できた。
【0027】
・結論
前記実験結果より、以下の条件での分離回収処理が、最も優れた結果であることをSEM撮影画像や粒度分布計の測定結果より確認した。
分離筒:テーパー角度3〜45度(下部電極の表面),より好ましくは8〜12度
回転数:50〜1000rpm100〜400rpm
印加電圧:1.0〜4kV(オフセット0.5〜2kV)
周波数:1〜200Hz,より好ましくは10〜30Hz
スラリー濃度:0.5〜30wt%以下,より好ましくは2〜10wt%
なお、前記図3に示す筒内形状(電極配置)A、前記図4に示す電極(平面)形状Aが最も優れていた。
そして、これらの条件にて回収した砥粒は、適宜に調製して研磨スラリーとし、前記特許文献1〜7に示す電界研磨に用いた場合には、前記未使用スラリーと全く同様の研磨効果を示すことを確認した。
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りどのようにでも実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーを分離筒に収容した状態で、軸を中心に回転させて径方向に遠心力を作用させつつ、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での配設間隔を狭めた状態で電界を作用させる処理を施すことにより、径方向の内側に設けた排出口から研磨屑や使用済み砥粒と研磨屑の結合物を分離し、径方向の外側に設けた回収口から砥粒を回収することを特徴とする砥粒の回収方法。
【請求項2】
分離筒底面のテーパー角度を3〜45とし、その回転数を50〜1000rpmとし、印加電圧を1.0〜4kV(オフセット0.5〜2kV)とし、周波数を1〜200Hzとし、スラリー濃度を0.5〜30wt%とすることを特徴とする請求項1に記載の砥粒の回収方法。
【請求項3】
研磨屑と砥粒を含有する使用済みの研磨スラリーを収納可能な分離筒と、該分離筒内の研磨スラリーに遠心力を作用する回転機構と、前記分離筒内の研磨スラリーに回転軸方向に電界を作用する印加機構と、を備え、
前記分離筒には、軸方向の上下に電極を臨ませると共に径方向の内側より外側での配設間隔を狭めて配置させ、少なくとも径方向の内側に研磨屑の排出口を、径方向の外側に砥粒の回収口を周設してなることを特徴とする砥粒の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−16796(P2012−16796A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156485(P2010−156485)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・部材イノベーションプログラム/環境安心イノベーションプログラム/希少金属代替材料開発プロジェクト」における委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】