説明

硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器

【課題】 硝化細菌固定化膜の膜活性を維持し、センサとしての安定性を確保するようにした硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器を提供する。
【解決手段】 硝化細菌固定化膜と、溶存酸素電極とを備え、試料液中の化学物質を計測する硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器において、上記硝化細菌固定化膜の活性を維持するために、活性維持用試薬を使用し、該活性維持用試薬が硝化細菌固定化膜の活性を維持するための成分として、基質、炭酸イオン、リン酸イオン、銅イオン及びその他の栄養素を含有し、試料液のpH及び導電率の変動を緩和するための成分として、上記活性維持用試薬にホウ酸及び塩化ナトリウムを含有してなることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下水道の各処理プロセスの水、河川水・湖沼水などの環境水を対象として、水中の化学成分をモニタリングすることを目的とした硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、溶液中の測定対象物質を認識する分子識別素子として、酵素や抗体などの生体機能高分子、微生物や細胞など生体そのものを利用するものである。バイオセンサは、これらの生体材料からなる分子識別素子を多孔性高分子膜に包括又は共有結合させることにより固定化した膜と、電気化学的検出器などのトランスデューサとを組み合わせて試料液中の化学成分の測定を行うセンサである。そして、試料液を上記多孔性高分子膜に接触させ、これによって生じる生化学反応により生成又は消費される物質の濃度変化を、上記電気化学的検出器の出力(電流、電圧など)変化に変換して測定する。
【0003】
なお、既知濃度の被測定物質の標準液によって予め検量線を準備する。この検量線を基準に用い、試料液に対するセンサ出力に基づいて、試料液中の目的物質の濃度自体を算出することができる。
【0004】
例えば、特公平7−85072号公報(特許文献1)には、生体材料として有害物質に極めて弱い微生物である硝化細菌をアルギン酸ゲルによってセルロース膜上に包括固定化した硝化細菌固定化膜を用い、トランスデューサとして溶存酸素電極を用いた水中の毒物検出用バイオセンサが記載されている。
このバイオセンサでは、硝化細菌の呼吸速度を連続モニタリングして、検水中に毒物が混入した時の硝化細菌の呼吸速度低下率を基に毒物検出を行うことができる。
【0005】
しかし、従来、このようなバイオセンサの使用にあたって、その安定性が得られないことが経験されており、適用可能な水質条件に制限があったため、改善が望まれていた。
【特許文献1】特公平7−85072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、硝化細菌固定化膜の膜活性を維持し、センサとしての安定性を確保するようにした硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、硝化細菌固定化膜と、溶存酸素電極とを備え、試料液中の化学物質を計測する硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器において、上記硝化細菌固定化膜の活性を維持するために、活性維持用試薬を使用し、該活性維持用試薬が硝化細菌固定化膜の活性を維持するための成分として、基質、炭酸イオン、リン酸イオン、銅イオン及びその他の栄養素を含有し、試料液のpH及び導電率の変動を緩和するための成分として、上記活性維持用試薬にホウ酸及び塩化ナトリウムを含有してなることを特徴とする。
【0008】
本発明は、その一実施の形態で、上記試料液と上記活性維持用試薬とを混合して、バイオセンサへ通水される流入液中の炭酸イオン濃度を18〜180mg/L、リン酸イオン濃度を12.5〜50mg/L、銅イオン濃度を50〜1000μg/L、塩化ナトリウム濃度を0〜1.5g/Lとしている。
【0009】
また、本発明は、その一実施の形態で、上記硝化細菌が、アンモニア酸化細菌であり、上記活性維持用試薬が、上記基質としてアンモニウムイオンを含み、上記その他の栄養素として鉄イオン及びマグネシウムイオンを含む。
また、本発明は、その一実施の形態で、上記硝化細菌が、亜硝酸酸化細菌であり、上記活性維持用試薬が、上記基質として亜硝酸イオンを含み、上記その他の栄養素として鉄イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、モリブデンイオン、コバルトイオン、及び亜鉛イオンを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、貧栄養水や高硬度水といった従来対応困難であった試料水においても安定した測定が可能となり、より実用性の高い硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器について、その実施の形態を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器に採用することのできるバイオセンサの一実施の形態を、図1に示す。
【0013】
このバイオセンサ10は、試料液の流路12aが設けられたフローセル12と、硝化細菌を固定化した硝化細菌固定化膜20と、溶存酸素電極11とから構成されている。そして、硝化細菌固定化膜20の一方の面は、流路12a中の試料液と接するように配置され、もう一方の面は溶存酸素電極11と接するように配置されている。
硝化細菌固定化膜20は、多孔性高分子膜に、硝化細菌を固定化したものである。なお、硝化細菌とはアンモニア酸化細菌群と亜硝酸酸化細菌群の総称である。
【0014】
このバイオセンサ10では、試料液を硝化細菌固定化膜20に接触させ、これによって生じる生化学反応により生成又は消費される物質の濃度変化を、上記電気化学的検出器の出力(電流、電圧など)変化に変換して測定する。
なお、流入液とは、試料液そのものの他、試料液と上記活性維持用試薬等とを混合したもの等も含む概念である。
このバイオセンサ10の使用にあたっては、既知濃度の被測定物質の標準液によって予め検量線を準備する。この検量線を基準に用い、試料液に対するセンサ出力に基づいて、試料液中の目的物質の濃度自体を算出する。これによって出力変化を測定すること可能となる。
【0015】
本発明に係る硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器は、図1に示したようなバイオセンサ10を核として、送風/送液機構、流路切替機構及び各機構の制御部を備えて構成することができる。
【0016】
図2に硝化細菌固定化膜20の構成について、その一形態を示す。この形態では、硝化細菌固定化膜20は、円形の多孔質のセルロース膜21、22が、両面テープ23によって貼り合わされたものである。その中心部に、硝化細菌が固定化された所定の大きさの円形状菌体固定化部24を有している。なお、両面テープ23は、菌体固定化部24と重ならないように、中心部が所定の大きさにくりぬかれたドーナツ状をなしている。
【0017】
本発明に係る硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器は、1日1回〜数回、純水と、基質は含まず、必須栄養素を含んだ緩衝溶液(以下、校正液と表記)を通水し、センサの自動校正を行う。そして、測定時には試料液と、基質及び必須栄養素(活性維持用試薬)を含んだ緩衝溶液(以下、フィード液と表記)とを混合して通水し、試料液中への有害物質の混入検知を目的とした連続モニタリングを行う。なお、基質及び必須栄養素は、硝化細菌固定化膜20の活性維持用試薬となる。
【0018】
図3にセンサ出力の推移例を示す。基質がない状態で校正を行っている。有害物質が混入すると、センサ出力が低下し、有害物質の混入が検知される。
【0019】
上記フィード液及び校正液(以下、これらを総称してセンサ試薬とも表記することがある)に採用される緩衝液として、例えば、pH8〜9付近に緩衝能を持つリン酸緩衝溶液、又はホウ酸緩衝溶液を用いる。これにより、試料液のpHが変動してもバイオセンサ内のpHは一定に保たれる。このため、硝化細菌固定化膜20の活性が維持され、安定に機能する。ただし、センサ試薬がリン酸緩衝溶液である場合、硬度成分(カルシウムイオン)とリン酸が化学反応し、リン酸カルシウムが流路内に析出して流路閉塞を起こす等の問題があるため、ホウ酸緩衝溶液を用いるのが一般的である。
【0020】
次に、本発明に係る硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器に想到するに至るために、前提となった課題が導かれた経緯を説明する。
従来の硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器では、表1に示すような組成のフィード液を使用している。校正液の組成は上記組成から基質成分を除いたものである。微生物の生育に必要な栄養素として、鉄イオン、マグネシウムイオン及び炭酸イオンを添加している。鉄イオンは電子伝達系酵素に、マグネシウムイオンはDNA合成酵素及び代謝酵素に必要な成分であり、炭酸イオンは細胞形成における炭素源として必要な成分である。なお、バイオセンサを安定に機能させるための保守頻度の目標仕様は1回/月としている。
【0021】
【表1】

【0022】
ところが、硬度成分の多い試料液(以下、高硬度水と表記)では、栄養素の一つである炭酸イオンとカルシウムイオンが化学反応して流路や硝化細菌固定化膜及び上記膜支持用ナイロン網上に析出し、流路閉塞を起こしたり、有害物質に対する応答性及び測定感度の低下を起こしたりするため、目標仕様を達成できない場合があることが判明した。
【0023】
図4に、表1のようなセンサ試薬を用い、カルシウム硬度とセンサ連続運転可能日数との関係性を示した。なお、この関係を得るにあたり、校正時のセンサ出力の下限閾値を初期値の50%とし、50%以下になった場合、運転継続不可と判定した。
【0024】
従来のセンサ試薬では、保守頻度1回/月を達成可能なカルシウム硬度は約60mg/Lであり、全国の水道原水の約80%であった。ただし、保守頻度低減の要求があることから、目標仕様を保守頻度1回/2ヶ月とした場合、目標達成可能なカルシウム硬度は約40mg/Lであり、全国の水道原水の約60%であった。
ここで、図5に全国の水道原水の総硬度(カルシウム硬度×1.33)に関する統計データを示す。
【0025】
一方、硬度成分析出の問題はないが、非常に清澄で栄養成分の少ない試料液(以下、貧栄養水と表記)では、硝化細菌固定化膜20内の菌数や個体活性(以下、膜活性と表記)の低下により保守頻度の目標仕様を達成できない場合があることが判明した。なお、このような検討にあたっては、図3で示したようなセンサ出力を(1)式に代入して求めることができる、酸素消費率を膜活性の指標とし、酸素消費率が50%以下となった場合、運転継続不可と判定した。
酸素消費率(%)=(1−B/A)×100 (1)
【0026】
このような酸素消費率の変化について、硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器のうち、アンモニア酸化細菌バイセンサ応用水質計測器の事例をもとに説明する。
図6に、脱塩素水道水及び貧栄養水として純水を試料液とした場合の酸素消費率の推移例を示す。脱塩素水道水を試料液とした場合、酸素消費率は、ほぼ100%で推移し、1ヶ月連続運転可能であったのに対し、その後、試料液を純水に変更したところ、約1日後に酸素消費率が低下し始め、3日後には運転継続不可能となった。
【0027】
純水をバイオセンサに通水し、従来のセンサ試薬と混合した場合、バイオセンサ内の硝化細菌にとって、必須栄養素不足のような、脱塩素水道水とは異なる不適当な生育条件となり、膜活性が低下するものと考えられる。
以上の結果から、保守頻度の目標仕様を1回/2ヶ月とした場合、全国の水道原水のうち、適用可能な水質である水道原水は60%以下であることが判明した。
このようにして、硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器の適用範囲を拡大するためには、高硬度水や貧栄養水を通水した場合でも、バイオセンサが安定に機能するよう、センサ試薬の改良を行う必要があることが判明した。
【0028】
以上のようにして導出された課題に対し、本発明に係る硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器では、上記硝化細菌固定化膜の活性を維持するために、活性維持用試薬が硝化細菌固定化膜の活性を維持するための成分として、基質、炭酸イオン、リン酸イオン、銅イオン及びその他の栄養素を含有し、試料液のpH及び導電率の変動を緩和するための成分として、上記活性維持用試薬にホウ酸及び塩化ナトリウムを含有するようにしたことで、その解決を図ることとした。
【0029】
高硬度水に対する課題を解決する手段については、アンモニア酸化細菌バイオセンサを用いて鋭意検討した。
図7にセンサ試薬の炭酸イオン濃度を従来の13%及び20%とし、試料液のカルシウム硬度を100mg/Lとした場合のセンサ校正時出力の推移を示す。2ヶ月連続運転を行った結果、2条件ともにセンサ校正時出力は許容範囲内であり、炭酸イオン濃度のより低い前者の方では、炭酸カルシウム析出によるセンサ校正時出力の低下はほとんど見られないことが判明した。なお、全国の水道原水の約9割がカルシウム硬度75mg/L(総硬度100mg/L)以下であることから、高硬度水を試料液とした場合、センサ試薬の炭酸イオン濃度を従来の20%以下に低減すれば、全国の水道原水の9割を超える地点で保守頻度1回/2ヶ月を達成可能であることが判明した。
【0030】
次に、貧栄養水に対する課題を解決する手段について、上記バイオセンサを用いて検討した結果を以下に記す。従来のセンサ試薬組成(表1)と、特願2003−325973に開示されている培地組成(表2)を比較すると、栄養素として、細胞形成に必要なリン酸イオンと、アンモニア酸化酵素に必要な銅イオンが不足していることが分かった。培地の母液は純水であることから、センサ試薬に上記栄養素を追加することが膜活性を維持するのに有効な手段と考えた。
【0031】
【表2】

【0032】
また、貧栄養水の極端な例である純水と、種々のイオンを含んでいる脱塩素水道水との水質を比較した場合、大きく異なるのは導電率であり、前者は、ほぼ0mS/cmであるのに対し、後者は約200mS/cmであった。
そこで、純水に栄養素ではない塩化ナトリウムを添加し、脱塩素水道水と同等の導電率に調整して通水し、無添加の場合と比較検討した。なお、本検討では、従来のセンサ試薬に銅イオン及びリン酸イオンを追加して、両栄養素のバイオセンサ内濃度が代表的な河川水通水時を超えるように設定した。
表3に本検討でのセンサ試薬組成を、図8に上記試験結果を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
塩化ナトリウム無添加の場合、運転開始24時間後から膜活性が低下し始め、60時間後には継続運転不可能な状態にまで膜活性が低下した。これに対し、塩化ナトリウム添加の場合、200時間経過しても運転可能な膜活性を維持していた。この結果から、銅イオンやリン酸イオンといった栄養素を追加するだけでは不十分であり、センサ試薬に塩化ナトリウムを添加し、純水とセンサ試薬を通水した場合でも、脱塩素水道水と従来のセンサ試薬を通水した場合と同等以上の導電率となるよう調整することが、膜活性を維持するのに有効な手段であることが判明した。
【0035】
以上の結果により、本発明係る硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器で使用する試薬は、膜活性を維持するための成分である基質及び各種栄養素を含有し、さらに、試料液の水質のうち、pH及び導電率の変動を緩和するための成分である、ホウ酸及び塩化ナトリウムを含有することが了解される。
【0036】
また、上記各種栄養素は、アンモニア酸化細菌バイオセンサの場合、一般的には、鉄イオン、マグネシウムイオン、銅イオン、炭酸イオン、リン酸イオンである。
亜硝酸酸化細菌バイオセンサの場合、一般的には、鉄イオン、マグネシウムイオン、銅イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、モリブデンイオン、コバルトイオン、亜鉛イオンである。
【0037】
そして、後に説明する実施例1、実施例2の結果から、バイオセンサへ通水される流入液中の炭酸イオン濃度は18〜180mg/L、リン酸イオン濃度は12.5〜50mg/L、銅イオン濃度は50〜1000μg/L、塩化ナトリウム濃度は0〜1.5g/L範囲が好適である。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明をアンモニア酸化細菌の代表菌株であるNitrosomonas europaea (ATCC25978)を用いた場合の実施例1、及び亜硝酸酸化細菌の代表菌株であるNitrobacter winogradskyi (ATCC25391)を用いた場合の実施例2に基づき説明する。
【0039】
なお、実施例1でのアンモニア酸化細菌の培養は表2に示す高圧滅菌した培地を用いて、すべて無菌的に操作した。また、培養条件を10%接種、温度30℃、振謄機回転数150rpmとし、6日間振謄培養を行った。
【0040】
また、実施例2での亜硝酸酸化細菌の培養は、表7(後出)に示す高圧滅菌した培地を用いて、すべて無菌的に操作した。また、培養条件をpH7.5、10%接種、温度28℃とし、7日間静置培養を行った。実施例1及び2ともに、培地調製水はMillipore社製純水製造装置(Elix10)で製造した純水とした。上記純水の比抵抗は15MΩ以上であった。
【0041】
実施例1
アンモニア酸化細菌バイオセンサの貧栄養水対応用センサ試薬の最適組成を検討するため、ホウ酸、鉄イオン、及びマグネシウムイオンの濃度は固定し、銅イオン、炭酸イオン、リン酸イオン及び塩化ナトリウムの濃度を変えてセンサ連続運転試験を行った。なお、試料液は純水とした。表4に検討した8種類の組成を比較検討した結果を示す。
【0042】
【表4】

【0043】
組成A〜Dの結果を比較すると、塩化ナトリウム濃度のみを上昇させることにより、膜活性を維持することが可能となり、センサ内の塩化ナトリウム濃度は1.5g/Lが適していることが判明した。
【0044】
次に、組成D〜Hの結果を比較し、銅イオン、炭酸イオン、リン酸イオンの最適濃度について説明する。
炭酸イオンについて2種の濃度を検討した結果(組成D,E)、現行濃度(180mg/L)の1/10量である18mg/Lとした時に、膜活性が上昇したことから、炭酸イオン濃度は18〜180mg/Lの範囲が好ましく、18mg/Lがより好ましいことが了解される。
【0045】
リン酸イオンについて3種の濃度を検討した結果(組成E〜G)、リン酸イオンを50mg/Lから5mg/Lへと低減すると、膜活性が低下する傾向が見られたことから、リン酸イオン濃度は12.5〜50mg/Lの範囲が好ましく、50mg/Lがより好ましいことが了解される。
【0046】
銅イオンについて2種の濃度を検討した結果(組成G,H)、銅イオンを50μg/Lから5μg/Lへと低減すると、膜活性が低下する傾向が見られたことから、銅イオン濃度は50μg/L以上が好ましいことが分かった。なお、銅イオン濃度が1000μg/Lを超えると毒性を発現する場合があることから、銅イオン濃度範囲は50〜1000μg/Lであることが、好ましい。
【0047】
表5に、純水を試料液とした場合でも、膜活性が上昇する傾向を示した試薬組成(組成E)を示す。純水を試料液とし、上記試薬を用いてバイオセンサの2ヶ月連続運転試験を行った結果、酸素消費率は80%以上で経過したことから、保守頻度1回/2ヶ月を達成することができた。
【0048】
なお、上記試薬において試料液中の硬度成分(カルシウムイオン)と化学反応を起こす成分(炭酸イオン及びリン酸イオン)の濃度は、従来試薬の炭酸イオン濃度の25%に低減されていることから、試料液が高硬度水の場合においても対応可能な試薬組成である。
【0049】
ただし、高硬度水の場合は種々の金属イオンや無機酸イオンを含有しているため、導電率や栄養素不足の問題はあまりないことから、表5の組成のうち、塩化ナトリウム、リン酸イオン、銅イオンの濃度を低減することが可能である。表6に上記成分濃度を低減した例を示す。
【0050】
【表5】

【表6】

【0051】
以上の結果から、従来のセンサ試薬では対応困難であった貧栄養水、あるいは高硬度水を試料液とした場合においても、膜活性の維持及び硬度成分のセンサ内析出防止を可能とするセンサ試薬を提供し、アンモニア酸化細菌バイオセンサを応用した水質計測器の実用性を向上することが可能となった。
【0052】
実施例2
亜硝酸酸化細菌バイオセンサの貧栄養水対応用センサ試薬の最適組成を検討するため、表8に示すように、ホウ酸、鉄イオン、マグネシウムイオン、銅イオン、炭酸イオン、リン酸イオンの濃度及び塩化ナトリウムの濃度は、実施例1の表5の組成と同一とし、基質を亜硝酸イオンに替え、マンガンイオン、カルシウムイオン、モリブデンイオン、コバルトイオン、及び亜鉛イオンを更に添加した試薬組成とした。なお、追加添加した各必須栄養素の濃度は表7に示すように、特願2006−105806記載の亜硝酸酸化細菌用培地組成と同一とした。
純水を試料液とし、上記試薬を用いてバイオセンサの2ヶ月連続運転試験を行った結果、酸素消費率は実施例1と同様に酸素消費率が80%以上で経過したことから、保守頻度1回/2ヶ月を達成することができた。ただし、高硬度水の場合は種々の金属イオンや無機酸イオンを含有しているため、導電率や栄養素不足の問題はあまりないことから、表7の組成のうち、塩化ナトリウム、リン酸イオン、モリブデンイオン、コバルトイオン、及び亜鉛イオンの濃度を低減することが可能である。表9に上記成分濃度を低減した例を示す。
【0053】
【表7】

【表8】

【0054】
以上の結果から、従来のセンサ試薬では対応困難であった貧栄養水、又は高硬度水を試料液とした場合においても、膜活性の維持及び硬度成分のセンサ内析出防止を可能とするセンサ試薬を提供し、亜硝酸酸化細菌バイオセンサを応用した水質計測器の実用性を向上することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に採用することのできるバイオセンサ(微生物センサ)の一実施の形態についてその構成例を示す模式図である。
【図2】硝化細菌固定化膜の一実施の構成例を示す模式図である。
【図3】図3のようなバイオセンサの出力推移例を示すグラフである。
【図4】カルシウム硬度とセンサ連続運転可能日数との関係を示すグラフである。
【図5】全国の水道原水の総硬度(カルシウム硬度×1.33)に関する統計データを示すグラフである。
【図6】試料液の水質の膜活性への影響を示すグラフである。
【図7】センサ試薬中の炭酸イオン濃度のバイオセンサ校正時出力への影響を示すグラフである。
【図8】塩化ナトリウム添加(試料液の導電率調整)による膜活性(酸素消費率)への影響を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
10 バイオセンサ
11 溶存酸素電極
12 フローセル
12a 試料液流路
20 硝化細菌固定化膜
21 セルロース膜
22 セルロース膜
23 ドーナツ状両面テープ
24 菌体固定化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝化細菌固定化膜と、溶存酸素電極とを備え、試料液中の化学物質を計測する硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器において、上記硝化細菌固定化膜の活性を維持するために、活性維持用試薬を使用し、該活性維持用試薬が硝化細菌固定化膜の活性を維持するための成分として、基質、炭酸イオン、リン酸イオン、銅イオン及びその他の栄養素を含有し、試料液のpH及び導電率の変動を緩和するための成分として、上記活性維持用試薬にホウ酸及び塩化ナトリウムを含有してなることを特徴とする硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器。
【請求項2】
上記試料液と上記活性維持用試薬とを混合して、バイオセンサへ通水される流入液中の炭酸イオン濃度が18〜180mg/L、リン酸イオン濃度が12.5〜50mg/L、銅イオン濃度が50〜1000μg/L、塩化ナトリウム濃度が0〜1.5g/Lであることを特徴とする請求項1の硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器。
【請求項3】
上記硝化細菌が、アンモニア酸化細菌であり、上記活性維持用試薬が、上記基質としてアンモニウムイオンを含み、上記その他の栄養素として鉄イオン及びマグネシウムイオンを含むことを特徴とする請求項1又は2の硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器。
【請求項4】
上記硝化細菌が、亜硝酸酸化細菌であり、上記活性維持用試薬が、上記基質として亜硝酸イオンを含み、上記その他の栄養素として鉄イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、モリブデンイオン、コバルトイオン、及び亜鉛イオンを含むことを特徴とする請求項1又は2の硝化細菌バイオセンサ応用水質計測器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−2667(P2009−2667A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161127(P2007−161127)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)