説明

硫化亜鉛系蛍光体およびその製造方法

【解決課題】低電圧で高輝度が得られる粒度の揃った硫化亜鉛系蛍光体、および当該硫化亜鉛系蛍光体を工業的に有利に製造することのできる硫化亜鉛系蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、硫化亜鉛系蛍光体前駆体を焼成して一次焼成物を形成する一次焼成工程、該一次焼成物の中位径(d50)が10μm以上40μm未満となるように粒径を調整する分級工程、該粒径を調整した一次焼成物に、単位容積当たりのエネルギー(熱量)が総量で0.5〜10GJ/mとなる超音波を照射して六方晶構造の一部を立方晶構造に転移させる超音波照射工程、超音波照射後の一次焼成物をさらに焼成して、85%以上99%未満の立方晶構造と1%より多く15%以下の六方晶構造とが混在する硫化亜鉛系蛍光体を得る二次焼成工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化亜鉛系蛍光体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化亜鉛を主たる構成成分とする無機材料組成物の中には、電気エネルギーを光に変換して自発光する特性を有する硫化亜鉛系蛍光体があり、光源、表示装置用素子などの用途に一部実用化されている。しかしながら、現在知られている硫化亜鉛系蛍光体は、電気エネルギーの光変換効率が不十分であり、そのため発熱、消費電力などの問題があり、用途が限定されている。
【0003】
硫化亜鉛系蛍光体の製造方法としては、母体となる粒径数μmの微粉末状の硫化亜鉛に、付活剤として0.1〜1.0mol%の硫酸銅、共付活剤または融剤として5〜20mol%の塩化ナトリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属のハロゲン化物を混合し、この混合物を坩堝に入れて酸素含有雰囲気下約1000℃で硫化水素を添加して数時間焼成し、次いでシアン化カリウム水溶液で表面に付着している硫化銅などの不純物を洗浄・除去したのち、乾燥して、粉末の蛍光体を得る方法が知られている。
【0004】
EL輝度が高く寿命の長いEL表示素子を得ることを目的として、粒径の大きい立方晶型の硫化亜鉛系蛍光体を製造する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、硫化亜鉛と硫酸銅と融剤との混合物を1100〜1200℃で3時間〜10時間、空気中で焼成し、脱イオン水で洗浄し、乾燥させた中間蛍光体を静水圧(1000kg/cm)で加圧し、空気中750〜950℃でアニールすることにより、粒径の大きい立方晶型の硫化亜鉛系蛍光体が得られ、これによって高いEL輝度と長寿命が実現できることが記載されている。
【0005】
また、同様の目的で、硫化亜鉛と硫酸銅と融剤との混合物を900〜1100℃で、1〜5時間、空気中で焼成(一次焼成)して得た10〜40μmの中間蛍光体に、ボールミル処理により衝撃力を加えて、該中間蛍光体の粒子内部に歪みを生じさせ、次いで、500〜800℃で、1〜5時間、空気中で焼成(二次焼成)して、粒子内の歪みのある場所に銅を偏析させて導電層を形成する方法が提案されている(特許文献2)。なお、特許文献2は、等方的な圧力ではなく、局部的に集中して圧力がかかる衝撃力の方が歪みの形成に有効であると教示する。
【0006】
しかし、特許文献1および2に記載の方法では、中間蛍光体粒子に対する衝撃の付与が不十分かつ不均質であるため、二次焼成工程での六方晶構造から立方晶構造への転移が十分ではなく、EL輝度の向上が不十分である。
【0007】
一方、低電圧で高いEL輝度が得られる蛍光体として、中心粒径が20μm以下で粒径の揃った小粒径の蛍光体の製造方法も提案されている(特許文献3)。特許文献3には、母体に賦活剤および融剤の他に、3〜100重量%の粒成長抑制剤を混合して1200℃で3時間、空気中で一次焼成して得た中間蛍光体に、超音波振動を加えて粒成長抑制剤を除去し、さらにボールミルまたは超音波振動によって中間蛍光体に衝撃力を加えて中間蛍光体粒子内に歪み(結晶欠陥)を形成し、500〜900℃で30分〜3時間、二次焼成することが記載されている。なお、引用文献3は、20μm以下の粒径の揃った小粒径の蛍光体を得るためには粒成長抑制剤が必要であることを教示し、粒成長抑制剤として、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、炭化タングステン、炭化タンタルを例示している。
【0008】
さらに、硫化亜鉛と少なくとも1種の活性剤と融剤との混合物を1050〜1400℃で2〜8時間にわたって焼成して六方晶β−ZnS型(注:特許文献4には、「六方晶β−ZnS型」と記載されているが、技術常識に照らして「六方晶α−ZnS型」の誤記と考えられる。本段落において以下同じ)の結晶構造を有する第1焼成物質を形成させ、該第1焼成物質を液状媒体に懸濁させ、該懸濁液に超音波を照射することによって該第1焼成物質の結晶構造を歪んだ六方晶β−ZnS形態に少なくとも部分的に変換させ、少なくとも部分的に変換された第1焼成物質を500〜1000℃で1〜5時間にわたって焼成して立方晶α−ZnS型結晶形態(注:特許文献4には、「立方晶α−ZnS型」と記載されているが、技術常識に照らして「立方晶β−Zn型」の誤記と考えられる。本段落において以下同じ)を有する硫化亜鉛系蛍光体を形成させる方法が提案されている(特許文献4)。
【0009】
しかし、特許文献3に記載の方法では、粒径を制御するために粒成長抑制剤を必要とし、二次焼成前に粒成長抑制剤を除去する工程を要するので、製造工程が煩雑になる。また、粒成長抑制剤は、母体となる硫化亜鉛と反応しない物質でなければならないという制約もある。
【0010】
特許文献4に記載の方法では、本発明者らにより、二次焼成時の六方晶構造から立方晶構造への転移が蛍光体前駆体粒子の粒径に依存し、転移が生じず、硫化亜鉛蛍光体として十分な性能を発揮できない場合があることが確認されている。さらに、特許文献4には、第1焼成物質を含有する懸濁液を超音波変換器を有する隔室を介して循環させて超音波照射を複数回繰り返す超音波照射の態様が記載されているが、循環用ポンプ内を第1焼成物質の粒子が繰り返し循環することで、ポンプや配管内での粒子の融着や、望ましくない衝撃付与が生じるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭61−296085号公報
【特許文献2】特開平6−306355号公報
【特許文献3】特開平11−193378号公報
【特許文献4】特開2004−2867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、低電圧で高いEL輝度が得られる粒度の揃った硫化亜鉛系蛍光体、および当該硫化亜鉛系蛍光体を工業的に有利に製造することのできる硫化亜鉛系蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、超音波照射前後の結晶構造変化が、硫化亜鉛系蛍光体の物性に著しく影響することに着目し、超音波照射条件を詳細に検討した結果、上記目標を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明によれば、85%以上99%未満の立方晶構造と、1%より多く15%以下の六方晶構造とが混在する硫化亜鉛系蛍光体が提供される。
本発明の硫化亜鉛系蛍光体は、10μm以上40μm未満の中位径(d50)を有する。
【0015】
また、本発明によれば、硫化亜鉛系蛍光体前駆体を焼成して一次焼成物を形成する一次焼成工程、該一次焼成物の中位径(d50)が10μm以上40μm未満となるように粒径を調整する分級工程、該粒径を調整した一次焼成物に、単位容積当たりのエネルギー(熱量)が総量で0.5〜10GJ/mとなる超音波を照射して六方晶構造の一部を立方晶構造に転移させる超音波照射工程、超音波照射後の一次焼成物をさらに焼成して、85%以上99%未満の立方晶構造と1%より多く15%以下の六方晶構造とが混在する硫化亜鉛系蛍光体を得る二次焼成工程を含む硫化亜鉛系蛍光体の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の製造方法において、超音波照射工程後の一次焼成物は10%以上70%以下の立方晶構造を含むことが好ましい。
また、二次焼成工程での焼成温度は650℃以上1000℃以下であることが好ましい。
【0017】
超音波照射は、単一の超音波照射装置または複数の超音波照射装置を用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、超音波照射条件を制御するという簡易な方法で、実用性のある高いEL輝度で青色乃至青緑を呈する硫化亜鉛系蛍光体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、85%以上99%未満の立方晶構造と、1%より多く15%以下の六方晶構造とが混在する硫化亜鉛系蛍光体を提供する。従来の硫化亜鉛系蛍光体における立方晶構造の比率が80%以下であることと比較すると、本発明の硫化亜鉛系蛍光体の立方晶構造の比率は非常に高い。特に青色発光を実現するためには、立方晶構造の比率を87%以上とし、特に90%以上99%未満とすることが好ましい。立方晶構造の比率が99%以上の硫化亜鉛系蛍光体は、却ってEL輝度が低下する。より高いEL輝度を実現するためには、立方晶構造の比率は98%以下、特に97%以下とすることが好ましい。なお、立方晶構造の比率は、X線結晶回折によって得られる回折ピークのリートベルト解析によって求めた値である。
【0020】
本発明の硫化亜鉛系蛍光体は、10μm以上40μm未満、好ましくは14μm以上30μm以下、特に好ましくは18μm以上25μm以下の中位径(d50)を有する。
本発明の硫化亜鉛系蛍光体は、硫化亜鉛系蛍光体前駆体を焼成して一次焼成物を形成する一次焼成工程、該一次焼成物の中位径(d50)が10μm以上40μm未満となるように粒径を調整する分級工程、該粒径を調整した一次焼成物に、エネルギー総量が0.5GJ/m以上10GJ/m以下の超音波を照射して六方晶構造の一部を立方晶構造に転移させる超音波照射工程、超音波照射後の一次焼成物をさらに焼成して、85%以上99%未満の立方晶構造と1%より多く15%以下の六方晶構造とが混在する硫化亜鉛系蛍光体を得る二次焼成工程を含む製造方法により調製することができる。
【0021】
以下、本発明の製造方法を工程別に詳細に説明する。

1.一次焼成工程
本発明において、一次焼成工程は、硫化亜鉛系蛍光体前駆体を焼成することによって、結晶化度を向上させ、立方晶構造を六方晶構造に転移させる工程である。
【0022】
一次焼成工程では、硫化亜鉛系蛍光体前駆体に融剤および好ましくは硫黄を添加し、常温から1000℃以上1200℃以下の範囲内の一定温度まで昇温して当該温度を保持した後、700℃以下の温度に急冷して、六方晶構造を導入した一次焼成物を形成する。
【0023】
常温から硫化亜鉛の結晶の成長が始まる直前の温度まで、好ましくは300℃以上850℃以下の温度範囲、より好ましくは300℃以上600℃以下の温度範囲では、焼成炉内に空気を連続的に導入して、酸素存在下で昇温することが好ましい。この昇温の間に、融剤が融化し、硫化亜鉛が造粒される。850℃を超える温度まで酸素存在下で昇温すると、硫化亜鉛粒子内部が酸化され、蛍光を示さない部分が生成されてしまうので好ましくない。
【0024】
次いで、窒素などの不活性ガス雰囲気下で1000℃以上1200℃以下の範囲内の一定温度まで昇温することが好ましい。昇温速度は、50℃/hr以上1000℃/hr以下が好ましく、60℃/hr以上900℃/hr以下がより好ましい。昇温速度が速すぎると、使用する機器に負荷がかかり、機器の寿命を低下させるばかりでなく、融剤の急激な分解を促進し、融化時間を短縮するため融剤の分散が不均一化しやすい。昇温速度が遅すぎると、経済的でない上に、低温融解性の融剤の場合、融剤が局在化して硫化亜鉛の粗大化を引き起こすため好ましくない。
【0025】
1000℃以上1200℃以下の範囲内の一定温度に到達した後、当該温度を好ましくは約1時間以上約5時間以下にわたり保持し、次いで700℃以下の温度まで急冷する。ここで、急冷とは、自然放冷より冷却速度が大きい冷却を意味する。冷却速度は特に限定されるものではなくできるだけ早く冷却することが好ましいが、容器のヒートショックを考慮すれば、600℃/hr以上30000℃/hr以下(すなわち、毎分10℃以上毎分500℃以下)が好ましく、720℃/hr以上18000℃/hr以下(すなわち、毎分12℃以上毎分300℃以下)がより好ましい。
【0026】
一次焼成工程における1000℃以上1200℃以下の範囲内の一定温度までの昇温、当該温度の保持および700℃以下の温度までの急冷により、六方晶構造へと変化した硫化亜鉛系蛍光体前駆体の結晶系を安定化させることができる。なお、約800℃を超えると硫化亜鉛系蛍光体前駆体の結晶系が変化し始め、約1020℃で立方晶構造から六方晶構造へと完全に変化する。この結晶系の転移は、X線回折による(100)面の回折パターンの出現によって確認することができる。
【0027】
冷却された一次焼成物は、次いで、酸性水溶液で洗浄されることが好ましい。酸性水溶液による洗浄によって、酸素により部分的に酸化されて生成した酸化亜鉛および融化に使用した融剤を除去することができ、凝集した一次焼成物を一次焼成物粒子に分離させることができる。酸性水溶液で一次焼成物を洗浄した後、イオン交換水で洗液が中性になるまで洗浄し、一次焼成物に付着した酸性水溶液を取り除く。
【0028】
次に一次焼成工程において用いる物質について説明する。
<硫化亜鉛系蛍光体前駆体>
本発明の製造方法で用いる「硫化亜鉛系蛍光体前駆体」とは、硫化亜鉛を母体とし、そのままでは紫外線励起による蛍光性を示さず、焼成等の加熱処理により蛍光性が付与されて硫化亜鉛系蛍光体となる前駆体を意味する。硫化亜鉛系蛍光体前駆体の製法は特に限定されない。例えば、(1)硫化亜鉛と発光中心金属を含む化合物を固体混合して固相反応によって得る方法、(2)発光中心金属を含む化合物の溶液に硫化亜鉛を浸漬して、硫化亜鉛中に該発光中心金属を取り込ませる方法、(3)亜鉛化合物と硫化剤を反応させる際に発光中心金属を含む化合物を共存させて硫化亜鉛と発光中心金属との複合物として得る方法のいずれの方法も用いることができる。
【0029】
硫化亜鉛系蛍光体前駆体にドープされる発光中心金属種としては、銅、銀、イリジウムおよび希土類元素を挙げることができる。これら発光中心金属のドープ量としては、特に限定されないが、高すぎる濃度では、発光中心金属が相互に干渉し、EL輝度が低下するため好ましくなく、他方、低すぎる濃度では、発光中心金属の効果が十分に得られず、強いEL輝度を得ることができない。発光中心金属のドープ量は、通常、硫化亜鉛系蛍光体の母体となる硫化亜鉛対して5重量ppm以上2000重量ppm以下とすることが好ましく、10重量ppm以上1000重量ppm以下とすることがより好ましく、20重量ppm以上800重量ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
共付活剤としてガリウム、アルミニウムまたはインジウムの少なくとも1種類の元素を含む化合物およびこれらの混合物を用いることができる。ガリウム、アルミニウム、インジウムはドナーとして作用するものである。共付活剤の添加量としては、多すぎても、少なすぎても、EL輝度の低下、硫化亜鉛蛍光体の安定性低下を招くため好ましくない。添加量は、通常、硫化亜鉛系蛍光体の母体となる硫化亜鉛に対して5重量ppm以上5000重量ppm以下であり、好ましくは10重量ppm以上1000重量ppm以下、より好ましくは20重量ppm以上800重量ppm以下である。
【0031】
共付活剤として、ドナーとして作用する塩素、フッ素、ヨウ素、臭素などのハロゲン元素を単独または混合物として用いることもできる。色純度、安定性を考慮して、塩素を使用することが好ましい。ハロゲン元素を共不活剤として用いる場合、その添加量は特に限定されないが、あまりに多すぎると経済的ではなく、また、濃度消光を引き起こすことがあり、逆にあまりに少なすぎると、高い蛍光効率を引き出すことができない。添加量は、通常、硫化亜鉛に対して5重量ppm以上5000重量ppm以下であり、10重量ppm以上1000重量ppm以下とすることが好ましく、20重量ppm以上800重量ppm以下とすることがより好ましい。
【0032】
<融剤>
本発明の製造方法では、一次焼成工程において、硫化亜鉛系蛍光体前駆体に融剤を添加することが好ましい。
【0033】
融剤としては、ハロゲン含有融剤、特に塩素含有融剤を好ましく使用することができる。塩素含有融剤の好適例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウムなどのアルカリ金属塩化物、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩化物、塩化アンモニウム、塩化亜鉛などを挙げることができる。臭素含有融剤の好適例としては、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウムなどのアルカリ金属臭化物、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化バリウム、臭化ストロンチウムなどのアルカリ土類金属臭化物、臭化アンモニウム、臭化亜鉛などを挙げることができる。ヨウ素含有融剤の好適例としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウムなどのアルカリ金属ヨウ化物、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化ストロンチウムなどのアルカリ土類金属ヨウ化物、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化亜鉛などを挙げることができる。残留性、融剤の融化温度の点から、複数の金属ハロゲン化物を混合することが好ましい。塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウムの混合物を用いることがより好ましい。
【0034】
融剤の使用量は特に制限されないが、通常、硫化亜鉛に対して、0.1重量%以上80重量%以下が好ましい。融剤の均一分散などの影響を考慮して、0.5重量%以上60重量%以下がより好ましく、1重量%以上40重量%以下が特に好ましい。
【0035】
融剤の添加方法は特に限定されず、固体の融剤と硫化亜鉛系蛍光体前駆体とを混合する固体混合法、融剤を水に溶解した後、硫化亜鉛系蛍光体前駆体と混合し乾燥する水溶液混合法、および使用する融剤の化学的安定性を考慮して、固体混合法と水溶液混合法とを組み合わせてもよい。
【0036】
<硫黄>
本発明の製造方法では、一次焼成工程において、硫化亜鉛系蛍光体前駆体に融剤と共に硫黄を添加してもよい。硫黄の添加により、焼成時の焼成炉内雰囲気を還元雰囲気に維持して、存在するかもしれない水および酸素による硫化亜鉛の酸化を抑制することができる。硫化亜鉛の酸化を抑制することを目的とする硫黄の添加量は、硫化亜鉛の重量を基準として0.01倍以上2倍以下が好ましく、0.02倍以上1倍以下がより好ましい。
【0037】
<洗浄用酸性水溶液>
洗浄に使用する酸性水溶液としては、ギ酸、酢酸などの有機酸の水溶液、塩酸、硫酸、リン酸などの鉱酸水溶液を使用することができる。一次焼成物への浸透性、表面への残留性を考慮して、酢酸水溶液、塩酸を使用することが好ましい。酸性水溶液中の酸の濃度は特に制限されるものではなく、使用する酸成分の種類に応じて異なるが、通常、pH=1〜5の酸性水溶液を用いることが好ましい。洗浄のために使用する酸性水溶液の量は、一次焼成物の1重量倍以上100重量倍以下、好ましくは5重量倍以上50重量倍以下の量である。
【0038】
2.分級工程
本分級工程は、次の超音波照射工程における六方晶構造から立方晶構造への転移を効率良く進めるために必要な工程である。
【0039】
粒径が小さすぎると超音波による衝撃力が伝播しにくく、六方晶構造から立方晶構造への転移が進みにくく、逆に粒径が大きすぎると六方晶構造が劈開して粒子が破壊されてしまう。よって、本発明の製造方法では、次に、一次焼成物の中位径(d50)が10μm以上40μm以下、好ましくは14μm以上30μm以下、特に好ましくは20μm以上25μm以下となるように粒径を揃える。具体的には、一次焼成物を目開き10μmの篩にかけて10μm未満の粒子を除去し、次に目開き40μmの篩にかけて40μm以上の粒子を除く。粒径をさらに細かく調整する場合には、目開きの異なる篩を用いて所望の粒径範囲の粒子を選別する。あるいは、サイクロン分離器などの遠心力を利用して粒径別に選別してもよい。
【0040】
3.超音波照射工程
本発明の製造方法では、粒径を揃えた一次焼成物を水性液に分散させ、分散液に超音波を照射して、一次焼成物中の硫化亜鉛粒子の六方晶構造の一部を立方晶構造に転移させる。ここで、一次焼成物に与えられる単位容積当たりのエネルギー(熱量)が、総量で0.5GJ/m以上10GJ/m未満、好ましくは1.0GJ/m以上8.0GJ/m以下、より好ましくは1.6GJ/m以上8.0GJ/m以下となるように超音波照射を制御することが必要である。0.5GJ/m未満のエネルギーでは、一次焼成物中の硫化亜鉛粒子に十分な歪みを導入することができず、二次焼成工程での立方晶構造への転移が十分ではなくなるため好ましくなく、10GJ/mを超えると、一次焼成物の粒子が破壊されてしまうので好ましくない。
【0041】
超音波照射エネルギーの総量を0.5GJ/m以上10GJ/m未満とするためには、1回あたりの超音波照射を800kW/m以上10000kW/m以下の範囲、好ましくは1000kW/m以上6000kW/m以下の範囲の照射出力で、1回あたりの照射時間を0.1分間以上30分間以内、好ましくは0.5分間以上20分間以内として、1回以上50回以下、好ましくは1回以上20回以下の連続照射を行う。1回あたりの超音波出力が低すぎると照射時間が長期化し、また処理回数が増えるので好ましくなく、1回あたりの超音波出力が高すぎると六方晶構造がC軸を対称軸にして劈開して粒子が破砕してしまうので好ましくない。また、1回あたりの照射時間が短すぎると処理回数が増えて生産性が低下するので好ましくなく、1回あたりの照射時間が長すぎると一次焼成物が沈降してしまうので好ましくない。
【0042】
照射する超音波の周波数に特に制限はないが、超音波照射によるキャビテーションの効果が発現する範囲が好ましく、通常、15〜50kHzの周波数の超音波を使用し、好ましくは、15〜40kHz、さらに好ましくは18〜37kHzの範囲の周波数を使用する。
【0043】
超音波照射は、一次焼成物を水性液に分散させた分散液に対して行う。水性液としては、反応に影響を与えなければ特に制限されず、例えば、水、水と水溶性有機溶媒との混合物などを挙げることができる。水溶性有機溶媒は2種以上の化合物の混合物でもよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジメチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエーテル類を好ましく使用することができる。中でも、引火の危険性の低さおよび酸化力の弱さなどを考慮して、アルコール類を使用することが好ましく、特にメタノールおよびエタノールが好ましい。
【0044】
一次焼成物の分散液中濃度は、0.1重量%以上50重量%以下、好ましくは0.5重量%以上30重量%以下、より好ましくは0.7重量%以上20重量%以下、最も好ましくは5重量%以上20重量%以下の範囲に調整することが望ましい。濃度が高すぎると、粒子同士の接触による衝撃が頻繁に生じて粒子同士の研磨作用を助長し、また粒子同士の接触による融着が生じて後述する超音波照射装置が備える送液管内壁に付着して閉塞を引き起こすため好ましくなく、濃度が低すぎると、処理コストが高くなるため好ましくない。
【0045】
超音波照射時の分散液の温度は、揮発による分散液濃度変化を考慮して、0.5℃以上80℃以下の範囲、好ましくは10℃以上50℃以下の範囲とすることが望ましい。温度が低すぎると、分散液の流動性が低下して分散液を流通させるための装置負荷が大きくなるため好ましくなく、温度が高すぎると、超音波照射によるエネルギーが粒子に加わり難くなるため好ましくない。
【0046】
超音波照射は、市販されている一般的な超音波照射装置を用いて行うことができる。但し、ポンプを用いて分散液を循環させる態様では、粒子同士の接触による粒子同士の衝撃や融着ならびに粒子が送液管内壁に付着して閉塞を引き起こす傾向があり好ましくない。本発明における超音波照射は、分散液の供給部に圧力をかけて分散液を押出し、分散液の流路に沿って設けられている複数の超音波照射部から超音波照射を受ける態様、または複数の超音波照射部を具備する送液管の頂部に分散液の供給部が設けられ、重力によって分散液が送液管を下降する際に連続的に複数の超音波照射部からの超音波照射を受ける態様が好ましい。このような態様での超音波照射を行う装置として、市販されている装置、例えばギンセン社GSD600MAT-10やHielshrer社UIP16000を使用することができる。
【0047】
本発明において、超音波照射後の一次焼成物は、六方晶構造の一部が立方晶構造に転移し、好ましくは10%以上70%以下の立方晶構造、より好ましくは20%以上65%以下の立方晶構造を含む。
【0048】
4.二次焼成工程
本発明では、超音波処理によって得た六方晶構造と立方晶構造とが混在する一次焼成物を不活性ガス雰囲気下で昇温し、650℃以上1000℃以下の範囲内の一定温度を保持した後、冷却する二次焼成に供する。
【0049】
昇温に先立ち、六方晶構造と立方晶構造とが混在する一次焼成物に、0.001重量%以上3重量%以下の銅、0.1重量%以上15重量%以下の亜鉛および0.1重量%以上50重量%以下の硫黄を含有させる。
【0050】
銅を含有させるためには、固体または水溶液形態の銅化合物として添加することが好ましい。銅化合物としては、塩化銅(I)、塩化銅(II)、硫酸銅、酢酸銅などを好ましく挙げることができる。経済性および操作性の観点から、硫酸銅および酢酸銅が好ましい。銅化合物は、一次焼成物に対して、0.002重量%以上10重量%以下、好ましくは0.004重量%以上5重量%以下の範囲で添加する。
【0051】
亜鉛を含有させるためには、固体または水溶液形態の亜鉛化合物として添加することが好ましい。亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、硫化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、蟻酸亜鉛などを挙げることができる。経済性および操作性の観点から、硫酸亜鉛および酸化亜鉛が好ましい。亜鉛化合物は、一次焼成物に対して、0.3重量%以上50重量%以下、好ましくは0.5重量%以上30重量%以下の範囲で添加する。
【0052】
硫黄を含有させるためには、硫黄またはチオアセトアミドおよびチオ尿素などの硫黄化合物として添加することが好ましい。経済性および操作性の観点から、硫黄の使用が好ましい。硫黄は、一次焼成物に対して、0.1重量%以上50重量%以下、好ましくは0.5重量%以上30重量%以下の範囲で添加する。
【0053】
六方晶構造と立方晶構造とが混在する一次焼成物と、銅、亜鉛および硫黄との混合物を、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、2時間以上5時間以下にわたり、650℃以上1000℃以下の範囲内の一定温度まで昇温し、当該温度に到達した後、空気を導入して酸素含有雰囲気として、30分以上2時間以下にわたり、650℃以上1000℃以下の範囲内の一定温度を保持し、次いで冷却する。酸素濃度は特に限定されないが、1体積%以上30体積%以下とすることが好ましい。
【0054】
冷却速度は早いほど好ましく、毎分8℃以上毎分500℃以下の冷却速度が好ましい。特に、容器のヒートショック性を考慮して、毎分12℃以上毎分300℃以下の冷却速度が好ましい。
【0055】
5.洗浄及び乾燥
冷却した二次焼成物には、未反応のまま残留する余分の亜鉛化合物、ドーピングされなかった余分の発光中心金属元素を含む化合物、黒色化した金属化合物などが付着しているため、これらを洗浄により除去する。
【0056】
洗浄には、酸性水溶液、シアン化塩水溶液などを用いることができるが、いずれの場合も最終的にはイオン交換水で十分に洗浄することが必要である。
酸性水溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸の水溶液、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸の水溶液を用いることができ、表面へのイオン残留性の点から塩酸および酢酸水溶液が特に好ましい。ただし、硫化亜鉛粒子である二次焼成物は、高濃度の酸性物質と接触すると分解することがあるので、酸性水溶液の場合には0.1重量%以上20重量%以下、好ましくは1重量%以上10重量%以下の濃度とすることが望ましい。
【0057】
シアン化塩水溶液は、二次焼成物表面に残留する余分な銅、銀、金、マンガン、イリジウムおよび希土類元素を除去するために適している。シアン化塩水溶液としては、0.1重量%以上1重量%以下の濃度のシアン化ナトリウム水溶液およびシアン化カリウム水溶液を好ましく用いることができる。シアン化塩水溶液を用いる場合には、二次焼成物に対して重量比で10倍以上100倍以下の量で使用する。
【0058】
洗浄後、真空乾燥や熱風乾燥などで乾燥して、硫化亜鉛系蛍光体を得る。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

[測定項目]
本明細書における実施例および比較例における測定項目の測定条件は以下のとおりである。
【0060】
<立方晶構造と六方晶構造との比率>
本明細書における立方晶構造と六方晶構造との比率は、X線回折装置として株式会社リガク製RINT−2400を用いて得たX線回折データから、BRUKER株式会社製ソフトウェアTOPAS3でリートベルト解析方法を用いて決定した。
【0061】
<発色解析>
作製したEL素子を日本分光株式会社製分光光度計FP−6500の試料ホルダにはさみ、励起光シャッターを閉め、さらにサンプルホルダに外光が入らないように暗幕を張って200V、1kHzの電圧を印加し、素子を発光させて測定した。その際、輝度補正せずに発光を検出した。発光色解析は、付属の日本分光株式会社製ソフトウェアSpectra Manager for Windows(登録商標)95/NT Ver. 1.00.00 2005の発光色解析を使用して色度(x値、y値)に変換した。
【0062】
<中位径>
堀場製作所製PARTICA LA−950を用いて測定した。

[前駆体の調製]
本明細書における実施例および比較例で用いた硫化亜鉛系蛍光体前駆体は下記製造例により製造した。
【0063】
塩化亜鉛98g、硫酸銅5水和物0.080g(銅290ppm相当)、6塩化イリジウム3アンモニウム0.016g、塩酸2gをイオン交換水50gに溶解して塩化亜鉛水溶液を調製した。一方、チオアセトアミド110.0gをイオン交換水に溶解し1000mlとしてチオアセトアミド水溶液を調製した。
【0064】
ディーンスターク、還流管、温度計、撹拌器を装着した2L四つ口フラスコに、デカン1000mlを仕込み、系内を窒素置換した。当該四つ口フラスコを内温150℃に調整したオイル浴を用いて加温し、フラスコ内のデカンを130℃に昇温したのち、当該塩化亜鉛水溶液を毎分0.33mlで、当該チオアセトアミド水溶液を毎分3.3mlで、両液を混合しながら添加した。混合液のpHは2.5であった。留出する水をディーンスタークで除去しながら反応を進めた。約5時間で全ての水溶液を添加し、さらに30分間系内の水分を除去した。室温まで冷却させた後、析出した硫化物を沈殿させ、上澄み液を除去して、目的物である硫化亜鉛系蛍光体前駆体を回収し、真空乾燥器にて、100℃で12時間乾燥した。回収量は57.4gであり、収率は82%であった。
【0065】
[実施例1]
<一次焼成>
調製した硫化亜鉛系蛍光体前駆体27gに、塩化カリウム1.00g、塩化ナトリウム1.17g、塩化マグネシウム6水和物6.87gを加え、ボールミルで混合した。得られた混合物に、硫黄1.45gをさらに添加し、坩堝に入れた。この坩堝を焼成炉内にて空気を導入しながら400℃/hrの速度で昇温した。炉内温度が800℃に到達したところで、導入する気体を空気から窒素に切り替え、炉内温度を1100℃まで上昇させ、1100℃で1時間保持し、その後、600℃/hrの速度で室温まで冷却した。
【0066】
得られた一次焼成物を15%酢酸水溶液200gに添加し、一次焼成物を分散させた。酢酸溶液をデカンテーションで除き、イオン交換水500gで洗液が中性になるまで洗浄し、一次焼成物を得た。
【0067】
<分級>
得られた一次焼成物を目開き10μmの篩にかけて10μm以下の粒径の粒子を取り除き、さらに目開き40μmの篩にかけて40μmを超える粒径の粒子を取り除いた。デカンテーションで上澄み液を除去した後、真空乾燥器に入れ、乾燥室内温度100℃で12時間乾燥した。一次焼成物の収量は24g、中位径(d50)は22μmであった。
【0068】
<超音波照射>
照射用容器1個につき1個の超音波振動子(BRANSON製、Degital Sonifier、周波数20kHz)を設置して構成した超音波照射部を12連装した連続超音波照射装置を用いた。分級した一次焼成物20gにイオン交換水180gを加えて分散させ、分散液とした。1容器あたりの滞留時間が2分となる流速で分散液を供給した。超音波振動子の超音波の出力を2500kW/mとし、エネルギー総量を3.6GJ/mとした。破砕によって生じた微細粒子を目開き10μmの湿式篩を用いて除去した。デカンテーションで上澄み液を除去した後、真空乾燥器に入れ、80℃で12時間乾燥した。超音波照射後の一次焼成物の収量は16g、回収率は80%であった。超音波照射後の一次焼成物についてX線回折分析を行い、立方晶構造と六方晶構造との比率を求めた。
【0069】
<二次焼成>
超音波照射後の一次焼成物10gに、硫酸銅5水和物0.25g、硫酸亜鉛7水和物2.5gを混合し、坩堝に入れた。坩堝を焼成炉に入れ、窒素雰囲気下、400℃/hrの速度で昇温し、焼成炉内温度が850℃に到達したところで、窒素から空気の導入に切り替え、1時間空気を導入した。その後、再び、空気から窒素の導入に切り替え、さらに2時間保持した後、500℃/hrで室温まで冷却した。
【0070】
得られた二次焼成物を、5%塩酸水溶液100gを用いて洗浄した。酸性水溶液を除去し、イオン交換水500gを用いて中性になるまで洗浄を繰り返した。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、1%シアン化ナトリウム水溶液200gで洗浄し、余分な硫化物を除去した。さらに、イオン交換水を用いて中性を示すまで繰り返し洗浄した後、真空乾燥器にて100℃で12時間乾燥した。二次焼成物(硫化亜鉛系蛍光体)の収量は9.2g、中位径(d50)は23μmであった。二次焼成物についてX線回折分析を行い、立方晶構造と六方晶構造との比率を求めた。
【0071】
<EL素子の作製>
得られた硫化亜鉛系蛍光体1.5gに、フッ素系バインダー(DuPont製7155)1.0gを添加し、混合、脱泡して発光層ペーストを作製した。この発光層ペーストを、20mm角スクリーン版(200メッシュ、25μm)を用いて、ITO付きPETフィルム上に膜厚40μmとなるように塗布した。発光層ペースト層上に、チタン酸バリウムペースト(DuPont製7153)を、スクリーン版(150メッシュ、25μm)を用いて塗布し、100℃で10分間乾燥させ、さらにチタン酸バリウムペーストを同様に塗布して100℃で10分間乾燥させ、20μmの誘電層を製膜した。その上面に、銀ペースト(アチソン製461SS)を、スクリーン版(150メッシュ、25μm)を用いて塗布し、100℃で10分間乾燥させ、電極を製膜して、印刷型EL素子を構成した。得られた素子について、200V、1kHzでEL材料評価を行なった。
【0072】
[実施例2]
超音波照射の出力を1110kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を1.6GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0073】
[実施例3]
超音波照射の出力を1875kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を2.7GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0074】
[実施例4]
超音波照射の出力を5347kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を7.7GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0075】
[実施例5]
超音波照射の出力を6320kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を9.1GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0076】
[比較例1]
超音波照射の出力を146kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を0.21GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0077】
[比較例2]
超音波照射の出力を236kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を0.34GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0078】
[比較例3]
超音波照射の出力を28kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を0.04GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0079】
[比較例4]
立方晶構造の比率が99%である、Shanghai Keyan Phosphor TechnologyCo.,Ltd社の硫化亜鉛系蛍光体D512-Sを使用して実施例1と同様にしてEL輝度と発光色を評価した。
【0080】
[比較例5]
実施例1で一次焼成物を分級して取り除いた粒径10μm未満の粒子(中位径d50=9.6μm)20gを用いて、超音波照射の出力を5347kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を7.7GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0081】
[比較例6]
実施例1で一次焼成物を分級して取り除いた粒径40μm以上の粒子(中位径d50=41.4μm)20gを用いて、超音波照射の出力を5347kW/mとして、超音波照射のエネルギー総量を7.7GJ/mとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0082】
【表1】

【0083】
表1より、超音波照射エネルギー総量が0.5GJ/m未満では、二次焼成物の立方晶構造の比率が極めて低く、蛍光体のEL輝度も非常に低くなること、および超音波照射エネルギー総量が7.7GJ/mであっても、一次焼成物の中位径が10μm以下であるかまたは40μmを超えると、二次焼成物の立方晶構造の比率が低く、EL輝度も低いことがわかる。さらに、立方晶構造の比率が99%である市販の硫化亜鉛系蛍光体では、予想に反してEL輝度が高くなかった。
【0084】
一方、本発明の方法によれば、二次焼成物の立方晶構造の比率が86〜98%と大きく、硫化亜鉛系蛍光体のEL輝度も176cd/m以上と高い。特に、超音波照射エネルギー総量が2GJ/mを超えると、二次焼成物の立方晶構造の比率が90%以上となり、y値も0.2未満となり青色蛍光体が得られることがわかる。
【0085】
以上のことから、EL輝度が高い青色蛍光体を得るには、立方晶構造の比率は85%以上99%未満が好ましく、90%以上98%未満がより好ましいといえる。一次焼成物の粒径(中位径)を10μm以上40μm未満に分級した後、0.5J/m以上10GJ/m以下となる超音波を照射する本発明の方法によれば、このような好適な範囲の結晶構造を有する硫化亜鉛系蛍光体を製造することができる。また、分級した一次焼成物を含む分散液を複数の超音波照射部を通過するように流動させて連続的に超音波照射する本発明の方法では、単一の超音波照射部と分散液貯蔵部との間で分散液を循環させるバッチ式照射と比べて、高い生産性を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
85%以上99%未満の立方晶構造と、1%より多く15%以下の六方晶構造とが混在する硫化亜鉛系蛍光体。
【請求項2】
10μm以上40μm未満の中位径(d50)を有する、請求項1に記載の硫化亜鉛系蛍光体。
【請求項3】
硫化亜鉛系蛍光体前駆体を焼成して一次焼成物を形成する一次焼成工程、
該一次焼成物の中位径(d50)が10μm以上40μm未満となるように粒径を調整する分級工程、
該粒径を調整した一次焼成物に、単位容積当たりのエネルギー(熱量)が総量で0.5〜10GJ/mとなる超音波を照射して六方晶構造の一部を立方晶構造に転移させる超音波照射工程、
超音波照射後の一次焼成物をさらに焼成して、85%以上99%未満の立方晶構造と1%より多く15%以下の六方晶構造とが混在する硫化亜鉛系蛍光体を得る二次焼成工程
を含む硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
【請求項4】
超音波照射工程後の一次焼成物は10%以上70%以下の立方晶構造を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
二次焼成工程での焼成温度は650℃以上1000℃以下である、請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
超音波照射工程において、一次焼成物を含む分散液の通液配管に沿って設けられた容器および超音波振動子から構成される単一もしくは複数の超音波照射部を具備する超音波照射装置を用いる、請求項3〜5のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−25861(P2012−25861A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166364(P2010−166364)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】