説明

硫化水素塩を含有する消化器系疾患の予防/治療用組成物

【課題】 新規な作用機序を有する、効果的な消化器系疾患の予防、治療用組成物、特に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、下痢、腸炎等を治療および/または予防するための組成物を提供する。
【解決手段】 硫化水素塩を有効成分として含有してなる消化器系疾患の予防または治療用組成物。より詳しくは、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される硫化水素塩を有効成分として含有する消化器系疾患の予防または治療用組成物の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化器系疾患予防、治療用組成物、特に、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、下痢、腸炎等を予防および/または治療するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の消化器系潰瘍の原因は、攻撃因子と防御因子とのバランスの破綻により生じる。破綻を惹起する因子としては、薬物(例えば、非ステロイド系消炎剤、副腎皮質ホルモン剤、抗生物質、抗ガン剤、経口血糖降下剤)、ストレス、アルコール、腐食性薬物、肝硬変、アニキサス、食生活等が挙げられる。現在、臨床においては、攻撃因子抑制薬、防御因子増強薬およびこれらの組み合わせが使用されている。
【0003】
攻撃因子抑制薬としては、制酸薬(例えば、重曹、水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウム等)、抗コリン薬(例えば、硫酸アトロピン、塩酸ピレンゼピン等)、H2受容体拮抗薬(例えば、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、ロキサチジン等)、プロトンポンプ阻害薬(例えば、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム等)、抗ガストリン薬(例えば、プログルミド、セクレチン、ウロガストロン)および抗ペプシン薬(ショ糖硫酸エステル、スクラルファート等)等が臨床において使用されている。
【0004】
防御因子増強薬としては、粘膜保護薬(例えば、スクラルファート、レパミピド、テプレノン等)、粘膜被覆薬(例えば、アルギン酸ナトリウム、アズノール製剤等)、組織修復促進薬(例えば、アセグルタミドアルミニウム、アルジオキサ、ゲファルナート等)、粘液産生促進薬(例えば、プログルミド、テプレノン、セクレチン、アルジオキサ等)、粘膜微小循環改善薬(例えば、塩酸セトラキサート、ベネキサート、スルピリド等)、プロスタグランジン合成促進薬(例えば、ソファルコン)およびプロスタグランジン製剤(例えば、オルソプロスチル、ミソプロストール、エンプロスチル等)等が臨床において使用されている。また、慢性胃炎には、消化管運動機能改善薬(例えば、シサプリド、ナパジシル酸アクラトニウム、ベタネコール、ドンペリドン、メトクロプラミド、マレイン酸トリメブチン)も使用されている。
【0005】
攻撃因子抑制薬であるH受容体拮抗薬およびプロトンポンプ阻害薬等は強力な胃酸分泌抑制作用を有し、かつ顕著な治療効果を有しているため広く使用されている。しかしながら, 一旦完治した後であっても薬物の服用を中止すると、胃酸分泌のリバウンド、潰瘍の再発や悪化が高頻度で認められることが明らかとなっている。また、H2受容体拮抗薬では完治しない潰瘍が存在すること、およびプロトンポンプ阻害薬の使用によってはエンテロクロマフィン様細胞の過形成、高ガストリン血症、胃カルチノイドの出現等が報告され、その投薬量が制限されている等の問題があった。また、防御因子増強薬は上記攻撃因子抑制薬に比較して作用が穏やかであるが、治療効果は補助的なものであった。そのため、消化器系疾患を有する患者および内科医からは、H受容体拮抗薬およびプロトンポンプ阻害薬ではなく、これらとは異なる新規な作用機序を介して効果的に用いることのできる攻撃因子抑制薬または防御因子増強薬の開発が望まれていた。
【0006】
一方、硫化水素(HS)は一般的に有毒ガスとして知られ、HSに関するほとんどの研究がその毒性作用に集中し(Reiffenstein RJら, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., vol. 32, pp.109-134 (1992))、その生理学的機能については注目されていなかった。しかしながら、比較的高レベルの内因性HSが、ラット、ヒトおよびウシの脳内で測定され(Goodwin LRら, J. Anal. Toxicol., vol. 13, pp. 105-109(1989);Warenycia MWら, Neurotoxicology, vol. 10, pp. 191-200 (1989);Savage JCおよびGould DH, J. Chromatogr., vol. 526, pp. 540-545 (1990))、HSが生理機能を有し得ることが示唆されている。
【0007】
内因性の硫化水素(HS)は、シスタチオニンβ−シンターゼ(CBS)およびシスタチオニンγ−リアーゼ(CSE)を含めたピリドキサル−5'−リン酸依存性酵素によってシステインから形成し得る(Stipanuk MHおよびBeck PW, Biochem. J., vol. 206, pp. 267-277 (1982);Griffith OW, Methods in enzymology, vol. 143, pp. 366-376 (1987);Erickson PFら, Biochem. J., vol. 269, pp. 335-340 (1990);Swaroop Mら, J. Biol. Chem., vol. 267, pp. 11455-11461 (1992))。CBSおよびCSEの双方は、肝臓および腎臓におけるそれらの活性について研究されている(Stipanuk MHおよびBeck PW, Biochem. J., vol. 206, pp. 267-277 (1982);Erickson PFら, Biochem. J., vol. 269, pp. 335-340 (1990);Swaroop Mら, J. Biol. Chem., vol. 267, pp. 11455-11461 (1992))。
【0008】
また、CBSは脳内で発現され、CBS阻害薬ヒドロキシルアミンおよびアミノオキシアセテートは、HSの生成を抑制するが、CBSアクチベーターS−アデノシル−L−メチオニン(SAM)はHS生成を増強する。生理的濃度のHSは、特にNMDA受容体の活性を増強し、海馬における長期増強(LTP)の誘導を変更する(Abe KおよびKimura H, J. Neurosci., vol. 16, pp. 1066-1071 (1996))。cAMPを媒介とした経路は、HSによってNMDA受容体の変調に関与し得る(Kimura H, Biochem. Biophys. Res. Commun., vol. 267, pp. 129-133 (2000))。また、HSは、視床下部からのコルチコトロピン放出ホルモンの放出を調節できる(Russo CDら, J. Neuroendocrinol., vol. 12, pp. 225-233 (2000))。これらの観察に基づいて、CBSが脳内のHSを生成でき、かつHSは神経調節物質として機能し得ることが提案された(Abe KおよびKimura H, J. Neurosci., vol. 16, pp. 1066-1071 (1996))。
【0009】
さらに、近年、脳内で局在化した酵素によって内因性に産生されている他の2種のガス、一酸化窒素(NO)および一酸化炭素(CO)との関連性について注目されている。
【0010】
しかしながら、毒性学的な側面から肝臓および腎臓、ならびに生理学的な側面から脳においてHSが注目されているが、胃、小腸等の消化器系におけるHSの生理学的機能に関する報告は現在まで存在しない。
なお、本願発明では、溶液に溶かすことにより物理的にHSを発生させる硫化水素ナトリウムあるいは硫化水素カルシウム等の硫化水素塩を用いた。
【非特許文献1】J. Neurosci., vol. 16(3), 1066-1071 (1996)
【非特許文献2】Biochem. Biophys. Res. Commun., vol. 237(3), 527-531 (1997)
【非特許文献3】J. Biol. Chem., vol. 274(18), 12675-12684 (1999)
【非特許文献4】J. Neurosci., vol. 22(9), 3386-3391 (2002)
【非特許文献5】FASEB J., vol. 19, 623-625 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術に鑑みて行われたものであり、本発明の目的は、効果的な消化器系疾患の予防、治療用組成物、特に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、下痢、腸炎等を治療および/または予防するための組成物を提供することである。また、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤に観られるリバウンド現象を解決すべく新規な作用機序を有すると考えられる上記組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、消化器系疾患、特に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、下痢、腸炎等を治療および/または予防するための組成物として好ましい薬剤を開発すべく研究を行い、新たな作用機序を見出すために鋭意研究した結果、硫化水素塩が消化器系に対する作用を有すること、すなわち、代表的な胃潰瘍の実験モデルである虚血−再灌流モデルにおいて粘膜保護作用を有することを初めて見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 硫化水素塩を有効成分として含有してなる消化器系疾患の予防または治療用組成物、
(2) 消化器系疾患が、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、下痢および腸炎から選択される疾患である上記(1)の組成物、
(3) 硫化水素塩を有効成分として含有してなる消化管粘膜保護用組成物、
(4) 該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される上記(1)〜(3)のいずれかの組成物、
(5) 該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウムである上記(4)の組成物、および
(6) DDS製剤化されている上記(1)〜(5)のいずれかの組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、新規な作用機序を有し、かつ優れた粘膜保護作用等を有する予防、治療薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
硫化水素塩は、天然に存在するか、または化学反応もしくは微生物(硫酸還元細菌)反応等により人工的に合成されてもよい。硫化水素塩として、例えば、硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化水素カリウム(KHS)、硫化水素カルシウム(Ca(HS))、硫化水素アンモニウム(NHHS)のごときHSイオンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられ、好ましくは、硫化水素ナトリウムである。
【0016】
予防剤または治療剤として用いる場合、本発明の組成物を、そのままあるいは水に希釈する等の各種処理を施して使用することができ、医薬品、医薬部外品等に配合して使用することができる。
【0017】
硫化水素(HS)相当量とは、硫化水素塩をモル量に換算し、そのモル量に対応する硫化水素の質量をいう。
【0018】
本発明の組成物の投与方法としては、経口投与、静脈内投与以外に、経粘膜投与、経皮投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与等が適宜選択でき、その投与方法に応じて、種々の製剤として用いることができる。
以下に、各製剤について記載するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種製剤として用いることができる。
【0019】
投与の用量は、治療されるべき特定の疾患、治療されるべき疾患の重篤度、特定の対象の年齢、体重、一般的身体状態、当業者によく知られるような対象が取り得る他の薬物療法に依存し、対象の血液中の化合物および/または代謝物の血中レベルまたは濃度、および/または治療されるべき特定の疾患に対する対象の応答を測定することに応じて広く変更できる。典型的には、消化器系疾患の予防薬または治療薬として用いる場合には、硫化水素塩の経口投与量は、30mg/kg〜360mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは60mg/kg〜180mg/kgである。全身投与を行う場合、特に静脈内投与の場合には老若男女または体型等により変動があるが、有効血中濃度が30mg/mL〜360mg/mL、より好ましくは60mg/mL〜180mg/mLの範囲となるように投与される。
【0020】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤等があり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。また、口腔内局所投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、バッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤等があり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0021】
上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書でいうDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠等)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤等、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用等を勘案した上で、最適の製剤形態にした製剤をいう。
【0022】
DDSの構成要素には基本的に薬物、薬物放出モジュール、被膜および治療プログラムから成り、各々の構成要素について、特に放出を停止させた時に速やかに血中濃度が低下する半減期の短い薬物が好ましく、投与部位の生体組織と反応しないおおいが好ましく、さらに、設定された期間において最良の薬物濃度を維持する治療プログラムを有するのが好ましい。薬物放出モジュールは基本的に薬物貯蔵庫、放出制御部、エネルギー源および放出孔または放出表面を有している。これら基本的構成要素は全て揃っている必要はなく、適宜追加あるいは削除等を行い、最良の形態を選択することができる。
【0023】
DDSに使用できる材料としては、高分子、シクロデキストリン誘導体、レシチン等がある。高分子には不溶性高分子(シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテート等)、水溶性高分子およびヒドロキシルゲル形成高分子(ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート架橋体、ポリアクリル架橋体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、水溶性セルロース誘導体、架橋ポロキサマー、キチン、キトサン等)、徐溶解性高分子(エチルセルロース、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステル等)、胃溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマー等)、腸溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、アクリル酸系ポリマー等)、生分解性高分子(熱凝固または架橋アルブミン、架橋ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ポリシアノアクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトン等)があり、剤型によって適宜選択することができる。
【0024】
特に、シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、メチルビニルエーテル・無水マレインサン共重合体の部分エステルは薬物の放出制御に使用でき、セルロースアセテートは浸透圧ポンプの材料として使用でき、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースは徐放性製剤の膜素材として使用でき、ポリアクリル架橋体は口腔粘膜あるいは眼粘膜付着剤として使用できる。
また、製剤中にはその剤形(経口投与剤、注射剤、座剤等の公知の剤形)に応じて、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤等の添加剤を加えて製造することができる。
【0025】
これら各添加剤について、それぞれ具体例を挙げて例示するが、これらに特に限定されるものではない。
溶剤:精製水、注射用水、生理食塩水、ラッカセイ油、エタノール、グリセリン、
賦形剤:デンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトール、
コーティング剤:白糖、ゼラチン、酢酸フタル酸セルロースおよび上記記載した高分子、
基剤:ワセリン、植物油、マクロゴール、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性基剤、
結合剤:デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴム等の天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン等の合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、
滑沢剤:ステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類、コムギデンプン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、
崩壊剤:デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、セルロースおよびその誘導体、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロース、
【0026】
溶解補助剤:シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、
懸濁化剤:アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤、
粘稠剤:カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ホドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、
乳化剤:アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、各種界面活性剤、レシチン、
安定剤:亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、キレート剤、不活性ガス、還元性物質、
緩衝剤:リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸、
等張化剤:塩化ナトリウム、ブドウ糖、
無痛化剤:塩酸プロカイン、リドカイン、ベンジルアルコール、
保存剤:安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサール、
矯味剤:白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリン、
芳香剤:トウヒチンキ、ローズ油、
着色剤:水溶性食用色素、レーキ色素。
【0027】
上記したように、医薬品を除法化製剤、腸溶性製剤または薬物放出制御製剤等のDDS製剤化することにより、薬物の有効血中濃度の持続化、バイオアベイラビリティーの向上等の効果が期待できる
製剤中には、上記以外の添加物として通常の組成物に使用されている成分を用いることができ、これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0028】
つぎに、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
虚血再灌流後の胃粘膜損傷に対するHS発生剤 NaHSの効果
代表的な病態モデルである虚血再灌流後の胃粘膜損傷モデルにおいて、Wistar系ラットを用いてHS発生剤であるNaHSの保護効果について検討した。
1)実験方法
i)実験動物
6−9週齢の雄性Wistar系ラット(Japan SLC, Inc., Japan)を用いた。ラットは室温23±2℃、湿度50±5%及び12時間の明暗サイクル(明期:0700から1900)の環境下で1週間の予備飼育の後、実験に供した。予備飼育期間中は固型飼料(CRF−1、オリエンタル酵母)及び水を自由に摂取させた。
ii)ラット虚血再灌流による潰瘍モデルの作製
ラットを18時間絶食した後ウレタン麻酔した後、開腹し腹腔動脈をクレンメではさみ血流を遮断する。遮断25分後にNaHSを経口投与し、その5分後クレンメをはずし血流を再開する。開腹部をミッヘル針で閉じ2時間放置後ラットを脱血死させ、胃を取り出し写真を撮り損傷部位をWinROOFで解析した。データは(傷害部位面積/胃体部面積)×100(%)で表した。
2)実験結果
結果を図1に示す。NaHS 0.01μmol/ラット投与群では、(NaHだけを含まない)溶媒に比較して病変面積が有意に低下した(P<0.05)。一方、NaHS 0.03μmol/ラット投与群では、溶媒添加群と比較して病変面積の有意な低下が見られなかった。
【実施例2】
【0030】
で誘発されたRGM−1細胞障害に対するHS発生剤 NaHSの効果
で誘発されたラット胃粘膜上皮由来培養細胞(RGM−1細胞)障害モデルを用いて、細胞レベルでの障害に対するHSの効果を検討した。
1)実験方法
RGM1を96 wellマイクロプレートに10000 cells/wellになるように調製し、20% FBSを含むF−12 HAM培地で24時間培養後、無血清F−12 HAM培地に交換さらに24時間培養した。その後NaHSを添加し、直後にHO 1mMを作用させた。H添加4時間後に培養上清中の乳酸脱水素(LDH)量をLDHアッセイキットを用いて測定した。MAPK/ERK阻害薬、JNK阻害薬、P−38MAPキナーゼ阻害薬のごとき阻害薬はNaHS添加1時間前に作用させた。
2)実験結果
結果を図2〜5に示す。H無添加(Hの溶媒添加)群に比較し、H添加群ではLDH遊離が有意に増大し、H添加によるRGM−1細胞障害が確認された。この細胞障害は、NaHS 500μMおよび1000μMでは有意に増大したが、1500μMにおいて有意に低下させることが分かった。ところが、3000μMにおいて、その作用は1500μMと比較して減弱したものの、Hの溶媒添加群と比較して細胞傷害は有意に低下していた(図2)。マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害薬U0126およびc-Jun N-末端キナーゼ(JNK)阻害薬SP600125を添加した場合に、そのNaHSによる保護効果が有意に減弱し、そのNaHSの作用はMEKおよびJNKの活性化が関与するものであることが示唆された(図3〜4)。一方、p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPキナーゼ)阻害薬SB203580添加によりNaHSによる保護効果は低下するが、有意な差ではなかった。従って、そのNaHSの作用はp38の活性化を介するものではないことが示唆された(図5)。
【実施例3】
【0031】
錠剤
以下の処方に従い、常法により錠剤を調製した。
結晶セルロース 100mg
NaHS 100mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 100mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 20mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
乳糖 適量
合計 400mg
【実施例4】
【0032】
錠剤
以下の処方に従い、常法により錠剤を調製した。
結晶セルロース 100mg
Ca(HS) 100mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 100mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 20mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
乳糖 適量
合計 400mg
【実施例5】
【0033】
カプセル剤
以下の処方に従い、常法によりカプセル剤を調製した。
NaHS 100mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 100mg
架橋型カルボキシメチルセルロースナトリウム 10mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
乳糖 85mg
合計 300mg
【実施例6】
【0034】
カプセル剤
以下の処方に従い、常法によりカプセル剤を調製した。
Ca(HS) 100mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 100mg
架橋型カルボキシメチルセルロースナトリウム 10mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
乳糖 85mg
合計 300mg
【実施例7】
【0035】
注射剤
以下の処方に従い、常法により注射剤を調製した。
ブドウ糖 10mg
NaHS 100mg
注射用精製水 適量
合計 100mL
【実施例8】
【0036】
注射剤
以下の処方に従い、常法により注射剤を調製した。
ブドウ糖 10mg
Ca(HS) 100mg
注射用精製水 適量
合計 100mL

これらの実施例3〜8で得られた製剤は、いずれも本発明の消化管粘膜保護用組成物、消化器系疾患の予防、治療用組成物として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、ラット虚血再灌流により誘発された胃粘膜損傷に対するNaHSの効果を示す。
【図2】図2は、Hで誘発されたRGM−1細胞障害に対するHS発生剤NaHSの効果を示す。
【図3】図3は、Hで誘発されたRGM−1細胞障害に対するNaHSの保護効果に対するMEK阻害剤 U0126の作用を示す。
【図4】図4は、Hで誘発されたRGM−1細胞障害に対するNaHSの保護効果に対するJNK阻害剤 SP600125の作用を示す。
【図5】図5は、Hで誘発されたRGM−1細胞障害に対するNaHSの保護効果に対するp38阻害剤 SB203580の作用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素塩を有効成分として含有してなる消化器系疾患の予防または治療用組成物。
【請求項2】
消化器系疾患が、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、下痢および腸炎から選択される疾患である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
硫化水素塩を有効成分として含有してなる消化管粘膜保護用組成物。
【請求項4】
該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化水素カルシウムおよび硫化水素アンモニウムよりなる群から選択される請求項1〜3いずれか1記載の組成物。
【請求項5】
該硫化水素塩が、硫化水素ナトリウムである請求項4記載の組成物。
【請求項6】
DDS製剤化されている請求項1〜5いずれか1項記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−63167(P2007−63167A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249603(P2005−249603)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000238201)扶桑薬品工業株式会社 (42)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】