説明

硫化物単独または一酸化窒素との組み合わせを含む組成物およびその使用

本発明は、動物、組織または器官に、硫化物を単独でまたは一酸化窒素と組み合わせて接触させることにより、血管形成に関連する血管形成ならびに血管の成長、または遊走を刺激する方法を提供する。これらの方法は、創傷治癒を促進する、血液の流れを増加させる、虚血または低酸素傷害を含む、減少した血液の流れに関連する疾患および障害を治療ならびに予防することを含む、各種目的のために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国特許法第119条(e)項の規定の下、2007年6月15日に出願された米国特許仮出願第60/944,444号の利益を請求する。この仮出願は、参照することによりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、血管形成を調節するための組成物および方法に関連する。これらの化合物および方法は、創傷治癒ならびに冠状動脈または血管症状および障害のような血管形成関連症状の予防および治療のために使用されてもよい。
【背景技術】
【0003】
血管形成または「新血管形成」とは、新しい血管の形成ならびに内皮細胞から構成される毛細血管の分岐および増殖を言う(非特許文献1)。哺乳類において、血管形成は成熟した生物の適切な発達を確かなものとし、かつ血管形成は卵子が着床できるように子宮を整えるので、繁殖において重要な役割を担う。血管形成は損傷に対する身体の反応、腫瘍の増殖、創傷治癒、および慢性炎症性疾患に重要な役割を担う(特許文献1;非特許文献2)。
【0004】
新しい血管の形成は、正常および病的な組織の発達に必要とされる。血管形成は、創傷および骨折の治癒、合成皮膚の移植片の血管新生、ならびに血管閉塞または狭窄の場合の側副血行増強を助ける。血管形成を調節することが、多くの症状の調節における制御点、かつ正常組織の増殖および疾患の調節に対する治療機会となる可能性がある(特許文献2)。
【0005】
血管形成は、血管形成支持因子および抗血管形成因子のバランスによって制御される多段階プロセスである。このプロセスの後半の段階は、管様構造内での内皮細胞(EC)の増殖および組織化を含む。繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のような増殖因子は、内皮細胞の増殖と分化を促進する。血管形成を抑制することは、血管形成の刺激因子に対する内皮細胞の反応を阻害することによって達成され得る(例えば、VEGFまたはbFGF;非特許文献3)。
【0006】
血管形成は、損傷に対する反応として、創傷治癒、心筋虚血、冠動脈疾患、狭心症および抹消血管疾患において起こる。過剰な血管形成は悪影響を及ぼす可能性があり、ガン、腫瘍の増殖、炎症、関節炎、関節リュウマチ、乾癬および眼疾患において観察される。過剰な血管形成は腫瘍および疾患を治療するための治療法として抑制されてもよい(非特許文献3)。
【0007】
治療的に、血管形成を誘導することは、心筋虚血および末梢血管障害を含む多くの症状にある患者にとって有益である。遺伝子治療誘導(非特許文献1)またはサイトカインによる刺激後の骨髄細胞の投与(非特許文献4)は、血管形成を誘導することが証明されている。
【0008】
明らかに、血管形成を調節する組成物および方法が、当技術分野において必要とされている。血管形成を調節する効果的な薬物療法は患者にとって実質的に有益であり、この薬物療法により遺伝子治療またはサイトカインを用いる治療の課題を避けることができる。本発明は、有益な方法で血管形成を調節する硫化物組成物を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第07/005670号パンフレット
【特許文献2】米国特許第第6,191,144号明細書
【特許文献3】国際公開第05/041655号パンフレット
【特許文献4】米国仮出願第60/877,051号明細書
【特許文献5】米国仮出願第60/897,739号明細書
【特許文献6】米国特許第7,122,529号明細書
【特許文献7】米国特許第6,538,033号明細書
【特許文献8】米国特許第5,482,925号明細書
【特許文献9】米国特許第5,823,180号明細書
【特許文献10】米国特許第6,314,956号明細書
【特許文献11】米国特許第5,692,495号明細書
【特許文献12】米国特許出願第11/408,734号明細書
【特許文献13】米国特許出願第11/868,348号明細書
【特許文献14】米国特許出願第12/023840号明細書
【特許文献15】国際公開第08/043081号パンフレット
【特許文献16】米国仮特許出願第60/849,900号明細書
【特許文献17】米国仮特許出願第60/896,727号明細書
【特許文献18】米国特許第6,458,758号明細書
【特許文献19】米国特許第5,492,742号明細書
【特許文献20】米国特許第5,853,749号明細書
【特許文献21】米国特許第5,804,213号明細書
【特許文献22】米国特許第5,770,229号明細書
【特許文献23】米国仮特許出願第60/868,727号明細書
【特許文献24】米国仮特許出願第60/896,739号明細書
【特許文献25】国際公開第06/113914号パンフレット
【特許文献26】米国特許第6,109,260号明細書
【特許文献27】米国特許第6,581,592号明細書
【特許文献28】米国特許第6,089,229号明細書
【特許文献29】米国特許第6,125,846号明細書
【特許文献30】米国特許第5,839,433号明細書
【特許文献31】米国特許第6,164,276号明細書
【特許文献32】米国特許第5,732,693号明細書
【特許文献33】米国特許第5,558,083号明細書
【特許文献34】米国特許出願公開第2005/013625号明細書
【特許文献35】米国特許出願公開第2005/0147692号明細書
【特許文献36】米国特許出願公開第2005/0170019号明細書
【特許文献37】米国特許第7,122,027号明細書
【特許文献38】米国特許第4,765,539号明細書
【特許文献39】米国特許第4,962,885号明細書
【特許文献40】国際公開第94/12285号パンフレット
【特許文献41】国際公開第94/14543号パンフレット
【特許文献42】国際公開第95/26234号パンフレット
【特許文献43】国際公開第95/26235号パンフレット
【特許文献44】国際公開第95/32807号パンフレット
【特許文献45】米国特許第5,954,047号明細書
【特許文献46】米国特許第5,950,619号明細書
【特許文献47】米国特許第5,970,974号明細書
【特許文献48】米国特許第5,988,162号明細書
【特許文献49】米国特許第4,790,327号明細書
【特許文献50】米国特許第7,013,894号明細書
【特許文献51】米国特許第6,938,619号明細書
【特許文献52】米国特許第5,670,127号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ziche et al., Curr Drug Targets, 5:485-493 (2004)
【非特許文献2】Folkman et al., Science, 235:442-447 (1987)
【非特許文献3】Folkman, J. Annu. Rev. Med., 57:1-18 (2006)
【非特許文献4】Ferrar N., and Kerbel., R.S. Nature, 438:967-74 (2005)
【非特許文献5】Bundgard, H., Design of Prodrugs (1985), pp. 7-9, 21-24 (Elsevier, Amsterdam)
【非特許文献6】Higuchi, T., et al., "Pro-drugs as Novel Delivery Systems," A.C.S. Symposium Series, Vol. 14
【非特許文献7】Bioreversible Carriers in Drug Design, Ed. Edward B. Roche, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987
【非特許文献8】Ohkawa et al, Nitric Oxide (2001) 5:515
【非特許文献9】Remington's Pharmaceutical Sciences (2005); 21st Edition, Troy, David B. Ed. Lippincott, Williams and Wilkins
【非特許文献10】Loutrari et al., JPET 2004, 311 :568-575
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、例えば、動物または動物組織もしくは動物臓器における血管形成を促進し、亢進し、または刺激するための新規の組成物および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態では、本発明は、生体物質の血管形成を刺激する方法であって、その生体物質に有効量の硫化物を投与することを含む方法を提供する。特定の実施形態では、生体物質は動物、例えば、哺乳類または動物の組織もしくは臓器である。その組織または臓器は動物内に存在してもよいし、動物から取り出されてもよい。
【0013】
本発明の方法の様々な実施形態では、硫化物は、前記硫化物と薬剤的に許容可能な担体とを含む安定な液体の医薬品組成物として投与され、前記硫化物の濃度、pHおよび酸化生成物は、前記液体の医薬品組成物の貯蔵後も、合格基準の範囲内にとどまる。
【0014】
特定の実施形態では、安定な液体の医薬品組成物は、1当量の水酸化ナトリウム溶液に1当量の硫化水素ガスを溶解することによって調製され、前記組成物のpHは6.5〜8.5の範囲にあり、前記組成物のオスモル濃度は250〜330mOsmol/Lの範囲にあり、前記組成物の酸素含有量は5μM以下であり、前記組成物の酸化生成物は3か月の貯蔵後、0%〜3.0%(w/v)の範囲にある。
【0015】
関連する一実施形態では、本発明は生体物質の血管形成を刺激する方法であって、その生体物質に有効量の硫化物を有効量の一酸化窒素と組み合わせて投与することを含む方法を提供する。
【0016】
特定の実施形態では、一酸化窒素と硫化物はガスとして投与される。他の実施形態では、一酸化窒素と硫化物は液体として投与される。関連する実施形態では、一酸化窒素はガスとして投与され、硫化物は液体として投与される。他の関連する実施形態では、一酸化窒素は液体として投与され、前記硫化物はガスとして投与される。一酸化窒素と硫化物は同時に投与されてもよい。他の実施形態では、硫化物は一酸化窒素の投与に先だって投与される、または一酸化窒素は硫化物の投与に先だって投与される。
【0017】
一実施形態では、生体物質は動物である。特定の実施形態では、生体物質は動物の組織または臓器である。
【0018】
さらに関連する実施形態では、本発明は、例えば、火傷、外傷、創傷、損傷、化学療法、薬物治療または病気の過程後の皮膚反応のような動物の皮膚の剥皮領域の再上皮形成を促進する方法であって、有効量の硫化物を単独でまたは有効量の一酸化窒素と組み合わせて動物に投与することを含む方法を提供する。
【0019】
さらに別の関連する実施形態では、本発明は、患者の創傷治癒を促進するための方法であって、有効量の硫化物を単独でまたは有効量の一酸化窒素と組み合わせて患者に投与することを含む。様々な実施形態では、硫化物は局部的にまたは局所的に投与される。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、生体の構成物質における虚血組織への血液の流れを増加させるための方法であって、血管形成を刺激し、前記虚血組織への血液の流れを増加させるために有効な量の硫化物を、生体物質へ投与することを含む方法を含む。
【0021】
本発明の別の実施形態は、患者における減少した、または不十分な血液の流れに関連する損傷または疾患を治療するための、または予防するための方法であって、有効量の硫化物を単独で、または有効量の一酸化窒素と組み合わせて前記患者に投与することを含む方法を提供する。減少した、または不十分な血液の流れは、一過的または慢性的であってよい。それは、減少した、または不十分な脳の血液の流れであってもよい。特定の実施形態では、不十分な血液の流れは前記患者の体内で局在化している。特定の実施形態では、前記損傷または疾患は、糖尿病性足潰瘍、抹消血管疾患、冠状動脈の損傷もしくは疾患、例えば、うっ血性心不全、心筋虚血、冠状動脈疾患、もしくは狭心症、または眼疾患である。
【0022】
さらに関連する実施形態では、本発明は、血管形成に関連する細胞を増加、促進、または成長、増殖、もしくは遊走を刺激する方法であって、有効量の硫化物を単独で、または有効な量の一酸化窒素と組み合わせて前記細胞と接触させることを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1Aは、絨毛尿膜(CAM)上における硫化物(NaHS)液体製剤の濃度上昇効果を示しているグラフである。NaHSまたは賦形剤(対照)を1cm2のCAM上に塗布し、37℃で、48時間インキュベートした。CAMを固定し、卵から切り出した。画像解析ソフトを利用して、血管網の全長を測定した。グラフは、表示した濃度のNaHSに曝露したときの血管の成長(対照に対する%)を示している。結果を、対照に対する平均値±標準誤差;p<0.05として表現する。 図1Bは、賦形剤(対照、写真上)または硫化物の液体製剤(NaHS、写真下)を用いた処理後のCAM血管網を示している代表的な写真である。
【図2】図2Aは、硫化物の液体製剤(60μM NaHS)または賦形剤(対照)が入っているMatrigel(登録商標)でコーティングされた96穴プレートのウェルの中で、37℃で6時間インキュベートした時のヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の管形成を比較している図である。管網状構造の長さを、プレートのウェルの全域内で測定した。結果を、対照に対する平均値±標準誤差;p<0.05として表現する。 図2Bは、対照(写真上)または60μMのNaHS(写真下)で処理した後の、Matrigel(登録商標)上での管様構造の形成を示している代表的な顕微鏡写真である。
【図3】基準値に対する百分率として評価した、硫化物の液体製剤(6μM、60μMおよび600μMのNaHS)の濃度が上昇するにつれHUVEC細胞の増殖速度が上昇していることを示すグラフである。各時間、4〜6ウェルを用い、重複して継代数2の実験を行った。
【図4】創傷治癒のモデルにおいて、硫化物(NaHS)の液体製剤の存在下で、再上皮形成が改善したことを示すグラフである。深い麻酔下、ラットの背面全層の体表面積の30%に熱湯熱傷を与える。火傷後48時間から、その動物は焼痂と正常組織との間の移行帯における4つの等間隔の部分に毎日、皮下投与された。創傷が縮小した割合に加えて、創面と再上皮形成の面積測定を行う。結果を、対照に対する平均値±標準誤差、n=5、*p<0.05して表現する。
【図5】図5Aは、上皮細胞の遊走を硫化物(NaHS)の液体の医薬製剤が促すことを示すグラフである。HUVECを一晩血清飢餓状態におき、それからトリプシン処理を行い、トランスウェルに移し、37℃で4時間、硫化物の液体製剤(6μMまたは60μMのNaHS)または賦形剤(対照)の存在下で、遊走させた。トランスウェルフィルタ上部の遊走していない細胞を綿棒で取り除いた。遊走した細胞を、室温で30分間、カルソン液で固定し、それから室温で20分間、トルイジンブルーで染色した。遊走した細胞を、8個の確率場でスコア化し、倍数変化を対照ウェルの数と比較して決定した。結果を、対照に対する平均値±標準誤差、n=5、*p<0.05として表現する。 図5Bは、賦形剤(対照、写真上)または液体の硫化物(NaHS;IK−1001)処理(写真下)における細胞遊走を示しているトランスウェル膜の代表的な顕微鏡写真である。
【図6】管様構造の形成、遊走、増殖および創傷治癒における、硫化物の液体製剤の血管形成促進および再上皮形成効果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
逆の意味を指定しない限り、本明細書と請求項で使用するとき、以下の用語は以下に示された意味を有する。
【0025】
本明細書で使用するとき、「血管形成」という用語は、血管の増殖または形成を意味する。血管形成は、自然発生する血管形成を指す脈管形成および、既存のものから分裂することによる新しい血管形成を指す腸重積に加えて、前から存在する血管から新しい血管が増殖することも含む。血管形成は、「血管新生」、「血管の再生」、「新しい血管の発生」、「血管再生」、および「増強した側副血行」を包含する。
【0026】
「血管形成剤」と「血管形成の薬剤」という用語は、単独であろうと別の物質との組み合わせであろうと、血管形成を刺激する、加速する、促進するまたは増強する任意の化合物または物質を指す。
【0027】
「抗血管形成剤」と「抗血管形成の薬剤」という用語は、単独であろうと別の物質と組み合わせであろうと、血管形成を阻害する、防止する、または減少させる任意の化合物または物質を指す。
【0028】
「血管形成関連症状」とは、血管形成に依存するまたは関連する任意の過程、疾患、障害、または症状を含む。この用語は、あまりに多くの、望まない、もしくは増強した血管形成に由来するまたは関連する疾患、障害、および症状に加えて、不十分なもしくは減少した血管形成に由来するまたは関連する疾患、障害、および症状を含む。この用語には、ガン、糖尿病、眼障害および創傷治癒を含まない症状に加えて、ガン、糖尿病、眼障害および創傷治癒を含む症状が含まれる。「血管形成依存的症状」とは、血管形成を必要とする任意の疾患、障害、または症状である。血管形成依存的または血管形成関連症状は、要求されるまたは望まれる(例えば、有益な)血管形成に加えて、要求されない血管形成に関連(例えば、起因)し得る。
【0029】
「再上皮形成」という用語は、皮膚の剥皮領域上の上皮の回復を言う。この用語は、自然な増殖によって、移植すなわち成形術によって、または創傷治癒過程の間に、上皮が回復することを含む。再上皮形成の過程は、上皮の閉塞を導く上皮細胞の遊走と増殖を含む。例としては、火傷、外傷、創傷、損傷、化学療法、薬剤治療後の皮膚反応、または、損傷もしくは皮膚の上皮を失う疾患の経過の後に起こる皮膚の再上皮形成が挙げられる。
【0030】
「生体の構成物質」という用語は、細胞、組織、臓器および/または生物を含む、任意の生きている生体の構成物質、ならびにそれらの組み合わせを指す。本発明の方法は、その部分が生物の中に残っていようといまいと、またはその生物から取り出されていようといまいと、またはその生物全体上にあってもなくても、生物の一部分(例えば、細胞、組織、および/または1つ以上の臓器)に実行できることが想到される。さらに、細胞および組織の構成の中で、同種のおよび異種の細胞集団の両方とも、本発明の実施形態の対象であってよいことも想到される。
【0031】
「慢性」という用語は、長期間続いているおよび/または頻繁に再発することを特徴とする症状、徴候、または疾患(例えば、慢性大腸炎)を言う。慢性疾患は、すぐに終わる急性疾患とは異なり、長期間継続する、またはゆっくり進行する疾患を言う。
【0032】
「インビボ生体物質」という用語は、インビボ、すなわち生物の中に常にある、または生物に付着している生体物質を言う。さらに、「生体物質」という用語は、「生体の構成物質」という用語と同義語として理解される。特定の実施形態では、生物から分離される1つ以上の細胞、組織、または臓器を意図する。「単離」または「エキソビボ」という用語は、このような生体の構成物質について説明するために使用される。本発明の方法は、インビボのおよび/または単離された生体の構成物質において実行してよいことが想到される。
【0033】
本発明の方法に従って処理される細胞は、真核細胞または原核細胞であってよい。特定の実施形態では、細胞は真核細胞である。より詳細には、いくつかの実施形態において、細胞は哺乳類の細胞である。哺乳類の細胞としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ヒツジまたはウマの細胞が挙げられるが、それらに限定されない。
【0034】
本発明の細胞は、二倍体であってもよいが、一部の場合には、細胞は一倍体(性細胞)である。さらに、細胞は、倍数体、異数体または無核であってもよい。特定の実施形態では、細胞は、特定の組織または臓器、例えば、心臓、肺、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、皮膚、骨、静脈、動脈、角膜、血液、小腸、大腸、脳、脊髄、平滑筋、骨格筋、卵巣、精巣、子宮および臍帯から成る群から選択される1つに由来する。特定の実施形態では、細胞は、以下の細胞種の1つを特徴とする:血小板、骨髄細胞、赤血球、リンパ球、脂肪細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、内分泌細胞、グリア細胞、ニューロン、分泌細胞、バリア機能細胞、収縮性細胞、吸収細胞、粘膜細胞、縁細胞(角膜由来)、幹細胞(全能性の、多能性の、または多分化能の)、受精していないまたは受精した卵母細胞、または精子。
【0035】
「組織」および「臓器」という用語は、それらの通常のおよび単純な意味に従って使用される。組織は細胞から構成されるが、「組織」という用語は、明確な性質の構造物質を形成する類似の細胞の集合体を言うと理解されよう。さらに、臓器は組織の特別な種類である。特定の実施形態では、組織または臓器は「単離される」、すなわち、生物の中には存在しないことを意味する。
【0036】
「生物」としては、哺乳類、爬虫類、両生類、鳥類、魚類、無脊椎動物、真菌、植物、プロテスト(protest)および原核生物が挙げられるが、それらに限定されない。特定の実施形態では、哺乳類は、有袋類、霊長類、またはげっ歯類である。別の実施形態では、生物は、ヒトまたはヒトではない動物である。具体的な実施形態では、生物は、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ウサギ、ヒツジ、ショウジョウバエ、カエル、ムシまたはヒトである。
【0037】
「随意の」または「随意的な」とは、引き続いて述べられる出来事の事象が起こっても起こらなくてもよいことを意味し、かつその記述は、前記事象または出来事が起こる場合とそれが起こらない場合を含む。
【0038】
「薬剤的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤」という用語は、米国食品医薬品局によって、ヒトまたは家畜への使用が許容可能であるとして承認されているアジュバンド、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、保存剤、染色/着色剤、風味増強剤、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、等張剤、溶媒、または乳化剤を含むが、それらに限定されない。
【0039】
「投与」という用語は、本発明の組成物が意図された機能、例えば、血管形成の促進または刺激を実行できる投与経路を含む。治療される疾患または症状に依存して、非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下注射)、経口投与(例えば、食事)、局所的投与、経鼻投与、吸入による投与、直腸投与、または徐放性微小担体を介するものが挙げられるが、それらに限定されない様々な投与の経路が可能である。
【0040】
「有効量」とは、例えば、本明細書で記載されているような血管形成関連症状において、血管形成化合物のような薬剤が、例えば血管形成を刺激するというような意図された機能を実行できる量を含む。有効量は、適切な薬物動態特性に加えて、生物活性、年齢、体重、性、健康状態、治療される症状の重篤度を含む多くの因子に依存する。硫化水素のような薬剤の有効量は、その薬剤が一酸化窒素のような別の薬剤と組み合わせて使用されるときと比較して、単独で使用されるときには、量が異なってもよい。
【0041】
「医薬品組成物」とは、ヒトのような哺乳類へ生物学的に活性のある化合物を送達するための、当技術分野で一般的に受け入れられている化合物および媒体の製剤を言う。よって、このような媒体は、薬剤的に許容可能な全ての担体、希釈剤または賦形剤を含む。
【0042】
「プロドラッグ」とは、生理的条件下または加溶媒分解によって、本発明の生物学的に活性のある化合物へと変換できる化合物を言う。そのため、「プロドラッグ」という用語は、薬剤的に許容可能である代謝前駆体を言う。プロドラッグは、それが必要とされる被験体に投与される時は不活性であってもよいが、インビボでは活性のある化合物へと変換される。プロドラッグは、典型的には、活性のある化合物を生成するために、例えば血液中での加水分解によってインビボで急速に変換される。プロドラッグ化合物は、大抵、哺乳類の生物において、溶解性、組織適合性、または遅延放出という利点を提示する(非特許文献5)。プロドラッグの考察は、また、非特許文献6および非特許文献7の中で行われており、両者は本明細書に参照することにより完全に組み込まれている。
【0043】
「硫化物」とは、−2の原子価状態にある硫黄を言い、H2Sまたはその塩のいずれかを指す(例えば、NaHS、Na2Sなど)。硫化物はまた、硫化重水素または2HSとも言う。「H2S」は、以下の式に従って、水溶液中におけるカルコゲニド塩およびH2S供与体、水硫化ナトリウム(NaHS)の自然解離によって生成される。
【0044】
【化1】

【0045】
2S(硫化水素)ガスは酸素消費の有力な阻害剤であり、代謝を減少させることができ、かつ低酸素障害からマウスおよびラットを守ることができることが最近証明された。硫化物と他のカルコゲニドを用いた治療は、滞留を引き起こし、かつ生体物質の生存性を高め、かつ生体物質を低酸素および虚血性障害から守ることが示されている(特許文献3)。硫化水素ガスは、一般的に医療用ガスとは考えられてはいなかったが、この予期せぬ結果は、多くの動物およびヒトの疾患、特に低酸素症および虚血に関連する疾患および損傷の治療または予防に、硫化物が使用できることを支持する。
【0046】
硫化物は、哺乳類において、血管拡張、細胞保護作用、代謝低下(または滞留)、および消炎が挙げられるが、これらに限定されない多くの生理作用を有する。しかし、これまでに血管形成において役割を果たすことは示されていなかった。硫化物を侵襲性のインターベンション治療において使用することは、FDAによって未だ承認されていない。しかし、非経口的にまたは吸入/人口呼吸のいずれかによって哺乳類に投与される場合に、硫化物は、心筋梗塞、心臓手術、致死的な出血、脳および肝臓の虚血、ならびに致死的な低酸素状態における損傷を回復し、かつ生存性を高める。硫化物は、同様のまたは他のヒトの疾患または損傷において、損傷を回復し、かつ生存性を高めることができる。
【0047】
本明細書に記載されている本発明の実施形態は、主として硫黄化合物に関連するが、他の実施形態では、本発明は硫黄以外のカルコゲニドを用いて実行されてもよいことが理解される。特定の実施形態では、カルコゲニド化合物は硫黄を含み、一方で別の実施形態では、セレニウム、テルル、またはポロニウムを含む。特定の実施形態では、カルコゲニド化合物は、1つ以上の露出されたスルフィド基を含む。特定の実施形態では、カルコゲニド化合物は、1、2、3、4、5、6もしくはそれ以上の露出されたスルフィド基、またはその中で導き出せる任意の数のスルフィド基を含むことが意図されている。特定の実施形態において、このようなスルフィド基を含む化合物はCS2(二硫化炭素)である。
【0048】
特定の実施形態では、カルコゲニドは塩であり、好ましくは、カルコゲンが−2の酸化状態にある塩である。本発明の実施形態に包含されるスルフィド塩としては、硫化ナトリウム(Na2S)、硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化カリウム(K2S)、硫化水素カリウム(KHS)、硫化リチウム(Li2S)、硫化ルビジウム(Rb2S)、硫化セシウム(Cs2S)、硫化アンモニウム((NH42S)、硫化水素アンモニウム((NH4)HS)、硫化ベリリウム(BeS)、硫化マグネシウム(MgS)、硫化カルシウム(CaS)、硫化ストロンチウム(SrS)、硫化バリウム(BaS)などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0049】
「カルコゲニド前駆体」とは、曝露時、またはその後すぐに生体物質に曝露されるようなある条件下で、例えば硫化水素(H2S)のようなカルコゲニドを生成することができる化合物または薬剤を言う。そのような前駆体は、1種以上の酵素反応または化学反応で、H2Sまたは別のカルコゲニドを生成する。特定の実施形態では、カルコゲニド前駆体は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、メチルメルカプタン(CH3SH)、メルカプトエタノール、チオシアン酸塩、シアン化水素、メタンチオール(MeSH)、または二硫化炭素(CS2)である。特定の実施形態では、カルコゲニド前駆体は、CS2、MeSHまたはDMSである。およそこれらの分子の大きさである化合物は、特に熟考される(すなわち、これらの分子量の約50%以内である)。
【0050】
「カルコゲニド」または「カルコゲニド化合物」とは、カルコゲン元素、すなわち周期表の6族にあるものを含む化合物を言うが、酸化物を除く。これらの元素は硫黄(S)、セレニウム(Se)、テルル(Te)およびポロニウム(Po)である。特定のカルコゲニドおよびその塩としては、H2S、Na2S、NaHS、K2S、KHS、Rb2S、CS2S、(NH42S、(NH4)HS、BeS、MgS、CaS、SrS、BaS、H2Se、Na2Se、NaHSe、K2Se、KHSe、Rb2Se、CS2Se、(NH42Se、(NH4)HSe、BeSe、MgSe、CaSe、SrSe、PoSeおよびBaSeが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
硫化物は不安定な化合物で、酸化生成物を生成することは、当技術分野においてよく知られている。本明細書で使用するとき、「硫化物の酸化生成物」とは、例えば、亜硫酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、ポリスルフィド、ジチオン酸塩、ポリチオン酸塩、および元素の硫黄を含む、硫化物の化学変換に由来する生成物を言う。
【0052】
本明細書で開示される発明は、また、開示された化合物および薬剤の代謝産物を包含することも意味する。このような産物は、例えば、主に酵素反応による、投与される化合物の酸化、還元、加水分解、アミド化、エステル化などに由来してもよい。したがって、本発明は、本発明の化合物を、その代謝産物を生成するのに十分な時間、哺乳類に接触させることを含むプロセスによって生成される化合物を含む。このような産物は、典型的に、ラット、マウス、モルモット、サル、またはヒトのような動物に検出可能な用量で、本発明の放射線で標識された化合物を投与し、代謝が起こるのに十分な時間をおき、尿、血液または他の生体標本からその変換産物を単離することによって同定される。
【0053】
「治療的に有効な量」とは、哺乳類、好ましくはヒトに投与される場合、以下に定義されるような、哺乳類、好ましくはヒトの疾患または症状において有効な治療をもたらすのに十分である化合物または薬剤の量を言う。「治療的に有効な量」で構成される化合物または薬剤の量は、化合物、症状およびその重篤度、投与の方法、および治療される哺乳類の年齢に依存して変化するが、当業者が有する知識および本開示により、当業者が通常決定することができる。硫化水素のような薬剤の治療の的に有効な量は、その薬剤が一酸化窒素のような別の薬剤と組み合わせて用いられる場合と比較して、その薬剤が単独で用いられる場合には、量が異なってもよいということも理解される。
【0054】
本明細書で用いられている「治療すること」または「治療」とは、関心のある疾患または症状を患う哺乳類、好ましくはヒトにおける、組織損傷のような関心のある疾患または症状の治療を含み、(i)特に、哺乳類が疾患にかかりやすいが、まだその疾患であると診断されてないとき、哺乳類に疾患または症状が生じるのを予防すること、(ii)疾患または症状を阻害すること、すなわちその進行を止めること、(iii)疾患または症状を緩和すること、すなわち疾患または症状の軽減すること、または(iv)疾患または症状由来の徴候を緩和することも含む。
【0055】
本明細書で使用するとき、「疾患」、「障害」、および「症状」という用語は、互換的に用いられても良く、または、特定の疾患もしくは症状が既知の原因物質を有していない(その結果、病因が未だ分かっていない)ために、疾患としては認識されていないが、多かれ少なかれ特定の一組の徴候を医者が確認している、好ましくない症状もしくは症候群としてのみ認識されているという点において、異なってもよい。
【0056】
特定の実施形態では、本発明は、硫化物のようなカルコゲニドを含む安定な液体の組成物の使用に関する。本発明の目的のために、医薬品組成物に関する「液体」という用語は、「水性の」という用語を含むと意図する。
【0057】
一態様では、本発明は安定な液体の医薬品組成物であって、カルコゲニドもしくはカルコゲニド化合物またはその塩もしくは前駆体を含み、前記カルコゲニドの濃度、pH、および酸化生成物は、前記液体の医薬品組成物が前もって特定された期間貯蔵された後、合格基準(記述されている試験に対する数値限定、範囲、または他の基準)の範囲内にとどまる、医薬品組成物に関する。
【0058】
本明細書で使用するとき、「安定な」とは、合格基準の範囲にとどまる、活性のあるカルコゲニド組成物の濃度、カルコゲニド組成物のpHおよび/またはカルコゲニドの酸化生成物を言う。
【0059】
「合格基準」とは、薬物原料または薬物製品が、意図された使用に許容可能と判断されるため従うべき一式の基準を言う。本明細書で使用するとき、合格基準は、哺乳類で使用される薬物製品に対して定義される、検査、分析方法の参考文献、および適切な評価基準のリストである。例えば、カルコゲニドの安定な液体の医薬品組成物に対する合格基準とは、特定の薬物組成物が安定性試験に基づいて薬剤的用途で許容可能である薬物原料、pH、および酸化生成物の前もって決められた範囲一式を言う。局所的,および美容に使用される場合を含む他の処方に対しては、合格基準が異なっていてもよい。許容可能な基準は、一般的に、各産業に対して定義されている。
【0060】
本明細書に記載されているような、様々な合格基準は、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration)によって公表されている医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準の規則(Good Manufacturing Practice Regulations)を満たす任意の値または範囲を含む。特定の実施形態では、合格基準は、4℃、25℃、または40℃で、0、1、2、3、または4カ月貯蔵の時点におけるpHの範囲が7.4〜9.0、6.5〜8.5、または6.5〜9.0である。特定の実施形態では、合格基準は、4℃、25℃、または40℃で、0、1、2、3、または4カ月貯蔵の時点における重量オスモル濃度の範囲が250〜350mOsm/kgまたはオスモル濃度の範囲が250〜330mOsm/Lである。特定の実施形態では、合格基準は、4℃、25℃、または40℃で、0、1、2、3、または4カ月貯蔵の時点における硫化物濃度の濃度が5.0〜6.0mg/mlである。別の実施形態では、合格基準は、4℃、25℃、または40℃で、0、1、2、3、または4カ月貯蔵の時点におけるカルコゲニドの濃度が0.1〜100mg/ml、1〜10mg/ml、または95〜150mMの範囲にある。他の実施形態では、合格基準は、4℃、25℃、または40℃で、0、1、2、3、または4カ月貯蔵の時点において硫化物が、硫化物および酸化生成物の合計の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99重量/体積%存在する。関連する実施形態では、4℃、25℃、または40℃で、0、1、2、3、または4カ月貯蔵の時点で、酸化生成物は、硫化物および酸化生成物の10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%またはそれ未満の濃度で存在する。
【0061】
血管形成を刺激し、血管形成関連疾患および障害を治療する方法
本発明は、部分的には、硫化物が血管形成を刺激するという驚くべき発見に基づいている。本明細書に記載されているように、硫化物の液体製剤(NaHS)のような硫化物と内皮細胞を接触する際、硫化物の濃度を上昇させていくと、様々な異なる血管形成アッセイにおいて、血管形成または新血管形成が濃度依存的に増加する。そのため、本発明は、硫化物が血管形成を促進するまたは増強する薬剤であると確証する。したがって、本発明は、インビトロ、エキソビボ、および組織および生物内のようなインビボにおいて、血管形成を促進するまたは刺激するための硫化物の薬剤的使用を想到し、かつ組織、臓器、生物、および動物のような生体物質内で血管形成を促進するおよび増強させるための組成物と方法を提供する。さらに、これらの方法および組成物は、内皮細胞のような血管形成に関連する細胞の成長または増殖を促進するまたは増強するために使用されてもよい。
【0062】
血管形成と様々な血管形成関連症状との関係を考慮すると、本発明は、さらに、血管形成関連症状の治療と予防のための組成物と方法を含む。特定の実施形態では、本発明の組成物と方法は、不十分な、軽減された、または不適切な血管形成関連症状を治療するために使用される。一実施形態では、例えば、それらは創傷治癒を促進するために使用される。
【0063】
一実施形態では、本発明は、有効量の硫化物と生体物質を接触させることを含む、生体物質内での血管形成を促進する、高める、または増強させる方法を含む。特定の実施形態では、生体物質は哺乳類であり、例えば、哺乳類細胞、組織、臓器、または動物である。特定の実施形態では、生体物質は哺乳類のような動物である。特定の実施形態では、血管形成の量は、硫化物の治療が行われない場合と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、または少なくとも1000%増加する。同様に、血管形成の量は、硫化物の治療が行われない場合と比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍増加してもよい。血管形成の量は、添付の実施例に記載されている任意のアッセイを含む、当技術分野における所定のアッセイを用いて簡単に決定することができる。
【0064】
ある症状において、硫化物は、血管形成を開始させるために使用されてもよいが、他の症状においては、硫化物は血管形成を増強するまたは高めるために使用されてもよいことが理解される。「血管形成を促進する」という用語は、血管形成を開始させることおよび高めることまたは増強することの両方を包含する。そのため、例えば、特定の実施形態では、硫化物(または本明細書に記載の他の薬剤)は、血管形成に関連する細胞、例えば内皮細胞の成長、増殖、または遊走を誘発するまたは促進するために使用されてもよい。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の方法、組成物、およびデバイスは、生体物質内における血管形成の刺激または血管形成の増強から恩恵を得る、任意の様々な疾患および障害の治療または予防のために用いられる。例えば、本発明の組成物と方法は、インビトロ、またはエキソビボで、例えば、哺乳類のような生物に移植するのに適した組織または臓器の培養、貯蔵、または発生において、生体物質の血管形成を促進する、高める、または増強するために使用されてもよい。本発明の組成物と方法は、また、インビボで、例えば創傷部分、または虚血もしくは低酸素症の影響を受けやすいまたはそれらの危険にある生物内の部分において、血管形成を促進する、高める、または増強するために使用されても良く、それによって、虚血の影響を受けやすいまたはその危険にある組織への血液の流れおよび酸素化が増加し、その部分の組織損傷を軽減するまたは予防する。
【0066】
特定の実施形態では、本発明は、血液の流れが高まることによって恩恵を受ける病的症状、疾患および障害を治療するまたは予防するための改良された組成物と方法を含む。そのような症状の例として、虚血に関連する疾患が挙げられる。虚血に関連する疾患の例として、心筋虚血、抹消虚血、脳虚血、または深刻な静脈血栓症が挙げられる。さらに、関連する実施形態では、本発明は、創傷治癒、糖尿病(例えば、糖尿病性足潰瘍)、眼疾患または眼障害、心臓病、鬱血性心不全、心筋虚血、抹消虚血、リンパ管の血管障害、冠動脈疾患、脳卒中、狭心症および末梢血管疾患の治療のための改良された組成物ならびに方法を含む。具体的な実施形態では、本発明の組成物および方法は、創傷治癒または再建手術において使用される。
【0067】
一実施形態では、本発明は、血管形成を必要とする被験体、または前記被験体から得られる細胞、組織、もしくは臓器に、血管形成を刺激するまたは増強するのに有効な量の硫化物を含む組成物を投与することによって、血管形成関連症状を治療するための方法を含む。特定の実施形態では、被験体は哺乳類である。特定の実施形態では、硫化物は局所的に、例えば、血管形成を必要としている被験体内のある部位へ投与される。そのような被験体内の部位の例として、創傷および、虚血または低酸素症の影響を受けやすいまたはその危険にある組織または臓器が挙げられる。他の実施形態では、硫化物は全身に投与される。さらなる実施形態では、硫化物は、被験体から得られた細胞、組織、または臓器へエキソビボで投与され、それから硫化物と接触させられた細胞、組織、または臓器は被験体に戻される。
【0068】
一実施形態では、本発明は、虚血または低酸素状態において、生体物質の生存性を高める、および/または生体物質への損傷を低減するための方法であって、血管形成を刺激するまたは増強するのに有効な量の硫化物と生体物質を接触させることを伴う方法を提供する。
【0069】
一態様では、本発明は、血管形成を調節するために有効な量の硫化物を含む組成物を、必要とする被験体に投与することによって、血管形成関連症状を治療する方法に関する。本明細書で使用するとき、「調節する」という用語は、血管形成の量と質におけるいかなる効果も含む。特定の実施形態では、調節には、血管形成の量を増強することまたは減少させることのいずれかを伴う。そのため、特定の実施形態では、本明細書に記載の方法は、血管形成を促進する、高める、または増強するために用いられ、一方で他の実施形態では、本明細書記載の方法は、血管形成を減少させるまたは抑制するために用いられる。
【0070】
ある態様において、本発明は、再上皮形成化または創傷治癒を促進するための方法、糖尿病の病理学的作用(例えば、糖尿病性足潰瘍)、心臓病、鬱血性心不全、心筋虚血、抹消虚血、リンパ管の血管障害、冠動脈疾患、脳卒中、狭心症、および末梢血管疾患を治療するための方法に関する。
【0071】
血管形成の誘導は、損傷に対する反応、創傷治癒、心筋虚血、冠動脈疾患、狭心症および末梢血管疾患を含むいくつかの病理学的な疾患の状態にある患者にとって有益である。血管形成機能に関連する他の障害は、年齢に関係する黄斑変性、または黄斑変性症候群であってもよい。
【0072】
一酸化窒素と硫化物の組み合わせが、虚血または低酸素状態に曝露されることによる損傷から細胞および組織を守ることにおいて、相加的効果または相乗効果のいずれかを有する可能性のあることが最近明らかにされた(例えば、特許文献4および特許文献5を参照)。さらに、硫化物と一酸化窒素は、いずれかの化合物を単独で用いた治療により生じる可能性のある、望ましくない副作用の影響を弱めるということが明らかになった。そのため、本発明のある態様によると、一酸化窒素と硫化物の組み合わせは、血管形成を促進する、誘導する、もしくは増強するために、または血管形成関連症状を治療するもしくは防ぐために用いられると意図される。このような組み合わせは、硫化物または一酸化窒素を単独で用いる場合と比較して、強い生物活性および治療活性を有すると考えられる。さらに、このような組み合わせは、硫化物または一酸化窒素を単独で用いた場合と比較して、副作用が弱くなり、それらのいずれか一方または両方の投与量を増やすことが可能になる。
【0073】
したがって、特定の実施形態では、上記の方法は、硫化物および一酸化窒素の組み合わせを用いることで実行されてもよい。そのため、特定の実施形態では、本発明は、血管形成を促進する、増強する、または高めるための方法であって、生体の構成物質を硫化物または一酸化窒素の組み合わせと接触させることを含む方法を提供する。同様に、具体的な実施形態では、本発明は血管形成関連症状を治療するまたは防ぐ方法であって、被験体、または被験体から得られる生体の構成物質と、硫化物および一酸化窒素の組み合わせを接触させることを含む方法を含む。
【0074】
血管形成を促進する、高める、または増強する様々な薬剤、すなわち血管形成誘導剤が以前から同定されている。そのような薬剤の例として、酸性および塩基性のFGF、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGFαおよびTGFβ)、腫瘍栄養因子(TNF−α)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管形成因子A、内皮細胞を刺激する血管形成因子(ESAF) および胎盤由来の増殖因子(PDGF)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0075】
本発明はさらに、硫化物を、1種以上の他の血管形成誘導剤と組み合わせて使用することを意図する。特定の実施形態では、一酸化窒素を、硫化物および1種以上の他の血管形成誘導剤と組み合わせて使用する。
【0076】
そのため、特定の実施形態では、本発明は、血管形成を促進する、増強する、または高める方法であって、生体の構成物質を、硫化物および1種以上の他の血管形成誘導剤の組み合わせと接触させることを含む方法を提供する。同様に、特定の実施形態では、本発明は、血管形成関連症状を治療する、または予防する方法であって、被験体、または被験体から得られる生体物質を、硫化物および1種以上の他の血管形成誘導剤の組み合わせと接触させることを含む方法を含む。これらの方法はいずれも、さらに、被験体(または生体の構成物質)と一酸化窒素との接触を含んでよい。
【0077】
硫化物を、一酸化窒素および/または1種以上の他の血管形成誘導剤と組み合わせて使用する場合、それらの薬剤は(硫化物、一酸化窒素、および他の血管形成誘導剤)同時に、または任意の順番で投与してもよい。生体の構成物質が硫化物、一酸化窒素、および/または他の血管形成誘導剤に曝露されるまたは接触する期間は、重なっていてもよいし、別々であってもよい。
【0078】
一酸化窒素および硫化物の組成物ならびに製剤
本発明の方法は、一酸化窒素および硫化物の両方を含むガスならびに液体の混合製剤に加えて、一酸化窒素および硫化物の各々のガスならびに液体製剤の両方を含む、様々な一酸化窒素および硫化物の異なる製剤を用いることによって実行されてもよい。特定の実施形態では、一酸化窒素または硫化物の以下の製剤のいずれかが使用される。
【0079】
一酸化窒素製剤およびその製造方法
一酸化窒素をガスまたは液体のいずれかとして投与してもよい。さらに、一酸化窒素を、直接投与してもよく、または一酸化窒素を放出するプロドラッグ形態を含む、プロドラッグ、代謝物または類似体の形態で供給してもよい(特許文献6参照)。例えば、一酸化窒素を生成する化合物、組成物または物質は、一酸化窒素を生成するもしくは供給するために、またはその化学的もしくは生物学的効果を生み出すために、熱反応、化学反応、超音波反応、電気化学反応、代謝反応または他の反応、またはそれらの反応を組み合わせて行ってもよい。そのため、本発明の特定の実施形態は、一酸化窒素を生成する化合物、組成物または物質を含む、様々な一酸化窒素および一酸化窒素プロドラッグを含む。本発明の特定の実施形態は、L−アルギニン、およびその類似体および誘導体、および一酸化窒素生合成酵素(NOS)、ならびにその突然変異体/変異体のような一酸化窒素前駆体および触媒に関する。
【0080】
本発明の様々な実施形態は、一般的には、一酸化窒素または関連する酸化還元種を供与し、より一般的には、一酸化窒素生物活性を与える一酸化窒素供与体または類似体に関する。一酸化窒素供与体または類似体の例として、亜硝酸エチル、ジエチルアミンNONOアート(NONOate)、ジエチルアミンNONOアート/AM、スペルミンNONOアート、ニトログリセリン、ニトロプルシド、NOC化合物、NOR化合物、有機硝酸塩(例えば、三硝酸グリセリン)、亜硝酸塩、フロキサン誘導体、NOまたは疎水性のNO供与体で飽和状態にあるN−ヒドロキシ(N−ニトロソアミン)およびペルフルオロカーボンが挙げられる。
【0081】
一酸化窒素供与体または類似体のさらなる例として、S−ニトロソ、O−ニトロソ、C−ニトロソおよびN−ニトロソ化合物ならびにそのニトロ誘導体、例えば、S−ニトロソグルタチオン、S−ニトロソチオール、ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、S−ニトロソシステインおよびそのエチルエステル、S−ニトロソシステニルグリシン、S−ニトロソ−γ−メチル−L−ホモシステイン、S−ニトロソ−L−ホモシステイン、S−ニトロソ−γ−チオ−L−ロイシン、S−ニトロソ−δ−チオ−L−ロイシン、S−ニトロソアルブミン、S−ニトロソ−N−ペニシラミン(SNAP)、グリコ−SNAP、フルクトース−SNAP−1が挙げられる。一酸化窒素供与体または類似体のさらなる例として、金属NO複合体、一硝酸イソソルビド、二硝酸イソソルビド(ジニトラート)、Sin−1のようなモルソドミン(molsodomine)、ストレプトゾトシン、デフォスタチン、2−ヒドロキシ安息香酸1,3−(ニトロオキシメチル)フェニルおよび関連化合物(特許文献7参照);アンギオペプチン、ヘパリン、およびヒルジンのような心臓血管のアミンとのNO複合体、アルギニン、およびRGD配列を有するペプチド(特許文献8参照);イオン性ジアゼニウムジオラート、O−誘導体化ジアゼニウムジオラート、炭素系ジアゼニウムジオラート、および重合体系ジアゼニウムジオラートのようなジアゼニウムジオラートが挙げられる。
【0082】
特定の実施形態では、本発明の実施形態による投与に適した一酸化窒素の製剤は、溶液である。このような溶液は、水、デキストロース、または生理食塩水、希釈剤で溶解された重合体に結合した組成物;可溶化剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤および保存剤のような標準的な添加剤の添加を含む、他の水溶性のまたは非水溶性の溶媒、例えば植物油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステル;それぞれ既定量の一酸化窒素を含むカプセル、袋剤または錠剤;固体または顆粒;適切な液体の懸濁液;適切なエマルション;吸入および噴霧療法において用いられるようなガスおよび/またはエアロゾルを含んでよい(特許文献9および特許文献10)。
【0083】
特定の実施形態では、本発明は、エアロゾル製剤を含むが、それは、水溶液、脂溶性の水溶液、および微粉子化された粉末を含んでいてもよい。ある実施形態では、エアロゾルの粒径は約0.5マイクロメートルと約10マイクロメートルの間である。エアロゾルは、噴霧器または他の適切な手段によって生成されてもよい。
【0084】
ガスの製剤に関して、通常はガスであるまたはそうでなければガスに前もって変換されている化合物/組成物は、窒素および/または他の不活性ガスで希釈することによって使用するために配合されてもよく、酸素、硫化水素、空気、および/もしくは任意の他の適切なガス、または好ましい比の複数のガスの組み合わせを混合して、投与されてもよい。典型的に、1〜100ppmの濃度に希釈することが適切である。特定の実施形態では、一酸化窒素は空気中に10〜80ppmの範囲で混合されて使用される。
【0085】
一実施形態では、一酸化窒素および酸素は、所望の濃縮範囲(一般的に、吸入ガスの全体積に基づいて約0.5〜200ppm)である、一酸化窒素を含む吸入ガスを生成するため、酸素または酸素で満たされた空気の担体ガスで、約1000ppmの一酸化窒素を含む窒素−一酸化窒素濃縮ガスを希釈することによって、一般的に患者に投与される(特許文献11参照)。
【0086】
本発明の重合体に結合した化合物/組成物もまた使用されてもよいが、そのような組成物は、一酸化窒素、供与体、類似体、前駆体などを水溶液中に放出することができ、好ましくは生理的条件下で、一酸化窒素などを放出する。多種多様な重合体を、本発明の意味する範囲内で用いることが可能である。選択される重合体は生物学的に許容可能であることが唯一必要なことである。本発明の中で使用するのに適した重合体の実例として、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオライド、およびポリビニルクロライド、ポリエチレンイミンまたはそれらの誘導体のようなポリオレフィン類、ポリエチレングリコールのようなポリエーテル類、ポリ(ラクチド/グリコリド)のようなポリエステル類、ナイロンのようなポリアミド類、ポリウレタン類、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、抗体および核酸のような生体高分子、星形のデンドリマーなどが挙げられる。
【0087】
治療薬として使用される本発明の化合物/組成物の量は、もちろん、投与される化合物/組成物、直面する障害または症状の種類および選択される投与経路によって変わる。適切な投与量は、約0.01〜10.0mg/体重kg/日であると考えられている。好ましい投与量は、もちろん、特定の障害または症状を治療するのにまさに十分な量であり、好ましくは、約0.05〜5.0mg/体重kg/日の量であろう。
【0088】
一酸化窒素または硫化物のいずれかがガスとして投与される場合、適切な投与量は1ppm(百万分率)と1000ppmの間、より好ましくは、5ppmと200ppmの間であると考えられている。
【0089】
硫化物製剤およびその製造方法
硫化物はガスまたは液体として投与されてもよい。したがって、本発明は、硫化物または他の硫黄含有化合物のガスおよび液体の製剤両方の投与を含んでいる。硫化物の様々なガスの製剤は、例えば、特許文献12に記載され、硫化物の液体の組成物は、特許文献13および特許文献14、ならびに特許文献15に記載されている。硫化物のこれらの化合物および液体の組成物いずれも、本発明に従って使用されてもよい。特定の実施形態では、本発明は、本明細書に記載されている組成物のいずれかを含むが、それらに限定されない硫化物の液体の医薬品組成物を用いて実行される。
【0090】
特定の実施形態では、提供される硫化物は硫化水素(H2S)であると具体的に意図される。しかし、他の硫黄含有化合物が硫化水素の代わりに投与されてもよいということも意図される。これらとしては、例えば、硫化ナトリウム、ナトリウムチオメトキシド、システアミン、チオシアン酸ナトリウム、システアミン−S−リン酸ナトリウム塩、またはテトラヒドロチオピラン−4−オールが挙げられる。
【0091】
特定の実施形態において、医薬品組成物は、患者に投与される場合、Cmaxを与えるように、または定常状態の血漿濃度が1μM〜10mM、約1μM〜約1mM、または約10μM〜500μMであるように、H2Sの有効投与量を提供する。典型的な実施形態では、硫化水素の用量と硫化物の塩の用量との関連づけでは、塩の用量は、H2Sの用量とおおよそ同じ硫黄当量を投与するということに基づいている。適切に測定するには、血液中にすでに存在する硫黄の量を考慮し、評価すべきであろう。
【0092】
2Sのガスの形態または塩は、本発明のいくつかの態様において、特に熟考される。いくつかの実施形態では、硫化水素ガスの濃度は、例えば、約0.01〜約0.5M(STP)であってもよい。本発明に従って使用するのに意図される硫化水素の典型的な濃度は、約1〜約150ppm、約10〜約140ppm、約20〜約130ppm、および約40〜約120ppm、またはその経口の、静脈内のもしくは経皮的な同等の投与量の値を含む。他の関連する範囲として、約10〜約80ppm、約20〜約80ppm、約10〜約70ppm、約20〜約70ppm、約20〜約60ppm、および約30〜約60ppm、またはその経口の、静脈内のもしくは経皮的な同等の投与量を含む。所定期間において、所定の動物に対して、硫化物の雰囲気は、その被験体において致死的となり得る硫化物の蓄積を避けるため、少なくするべきであるということも意図される。例えば、最初の環境濃度が80ppmである場合には、30分後には60ppmに、続いて1時間後では40ppmおよび2時間後では20ppmにさらに減らしてもよい。
【0093】
他の実施形態では、液体の硫化物組成物が意図される。特定の実施形態では、本発明の液体のカルコゲニド組成物中における硫化物、またはその塩もしくは前駆体のようなカルコゲニドの濃度は、約、少なくとも約、または、最大約0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0mMもしくはMもしくはそれ以上またはその中で導き出せる任意の範囲にある(標準的温度および標準気圧(STP))。特定の実施形態では、本発明の液体の医薬品組成物は硫化物を含み、その硫化物の濃度は1mM〜250mMの範囲にある。
【0094】
本発明の液体の医薬品組成物は、任意の望ましい濃度にある硫化物含有化合物またはその塩もしくは前駆体を含んでもよい。その濃度は、便利な方法および適切な時間枠で有効量を送達するために、例えば、治療される生体の構成物質の種類および投与経路に依存して、容易に最適化することができる。いくつかの実施形態では、硫黄含有化合物またはその塩もしくは前駆体の濃度は、0.001mM〜5,000mMの範囲内、1mM〜1000mMの範囲内、50〜500mMの範囲内、75〜250mMの範囲内、95mM〜150mMの範囲内にある。別の実施形態では、硫化物の濃度は10mM〜200mMの範囲内にある。特定の実施形態では、硫化物の濃度は重量/体積で約80%〜約100%である。
【0095】
一実施形態では、本発明の液体の医薬品組成物のpHは、(5.0〜9.0)の範囲にある。その液体の医薬品組成物のpHは、生理的に適合する範囲に合わせることが可能である。例えば、一実施形態では、その液体の医薬品組成物のpHは、6.0〜8.5または6.5〜8.5の範囲にある。別の実施形態では、本発明の液体の医薬品組成物のpHは、7.0〜8.0の範囲にある。
【0096】
一実施形態では、本発明の液体の医薬品組成物を調製する方法は、さらに、液体の医薬品組成物のオスモル濃度を、200〜400mOsmol/Lの範囲に調節することを含む。一実施形態では、液体の医薬品組成物のオスモル濃度は、240〜360mOsmol/Lの範囲にまたは等張の範囲にある。一実施形態では、液体の医薬品組成物のオスモル濃度は、250〜330mOsmol/Lの範囲にある。
【0097】
特定の実施形態では、液体の医薬品組成物が等張であるということは、投与のときの痛みを軽減し、高張の組成物または低張の組成物に関連する潜在的な溶血作用を最小限にするので、望ましい。
【0098】
一酸化窒素および硫化物の混合製剤およびその製造方法
本発明は、さらに、一酸化窒素と硫化物を含むガスおよび液体の両方の組成物を提供する。
【0099】
ガスの混合製剤
一実施形態では、本発明は、一酸化窒素ガスと硫化物ガスを含むガスの混合製剤を提供する。特定の実施形態では、そのガスの混合製剤はさらに空気を含む。
【0100】
一実施形態では、一酸化窒素の量は、混合ガス中の任意の量の硫化水素とほとんど同じまたはそれを超える。一実施形態では、その雰囲気は100%NOに近いが、当業者に明らかであるように、NOの量は硫化水素ガスおよび/または空気と平衡を保っていてもよい。これに関して、一酸化窒素の硫化水素に対する比は、好ましくは85:15もしくはそれ以上、199:1もしくはそれ以上または399:1もしくはそれ以上である。別の実施形態では、硫化物の量は混合ガス中の一酸化窒素の量とほとんど同じまたはそれを超える。一実施形態では、その雰囲気は、100%硫化物に近いが、当業者に明らかであるように、硫化物の量は一酸化窒素ガスおよび/または空気と平衡を保っていてもよい。これに関して、一酸化窒素の硫化水素に対する比は、好ましくは85:15もしくはそれ以上、199:1もしくはそれ以上または399:1もしくはそれ以上である。
【0101】
特定の実施形態では、一酸化窒素に対する硫化物の比または硫化物に対する一酸化窒素の比は約、少なくとも約、または最大約1:1、2:1、2.5:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、45:1、50:1、55:1、60:1、65:1、70:1、75:1、80:1、85:1、90:1、95:1、100:1、110:1、120:1、130:1、140:1、150:1、160:1、170:1、180:1、190:1、200:1、210:1、220:1、230:1、240:1、250:1、260:1、270:1、280:1、290:1、300:1、310:1、320:1、330:1、340:1、350:1、360:1、370:1、380:1、390:1、400:1、410:1、420:1、430:1、440:1、450:1、460:1、470:1、480:1、490:1、500:1もしくはそれ以上、またはその中で導き出せる任意の範囲にある。
【0102】
一部の例では、一酸化窒素または硫化物の量は相対的であるが、別の例では、片方または両方は絶対量として提供される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、一酸化窒素または硫化物の量は、「百万分率(ppm)」を単位としており、それは20℃および1気圧の標準温度および標準気圧における空気を百万部中の、それぞれ一酸化窒素または硫化物の体積部の測定単位である。一実施形態では、ガスの体積の残部は、それぞれ硫化水素または一酸化窒素で埋め合わせられる。一実施形態では、一酸化窒素が有効濃度で含まれ、ガスの体積の残部は硫化水素で埋め合わせられる。あるいは、ガスの体積の残部は、有効量の硫化物を含み、残りは空気であってもよい。別の実施形態では、硫化物は、有効濃度で含まれ、ガスの体積の残部は、一酸化窒素で埋め合わせられる。別の実施形態では、ガスの体積の残部は、有効量の一酸化窒素を含み、残りは空気であってもよい。具体的な実施形態では、ガス組成物中の一酸化窒素の濃度は1〜150または10〜80ppmで、硫化物の濃度は1〜150または10〜80ppmで、残りのガス体積は空気で埋め合わせられる。一実施形態では、硫化水素に対する一酸化窒素の量は、硫化水素でバランスを取られた一酸化窒素の百万分率の単位で表される。
【0103】
特定の実施形態では、生体の構成物質が曝露されるまたはインキュベートされる雰囲気は、少なくとも、0、10、20、40、60、80、100、または200百万分率(ppm)の、硫化水素、ある場合には、無毒のおよび/または無反応ガスおよび/または空気と混合された硫化物で平衡を保っている一酸化窒素であってよいと意図される。
【0104】
一実施形態では、生体物質へのNOおよび硫化物の同時投与は、加圧されたガスシリンダ内で別々に処方された一酸化窒素および硫化物ガスを含み、そのシリンダー内で既知の濃度のNOまたは硫化物が不活性ガス(例えば窒素またはアルゴン)と混合され、硫化物に対するNOの比は、NOおよび硫化物の混合物へ生体物質を曝露する前に、様々な流速で容器の内容物を混合することによって調節することができる。NOと硫化物の比は様々でよい。
【0105】
一実施形態では、生体物質へのNOおよび硫化物の同時投与は、1つの加圧されたガスシリンダ内に一緒に処方された一酸化窒素および硫化物ガスを含み、そのシリンダー内で、既知の濃度のNOおよび硫化物が不活性ガス(例えば窒素またはアルゴン)と混合されており、硫化物に対するNOの比は固定されている。
【0106】
いずれかの実施形態では、NO/硫化物の混合物は、さらに生体物質に曝露する前に空気または酸素と混合されることが意図される。NOおよび硫化物の絶対濃度を監視することができ、NO、硫化物、空気および酸素を規定された濃度で混ぜ合わせることができる装置は、当業者には知られており、さらに本明細書に記載されている。
【0107】
あるいは、雰囲気はkPa(キロパスカル)という単位で表されてもよい。一般的に、1気圧における百万部=101kPaであると理解されている。本発明の実施形態では、生体の構成物質がインキュベートされる、または曝露される環境は、約、少なくとも約、または最大約0.001、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.0 kPaまたはそれ以上の一酸化窒素である、またはその中で導き出せる任意の範囲にある。上記で述べられているように、このような濃度は、硫化水素ならびに/または他の無毒のおよび/もしくは無反応のガスでバランスをとることが可能である。また、その雰囲気は、NO濃度の単位としてkPa単位を用いて規定されてもよい。特定の実施形態では、その雰囲気は、約、少なくとも約、または最大約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、101、101.3kPaのNO、またはその中で導き出せる任意の範囲にある。特定の実施形態では、分圧は、約、少なくとも約、または最大約85、90、95、101、101.3kPaのNO、またはその中で導き出せる任意の範囲にある。
【0108】
本発明の実施形態では、生体の構成物質がインキュベートされるまたは曝露される環境は、約、少なくとも約、または最大約0.001、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.0kPaまたはそれ以上の硫化物、またはその中で導き出せる任意の範囲にある。上記で述べられたように、このような濃度は、一酸化窒素ならびに/または他の無毒のおよび/もしくは無反応のガスでバランスをとることが可能である。また、その雰囲気は、硫化物の単位としてkPa単位を用いて規定されてもよい。特定の実施形態では、その雰囲気は、約、少なくとも約、または最大約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、101、101.3kPaの硫化物、またはその中で導き出せる任意の範囲にある。特定の実施形態では、分圧は、約または少なくとも約85、90、95、101、101.3kPaの硫化物、またはその中で導き出せる任意の範囲にある。
【0109】
液体混合製剤
本発明は、硫化物と一酸化窒素を両方含む液体製剤又は組成物を提供する。本発明はまた、実施例に示すような、このような製剤の調製方法を提供する。ある実施形態では、硫化物の液体製剤は、本質的に、特許文献16および特許文献17に記載のように調製し、例えば一酸化窒素ガスを硫化物液体製剤に通気することにより、一酸化窒素を得られる製剤に添加する。
【0110】
本発明の液体医薬品組成物は、任意の所望の濃度の硫化物を含んでよい。特定の実施形態では、硫化物の濃度は、意図する目的に対して治療的に有効な濃度に最適化される。別の実施形態では、硫化物の濃度は、一酸化窒素の望ましくない副作用を低減するのに有効な濃度に最適化される。濃度は、便利な方法でかつ適切な時間枠にわたって有効量を送達するために、例えば、治療される生体物質の種類および投与経路に応じて容易に最適化できる。いくつかの実施形態では、硫化物またはその塩もしくは前駆体の濃度は、0.001mM〜5,000mMの範囲、1mM〜1000mMの範囲、50〜500mMの範囲、75〜250mMの範囲、95〜150mMの範囲である。本発明の液体医薬品組成物は、更に、硫化物の濃度が1mM〜250mMの範囲である、硫化物を含む。別の実施形態では、硫化物の濃度は10mM〜200mMの範囲である。
【0111】
本発明の液体医薬品組成物は、任意の所望の濃度の一酸化窒素を含んでよい。特定の実施形態では、一酸化窒素の濃度は、意図する目的に対して治療的に有効な濃度に最適化される。別の実施形態では、一酸化窒素の濃度は、硫化物の望ましくない副作用を低減するのに有効な濃度に最適化される。濃度は、便利な方法でかつ適切な時間枠にわたって有効量を送達するために、例えば、治療される生体物質の種類および投与経路に応じて容易に最適化できる。一実施形態では、一酸化窒素の濃度は、医薬品組成物中1μM〜3mMの範囲である、一実施形態では、一酸化窒素の濃度は、医薬品組成物中10μM〜2mMの範囲である、特定の一実施形態では、一酸化窒素の濃度は、医薬品組成物中100μM〜2mMの範囲である。
【0112】
各種実施形態では、液体組成物は、一酸化窒素もしくは硫化物の液体または溶液と接触させる前に、酸素ガスを減少させてある液体または溶液中で調製される。好適な液体の例としては、水およびリン酸緩衝生理食塩水が挙げられる。本発明の特定の実施形態は、医薬品組成物の製造および貯蔵の各局面で制限された酸素含量を更に含む。一実施形態では、酸素は、医薬品組成物中0μM〜5μMの範囲であると測定される。一実施形態では、酸素は、医薬品組成物中0μM〜3μMの範囲であると測定される。一実施形態では、酸素は、医薬品組成物中0.001μM〜0.1μMの範囲であると測定される。一実施形態では、酸素は、医薬品組成物中0.1μM〜1μMの範囲であると測定される。
【0113】
一酸化窒素および硫化物は、その酸化および化学的変換を導く、酸素と化学的に反応する能力のために、酸素の存在下では安定でない。したがって、酸素は、液体もしくは溶液への陰圧処理(真空脱気)、または、溶液もしくは液体と、酸素を結合もしくは「キレート化」させて、酸素を溶液から有効に取り除く試薬との接触が挙げられるが、これらに限定されない、当該技術分野において既知の方法を用いて、液体または溶液から取り除いてもよい。特定の実施形態では、酸素は本発明の混合製剤から取り除かれる。
【0114】
一実施形態では、硫化物の原液(例えば2.5M)を、脱酸素水にNa2S・9H2Oの結晶を溶解させることにより調製する。次いで、原液を脱酸素水で希釈して、Na2S溶液(例えば、200mM)を生成する。次いで、一酸化窒素を、無酸素環境下でNa2S溶液に通気する。次いで、得られる混合製剤のpHを、最終pH7.0〜8.0に調節してもよい。
【0115】
別の実施形態では、水性一酸化窒素を、本質的に非特許文献8
に記載のように、改良ザツルマン(Saltzman)法を用いて、無酸素環境下で純NOガスを飽和させ、1mMの1−ヒドロキシ−2−オキソ−3(N−メチル−3−アミノエチル)−3−メチル−1−トリアゼン(NOC−7)を加水分解することにより調製する。水性硫化物の溶液を、脱酸素水(例えば、200mM)にNa2S・9H2Oの結晶を溶解させることにより調製する。次いで、水性一酸化窒素組成物を、水性硫化物組成物と組み合わせて、一酸化窒素と硫化物を両方含む液体組成物を生成する。必要に応じて、pHを、最終pH7.0〜8.0に調節してもよい。
【0116】
別の実施形態では、水性一酸化窒素を、本質的に非特許文献8に記載のように、改良ザツルマン(Saltzman)法を用いて、無酸素環境下で純NOガスを飽和させ、1mMの1−ヒドロキシ−2−オキソ−3(N−メチル−3−アミノエチル)−3−メチル−1−トリアゼン(NOC−7)を加水分解することにより調製する。次いで、水性硫化物ガスを、一酸化窒素溶液に通気する。必要に応じて、pHを、最終pH7.0〜8.0に調節してもよい。
【0117】
ある実施形態では、液体製剤は、pH測定、ガスの添加、および外環境と接触することなく分配するためのアクセスポートを有する、液体医薬品組成物を保持するための容器を収容する、密封されたコンテナ内で製造される。一実施形態では、容器は、すりガラスの継ぎ手を備える3つ口フラスコである。一実施形態では、容器を窒素ガスまたはアルゴンガスで洗い流して、酸素含量を0.00μM〜3μMの範囲に最小化する。
【0118】
ある実施形態では、溶液を、ヘッドスペースをアルゴンで最大限満たして、酸素が溶液中に入るのを防ぐことにより、陽圧のアルゴン下で、フラスコからバイアル瓶または瓶に分配する。分配するバイアル瓶または瓶を、一定流量のアルゴンで洗い流して、0.00μM〜0.5μMの範囲に酸素を最小化したグローブボックスに入れ、各瓶またはバイアル瓶を分配前にアルゴンで洗い流す。バイアル瓶および瓶は、安定性を高めるために琥珀色のガラスで作製し、テフロン(登録商標)で内張りしたシリコンで内張りしたキャップ、またはプラスチックキャップで封をしたゴムで閉鎖し、王冠締め器を用いて気密シールを提供する。一実施形態では、バイアル瓶および瓶はホウケイ酸ガラスから構成される。一実施形態では、バイアル瓶および瓶は、二酸化ケイ素から構成される。
【0119】
一実施形態では、液体医薬品組成物は不透過性コンテナ内に貯蔵する。これは、医薬品またはその塩もしくは前駆体の酸化を制限するまたは防ぐために、溶液から酸素が予め取り除かれているとき、特に望ましい。更に、不透過性コンテナ内で貯蔵することにより、液体または溶液からの医薬品ガスの酸化生成物を阻害し、一定濃度の医薬品が溶解した状態を維持することができる。不透過性コンテナは、当業者に既知であり、ガス不透過性構成材料を含む「i.v.バッグ」または密封されたガラスのバイアル瓶が挙げられるが、これらに限定されない。気密性貯蔵コンテナ内で空気に曝露するのを防ぐために、閉鎖前に、窒素またはアルゴンのような、不活性または希ガスをコンテナに導入してもよい。
【0120】
他の関連する実施形態では、液体医薬品組成物は、琥珀色のバイアル瓶のような、光耐性または光保護性コンテナまたはバイアル瓶に貯蔵する。組成物は、好ましくは、ガラスのバイアル瓶にパッケージ化される。好ましくは、組成物の酸化的分解を防ぐ/遅延させるために、わずかな過圧で、例えば窒素のような不活性雰囲気内を満たし、光の進入を防ぎ、それにより組成物の光化学的劣化を防ぐような形態で収容する。これは、琥珀色のバイアル瓶を用いて最も有効に実現される。多くの静脈注射用溶液が酸素に感受性であることがため、溶液を無酸素環境に貯蔵できるコンテナ系は周知である。例えば、充填および密封プロセス中酸素をパージしたガラスのコンテナを用いてもよい。別の実施形態では、酸素を密封するための上包みに封入してよい可撓性プラスチックコンテナが利用可能である。基本的には、酸素が液体医薬品組成物と相互作用するのを防ぐ任意のコンテナを使用してよい(特許文献18参照)。一実施形態では、コンテナは、1種以上の酸素捕捉剤を含む。例えば、酸素捕捉組成物を、酸素透過に対する障壁として機能する手段を支持または維持する製品の内面上にコーティングまたは裏張りとして適用することができる(特許文献19参照)。
【0121】
一酸化窒素および硫化物生成物
本発明の医薬品組成物は、1種以上の一酸化窒素および/または硫化物生成物を含んでもよい。各種実施形態では、1種以上の一酸化窒素および硫化物生成物は、20%未満、10%未満、6.0%未満、3.0%未満、1.0%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.05%未満または0.01%未満の量で存在する。本明細書で使用するとき、「%」という用語を限定なしで使用する場合(w/v、v/v、またはw/wとともに)、液体中の固体溶液では重容量%(w/v)、液体中の気体溶液では重容量%(w/v)、液体中の液体溶液では容量%(v/v)、固体および半固体の混合物では重量%(w/w)を意味する(非特許文献9)。
【0122】
一実施形態では、一酸化窒素生成物は、ニトロソチオールである。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、0%〜20%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、4.0%〜10.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0123】
一実施形態では、ペルオキシ亜硝酸生成物が、4.0%〜10.0%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、ニトロソチオール生成物は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0124】
本発明の医薬品組成物は、硫化物酸化生成物を更に含んでよい。本発明の酸化生成物としては、亜硫酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、多硫化物、ジチオン酸塩、ポリチオン酸塩および硫黄元素が挙げられるが、これらに限定されない。各種実施形態では、これらの酸化生成物の1種以上が、10%未満、6.0%未満、3.0%未満、1.0%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.05%未満または0.01%未満の量で存在する。
【0125】
一実施形態では、酸化生成物である、亜硫酸塩は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物である、亜硫酸塩は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、亜硫酸塩は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、亜硫酸塩は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0126】
一実施形態では、酸化生成物である、硫酸塩は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物である、硫酸塩は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、硫酸塩は、1%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、硫酸塩は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0127】
一実施形態では、酸化生成物である、チオ硫酸塩は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。別の実施形態では、酸化生成物である、チオ硫酸塩は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。別の実施形態では、酸化生成物である、チオ硫酸塩は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。別の実施形態では、酸化生成物である、チオ硫酸塩は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0128】
一実施形態では、多硫化物を含む酸化生成物は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物である、多硫化物は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、多硫化物は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、多硫化物は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0129】
一実施形態では、酸化生成物である、ジチオン酸塩は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物である、ジチオン酸塩は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、ジチオン酸塩は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、ジチオン酸塩は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0130】
一実施形態では、酸化生成物である、ポリチオン酸塩は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物である、ポリチオン酸塩は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、ポリチオン酸塩は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、ポリチオン酸塩は、0%〜1.0%(w/v)の範囲である。
【0131】
一実施形態では、酸化生成物である、硫黄元素は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物である、硫黄元素は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、硫黄元素は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲である。一実施形態では、酸化生成物である、硫黄元素は、0%〜1.0%(w/v)の範囲で存在する。
【0132】
医薬品組成物および送達経路
本発明は、本明細書に記載するガスおよび液体組成物を、ヒトおよび他の哺乳類を含む患者に投与することを意図する。それ故、本発明は、一酸化窒素および硫化物のいずれかまたは両方を含む全ての医薬品組成物を含む。特定の実施形態では、硫化物の液体医薬品組成物は、付随の実施例に記載のように調製する。特定の一実施形態では、硫化物の安定な液体医薬品組成物を、1当量の硫化水素ガスを1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解させることにより調製し、前記組成物は6.5〜8.5の範囲のpHを有し、前記組成物は250〜330mOsmol/Lの範囲のオスモル濃度を有し、前記組成物は5μM以下の酸素含量を有し、前記組成物は3ヶ月間の貯蔵後の酸化生成物が0%〜3.0%(w/v)の範囲である。
【0133】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、薬剤的に許容可能な非経口製剤(例えば、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、嚢内、腹腔内、および皮内)剤形である。他の実施形態では、液体医薬品組成物は、経口、経鼻(吸入またはエアロゾル)、噴霧器、頬側投与、または局所性投与剤形用に処方される。
【0134】
各種実施形態では、本発明の方法は、任意の好適な経路による送達を含む。したがって、ある実施形態では、本発明の方法としては、吸入、注射、カテーテル法、浸漬、洗浄、灌流、局所適用、吸収、吸着を通じた投与、経口投与、吸入により、注射により、注入により、持続注入により、局所かん流により、カテーテルを介して、または洗浄を介して、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、くも膜下腔内に、硝子体内に、膣内に、直腸内に、局所的に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、眼球内に、皮下に、結膜下に、膀胱内に、粘膜内に、心膜内に、臍帯内に、眼球内に、経口で、局所的に、局部的に投与することを含み、本発明の組成物は上記のように投与してよい。
【0135】
ある実施形態では、例えば創傷治癒を促進するために、例えば局所的送達用に、硫化物製剤を局所的に送達することが望ましい場合がある。局所適用は、貼付剤の形態で提供してよい生体適合性ゲルの使用により、またはクリーム、フォーム等の使用により、実現できる。数種の創傷への適用に適切なゲル、貼付剤、クリーム、フォーム等は、本発明による血管新生組成物の送達のために改良することができる(例えば、特許文献20、同21、同22を参照)。一般に、局所投与は、親水コロイドまたは水分環境を提供する他の材料のような担体を用いて実現できる。
【0136】
いくつかの実施形態では、局所製剤は、硫化物および一酸化窒素の組み合わせである。
【0137】
非経口液体組成物を、あるpHに緩衝して、一酸化窒素の溶解度を高める、ならびに/または、一酸化窒素および/もしくは硫化物のイオン化状態に影響を与えてもよい。更に、本明細書に記載する組成物は、更に、1種以上の金属キレート剤、フリーラジカル捕捉剤および/または還元剤の添加を含んでよい。
【0138】
本発明の組成物および製剤は、ある実施形態では、医薬品用途のために処方される。したがって、それらは、各種異なる医薬品賦形剤および担体を含んでよく、例えば特許文献23および同24に記載のように、医薬品用途のために処方してもよい。
【0139】
ヒトで治療効果を達成するための一酸化窒素ガスの有効濃度は、剤形および投与経路に依存する。吸入の場合、いくつかの実施形態では、有効濃度は5ppm〜100ppmの範囲であり、断続的にまたは連続的に送達される。液体一酸化窒素製剤の有効濃度は、0.01mg/kg〜100mg/kg、好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgの範囲であり、断続的にまたは連続的に送達される。
【0140】
ヒトで治療効果を達成するための硫化水素の有効濃度は、剤形および投与経路に依存する。吸入の場合、いくつかの実施形態では、有効濃度は10ppm〜500ppmの範囲であり、断続的にまたは連続的に送達される。液体硫化物製剤の有効濃度は、0.01mg/kg〜100mg/kg、好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgの範囲であり、断続的にまたは連続的に送達される。
【0141】
ヒトで静止を達成するための硫化水素の有効濃度は、剤形および投与経路に依存する。例えば、いくつかの実施形態では、有効濃度は、50ppm〜500ppmの範囲であり、断続的にまたは連続的に送達される。
【0142】
一酸化窒素および硫化物の調製および投与のためのデバイスならびにキット
ある実施形態では、本発明の方法は、特定の送達デバイスまたは装置を用いて実施される。本明細書で論じる任意の方法は、本明細書で論じたもの、または特許文献25に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない、送達または投与のための任意のデバイスを意図することができる。一実施形態では、硫化水素ガスもしくは一酸化窒素ガス、または硫化水素ガスおよび一酸化窒素ガスは、当該技術分野において周知であるガス送達系により投与され、濃度を監視されてもよい(例えば、特許文献26、同27、同28、同29、同30、同11号、同31、同32、同33を参照)。硫化水素ガスもしくは一酸化窒素ガス、または硫化水素ガスおよび一酸化窒素ガスのいずれかは、本明細書で論じるガス送達系により投与してよいことが意図される。
【0143】
ある実施形態では、特許文献34、同35、または同36に記載のガス送達デバイスを用いて、細胞、組織器官、器官系または生物にガスを投与してよい。一実施形態では、ガスは、気体の薬剤を制御放出のために移植可能な医療用デバイスを用いて投与してもよい(特許文献37を参照)。
【0144】
更なる代表的なデバイスとしては、電気流体力学的(EHD)エアロゾル送達デバイスが挙げられ、EHDエアロゾル送達デバイスは、電気エネルギーを用いて液体薬物溶液または懸濁液をエアロゾル化する(例えば、Noakesらによる特許文献38、Coffeeによる同39、Coffeeによる同40、Coffeeによる同41、Coffeeによる同42、Coffeeによる同43、Coffeeによる同44を参照)。EHDエアロゾル送達デバイスは、既存の肺への送達技術より、肺へより効率的に薬物を送達できる。
【0145】
ある実施形態では、本発明の方法は、噴霧器を用いて実施される。噴霧器は、例えば超音波エネルギーを用いることにより液体薬物製剤からエアロゾルを作製して、容易に吸入できる微粒子を形成する。噴霧器の例としては、Sheffield/Systemic Pulmonary Delivery Ltd.により供給されているデバイス(Armerら、特許文献45、van der Lindenらによる同46、van der Lindenらによる同47を参照)、Aventisによるlntal噴霧器溶液(例えば、www.fda.gov/medwatch/SAFETY/2004/feb_PI/lntal_Nebulizer_Pl.pdf)が挙げられる。
【0146】
吸入による肺へ直接ガスを投与する場合、酸素を送達するための現在市場で入手可能な各種送達方法を使用してよい。例えば、アンビュバッグのような蘇生器を使用してよい(例えば特許文献48および同49)。アンビュバッグは、フェースマスクに取り付けられた可撓性圧迫袋から成り、これは負傷者の肺に空気/ガスを導入するために医師により使用される。持ち運び可能な、手持ち式薬送達デバイスは、呼吸状態で苦しんでいる患者により噴霧器を通して吸入されるよう適合した噴霧ガスを生成できる。更に、このような送達デバイスは、吸入された薬剤の投与量を遠隔で監視でき、必要に応じて、医師または医者により変更できる手段を提供する。特許文献50を参照。本発明の化合物の送達は、同51に記載のような、密封されたフェースマスクを使用することなく両方を達成する、人間の人工呼吸の監視と組み合わせた、人間への補給ガスの送達のための方法により達成できる。本明細書に記載の全てのデバイスは、本発明の化合物と結合するまたはそれを中和するための排気系を有してよい。
【0147】
一実施形態では、本発明は、一酸化窒素ガスを収容する第1区画、硫化物ガスを収容する第2区画を含む、患者に計量された一酸化窒素および硫化物の複合製剤を同時投与するためのデバイスであって、前記第1および第2区画が、患者への投与前に、収容されている一酸化窒素および硫化物ガスを混合するためのデバイスに取り付けられているデバイスを含む。
【0148】
別の実施形態では、本発明は、患者に計量された一酸化窒素および硫化物の複合製剤を投与するためのデバイスであって、一酸化窒素を供給する第1ライン、硫化物を供給する第2ライン、第1ラインの遮断弁、第2ラインの遮断弁を含むガス供給系を特徴とし、第1および第2ラインが第3ラインと流体連通し、それにより両方の遮断弁の開くと、一酸化窒素および硫化物の流れが第1および第2ラインを通過して、第3ラインに流れ込み、そこで混合することができるデバイス、ならびに、患者に一酸化窒素および硫化物の得られる混合物を送達するデバイスであって、第3ラインと流体連通するデバイスを含む。特定の実施形態では、デバイスは、空気を供給する第4ラインおよび第4ラインの遮断弁を更に含み、第4ラインは第3ラインと流体連通し、それにより全ての遮断弁を開くと、一酸化窒素、硫化物および空気の流れが開き、空気が第1、第2および第3ラインを通過して、第3ラインに流れ込み、そこで混合される。
【実施例1】
【0149】
硫化物の液体製剤は、ヒヨコ絨毛尿膜(CAM)アッセイにおいて血管形成を刺激する
硫化物の液体製剤の、インビボモデルにおける血管形成促進能を、CAMアッセイを用いて試験した。5〜10日齢のレグホーン種のニワトリの受精卵を37℃で4日間インキュベートした。暗闇の中で検卵用ランプを用いて、気嚢を隠している領域に、皮下注射針を殻に刺して小さな穴を開けた。胚膜の非血管形成領域の直上の卵の側面上で、殻に第2の穴を開けた。第1穴に陰圧を適用することにより、第2穴の下に仮のまたは偽の気嚢を作製し、絨毛尿膜(CAM)を殻から分離させた。低下したCAM上の殻で、およそ1.0cm2(プラスチックリングにより限定された)の開口部または窓を切り取り、下層のCAMに直接接近できるようにした。
【0150】
CAMの露出後、4日目に、賦形剤または試験品(硫化物の液体製剤)を、0.24、2.4、24、または240pmol/cm2の濃度で投与し、37℃で48時間インキュベートした。硫化物の液体製剤を、本質的に実施例5(液体医薬品組成物IV)に記載のように、無酸素条件下でNaOH溶液に硫化水素を溶解させ、除菌することにより調製した。製剤は、60mMのNaCl、90mMのNaOH、98mMの硫化物、および4.86μMの多硫化物を含有していた。製剤は、7.81のpH、290のmOsm/l、および0.1のOD370を有していた。
【0151】
処理後48時間、CAMをインサイチュで固定し、卵から切除し、スライドグラス上に置き、放置して風乾させた。デジタルカメラを備える立体鏡を用いて、治療したCAMを撮影し、画像解析ソフトを用いて血管の全長を測定した。各試験サンプルに対するアッセイを3回反復した。データポイントあたり10個の卵を試験した。
【0152】
図1Aに示すように、血管の全長は、賦形剤のみで処理したものと比べて、液体硫化物製剤で処理したとき、用量反応的に増加した。更に、賦形剤に比べて、液体硫化物製剤で処理した後、CAM血管網がより発達していると思われた(図1B)。これらのデータは、液体硫化物製剤が、インビボで血管形成を促進することを示す。
【実施例2】
【0153】
硫化物の液体製剤は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)管形成アッセイにおいて血管形成を刺激する
硫化物の液体製剤の、血管形成を促進能力、HUVEC管形成を観察することにより、更に試験した。Matrigel(登録商標)、マウスEHS肉腫から抽出した可溶化基底膜調製品、細胞外マトリクス(ECM)タンパク質(ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカンおよびエンタクチン)を多く含む腫瘍、を用いて、96穴組織培養プレートの穴を覆い(0.04ml/穴)、37℃で1時間放置して固化させた。次いで、およそ15,000個のHUVECを、5%のウシ胎仔血清を補充したM199培地0.15mlに懸濁し、各穴に添加した。賦形剤または実施例1に記載した液体硫化水素試験品(60μM)のいずれかを、細胞と同時に対応する穴に添加した。37℃で6時間インキュベートした後、培地を取り除き、細胞を固定し、毛細血管の索に類似する構造の長さを、既に記載したような画像解析ソフトを用いて、穴の領域全体で測定した(非特許文献10)。対照に対する百分率として管様網状構造を測定した。
【0154】
図2Aに示すように、管網状構造の長さは、対照賦形剤で処理したものに比べて、硫化水素で処理したHUVECが有意に長かった。更に、異なるHUVECの顕微鏡写真は、対照賦形剤に比べて、硫化物の液体製剤で処理したとき、管様構造の量が増加したことを示した(図2B)。これらの結果は、硫化水素が、内皮細胞からの血管形成を促進することを示す。
【実施例3】
【0155】
硫化物の液体製剤は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖を刺激する
硫化物の液体製剤の、HUVECの増殖を刺激する能力を試験した。単離し、培養したHUVECを、96穴プレート中に2000細胞/穴で、ラット尾型1コラーゲンでコーティングされた穴に播種した。各条件について、1皿あたりの細胞の平均数を、MTTアッセイまたは直接細胞計数により算出した。播種の24時間後、細胞を、異なる濃度の実施例1に記載の液体硫化物の試験化合物(6μM、60μMまたは600μM)または賦形剤を含有する新鮮な培地で処理し、更に24時間培養した。3−Dコラーゲン培養おける増殖速度を、ベースライン測定値の百分率として評価した。実験は、継代数2で、各時間4〜6穴を用いて2回反復した。
【0156】
図3に示すように、3−Dコラーゲン培養におけるHUVECの増殖速度は、賦形剤のみで処理したものと比べて、液体硫化物製剤で処理したとき、用量依存的に増加した。これらのデータは、液体硫化物製剤がHUVECの増殖を著しく高めることを示し、更にその血管新生を促進する能力を証明する。
【実施例4】
【0157】
硫化水素および一酸化窒素は血管形成を刺激する
硫化水素と一酸化窒素との併用処理の、血管形成に対する効果を判決定するため、細胞を、対照賦形剤、硫化水素のみ、一酸化窒素のみ、または硫化水素と一酸化窒素の組み合わせで処理した、実施例1〜3に記載の血管形成アッセイを実施した。硫化水素と一酸化窒素の組み合わせで得られるCAM血管新生、HUVEC管形成、およびHUVEC増殖の増加は、硫化水素または一酸化窒素のいずれかのみで処理したときに生じる増加より大きい。
【実施例5】
【0158】
硫化水素組成物の製造方法
液体医薬品硫化物組成物を、以下のように調製した。
【0159】
保存液を、脱酸素水を用いて調製した。水は、真空下で脱気し、30分間圧縮窒素(99.99%)を溶解させることにより調製した。2.5MのNa2Sの飽和保存液を、無酸素、蒸留脱イオン水ですすいだNa2S・9H2O結晶(Fisher#5425)から調製した。この保存液を、しっかり密封し、光から保護した状態で保管した。220mMのHCl原液を、濃縮酸(Fisher#A144-212)の希釈により調製し、圧縮窒素を溶解させることにより脱酸素した。
【0160】
液体医薬品組成物を、窒素ガスを充填して無酸素環境にした、簡易グローブボックス内のドラフトで調製した。pH計、バブラーおよび攪拌機を備える反応器はグローブボックス内に存在していた。グローブボックス内の酸素濃度を、感度レベル0.03μMの酸素計(Mettler-Toledo)で監視した。本発明の液体医薬品組成物を調製する方法は、医薬品組成物中の酸素が0μM〜5μMであると測定される、医薬品組成物の製造および貯蔵の各態様において酸素含量を制限することを含む。
【0161】
液体医薬品組成物を、以下の特徴を有するすりガラスの継ぎ手が取り付けられた、各開口部を備える3つ口フラスコ(Wilmad Labs)で調製した:
a.中央開口部およびo−リングを有するプラスチックキャップを備える万能アダプタ。このアダプタは、pHプローブが取り付けられ、o−リングで密封されていた。
b.ホース連結管ならびに中央開口部およびo−リングを有するプラスチックキャップを備える万能アダプタ。このアダプタは、ガラスフリットを有するガス分配管が取り付けられていた。分配管は、圧縮ガスシリンダに連結され、圧縮窒素を溶解させることにより溶液を脱酸素し、H2Sおよび窒素の混合物でpHを中和するために用いられた。ホース連結管には、圧力を逃がすためにプラスチック管が取り付けられていた。これらの2つの連結は、陽窒素圧下でフラスコの内容物を分配するために、逆にされた。
c.第3の口をすりガラスの栓で密封し、Na2S溶液または水をフラスコに添加するために用いた。
【0162】
液体医薬品組成物I−Na2S9水和物
液体医薬品組成物Iを、以下の工程で調製した:
a.無酸素、蒸留脱イオン水を3つ口フラスコに添加し、攪拌しながら30分間窒素を溶解させることにより脱酸素した。
b.2.5MのNa2S原液を添加して、200mMのNa2S溶液を得る。
c.200mMのNa2S溶液に、攪拌しながら15分間圧縮窒素を通気した。
d.圧縮窒素を溶解させ、かつ攪拌しながら、最終pHが7.8〜8.0になるまで220mMのHClを添加した。
e.脱酸素脱イオン水を添加して、最終濃度100mMのNa2Sを得る。
【0163】
液体医薬品組成物II−Na2S9水和物
液体医薬品組成物IIを、以下の工程で調製した:
a.脱イオン、無酸素水を3つ口フラスコに添加し、攪拌しながら30分間窒素を溶解させることにより脱酸素した。
b.2.5MのNa2S原液を添加して、100mMのNa2S溶液を得る。
c.100mMのNa2S溶液に、攪拌しながら15分間圧縮窒素を通気した。
d.pHが7.8に達するまで、圧縮窒素およびCO2(99.9%)の50/50混合物を通気した。
【0164】
液体医薬品組成物III−H2Sおよび窒素を含むNa2
液体医薬品組成物IIIを、以下の工程で調製した:
a.脱イオン、無酸素水を3つ口フラスコに添加し、攪拌しながら30分間窒素を溶解させることにより脱酸素した。
b.2.5MのNa2S原液を添加して、100mMのNa2S溶液を得る。
c.100mMのNa2S溶液に、攪拌しながら15分間圧縮窒素を通気した。
d.pHが8.2に達するまで、圧縮窒素およびH2Sの50/50混合物を通気した。これにより、最終濃度90mMの硫化物が得られる。
【0165】
液体医薬品組成物IV−H2
液体医薬品組成物IVの最終硫化物濃度を、NaOHの初期濃度により決定した。液体医薬品組成物IVを、以下の工程で調製した:
a.5mM〜500mMの範囲のNaOH溶液を、添加剤(DTPA、抗酸化剤)とともに3つ口フラスコに添加した(図1)。
b.攪拌しながら15分間5psiでアルゴンを通気することにより、溶液を脱酸素した。
c.pHが7.7に低下する(または7.6〜7.8の範囲)まで、攪拌しながら、H2Sを溶液に通気した。
d.フラスコのヘッドスペースをアルゴンで洗い流した。
e.琥珀色の分配瓶またはバイアル瓶を、一定流量のアルゴンで洗い流したグローブボックス内に置き、各瓶またはバイアル瓶をアルゴンで洗い流した。
f.製剤をアルゴン下で分配し、無酸素環境を維持した。
【0166】
溶液の安定性を、硫化物濃度、pHおよび吸光度スペクトル(多硫化物製剤)を測定することにより監視した。亜硫酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩および硫黄元素を含む酸化生成物を監視するために、更なるアッセイを実施した。
【0167】
液体医薬品組成物を、陽窒素圧下で3つ口フラスコから、密閉したグローブボックス内で分配した。琥珀色のバイアル瓶または琥珀色の瓶に、液体医薬品組成物の酸化的分解を防ぐ/遅延させるために不活性雰囲気アルゴンまたは窒素をわずかに過圧に充填し、王冠締め器(Aldrich Z112976)を用いて、テフロン(登録商標)/シリコンで内張りされたプラスチックキャップまたは中央をテフロン(登録商標)で内張りしたシリコン隔壁を有するプラスチックキャップで密封して、気密シールを提供した。
【0168】
各種商業的に許容可能な温度および継続時間後の、濃度、pHおよびオスモル濃度を含む医薬品の製造管理及び品質管理の基準規則(GMP)の合格基準を満たす、硫酸ナトリウムの液体医薬品組成物(液体医薬品組成物IV)を調製した。
【実施例6】
【0169】
薬剤的に許容可能な緩衝液中のNOの製造方法
NOの水性製剤を調製するための2種の方法を記載する(非特許文献8参照)。
【0170】
1つの方法にしたがって、0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.4)中の100mlのNO溶液を、純NOガスを用いて調製した。NO2の混入は最小限に抑えた。NOガスは、緩衝液に導入する前に、不均化反応:3NO→NO2+N2Oにより生じる、NOガスタンク中のNO2を除去するために、KOHペレットを含むカラムにより精製した。フラスコの内容物を雰囲気中酸素に曝露するのを避けるために、ガラスウール上にヒドロ亜硫酸ナトリウムカラムを取り付けた。窒素ガスをパージして、フラスコのヘッドスペース中のNOを除去し、気体NOが雰囲気中酸素に接触してNO2に変換されるのを防いだ。
【0171】
次いで、以下の5工程が続く:(1)0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.4)(100ml)をフラスコに入れ、フラスコをシリコーンの栓でしっかり密封した;(2)溶液を20℃に維持し、穏やかに攪拌した;(3)窒素ガスをコックを通して70ml/分で3時間導入した;(4)NOガスをコックを通して10ml/分で17分間導入した;および(5)水溶液中の窒素酸化物種を測定するために、1.0mlの溶液を、シリコーンの栓を通して気密性シリンジを用いて取り出した。酸素との接触により生じた水溶液中の窒素酸化物種を測定するために、好気条件下で指定の期間20℃で溶液を維持した後、シリコーンの栓をフラスコから取り除き、1.0mlの溶液を取り出した。
【0172】
2番目の製造方法は、中性溶液中で2当量のNOを放出するNOC−7を用いた。0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中の100mlのNO溶液をNOC−7から調製した。リン酸緩衝液の体積が90mlであり、フラスコの温度を37℃に維持したことを除き、前述のものと同じ最初の3工程に従った。第4工程中、窒素ガスをパージすることにより脱酸素した、0.1MのNaOH中の10mMのNOC−7溶液10mlを、シリコーンの栓を通して気密性シリンジを用いて導入し、混合物を37℃に1時間維持し、その後混合物の温度を20℃にした。工程5は、前述と同じであった。
【実施例7】
【0173】
一酸化窒素および硫化水素を含む医薬品組成物の調製
一酸化窒素および硫化水素の両方を含む液体医薬品組成物を、本明細書に記載の方法に従って調製した。
【0174】
製造方法
一実施形態では、液体医薬品組成物を、窒素ガスを充填して無酸素環境にした、簡易グローブボックス内のドラフトで調製した。pH計、バブラーおよび攪拌機を備える反応器はグローブボックス内に存在していた。グローブボックス内の酸素濃度を、感度レベル0.03μMの酸素計(Mettler-Toledo)で監視した。本発明の液体医薬品組成物を調製する方法は、医薬品組成物中の酸素が0μM〜5μMであると測定される、医薬品組成物の製造および貯蔵の各態様において酸素含量を制限することを含む。
【0175】
液体医薬品組成物を、以下の特徴を有するすりガラスの継ぎ手が取り付けられた、各開口部を備える3つ口フラスコ(Wilmad Labs)で調製した:
a.中央開口部およびo−リングを有するプラスチックキャップを備える万能アダプタ。このアダプタは、pHプローブが取り付けられ、o−リングで密封されていた。
b.ホース連結管ならびに中央開口部およびo−リングを有するプラスチックキャップを備える万能アダプタ。このアダプタは、ガラスフリットを有するガス分配管が取り付けられていた。分配管は、圧縮ガスシリンダに連結され、圧縮窒素を溶解させることにより溶液を脱酸素し、H2Sおよび窒素の混合物でpHを中和するために用いられた。ホース連結管には、圧力を逃がすためにプラスチック管が取り付けられていた。これらの2つの連結は、陽窒素圧下でフラスコの内容物を分配するために、逆にされた。
c.第3の口をすりガラスの栓で密封し、Na2S溶液または水をフラスコに添加するために用いた。
【0176】
分配および貯蔵
液体医薬品組成物を、陽窒素圧下で3つ口フラスコから、密閉したグローブボックス内で分配した。琥珀色のバイアル瓶または琥珀色の瓶に、液体医薬品組成物の酸化的分解を防ぐ/遅延させるために不活性雰囲気アルゴンまたは窒素をわずかに過圧に充填し、王冠締め器(Aldrich Z112976)を用いて、テフロン(登録商標)/シリコンで内張りされたプラスチックキャップまたは中央をテフロン(登録商標)で内張りしたシリコン隔壁を有するプラスチックキャップで密封して、気密シールを提供した。
【0177】
組成物1:硫化水素液体および一酸化窒素ガス
この予言的実施例では、新規組成物は、一酸化窒素ガスおよび硫化水素液体の組み合わせを含み、以下のように調製される。組成物中の硫化物濃度を維持するために、pH7.0〜8.0が好適である。
【0178】
出発物質
一酸化窒素ガス:医薬品投与のための一酸化窒素の各種製造方法が存在する。一酸化窒素の製造の1つのプロセスでは、亜酸化窒素をほとんどまたは全く含まない気体一酸化窒素生成物が生成される(特許文献52参照)。
【0179】
2S液体組成物:保存液を、脱酸素水を用いて調製した。真空下で空気を取り除き、30分間圧縮窒素(99.99%)を溶解させることにより水を脱酸素する。2.5MのNa2Sの飽和保存液を、無酸素、蒸留脱イオン水ですすいだNa2S・9H2O結晶(Fisher#5425)から調製する。この原液を、しっかり密封し、光から保護した状態で保管する。220mMのHCl保存液を、濃縮酸(Fisher#A144-212)の希釈により調製し、圧縮窒素を溶解させることにより脱酸素する。
【0180】
工程
1.無酸素、蒸留脱イオン水を3つ口フラスコに添加し、攪拌しながら30分間窒素を溶解させることにより脱酸素する。
2.2.5MのNa2S保存液を添加して、200mMのNa2S溶液を得る。
3.200mMのNa2S溶液に、攪拌しながら15分間圧縮窒素を通気する。
4.無酸素環境で、一酸化窒素ガスをNa2S溶液に通気する。
5.圧縮窒素を溶解させ、かつ攪拌しながら、最終pHを7.0〜8.0に調節する。
【0181】
組成物2:一酸化窒素液体および硫化水素液体
【0182】
出発物質
一酸化窒素液体組成物:一実施形態では、改良ザツルマン(Saltzman)法を用いて、無酸素環境下で、純NOガスを飽和させ、1mMの1−ヒドロキシ−2−オキソ−3(N−メチル−3−アミノエチル)−3−メチル−1−トリアゼン(NOC−7)を加水分解することにより調製する。(非特許文献8)。
【0183】
2S液体組成物:保存液を、脱酸素水を用いて調製する。真空下で空気を取り除き、30分間圧縮窒素(99.99%)を溶解させることにより水を脱酸素する。2.5MのNa2Sの飽和保存液を、無酸素、蒸留脱イオン水ですすいだNa2S・9H2O結晶(Fisher#5425)から調製する。この保存液を、しっかり密封し、光から保護した状態で保管する。220mMのHCl保存液を、濃酸(Fisher#A144-212)の希釈により調製し、圧縮窒素を溶解させることにより脱酸素する。
【0184】
工程
1.無酸素、蒸留脱イオン水を3つ口フラスコに添加し、攪拌しながら30分間窒素を溶解させることにより脱酸素する。
2.2.5MのNa2S保存液を添加して、200mMのNa2S溶液を得る。
3.200mMのNa2S溶液に、攪拌しながら15分間圧縮窒素を通気する。
4.一酸化窒素液体をNa2S溶液(前述のように調製した)と組み合わせる。
5.圧縮窒素を溶解させ、かつ攪拌しながら、最終pHが7.0〜8.0になるようにpHを調節する。
任意の順序で、Na2Sおよび一酸化窒素を添加して合わせてもよい。
【0185】
A.組成物3:一酸化窒素液体および硫化水素ガス
一酸化窒素液体組成物:一実施形態では、改良ザツルマン(Saltzman)法を用いて、無酸素環境下で、純NOガスを飽和させ、1mMの1−ヒドロキシ−2−オキソ−3(N−メチル−3−アミノエチル)−3−メチル−1−トリアゼン(NOC−7)を加水分解することにより調製する。(非特許文献8)。
【0186】
工程
1.無酸素、蒸留脱イオン水を3つ口フラスコに添加し、攪拌しながら30分間窒素を溶解させることにより脱酸素する。
2.2.5MのNa2S原液を添加して、200mMのNa2S溶液を得る。
3.200mMのNa2S溶液に、攪拌しながら15分間圧縮窒素を通気する。
4.無酸素環境で、硫化水素ガスを一酸化窒素溶液に通気する。
5.圧縮窒素を溶解させ、かつ攪拌しながら、最終pHが7.0〜8.0になるようにpHを調節する。
【実施例8】
【0187】
ラットの再上皮化は液体医薬品硫化物組成物の存在下で改善された
スプラーグ・ドーリー(Sprague Dawley)ラットの火傷モデルを用いて、液体医薬品硫化物組成物(NaHS)の、インビボでの再上皮化を増強する能力を試験した。実験計画は、実験動物委員会(Animal Care and Use Committee)により承認された。全ての動物を、米国生理学会(American Physiology Society)および米国国立衛生研究所により定められた指針に従って取り扱った。
【0188】
平均体重350gおよび平均皮膚表面積435cm2のスプラーグ・ドーリーラットを、順応中、温度および相対湿度が制御され、交互の12時間明暗周期で、餌および水を自由に与えるという環境下のケージに入れた。対照5匹、実験用動物5匹の10匹の動物で試験した。
【0189】
動物に麻酔をし、気管内チューブを用いて挿管した。麻酔は、実験の過程中持続させた。火傷モデルの開始前に、麻酔下で動物の背中および脇腹を剥皮した。麻酔された動物に、1.0mlの0.9%生理食塩水を皮下注射して、深部組織の火傷を防いだ。深い麻酔下で、総体表面積(TBSA)の30%の全層熱湯火傷を有する、スプラーグ・ドーリーラットの火傷モデルを用いた。火傷領域はおよそ130cm2であった。火傷後48時間で開始し、14日間焼痂および健常組織の間の移行帯の4つの等間隔の部位で、実施例1に記載のように調製した液体医薬品硫化物組成物(0.53mg/mlのNaHS)を、動物に毎日皮下注射した。
【0190】
図4に示すように、対照に比べて、液体医薬品硫化物組成物(注射1回あたり0.1mgのNaHS)の存在下では、再上皮化が改善された。創傷が縮小した割合に加えて、創面と再上皮形成の面積測定を行った。
【実施例9】
【0191】
液体硫化物製剤は、内皮細胞の遊走を刺激する
細胞遊走アッセイを実施して、硫化物(NaHS)の液体製剤の、内皮細胞の遊走に対する効果を確認した。HUVECを一晩血清飢餓状態にした。次いで細胞をトリプシン処理し、100μlの飢餓培地中の1×105個の細胞を、トランスウェル(8μM孔径)に添加した。実施例1に記載のように調製した硫化物の液体製剤(6μMまたは60μMのNaHS)を含む試験品または賦形剤(対照)を、600μLの容量のトランスウェル挿入物を収容しているウェルに添加した。細胞を37℃で4時間遊走させた。トランスウェルフィルタ上部の遊走していない細胞を綿棒で取り除いた。遊走した細胞をカルソン液で固定し、(室温で30分間)、それからトルイジンブルーで染色した(室温で20分間)。遊走した細胞を、8個の確率場でスコア化し、倍数変化を対照ウェル中の遊走した細胞の数と比較して判定した。
【0192】
多量の硫化物の液体製剤(NaHS)で処理した細胞は、対照細胞と比較して、遊走細胞が増加した(図5A)。これらの結果は、液体医薬品硫化物が、内皮細胞の遊走を刺激することを示す。賦形剤および硫化物の液体製剤(NaHS)で処理した細胞中の細胞遊走を示すトランスウェル膜の代表的な顕微鏡写真を、図5Bに示す。
【0193】
理論に束縛されるものではないが、図6に示した図は、硫化物が血管形成および創傷治癒を促進することによる、内皮細胞の遊走および増殖のような各種機構を要約する。
【0194】
本明細書で引用した、および/または、出願データシートに列挙した、上記全ての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物は、参照することによりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0195】
上述から、例示のために本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、各種修正を行ってよいことが理解されるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲を除いて、制限されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物、組織、または器官に有効量の硫化物を投与することを含む、動物、組織、または器官の血管形成を刺激する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記硫化物が、前記硫化物と薬剤的に許容可能な担体とを含む安定な液体の医薬品組成物として投与され、前記硫化物の濃度、pHおよび酸化生成物が、前記液体の医薬品組成物の貯蔵後も、合格基準の範囲内にとどまることを特徴とする方法。
【請求項3】
動物、器官、または組織に、有効量の一酸化窒素と組み合わせて有効量の硫化物を投与することを含む、動物、動物組織または器官の血管形成を刺激する方法。
【請求項4】
前記一酸化窒素、および前記硫化物が、ガスとして投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記一酸化窒素、および前記硫化物が、液体として投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記一酸化窒素がガスとして投与され、前記硫化物が液体として投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記一酸化窒素が液体として投与され、前記硫化物がガスとして投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記一酸化窒素、および前記硫化物が同時に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記硫化物が前記一酸化窒素の投与に先だって投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記一酸化窒素が前記硫化物の投与に先だって投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記動物、組織、または器官が哺乳類である、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記動物、組織、または器官が哺乳類の組織または器官である、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
有効量の硫化物を単独で、または有効量の一酸化窒素と組み合わせて動物に投与することを含む、動物の創傷治癒を促進する方法。
【請求項14】
前記硫化物が、局所的に、皮内に、腹腔内に、皮下に、または局部的に投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有効量の硫化物を単独で、または有効量の一酸化窒素と組み合わせて動物に投与することを含む、火傷後の、外傷後の、創傷後の、損傷後の、化学療法後の、または薬物治療もしくは病気の過程に続くの皮膚反応後の、動物の剥皮領域の再上皮形成を促進する方法。
【請求項16】
虚血組織への血液の流れを増加させる方法であって、血管形成を刺激し、前記虚血組織への血液の流れを増加させるために有効な量の硫化物を組織に投与することを含む方法。
【請求項17】
動物における減少した、もしくは不十分な血液の流れに関連する損傷もしくは疾患を治療、または予防する方法であって、有効量の硫化物を単独でまたは有効量の一酸化窒素と組み合わせて前記動物に投与することを含む方法。
【請求項18】
前記動物が哺乳類である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳類がヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記減少した、または不十分な血液の流れが一過性である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記減少した、または不十分な血液の流れが慢性的である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記減少した、または不十分な血液の流れが脳の血液の流れである、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記減少した、または不十分な血液の流れが、前記動物の体内で局在化している、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記損傷、または疾患が糖尿病性足潰瘍である、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記損傷、または疾患が抹消血管疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
請求項17に記載の方法であって、前記損傷または疾患が、うっ血性心不全、心筋虚血、冠状動脈疾患、もしくは狭心症から成る群から選択される冠状動脈損傷または疾患であることを特徴とする方法。
【請求項27】
前記疾患が眼疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
血管形成に関連する細胞の成長、増殖、もしくは遊走を、増加、促進、または刺激する方法であって、有効量の硫化物を前記細胞と接触させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
前記硫化物が安定な液体医薬品組成物で投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法であって、前記安定な液体の医薬品組成物が、1当量の水酸化ナトリウム溶液に1当量の硫化水素ガスを溶解させることによって調製され、前記組成物のpHが6.5〜8.5の範囲にあり、前記組成物のオスモル濃度が250〜330mOsmol/Lの範囲にあり、前記組成物の酸素含有量が5μM以下であり、前記組成物の酸化生成物が3ヶ月間の貯蔵後0%〜3.0%(w/v)の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項31】
前記硫化物が静脈内に投与される、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−530001(P2010−530001A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512395(P2010−512395)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/066973
【国際公開番号】WO2008/157393
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509095709)イカリア, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】