説明

硫酸マンガン一水和物の製造方法

本発明は、硫酸マンガン溶液に等モル量のBaS溶液又はSrS溶液を添加して十分に反応させて、固液分離し、固相を洗浄する工程1)と、工程1)での固液分離により得られた固相と脱イオン水とを混合し、スラリを作り、得られたスラリを濃硫酸で溶解させ、固液分離することで、MnSO溶液を得る工程2)と、得られたMnSO溶液に過酸化水素を適量で添加し、沸騰までに昇温し、溶液のpH値を5〜6に調節し、精密ろ過を行い、溶液を蒸発させ、結晶後乾燥させることで、MnSO・HO製品を得る工程3)と、を備える、硫酸マンガン一水和物の製造方法に関する。この方法は収率が高く且つコストが低く硫酸マンガン一水和物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫酸マンガン一水和物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のリチウムイオンパワーバッテリーで用いられているMnSO・HO原料は、化学的指標が厳しく要求されているので、精製処理が必要になっている。従来技術において、炭酸化法精製プロセス又はアンモニア法精製プロセスが主流となっているが、これらの方法には、収率が低く、分離効率が著しくなく、コストも高いという問題点がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、MnSOとBaS又はSrSとの定量的反応によってMnをMnSに変換した後、濃硫酸を添加してMnSを溶解させて、MnSO溶液を生成し、蒸発乾燥を行うことによりMnSO溶液中のMnを定量的に回収する硫酸マンガン一水和物の製造方法を提供する。
【0004】
本発明の主な貢献は反応に関する思想にある。本発明で用いられる試薬及びプロセス用設備については、いずれも、従来技術においてよく用いられているものであり、本発明のポイントではないため、簡単な説明のみをする。
【0005】
当該方法は、主として下記工程を備える。
1)硫酸マンガンを溶液に調製した後、等モル量のBaS溶液又はSrS溶液を添加して十分に反応させて、固液分離し、固相を洗浄する。
【0006】
なお、工程1)において、原料の硫酸バリウムとしては、例えば、中国特許出願第200910179944.9号に開示されている排煙脱硫方法による硫酸マンガン、中国特許出願第200910157921.8号に開示されている硫化ストロンチウム又は硫化バリウムと二酸化マンガン鉱とを反応させたものに硫酸を反応させて得られた硫酸マンガン、及び、市販の硫酸マンガンなど、任意の硫酸マンガンを選択することができる。当該硫酸マンガンを所定の濃度の溶液に調製する。前記濃度は一般に10〜450g/Lが好適である。濃度が高くなりすぎると、エントレインメント損失の原因となり、濃度が低くなりすぎると、後の蒸発工程のエネルギー消耗の増大を引き起こすからである。十分な反応とコストの削減を主要目的として、硫酸マンガンと硫化ストロンチウム又は硫化バリウムとを等モル反応させる。硫化物の量が足りないと、マンガンの回収率が低下し、硫化物の量が過剰になると、硫化物の損失の原因となる。反応が終了した後、固相における主成分は硫酸バリウム及び硫化マンガンであるが、若干の不純物イオンも存在している。固相洗浄工程は、得られる固相中の、例えばK、Naなど可溶性不純物イオンの分離を主要目的とする。
【0007】
好ましくは、前記工程1)の固相洗浄工程では、温度が50〜70℃の熱水による洗浄や1〜2時間の洗浄時間が用いられ、また、洗浄を数回にわたって行うこともできる。
【0008】
2)工程1)での固液分離により得られた固相に脱イオン水を添加してスラリを作り、得られたスラリを濃硫酸で溶解させて、固液分離する。
【0009】
なお、溶液中のMnSOは次の浄化処理工程に用いられ、一方、固相は主にBaSOであり、洗浄乾燥を経て硫酸バリウム製品が得られる。
【0010】
好ましくは、前記工程2)において、濃硫酸の添加により生じるHSガスはBaS溶液又はSrS溶液により吸収され、また、結果として生じるSr(HS)又はBa(HS)は還元性硫化物としてMnOに反応させることができる。
【0011】
3)工程2)での固液分離により得られたMnSO溶液に過酸化水素を適量で添加し、沸騰するまでに昇温し、pH値を5〜6に調節し、精密ろ過を行い、溶液を蒸発させ、結晶後乾燥させることで、MnSO・HO製品を得る。
【0012】
なお、工程3)において過酸化水素を添加するのは、鉄などの不純物を除去する一方で、他の不純物を導入せずに少量の硫化物を酸化することができるためである。
【0013】
好ましくは、前記工程3)においてpH値の調節は、新しい不純物の導入を引き起こさない化合物により行うことができる。こうした化合物としては、例えばMn(OH)又はMnCOなどマンガンのアルカリ化合物が挙げられる。
【0014】
好ましくは、前記工程3)において、過酸化水素を添加する前に、前もってpH値を1〜2に調節しておいてもよい。当該調節は依然としてMn(OH)又はMnCOにより行うことが好ましい。こうした調節は、酸度が大きすぎる場合に、過酸化水素の添加後、中和する際に比較的多くのMn(OH)又はMnCOを添加することが必要となり、導入される鉄などの不純物の量が増大し、こうして、製品の品質が影響されることを防ぐことを目的とする。
【0015】
好ましくは、前記工程3)における精密ろ過ステップは、直径が0.24〜0.45μmのろ膜を用いて、加圧フィルターにより行うことができる。
【0016】
本発明に係る主な化学反応は下記のとおりである。
MnSO + BaS → BaSO + MnS
MnSO + SrS → SrSO + MnS
MnS + HSO → MnSO + HS↑
本発明の主なプロセスフローを図1に示す。
【0017】
本発明は、MnSOとBaS又はSrSとの反応により、MnSO溶液中のMnを定量的に回収し、MnSO精製過程中のマンガンの回収率を高める。本発明に係る製造方法は、収率が高く、分離効率が著しく、コストも低い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の主な工程のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施例1)
貴州紅星発展股ふん有限公司の硫化バリウムと二酸化マンガン鉱との反応による生成物を硫酸と反応させ、得られた硫酸マンガン溶液2000mLを5000mLのビーカーに入れた。MnSO濃度を測定したところ、108.5g/Lであった。ここに、130g/LのBaS溶液1868mLを添加し、攪拌反応後、吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキに水を添加してスラリを作り、70℃で1時間洗浄し、さらに吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキにまず水を添加してスラリを作り、さらに80mLの濃硫酸を追加し、溶解して、吸引濾過により分離を行い、こうして得られたろ液をMnCOにてpH値が1となるように調節し、その後、ろ液に27.5重量%の工業級過酸化水素10mLを入れ、沸騰するまでに加温し、さらに溶液をMnCOにてpH値が5となるまでに中和し、直径が0.24μmの加圧フィルターにて精密ろ過し、澄んだろ液を蒸発させ、85℃で16時間乾燥し、MnSO・HOサンプル1#を得た。
【0020】
(実施例2)
排煙脱硫方法により得られたMnSO溶液8000mLを取り、MnSO濃度を測定したところ、12.4g/Lであった。ここに、130g/LのBaS溶液854mLを添加し、攪拌反応後、吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキに水を添加してスラリを作り、80℃で1時間洗浄し、さらに吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキにまず水を添加してスラリを作り、さらに36.5mLの濃硫酸を追加し、溶解させて、吸引濾過により分離を行い、こうして得られたろ液に27.5重量%の工業級過酸化水素10mLを入れ、沸騰するまでに昇温し、さらに溶液をMn(OH)にてpH値が5となるまでに中和し、直径が0.30μmの加圧フィルターにて精密ろ過し、澄んだろ液を蒸発させ、85℃で16時間乾燥し、MnSO・HOサンプル2#を得た。
【0021】
(実施例3)
市販のMnSO・HOを濃度が450g/Lとなる溶液に調製し、当該溶液1000mLを取り、130g/LのBaS溶液3874mLを添加し、攪拌反応後、吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキに水を添加してスラリを作り、50℃で2時間洗浄し、さらに吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキにまず水を添加してスラリを作り、さらに148mLの濃硫酸を追加し、溶解させて、吸引濾過により分離を行い、まず溶液をMn(OH)にてpH値が2となるように調節し、こうして得られたろ液に27.5重量%の工業級過酸化水素10mLを入れ、沸騰するまでに昇温し、さらに溶液をMn(OH)にてpH値が6となるまでに中和し、直径が0.45μmの加圧フィルターにて精密ろ過し、澄んだろ液を蒸発させ、85℃で16時間乾燥し、MnSO・HOサンプル3#を得た。
【0022】
(実施例4)
貴州紅星股ふん有限公司の硫化ストロンチウムと二酸化マンガン鉱との反応による生成物を硫酸と反応させ、得られた硫酸マンガン溶液1000mLを5000mLのビーカーに入れた。MnSO濃度を測定したところ、256g/Lであった。ここに、50g/LのSrS4034mLを添加し、攪拌反応後、吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキに水を添加してスラリを作り、70℃で1.5時間洗浄し、さらに吸引濾過により分離を行い、ろ液を捨て、得られたケーキにまず水を添加してスラリを作り、さらに94.2mLの濃硫酸を追加し、溶解させて、吸引濾過により分離を行い、こうして得られたろ液に27.5重量%の工業用過酸化水素10mLを入れ、沸騰するまでに昇温し、溶液をMnCOにてpH値が6となるまでに中和し、直径が0.45μmの加圧フィルターにて精密ろ過し、澄んだろ液を蒸発させ、さらに85℃で16時間乾燥し、MnSO・HOサンプル4#を得た。
【0023】
各実施例で得られたサンプル中の一部の成分の重量含有量を下記の表に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の表から分かるように、本発明の方法によれば、純度の比較的高い硫酸マンガン一水和物を製造することができ、各種金属不純物の含有量が著しく低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸マンガンを溶液に調製し、等モル量のBaS溶液又はSrS溶液を添加して十分に反応させて、固液分離し、固相を洗浄する工程1)と、
工程1)での固液分離により得られた固相に脱イオン水を添加してスラリを作り、得られたスラリを濃硫酸で溶解させて、固液分離する工程2)と、
工程2)での固液分離により得られたMnSO溶液に過酸化水素を適量で添加し、沸騰するまでに昇温し、pH値を5〜6に調節し、精密ろ過を行い、溶液を蒸発させて、結晶後乾燥させることで、MnSO・HO製品を得る工程3)と、
を備えることを特徴とする、硫酸マンガン一水和物の製造方法。
【請求項2】
前記工程1)において、硫酸マンガン溶液は、濃度が10〜450g/Lである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程1)において、固相洗浄ステップは、温度が50〜70℃の熱水で洗浄するものである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程1)において、固相洗浄ステップの洗浄時間が1〜2時間であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程2)において、濃硫酸の添加により生じるHSガスがBaS又はSrSにより吸収回収される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程3)において、過酸化水素を添加する前に予めpH値を1〜2に調節する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程3)において、pH値をMnCO又はMn(OH)にて調節する請求項1又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程3)における精密ろ過ステップは、直径が0.24〜0.45μmのろ膜により行う請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−521206(P2013−521206A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555282(P2012−555282)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/CN2010/075309
【国際公開番号】WO2011/120272
【国際公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(512119975)貴州紅星発展股▲ふん▼有限公司 (3)
【出願人】(512118990)北京万坤嘉宏科技発展有限公司 (2)
【Fターム(参考)】