説明

硫黄析出状態判定方法、硫黄析出状態判定装置、及び硫酸電解システム

【課題】硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を迅速かつ的確に判定することができる硫黄析出状態判定方法、及び該判定方法を用いた硫黄析出状態判定装置、並びに該判定装置を有する硫酸電解システムを提供する。
【解決手段】硫酸電解溶液に接液される作用極3a及び参照極3bと、参照極3bに対する作用極3aの電位を掃引し、その際の応答電流を経時的に測定するポテンショスタット4と、作用極3aの電位情報とポテンショスタット4による応答電流の測定結果とを受け、参照極3bに対する作用極3aの電位が還元電位にあるときの還元電流と該還元電位との相関関係の経時的変動に基づき、硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する判定部5と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する硫黄析出状態判定方法、該判定方法を用いた硫黄析出状態判定装置、並びに該判定装置を有する硫酸電解システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置、液晶表示装置等の製造プロセスにおいては、レジスト、金属不純物その他の汚染物を除去することを目的として様々な洗浄処理が行われている。従来から行われているレジスト剥離工程には、濃硫酸と過酸化水素水を混合して製造されるSPM溶液が用いられている。この方法は、硫酸や過酸化水素水を大量に消費するため、ランニングコストが高く、多量の廃液を発生することが欠点となっている。
これに対して、本願発明者等は、硫酸を電気分解して得られる過硫酸等の酸化性物質を含有した硫酸電解溶液を洗浄液とし、該洗浄液を循環して使用する洗浄システムを提案している(例えば特許文献1及び2参照)。この洗浄システムでは、薬液使用量及び廃液量を削減すると同時に高い洗浄効果を得ることができる。
【0003】
また、導電性ダイヤモンド電極を利用した電気化学的測定方法が知られており、該装置としては、過酸化水素を検出する装置や、残留塩素濃度を測定する装置等が提案されている(例えば特許文献3及び4参照)。
さらには、導電性ダイヤモンド電極を用いて硫酸電解溶液中の過硫酸濃度を測定する過硫酸濃度測定装置が提案されている(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−114880号公報
【特許文献2】特開2006−278687号公報
【特許文献3】特開2003−121410号公報
【特許文献4】特開2007−139725号公報
【特許文献5】特開2008−294020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記洗浄液として使用する場合に硫酸を電気分解する目的は、レジスト等の汚染物の除去等に好適な酸化力の高い過硫酸(ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸)を生成させることにある。しかしながら、硫酸の電気分解においては、硫酸濃度、液温、電流密度その他の条件が複合的に関係して、電極表面のイオンフラックスが低下すると陰極の電極面に固形の硫黄が析出することが知られている。
このような硫黄が析出した状態で電気分解を継続すると、電極表面に析出した硫黄が成長して電極から剥がれることがある。電極から硫黄析出物が剥がれると、電解セルの出液側流路の狭小な部分等に硫黄析出物が引っ掛かって蓄積し、やがて流路の閉塞に至るという問題が生じることがある。
【0006】
また、特許文献3及び4には、導電性ダイヤモンド電極を用いて、過酸化水素若しくは過酸化水素を生成する被検化合物の濃度、又は残留水素濃度を測定することが記載されるだけであり、その他の物質の濃度の測定については記載されていない。また、特許文献3では、導電性ダイヤモンド電極上に触媒金属が担持されているため、該電極を硫酸電解溶液中の物質の検出に使用した場合、硫酸濃度が高いと担持金属が徐々に溶解してしまうことになる。
また、特許文献5では、硫酸を電気分解して得られる硫酸電解溶液中の過硫酸濃度を測定することは記載されているが、副生する硫黄析出物の検出については記載されていない。
【0007】
本発明は、硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を迅速かつ的確に判定することができる硫黄析出状態判定方法、及び該判定方法を用いた硫黄析出状態判定装置、並びに該判定装置を有する硫酸電解システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の硫黄析出状態判定方法のうち、第1の本発明は、硫酸電解溶液に参照極及び作用極を接液して前記参照極に対する前記作用極の電位を掃引して応答電流を測定するボルタンメトリにより、前記参照極に対する前記作用極の電位が還元電位にあるときの還元電流を経時的に測定し、前記還元電位と前記還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、前記硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定することを特徴とする。
【0009】
第2の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1の本発明において、前記硫黄析出状態の判定が、前記硫黄の析出の有無又は前記硫黄の析出のしやすさの程度を決定するものであることを特徴とする。
【0010】
第3の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1又は第2の本発明において、前記還元電位が所定の電位のときの前記還元電流の電流値が、所定の閾値以上に上昇している場合、前記硫酸電解溶液中に前記硫黄が析出している、又は前記硫黄が析出しやすい状態である、と判定することを特徴とする。
【0011】
第4の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1又は第2の本発明において、前記還元電位が所定の電位のときの前記還元電流の電流値が、所定の閾値以上の単位時間当たりの上昇率で上昇している場合、前記硫黄が析出しやすい状態であると判定することを特徴とする。
【0012】
第5の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1又は第2の本発明において、前記還元電流が所定の電流値を示すときの前記還元電位の絶対値が、所定の閾値以下である場合、前記硫酸電解溶液中に前記硫黄が析出している、又は前記硫黄が析出しやすい状態である、と判定することを特徴とする。
【0013】
第6の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記ボルタンメトリに用いる電極のうち、少なくとも前記作用極が導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする。
【0014】
第7の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記還元電位が、標準水素電極の電位を基準として、−1.5〜0Vであることを特徴とする。
【0015】
第8の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1〜第7の本発明のいずれかにおいて、前記作用極の電位の掃引速度が50〜1000mV/秒であることを特徴とする。
【0016】
第9の本発明の硫黄析出状態判定方法は、前記第1〜第8の本発明のいずれかにおいて、前記硫酸電解溶液が、電子材料上のレジストの除去に用いられるものであることを特徴とする。
【0017】
第10の本発明の硫黄析出状態判定装置は、硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する硫黄析出状態判定装置であって、前記硫酸電解溶液に接液される作用極及び参照極と、前記参照極に対する作用極の電位を掃引する電位掃引部と、前記電位掃引部により前記作用極の電位を掃引した際の応答電流を経時的に測定する電流測定部と、前記作用極の電位情報と前記電流測定部による前記応答電流の測定結果とを受け、前記参照極に対する前記作用極の電位が還元電位にあるときの還元電流と該還元電位との相関関係の経時的変動に基づき、前記硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0018】
第11の本発明の硫黄析出状態判定装置は、前記第10の本発明において、前記判定部は、前記硫黄の析出の有無又は前記硫黄の析出のしやすさの程度を決定することを特徴とする。
【0019】
第12の本発明の硫酸電解システムは、硫酸溶液又は硫酸電解溶液を電気分解して硫酸電解溶液を得る電気分解部と、前記電気分解部の入液側に接続され、前記電気分解部に前記硫酸溶液又は前記硫酸電解溶液を供給する供給流路と、前記電気分解部の出液側に接続され、前記電気分解部により得られた前記硫酸電解溶液を送液する送液流路と、前記供給流路及び/又は前記送液流路に設けられ、前記電気分解部に供給される前の硫酸電解溶液及び/又は前記電気分解部により得られる前記硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する請求項10又は11に記載の硫黄析出状態判定装置と、を有することを特徴とする。
【0020】
第13の本発明の硫酸電解システムは、前記第12の本発明において、前記硫黄析出状態判定装置による判定結果を受け、該判定結果に基づき、前記硫黄の析出に対する対策制御を実行する制御部を有することを特徴とする。
【0021】
第14の本発明の硫酸電解システムは、前記第13の本発明において、前記供給流路により前記電気分解部に供給される前記硫酸電解溶液に水を添加する水添加部を有し、前記制御部は、前記硫黄析出状態判定装置による前記判定結果に基づき、前記水添加部による前記水の添加を制御することを特徴とする。
【0022】
第15の本発明の硫酸電解システムは、前記第13又は第14の本発明において、前記制御部は、前記硫黄析出状態判定装置による前記判定結果に基づき、前記電気分解部における電気分解への投入電流量を制御することを特徴とする。
【0023】
第16の本発明の硫酸電解システムは、前記第13〜第15の本発明のいずれかにおいて、前記電気分解部は、電源部と、該電源部の通電によって陽極及び陰極となる対の電極を有し、前記電源部は前記対の電極に対し逆方向の電圧を印加する転極動作が可能であり、前記制御部は、前記硫黄析出状態判定装置による前記判定結果に基づき、前記対の電極に対する前記転極動作の制御を行うことを特徴とする。
【0024】
本発明の硫黄析出状態判定方法に用いられるボルタンメトリは、参照極に対する作用極の電位を掃引した際に該作用極での電気化学的反応により流れる応答電流(還元電流及び酸化電流)を測定するものである。ボルタンメトリとしては、以下に述べる特定の電位での応答電流を測定することができるものであればよいが、電位の掃引を循環的に行うサイクリックボルタンメトリを好適に用いることができる。
ボルタンメトリには、電極として、作用極、参照極、及び対極の3電極、又は作用極及び参照極兼対極の2電極を用いることができる。ボルタンメトリに用いられる電極の材質は特に限定されるものではないが、中でも、導電性ダイヤモンド電極は、化学的安定性が高く、例えば硫酸濃度60〜97質量%の溶液に対しても溶解することなく安定した電極性能を示す。したがって、硫酸電解溶液を測定対象とする本発明においては、ボルタンメトリに用いる電極のうち、少なくとも作用極が導電性ダイヤモンド電極であることが好ましく、作用極及び対極が導電性ダイヤモンド電極であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明において、参照極には、例えば、一般的に知られている標準水素電極(NHE)、飽和カロメル電極(SCE)、銀−塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、水銀−硫酸水銀電極(Hg/HgSO電極)等を使用することができる。ただし、ボルタンメトリによる測定後の硫酸電解溶液をプロセス側に返送する場合には、該溶液への塩化物イオン等の不純物の混入を防ぐためにNHE又はHg/HgSO電極を用いることが好ましい。
【0026】
本発明により硫黄析出状態が判定される硫酸電解溶液には、例えば、硫酸濃度が好ましくは60質量%以上、より好ましくは60〜97質量%の硫酸溶液を電気分解して得られたものを用いることができる。硫酸電解溶液は、例えば、シリコンウエハその他の半導体ウエハ等の電子材料上のレジスト等の汚染物を洗浄除去する洗浄液として使用されるものである。硫酸濃度60質量%以上の硫酸溶液を電気分解することにより得られる硫酸電解溶液には、酸化剤として、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸、及び過酸化水素が含まれている。なお、本発明においては、ペルオキソ二硫酸及びペルオキソ一硫酸の両者を総称して過硫酸という。
【0027】
硫酸溶液及び硫酸溶液を電気分解することにより得られた硫酸電解溶液には、下記式(1)〜(3)に示すように化学種が解離して、SO2−、HSO、H等のイオンが存在する。
【0028】
【化1】

【0029】
硫酸の解離平衡は硫酸濃度に応じて変化し、硫酸濃度が70〜80質量%のときにH(H)及びHSOの濃度がピークとなり、それよりも硫酸濃度が高い高濃度側では、硫酸濃度が増加するに従って、H(H)及びHSOの濃度は低下する。一方未解離の硫酸分子HSOの濃度が急上昇する。
【0030】
上記硫酸分子HSOの濃度の急上昇のない硫酸濃度が80質量%以下の低濃度側の場合、電気分解における陰極側では、下記式(4)に示す還元反応が起こり、水素ガスが発生する。
【0031】
【化2】

【0032】
他方、上記硫酸分子HSOの濃度の急上昇が起きる硫酸濃度が80質量%を超える高濃度側の場合、電気分解における陰極側では、投入電流に相応する水素イオンが不足して硫酸分子HSOが還元され、固形の硫黄が析出する。
【0033】
上記硫黄析出状態は、硫酸電解溶液について、ボルタンメトリにより、参照極に対する作用極の電位が還元電位にあるときの還元電流を経時的に測定し、その結果得られる還元電位と還元電流との相関関係の経時的変動に基づいて判定することができる。
具体的には、ボルタンメトリによる測定において、作用極側で硫黄が析出し又は硫黄が析出しやすい状態になると、作用極側で水素ガスが発生する通常時と比較して、高電位側の還元電位(絶対値の小さい還元電位)で還元電流が流れる。すなわち、作用極側で硫黄が析出し又は硫黄が析出しやすい状態になると、参照極に対する作用極の電位が所定の還元電位にあるときに流れる還元電流は、作用極側で水素ガスが発生する通常時と比較して上昇する。
このように、硫黄析出状態が変動すると、還元電位と還元電流との相関関係も変動する。したがって、還元電位と還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、硫黄析出状態を判定することができる。
【0034】
本発明では、ボルタンメトリにより、参照極に対する作用極の電位が還元電位にあるときの還元電流を経時的に測定し、還元電位と還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する。該硫黄析出状態の判定では、硫黄の析出の有無又は硫黄の析出のしやすさの程度を決定することができる。より具体的には、以下に述べる方法により硫黄析出状態を判定することができる。
【0035】
まず、還元電位が所定の電位のときの還元電流の電流値が、所定の閾値以上に上昇している場合、硫酸電解溶液中に硫黄が析出している、又は硫黄が析出しやすい状態であると判定することができる。この場合、硫黄が析出しやすい状態と判定する閾値と硫黄が析出していると判定する閾値とをそれぞれ設定して、それぞれの判定を可能にしてもよい。
上記閾値は、予め実験データなどによって取得する。
還元電流を測定すべき還元電位は、標準水素電極の電位を基準として、−1.5〜0Vであることが好ましい。また、還元電流の電流値の閾値は、電極の材質その他の装置構成等に応じて適宜設定することができるが、例えば作用極及び対極として電極面積20cmの導電性ダイヤモンド電極を用い、作用極と対極との距離を0.5cmとした場合、200〜300mAに設定することができる。
【0036】
また、還元電位が所定の電位のときの還元電流の電流値が、所定の閾値以上の単位時間当たりの上昇率で上昇している場合、硫黄が析出しやすい状態であると判定することもできる。
上記閾値は、予め実験データなどによって取得する。
還元電流を測定すべき還元電位は、上記と同様、標準水素電極の電位を基準として、−1.5〜0Vであることが好ましい。また、単位時間当たりの上昇率の閾値は、電極の材質その他の装置構成等に応じて適宜設定することができるが、例えば作用極及び対極として電極面積20cmの導電性ダイヤモンド電極を用い、作用極と対極との距離を0.5cmとした場合、上昇率10〜20%/分に設定することができる。
【0037】
なお、参照極に対する作用極の電位の掃引速度は、50〜1000mV/秒に設定することが好ましい。これは、掃引速度が遅すぎると、電気分解が進行して電極表面で酸素や水素の気泡が発生して電極表面に付着し、その結果、測定誤差が生じるおそれがあり、また、掃引速度が速すぎると、検出感度が低下するおそれがあるためである。
【0038】
また、上記硫黄析出状態を判定する基準となる各閾値は、使用する測定装置の構成に影響される。閾値に影響する測定装置の構成としては、作用極、対極、及び参照極の材質、設置位置、及び電極面積、並びにこれら電極間の距離等が挙げられる。また、閾値は、硫酸電解溶液の温度や流速等にも影響される。したがって、使用する測定装置について、硫酸電解溶液の温度や流速等の異なる条件毎に、上記各閾値を予め求めておくことが好ましい。
【0039】
なお、本発明の硫黄析出状態判定装置は、後述するように、例えば、半導体ウエハ等の電子材料を洗浄するバッチ式又は枚葉式洗浄装置に供給する硫酸電解溶液を生成する硫酸電解システムにおける電解装置の入液側若しくは出液側又はこれら両側に設置してもよい。電解装置に入液し又は電解装置から出液する硫酸溶液又は硫酸電解溶液について、本発明の硫黄析出状態判定装置により硫黄析出状態を判定することにより、電解装置における硫黄析出状態を推測することができる。
【発明の効果】
【0040】
以上、説明したように、本発明によれば、硫酸電解溶液に参照極及び作用極を接液して前記参照極に対する前記作用極の電位を掃引して応答電流を測定するボルタンメトリにより、前記参照極に対する前記作用極の電位が還元電位にあるときの還元電流を経時的に測定し、前記還元電位と前記還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、前記硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定するので、硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を迅速かつ的確に判定することができる。したがって、本発明によれば、前記判定結果に基づき硫黄の析出に対する対策を迅速に実行することができ、硫酸電解溶液が流れる流路の硫黄による閉塞を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の硫黄析出状態判定装置を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。
【図3】同じく、他の実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。
【図4】同じく、更に他の実施形態の枚葉式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。
【図5】同じく、更に他の実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。
【図6】実施例1のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムにおける稼働時間と所定の電位での応答電流の電流密度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例1のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムの稼働開始から2時間後及び4.5時間後に得られたサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(実施形態1)
本発明の一実施形態の硫黄析出状態判定装置を図1に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態の硫黄析出状態判定装置1は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成された直方体状の測定セル2に組み込まれる作用極3a、参照極3b、及び対極3cと、各電極に接続されたポテンショスタット4と、ポテンショスタット4による測定結果に基づき硫黄析出状態を判定する判定部5とを有している。
測定セル2には、下部に流入口、上部に流出口があり、それぞれ硫酸電解溶液を供給する供給管2aおよび返流管2bが接続されている。
【0043】
作用極3a及び対極3cとしては、それぞれ例えば導電性ダイヤモンド電極が用いられている。また、参照極3bとしては、例えばHg/HgSO電極が用いられている。これら電極は、測定セル2内の硫酸電解溶液に接液されて硫黄析出状態の判定に用いられる。
【0044】
ポテンショスタット4は、図示しない電位掃引ユニットを備えており、参照極3bに対する電位として作用極3aに印加する電圧を所定の範囲および所定の掃引速度で掃引することができる。また、ポテンショスタット4は、電位の掃引の際に作用極3aと対極3cとの間を流れる応答電流を測定することができる。電位掃引ユニットを備えるポテンショスタット4は、本発明の電位掃引部及び電流測定部を構成し、サイクリックボルタンメトリを行うものである。
【0045】
ポテンショスタット4には、判定部5が接続されている。判定部5は、参照極3bに対する作用極3aの電位情報とポテンショスタット4による応答電流の測定結果とを受けて、還元電位と還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、測定セル2内の硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する。判定部5には、記憶部5aが備えられている。記憶部5aには、硫黄析出状態を判定する際に基準として用いられる所定の閾値が格納されている。
【0046】
次に、上記図1に示す硫黄析出状態判定装置1の動作について説明する。
まず、測定セル2内に硫酸電解溶液が流入することにより、作用極3a、参照極3b、及び対極3cが硫酸電解溶液に接液する。硫酸電解溶液は、例えば硫酸濃度80〜97質量%の硫酸溶液を電気分解することにより得られたものである。
【0047】
次いで、ポテンショスタット4により、サイクリックボルタンメトリを行い、参照極3bに対する電位として作用極3aに印加する電圧を掃引し、この電位の掃引の際に作用極3aと対極3cとの間を流れる応答電流を測定する。参照極3bとしてHg/HgSO電極を用いる場合、作用極3aの電位の掃引範囲は例えば、−2.2〜−0.7V(標準水素電極の電位を基準として、−1.5〜0V)とし、作用極3aの電位の掃引速度は例えば50〜1000mV/秒とする。
【0048】
ポテンショスタット4による応答電流の測定では、参照極3bに対する作用極3aの電位が還元電位にあるときの応答電流を経時的に測定する。参照極3bとしてHg/HgSO電極を用いる場合、応答電流を測定する還元電位は、例えば、−2.2〜−0.7V(標準水素電極の電位を基準として、−1.5〜0V)とする。
【0049】
判定部5では、上記ポテンショスタット4による測定の結果得られる還元電位と還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、測定セル2内の硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する。硫黄析出状態の判定に際しては、記憶部5aに格納された所定の閾値が参照される。
【0050】
具体的には、例えば、還元電位が所定の電位のときの還元電流の電流値が、所定の閾値以上に上昇している場合、硫酸電解溶液中に硫黄が析出している、又は硫黄が析出しやすい状態であると判定する。還元電流の電流値の閾値は、例えば200〜300mAである。閾値としては、硫黄が析出していると判定するためのものと、硫黄が析出しやすい状態であると判定するものをそれぞれ用意することができる。また、硫黄が析出しやすい状態を段階的に判定するために、複数の閾値を設けるようにしてもよい。
【0051】
また、例えば、還元電位が所定の電位のときの還元電流の電流値が、所定の閾値以上の単位時間当たりの上昇率で上昇している場合、硫黄が析出しやすい状態であると判定する。単位時間当たりの上昇率の閾値は、例えば10〜20%/分である。閾値としては、硫黄が析出しやすい状態を段階的に判定するために、複数の閾値を設けるようにしてもよい。
【0052】
以上のように、硫黄析出状態判定装置1によれば、測定セル2内に硫酸電解溶液を流通させつつ、サイクリックボルタンメトリによる測定結果に基づき硫黄析出状態をその場で判定することができる。したがって、硫酸電解溶液の一部を硫黄析出状態の判定のための試料として採取する必要もなく、また、目視等では判定困難な硫黄の析出のしやすさの程度をも判定することができ、硫黄析出状態を迅速かつ的確に判定することができる。
【0053】
(実施形態2)
次に、本発明の一実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを図2に基づき説明する。図2は、本実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。なお、上記実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し又は簡略化する。
本実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムは、以下に説明するように、硫酸電解システム28を含み、該硫酸電解システム28における電解装置26での硫黄析出状態を上記図1に示す硫黄析出状態判定装置1により判定するものである。
【0054】
図2に示すように、半導体ウエハ等の電子材料20の洗浄が行われる洗浄槽10には、送り循環ライン12と戻り循環ライン13とが接続されている。送り循環ライン12は、フィルタ14及びポンプ15を順次介して貯留槽21に接続されている。また、戻り循環ライン13は、ポンプ16及び冷却器17を順次介して貯留槽21に接続されている。
また、戻り循環ライン13は、ポンプ16の下流側、冷却器17の上流側で分岐路13aに分岐して、分岐路13aがポンプ15およびフィルタ14の下流側で送り循環ライン12に接続されている。分岐路13aには、戻り循環ライン13側から送り循環ライン12側に向かって加熱器18及びフィルタ19が順次介設されている。
【0055】
上記電子材料20を洗浄する洗浄液として使用される硫酸電解溶液は、硫酸電解システム28により生成されており、該システム28は、貯留槽21と電解装置26とを備えている。
洗浄液として使用される硫酸電解溶液が貯留されている貯留槽21には、純水供給ラインと濃硫酸供給ラインとが接続されて純水と濃硫酸の適時供給が可能になっている。また、貯留槽21には、送り循環ライン22と戻り循環ライン23とが接続されている。送り循環ライン22は、ポンプ24及び冷却器25を介して電解装置26の入液側に接続され、電解装置26の出液側に前記戻り循環ライン23が接続されて、電解装置26内での通液が可能になっている。電解装置26は、本発明の電気分解部に相当する。戻り循環ライン23には、気液分離器27が介設されている。
【0056】
また、送り循環ライン22には、冷却器25と電解装置26との間に、上記図1に示す硫黄析出状態判定装置1の測定セル2が介設されている。測定セル2には、送り循環ライン22を流れる硫酸電解溶液が通液されて硫黄析出状態の判定が行われ、電解装置26における硫黄析出状態が監視されるようになっている。すなわち、送り循環ライン22の上流側が供給管2a、送り循環ライン22の下流側が返流管2bに相当する。なお、測定セル2を送り循環ライン22に介設せず、送り循環ライン22と並列して配置したものであってもよい。この場合、供給管2aを送り循環ライン22の上流側に接続し、返流管2bを送り循環ライン22の下流側に接続する。
【0057】
次に、上記図2に示す洗浄システムの動作について説明する。
この洗浄システムでは、貯留槽21に貯留された硫酸溶液がポンプ24によって送り循環ライン22を通じて電解装置26に送液される。この際、硫酸溶液は、冷却器25によって電解に好適な温度に冷却される。電解装置26では、硫酸溶液中の硫酸が電解され、酸化性物質として過硫酸(ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸)、オゾン、及び過酸化水素が生成され、過硫酸を含有する硫酸電解溶液となって戻り循環ライン23を通して貯留槽21に送液されて貯留される。貯留槽21内の硫酸電解溶液は、繰り返し電解装置26に循環されて電気分解されることにより過硫酸濃度が高められる。
戻り循環ライン23に介設された気液分離器27では、硫酸電解溶液中の酸素、水素、オゾン等の気体成分が除去される。
なお、電解に供される硫酸溶液の硫酸濃度は、前記電解装置26における電解効率、レジスト等の分解効率等の点から、60〜97質量%が好ましく、70〜96質量%がより好ましく、80〜96質量%が更に好ましい。
【0058】
貯留槽21内の硫酸電解溶液は、ポンプ15によって送り循環ライン12を通じて洗浄槽10に送液される。この際、送り循環ライン12に介設されたフィルタ14では、硫酸電解溶液中に含まれる微粒子が捕捉されて硫酸電解溶液から除去される。
一方、既に洗浄槽10で洗浄に使用された硫酸電解溶液は、硫酸溶液としてポンプ16によって戻り循環ライン13を通じて送液され、一部は冷却器17で冷却されて前記貯留槽21に送液される。他部は、分岐路13aを通り、加熱器18で加熱された後、貯留槽21から送られる前記硫酸電解溶液と合流して、洗浄液として洗浄槽10に送液される。この際、分岐路13aに介設されたフィルタ19では、加熱された硫酸溶液中に含まれる微粒子が捕捉されて硫酸溶液から除去される。
【0059】
上記分岐路13aを通った高温の硫酸溶液と貯留槽21から送液される硫酸電解溶液との合流により、洗浄槽10に送液される硫酸電解溶液は瞬時に昇温し、洗浄に好適な温度となる。具体的には好適な温度は100〜150℃であり、120〜140℃の範囲が一層好ましい。洗浄液としての硫酸電解溶液の温度が低いと、過硫酸による分解が十分に進行せず、電子材料20のレジスト等の剥離効果が小さくなる。また、洗浄液の温度が高すぎると、過硫酸が早期に自己分解してしまい、同じく、十分なレジスト等の剥離効果が得られない。したがって、加熱器18では、上記溶液温度が得られるように硫酸電解溶液が加熱される。
【0060】
上記のように洗浄槽10に供給される硫酸電解溶液が電解装置26において生成されている間、硫黄析出状態判定装置1では、ボルタンメトリによる応答電流の測定および硫黄析出状態の判定が行われ、電解装置26における硫黄析出状態が監視される。なお、応答電流の測定および硫黄析出状態の判定は常時行ってもよく、また、適宜時期に行ってもよい。
硫黄析出状態判定装置1の測定セル2には、貯留槽21から送り循環ライン22を流れる硫酸電解溶液が通液される。硫黄析出状態判定装置1では、上記のように、ポテンショスタット4による測定の結果得られる還元電位と還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、測定セル2内の硫酸電解溶液中の硫黄析出状態が判定される。
硫黄析出状態判定装置1では、さらに、上記硫黄析出状態の判定結果に基づき、電解装置26における硫黄析出状態が推測される。すなわち、測定セル2内の硫酸電解溶液中の硫黄析出状態について、硫黄が析出している、又は硫黄が析出しやすい状態であると判定されれば、電解装置26における硫黄析出状態について、硫黄が析出している、又は硫黄が析出しやすい状態であると推測される。
【0061】
(実施形態3)
次に、本発明の他の実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを図3に基づき説明する。図3は、本実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。なお、上記実施形態1及び2と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し又は簡略化する。
本実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムは、上記図1に示す実施形態1の硫黄析出状態判定装置1を設置する箇所以外は、上記図2に示す実施形態2のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムと同様の構成を有している。
【0062】
図3に示すように、戻り循環ライン23には、気液分離器27と貯留槽21との間に、上記図1に示す硫黄析出状態判定装置1の測定セル2が介設されている。測定セル2には、戻り循環ライン22を流れる硫酸電解溶液が通液されて硫黄析出状態の判定が行われ、電解装置26における硫黄析出状態が監視されるようになっている。なお、測定セル2は、前記実施形態と同様に戻り循環ライン23に並列に配置したものであってもよい。
【0063】
上記図3に示す洗浄システムでは、測定セル2に通液される溶液が戻り循環ライン22を流れる硫酸電解溶液である点以外は、上記実施形態2の洗浄システムと同様に動作して、電解装置26における硫黄析出状態が監視される。ただし、気泡混入すると正確な測定の阻害となるので気液分離器27の下流側で硫黄析出状態判定を行う。
【0064】
(実施形態4)
次に、本発明の更に他の実施形態の枚葉式硫酸リサイクル型洗浄システムを図4に基づき説明する。図4は、本実施形態の枚葉式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。なお、上記実施形態1〜3と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し又は簡略化する。
上記実施形態2及び3では、バッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムに上記図1に示す実施形態1の硫黄析出状態判定装置1を設置する場合について説明したが、枚葉式硫酸リサイクル型洗浄システムにも上記図1に示す実施形態1の硫黄析出状態判定装置1を設置してもよい。
本実施形態では、枚葉式硫酸リサイクル型洗浄システムに上記図1に示す実施形態1の硫黄析出状態判定装置1を設置した場合について説明する。本実施形態の枚葉式硫酸リサイクル型洗浄システムは、以下に説明するように、硫酸電解システム28を含み、該硫酸電解システム28における電解装置26での硫黄析出状態を上記図1に示す硫黄析出状態判定装置1により監視するものである。
【0065】
図4に示すように、洗浄液としての硫酸電解溶液が貯留されている貯留槽21には、純水供給ラインと濃硫酸供給ラインとが接続されて純水と濃硫酸の適時供給が可能になっている。また、貯留槽21には、送り循環ライン22と戻り循環ライン23とが接続されており、送り循環ライン22は、ポンプ24及び冷却器25を介して電解装置26の入液側に接続され、電解装置26の出液側に前記戻り循環ライン23が接続されて、電解装置26内での通液が可能になっている。戻り循環ライン23には、気液分離器27が介設されている。
【0066】
また、送り循環ライン22には、冷却器25と電解装置26との間に、上記図1に示す硫黄析出状態判定装置1の測定セル2が介設されている。測定セル2には、送り循環ライン22を流れる硫酸電解溶液が通液されて硫黄析出状態の判定が行われ、電解装置26における硫黄析出状態が監視されるようになっている。
【0067】
さらに、貯留槽21には、槽内の硫酸電解溶液を取り出し可能な供給ライン30が接続されている。該供給ライン30の供給先には、枚葉式洗浄装置35が設けられている。該供給ライン30には、枚葉式洗浄装置35の上流側で、貯留槽21内の硫酸電解溶液を送液する送液ポンプ31と、前記硫酸電解溶液中に含まれる微粒子を捕捉して硫酸電解溶液から除去するフィルタ32と、加熱器33とが順次介設されている。すなわち、加熱された硫酸電解溶液が洗浄液として使用される。
【0068】
また、枚葉式洗浄装置35には、被洗浄物の洗浄により排出された硫酸電解溶液を回収して前記貯留槽21へ還流させる還流ライン40の一端が接続されており、該還流ライン40には、分解槽41が介設されている。該分解槽41の下流側では、該還流ライン40に、前記分解槽41内に貯留された硫酸電解溶液を送液する送液ポンプ42と、前記硫酸電解溶液中に含まれる固体浮遊物を捕捉して硫酸電解溶液から除去するフィルタ43と、前記硫酸電解溶液を冷却する冷却器44とが順次介設されている。その下流側で還流ライン40の他端側は、前記貯留槽21に接続されている。なお、分解槽41の上流側で還流ライン40に排液ライン45を分岐接続しておき、適時に、硫酸電解溶液を分解槽41に送液せずに系外に排出できるように構成してもよい。
【0069】
次に、上記図4に示す洗浄システムの動作について説明する。
貯留槽21には、硫酸溶液が、送り循環ライン22を通して電解装置26に供給できるように貯留されている。前記硫酸溶液は、ポンプ24により送液され、冷却器25で電解に好適な温度に調整されて電解装置26の入液側に導入される。電解装置26では、硫酸溶液中の硫酸が電解され、酸化性物質として過硫酸(ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸)、オゾン、及び過酸化水素が生成され、硫酸電解溶液となって戻り循環ライン23を通して貯留槽21に送液されて貯留される。貯留槽21の硫酸電解溶液は、繰り返し電解装置26に循環されて電解されることにより過硫酸濃度が高められる。
なお、電解に供される硫酸濃度は、前記と同様に電解装置26における電解効率、レジスト等の分解効率等の点から、60〜97質量%が好ましく、70〜96質量%がより好ましく、80〜96質量%が更に好ましい。
【0070】
枚葉式洗浄装置35では、ウエハ100が洗浄対象になり該ウエハ100を回転台36上で回転させつつ、前記供給ライン30によって供給される硫酸電解溶液を洗浄液としてウエハ100に接触させる。貯留槽21に貯留された硫酸電解溶液は、送液ポンプ31により、供給ライン30に介設されたフィルタ32及び加熱器33を通して枚葉式洗浄装置35に供給される。このフィルタ32で硫酸電解溶液中の微粒子が除去される。なお、洗浄液としての硫酸電解溶液は、加熱器33で加熱されており、ウエハ100に接触させる際に120〜180℃の温度が維持されるようにする。
【0071】
洗浄に使用された硫酸電解溶液は、枚葉式洗浄装置35から排出され、還流ライン40を通して分解槽41に貯留される。前記硫酸電解溶液には枚葉式洗浄装置35で剥離・除去されたレジスト等の残留有機物が含まれており、分解槽41に貯留されている間に、前記残留有機物が硫酸電解溶液に含まれる酸化性物質によって酸化分解される。
【0072】
分解槽41において含有する酸化性物質が酸化分解された硫酸電解溶液は、送液ポンプ42により還流ライン40に介設されたフィルタ43及び冷却器44を通して貯留槽21に還流される。このフィルタ43で硫酸電解溶液中の固体浮遊物が除去される。また、高温の硫酸電解溶液が貯留槽21に還流されると、貯留槽21に貯留されている硫酸電解溶液中の過硫酸の分解が促進されてしまうため、前記硫酸電解溶液は冷却器44により冷却された後、貯留槽21内に導入される。貯留槽21内に導入された硫酸電解溶液は、送り循環ライン22によって電解装置26に送液されて電解により過硫酸が生成され、戻り循環ライン23により再度貯留槽21に還流される。
このようなシステムの動作によって、枚葉式洗浄装置35に洗浄液として硫酸電解溶液を連続して供給する。
【0073】
上記のように枚葉式洗浄装置35に供給される硫酸電解溶液が電解装置26において生成されている間、硫黄析出状態判定装置1では、上記実施形態2の洗浄システムと同様に、硫黄析出状態の判定が行われ、電解装置26における硫黄析出状態が監視される。
【0074】
なお、上記実施形態4では、送り循環ライン22に硫黄析出状態判定装置1を設置する場合について説明したが、上記図3に示す実施形態3と同様に、戻り循環ライン23に硫黄析出状態判定装置1を設置してもよい。
【0075】
(実施形態5)
次に、本発明の更に他の実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを図5に基づき説明する。図5は、本実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムを示す概略図である。なお、上記実施形態1〜4と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し又は簡略化する。
上記実施形態2〜4においては、硫黄析出状態判定装置1による判定結果に基づき、硫黄の析出に対する対策制御を行う制御部を設けてもよい。
本実施形態のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムは、上記図2に示す実施形態2のバッチ式硫酸リサイクル型洗浄システムにおいて、硫黄の析出に対する対策制御を行う制御部50等が更に設けられたものである。
【0076】
図5に示すように、硫黄析出状態判定装置1には、制御部50が接続され、硫黄析出状態判定装置1による判定結果が、硫黄析出状態判定装置1から制御部50に送信されるようになっている。
【0077】
貯留槽21に純水を供給する純水供給ラインには、貯留槽21への純水の供給量を調整する供給量調整部51が介設されている。純水供給ライン及び供給量調整部51は、本発明の水添加部に相当する。
制御部50には、供給量調整部51が接続されており、供給量調整部51による純水の供給量の調整を制御する制御信号が制御部50から供給量調整部51に送信されるようになっている。
【0078】
さらに、制御部50には、電解装置26に接続されており、電解装置26における投入電流量を制御する制御信号が制御部50から電解装置26に送信されるようになっている。
また、電解装置26は、図示しない電源部と、該電源部の通電によって陽極及び陰極となる図示しない対の電極を有している。電源部は、対の電極に対し逆方向の電圧を印加する転極動作が可能になっている。電解装置26の電源部には、制御部50から、電源部の転極動作を制御する制御信号が送信されるようになっている。
【0079】
次に、上記図5に示す洗浄システムの動作について説明する。
上記図5に示す洗浄システムでは、上記図2に示す洗浄システムと同様に、硫酸電解溶液の生成及び該硫酸電解溶液による電子材料20の洗浄が行われる。
電解装置26において硫酸電解溶液が生成される間、硫黄析出状態判定装置1では、上記図2に示す洗浄システムと同様に硫黄析出状態の判定が行われる。硫黄析出状態判定装置1による判定結果は、制御部50に送信される。
【0080】
制御部50は、硫黄析出状態判定装置1から送信される判定結果に基づき、上記各種制御信号を生成して、該制御信号を供給量調整部51や電解装置26に送信する。これにより、制御部50は、硫黄析出状態判定装置1による判定結果に応じて、硫黄の析出に対する対策制御を実行する。
【0081】
例えば、制御部50は、硫黄析出状態判定装置1から送信される判定結果に基づき、供給量調整部51による純水の貯留槽21への供給量の調整を制御する制御信号を生成して、該制御信号を供給量調整部51に送信する。
供給量調整部51では、制御部50から送信される制御信号に基づき、純水の貯留槽21への供給量の調整が制御される。具体的には、硫黄析出状態判定装置1により硫黄が析出している又は硫黄が析出しやすい状態であると判定されると、貯留槽2への純水の供給を行い又は純水の供給量を増加する制御が実行される。
こうして純水の供給量を制御することにより、電解装置21に供給される溶液に純水を添加して硫酸濃度を低下させることができる。これにより、電解装置26における更なる硫黄の析出を回避し、又は硫黄の析出を未然に防止することができる。なお、本実施形態では水添加部から水として純水を供給しているが、これに限定されることなく、例えば過酸化水素水や低濃度硫酸水溶液を用いることもできる。
【0082】
また、制御部50は、硫黄析出状態判定装置1から送信される判定結果に基づき、電解装置26における電気分解への投入電流量を制御する制御信号を生成して、該制御信号を電解装置26に送信することができる。
電解装置26では、制御部50から送信される制御信号に基づき、電気分解に投入する投入電流量が制御される。具体的には、硫黄析出状態判定装置1により硫黄が析出している又は硫黄が析出しやすい状態であると判定されると、投入電流量を低減する制御が実行される。こうして投入電流量を制御することにより、電気分解の進行を抑制することができる。これにより、電解装置26における更なる硫黄の析出を回避し、又は硫黄の析出を未然に防止することができる。
【0083】
また、制御部50は、硫黄析出状態判定装置1から送信される判定結果に基づき、電解装置26の電源部の転極動作を制御する制御信号を生成して、該制御信号を電解装置26の電源部に送信する。
電解装置26の電源部では、制御部50から送信される制御信号に基づき、転極動作が制御される。具体的には、硫黄析出状態判定装置1により硫黄が析出している又は硫黄が析出しやすい状態であると判定されると、対の電極に逆方向の電圧を印加して陽極と陰極とを入れ替える制御が実行される。こうして転極動作を制御することにより、硫黄が析出するおそれのない陽極として使用していた電極を陰極として使用して電気分解を継続することができる。これにより、電解装置26における更なる硫黄の析出を回避し、又は硫黄の析出を未然に防止することができる。
【0084】
なお、上記純水の供給量、投入電流量、及び転極動作の各制御については、いずれかの制御を単独で行ってもよいし、これらの制御を任意に組み合わせて行ってもよい。
上述のように、硫黄析出状態判定装置1による判定結果に基づき、硫黄の析出に対する対策制御を実行することで、電解装置26における更なる硫黄の析出を回避し、又は硫黄の析出を未然に防止することができる。したがって、硫酸電解溶液が流れる電解装置26の出液部、戻り循環ライン23その他の流路が硫黄により閉塞されるのを防止することができる。
【実施例】
【0085】
次に、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
【0086】
(実施例1)
図2に示す洗浄システムを用い、硫酸濃度95質量%に調整した硫酸溶液を電解装置26において電気分解しながら循環した。硫黄析出状態判定装置1は、電解装置26の入口側に設置した。硫黄析出状態判定装置1における作用極3a及び対極3cにはともに電極面がホウ素をドーピングした導電性ダイヤモンドで被覆された電極を用い、参照極3bにはHg/HgSO電極を用いた。作用極の電極面積は20cmであった。また、Hg/HgSO電極に対する作用極3aの電位の掃引範囲は−2〜+2V(vs. Hg/HgSO)とし、作用極3aの電位の掃引速度は100mV/秒とした。ポテンショスタット4によるサイクリックボルタンメトリでは、ポテンショスタット4に電位掃引ユニットを連結して作用極3aの電位を掃引し、各電位での応答電流の電流量から電流密度を計測した。また、電解装置26における電気分解への投入電流は50Aとした。
【0087】
上記サイクリックボルタンメトリにより測定されるHg/HgSO電極に対する作用極3aの電位が−1.8V(vs. Hg/HgSO)のときの応答電流の電流密度を30分毎にモニタリングした。なお、−1.8V(vs. Hg/HgSO)を標準水素電極の電位を基準として換算すると約−1.1Vに相当する。
図6は、モニタリングの結果を示すグラフである。図6において、横軸は稼働時間を表し、縦軸は応答電流の電流密度を表している。すなわち、このグラフは、応答電流の経時変化を示している。
【0088】
図6から明らかなように、応答電流の電流密度(絶対値)は、稼働開始から4時間までは、おおよそ1〜3mA/cmで安定していたが、稼働開始から4.5時間後に急激に高い値を示した。図7には、この稼働開始から4.5時間後に得られたサイクリックボルタモグラムを、稼働開始から2時間後に得られたサイクリックボルタモグラムとともに示す。
電流密度が急激に高い値を示した4.5時間後では、電解装置26における電解セル出口の配管内の電解液が白濁を起こし、硫黄と考えられる固体の粒子が浮遊していることが確認された。また、このときの硫酸濃度は97質量%程度であった。そこで、電解装置26における電気分解への電流投入を一旦停止し、超純水を添加して硫酸濃度を92質量%に調整して再稼働した。
その後、3時間ほどサイクリックボルタンメトリにより応答電流の電流密度を計測したところ、電流密度が異常値を示すことはなく、順調にシステムは稼働した。電解装置26の停止後、電解セルを解体したところ、硫黄の析出はほとんど認められなかった。
【0089】
(比較例1)
硫黄析出状態判定装置1が設置されていない点を除き、実施例1と同様の洗浄システムを用い、実施例1と同様に硫酸溶液を電気分解しながら循環した。循環開始から8時間経過後、電解装置26の電解セルを解体して点検したところ、硫黄固形物が電解セルの出口側に付着して流路の一部を閉塞していることが確認された。
【符号の説明】
【0090】
1 硫黄析出状態判定装置
3a 作用極
3b 参照極
3c 対極
4 ポテンショスタット
5 判定部
26 電解装置
50 制御部
51 供給量調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸電解溶液に参照極及び作用極を接液して前記参照極に対する前記作用極の電位を掃引して応答電流を測定するボルタンメトリにより、前記参照極に対する前記作用極の電位が還元電位にあるときの還元電流を経時的に測定し、
前記還元電位と前記還元電流との相関関係の経時的変動に基づき、前記硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定することを特徴とする硫黄析出状態判定方法。
【請求項2】
前記硫黄析出状態の判定が、前記硫黄の析出の有無又は前記硫黄の析出のしやすさの程度を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項3】
前記還元電位が所定の電位のときの前記還元電流の電流値が、所定の閾値以上に上昇している場合、前記硫酸電解溶液中に前記硫黄が析出している、又は前記硫黄が析出しやすい状態である、と判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項4】
前記還元電位が所定の電位のときの前記還元電流の電流値が、所定の閾値以上の単位時間当たりの上昇率で上昇している場合、前記硫黄が析出しやすい状態であると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項5】
前記還元電流が所定の電流値を示すときの前記還元電位の絶対値が、所定の閾値以下である場合、前記硫酸電解溶液中に前記硫黄が析出している、又は前記硫黄が析出しやすい状態である、と判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項6】
前記ボルタンメトリに用いる電極のうち、少なくとも前記作用極が導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項7】
前記還元電位が、標準水素電極の電位を基準として、−1.5〜0Vであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項8】
前記作用極の電位の掃引速度が50〜1000mV/秒であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項9】
前記硫酸電解溶液が、電子材料上のレジストの除去に用いられるものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の硫黄析出状態判定方法。
【請求項10】
硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する硫黄析出状態判定装置であって、
前記硫酸電解溶液に接液される作用極及び参照極と、
前記参照極に対する作用極の電位を掃引する電位掃引部と、
前記電位掃引部により前記作用極の電位を掃引した際の応答電流を経時的に測定する電流測定部と、
前記作用極の電位情報と前記電流測定部による前記応答電流の測定結果とを受け、前記参照極に対する前記作用極の電位が還元電位にあるときの還元電流と該還元電位との相関関係の経時的変動に基づき、前記硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する判定部と、を有することを特徴とする硫黄析出状態判定装置。
【請求項11】
前記判定部は、前記硫黄の析出の有無又は前記硫黄の析出のしやすさの程度を決定することを特徴とする請求項10記載の硫黄析出状態判定装置。
【請求項12】
硫酸溶液又は硫酸電解溶液を電気分解して硫酸電解溶液を得る電気分解部と、
前記電気分解部の入液側に接続され、前記電気分解部に前記硫酸溶液又は前記硫酸電解溶液を供給する供給流路と、
前記電気分解部の出液側に接続され、前記電気分解部により得られた前記硫酸電解溶液を送液する送液流路と、
前記供給流路及び/又は前記送液流路に設けられ、前記電気分解部に供給される前の硫酸電解溶液及び/又は前記電気分解部により得られる前記硫酸電解溶液中の硫黄析出状態を判定する請求項10又は11に記載の硫黄析出状態判定装置と、を有することを特徴とする硫酸電解システム。
【請求項13】
前記硫黄析出状態判定装置による判定結果を受け、該判定結果に基づき、前記硫黄の析出に対する対策制御を実行する制御部を有することを特徴とする請求項12記載の硫酸電解システム。
【請求項14】
前記供給流路により前記電気分解部に供給される前記硫酸電解溶液に水を添加する水添加部を有し、
前記制御部は、前記硫黄析出状態判定装置による前記判定結果に基づき、前記水添加部による前記水の添加を制御することを特徴とする請求項13記載の硫酸電解システム。
【請求項15】
前記制御部は、前記硫黄析出状態判定装置による前記判定結果に基づき、前記電気分解部における電気分解への投入電流量を制御することを特徴とする請求項13又は14に記載の硫酸電解システム。
【請求項16】
前記電気分解部は、電源部と、該電源部の通電によって陽極及び陰極となる対の電極を有し、前記電源部は前記対の電極に対し逆方向の電圧を印加する転極動作が可能であり、
前記制御部は、前記硫黄析出状態判定装置による前記判定結果に基づき、前記対の電極に対する前記転極動作の制御を行うことを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の硫酸電解システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−185054(P2012−185054A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48762(P2011−48762)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)