説明

硬化性水性樹脂組成物

【課題】硬化時や得られた硬化物からホルマリンを発生しない、熱硬化性に優れる水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有する単量体成分(a−1)を必須の成分として重合してなるカルボキシル基含有重合体(A’)の存在下で、カルボキシル基を有する単量体成分(a−1)を含まず、3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)および水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−3)を必須の成分とする単量体成分を重合して得られる水性樹脂(A)と、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する化合物(B)と、ポリイソシアネート樹脂および/またはブロックポリイソシアネート樹脂(C)を含有することを特徴とする熱硬化性水性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中への有機溶剤の揮散量の少なく、且つ、ホルマリンをも発生しない、熱硬化性に優れた、コーティング用途や接着用途に好適な水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シックハウス症候群の予防という面から、大気中への有機溶剤の揮散量の少ない水性樹脂、有機溶剤を含まない水性樹脂、さらにはホルマリンを発生しない熱硬化性の水性樹脂が望まれている。
【0003】
水性樹脂の熱硬化方法としては、メラミン樹脂に代表されるメチロール基を利用する方法がよく使われていたが、熱硬化性に優れるものの、ホルマリンを発生するという欠点があった。
【0004】
これまでにも、酸基および/または3級アミノ基含有水性樹脂と水酸基とを併用する水性樹脂と、エポキシ基および加水分解性シリル基併有化合物とポリイソシアネート化合物を構成成分とする形の水性塗料用硬化性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)が、熱硬化型としては硬化性が不十分である。
【0005】
【特許文献1】特開平10−025450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、硬化時や得られた硬化物からホルマリンを発生しない、熱硬化性に優れる水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決すべく、鋭意検討の結果、カルボキシル基を含有した重合体存在下で、3級アミノ基含有単量体と水酸基含有単量体とを含有して、且つ、カルボキシル基不含の単量体類を重合してなる水性樹脂と、シラノール基含有化合物(或いは、加水分解性シリル基等のシラノール基を供給可能な官能基を含有する化合物)と、ブロックされていてもよいポリイソシアネート樹脂とを含有する硬化性水性樹脂組成物が、ホルマリンを発生せずとも、熱硬化性に優れる硬化物を得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、カルボキシル基を有する単量体成分(a−1)を必須の成分として重合してなるカルボキシル基含有重合体(A’)の存在下で、カルボキシル基を有する単量体成分(a−1)を含まず、3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)および水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−3)を必須の成分とする単量体成分を重合して得られる水性樹脂(A)と、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する化合物(B)と、ポリイソシアネート樹脂および/またはブロックポリイソシアネート樹脂(C)を含有することを特徴とする熱硬化性水性樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化時や得られた硬化物からホルマリンを発生しない熱硬化性に優れる硬化性水性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる水性樹脂(A)は、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−1)を必須の成分とするカルボキシル基含有重合体(A’)の存在下で3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)および水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−3)を必須の成分とする単量体成分を重合して得られる。
【0011】
前記カルボキシル基含有重合体(A’)のカルボキシル基の含有量は、酸価として10〜200mgKOH/gであることが好ましい。水性樹脂(A)を水性媒体中で安定に分散させるためには酸価で10以上であることが好ましい。一方、本発明の熱硬化性水性樹脂組成物の硬化物の耐水性や耐アルカリ性の面から酸価を200以下とすることが好ましい。
【0012】
前記カルボキシル基含有重合体(A’)は、例えばアクリル系重合体、ブタジエン系重合体等のエチレン性不飽和単量体の付加重合体(以下、「エチレン性重合体」と略記する)、尿素並びにウレタン結合を有する重合体を含むウレタン重合体、ポリエステル重合体等が挙げられ、これら種々の重合体の混合物、例えばアクリル重合体/ウレタン重合体の混合物や、種々の重合体のグラフト化(ブロック化)物、例えば不飽和ポリエステル重合体にアクリル重合体をグラフト化した物等も使用できるが、エチレン性重合体であることが好ましい。従って、カルボキシル基含有重合体(A’)は、カルボキシル基を有する単量体成分(a−1)として、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体を用いて、水性媒体中で前記カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体を必須の成分とするエチレン性不飽和単量体成分を重合したエチレン性重合体が好ましい。
【0013】
前記カルボキシル基、3級アミノ基、および水酸基を含有する水性樹脂(A)は、カルボキシル基含有重合体(A’)の存在下に、3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)および水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−3)を必須の成分とする単量体成分を重合して得られた重合体である。
【0014】
前記水性樹脂(A)の3級アミノ基含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)の量は、水性樹脂(A)の硬化性や分散安定性等の面から、水性樹脂(A)固形分1g中に含まれる3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)基が0.01〜0.7mmolの範囲であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に用いる水性樹脂(A)中の水酸基の含有率は、水性樹脂(A)の固形分水酸基価として、4〜100mgKOH/gの範囲であることが好ましい。硬化性の点から、8mgKOH/g以上、得られる硬化物の耐水性等の面から、65mgKOH/g以下とすることがより好ましい。
【0016】
また、水性樹脂(A)はカルボキシル基含有重合体(A’)で分散安定化された粒子であり、水性樹脂(A)の固形分酸価としては、粒子の分散安定性や得られる硬化物の耐水性や耐アルカリ性の面から、5〜70mgKOH/gの範囲であることが好ましい。
【0017】
水性樹脂(A)中のカルボキシル基含有重合体(A’)の量は、硬化性と貯蔵安定性のバランスから、水性樹脂(A)とカルボキシル基含有重合体(A’)との配合割合(A)/(A’)が、(A)/(A’)=10/1〜1/1(固形分比)であることが好ましい。
【0018】
カルボキシル基含有重合体(A’)を製造する際に用いるカルボキシル基を有する単量体成分(a−1)は、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、不飽和ジカルボン酸アルキルエステル等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。カルボキシル基の他、更に、後述する水性樹脂(A)中の3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)と反応性を有する基を含有していると、重合体(A’)と水性樹脂(A)が該反応性基によって結び付き、1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物(B)およびポリイソシアネート樹脂および/またはブロックポリイソシアネート樹脂(C)で硬化した際、熱硬化性が向上するため好ましい。
【0019】
この様なカルボキシル基含有重合体(A’)中の3級アミノ基と反応性を有する基は特に制限されるものではないが、例えば、エポキシ基であることが、得られる硬化物の耐溶剤性が著しく向上するため好ましい。例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ビニルシクロヘキサンモノエポキサイド等のエポキシ基含有重合性単量体を使用することが好ましい。
【0020】
カルボキシル基含有重合体(A’)の製造には、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−1)以外に、その他の共重合性エチレン性飽和不単量体を用いることができる。その他のエチレン性飽和不単量体(a−4)としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;フッ素含有ビニル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン等の脂肪族共役ジエン類;(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基及びそのアルコキシ化物含有重合性単量体、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン等の多官能性重合性単量体等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0021】
カルボキシル基含有重合体(A’)の製造方法は、例えば、乳化重合法により、水、重合性単量体の混合物、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、乳化剤や分散安定剤等を一括混合して重合する方法や、水、重合性単量体、乳化剤等を予め混合したものを滴下するいわゆるプレエマルジョン法や、モノマー滴下法等の方法により製造することができる。また、いわゆるシード法によることもできる。好ましくは、全量一括で仕込んで重合する方法が、水性樹脂(A)と加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物(B)およびポリイソシアネート樹脂および/またはブロックポリイソシアネート樹脂(C)で硬化した際、熱硬化性が向上するため、好ましい。重合温度は、使用する単量体の種類、重合開始剤の種類等によって異なるが、水性媒体中で重合する場合は通常30〜95℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0022】
乳化剤としては、例えば、陰イオン性乳化剤として、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩等が挙げられ、非イオン性乳化剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0023】
一般的に反応性乳化剤と称される、重合性不飽和基を分子内に有し、且つ、界面活性能を有する乳化剤を使用することもでき、例えばスルホン酸基及びその塩を有する「ラテムルS−180」(花王(株)製)、「エレミノールJS−2」(三洋化成工業(株)製)、硫酸基及びその塩を有する、「アクアロンHS−20」「(第一工業製薬(株)製)、「アデカリアソープSE−10N」(旭電化工業(株)製)、リン酸基を有する「ニューフロンティアA−229E」(第一工業製薬(株)製)等、非イオン性親水基を有する「ニューフロンティアN−177E」(第一工業製薬(株)製)等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0024】
また、乳化剤以外のその他の分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性アクリル樹脂等の合成或いは天然の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0025】
上記乳化剤及び分散安定剤は、重合時の安定性及び貯蔵安定性を向上させる目的で使用されるが、硬化物の耐水性等の点から、その使用量はカルボキシル基含有重合体(A’)の固形分に対して2重量%以下とすることが好ましい。
【0026】
カルボキシル基含有重合体(A’)の重合の際に用いる重合開始剤としては、過硫酸塩類、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられ、有機過酸化物類、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられる。
【0027】
また、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤を使用することもできる。
さらに、過硫酸塩類および/または有機過酸化物類と還元剤とを併用したレドックス系重合開始剤も使用できる。レドックス重合開始剤系に使用する還元剤としては、例えば、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、クエン酸及びその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等が挙げられる。
【0028】
これらの重合開始剤の使用量は、重合が円滑に進行する量を使用すれば良い。また、カルボキシル基含有重合体(A’)の分子量を調整する必要がある場合には、分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物、例えばラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等を添加してもよい。
【0029】
カルボキシル基含有重合体(A’)のカルボキシル基は、中和せずにそのまま水性樹脂(A)を製造に用いてもよいが、重合時の安定性の面からカルボキシル基の一部を塩基性物質で中和して使用する方法が好ましい。
【0030】
カルボキシル基の中和度は、特に限定されないが、重合時の安定性の点から塩基性物質の使用量を重合体(A’)中の全カルボキシル基に対して10モル%以上とすることが好ましい。
【0031】
中和剤として使用する塩基性物質としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の水溶性有機アミン類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0032】
水性樹脂(A)を製造する際に用いる3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等の三級アミノ基含有重合性単量体を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0033】
水性樹脂(A)を製造する際に用いる水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−3)としては、特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートもしくは4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の、各種のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルもしくは6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の、各種の水酸基含有ビニルエーテル類;または2−ヒドロキシエトキシアリルエーテルもしくは4−ヒドロキシブトキシアリルエーテル等の各種の水酸基含有アリルエーテル類;あるいは前記したような各種の水酸基含有単量体類と、ε−カプロラクトンやポリエチレンオキサイドとの付加物等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0034】
水性樹脂(A)を製造する際には、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、不飽和ジカルボン酸アルキルエステル等のカルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体類を除く、その他の共重合性エチレン性飽和不単量体を用いることができる。
【0035】
カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体を、水性樹脂(A)を製造する際に使用すると、著しく重合安定性を損なうので好ましくない。その他のエチレン性飽和不単量体としては、前述のエチレン性飽和不単量体(a−4)が挙げられる。
【0036】
水性樹脂(A)の製造は、カルボキシル基含有重合体(A’)の存在下で、前記したカルボキシル基含有重合体(A’)の製造方法と同様に行えばよいが、一括重合方法にこだわる必要はない。
【0037】
本発明に用いる水性樹脂(A)は、カルボキシル基によって分散安定化されているため、該カルボキシル基は塩基性物質で中和されていることが分散安定性の点から好ましく、従って、水性樹脂の(A)のpHは、6以上であることが好ましい。一方、本発明の硬化性水性樹脂組成物の硬化性や貯蔵安定性の点から、pHは12以下であることが好ましく、よって、pHは7〜12であることが好ましい。塩基性物質としては、前記のカルボキシル基含有重合体(A’)に使用する塩基性物質を用いることができる。
【0038】
本発明に用いる加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物(B)の量としては、硬化性、硬化後の性能と、貯蔵安定性の面から、水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲で使用することが好ましい。より好ましくは、0.3重量部〜5重量部である。
【0039】
本発明に用いるシラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する化合物(B)としては、多官能性のシラン化合物、シランカップリング剤、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有するエチレン性重合体や、シリコーン樹脂などが特に代表的なものとして挙げられる。
【0040】
本発明に用いる加水分解性シリル基とは、例えば、アルコキシ基、置換アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン原子、イソプロペニルオキシ基、アシロキシ基またはイミノオキシなどが結合した珪素原子を含む原子団であって、容易に加水分解されて、シラノール基を生成するものを云い、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物としては、例えば、多官能性のシラン化合物、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシランもしくはイソブチルトリメトキシシラン等の各種の3官能性シラン化合物;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランもしくはジフェニルジメトキシシラン等の各種の2官能性シラン化合物;
【0041】
メチルトリクロルシラン、フェニルトリクロルシラン、エチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシランもしくはジフェニルジクロルシラン等の、各種のハロシラン類; あるいは前掲したような各種の2官能性ないしは3官能性のシラン化合物を、ほぼ完全に、加水分解させて得られるような、低分子量のシラノール化合物が挙げられる。
【0042】
前記カップリング剤としては、有機官能基と加水分解基を1分子中に有するシランカップリング剤、即ち有機官能基としてはビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基等、加水分解基としてはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0043】
さらに、本発明に用いるシラノール基および/または加水分解性シリル基を有する化合物(B)としては、エポキシ基および加水分解性シリル基および/またはシラノール基を有する化合物が特に好ましく、エポキシ基含有シランカップリング剤、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、もしくはγ−グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン等が挙げられる。
【0044】
本発明に用いるポリイソシアネート樹脂および/またはブロックポリイソシアネート樹脂(C)の量は、硬化性、硬化後の性能と、貯蔵安定性の面から、水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲で使用することが好ましい。より好ましくは、0.3重量部〜20重量部である。
【0045】
本発明に用いるポリイソシアネート樹脂としては、一分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物、例えば、トリレンジイソシアネートもしくはジフェニルメタンジイソシアネート等の各種の芳香族ジイソシアネート類;メタ−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−メタ−キシリレンジイソシアネート等の各種のアラルキルジイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートもしくはイソホロンジイシシアネート等の脂肪族ないしは脂環式ジイソシアネート類と、多価アルコール類とを付加反応させて得られるような、イソシアネート基含有プレポリマー類、前記の各種のジイソシアネート類を環化三量化させて得られるような、イソシアヌレート環を有するプレポリマー類、あるいは前記の各種のジイソシアネート類と、水とを反応させて得られるような、ビュレット構造を有するポリイソシアネート類が挙げられる。
【0046】
さらには、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、3−イソプロペニルーα,α−ジメチルベンジルイソシアネートもしくは(メタ)アクリロニトリルイソシアネートのような、各種のイソシアネート基を有するビニル単量体の重合体等も使用できる。
【0047】
本発明に用いるブロックポリイソシアネート樹脂は、前記ポリイソシアネート樹脂中のをイソシアネート基をブロック剤によりブロックしたものであり、ブロック剤としては、フェノール系ブロック剤として、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール等が挙げられ、ラクタム系ブロック剤として、カプロラクタム、バレロラクタム、ブチロラクタム、プロピオラクタム等が挙げられ、オキシム系ブロック剤として、ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等が挙げられ、アルコール系ブロック剤として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられ、アミン系ブロック剤として、ジシクロヘキシルアミン、3,5ジメチルピラゾール等が挙げられ、活性メチレン系ブロック剤として、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等が挙げられる。好ましいものはオキシム系ブロック剤である。
【0048】
更に、本発明の熱硬化性水性樹脂組成物には、必要に応じて硬化触媒(D)を併用することにより一層の硬化性を向上することができる。硬化触媒(D)の使用量は、特に限定されないが、水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、0.01〜1重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0049】
前記硬化触媒(D)としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム、ナトリウムメチラート等の各種の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ジ−n−ブチル錫ジアセテート、ジ−n−ブチル錫ジオクトエート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫マレエート等の各種の含金属化合物類およびそれらの水分散物;3級アミン;p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸、ジアルキル亜燐酸等の各種の酸性化合物などが挙げられる。
【0050】
次に、本発明の熱硬化性水性樹脂組成物の製造方法は、例えば、1段目でカルボキシル基含有重合体(A’)を製造し、2段目で更に3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)および水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−3)を必須の成分とする単量体成分を重合して得られる水性樹脂(A)に、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物(B)及びポリイソシアネート樹脂および/またはブロックポリイソシアネート樹脂(C)を添加する方法があるが、1段目および/または2段目の重合を1分子中にエポキシ基と加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物(B)の存在下で行う方法もできる。
【0051】
必ずしも、1段目と2段目を連続して行う必要はなく、1段目のカルボキシル基含有重合体(A’)を取り出して、別途2段目の重合を行うこともできる。
【0052】
また、本発明の硬化触媒(D)は、適宜添加すればよい。
【0053】
さらに、必要に応じて、本発明の熱硬化性水性樹脂組成物には、各種の添加剤類として、例えば、有機溶剤、造膜助剤、可塑剤、pH調整剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ハジキ防止剤、皮張り防止剤、乳化剤または分散剤などのような、添加剤類を、適宜、添加して使用することができる。
【0054】
また、本発明の熱硬化性水性樹脂組成物は、取り扱いや作業性、乾燥・硬化の容易さから、水性樹脂(A)を固形分濃度30〜70重量%の水性分散体としておくことが好ましく、40〜60重量%であることが特に好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例と比較例により説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「%」は重量%、「部」は重量部をそれぞれ示すものとする。
【0056】
参考例A’−1<カルボキシル基含有重合体(A’−1)の製造>
攪拌機、加圧が可能な窒素導入管、減圧管(減圧ポンプ)、原料仕込口、温度計を備えた密閉型圧力反応容器に、脱イオン水800部、ラテムルE−118B[ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、花王(株)製:]32部、25%アンモニア水1.6部、ブチルアクリレート140部、メチルメタクリレート152部、80%メタクリル酸30部、グリシジルメタアクリレート4部を仕込み、窒素置換し、反応容器内温度を65℃に調整した。
【0057】
次に、過硫酸カリウムの2.5%水溶液16部を圧入した。過硫酸カリウム水溶液の圧入直後から、反応容器内温度の上昇が始まり、乳化重合が開始したことを確認した。乳化重合開始から45分後に反応容器内温度の上昇が93℃で停止した。この間、反応容器の温度調整操作は行わなかった。その後、反応容器内温度を85℃に調整して1時間保持した、本発明で用いるカルボキシル基含有重合体(A’−1)得た。このカルボキシル基含有重合体(A’−1)の酸価は49mgKOH/gである。
【0058】
参考例A−1<水性樹脂(A−1)の製造>
カルボキシル基含有重合体(A’−1)を製造した後、5%アンモニア水20部を圧入し、さらに、ブチルアクリレート184部、スチレン244部、ジメチルアミノエチルメタクリレート4部、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート48部のエチレン性不飽和単量体混合物と、過硫酸カリウムの1%水溶液40部を2時間かけて圧入した。
【0059】
圧入終了1時間後に、過硫酸カリウムの2.5%水溶液16部を圧入した。反応容器内温度を85℃に1時間保持した。その後、内容物を冷却し、反応容器内圧力を常圧に戻した後、アンモニア水でpHを8.3に調整し、水性樹脂(A−1)を得た。この(A−1)は、固形分濃度46.6%、粘度550mPa・sであった。固形分酸価が20mgKOH/g、固形分あたりの3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)基の含有量が0.03mmol/g、固形分水酸基価が26mgKOH/gとなる。
【0060】
参考例A−2<水性樹脂(A−2)の製造>
カルボキシル基含有重合体(A’−1)の製造後に、水性樹脂(A−1)の製造におけるエチレン性不飽和単量体混合物のかわりに、ブチルアクリレート168部、スチレン212部、ジメチルアミノエチルメタクリレート4部、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート96部を用いる以外には、参考例A−1<水性樹脂(A−1)の製造>と同様にして、水性樹脂(A−2)を得た。この(A−2)は、固形分濃度46.0%、粘度700mPa・sであった。固形分酸価が20mgKOH/g、固形分あたりの3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)基の含有量が0.03mmol/g、固形分水酸基価が52mgKOH/gとなる。
【0061】
実施例1〜5および比較例1〜3
第1表、第2表に記載した配合物を配合して調製した熱硬化性水性樹脂組成物を用いて、得られた塗膜を、ラビングによる硬化性試験を行った結果を同表に示す。
第1表中の略号の正式名称を下記に示す。
n−BA;n−ブチルアクリレート
MMA;メチルメタアクリレート
MAA;メタクリル酸
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタアクリレート
DMAEMA;ジメチルアミノエチルメタアクリレート
GMA;グリシジルメタアクリレート
SH6040;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)
DNW−5000;バ−ノックDNW−5000 大日本インキ化学工業(株)製 水分散性ポリイソシアネート樹脂
BN−77;エラストロンBN−77 第一工業製薬(株)製 水分散性ブロックポリイソシアネート樹脂
CAT−21;エラストロンCAT−21 第一工業製薬(株)製 有機錫系化合物の水分散物
【0062】
[酸価]
酸価は、重合体に含まれるカルボキシル基の量を表す数値で、重合体1g中に含まれる遊離カルボキシル基を中和するために要する水酸化カリウムのmg数である。重合体製造時に使用したカルボキシル基含有単量体の仕込量から求めた計算値を重合体の酸価として算出した。
【0063】
[水酸基価]
水酸基価は、重合体に含まれる水酸基の量を表す数値で、重合体1g中に含まれる水酸基の量を水酸化カリウムのmg数で表したものである。重合体製造時に使用した水酸基含有単量体の仕込量から求めた計算値を重合体の水酸基価として算出した。
【0064】
[ラビング試験方法]
樹脂組成物をブリキ板に0.076mmアプリケーターを用いて塗布し、85℃で5分間予備乾燥した後、第1表に記載した各硬化条件で処理し、メチルエチルケトンをガーゼにしみこませて擦り、塗膜が剥がれて素地が見えるまでの往復回数を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する単量体成分(a−1)を必須の成分として重合してなるカルボキシル基含有重合体(A’)の存在下で、カルボキシル基を有する単量体成分(a−1)を含まず、3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)および水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−3)を必須の成分とする単量体成分を重合して得られる水性樹脂(A)と、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する化合物(B)と、ポリイソシアネート樹脂および/またはブロックポリイソシアネート樹脂(C)を含有することを特徴とする熱硬化性水性樹脂組成物。
【請求項2】
シラノール基および/または加水分解性シリル基を有する化合物(B)が、エポキシ基を有する化合物である請求項1記載の熱硬化性水性樹脂組成物。
【請求項3】
硬化触媒(D)を含有することを特徴とする請求項1記載の熱硬化性水性樹脂組成物。
【請求項4】
カルボキシル基含有重合体(A’)の酸価が、10〜200mgKOH/gである請求項1又は2記載の硬化性水性樹脂組成物。
【請求項5】
カルボキシル基含有重合体(A’)が、水性媒体中でカルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体を必須の成分とするエチレン性不飽和単量体成分を一括して仕込んで重合して得られたエチレン性重合体である請求項1〜4の何れか1つに記載の熱硬化性水性樹脂組成物。
【請求項6】
カルボキシル基含有重合体(A’)が、更に、3級アミノ基と反応性を有する基を含有する請求項1記載の熱硬化性水性樹脂組成物。
【請求項7】
水性樹脂(A)の固形分酸価が5〜70mgKOH/gであり、固形分1gあたりの3級アミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体(a−2)基含有量が0.01〜0.7mmol/gであり、固形分水酸基価が4〜100mgKOH/gである請求項1、2または3記載の熱硬化性水性樹脂組成物。
【請求項8】
水性樹脂(A)とカルボキシル基含有重合体(A’)との配合割合(A)/(A’)が10/1〜1/1(固形分比)である請求項1に記載の熱硬化性水性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−182860(P2006−182860A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376231(P2004−376231)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】