説明

硬化性組成物及びその硬化物

【課題】常温、酸素存在下で硬化し、無色透明の硬化物となる硬化性樹脂組成物、およびこの硬化性樹脂組成物の硬化物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル系重合体(A)、(メタ)アクリル系重合性単量体(B)、融点が65℃以下のパラフィンワックス(C)、チオ尿素系化合物(D)、及びハイドロパーオキサイド(E)を含有し、(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部としたとき、(C)成分の含有量が1質量部以下、(D)成分の含有量が0.1質量部以上3質量部以下である硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温、酸素存在下で硬化し、無色透明の硬化物となる硬化性樹脂組成物、およびこの硬化性樹脂組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系樹脂組成物とパラフィンワックスからなる混合樹脂液は、硬化剤として、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物、硬化促進剤としてアミン化合物を用いることで、常温、酸素存在下において硬化することから、コーティング剤や接着剤、人工大理石等の成形品向けの材料として、広く使用されている。例えば、特許文献1や特許文献2においては、(メタ)アクリル系重合体と(メタ)アクリル系重合性単量体、パラフィンワックスからなるの混合樹脂液をベンゾイルパーオキサイドとアミン化合物で硬化することによって得られる硬化物が、土木建築用材料として好適に利用できることが開示されている。しかしながら、硬化促進剤として使用するアミン化合物に起因する着色や、パラフィンワックスに起因する白濁が、硬化物に起こるため、これらの樹脂組成物を透明材料へ適応することは困難であった。
【0003】
これらの問題を解決する方法として、特許文献3では、(メタ)アクリル系樹脂組成物を硬化剤としてハイドロパーオキサイド、硬化促進剤としてチオ尿素系化合物を用いて常温硬化する方法で、透明無着色な硬化物が得られることが開示されているが、パラフィンワックスを含まないため、ガラスセル中などの無酸素状態で硬化させる必要があり、酸素存在下では硬化不良になることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−196268号公報
【特許文献2】特開2002−20440号公報
【特許文献3】特開2004−292527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、常温、酸素存在下で硬化し、無色透明の硬化物となる硬化性樹脂組成物、および無色透明な硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(メタ)アクリル系重合体、(メタ)アクリル系重合性単量体、融点が65℃以下のパラフィンワックス、チオ尿素系化合物、及びハイドロパーオキサイドを含有し、A成分とB成分の合計量を100質量部としたとき、C成分の含有量が1質量部以下、D成分の含有量が0.1質量部以上3質量部以下である硬化性樹脂組成物である。本発明の硬化物は、前述の硬化性組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化性組成物は常温、酸素存在下で硬化し、無色透明の硬化物となる。本発明の硬化物は、無色透明である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0009】
本発明に用いる(A)成分である(メタ)アクリル系重合体は(メタ)アクリル系重合性単量体を単独重合あるいは共重合させることにより得られる。(メタ)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル系重合性単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。
【0010】
これらは、一種を単独重合してもよいし、二種以上を併用して共重合してもよい。特に、メチルメタクリレートを主成分とする共重合体が好ましい。また、(メタ)アクリル系重合性単量体以外でも、(B)成分への溶解性、硬化物の透明性を損なわない範囲内で、その他のモノマーを使用しても何ら差し支えない。その他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル等が挙げられる。(メタ)アクリル系重合体の分子量に関して、特に制限はないが、作業性、硬化性の観点から重量平均分子量が1,000〜200,000の範囲が好ましい。
【0011】
本発明に用いる(B)成分の(メタ)アクリル系重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル系重合性単量体として例示したものが挙げられる。硬化物の透明性の点から、特にメチルメタクリレートが好ましい。これらは、一種を単独で、または二種以上を併用して用いることができる。
【0012】
また、強度付与あるいは硬化性向上等を目的に、必要に応じて、1分子中に2個以上の二重結合を有する(メタ)アクリル系重合性単量体が用いられる。その具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロプレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
これらは、一種を単独で、または二種以上を併用して用いることができる。これらのうち、硬化物の透明性、硬化性の点から、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。(メタ)アクリル系重合性単量体以外でも、(B)成分への溶解性、硬化物の透明性を損なわない範囲内で、その他のモノマーを使用しても何ら差し支えない。その他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0014】
本発明の(C)成分である融点が65℃以下のパラフィンワックスは、硬化性樹脂組成物を硬化させる際、酸素を遮断する作用があり、配合することで硬化物の硬化状態が良好となる。
【0015】
融点が65℃以下のものを用いることで、硬化物の透明性が良好となる。融点が65℃以下のパラフィンワックスの含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部としたとき、0.1質量部以上、1質量部以下が好ましい。含有量が0.1質量部以上であると、硬化物の硬化性が良好となる。1質量部以下であると、硬化物の透明性が良好となる。パラフィンワックスの融点の下限は35℃以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の(D)成分のチオ尿素系化合物は硬化促進剤であり、(E)成分と反応し、ラジカルを発生させる。(D)成分のチオ尿素系化合物は、硬化性樹脂組成物を硬化させる直前に添加しても良いし、予め硬化性樹脂組成物に添加しておいても差し支えない。チオ尿素系化合物の具体例としては、チオ尿素、エチレンチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジブチルチオ尿素、N,N’−ジラウリルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素、N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、ジメチルエチルチオ尿素等が挙げられる。
【0017】
硬化物が無色透明になる点と、(B)成分である(メタ)アクリル系重合性単量体への溶解性が良いことから、特にN,N’−ジエチルチオ尿素が好ましい。チオ尿素系化合物の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部としたとき、0.1質量部以上3質量部以下が好ましい。0.1質量部以上であると硬化性が良好となり、3質量部以下であると硬化物の透明性が良好となる。さらに好ましくは、0.3質量部以上1.5質量部以下である。
【0018】
本発明の(E)成分のハイドロパーオキサイドは、硬化剤であり、(D)成分と反応し、ラジカルを発生させる。ハイドロパーオキサイドの具体例としては、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド等が挙げられる。硬化物の透明性の点から、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが好ましく。硬化物の硬化性の点から、特にクメンハイドロパーオキサイドが好ましい。ハイドロパーオキサイドの含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部としたとき、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。0.1質量部以上であると硬化性が良好となり、5質量部以下であると硬化物の透明性が良好となる。さらに好ましくは、1質量部以上、3質量部以下である。
【0019】
本発明の硬化性組成物は、その構成から、常温、酸素存在下でも良好な硬化性を有し、無色透明な硬化物となる。
【0020】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上述したように、(A)〜(E)成分を主成分とするものであるが、さらに種々の特性を付与するために、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、染料、顔料、消泡剤、重合禁止剤、充填材,蓄光材等の各種添加剤を添加してもよい。
【0021】
本発明の硬化物は、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物からなる。その用途としては、例えば、床面、壁面、道路マーキング等の土木建築用被覆材、自動車用被覆材、家具・装飾品用被覆材、透明プラスチックやガラス、光ファイバー、レンズ、発光ダイオード、有機ELなどの光学部材用被覆材、FRP用ゲルコートなどが挙げられる。特に無色透明性が要求される部位に好適に使用できる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。以下の記載中「部」は「質量部」を意味する。実施例および比較例の評価は、以下の方法に従って実施した。
〔実施例1〕
冷却器を備えた反応容器にメチルメタクリレート74部、エチレングリコールジメタクリレート3部、メタクリル系重合体(メチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート=92.5/7.5の共重合体、Tg=87℃、Mw=70,000)23部、N,N’−ジエチルチオ尿素0.5部、パラフィン115(日本精鑞株式会社製パラフィンワックス、カタログ記載の融点:47℃)0.3部、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(重合禁止剤)0.05部を入れ、反応溶液を60℃に昇温し、温度を維持したまま2時間撹拌した。2時間後、メタクリル系重合体が完全に溶解したことを確認した。反応溶液を冷却し、アクリルシラップを得た。このアクリルシラップ100.85部に対し、カヤクメンH(日油株式会社製、クメンハイドロパーオキサイド)を2部加え、硬化性樹脂組成物とした。よく撹拌した後、PETフィルム上に2mm厚に塗布した。23℃で静置し、硬化性樹脂組成物を硬化させた後、PETフィルムを剥がし取り、樹脂硬化物を得た。
【0023】
次に示した方法で、硬化性樹脂組成物の硬化性および、樹脂硬化物の物性評価を行った。結果を表2に示す。
(硬化性)
硬化性樹脂組成物の硬化性を以下の基準で評価した。
○:塗布後3時間未満で硬化し、表面のタックが無くなる
△:塗布後3時間以上5時間未満で硬化し、表面のタックが無くなる
×:塗布後5時間において、硬化しない。あるいは表面にタックがある
【0024】
(透明性)
樹脂硬化物の透明性を全光線透過率で評価した。ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−65W型)を用いて測定を行った。以下の基準で評価した。比較例1および3は、硬化性樹脂組成物が硬化しなかったため、評価を行わなかった。
○:全光線透過率が88%以上
△:全光線透過率が85%以上88%未満
×:全光線透過率が85%未満
【0025】
(着色)
樹脂硬化物の着色をYI値で評価した。YI値の測定には、色差計(日本電色工業社製、SE2000)を用いた。YI値の測定は、反射モードで行った。比較例1および3は、常温硬化性樹脂組成物が硬化しなかったため、評価を行わなかった。
○:YI値が3未満
△:YI値が3以上4未満
×:YI値が4以上
【0026】
〔実施例2〜7、比較例1〜6〕
表1に示した組成に変更して、実施例1と同様の方法で硬化性樹脂組成物の作製を行い、常温硬化性樹脂組成物の硬化性および、樹脂硬化物の物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に記載した略号等の詳細は以下の通りである。
メタクリル系重合体:メチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート=92.5/7.5の共重合体、Tg=87℃、Mw=70,000
MMA:メチルメタクリレート
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
パラフィン115:パラフィンワックス(カタログ記載の融点:47℃、日本精鑞株式会社製)
パラフィン130:パラフィンワックス(カタログ記載の融点:55℃、日本精鑞株式会社製)
パラフィン150:パラフィンワックス(カタログ記載の融点:66℃、日本精鑞株式会社製)
カヤクメンH:クメンハイドロパーオキサイド(化薬アクゾ株式会社製)
PTEO:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
BPO−50:ベンゾイルパーオキサイド(化薬アクゾ株式会社製)
BHT:2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール
【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体(A)、(メタ)アクリル系重合性単量体(B)、融点が65℃以下のパラフィンワックス(C)、チオ尿素系化合物(D)、及びハイドロパーオキサイド(E)を含有し、(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部としたとき、(C)成分の含有量が1質量部以下、(D)成分の含有量が0.1質量部以上3質量部以下である硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。

【公開番号】特開2011−32315(P2011−32315A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177566(P2009−177566)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】