硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤及び該被膜を形成した物品
【課題】硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤の提供。
【解決手段】(A)成分が、下記一般式(4)
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。cは3〜5、dは0〜3、c+d=3〜5の整数である。)で表され、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物:100重量部、(B)平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子:30〜400重量部、(C)(A)成分に溶解可能な光酸発生剤:0.1〜5重量部、を含有することを特徴とする硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤。
【効果】硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤によれば、反りがなく、高硬度の被膜が得られる。
【解決手段】(A)成分が、下記一般式(4)
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。cは3〜5、dは0〜3、c+d=3〜5の整数である。)で表され、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物:100重量部、(B)平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子:30〜400重量部、(C)(A)成分に溶解可能な光酸発生剤:0.1〜5重量部、を含有することを特徴とする硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤。
【効果】硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤によれば、反りがなく、高硬度の被膜が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反りがなく高硬度の被膜が得られる、硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤に関し、特にはプラスチック基材等への硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤及び該硬質保護被膜を形成した物品に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化型シリコーンコーティング剤は、硬化時間が短くてすみ、熱エネルギーによって損傷を受けるような基材でも、塗工後に加熱することなく光照射により硬化させることができるという利点を有し、このため様々な分野で各種の光硬化型シリコーンコーティング剤が開発されている。
【0003】
光硬化型、特に紫外線硬化型シリコーンの硬化形態は、主に次の3種類である。
(1)アクリル官能性シリコーンをラジカル開裂型光触媒の存在下に紫外線で硬化させるタイプ。
(2)Si−Vi(ビニル)基とS−H基をラジカル開裂型光触媒の存在下に紫外線で硬化させるタイプ。
(3)エポキシ官能性シリコーンをカチオン発生型触媒の存在下に紫外線で硬化させるタイプ。
【0004】
ここで、(1)のタイプは、硬化は速いが、酸素による硬化阻害があるため、不活性ガス雰囲気下で反応を行う必要があり、装置上の工夫を要し、不活性ガスのランニングコストがかかるという欠点がある。
また、(2)のタイプは、酸素による硬化阻害が少なく硬化性に優れているが、メルカプト基を含有するため、不快臭が強くて作業者にとって好ましくなく、しかも組成物の安定性が悪く、シェルフライフが短いという欠点を有する。
更に、(3)のタイプは、紫外線により硬化し、酸素による硬化阻害もなく、不快臭もなく、基材に対する密着性がよいため、非常に優れているが、反面、硬化時の雰囲気中の湿度により硬化が阻害されるという欠点を有している。
【0005】
(3)のタイプの上記した欠点を克服するため、ラジカル重合性物質と光ラジカル開始剤を添加することにより、カチオン重合とラジカル重合を同時に行わせる手法が、従来より検討されてきている。
【0006】
一方、カチオン重合系へのシリコーン化合物を導入する方法として、特開昭56−38350号公報(特許文献1)ではエポキシ基を有するシロキサン化合物とビスアリールヨードニウム塩からなる紫外線硬化性組成物が、特開昭58−213024号公報(特許文献2)ではエポキシ基を有するシロキサン化合物又はアクリル基を有するシロキサン化合物、更には両方の官能基を有するシロキサン化合物を紫外線硬化させることが、特開平11−104166号公報(特許文献3)ではエポキシ変性シリコーンと光カチオン重合開始剤からなる離型フィルムが、特公平6−89109号公報(特許文献4)、特開平7−156267号公報(特許文献5)では脂環式エポキシ官能性シロキサン、有機脂環式ポリエポキシド、光カチオン重合開始剤からなる組成物が、特開平8−269293号公報(特許文献6)では脂環式エポキシ基含有シリコーングラフト重合体とオニウム塩系光硬化触媒からなる組成物が開示されている。ここで挙げられているエポキシ基を有するシロキサン化合物は直鎖状ジメチルポリシロキサンの官能基の一部をエポキシ基で置換したもので、離型性を重視したものであり、いずれも柔らかい被膜を形成するコーティング剤である。
【0007】
特開2001−158851号公報(特許文献7)では、エポキシ基を有する分子量500〜50万のシロキサン化合物と、光カチオン重合開始剤からなる組成物を開示している。ここで使用されるシロキサン化合物はアルコキシシランの加水分解縮合物であり、低分子量に制御することは困難であり、実施例中で合成したシロキサン化合物の分子量もいずれも2500以上であり、高硬度な被膜を得ることは困難である。
【0008】
特開平9−143248号公報(特許文献8)では、エポキシ化合物、脂環式エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン、光カチオン重合開始剤からなる組成物を開示している。このなかでエポキシ化合物として、脂環式エポキシ基を有する環状シロキサン化合物が例示されているが、オルガノシロキサンは直鎖状ジメチルポリシロキサンの末端をエポキシ基で置換したものであり、先に述べたものと同様の効果を期待するものである。
【0009】
特開2001−40066号公報(特許文献9)においては、脂環式エポキシ基含有シリコーングラフト重合体、脂環式エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン、光カチオン重合開始剤からなる組成物が開示されている。このなかで脂環式エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンとして、脂環式エポキシ基を有する環状シロキサン化合物や、側鎖に複数個の脂環式エポキシ基を有する環状シロキサン化合物が例示されているが、硬化膨張についての検討はなされていない。
【0010】
更に、特開2001−187812号公報(特許文献10)では、酸化物粒子、ラジカル重合性不飽和基、エポキシ基で修飾した粒子がカール性に優れることを開示している。しかし、一般にカチオン硬化系が、ラジカル硬化系に比べて、硬化収縮がないことに着目して、ラジカル硬化系の硬化収縮を抑制したものにすぎない。
【0011】
【特許文献1】特開昭56−38350号公報
【特許文献2】特開昭58−213024号公報
【特許文献3】特開平11−104166号公報
【特許文献4】特公平6−89109号公報
【特許文献5】特開平7−156267号公報
【特許文献6】特開平8−269293号公報
【特許文献7】特開2001−158851号公報
【特許文献8】特開平9−143248号公報
【特許文献9】特開2001−40066号公報
【特許文献10】特開2001−187812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、反りが殆どなく、高硬度の被膜を形成する硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤及び該硬質保護被膜を形成した物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、比較的低分子で、エポキシ基を多く含有する特定の脂環式エポキシ基変性シリコーンと、無機酸化物微粒子と、それらに溶解可能な光酸発生剤を含有する組成物によって、反りが殆どない高硬度な被膜を形成することを見出した。具体的には、脂環式エポキシ基による硬化膨張と無機酸化物微粒子による硬化収縮により反りが殆どない被膜を形成するとともに、無機酸化物微粒子を含有するので高硬度な被膜を形成する光硬化性コーテイング剤が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0014】
ここで、(A)成分の硬化膨張のメカニズムについては、エポキシ基が光照射によって発生した酸によって反応し、エポキシ環の開環と、架橋密度の高い架橋によって硬化歪みがかかり、(C)成分中のシラノールや空気中の水分等によってシロキサン結合が加水分解され、シロキサン解裂・再配列が起こることによって歪みが解消され、膨張が起こると推定している。実際に、(A)成分は水分を含まない系では硬化膨張は起こりにくいことが確認され、一般的な空気中の環境下のわずかな水分で、本発明で見出された硬化膨張は起こる。
また、本発明は、(A)成分の架橋構造内に(B)成分が挿入された構造を有するので、透明性が高い均一な被膜となり、硬度も高くなるものと考えられる。
【0015】
従って、本発明は、
(A)下記一般式(4)
【化1】
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。cは3〜5、dは0〜3、c+d=3〜5の整数である。)
で表され、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物 100重量部
(B)平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子 30〜400重量部
(C)(A)成分に溶解可能な光酸発生剤 0.1〜5重量部
を含有することを特徴とする硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤を提供する。この場合は、(A)成分が、下記一般式(5)
【化2】
(式中、R1は上記と同じ、nは3〜5の整数である。)
で表されるシリコーン化合物であることが好ましい。また、本発明は、該コーティング剤を塗装・硬化してなる硬質保護被膜を形成した物品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤によれば、反りがなく、高硬度の被膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の(A)成分は、下記一般式(1)
−R1RSiO2/2− (1)
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。)
で示される単位を有し、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物である。
【0018】
上記シリコーン化合物と、後述する(B)成分の無機酸化物微粒子及び(C)成分の光酸発生剤を光照射することにより硬化させることで、反りのない高硬度の被膜が得られる。
【0019】
(A)成分のシリコーン化合物は、硬化膨張を効果的に起こすという点から、脂環式エポキシ基を豊富に含有することが好ましく、1分子中に少なくとも3個、特に4〜8個のR1を有することが好ましい。
【0020】
(A)成分のシリコーン化合物は、分子量が500〜2100、特に700〜1900が好ましい。分子量が500未満だと、硬化歪みが起こりにくく、2100を超え、R1当量が180〜220の化合物は、合成が困難であることがあり、工業的に好ましくない。また、R1当量(R11mol当たりの重量)は、180〜220、特に184〜216が好ましい。R1当量が180未満だと、合成するのは工業的には困難であることがあり、220を超えると、R1の含有量が少なくなり、硬化膨張が起りにくくなる。
【0021】
更に、(A)成分のシリコーン化合物は、脱アルコール反応によって、硬化収縮が起こることを防ぐ点から、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物である。
【0022】
(A)成分のシリコーン化合物は、硬化膨張が起こりやすい直鎖構造もしくは環構造が好ましい。直鎖構造体としては、下記一般式(2)
【化3】
(式中、R、R1は上記と同じ、R2はR又はR1を示し、aは1〜10(但し、a=1の場合は両末端のR2はR1であり、a=2の場合はR2の少なくとも一つはR1である。)、bは0〜8、a+b=2〜10の整数であり、特に、aは4〜8、bは0〜4、a+b=4〜8が好ましい。各R、R1、R2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される直鎖状シリコーン化合物が好ましく、特に下記一般式(2’)
【化4】
(式中、R、R1、R2、a、bは上記と同じ。)
で表されるシリコーン化合物が好ましく、とりわけ下記一般式(3)
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)mSi(CH3)3 (3)
(式中、R1は上記と同じ、mは3〜10の整数、特に4〜8が好ましい。)
で表される直鎖状シリコーン化合物が好ましい。環構造としては、下記一般式(4)
【化5】
(式中、R、R1は上記と同じ、cは3〜5の整数、特に3〜4、dは0〜3の整数、特に0〜1、c+d=3〜5の整数、特に4が好ましい。)
で表される環状シリコーン化合物が好ましく、特に下記一般式(4’)
【化6】
(式中、R、R1、c、dは上記と同じ。)
で表される環状シリコーン化合物が好ましく、とりわけ下記一般式(5)
【化7】
(式中、R1は上記と同じ、nは3〜5の整数、特に4が好ましい。)
で表される環状シリコーン化合物が好ましい。
【0023】
ここで、R1は、エポキシシクロヘキシル基を有する有機基であり、具体的には3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基等の3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル基が挙げられる。Rは水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては炭素数1〜20、特に1〜8のものが好ましい。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基等の一価炭化水素基や、これらの基の水素原子の一部又は全部がグリシジル基(但し、エポキシシクロヘキシル基は除く)、メタクリル基、アクリル基、メルカプト基、アミノ基等で置換された基が挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基、水素原子であり、特に好ましくはメチル基である。
【0024】
(A)成分のシリコーン化合物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンに4−ビニルシクロヘキセンオキシドを白金化合物等の触媒を用い、付加反応(ヒドロシリル化)させることによって得ることができる。
【0025】
具体的な化合物としては、下記に示すものが挙げられる。
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)5Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)6Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)7Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)8Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)9Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)10Si(CH3)3、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)9Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)2((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)3((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)3((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)4Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)9(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
(R1CH3SiO)3、
(R1CH3SiO)4、
(R1CH3SiO)5、
(R1CH3SiO)3((CH3)2SiO)、
(R1CH3SiO)3(C3H7(CH3)SiO)
(R1は上記と同じ、R6はメタクリロキシプロピル基を示す。)
【0026】
(B)成分は、平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子であり、被膜の硬度を向上させる目的以外に高屈折率化、低屈折率化、導電化、反射防止性を付与する等被膜に機能を付与する目的で添加される。
【0027】
本発明の無機酸化物微粒子としては、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素を含有する酸化物粒子が好ましい。これらの酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム及びこれらの複合酸化物を挙げることができる。中でも、高硬度の観点から、シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アンチモンが好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0028】
無機酸化物微粒子は、粉体状又は溶剤分散ゾルであることが好ましい。溶剤分散ゾルである場合、他の成分との相溶性、分散性の観点から、分散媒は、有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましく、その中でも特にメチルエチルケトンが好ましい。
【0029】
無機酸化物微粒子の平均粒径は1〜500nm、好ましくは5〜200nm、特に好ましくは10〜100nmである。平均粒径が500nmを超えると、硬化物としたときの透明性が低下したり、被膜としたときの表面状態が悪化する。
【0030】
なお、無機酸化物微粒子としては市販品を用いることができる。ケイ素酸化物微粒子(例えば、シリカ粒子)として市販されている商品としては、例えば、コロイダルシリカとして、日産化学工業製のメタノールシリカゾル、IPA−ST、MEK−ST、NBA−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−UP、ST−OUP、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL等を挙げることができる。また粉体シリカとしては、日本アエロジル製のアエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50、旭硝子製のシルデックスH31、H32、H51、H52、H121、H122、日本シリカ工業製のE220A、E220、富士シリシア製のSYLYSIA470、日本板硝子製のSGGフレ−ク等を挙げることができる。
【0031】
また、アルミナの水分散品としては、日産化学工業製のアルミナゾル−100、−200、−520、イソプロパノール分散品としては、住友大阪セメント製AS−150I、トルエン分散品としては、住友大阪セメント製のAS−150T、ジルコニアのトルエン分散品としては、住友大阪セメント製のHXU−110JC、アンチモン酸亜鉛粉末の水分散品としては、日産化学工業製のセルナックス、アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛等の粉末及び溶剤分散品としては、シーアイ化成製のナノテック、アンチモンドープ酸化スズの水分散ゾルとしては、石原産業製のSN−100D、ITO粉末としては、三菱マテリアル製の製品、酸化セリウム水分散液としては、多木化学製のニードラール等を挙げることができる。
【0032】
無機酸化物微粒子の形状は球状、粒子の内部に空隙を有する中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状であり、好ましくは、球状もしくは中空状である。特に、中空状のものは、高硬度で低屈折率な被膜が得られることから、反射防止膜等への応用も可能である。また、これらの無機酸化物微粒子は、エポキシ基、(メタ)アクリル基で修飾されたものでもよい。
【0033】
(B)成分の無機酸化物微粒子の添加量は、(A)成分100重量部に対して30〜400重量部、特に50〜150重量部である。30重量部未満だと、硬度が不十分で硬化膨張してしまい、400重量部を超えると、クラックが発生する等の問題が出てくる。
【0034】
(C)成分は、(A)成分に溶解可能な光酸発生剤であり、光によってエポキシ環を開かせる能力のある開始剤であるならば、特に使用は限定されない。光酸発生剤としては、オニウム塩系光開始剤が好ましく、下記一般式で表されるジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、モノアリールジアルキルスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩、テトラアリールホスホニウム塩、アリールジアゾニウム塩等が挙げられる。
R72I+X-
R73S+X-
R72R8S+X-
R7R82S+X-
R73Se+X-
R74P+X-
R7N2+X-
(式中、R7は炭素数6〜30のアリール基、R8は炭素数1〜30のアルキル基、X-はSbF6-、AsF6-、PF6-、BF4-、HSO4-、ClO4-、Cl-又はCF3SO3-等の陰イオンを示す。)
【0035】
特に、(A)成分との相溶性の観点から、下記一般式(6)で示されるものが好ましい。
R42I+X- (6)
(式中、R4は−C6H4−R5で示され、R5は炭素数6以上、好ましくは6〜24、特に6〜18のアルキル基、XはSbF6-、AsF6-、PF6-、BF4-、HSO4-、ClO4-、Cl-又はCF3SO3-を示す。)
【0036】
ここで、R5の炭素数6以上のアルキル基としては、C6H13、C7H15、C8H17、C9H19、C10H21、C11H23、C12H25、C13H27、C14H29、C15H31、C16H33、C17H35、C18H37等が挙げられ、特にC12H25が好ましい。
【0037】
(C)成分の光酸発生剤の添加量は、(A)成分100重量部に対して0.1〜5重量部である。0.1重量部未満だと、硬化性が不十分で硬化膨張が起こらなくなり、5重量部を超えても、効果はなくコスト的に問題が出てくる。
【0038】
本発明の上記(A)、(B)及び(C)成分を含有する硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤に、本発明の目的を損なわない範囲で有機溶剤、有機又は無機顔料、体質顔料、消泡剤、レベリング剤、滑り剤等の塗料用添加剤を配合してもよい。
【0039】
本発明の硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、TAC等のプラスチックフィルム等の表面に、通常の塗装法、例えばロールコート、グラビアコート、グラビアオフセットコート、カーテンフローコート、リバースコート、スクリーン印刷、スプレー及び浸漬法で塗装することができる。硬化塗膜の膜厚は用途により異なるが、0.5〜500μm程度、特に5〜50μm程度の範囲が好ましい。
【0040】
硬化させるための光源としては、通常、200〜450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯、カーボンアーク灯等を使用することができる。照射量は特に制限されないが10〜5000mJ/cm2、特に20〜1000mJ/cm2であることが好ましい。硬化時間は通常0.5秒〜2分、好ましくは1秒〜1分である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で部は重量部を示す。
【0042】
[実施例1]
一般式(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3
(式中、Reは、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基を示す。)
で表されるシリコーン化合物30部に、MEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学工業製、固形分30重量%)100部、(C12H25C6H4)2I+・SbF6-1.2部を混合して塗工液を作製した。この塗工液を0.1mm厚のポリカーボネート(100×100×0.1mm)、3mm厚のポリカーボネート(100×100×3.0mm)にバーコーターNo.20で塗工した。直ちに紫外線を200mJ/cm2照射して硬化させた。
【0043】
硬化後、0.1mm厚のポリカーボネートの中心に対しての4つの角の浮き沈みを測定して、その平均値によって膜の伸縮を判定した。塗布面を上にして置いた場合に収縮して凹となる場合を+として、塗布面を下にして置いた場合に膨張して凹となる場合を−とした。その結果0mmであった。
【0044】
また、3mm厚のポリカーボネートのテーバー摩耗試験(摩耗輪:CS−10F、500g荷重、500回転)を行い、試験前後のHaze(曇り価)の変化によって、硬度を測定した。その結果ΔHazeは13(%)であった。Haze(曇り価)の測定方法を下記に、結果を表1に示す。
Haze(曇り価)の測定法
Haze Meter NDH2000(日本電色工業社製)にて測定した。
【0045】
[実施例2]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(ReCH3SiO)4に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学工業製、固形分30重量%)100部を、MEK分散中空コロイダルシリカゾルOSCAL(触媒化成製、固形分20重量%)150部に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学工業製、固形分30重量%)100部を、メタノール分散複合酸化チタンゾルオプトレイク(触媒化成製)のMEK溶剤置換品(固形分20重量%)150部に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[比較例1]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学社製、固形分30重量%)100部を25部に変えた以外は、実施例1と同様に行った。収縮は−20mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0050】
[比較例2]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学社製、固形分30重量%)100部を450部に変えた以外は、実施例1と同様に行った。硬化後クラックが発生した。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例3]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は10mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例4]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をβ−(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランに変えた以外は実施例1と同様に行った。円筒状に収縮し、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0053】
[比較例5]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をβ−(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランの加水分解縮合物(重量平均分子量900)に変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は20mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0054】
[比較例6]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をRe(CH3)2SiOSi(CH3)2Reに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は12mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0055】
[比較例7]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(CH3)3SiO(ReCH3SiO)4Si(CH3)3に変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は10mm、ΔHazeは30であった。結果を表2に示す。
【0056】
[比較例8]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(Re(CH3)2SiO)3CH3Siに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は12mm、ΔHazeは42であった。結果を表2に示す。
【0057】
[比較例9]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(Re(CH3)2SiO)4Siに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は10mm、ΔHazeは36であった。結果を表2に示す。
【0058】
[比較例10]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をRe(CH3)2SiO((CH3)2SiO)20Si(CH3)2Reに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は13mm、テーバー摩耗試験では膜が消失してしまった。結果を表2に示す。
【0059】
[比較例11]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をRe(CH3)2SiO((CH3)2SiO)50Si(CH3)2Reに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は11mm、テーバー摩耗試験では膜が消失してしまった。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
以上のように−R1RSiO2/2−単位を有し、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物と無機酸化物微粒子及び光酸発生剤を含有するコーティング剤は、反りがなく、高硬度な被膜が得られた。
無機酸化物微粒子が少ない比較例1では膨張が起こり、また硬度も不十分であった。無機酸化物微粒子が多い比較例2ではクラックが発生した。
非シリコーン系の比較例3や1分子中のR1が2個で、分子量が500未満の比較例6やR1当量が220を超える比較例7や−R1RSiO2/2−単位を有さない比較例5、8、9では硬化収縮が見られ、硬度も不十分であった。また、アルコキシ基を有する比較例4では大きな収縮が見られた。更に、剥離紙用途等に利用されている分子量が大きく、R1当量が大きい比較例10、11ではテーバー摩耗試験において、被膜が消失してしまうくらい、柔らかい被膜であった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、反りがなく高硬度の被膜が得られる、硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤に関し、特にはプラスチック基材等への硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤及び該硬質保護被膜を形成した物品に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化型シリコーンコーティング剤は、硬化時間が短くてすみ、熱エネルギーによって損傷を受けるような基材でも、塗工後に加熱することなく光照射により硬化させることができるという利点を有し、このため様々な分野で各種の光硬化型シリコーンコーティング剤が開発されている。
【0003】
光硬化型、特に紫外線硬化型シリコーンの硬化形態は、主に次の3種類である。
(1)アクリル官能性シリコーンをラジカル開裂型光触媒の存在下に紫外線で硬化させるタイプ。
(2)Si−Vi(ビニル)基とS−H基をラジカル開裂型光触媒の存在下に紫外線で硬化させるタイプ。
(3)エポキシ官能性シリコーンをカチオン発生型触媒の存在下に紫外線で硬化させるタイプ。
【0004】
ここで、(1)のタイプは、硬化は速いが、酸素による硬化阻害があるため、不活性ガス雰囲気下で反応を行う必要があり、装置上の工夫を要し、不活性ガスのランニングコストがかかるという欠点がある。
また、(2)のタイプは、酸素による硬化阻害が少なく硬化性に優れているが、メルカプト基を含有するため、不快臭が強くて作業者にとって好ましくなく、しかも組成物の安定性が悪く、シェルフライフが短いという欠点を有する。
更に、(3)のタイプは、紫外線により硬化し、酸素による硬化阻害もなく、不快臭もなく、基材に対する密着性がよいため、非常に優れているが、反面、硬化時の雰囲気中の湿度により硬化が阻害されるという欠点を有している。
【0005】
(3)のタイプの上記した欠点を克服するため、ラジカル重合性物質と光ラジカル開始剤を添加することにより、カチオン重合とラジカル重合を同時に行わせる手法が、従来より検討されてきている。
【0006】
一方、カチオン重合系へのシリコーン化合物を導入する方法として、特開昭56−38350号公報(特許文献1)ではエポキシ基を有するシロキサン化合物とビスアリールヨードニウム塩からなる紫外線硬化性組成物が、特開昭58−213024号公報(特許文献2)ではエポキシ基を有するシロキサン化合物又はアクリル基を有するシロキサン化合物、更には両方の官能基を有するシロキサン化合物を紫外線硬化させることが、特開平11−104166号公報(特許文献3)ではエポキシ変性シリコーンと光カチオン重合開始剤からなる離型フィルムが、特公平6−89109号公報(特許文献4)、特開平7−156267号公報(特許文献5)では脂環式エポキシ官能性シロキサン、有機脂環式ポリエポキシド、光カチオン重合開始剤からなる組成物が、特開平8−269293号公報(特許文献6)では脂環式エポキシ基含有シリコーングラフト重合体とオニウム塩系光硬化触媒からなる組成物が開示されている。ここで挙げられているエポキシ基を有するシロキサン化合物は直鎖状ジメチルポリシロキサンの官能基の一部をエポキシ基で置換したもので、離型性を重視したものであり、いずれも柔らかい被膜を形成するコーティング剤である。
【0007】
特開2001−158851号公報(特許文献7)では、エポキシ基を有する分子量500〜50万のシロキサン化合物と、光カチオン重合開始剤からなる組成物を開示している。ここで使用されるシロキサン化合物はアルコキシシランの加水分解縮合物であり、低分子量に制御することは困難であり、実施例中で合成したシロキサン化合物の分子量もいずれも2500以上であり、高硬度な被膜を得ることは困難である。
【0008】
特開平9−143248号公報(特許文献8)では、エポキシ化合物、脂環式エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン、光カチオン重合開始剤からなる組成物を開示している。このなかでエポキシ化合物として、脂環式エポキシ基を有する環状シロキサン化合物が例示されているが、オルガノシロキサンは直鎖状ジメチルポリシロキサンの末端をエポキシ基で置換したものであり、先に述べたものと同様の効果を期待するものである。
【0009】
特開2001−40066号公報(特許文献9)においては、脂環式エポキシ基含有シリコーングラフト重合体、脂環式エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン、光カチオン重合開始剤からなる組成物が開示されている。このなかで脂環式エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンとして、脂環式エポキシ基を有する環状シロキサン化合物や、側鎖に複数個の脂環式エポキシ基を有する環状シロキサン化合物が例示されているが、硬化膨張についての検討はなされていない。
【0010】
更に、特開2001−187812号公報(特許文献10)では、酸化物粒子、ラジカル重合性不飽和基、エポキシ基で修飾した粒子がカール性に優れることを開示している。しかし、一般にカチオン硬化系が、ラジカル硬化系に比べて、硬化収縮がないことに着目して、ラジカル硬化系の硬化収縮を抑制したものにすぎない。
【0011】
【特許文献1】特開昭56−38350号公報
【特許文献2】特開昭58−213024号公報
【特許文献3】特開平11−104166号公報
【特許文献4】特公平6−89109号公報
【特許文献5】特開平7−156267号公報
【特許文献6】特開平8−269293号公報
【特許文献7】特開2001−158851号公報
【特許文献8】特開平9−143248号公報
【特許文献9】特開2001−40066号公報
【特許文献10】特開2001−187812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、反りが殆どなく、高硬度の被膜を形成する硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤及び該硬質保護被膜を形成した物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、比較的低分子で、エポキシ基を多く含有する特定の脂環式エポキシ基変性シリコーンと、無機酸化物微粒子と、それらに溶解可能な光酸発生剤を含有する組成物によって、反りが殆どない高硬度な被膜を形成することを見出した。具体的には、脂環式エポキシ基による硬化膨張と無機酸化物微粒子による硬化収縮により反りが殆どない被膜を形成するとともに、無機酸化物微粒子を含有するので高硬度な被膜を形成する光硬化性コーテイング剤が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0014】
ここで、(A)成分の硬化膨張のメカニズムについては、エポキシ基が光照射によって発生した酸によって反応し、エポキシ環の開環と、架橋密度の高い架橋によって硬化歪みがかかり、(C)成分中のシラノールや空気中の水分等によってシロキサン結合が加水分解され、シロキサン解裂・再配列が起こることによって歪みが解消され、膨張が起こると推定している。実際に、(A)成分は水分を含まない系では硬化膨張は起こりにくいことが確認され、一般的な空気中の環境下のわずかな水分で、本発明で見出された硬化膨張は起こる。
また、本発明は、(A)成分の架橋構造内に(B)成分が挿入された構造を有するので、透明性が高い均一な被膜となり、硬度も高くなるものと考えられる。
【0015】
従って、本発明は、
(A)下記一般式(4)
【化1】
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。cは3〜5、dは0〜3、c+d=3〜5の整数である。)
で表され、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物 100重量部
(B)平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子 30〜400重量部
(C)(A)成分に溶解可能な光酸発生剤 0.1〜5重量部
を含有することを特徴とする硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤を提供する。この場合は、(A)成分が、下記一般式(5)
【化2】
(式中、R1は上記と同じ、nは3〜5の整数である。)
で表されるシリコーン化合物であることが好ましい。また、本発明は、該コーティング剤を塗装・硬化してなる硬質保護被膜を形成した物品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤によれば、反りがなく、高硬度の被膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の(A)成分は、下記一般式(1)
−R1RSiO2/2− (1)
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。)
で示される単位を有し、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物である。
【0018】
上記シリコーン化合物と、後述する(B)成分の無機酸化物微粒子及び(C)成分の光酸発生剤を光照射することにより硬化させることで、反りのない高硬度の被膜が得られる。
【0019】
(A)成分のシリコーン化合物は、硬化膨張を効果的に起こすという点から、脂環式エポキシ基を豊富に含有することが好ましく、1分子中に少なくとも3個、特に4〜8個のR1を有することが好ましい。
【0020】
(A)成分のシリコーン化合物は、分子量が500〜2100、特に700〜1900が好ましい。分子量が500未満だと、硬化歪みが起こりにくく、2100を超え、R1当量が180〜220の化合物は、合成が困難であることがあり、工業的に好ましくない。また、R1当量(R11mol当たりの重量)は、180〜220、特に184〜216が好ましい。R1当量が180未満だと、合成するのは工業的には困難であることがあり、220を超えると、R1の含有量が少なくなり、硬化膨張が起りにくくなる。
【0021】
更に、(A)成分のシリコーン化合物は、脱アルコール反応によって、硬化収縮が起こることを防ぐ点から、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物である。
【0022】
(A)成分のシリコーン化合物は、硬化膨張が起こりやすい直鎖構造もしくは環構造が好ましい。直鎖構造体としては、下記一般式(2)
【化3】
(式中、R、R1は上記と同じ、R2はR又はR1を示し、aは1〜10(但し、a=1の場合は両末端のR2はR1であり、a=2の場合はR2の少なくとも一つはR1である。)、bは0〜8、a+b=2〜10の整数であり、特に、aは4〜8、bは0〜4、a+b=4〜8が好ましい。各R、R1、R2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される直鎖状シリコーン化合物が好ましく、特に下記一般式(2’)
【化4】
(式中、R、R1、R2、a、bは上記と同じ。)
で表されるシリコーン化合物が好ましく、とりわけ下記一般式(3)
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)mSi(CH3)3 (3)
(式中、R1は上記と同じ、mは3〜10の整数、特に4〜8が好ましい。)
で表される直鎖状シリコーン化合物が好ましい。環構造としては、下記一般式(4)
【化5】
(式中、R、R1は上記と同じ、cは3〜5の整数、特に3〜4、dは0〜3の整数、特に0〜1、c+d=3〜5の整数、特に4が好ましい。)
で表される環状シリコーン化合物が好ましく、特に下記一般式(4’)
【化6】
(式中、R、R1、c、dは上記と同じ。)
で表される環状シリコーン化合物が好ましく、とりわけ下記一般式(5)
【化7】
(式中、R1は上記と同じ、nは3〜5の整数、特に4が好ましい。)
で表される環状シリコーン化合物が好ましい。
【0023】
ここで、R1は、エポキシシクロヘキシル基を有する有機基であり、具体的には3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基等の3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル基が挙げられる。Rは水素原子又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては炭素数1〜20、特に1〜8のものが好ましい。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基等の一価炭化水素基や、これらの基の水素原子の一部又は全部がグリシジル基(但し、エポキシシクロヘキシル基は除く)、メタクリル基、アクリル基、メルカプト基、アミノ基等で置換された基が挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基、水素原子であり、特に好ましくはメチル基である。
【0024】
(A)成分のシリコーン化合物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンに4−ビニルシクロヘキセンオキシドを白金化合物等の触媒を用い、付加反応(ヒドロシリル化)させることによって得ることができる。
【0025】
具体的な化合物としては、下記に示すものが挙げられる。
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)5Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)6Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)7Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)8Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)9Si(CH3)3、
(CH3)3SiO(R1CH3SiO)10Si(CH3)3、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)9Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)2((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)3((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)3((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7((CH3)2SiO)4Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8((CH3)2SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8((CH3)2SiO)2Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8((CH3)2SiO)3Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)4(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)5(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)6(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)7(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)8(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
R1(CH3)2SiO(R1CH3SiO)9(R6CH3SiO)Si(CH3)2R1、
(R1CH3SiO)3、
(R1CH3SiO)4、
(R1CH3SiO)5、
(R1CH3SiO)3((CH3)2SiO)、
(R1CH3SiO)3(C3H7(CH3)SiO)
(R1は上記と同じ、R6はメタクリロキシプロピル基を示す。)
【0026】
(B)成分は、平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子であり、被膜の硬度を向上させる目的以外に高屈折率化、低屈折率化、導電化、反射防止性を付与する等被膜に機能を付与する目的で添加される。
【0027】
本発明の無機酸化物微粒子としては、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素を含有する酸化物粒子が好ましい。これらの酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム及びこれらの複合酸化物を挙げることができる。中でも、高硬度の観点から、シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アンチモンが好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0028】
無機酸化物微粒子は、粉体状又は溶剤分散ゾルであることが好ましい。溶剤分散ゾルである場合、他の成分との相溶性、分散性の観点から、分散媒は、有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましく、その中でも特にメチルエチルケトンが好ましい。
【0029】
無機酸化物微粒子の平均粒径は1〜500nm、好ましくは5〜200nm、特に好ましくは10〜100nmである。平均粒径が500nmを超えると、硬化物としたときの透明性が低下したり、被膜としたときの表面状態が悪化する。
【0030】
なお、無機酸化物微粒子としては市販品を用いることができる。ケイ素酸化物微粒子(例えば、シリカ粒子)として市販されている商品としては、例えば、コロイダルシリカとして、日産化学工業製のメタノールシリカゾル、IPA−ST、MEK−ST、NBA−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−UP、ST−OUP、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL等を挙げることができる。また粉体シリカとしては、日本アエロジル製のアエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50、旭硝子製のシルデックスH31、H32、H51、H52、H121、H122、日本シリカ工業製のE220A、E220、富士シリシア製のSYLYSIA470、日本板硝子製のSGGフレ−ク等を挙げることができる。
【0031】
また、アルミナの水分散品としては、日産化学工業製のアルミナゾル−100、−200、−520、イソプロパノール分散品としては、住友大阪セメント製AS−150I、トルエン分散品としては、住友大阪セメント製のAS−150T、ジルコニアのトルエン分散品としては、住友大阪セメント製のHXU−110JC、アンチモン酸亜鉛粉末の水分散品としては、日産化学工業製のセルナックス、アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛等の粉末及び溶剤分散品としては、シーアイ化成製のナノテック、アンチモンドープ酸化スズの水分散ゾルとしては、石原産業製のSN−100D、ITO粉末としては、三菱マテリアル製の製品、酸化セリウム水分散液としては、多木化学製のニードラール等を挙げることができる。
【0032】
無機酸化物微粒子の形状は球状、粒子の内部に空隙を有する中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状であり、好ましくは、球状もしくは中空状である。特に、中空状のものは、高硬度で低屈折率な被膜が得られることから、反射防止膜等への応用も可能である。また、これらの無機酸化物微粒子は、エポキシ基、(メタ)アクリル基で修飾されたものでもよい。
【0033】
(B)成分の無機酸化物微粒子の添加量は、(A)成分100重量部に対して30〜400重量部、特に50〜150重量部である。30重量部未満だと、硬度が不十分で硬化膨張してしまい、400重量部を超えると、クラックが発生する等の問題が出てくる。
【0034】
(C)成分は、(A)成分に溶解可能な光酸発生剤であり、光によってエポキシ環を開かせる能力のある開始剤であるならば、特に使用は限定されない。光酸発生剤としては、オニウム塩系光開始剤が好ましく、下記一般式で表されるジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、モノアリールジアルキルスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩、テトラアリールホスホニウム塩、アリールジアゾニウム塩等が挙げられる。
R72I+X-
R73S+X-
R72R8S+X-
R7R82S+X-
R73Se+X-
R74P+X-
R7N2+X-
(式中、R7は炭素数6〜30のアリール基、R8は炭素数1〜30のアルキル基、X-はSbF6-、AsF6-、PF6-、BF4-、HSO4-、ClO4-、Cl-又はCF3SO3-等の陰イオンを示す。)
【0035】
特に、(A)成分との相溶性の観点から、下記一般式(6)で示されるものが好ましい。
R42I+X- (6)
(式中、R4は−C6H4−R5で示され、R5は炭素数6以上、好ましくは6〜24、特に6〜18のアルキル基、XはSbF6-、AsF6-、PF6-、BF4-、HSO4-、ClO4-、Cl-又はCF3SO3-を示す。)
【0036】
ここで、R5の炭素数6以上のアルキル基としては、C6H13、C7H15、C8H17、C9H19、C10H21、C11H23、C12H25、C13H27、C14H29、C15H31、C16H33、C17H35、C18H37等が挙げられ、特にC12H25が好ましい。
【0037】
(C)成分の光酸発生剤の添加量は、(A)成分100重量部に対して0.1〜5重量部である。0.1重量部未満だと、硬化性が不十分で硬化膨張が起こらなくなり、5重量部を超えても、効果はなくコスト的に問題が出てくる。
【0038】
本発明の上記(A)、(B)及び(C)成分を含有する硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤に、本発明の目的を損なわない範囲で有機溶剤、有機又は無機顔料、体質顔料、消泡剤、レベリング剤、滑り剤等の塗料用添加剤を配合してもよい。
【0039】
本発明の硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、TAC等のプラスチックフィルム等の表面に、通常の塗装法、例えばロールコート、グラビアコート、グラビアオフセットコート、カーテンフローコート、リバースコート、スクリーン印刷、スプレー及び浸漬法で塗装することができる。硬化塗膜の膜厚は用途により異なるが、0.5〜500μm程度、特に5〜50μm程度の範囲が好ましい。
【0040】
硬化させるための光源としては、通常、200〜450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯、カーボンアーク灯等を使用することができる。照射量は特に制限されないが10〜5000mJ/cm2、特に20〜1000mJ/cm2であることが好ましい。硬化時間は通常0.5秒〜2分、好ましくは1秒〜1分である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で部は重量部を示す。
【0042】
[実施例1]
一般式(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3
(式中、Reは、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基を示す。)
で表されるシリコーン化合物30部に、MEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学工業製、固形分30重量%)100部、(C12H25C6H4)2I+・SbF6-1.2部を混合して塗工液を作製した。この塗工液を0.1mm厚のポリカーボネート(100×100×0.1mm)、3mm厚のポリカーボネート(100×100×3.0mm)にバーコーターNo.20で塗工した。直ちに紫外線を200mJ/cm2照射して硬化させた。
【0043】
硬化後、0.1mm厚のポリカーボネートの中心に対しての4つの角の浮き沈みを測定して、その平均値によって膜の伸縮を判定した。塗布面を上にして置いた場合に収縮して凹となる場合を+として、塗布面を下にして置いた場合に膨張して凹となる場合を−とした。その結果0mmであった。
【0044】
また、3mm厚のポリカーボネートのテーバー摩耗試験(摩耗輪:CS−10F、500g荷重、500回転)を行い、試験前後のHaze(曇り価)の変化によって、硬度を測定した。その結果ΔHazeは13(%)であった。Haze(曇り価)の測定方法を下記に、結果を表1に示す。
Haze(曇り価)の測定法
Haze Meter NDH2000(日本電色工業社製)にて測定した。
【0045】
[実施例2]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(ReCH3SiO)4に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学工業製、固形分30重量%)100部を、MEK分散中空コロイダルシリカゾルOSCAL(触媒化成製、固形分20重量%)150部に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学工業製、固形分30重量%)100部を、メタノール分散複合酸化チタンゾルオプトレイク(触媒化成製)のMEK溶剤置換品(固形分20重量%)150部に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[比較例1]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学社製、固形分30重量%)100部を25部に変えた以外は、実施例1と同様に行った。収縮は−20mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0050】
[比較例2]
実施例1のMEK分散コロイダルシリカゾルMEK−ST(日産化学社製、固形分30重量%)100部を450部に変えた以外は、実施例1と同様に行った。硬化後クラックが発生した。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例3]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は10mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例4]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をβ−(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランに変えた以外は実施例1と同様に行った。円筒状に収縮し、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0053】
[比較例5]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をβ−(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランの加水分解縮合物(重量平均分子量900)に変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は20mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0054】
[比較例6]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をRe(CH3)2SiOSi(CH3)2Reに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は12mm、ΔHazeは>50であった。結果を表2に示す。
【0055】
[比較例7]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(CH3)3SiO(ReCH3SiO)4Si(CH3)3に変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は10mm、ΔHazeは30であった。結果を表2に示す。
【0056】
[比較例8]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(Re(CH3)2SiO)3CH3Siに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は12mm、ΔHazeは42であった。結果を表2に示す。
【0057】
[比較例9]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3を(Re(CH3)2SiO)4Siに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は10mm、ΔHazeは36であった。結果を表2に示す。
【0058】
[比較例10]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をRe(CH3)2SiO((CH3)2SiO)20Si(CH3)2Reに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は13mm、テーバー摩耗試験では膜が消失してしまった。結果を表2に示す。
【0059】
[比較例11]
実施例1の(CH3)3SiO(ReCH3SiO)8Si(CH3)3をRe(CH3)2SiO((CH3)2SiO)50Si(CH3)2Reに変えた以外は実施例1と同様に行った。収縮は11mm、テーバー摩耗試験では膜が消失してしまった。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
以上のように−R1RSiO2/2−単位を有し、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物と無機酸化物微粒子及び光酸発生剤を含有するコーティング剤は、反りがなく、高硬度な被膜が得られた。
無機酸化物微粒子が少ない比較例1では膨張が起こり、また硬度も不十分であった。無機酸化物微粒子が多い比較例2ではクラックが発生した。
非シリコーン系の比較例3や1分子中のR1が2個で、分子量が500未満の比較例6やR1当量が220を超える比較例7や−R1RSiO2/2−単位を有さない比較例5、8、9では硬化収縮が見られ、硬度も不十分であった。また、アルコキシ基を有する比較例4では大きな収縮が見られた。更に、剥離紙用途等に利用されている分子量が大きく、R1当量が大きい比較例10、11ではテーバー摩耗試験において、被膜が消失してしまうくらい、柔らかい被膜であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(4)
【化1】
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。cは3〜5、dは0〜3、c+d=3〜5の整数である。)
で表され、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物 100重量部
(B)平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子 30〜400重量部
(C)(A)成分に溶解可能な光酸発生剤 0.1〜5重量部
を含有することを特徴とする硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤。
【請求項2】
(A)成分が、下記一般式(5)
【化2】
(式中、R1は上記と同じ、nは3〜5の整数である。)
で表されるシリコーン化合物である請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
(B)成分が、シリカ、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング剤。
【請求項4】
(B)成分が、粒子の内部に空隙を有することを特徴とする無機酸化物微粒子である請求項1乃至3のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項5】
(B)成分が、アルコール又はケトンに分散した無機酸化物微粒子である請求項1乃至4のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項6】
(B)成分が、メチルエチルケトンに分散した無機酸化物微粒子である請求項5記載のコーティング剤。
【請求項7】
(C)成分が、下記一般式(6)
R42I+X- (6)
(式中、R4は−C6H4−R5で示され、R5は炭素数6以上のアルキル基、XはSbF6-、AsF6-、PF6-、BF4-、HSO4-、ClO4-、Cl-又はCF3SO3-を示す。)
で表される光酸発生剤である請求項1乃至6のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載のコーティング剤を塗装・硬化してなる硬質保護被膜を形成した物品。
【請求項1】
(A)下記一般式(4)
【化1】
(式中、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R1はエポキシシクロヘキシル基を有する有機基を示す。cは3〜5、dは0〜3、c+d=3〜5の整数である。)
で表され、1分子中に少なくとも3個のR1を有し、分子量が500〜2100、R1当量(R11mol当たりの重量)が180〜220で、アルコキシ基を含有しないシリコーン化合物 100重量部
(B)平均粒径1〜500nmの無機酸化物微粒子 30〜400重量部
(C)(A)成分に溶解可能な光酸発生剤 0.1〜5重量部
を含有することを特徴とする硬質保護被膜形成用光硬化性コーティング剤。
【請求項2】
(A)成分が、下記一般式(5)
【化2】
(式中、R1は上記と同じ、nは3〜5の整数である。)
で表されるシリコーン化合物である請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
(B)成分が、シリカ、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング剤。
【請求項4】
(B)成分が、粒子の内部に空隙を有することを特徴とする無機酸化物微粒子である請求項1乃至3のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項5】
(B)成分が、アルコール又はケトンに分散した無機酸化物微粒子である請求項1乃至4のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項6】
(B)成分が、メチルエチルケトンに分散した無機酸化物微粒子である請求項5記載のコーティング剤。
【請求項7】
(C)成分が、下記一般式(6)
R42I+X- (6)
(式中、R4は−C6H4−R5で示され、R5は炭素数6以上のアルキル基、XはSbF6-、AsF6-、PF6-、BF4-、HSO4-、ClO4-、Cl-又はCF3SO3-を示す。)
で表される光酸発生剤である請求項1乃至6のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載のコーティング剤を塗装・硬化してなる硬質保護被膜を形成した物品。
【公開番号】特開2007−211249(P2007−211249A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90536(P2007−90536)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2002−98734(P2002−98734)の分割
【原出願日】平成14年4月1日(2002.4.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2002−98734(P2002−98734)の分割
【原出願日】平成14年4月1日(2002.4.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】
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