磁場安定化機構、磁気共鳴装置及び電子スピン共鳴装置
【課題】NMR装置等の磁場をより精度良く安定化するための外部ロック方式の磁場安定化技術を提供する。
【解決手段】測定用試料とは別に配置されたロック用試料のNMR信号から磁場を測定し、この測定磁場に基づいてNMR磁石によって生成される磁場を安定化する外部ロック方式の磁場安定化機構であって、ロック用試料位置の磁場強度にもとづいて、NMR測定用試料位置における磁場変動を抑制するために必要な磁場補正コイルへの補正電流値を算出する補正量演算部を設ける。本磁場安定化機構によれば、磁場変動が大きい場合であっても安定化可能となるため、NMR磁石に外部電源を通電するような場合であっても精度良く磁場を安定化させることができる。
【解決手段】測定用試料とは別に配置されたロック用試料のNMR信号から磁場を測定し、この測定磁場に基づいてNMR磁石によって生成される磁場を安定化する外部ロック方式の磁場安定化機構であって、ロック用試料位置の磁場強度にもとづいて、NMR測定用試料位置における磁場変動を抑制するために必要な磁場補正コイルへの補正電流値を算出する補正量演算部を設ける。本磁場安定化機構によれば、磁場変動が大きい場合であっても安定化可能となるため、NMR磁石に外部電源を通電するような場合であっても精度良く磁場を安定化させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場を安定化させるためのロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR(核磁気共鳴)装置は、静磁場中に置かれた試料が持つ共鳴周波数を測定する装置であり、有機物や固体から生体高分子に至る幅広い試料の測定に用いられる。NMR装置では、高磁場化によって、高感度、高分解能なスペクトルを得ることができる。特に、固体NMRでは、原理的にほぼ全ての元素の分析が可能であるものの、感度や分解能が足りないために、四極子核の計測が困難であった。高磁場化によって四極子核計測の感度や分解能が向上すれば、従来分析対象にならなかった多くの元素や材料についての分析が可能となるため、高磁場化は固体NMRにおいて特に有効である。
【0003】
ところで、従来のNMR装置の磁石には、NbTiやNb3Sbのような低温超伝導線材が用いられている。このような磁石は、数十個のコイルからなり、コイル間は超伝導接続で接続される。そして、励磁後に永久電流スイッチでショートされ、励磁電源から切り離した永久電流モードで運転される。このような超電導磁石は、永久電流モードで10−8/hの磁場安定度を持つ。溶液NMR装置では10−10/h以下の磁場安定度が要求されるので、通常は、この水準を実現するために磁場ロック装置が備えられている。
【0004】
溶液NMRでは、内部ロックが用いられる。内部ロックは、測定用の試料をロック用の核種(2Hが用いられることが多い)が入った溶媒に溶かし、ロック用核種のNMR信号を測定用試料のNMR信号とは別に観測する。そして、ロック用のNMR信号の周波数が一定となるようにロック用の磁場補正コイルの電流を調整する。これにより、磁場が安定化する。この方式は、測定用試料の位置と同じ場所でロック用試料の測定を行うため、内部ロックと呼ばれている。
【0005】
内部ロック装置では、検波器を用いている。検波器は、参照信号と測定信号との間の周波数の差をみることができる装置である。この方式は非常に鋭敏で高精度に周波数の差を検知することができる。そして、このずれを常時補正することで、超電導磁石の磁場を高精度に安定化させることができる。
【0006】
なお、ロック用試料の測定を測定試料の場所とは異なる場所で行う方式は外部ロックと呼ばれている。外部ロックは、固体NMRのように内部ロックが利用できない場合に用いる方法である。固体NMRでは、溶液NMRに比べてスペクトルの線幅が太い(つまり、周波数解像度が低い)ので、溶液NMR程の磁場安定度は必要とされない。そのため、永久電流モードで実現される10−8/hの磁場安定度で十分であり、より高度な安定度が
得られる外部ロック方式についての研究はあまりなされていない。
【特許文献1】米国特許第4110681号明細書
【特許文献2】米国特許第4171511号明細書
【特許文献3】特開昭62−222179号公報
【特許文献4】米国特許第6037775号明細書
【特許文献5】特開2006−38570号公報
【特許文献6】特開2007−3458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1GHzを超えるNMR(磁場の大きさを1Hの核磁気共鳴周波数で表す。23.5Tに相当)を実現しようとした場合、高磁場部分には低温超伝導線は利用することはできない。なぜならば、20Tを超えるような高磁場中では、低温超伝導線の臨界電流密度が小さくなるためである。この低温超伝導線の臨界電流の問題により、従来の方法では1GHz程度以上の高磁場化は難しい。
【0008】
したがって、NMR装置の磁石の高磁場部に、高温超伝導線材を用いることが必要となる。高温超伝導線を超流動ヘリウム温度で使用すると、高磁場中でも高い臨界電流が得られるため、1GHz以上の高磁場化が可能となる。ただし、高温超伝導線は、大きな電流を流すと僅かではあるものの抵抗が発生する。また、コイル間の接続を超伝導接続で行うことは不可能であるために、接続部にわずかな抵抗が発生する。このため低温超伝導線を用いたNMR磁石のように永久電流モードで使用すると、この抵抗により10−4/hから10−6/hの速度で電流が減衰してしまい、NMRで必要とされる十分な磁場安定度を実現することができない。
【0009】
そこで、高温超伝導線からなるNMR磁石を、永久電流モードで使用するのではなく、外部電源から電流を常に供給する必要がある。これにより、磁場減衰を抑えることができる。しかしながら、外部電源を用いると、外部電源の電流変動を受けて磁場が変動してしまうという問題が生じる。この電流変動量は電源の性能にも依存するが、高安定化電源を用いた場合であっても10−6から10−5程度と、従来のNMR装置で使われている永久電流通電に比べれば遙かに大きく、これによりNMRスペクトルが変調され精密な測定が不可能となる。
【0010】
このように、NMR磁石に外部電源から電流を通電する場合、磁場の安定化が必須となる。
【0011】
内部ロック方式は、永久電流モードのように比較的磁場変動の割合が少ない場合には有効であるが、外部電源通電モードのように磁場が大きく変動する場合には、対応できない場合がある。検波器によって周波数差を検出する際に、分散信号の出力が周波数差に比例するのは周波数差が小さい場合のみであり、周波数差(磁場変動)が大きくなる場合には修正精度が悪化してしまう。また、固体試料を用いる固体NMRでは測定用試料にロック用試料(2H等)を混入することが難しく、固体NMRに内部ロック方式を適用できない。
【0012】
一方、従来の外部ロック方式は、対応できる磁場変動の許容幅は大きいものの、高精度の安定化には限界があった。
【0013】
つまり、高温超伝導線に外部電源を通電する場合のように磁場変動が大きいときに、これをNMR測定の要求精度で安定化する手段は今まで存在していなかった。
【0014】
本発明はこのような問題点を考慮してなされたものであり、その目的は、磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場を安定化する外部ロック方式の磁場安定化技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁場安定化機構は、以下の手段によって磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場生成手段が生成する磁場を安定化する。
【0016】
本発明に係る磁場安定化機構は、測定用試料の近傍に配置されたロック用試料と、これに高周波を照射して、共鳴信号を受信するロック用共鳴信号受信部と、磁場生成手段の作
る磁場を補正する磁場補正コイルを有する。本発明に係る磁場安定化機構は、測定用試料とは異なる位置にあるロック用の試料から得られる共鳴信号に基づいて磁場を補正する、いわゆる外部ロック方式による磁場安定化機構である。
【0017】
本発明に係る磁場安定化機構では、ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号の変動に基づいて、測定用試料の位置における磁場変動を抑制するために印加する磁場補正コイルへの電流値を算出する補正量演算部を有する。
【0018】
本発明に係る磁場安定化機構によれば、外部ロック方式において、磁場補正コイルが生成する磁場の不均一性を考慮して磁場の安定化を行っているため、磁場測定位置(ロック用試料位置)ではなく測定用試料位置での磁場をより高精度に安定化させることができる。これによって、高精度な測定が可能となる。
【0019】
補正量演算部は、例えば、以下のような処理によって印加する補正電流値を算出することができる。すなわち、まず、補正コイルに印加する電流値と、ロック用試料位置及び測定用試料位置における磁場の強さとの関係(磁場補正コイルの特性)をあらかじめ取得しておく。そして、ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号から、ロック用試料位置における磁場の値を測定し、この測定値、磁場補正コイルの特性及び現在印加中の補正電流値から、測定用試料位置における磁場の強さを算出(推定)する。そして、測定用試料位置における磁場の強さが一定となるように、フィードバック制御等によって磁場補正コイルに印加する補正電流値を算出する。
【0020】
磁場補正コイルの特性は、例えば、種々の電流値をコイルに印加してそのときに生成される磁場の強さをロック用試料位置と測定用試料位置の両方で測定することで得られる。あるいは、代表的な電流値について測定し、その間の電流値については補間によって求めてもよい。あるいは、磁場強度が電流値に比例することを利用(仮定)し、磁場補正コイルに単位電流を印加した場合の磁場変動量を、ロック用試料位置及び測定用試料位置で求めてもよい。
【0021】
このようにすれば、ロック用試料位置における磁場強度に基づいて、測定用試料位置での磁場強度を安定化させることが可能である。
【0022】
また、補正量演算部は、ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号の周波数を周波数カウンタを用いて計測することで、ロック用試料位置における磁場の強さを測定することが好ましい。周波数カウンタに入力する信号は、ロック用共鳴信号受信部が受信した信号をそのまま入力しても良いし、低周波に変換してから入力しても良い。
【0023】
このように周波数カウンタを用いることで、測定する磁場の変動が大きい(共鳴信号の周波数変動が大きい)場合であっても、正確にその変動量を測定することができる。したがって、磁場補正コイルに印加する補正電流値を精度良く求めることができ、磁場の安定度が高まる。
【0024】
本発明に係る磁場安定化機構は、磁場変動が大きい場合であっても対応可能である。したがって、磁場変動が大きい磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置に対して適用することが好適である。このような磁場変動が大きい測定装置には、高温超伝導線材や常伝導線材のコイルに外部電源からの電流を印加した磁石を磁場生成手段として有する磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置が含まれる。
【0025】
また、本発明に係る磁場安定化機構は、内部ロック方式を採用できない固体NMR装置に適用することが好適である。もっとも、溶液NMR装置であっても磁場変動が大きく、
従来のロック方式が利用できないNMR装置に適用することも好適である。
【0026】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む磁気共鳴装置又は電子スピン共鳴装置の磁場安定化機構として捉えることができる。また、本発明は、上記磁場安定化機構を含む磁気共鳴装置又は電子スピン装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む、磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場安定化方法またはこれらの装置における測定方法、又は、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることができる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、外部ロック方式によって磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場をより高精度に安定化させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本実施形態に係るNMR装置について説明する。本実施形態におけるNMR磁石は、複数(数個〜数十個)の超伝導コイルから構成されている。そして、最内層のコイルにはBi2223のような高温超伝導線材を利用し、その他の層にはNbTiやNb3Snのような低温超伝導線材を利用する。これは図2に示すように、高磁場中では低温超伝導線材の臨界電流密度が小さくなるためである。一方、高温超伝導線材を超流動ヘリウム温度(4K)で用いると高磁場中でも高い臨界電流密度が得られる。なお、高温超伝導線材は、テープの形で市販されておりこれを用いれば良い。また、磁場の強さに応じて、最内層のコイルだけでなくその他の層のコイルにも高温超伝導線材を使っても良い。
【0029】
高温超伝導線材は、大きな電流を流すと僅かではあるが抵抗が発生する。また、線材の形状や性質のために、超伝導コイル間を超伝導接続することも困難である。したがって、永久電流モードで使用すると、抵抗によって10−6/hから10−4/hの速度で電流が減衰してしまう。そこで、本実施形態ではNMR磁石1に外部電源2から電流を常に供給し、磁場の減衰を抑える構成にする。
【0030】
プローブ3内には測定試料4を入れる測定試料管があり、その周囲にはNMR信号を検出するための測定用コイル5が設けられている。固体NMRでは異方的な相互作用を打ち消すために、測定試料4をマジックアングル(54.74°)で回転させる。
【0031】
NMR分光計6は、通常用いられるものであり、NMR信号を励起するための高周波パルスを測定用コイル5に出力し、測定試料4からのNMR信号を測定用コイル5によって受信する。そして、NMR信号の化学シフトなどにより測定試料4の化学的性質を観測する。
【0032】
NMR信号を精度良く観測するためには、測定試料4にかける磁場を一定にする必要がある。本実施形態のように外部電源2を用いる場合、その電流変動による影響を受けてしまう。外部電源の特性を図3に示す。図3(A)は、通常用いられる励磁用の電源の電流変動を表したものであり、30分で約15ppmの変動幅がある。図3(B)は、高安定化電源の電流変動を表したものであり、30分で約1ppmの変動幅がある。この電流変動幅はいずれも、通常のNMR磁石で使われている永久電流モードでの変動幅(10−8)に比べてはるかに大きく、これによりNMRスペクトルは変調され精密な測定が不可能になる。
【0033】
そこで、本実施形態では以下に示す外部ロック機構によって、外部電源通電時の磁場をNMR計測に必要なレベルまで安定化させる。なお、外部電源2として、図3(B)に示すような変動幅1ppm程度の高安定化電源を用いることが好ましいが、図3(A)のような15ppm程度の変動のある電源を用いても構わない。
【0034】
NMR磁石1が生成する磁場を測定可能なように、測定試料4とは別に磁場測定用のロック核試料(ロック用試料)7から生じるNMR信号を、磁場測定用コイル8で検出する構成とする。本実施形態では、ロック核試料7として塩化リチウム溶液などの7Li核を含む溶液サンプルを採用する。ロック核試料7は、2H,1H,F等の核を含む溶液サンプルであっても良い。なお、測定用のNMR信号との干渉を避けるために、測定試料4との共鳴周波数の差が大きい核種を用いることが好ましい。
【0035】
ロック核試料7の場所は磁石中心から離れており磁場の均一度が十分ではないので、その影響でNMR信号がブロードになりやすい。これを防ぐためと、設置空間の制約(プロ
ーブは直径40mm程度であり内部は狭い)から、ロック核試料7、磁場測定用コイル8
はできるだけ小さいのが望ましい。逆に余り小さいと、感度が悪くなる。本発明では、ロック核試料7は直径1mm程度のPTFE系のチューブ又はガラスチューブに納め、その周囲に磁場測定用コイル8を巻く。磁場測定用コイル8は、ロック核試料7に励起用の高周波パルスをかけるためと、ロック核試料7から励起されたNMR信号を受信するための両方の目的で使われる。磁場測定用コイル8は1.5mm径以下でターン数40ターン以下のソレノイドコイルとする。また、ソレノイドコイルの線材は、銅やアルミ又はこれらに銀か金をメッキしたものとする。あるいは、残留磁性をキャンセルするために、銅表面にアルミをコートしたものや、アルミ表面に銅か金をコートしたものであっても良い。線材は表面絶縁しても良いし、絶縁しなくても良い。サンプルを収めるのはチューブが望ましいが、中空の球や回転楕円体でも良い。
【0036】
試料管にソレノイドを巻いただけでは磁場が不均一になってロック核のNMR信号スペクトルがブロードになる場合は、ソレノイド全体をグリス又はオイルで浸漬することが好ましい。この処理によりソレノイドコイルのQ値が大きくでき、NMR信号のスペクトルがよりシャープになる。
【0037】
ロック核試料7を納めた試料管は、NMR測定用試料4の位置(NMR磁石1の磁場中心)から15mm下の位置に設置した。この試料管は、測定用試料4と同じくNMR磁石1および磁場補正コイル9の中心軸上に設置されることが好ましいが、中心軸と異なる位置に設置されても構わない。ロック核試料7を納めた試料管は、NMR測定用試料4の位置から5mm以上30mm以下の位置でも良い。
【0038】
パルス送信器10、パワーアンプ11等から構成されるロック用NMR信号励起回路は、磁場測定用コイル8を介してロック核試料7を励起するための励起パルスを発生させる。この励起パルスにより、ロック核試料7から核種と静磁場に応じたラーモア周波数(共鳴周波数)のNMR信号が生じる。ロック核の核種は既知あるので、NMR信号のラーモア周波数を測定することと、ロック核にかかっている静磁場の強さを測定することは同値である。
【0039】
磁場補正コイル9は、室温シム内に設けられており、磁場測定用コイル8で測定された磁場に基づいて、測定試料4位置での磁場が一定となるように磁場の補正を行う。具体的な補正の量(磁場補正コイル9に印加する電流値)については、この後詳しく説明する。
【0040】
スイッチ12は、高周波パルスの出力と、NMR信号の入力を定期的に切り替える。ロック核試料7から発生したNMR信号は、低雑音アンプ(LNA)13で増幅され、局所
発振器14及びミキサ15で以降の処理がしやすいように低周波にし、バンドパスフィルタ(BPF)16でフィルタ処理を加える。
【0041】
低周波に落とされたNMR信号は周波数カウンタ17に入力され、その周波数が測定される。周波数カウンタ17としては、短いゲート時間で周波数を精度良く計測するために、レシプロカルカウンタを用いる。局所発振器14の周波数と周波数カウンタ17の測定結果とから、元のNMR信号の周波数(共鳴周波数)が得られる。
【0042】
周波数カウンタ17の測定値はPC(パーソナルコンピュータ)18に入力される。PC18はNMR磁石1の磁場変動を安定化するための電流値をフィードバック制御により算出する。このPC18が、補正コイル電流の大きさを制御する演算回路に相当する。もっとも、この演算回路は専用の回路で実現しても良い。以下、PC18を演算部18と称する。
【0043】
補正電流の算出処理では、周波数カウンタ17の測定値に基づいて、測定試料4の位置での磁場が一定となるように補正電流の値を求める。周波数カウンタ17の測定値が一定となるように補正電流を求めるわけではない。つまり、ロック核試料7磁場測定位置での磁場の強さを一定にするのではない。
【0044】
比較例として、磁場測定位置の磁場を一定とするよう補正電流を求めた場合のロックの結果を図4に示す。図4は、測定試料4のNMR信号スペクトルの変動を示している。図に示すように、磁場測定位置(ロック核試料7+磁場測定用コイル8)での磁場を一定とするように補正電流を算出した場合、測定試料4の共鳴周波数、すなわち測定試料4位置での磁場強度が約0.2ppmの変動幅で変動してしまうことが分かる。
【0045】
このように測定試料4位置での変動幅が大きくなるのは、磁場補正コイル9の磁場の不均一性に原因があると考えられる。つまり、外部電源による変動が大きいため、磁場補正コイル9による補正磁場も大きくする必要があり、補正磁場の不均一性の影響が無視できなくなるのである。図5に、磁場補正コイル9の生成する磁場の強度分布を示す。図に示すように、磁場補正コイル9の中心位置(測定試料4の位置)で磁場が最も強く、中心位置から離れるほど小さくなる。
【0046】
以上の比較例での結果から分かるように、演算部18では、補正コイル9の磁場不均一性の影響を考慮して、補正電流を求める必要がある。この演算部18が行う、補正電流値の算出処理を図6、図7を参照して説明する。図6は補正電流値算出処理のフローチャートであり、図7は補正電流値の求め方を説明する図である。なお、以下では共鳴周波数を対象に処理を行っているが、既知のロック核サンプルの共鳴周波数なので、すなわち磁場強度を対象にして処理を行っていることと同じである。
【0047】
まず、あらかじめ補正コイル9の特性を調べておく。ここでは、補正電流1mAあたり、共鳴周波数が何Hz変動するかを、NMR測定位置(以下、中心位置と称す)と外部ロック用磁場測定位置(以下、外部ロック位置と称す)のそれぞれについて調べておく。中心位置での変化量をΔFc[Hz/mA]、外部ロック位置での変化量をΔFb[Hz/mA]とする。これらあらかじめ調べられた変化量は、演算部18に格納される。
【0048】
次に、外部ロック位置での共鳴周波数Fb[Hz]を測定する(S1)。そして、外部ロック位置での共鳴周波数Fbと、現在の補正電流値I[mA]と、補正コイルの特性(ΔFc,ΔFb)に基づいて、中心位置での共鳴周波数Fcを算出する(S2)。すなわち、Fc=Fb+I×(ΔFc−ΔFb)によって、中心位置での共鳴周波数Fcを算出する(図7参照)。
【0049】
そして、このFcをつかってフィードバック制御を行う(S3)。ここで、一定に保ちたい共鳴周波数の目標値をFtarget[Hz]とする。そして、補正電流の変更量dI[mA]をPI制御にしたがって決定する。具体的には、dI=kp×(Ftarget−Fc)/ΔFc によってdIが決定される(ここで、kpは制御パラメータであり
、0<kp<1)。このようにして、新しい補正電流Inewが、Inew=I+dIとして求められる。
【0050】
なお、上記の説明では、磁場補正コイル9の特性として単位電流あたりの磁場変動量(ΔFc、ΔFb)を求めているが、これに限られるものではない。例えば、様々な補正電流値について、磁場補正コイルが作る中心位置と外部ロック位置での磁場強度を求めてもよい。つまり、中心位置での磁場強度の分布Fc(I)と、外部ロック位置での磁場強度の分布Fb(I)を求めておく。そして、ステップS1における中心位置での磁場計算(推定)は、Fc=Fb−Fb(I)+Fc(I)によって行えばよい。
【0051】
演算部18によって求められた補正電流量は、DA変換器19を介して、磁場補正コイル9に流される。
【0052】
このように本実施形態に係る外部ロック機構によって磁場を安定化させたときの、測定試料4位置(中心位置)での磁場の変動を図8に示す。図8は、測定試料4のNMR信号スペクトルの変動を示している。図から分かるように、上記の外部ロック機構を用いることで、中心位置での磁場が精度良く安定化されていることが分かる。磁場の変動幅は、固体NMRに要求される10−8(0.01ppm)以下に抑えられている。
【0053】
図9は、図8に示した測定の間の、中心位置の共鳴周波数を周波数カウンタで計測した測定値、演算回路による中心位置の磁場推定値、及び、補正電流値の時間変化を示した図である。補正電流をかけることで、中心位置の磁場が安定化されていることが分かる。
【0054】
本実施形態に係る外部ロック機構によれば、NMR磁石を外部通電モードで使う場合であっても、外部電源の電流変動に伴う磁場変動を抑制することが可能となる。これにより、外部通電モードの高温超伝導線材をNMR磁石として使用することが可能となり、高磁場化が可能となる。
【0055】
特に、外部ロック用の試料位置での磁場を一定化させるのではなく、外部ロック用試料位置での磁場の測定値に基づいて、中心位置での磁場を推定する演算を加えているので、高精度に中心位置での磁場を安定化することができる。これにより、上記の比較例のように単にロック用試料位置での測定磁場を安定化させるだけでは得られない高度な安定化が可能となる。中心位置(NMR測定位置)での磁場の安定度がNMR測定の精度に寄与するため、これにより精度良くNMR測定を行うことができる。
【0056】
上記の利点は、補正コイルによる磁場が広い空間で均一にする必要がないと捉えることもできる。すなわち、補正コイルが生成する磁場を均一にする必要がない、補正コイルの設計・製造が容易になる。
【0057】
また、従来の検波器を用いる内部ロック機構は、磁場の変動が大きくなると適用が難しくなる場合がある。これは、分散信号の出力と周波数差が比例する範囲は比較的狭いため、永久電流モードのような比較的変動の少ない磁場の場合には有効であるものの、大きな磁場変動には対応できない場合があるからである。つまり、本実施形態における外部ロック機構は、上記で説明した外部通電モードの高温超伝導線材を用いる固体NMR装置のみに適用可能なわけではなく、外部電源を用いるなど磁場変動が大きいNMR装置全般に適
用可能である。例えば、常伝導線材(銅線など)と超伝導線材を組み合わせたハイブリッド磁石に外部通電を行うNMR装置にも適用可能である。また、20T以上の高磁場(低温超伝導線材を利用できない)を扱うNMR装置だけでなく、より低い磁場を扱う外部通電を行うNMR装置にも適用可能である。
【0058】
なお、上記の説明ではNMR装置を例に説明したが、MRI(磁気共鳴画像)装置やESR(電子スピン共鳴)装置も、NMR装置と基本的に同様の構成を有するため、本実施形態の磁場安定化機構を適用可能である。
【0059】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では周波数カウンタを用いて磁場強度(共鳴周波数)を求めているが、本実施形態では異なる方法によって磁場強度を求める。本実施形態では、単一周波数の高周波(NMR励起信号)を用い、その周波数を周期的に上下に(たとえば三角波状に)変化させる。そして、検波器の参照信号又はミキサのLO周波数をそれに連動させる。この方法では、NMR励起信号の周波数がロック核サンプルの共鳴周波数に一致したときのみNMR信号が発生するので、NMR信号が発生したときのNMR励起信号の周波数に基づいて、磁場測定センサ位置における磁場を測定できる。このようにしても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1の実施形態に係る外部ロックシステムを設けたNMR装置の構成の概要を示す図である。
【図2】高温超伝導線材と低温超伝導線材の磁場の強さと臨界電流密度との関係を示す図である。
【図3】安定化電源((a)通常の励磁用電源、(b)高安定化電源)の電流変動を示す図である。
【図4】ロック核位置での磁場の強さを一定とするように補正電流をかけた場合の、測定試料位置での磁場強度(共鳴周波数)の変動を示すための図である。中心位置のNMR信号スペクトルの時間変化を示している。
【図5】磁場補正コイルにより生成される磁場強度の分布を示す図である。
【図6】補正電流算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】補正電流を算出する処理を説明する図である。
【図8】本実施形態による外部ロックによって補正電流をかけた場合の、測定試料位置での磁場強度(共鳴周波数)の変動を示すための図である。中心位置のNMR信号スペクトルの時間変化を示している。
【図9】図8の測定における、中心位置の磁場の測定値、中心位置の磁場の推定値、及び補正電流値の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 NMR磁石
2 外部電源
4 測定試料
5 NMR測定用コイル
6 NMR分光計
7 ロック核試料
8 磁場測定用コイル
9 磁場補正コイル
17 周波数カウンタ
18 PC(演算部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場を安定化させるためのロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR(核磁気共鳴)装置は、静磁場中に置かれた試料が持つ共鳴周波数を測定する装置であり、有機物や固体から生体高分子に至る幅広い試料の測定に用いられる。NMR装置では、高磁場化によって、高感度、高分解能なスペクトルを得ることができる。特に、固体NMRでは、原理的にほぼ全ての元素の分析が可能であるものの、感度や分解能が足りないために、四極子核の計測が困難であった。高磁場化によって四極子核計測の感度や分解能が向上すれば、従来分析対象にならなかった多くの元素や材料についての分析が可能となるため、高磁場化は固体NMRにおいて特に有効である。
【0003】
ところで、従来のNMR装置の磁石には、NbTiやNb3Sbのような低温超伝導線材が用いられている。このような磁石は、数十個のコイルからなり、コイル間は超伝導接続で接続される。そして、励磁後に永久電流スイッチでショートされ、励磁電源から切り離した永久電流モードで運転される。このような超電導磁石は、永久電流モードで10−8/hの磁場安定度を持つ。溶液NMR装置では10−10/h以下の磁場安定度が要求されるので、通常は、この水準を実現するために磁場ロック装置が備えられている。
【0004】
溶液NMRでは、内部ロックが用いられる。内部ロックは、測定用の試料をロック用の核種(2Hが用いられることが多い)が入った溶媒に溶かし、ロック用核種のNMR信号を測定用試料のNMR信号とは別に観測する。そして、ロック用のNMR信号の周波数が一定となるようにロック用の磁場補正コイルの電流を調整する。これにより、磁場が安定化する。この方式は、測定用試料の位置と同じ場所でロック用試料の測定を行うため、内部ロックと呼ばれている。
【0005】
内部ロック装置では、検波器を用いている。検波器は、参照信号と測定信号との間の周波数の差をみることができる装置である。この方式は非常に鋭敏で高精度に周波数の差を検知することができる。そして、このずれを常時補正することで、超電導磁石の磁場を高精度に安定化させることができる。
【0006】
なお、ロック用試料の測定を測定試料の場所とは異なる場所で行う方式は外部ロックと呼ばれている。外部ロックは、固体NMRのように内部ロックが利用できない場合に用いる方法である。固体NMRでは、溶液NMRに比べてスペクトルの線幅が太い(つまり、周波数解像度が低い)ので、溶液NMR程の磁場安定度は必要とされない。そのため、永久電流モードで実現される10−8/hの磁場安定度で十分であり、より高度な安定度が
得られる外部ロック方式についての研究はあまりなされていない。
【特許文献1】米国特許第4110681号明細書
【特許文献2】米国特許第4171511号明細書
【特許文献3】特開昭62−222179号公報
【特許文献4】米国特許第6037775号明細書
【特許文献5】特開2006−38570号公報
【特許文献6】特開2007−3458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1GHzを超えるNMR(磁場の大きさを1Hの核磁気共鳴周波数で表す。23.5Tに相当)を実現しようとした場合、高磁場部分には低温超伝導線は利用することはできない。なぜならば、20Tを超えるような高磁場中では、低温超伝導線の臨界電流密度が小さくなるためである。この低温超伝導線の臨界電流の問題により、従来の方法では1GHz程度以上の高磁場化は難しい。
【0008】
したがって、NMR装置の磁石の高磁場部に、高温超伝導線材を用いることが必要となる。高温超伝導線を超流動ヘリウム温度で使用すると、高磁場中でも高い臨界電流が得られるため、1GHz以上の高磁場化が可能となる。ただし、高温超伝導線は、大きな電流を流すと僅かではあるものの抵抗が発生する。また、コイル間の接続を超伝導接続で行うことは不可能であるために、接続部にわずかな抵抗が発生する。このため低温超伝導線を用いたNMR磁石のように永久電流モードで使用すると、この抵抗により10−4/hから10−6/hの速度で電流が減衰してしまい、NMRで必要とされる十分な磁場安定度を実現することができない。
【0009】
そこで、高温超伝導線からなるNMR磁石を、永久電流モードで使用するのではなく、外部電源から電流を常に供給する必要がある。これにより、磁場減衰を抑えることができる。しかしながら、外部電源を用いると、外部電源の電流変動を受けて磁場が変動してしまうという問題が生じる。この電流変動量は電源の性能にも依存するが、高安定化電源を用いた場合であっても10−6から10−5程度と、従来のNMR装置で使われている永久電流通電に比べれば遙かに大きく、これによりNMRスペクトルが変調され精密な測定が不可能となる。
【0010】
このように、NMR磁石に外部電源から電流を通電する場合、磁場の安定化が必須となる。
【0011】
内部ロック方式は、永久電流モードのように比較的磁場変動の割合が少ない場合には有効であるが、外部電源通電モードのように磁場が大きく変動する場合には、対応できない場合がある。検波器によって周波数差を検出する際に、分散信号の出力が周波数差に比例するのは周波数差が小さい場合のみであり、周波数差(磁場変動)が大きくなる場合には修正精度が悪化してしまう。また、固体試料を用いる固体NMRでは測定用試料にロック用試料(2H等)を混入することが難しく、固体NMRに内部ロック方式を適用できない。
【0012】
一方、従来の外部ロック方式は、対応できる磁場変動の許容幅は大きいものの、高精度の安定化には限界があった。
【0013】
つまり、高温超伝導線に外部電源を通電する場合のように磁場変動が大きいときに、これをNMR測定の要求精度で安定化する手段は今まで存在していなかった。
【0014】
本発明はこのような問題点を考慮してなされたものであり、その目的は、磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場を安定化する外部ロック方式の磁場安定化技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁場安定化機構は、以下の手段によって磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場生成手段が生成する磁場を安定化する。
【0016】
本発明に係る磁場安定化機構は、測定用試料の近傍に配置されたロック用試料と、これに高周波を照射して、共鳴信号を受信するロック用共鳴信号受信部と、磁場生成手段の作
る磁場を補正する磁場補正コイルを有する。本発明に係る磁場安定化機構は、測定用試料とは異なる位置にあるロック用の試料から得られる共鳴信号に基づいて磁場を補正する、いわゆる外部ロック方式による磁場安定化機構である。
【0017】
本発明に係る磁場安定化機構では、ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号の変動に基づいて、測定用試料の位置における磁場変動を抑制するために印加する磁場補正コイルへの電流値を算出する補正量演算部を有する。
【0018】
本発明に係る磁場安定化機構によれば、外部ロック方式において、磁場補正コイルが生成する磁場の不均一性を考慮して磁場の安定化を行っているため、磁場測定位置(ロック用試料位置)ではなく測定用試料位置での磁場をより高精度に安定化させることができる。これによって、高精度な測定が可能となる。
【0019】
補正量演算部は、例えば、以下のような処理によって印加する補正電流値を算出することができる。すなわち、まず、補正コイルに印加する電流値と、ロック用試料位置及び測定用試料位置における磁場の強さとの関係(磁場補正コイルの特性)をあらかじめ取得しておく。そして、ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号から、ロック用試料位置における磁場の値を測定し、この測定値、磁場補正コイルの特性及び現在印加中の補正電流値から、測定用試料位置における磁場の強さを算出(推定)する。そして、測定用試料位置における磁場の強さが一定となるように、フィードバック制御等によって磁場補正コイルに印加する補正電流値を算出する。
【0020】
磁場補正コイルの特性は、例えば、種々の電流値をコイルに印加してそのときに生成される磁場の強さをロック用試料位置と測定用試料位置の両方で測定することで得られる。あるいは、代表的な電流値について測定し、その間の電流値については補間によって求めてもよい。あるいは、磁場強度が電流値に比例することを利用(仮定)し、磁場補正コイルに単位電流を印加した場合の磁場変動量を、ロック用試料位置及び測定用試料位置で求めてもよい。
【0021】
このようにすれば、ロック用試料位置における磁場強度に基づいて、測定用試料位置での磁場強度を安定化させることが可能である。
【0022】
また、補正量演算部は、ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号の周波数を周波数カウンタを用いて計測することで、ロック用試料位置における磁場の強さを測定することが好ましい。周波数カウンタに入力する信号は、ロック用共鳴信号受信部が受信した信号をそのまま入力しても良いし、低周波に変換してから入力しても良い。
【0023】
このように周波数カウンタを用いることで、測定する磁場の変動が大きい(共鳴信号の周波数変動が大きい)場合であっても、正確にその変動量を測定することができる。したがって、磁場補正コイルに印加する補正電流値を精度良く求めることができ、磁場の安定度が高まる。
【0024】
本発明に係る磁場安定化機構は、磁場変動が大きい場合であっても対応可能である。したがって、磁場変動が大きい磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置に対して適用することが好適である。このような磁場変動が大きい測定装置には、高温超伝導線材や常伝導線材のコイルに外部電源からの電流を印加した磁石を磁場生成手段として有する磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置が含まれる。
【0025】
また、本発明に係る磁場安定化機構は、内部ロック方式を採用できない固体NMR装置に適用することが好適である。もっとも、溶液NMR装置であっても磁場変動が大きく、
従来のロック方式が利用できないNMR装置に適用することも好適である。
【0026】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む磁気共鳴装置又は電子スピン共鳴装置の磁場安定化機構として捉えることができる。また、本発明は、上記磁場安定化機構を含む磁気共鳴装置又は電子スピン装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む、磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場安定化方法またはこれらの装置における測定方法、又は、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることができる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、外部ロック方式によって磁気共鳴装置や電子スピン共鳴装置の磁場をより高精度に安定化させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本実施形態に係るNMR装置について説明する。本実施形態におけるNMR磁石は、複数(数個〜数十個)の超伝導コイルから構成されている。そして、最内層のコイルにはBi2223のような高温超伝導線材を利用し、その他の層にはNbTiやNb3Snのような低温超伝導線材を利用する。これは図2に示すように、高磁場中では低温超伝導線材の臨界電流密度が小さくなるためである。一方、高温超伝導線材を超流動ヘリウム温度(4K)で用いると高磁場中でも高い臨界電流密度が得られる。なお、高温超伝導線材は、テープの形で市販されておりこれを用いれば良い。また、磁場の強さに応じて、最内層のコイルだけでなくその他の層のコイルにも高温超伝導線材を使っても良い。
【0029】
高温超伝導線材は、大きな電流を流すと僅かではあるが抵抗が発生する。また、線材の形状や性質のために、超伝導コイル間を超伝導接続することも困難である。したがって、永久電流モードで使用すると、抵抗によって10−6/hから10−4/hの速度で電流が減衰してしまう。そこで、本実施形態ではNMR磁石1に外部電源2から電流を常に供給し、磁場の減衰を抑える構成にする。
【0030】
プローブ3内には測定試料4を入れる測定試料管があり、その周囲にはNMR信号を検出するための測定用コイル5が設けられている。固体NMRでは異方的な相互作用を打ち消すために、測定試料4をマジックアングル(54.74°)で回転させる。
【0031】
NMR分光計6は、通常用いられるものであり、NMR信号を励起するための高周波パルスを測定用コイル5に出力し、測定試料4からのNMR信号を測定用コイル5によって受信する。そして、NMR信号の化学シフトなどにより測定試料4の化学的性質を観測する。
【0032】
NMR信号を精度良く観測するためには、測定試料4にかける磁場を一定にする必要がある。本実施形態のように外部電源2を用いる場合、その電流変動による影響を受けてしまう。外部電源の特性を図3に示す。図3(A)は、通常用いられる励磁用の電源の電流変動を表したものであり、30分で約15ppmの変動幅がある。図3(B)は、高安定化電源の電流変動を表したものであり、30分で約1ppmの変動幅がある。この電流変動幅はいずれも、通常のNMR磁石で使われている永久電流モードでの変動幅(10−8)に比べてはるかに大きく、これによりNMRスペクトルは変調され精密な測定が不可能になる。
【0033】
そこで、本実施形態では以下に示す外部ロック機構によって、外部電源通電時の磁場をNMR計測に必要なレベルまで安定化させる。なお、外部電源2として、図3(B)に示すような変動幅1ppm程度の高安定化電源を用いることが好ましいが、図3(A)のような15ppm程度の変動のある電源を用いても構わない。
【0034】
NMR磁石1が生成する磁場を測定可能なように、測定試料4とは別に磁場測定用のロック核試料(ロック用試料)7から生じるNMR信号を、磁場測定用コイル8で検出する構成とする。本実施形態では、ロック核試料7として塩化リチウム溶液などの7Li核を含む溶液サンプルを採用する。ロック核試料7は、2H,1H,F等の核を含む溶液サンプルであっても良い。なお、測定用のNMR信号との干渉を避けるために、測定試料4との共鳴周波数の差が大きい核種を用いることが好ましい。
【0035】
ロック核試料7の場所は磁石中心から離れており磁場の均一度が十分ではないので、その影響でNMR信号がブロードになりやすい。これを防ぐためと、設置空間の制約(プロ
ーブは直径40mm程度であり内部は狭い)から、ロック核試料7、磁場測定用コイル8
はできるだけ小さいのが望ましい。逆に余り小さいと、感度が悪くなる。本発明では、ロック核試料7は直径1mm程度のPTFE系のチューブ又はガラスチューブに納め、その周囲に磁場測定用コイル8を巻く。磁場測定用コイル8は、ロック核試料7に励起用の高周波パルスをかけるためと、ロック核試料7から励起されたNMR信号を受信するための両方の目的で使われる。磁場測定用コイル8は1.5mm径以下でターン数40ターン以下のソレノイドコイルとする。また、ソレノイドコイルの線材は、銅やアルミ又はこれらに銀か金をメッキしたものとする。あるいは、残留磁性をキャンセルするために、銅表面にアルミをコートしたものや、アルミ表面に銅か金をコートしたものであっても良い。線材は表面絶縁しても良いし、絶縁しなくても良い。サンプルを収めるのはチューブが望ましいが、中空の球や回転楕円体でも良い。
【0036】
試料管にソレノイドを巻いただけでは磁場が不均一になってロック核のNMR信号スペクトルがブロードになる場合は、ソレノイド全体をグリス又はオイルで浸漬することが好ましい。この処理によりソレノイドコイルのQ値が大きくでき、NMR信号のスペクトルがよりシャープになる。
【0037】
ロック核試料7を納めた試料管は、NMR測定用試料4の位置(NMR磁石1の磁場中心)から15mm下の位置に設置した。この試料管は、測定用試料4と同じくNMR磁石1および磁場補正コイル9の中心軸上に設置されることが好ましいが、中心軸と異なる位置に設置されても構わない。ロック核試料7を納めた試料管は、NMR測定用試料4の位置から5mm以上30mm以下の位置でも良い。
【0038】
パルス送信器10、パワーアンプ11等から構成されるロック用NMR信号励起回路は、磁場測定用コイル8を介してロック核試料7を励起するための励起パルスを発生させる。この励起パルスにより、ロック核試料7から核種と静磁場に応じたラーモア周波数(共鳴周波数)のNMR信号が生じる。ロック核の核種は既知あるので、NMR信号のラーモア周波数を測定することと、ロック核にかかっている静磁場の強さを測定することは同値である。
【0039】
磁場補正コイル9は、室温シム内に設けられており、磁場測定用コイル8で測定された磁場に基づいて、測定試料4位置での磁場が一定となるように磁場の補正を行う。具体的な補正の量(磁場補正コイル9に印加する電流値)については、この後詳しく説明する。
【0040】
スイッチ12は、高周波パルスの出力と、NMR信号の入力を定期的に切り替える。ロック核試料7から発生したNMR信号は、低雑音アンプ(LNA)13で増幅され、局所
発振器14及びミキサ15で以降の処理がしやすいように低周波にし、バンドパスフィルタ(BPF)16でフィルタ処理を加える。
【0041】
低周波に落とされたNMR信号は周波数カウンタ17に入力され、その周波数が測定される。周波数カウンタ17としては、短いゲート時間で周波数を精度良く計測するために、レシプロカルカウンタを用いる。局所発振器14の周波数と周波数カウンタ17の測定結果とから、元のNMR信号の周波数(共鳴周波数)が得られる。
【0042】
周波数カウンタ17の測定値はPC(パーソナルコンピュータ)18に入力される。PC18はNMR磁石1の磁場変動を安定化するための電流値をフィードバック制御により算出する。このPC18が、補正コイル電流の大きさを制御する演算回路に相当する。もっとも、この演算回路は専用の回路で実現しても良い。以下、PC18を演算部18と称する。
【0043】
補正電流の算出処理では、周波数カウンタ17の測定値に基づいて、測定試料4の位置での磁場が一定となるように補正電流の値を求める。周波数カウンタ17の測定値が一定となるように補正電流を求めるわけではない。つまり、ロック核試料7磁場測定位置での磁場の強さを一定にするのではない。
【0044】
比較例として、磁場測定位置の磁場を一定とするよう補正電流を求めた場合のロックの結果を図4に示す。図4は、測定試料4のNMR信号スペクトルの変動を示している。図に示すように、磁場測定位置(ロック核試料7+磁場測定用コイル8)での磁場を一定とするように補正電流を算出した場合、測定試料4の共鳴周波数、すなわち測定試料4位置での磁場強度が約0.2ppmの変動幅で変動してしまうことが分かる。
【0045】
このように測定試料4位置での変動幅が大きくなるのは、磁場補正コイル9の磁場の不均一性に原因があると考えられる。つまり、外部電源による変動が大きいため、磁場補正コイル9による補正磁場も大きくする必要があり、補正磁場の不均一性の影響が無視できなくなるのである。図5に、磁場補正コイル9の生成する磁場の強度分布を示す。図に示すように、磁場補正コイル9の中心位置(測定試料4の位置)で磁場が最も強く、中心位置から離れるほど小さくなる。
【0046】
以上の比較例での結果から分かるように、演算部18では、補正コイル9の磁場不均一性の影響を考慮して、補正電流を求める必要がある。この演算部18が行う、補正電流値の算出処理を図6、図7を参照して説明する。図6は補正電流値算出処理のフローチャートであり、図7は補正電流値の求め方を説明する図である。なお、以下では共鳴周波数を対象に処理を行っているが、既知のロック核サンプルの共鳴周波数なので、すなわち磁場強度を対象にして処理を行っていることと同じである。
【0047】
まず、あらかじめ補正コイル9の特性を調べておく。ここでは、補正電流1mAあたり、共鳴周波数が何Hz変動するかを、NMR測定位置(以下、中心位置と称す)と外部ロック用磁場測定位置(以下、外部ロック位置と称す)のそれぞれについて調べておく。中心位置での変化量をΔFc[Hz/mA]、外部ロック位置での変化量をΔFb[Hz/mA]とする。これらあらかじめ調べられた変化量は、演算部18に格納される。
【0048】
次に、外部ロック位置での共鳴周波数Fb[Hz]を測定する(S1)。そして、外部ロック位置での共鳴周波数Fbと、現在の補正電流値I[mA]と、補正コイルの特性(ΔFc,ΔFb)に基づいて、中心位置での共鳴周波数Fcを算出する(S2)。すなわち、Fc=Fb+I×(ΔFc−ΔFb)によって、中心位置での共鳴周波数Fcを算出する(図7参照)。
【0049】
そして、このFcをつかってフィードバック制御を行う(S3)。ここで、一定に保ちたい共鳴周波数の目標値をFtarget[Hz]とする。そして、補正電流の変更量dI[mA]をPI制御にしたがって決定する。具体的には、dI=kp×(Ftarget−Fc)/ΔFc によってdIが決定される(ここで、kpは制御パラメータであり
、0<kp<1)。このようにして、新しい補正電流Inewが、Inew=I+dIとして求められる。
【0050】
なお、上記の説明では、磁場補正コイル9の特性として単位電流あたりの磁場変動量(ΔFc、ΔFb)を求めているが、これに限られるものではない。例えば、様々な補正電流値について、磁場補正コイルが作る中心位置と外部ロック位置での磁場強度を求めてもよい。つまり、中心位置での磁場強度の分布Fc(I)と、外部ロック位置での磁場強度の分布Fb(I)を求めておく。そして、ステップS1における中心位置での磁場計算(推定)は、Fc=Fb−Fb(I)+Fc(I)によって行えばよい。
【0051】
演算部18によって求められた補正電流量は、DA変換器19を介して、磁場補正コイル9に流される。
【0052】
このように本実施形態に係る外部ロック機構によって磁場を安定化させたときの、測定試料4位置(中心位置)での磁場の変動を図8に示す。図8は、測定試料4のNMR信号スペクトルの変動を示している。図から分かるように、上記の外部ロック機構を用いることで、中心位置での磁場が精度良く安定化されていることが分かる。磁場の変動幅は、固体NMRに要求される10−8(0.01ppm)以下に抑えられている。
【0053】
図9は、図8に示した測定の間の、中心位置の共鳴周波数を周波数カウンタで計測した測定値、演算回路による中心位置の磁場推定値、及び、補正電流値の時間変化を示した図である。補正電流をかけることで、中心位置の磁場が安定化されていることが分かる。
【0054】
本実施形態に係る外部ロック機構によれば、NMR磁石を外部通電モードで使う場合であっても、外部電源の電流変動に伴う磁場変動を抑制することが可能となる。これにより、外部通電モードの高温超伝導線材をNMR磁石として使用することが可能となり、高磁場化が可能となる。
【0055】
特に、外部ロック用の試料位置での磁場を一定化させるのではなく、外部ロック用試料位置での磁場の測定値に基づいて、中心位置での磁場を推定する演算を加えているので、高精度に中心位置での磁場を安定化することができる。これにより、上記の比較例のように単にロック用試料位置での測定磁場を安定化させるだけでは得られない高度な安定化が可能となる。中心位置(NMR測定位置)での磁場の安定度がNMR測定の精度に寄与するため、これにより精度良くNMR測定を行うことができる。
【0056】
上記の利点は、補正コイルによる磁場が広い空間で均一にする必要がないと捉えることもできる。すなわち、補正コイルが生成する磁場を均一にする必要がない、補正コイルの設計・製造が容易になる。
【0057】
また、従来の検波器を用いる内部ロック機構は、磁場の変動が大きくなると適用が難しくなる場合がある。これは、分散信号の出力と周波数差が比例する範囲は比較的狭いため、永久電流モードのような比較的変動の少ない磁場の場合には有効であるものの、大きな磁場変動には対応できない場合があるからである。つまり、本実施形態における外部ロック機構は、上記で説明した外部通電モードの高温超伝導線材を用いる固体NMR装置のみに適用可能なわけではなく、外部電源を用いるなど磁場変動が大きいNMR装置全般に適
用可能である。例えば、常伝導線材(銅線など)と超伝導線材を組み合わせたハイブリッド磁石に外部通電を行うNMR装置にも適用可能である。また、20T以上の高磁場(低温超伝導線材を利用できない)を扱うNMR装置だけでなく、より低い磁場を扱う外部通電を行うNMR装置にも適用可能である。
【0058】
なお、上記の説明ではNMR装置を例に説明したが、MRI(磁気共鳴画像)装置やESR(電子スピン共鳴)装置も、NMR装置と基本的に同様の構成を有するため、本実施形態の磁場安定化機構を適用可能である。
【0059】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では周波数カウンタを用いて磁場強度(共鳴周波数)を求めているが、本実施形態では異なる方法によって磁場強度を求める。本実施形態では、単一周波数の高周波(NMR励起信号)を用い、その周波数を周期的に上下に(たとえば三角波状に)変化させる。そして、検波器の参照信号又はミキサのLO周波数をそれに連動させる。この方法では、NMR励起信号の周波数がロック核サンプルの共鳴周波数に一致したときのみNMR信号が発生するので、NMR信号が発生したときのNMR励起信号の周波数に基づいて、磁場測定センサ位置における磁場を測定できる。このようにしても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1の実施形態に係る外部ロックシステムを設けたNMR装置の構成の概要を示す図である。
【図2】高温超伝導線材と低温超伝導線材の磁場の強さと臨界電流密度との関係を示す図である。
【図3】安定化電源((a)通常の励磁用電源、(b)高安定化電源)の電流変動を示す図である。
【図4】ロック核位置での磁場の強さを一定とするように補正電流をかけた場合の、測定試料位置での磁場強度(共鳴周波数)の変動を示すための図である。中心位置のNMR信号スペクトルの時間変化を示している。
【図5】磁場補正コイルにより生成される磁場強度の分布を示す図である。
【図6】補正電流算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】補正電流を算出する処理を説明する図である。
【図8】本実施形態による外部ロックによって補正電流をかけた場合の、測定試料位置での磁場強度(共鳴周波数)の変動を示すための図である。中心位置のNMR信号スペクトルの時間変化を示している。
【図9】図8の測定における、中心位置の磁場の測定値、中心位置の磁場の推定値、及び補正電流値の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 NMR磁石
2 外部電源
4 測定試料
5 NMR測定用コイル
6 NMR分光計
7 ロック核試料
8 磁場測定用コイル
9 磁場補正コイル
17 周波数カウンタ
18 PC(演算部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴装置又は電子スピン共鳴装置の磁場生成手段が生成する磁場を安定化するための磁場安定化機構であって、
測定用試料の近傍に配置されるロック用試料と、
前記ロック用試料に高周波を照射し、該ロック用試料からの共鳴信号を受信するロック用共鳴信号受信部と、
前記磁場生成手段による磁場を補正するための磁場補正コイルと、
前記ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号の変動に基づいて、測定用試料の位置における磁場変動を抑制するために印加する前記磁場補正コイルへの電流値を算出する補正量演算部と、
を有する磁場安定化機構。
【請求項2】
前記補正量演算部は、
磁場補正コイルに印加する電流値と、そのとき生成されるロック用試料位置及び測定用試料位置における磁場の強さとの関係(以下、磁場補正コイルの特性という)をあらかじめ取得しておき、
前記ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号から、前記ロック用試料位置における磁場の強さを測定し、
前記測定されたロック用試料位置における磁場の強さと、前記磁場補正コイルの特性と、現在印加中の補正電流値と、から前記測定用試料位置における磁場の強さを算出し、
該測定用試料位置における磁場の強さが一定となるように、前記磁場補正コイルへ印加する電流値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁場安定化機構。
【請求項3】
前記補正量演算部は、周波数カウンタを用いて前記ロック用試料位置における磁場の強さを測定する
ことを特徴とする請求項2に記載の磁場安定化機構。
【請求項4】
前記磁場生成手段は、コイルに外部電源からの電流を印加したものである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁場安定化機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁場安定化機構を備えた磁気共鳴装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁場安定化機構を備えた電子スピン共鳴装置。
【請求項1】
磁気共鳴装置又は電子スピン共鳴装置の磁場生成手段が生成する磁場を安定化するための磁場安定化機構であって、
測定用試料の近傍に配置されるロック用試料と、
前記ロック用試料に高周波を照射し、該ロック用試料からの共鳴信号を受信するロック用共鳴信号受信部と、
前記磁場生成手段による磁場を補正するための磁場補正コイルと、
前記ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号の変動に基づいて、測定用試料の位置における磁場変動を抑制するために印加する前記磁場補正コイルへの電流値を算出する補正量演算部と、
を有する磁場安定化機構。
【請求項2】
前記補正量演算部は、
磁場補正コイルに印加する電流値と、そのとき生成されるロック用試料位置及び測定用試料位置における磁場の強さとの関係(以下、磁場補正コイルの特性という)をあらかじめ取得しておき、
前記ロック用共鳴信号受信部から得られる共鳴信号から、前記ロック用試料位置における磁場の強さを測定し、
前記測定されたロック用試料位置における磁場の強さと、前記磁場補正コイルの特性と、現在印加中の補正電流値と、から前記測定用試料位置における磁場の強さを算出し、
該測定用試料位置における磁場の強さが一定となるように、前記磁場補正コイルへ印加する電流値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁場安定化機構。
【請求項3】
前記補正量演算部は、周波数カウンタを用いて前記ロック用試料位置における磁場の強さを測定する
ことを特徴とする請求項2に記載の磁場安定化機構。
【請求項4】
前記磁場生成手段は、コイルに外部電源からの電流を印加したものである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁場安定化機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁場安定化機構を備えた磁気共鳴装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁場安定化機構を備えた電子スピン共鳴装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−180677(P2009−180677A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21683(P2008−21683)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第46回NMR討論会 主催者名 日本核磁気共鳴学会 共催者名 日本薬学会、日本生物物理学会、日本生化学会、日本農芸化学会、日本分析化学会、高分子学会、日本蛋白質科学会 公開日 平成19年9月11日〜平成19年9月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、タンパク3000委託研究「タンパク質基本構造の網羅的解析プログラム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願; 平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、「超1GHz NMRシステムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第46回NMR討論会 主催者名 日本核磁気共鳴学会 共催者名 日本薬学会、日本生物物理学会、日本生化学会、日本農芸化学会、日本分析化学会、高分子学会、日本蛋白質科学会 公開日 平成19年9月11日〜平成19年9月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、タンパク3000委託研究「タンパク質基本構造の網羅的解析プログラム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願; 平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、「超1GHz NMRシステムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
[ Back to top ]