説明

磁場発生装置

【課題】 簡単な構成でランニングコストを抑制できかつ基体上の磁性粉について所望の配向度を得ることができる、磁場発生装置を提供する。
【解決手段】 磁場発生装置10は、磁気記録媒体14の搬送路16を挟んで配置される一対の永久磁石12a,12bを備え、一対の永久磁石12a,12bの磁化方向は磁気記録媒体14の搬送方向と平行でありかつ一対の永久磁石12a,12bは相互に同極が対向するように配置される。一対の永久磁石12a,12bの側面のうち搬送路16の出口側側面にヨーク22a,22bが設けられる。ヨーク22a,22bはそれぞれ、搬送路16の出口近傍の空間が広くなるように斜面26a,26bを有し、さらに、搬送路16とは反対側の面における後端部に鍔状部30a,30bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は磁場発生装置に関し、より特定的には、磁気記録媒体などの基体上の磁性粉を磁場配向させるための磁場発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基体上の磁性粉を磁場配向させるための装置として、特許文献1に開示されるような永久磁石を用いた装置や、特許文献2に開示されるような電磁石を用いた装置が知られている。
特許文献1の装置では、図4(a)に示すように、一対の永久磁石1aが、基体2aの搬送路を挟んで同極が対向するようにかつ各永久磁石1aの磁化方向が搬送方向と垂直になるように配置される。そして、磁性粉末を含有する磁性塗料塗布後の基体2aに対して一対の永久磁石1aによって水平方向の磁場を印加し、磁性粉末の磁化容易軸を基体2aの長手方向に配向させる。
特許文献2の装置では、磁場を発生するコイル中1bに、磁性塗料が塗布された非磁性支持体(基体)2bを走行させ、この非磁性支持体2bがコイル1b内を通る間に、磁場を印加して磁性塗料に含まれる磁性粉の向きを所望の方向に配列させる。
【特許文献1】特開平6−150314号公報
【特許文献2】特開平6−20273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の装置では、図4(a)に示すように、一対の永久磁石1aからの磁束3aは左右対称になるように発生し、図4(b)に示すように、磁束密度分布は略正弦波状となり、搬送される基体2aに印加される磁場は搬送途中で反転する。したがって、基体2aに塗布された磁性塗料に含まれる磁性粉の配向が乱れ配向度が低下するので、十分に配向させることができず、所望の品質の基体2aを得るのが難しい。
【0004】
特許文献2の装置では、図5(a)に示すように、コイル1bからの磁束3bは非磁性支持体2bに対して搬送方向に発生し、図5(b)に示すように、磁束密度分布は略正規分布となり、搬送される非磁性支持体3bに印加される磁場は搬送途中で反転しない。したがって、磁場の反転による配向度の低下がなく、特許文献1の装置より所望の配向度が得られるが、装置の駆動に要する電力ひいてはランニングコストが増加し、装置が複雑になるという問題がある。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、簡単な構成でランニングコストを抑制できかつ基体上の磁性粉について所望の配向度を得ることができる、磁場発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の磁場発生装置は、基体上の磁性粉を磁場配向させるために用いられる磁場発生装置であって、基体の搬送路を挟んで配置される一対の永久磁石を備え、一対の永久磁石の磁化方向は基体の搬送方向と平行でありかつ一対の永久磁石は相互に同極が対向するように配置されることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の磁場発生装置は、請求項1に記載の磁場発生装置において、一対の永久磁石の側面のうち少なくとも搬送路の出口側側面に設けられるヨークをさらに含むことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の磁場発生装置は、請求項2に記載の磁場発生装置において、搬送路の出口側側面に設けられるヨークは搬送路の出口近傍の空間が広くなるように形成されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の磁場発生装置は、請求項2または3に記載の磁場発生装置において、搬送路の出口側側面に設けられるヨークは、搬送路とは反対側の面における後端部に鍔状部を有することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の磁場発生装置は、請求項2から4のいずれかに記載の磁場発生装置において、ヨークと永久磁石とは少なくとも搬送路近傍で接していることを特徴とする。
【0011】
なお、この明細書では、搬送路の入口側を前側、出口側を後側とする。
【0012】
請求項1に記載の磁場発生装置では、一対の永久磁石の磁化方向を基体の搬送方向と平行にしかつ一対の永久磁石を相互に同極が対向するように配置することによって、磁束密度分布を略矩形状にすることができ、磁束を殆ど一方向にのみ流すことができる。したがって、簡単な構成で、基体に塗布された磁性塗料に含まれる磁性粉の配向が乱れず配向度が磁場の反転によって低下するのを防ぐことができ、所望の配向度を得ることができる。また、電磁石ではなく永久磁石を用いることによってランニングコストを抑制できる。
【0013】
請求項2に記載の磁場発生装置では、搬送路出口側に形成される磁束をヨークに導くことによって、搬送路出口近傍において逆磁場が形成されるのを抑制でき、配向度の低下を抑制できる。
【0014】
請求項3に記載の磁場発生装置では、搬送路の出口近傍の空間が広がるように形成されたヨークによって、搬送路出口側に形成されようとする磁束が吸収される。したがって、搬送路出口近傍の磁束分布を疎にすることができ、搬送路出口近傍に逆磁場が形成されるのをさらに抑制でき、磁場配向処理後の配向崩れを防止できる。
【0015】
請求項4に記載の磁場発生装置では、ヨークよりも後側に形成されようとする磁束が鍔状部を通ることによって、ヨークよりも後側ひいては搬送路出口近傍の磁束分布を疎にすることができ、搬送路の出口近傍に逆磁場が形成されるのをさらに抑制でき、磁場配向処理後の配向崩れを防止できる。
【0016】
請求項5に記載の磁場発生装置では、ヨークと永久磁石とが搬送路近傍で接することによって、搬送路内で逆磁場が発生するのを防止でき、良好に磁場配向できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、簡単な構成でランニングコストを抑制でき、基体上の磁性粉について所望の配向度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
図1および図2を参照して、この発明の一実施形態の磁場発生装置10は一対の永久磁石12a,12bを含む。永久磁石12a,12bとしては、たとえばNd−Fe−B系磁石を用いるのが好ましいが、フェライト磁石やSm−Co系磁石であってもよい。また、永久磁石12a,12bの形状は、通過する磁気記録媒体14に塗布された磁性塗料に磁束を集中できるように略方形状に形成されるのが好ましいが、略円柱状であってもよい。
【0019】
一対の永久磁石12a,12bは、基体としての磁気記録媒体14の搬送路16を挟んで、磁化方向が磁気記録媒体14の搬送方向と平行になるようにかつ相互に同極が対向するように配置され、さらにそれぞれの対向面には凸状部18a,18bが形成されている。この実施形態では、永久磁石12a,12bは、搬送路16の入口側がN極、出口側がS極となるように配置されており、搬送路16における磁束の向きと磁気記録媒体14の搬送方向とが同方向となっている。
【0020】
永久磁石12aの入口側側面および出口側側面には、それぞれヨーク20aおよび22aが設けられている。また、永久磁石12bの入口側側面および出口側側面には、それぞれヨーク20bおよび22bが設けられている。ヨーク20a,20b,22aおよび22bはたとえば透磁率の高い磁性材料からなり、たとえばFe合金などの冷間圧延材や、Ni基合金等が用いられる。
【0021】
ヨーク20aおよび20bのうち搬送路16の入口近傍には、それぞれ斜面24aおよび24bが形成され、ヨーク22aおよび22bのうち搬送路16の出口近傍には、それぞれ斜面26aおよび26bが形成されている。斜面24a,24b,26aおよび26dは搬送方向に対して略45度の角度を有し、搬送路16の入口近傍および出口近傍が広がるように形成されている。
【0022】
また、ヨーク20aおよび20bのうち、搬送路16とは反対側の側面における前端部には、それぞれ鍔状部28aおよび28bが搬送方向に対して垂直方向に延びるように形成されている。ヨーク22aおよび22bのうち、搬送路16とは反対側の側面における後端部には、それぞれ鍔状部30aおよび30bが搬送方向に対して垂直方向に延びるように形成されている。
【0023】
また、凸状部18aは、ヨーク20aおよび22aによって前後両側から挟まれている。凸状部18aとヨーク20aおよび22aとは、搬送路16側の面が隙間なく面一になるように密着している。凸状部18bは、ヨーク20bおよび22bによって前後両側から挟まれている。凸状部18bとヨーク20bおよび22bとは、搬送路16側の面が隙間なく面一になるように密着している。なお、図2に示すスペースGは、空隙であってもヨークによって埋められてもよい。
【0024】
このように構成される磁場発生装置10では、搬送路16内において、磁気記録媒体14上の磁性粉を搬送方向に磁場配向させるための磁束Lが形成される。
【0025】
磁場配向時には、磁性粉を含有する磁性塗料が塗布された磁気記録媒体14を、搬送路16に沿って搬送していき一対の永久磁石12a,12b間を通過させ、磁気記録媒体14に対して搬送方向に平行な磁場を印加し、磁気記録媒体14上の磁性粉を配向させる。
【0026】
磁場発生装置10によれば、一対の永久磁石12a,12bの磁化方向を磁気記録媒体14の搬送方向と平行にしかつ一対の永久磁石12a,12bを相互に同極が対向するように配置することによって、磁束密度分布を略矩形状にすることができ、磁束を殆ど一方向にのみ流すことができる。したがって、簡単な構成で、磁気記録媒体14に塗布された磁性塗料に含まれる磁性粉の配向が乱れず配向度が磁場の反転によって低下するのを防ぐことができ、所望の配向度を得ることができる。また、電磁石ではなく永久磁石12a,12bを用いることによってランニングコストを抑制できる。
【0027】
また、搬送路16の出口側に形成される磁束をヨーク22a,22bに導くことによって、搬送路16の出口近傍において逆磁場が形成されるのを抑制でき、配向度の低下を抑制できる。
【0028】
さらに、搬送路16の出口近傍の空間が広がるようにそれぞれ斜面26a,26bが形成されたヨーク22a,22bによって、搬送路16の出口側に形成されようとする磁束が吸収される(図2に示す磁束M参照)。したがって、搬送路16の出口近傍の磁束分布を疎にすることができ、搬送路16の出口近傍に逆磁場が形成されるのをさらに抑制でき、磁場配向処理後の配向崩れを防止できる。
【0029】
また、ヨーク22a,22bよりも後側に形成されようとする磁束が鍔状部30a,30bを通る(図2に示す磁束N参照)ことによって、ヨーク22a,22bよりも後側ひいては搬送路16の出口近傍の磁束分布を疎にすることができ、搬送路16の出口近傍に逆磁場が形成されるのをさらに抑制でき、磁場配向処理後の配向崩れを防止できる。
【0030】
さらに、永久磁石12aの凸状部18aとヨーク20aおよび22aとが、搬送路16側の面が隙間なく面一になるように密着し、永久磁石12bの凸状部18bとヨーク20bおよび22bとが、搬送路16側の面が隙間なく面一になるように密着している。これによって、隙間に起因して搬送路16内で逆磁場が発生するのを防止でき、良好に磁場配向できる。
【0031】
ついで、磁場発生装置10における磁束密度分布の一例を図3に示す。
ここでは、永久磁石12a,12bとしてNEOMAX−44H、ヨーク20a,20b,22a,22bとしてSS400を用いた。また、磁場発生装置10の主たる寸法を図2に示すように設定した。磁場発生装置10の前後方向の寸法は3450mm、幅方向の寸法は1300mm、各ヨークの上下方向の寸法は1400mm、永久磁石の前後方向の寸法は850mm、上下方向の寸法は900mmとした。一対の永久磁石12a,12bの間隔(搬送路16の高さ寸法)は7mmとした。
【0032】
図3(a)に、中心点Oを通る搬送方向における磁束密度分布を示す。図3(a)の横軸は、搬送方向における中心点Oからの距離を示す。図3(b)に、中心点Oを通りかつ搬送方向に対して垂直な幅方向における磁束密度分布を示す。図3(b)における横軸は、幅方向における中心点Oからの距離を示す。
【0033】
中心点Oを通る搬送方向における磁束密度分布は、図3(a)に示すように、中心点Oにおいて0.85T(テスラ)であり、中心点Oからやや離れた前方および後方において磁束密度は実質上ゼロになり逆磁場は殆ど生じない。また、中心点Oを通る幅方向における磁束密度分布は、図3(b)に示すように、広範囲において0.85Tとなる。
【0034】
このように、磁場発生装置10によれば、磁束は一方向(この実施形態では搬送方向)を向きかつ中心点Oを通る幅方向において広範囲で略均一となり、しかも逆方向の磁束は殆ど生じない。したがって、磁気記録媒体14に塗布された磁性塗料に含まれる磁性粉に対して略均一に磁場配向でき、しかもその後に逆磁場は殆ど加わらないので、磁場配向処理後の配向崩れも防止できる。
【0035】
なお、上述の実施形態では、永久磁石12a,12bの前後両側面にヨークを設けたが、これに限定されず、永久磁石12a,12bの後側面にのみヨークを設けるようにしてもよい。
【0036】
また、この発明は、永久磁石12a,12bを、搬送路16の入口側がS極、出口側がN極となるように配置し、搬送路16における磁束の向きと磁気記録媒体14の搬送方向とが逆になる場合にも適用できる。この場合にも、ヨークは永久磁石12a,12bの側面のうち少なくとも搬送路出口側側面に設けられればよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】(a)はこの発明の一実施形態を示す正面図解図であり、(b)はその側面図解図である。
【図3】(a)は中心点を通る搬送方向における磁束密度分布の一例を示すグラフであり、図3(b)は中心点を通りかつ搬送方向に対して垂直となる幅方向における磁束密度分布の一例を示すグラフである。
【図4】(a)は永久磁石を用いた従来技術において発生する磁束を示す説明図であり、(b)はその磁束密度分布を示すグラフである。
【図5】(a)は電磁石を用いた従来技術において発生する磁束を示す説明図であり、(b)はその磁束密度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
10 磁場発生装置
12a,12b 永久磁石
14 磁気記録媒体
16 搬送路
18a,18b 凸状部
20a,20b,22a,22b ヨーク
24a,24b,26a,26b 斜面
28a,28b,30a,30b 鍔状部
L,M,N 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上の磁性粉を磁場配向させるために用いられる磁場発生装置であって、
前記基体の搬送路を挟んで配置される一対の永久磁石を備え、
前記一対の永久磁石の磁化方向は前記基体の搬送方向と平行でありかつ前記一対の永久磁石は相互に同極が対向するように配置される、磁場発生装置。
【請求項2】
前記一対の永久磁石の側面のうち少なくとも前記搬送路の出口側側面に設けられるヨークをさらに含む、請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項3】
前記搬送路の出口側側面に設けられる前記ヨークは前記搬送路の出口近傍の空間が広くなるように形成される、請求項2に記載の磁場発生装置。
【請求項4】
前記搬送路の出口側側面に設けられる前記ヨークは、前記搬送路とは反対側の面における後端部に鍔状部を有する、請求項2または3に記載の磁場発生装置。
【請求項5】
前記ヨークと前記永久磁石とは少なくとも前記搬送路近傍で接している、請求項2から4のいずれかに記載の磁場発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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