説明

磁性シート及び磁性シートの製造方法

【課題】電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器に生じる電磁障害の抑制が可能で、磁性層を低温―速硬化性にして、高温高湿環境下での磁性層の厚み変化を低減することができる磁性シート及び該磁性シートの製造方法の提供。
【解決手段】本発明の磁性シートは、バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有してなる磁性層を有してなり、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器に生じる電磁障害の抑制が可能な磁性シート及び該磁性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性シートの使用される用途としては、ノイズ抑制用途あるいは、RFID用途が挙げられる。ノイズ抑制用途としては、パソコンや携帯電話に代表される電子機器の小型化、高周波数化の急速な進展に伴い、これらの電子機器において、外部からの電磁波によるノイズ干渉及び電子機器内部で発生するノイズ同士の干渉を抑制するために、種々のノイズ対策が行われており、例えば、ノイズ発信源又は受信源近傍に、磁性シート(ノイズ抑制シート)を設置することが行われている。
【0003】
前記磁性シートは、Fe−Si−Al等の合金(磁性粉)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂と、揮発性溶剤とを含む磁性塗料をPETや剥離処理されたPETなどの絶縁性支持体の表面に塗布し、加熱プレスにより硬化させてシート状に成形した柔軟性を有するものであり、前記磁性粉が、ノイズを抑制する、所謂ノイズ抑制体としての機能を有する。前記磁性シートのノイズ抑制効果は透磁率の虚数部であるμ’’が大きい方が好ましい。
【0004】
一方、RFID用途としては、近年、RFID(Radio Frequency Identification)と称されるICタグ機能を有する携帯情報端末機に代表されるように、電磁誘導方式によるコイルアンテナを用いる無線通信が普及している。例えば、携帯情報端末機では、その小型化により、送受信用のアンテナ素子の近傍には、例えば、金属筐体、金属部品などの種々の導電体(金属)が配置されている。この場合、前記アンテナ素子近傍の金属の存在により、通信に用いることができる磁界が大きく減衰し、電磁誘導方式におけるRFID通信距離が短くなったり、共振周波数がシフトすることにより無線周波数を送受信することが困難になることがある。そこで、このような電磁障害を抑制するため、前記アンテナ素子と前記導電体との間に、磁性シートを配置することが行われている。RFIDとしての機能としては、透磁率の実数部であるμ’が大きく、虚数部であるμ’’の小さい方が好ましい。
【0005】
前記磁性シートにおける磁性層を構成するバインダーには、一般的に熱硬化性有機樹脂を硬化させる硬化剤(架橋剤)を添加することが行われている(例えば、特許文献1)。このように、バインダーに硬化剤を含有させることによって磁性シートを硬化しているが、特に、磁性シートにおける高分子材料が吸湿しやすい場合には、温度や湿度の環境変化によって磁性シートの厚みが変化してしまうという問題がある。ここで、磁性シートの硬化を十分に進行させるために、硬化温度を高く硬化時間を長くすると、冷却時間が長くなるため水を浪費すると共に生産性が劣るという問題が発生する。この問題に対応するために、硬化温度を高くして、硬化時間を短くすると、絶縁性支持体(PET)の耐熱性の点で問題がある。
また、磁性層と絶縁性支持体(PET)とが、粘着剤を介して貼り合わされた構造を有する磁性シートが、数多く提案されているが(例えば、特許文献2〜5)、これらの磁性シートは、いずれも粘着剤又は接着剤を使用しているため、粘着剤又は接着剤の厚みの分だけ磁性層を薄くしなければならない。磁性層が薄くなると、透磁率が小さくなってしまうので、磁性層と絶縁性支持体(PET)とを粘着剤又は接着剤を介さずに密着させて、磁性層をできるだけ厚くすることが好ましい。磁性層と絶縁性支持体(PET)とを粘着剤又は接着剤を介さずに密着させる方法としては、磁性層と絶縁性支持体(PET)とを加熱プレスする方法等がある。しかしながら、加熱プレスにおけるプレス温度が高いと、絶縁性支持体(PET)が収縮して、磁性シートが反ってしまうという問題があった。この磁性シートの反りは、磁性シートが薄い場合に、より顕著となる。
【0006】
【特許文献1】特開2007−95829号公報
【特許文献2】特開2007−165701号公報
【特許文献3】特開2007−123373号公報
【特許文献4】特開2006−301900号公報
【特許文献5】特開2001−329234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器に生じる電磁障害の抑制が可能で、磁性層を低温―速硬化性にして、高温高湿環境下での磁性層の厚み変化を低減することができる磁性シート及び該磁性シートの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、凹凸形成層(絶縁性支持体)の収縮による反りを低減することができる磁性シート及び該磁性シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。即ち、バインダー中に磁性粉、熱硬化性樹脂及び硬化剤を含有してなる磁性層を有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤である磁性シートは、磁性層を低温―速硬化性にして、高温高湿環境下での磁性層の厚み変化を低減することができ、また、凹凸形成層(絶縁性支持体)の収縮による反りを低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、本発明者の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有してなる磁性層を有してなり、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤であることを特徴とする磁性シートである。
該<1>に記載の磁性シート組成物においては、硬化剤が熱カチオン硬化剤であるので、磁性層を低温―速硬化性にして、高温高湿環境下での磁性層の厚み変化を低減することができる。また、磁性層を低温―速硬化性にすることにより、加熱プレスにおけるプレス温度が低温であっても、磁性層を硬化することができ、もって、凹凸形成層(絶縁性支持体)の収縮による反りを低減することができる。
<2> 熱カチオン硬化剤がスルホニウム塩であり、バインダーがエポキシ樹脂を含有してなる前記<1>に記載の磁性シートである。
<3> バインダーがアクリル樹脂を含有してなる前記<2>に記載の磁性シートである。
<4> バインダー106.1質量部に対して、熱カチオン硬化剤を2質量部〜10質量部含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁性シートである。
<5> バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有し、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤である磁性組成物を、成形して磁性層を形成する磁性層形成工程と、前記磁性層の厚み方向における少なくとも一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、を含む磁性シートの製造方法によって製造されることを特徴とする磁性シートである。
<6> バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有し、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤である磁性組成物を、成形した磁性層を形成する磁性層形成工程と、前記磁性層の厚み方向における少なくとも一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、を含むことを特徴とする磁性シートの製造方法である。
該<6>に記載の磁性シートの製造方法では、前記磁性層形成工程において、前記バインダーと、前記磁性粉と、前記硬化剤とを少なくとも含有し、前記バインダーが前記熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が前記熱カチオン硬化剤である前記磁性組成物が、成形されて前記磁性層が形成される。前記形状転写工程において、前記磁性層の厚み方向における少なくとも一方の面に、前記凹凸形成層及び前記転写材が、前記磁性層側からこの順に積層配置された後、加熱プレスされることにより、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されると共に、粘着剤等を使用しなくても、前記凹凸形成層と前記磁性層とが直接接合される。その結果、簡易かつ低コストで効率よく磁性シートが得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決でき、磁性層を低温―速硬化性にして、高温高湿環境下での磁性層の厚み変化を低減することができる。また、凹凸形成層(絶縁性支持体)の収縮による反りを低減することができる磁性シート及び該磁性シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(磁性シート)
本発明の磁性シートは、磁性層を有してなり、更に必要に応じて適宜選択した、その他の層を有してなる。
【0012】
−磁性層−
前記磁性層は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる、電磁障害を抑制する機能を有する。
前記磁性層は、バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを含有してなり、更に必要に応じて、適宜選択した、その他の成分を含有してなる。
【0013】
前記磁性層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、高い透磁率が得られる点で、厚いのが好ましく、25μm〜500μmが好ましい。
前記厚みが、25μm未満であると、透磁率が低くなり、500μmを超えると、狭小部位に適さず、近年における電子機器の小型化の技術動向に沿わなくなるほか、前記厚みの透磁率への影響が小さくなってしまうことがある。なお、前記厚みは、70μm以下になると、透磁率が急激に低くなる傾向がある。
【0014】
−−硬化剤−−
前記硬化剤としては、熱カチオン硬化剤であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記熱カチオン硬化剤としては、例えば、スルホニウム塩(対アニオンがSbF、PF)、ヨードニウム塩が挙げられるが、硬化特性及び入手容易性の観点から、例えば、式(1)で表されるスルホニウム型カチオン硬化剤が好ましい。
【化1】

【0015】
式(1)のスルホニウム型カチオン硬化剤は、一般的なエポキシ樹脂用の熱カチオン重合開始剤として使用することができる。この場合、エポキシ樹脂100質量部と熱カチオン重合開始剤として式(1)のスルホニウム型カチオン硬化剤0.5質量部〜30質量部とを含有するエポキシバインダー(ペースト状、フィルム形状)は、80℃〜180℃に加熱することにより、耐電食性に優れ且つ低温で速硬化した硬化物を与えることができる。
【0016】
前記式(1)のスルホニウム型カチオン硬化剤としては、三新化学工業(株)製のサンエイドSIシリーズのSI−60L、SI−80L、SI−100L等が挙げられる。なお、SI−60L、SI−80L、SI−100Lは、この順で活性が高い。
【0017】
−−バインダー−−
前記バインダーとしては、熱硬化性有機樹脂を含有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する熱硬化性有機樹脂を含有するアクリルゴムが挙げられる。
前記アクリルゴムは、エポキシ基を有しているのが好ましい。この場合、該エポキシ基と硬化剤とが反応することにより、信頼性が向上する。また、前記アクリルゴムは、更に水酸基を有しているのが好ましい。該水酸基を有することにより、接着性を向上させることができる。
前記アクリルゴムの重量平均分子量としては、塗布性に優れる点で、10,000〜450,000が好ましい。
前記重量平均分子量が、10,000未満であると、前記磁性シート組成物の粘度が小さくなり、重量の大きな磁性粉を塗布するのが困難となることがあり、450,000を超えると、前記磁性シート組成物の粘度が大きくなり、塗布し難くなることがある。
また、前記アクリルゴムのガラス転移温度としては、信頼性の点で、−10℃〜+15℃が好ましい。
前記ガラス転移温度が、−10℃未満であると、高温あるいは高温高湿環境下での信頼性が悪くなることがあり、+15℃を超えると、前記磁性シートが硬くなる傾向がある。
【0018】
−−−熱硬化性有機樹脂−−−
前記熱硬化性有機樹脂としては、エポキシ樹脂を挙げることができる。分子量の小さいエポキシ樹脂を添加すると、磁性シートの圧縮時(成形時)に、前記バインダーの溶融粘度が、より一層下がるので、磁気特性を向上させることができ、また、例えば、多官能エポキシ樹脂を用いると、硬化後の磁性シートの信頼性をより向上させることができる。
前記エポキシ樹脂としては、例えば、カチオン硬化系エポキシ樹脂などが好適に挙げられる。前記エポキシ樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
−−磁性粉−−
前記磁性粉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その形状としては、例えば、扁平形状、塊状、繊維状、球状、不定形状などが挙げられる。これらの中でも、前記磁性粉を所定の方向に容易に配向させることができ、高透磁率化を図ることができる点で、扁平形状が好ましい。
前記磁性粉としては、例えば、軟磁性金属、フェライト、純鉄粒子などが挙げられる。
前記軟磁性金属としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金などが挙げられる。
前記フェライトとしては、例えば、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Mnフェライト、Cu−Znフェライト、Cu−Mg−Znフェライト等のソフトフェライト、永久磁石材料であるハードフェライトなどが挙げられる。
前記磁性粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記バインダー、前記磁性粉及び前記硬化剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー106.1質量部に対して、前記磁性粉が、400質量部〜1,000質量部であり、前記バインダー106.1質量部に対して、前記硬化剤としての熱カチオン硬化剤が、2質量部〜10質量部であるのが好ましい。なお、磁性シート中に含まれる磁性粉は60wt%〜95wt%であることが好ましい。
【0021】
前記磁性粉の含有量が、前記バインダー106.1質量部に対して、400質量部未満であると、優れた磁気特性が得られないことがあり、前記バインダー106.1質量部に対して、1,000質量部を超えると、前記磁性粉を前記バインダーで繋ぎとめておくのが困難となり、高温高湿環境下にて、前記磁性シートの厚み変化が大きくなったり、脆くなり、前記磁性シートの端面だけでなく表面からも前記磁性粉が落ちる(粉落ちする)ことがある。
【0022】
前記熱カチオン硬化剤の含有量が前記バインダー106.1質量部に対して2質量部未満であると、硬化反応が十分起こらず、前記バインダー106.1質量部に対して10質量部を超えると、加熱プレス工程前に硬化反応が開始してしまい、透磁率の低下を引き起こす。また、不純物イオン濃度が高くなり、腐食が起こり易くなるので、好ましくない。
【0023】
−−その他の成分−−
前記その他の成分としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、公知の各種添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができ、前記磁性層を形成する際の、磁性組成物(前記バインダーと、前記磁性粉と、前記硬化剤とを含有するもの)の塗布性の向上(粘度の調整)を目的とした場合には、溶剤を添加することができ、該溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルグリコールアセテート等のエステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロフォルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素化合物;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。その他、必要に応じて、分散剤、安定剤、潤滑剤、シラン系やチタネート系カップリング剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤等、各種添加剤を添加してもよい。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、前記バインダー、前記磁性粉及び前記硬化剤の含有量に応じて適宜決定することができる。
【0024】
−その他の層−
前記その他の層としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凹凸形成層等が挙げられる。
【0025】
−−凹凸形成層−−
前記凹凸形成層は、本発明の前記磁性シートの使用時に、例えば、電子機器内にて、前記磁性シートを、これと接触する部材から剥離する機能を有する。
【0026】
前記凹凸形成層としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
前記厚みとしては、2μm〜100μmが好ましい。
前記厚みが、2μm未満であると、作業性が悪くなることがあり、100μmを超えると、加熱プレス時に、熱が前記磁性層に伝わり難く、信頼性が低下することがある。
前記材質としては、合成樹脂が挙げられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好適に挙げられる。
【0027】
前記凹凸形成層は、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、マット処理PET(「ルミラーX44−#25」;東レ(株)製)、マット処理PET(「ルミラー44−#38」;東レ(株)製)、剥離処理されていないPET(「エンブレッド」;ユニチカ(株)製)、ノンシリコーン剥離処理PET(「「フルオロージュRL」;三菱樹脂製)、シリコーン剥離処理PET(「25GS」;リンテック(株)製)などが挙げられる。前記凹凸形成層には文字が印刷されたものを用いてもよい。文字の印刷面は前記磁性層と接する面でもよいし、前記磁性層と接しない面(反対の面)でもよい。
【0028】
−使用−
本発明の前記磁性シートの使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記磁性シートを、所望の大きさに裁断し、これを電子機器のノイズ源に、前記磁性層側が近接するように配設することができる。
【0029】
−用途−
本発明の前記磁性シートは、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID(Radio Frequency Identification)等のICタグ機能を有する電子機器、非接触ICカードなどに好適に使用することができ、特に、RFID機能付携帯電話に好適に使用することができる。
【0030】
本発明の前記磁性シートは、前記凹凸形成層を有していると、高度な絶縁性が求められる場合や、他の電子部品と接触するような設計下(狭小部位)で使用される場合に好適である。なお、前記磁性層における前記磁性粉は、金属であるため、前記樹脂組成物に混合していても、表面抵抗値は、0.01MΩ/□〜1MΩ/□と低く、難燃剤を添加した場合には、更に表面抵抗値が低下する傾向にあるため、難燃性を有する磁性シートは、前記凹凸形成層を有しているのが好ましい。
前記凹凸形成層の存在により、前記磁性層表面からの前記磁性粉の脱落を防止することができる。また、前記磁性層の片面に前記凹凸形成層が接合されているので、前記磁性層における吸湿面積が狭くなり、信頼性が向上する。
また、前記凹凸形成層の表面は、凹凸を有しており、滑り性に優れるため、携帯電話の電池パック部位にも好適に使用可能である。この場合、充電の繰返しによるリチウム電池の発熱に起因する電池パックの膨張が生じても、前記凹凸形成層により、前記電池パックとの癒着が抑制されるため、電池パックの蓋の開閉不良が改善される。
前記凹凸形成層に凹凸転写がなされていない場合には、電池パックの蓋の開閉により表面に擦り傷が形成されるので、外観が悪くなる。前記凹凸転写により、前記凹凸形成層に凹凸が形成されると、凹凸形成層に擦り傷が形成されないという利点がある。
【0031】
本発明の前記磁性シートは、従来の磁性シートと異なり、粘着層を有していなくてもよい。粘着層を有さないと、電子機器内での高温での使用の際に生じる、粘着剤の漏れによる前記電子機器の故障の発生を防止することができる。また、従来の磁性シートに比して、前記粘着層の厚みの分だけ、磁性層の厚みを大きく設けることができるため、比重が大きく、透磁率が高い。
【0032】
本発明の前記磁性シートの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下の本発明の磁性シートの製造方法により好適に製造することができる。
【0033】
(磁性シートの製造方法)
本発明の磁性シートの製造方法は、磁性層形成工程と、形状転写工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0034】
<磁性層形成工程>
前記磁性層形成工程は、バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有し、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤である磁性組成物を、成形して磁性層を形成する工程である。
なお、前記バインダー及び前記磁性粉の詳細については、上述した通りであるが、前記バインダーとしては、後述する加熱プレス前は、未硬化状態であるのが好ましい。ここで、加熱プレス前に硬化が進んでいると、前記磁性層の圧縮が充分に行われず、透磁率を大きくすることができない。また、硬化している磁性層を圧縮すると、歪が残り、室温、高温乃至高温高湿環境下にて、繰返し暴露された際に、厚みが厚くなる方向に変化したり、磁気特性が低下したりする。これに対し、前記加熱プレス前の前記バインダーが未硬化状態であると、これらの不具合の発生が抑制される。
【0035】
前記磁性組成物の調製は、前記バインダーに前記磁性粉、前記硬化剤、前記熱硬化性樹脂を添加し、混合することにより行うことができる。
前記磁性組成物の成形は、例えば、基材上に前記磁性組成物を塗布し、乾燥することにより行うことができる。
前記基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、形成した前記磁性層を容易に剥離可能な点で、剥離処理が施されたポリエステルフィルム(剥離PET)などが好適に挙げられる。
また、前記基材としては、マットPET、剥離処理されていないPET、ノンシリコーン剥離処理PET(磁性層が形成される面が剥離処理されていない)、シリコーン剥離処理PET(磁性層が形成される面が剥離処理されていない)を用いてもよい。
以上の工程により、前記磁性組成物が成形されて前記磁性層が形成される。
【0036】
<形状転写工程>
前記形状転写工程は、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する工程である。
【0037】
−凹凸形成層−
前記凹凸形成層としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、これらの詳細については、上述した通りである。
【0038】
前記凹凸形成層の表面状態としては、特に制限はなく、その厚み方向における一方の面に、表面処理が施されていてもよいし、何ら表面処理が施されていなくてもよいが、マット処理、シリコーン樹脂を用いない剥離処理、などが施されているのが好ましい。これらの場合、何ら表面処理が施されていないものに比して、滑り性が向上する。また、これらの表面処理の場合、前記シリコーン樹脂を用いないので、高温乃至高温高湿環境下にて、シリコーンオリゴマーがブリードアウトすることがなく、電子機器内部での使用に好適である。
前記マット処理としては、前記凹凸形成層の表面を粗面化することができる限り特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、サンドマット処理、ケミカルマット処理、表面エンボス加工処理などが挙げられる。これらの処理により、前記凹凸形成層の表面に凹凸が形成され、滑り性を向上する。
【0039】
−転写材−
前記転写材としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面に凹凸を有しており、通気性が良好であるのが好ましい。この場合、前記転写材の表面の凹凸が、前記凹凸形成層に転写されると、該凹凸形成層の表面に前記凹凸が形成され、滑り性が向上する。
【0040】
前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
前記厚みとしては、25μm〜200μmが好ましい。
前記厚みが、25μm未満であると、滑り性が向上した磁性シートを得ることができないことがあり、200μmを超えると、前記加熱プレス時に、熱が前記磁性層に伝わり難く、信頼性が低下することがある。
前記材質としては、例えば、紙、合成繊維、天然繊維などが挙げられる。
【0041】
前記転写材は、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製)、クッション紙(「TF190」;東洋ファイバー(株)製)、ナイロンメッシュ(「N−NO.110S」;東京スクリーン(株)製)、綿布(「かなきん3号」;日本規格協会製)、粘着材用原紙(「SO原紙18G」;大福製紙(株)製)、両面剥離紙(「100GVW(高平滑面)」;王子製紙(株)製)、両面剥離紙(「100GVW(低平滑面)」;王子製紙(株)製)、などが挙げられる。
【0042】
−積層配置−
前記積層配置の方法としては、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、前記凹凸形成層及び前記転写材を、前記磁性層側からこの順に積層する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記磁性層の厚み方向における他方の面に、剥離層及び前記転写材を、前記磁性層側からこの順に更に積層するのが好ましい。前記剥離層を介することにより、後述する加熱プレスの際に、前記磁性層の他方の面を保護して、前記転写材との密着を防止し、前記加熱プレス後に、前記転写材を、前記剥離層と共に前記磁性層から容易に剥離することができる。また、前記転写材の表面形状が、前記剥離層側に位置する前記磁性層の表面にも転写されるが、このとき、前記磁性層における前記樹脂組成物中に存在する気泡が抜け易く、得られる磁性シートの信頼性が向上する。前記剥離層側の転写材を用いない場合は、磁性シートの透磁率を向上させることができる。
【0043】
前記剥離層としては、前記加熱プレスの際に、前記磁性層の厚み方向における他方の面と、前記転写材との密着を防止する機能を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記加熱プレス後に、前記磁性層から容易に剥離することができる点で、表面に剥離処理が施されたポリエステルフィルム(剥離PET)が好ましい。
【0044】
−加熱プレス−
前記加熱プレスの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図1に示すように、前記磁性層、前記凹凸形成層及び前記転写材を積層体として、これらを両側からラミネーターやプレスで挟みこんで加熱及び加圧することにより行うことができる。
前記加熱プレスにより、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に、前記転写材の表面形状(凹凸形状)が転写されると共に、粘着剤等を使用しなくても、前記凹凸形成層と前記磁性層とが、直接接合される。
【0045】
前記加熱プレスの条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、プレス温度としては、例えば、80℃〜190℃が好ましく、プレス圧力としては、例えば、5MPa〜20MPaが好ましく、プレス時間としては、例えば、1分間〜20分間が好ましい。
【0046】
以上の工程により、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とが接合される。その結果、前記磁性層と前記凹凸形成層とを有してなる磁性シートが得られる。
このようにして得られた磁性シートは、前記凹凸形成層の表面に、前記転写材の表面形状(表面の凹凸)が転写されて、粗面化されているので、滑り性に優れる。
【0047】
本発明の前記磁性シートの製造方法によると、前記加熱プレスにより前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されるので、前記凹凸形成層の表面が粗面化されて、滑り性を向上させることができる。
また、前記加熱プレスにより、前記凹凸形成層と前記磁性層とが直接接合されるので、粘着層が不要であり、簡易かつ低コストで効率よく磁性シートを製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
−磁性シートの作製−
まず、トルエン270質量部及び酢酸エチル120質量部に、前記バインダーとしての、エポキシ基を有するアクリルゴム(「SG80H−3」;ナガセケムテックス(株)製、数平均分子量150,000、重量平均分子量350,000)83質量部、前記バインダーとしてのエポキシ樹脂(「エピコート1031S」;ジャパンエポキシレジン(株)製)23.1質量部、及び硬化剤としてのスルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)6.9質量部を溶解させてバインダーを調製した。これに、前記磁性粉としての扁平磁性粉末(「JEM−S」;三菱マテリアル(株)製)550質量部を添加し、これらを混合して磁性組成物を調製した。
【0050】
次に、得られた磁性組成物を、前記基材(凹凸形成層)としての、剥離処理が表面に施されたポリエステルフィルム(剥離PET)(「38GS」;リンテック製、厚み38μm)上に、バーコーターにより、厚みが100μm〜200μmとなるように塗布した(剥離処理されている面に磁性組成物を塗布した)。
次いで、室温で10分間乾燥させ、さらに60℃で10分間乾燥し、剥離処理されている面に磁性組成物からなる層(磁性層)が形成された剥離PETを250mm×250mmに裁断し、剥離処理されている面に250mm×250mmの磁性層が形成された剥離PETを3枚得た。
次に、得られた磁性組成物を、前記基材(凹凸形成層)としての、剥離処理が表面に施されたポリエステルフィルム(剥離PET)(「38GS」;リンテック製、厚み38μm)上に、バーコーターにより、厚みが100μm〜200μmとなるように塗布した(剥離処理されていない面に磁性組成物を塗布した)。
次いで、室温で10分間乾燥させ、さらに60℃で10分間乾燥し、剥離処理されていない面に磁性組成物からなる層(磁性層)が形成された剥離PETを250mm×250mmに裁断し、剥離処理されていない面に250mm×250mmの磁性層が形成された剥離PETを1枚得た。
次に、剥離処理されている面に250mm×250mmの磁性層が形成された剥離PET2枚について、剥離PETを磁性層から剥離して、250mm×250mmの磁性層を2枚得た。次に、剥離処理されている面に250mm×250mmの磁性層が形成された剥離PETの磁性層側に、250mm×250mmに裁断された磁性層を2枚重ねて、更に、剥離処理されていない面に250mm×250mmの磁性層が形成された剥離PETを1枚重ね(磁性層と磁性層が向き合うように)、両面を剥離PETで挟持され、且つ磁性層が4枚積層された剥離PETを得た。
次いで、4枚積層された磁性層を挟持するように配置された剥離PETの両面に、それぞれ前記緩衝材として、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製、厚み100μm、ベック平滑度6.2秒/mL)を積層した。そして、真空プレス(北川精機(株)製)を用いて、プレス保持温度170℃、プレス保持時間(プレス保持温度で保持した時間)5分間、プレス時間(90℃からプレス保持温度まで到達した後90℃まで下がってくるまでの時間)38分間、プレス圧力9MPaの条件で、前記緩衝材を介してプレス板により加熱プレスし、剥離PET(剥離処理されている面に磁性層が形成される剥離PET)1枚を4枚積層された磁性層から剥離して、磁性シートを得た。
【0051】
(実施例2〜7)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)の配合量、前記プレス保持温度及び前記プレス時間の少なくともいずれかを、表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0052】
(実施例8)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−100L;三新化学工業(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0053】
(実施例9及び10)
−磁性シートの作製−
実施例8において、前記スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−100L;三新化学工業(株)製)の配合量、前記プレス保持温度及び前記プレス時間の少なくともいずれかを、表2に示すように変えた以外は、実施例8と同様にして、磁性シートを作製した。
【0054】
(実施例11)
−磁性シートの作製−
実施例2において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−80L;三新化学工業(株)製)に代えた以外は、実施例2と同様にして、磁性シートを作製した。
【0055】
(実施例12)
−磁性シートの作製−
実施例2において、前記磁性粉としての扁平磁性粉末(「JEM−S」;三菱マテリアル(株))を、扁平磁性粉末(「SP−1」;メイト(株)製)に代えた以外は、実施例2と同様にして、磁性シートを作製した。
【0056】
(実施例13)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記磁性粉としての扁平磁性粉末(「JEM−S」;三菱マテリアル(株)製)を、扁平磁性粉末(「SP−1」;メイト(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0057】
(実施例14)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業製)の配合量を、表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0058】
(比較例1)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、イミダゾール系硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0059】
(比較例2)
−磁性シートの作製−
実施例2において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、イミダゾール系硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)に代えた以外は、実施例2と同様にして、磁性シートを作製した。
【0060】
(比較例3)
−磁性シートの作製−
実施例3において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、イミダゾール系硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)に代えた以外は、実施例3と同様にして、磁性シートを作製した。
【0061】
(比較例4)
−磁性シートの作製−
実施例4において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、イミダゾール系硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)に代えた以外は、実施例4と同様にして、磁性シートを作製した。
【0062】
(比較例5)
−磁性シートの作製−
実施例5において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、イミダゾール系硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)に代えた以外は、実施例5と同様にして、磁性シートを作製した。
【0063】
(比較例6)
−磁性シートの作製−
実施例6において、前記硬化剤としての、スルホニウム系カチオン硬化剤(サンエイドSI−60L;三新化学工業(株)製)を、イミダゾール系硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)に代えた以外は、実施例6と同様にして、磁性シートを作製した。
【0064】
(比較例7)
−磁性シートの作製−
比較例1において、前記プレス保持時間及び前記プレス時間を、表5に示すように変えた以外は、比較例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0065】
(実施例15)
−磁性シートの作製−
実施例2において、磁性組成物からなる層を4枚積層させたものを用いる代わりに、バーコーターで1層塗布した磁性組成物からなるものをそのまま用いた以外は、実施例2と同様にして、磁性シートを作製した。
【0066】
(比較例8)
−磁性シートの作製−
比較例7において、磁性組成物からなる層を4枚積層させたものを用いる代わりに、バーコーターで1層塗布した磁性組成物からなるものをそのまま用いた以外は、比較例7と同様にして、磁性シートを作製した。
【0067】
(実施例16)
−磁性シートの作製−
実施例1と同様な配合比率で磁性組成物を調製した。
【0068】
次に、前記基材としての、剥離処理が表面に施されたポリエステルフィルム(剥離PET)(「38GS」;リンテック製、厚み38μm)上に、磁性組成物をバーコーターで塗布し、乾燥後、磁性組成物からなる層(磁性層)を形成させた。次いで、磁性組成物からなる層(磁性層)から剥離PETを剥離した後、磁性層を250mm×250mmに裁断し、磁性組成物からなる層の両面に、前記ポリエステルフィルム(剥離処理されている面と磁性層が接する)と上質紙で挟んで、170℃9MPaで10分間熱プレスして硬化させ磁性シートを得た。前記ポリエステルフィルムを剥がし、この磁性シートに粘着層(No.5601;日東電工(株)製)、前記ポリエステルフィルム(剥離処理されていない面を粘着層に付け)を貼り付け、3層構造の磁性シートを得た。
【0069】
〔透磁率〕
まず、外径7.05mm、内径2.945mmに抜き加工したリング状サンプル(磁性層サンプル)を作製し、これに導線を5ターン巻き、端子に半田付けした。ここで、前記端子の根元から前記リング状サンプル(磁性層サンプル)の下までの長さを20mmとした。そして、インピーダンスアナライザー(「4294A」;アジレントテクノロジー社製)を用いて、1MHzにおけるインダクタンスと抵抗値とを測定し、透磁率(磁性層の透磁率)に換算した。
なお、μ’は、複素透磁率の実数部を表す。
μ’の特性は、磁性シートの使用目的によって異なり、例えば、RFIDデバイスの通信改善の場合には、20MHz以下の周波数で、高μ’かつ低μ’’(複素透磁率の虚数部)であるのが好ましい。
なお、本発明の磁性シートは、KHz〜GHz帯において使用可能な磁性シートである。
【0070】
〔信頼性試験〕
−厚み変化−
まず、磁性シートにおける磁性層の厚み(PETを含まない厚み)を測定した。次いで、磁性シートをオーブンに入れ、85℃/60%の条件で96時間加熱し、オーブンから取り出した後の磁性シートにおける磁性層の厚み(PETを含まない厚み)を測定し、加熱前後の磁性シートにおける磁性層の厚み(PETを含まない厚み)変化率を測定した。
【0071】
〔反り評価〕
得られた磁性シート(250mm×250mm)のエッジ部分を切断し、240mm×240mmの磁性シートを用意した。この240mm×240mmの磁性シート(磁性層+PET)を水平なテーブルに置き、磁性シート(磁性層+PET)4辺の反りの最大値を測定した。なお、反りの大きさは「ものさし(メジャー)」で測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
表1〜表5の結果より、スルホニウム系カチオン硬化剤を用いた実施例1〜14の磁性シートは、硬化剤としてイミダゾール系硬化剤を用いた比較例1〜7よりも、高温高湿環境下での寸法安定性が良好であった。このことは、磁性シートの作製条件において、硬化剤の種類のみが異なる実施例及び比較例の組合せ(実施例1及び比較例1、実施例2及び比較例2、実施例3及び比較例3、実施例4及び比較例4、実施例5及び比較例5、実施例6及び比較例6、実施例8及び比較例1、実施例9及び比較例2、実施例11及び比較例2)について注目したところ、実施例の信頼性試験における厚み変化率が比較例の厚み変化率よりも小さくなっていることから判る。なお、実施例14では、信頼性試験前後の厚み変化が4.81%と比較的高い値を示しているが、比較例6(実施例14と加熱プレス条件が同じであり、硬化剤の添加量が実施例14よりも多い)の信頼性試験前後の厚み変化(19.41%)と比較するとかなり小さくなっている。
また、表1〜表5の結果より、スルホニウム系カチオン硬化剤を用いると、加熱温度を低く(130℃〜150℃)かつ加熱温度を短くしても、厚み変化率を低くする(磁性層を硬化する)ことができ、もって、反り量を小さくできることが判る。一方、イミダゾール系硬化剤を用いた場合は、硬化温度を170℃にしなければならず、磁性シートの反りが大きくなってしまうことが判る。このことは、実施例2の製造条件で作製した磁性シート(実施例15)の反りの大きさ(18mm)が、実施例2と厚み変化率が同等である比較例7の製造条件で作製した磁性シート(比較例8)の反りの大きさ(24mm)よりも小さいことから判る。
実施例15の磁性シートと実施例16の磁性シートとを比較すると、実施例15の磁性シートでは、粘着層の厚さ分だけ磁性層を厚くすることができ、もってμ’の値を高くすることができることが判る。また、粘着剤を用いた実施例16では、反りの大きさを小さくできることが判る。
また、実施例1〜14は、実施例15と比較して、磁性シートが厚いので、反りが小さくなっていることが判る。
また、比較例2及び3は、イミダゾール硬化剤を用いて130℃〜150℃で熱プレスしているために、硬化反応が十分に進行していない。よって、反りは小さいが、信頼性試験の評価が良好ではなかった。
また、比較例4〜6は、使用した硬化剤の配合量が少ない為に、硬化不良が起こり、信頼性試験が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の磁性シートは、例えば、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID等のICタグ機能を有する電子機器、非接触ICカードなどに好適に使用することができ、特に、RFID機能付携帯電話に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明の磁性シートの製造方法の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0080】
10 磁性層
20 凹凸形成層
22 剥離層
30 転写材
40 積層体
50 プレス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有してなる磁性層を有してなり、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤であることを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
熱カチオン硬化剤がスルホニウム塩であり、バインダーがエポキシ樹脂を含有してなる請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
バインダーがアクリル樹脂を含有してなる請求項2に記載の磁性シート。
【請求項4】
バインダー106.1質量部に対して、熱カチオン硬化剤を2質量部〜10質量部含有する請求項1から3のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項5】
バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有し、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤である磁性組成物を、成形して磁性層を形成する磁性層形成工程と、
前記磁性層の厚み方向における少なくとも一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、
を含む磁性シートの製造方法によって製造されることを特徴とする磁性シート。
【請求項6】
バインダーと、磁性粉と、硬化剤とを少なくとも含有し、前記バインダーが熱硬化性樹脂を含有してなり、前記硬化剤が熱カチオン硬化剤である磁性組成物を、成形して磁性層を形成する磁性層形成工程と、
前記磁性層の厚み方向における少なくとも一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、
を含むことを特徴とする磁性シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−224749(P2009−224749A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150341(P2008−150341)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】