説明

磁性トナー

【課題】離型性、高温環境下に長期放置した後の現像性に優れると共に、高温高湿環境下での長期使用における現像安定性に優れるトナーを提供することである。
【解決手段】磁性体、結着樹脂、離型剤を少なくとも含有する磁性トナー粒子及び無機微粉体を有する磁性トナーにおいて、
該磁性トナー粒子は懸濁重合法で製造されており、
該磁性体は表面を炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基を有するシラン化合物で処理されており、
該結着樹脂は炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基を有する有機過酸化物を用いて重合した樹脂を主成分として含有し、
該有機過酸化物はパーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイドから選ばれるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法などを利用した記録方法に用いられる磁性トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法としては多数の方法が知られているが、一般には光導電性物質を利用し、種々の手段により静電荷像担持体(以下、「感光体」ともいう)上に静電潜像を形成する。次いで前記潜像をトナーにより現像を行って可視像とし、必要に応じて紙などの記録媒体にトナー像を転写した後、熱或いは圧力等により記録媒体上にトナー画像を定着して複写物を得るものである。
【0003】
このような画像形成装置としては、複写機やプリンター等がある。これら画像形成装置は潜像の再現性に優れ高解像度であると同時に、更なる高速化及び高安定化が強く求められている。そのために種々の画像形成方法が提案されてきたが、その中の1つとして磁性トナーを用い、中心に磁極を配した回転スリーブを用い感光体上とスリーブ上の間を電界にて飛翔させる、いわゆるジャンピング法が知られている。ジャンピング法は高い安定性を有する現像方式であり、上記ニーズに応えるためには有効な手法である。
【0004】
しかし、こうした磁性トナーを用いたジャンピング法において装置の高速化を進めると、画像濃度や画質が不安定になりやすい。これは、装置のプロセススピードが高まることによって機内が昇温しやすくなることと、定着器の熱付与能が不足することが要因として挙げられる。このため、磁性トナーは高温環境下で長期間安定した現像性能を有すると共に、定着器の熱付与能が低下した際にも定着ローラやフィルムといった定着部材との優れた離型性を発揮することが求められている。
【0005】
また、磁性トナーの保存性に関しても高い性能が求められている。プリンターや複写機の使用環境及び目的の多様化に伴い、カートリッジの保管環境も多様化している。そうした中で、長期使用した後にしばらく出力されずに放置され、再び使用されるケースもある。そのような状況でも、安定した性能を発揮することが求められている。
【0006】
こうした課題に対して、昇温を想定した環境下での帯電性や、長期使用における現像性を向上させるために磁性トナーの材料及びその分散状態を制御する検討がなされてきた。その中で、磁性トナーの樹脂成分を重合して生成する際に用いる重合開始剤の構造に着目することで、磁性トナーの帯電量の環境差を小さくする技術が開示されている(特許文献1参照)。また、重合開始剤を2種併用することで分子量分布を制御し、磁性トナーの耐久性能を向上させる技術も開示されている(特許文献2参照)。しかし、これら技術でも長期使用後、放置された後の性能に関しては、まだ改善の余地を残している。
【0007】
また、上述した課題に対して、磁性体表面の疎水化処理の手法や材料に注目した検討もなされている。
【0008】
疎水化処理方法として水中で行う湿式処理と気相中での乾式処理の2つが代表的であるが、前者は磁性体表面を均一に覆いやすく、後者は処理が非常に容易である。その容易さ故に乾式処理は従来から検討されており、種々の処理剤についての技術が開示されている(特許文献3参照)。また、フルオロアルキルシラン及び/又はアルコキシシランを気化させて処理し、水蒸気吸着量を制御する技術も開示されている(特許文献4参照)。しかし、このような磁性体を用いても、長期使用後に放置された場合を想定した現像安定性を満足するものは得られていない。
【0009】
また、磁性トナーの円形度及び磁力、磁性体の溶剤に対する分散性を制御することで苛酷環境に放置した後の現像性を改良した技術も開示されている(特許文献5参照)。しかし、長期使用後に放置した場合のカブリ特性に関しては改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−343372号公報
【特許文献2】特開2007−086457号公報
【特許文献3】特開2004−294480号公報
【特許文献4】特開2000−327948号公報
【特許文献5】特開2001−343783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は上記従来技術の問題に鑑みなされたものである。即ち、高温高湿環境下での長期使用における現像安定性に優れると共に、長期使用後に放置した際の現像性に優れるトナーを提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
磁性体、結着樹脂、離型剤を少なくとも含有する磁性トナー粒子及び無機微粉体を有する磁性トナーにおいて、
該磁性トナー粒子は懸濁重合法で製造されており、
該磁性体は表面を式(1)で表される構造を持つ化合物を主成分とするシラン化合物で処理されており、
該結着樹脂は炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基を有する有機過酸化物を重合開始剤として用いて重合した樹脂を主成分として含有し、
該有機過酸化物はパーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイドから選ばれるものであることを特徴とする磁性トナーに関する。
式(1)R2O−[−SiR1(OR2)−O−]m−R2,1≦m≦10
1:炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基。
2:H又はCn2n+1[1≦n≦4]で表される官能基。
【発明の効果】
【0013】
高温高湿環境下での長期使用における現像安定性に優れる共に、長期使用後に放置した際の現像性に優れるトナーを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のトナーを好適に用いることができる画像形成装置の一例を示す模式的断面図である。
【図2】シラン化合物の模式的な1H−NMRチャート。
【図3】シラン化合物の模式的なGPCチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特徴は、磁性体、結着樹脂、離型剤を少なくとも含有する磁性トナー粒子及び無機微粉体を有する磁性トナーにおいて、
該磁性トナー粒子は懸濁重合法で製造されており、
該磁性体は表面を式(1)で表される構造を持つ化合物を主成分とするシラン化合物で処理されており、
該結着樹脂は炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基を有する有機過酸化物を重合開始剤として用いて重合した樹脂を主成分として含有し、
該有機過酸化物はパーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイドから選ばれるものであることにある。
式(1)R2O−[−SiR1(OR2)−O−]m−R2,1≦m≦10
1:炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基。
2:H又はCn2n+1[1≦n≦4]で表される官能基。
【0016】
本発明者らの鋭意検討によると、磁性体の表面処理剤と結着樹脂の重合に用いる開始剤の構造及び種類の組み合わせが上述した構成であると上記課題は解決し得ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0017】
以下に、本発明で得られる作用効果について詳細に説明する。
【0018】
本発明者らは、上記構成によって耐久現像性が高まった理由として、樹脂と磁性体の密着性が高まったためであると考えている。密着性の指標として、本発明者らはトナー粒子の水分吸着量を用いた。本発明のように磁性体を含有するトナーの場合、磁性体起因の水分吸着が起こるため、トナーの水分吸着量により磁性体の樹脂に対する取り込まれ具合を推測することができる。上記の磁性体と重合開始剤の組み合わせで水分吸着量は低減し、磁性体と結着樹脂の密着性が高まっており、それにより耐久現像性が高まったと考えている。
【0019】
また、密着性が高まった理由としては下記のように考察している。まず、懸濁重合は後述するようにスチレンやブチルアクリレートの様な重合性単量体に対して磁性体やその他材料を分散させた後に、重合開始剤を投入して単量体を重合して結着樹脂とし、トナー粒子を得る手法である。磁性体表面と重合開始剤に炭素数3又は4の炭化水素基を組み込むことにより、互いの親和性が高まり、懸濁重合時に互いが馴染むことで重合反応の開始点が磁性体近傍になることで磁性体が樹脂に強固に取り込まれたためと推測している。
【0020】
ここで、本発明者らの検討によると、密着性は炭化水素基が分岐構造を取っていると顕著に高まる傾向であった。これは、分岐することで磁性体表面と開始剤の構造上の嵩が小さくなり、磁性体と開始剤がより近付けるようになったことで樹脂への密着性が高まったと考えている。
【0021】
本発明者らは、上記構成によって長期使用後に放置された際の現像特性が高まった理由は、トナー粒子中の磁性体分散性が高まったためと推測している。上記磁性体と開始剤は炭素数3又は4の炭化水素基を互いに持つことによって、親和性が高く、懸濁重合時に馴染むと予想される。したがって、反応の開始が磁性体表面近傍で起こると考えられる。通常の懸濁重合であると、重合性単量体により形成された液滴中で重合反応がランダムに進行するため、液滴中の粘度が不均一になり磁性体の2次凝集や偏析が発生しやすい。
【0022】
しかし、本発明の系であれば磁性体を中心として樹脂が形成されるために磁性体同士の凝集や偏析が起きにくく、トナー中で微分散した状態を維持すると考えられる。そのため、長期使用後に放置されたような帯電性、流動性の観点からカブリに厳しい環境でも良好なカブリ特性を示すと推測している。
【0023】
本発明の磁性トナーに含有される磁性体は、炭素数3又は4の分岐構造を持つ炭化水素基を有するシラン化合物で処理されているものである。密着性の観点からは、磁性体、重合開始剤共に炭素数は少ない方が有利であると考えられる。しかし、磁性体を懸濁重合に適用する場合、重合性単量体で形成された液滴内に磁性体を留めておくために表面を十分疎水性にする必要がある。疎水性が不十分だと液滴外の水中に移行してしまう。上述したシラン化合物が有する炭化水素基の炭素数が2以下であると著しく疎水性が低下することで重合性単量体に対して分散し難くなり、磁性体の分散が不均一になりやすい。一方、炭素数5以上であったり分岐を有さない直鎖構造である場合は、磁性体と樹脂の密着性が低下するため耐久現像性が大きく低下してしまう。
【0024】
本発明の磁性トナーは炭素数3又は4の分岐構造を持つ炭化水素基を有するパーオキシジカーボネート又はジアシルパーオキサイドを重合開始剤として用いて製造されたものである。パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイドは炭化水素基が両末端に存在する構造を取っているため、生成したラジカル種は全て磁性体と親和性が高く、磁性体と結着樹脂との密着性を高める。パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド以外を使用した場合、活性末端が複数種発生することで親和性が低下したり、重合開始剤の反応性不足により結着樹脂組成そのものが不均一になってしまうことで密着性が低下しやすい。そのため、耐久現像性の観点で性能が顕著に悪化する。また、炭素数2以下であると、磁性体表面の炭素数も2以下にして親和性を高める必要が生じ、その結果、磁性体の疎水性が不足することで磁性体分散性が大きく乱れる。また、重合開始剤が有する炭化水素ののみ炭素数2以下として磁性体は疎水性が十分となる炭素数にした場合は、互いの親和性が低いために密着性が低下し、耐久現像性が低下する。一方、炭素数5以上であると、重合開始剤が構造的に嵩高くなるために密着性が低下し、耐久現像性が低下する。
【0025】
本発明の磁性トナーに用いる磁性体表面を処理したシラン化合物と、使用する重合開始剤が有する炭化水素基は共に炭素数3又は4で分岐構造を有するものである。これは、磁性体と重合開始剤の親和性を高めるためであり、一方が異なる構造を取ると親和性は発揮されず、本発明の効果は得られない。炭化水素基は一致していると、親和性が最も高まることで懸濁重合時に起こる磁性体の凝集や偏析を抑制出来、長期使用後に放置した際の現像性が大きく向上するため、好ましい。
【0026】
本発明の磁性トナー粒子における磁性体と結着樹脂の密着性に関して、上述したように磁性トナー粒子の水分吸着量が指標となる。水分吸着量が少なければ磁性体が結着樹脂内に強固に取り込まれた、密着性が高い状態を示す。具体的には、磁性トナー粒子の単位表面積あたりの水分吸着量が1.40以下であると耐久現像性に優れるため、好ましい。
【0027】
以下に本発明の磁性トナーで用いることが出来る材料について述べる。
【0028】
本発明の磁性トナーが含有する結着樹脂は、炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基を有する有機過酸化物を用いて重合した樹脂を主成分として含有するものである。ここで言う主成分とは、結着樹脂中の80%以上を占める成分を指している。
【0029】
本発明の磁性トナーに用いられる結着樹脂としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール等を用いることができ、これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。この中でも特にスチレンとアクリル系モノマーとの共重合体からなるスチレン−アクリル樹脂が現像特性の点で好ましい。
【0030】
本発明において、磁性トナー中の結着樹脂の物性は得られる効果に大きな影響を及ぼす。下記に結着樹脂の物性について好ましい範囲を述べる。
【0031】
本発明者らの検討結果によると、本発明の磁性トナーのテトラヒドロフランで抽出される成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたピーク分子量が8000以上18000以下であることが好ましい。この範囲であると懸濁重合により得られるトナー粒子に含有される結着樹脂の分岐が比較的小さいため、磁性体と結着樹脂との密着性を高く維持することが出来る。そのため、耐久現像性に優れる傾向が見られる。
【0032】
また、本発明の磁性トナーでは、結着樹脂中の高分子量成分、特に溶剤に不溶な領域まで高分子量化又は架橋した成分(以下、ゲル分)が適正量含有されると、磁性トナーの強度が上がることで耐久現像性が高まる傾向が見られる。具体的には、磁性トナーのテトラヒドロフランを用いてソックスレー抽出した際の結着樹脂の成分に由来する不溶分が15.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。15.0質量%以上であると、高温環境下における長期保管後の現像性能が向上する傾向が見られる。また、ゲル分は多すぎると磁性体の偏析を促し、分散状態を乱すが50.0質量%以下であれば弊害なく効果を発揮し、長期使用後に放置した際の現像性能を向上する傾向が見られる。
【0033】
一方、極端に低分子量化された成分は、その部分が機械的な衝撃に弱く脆くなるため、極力減少させることが好ましかった。好ましい範囲は、結着樹脂のテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布のチャートにおいて、分子量1000000以下における分子量500以下の割合が2.50%以下であった。この範囲であると、樹脂が部分的に脆いことで起こる磁性体の剥離等が抑制され、耐久現像性に優れる傾向であった。
【0034】
本発明において、磁性体の組成、製法、物性は磁性トナーの性能に大きな影響を及ぼす。下記に本発明で用いることの出来る磁性体について好ましい範囲を述べる。
【0035】
本発明の磁性トナーは磁性体を含有するものである。磁性体は未処理の磁性体(以下、未処理磁性体と表記)を表面処理して成るものであり、下記に本発明で用いることの出来る磁性体について説明する。
【0036】
磁性体は、四三酸化鉄やγ−酸化鉄などの磁性酸化鉄を主成分とするものであり、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、珪素などの元素を含んでもよい。磁性体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、鱗片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形等の異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。
【0037】
未処理磁性体は、例えば下記の方法で製造することができる。第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHを7.0以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄粒子の芯となる種晶をまず生成する。次に、種晶を含むスラリー状の液に前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを5.0以上10.0以下に維持し、空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粒子を成長させる。この時、任意のpH及び反応温度、撹拌条件を選択することにより、磁性体の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは5.0未満にしない方が好ましい。このようにして得られた磁性体を定法によりろ過、洗浄、乾燥することにより未処理磁性体を得ることができる。
【0038】
本発明の磁性体を得るためには、下式(1)で示される化合物を主成分とするシラン化合物で表面処理する必要がある。なお、ここで言う主成分とは全成分中、最も比率の高い成分を指す。
式(1)R2O−[−SiR1(OR2)−O−]m−R2,1≦m≦10
1:炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基。
2:H又はCn2n+1[1≦n≦4]で表される官能基。
【0039】
1は上記式に示されるように、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0040】
2は水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられるが、水素、メチル基、エチル基のいずれかであると磁性体との反応性が高く、均一な処理を行うことが出来るため、好ましい。ここで、例えばm=1のとき、R2は3つあるが、それが全て同じ官能基である必要はなく、R2の規定範囲内であれば本発明を実施する上で問題はない。
【0041】
mは1以上10以下の整数であるが、処理の均一性、処理剤の反応性の観点から好ましくは5以下である。
【0042】
また、n≧1の時、上記シラン化合物が加水分解工程を経て磁性体表面と縮合反応するが、nが大きくなるとシラン化合物の加水分解速度が低下する傾向である。そのため、反応性も低下傾向であるため、nは好ましくは2以下である。すなわち、R2として好ましい構造は水素、メチル基、エチル基である。
【0043】
本発明で言う磁性体の表面処理とは、磁性体表面と処理剤を反応させ、化学的結合を持たせることで磁性体表面に疎水性等の特性を付与する目的で行う処理を指す。したがって、処理剤を磁性体に噴霧したり、混合したりするだけの処理とは異なるものである。
【0044】
磁性体を表面処理する方法としては乾式と湿式の2種類がある。乾式にて表面処理をする場合、洗浄・ろ過・乾燥した磁性体にシラン化合物を投入し、気相中にて表面処理を行う。湿式にて表面処理を行う場合、酸化反応終了後、乾燥させたものを再分散させる、又は酸化反応終了後、洗浄、濾過して得られた酸化鉄体を乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させ、表面処理を行う。本発明の磁性体を得る手法としては乾式処理法を用いることが好ましい。このことについては、以下のように考えている。乾式法では、反応系内に水が少量しか存在しないため、シラン化合物に含まれる親水基と水とで水素結合を形成しにくい。水素結合を形成していると、磁性体表面とシラン化合物との反応が妨げられるため、磁性体表面に未処理部分や反応が不十分な部分を生じやすい。また、処理剤の親水基が水と水素結合を形成して水をトラップしたまま磁性体表面に吸着及び反応すると、親水基が未反応のまま磁性体表面に残る。親水基は水を吸いやすいため、磁性体の水分吸着量は高まってしまう。乾式処理法はこうした水素結合に由来する不具合を防止できるため、本発明の磁性体に求められる性能を満足しやすく、好ましい手法である。
【0045】
乾式法にて磁性体を表面処理する場合、上述したようにアルコキシシランの加水分解物を用いると処理の均一性が大きく向上するため好ましい。
【0046】
アルコキシシランの加水分解は、例えば下記方法で行うことができる。
【0047】
pHを4以上6以下に調整した水溶液にアルコキシシランを徐々に投入し、例えばディスパー翼などを用いて撹拌して均一に分散させ、所望の加水分解率となるように分散時間を調整し、加水分解を行う。高せん断を付与できる分散装置を用いた場合、アルコキシシランがエマルジョンを形成するためにアルコキシシランと水の接触面積が飛躍的に増加し、安定的に加水分解を行うことができる。また、この時に加水分解時のpHを調整することも重要である。pHが高すぎる若しくは低すぎる場合、シラン化合物同士の縮合反応が進行してしまったり、加水分解がほとんど進行しなくなったりしてしまう。このようにしてアルコキシシランを加水分解した水溶液を得る。
【0048】
次に、乾式処理の具体的な方法について例示する。乾式処理法には処理剤を揮発させて処理する方法、スプレードライヤーの如き装置を用いて噴霧する方法、ヘンシェルミキサー等の装置を用いてシェアをかけながら撹拌する手法がある。中でも、ヘンシェルミキサーの如き撹拌装置を用いて処理する手法が簡便且つ本発明が求める磁性体物性に制御しやすく、好ましい。そうした処理方法を用いる場合、未処理の磁性体を分散させながら上記水溶液を滴下した後さらに分散させることで、シラン化合物の加水分解物が表面に吸着した磁性体が得られる。その後加熱によって縮合反応を進行させることで、疎水化処理した磁性体が得られる。
【0049】
上記シラン化合物を用いる場合、単独で処理する、或いは複数の種類を併用して処理することが可能である。複数の種類を併用する場合、それぞれのシラン化合物で個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。
【0050】
アルコキシシランに加水分解処理を施して使用する場合、その加水分解率は80%以上であると磁性体の表面処理がより均一に行えることで重合開始剤との親和性が特に高まり、耐久現像性が高まるため、好ましい。アルコキシシランの加水分解率の求め方、定義については後述する。
【0051】
また、上記シラン化合物中の加水分解されたアルコキシシランのうち、シロキサンとして存在する割合(以下、シロキサン率ともいう。)は35%以下であることが好ましく、更に好ましくは30%以下である。ここでシロキサンとはケイ素−酸素−ケイ素結合を有する化合物を指す。シロキサン率の求め方、定義については後述する。
【0052】
シロキサンは加水分解されたアルコキシシラン同士の縮合反応により生成するため、加水分解されたアルコキシシラン単体よりも嵩高い。そのため、磁性体表面を均一に処理し、処理磁性体の水分吸着量やスチレン溶出量を低減するためにはシロキサン率を低く抑えることが重要であった。シロキサン率を35%以下とすると、磁性体表面が均一に処理され、重合開始剤との親和性も高まることで密着性も高まり、耐久現像性が向上するため好ましい。
【0053】
なお、上記シロキサン率は、アルコキシシランの加水分解条件を適宜調整することにより、上記の範囲内の値を達成することができる。
【0054】
本発明の磁性トナーに用いる磁性体は、表面の極性及び組成を緻密に制御することが重要であり、磁性体はシラン化合物によって十分に被覆されていることが好ましい。被覆状態の指標として、塩酸に対する溶解性が挙げられる。具体的には、2.7(mol/L)の塩酸に分散し、25℃で1時間静置した際の上澄み液の波長338nmでの吸光度が6.00以下であることが好ましい。この塩酸に1時間溶解する条件が、磁性体表面の処理剤被覆状態をモニターするのに適しており、本発明では上述の手法を採用した。25℃で1時間静置した際の上澄み液の波長338nmでの吸光度が6.00以下あると、重合開始剤との親和性が特に高まり、懸濁重合時の磁性体の偏析や凝集が抑えられ、長期使用後に放置した際の現像特性が向上する傾向であり、好ましい。
【0055】
また、磁性体表面は重合開始剤と親和する箇所であるため、極力未反応の処理剤や処理剤の存在しない部位は少なくする必要がある。いずれも磁性体表面にOH基等の極性基が増える傾向である。それらを定性的に知る手法として、磁性体の水分吸着量測定が挙げられる。具体的には磁性体の単位面積あたりの水分吸着量が0.190mg/m2以下であると、磁性体と重合開始剤の親和性と共に密着性が高まり、耐久現像性が高まる傾向であり、好ましい。
【0056】
本発明では、磁性体以外に他の着色剤を併用しても良い。併用し得る着色剤としては、上記した公知の染料及び顔料の他、磁性又は非磁性の無機化合物が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケルなどの強磁性金属粒子、又はこれらにクロム、マンガン、銅、亜鉛、アルミニウム、希土類元素などを加えた合金。ヘマタイトなどの粒子、チタンブラック、ニグロシン染料/顔料、カーボンブラック、フタロシアニン等が挙げられる。これらもまた、表面を処理して用いることが好ましい。
【0057】
本発明のトナーに使用可能な離型剤としては、脂肪族炭化水素系ワックスやエステル系ワックスが挙げられる。本発明においてエステルワックスとは、1分子中にエステル結合を少なくとも1つ有していればよく、天然ワックス、合成ワックスのいずれを用いてもよい。
【0058】
以下に、用いることの出来るワックスを例示する。
・低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス。
・酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合物。
・カルナバワックス、サゾールワックス、モンタン酸エステルワックス等の、脂肪酸エステルを主成分とするワックス類。
・脱酸カルナバワックス等の、脂肪酸エステル類を一部又は全部を脱酸化したもの。
・パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸等の飽和直鎖脂肪酸類。
・ブラシジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸等の不飽和脂肪酸類、ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の飽和アルコール類、ソルビトール等の多価アルコール類。
・リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミド等の脂肪酸アミド類。
・メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド類。
・エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド類。
・m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド等の芳香族系ビスアミド類。
・ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪族金属塩(一般に金属石けんといわれているもの)。
・脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸等のビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類。
・ベヘニン酸モノグリセリド等の、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物、植物性油脂の水素添加等によって得られる、ヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物。
・炭素数12以上の長鎖アルキルアルコール又は長鎖アルキルカルボン酸。
【0059】
また本発明においては、必要に応じてエステルワックスと炭化水素系ワックスを併用することも好ましい形態の一つである。
【0060】
本発明の磁性トナーには、帯電特性向上のために必要に応じて荷電制御剤を配合することが好ましい。荷電制御剤としては、公知のものが利用できるが、帯電スピードが速く、且つ一定の帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が特に好ましい。荷電制御剤のうち、ネガ系荷電制御剤として具体的には、サリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸などの芳香族カルボン酸の金属化合物、アゾ染料又はアゾ顔料の金属塩又は金属錯体、スルホン酸基又はスルホン酸塩基又はスルホン酸エステル基を有する重合体又は共重合体、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーン等が挙げられる。ポジ系荷電制御剤としては、四級アンモニウム塩、該四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物、グアニジン化合物、ニグロシン系化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。
【0061】
荷電制御剤を磁性トナーに含有させる方法としては、磁性トナー粒子内部に添加する方法と、懸濁重合により磁性トナーの製造を行う場合には、造粒前に重合性単量体組成物中に荷電制御剤を添加する方法が一般的である。また、水中で油液滴を形成し重合を行っている最中、又は重合後に荷電制御剤を溶解、懸濁させた重合性単量体を加えることによりシード重合を行い、磁性トナー表面を均一に覆うことも可能である。また、荷電制御剤として有機金属化合物を用いる場合は、磁性トナー粒子にこれら化合物を添加し、シェアをかけ混合・撹拌することにより導入することも可能である。
【0062】
本発明の磁性トナーは高温高湿下での耐久現像性の更なる向上のためにコア−シェル構造を有していることが好ましい。これは、シェル層を有することによりトナーの表面性が均一になり、帯電性が均一になると共に耐ストレス性が高まるためである。このため、シェル層には非晶質の高分子量体を用いることが好ましい。
【0063】
以下に本発明の磁性トナーの製法について述べる。
【0064】
本発明の磁性トナーは懸濁重合法にて製造されたものである。
【0065】
懸濁重合法とは、重合性単量体及び着色剤(更に必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤)を均一に溶解又は分散させて重合性単量体組成物を得るトナー粒子の製造方法である。その後、この重合性単量体組成物を分散安定剤を含有する連続層(例えば水相)中に適当な撹拌器を用いて分散し同時に重合反応を行なわせ、所望の粒径を有する磁性トナー粒子を得るものである。この懸濁重合法で得られる磁性トナー粒子は、個々の磁性トナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、帯電量の分布も比較的均一となるために耐久現像性の向上が期待できる。
【0066】
本発明に関わる磁性トナー粒子の製造において、重合性単量体組成物を構成する重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
【0067】
重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、その他のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等の単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で、又は混合して使用し得る。上述の単量体の中でも、スチレン又はスチレン誘導体を単独で、或いは他の単量体と混合して使用することが磁性トナーの現像特性及び耐久性の点から好ましい。
【0068】
本発明の磁性トナーに含有される結着樹脂は、炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基(sec−ブチル基など)を有する、パーオキシジカーボネート又はジアシルパーオキサイドを用いて重合されたものである。
【0069】
具体的な重合開始剤例としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec−ブチルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド等が挙げられる。
【0070】
中でもジsec−ブチルパーオキシジカーボネートを用いると、磁性体表面との親和性が最も高まることで懸濁重合時の磁性体分散状態が安定化され、長期使用後に放置した際の現像特性が高まる傾向があるため、好ましい。
【0071】
重合開始剤の添加量は重合性単量体100質量部に対して0.5質量部以上20.0質量部以下である事が好ましい。
【0072】
本発明の磁性トナー粒子の製造においては必要に応じて架橋剤を添加することが出来る。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.01質量部以上10.00質量部以下である。
【0073】
ここで架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のような芳香族ジビニル化合物、例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート等のような二重結合を2個有するカルボン酸エステル、ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物、及び3個以上のビニル基を有する化合物、が単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
【0074】
本発明の磁性トナー粒子を製造する場合、上述のトナー組成物等を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、超音波分散機等の分散機に依って均一に溶解又は分散させた重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁する。この時、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望のトナー粒子のサイズとするほうが、得られるトナー粒子の粒径がシャープになる。重合開始剤添加の時期としては、重合性単量体中に他の添加剤を添加する時同時に加えても良いし、水系媒体中に懸濁する直前に混合しても良い。また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体又は重合開始剤を加えることもできる。
【0075】
造粒後は、通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行なえば良い。
【0076】
本発明の磁性トナー粒子を製造する場合には、分散安定剤として公知の界面活性剤や有機分散剤・無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤は、有害な超微粉を生じ難く、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れ難く、洗浄も容易でトナーに悪影響を与え難いため、好ましく使用できる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸三カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛、ヒドロキシアパタイト等の燐酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物が挙げられる。
【0077】
これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して0.20質量部以上20.00質量部以下の量を用いることが好ましい。また、上記分散安定剤は単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。更に、界面活性剤を併用しても良い。
【0078】
これら無機分散剤を用いる場合には、そのまま使用しても良いが、より細かい粒子を得るため、水系媒体中にて該無機分散剤粒子を生成させて用いることができる。例えば、燐酸三カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウム塩が副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合による超微粒トナーが発生し難くなるので、より好都合である。
【0079】
上記重合性単量体を重合する工程において、重合温度は40℃以上、一般には50℃以上90℃以下の温度に設定される。上述したように、本発明において重合性単量体を重合して形成する結着樹脂の分子量分布を低く、且つシャープに制御することが望ましい。重合温度及び重合温度に達するまでの昇温速度は分子量分布への寄与が大きく、分子量分布の制御にはこれら製造条件を調整することが重要である。
【0080】
上記工程終了後、得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥することにより磁性トナー粒子が得られる。この磁性トナー粒子に、後述するような無機微粉体を必要に応じて混合して該磁性トナー粒子の表面に付着させることで、本発明の磁性トナーを得ることができる。また、製造工程(無機微粉体の混合前)に分級工程を入れ、磁性トナー粒子中に含まれる粗粉や微粉をカットすることも可能である。
【0081】
本発明の磁性トナーは無機微粉体を有するものである。本発明で用いられる無機微粉体としては、シリカ、酸化チタン、アルミナなどが使用できる。シリカ微粉体としては、例えば、ケイ素ハロゲン化物の蒸気相酸化により生成されたいわゆる乾式法又はヒュームドシリカと称される乾式シリカ、及び水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカの両者が使用可能である。しかし、表面及びシリカ微粉体の内部にあるシラノール基が少なく、またNa2O、SO32-等の製造残滓の少ない乾式シリカの方が好ましい。また乾式シリカにおいては、製造工程において例えば、塩化アルミニウム、塩化チタン等他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによって、シリカと他の金属酸化物の複合微粉体を得ることも可能であり、それらも包含する。
【0082】
本発明において無機微粉体は疎水化処理された物であることが、磁性トナーの環境安定性を向上させることができるため好ましい。
【0083】
本発明に用いられる磁性トナーには、実質的な悪影響を与えない範囲内で更に他の添加剤、例えばポリフッ化エチレン粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末の如き滑剤粉末、あるいは酸化セリウム粉末、炭化ケイ素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末などの研磨剤、あるいは例えば酸化チタン粉末、酸化アルミニウム粉末などの流動性付与剤、ケーキング防止剤、また、逆極性の有機微粒子、及び無機微粒子を現像性向上剤として少量用いることもできる。これらの添加剤も表面を疎水化処理して用いることも可能である。
【0084】
本発明の磁性トナーは、必要に応じてさらに他の外添剤(例えば荷電制御剤等)と混合して一成分現像剤として用いることができ、またキャリアと併用して二成分現像剤として用いることができる。二成分現像方法に用いる場合のキャリアとしては、従来知られているものがすべて使用可能であるが、具体的には、表面酸化又は未酸化の鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、希土類等の金属及びそれらの合金又は酸化物等の、平均粒径20μm以上300μm以下の粒子が好ましくは使用される。
【0085】
次に、本発明の磁性トナーを好適に用いることのできる画像形成装置の一例を図1に沿って具体的に説明する。図1において、100は静電潜像担持体(以下、感光体とも呼ぶ)であり、その周囲に帯電ローラー117、トナー担持体102を有する現像器140、転写帯電ローラー114、クリーナー116、レジスタローラー124等が設けられている。静電潜像担持体100は帯電ローラー117によって例えば−600Vに帯電される(印加電圧は例えば交流電圧1.85kVpp、直流電圧−620Vdc)。そして、レーザー発生装置121によりレーザー光123を静電潜像担持体100に照射することによって露光が行われ、目的の画像に対応した静電潜像が形成される。静電潜像担持体100上の静電潜像は現像器140によって一成分トナーで現像されてトナー画像を得、トナー画像は転写材を介して静電潜像担持体に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像を載せた転写材は搬送ベルト125等により定着器126へ運ばれ転写材上に定着される。また、一部静電潜像担持体上に残されたトナーはクリーナー116によりクリーニングされる。
【0086】
次に、本発明の磁性トナーに係る各物性の測定方法に関して記載する。
【0087】
(1)磁性体及び磁性トナー粒子の単位面積あたりの水分吸着量測定方法
本発明における磁性体及び磁性トナー粒子の単位面積あたりの水分吸着量は用いた磁性体のBET比表面積及び水分吸着量を測定し、それらの数値を用いて算出する。具体的には、[2]で得る単位重量あたりの水分吸着量を[1]で得るBET比表面積で割り、算出する。
【0088】
[1]磁性体及び磁性トナー粒子のBET測定
BET比表面積の測定は、脱ガス装置バキュプレップ061(マイクロメソティック社製)、BET測定装置ジェミニ2375(マイクロメソティック社製)を用いて行った。本発明におけるBET比表面積は、多点法BET比表面積の値である。具体的には、以下のような手順で行う。
【0089】
空のサンプルセルの質量を測定した後、磁性体は2.0g、磁性トナー粒子の場合は1.0g秤量して充填する。さらに、脱ガス装置に、試料が充填されたサンプルセルをセットし、室温で12時間脱ガスを行う。脱ガス終了後、サンプルセル全体の質量を測定し、空サンプルセルとの差から試料の正確な質量を算出する。次に、BET測定装置のバランスポートおよび分析ポートに空のサンプルセルをセットする。所定の位置に液体窒素の入ったデュワー瓶をセットし、飽和蒸気圧(P0)測定コマンドにより、P0を測定する。P0測定終了後、分析ポートに脱ガス調製されたサンプルセルをセットし、サンプル質量およびP0を入力後、BET測定コマンドにより測定を開始する。後は自動でBET比表面積が算出される。
【0090】
[2]磁性体及び磁性トナー粒子の水分吸着量測定
水分吸着量の測定においては、まず測定サンプルを温度30℃湿度80%の環境下に72時間放置した後に下記測定装置にて測定した。
【0091】
水分吸着量の測定は平沼産業社製の水分測定装置を使用した。具体的には、微量水分測定装置AQ−2100、自動加熱貴下水分測定システムAQS−2320、自動水分気化装置SE320を組み合わせて用い、カールフィッシャー電量滴定法によって磁性体及び磁性トナー粒子中の水分量を測定した。
【0092】
測定条件を以下に述べる。測定方式は待ち時間(INTERVAL)制御方式を採用した。設定時間を40秒とし、加熱温度は120℃、磁性体を測定する場合仕込み量は2.0g、磁性トナー粒子の場合は1.0gとした。なお、この測定によって単位重量あたりの水分吸着量が得られる。
【0093】
(2)THF不溶分の測定方法
磁性トナー約1.5gを秤量(W1g)し、予め秤量した円筒濾紙(例えば、商品名No.86R(サイズ28×100mm)、アドバンテック東洋社製)に入れてソックスレー抽出器にセットする。溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)200mlを用いて20時間抽出し、その際に溶媒の抽出サイクルが約5分に一回になるような還流速度で抽出を行う。
【0094】
抽出終了後、円筒ろ紙を取り出して風乾した後、40℃で8時間真空乾燥し、抽出残分を含む円筒濾紙の質量を秤量し、円筒濾紙の質量を差し引くことにより、抽出残分の質量(W2g)を算出する。
【0095】
次に、樹脂成分以外の成分の含有量(W3g)を以下の手順で求める。予め秤量した30mlの磁性るつぼに約2gのトナーを秤量(Wag)する。るつぼを電気炉に入れ約900℃で約3時間加熱し、電気炉中で放冷し、常温下でデシケーター中に1時間以上放冷し、焼却残灰分を含むるつぼの質量を秤量し、るつぼの質量を差し引くことにより焼却残灰分(Wbg)を算出する。そして、下記式(A)により、資料W1g中の焼却残灰分の質量(W3g)を算出する。
W3=W1×(Wb/Wa) (A)
【0096】
この場合、THF不溶分は、下記式(B)で求められる。
THF不溶分(質量%)={(W2−W3)/(W1−W3)}×100 (B)
【0097】
(3)磁性トナーの分子量測定
磁性トナーのTHF可溶分の分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
【0098】
まず、室温で24時間かけて、サンプルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マエショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。尚、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が約1.0質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:Shodex KF−801、802、803、804、805、806、807の7連(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:0.10ml
【0099】
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F−850、F−450、F−288、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、A−500」、東ソ−社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。得られた分子量分布のチャートにおいて、結着樹脂成分に由来する分布の強度が最大であるピークトップの分子量を本発明の「ピーク分子量」とした。また、分子量1000000以下の領域において、分子量500に相当する点でチャートを区切り、分子量分布の全面積値に対する500以下の部分の面積比を算出し、分子量500以下の割合とした。
【0100】
(4)磁性体の塩酸溶出液吸光度測定
磁性体の塩酸溶出は以下のように測定した。
【0101】
ガラス製バイアルに2.7mol/L濃度の塩酸8g(分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤,和光純薬工業社製)0.16gを含む)に、磁性体1gを加えた。その後、超音波分散器を用いて分散を5分行う。なお、超音波分散器としては発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内にイオン交換水を入れたものを使用する。
超音波分散後、25℃にて1時間静置した後に、磁性体以外の上澄み部分を抽出し、2.7mol/L濃度の塩酸で4倍に希釈した。
【0102】
希釈液の入った石英セルを分光光度計「MPS2000」(島津製作所社製)にセットし、10分間そのままの状態を維持して、透過率の変動が落ち着くのを待つ。10分経過したら、測定波長338nmの吸光度を測定する。
【0103】
(5)磁性トナーの平均粒径及び粒度分布
本発明の磁性トナーの重量平均粒径(D4)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行ない、算出した。
【0104】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
【0105】
尚、測定、解析を行なう前に、以下のように専用ソフトの設定を行なった。
【0106】
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
【0107】
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
【0108】
具体的な測定法は以下の通りである。
[1]Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行なう。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
[2]ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
[3]発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
[4]前記[2]のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
[5]前記[4]のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
[6]サンプルスタンド内に設置した前記[1]の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記[5]の電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行なう。
[7]測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行ない、重量平均粒径(D4を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【0109】
(6)シラン化合物の加水分解率測定方法
シラン化合物の加水分解率について述べる。アルコキシシランに加水分解処理を施すと、加水分解物と未加水分解物及び縮合物により構成される混合物が得られる。下記に述べるのは、得られる混合物中における加水分解物の比率である。この混合物は上述したシラン化合物に該当するものである。
【0110】
まず、アルコキシシランの加水分解反応に関して、メトキシシランを例に取って説明する。メトキシシランが加水分解すると、メトキシ基がヒドロキシル基になると共にメタノールが生成する。したがって、メトキシ基とメタノールの量比から加水分解の進行度を知ることが出来る。本発明では、1H−NMR(核磁気共鳴)によって上記量比を測定し、加水分解率を求めた。模式的な図を図2に示す。メトキシシランを例として、具体的な測定及び計算手法を下記に示す。
【0111】
まず、加水分解処理を施す前のメトキシシランの1H−NMR(核磁気共鳴)を重クロロホルムを用いて測定し、メトキシ基由来のピーク位置を確認した。その後、メトキシシランに対して加水分解処理を施してシラン化合物とし、未処理の磁性体に対して加える直前のシラン化合物水溶液をpH7.0、温度10℃にすることで加水分解反応を停止させた。得られた水溶液の水分を除去してシラン化合物の乾固物を得た。この乾固物に重クロロホルムを少量添加して1H−NMRを測定した。得られたスペクトルにおけるメトキシ基由来のピークは、予め確認したピーク位置を元に決定した。メトキシ基由来のピーク面積をAとし、メタノールのメチル基由来のピーク面積をBとして加水分解率を下式で求めた。
加水分解率(%)=B/(A+B)×100
【0112】
なお、1H−NMRの測定条件は下記のように設定した。
測定装置 :FT NMR装置 JNM−EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数 :1024回
測定温度 :40℃
【0113】
(7)アルコキシシラン加水分解物中におけるシロキサンの存在比率測定方法
アルコキシシランのうち、シロキサンとして存在する比率(シロキサン率)は、シラン化合物中の縮合物の割合である。この縮合物比率が高いと、磁性体を表面処理する際に前述したように均一な処理を阻害してしまう。
【0114】
シラン化合物中の、化合物の定量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記のように測定する。事前に、加水分解処理を施していないアルコキシシランのGPCを測定し、保持時間を確認しておく。
【0115】
酢酸とトリエチルアミン及びイオン交換水を用いて、測定するシラン化合物と同一のpHに調整した水溶液70体積%と、アセトニトリル30体積%を混合して溶離液を調製した。このとき、加水分解を施していないアルコキシシランを測定する場合にはpHを7〜8に調整して測定した。次いで、溶離液中に測定するシラン化合物を10体積%となるように十分溶解して、測定試料としてGPCを測定した。
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:GF−310−HQ(昭和電工株式会社製)
流速:1.0ml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:25μL
【0116】
続いて、シラン化合物のGPCの結果よりβ、γを算出する方法について下記に記述する。
【0117】
シラン化合物をGPCで測定した場合,模式的に示した図3のようなチャートが得られる。図3には加水分解処理前(上)と後(下)のチャートを示しており、上段の模式図は加水分解処理を施す前のアルコキシシランを測定して得られるGPCチャートを示している。下段の模式図はアルコキシシランの加水分解処理を進め、アルコキシシラン、加水分解物、シロキサンが存在する状態のGPCチャートを示しており、ピークの帰属も模式図上に記載した。
【0118】
得られたチャートにおいてシラン化合物に由来するピークの全面積をβとし、加水分解されたアルコキシシランの縮合物であるシロキサンに対応するピークの面積をγとした。これらβ、γを用いてシロキサン率を下記式の如く定義した。
シロキサン率(%)=100×γ/β
【0119】
(8)非晶質ポリエステルのガラス転移点測定
非晶質ポリエステルのガラス転移点(Tg)は示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。
【0120】
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0121】
具体的には、非晶質ポリエステル約5mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定範囲30乃至200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。この昇温過程で、温度40乃至100℃の範囲において比熱変化が得られる。このときの比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点をガラス転移温度Tgとする。
【0122】
(9)非晶質ポリエステルの分子量測定
非晶質ポリエステル及び離型剤のTHF可溶分の分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、結着樹脂の分子量測定と同様に測定する。測定により得られた数平均分子量(Mn)を非晶質ポリエステルの分子量とした。
【0123】
(10)非晶質ポリエステルの酸価測定
酸価は試料1gに含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウムのmg数である。結着樹脂の酸価はJIS K 0070−1966に準じて測定されるが、具体的には、以下の手順に従って測定する。
【0124】
[1]試薬の準備
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95vol%)90mlに溶かし、イオン交換水を加えて100mlとし、「フェノールフタレイン溶液」を得る。
【0125】
特級水酸化カリウム7gを5mlの水に溶かし、エチルアルコール(95vol%)を加えて1lとする。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、ろ過して、「水酸化カリウム溶液」を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。標定はJIS K 0070−1996に準じて行う。
【0126】
[2]操作
(A)本試験
粉砕した非晶質ポリエステルの試料2.0gを200mlの三角フラスコに精秤し、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液100mlを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。尚、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときとする。
(B)空試験
試料を用いない(すなわちトルエン/エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)以外は、上記操作と同様の滴定を行う。
【0127】
[3]得られた結果を下記式に代入して、酸価を算出する。
A=[(B−C)×f×5.61]/S
ここで、A:酸価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料(g)である。
【0128】
(11)離型剤の最大吸熱ピーク温度測定
離型剤の最大吸熱ピークのピーク温度は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。
【0129】
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0130】
具体的には、離型剤約5mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定範囲30乃至200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。尚、測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程での温度30乃至200℃の範囲におけるDSC曲線の最大吸熱ピークの温度を最大吸熱ピーク温度とした。
【実施例】
【0131】
以下、本発明を製造例及び実施例により更に具体的に説明する。なお、以下の配合における部数は全て質量部を示す。
【0132】
<未処理磁性体の製造>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.0当量以上1.1当量以下の苛性ソーダ溶液、鉄元素に対してケイ素元素換算で1.5質量%のケイ酸ソーダを混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
【0133】
水溶液をpH9.0に維持しながら、空気を吹き込み、80℃以上90℃以下で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
【0134】
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH8.0に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、磁性酸化鉄を含むスラリー液を得た。このスラリーをろ過と洗浄を行った後、再びろ過をした。その後、解砕、乾燥を行い、未処理磁性体を得た。
【0135】
<シラン化合物1の調製>
イソブチルトリメトキシシラン20部をイオン交換水80部に対して撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度40℃に保持し、ディスパー翼を用いて0.46m/sで2時間分散させて加水分解を行い、加水分解物を含有する水溶液であるシラン化合物1を得た。得られたシラン化合物1の物性を表1に示す。
【0136】
<シラン化合物2乃至11の調製>
シラン化合物1の製造において、表1に記載するアルキルアルコキシシランを用いつつ、加水分解時間及び水溶液のpHを調整することで表1に記載する加水分解率とシロキサン率としたこと以外は同様にして、シラン化合物2乃至11を得た。得られたシラン化合物2乃至11の物性を表1に示す。
【0137】
<シラン化合物12乃至14の調製>
表1に記載する加水分解処理を行っていないアルコキシシランをシラン化合物12乃至14とした。シラン化合物12乃至14の物性を表1に示す。
【0138】
<シラン化合物15乃至20の調製>
シラン化合物1の製造において、表1に記載するアルキルアルコキシシランを用いつつ、加水分解時間及び水溶液のpHを調整することで表1に記載する加水分解率とシロキサン率としたこと以外は同様にして、シラン化合物15乃至20を得た。得られたシラン化合物15乃至20の物性を表1に示す。なお、シラン化合物17、18、19の主成分をシロキサン率測定におけるGPC測定結果から分析すると、それぞれ5量体[式(1)においてm=5]、10量体[式(1)においてm=10]、11量体[式(1)においてm=11]であった。
【0139】
【表1】

【0140】
<磁性体1の製造>
未処理の磁性体をヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株)、FM−10C)に入れ、撹拌羽根の周速を34.5m/sに調整して分散しながら、シラン化合物1を3.8部噴霧して加えた。そのまま20分間分散させた後、シラン化合物1が吸着した磁性体を取り出してヘンシェルミキサーを清掃した。その後、シラン化合物1が吸着した磁性体を再度ヘンシェルミキサーに投入し、40.5m/sで10分間撹拌し分散させた。その後、160℃で2時間静かに置いて磁性体を乾燥すると共にシラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、目開き100μmの篩を通過した磁性体1として得た。得られた磁性体1の物性を表2に示す。
【0141】
<磁性体2乃至11の製造>
磁性体1の製造において、シラン化合物を表2に記載したように変更すること以外は磁性体1の製造と同様にして、磁性体2乃至11を得た。得られた磁性体2乃至11の物性を表2に示す。
【0142】
<磁性体12の製造>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄イオンに対して1.0乃至1.1当量の苛性ソーダ溶液を混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。水溶液をpH9に維持しながら、空気を吹き込み、80乃至90℃で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
【0143】
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.9乃至1.2当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた後、スラリー液をpH8に維持して、空気を吹込みながら酸化反応を進め、酸化反応の終期にpHを約6に調整した。その後、シランカップリング剤[n−C613Si(OCH33]を酸化鉄100部に対し0.6部添加し、十分撹拌した。生成した疎水性酸化鉄粒子を常法により洗浄、濾過、乾燥し、次いで凝集している粒子を解砕処理し、磁性体12を得た。得られた磁性体12の物性を表2に示す。
【0144】
<磁性体13の製造>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.0乃至1.1当量の苛性ソーダ溶液、鉄元素に対しリン元素換算で1.0質量%のヘキサメタ燐酸ソーダ、鉄元素に対し珪素元素換算で1.0質量%の珪酸ソーダを混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
【0145】
水溶液のpHを13前後に維持しながら、空気を吹き込み、80乃至90℃で酸化反応を行い、磁性粒子のスラリー液を得た。洗浄、濾過した後この含水スラリー液を一旦取り出した。このとき、含水サンプルを少量採取し、含水量を計っておいた。次に、この含水サンプルを乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させた後、再分散液のpHを約6に調整した。その後、十分撹拌しながらn−ヘキシルトリメトキシシランを磁性酸化鉄100部に対し2.3部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.98部添加し、カップリング処理を行った。生成した疎水性磁性粒子を常法により洗浄、濾過、乾燥し、得られた粒子を十分解砕処理し、磁性体13を得た。得られた磁性体13の物性を表2に示す。
【0146】
<磁性体14の製造>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄イオンに対して1.0乃至1.1当量の苛性ソーダ溶液を混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
【0147】
水溶液のpHを9前後に維持しながら、空気を吹き込み、80乃至90℃で酸化反応を行い、磁性粒子のスラリー液を得た。洗浄、濾過した後この含水スラリー液を一旦取り出した。この時、含水サンプルを少量採取し、含水量を計っておいた。次に、この含水サンプルを乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させた後、再分散液のpHを約6に調製し、十分撹拌しながらシランカップリング剤(n−C1021Si(OCH33)を磁性酸化鉄に対し0.2部(磁性粒子の量は含水サンプルから含水量を引いた値として計算した)添加し、カップリング処理を行った。生成した疎水性磁性体を常法により洗浄、濾過、乾燥し、得られた粒子を十分解砕処理した。次に、得られた疎水性磁性体に対し0.3部のシランカップリング剤(n−C1021Si(OCH33)で乾式により再度疎水化処理を行い、磁性体14を得た。得られた磁性体14の物性を表2に示す。
【0148】
<磁性体15乃至20の製造>
磁性体1の製造において、シラン化合物を表2に記載したように変更すること以外は磁性体1の製造と同様にして、磁性体15乃至20を得た。得られた磁性体15乃至20の物性を表2に示す。
【0149】
【表2】

【0150】
<磁性トナー1の製造>
イオン交換水720部に0.1M−Na3PO4水溶液450部を投入して60℃に加温した後、1.0M−CaCl2水溶液67.7部を添加して、分散安定剤を含む水系媒体を得た。
【0151】
・スチレン 80.00部
・n−ブチルアクリレート 20.00部
・ジビニルベンゼン 0.65部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T−77:保土ヶ谷化学社製) 1.00部
・磁性体1 90.00部
・非晶質ポリエステル 3.00部
(ビスフェノールAのE.O.付加物とテレフタル酸との縮合反応により得られる飽和ポリエステル樹脂Mn=5000、酸価=12mgKOH/g、Tg=68℃)
上記成分をアトライター(三井三池化工機(株))を用いて均一に分散混合した後に60℃に加温し、そこに離型剤としてベヘン酸ベヘニル(最大吸熱ピーク温度:70.0℃)15.0部を混合溶解させた。その後、開始剤1(表3参照)を4.50部添加及び混合し、単量体組成物を得た。
【0152】
上記水系媒体中に上記単量体組成物を投入し、60℃、N2雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて18.8m/sで10分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ0.5℃/分の速度で70℃まで昇温し、70℃に保持したまま6時間反応させた。その後、90℃に昇温し、2時間保持した後、0.5℃/分の速度で30℃まで徐々に冷却した。冷却後、塩酸を加えて洗浄した後に濾過・乾燥して磁性トナー粒子1を得た。
【0153】
この磁性トナー粒子1の100部と個数平均1次粒径12nmの疎水性シリカ微粉体1.0部をヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))で混合し、重量平均粒径(D4)が7.0μmの磁性トナー1を得た。得られた磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。磁性トナー1の物性を表4に示す。
【0154】
<磁性トナー2乃至9の製造>
磁性トナー1の製造において、磁性体及び開始剤種と開始剤添加量を表3及び4のように変更したこと以外は磁性トナー1の製造と同様にし、磁性トナー2乃至9を得た。これらの磁性トナーを分析したところ、いずれも結着樹脂100部を含有していた。
【0155】
<磁性トナー10の製造>
磁性トナー1の製造において、磁性体及び開始剤種と開始剤添加量を表3及び4のように変更し、70℃であった反応温度を76℃にしたこと以外は磁性トナー1の製造と同様にし、磁性トナー10を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0156】
<磁性トナー11の製造>
磁性トナー10の製造において、76℃までの昇温速度を1.0℃/分としたこと以外は磁性トナー10の製造と同様にし、磁性トナー11を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0157】
<磁性トナー12の製造>
磁性トナー11の製造において、ジビニルベンゼンの添加量を0.55部とすること以外は磁性トナー11の製造と同様にし、磁性トナー12を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0158】
<磁性トナー13の製造>
磁性トナー11の製造において、ジビニルベンゼンの添加量を0.80部とすること以外は磁性トナー11の製造と同様にし、磁性トナー13を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0159】
<磁性トナー14の製造>
磁性トナー11の製造において、ジビニルベンゼンの添加量を0.50部とし、76℃であった反応温度を80℃としたこと以外は磁性トナー11の製造と同様にし、磁性トナー14を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0160】
<磁性トナー15の製造>
磁性トナー11の製造において、ジビニルベンゼンの添加量を0.90部とし、76℃であった反応温度を68℃としたこと以外は磁性トナー11の製造と同様にし、磁性トナー15を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0161】
<磁性トナー16の製造>
磁性トナー14の製造において、80℃であった反応温度を85℃としたこと以外は磁性トナー14の製造と同様にし、磁性トナー16を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0162】
<磁性トナー17の製造>
磁性トナー15の製造において、68℃であった反応温度を63℃としたこと以外は磁性トナー15の製造と同様にし、磁性トナー17を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0163】
<磁性トナー18乃至21の製造>
磁性トナー17の製造において、磁性体を表4のように変更したこと以外は磁性トナー17の製造と同様にし、磁性トナー18乃至21を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0164】
<比較用磁性トナー1の製造>
磁性トナー15の製造において、開始剤種及び添加量を表3及び4のように変更した事以外は磁性トナー15の製造と同様にし、比較用磁性トナー1を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0165】
<比較用磁性トナー2、3の製造>
磁性トナー14の製造において、開始剤種及び添加量を表3及び4のように変更したこと以外は磁性トナー14の製造と同様にし、比較用磁性トナー2乃至3を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0166】
<比較用磁性トナー4の製造>
比較用磁性トナー2の製造において、磁性体を表3及び4のように変更したこと以外は比較用磁性トナー2の製造と同様にし、比較用磁性トナー4を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0167】
<比較用磁性トナー5乃至8の製造>
磁性トナー17の製造において、磁性体を表3及び4のように変更したこと以外は磁性トナー17の製造と同様にし、比較用磁性トナー5乃至8を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0168】
<比較用磁性トナー9の製造>
○結着樹脂Aの製造
・スチレン 70.0部
・アクリル酸n−ブチル 30.0部
・開始剤1 4.5部
・ジビニルベンゼン 0.5部
キシレン200部を85℃に昇温させた後、上記処方成分をキシレン中に4時間かけて滴下し、更にキシレン還流下で6時間保持し、重合を完了した後に減圧下で溶媒を蒸留除去した。このようにして得られた樹脂を結着樹脂Aとする。結着樹脂Aのピーク分子量は7800であった。
【0169】
○比較用磁性トナー9の製造
・結着樹脂A 100部
・HNP−10(日本精蝋(株)社製、融点75℃) 4部
・磁性体1 95部
・モノアゾ鉄錯体(T−77:保土ヶ谷化学社製) 2部
上記混合物をヘンシェルミキサーで前混合した後、110℃に加熱された2軸エクストルーダで溶融混練し、冷却した混練物をハンマーミルで粗粉砕して磁性トナー粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を、機械式粉砕機ターボミル(ターボ工業社製)を用いて入口と出口のエアー温度を調整して微粉砕した。得られた微粉砕物をコアンダ効果を利用した多分割分級装置(日鉄鉱業社製エルボジェット分級機)で微粉及び粗粉を同時に分級除去した。そこで得られた磁性トナー粒子のコールターカウンター法で測定される重量平均粒径(D4)は7.3μmであった。
【0170】
この磁性トナー粒子100部と、ヘキサメチルジシラザン処理し、次いでジメチルシリコーンオイル処理を行った疎水性シリカ微粉体1.35部とを、ヘンシェルミキサーで混合して比較用磁性トナー9を調製した。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0171】
<比較用磁性トナー10の製造>
○荷電制御樹脂の合成
還流管、撹拌機、温度計、窒素導入管、滴下装置及び減圧装置を備えた加圧可能な反応容器に下記成分を溶媒を添加して撹拌しながら環流温度まで加熱した。重合開始剤である2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)1部を2−ブタノン20部で希釈した溶液を30分かけて滴下して5時間撹拌を継続した。さらに4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)2部を2−ブタノン20部で希釈した溶液を40分かけて滴下してさらに7時間撹拌して重合反応を終了した。この重合溶媒を減圧留去した後に得られた重合体を150メッシュのスクリーンを装着したカッターミルを用いて100μm以下に粗粉砕することで荷電制御樹脂を得た。
・メタノール 200部
・2−ブタノン 150部
・水 50部
・2−プロパノール 100部
・スチレン 79部
・n−ブチルアクリレート 14部
・2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸 7部
【0172】
○比較用磁性トナー10の製造
イオン交換水780部に0.1M−Na3PO4水溶液460部、1N塩酸を16部を投入し60℃に加温した後、1.0M−CaCl2水溶液67.7部を添加してCa3(PO42を含む水系媒体を得た。
【0173】
一方、分散質として、
・スチレン 80部
・n−ブチルアクリレート 20部
・ポリエステル樹脂 2部
(ピーク分子量=7300、水酸基価=16mgKOH/g)
・磁性体13 90部
・荷電制御樹脂 1部
ステアリン酸ステアリル 10部
(最大吸熱ピーク温度60℃)
上記処方を60℃に加温し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて12,000rpmにて均一に分散、溶解した。これに、重合開始剤ジsec−ブチルパーオキシジカーボネートを7部投入、溶解し重合性単量体系を調製した。
【0174】
前述した水系媒体中に上記重合性単量体系を投入し、60℃,N2雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて10,000rpmで15分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ、60℃で7時間反応させた後、80℃に昇温し、さらに3時間反応を行った。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えてpH2以下で分散剤を溶解し、濾過,水洗,乾燥して重量平均粒径(D4)7.3μmの磁性トナー粒子を得た。
【0175】
上記の方法で得られた磁性トナー粒子100部に対して、一次粒径12nmのシリカにヘキサメチルジシラザンで処理をした後シリコーンオイルで処理し、処理後のBET値を120m2/gとした疎水性シリカ微粉体1.0部を添加した。その後、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))を用い混合し、比較用磁性トナー10を調製した。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0176】
<比較用磁性トナー11の製造>
イオン交換水709gに0.1M−Na3PO4水溶液451gを投入し60℃に加温した後、1.0M−CaCl2水溶液67.7gを徐々に添加した後、塩酸を加えて溶液のpHを約8.5に調整し、Ca3(PO42を含む水系媒体を得た。
【0177】
・スチレン 80部
・n−ブチルアクリレート 20部
・不飽和ポリエステル樹脂 5部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T−77:保土ヶ谷化学社製) 1部
・磁性体14 90部
上記処方をアトライター(三井三池化工機(株))を用いて均一に分散混合した。この単量体組成物を60℃に加温し、そこにベヘニン酸ベヘニルを主体とするエステルワックス(最大吸熱ピーク温度:70℃)20部を添加混合し、これに重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.5質量を溶解した。
【0178】
前記水系媒体中に上記重合性単量体系を投入し、60℃、N2雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて10,000rpmで15分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ、60℃で7時間反応させた。その後液温を80℃とし更に3時間撹拌を続けた。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えてCa3(PO42を溶解し、濾過、水洗、乾燥して重量平均粒径6.6μmの磁性トナー粒子を得た。
【0179】
磁性トナー粒子を100部に対し、個数平均一次粒径12nmのシリカにヘキサメチルジシラザン処理した後シリコーンオイルで処理し、処理後のBET値が140m2/gの疎水性シリカ微粉体1部を添加した。その後、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))で混合して、比較用磁性トナー11を調製した。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0180】
<比較用磁性トナー12及び13の製造>
磁性トナー17の製造において、磁性体を表3及び4のように変更したこと以外は磁性トナー17の製造と同様にし、比較用磁性トナー18乃至21を得た。この磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
【0181】
【表3】

【0182】
【表4】

【0183】
<実施例1>
1.耐久現像性試験
耐久現像性試験用の画像形成装置としてはLBP3100(キヤノン製)を改造し、プロセススピードを上げることで200mm/secとした装置を用いた。この改造した磁性トナー1を使用し、常温常湿環境下(23℃、60%RH)及び高温高湿環境下(32.5℃、80%RH)にて印字率が4%の横線を7秒間欠モードで2000枚画出し試験を行った。なお、記録媒体としてはA4の75g/m2の紙を使用した。通紙耐久前後に、印字紙全面にベタ画像部を形成したチャートを1枚ずつ出力し、このベタ画像をマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、反射濃度計にて測定を行った。原稿は画像比率5%のチャートを使用し、耐久の最後に出力した画像濃度で評価を行った。このとき、反射濃度が1.35を下回ったものは実用上好ましくないレベルと判断した。
【0184】
また、現像性評価試験において通紙耐久前後に白画像を出力して、その反射率を東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC−6DSを使用して測定した。一方、白画像形成前の転写紙(標準紙)についても同様に反射率を測定した。フィルターはグリーンフィルターを使用し、下記式にてカブリを算出した。
カブリ(反射率)(%)=標準紙の反射率(%)−白画像サンプルの反射率(%)
【0185】
なお、カブリは得られたカブリ値の最大値が0.5%以下を良好なレベル、3.0%以上を実用上好ましくないレベルとした。
【0186】
2.長期使用後に放置した際の現像性評価試験
高温高湿環境における現像性評価試験後の本体を低温低湿環境(15℃,10%RH)に3日間放置した後、ベタ白画像を5枚出力し耐久現像性試験と同様にカブリの測定及び評価を行った。なお、カブリは得られたカブリ値の最大値が0.5%以下を良好なレベル、3.0%以上を実用上好ましくないレベルとした。
【0187】
<実施例2乃至17>
磁性トナー2から17を用いたこと以外は実施例1と同様に画出し試験を行った。その結果、いずれのトナーも上記2つの試験において実用上問題ないレベルであった。評価結果を表5に示す。
【0188】
<比較例1乃至11>
比較用トナー1から11を用いたこと以外は、実施例1と同様に画出し試験を行った。それによると、耐久現像性、クリーニング性のどちらかの項目で実用上好ましくない結果が得られた。評価結果を表5に示す。
【0189】
【表5】

【符号の説明】
【0190】
100 静電潜像担持体(感光体)、102 トナー担持体、114 転写部材(転写ローラー)、116 クリーナー、117 接触帯電部材(帯電ローラー)、121 レーザー発生装置(潜像形成手段、露光装置)、123 レーザー、124 レジスタローラー、125 搬送ベルト、126 定着器、140 現像器、141 撹拌部材、A アルコキシ基のアルキル部分由来のピーク、B アルキルアルコールのアルキル部分由来ピーク、C アルキルアルコキシシランのアルキル基由来ピーク、α シラン化合物の未加水分解物に由来するピークの面積、β シラン化合物の全ピーク面積、γ シラン化合物の単量体として存在する加水分解物に由来するピークの面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体、結着樹脂、離型剤を少なくとも含有する磁性トナー粒子及び無機微粉体を有する磁性トナーにおいて、
該磁性トナー粒子は懸濁重合法で製造されており、
該磁性体は表面を式(1)で表される構造を持つ化合物を主成分とするシラン化合物で処理されており、
該結着樹脂は炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基を有する有機過酸化物を重合開始剤として用いて重合した樹脂を主成分として含有し、
該有機過酸化物はパーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイドから選ばれるものであることを特徴とする磁性トナー。
式(1)R2O−[−SiR1(OR2)−O−]m−R2,1≦m≦10
1:炭素数3又は4の分岐構造を有する炭化水素基。
2:H又はCn2n+1[1≦n≦4]で表される官能基。
【請求項2】
該磁性トナーのテトラヒドロフランで抽出される成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたピーク分子量が8000以上18000以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁性トナー。
【請求項3】
該磁性トナーのテトラヒドロフランを用いてソックスレー抽出した際の結着樹脂の成分に由来する不溶分が15.0質量%以上50.0質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁性トナー。
【請求項4】
該磁性トナーのテトラヒドロフランで抽出される成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布のチャートにおいて、分子量1000000以下における分子量500以下の割合が2.50%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項5】
該磁性体は2.7(mol/L)の塩酸に分散し、25℃で1時間静置した際の上澄み液の波長338nmでの吸光度が6.00以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項6】
該磁性体の単位面積あたりの水分吸着量が0.190mg/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項7】
該有機過酸化物はsec−ブチル基を有するパーオキシジカーボネートであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の磁性トナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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