説明

磁性一成分トナー

【課題】画像濃度、解像度に優れ、低温低湿下のみならず、高温高湿下においても十分な画像濃度を得ることができると共に、リサイクルカートリッジにおいて、スリーブ上における搬送帯電ムラによるさざ波模様の画像濃度ムラが生じにくい磁性一成分トナーを提供する。
【解決手段】少なくともバインダー樹脂と磁性体を含むトナー母粒子を含有する磁性一成分トナーであって、(a)当該磁性体が、一次平均粒径0.1〜0.3μmの立方体状又は八面体状の磁性体粒子Aと、一次平均粒径0.1〜0.3μmの球状磁性体粒子Bとの重量比9:1〜1:9の混合物であり、かつ磁性体粒子Aと磁性体粒子Bの一次平均粒径の差が0.1μm以下であること、(b)トナー母粒子における当該磁性体の含有量が30〜70重量%であること、及び(c)トナー母粒子の体積平均粒径が5〜10μmであること、を特徴とする磁性一成分トナーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性一成分トナー、さらに詳しくは、画像濃度、解像度に優れ、低温低湿下のみならず、高温高湿下においても十分な画像濃度を得ることができると共に、リサイクルカートリッジにおいて、スリーブ上における搬送帯電ムラによるさざ波模様の画像濃度ムラが生じにくい磁性一成分トナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式においては、感光体上において光学像を静電荷像のような電子性の潜像に変換したのち、この静電潜像上に着色した帯電性トナー粒子を付着させて可視画像とし(現像)、さらにこのトナー画像を紙などの記録媒体に転写させたのち、加熱、加圧などにより定着させて複写物を得ることが行われている。このような電子写真方式は、操作性、迅速性、最終画像の安定性などに優れるために、複写機のほか、レーザープリンター、ファクシミリなどに広く応用されている。
上記トナー粒子は、電子写真の現像方式によってその設計着想が変わってくる。電子写真の現像方式としてよく知られているものは、現像剤にトナーとフェライト、鉄粉のようなキャリアとを用いた2成分現像方式、磁性トナーのみを用いた磁性一成分現像方式、非磁性トナーのみを用いた非磁性一成分現像方式がある。中でも磁性一成分現像方式は、現像器がコンパクトであり、耐刷性に優れているといった特徴がある。
磁性一成分現像方式では、中心部にマグネットローラーを装着した円筒スリーブのようなトナー担持体が、感光体と一定の間隙を設けて配置されており、スリーブ上には絶縁性磁性トナーが薄層状に搬送される。感光体とスリーブとの間に交互電界が印加され、帯電された磁性トナー粒子を飛翔させながら静電潜像に現像させる。該磁性トナーのトリボ電荷の付与は、主にスリーブ表面との接触摩擦、トナー同士の摩擦によって行われる。スリーブ上のトナー層厚は現像領域における感光体とスリーブとの間隙よりも薄く形成される。
上記トナーとしては、トナーバインダーである熱可塑性樹脂に磁性体を分散し、さらに各種添加剤を配合した磁性一成分トナーが広く用いられている。この磁性一成分トナーは、例えばバインダー樹脂としての熱可塑性樹脂に磁性体、ワックスなどの離型剤、荷電制御剤などを配合し、加熱混練機を用いて溶融混練し、磁性体を均質に分散させたのち、室温まで冷却した材料を粉砕機で粉砕し、さらに分級により粗粉及び微粉を取り除き、所望の粒度に揃えることによって製造される。この際、トナーの流動性及び耐久性を高める目的で、シリカなどの無機微粉末を添加することがよく行われている。
このような磁性一成分トナーにおいては、それに含有される磁性体の形状、粒径、バインダー樹脂との混合割合、分散状態により帯電特性、磁性特性が大きく変化する。
したがって、磁性一成分現像方式における高画質化の要求から、磁性一成分トナーに用いられる磁性体の特性について様々な提案がなされている。
磁性一成分トナーに含有される磁性体としては、一般にフェライトやマグネタイトが用いられている。これらの磁性体は、通常球状、あるいは多面体状の形状をしている。
前記磁性体の中で、立方体状のマグネタイトを用いた磁性一成分トナーは、高い磁気力のため、スリーブへの搬送能力は優れ、スリーブ上での穂立ちがシャープになり、解像度に優れるが、以下に示す問題点がある。すなわち(1)スリーブへの拘束力が強く、十分な濃度が得られにくい。(2)残留磁化が大きく、磁気的凝集が生起し、磁性体のトナー中での分散が悪くなるため、トナー表面に磁性体が露出しやすい。その結果、感光体を傷付けやすく、流動性が悪化し、高湿環境下において十分な濃度が得られない。(3)トナー中での分散が悪いため、トナー粒子中のマグネタイトの割合が不均一になり、スリーブ上で搬送されたトナーの厚さが部分的に異なり、それによって帯電ムラによるスジ状、斑点状、さざ波模様のコーティング不良が発生しやすい。
したがって、磁性体として球状若しくは丸味を帯びたマグネタイト又はフェライトを含有する磁性トナーや(例えば、特許文献1参照)、球状マグネタイト粒子の製造方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
このような球状マグネタイトを用いた磁性トナーは、分散、流動性に優れるために、高湿環境下での画像濃度性能に優れるものの、以下に示す問題点がある。すなわち(1)磁気力が小さいためにスリーブへの拘束力が弱く、高濃度で解像度に劣る。磁性体の含有量を増してスリーブへの拘束力を強めようとしても、分散が難しく、濃度ムラや定着性の悪化などを招き、好ましくない。(2)球状マグネタイトは、トナー中の分散がよく、電気抵抗が高い傾向にあるため、低温低湿環境下でトナーのチャージアップが生じやすく、特に粒径の小さなトナーは、過帯電になりやすい。そのため、近年の高画質の要求に答える小粒径のトナー(10μm以下のトナー)は、スリーブとの鏡像力の増加により、帯電ムラによるスリーブ付着を起こし、スジ状、斑点状、さざ波模様のコーティング不良が発生しやすい。
このような現像スリーブ上でのトナーのコーティング不良を解決する技術として、平均粒径が0.1〜0.2μmの範囲にあり、かつ粒度分布が規定された球状磁性体を含有する磁性トナー(例えば、特許文献3参照)、あるいは平均粒径が0.1〜0.2μmの範囲にあり、粒度分布が規定された、形状が10〜25面体であるマグネタイトを含有する磁性トナー(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
ところで、近年、リサイクルカートリッジは、その品質が向上し、地球環境への負荷を低減するという観点から広く普及している。スリーブは、通常アルミニウム素管をブラスト処理し、表面を樹脂でコーティングして使用しているが、リサイクルカートリッジの一つの問題点として、一度使用されると表面粗度が低下したり、表面コート層が薄くなる。その結果、帯電ムラが生じやすく、特に低温低湿環境下でさざ波模様の画像不良が生じやすい。
このような現像スリーブを再使用するリサイクルカートリッジにおいては、前記特許文献3及び特許文献4に記載の磁性体を含有する磁性トナーでは、さざ波模様の画像不良が生じるのを防止することができない。
一方、2種以上の混合磁性体を含有する磁性トナーの例としては、磁性体の含有量が異なる小粒径磁性トナーと大粒径磁性トナーとの混合物と、キャリアを含有する静電荷像現像剤が開示されている(例えば、特許文献5参照)。この現像剤によると、大面積部の濃度が高く、かつ中間調の再現性が良好な画像が得られるとあるが、分散性が悪く、流動性や高湿環境下での画像性能に劣るという問題がある。
また、立方体状のマグネタイト粒子を含む第1の粒状成形品と、球状のマグネタイト粒子を含む第2の粒状成形品を含む複合磁性現像剤が開示されている(例えば、特許文献6参照)。この複合現像剤によると、高解像度及び中間調の再現性を向上させることができるとあるが、立方体状のマグネタイト粒子はアグロメレート(凝集物)で粒径が1〜10μmのものであり、このような凝集物では分散が悪く、実用的ではない。
【特許文献1】特開昭59−64852号公報
【特許文献2】特公昭62−51208号公報
【特許文献3】特開平3−101744号公報
【特許文献4】特開平3−121464号公報
【特許文献5】特開昭59−218457号公報
【特許文献6】特開昭57−93351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような事情のもとで、画像濃度、解像度に優れ、低温低湿下のみならず、高温高湿下においても十分な画像濃度を得ることができると共に、リサイクルカートリッジにおいて、スリーブ上における搬送帯電ムラによるさざ波模様の画像濃度ムラが生じにくい磁性一成分トナーを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する磁性一成分トナーを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、一次平均粒径が、それぞれ特定の範囲にあり、かつ各一次平均粒径の差がある値以下の立方体状又は八面体状の磁性体粒子Aと球状磁性体粒子Bとの所定の割合からなる磁性体粒子混合物を特定の量で含み、体積平均粒径がある範囲のトナー母粒子を含有する磁性一成分トナーにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)少なくともバインダー樹脂と磁性体を含むトナー母粒子を含有する磁性一成分トナーであって、
(a)当該磁性体が、一次平均粒径0.1〜0.3μmの立方体状又は八面体状の磁性体粒子Aと、一次平均粒径0.1〜0.3μmの球状磁性体粒子Bとの重量比9:1〜1:9の混合物であり、かつ磁性体粒子Aと磁性体粒子Bの一次平均粒径の差が0.1μm以下であること、
(b)トナー母粒子における当該磁性体の含有量が30〜70重量%であること、及び
(c)トナー母粒子の体積平均粒径が5〜10μmであること、
を特徴とする磁性一成分トナー、
(2)トナー母粒子が、粒径2μm以下の個数割合15%以下のものである上記(1)項に記載の磁性一成分トナー、及び
(3)トナー母粒子100重量部に対し、外添剤としてシリカ0.3〜2.0重量部を含有する上記(1)又は(2)項に記載の磁性一成分トナー、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、画像濃度、解像度に優れ、低温低湿下のみならず、高温高湿下においても十分な画像濃度を得ることができると共に、リサイクルカートリッジにおいて、スリーブ上における搬送帯電ムラによるさざ波模様の画像濃度ムラが生じにくい磁性一成分トナーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の磁性一成分トナーは、少なくともバインダー樹脂と磁性体を含むトナー母粒子を含有するものであって、前記バインダー樹脂に特に制限はなく、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、エチレン−ノルボルネン共重合体などの環状オレフィン共重合体、ジエン系樹脂、シリコーン系樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリビニルブチラールなどを挙げることができる。これらの中で、ポリエステル系樹脂及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を好適に用いることができる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、芳香族ジカルボン酸とアルキレンエーテル化ビスフェノールAとの重縮合ポリエステルなどを挙げることができる。スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、スチレン−アクリル酸ブチル−メタクリル酸ブチル共重合体などを挙げることができる。これらのバインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明に用いるバインダー樹脂は、ガラス転移温度が50〜75℃であることが好ましく、52〜70℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が50℃未満であると、磁性一成分トナーの保存性が低下するおそれがある。ガラス転移温度が75℃を超えると、磁性一成分トナーの低温定着性が不十分となるおそれがある。
また、前記磁性体としては、例えば、四三酸化鉄(Fe34)、三二酸化鉄(γ−Fe23)、酸化鉄亜鉛(ZnFe34)、酸化鉄イットリウム(Y3Fe512)、酸化鉄カドミウム(CdFe24)、酸化鉄ガドリウム(Gd3Fe512)、酸化鉄銅(CuFe24)、酸化鉄鉛(PbFe1219)、酸化鉄ニッケル(NiFe24)、酸化鉄ネオジウム(NdFe23)、酸化鉄バリウム(BaFe1219)、酸化鉄マグネシウム(MgFe24)、酸化鉄マンガン(MnFe24)、酸化鉄ランタン(LaFe23)などのマグネタイトやフェライト等、鉄粉(Fe)、コバルト粉(Co)、ニッケル粉(Ni)などが挙げられる。
本発明においては、磁性体として、一次平均粒径0.1〜0.3μmの立方体状又は八面体状の磁性体粒子Aと、一次平均粒径0.1〜0.3μmの球状磁性体粒子Bとの重量比9:1〜1:9の混合物が用いられる。前記磁性体粒子A及び磁性体粒子Bの一次平均粒径が0.1μm未満では、凝集体が多くなりすぎ、トナー母粒子中の磁性体粒子の分散が不良となるおそれがあり、一方、0.3μmを超えるとトナーの小粒径化に対応できなくなる。
【0007】
また、磁性体粒子Aと磁性体粒子Bの一次平均粒径差は0.1μm以下であることを要し、好ましくは0.05μm以下である。この一次平均粒径差が0.1μmを超えると帯電ムラによるスジ状、斑点状、さざ波模様のコーティング不良が発生しやすい。
なお、前記一次平均粒径は、磁性体粒子を透過型電子顕微鏡で観察し、Martin径[定方向面積等分径(投影面積を2等分する線分の長さ)]にて算出した。
【0008】
さらに、磁性体粒子Aと磁性体粒子Bの配合割合は、重量比で9:1〜1:9の範囲にあることを要す。磁性体粒子Aの配合割合が前記範囲より多いと流動性が悪化し、高湿環境下において十分な濃度が得られない。また、トナー母粒子中での磁性体の分散が悪いために、磁性一成分トナーにおいて、磁性体の割合が不均一になり、スリーブ上で搬送されたトナーの厚さが部分的に異なり、その結果、帯電ムラによるスジ状、斑点状、さざ波模様のコーティング不良が発生しやすい。
一方、磁性体粒子Bの割合が、前記範囲より多いと解像度が劣り、トナー消費量が悪化する。また、トナー母粒子中での磁性体の分散がよく、電気抵抗が高い傾向にあるため、特に粒径の小さなトナーは過帯電になりやすく、その結果、粒径の小さなトナーは、リサイクルカートリッジにおいて、スリーブとの鏡像力の増加により、帯電ムラによるスリーブ付着を起こし、スジ状、斑点状、さざ波模様のコーティング不良が発生しやすい。
本発明においては、トナー母粒子における磁性体の含有量は30〜70重量%、好ましくは35〜65重量%、より好ましくは40〜60重量%である。この含有量が30重量%未満では、高帯電となり、かつスリーブへの拘束力が弱まるため、高濃度及び解像度が低下し、トナーの消費量が増大するし、70重量%を超えると、低帯電となり、かつスリーブへの拘束力が強くなりすぎるため、十分な画像濃度が出にくくなる。
なお、前記磁性体粒子は、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などで表面処理されていてもよい。
【0009】
本発明の磁性一成分トナーにおけるトナー母粒子は、必須成分として、前述のバインダー樹脂及び磁性体を含むが、さらに所望により黒色着色剤、荷電制御剤及び離型剤などを含むことができる。
前記着色剤に特に制限はなく、無機又は有機の各種の顔料、染料などを用いることができる。黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化銅、四三酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラックなどを挙げることができる。
また、電荷制御剤としては、例えば、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸、含金属サリチル酸系化合物、ホウ素錯体化合物、カリックスアレーンなどを挙げることができる。トナーを正帯電性に制御する電荷制御剤としては、例えば、トリブチルベンジルアンモニウム−1−ヒドロキシ−4−ナフトスルホン酸塩、ニグロシン、グアニジン化合物、トリフェニルメタン染料、第四級アンモニウム塩などを挙げることができる。
トナー母粒子に、この電荷制御剤を含有させることにより、磁性一成分トナーの帯電特性を安定させ、かぶりの発生を防止することができる。
【0010】
離型剤は、熱ロール定着時の離型性を良くする目的で用いられるものであり、このようなものとしては、例えばカルナウバワックス、ライスワックスなどの植物ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス、モンタンワックス、キャンデリアワックスなどの鉱物ワックス、カーボワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、塩素化ナフタレンワックスなどの合成ワックス、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸などの高級脂肪酸、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの高級アルコール、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドなどのアミド系ワックス、脂肪酸エステル、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレートなどの多価アルコールエステル、シリコーンワニスなどを挙げることができる。これらの離型剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
この離型剤の融点は好ましくは50〜160℃であり、より好ましくは60〜150℃である。離型剤の融点が50℃未満であると、磁性一成分トナーの保存性が低下するおそれがある。離型剤の融点が150℃を超えると、磁性一成分トナーの低温定着性が不十分となるおそれがある。離型剤の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いる分析において、10℃/分で昇温したときの吸熱ピーク温度として求めることができる。
本発明においては、トナー母粒子中の離型剤の含有量は、1〜10重量%であることが好ましく、2〜8重量%であることがより好ましい。この離型剤の含有量が1重量%未満であると、磁性一成分トナーの低温定着性が不十分となるおそれがある。離型剤の含有量が10重量%を超えると、製造工程において粒子の付着や堆積が生じやすく、また、磁性一成分トナーの流動性や保存性が低下するおそれがある。
【0011】
本発明におけるトナー母粒子の製造方法に特に制限はなく、例えば懸濁重合、乳化重合凝集などによる重合トナー法や、バインダー樹脂、磁性体、離型剤、着色剤、電荷制御剤などを溶融混練したのち、粉砕分級する粉砕トナー法などを用いることができる。これらの中で、トナー母粒子の平均円形度の制御が可能な粉砕トナー法が好適である。
粉砕トナー法により、トナー母粒子を製造する場合、バインダー樹脂、磁性体、離型剤、着色剤、電荷制御剤などを溶融混練する方法に特に制限はなく、例えば、これらの材料をリボン型混合機、二重円錐型混合機、高速混合機、円錐型スクリュー混合機などを用いてあらかじめ混合したのち、バンバリーミキサー、二軸混練押出機などを用いて溶融混練することができる。溶融混練物は、冷却後、粉砕される。用いる粉砕機としては、例えば、イノマイザ、クリプトロン、ターボミルなどの機械式粉砕機、カウンタージェットミルなどの圧縮空気源を利用したジェット式粉砕機などを挙げることができる。粉砕された粒子は、分級することにより粗粒子と微粒子を除いて粒径分布の狭いトナー母粒子とすることが好ましい。分級する方法に特に制限はなく、例えば、気流式分級装置などを用いて分級することができる。
このようにして得られたトナー母粒子の体積平均粒径は5〜10μmである。この体積平均粒径が5μm未満では流動性が悪化し、スリーブ付着が生じたり、リサイクルカートリッジでは、クリーニングブレードが再利用される場合があり、回収不良が生じやすくなり、また10μmを超えると解像度が低下する場合がある。
また、トナー母粒子における粒径5μm以下の個数割合は、好ましくは45%以下、より好ましくは35%以下であり、粒径2μm以下の個数割合は、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下である。
粒径5μm以下の個数割合が45%を超えたり、粒径2μm以下の個数割合が15%を超えたりすると、ブレード融着やチャージアップによる濃度ムラが生じやすくなる。
なお、トナー母粒子の体積平均粒径及び粒径5μm以下の個数割合は、コールター社製「コールターマルチサイザーII」により測定した値であり、粒径2μm以下の個数割合は、シスメックス社製のフロー式粒子像分析装置「FPIA−2100」を用いて測定した値である。
本発明の磁性一成分トナーにおいては、このようにして得られたトナー母粒子に対し、外添剤として流動化剤を添加することができる。この流動化剤としては、例えば粒径数十nmの無機微粒子、具体的にはシリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム、マグネタイト、二硫化モリブデン、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。この流動化剤は、シラン系、チタン系などのカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤などで疎水化処理が施されていてもよい。これらの流動化剤の中では、シリカが好ましく、特に疎水化シリカが好ましい。
【0012】
外添剤としてシリカを用いる場合、その添加量は、トナー母粒子100重量部に対し、好ましくは0.3〜2.0重量部、より好ましくは0.4〜1.2重量部である。外添剤としての疎水化シリカの添加量が0.3重量部未満では流動性に劣り、帯電不足から十分な濃度が得られにくい。また2.0重量部を超えると遊離シリカが多くなって、トナー付着が不均一になりやすく、その結果、スリーブ上での帯電ムラ、特に低温低湿環境下で、さざ波模様の画像不良が生じやすく、さらに、スリーブ汚染、フィルミングが生じやすくなる。
このような本発明の磁性一成分トナーにおいては、画像濃度、解像度に優れ、高湿環境下においても十分な画像濃度を得ることができると共に、リサイクルカートリッジにおいて、スリーブ上における搬送帯電ムラによるさざ波模様の画像濃度ムラが生じにくい。
【実施例】
【0013】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各例における諸特性は、以下に示す方法により求めた。
(1)マグネタイトの一次平均粒径
明細書本文に記載した方法に従って測定する。
(2)トナー母粒子の体積平均粒径
コールター社製「コールターマルチサイザーII」により測定する。
(3)トナー母粒子における粒径5.04μm以下の個数割合
コールター社製「コールターマルチサイザーII」により測定する。
(4)トナー母粒子における粒径2.0μm以下の個数割合
シスメックス社製のフロー式粒子像分析装置「FPIA−2100」により測定する。
(5)トナーの磁化特性
保磁力及び残留磁化を、横河電気社製の直流磁化特性自動記録装置「SK−130」により測定する。
(6)トナー母粒子の流動性
ホソカワミクロン社製のパウダーテスター「PT−R型」にて、60メッシュの篩い上にトナー母粒子20gを静置したのち、30秒間振動させて、篩い上のトナー母粒子重量を測定する。
(7)トナー中のマグネタイト分散
トナー粉砕前の状態で透過型電子顕微鏡(TEM)により、マグネタイト分散状態を下記の基準で評価する。
○:凝集体がほとんど見られない。
△:凝集体がところどころに見られる。
×:凝集体が全面に見られる。
(8)印刷試験
市販の磁性一成分トナーによる現像方式のレーザープリンタ(17枚/分)で、カートリッジは、純正トナーが消費された使用後のカートリッジを市場から入手し、分解、清掃、組み立てたものをリサイクルカートリッジとして用い、印字率5%の画像パターンを連続印字モードで印字して、3000枚毎に6000枚目まで、画像濃度の評価を、下記の方法で行った。
また、温度/湿度が10℃/20%の低温低湿環境下において、3000枚印字した時点でのさざ波模様の濃度ムラを、下記の判定基準で評価すると共に、温度/湿度が30℃/80%の高温高湿環境下において、3000枚印字した時点での濃度均一性を、下記の判定基準で評価した。
さらに、印字試験前と、6000枚印字後のカートリッジ重量から、使用されたトナー量を算出し、印字枚数から、下記の基準でトナー消費量を評価した。
(a)画像濃度
マクベス社製のマクベス濃度計「RD−19」を用いて、画像濃度を測定し、測定値の平均値を求め、下記の基準で画像濃度を評価した。
○:1.45以上
△:1.40以上1.45未満
×:1.40未満
(b)低温低湿環境下におけるさざ波模様の濃度ムラ
下記の判定基準で評価した。
○:目視にて、現像ローラ上及びハーフトーン画像にさざ波模様は確認されない。
△:目視にて、現像ローラ上に少し確認されるが、ハーフトーン画像には確認されず、実用上問題ない。
×:目視にて、現像ローラ上に激しく確認され、ハーフトーン画像全面に確認した。
(c)高温高湿環境下における濃度均一性
下記の判定基準で評価した。
○:濃度ムラは見られない。
△:部分的に濃度ムラが見られるが、実用上問題ない。
×:画像全面的に濃度ムラが見られる。
(d)トナー消費量
印字枚数をトナー消費量で除し、トナー1g当たりの印字枚数を求め、下記の判定基準で評価した。
○:16.5枚/g以上
△:15.5枚/g以上16.5枚/g未満
×:15.5枚/g未満
また、磁性一成分のトナーの製造に用いた各成分は次のとおりである。
(1)バインダー樹脂:スチレン−アクリル共重合体[三井化学社製、商品名「CPR100」]、ガラス転移温度60℃
(2)マグネタイト
A:立方体状、平均粒径=0.29μm、Hc=60Oe、σr=8.7Am2/kg
B:立方体状、平均粒径=0.19μm、Hc=95Oe、σr=9.0Am2/kg
C:球状、平均粒径=0.23μm、Hc=60Oe、σr=5.3Am2/kg
D:球状、平均粒径=0.17μm、Hc=80Oe、σr=5.5Am2/kg
E:八面体状、平均粒径=0.23μm、Hc=120Oe、σr=11.0Am2/kg
F:立方体状、平均粒径=0.35μm、Hc=50Oe、σr=8.0Am2/kg
(Hc=保磁力、σr=残留磁化)
(3)電荷制御剤:オリエント化学社製、商品名「S−34」
(4)離型剤:ポリプロピレンワックス[三洋化成社製、商品名「ビスコール660P」]、融点140℃
(5)疎水性シリカ:キャボット社製、商品名「TS−530」、平均一次粒径7nm、ヘキサメチルジシラザンによる疎水化処理品
【0014】
実施例1
バインダー樹脂としてスチレン−アクリル共重合体「CPR100」50重量部、マグネタイトA23.5重量部、マグネタイトC23.5重量部、電荷制御剤「S−34」0.4重量部及び離型剤「ビスコール660P」2.6重量部をヘルシェンミキサー[三井鉱山(株)]を用いて予備混合し、二軸混練押出機[池貝社製、「PCM30」]を用いて、溶融混練したのち、機械式粉砕機[川崎重工業(株)、クリプトロン]を用いて体積平均粒径8μmに粉砕し、さらに分級装置[日鉄鉱業(株)、エルボージェットEJ−PURO]を用いて粗粉と微粉を分級して、粒度分布が狭いトナー母粒子を得た。
このトナー母粒子について、粒径5.04μm以下の個数割合及び粒径2.0μm以下の個数割合を求めた。その結果を第1表に示す。
次に、このトナー母粒子100重量部に、外添剤として疎水性シリカ「TS530」0.6重量部を添加したのち、ヘンシェルミキサー[三井鉱山(株)]を用いて混合し、さらに目開き100メッシュのスクリーンを備えた振動篩いを通して磁性一成分トナーを得た。
この磁性一成分トナーの性状及び性能を評価した。その結果を第2表に示す。
実施例2〜7及び比較例1〜4
第1表に示す種類と量のマグネタイトを用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、各トナー母粒子を作製したのち、各磁性一成分トナーを製造した。また。評価も実施例1と同様に行った。その結果を第1表及び第2表に示す。
なお、実施例7は、実施例2の分級工程において、微粉側の切れを甘くして、粒径2.0μm以下の個数割合を多くした例である。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
第2表から分かるように、実施例1〜6の磁性一成分トナーは、トナー中のマグネタイト分散、並びに印字試験における画像濃度、トナー消費量、低温低湿環境下でのさざ波模様の濃度ムラ及び高温高湿環境下での濃度均一性のいずれも良好である。
実施例7は、トナー母粒子における2.0μm以下の個数割合が20%と、実施例1〜6の7〜10%に比べて高いため、低温低湿環境下でのさざ波模様の濃度ムラについて若干劣るが、実用上問題はなく、その他については実施例1〜6と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の磁性一成分トナーは、画像濃度、解像度に優れ、低温低湿下のみならず、高温高湿下においても十分な画像濃度を得ることができると共に、リサイクルカートリッジにおいて、スリーブ上における搬送帯電ムラによるさざ波模様の画像濃度ムラが生じにくいなどの特性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともバインダー樹脂と磁性体を含むトナー母粒子を含有する磁性一成分トナーであって、
(a)当該磁性体が、一次平均粒径0.1〜0.3μmの立方体状又は八面体状の磁性体粒子Aと、一次平均粒径0.1〜0.3μmの球状磁性体粒子Bとの重量比9:1〜1:9の混合物であり、かつ磁性体粒子Aと磁性体粒子Bの一次平均粒径の差が0.1μm以下であること、
(b)トナー母粒子における当該磁性体の含有量が30〜70重量%であること、及び
(c)トナー母粒子の体積平均粒径が5〜10μmであること、
を特徴とする磁性一成分トナー。
【請求項2】
トナー母粒子が、粒径2μm以下の個数割合15%以下のものである請求項1に記載の磁性一成分トナー。
【請求項3】
トナー母粒子100重量部に対し、外添剤としてシリカ0.3〜2.0重量部を含有する請求項1又は2に記載の磁性一成分トナー。