説明

磁性粒子を用いた遺伝子導入方法

【課題】新規な遺伝子導入方法の提供
【解決手段】遺伝子導入ベクター(2)と金磁性粒子(1)との複合体(3)を用いて標的細胞(6)に遺伝子を導入する遺伝子導入方法であって、磁場(8)を印加して前記複合体(3)を前記標的細胞(6)の表面に誘導する工程を含む遺伝子導入方法である。前記遺伝子導入ベクター(2)は、ベクター表面に硫黄原子を有するベクターであり、例えば、ウイルスベクターである。前記金磁性粒子(1)は、磁性粒子(5)の表面に金粒子(4)が接合し又は担持された粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子を用いた遺伝子導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物などの細胞における遺伝子発現の調節機構と遺伝子産物であるタンパク質の機能解析は、現在の医薬学、生物学の中心テーマであり、それらの解析のためには動物細胞に目的遺伝子を導入する技術が不可欠である。遺伝子導入方法は、非ウイルスベクターを用いる物理化学的方法とウイルスベクターを用いる生物学的方法とに大別できる。
【0003】
前記物理化学的方法としては、現在遺伝子導入方法の主流を占めている正電荷脂質(カチオニックリポソーム:CL)を用いた「リポフェクション法」があげられる。この方法は、負電荷を帯びたDNAの周りに正電荷を帯びたCLを+/−の静電的相互作用で結合させたCL/DNA複合体を利用する。このCL/DNA複合体がCLを介して負電荷を帯びた細胞表面に吸着され、食作用により細胞内に取り込まれることで遺伝子が導入され、最終的に遺伝子発現に至る。このリポフェクション法は、操作が簡便な上に比較的遺伝子導入効率がよいという利点がある。しかし一方で、血清存在下ではCL/DNA複合体が崩壊してしまうため、生物個体への適用が困難であるという問題点がある。
【0004】
前記生物学的方法であるウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法は、細胞表面のウイルス受容体への吸着、細胞内への侵入といったウイルスの細胞内侵入機構を巧みに利用した方法であって、遺伝子発現効率が極めて高く、また、生体への遺伝子導入にも優れるという利点がある。現在では、細胞や動物個体レベルでの基礎研究を進める上で非常に強力なツールとして用いられている。しかし一方で、ウイルス受容体の発現が無い若しくは少ない細胞、又は、リンパ球、一部の悪性腫瘍及び幹細胞などの重要な標的細胞への遺伝子導入効率が悪いという問題点がある。
【0005】
その他の遺伝子導入方法として、磁性粒子を利用した遺伝子導入方法が提案されている。この方法は、例えば、正電荷ポリマー又は正電荷化合物でコーティングした磁性粒子にDNA若しくはウイルスベクターを結合させて複合体を形成し、この複合体を磁力により細胞表面へ集積させて導入を行う方法である(非特許文献1、特許文献1、2)。
【0006】
他方、前述のような正電荷ポリマー又は正電荷化合物が表面に結合した磁性粒子とは異なり、貴金属粒子が表面に結合した磁性粒子も別途開示されている(特許文献3)。
【非特許文献1】Plank,C.et al.,Biol.Chem.,Vol.384,pp.737−747,2003
【特許文献1】特開2004−81039号公報
【特許文献2】特開2004−129602号公報
【特許文献3】国際公開2004/083124号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の磁性粒子を用いた遺伝子導入方法においては、磁性粒子とDNA又は遺伝子導入ベクターとの結合は、例えば、磁性粒子の表面の正電荷ポリマーとDNAとの結合のように、一般的に、+/−の静電的相互作用による結合が利用されている。しかしながら、例えば、さまざまな環境下での遺伝子導入を達成するためには、前記静電的相互作用以外の力で磁性粒子と遺伝子導入ベクターとを結合させた複合体を用いる遺伝子導入方法が存在することが好ましい。
【0008】
そこで、本発明は、静電的相互作用以外の力で磁性粒子と遺伝子導入ベクターとを結合させた複合体を用いる新規な遺伝子導入方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の遺伝子導入方法は、遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体を用いて標的細胞に遺伝子を導入する遺伝子導入方法であって、磁場を印加して前記複合体を前記標的細胞表面に誘導する工程を含み、前記遺伝子導入ベクターが、ベクター表面に硫黄原子を有するベクターであり、前記金磁性粒子が、磁性粒子の表面に金粒子が接合し又は担持された粒子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らは、磁性粒子を用いた遺伝子導入方法において静電的相互作用以外の力で磁性粒子と遺伝子導入ベクターとを結合させる着想を得て鋭意研究を重ねた。その結果、表面に金粒子が結合された磁性粒子であれば、金原子と硫黄原子とのAu−S結合を利用して前記磁性粒子と遺伝子導入ベクターとを簡便、安全、安定に複合体化でき、この複合体を用いて遺伝子導入できることを見出し本発明に到達した。
【0011】
本発明の遺伝子導入方法は、遺伝子導入ベクターと結合した磁性粒子を磁力により容易に細胞表面に集積させることができるから、好ましくは、遺伝子導入効率を向上できる。また、本発明の遺伝子導入方法であれば、受容体の欠損などの理由によりウイルスベクター単独では遺伝子導入が困難な細胞に対しても、好ましくは、遺伝子導入が可能となる。さらに、本発明の遺伝子導入方法は、好ましくは、in vivoへの適用が可能である。このように、本発明の遺伝子導入方法は、例えば、前述したリポフェクション法やウイルスベクター法の欠点を補填できる遺伝子導入方法である。
【0012】
また、静電的相互作用を利用した従来の磁性粒子を用いた遺伝子導入方法では、磁性粒子をコーティングしている正電荷ポリマー(例えば、ポリエチレンイミン;PEIなど)が、細胞や生体へ傷害性や毒性を示すことが懸念される。それに対し、本発明の遺伝子導入方法は、前述のような正電荷ポリマーを使用せず、静電的相互作用に替えてより安定なAu−S結合を利用しているため、好ましくは、遺伝子導入の安全性を向上できる。
【0013】
さらに、本発明の遺伝子導入方法は、金磁性粒子と遺伝子導入ベクターとの複合体は、例えば、両者を混合するだけで形成でき、また、遺伝子導入のための磁場の印加時間も、例えば、短時間とすることができる。よって、本発明の遺伝子導入方法は、好ましくは、極めて簡便・迅速な操作で行うことができる方法である。
【0014】
さらにまた、本発明の遺伝子導入方法は、好ましくは、硫黄原子を備えるすべての遺伝子導入ベクターに適用できるから、極めて汎用性に優れる。好ましくは、現在使用されているほとんどのウイルスベクターを、本発明の遺伝子導入方法に適用可能できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の遺伝子導入方法において、前記遺伝子導入ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターであることが好ましい。また、前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径は、1〜500nmであることが好ましい。また、前記磁性粒子の平均粒子径は、1nm〜1μmであることが好ましい。
【0016】
本発明は、その他の態様において、遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体の製造方法であって、前記遺伝子導入ベクターと前記金磁性粒子とを混合する工程を含み、前記遺伝子導入ベクターが、ベクター表面に硫黄原子を有するベクターであり、前記金磁性粒子が、磁性粒子の表面に金粒子が接合し又は担持された粒子である前記複合体の製造方法である。本発明の複合体の製造方法において、前記遺伝子導入ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターであってよい。また、前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径は、1〜500nmであることが好ましい。また、前記磁性粒子の平均粒子径は、1nm〜1μmであることが好ましい。
【0017】
本発明は、さらにその他の態様において、遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体であるベクター/金磁性粒子複合体であって、前記遺伝子導入ベクターが、ベクター表面に硫黄原子を有するベクターであり、前記金磁性粒子が、磁性粒子の表面に金粒子が接合し又は担持された粒子である複合体である。本発明のベクター/金磁性粒子複合体において、前記遺伝子導入ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターであってよい。また、前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径は、1〜500nmであることが好ましい。また、前記磁性粒子の平均粒子径は、1nm〜1μmであることが好ましい。
【0018】
本発明は、さらにその他の態様において、本発明の遺伝子導入方法を行うためのキットであって、金磁性粒子を含むキットである。本発明の遺伝子導入キットにおいて、前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径は、1〜500nmであることが好ましい。また、前記磁性粒子の平均粒子径は、1nm〜1μmであることが好ましい。
【0019】
本発明は、さらにその他の態様において、ウイルスベクター導入試薬であって、金磁性粒子を含む試薬である。本発明のウイルスベクター導入試薬において、前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径は、1〜500nmであることが好ましい。また、前記磁性粒子の平均粒子径は、1nm〜1μmであることが好ましい。
【0020】
本発明において「遺伝子導入ベクター」とは、ベクター表面に硫黄原子を有するものであれば特に制限されない。すなわち、本発明における遺伝子導入ベクターには、金磁性粒子の金原子とAu−S結合できる硫黄原子が存在することが必要である。前記遺伝子導入ベクターとしては、例えば、ウイルスベクターがあげられる。ウイルスベクターのほとんどの外皮タンパク質にはシステイン又はメチオニンが含まれるため、ほとんどのウイルスベクターを本発明の遺伝子導入ベクターとして使用できる。本発明において「ウイルスベクター」とは、特に制限されず、ウイルスの細胞へ感染する機構や細胞に維持される機構を利用した遺伝子導入用のベクターをいい、公知の任意のウイルスベクターを含む。前記ウイルスベクターとしては、これらに制限されないが、例えば、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどがあげられる。本発明において遺伝子導入ベクターは、非ウイルスベクターであってもよい。例えば、プラスミドベクターなどであっても、金磁性粒子の金原子とAu−S結合できる硫黄原子が修飾されていれば使用できる。
【0021】
本発明において「Au−S結合」とは、金(Au)原子と硫黄(S)原子との間に生じる結合力による直接的な結合をいう。Au−S結合は、安定で強固な結合を好ましく提供できる。また、本発明において「遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体」とは、遺伝子導入ベクターと金磁性粒子とがAu−S結合により結合したものをいう。
【0022】
本発明において「金磁性粒子」とは、磁性粒子の表面に金粒子が接合若しくは結合し又は担持された粒子をいう。前記磁性粒子は、特に制限されないが、例えば、酸化鉄の粒子などがあげられる。前記酸化鉄は、例えば、磁鉱、マグヘマイト、フェライトなどのFe23を主成分とする磁性酸化物、γ‐Fe23、及び、Fe34などを含む。前記磁性粒子は、また、コバルト、ニッケルなどの酸化物、これらの金属又はこれらの金属と鉄との金属間化合物(例えば、CoPt,FePt)の酸化物、これらの金属の合金(例えば、Co/Ni、Co/Fe、Ni/Feなどの二元合金、Co/Fe/Niなどの三元合金)の酸化物であってもよい。前記磁性粒子のサイズは、細胞への遺伝子導入に使用できる範囲であれば特に制限されず、例えば、ナノ粒子サイズである。前記磁性粒子の平均粒子径としては、例えば1μm以下であって、好ましくは1nm〜1μmであり、より好ましくは1〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。前記磁性粒子の調製方法は、特に制限されず公知の方法で調製できる。例えば、PVS(Physical Vapor Synthesis)法などがあげられる。また、前記磁性粒子は、市販品を使用することもできる。前記金磁性粒子における金粒子のサイズとしては、特に制限されないが、例えば平均粒径が1μm以下であって、好ましくは1〜500nmであり、より好ましくは、1〜200nmである。前記平均粒径の測定方法は特に限定されず、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による写真撮影を利用する方法であってもよい。
【0023】
本発明において「金磁性粒子」は、特に制限されずさまざまな公知の方法で製造できるが、その中でもWO2004/083124に開示される方法で製造されることが好ましい。製造が容易であり、また、生体への安全性が高いと考えられるからである。具体的には、金イオン若しくは金錯体を含有する液に磁性粒子を分散させ又は磁性粒子を与える金属イオンを添加し、次いで、前記液に超音波若しくは電離放射線を照射することで金磁性粒子を製造する方法である。前記金イオン含有液としては、例えば、0.1〜10mMのHAuCl4の水溶液又はアルコール溶液があげられる。この金イオン含有液に、前述の磁性粒子を例えば0.1〜10重量%の濃度で添加して分散させ、超音波若しくは電離放射線を照射する。前記超音波照射としては、例えば、周波数200kHz、出力200Wで、1〜300分間照射することがあげられる。前記電離放射線照射としては、例えば、コバルト60γ線源を用いて、線量率約3kGy/hで1〜18時間照射することがあげられる。前記金磁性粒子における金粒子のサイズは、従来公知の方法で制御できる。例えば、前記金イオン濃度を高くすれば、前記金粒子の粒径を大きくでき、また、前記金イオン濃度を低くすれば、前記金粒子の粒径を小さくできる(例えば、[Mizukoshi,Y et al. Ultrasonics Sonochemistry,vol.12,Issue3,2005,p191−195]参照)。さらに、共存させるポリマーの濃度や、放射線の線量率によっても前記金粒子の大きさを調整できる。
【0024】
本発明において「標的細胞」とは、特に制限されず、任意の細胞であってよい。例えば、生体の器官又は組織の細胞、及び、各種培養細胞などが標的細胞として含まれうる。in vitroの標的細胞の場合、前記標的細胞としては、特に制限されず、例えば、接着性細胞でも浮遊細胞でも使用できる。本発明において標的細胞に導入される「遺伝子」とは、特に制限されず、例えば、任意のDNA又はRNAの配列であって、例えば、タンパク質又は機能性RNA(siRNA、アンチセンスRNA、miRNA、rRNA、tRNAなど)を発現可能な配列などがあげられる。
【0025】
次に、遺伝子導入ベクターとしてウイルスベクターを使用する本発明の遺伝子導入方法の一態様を図1とともに説明する。
【0026】
まず、金磁性粒子1と所望の発現させたい遺伝子を組み込んだウイルスベクター2との複合体3を準備する。前記金磁性粒子1は、金粒子4が磁性粒子5の表面に接合若しくは結合し又は担持された粒子である。前記金磁性粒子1は、上述の通り、公知の方法によって調製可能である。また、前記ウイルスベクターは2、公知の方法によって調製可能であり、あるいは、市販のキットを用いて調製可能である。前記複合体3は、前記金磁性粒子1と前記ウイルスベクター2とを混合するだけで形成できる。例えば、前記金磁性粒子1の分散液に前記ウイルスベクター2を含む液を添加して撹拌して混合するだけでよい。
【0027】
前記撹拌又は混合の温度としては特に制限されないが、例えば4〜37℃であって、好ましくは4〜16℃である。前記撹拌又は混合の時間としては特に制限されないが、例えば1〜60分であって、好ましくは5〜15分である。また、前記金磁性粒子と前記ウイルスベクターとの混合比は特に制限されないが、例えば1μg/mlの前記金磁性粒子あたり1〜50個の前記ウイルスベクターであって、好ましくは1〜5個である。前記複合体3の調製に用いるバッファーは特に制限されず、従来公知のウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法で用いるものを使用できる。
【0028】
次に、調製した前記複合体3を、標的細胞6の培養液7中に添加し、磁場8を印加し、前記複合体3を前記標的細胞6の表面に誘導して集積させる。前記複合体3の添加量としては、特に制限されないが、例えば、最終添加濃度で、100〜10000μg/mlであって、好ましくは100〜5000μg/mlであって、より好ましくは100〜1000μg/mlである。印加する磁場8の強さとしては特に制限されないが、前記複合体3を前記細胞表面に集積できる程度であればよく、例えば、永久磁石などを使用して印加できる。前記磁場8を発生させる磁石としては、特に制限されないが、例えば、表面磁束密度が50〜2000mT、好ましくは100〜1000mT、より好ましくは200〜800mTの磁石を使用できる。前記磁場8の印加時間としては、例えば、例えば5分〜24時間であって、好ましくは5〜120分であって、より好ましくは5〜30分である。このようにして、前記ウイルスベクター2に組み込まれた遺伝子が前記標的細胞6へ導入される。
【0029】
本発明の遺伝子導入方法は、in vitroのみならず、好ましくはin vivo又はex vivoの遺伝子導入に使用できる。したがって、本発明はその他の態様として、遺伝子治療方法であって、本発明の遺伝子導入方法で遺伝子導入を行う工程を含む遺伝子治療方法を提供しうる。
【0030】
さらにその他の態様として、本発明は、遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体であるベクター/金磁性粒子複合体を提供する。前記ベクター/金磁性粒子複合体は、上述した本発明の遺伝子導入方法に使用することができる。前記ベクター/金磁性粒子複合体は、上述のとおり、前記遺伝子導入ベクターと前記金磁性粒子とを混合するだけで製造することができる。したがって、さらにその他の態様として、本発明は、遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体の製造方法を提供する。
【0031】
また、さらにその他の態様として、本発明は、本発明の遺伝子導入方法を行うための遺伝子導入キットであって、金磁性粒子を含む遺伝子導入キットを提供する。本発明の遺伝子導入キットは、さらに、本発明の遺伝子導入方法を説明する取扱説明書を含むことが好ましい。また、本発明の遺伝子導入キットは、遺伝子導入ベクター又は遺伝子導入ベクターを調製するための試薬を含んでもよい。
【0032】
また、上述したとおり、前記金磁性粒子とウイルスベクターとを組み合わせることで、ウイルスベクター単独の遺伝子導入よりも遺伝子効率を向上できる。したがって、さらにその他の態様として、本発明は、ウイルスベクター導入試薬であって、金磁性粒子を含む試薬を提供する。本発明のウイルスベクター導入試薬であれば、ウイルスベクターと混合するだけで前記ベクター/金磁性粒子複合体を形成でき、本発明の遺伝子導入方法により遺伝子導入効率を向上させることができる。
【0033】
以下に実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0034】
金磁性粒子の調製
磁性粒子として、PVS法により製造された市販品Fe23ナノ粒子(登録商標:NanoTek、Iron Oxide,Nanophase Technologies社製、平均粒径23nm)を使用した。1重量%のポリビニルアルコール水溶液50mlに、磁性粒子を5mg、HAuCl4を8.6mg(Au重量で5mg)、2−プロパノールを0.5ml添加し、前記磁性粒子の分散液を調製した。この分散液をガラス製バイアルビン(容量70ml)に封入後、コバルト60γ線源(約7000キュリー)を用いて線量率約3kGy/hで撹拌しながら室温で3時間γ線照射した。次に、前記ガラス製バイアルビンの外部から直径30mm、高さ10mmの円柱磁石(表面磁束密度:445mT)により磁場を印加し24時間静置した。その後、前記バイアルビンの上清を除去したのち、残部に水50mlを加えて金磁性粒子を分散させた。これに前記円柱磁石を用いて再度磁場を印加し、24時間静置し、上清を除去した後、残部に水5mlを加えて金磁性粒子の分散液とした。
【0035】
ウイルスベクターと金磁性粒子との複合体の形成
レポーター遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクター(Ad−GFP)を調製し、このAd−GFP約20000個と前記金磁性粒子100μgとを混合し、Ad−GFP/金磁性粒子複合体(100μg/ml)を得た。
【0036】
遺伝子導入
標的細胞としてB16BL6細胞を使用した。このB16BL6細胞は、アデノウイルスベクターによる遺伝子導入効率が低いことが知られている細胞である。このB16BL6細胞に、前記Ad−GFP/金磁性粒子複合体を最終濃度が10μg/ml又は100μg/mlとなるように添加し、直径30mm、高さ10mmの円柱磁石(表面磁束密度:445mT)を用いて24時間磁場を印加して遺伝子導入を行った。
【0037】
その結果を図2及び図3に示す。図2は、同図に示す条件で遺伝子を導入した細胞の蛍光顕微鏡写真の一例を示す。図3は、GFPの蛍光強度、すなわち、遺伝子発現効率を定量した結果の一例である。これらの図に示すとおり、金磁性粒子を使用しないAd−GFP単独の場合には、磁力の有無に関らずほとんどGFPの発現を導入できなかった。また、前記Ad−GFP/金磁性粒子複合体の濃度が10μg/mlを添加した場合であっても磁場を印加しない場合には、遺伝子発現の効率はウイルスベクター単独と同程度であった。それに対し、前記複合体に磁場を印加すると、遺伝子発現効率が向上した。前記Ad−GFP/金磁性粒子複合体の濃度が100μg/mlの場合であっても、磁場を印加することでさらに遺伝子発現効率が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したとおり、本発明によれば、例えば、ウイルスベクターを簡便かつ安全に導入できるから、例えば、個体レベルへの応用も可能であり、例えば、遺伝子機能解析や遺伝子治療の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の遺伝子導入方法を説明する概略図である。
【図2】図2は、遺伝子導入した結果の一例を示す写真である。
【図3】図3は、遺伝子導入した結果の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1・・・金磁性粒子
2・・・ウイルスベクター
3・・・ウイルスベクター/金磁性粒子複合体
4・・・金粒子
5・・・磁性粒子
6・・・細胞
7・・・培養液
8・・・磁場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体を用いて標的細胞に遺伝子を導入する遺伝子導入方法であって、
磁場を印加して前記複合体を前記標的細胞表面に誘導する工程を含み、
前記遺伝子導入ベクターが、ベクター表面に硫黄原子を有するベクターであり、
前記金磁性粒子が、磁性粒子の表面に金粒子が接合し又は担持された粒子であることを特徴とする遺伝子導入方法。
【請求項2】
前記遺伝子導入ベクターが、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである請求項1記載の遺伝子導入方法。
【請求項3】
前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径が1〜500nmであり、前記磁性粒子の平均粒子径が1nm〜1μmである請求項1又は2に記載の遺伝子導入方法。
【請求項4】
遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体の製造方法であって、
前記遺伝子導入ベクターと前記金磁性粒子とを混合する工程を含み、
前記遺伝子導入ベクターが、ベクター表面に硫黄原子を有するベクターであり、
前記金磁性粒子が、磁性粒子の表面に金粒子が接合し又は担持された粒子であることを特徴とするベクター/金磁性粒子の製造方法。
【請求項5】
前記遺伝子導入ベクターが、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径が1〜500nmであり、前記磁性粒子の平均粒子径が1nm〜1μmである請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
遺伝子導入ベクターと金磁性粒子との複合体であるベクター/金磁性粒子複合体であって、
前記遺伝子導入ベクターが、ベクター表面に硫黄原子を有するベクターであり、
前記金磁性粒子が、磁性粒子の表面に金粒子が接合し又は担持された粒子であることを特徴とするベクター/金磁性粒子複合体。
【請求項8】
前記遺伝子導入ベクターが、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである請求項7記載のベクター/金磁性粒子複合体。
【請求項9】
前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径が1〜500nmであり、前記磁性粒子の平均粒子径が1nm〜1μmである請求項7又は8に記載のベクター/金磁性粒子複合体。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載の遺伝子導入方法を行うためのキットであって、金磁性粒子を含むことを特徴とする遺伝子導入キット。
【請求項11】
前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径が1〜500nmであり、前記磁性粒子の平均粒子径が1nm〜1μmである請求項10記載の遺伝子導入キット。
【請求項12】
ウイルスベクター導入試薬であって、金磁性粒子を含むことを特徴とするウイルスベクター導入試薬。
【請求項13】
前記金磁性粒子における前記金粒子の平均粒子径が1〜500nmであり、前記磁性粒子の平均粒子径が1nm〜1μmである請求項12記載のウイルスベクター導入試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−182921(P2008−182921A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17755(P2007−17755)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】