説明

磁束制御型可変変圧器

【課題】制御電流の調整により負荷電圧を高速且つ連続的に調整できる制御損失を軽減した構造簡単な磁束制御型可変変圧器を提供する。
【解決手段】一対の三脚磁心の中央脚を一括に巻回して一次巻線、二次巻線を巻装し、更に、該一対の三脚磁心の各中央脚のそれぞれに補助巻線を巻回巻装し、同三脚磁心の各外脚のそれぞれに制御巻線を巻回巻装する。それぞれの誘起電圧を打消すように直列接続した補助巻線を一次巻線又は二次巻線に直列に接続する。三脚磁心のそれぞれの両外脚に巻回した制御巻線を、それぞれ誘起電圧を打消すように直列に接続し、それぞれ第一及び第二の制御回路に接続する。第一又は第二の制御回路から制御巻線に制御電流を流すことにより、一対の三脚磁心の主磁束の値を変えることにより、補助巻線の電圧を変化させ、負荷電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁束制御型可変変圧器に関し、従来の変圧器の有する、電圧の変圧、電気回路の絶縁等の基本的な機能に加え、制御電流の調整により二次(負荷)電圧を高速且つ連続的に制御できる機能をもつ磁束制御型可変変圧器に関する。
また、本発明による磁束制御型可変変圧器は、電力系統の変電所や需要家の受電設備の変圧器装置等に適用され、電力系統の電圧変動や自然エネルギー発電出力乃至負荷の変動に対する電圧の安定化に寄与する機器として適用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統における負荷の多様化や自然エネルギー発電装置の増加等に伴い電力系統の電圧変動に柔軟に対応できるフレキシブルな電力設備が求められつつある。
【0003】
図16に通常の変圧器の基本構成を示す。
変圧器の基本特性は、同図の等価回路及びベクトル図に示すように一次巻線16、二次巻線17及び磁心15により定まり、一次側と二次側の電圧・電流の関係はほぼ固定である。
したがって、従来技術における変圧器による電圧変動への対応は、一次側と二次側の電圧の関係に関わる一次巻線と二次巻線の巻数比を、巻線に設けたタップを機械的な接点を用いて変更する(所謂タップ切換機構)ことにより行ってきた。このため、接点部の磨耗や接触不良、動作機構の動作時間遅れなどに伴う保守・性能上の制約があった。
【0004】
機械的な接点を有せず、制御電流の調整により二次(負荷)電圧を高速且つ連続的に制御する機能をもつ可変変圧器の従来技術としては、本出願人が先に提案した鎖交磁束制御形可変変圧器装置(特許文献1)や可変変圧器(特許文献2)、他には電圧調整変圧器(特許文献3)がある。
【0005】
図17は、本出願人が先に提案した鎖交磁束制御形可変変圧器装置の一例を説明する接続図である。
この鎖交磁束制御形可変変圧器装置は、図17に示すように、一次巻線20、二次巻線21、漏洩磁束制御巻線26、主磁束制御巻線27及び捩れ方向に90度回転させて接触したU形カットコア22、23並びに捩れ方向に90度回転させて接触したU形カットコア24、25で構成される。なお、U形カットコア22、23及びU形カットコア24、25のような構造を直交磁心と呼ぶ。
【0006】
この変圧器の二次側電圧Vは、一次巻線20による磁束φ1−1、φ1−2の内、二次巻線21と鎖交するφ1−2の値によって決まる。二次巻線に負荷電流Iが流れるとφ1−2と逆方向に磁束φ2が生じ、φ1−2はφ1−1の磁気回路側へシフトして減少し、二次側電圧は低下する。
【0007】
そこで漏洩磁束制御巻線26に励磁電流Ic1を流すとU形カットコアの接触部28が磁気飽和し、φ1−1の磁気回路の磁気抵抗が大きくなることで、φ1−1、φ1−2の磁束配分が変化するので二次側電圧を上昇させることができる。
無負荷時の場合にあっては、主磁束制御巻線27に励磁電流Ic2を流すことによりU形カットコアの接触部29が磁気飽和し、φ1−2の磁気回路の磁気抵抗が大きくなり、φ1−1、φ1−2の磁束配分が変化するので電圧上昇を抑制することができる。
【0008】
図18は、本出願人が先に提案した可変変圧器の一例を説明する接続図である。
この可変変圧器は、磁心32の磁気回路上に一次巻線30と二次巻線31を巻回し、磁心32の磁気回路上の一部には、窓33を設け、窓の2つの辺部に夫々制御巻線34a、34bを巻回した磁束制御回路で構成される。
【0009】
制御巻線に制御電流Icを流すと、制御巻線の巻数Ncと制御電流Icの積で表わされる起磁力Nc×Ic(アンペアターン)で生じる磁束φcによって主磁束が通る磁心の一部を磁気飽和させることができ、一次巻線又は二次巻線による主磁束の磁気回路の透磁率を低下させ、これにより、変圧器の励磁リアクタンス値が低下するとともに、一次巻線又は二次巻線の漏洩磁束が大きくなり、漏洩リアクタンス値を増加させることができる。
【0010】
即ち、励磁リアクタンスを制御することは、等価回路としてみれば、変圧器の一次側に並列に挿入されたリアクタンスの値が制御されることになり遅れ無効電力が制御される。一次巻線の漏洩リアクタンスを制御することは、等価回路としてみれば、変圧器の一次側に直列に挿入されたリアクタンスの値が制御されることになり、それによって二次巻線電圧Vが制御される。
【0011】
また、二次巻線の漏洩リアクタンスを制御することは、等価回路としてみれば、変圧器の二次側に直列に挿入されたリアクタンスの値が制御されることになり、それによって二次巻線電圧Vが制御される。
【0012】
図19は、電圧調整変圧器の一例を説明する接続図である。
この電圧調整変圧器は、積層された閉磁路を形成する二分割された第一、第二の鉄心(磁心)40、41からなる主鉄心と、同様に二分割されたバイパス鉄心42、43と、これらすべてを囲むように巻かれた一次巻線44と、第一、第二の鉄心40、41を囲むように巻かれた二次巻線45と、第一、第二の鉄心40、41に、直列に、且つ互いに逆方向に同一巻数に巻かれた制御巻線46a、46bと、二分割されたバイパス鉄心42、43に、直列に、且つ互いに逆方向に同一巻数に巻かれたバイパス鉄心制御巻線47a、47bから構成される。
【0013】
制御電流を流さない状態においては、一次巻線44に交流電圧を印加すると、鉄心40、41、42、43には磁束φ1、φ2、φ3、φ4が誘起し、バイパス鉄心42、43によってバイパスした分φ3、φ4だけ主磁束が減少するため、二次電圧もその比率で低下する。
制御巻線47に制御電流Ic2を流すと鉄心42、43の透磁率が低下して磁気抵抗が増加し、バイパスする磁束φ3、φ4が減少するので、二次電圧は上昇する。
【0014】
また、制御巻線46に制御電流Ic1を流すと、第一、第二の鉄心40、41の透磁率が低下して磁気抵抗が増加し、バイパス磁束φ3、φ4が増加するので、二次電圧は低下する。
即ち、制御巻線46又は47に制御電流Ic1又はIc2を流すことにより、バイパス磁束量を加減することができ、主鉄心の磁束、従って二次電圧を可変制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許3343083号公報
【特許文献2】特許3789285号公報
【特許文献3】特開2005−252113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上記の鎖交磁束制御形可変変圧器装置(特許文献1)は、直交磁心構造であるため、磁心構造が複雑となり、また、直交するU形カットコアの磁心接合面において生ずる渦電流発生の対策として、磁心接合面における積層鋼板間の短絡を防止するため、接合面に絶縁フィルムを挿入する必要があり、十分な耐久性を持つ絶縁フィルム材料を確保することは困難となっている。また、絶縁フィルムを介在させると磁気回路の磁気抵抗が増大し、大きなインダクタンスの変化が困難であるため、電圧可変幅が少なくなるという課題がある。
【0017】
また、上記の可変変圧器(特許文献2)は、二次側の電圧を可変させることが可能であるものの、励磁リアクタンス及び漏洩リアクタンスの制御によるため、二次側の電圧変化のためには、遅れ無効電力の変化が伴い、電力損失の増大や力率低下を生ずる課題があった。
また、制御巻線を巻回した窓部周辺の磁路のみを磁気飽和させることから、局所過熱に対する対策が必要であった。
【0018】
また、上記の電圧調整変圧器(特許文献3)は、二次側の電圧を可変させることが可能であるものの、非制御時においては、バイパス鉄心を通過する磁束によって主鉄心を通過する磁束が減少し、通常の変圧器における二次巻線の巻回数に対して、多くの巻回数が必要となるほか、漏洩インピーダンスの増加に伴い、負荷電流による二次電圧低下が懸念される。また、この対策のために例えば、バイパス鉄心制御巻線に常時制御電流を流すことが必要になり、制御損失が増加するなどの問題も懸念される。
【0019】
本発明の目的は、上述のごとき事状に鑑みてなされたもので、磁気回路の構造及び巻線の巻装構造が簡単で、制御電流の調整により二次(負荷)電圧を高速且つ連続的に自動的に補償する機能をもち、しかも、制御装置故障時における運用が簡単で、制御電流を流さない状態から、二次電圧を増加乃至減少する制御が可能な磁束制御型可変変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するために、第1の技術手段は、一対の三脚磁心の両中央脚を一括に巻回して一次巻線及び二次巻線を巻装し、更に、該一対の三脚磁心のそれぞれの中央脚に巻回して補助巻線を巻装し、それぞれの補助巻線を当該補助巻線の誘起電圧を打消すように直列接続し、前記一対の三脚磁心のそれぞれの磁心の両外脚のそれぞれに巻回して制御巻線を巻装し、一方の磁心の両外脚に巻装した第一の制御巻線及び第二の制御巻線を対とし、他方の磁心の両外脚に巻装した第三の制御巻線及び第四の制御巻線を対とし、それぞれの対の制御巻線を当該制御巻線に誘起する電圧を打消すように直列接続し、前記直列接続した補助巻線を前記一次巻線又は二次巻線に直列に接続し、前記直列接続した第一の制御巻線及び第二の制御巻線並びに第三の制御巻線及び第四の制御巻線はそれぞれ第一及び第二の制御回路に接続され、該第一又は第二の制御回路から第一の制御巻線及び第二の制御巻線又は第三の制御巻線及び第四の制御巻線に流す制御電流を調整することにより前記補助巻線に誘起する電圧を制御して二次巻線の端子電圧を制御する磁束制御型可変変圧器を特徴とする。
【0021】
第2の技術手段は、第1の技術手段の磁束制御型可変変圧器において、前記一次巻線に前記補助巻線を接続すると共に該一次巻線の他端に前記二次巻線を接続し、該一次巻線を分路巻線、該二次巻線を直路巻線として単巻変圧器を構成とすることを特徴とする。
【0022】
第3の技術手段は、前記第1又は第2の技術手段の磁束制御型可変変圧器において、前記一対の三脚磁心を並設し、両磁心の間に非磁性のスペーサを介在させ、前記一次巻線及び二次巻線の巻装により該スペーサを前記一対の磁心の間に挟んで構成することを特徴とする。
【0023】
第4の技術手段は、前記第1又は第2の技術手段の磁束制御型可変変圧器において、前記一対の三脚磁心の両中央脚に巻装する一次巻線及び二次巻線の巻装において、一対の三脚磁心のそれぞれの中央脚に一次巻線及び二次巻線をそれぞれ均等に巻回し、各中央脚に巻回した一次巻線および二次巻線をそれぞれ直列に接続して巻装することを特徴とする。
【0024】
第5の技術手段は、前記第1〜第4のいずれかの技術手段の磁束制御型可変変圧器において、前記第1及び第2の制御回路から直流制御電流を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、磁気回路の構造及び巻線の巻装構造が簡単で、制御損失が少なく、制御電流の調整により二次(負荷)電圧を高速且つ連続的に制御可能な磁束制御型可変変圧器が実現できる。制御電流を流さない状態から、第一又は第二の制御回路を動作させることにより簡単に二次電圧を増加乃至減少することができる。また、磁気回路の構成は通常の変圧器と変わりはなく、高調波歪を増大することがない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による磁束制御型可変変圧器の磁気回路および巻線構成の一例を示す図である。
【図2】本発明による磁束制御型可変変圧器の基本的な接続構成例を示す図である。
【図3】図2に示す磁束制御型可変変圧器の等価回路を示す図である。
【図4】本発明による磁束制御型可変変圧器の動作を説明する図である。
【図5】本発明による磁束制御型可変変圧器の動作を説明する等価回路及びベクトル図である。
【図6】本発明による磁束制御型可変変圧器の動作例を説明する図である。
【図7】本発明による磁束制御型可変変圧器の動作例を説明する等価回路及びベクトル図である。
【図8】本発明による磁束制御型可変変圧器の他の動作例を説明する等価回路及びベクトル図である。
【図9】磁束制御型可変変圧器の制御特性例を示す図である。
【図10】本発明による磁束制御型可変変圧器の他の接続構成例を示す図である。
【図11】図10に示す磁束制御型可変変圧器の等価回路を示す図である。
【図12】本発明による磁束制御型可変変圧器の別の接続構成例を示す図である。
【図13】図12に示す磁束制御型可変変圧器の等価回路を示す図である。
【図14】本発明による磁束制御型可変変圧器の磁心の構成例を示す構成図である。
【図15】本発明による磁束制御型可変変圧器の他の巻線の巻装構成を説明する図である。
【図16】従来の変圧器の一例を示す回路図である。
【図17】従来例の鎖交磁束制御形可変変圧器装置を示す接続図である。
【図18】従来例の可変変圧器を示す接続図である。
【図19】従来例の電圧調整変圧器を示す接続図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は本発明による磁束制御型可変変圧器の磁気回路および巻線構成の一例を示す基本構成図である。
本図により、本発明の磁束制御型可変変圧器の磁気回路および巻線構成を説明する。
【0029】
磁路構成が同一の、第一の三脚磁心1と第二の三脚磁心2を並設する。
三脚磁心1及び2の中央脚を一括に取り囲むように一次巻線3を巻回し、一次巻線と同様に、三脚磁心1及び2の中央脚を一括に取り囲むように二次巻線4を一括に巻回する。
【0030】
三脚磁心1の中央脚には第一の補助巻線5aを巻回し、三脚磁心2の中央脚には第二の補助巻線5bを巻回する。
三脚磁心1の外脚のそれぞれには、第一制御巻線6aと第二制御巻線6bを巻回し、三脚磁心2の外脚のそれぞれには、第三制御巻線7aと第四制御巻線7bを巻回した構成である。
【0031】
ここで、一次巻線、二次巻線は基本的に交流電源回路に接続され、第一、第二制御巻線及び第三、第四制御巻線は制御回路に接続される。また、補助巻線は一次巻線又は二次巻線に直列に接続される。以下の説明では、磁心に生じる交流磁束を総称して主磁束と言い、制御回路から制御巻線に供給される直流制御電流により生じる磁束を制御磁束と言う。
図1に示す例では、第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5bは、主磁束により各々の補助巻線に生ずる誘起電圧が互いに打ち消されるように、二次巻線4とそれぞれ直列に接続する。
【0032】
図2は、本発明による磁束制御型可変変圧器の基本構成の一例を示す接続図である。前記、三脚磁心1の外脚に巻回した、第一制御巻線6aと第二制御巻線6bを主磁束により各々の制御巻線に生ずる誘起電圧が互いに打ち消されるように、各々の制御巻線を直列に接続して第一制御回路8aに接続する。
また、三脚磁心2の外脚に巻回した、第三制御巻線7aと第四制御巻線7bは、同様に、制御巻線に生ずる誘起電圧が互いに打ち消されるように、各々の制御巻線を直列に接続して第二制御回路8bに接続する。
【0033】
一次巻線3に交流電圧Vを印加すると、三脚磁心1の中央脚には磁束φ1が誘起し、外脚それぞれには1/2φ1の磁束が分流する。同様に、三脚磁心2の中央脚には磁束φ2が誘起し、外脚それぞれには1/2φ2の磁束が分流する。
制御を行わない場合は、磁束φ1及びφ2は等しくなる。
【0034】
一方、制御回路8aより第一制御巻線6a及び第二制御巻線6bに制御電流Ic1を流すと、三脚磁心には制御巻線の巻数と制御電流Ic1の積で表わされる起磁力(アンペアターン)で生じる制御磁束φc1が三脚磁心の外周部を還流し、磁気抵抗が増加する。制御磁束φc1が還流する磁路は、磁束φ1の磁路と共通磁路であるため、磁束φ1が通りにくくなり、三脚磁心1及び三脚磁心2において、磁束φ1及び磁束φ2の磁束分担が制御される。
【0035】
同様に、制御回路8bより第三制御巻線7a及び第四制御巻線7bに制御電流Ic2を流すと、制御磁束φc2が三脚磁心の外周部を還流する。制御磁束φc2が還流する磁路は、磁束φ2の磁路と共通磁路であるため、磁束φ2が通りにくくなり、三脚磁心1及び三脚磁心2において、磁束φ1及び磁束φ2の磁束分担が制御される。
【0036】
制御電流により、三脚磁心1及び三脚磁心2における磁束分担が変化すると、二次巻線4と直列に接続した第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5bの誘起電圧が変化する。
第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5bに誘起する電圧位相は、互いに逆向きであることから、磁束分担の変化即ち誘起電圧の変化に伴い、直列に接続した二次端子電圧(二次巻線4、第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5bの誘起電圧の和)は制御電流に応じて変化することになる。
【0037】
即ち、制御電流の制御により、二次端子電圧を制御することが可能となる。なお、負荷の増減による二次端子電圧の制御も基本的に変わりなく、負荷電流による磁束量の変化のみが影響するため、若干の電圧可変幅の変化に影響するのみである。
【0038】
図3は、図2に示した構成の等価回路を示したものであり、‖印部分は2組の三脚磁心の配列記号を示し、一次巻線3及び二次巻線4は、2組の三脚磁心1及び2に巻回し、第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5bは、それぞれの三脚磁心に巻回したことを示す。また、第一制御巻線6a及び第二制御巻線6bは、三脚磁心1に巻回して第一の制御回路8aに接続し、第三制御巻線7a及び第四制御巻線7bは、三脚磁心2に巻回して第二の制御回路8bに接続していることを示す。
【0039】
図4は、本発明の磁束制御型可変変圧器の動作を説明するもので、前記図2の接続図を簡略化し、非制御持の磁束の様子を示したものである。
また、図5(a)は、非制御時の電圧イメージ例を示し、(b)は非制御時の等価回路図を示し、(c)は非制御時の電圧電流ベクトル図を示した図である。
【0040】
図4において、一次巻線3に交流電圧Vを印加すると、三脚磁心1の中央脚には磁束φ1が誘起し、外脚それぞれには1/2φ1の磁束が分流する。同様に、三脚磁心2の中央脚には磁束φ2が誘起し、外脚それぞれには1/2φ2の磁束が分流する。このとき磁束φ1及びφ2は等しくなる。
【0041】
図5(a)に示すように、一次巻線に交流電圧Vを印加しているため、二次端子には交流電圧Vが誘起する。二次端子電圧Vは、二次巻線電圧Vn2、第一の補助巻線電圧Vn3及び第二の補助巻線電圧Vn4の和となるが、第一の補助巻線電圧Vn3と第二の補助巻線電圧Vn4は同一且つ逆位相であることから、二次端子電圧Vと二次巻線電圧Vn2は等しくなる。
【0042】
図6は、本発明の磁束制御型可変変圧器において、制御時の動作の一例を説明するもので、前記図2の接続図を簡略化し、第一制御巻線6a及び第二制御巻線6bに制御電流Ic1を流したときの磁束の様子を示したものである。
また、図7(a)は、上述の制御電流Ic1を流したときの電圧イメージを示し、(b)は、その際の等価回路図を示し、(c)は、同その際の電圧電流ベクトル図の一例を示した図である。
【0043】
図6において、一次巻線3に交流電圧Vを印加すると、三脚磁心1の中央脚には磁束φ1が誘起し、外脚それぞれには1/2φ1の磁束が分流する。同様に、三脚磁心2の中央脚には磁束φ2が誘起し、外脚それぞれには1/2φ2の磁束が分流する。制御電流を流さない状態では、磁束φ1及びφ2は等しい状態である。
【0044】
ここで、制御回路8aより第一制御巻線6a及び第二制御巻線6bに制御電流Ic1を流すと、三脚磁心1には制御巻線の巻数と制御電流Ic1の積で表わされる起磁力(アンペアターン)で生じる制御磁束φc1が三脚磁心の外周部を還流し、磁気抵抗が増加する。制御磁束φc1が還流する磁路は、磁束φ1の磁路と共通磁路であるため、磁束φ1が通りにくくなり、三脚磁心1及び三脚磁心2における磁束分担が制御され、三脚磁心1の磁束φ1が減少し、三脚磁心2の磁束φ2が増加することになる。
【0045】
このとき、図7(a)に示すように、一次巻線への交流電圧V印加に伴う二次巻線誘起電圧Vn2は、非制御時の値と同一となるものの、制御による磁束φ1の減少に伴い、第一の補助巻線電圧Vn3が低下し、さらに磁束φ2の増加に伴い、第二の補助巻線電圧Vn4が上昇する。
【0046】
二次端子電圧Vは、二次巻線電圧Vn2、第一の補助巻線電圧Vn3及び第二の補助巻線電圧Vn4の和であることから、第一制御巻線6a及び第二制御巻線6bに制御電流Ic1を流す制御時の二次端子電圧Vは、非制御時の端子電圧である二次巻線電圧Vn2と比較して上昇する。
【0047】
同様に、図8に示すように、制御回路8bより第三制御巻線7a及び第四制御巻線7bに制御電流Ic2を流すと、制御により磁束φ2が減少し、磁束φ1が増加し、それに伴い、第一の補助巻線電圧Vn3が上昇し、さらに第二の補助巻線電圧Vn4が低下する。
【0048】
これにより、第三制御巻線7a及び第四制御巻線7bに制御電流Ic2を流す制御時の二次端子電圧Vは、非制御時の端子電圧である二次巻線電圧Vn2と比較して低下する。
【0049】
図9は、本発明による磁束制御型可変変圧器の負荷時の制御特性例を示したもので、縦軸は一次端子電圧を基準とした二次端子電圧、横軸は制御電流Icを表している。
【0050】
直流制御電流Icがゼロの場合の電圧値を中心として、制御電流Ic1を増加させることにより二次端子電圧を上昇させることができ、制御電流Ic2を増加させることにより二次端子電圧を低下させることができる。
なお、図9において、制御電流ゼロ時における二次端子電圧の低下は、負荷電流が流れることによるインピーダンスドロップ分である。
【0051】
なお、電圧の最大可変幅は第一の補助巻線数及び第二の補助巻線数を設定することにより、自由に設定できる。
【実施例2】
【0052】
図10は、本発明による磁束制御型可変変圧器の他の接続構成の例を示す図である。図11は、図10に示した構成の等価回路を示したものである。
【0053】
この実施例2は、図10及び図11に示すように、一次巻線3に、三脚磁心1に巻回した第一補助巻線5aと、三脚磁心2に巻回した第二補助巻線5bを直列に接続する。
【0054】
一次端子(一次巻線3、第一の補助巻線5a並びに第二の補助巻線5bを直列に接続)に交流電圧Vを印加すると、三脚磁心1の中央脚には磁束φ1が誘起し、外脚それぞれには1/2φ1の磁束が分流する。同様に、三脚磁心2の中央脚には磁束φ2が誘起し、外脚それぞれには1/2φ2の磁束が分流する。
【0055】
制御回路8aより第一制御巻線6a及び第二制御巻線6bに制御電流Ic1を流すと、三脚磁心には制御巻線の巻数と制御電流Ic1の積で表わされる起磁力(アンペアターン)で生じる制御磁束φc1が三脚磁心の外周部を還流し、磁気抵抗が増加する。制御磁束φc1が還流する磁路は、磁束φ1の磁路と共通磁路であるため、磁束φ1が通りにくくなり、三脚磁心1及び三脚磁心2において、磁束φ1及び磁束φ2の磁束分担が制御される。
【0056】
同様に、制御回路8bより第三制御巻線7a及び第四制御巻線7bに制御電流Ic2を流すと、制御磁束φc2が三脚磁心の外周部を還流する。制御磁束φc2が還流する磁路は、磁束φ2の磁路と共通磁路であるため、磁束φ2が通りにくくなり、三脚磁心1及び三脚磁心2において、磁束φ1及び磁束φ2の磁束分担が制御される。
【0057】
磁束分担の変化は、一次端子へ印加した電圧Vに対する一次巻線3、第一の補助巻線5a並びに第二の補助巻線5bの各巻線の電圧分担の変化となって磁束量自体も制御されるため、二次巻線の誘起電圧も制御電流に応じて変化することになる。
【0058】
即ち、制御電流の制御により、二次側の電圧を制御することが可能となる。
【実施例3】
【0059】
図12は、本発明による磁束制御型可変変圧器の別の接続構成の例を示す接続図である。図13は、図12に示した構成の等価回路を示したものである。
【0060】
この実施例3は、図12及び図13に示すように、直路巻線9と分路巻線10で構成した単巻変圧器構成となっており、三脚磁心1に巻回した第一補助巻線5aと、三脚磁心2に巻回した第二補助巻線5bを直路巻線9及び分路巻線10で構成された主巻線に直列に接続する。
【0061】
一次側端子(直路巻線9及び分路巻線10で構成された主巻線、第一の補助巻線5a並びに第二の補助巻線5bを直列に接続した巻線の端子)に交流電圧Vを印加すると、三脚磁心1の中央脚には磁束φ1が誘起し、外脚それぞれには1/2φ1の磁束が分流する。同様に、三脚磁心2の中央脚には磁束φ2が誘起し、外脚それぞれには1/2φ2の磁束が分流する。
【0062】
制御回路8aより第一制御巻線6a及び第二制御巻線6bに制御電流Ic1を流すと、三脚磁心には制御巻線の巻数と制御電流Ic1の積で表わされる起磁力(アンペアターン)で生じる制御磁束φc1が三脚磁心の外周部を還流し、磁気抵抗が増加する。制御磁束φc1が還流する磁路は、磁束φ1の磁路と共通磁路であるため、磁束φ1が通りにくくなり、三脚磁心1及び三脚磁心2において、磁束φ1及び磁束φ2の磁束分担が制御される。
【0063】
同様に、制御回路8bより第三制御巻線7a及び第四制御巻線7bに制御電流Ic2を流すと、制御磁束φc2が三脚磁心の外周部を還流する。制御磁束φc2が還流する磁路は、磁束φ2の磁路と共通磁路であるため、磁束φ2が通りにくくなり、三脚磁心1及び三脚磁心2において、磁束φ1及び磁束φ2の磁束分担が制御される。
【0064】
制御電流により、三脚磁心1及び三脚磁心2における磁束分担が変化すると、分路巻線10と直列に接続した第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5b電圧分担が変化する。
第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5bに誘起する電圧位相は、互いに逆向きであることから、磁束分担の変化即ち補助巻線電圧分担の変化となり、該補助巻線を直列に接続した二次端子電圧(分路巻線10、第一の補助巻線5a及び第二の補助巻線5bの誘起電圧の和)は制御電流に応じて変化することになる。
【0065】
図14は、本発明の磁束制御型可変変圧器を構成する三脚磁心の構成例を示し、同図(a)は積層鋼板により構成した例、(b)はカットコアを用いて構成した例を示す。
これらの一対の三脚磁心に各巻線を巻装する場合、それぞれの三脚磁心の中央脚に補助巻線が、同外脚に制御巻線が巻装されるので、両磁心の間にこれらの巻線が介在できるスペースを確保する必要がある。そこで、両磁心の間に非磁性材料のスペーサを介在させ、一次巻線、二次巻線を両磁心の中央脚部に一括に巻回して巻装した状態では、該スペーサが両磁心の間に挟まれて磁束可変型可変変圧器が一体化される。
【0066】
カットコアを用いた構成は、高磁束密度鋼板を適用したカットコアが使用できることから、コアの設計磁束密度を高くすることができ、機器のコンパクト化が図れるとともに、低コストの電磁機器を実現することができる。
【実施例4】
【0067】
図15は、従来の変圧器と同様な巻線の巻装構造により本発明の磁束制御型変圧器を構成した場合の略図である。
【0068】
図1において、一対の三脚磁心1、2の中央脚を一括に取り囲むように巻回して巻装している一次巻線及び二次巻線を、三脚磁心1、2のそれぞれの中央脚部に均等に巻回して巻装し、それぞれの中央脚に巻回した一次巻線3、3′、二次巻線4、4′をそれぞれ直列接続して一次巻線、二次巻線とするものである。この巻装構成は、従来の変圧器における巻線の巻装構造と同じであり、簡単に巻装することができる。
【0069】
両磁心の中央脚の一次巻線3、3′、二次巻線4、4′は原則としてそれぞれ同じ巻回数で巻装されるので、両磁心に対して同じ起磁力(アンペアターン)を与える。この構成は、図3の等価回路と符合するものである。
【0070】
制御巻線の電流がゼロの非制御状態の場合、両磁心で形成する磁気回路における磁束の様相は、図4に示す場合と同様であり、第一及び第二の補助巻線の誘起電圧は互いに打消しあってゼロである。
【0071】
一方、第一、第二の制御巻線又は第三、第四の制御巻線に制御回路から制御電流が流されると、制御磁束が一方の磁心を還流し、当該磁心で形成される磁気回路の磁気抵抗が増加し、当該磁心の中央脚に与えられている起磁力による主磁束が減少する。他方の磁心においては、中央脚に同じ起磁力が与えられており、磁気抵抗の増加が無いので、主磁束の減少は無く、両磁心における磁束の様相は略図6と同様になり、直列接続された第一及び第二の補助巻線の誘起電圧が変化し、直列に接続した補助巻線端子間に電圧が生じる。
【0072】
本例では、図1の例のように一対の三脚磁心の中央脚に一次巻線及び二次巻線が一括して巻回されてないので、両三脚磁心の間にスペーサを挟んで一体化する必要がなく、簡単な構造により磁束制御型可変変圧器を構成でき、設計の自由度が向上する。
なお、上記の他、この発明の要旨を逸しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…第一の三脚磁心、2…第二の三脚磁心、3…一次巻線、4…二次巻線、5(5a,5b)…第一及び第二補助巻線、6(6a,6b)…第一及び第二制御巻線、7(7a,7b)…第三及び第四制御巻線、8(8a,8b)…第一及び第二制御回路、9…直列巻線、10…分路巻線、11…カットコア、15…磁心、16…一次巻線、17…二次巻線、20…一次巻線、21…二次巻線、22…第一磁気回路の第二U形カットコア、23…第一磁気回路の第一U形カットコア、24…第二磁気回路の第三U形カットコア、25…第二磁気回路の第四U形カットコア、26…漏洩磁束制御巻線、27…主磁束制御巻線、28…第一磁気回路のカットコア接触面、29…第二磁気回路のカットコア接触面、30…一次巻線、31…二次巻線、32…磁心、33…磁心部に設けた窓、34(34a,34b)…制御巻線、35…制御回路、40…第一の鉄心(主鉄心)、41…第二の鉄心(主鉄心)、42…第一のバイパス鉄心、43…第二のバイパス鉄心、44…一次巻線、45…二次巻線、46(46a,46b)…制御巻線、47(47a,47b)…バイパス鉄心制御巻線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の三脚磁心の両中央脚を一括に巻回して一次巻線及び二次巻線を巻装し、更に、該一対の三脚磁心のそれぞれの中央脚に巻回して補助巻線を巻装し、それぞれの補助巻線を当該補助巻線の誘起電圧を打消すように直列接続し、
前記一対の三脚磁心のそれぞれの磁心の両外脚のそれぞれに巻回して制御巻線を巻装し、一方の磁心の両外脚に巻装した第一の制御巻線及び第二の制御巻線を対とし、他方の磁心の両外脚に巻装した第三の制御巻線及び第四の制御巻線を対とし、それぞれの対の制御巻線を当該制御巻線に誘起する電圧を打消すように直列接続し、
前記直列接続した補助巻線を前記一次巻線又は二次巻線に直列に接続し、
前記直列接続した第一の制御巻線及び第二の制御巻線並びに第三の制御巻線及び第四の制御巻線はそれぞれ第一及び第二の制御回路に接続され、該第一又は第二の制御回路から第一の制御巻線及び第二の制御巻線又は第三の制御巻線及び第四の制御巻線に流す制御電流を調整することにより前記補助巻線に誘起する電圧を制御して二次巻線の端子電圧を制御することを特徴とする磁束制御型可変変圧器。
【請求項2】
前記一次巻線に前記補助巻線を接続すると共に該一次巻線の他端に前記二次巻線を接続し、該一次巻線を分路巻線、該二次巻線を直路巻線として単巻変圧器を構成とすることを特徴とする請求項1に記載の磁束制御型可変変圧器。
【請求項3】
前記一対の三脚磁心を並設し、両磁心の間に非磁性のスペーサを介在させ、前記一次巻線及び二次巻線の巻装により該スペーサを前記一対の磁心の間に挟んで構成することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁束制御型可変変圧器。
【請求項4】
前記一対の三脚磁心の両中央脚に巻装する一次巻線及び二次巻線の巻装において、一対の三脚磁心のそれぞれの中央脚に一次巻線及び二次巻線をそれぞれ均等に巻回し、各中央脚に巻回した一次巻線および二次巻線をそれぞれ直列に接続して巻装することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁束制御型可変変圧器。
【請求項5】
前記第1及び第2の制御回路から直流制御電流を供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁束制御型可変変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−146526(P2011−146526A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6047(P2010−6047)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)