説明

磁気センサおよび物品位置推定装置

【課題】より単純なセンサを用いてRFIDタグ(物品)の2次元平面上の位置を推定できるようにする。
【解決手段】円周上の磁場の余弦荷重された1次フーリエ係数を算出する第1センサ1と、円周上の磁場の正弦荷重された1次フーリエ係数を算出する第2センサ2とを備える。
第1センサ1は、円周上に配置される複数のループコイルC1〜C16を有し、各ループコイルC1〜C16が配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルC1〜C16の巻き数がcosθに比例し、該cosθの値が負の位置にあるループコイルC1〜C4,C14〜C16は逆巻きとし、各ループコイルC1〜C16が一本の線材5により結線されている。第2センサ2は、第1センサ1を90度回転させて第1センサ1と実質的に同一平面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグの位置を推定するのに好適な磁気センサおよび物品位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品を識別・管理するのに微小な無線チップを搭載したRFID(Radio Frequency Identification)タグが利用されている。RFIDタグは、内部のメモリにIDなどの情報を保有し、電波や電磁波で読み取り装置と交信する。RFIDタグには、内部電池を備えたアクティブタグや、読み取り装置のアンテナからの非接触電力伝送により電池を持たずに半永久的に利用可能なパッシブタグがある。
【0003】
物品を識別・管理するシステムの例として、例えば図書館において書籍に取り付けたRFIDタグと本棚に配置したIC読取装置を用いて、書籍の所在を把握する書籍管理システムなどがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
RFIDタグ(物品)の位置を正確に推定する技術としては、識別無線タグからの信号強度と距離を関連付けたテーブルを予め用意し、これを参照して識別無線タグ検索装置から識別無線タグまでの距離を推定し、3点の距離推定値から2次元平面上の識別無線タグの位置を推定する手法などがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−228146号公報
【特許文献2】特開2004−294403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に記載の技術は、2次元平面上に3つの識別無線タグ検索装置を配置し、3点の距離推定値を得て2次元平面上での識別無線タグの位置を推定する方法となっている。しかし、この方法の場合、3つの識別無線タグ検索装置を用意する必要があるため、設置場所の確保やシステムの大型化、コストの増加などの不都合がある。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、より単純なセンサを用いてRFIDタグ(物品)の2次元平面上の位置を推定できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気センサは、円周上の磁場の余弦荷重された1次フーリエ係数を算出するための第1センサと、円周上の磁場の正弦荷重された1次フーリエ係数を算出するための第2センサとを備えるものである。
第1センサは、円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がcosθに比例し、該cosθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出される。
また、第2センサは、第1センサの円周と同一径の円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がsinθに比例し、該sinθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出され、第1センサと実質的に同一平面に形成されている。
【0009】
また、本発明の物品位置推定装置は、第1センサと第2センサを有する磁気センサと、読み取り装置と、演算処理装置と、を備えるものである。
磁気センサの第1センサは、円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がcosθに比例し、該cosθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出される。
磁気センサの第2センサは、第1センサの円周と同一径の円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がsinθに比例し、該sinθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出され、該第1センサと実質的に同一平面に形成されている。
また、読み取り装置は、RFIDタグにID情報を出力し、前記ID情報に該当するRFIDタグからの応答信号を受信する。
さらに、演算処理装置は、第1センサの出力を基に余弦荷重された1次フーリエ係数を算出する第1フーリエ係数取得部と、第2センサの出力を基に正弦荷重された1次フーリエ係数を算出する第2フーリエ係数取得部と、第1フーリエ係数取得部から出力された1次フーリエ係数と、第2フーリエ係数取得部から出力された1次フーリエ係数との比を算出し、1次フーリエ係数の比に基づいて、前記読み取り装置で応答信号が受信されたRFIDタグの当該磁気センサが含まれる平面上での偏角を推定する演算処理部と、を有する。
そして、読み取り装置が演算処理装置から指定されたID情報に該当するRFIDタグから応答信号を受信して演算処理装置の演算処理部へ送出し、磁気センサの第1センサおよび第2センサは、RFIDタグが出力する応答信号に伴い生じる磁場の変化を検出して演算処理装置の第1フーリエ係数取得部および第2フーリエ係数取得部へ送出する。
【0010】
本発明においては、円周上に複数のループコイルを配置し、かつ各ループコイルが配置された位置の偏角θに従い、各ループコイルの巻き数をcosθまたはsinθに比例させるようにして第1センサおよび第2センサを形成している。
このような構造の第1センサと第2センサから構成される磁気センサにより、各センサからの出力を検出して円周上の磁場のフーリエ係数(余弦荷重の和、正弦荷重の和として表される値)を直接得、特定のRFIDタグの磁気センサが含まれる2次元平面上での位置を推定できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、円周上にループコイルが配置された第1センサと第2センサとからなる簡単な構造の磁気センサを用いて、RFIDタグ(物品)の2次元平面上の位置を推定できる。また磁気センサの構造が単純であるので、この磁気センサを用いて物品位置推定装置を安価に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る物品位置推定装置の全体像を示す外観図である。
【図2】RFIDタグが発生する磁場を説明するための概略図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る物品位置推定装置に用いられる磁気センサを示す外観図である。
【図4】図3の磁気センサに配置されたフェライトコアの側面図である。
【図5】Aは、第1センサにおける銅線の巻回手順(前半)、Bは、第1センサにおける銅線の巻回手順(後半)を説明するための模式図である。
【図6】図3の磁気センサを構成する第1センサにおける銅線の巻き数および巻回方向の説明図である。
【図7】図3の磁気センサを構成する第2センサにおける銅線の巻き数および巻回方向の説明図である。
【図8】物品位置推定装置の詳細構成例を示すブロック図である。
【図9】リーダの内部構成例を示すブロック図である。
【図10】RFIDタグの内部構成を示すブロック図である。
【図11】指定したRFIDタグの位置推定処理を示すフローチャートである。
【図12】物品位置推定装置が備えるGUIの説明図である。
【図13】位置推定結果の一例を示すグラフである。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る磁気センサ(第1例)の説明図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係る磁気センサ(第2例)の説明図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態に係る物品位置推定装置の全体像を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照しながら説明する。説明は下記項目の順に行う。
1.第1の実施の形態(磁気センサを構成する第1センサと第2センサとで、フェライトコアを共用した例)
2.第2の実施の形態(磁気センサを構成する第1センサと第2センサとで、フェライトコアを共用しない例)
3.第3の実施の形態(2つの磁気センサを用いてRFIDタグの3次元位置を推定する例)
4.応用例
【0014】
<1.第1の実施の形態>
[物品位置推定装置の全体構成]
本発明の第1の実施の形態は、1つの磁気センサを使用して、探索対象のRFIDタグの位置を推定する手法を実現するものである。磁気センサを構成する第1センサと第2センサとで、フェライトコア(鉄芯)を共用して所定位置にコイルを形成した構成としてある。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る物品位置推定装置の全体像を示す外観図である。
RFIDタグの位置を推定するための物品位置推定装置10は主に、磁気センサ3、読み取り装置(以下、「リーダ」と称する)4、リーダ4に接続されたリーダアンテナ(図示略)が埋め込まれたリーダアンテナ埋込み板13、コンピュータ20、表示装置30を備える。
【0016】
磁気センサ3は、後述する第1センサ1と第2センサ2から構成され、リーダアンテナ埋込み板13に埋め込むか、もしくは磁気センサ3の上に天板12を設置し、その天板12の上にRFIDタグ11−1〜11−3を置くようにする。磁気センサ3をリーダアンテナ埋込み板13に埋め込んだ場合、RFIDタグを当該リーダアンテナ埋込み板13の上に置けばよいので、天板12は不要である。本実施の形態では、下の磁気センサ3が見やすいよう天板12にアクリル板を用いているが、アクリル板に限るものではない。以下では、RFIDタグ11−1〜11−3を総称する場合「RFIDタグ11」という。
【0017】
リーダ4は、コンピュータ20から指定されたID情報(識別情報)を、リーダアンテナ埋込み板13に埋め込まれたリーダアンテナを介して全てのRFIDタグに送信し、特定のRFIDタグからの応答信号を検出するものである。
【0018】
本実施の形態のRFIDタグ11−1〜11−3と、リーダアンテナ埋込み板13に埋め込まれたリーダアンテナとの間の通信は、135kHzや13.56MHzなどの低周波数の電磁波を用いて行われる。RFIDタグ11−1〜11−3は、リーダアンテナから無線で給電され、かつ指定されたID情報を持つRFIDタグのみリーダ4へ応答信号を返すことができる。
【0019】
ここで用いられるRFIDタグ11の姿勢は、図2に示すように、その内部のループコイルが、磁気センサ3が含まれるx−y平面とほぼ平行に巻回されているものとする。なお、RFIDタグが磁気センサ3と実質的に同一平面に含まれるのであれば、RFIDタグの姿勢に依存せず位置推定が可能である。しかし、RFIDタグが磁気センサ3と実質的に同一平面に含まれない場合は、RFIDタグのループアンテナが磁気センサ3が含まれる平面と実質的に平行であることが必要である。
【0020】
RFIDタグからの応答によって生じる磁場のフーリエ係数を磁気センサ3で計測することにより、x−y平面上のRFIDタグの位置を特定できる。よって、物品に取り付けたRFIDタグからの応答の有無を調べることで、天板12もしくはリーダアンテナ埋込み板13に載置された複数の物品の位置を把握することが可能になる。またコンピュータ20を用いて物品名やID情報等をキーワードに物品を検索することにより、特定の物品を検出し、その位置を特定することができる。なお、図1には記載していない、物品位置推定装置10を構成するその他の構成要素は後述する。
【0021】
[磁気センサの構成]
以下、本発明の磁気センサについて説明する。
本願の出願人は、特開2010−25710号公報(以下、「特許公開公報」と称する)において、8の字コイル(グラディオメータ)を利用した磁気双極子推定法に代わり、円周上で面素がcosθで変化するコイル(センサ41)とsinθで変化するコイル(センサ42)を組み合わせて、磁場のフーリエ係数を計測できる磁気センサ(センサ40)を提案している。
【0022】
特許公開公報の段落0033〜0035に記載されているとおり、磁気センサの位置(原点O)を中心とするx−y平面上の半径εの円を想定したとき、円周上の偏角θの位置における磁場B(εcosθ,εsinθ,0)に対し、cosθおよびsinθの重みをかけ、それぞれ円周上で積分した量である式(1)、式(2)は、それぞれ円周上の磁場の1次フーリエ係数と呼ばれる。
【数1】

【数2】

【0023】
このとき式(1)と式(2)の比を計算すると、式(3)のようになる。
【数3】

【0024】
つまり、磁場のx微分、y微分でなく、1次フーリエ係数の比をとることによっても、磁気センサの位置(原点O)を中心とした偏角θを求めることができる。
【0025】
ところで、特許公開公報(段落0046)に、円周上の磁場のフーリエ係数を求める方法として、微小ループコイル(センサ)をアレイ状(円周上)に並べ、センサ出力を基に計算した重みつき和から、離散フーリエ係数を求めることが記載されている。すなわち、同一の巻き数を持つすべての微小ループコイルの出力をいったん計算機に取り込んだ後、センサ出力を基に計算した重みつき和から、離散フーリエ係数を求めるというものであるが、微小ループコイルの数だけチャンネルがある。
【0026】
また、特許公開公報(段落0047他)において、上記の微小ループコイルのチャンネル数が増加することを避けるため、円周上で面素がcosθで変化するコイル、および、sinθで変化するコイルの2つのコイルを作成することにより、磁場のフーリエ係数を出力する磁気センサを提案している。すなわち、この磁気センサは、コイル幅をcosθ,sinθに比例して変化させるというものである。しかし、磁気センサのコイル幅をcosθ,sinθに比例して変化させる方法は、感度がよいとは言えないため検出範囲が限定されてしまう。
【0027】
これに対し、前者の微小ループコイル(センサ)をアレイ状(円周上)に並べ、センサ出力を基に計算した重みつき和から、離散フーリエ係数を求める方法において、各微小ループコイルの巻き数を調整しつつ1本の銅線で結線すれば、感度向上および検出範囲の拡大が期待でき、なおかつチャンネル数を増やさずにすむ。
【0028】
そこで、円周上に等間隔に複数個の微小ループコイルを配置し、各々の巻き数を調整した複数個の微小ループコイルを本出願人が考案した方法により1本の銅線で結線して磁気センサを構成する。このとき、偏角θの位置における微小ループコイルの巻き数をcosθに比例するようにしておき、これらを結線することで、円周上磁場のフーリエcos係数を出力する1チャンネルのセンサ(第1センサ)を形成する。cosθが負になる位置では、線材を巻く回転方向を逆向きとする。
【0029】
同様にして、偏角θの位置における微小ループコイルの巻き数をsinθに比例させた複数個のコイルを同じ円周上に等間隔に配置して結線することにより、円周上磁場のフーリエsin係数を出力する1チャンネルのセンサ(第2センサ)を形成する。sinθが負になる位置では、線材を巻く回転方向を逆向きとする。
【0030】
フーリエcos係数計測用の第1センサにおいて、偏角θの位置のフェライトコアにおける銅線の巻き数がNcosθに比例しており、この位置におけるフェライトコアを通過する磁束がNcosθの重み付きで検出され、合計としてΣi B(θi) cosθiに比例した誘導起電圧が出力として得られる。Nはθ=90度におけるコイル巻き数、iはフェライトコアの番号、Biは該当フェライトコアに発生した磁場の磁束密度である。
【0031】
同様にして、フーリエsin係数計測用の第2センサは、偏角θの位置のフェライトコアにおける銅線の巻き数がNsinθに比例しており、この位置におけるフェライトコアを通過する磁束がNsinθの重み付きで検出され、合計としてはΣi B(θi) sinθiに比例した誘導起電圧が出力として得られる。
【0032】
これらは円周上の磁場B(θ)のフーリエcos係数(式(1)参照)、フーリエsin係数(式(2)参照)の近似値である。そして、これらフーリエcos係数とフーリエsin係数の比並びに磁場の強度から、磁気双極子としてのRFIDタグの偏角と動径位置、すなわち2次元位置を推定することができる。なお、演算処理の観点から微小ループコイルの間隔を等間隔としたが、必ずしも等間隔でなくてもよい。
【0033】
次に、図3〜図7を参照して、本実施の形態の磁気センサ3について詳細に説明する。
図3は、磁気センサ3を示す外観図である。図4は、磁気センサ3に配置されたフェライトコアの側面図である。図5Aは、第1センサにおける銅線の巻回手順(前半)、図5Bは、第1センサにおける銅線の巻回手順(後半)を説明するための模式図である。図6は、磁気センサ3を構成する第1センサにおける銅線の巻き数および巻回方向の説明図である。図7は、磁気センサ3を構成する第2センサにおける銅線の巻き数および巻回方向の説明図である。
【0034】
図3の例では、磁気センサ3の一例として、直径120mmの円周上にπ/8ごとに16個のフェライトコアC1〜C16を配置している。このフェライトコアC1〜C16に対し、cosθまたはsinθに比例する巻き数で銅線5を順に巻いていき、複数の微小ループコイルを有する第1センサ1と第2センサ2を形成している。ここでは、線材として銅線を使用しているが、導電特性が良いものであればこれに限られない。
【0035】
第1センサ1と第2センサ2との間でフェライトコアCを共用し、図4に示すように第1センサ1をフェライトコアCの上部、第2センサ2を下部に巻いて第1センサ1と第2センサ2を実質的に同一の平面に形成している。なお、第1センサ1と第2センサ2との間でフェライトコアを共用しない構成も可能であるが、磁気センサ全体の高さが高くなるので、フェライトコアを共用したほうが好ましい。なお、第1センサ1と第2センサ2との上下関係はこの逆でもよい。
【0036】
銅線5のフェライトコアに対する巻き数について説明する。
代表してフーリエsin係数計測用の第2センサ2を例に説明すると、一本の銅線5を、偏角θ=0度の位置のフェライトコアC1から巻き始め、偏角θの位置のフェライトコアにsinθに比例する巻き数で銅線5を巻きながら、偏角θ=360度の位置のフェライトコアC1まで巻いていく(図5A参照)。ここで、sinθの場合、実際には巻き始めのフェライトコアC1におけるsinθ(巻き数)はゼロなので、フェライトコアC2から巻き始めてもよい。
【0037】
次に、偏角θ=360度の位置のフェライトコアC1から偏角θ=0度の位置のフェライトコアC1まで円周に沿って順に、銅線5をフェライトコアC16〜C1に巻かずに戻していく。このとき、偏角θ=360度の位置のフェライトコアC1におけるsinθ(巻き数)はゼロなので、一つ手前のフェライトコアC16で折り返す。これがフーリエsin係数計測用の第2センサ2である。
【0038】
なお、偏角θ=360度の位置のフェライトコアから銅線5を戻していくとき、銅線5を各フェライトコア間の結線部分に螺旋状に巻き付けながら、フェライトコアC16〜C1へと順に戻していく。何ら工夫をせず単に銅線5を戻していった場合、戻りの銅線5によってフェライトコアC1〜C16が配置された円周と同じ大きさの一重のループコイルが形成される。この一重のループコイルによって本来のフーリエcos係数およびフーリエsin係数と関係のない磁場が計測され、RFIDタグの正確な位置の推定の妨げになる恐れがある。そこで、銅線5を各フェライトコア間の結線部分に巻き付けながら戻すことによって、行きの銅線5と戻りの銅線5でツイストペア構造とし、本来のフーリエcos係数およびフーリエsin係数と関係のない磁場がノイズとして計測されないようにすることが好ましい。
【0039】
同様にして、同じフェライトコアC1〜C16に対し、cosθに比例する巻き数で結線したフーリエcos係数計測用の第1センサ1も用意する。第1センサ1は、フーリエsin係数計測用の第2センサ2を、反時計回りに90度回転させたものである。すなわち、第1センサ1では、偏角θ=90度の位置のフェライトコアC5から巻き始め、偏角θの位置のフェライトコアにcosθに比例する巻き数で銅線5を巻きながら、一周した偏角θ=90度の位置のフェライトコアC4まで巻いていき、その後円周に沿って順に巻き始めの位置まで戻す。
【0040】
本実施の形態では、フーリエcos係数計測用の第1センサ1の場合、偏角θ=90,270度のときは巻き数を0回、偏角θ=0,180度のときは巻き数をN回(図6ではN=10としている)とし、位置θにおいてはNcosθの値の整数部分を巻き数とする。負の巻き数は、銅線5を巻く方向を反転することで実現している。巻き数Nに比例してセンサ出力(感度)が上昇する。
【0041】
フーリエsin係数計測用の第2センサ2は、偏角θ=0,180度のときは巻き数を0回、偏角θ=90,270度のときは巻き数をN回(図7ではN=10としている)としている。
ここで、第1センサ1を通過する合計の磁束Φcosは、フェライトコアC1〜C16の各々を通過する磁束の和として、式(4−1)〜(4−3)のように表すことができる。
【数4】

同様にして、第2センサ2を通過する合計の磁束Φsinは、フェライトコアC1〜C16の各々を通過する磁束の和として、式(5−1)〜(5−3)のように表すことができる。
【数5】

【0042】
そして、式(6)に示すように、これらフーリエcos係数とフーリエsin係数の比をとることにより、RFIDタグの偏角θが求められる。またRFIDタグの動径位置すなわち磁気センサ3との距離は、フーリエcos係数とフーリエsin係数に基づく磁場の強度から求められる。
【数6】

【0043】
なお、本実施の形態では、磁気センサ3に16個のフェライトコアを用いたが、この例に限られるものではない。例えばフェライトコアの個数を16個から更に多くしてもよく、その場合、磁気センサ3により計測されるフーリエcos係数およびフーリエsin係数のより正確な近似値を取得できるので、RFIDタグの位置をより精度よく推定することができる。
【0044】
[物品位置推定装置の詳細構成]
図8は、物品位置推定装置10の詳細構成例を示すブロック図である。図8において、図1に対応する部分には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
物品位置推定装置10は主に、磁気センサ3と、増幅器16A,16Bと、A/D変換器(以下、「ADC」と称す)17A,17Bと、コンピュータ20と、表示装置30と、操作部31と、リーダ4とを備える。
【0045】
増幅器16Aは第1センサ1と、増幅器16Bは第2センサ2と接続しており、それぞれの増幅器に入力されたセンサ出力を適宜増幅して、それぞれ出力V1,V2として対応するADC17A,17Bに出力するものである。
【0046】
ADC17A,17Bは、増幅器16A,16Bから入力された出力V1,V2をアナログ信号からデジタル信号に変換し、それぞれフーリエcos係数取得部21Aと、フーリエsin係数取得部21Bに出力するものである。なお、ADC17A,17Bは増幅器16A,16Bの中に組み込まれていてもよいし、増幅器16A,16BとADC17A,17Bがコンピュータ20に内蔵されていてもよい。また磁気センサ3からの出力が十分に大きい場合には、増幅器16A,16Bを削除してもよい。
【0047】
コンピュータ20は、演算処理装置の一例であり、主な機能として、フーリエcos係数取得部21Aと、フーリエsin係数取得部21Bと、演算処理部22と、メモリ23とを備える。
【0048】
このコンピュータ20内の各機能ブロックは、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置がROM(Read Only Memory)等に記録されている物品位置推定処理のためのプログラムを、RAM(Random Access Memory)に読み出して実行することにより実現される。なお、同図に示す各機能ブロックはそれぞれ個別のプログラムによって実現してもよいし、複数の機能ブロックを1つのプログラムによって実現するようにしてもよい。さらにこの例に限られることなく、同図に示す機能ブロックをハードウェアによって実現してもよい。例えば、フーリエcos係数取得部21A、フーリエsin係数取得部21Bを、DSP(Digital Signal Processor)といった専用のハードウェアを用いて実現してもよい。
【0049】
フーリエcos係数取得部21Aは、第1フーリエ係数取得部の一例であり、RFIDタグが発生する磁場に基づいて磁気センサ3の各フェライトコア(微小ループコイル)を通過する磁束の変化により発生する誘導起電圧から、式(4−1)〜(4−3)で求められる1次フーリエcos係数を取得するものである。
【0050】
同様にフーリエsin係数取得部21Bは、第2フーリエ係数取得部の一例であり、RFIDタグが発生する磁場に基づいて磁気センサ3の各フェライトコア(微小ループコイル)を通過する磁束により発生する電流に応じた誘導起電圧から、式(5−1)〜(5−3)で求められる1次フーリエsin係数を取得するものである。
【0051】
例えば検出したいフーリエcos係数をXとしたとき、フーリエcos係数計測用の第1センサ1は、X・cos(2πft)という時間的に変化する交流信号(電圧信号)を出力する。ここで、fはRFIDタグの周波数(例えば135kHz)である。フーリエcos係数取得部21Aでは、第1センサ1が出力したX・cos(2πft)という交流信号から、振幅Xを取り出す。同様にして、フーリエsin係数取得部21Bも、第2センサ2が出力する交流信号からフーリエsin係数を取り出す。
【0052】
演算処理部22は、フーリエ係数比取得部、物品位置推定部、通信部、画像処理部として機能するとともに、コンピュータ20内の各機能ブロックを制御するものである。例えばこの演算処理部22は、操作部31を用いて入力されたもしくは任意のプログラムに従って自動的に抽出された物品名に対応づけられたID情報をリーダ4へ送出するとともに、リーダ4をそれに対するRFIDタグの応答信号を通じて受信する。このとき、物品名の入力機能やRFIDタグの位置等の表示機能等を有する、物品を検索するためのブラウザの画像処理を行う。
【0053】
また演算処理部22は、フーリエcos係数取得部21A、およびフーリエsin係数取得部21Bにより計算された各々の1次フーリエ係数(磁場にcosまたはsinの各々の重みづけがなされたもの)を取得し、1次フーリエ係数比を計算する。そして、1次フーリエ係数比を基に、磁気センサ3の所定の径を基準とするRFIDタグの偏角を算出する。一例として所定の径は磁気センサ3の中心である原点OとフェライトコアC1を結ぶ線分とする。さらに、フーリエcos係数とフーリエsin係数に基づく磁場の強度から、磁気センサ3との距離を算出する。そして、算出した偏角と磁気センサ3との距離から2次元平面上のRFIDタグの位置を推定し、推定の結果をメモリ23や表示装置30へ出力する。
【0054】
メモリ23は半導体素子等からなる不揮発性の記録媒体であり、ID情報と物品名が対応づけられたデータベースおよび磁気センサ3により検出される磁束の強度とRFIDタグまでの距離との関係を記憶している。またメモリ23に物品位置推定処理のためのプログラム(ブラウザを含む)を保存しておいてもよい。
【0055】
図9は、リーダ4の内部構成の一例を示すブロック図である。
リーダ4は、リーダアンテナ4Aと接続した通信部4Bと、制御部4Cを備える。制御部4Cは、通信部4Bに対しコンピュータ20から指定されたID情報を持つRFIDタグを呼び出すよう制御指令を出す。通信部4Bは制御指令を受けると、リーダアンテナ埋込み板13に埋め込まれたリーダアンテナ4Aを通じて指定されたID情報に対する要求信号を無線で送出する。そして、送出したID情報に該当するRFIDタグから応答信号を受信した場合は、その旨をコンピュータ20へ出力する。
【0056】
図10は、RFIDタグ11の内部構成の一例を示すブロック図である。
RFIDタグ11は、アンテナ11Aと、電源回路部11Bと、通信部11Cと、制御部11Dと、メモリ11Eを備える。メモリ11EにID情報が格納される。通信部11Cは、アンテナ11Aを介してリーダ4からの要求信号を受信する。制御部11Dは通信部11Cで受信した要求信号に含まれるID情報が自機に該当するか判定し、該当すると判定した場合はリーダ4にメモリ11Eに格納されたID情報を送信する。電源回路部11Bは、アンテナ11Aが受信した無線信号を利用して電力を生成し、各ブロック部へ供給するものである。
【0057】
[物品位置推定装置の動作]
次に、物品位置推定装置10の動作を、図11のフローチャートを参照して説明する。
まずユーザがコンピュータ20の電源を入れる、あるいは操作部31を操作してコンピュータ20にブラウザの実行指示を入力することにより、コンピュータ20の演算処理部22によりブラウザが実行され、RFIDタグが貼り付けられた所望の物品を検索するための検索画面が表示装置30に表示される。検索画面の一例を、図12に示す。この検索画面では、物品名入力欄41が設けられているが、RFIDタグのID情報を直接入力できる欄を設けてもよい。
【0058】
コンピュータ20の演算処理部22は、ブラウザが起動されると検索画面の物品名入力欄41に物品名が入力されたか否かを判定する(ステップS1)。物品名の入力があるまでこの処理を繰り返す。
【0059】
ステップS1の判定処理で物品名が入力されたと判定された場合、演算処理部22は、入力された物品名をメモリ23に保存されたデータベースで照合して候補物品を表示装置30の画面上に列挙し、ユーザに選択を促す(ステップS2)。ユーザが操作部31を操作して物品を選択した場合、演算処理部22は、ユーザに選択された物品を検出する(ステップS3)。
【0060】
そして、演算処理部22は、選択された物品のID情報をリーダ4へ出力する。リーダ4は、コンピュータ20から送られたID情報を、リーダアンテナ4Aを通じて指定されたID情報に対する要求信号を無線で送出する(ステップS4)。この要求信号は物品位置推定装置10の検出対象領域内の全てのRFIDタグに対して送信される。
【0061】
ID情報が一致するRFIDタグがあれば、そのRFIDタグからID情報を含む応答信号が送信されるので、リーダ4は応答信号の有無によってID情報が一致するRFIDタグがあるか否かを判断できる。そこでリーダ4はID情報が一致するRFIDタグがあるか否かを判断し(ステップS5)、ID情報が一致するRFIDタグがある場合には、ステップS6の処理へ移行する。一方、ID情報が一致するRFIDタグがない場合には、ステップS9の処理へ移行する。
【0062】
ステップS6では、リーダ4が、ID情報が一致するRFIDタグから応答信号を受信するとともに、磁気センサ3が、このとき発生する磁場を検出する(ステップS6)。
具体的には、ID情報が一致するRFIDタグがある場合、リーダ4は、ID情報が一致するRFIDタグが送出した応答信号を、リーダアンテナ4Aを介して受信する。
それと並行して、磁気センサ3の第1センサ1では、ID情報が一致するRFIDタグが送出した応答信号に応じて発生する磁場のフーリエcos係数に対応する誘導起電圧をそれぞれ検出する。同様にして第2センサ2では、対象RFIDタグが送出した応答信号に応じて発生するフーリエsin係数に対応する誘導起電圧をそれぞれ検出する。そして、磁気センサ3の第1センサ1および第2センサ2の各々で検出された誘導起電圧は、第1センサ出力および第2センサ出力として増幅器16A,16B、ADC17A,17Bを介して、それぞれフーリエcos係数取得部21Aおよびフーリエsin係数取得部21Bへ出力される。
【0063】
続いて、リーダ4の制御部4Cは、当該RFIDタグから受信した応答信号に含まれるID情報を検出し、コンピュータ20へ送信する。
一方、コンピュータ20のフーリエcos係数取得部21Aは、ADC17Aから第1センサ出力を取得し、円周上磁場のフーリエcos係数を算出し、演算処理部22へ出力する。同様にしてフーリエsin係数取得部21Bは、ADC17Bから第2センサ出力を取得し、円周上磁場のフーリエsin係数を算出し、演算処理部22へ出力する。
【0064】
演算処理部22は、フーリエcos係数取得部21Aで算出されたフーリエcos係数と、フーリエsin係数取得部21Bからで算出されたフーリエsin係数からフーリエ係数比を計算し、その計算結果から磁気センサ3に対する対象RFIDタグの2次元平面上の偏角θを求める。また、演算処理部22は、フーリエcos係数とフーリエsin係数の大きさを基にメモリ23のデータベースを参照して、磁気センサ3から対象RFIDタグまでの2次元平面上の距離を取得する。
そして、偏角θと対象RFIDタグまでの距離から対象RFIDタグの位置、すなわち選択された物品の位置を推定する(ステップS7)。
【0065】
演算処理部22は、選択された物品の位置推定結果を表示装置30へ出力し、検索画面に表示させる(ステップS8)。図12の例では、選択したID情報を持つ物品の天板12の上における位置が、座標系の第3象限に「×」印で示されている。
【0066】
一方、ステップS5においてID情報が一致するRFIDタグがない場合、コンピュータ20の演算処理部22は、リーダ4から応答信号が送信されないことから検出対象領域内に該当するRFIDタグがないと判断する。そして、その旨を表示装置30へ出力する(ステップS9)。ステップS8,S9の処理が終了後、このフローチャートの処理を終了する。
【0067】
このようにブラウザを使用して物品(すなわちRFIDタグのID情報)を選択すると、選択した物品(RFIDタグ)の位置を画面上で即座に視認できる。画面表示に加え、音声により位置を知らせるようにしてもよい。物品位置推定装置10によるRFIDタグ一個当たりの位置推定処理時間は0.1秒以下なので、例えば、ステップS1において、複数の物品名を入力可能とする等により、1秒間に少なくとも10個のRFIDタグの位置推定処理が可能である。それゆえ、ユーザに違和感をほとんど与えることなく、複数のRFIDタグの位置を推定してその位置を画面に表示させることができる。例えば本棚の各棚に収納した複数の書籍から所望の書籍の位置を推定できることを利用して、図書館などにおいて指定した書籍がその時に収納されている本棚、棚そしてその棚のどの位置にあるかを検索するサービスを提供できる。
【0068】
[実験結果]
図13は、RFIDタグに見立てた複数の発信子を、偏角を一定にした状態で移動させ、物品位置推定装置10を用いて各発信子の位置を推定した結果を示すグラフである。実験に用いた発信子の周波数は8kHz、磁気センサ3の直径は120mmである。
グラフからは、直径約1000mmの円形領域内において、特に良好な位置推定が行えており、磁気センサ3の中心から半径の8倍程度の領域で正確な位置推定が可能であることがわかる。ところで、磁気センサ3では検索対象物からの本来の信号にノイズが含まれ、検索対象物までの距離が遠くなるにつれて本来の信号に対してノイズが相対的に大きくなる。そのため、磁気センサ3の中心から半径の8倍程度を超えると位置推定の精度が落ちると考えられる。この課題に対して、本発明では、磁気センサの径を大きくする、及び/又は銅線の巻き数を増やすことで、容易に正確な位置推定が可能な領域を広げることができる。
【0069】
上記実施の形態のように構成される本発明によれば、低周波(13.56MHzや135kHz、あるいはそれ以下)のRFIDタグの応答信号として生成される磁場の空間的フーリエ係数を計測することで、RFIDタグの二次元平面上の位置を推定する物品位置推定装置を提案することができる。これは、UHF(Ultra High Frequency)帯のRFIDタグを用いる手法と異なり、金属や人体などによる電波の反射、吸収体の影響を受けにくいという特徴がある。
【0070】
また、図13に示されるように、近接場を使うことで、反射の影響がなく、1000−2000mm四方程度の領域に対し、直径約120mm程度の一つの磁気センサ(平面型センサユニット)を用いて10mm程度の精度で位置推定が可能である。
【0071】
また、上記の結果、一つの磁気センサで、例えば机上での物品の位置推定を行うことができ、作業工程管理、薬品管理、貴重品管理、などの応用が可能である。
【0072】
また、室内での物品探索に関しても、従来方法におけるリーダアンテナと同数程度の磁気センサを床下に配置することで、従来方法のような位置参照用タグを多数埋めることなく、金属や人体などによる電磁波の反射・吸収の影響が無い位置推定が可能である。
【0073】
また、本実施の形態に係る磁気センサはフェライトコアに銅線を巻いただけの単純な構造であるため、極めて安価に物品位置推定装置を構築できる。
【0074】
なお、本実施の形態では、フェライトコアを用いたが、磁気センサ3の出力が十分に大きい場合には、フェライトコアに代えて強磁性体でない木材や樹脂等を用い、微小ループコイルとして空芯コイルを形成してもよい。この場合、木材や樹脂材等は銅線を巻き付けて空芯コイルを形成するための支柱として機能する。
【0075】
[変形例]
上述した実施の形態では、微小ループコイル間を結線することにより、2つという少ないチャンネル数の磁気センサを実現できるという効果がある。しかし、チャンネル数を増やしてもよい環境では、微小ループコイル間を結線せず、すべての微小ループコイルの出力をコンピュータに取り込み、その和をとってフーリエ係数を得る、という演算を行うようにしてもよい。
この場合でも、従来の荷重和計算が不要であり、実測値から演算を行うため、従来に比して演算処理を簡略化できる。また、各々の微小ループコイルの出力を加算してフーリエ係数を得るという単純な構成のため、小型化・コストダウンできる。
【0076】
<2.第2の実施の形態>
[磁気センサの構成]
第2の実施の形態に係る磁気センサは、第1センサと第2センサとでフェライトコアを共用せず、第1センサ用のコイルと第2センサ用のコイルとを円周上に一つ置きに形成するようにしたものである。
【0077】
図14は、第2の実施の形態に係る磁気センサ(第1例)の説明図である。
図14に示す例では、フェライトコアC1〜C12の12個のフェライトコアが設けられ、奇数番号のフェライトコアをフーリエcos係数計測用、偶数番号のフェライトコアをフーリエsin係数計測用としている。
【0078】
図15は、第2の実施の形態に係る磁気センサ(第2例)の説明図である。
図15に示す例では、フェライトコアC1〜C20の20個のフェライトコアが設けられ、図14の例と同様に、奇数番号のフェライトコアをフーリエcos係数計測用、偶数番号のフェライトコアをフーリエsin係数計測用としている。このように、フェライトコアの数を多くすると、フーリエcos係数およびフーリエsin係数のより正確な計測結果が得られ、位置測定の精度が向上する。
【0079】
なお、図14,図15において、便宜の為、同一円周上を一点鎖線で示しているが、フーリエcos係数計測用の第1センサとフーリエcos係数計測用の第2センサとで、各々独立して結線している
【0080】
本実施の形態では、円周360度(2π)をn*4(n:奇数)で分割して等間隔にフェライトコアを配置し、フェライトコアに対して交互に第1センサ用と第2センサ用に銅線を巻いていく。ここで、いずれのフェライトコアを第1センサまたは第2センサに用いるかは任意であるが、好ましくは偏角θ=0度,180度のフェライトコアをフーリエcos係数計測用に、偏角θ=90度,270度のフェライトコアをフーリエsin係数計測用に割り当てる。このようにした場合、cosθおよびsinθがそれぞれ1となるときの磁束が計測され、センサ出力(感度)が向上するとともにより正確にcosθ,sinθの重み付けがされるので、位置推定の精度が向上する。
【0081】
また、第1センサと第2センサでフェライトコアを共用するため、第1センサの銅線と第2センサの銅線との間で図4に示すような段差を設けていた。しかし、第2の実施の形態では、第1センサと第2センサでフェライトコアを共用せず、円周上において銅線を巻回する位置が異なるので、上記段差が必要ない。それゆえ、フェライトコア、もしくはフェライトコアを用いない場合でも銅線を巻回して形成されるコイルの高さが低くなるので、磁気センサ3の高さを低く抑えられる。したがって、天板12とリーダアンテナ埋込み板13との高さ(図1参照)、あるいは磁気センサをリーダアンテナ埋込み板13に直接埋め込んだ場合のリーダアンテナ埋込み板13の厚さを薄く抑えることができる。
【0082】
<3.第3の実施の形態>
第3の実施の形態に係る物品位置推定装置は、2つの磁気センサを用いてRFIDタグの3次元位置を推定するようにしたものである。
【0083】
第1の実施の形態において説明したように、RFIDタグのループアンテナ(図2参照)が、磁気センサが含まれるx−y平面と平行であるとき、RFIDタグのx−y平面に射影した位置を推定することができる(図1参照)。仮に磁気センサがx−y平面と直交するy−z平面上に設けられた場合は、RFIDタグのループアンテナがy−z平面と平行であるとき、RFIDタグのy−z平面に射影した位置を推定することができる。
【0084】
そこで、第3の実施の形態では、x−y平面の磁気センサ3に加えてy−z平面に磁気センサ3Aを設けるとともに、一つの物品に2つのRFIDタグ11−4,11−5を貼り付け、2つの磁気センサと2つのRFIDタグを用いて、物品のそれぞれの平面における位置を推定する。この場合、物品に貼り付けたRFIDタグ11−4は、RFIDタグ11−1〜11−3と同様に、磁気センサ3が含まれるx−y平面とループアンテナが平行である。他方、対象物品に貼り付けたもう一つのRFIDタグ11−5は、磁気センサ3Aが含まれるy−z平面とループアンテナが平行である。
【0085】
そして、磁気センサ3を用いてRFIDタグ11−4のx−y平面上の位置を推定し、また磁気センサ3Aを用いてRFIDタグ11−5のy−z平面上の位置を推定することにより、RFIDタグ11−4,11−5が設けられた物品の3次元空間上での位置を推定する。このように、2個のRFIDタグと2個の磁気センサを用いて直交する2つの2次元平面上での位置を推定し、その結果から3次元空間上での位置を推定することができる。
【0086】
<4.応用例>
以下、本発明の磁気センサおよび物品位置推定装置の応用例(1)〜(4)を説明する。
【0087】
[応用例(1)]
作業工程管理と自動ログ化:
工場の作業工程において、作業効率化を図るための一つの方法として、工具を所定の位置に置いておき、所定の順序で作業することが重要とされている。工具にRFIDタグを付けておくことにより、工具の有無に加え位置管理ができる。例えば誤った作業を行ったとき、誤った場所に工具を置いたときなど、表示装置で警告を出したり、工具から直接警告音が出るようにしたりできる。また工具に付けたRFIDタグから熟練者の作業ログを自動で取得することができ、作業の効率的なマニュアル化が図れる。
【0088】
[応用例(2)]
薬品管理:
医療現場において、複数の人間が同じ薬品棚から薬品を取り出す場合、常に正しい薬品が正しい位置に置かれていることが、取り違えミスを防ぐ上で重要である。薬品瓶・薬品箱等にタグを付けておくことにより、薬品棚や移動ワゴン上の薬品のID、位置管理を行うことができ、薬品を誤った位置に戻したとき表示装置から警告を発することができる。なお、表示装置に代わる警告装置を薬品棚や移動ワゴンに設置してもよい。
【0089】
[応用例(3)]
ショーケース内物品管理:
貴金属などを収納したショーケース内、商品が入った箱等にRFIDタグを貼っておく。何者かが商品を動かした場合、商品のIDとともに位置情報もわかるため、二重の情報を使って商品の管理ができる。
【0090】
[応用例(4)]
室内物品探索:
例えば一畳程度の検出領域を持つ磁気センサとリーダアンテナを、部屋の広さに応じて複数個、床下に埋めておく。部屋の中で物品(リモートコントローラ、文具など)の在りかがわからないとき、コンピュータを用いて物品を検索する。複数リーダから物品のID情報を含む無線信号を送出し、コンピュータは応答があったリーダアンテナの位置から対象物品の場所を絞り、さらに絞り込んだ場所の中での正確な位置を磁気センサにより推定し、表示装置の画面上で知らせる。
【0091】
以上、本発明の各実施の形態の例について説明したが、本発明は上記各実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含むことはいうまでもない。
【0092】
例えば、上述した各実施の形態では、物品の磁気センサが含まれる2次元平面上での位置を推定するようにしたが、2次元平面上での位置に加え、当該物品の2次元平面に対する傾きを計測することができる。例えば図16の例において、RFIDタグ11−4と同じループアンテナがx−y平面と平行なRFIDタグを、x−y平面と垂直な直線上に2つ配置し、2つのRFIDタグ間の距離を予め測定しておく。そして、x−y平面に射影された2つのRFIDタグ間の距離と予め測定しておいた距離とから、x−y平面に対する2つのRFIDタグの傾き、すなわち物品の傾きが得られる。
【0093】
なお、ループアンテナがx−y平面と平行な2つのRFIDタグを、x−y平面上に並べて配置し、上記と同様にしてx−y平面に対する2つのRFIDタグの傾きが得られる。ただし、この場合は、検出できる傾きの向きが限定されるので、検出できる傾きを限定した応用例に利用できる。
【0094】
また、本明細書において、時系列的な処理を記述する処理ステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)をも含むものである。
【符号の説明】
【0095】
1…第1センサ、2…第2センサ、3,3A…磁気センサ、4…リーダ、4A…リーダアンテナ、5…銅線、10…物品位置推定装置、11,11−1〜11−5…RFIDタグ、12…天板、13…リーダアンテナ埋込み板、16A,16B…増幅器、17A,17B…アナログ/デジタル変換器、20…コンピュータ、21A…フーリエcos係数取得部、21B…フーリエsin係数取得部、22…演算処理部、23…メモリ、30…表示装置、31…操作部、C,C1〜C20…フェライトコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がcosθに比例し、該cosθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出される第1センサと、
第1センサの円周と同一径の円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がsinθに比例し、該sinθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出される、第1センサと実質的に同一平面に形成された第2センサと、
を有する磁気センサ。
【請求項2】
前記第1センサの各ループコイルは1本の線材により結線され、また第2センサの各ループコイルは1本の線材により結線されている
請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
第1センサの線材は、前記複数のループコイルを順番に形成しながら前記円周上を一周した後、各ループコイル間の結線部分に螺旋状に巻き付きながら巻き始めの位置に戻り、
第2センサの線材は、前記複数のループコイルを順番に形成しながら前記円周上を一周した後、各ループコイル間の結線部分に螺旋状に巻き付きながら巻き始めの位置に戻る
請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
第1センサおよび第2センサは、各ループコイルの中に支柱が設けられ、各ループコイルは該支柱に前記線材が巻き付けられて形成されている
請求項1〜3のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項5】
第1センサと第2センサとの間で各支柱を共用しており、第1センサと第2センサとで各ループコイルの前記支柱に形成される高さが異なる
請求項4に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記支柱は強磁性体からなり、該支柱が各ループコイルの鉄芯として機能する
請求項4又は5に記載の磁気センサ。
【請求項7】
第1センサと第2センサの各ループコイルが前記円周上に交互に配置されている
請求項1〜3のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項8】
第1センサと第2センサの各ループコイルは、円周をn*4(nは奇数)で等間隔に分割した位置に交互に配置されている
請求項7に記載の磁気センサ。
【請求項9】
第1センサおよび第2センサは、各ループコイルの中に支柱が設けられ、各ループコイルは該支柱に前記線材が巻き付けられて形成されている
請求項7又は8のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記支柱は強磁性体からなり、該支柱が各ループコイルの鉄芯として機能する
請求項9に記載の磁気センサ。
【請求項11】
円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がcosθに比例し、該cosθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出される第1センサと、
第1センサの円周と同一径の円周上に配置される複数のループコイルを有し、各ループコイルが配置された位置の偏角をθとしたとき、各ループコイルの巻き数がsinθに比例し、該sinθの値が負の位置にあるループコイルは逆巻きとし、各ループコイルの出力が別個に取り出される、該第1センサと実質的に同一平面に形成された第2センサと、
を有する磁気センサと、
RFIDタグにID情報を出力し、前記ID情報に該当するRFIDタグからの応答信号を受信する読み取り装置と、
第1センサの出力を基に余弦荷重された1次フーリエ係数を算出する第1フーリエ係数取得部と、第2センサの出力を基に正弦荷重された1次フーリエ係数を算出する第2フーリエ係数取得部と、第1フーリエ係数取得部から出力された1次フーリエ係数と、第2フーリエ係数取得部から出力された1次フーリエ係数との比を算出し、1次フーリエ係数の比に基づいて、前記読み取り装置で応答信号が受信されたRFIDタグの当該磁気センサが含まれる平面上での偏角を推定する演算処理部とを有する演算処理装置と、
を備え、
前記読み取り装置が前記演算処理装置から指定されたID情報に該当するRFIDタグから応答信号を受信して前記演算処理装置の演算処理部へ送出し、前記磁気センサの第1センサおよび第2センサは、前記RFIDタグが出力する応答信号に伴い生じる磁場の変化を検出して前記演算処理装置の第1フーリエ係数取得部および第2フーリエ係数取得部へ送出する
物品位置推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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