説明

磁気センサ出力補正回路、磁気センサ出力補正方法及び方位角計測装置

【課題】感度とオフセット値とを一括して、従来例に比較して高精度かつ高速に推定し、磁気センサの出力の校正ができる磁気センサ出力補正回路、磁気センサ出力補正方法及び方位角計測装置を提供する。
【解決手段】本発明の磁気センサ出力補正回路は、感度及びオフセット値を変数として有する、3軸の磁気センサによって得られた磁気データを補正する補正式を、重力ベクトルに垂直な平面と、磁気センサのx軸方向及びy軸方向の形成する平面とがなす傾斜角が、0となるよう座標変換して得られる1次の変換式に対し、異なる地点で測定した複数の磁気データ及び傾斜角を代入して得られる線形連立方程式を解くことにより、測定した磁気データに含まれる感度及びオフセット値を算出する感度・オフセット算出部と、感度・オフセット算出部が算出した感度及びオフセット値により、磁気センサの測定する磁気データの補正を行う感度・オフセット補正部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサの感度及びオフセットを補正する磁気センサ出力補正回路、磁気センサ出力補正方法と、この磁気センサ出力補正回路を用いた方位角計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器に磁気センサが2軸方向あるいは3軸方向に配置され、それぞれの軸方向の地磁気を測定し、携帯機器がいずれの方向を向いているかを示す方位角θを検出する方位角検出装置が、ナビゲーションシステムなどに用いられている。
【0003】
ところが、以下のa、b及びcの理由により、求める方位角θが、実際の方位角に対して誤差を有することになる。
a.磁気センサの製造バラツキにより、軸方向毎に地磁気の出力値が、検出強度に対応する感度が異なることにより、軸方向毎にばらついている。
b.磁気センサにおける地磁気を検出する際の感度(1μT(マイクロテスラ)当たりの磁気センサの出力値)の温度変化が、軸方向毎に異なっている。
c.姿勢検出装置を構成する磁気センサ以外の部品の有する磁気ノイズの影響により、ゼロ磁界状態での出力値や感度が、磁気センサの個体毎、あるいは同一個体における軸毎にオフセット値を有するため異なる。
【0004】
このような感度の差異とオフセット値とを除去し、磁気センサの出力値を正しい値に校正する方法としては、3軸の磁気センサにより、3軸方向の磁気データを多数測定し、測定した磁気データとオフセット値との距離が最小となるように、オフセット値を算出する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
また、他の校正方法としては、3軸の磁気データを多数測定し、この磁気データから感度を算出し、この感度により磁気データを補正し、その補正した磁気データとオフセット値との距離(差の値)が最小となるように、オフセット値を算出する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4391416号公報
【特許文献2】特許第4151784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、姿勢検出装置内の内部記憶部に、予め磁気センサの感度を記憶させておき、方位角を算出する際にこの感度を読み出して使用しているため、記憶された感度と環境変化による実際の感度との差が生じることにより、計算が収束しなかったり、異なったオフセット値を算出するおそれがある。
【0007】
また、特許文献2においては、取得した磁気データにより、感度とオフセット値との双方を算出するため、感度が実際の数値に対してずれた場合にも、正しいオフセット値を算出することができる。
ところが、特許文献2においては、感度とオフセット値とを算出する際に、非線形連立方程式を計算する構成となっており、計算量が大幅に増加し、計算に時間がかかることになり、計算のために消費電力を増大させてしまう。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたもので、感度とオフセット値とを一括して、従来例に比較して高精度かつ高速に推定し、磁気センサの出力の校正ができる磁気センサ出力補正回路、磁気センサ出力補正方法及び方位角計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、本発明の磁気センサ出力補正回路は、感度(例えば、実施形態における感度αx、αy、αz)及びオフセット値(例えば、実施形態におけるオフセット値Bx、By、Bz)を変数として有する、3軸の磁気検出部(例えば、実施形態における磁気センサSM)によって得られた磁気データを補正する補正式を、重力ベクトルに垂直な平面と、前記磁気センサのx軸方向及びy軸方向の形成する平面とがなす傾斜角(例えば、実施形態におけるロール角r及びピッチ角pからなる傾斜角)が、0となるよう座標変換して得られる変換式に対し、異なる地点で測定した複数の磁気データ及び傾斜角を代入して得られる線形連立方程式(例えば、実施形態における(10)式)を解くことにより、測定した前記磁気データに含まれる感度及びオフセット値を算出する感度・オフセット算出部(例えば、実施形態における感度・オフセット算出部12)と、前記感度・オフセット算出部が算出した前記感度及び前記オフセット値により、前記磁気センサの測定する磁気データの補正を行う感度・オフセット補正部(例えば、実施形態における感度・オフセット補正部11)とを有することを特徴とする。
この構成により、補正に用いる感度及びオフセット値を1次の変数として含んだ補正式を、傾斜角を0とするように座標変換して生成された変換式が求められ、この変換式に対して複数の磁気データを代入して、線形連立方程式として解くことにより、感度及びオフセット値を算出することができる。
すなわち、求めたい感度及びオフセット値の変数が1次で含まれる線形連立方程式を解くことになり、従来の様に非線形連立方程式を解く場合に比較して、簡易に感度及びオフセット値を算出することができ、高速に磁気データを補正することが可能となる。
【0010】
本発明の磁気センサ出力補正回路は、前記感度・オフセット算出部が、前記1次の変換式として、座標変換して得られた垂直成分を示す垂直成分式(例えば、実施形態における(9)式)のみを用いて、感度及びオフセット値を算出することを特徴とする。
この構成により、いずれの位置の測定点において測定した磁気データを座標変換しても、全て垂直成分が一定(例えば、0)となる特性を利用することにより、この垂直成分の連立方程式を解くことで、感度及びオフセットの変数の値を算出するための計算量が低減され、高速に磁気データを補正することができる。
【0011】
本発明の磁気センサ出力補正回路は、前記感度・オフセット算出部が、垂直成分Vを求める前記垂直成分式において、変数である3軸の感度αx、αy、αzとオフセット値Bx、By、Bzと、垂直成分Vとの各変数において、感度αx、αy、αzのいずれかを予め設定した定数とし、前記変数を当該定数により除算して新たな変換変数とし、前記垂直成分式を二乗し、各変換変数により偏微分し、得られた偏微分式の各々(例えば、実施形態における(13)式)が最小となるように、前記感度αx、αy、αzと前記オフセット値Bx、By、Bzを求めることを特徴とする。
この構成では、感度αx、αy及びαzのいずれかを予め測定した数値としておくことにより、このいずれか以外の感度と、オフセット値Bx、By、Bzとを、上記の予め測定した数値の感度に対する比として求める。そのため、実際には7つの変数を求める必要があるが、1つ削減することができて6個の変換変数を求めれば良くなる。したがって、この6個の変換変数を偏微分して得られる6個の方程式からなる線形連立方程式により、7つの変数を得ることができる。このとき、方位角は磁気データのx成分(例えば、本実施形態における磁気データHx)とy成分(例えば、実施形態におけるHy)との比を元にして算出するため、使用した感度がγ倍に変化していても、x成分とy成分との比を取ることにより、最終的な方位角の情報からγ倍の情報がキャンセルされる。
【0012】
本発明の磁気センサ出力補正回路は、3軸の加速度センサから得られる3軸方向の加速度データから前記傾斜角を求める傾斜角情報算出部(例えば、実施形態における傾斜角情報算出部14)をさらに有することを特徴とする。
この構成により、加速度データを用いることにより、傾斜角を高速にかつ高い精度にて算出することができ、感度及びオフセット値を算出する時間を短縮するとともに、高い精度で感度及びオフセット値を得ることができる。
【0013】
本発明の磁気センサ出力補正回路は、前記傾斜角により、前記感度・オフセット補正回路が補正した磁気データを、前記磁気センサが水平状態にある場合の水平磁気データ(例えば、実施形態における磁気データHx,Hy、V)に座標変換する座標変換部(例えば、本実施形態における座標変換部13)をさらに有することを特徴とする。
この構成により、感度・オフセット補正回路が補正した磁気データを座標変換することができ、高い精度で感度及びオフセット値を補正した水平磁気データを算出することができる。
【0014】
本発明の磁気センサ出力補正方法は、感度・オフセット算出部が、感度及びオフセット値を変数として有する、3軸の磁気センサによって得られた磁気データを補正する補正式を、重力ベクトルに垂直な平面と、前記磁気センサのx軸方向及びy軸方向の形成する平面とがなす傾斜角が、0となるよう座標変換して得られる変換式における垂直成分を示す垂直成分式に対し、異なる地点で測定した複数の磁気データ及び傾斜角を代入して得られる線形連立方程式を解くことにより、測定した前記磁気データに含まれる感度及びオフセット値を算出する感度・オフセット算出過程と、感度・オフセット補正部が、前記感度・オフセット算出部の算出する前記感度及び前記オフセット値により、前記磁気センサの測定する磁気データの補正を行う感度・オフセット補正過程とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明の方位角計測装置は、3軸方向の加速度データを検出する加速度検出部(例えば、実施形態における加速度センサSG)と、3軸方向の磁気データを検出する磁気検出部(例えば、実施形態における磁気センサSM)と、感度及びオフセット値を変数として有する、3軸の磁気センサによって得られた磁気データを補正する補正式を、重力ベクトルに垂直な平面と、前記磁気センサのx軸方向及びy軸方向の形成する平面とがなす傾斜角が、0となるよう座標変換して得られる変換式における垂直成分を示す垂直成分式に対し、異なる地点で測定した複数の磁気データ及び傾斜角を代入して得られる線形連立方程式を解くことにより、測定した前記磁気データに含まれる感度及びオフセット値を算出する感度・オフセット算出部と、前記感度・オフセット算出部が算出した前記感度及び前記オフセット値により、前記磁気センサの測定する磁気データの補正を行う感度・オフセット補正部と、前記傾斜角により、前記感度・オフセット補正回路が補正した磁気データを、前記磁気センサが水平状態にある場合の水平磁気データに座標変換する座標変換部と、前記水平磁気データにより方位角を求める方位角計算部(例えば、実施形態における方位角算出部2)とを有することを特徴とする。
この構成によれば、補正に用いる感度及びオフセット値を含んだ補正する式を、傾斜角を0とするように座標変換した変換式に、求めたい感度及びオフセット値が1次の変数として含まれており、複数の磁気データを代入して線形連立方程式として解くことにより、一括して感度及びオフセット値を得ることが可能となり、高速に磁気データを補正し、補正した水平磁気データから高い精度により、従来より高速に方位角を算出することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、3軸の加速度データから、搭載される装置の傾斜角(ピッチ角及びロール角)を求め、この傾斜角により磁気データの値を座標変換することで、水平な状態で検出した磁気データの値である変換磁気データを得ることができる。そのため、磁気データからのみ傾斜した状態を推定する場合に比較し、容易に高い精度の傾斜角情報を求めることができ、感度及びオフセット値の算出を高い精度で、従来に比較して高速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態による方位角計測装置100の構成例を示すブロック図である。
【図2】方位角計測装置100における磁気センサGMと加速度センサSGとの配置関係を示す図である。
【図3】感度α及びオフセット値Bを推定する際に用いる磁気データ及び加速度データを測定する測定点のある、センサ座標系における測定球面200を示す図である。
【図4】図3における測定球面200の測定ポイントにおける絶対座標系と、センサ座標系との各軸のずれを説明する図である。
【図5】図3の測定球面200上において測定した磁気データを、水平状態とした際の磁気データが絶対座標系に座標変換された結果を示す図である。
【図6】磁気センサ出力補正回路1における感度α及びオフセット値Bを算出する動作を示すフローチャートである。
【図7】測定点数と、測定点数での誤差率の標準偏差との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、この発明の一実施形態による磁気センサ出力補正回路1を用いた方位角計測装置100の構成例を示す概略ブロック図である。
本実施形態による方位角計測装置100は、磁気センサSMと、加速度センサSGと、磁気センサ出力補正回路1と、方位角算出部2とを備えている。
方位角計測装置100において、磁気センサ出力補正回路1は、感度・オフセット補正部11、感度・オフセット算出部12、座標変換部13、傾斜角情報算出部14、感度・オフセット記憶部15、磁気データ記憶部16、傾斜角情報記憶部17を備えている。
【0019】
磁気センサSMは、X軸方向の磁界の強度を示す測定磁気データMxを測定するX軸方向磁気検出部SM1、Y軸方向の磁界の強度を示す測定磁気データMyを測定するY軸方向磁気検出部SM2、Z軸方向の磁界の強度を示す測定磁気データMzを測定するZ軸方向磁気検出部SM3とから構成された、X軸、Y軸及びZ軸の3軸の磁気センサである。ここで、X軸方向磁気検出部SM1、Y軸方向磁気検出部SM2及びZ軸方向磁気検出部SM3は、例えば、ホール素子、磁気抵抗素子、フラックスゲート型磁気素子などが用いられる。
【0020】
加速度センサSGは、X軸方向の加速度を示す加速度データSxを測定するX軸方向加速度検出部SG1、Y軸方向の加速度を示す加速度データSyを測定するY軸方向加速度検出部SG2、Z軸方向の加速度を示す加速度データSzを測定するZ軸方向加速度検出部SG3とから構成された、X軸、Y軸及びZ軸の3軸の加速度センサである。ここで、X軸方向加速度検出部SG1、Y軸方向加速度検出部SG2及びZ軸方向加速度検出部SG3は、例えば、静電容量検出方式、圧電方式あるいはピエゾ抵抗方式を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical System)加速度センサなどが用いられる。
【0021】
次に、図2は、方位角計測装置100における磁気センサSMと加速度センサSGとの配置関係を示す図である。
方位角計測装置100において、磁気センサSMと加速度センサSGとの各測定する軸である測定軸が平行となるように、磁気センサSMと加速度センサSGとが取り付けられている。
すなわち、磁気センサSMと加速度センサSGとは、X軸方向磁気検出部SM1とX軸方向加速度検出部SG1との測定軸(X軸)が平行となり、Y軸方向磁気検出部SM2とY軸方向加速度検出部SG2との測定軸(Y軸)も平行となり、Z軸方向磁気検出部SM3とZ軸方向加速度検出部SG3との測定軸(Z軸)も平行となるように、配置されている。磁気センサSMと加速度センサSGとの配置を図2にのようにした理由を以下に述べる。
【0022】
次に、図3は、感度α及びオフセット値Bを推定する際に用いる磁気データ及び加速度データを測定する測定点のある、センサ座標系における測定球面200を示す図である。
磁気センサSMの測定値である測定磁気データM(=(Mx、My,Mz))を補正する感度α(=(αx,αy,αz))及びオフセット値B(=(Bx,By,Bz))を検出する際、図3に示すように絶対座標系において、規準位置Oを中心とした所定の半径の球の表面上(測定球面200)の任意の位置(測定ポイント)において、磁気センサSMにより測定磁気データM(=(Mx,My,Mz):磁気ベクトル)を複数測定することになる。ここで、絶対座標系とは、本実施形態においては、重力ベクトルに対してX軸とY軸とにより形成される平面が垂直であり、磁気センサSMの測定する磁界データMx、My及びMzの全てがゼロとなる地点を原点Oとした座標系としている。また、センサ座標系は、磁気センサSMが測定する磁気データMx、My及びMzが形成する座標系である。このため、磁気センサSMが磁気データMx、My及びMzを測定する測定点毎にセンサ座標系は異なっている。
しかしながら、感度及びオフセット値を検出する際、人間の手により、上述した測定球面200に沿って、方位角測定装置100を回転させ、測定球面200上の測定点により磁気データMを測定する。このため、上述したように、絶対座標系におけるX軸及びY軸のなす平面と、磁気センサの測定軸、すなわちセンサ座標系におけるX軸(Mxの測定軸)及びY軸(Myの測定軸)のなす平面とを平行とすることは困難である。
そのため、磁気センサSMにおける感度α及びオフセット値Bを推定する場合、常に絶対座標系におけるX軸及びY軸のなす平面に対して、磁気センサSMのセンサ座標系におけるX方向の測定軸とY方向の測定軸とのなす平面が平行であれば、周囲の環境による磁界の変化などの影響があっても、常に、傾斜センサとして用いた加速度センサSGの測定する重力ベクトルにより、磁気センサSM、すなわち方位角測定装置100の傾斜角を正確に測定することができる。
また、図2において、磁気センサSMは、一例として、X軸方向磁気検出部SM1、Y軸方向磁気検出部SM2及びZ軸方向磁気検出部SM3の3個の部品から構成されていると示しているが、半導体素子の1チップで、すなわち同一チップ内にこれらX軸方向磁気検出部SG1、Y軸方向磁気検出部SM2及びZ軸方向磁気検出部SM3を構成するようにしても良い。同様に、加速度センサSGは、一例として、X軸方向加速度検出部SG1、Y軸方向加速度検出部SG2及びZ軸方向加速度検出部SG3の3個の部品から構成されていると示しているが、半導体素子の1チップで、すなわち同一チップ内にこれらX軸方向加速度検出部SG1、Y軸方向加速度検出部SG2及びZ軸方向加速度検出部SG3を構成するようにしても良い。
【0023】
図4は、図3の測定球面200上における、絶対座標系と、いずれかの測定ポイントでのセンサ座標系との各軸のずれを説明する図である。すなわち、図4においては、絶対座標系に対して傾斜角を有する磁気センサSMのセンサ座標系の測定軸(X軸検出磁界、Y軸検出磁界、Z軸検出磁界)と、絶対座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸の関係を示している。ここで、X軸検出磁界、Y軸検出磁界、Z軸検出磁界の各々は、地磁気ベクトルにおけるX軸成分である磁界Mx、Y軸成分である磁界My、Z軸成分である磁界Mzをそれぞれ示している。方位角θを検出するためには、絶対座標系におけるX軸及びY軸のなす平面と、磁気センサの測定軸、すなわちセンサ座標系におけるX軸及びY軸のなす平面とが平行となるように、センサ座標系における測定磁気データを、絶対座標系の座標に座標変換させる必要がある。
【0024】
このため、本実施形態では、絶対座標系のX軸、Y軸及びZ軸の成す3次元空間において、絶対座標系におけるX軸及びY軸のなす平面に対し、絶対座標系のX軸におけるセンサ座標系のX軸及びY軸のなす平面の回転角をピッチ角pとする。また、絶対座標系におけるX軸及びY軸のなす平面に対し、絶対座標系のY軸におけるセンサ座標系のX軸及びY軸のなす平面の回転角をロール角rとする。また、絶対座標系におけるZ軸まわりの角度を方位角θとし、この方位角θが方位角計測装置100が求める角度である。ここで、上述したピッチ角pとロール角rとを組み合わせた角度を傾斜角としている。
【0025】
図1に戻り、傾斜角情報算出部14は、以下に示すように、ロール角r及びピッチ角pの算出を行う。
水平状態における加速度センサSGの出力する加速度データS=(Sx、Sy、Sz)と、傾斜角としてピッチ角p及びロール角rを有する加速度センサSGの出力する加速度データ(Sx’、Sy’、Sz’)との関係を、以下の(1)式に示す。ここで、水平状態とは、絶対座標系におけるX軸及びY軸のなす平面と、センサ座標系における測定磁気データMx(X軸方向磁気検出部SM1の検出する磁界)方向と測定磁気データMy(Y軸方向磁気検出部SM2の検出する磁界)方向とのなす平面とが平行となる状態をいう。
【0026】
【数1】

【0027】
また、上記(1)式において、水平状態における加速度センサSGが検出する加速度ベクトルを重力加速度の重力ベクトルで規格化すると、地球上においてz軸方向に対して9.8m/secを検出したときに「1」を出力することになる。したがって、傾斜状態での重力加速度で規格化された加速度センサSGの出力をA=(Ax、Ay、Az)とすると、水平状態では(0、0、1)となる。このため、(1)式は、以下に示す(2)式となる。
【0028】
【数2】

【0029】
上記(2)式から、ロール角r及びピッチ角pを算出すると、以下の(3)式のように、ロール角r及びピッチ角pを求めることができる。
【0030】
【数3】

【0031】
傾斜角情報算出部14は、(3)式に対し、加速度センサSGの出力するx軸方向の加速度データAxとy軸方向の加速度データAyとを代入して、ロール角r及びピッチ角pを算出し、測定点を識別する測定点の番号とともに、傾斜角情報記憶部17に書き込み、記憶させる。
傾斜角情報記憶部17には、各測定点におけるピッチ角p及びロール角rからなる傾斜角情報と、測定した測定点の番号とが記憶されている。
【0032】
座標変換部13は、傾斜角情報算出部14の算出したロール角r及びピッチ角pを用いて、磁気センサSMから得られた測定磁気データMiの座標を、センサ座標系から絶対座標系へ座標変換する処理を行う。
すなわち、磁気センサSMが出力する磁気データ(Mtx、Mty、Mtz)から、(3)式により求めた傾斜角により、磁気センサSMが水平状態のときの水平磁気データ(Hx、Hy、V)への補正(磁気センサのセンサ座標系から絶対座標系への座標変換)処理を、以下の(4)式にロール角r及びピッチ角rを代入し、計算して求める。ここで、(4)式は、変数であるセンサ座標系における磁気データMtx、Mty及びMtzと、この磁気データMtx、Mty及びMtzを絶対座標系に変換(1次変換)するための係数cos(r)、sin(p)sin(r)、cos(p)sin(r)、cos(p)、sin(p)、sin(r)、sin(p)cos(r)、cos(p)cos(r)との各々が次数1であり、変数及び係数が全て次数1の多変数関数により座標の1次変換を行う1次の変換式として水平磁気データ(Hx、Hy、V)を表している。
【0033】
【数4】

【0034】
方位角算出部2は、座標変換部13が算出した、磁気センサSMが水平状態である場合における水平磁気データ(X軸方向の水平磁気データHx、Y方向の水平磁気データHy)を、以下の(5)式に代入し、方位角θを算出する。
【0035】
【数5】

【0036】
すでに述べたように、本実施形態においては、傾斜角を有する装置の姿勢を検出するため、加速度センサSGにより傾斜角(ロール角r、ピッチ角p)を求め、この求めた傾斜角により、磁気センサSMの出力する測定磁気データMx、My、Mzを、磁気センサSMが水平状態にある場合に出力する水平磁気データHx、Hy、Vへの座標変換処理を行っている。
しかしながら、上述したように、方位角算出部2が方位角θを算出する際、従来例にも記載したように、実際に磁気センサSMが出力する測定磁気データMx、My、Mzには、感度αのバラツキ及びオフセット値Bが付加された状態となっている。このため、方位角θを算出する前の座標変換処理において、X軸、Y軸及びZ軸の各々の方向における感度α及びオフセット値Bを補正し、測定磁気データMx、My、Mzを磁気データMtx、Mty、Mtzに変換する必要がある。
【0037】
ここで、本実施形態においては、以下に示す(6)式により、磁気センサSMが測定結果として出力する測定磁気データMx、My及びMzの各々が、水平状態にある磁気センサSMが出力する磁気データMtx、Mty及びMtzに対して感度α及びオフセット値Bを含んでいるとして定義する。ここで、(6)式は、感度α及びオフセット値Bの各々の係数を1次とし、かつ測定磁気データMx、My及びMzの各々の変数も次数1であり、磁気データMtx、Mty及びMtzを、測定磁気データMx、My及びMzと、感度α及びオフセットBとの1次関数として表している。
【0038】
【数6】

【0039】
そして、感度・オフセット算出部12は、X軸方向における感度αx及びオフセット値Bxと、Y軸方向における感度αy及びオフセット値Byと、Z軸方向における感度αz及びオフセット値Bzとを求め、測定磁気データMx、My及びMzの各々を補正し、方位角計測装置100が水平状態にある磁気データMtx、Mty及びMtzの各々を算出する。
以下に、感度・オフセット算出部12が行う感度α及びオフセット値Bの算出処理の概念を説明する。
【0040】
図5は、図3の測定球面200上において測定した磁気データを、水平状態とした際の磁気データが絶対座標系に座標変換された結果を示す図である。
図5に示すように、地磁気の向かう方向が地面に対して、必ずしも垂直となるとは限らず、伏角を有している場合もあり、重力ベクトルで補正して、水平状態に位置した磁気センサとしても、ある一定の垂直成分V(z軸方向、水平磁気データにおける垂直成分)を有していることになる。
すなわち、X軸、Y軸及びZ軸方向における感度α及びオフセット値Bが校正された状態においては、図5に示す垂直成分Vが、測定球面200上のいずれの位置で測定された磁気データにおいても一定となる。
本実施形態は、この垂直成分Vが一定となることを利用し、感度α及びオフセット値Bを求める。
【0041】
また、この感度α及びオフセット値Bを算出する際、上述したように、垂直成分Vのみを用いるため、以下の(7)式に示すように、垂直成分Vのみを算出する。
【0042】
【数7】

【0043】
また、感度α及びオフセット値Bを算出する際、図3に示すように、規準位置Oを中心とした測定球面200上において、複数の異なる位置の磁気データを測定、例えば測定点N個の磁気データを用いるため、計算式を簡易化するため測定点i(1≦i≦N)における係数を以下の(8)式のように定義する。以下の処理においては、感度α及びオフセット値Bを変数とした線形連立方程式に対し、測定により得られた測定磁気データMx、My及びMzと、ロール角r及びピッチ角pとより求めた係数(センサ座標系から絶対座標系に変換する際に用いる係数)との数値を代入し、感度α及びオフセット値Bを算出することになる。前述したように、感度α及びオフセット値Bと、測定磁気データMx、My及びMzと、ロール角r及びピッチ角pとより求めた係数との各々は次数が1である。
【0044】
【数8】

【0045】
これにより、(7)式と(8)式とにより、垂直成分Vは以下の(9)式のように表される。
【0046】
【数9】

【0047】
この(9)式において、磁気データMtxi、Mtyi及びMtziの各々は、(6)式で示したように、測定球面200上における測定点iの測定磁気データMxi、Myi及びMziを、感度α及びオフセット値Bにより補正した値である。
ここで、さらに計算を簡易化するため、(9)式における感度αx、αy、αz、オフセット値Bx、By、Bz、垂直成分Vのそれぞれを、以下の(10)式に示すように変数変換を行う。
【0048】
【数10】

【0049】
(10)式に示した変数変換を行うことにより、(9)式は以下の(11)式に変換される。
【0050】
【数11】

【0051】
上記(11)式に対して、測定した測定磁気データMi=(Mxi,Myi,Mzi)を代入して連立方程式を解き、変数C、D、E、F、G、Hを求めることができる。
しかしながら、測定された測定磁気データMxi、Myi及びMziの各々に、ノイズが重畳されている場合があり、(11)式の右辺が0ではなく、誤差を持つことになる。このノイズが重畳されている場合には、(11)式から生成した連立方程式を解くことにより推定された変数C、D、E、F、G、Hが、正しい数値と大幅に異なる結果となる。
このため、本実施形態においては、(11)式の左辺を二乗し、二乗誤差として変数Sを、以下の(12)式として定義する。
【0052】
【数12】

【0053】
測定される測定磁気データMxi、Myi及びMziにノイズが無ければ、Sは0(ゼロ)となるが、実際にはノイズの影響により、正の値を有することになる。
このため、変数C、D、E、F、G、Hの各々を、誤差Sを最小とする数値として求めれば良いことになる。すなわち、下記の(13)式に示すように、誤差Sを各変数において偏微分した式が0となるように、変数C、D、E、F、G、Hの値を求めることになる。
【0054】
【数13】

【0055】
上記(13)式をまとめると、下記の(14)式となる。
【0056】
【数14】

【0057】
この(14)式の線形連立方程式を解くことにより、変数C、D、E、F、G、Hの数値を求め、変数C、D、E、F、G、Hの数値を、(10)式に代入して、感度αx、αy、αz、オフセット値Bx、By、Bz、垂直成分Vの数値を求める。このとき、感度αx、αy、αzの内、いずれか1つの数値を予め設定し、既知の感度として感度・オフセット算出部12の内部記憶部に記憶させておく。本実施形態においては、この設定する感度を感度αxとしているが、感度αy、αzのいずれとしても良い。
この既知の感度αxと、(14)式の線形連立方程式から求めた変数C、D、E、F、G、Hの値を(10)のそれぞれの式に代入し、感度αy、αzとオフセット値Bx、By、Bzの数値を求める。
上述したように、感度・オフセット算出部12は、(14)式に対し、測定した磁気データMi(0≦i≦N)を代入して、LU分解法などの一般的解法により、線形連立方程式を演算し、変数C、D、E、F、G、Hの数値の数値を算出する。
また、感度・オフセット算出部12は、予め設定されている感度αxと、算出した変数C、D、E、F、G、Hの数値とを(10)式に代入し、感度αy、αzとオフセット値Bx、By、Bzの数値を求める。
【0058】
また、感度αxを既知として予め設定した数値を用い、方位角θを算出して良いとする理由を、以下に示す。
(6)式及び(10)式を用いて、磁気データMt=(Mtx,Mty,Mtz)を表すと、以下の(15)式のように、磁気データMtx,Mty,Mtzの各々が表される。
【0059】
【数15】

【0060】
ここで、予め設定されていた感度αxがγ倍となったと仮定すると、(10)式により、感度αy、αz、オフセット値Bx、By、Bzも、γ倍されて計算されることになる。しかしながら、センサ座標系から絶対座標系への座標変換自体がγ倍されて行われるため、得られるX軸方向の水平磁気データHxと、Y軸方向の水平磁気データHyともに、γ倍されて求められることになる。したがって、(5)式において、方位角θを求める際に必要なのは、水平磁気データHyと水平磁気データHxとの比であるため、γがキャンセルされることになり、方位角θがγの数値に関係なく求まることになる。
【0061】
次に、図6を用いて、本実施形態による磁気センサ出力補正回路1の感度α及びオフセット値Bの推定処理の動作について説明する。図6は、磁気センサ出力補正回路1における感度α及びオフセット値Bを算出する動作を示すフローチャートである。
感度・オフセット算出部12は、磁気センサ出力補正回路1が起動されると、磁気データ記憶部16及び傾斜角情報記憶部17の初期化を行う(ステップS1)。例えば、N個の測定点から感度α及びオフセット値Bを推定する場合、感度・オフセット算出部12は、磁気データ記憶部16及び傾斜角情報記憶部17の各々の測定点番号1から測定点番号Nまでの、磁気データ及び傾斜角情報に対して0を書き込み、値の初期化を行う。
【0062】
次に、感度・オフセット算出部12は、測定球面200上において測定磁気データMiを測定した測定点毎に、時系列に磁気センサSMの出力する測定磁気データMiを、磁気データ記憶部16に対して、測定した測定点番号とともに書き込み、記憶させる(ステップS2)。
【0063】
次に、感度・オフセット算出部12は、測定球面200上において測定磁気データMiを測定したタイミングで、測定磁気データMiを測定した測定点毎に、時系列に加速度センサSGの出力する加速度データSを読み込み、傾斜角情報算出部14へ出力する。
そして、傾斜角情報算出部14は、(3)式によりロール角r及びピッチ角pをそれぞれ算出し、傾斜角情報として傾斜角情報記憶部17に対し、測定磁気データMiを測定した測定点に対して測定順に付加した番号である測定点番号とともに書き込み、記憶させる(ステップS3)。
ここで、磁気データと加速度データとは、同一の測定点において、同一時刻に測定されたデータが、同一の測定点番号に対応して、感度・オフセット算出部12により、サンプリングされ、磁気データ記憶部16と傾斜角情報記憶部17に書き込まれて、記憶されている。
【0064】
感度・オフセット算出部12は、磁気データ記憶部16に記憶されている異なる測定点番号の測定磁気データMxi、Myi及びMzi(1≦i≦N)と、測定磁気データMxj、Myj及びMzj(1≦j≦N、i≠j)との各々を比較し、測定磁気データMxの測定軸方向、測定磁気データMyの測定軸方向、測定磁気データMzの測定軸方向それぞれの差分を求め、その差分全てが予め設定した閾値以下であるか否かの判定を行う(ステップS4)。
そして、感度・オフセット算出部12は、差分のいずれかが予め設定した閾値を超える場合、処理をステップS5へ進め、一方、差分全てが予め設定した閾値以下である場合、処理をステップS6へ進める。
【0065】
次に、感度・オフセット算出部12は、差分の全てが予め設定した閾値以下である場合、測定球面200上における測定点の位置が近く、感度α及びオフセット値Bを正確に算出することができないとして、測定点番号の新しい磁気データMを、磁気データ記憶部16から削除する(ステップS6)。また、感度・オフセット算出部12は、傾斜角情報記憶部17において、磁気データ記憶部16から削除した測定点番号と同一の測定点番号の傾斜角情報を削除する。
そして、感度・オフセット算出部12は、磁気データ記憶部16及び傾斜角情報記憶部17におけるデータの削除を行った後、処理をステップS2へ戻す。
【0066】
次に、感度・オフセット算出部12は、磁気データ記憶部16における測定点の数が予め設定した数となったか否かの判定を行う(ステップS5)。
例えば、感度・オフセット算出部12は、磁気データ記憶部16における測定点番号Nに対して、測定点番号N+1までの磁気データMが取得されたか否かの判定を行う。
このとき、感度・オフセット算出部12は、測定点番号がN+1未満の場合、処理をステップS7へ進め、一方、測定点番号がN+1の場合、処理をステップS8へ進める。
【0067】
次に、感度・オフセット算出部12は、測定点番号がN+1未満の場合、磁気データ記憶部16及び傾斜角情報記憶部17に対して、さらに測定点を増加させるため、処理をステップS2へ戻す(ステップS7)。
【0068】
次に、感度・オフセット算出部12は、測定点番号がN+1の場合、磁気データ記憶部16において最も古い(最も小さい)測定点番号の磁気データMを削除し、磁気データを1つずつ小さい測定点番号の格納位置にシフトして上書きし、測定点番号N+1の磁気データMを0として、測定番号N+1の記憶領域を初期化する(ステップS8)。
また、このとき、感度・オフセット算出部12は、傾斜角情報記憶部17において最も古い測定点番号の傾斜角情報を削除し、傾斜角情報を1つずつ小さい測定点番号の格納位置にシフトして上書きし、測定点番号N+1の傾斜角情報を0として、測定番号N+1の記憶領域を初期化する。
【0069】
次に、座標変換部13は、測定点毎の傾斜角情報のロール角rとピッチ角pとを傾斜角情報記憶部17から、測定点番号の順番に順次読み出し、読み出した傾斜角情報のロール角riとピッチ角piとを(8)式に代入して、測定点毎の係数c1i、c2i及びc3i(1≦i≦N)を算出する。
そして、感度・オフセット算出部12は、座標変換部13の算出した係数c1i、c2i及びc3iと、磁気データ記憶部16から読み出した測定磁気データMxi、Myi及びMziとから、磁気データの垂直成分Vにおける誤差Sの二乗和が最小となる条件として生成した(14)式の線形連立方程式(連立1次方程式)を、例えば一般的なLU分解の方法を用いて解き、変数C、D、E、F、G、Hを算出する。
【0070】
変数C、D、E、F、G、Hを求めた後、感度・オフセット算出部12は、予め内部に設定されている感度αxと、求められた変数C、D、E、F、G、Hとを、(10)式に代入して、感度αy、αzと、オフセット値Bx、By、Bzと、垂直成分Vとを算出する(ステップS9)。
【0071】
次に、感度・オフセット算出部12は、感度αxと、算出した感度αy、αz、オフセット値Bx、By、Bzとを、感度・オフセット記憶部15に書き込む(ステップS10)。
【0072】
そして、感度・オフセット算出部12は、図示しないタイマーで計測している経過時間が予め設定した時間閾値を超えたか否かの判定を行う(ステップS11)。
このとき、感度・オフセット算出部12は、タイマーの経過時間が予め設定した時間閾値を超えた場合、処理をステップS12へ進め、一方、タイマーの経過時間が設定した時間閾値以下の場合、ステップS11の処理を繰り返す。
【0073】
次に、感度・オフセット算出部12は、タイマーをリセットし、新たな計数処理を開始させ、処理をステップS2へ戻す(ステップS12)。
【0074】
本実施形態によれば、上述した処理により、測定データにノイズが重畳していたとしても、複数の測定点において測定した測定磁気データMiを用いて、垂直成分Vにおける誤差の二乗和である誤差Sを求め、この誤差Sが最小となるように、推定を行うため、ノイズが相互にキャンセルし合い、ノイズによる誤差も最小化し、正確な感度α及びオフセット値Bを求めることができる。
【0075】
また、本実施形態によれば、感度α及びオフセット値Bの計算に用いる傾斜角情報から求めた係数c1i、c2i及びc3iの絶対値が1より小さいため、(14)式の線形連立方程式における総和の計算を行う場合、特許文献1及び特許文献2に記載された手法に比較して、各計算要素が比較的小さな数値となり、二乗誤差S自体が小さくなるため、特許文献1及び特許文献2に対して、より正確な感度α及びオフセット値Bを求めることができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、実際の測定値に対し、感度α及びオフセット値Bの補正値を含めて、垂直成分Vを求め、この垂直成分の誤差の二乗の総和Sが最小となるように、線形連立方程式を解くことで感度α及びオフセット値Bを算出しているため、非線形連立方程式を解いて感度及びオフセット値Bを算出する手法に比較して、計算量を大幅に低減させることができ、高速に感度α及びオフセット値Bを算出することができる。
【0077】
また、ステップS5において、磁気データ及び傾斜角情報を取得する測定点番号をN+1までとして、Nのデータを1つ書き換える処理として説明したが、N+Lとして、Lの数字はタイマーの時間閾値に対応して設定される。
例えば、GPS(Global Positioning System)などを搭載している場合、感度・オフセット算出部12が方位角計測装置100の移動速度を移動距離を時間により除算することで求め、移動速度が予め設定した閾値速度より速い場合、感度α及びオフセット値Bの変化が大きくなるとし、タイマーの時間閾値を短くし、磁気データ及び傾斜角情報を入れ替える測定点の数Lを増加させる処理を行うようにしても良い。ここで用いる閾値速度、時間閾値及び測定点の数Lは、複数の速度によって実験を行い、測定結果から適正値に設定する必要がある。
【0078】
次に、方位角算出部2が方位角θを算出する処理について説明する。
また、方位角算出部2は、方位角θを算出するタイミングにおいて、感度・オフセット補正部11及び傾斜角情報算出部14に対して、データ送信の制御信号を出力する。
この制御信号が入力されることにより、感度・オフセット補正部11は、磁気センサSMが検出する測定磁気データMx、My及びMzを読み込み、(6)式を用いて補正し、補正した磁気データMtx、Mty及びMtzとともに、座標変換をする制御信号を座標変換部13に出力する。
また、傾斜角情報算出部14は、上述したデータ送信の制御信号に同期し、磁気データMx、My及びMzを読み込みのタイミングで検出した加速度データから傾斜角情報を算出し、座標変換部13へ出力する。
【0079】
次に、座標変換部13は、補正された磁気データMtx、Mty及びMtzと、この測定点における傾斜角情報とが供給されると、これらのデータを(13)式に代入して、水平状態における、すなわち絶対座標系に座標変換された水平磁気データHx及びHyを、方位角算出部2へ出力する。
そして、方位角算出部2は、供給される水平磁気データHx及びHyを(5)式に代入し、方位角θを算出し、外部回路に対して出力する。
【0080】
また、感度α及びオフセット値Bを算出する際に用いる測定点の数として、数が多い方が、高い精度により感度α及びオフセット値Bが算出されるが、数が多くなるに従って、感度α及びオフセット値Bを求める計算に係る時間が増加する。
このため、感度α及びオフセット値Bを算出するために用いる測定磁気データMi及び加速度データAiの数、すなわち測定点数を、4点、8点、16点、32点、64点、128点として、それぞれ30回ずつ測定を行い、30回分のオフセットを算出した。
そして、オフセット値Bの真値からの誤差率(パーセント)を計算し、30回分の誤差率の標準偏差を計算した。
【0081】
図7は上述した評価の結果として、測定点数と、測定点数での誤差率の標準偏差との関係を示す図である。この図7において、横軸が測定点数であり、縦軸が誤差率の標準偏差を示している。この図7から、16点近傍から誤差率が1%以下となり、16点以上増加させても、それほど誤差率の標準偏差の変化の程度が少なくなることが分かった。
この結果から、誤差率が比較的良く(0.5%近傍)、計算速度を考慮して、測定点数Nを、16点から32点の範囲と設定した。
【0082】
また、本実施形態においては、磁気センサSMとして、以下に示すように、フラックスゲート型磁気素子を用いると、より高い精度にて方位角θを求めることができる。
すなわち、フラックスゲート型磁気素子は、他の磁気センサに比較して感度が高く、かつ磁気ヒステリシスが原理的に「0」であるという特徴を有している。他の磁気センサでは、感度を高くすることと、ヒステリシスを小さくすることがトレードオフの関係となっており、これらを両立させることが困難である。
感度が高いということは、感度の推定値に誤差が重畳したとしても、推定値に重畳する誤差の割合を小さくすることができ、最終的に算出される方位角θに含まれる誤差の割合を低減することが可能となる。
また、磁気ヒステリシスが存在するということは、磁気センサの出力する測定磁気データの数値が+(正)から−(負)へ、あるいは−から+へと極性が変化したとき、測定磁気データにおける誤差となるオフセット値が極性により異なり、オフセット値の推定値における誤差となる。したがって、オフセット値を高い精度にて推定するためには、磁気ヒステリシスを0とすることが望ましく、また存在する場合でも磁気ヒステリシスができるだけ小さくすることがより良い条件である。
フラックスゲート型磁気素子は、感度を高くし、かつ磁気ヒステリシスを低減するため、原理上、磁気素子を構成する磁性体コアを磁気飽和させて用いるので、磁性体コアに巻かれている励磁巻線に対して励磁電流を通電させる必要がある。そのため、フラックスゲート型磁気素子は、駆動するための電力消費量が他の磁気センサに比較して大きくなる欠点がある
しかしながら、本実施形態においては、感度α及びオフセット値Bを算出する際の演算量を従来に比較して低下させたため、電力消費量を従来に比較して大幅に低下させることが可能である。
このため、フラックスゲート型磁気素子を用いた方位角計測装置に本発明の磁気センサ出力補正回路、磁気センサ出力補正方法を適用することにより、フラックスゲート型磁気素子の欠点(電力消費量が大きい)を補うことが可能である。したがって、フラックスゲート型磁気素子を用いた方位角計測装置に本発明の磁気センサ出力補正回路、磁気センサ出力補正方法を適用しない場合に比べて、装置全体(例えば、方位角計測装置を組み込んだ携帯型電子端末など)の消費電力を抑えることができる。
【0083】
また、図1における磁気センサ出力補正回路(但し、感度・オフセット記憶部15、磁気データ記憶部16及び傾斜角情報記憶部17の各記憶部を除く)の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより磁気センサ出力補正処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0084】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0085】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1…磁気センサ出力補正回路
2…方位角算出部
11…感度・オフセット補正部
12…感度・オフセット算出部
13…座標変換部
14…傾斜角情報算出部
15…感度・オフセット記憶部
16…磁気データ記憶部
17…傾斜角情報記憶部
100…方位角計測装置
200…測定球面
SM…磁気センサ
SM1…X軸方向磁気検出部
SM2…Y軸方向磁気検出部
SM3…Z軸方向磁気検出部
SG…加速度センサ
SG1…X軸方向加速度検出部
SG2…Y軸方向加速度検出部
SG3…Z軸方向加速度検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感度及びオフセット値を変数として有する、3軸の磁気センサによって得られた磁気データを補正する補正式を、重力ベクトルに垂直な平面と、前記磁気センサのx軸方向及びy軸方向の形成する平面とがなす傾斜角が、0となるよう座標変換して得られる1次の変換式に対し、異なる地点で測定した複数の磁気データ及び傾斜角を代入して得られる線形連立方程式を解くことにより、測定した前記磁気データに含まれる感度及びオフセット値を算出する感度・オフセット算出部と、
前記感度・オフセット算出部が算出した前記感度及び前記オフセット値により、前記磁気センサの測定する磁気データの補正を行う感度・オフセット補正部と
を有することを特徴とする磁気センサ出力補正回路。
【請求項2】
前記感度・オフセット算出部が、前記1次の変換式として、座標変換して得られた垂直成分を示す垂直成分式のみを用いて、感度及びオフセットを算出することを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ出力補正回路。
【請求項3】
前記感度・オフセット算出部が、
垂直成分Vを求める前記垂直成分式において、変数である3軸の感度αx、αy、αzとオフセットBx、By、Bzと、垂直成分Vとの各変数において、感度αx、αy、αzのいずれかを予め設定した定数とし、前記変数を当該定数により除算して新たな変換変数とし、前記垂直成分式を二乗し、各変換変数により偏微分し、得られた偏微分式の各々が最小となるように、前記感度αx、αy、αzと前記オフセットBx、By、Bzを求める
ことを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ出力補正回路。
【請求項4】
3軸の加速度センサから得られる3軸方向の加速度データから前記傾斜角を求める傾斜角情報算出部を
さらに有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁気センサ出力補正回路。
【請求項5】
前記傾斜角により、前記感度・オフセット補正部が補正した磁気データを、前記磁気センサが水平状態にある場合の水平磁気データに座標変換する座標変換部
をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁気センサ出力補正回路。
【請求項6】
感度・オフセット算出部が、感度及びオフセット値を変数として有する、3軸の磁気センサによって得られた磁気データを補正する補正式を、重力ベクトルに垂直な平面と、前記磁気センサのx軸方向及びy軸方向の形成する平面とがなす傾斜角が、0となるよう座標変換して得られる変換式における垂直成分を示す垂直成分式に対し、異なる地点で測定した複数の磁気データ及び傾斜角を代入して得られる線形連立方程式を解くことにより、測定した前記磁気データに含まれる感度及びオフセット値を算出する感度・オフセット算出過程と、
感度・オフセット補正部が、前記感度・オフセット算出部の算出する前記感度及び前記オフセット値により、前記磁気センサの測定する磁気データの補正を行う磁気データ補正過程と
を有することを特徴とする磁気センサ出力補正方法。
【請求項7】
3軸方向の加速度データを検出する加速度検出部と、
3軸方向の磁気データを検出する磁気検出部と、
感度及びオフセット値を変数として有する、3軸の磁気センサによって得られた磁気データを補正する補正式を、重力ベクトルに垂直な平面と、前記磁気センサのx軸方向及びy軸方向の形成する平面とがなす傾斜角が、0となるよう座標変換して得られる変換式における垂直成分を示す垂直成分式に対し、異なる地点で測定した複数の磁気データ及び傾斜角を代入して得られる線形連立方程式を解くことにより、測定した前記磁気データに含まれる感度及びオフセット値を算出する感度・オフセット算出部と、
前記感度・オフセット算出部が算出した前記感度及び前記オフセット値により、前記磁気センサの測定する磁気データの補正を行う感度・オフセット補正部と、
前記傾斜角により、前記感度・オフセット補正部が補正した磁気データを、前記磁気センサが水平状態にある場合の水平磁気データに座標変換する座標変換部と、
前記水平磁気データにより方位角を求める方位角計算部と
を有することを特徴とする方位角計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−103207(P2012−103207A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254032(P2010−254032)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)