磁気テープの製造方法、製造装置、及び磁気テープ
【課題】
磁気テープ端面のエッジ部に生じる突起を除去し、製品品質を向上させることができる磁気テープの製造方法、製造装置、及び突起が除去された磁気テープを提供すること。
【解決手段】
磁気テープ26の端面エッジ部に対し直線状の刃物52を当て、磁気テープ26を走行させるとともに刃物52を磁気テープ26の走行速度よりも低速で刃物52の長手方向へ移動させることにより、裁断により磁気テープ26のエッジ部に生じた突起を除去する。
磁気テープ端面のエッジ部に生じる突起を除去し、製品品質を向上させることができる磁気テープの製造方法、製造装置、及び突起が除去された磁気テープを提供すること。
【解決手段】
磁気テープ26の端面エッジ部に対し直線状の刃物52を当て、磁気テープ26を走行させるとともに刃物52を磁気テープ26の走行速度よりも低速で刃物52の長手方向へ移動させることにより、裁断により磁気テープ26のエッジ部に生じた突起を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気テープの製造において、裁断時のエッジ部の突起を除去する磁気テープの製造方法、製造装置、及び突起が除去された磁気テープに関する。
【背景技術】
【0002】
カセットテープやビデオテープを始めとして、コンピュータのデータバックアップ用にも使用されている各種の磁気テープの製造方法は、ロール状に巻回された幅広な帯状の磁気テープ原反を送り出し側から引き出して搬送させながらスリッタで複数の幅狭な磁気テープに裁断して巻取り側の巻芯に巻き取ることにより製造される。
【0003】
従来、このような磁気テープの製造において使用されるスリッタは、図2に示されるように、幅広で帯状の磁気テープ原反20を上下一対の回転刃により複数本の磁気テープ26に裁断する装置14であり、受け刃としてローラ状に形成された複数の回転刃30と、この回転刃30との間で磁気テープ原反20から引き出される磁気テープに剪断力を与えて裁断する薄円盤状の複数の回転刃32とで構成されるのが一般的である。
【0004】
しかし、このような磁気テープ26をスリッタ14により裁断した場合、磁気テープ原反の端面が綺麗に裁断できず、端面のエッジ部に突起を生じることが多い。
【0005】
図3は、図2の部分拡大図であり、裁断された磁気テープ26と上下一対の回転刃30、32との位置関係を示している。図4は、このような磁気テープ26の左右端面部分の断面形状を示す拡大断面図である。図4における磁気テープ26は、上側の磁性層26Aと下側の非磁性支持体層26Bとの2層で構成されている。なお、図4において、磁気テープ26の走行方向は、紙面に垂直方向である。
【0006】
図3に示されるように、回転上刃32で磁気テープ26が引張られた状態で裁断されることにより、磁気テープ26の右上の磁性層26Aのエッジ部(角隅部)及び左下の非磁性支持体層26Bのエッジ部(角隅部)はいずれも突起状となり、隣接した磁気テープ26のこの突起状部分に相対する部分は切欠き状に形成され、磁気テープ26の断面全体では、略平行四辺形状となる。
【0007】
このような断面形状の磁気テープ26となった場合、テープドライブでの走行中に上記の突起状部分が削れて、サブミクロンサイズの塵埃が発生する。近年、磁気テープは高記録密度化に伴い線記録密度が年々向上している。このため、このようなサブミクロンサイズの塵埃がサーボライターまたはテープドライブのヘッドに付着すると、サーボ信号あるいは書き込み信号にドロップアウト(DO)が生じ信号の書き込みが不可能となり品質エラーが発生する。また、サーボライターのテープエッジ規制部に塵埃が堆積すると、サーボ書き込み位置エラーやエッジの変形が起こり品質エラーを発生させることとなる。
【0008】
この問題に対応するため、磁気テープを走行させながら磁気テープ端面のエッジ部に回転する刃物や、固定された刃物を押し当て、切断により生じた磁気テープ端面のエッジ部に生じている突起を除去する磁気テープの製造方法、及び磁気記録媒体のエッジ処理装置が提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2003−300193号公報
【特許文献2】特開2005−50438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、特許文献2に記載されるような装置によりエッジ部の突起が除去された磁気テープでは、磁気テープ走行中に突起状部分が削れることによる塵埃の発生が減少し、品質エラーの発生が改善する。
【0010】
しかし、特許文献1に記載されるような回転刃を使用しての突起の除去では、近年大容量化に伴い使用される薄手の磁気テープ(例えば厚さ9μm以下の磁気テープ)では、磁気テープに逃げが生じて加工が出来ないという問題があった。
【0011】
また、特許文献1、特許文献2に記載されるような固定式の刃物を用いた場合、刃物の寿命が短く大量の製品を加工する生産には不向きであった。
【0012】
本発明は、このような問題に対応するためなされたものであって、磁気テープ原反から複数の幅狭な磁気テープに裁断する際に生じる磁気テープ端面のエッジ部に生じる突起を生産性良く除去し、製品品質を向上させることができる磁気テープの製造方法、製造装置、及び突起が除去された磁気テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記目的を達成するために本願の発明は、裁断された磁気テープの端面エッジ部に対し直線状の刃物を当て、前記磁気テープを走行させるとともに前記刃物を該磁気テープの走行速度よりも低速で該刃物の長手方向へ移動させることにより、裁断により該磁気テープのエッジ部に生じた突起を除去することを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、スリッタで裁断した直後の磁気テープ走行中又は一旦スリッタで裁断されリールに巻き取られた磁気テープリール(一般に「パンケーキ」 と称呼されている) より巻き戻される際の磁気テープ走行中に、この磁気テープ端面のエッジ部に刃物を押し当てることにより、エッジ部に生じている突起を除去する。
【0015】
このとき、エッジ部に押し当てる刃物は直線状の形状を成し、刃物の長手方向へ磁気テープの走行速度よりも低速で移動しながら押し当てられる。
【0016】
これにより、生産性良く容易にエッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造され、搬送ガイド、サーボ規制部、ドライブヘッド等でのエッジ部からの塵埃発生を減少させ、サーボ信号あるいは書き込み信号のドロップアウトエラー、サーボ書き込み位置エラーやエッジ部の変形等による品質エラーを防止し、磁気テープの製品品質を向上させることができる。
【0017】
また本発明は前記発明において、前記刃物は、刃先の角度が10°〜30°であって、前記磁気テープの表面から60°±10°の角度で刃先がエッジ部に接するとともに、前記磁気テープの走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°の角度で刃先がエッジ部に接し、更に前記磁気テープの表面と前記刃物の面が90°未満の角度で交差してエッジ部に接することを特徴としている。
【0018】
本発明によれば、刃物が理想的な角度で磁気テープのエッジ部に押し当てられることにより、容易にエッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。
【0019】
更に本発明は前記発明において、前記磁気テープは、一方のエッジ部に前記刃物が接し、他方が規制手段により押圧されており、前記規制手段の前後が円弧形状のガイド部材に巻き掛けられていることを特徴としている。
【0020】
本発明によれば、2分割されている円弧形状のガイド部材が、磁気テープの一方のエッジ部に刃物が接し、他方が規制手段により押圧されている箇所の前後に備えられ、磁気テープはガイド部材の円弧形状に沿うようにガイド部材へ巻き掛けられる。
【0021】
これにより、一方のエッジ部に刃物が接し、他方が規制手段により押圧されている箇所の磁気テープに張力が生じ、容易にエッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の磁気テープの製造方法、製造装置、及び磁気テープによれば、エッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造され、エッジ部からの塵埃発生が減少することにより、品質エラーの少ない高品質な磁気テープが製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下添付図面に従って本発明に係る磁気テープの製造方法、製造装置、及び磁気テープの好ましい実施の形態について詳説する。
【0024】
まず、図1に本願発明の磁気テープの製造方法の前に実施される、磁気テープの裁断を行う磁気テープの製造装置を示す。磁気テープの製造装置10は、主として、ロール状に巻回された幅広な帯状の磁気テープ原反20を複数の幅狭な磁気テープ26に裁断するスリッタ(裁断装置) 14と、スリッタ14で裁断された磁気テープ26をリールに巻き込む巻込み装置19と、で構成される。 図2はスリッタ14の一例を示す概略図である。
【0025】
図1に示されるように、巻戻しリール11のハブ12(巻芯) には、ロール状に巻回された磁気テープ原反20が装着される。磁気テープ原反20は、通常、非磁性支持体上に強磁性微粒子を含む磁性層を塗布法や真空蒸着法等により形成し、その磁性層に配向処理、乾燥処理、表面処理等を行うことによって製造される。
【0026】
スリッタ14は、幅広で帯状の磁気テープ原反20を上下一対の回転刃30、32により複数本の磁気テープ26、26…に裁断する装置であり、図2に示す如く、受け刃としてローラ状に形成された複数の回転下刃30、30…と、回転下刃30との間で磁気テープ原反20に剪断力を与えて裁断する薄円盤状の複数の回転上刃32、32…とで構成される。
【0027】
回転下刃30は、下側シャフト34にスペーサ36を介して嵌合固定され、回転上刃32は、下側シャフト34と平行な上側シャフト38にスペーサ40を介して嵌合固定され、回転上刃32と回転下刃30との刃先部分が互いに重なり合うように配置されている。そして、回転上刃32は図示しないバネにより図2の軸方向右側に付勢され、回転上刃32の刃先部分が回転下刃30の刃先部分に当接した状態で位置決めされる。上側シャフト38と下側シャフト34はそれぞれ回転速度を自由に可変可能なモータ41、43に接続され、回転上刃32と回転下刃30の周速度を個別に可変できるようになっている。
【0028】
巻戻しリール11とスリッタ14との間には、磁気テープ原反20の搬送路を形成する複数のガイドローラ22、22…と、磁気テープ原反20の搬送速度を規制するグランドサクションドラム24が設けられる。 グランドサクションドラム24は、回転速度を自由に可変可能なモータ(図示せず) に接続され、グランドサクションドラム24の周面に磁気テープ原反20を吸着して回転することにより、磁気テープ原反20の搬送速度を任意に可変する。
【0029】
そして、巻取リール17のハブ18 (巻芯) の回転速度は、このグランドサクションドラム24の周速度を基準として制御される。磁気テープ原反20の搬送速度を規制する手段としてはグランドサクションドラム24に限定されず、磁気テープ原反20を扶持搬送するピンチローラを使用することもできる。
【0030】
スリッタ14とそれぞれの巻取リール17との間にはテンションローラ28が設けられ裁断時における磁気テープ原反20の搬送方向のテンションが任意に調整される。
【0031】
以上に説明した磁気テープの製造装置10において、磁気テープ26端面のエッジ部に生じている突起を除去する本発明に係る磁気テープの製造方法、製造装置で使用される突起除去手段は、テンションローラ28の上流又は下流の所定位置に設ければよい(図1では図示略)。
【0032】
次に、図5〜図8により本発明の磁気テープの製造方法、製造装置の要部構成を説明する。図5は、本発明に係る磁気テープの製造装置50の全体構成図、図6は磁気テープのエッジ加工部の要部拡大図、図7エッジ加工部を磁気テープ平面側より見た拡大図、図8はエッジ加工部を磁気テープの断面で見た拡大図である。
【0033】
磁気テープの製造装置50は、図1に示される磁気テープの製造装置10と異なり、一旦スリッタで裁断されハブ12に巻き取られた磁気テープリール21(一般に「パンケーキ」 と称呼されている) より巻き戻される際の磁気テープ26の走行中に突起除去手段51が設けられている。同図の構成において、搬送される磁気テープ26は、複数のガイドローラ22、22…により支持されている。
【0034】
突起除去手段51はカバー58により囲われ、カバー58内部に刃物52、規制手段53、吸引ノズル54、ガイド部材55、及び吹付けノズル56が設けられている。
【0035】
カバー58には吸引配管58Aが接続され、吸引配管58Aに接続された図示しない吸引源によって内部のカバー58内部のエアが外部へ排出されている。これにより、磁気テープ26のエッジ部を加工する際に周囲に飛散した塵埃はカバー58内のエアと共に外部へ排出される。
【0036】
刃物52は、SK材、粉末ハイス鋼、超硬材、またはセラミックにより形成され、直線状の刃を備えた刃物であり、図7に示される刃先角度Cは10°から30°の範囲に加工されている。
【0037】
刃物52は、図8に示される面取り角度Dが磁気テープ26の表面から60°±10°(望ましくは60°±5°)の角度で刃先が磁気テープ26のエッジ部に接している。更に刃物52は、図7に示される逃げ角度Bが磁気テープ26の走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°(望ましくは50°±5°)の角度で刃先が磁気テープ26のエッジ部に接している。尚且つ、刃物52は、図6に示される磁気テープ26の表面と刃物52の面との交差角度Aが90°未満であるように磁気テープ26のエッジ部に接している。接触している磁気テープ26のエッジ部は、リファレンスエッジでない側のエッジ部である。
【0038】
磁気テープ26のエッジ部に接している刃物52は、サーボモータまたはステッピングモータを使用した不図示の送り機構により、走行している磁気テープ26に対し下から上へ(図6に示される矢印F方向へ)刃物52の長手方向に向かって移動する。このとき、移動速度は磁気テープ26の走行速度に対し、1/150000〜1/50000の低速である。
【0039】
これにより、刃物52が理想的な角度で磁気テープのエッジ部に押圧されるとともに、最適な速度で移動するので、容易にエッジ部に生じている突起が除去され、刃全体を効率よく使用できると共に、常に劣化の無い刃先が磁気テープのエッジ部に押し当てられるので、理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。
【0040】
なお、刃物52は直線状の刃を備えていればいずれの形状でもよく、例えば三角柱の各長辺に刃を備えた形状、または円柱表面に複数の直線状の刃を設けたものなどいずれの物でも好適に利用可能である。
【0041】
規制手段53は、図7に示されるように、スプリング53Bの先端にセラミック等の耐摩耗性部材で形成された押圧部材53Aが取り付けられた構成を有している。規制手段53は、刃物52が接している磁気テープ26の一方のエッジ部に対向した他方のエッジ部を、押圧部材53Aで押圧することにより、磁気テープ26が刃物52に押圧されて上下に移動することを防止する。
【0042】
ガイド部材55は、図6に示すように、円弧形状を成す前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとに2分割され、前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとは刃物52と規制手段53とが磁気テープ26のエッジ部に接している加工箇所の前後に設置される。前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとの先端部分は、刃物52との干渉を避けるため他の部分よりも薄く形成され、前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとの半径は30mm〜100mmに形成されている。
【0043】
このような前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとには、円弧形状に沿うように磁気テープ26が巻き掛けられ、これにより加工箇所の磁気テープ26に張力が生じ、容易にエッジ部に生じている突起を除去されて、理想的なエッジ形状の磁気テープ26が製造される。
【0044】
吸引ノズル54は、図6、図7に示されるように、吸引口54Aが磁気テープ26に刃物52が接しているエッジ部の近傍に設けられ、刃物52の刃先付近に溜まった塵埃Gを吸引する。これにより、溜まった塵埃Gが磁気テープ26を押して加工不良を起こす問題が解消され、良好なエッジ形状の磁気テープ26が製造される。
【0045】
吹付けノズル56は、図6に示されるように、噴射口56Aが磁気テープ26に刃物52が接しているエッジ部の近傍に設けられ、噴射するエアにより塵埃Gを吹き飛ばすまたは飛び散った塵埃が再び磁気テープに付着することを防止する。
【0046】
次に、上記のように構成された磁気テープの製造装置50の作用を説明する。図1に示される磁気テープの製造装置10において、先ず巻戻しリール11に巻回されたロール状の磁気テープ原反20は、巻戻しリール11から連続的に引き出され、スリッタ14に搬送される。そして、スリッタ14で複数本の磁気テープ26に裁断されて巻取リール17のハブ18に巻き取られる。これにより、例えば磁気テープ原反20が10〜100本に裁断され、規定の幅寸法の磁気テープ26が製造される。
【0047】
なお、本発明に係わる磁気テープ26は、厚みが6μm以下の高分子支持体に少なくとも3層以上の薄膜をコーティングすることにより総厚みが9μm以下となり、幅12.7mm以下に裁断されているリニア記録方式の磁気テープである。
【0048】
製造された磁気テープ26は、図5に示す磁気テープの製造装置50において、磁気テープリール21から連続的に引き出され、複数のガイドローラ22、22…及び突起除去手段51を経て、図示しないテープ巻取り手段に巻き取られる。その際、突起除去手段51により、磁気テープ26の突起が除去される。
【0049】
突起除去手段51は図1に示される磁気テープの製造装置10の、テンションローラ28の上流又は下流に設けられてもよい。
【実施例】
【0050】
次に本発明に係わる磁気テープの製造方法、磁気テープの製造装置、及び磁気テープの具体的な実施例を説明する。
【0051】
図9は、図5に示される刃物52の刃先角度、面取り角度、逃げ角度、交差角度、及び刃物とテープの送り速度比を変更してエッジ部の加工を行った場合の加工の可否を示した図表である。
【0052】
なお、本実施例においては、磁気テープとして「LTO Ultrium 3」を使用し、磁性層側が2層、バック層が1層、ベース厚みが約5μm、総厚みが約8μm、幅約12.65mmとなっている。
【0053】
まず、刃物52の刃先角度を5°から40°まで変更して加工した場合、刃先角度が10°から30°の場合において、エッジ部の良好な加工形状が得られた。
【0054】
面取り角度においては、50°から70°の場合においてエッジ部の良好な加工形状が得られている。逃げ角度においては、40°から60°の場合においてエッジ部の良好な加工形状が得られる。テープとの交差角度は90度では完全に良好な加工形状は得られなかったが、85°、80°の場合においては、磁気テープエッジ部の良好な加工形状が得られた。
【0055】
刃物52の送り速度と、磁気テープの送り速度の速度比は1/50000以下であって、1/150000以上である場合にエッジ部の良好な加工形状が得られる。これは、刃の速度が速すぎるとテープが刃の上ではねて加工ばらつき、遅すぎると刃が磨耗してしまい加工できなくなることによる。
【0056】
以上の結果から、刃物52の面取り角度を60°、逃げ角度を50°、交差角度を86°とし、刃物52を磁気テープのエッジ部に押し込む押込み量を50μm、刃物52の送り速度を0.1mm/sec、磁気テープのテープ走行速度を10m/sec(刃物52と磁気テープの速度比1/100000)として磁気テープエッジ部の加工を行った。
【0057】
その結果、図10に示す磁気テープエッジ部のレーザー顕微鏡によるプロファイル測定結果では、エッジ部を加工しないものに比べ、エッジ部を加工した物は突起がなくなり良好なエッジ形状となっている。
【0058】
また、図11に示すように、エッジ部が加工された磁気テープと加工されない磁気テープのそれぞれでサーボPES(位置エラー信号)を測定した結果、エッジ部を加工した物は、加工をしなかった物と比較してサーボPESが低減している。
【0059】
更に、図12に示すように、サーボPESのFFT解析(Fast Fourier Transform)を行った結果、本発明によりエッジ部が加工された磁気テープでは、磁気テープエッジ部とエッジ規制部の摺動に起因する特定高周波成分が除去された。
【0060】
以上説明したように、本発明に係る磁気テープの製造方法、製造装置、及び磁気テープによれば、磁気テープ原反から複数の幅狭な磁気テープに裁断する際に生じる磁気テープ端面のエッジ部に生じる突起が最適な角度と移動速度で接する刃物により生産性良く容易に除去され、理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。これにより、エッジ部からの塵埃発生が減少するとともに、サーボ信号あるいは書き込み信号のドロップアウトエラー、サーボ書き込み位置エラーやエッジ部の変形等による品質エラーが減少し、磁気テープの製品品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】磁気テープをスリットする磁気テープの製造装置の構成図。
【図2】磁気テープのスリッタの側面図。
【図3】スリッタの部分拡大図。
【図4】磁気テープの拡大断面図。
【図5】本発明に係る磁気テープの製造装置の全体構成図。
【図6】磁気テープのエッジ加工部の要部拡大図。
【図7】エッジ加工部を磁気テープ平面側より見た拡大図。
【図8】エッジ加工部を磁気テープの断面で見た拡大図。
【図9】加工条件を変更して加工を行った結果を示した図表。
【図10】エッジ部のレーザー顕微鏡によるプロファイル測定結果を示した図表。
【図11】サーボPESを比較した図表。
【図12】サーボPESをFFT解析したものを比較した図表。
【符号の説明】
【0062】
10、50…磁気テープの製造装置,11…巻戻しリール,14…スリッタ,17…巻取リール,20…磁気テープ原反,26…磁気テープ,51…突起除去手段,52…刃物,53…規制手段,54…吸引ノズル,55…ガイド部材,56…吹付けノズル,58…ケース
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気テープの製造において、裁断時のエッジ部の突起を除去する磁気テープの製造方法、製造装置、及び突起が除去された磁気テープに関する。
【背景技術】
【0002】
カセットテープやビデオテープを始めとして、コンピュータのデータバックアップ用にも使用されている各種の磁気テープの製造方法は、ロール状に巻回された幅広な帯状の磁気テープ原反を送り出し側から引き出して搬送させながらスリッタで複数の幅狭な磁気テープに裁断して巻取り側の巻芯に巻き取ることにより製造される。
【0003】
従来、このような磁気テープの製造において使用されるスリッタは、図2に示されるように、幅広で帯状の磁気テープ原反20を上下一対の回転刃により複数本の磁気テープ26に裁断する装置14であり、受け刃としてローラ状に形成された複数の回転刃30と、この回転刃30との間で磁気テープ原反20から引き出される磁気テープに剪断力を与えて裁断する薄円盤状の複数の回転刃32とで構成されるのが一般的である。
【0004】
しかし、このような磁気テープ26をスリッタ14により裁断した場合、磁気テープ原反の端面が綺麗に裁断できず、端面のエッジ部に突起を生じることが多い。
【0005】
図3は、図2の部分拡大図であり、裁断された磁気テープ26と上下一対の回転刃30、32との位置関係を示している。図4は、このような磁気テープ26の左右端面部分の断面形状を示す拡大断面図である。図4における磁気テープ26は、上側の磁性層26Aと下側の非磁性支持体層26Bとの2層で構成されている。なお、図4において、磁気テープ26の走行方向は、紙面に垂直方向である。
【0006】
図3に示されるように、回転上刃32で磁気テープ26が引張られた状態で裁断されることにより、磁気テープ26の右上の磁性層26Aのエッジ部(角隅部)及び左下の非磁性支持体層26Bのエッジ部(角隅部)はいずれも突起状となり、隣接した磁気テープ26のこの突起状部分に相対する部分は切欠き状に形成され、磁気テープ26の断面全体では、略平行四辺形状となる。
【0007】
このような断面形状の磁気テープ26となった場合、テープドライブでの走行中に上記の突起状部分が削れて、サブミクロンサイズの塵埃が発生する。近年、磁気テープは高記録密度化に伴い線記録密度が年々向上している。このため、このようなサブミクロンサイズの塵埃がサーボライターまたはテープドライブのヘッドに付着すると、サーボ信号あるいは書き込み信号にドロップアウト(DO)が生じ信号の書き込みが不可能となり品質エラーが発生する。また、サーボライターのテープエッジ規制部に塵埃が堆積すると、サーボ書き込み位置エラーやエッジの変形が起こり品質エラーを発生させることとなる。
【0008】
この問題に対応するため、磁気テープを走行させながら磁気テープ端面のエッジ部に回転する刃物や、固定された刃物を押し当て、切断により生じた磁気テープ端面のエッジ部に生じている突起を除去する磁気テープの製造方法、及び磁気記録媒体のエッジ処理装置が提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2003−300193号公報
【特許文献2】特開2005−50438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、特許文献2に記載されるような装置によりエッジ部の突起が除去された磁気テープでは、磁気テープ走行中に突起状部分が削れることによる塵埃の発生が減少し、品質エラーの発生が改善する。
【0010】
しかし、特許文献1に記載されるような回転刃を使用しての突起の除去では、近年大容量化に伴い使用される薄手の磁気テープ(例えば厚さ9μm以下の磁気テープ)では、磁気テープに逃げが生じて加工が出来ないという問題があった。
【0011】
また、特許文献1、特許文献2に記載されるような固定式の刃物を用いた場合、刃物の寿命が短く大量の製品を加工する生産には不向きであった。
【0012】
本発明は、このような問題に対応するためなされたものであって、磁気テープ原反から複数の幅狭な磁気テープに裁断する際に生じる磁気テープ端面のエッジ部に生じる突起を生産性良く除去し、製品品質を向上させることができる磁気テープの製造方法、製造装置、及び突起が除去された磁気テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記目的を達成するために本願の発明は、裁断された磁気テープの端面エッジ部に対し直線状の刃物を当て、前記磁気テープを走行させるとともに前記刃物を該磁気テープの走行速度よりも低速で該刃物の長手方向へ移動させることにより、裁断により該磁気テープのエッジ部に生じた突起を除去することを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、スリッタで裁断した直後の磁気テープ走行中又は一旦スリッタで裁断されリールに巻き取られた磁気テープリール(一般に「パンケーキ」 と称呼されている) より巻き戻される際の磁気テープ走行中に、この磁気テープ端面のエッジ部に刃物を押し当てることにより、エッジ部に生じている突起を除去する。
【0015】
このとき、エッジ部に押し当てる刃物は直線状の形状を成し、刃物の長手方向へ磁気テープの走行速度よりも低速で移動しながら押し当てられる。
【0016】
これにより、生産性良く容易にエッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造され、搬送ガイド、サーボ規制部、ドライブヘッド等でのエッジ部からの塵埃発生を減少させ、サーボ信号あるいは書き込み信号のドロップアウトエラー、サーボ書き込み位置エラーやエッジ部の変形等による品質エラーを防止し、磁気テープの製品品質を向上させることができる。
【0017】
また本発明は前記発明において、前記刃物は、刃先の角度が10°〜30°であって、前記磁気テープの表面から60°±10°の角度で刃先がエッジ部に接するとともに、前記磁気テープの走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°の角度で刃先がエッジ部に接し、更に前記磁気テープの表面と前記刃物の面が90°未満の角度で交差してエッジ部に接することを特徴としている。
【0018】
本発明によれば、刃物が理想的な角度で磁気テープのエッジ部に押し当てられることにより、容易にエッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。
【0019】
更に本発明は前記発明において、前記磁気テープは、一方のエッジ部に前記刃物が接し、他方が規制手段により押圧されており、前記規制手段の前後が円弧形状のガイド部材に巻き掛けられていることを特徴としている。
【0020】
本発明によれば、2分割されている円弧形状のガイド部材が、磁気テープの一方のエッジ部に刃物が接し、他方が規制手段により押圧されている箇所の前後に備えられ、磁気テープはガイド部材の円弧形状に沿うようにガイド部材へ巻き掛けられる。
【0021】
これにより、一方のエッジ部に刃物が接し、他方が規制手段により押圧されている箇所の磁気テープに張力が生じ、容易にエッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の磁気テープの製造方法、製造装置、及び磁気テープによれば、エッジ部に生じている突起を除去して理想的なエッジ形状の磁気テープが製造され、エッジ部からの塵埃発生が減少することにより、品質エラーの少ない高品質な磁気テープが製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下添付図面に従って本発明に係る磁気テープの製造方法、製造装置、及び磁気テープの好ましい実施の形態について詳説する。
【0024】
まず、図1に本願発明の磁気テープの製造方法の前に実施される、磁気テープの裁断を行う磁気テープの製造装置を示す。磁気テープの製造装置10は、主として、ロール状に巻回された幅広な帯状の磁気テープ原反20を複数の幅狭な磁気テープ26に裁断するスリッタ(裁断装置) 14と、スリッタ14で裁断された磁気テープ26をリールに巻き込む巻込み装置19と、で構成される。 図2はスリッタ14の一例を示す概略図である。
【0025】
図1に示されるように、巻戻しリール11のハブ12(巻芯) には、ロール状に巻回された磁気テープ原反20が装着される。磁気テープ原反20は、通常、非磁性支持体上に強磁性微粒子を含む磁性層を塗布法や真空蒸着法等により形成し、その磁性層に配向処理、乾燥処理、表面処理等を行うことによって製造される。
【0026】
スリッタ14は、幅広で帯状の磁気テープ原反20を上下一対の回転刃30、32により複数本の磁気テープ26、26…に裁断する装置であり、図2に示す如く、受け刃としてローラ状に形成された複数の回転下刃30、30…と、回転下刃30との間で磁気テープ原反20に剪断力を与えて裁断する薄円盤状の複数の回転上刃32、32…とで構成される。
【0027】
回転下刃30は、下側シャフト34にスペーサ36を介して嵌合固定され、回転上刃32は、下側シャフト34と平行な上側シャフト38にスペーサ40を介して嵌合固定され、回転上刃32と回転下刃30との刃先部分が互いに重なり合うように配置されている。そして、回転上刃32は図示しないバネにより図2の軸方向右側に付勢され、回転上刃32の刃先部分が回転下刃30の刃先部分に当接した状態で位置決めされる。上側シャフト38と下側シャフト34はそれぞれ回転速度を自由に可変可能なモータ41、43に接続され、回転上刃32と回転下刃30の周速度を個別に可変できるようになっている。
【0028】
巻戻しリール11とスリッタ14との間には、磁気テープ原反20の搬送路を形成する複数のガイドローラ22、22…と、磁気テープ原反20の搬送速度を規制するグランドサクションドラム24が設けられる。 グランドサクションドラム24は、回転速度を自由に可変可能なモータ(図示せず) に接続され、グランドサクションドラム24の周面に磁気テープ原反20を吸着して回転することにより、磁気テープ原反20の搬送速度を任意に可変する。
【0029】
そして、巻取リール17のハブ18 (巻芯) の回転速度は、このグランドサクションドラム24の周速度を基準として制御される。磁気テープ原反20の搬送速度を規制する手段としてはグランドサクションドラム24に限定されず、磁気テープ原反20を扶持搬送するピンチローラを使用することもできる。
【0030】
スリッタ14とそれぞれの巻取リール17との間にはテンションローラ28が設けられ裁断時における磁気テープ原反20の搬送方向のテンションが任意に調整される。
【0031】
以上に説明した磁気テープの製造装置10において、磁気テープ26端面のエッジ部に生じている突起を除去する本発明に係る磁気テープの製造方法、製造装置で使用される突起除去手段は、テンションローラ28の上流又は下流の所定位置に設ければよい(図1では図示略)。
【0032】
次に、図5〜図8により本発明の磁気テープの製造方法、製造装置の要部構成を説明する。図5は、本発明に係る磁気テープの製造装置50の全体構成図、図6は磁気テープのエッジ加工部の要部拡大図、図7エッジ加工部を磁気テープ平面側より見た拡大図、図8はエッジ加工部を磁気テープの断面で見た拡大図である。
【0033】
磁気テープの製造装置50は、図1に示される磁気テープの製造装置10と異なり、一旦スリッタで裁断されハブ12に巻き取られた磁気テープリール21(一般に「パンケーキ」 と称呼されている) より巻き戻される際の磁気テープ26の走行中に突起除去手段51が設けられている。同図の構成において、搬送される磁気テープ26は、複数のガイドローラ22、22…により支持されている。
【0034】
突起除去手段51はカバー58により囲われ、カバー58内部に刃物52、規制手段53、吸引ノズル54、ガイド部材55、及び吹付けノズル56が設けられている。
【0035】
カバー58には吸引配管58Aが接続され、吸引配管58Aに接続された図示しない吸引源によって内部のカバー58内部のエアが外部へ排出されている。これにより、磁気テープ26のエッジ部を加工する際に周囲に飛散した塵埃はカバー58内のエアと共に外部へ排出される。
【0036】
刃物52は、SK材、粉末ハイス鋼、超硬材、またはセラミックにより形成され、直線状の刃を備えた刃物であり、図7に示される刃先角度Cは10°から30°の範囲に加工されている。
【0037】
刃物52は、図8に示される面取り角度Dが磁気テープ26の表面から60°±10°(望ましくは60°±5°)の角度で刃先が磁気テープ26のエッジ部に接している。更に刃物52は、図7に示される逃げ角度Bが磁気テープ26の走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°(望ましくは50°±5°)の角度で刃先が磁気テープ26のエッジ部に接している。尚且つ、刃物52は、図6に示される磁気テープ26の表面と刃物52の面との交差角度Aが90°未満であるように磁気テープ26のエッジ部に接している。接触している磁気テープ26のエッジ部は、リファレンスエッジでない側のエッジ部である。
【0038】
磁気テープ26のエッジ部に接している刃物52は、サーボモータまたはステッピングモータを使用した不図示の送り機構により、走行している磁気テープ26に対し下から上へ(図6に示される矢印F方向へ)刃物52の長手方向に向かって移動する。このとき、移動速度は磁気テープ26の走行速度に対し、1/150000〜1/50000の低速である。
【0039】
これにより、刃物52が理想的な角度で磁気テープのエッジ部に押圧されるとともに、最適な速度で移動するので、容易にエッジ部に生じている突起が除去され、刃全体を効率よく使用できると共に、常に劣化の無い刃先が磁気テープのエッジ部に押し当てられるので、理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。
【0040】
なお、刃物52は直線状の刃を備えていればいずれの形状でもよく、例えば三角柱の各長辺に刃を備えた形状、または円柱表面に複数の直線状の刃を設けたものなどいずれの物でも好適に利用可能である。
【0041】
規制手段53は、図7に示されるように、スプリング53Bの先端にセラミック等の耐摩耗性部材で形成された押圧部材53Aが取り付けられた構成を有している。規制手段53は、刃物52が接している磁気テープ26の一方のエッジ部に対向した他方のエッジ部を、押圧部材53Aで押圧することにより、磁気テープ26が刃物52に押圧されて上下に移動することを防止する。
【0042】
ガイド部材55は、図6に示すように、円弧形状を成す前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとに2分割され、前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとは刃物52と規制手段53とが磁気テープ26のエッジ部に接している加工箇所の前後に設置される。前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとの先端部分は、刃物52との干渉を避けるため他の部分よりも薄く形成され、前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとの半径は30mm〜100mmに形成されている。
【0043】
このような前方ガイド部材55Aと後方ガイド部材55Bとには、円弧形状に沿うように磁気テープ26が巻き掛けられ、これにより加工箇所の磁気テープ26に張力が生じ、容易にエッジ部に生じている突起を除去されて、理想的なエッジ形状の磁気テープ26が製造される。
【0044】
吸引ノズル54は、図6、図7に示されるように、吸引口54Aが磁気テープ26に刃物52が接しているエッジ部の近傍に設けられ、刃物52の刃先付近に溜まった塵埃Gを吸引する。これにより、溜まった塵埃Gが磁気テープ26を押して加工不良を起こす問題が解消され、良好なエッジ形状の磁気テープ26が製造される。
【0045】
吹付けノズル56は、図6に示されるように、噴射口56Aが磁気テープ26に刃物52が接しているエッジ部の近傍に設けられ、噴射するエアにより塵埃Gを吹き飛ばすまたは飛び散った塵埃が再び磁気テープに付着することを防止する。
【0046】
次に、上記のように構成された磁気テープの製造装置50の作用を説明する。図1に示される磁気テープの製造装置10において、先ず巻戻しリール11に巻回されたロール状の磁気テープ原反20は、巻戻しリール11から連続的に引き出され、スリッタ14に搬送される。そして、スリッタ14で複数本の磁気テープ26に裁断されて巻取リール17のハブ18に巻き取られる。これにより、例えば磁気テープ原反20が10〜100本に裁断され、規定の幅寸法の磁気テープ26が製造される。
【0047】
なお、本発明に係わる磁気テープ26は、厚みが6μm以下の高分子支持体に少なくとも3層以上の薄膜をコーティングすることにより総厚みが9μm以下となり、幅12.7mm以下に裁断されているリニア記録方式の磁気テープである。
【0048】
製造された磁気テープ26は、図5に示す磁気テープの製造装置50において、磁気テープリール21から連続的に引き出され、複数のガイドローラ22、22…及び突起除去手段51を経て、図示しないテープ巻取り手段に巻き取られる。その際、突起除去手段51により、磁気テープ26の突起が除去される。
【0049】
突起除去手段51は図1に示される磁気テープの製造装置10の、テンションローラ28の上流又は下流に設けられてもよい。
【実施例】
【0050】
次に本発明に係わる磁気テープの製造方法、磁気テープの製造装置、及び磁気テープの具体的な実施例を説明する。
【0051】
図9は、図5に示される刃物52の刃先角度、面取り角度、逃げ角度、交差角度、及び刃物とテープの送り速度比を変更してエッジ部の加工を行った場合の加工の可否を示した図表である。
【0052】
なお、本実施例においては、磁気テープとして「LTO Ultrium 3」を使用し、磁性層側が2層、バック層が1層、ベース厚みが約5μm、総厚みが約8μm、幅約12.65mmとなっている。
【0053】
まず、刃物52の刃先角度を5°から40°まで変更して加工した場合、刃先角度が10°から30°の場合において、エッジ部の良好な加工形状が得られた。
【0054】
面取り角度においては、50°から70°の場合においてエッジ部の良好な加工形状が得られている。逃げ角度においては、40°から60°の場合においてエッジ部の良好な加工形状が得られる。テープとの交差角度は90度では完全に良好な加工形状は得られなかったが、85°、80°の場合においては、磁気テープエッジ部の良好な加工形状が得られた。
【0055】
刃物52の送り速度と、磁気テープの送り速度の速度比は1/50000以下であって、1/150000以上である場合にエッジ部の良好な加工形状が得られる。これは、刃の速度が速すぎるとテープが刃の上ではねて加工ばらつき、遅すぎると刃が磨耗してしまい加工できなくなることによる。
【0056】
以上の結果から、刃物52の面取り角度を60°、逃げ角度を50°、交差角度を86°とし、刃物52を磁気テープのエッジ部に押し込む押込み量を50μm、刃物52の送り速度を0.1mm/sec、磁気テープのテープ走行速度を10m/sec(刃物52と磁気テープの速度比1/100000)として磁気テープエッジ部の加工を行った。
【0057】
その結果、図10に示す磁気テープエッジ部のレーザー顕微鏡によるプロファイル測定結果では、エッジ部を加工しないものに比べ、エッジ部を加工した物は突起がなくなり良好なエッジ形状となっている。
【0058】
また、図11に示すように、エッジ部が加工された磁気テープと加工されない磁気テープのそれぞれでサーボPES(位置エラー信号)を測定した結果、エッジ部を加工した物は、加工をしなかった物と比較してサーボPESが低減している。
【0059】
更に、図12に示すように、サーボPESのFFT解析(Fast Fourier Transform)を行った結果、本発明によりエッジ部が加工された磁気テープでは、磁気テープエッジ部とエッジ規制部の摺動に起因する特定高周波成分が除去された。
【0060】
以上説明したように、本発明に係る磁気テープの製造方法、製造装置、及び磁気テープによれば、磁気テープ原反から複数の幅狭な磁気テープに裁断する際に生じる磁気テープ端面のエッジ部に生じる突起が最適な角度と移動速度で接する刃物により生産性良く容易に除去され、理想的なエッジ形状の磁気テープが製造される。これにより、エッジ部からの塵埃発生が減少するとともに、サーボ信号あるいは書き込み信号のドロップアウトエラー、サーボ書き込み位置エラーやエッジ部の変形等による品質エラーが減少し、磁気テープの製品品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】磁気テープをスリットする磁気テープの製造装置の構成図。
【図2】磁気テープのスリッタの側面図。
【図3】スリッタの部分拡大図。
【図4】磁気テープの拡大断面図。
【図5】本発明に係る磁気テープの製造装置の全体構成図。
【図6】磁気テープのエッジ加工部の要部拡大図。
【図7】エッジ加工部を磁気テープ平面側より見た拡大図。
【図8】エッジ加工部を磁気テープの断面で見た拡大図。
【図9】加工条件を変更して加工を行った結果を示した図表。
【図10】エッジ部のレーザー顕微鏡によるプロファイル測定結果を示した図表。
【図11】サーボPESを比較した図表。
【図12】サーボPESをFFT解析したものを比較した図表。
【符号の説明】
【0062】
10、50…磁気テープの製造装置,11…巻戻しリール,14…スリッタ,17…巻取リール,20…磁気テープ原反,26…磁気テープ,51…突起除去手段,52…刃物,53…規制手段,54…吸引ノズル,55…ガイド部材,56…吹付けノズル,58…ケース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
裁断された磁気テープの端面エッジ部に対し直線状の刃物を当て、前記磁気テープを走行させるとともに前記刃物を該磁気テープの走行速度よりも低速で該刃物の長手方向へ移動させることにより、裁断により該磁気テープのエッジ部に生じた突起を除去することを特徴とする磁気テープの製造方法。
【請求項2】
前記刃物は、刃先の角度が10°〜30°であって、前記磁気テープの表面から60°±10°の角度で刃先がエッジ部に接するとともに、前記磁気テープの走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°の角度で刃先がエッジ部に接し、更に前記磁気テープの表面と前記刃物の面が90°未満の角度で交差してエッジ部に接することを特徴とする請求項1に記載の磁気テープの製造方法。
【請求項3】
前記磁気テープは、一方のエッジ部に前記刃物が接し、他方が規制手段により押圧されており、前記規制手段の前後が円弧形状のガイド部材に巻き掛けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気テープの製造方法。
【請求項4】
裁断された磁気テープを走行させるテープ送り手段と、
前記磁気テープの端面エッジ部に接し、前記テープ送り手段により走行される前記磁気テープの走行速度よりも低速で移動することにより、前記磁気テープのエッジ部に裁断により生じた突起を除去する直線状の刃物と、を備えたことを特徴とする磁気テープの製造装置。
【請求項5】
前記刃物は、刃先の角度が10°〜30°であって、前記磁気テープの表面から60°±10°の角度で刃先がエッジ部に接するとともに、前記磁気テープの走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°の角度で刃先がエッジ部に接し、更に前記磁気テープの表面と前記刃物の面が90°未満の角度で交差してエッジ部に接することを特徴とする請求項4に記載の磁気テープの製造装置。
【請求項6】
前記製造装置には、前記磁気テープの一方のエッジ部に前記刃物が接し、他方のエッジ部が規制手段により押圧され、前記規制手段の前後に該磁気テープを巻き掛ける円弧形状のガイド部材を備えていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の磁気テープの製造装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6に記載される磁気テープの製造装置により製造されたことを特徴とする磁気テープ。
【請求項8】
前記磁気テープは、厚みが6μm以下の高分子支持体に少なくとも3層以上の薄膜をコーティングすることにより総厚みが9μm以下となり、幅12.7mm以下に裁断されていることを特徴とする請求項7に記載の磁気テープ。
【請求項9】
前記磁気テープは、リニア記録方式の磁気テープであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の磁気テープ。
【請求項1】
裁断された磁気テープの端面エッジ部に対し直線状の刃物を当て、前記磁気テープを走行させるとともに前記刃物を該磁気テープの走行速度よりも低速で該刃物の長手方向へ移動させることにより、裁断により該磁気テープのエッジ部に生じた突起を除去することを特徴とする磁気テープの製造方法。
【請求項2】
前記刃物は、刃先の角度が10°〜30°であって、前記磁気テープの表面から60°±10°の角度で刃先がエッジ部に接するとともに、前記磁気テープの走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°の角度で刃先がエッジ部に接し、更に前記磁気テープの表面と前記刃物の面が90°未満の角度で交差してエッジ部に接することを特徴とする請求項1に記載の磁気テープの製造方法。
【請求項3】
前記磁気テープは、一方のエッジ部に前記刃物が接し、他方が規制手段により押圧されており、前記規制手段の前後が円弧形状のガイド部材に巻き掛けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気テープの製造方法。
【請求項4】
裁断された磁気テープを走行させるテープ送り手段と、
前記磁気テープの端面エッジ部に接し、前記テープ送り手段により走行される前記磁気テープの走行速度よりも低速で移動することにより、前記磁気テープのエッジ部に裁断により生じた突起を除去する直線状の刃物と、を備えたことを特徴とする磁気テープの製造装置。
【請求項5】
前記刃物は、刃先の角度が10°〜30°であって、前記磁気テープの表面から60°±10°の角度で刃先がエッジ部に接するとともに、前記磁気テープの走行方向に対向するようにエッジ部より50°±10°の角度で刃先がエッジ部に接し、更に前記磁気テープの表面と前記刃物の面が90°未満の角度で交差してエッジ部に接することを特徴とする請求項4に記載の磁気テープの製造装置。
【請求項6】
前記製造装置には、前記磁気テープの一方のエッジ部に前記刃物が接し、他方のエッジ部が規制手段により押圧され、前記規制手段の前後に該磁気テープを巻き掛ける円弧形状のガイド部材を備えていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の磁気テープの製造装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6に記載される磁気テープの製造装置により製造されたことを特徴とする磁気テープ。
【請求項8】
前記磁気テープは、厚みが6μm以下の高分子支持体に少なくとも3層以上の薄膜をコーティングすることにより総厚みが9μm以下となり、幅12.7mm以下に裁断されていることを特徴とする請求項7に記載の磁気テープ。
【請求項9】
前記磁気テープは、リニア記録方式の磁気テープであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の磁気テープ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−234783(P2008−234783A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75250(P2007−75250)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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