説明

磁気ディスクの製造方法およびクリーニング装置

【課題】磁気ディスクの多層膜の成膜後、検査用磁気ヘッドを用いて行う記録再生出力信号のエラー検査工程において、磁気ディスクの検査枚数が累積すると再生出力が低下してしまう現象が発生した。検査用磁気ヘッドの再生出力が低下すると、エラー検査合格率が低下し、歩留まりが低下することになる。
【解決手段】基板10上に磁気記録膜1、保護膜6、潤滑膜7を形成した後、潤滑膜7に面してワイピングクロス50を配置し、ワイピングクロス50と接する面が凸状の湾曲形状であるパッド37を、12〜36mm/minのローディング速度で、かつ3〜9gf/mm2の圧力でワイピングクロス50に押し付け、基板10を3.0〜3.5m/sで回転させながら潤滑膜7の拭き取りを行う(ワイピング)。次に、研磨砥粒が固着されたクリーニングテープを基板側に押し付け、基板10を回転させながら突出部を除去する(テープクリーニング)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクの製造方法に係り、特に、磁気ディスク表面に局所的に存在する潤滑剤の染みを除去する方法に関する。また、磁気ディスク表面のクリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報産業の発展に伴い磁気ディスク装置に要求される性能も加速度的に高度なものとなってきており、磁気記録媒体である磁気ディスクにおいては小型化,高記録密度化,高信頼性の要求がさらに強まっている。
【0003】
磁気ディスクは、例えば鏡面研磨した表面に微細な同心円状のスジ(以下、テクスチャと言う)を施したガラス基板を、真空装置に導入してスパッタリングにより下地層,磁性層,保護層を順に形成し、潤滑剤を塗布して表面をクリーニングして製造するのが一般的である。また、最近は高記録密度化にとって必須となる、記録再生磁気ヘッドと磁気ディスクのスペーシング低減のために、ガラス基板表面の粗さは突起高さ(以下、Rpという)で2ナノメートル程度、中心線平均粗さ(以下、Raという)も0.4ナノメートル以下と小さくなってきている。一方では、磁気ヘッドの浮上阻害要因となるような塵埃,又は浮上高さ以上の異常突出部を更に低減することが必要とされており、且つ記録再生のエラーとなる軽微な傷(以下、スクラッチという)の許容サイズも極めて小さくなってきている。
【0004】
この浮上高さの低下を保証するために、従来は研磨層に研磨砥粒を固着したテープフィルム(以下、クリーニングテープという)を様々な手法で押し当ててクリーニングすることが知られている。例えば、特許文献1又は特許文献2に開示されているようなゴムローラで押し当てる技術や、特許文献3に開示されているような発泡体を押し当てる方法などが挙げられる。また、特許文献4に記載されているように、ワイピング部材で磁気ディスク表面の潤滑剤を撫でることにより、潤滑剤表面の凹凸を無くして平坦面を形成し、その後テープバニッシュを行うことにより、突起やゴミを取り除く方法も知られている。また、特許文献5に開示されているようなクリーニングテープで、表面形態をチップポケットの深さが深く、砥粒径の小さなものにすることで、スクラッチを少なく抑え、異常突出部を効率よく除去できることも知られている。また、特許文献6に記載されているように、テープ幅より狭いスポンジ材でテープを押し付ける加圧サスペンション方式にすることで、テープ端のバリ部分に負荷をかけず、尚且つエアーによるテープ表面のコンタミネーションを直接的に撒き散らすことが無いため、コンタミネーションの発生を抑制し、軽微なエラーを減少させるクリーニング方法も知られている。
【0005】
一方近年、磁気ヘッドの低浮上安定性確保に対して、磁気ディスク上の浮上阻害要因となり得る塵埃又は異常突出部以外にも、磁気ディスク表面に塗布された潤滑剤が磁気ヘッドに付着することにより障害となることが解ってきた。特許文献7には、保護層の上に液体潤滑剤を塗布した後に、磁気記録媒体を回転させながら、溶剤を含有した加工テープを磁気記録媒体の端面及びデータ面の外周部に、テープ押し当て具を用いて同時に押し当てて液体潤滑剤を拭き取ることにより、磁気記録媒体外周部の潤滑層膜厚を均一にして、磁気ヘッドの浮上を安定化する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特公平6−52568号公報
【特許文献2】特開2003−136389号公報
【特許文献3】特開2001−67655号公報
【特許文献4】特開平2−83823号公報
【特許文献5】特開2000−348337号公報
【特許文献6】特開2002−319127号公報
【特許文献7】特開2007−58935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近の磁気ディスク製造プロセスにおいては、スペーシング低減,高信頼性確保のため、許容される突出欠陥の判定基準が更に厳しくなってきている。また、最近の飛躍的な高記録密度化に向けた磁気記録媒体として、垂直磁気記録媒体の開発,製品化が進められており、垂直磁気記録媒体は、基板上に密着層,軟磁性層,下地層,磁性層,保護層と、多数の層を形成するため、層の厚みが面内記録媒体より数倍厚いので、浮上阻害要因となる突出部がスパッタリングにより発生し、異常成長するポテンシャルが高い。そこで発明者らは、特許文献6において、垂直磁気記録媒体のようなスクラッチの発生し易い磁気ディスク表面のテープクリーニング工程において、浮上阻害要因となる微細な突出部を効率よく除去し、且つ磁気ディスク表面に与える再生信号のエラーとなり得る軽微な傷(スクラッチ)を抑える磁気ディスクの製造方法を提供した。しかしながら、量産製造していく上で新たな課題が発生した。磁気ディスクの多層膜の形成後に、検査用磁気ヘッドを用いて行う記録再生出力信号のエラー検査工程において、磁気ディスクの検査枚数が累積すると再生出力が低下してしまう現象である。エラー検査用磁気ヘッドの再生出力が低下すると、エラー検査合格率が低下し、歩留まりが低下することになる。
【0008】
本発明の目的は、磁気ディスク表面の軽微な傷(スクラッチ)の発生を抑えながら微細な突出部を効率よく除去し、且つ検査用磁気ヘッドの再生出力が低下しない磁気ディスクの製造方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、磁気ディスク表面に局所的に凝集した潤滑剤を拭き取り、且つ軽微な傷(スクラッチ)の発生を抑えながら微細な突出部を効率よく除去するクリーニング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の磁気ディスクの製造方法においては、基板上に磁気記録膜、保護膜、潤滑膜を形成した後、潤滑膜に面してワイピングクロスを配置し、ワイピングクロスと接する面が凸状の湾曲形状であるパッドを、12〜36mm/minのローディング速度で、かつ3〜9gf/mm2の圧力でワイピングクロスに押し付け、基板を3.0〜3.5m/sで回転させながら潤滑膜の拭き取りを行い、次に、研磨砥粒が固着されたクリーニングテープを基板側に押し付け、基板を回転させながら突出部を除去する。
【0011】
前記パッドは、蒲鉾形状であることが望ましく、硬度が20度〜40度のエステル系ポリウレタンゴムであることが望ましい。
【0012】
前記ワイピングクロスは、ポリエステル繊維とナイロン繊維の織物であることが望ましい。
【0013】
上記他の目的を達成するために、本発明の磁気ディスクのクリーニング装置においては、磁気ディスクを支持し回転させる機構と、磁気ディスクの両面をワイピング或いはテープクリーニングするための一対の機構とを有し、前記一対の機構は、ワイピングクロス或いはクリーニングテープの送り出しリール及び巻き取りリールと、前記送り出しリールと巻き取りリールの間において前記ワイピングクロス或いはクリーニングテープを前記磁気ディスク面に案内する複数個のガイドローラと、前記ガイドローラ間において前記ワイピングクロス或いはクリーニングテープのテンションを一定に制御する機構と、前記磁気ディスク面に案内された前記ワイピングクロス或いはクリーニングテープに歪みゲージセンサを取り付けたパッドを押し当て、該歪みゲージセンサの歪み出力を基に前記パッドの加圧力を制御する加圧機構と、を有する。
【0014】
前記一対の機構が前記磁気ディスクの両面をワイピングする機構の場合、前記送り出しリールにはワイピングクロスが巻かれ、前記パッドは前記ワイピングクロスと接する面が凸状の湾曲形状を有する。
【0015】
前記パッドは、蒲鉾形状であることが望ましく、硬度が20度〜40度のエステル系ポリウレタンゴムであるが望ましい。
【0016】
前記ワイピングクロスは、ポリエステル繊維とナイロン繊維の織物であることが望ましい。
【0017】
前記加圧機構は、前記歪みゲージセンサの歪み出力を検出し、検出した歪み出力を電圧信号に変換してサーボモータにフィードバックすることにより前記パッドの加圧力を所定値に制御する。
【0018】
前記一対の機構が前記磁気ディスクの周囲に二式配置され、一式は前記磁気ディスクの両面をワイピングするための機構であり、もう一式は前記磁気ディスクの両面をテープクリーニングする機構である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁気ディスク表面の軽微な傷(スクラッチ)の発生を抑えながら微細な突出部を効率よく除去し、且つ検査用磁気ヘッドの再生出力が低下しない磁気ディスクの製造方法を提供することができる。また、磁気ディスク表面に局所的に凝集した潤滑剤を拭き取り、且つ軽微な傷(スクラッチ)の発生を抑えながら微細な突出部を効率よく除去するクリーニング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態による磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスク表面のクリーニング装置について図面を参照しながら説明する。なお以下の説明において引用する図面は、各部の特徴を解りやすく図示するために特徴的な箇所等を拡大している場合があり、各部の寸法は実際のものと同じではない。また、磁気ディスクを構成する各層の材料なども提示するが、本発明はこれに限定されるものではなく、所望とする目的や性能に応じて各層の構成や材料を選択することが出来る。
【0021】
まず、本発明の原理を説明する。発明者らは、検査用磁気ヘッドの再生出力低下要因について調査した。以下に出力低下のメカニズムを説明する。発明者らは、出力低下が起こる要因は、検査用磁気ヘッドが磁気ディスク上を浮上し、移動する際に浮上性が不安定になる、即ち検査用磁気ヘッドと磁気ディスク間の浮上高さが変動することによるものと推測した。そして、浮上高さが変動するのは、検査用磁気ヘッドと磁気ディスク間に何らかの異物が介入するためと考えた。そこで、磁気的欠損(エラー)の検査を行い、再生出力が低下した検査用磁気ヘッドの浮上面を観察したところ、潤滑剤が付着していることが判った。
【0022】
次に、検査用磁気ヘッドに潤滑剤が付着する要因について調査を行った。磁気ディスク表面をKLA社製光学式検査装置(以下、Candela6120)にて観察したところ、磁気ディスクの外周端部に局所的に潤滑剤が周状に凝集した部分(染み)があり、その上を検査用磁気ヘッドが滑走し摺動した痕跡が観察できた。したがって、検査用磁気ヘッドが潤滑剤凝集部上を通過する際に、潤滑剤が検査用磁気ヘッドに付着したものと推定できる。そこで発明者らは、磁気ディスク外周端の潤滑剤の染みを除去すべく、クリーニング方法の検討を行った。その結果、従来のアルミナ砥粒を固着させたクリーニングテープを用いたクリーニングでは潤滑剤の染みを取りきれないが、ポリエステルとナイロンの繊維を織り込んだワイピングクロスで拭き取ることで、潤滑剤の染みを完全に除去できることを見出した。
【0023】
上記の知見に基づき、本発明では、先ずワイピングクロスで磁気ディスク表面のワイピングを行うことで潤滑剤が局所的に凝集した染みを拭き取り、次にアルミナ砥粒を固着させたクリーニングテープでクリーニングして突出部を効果的に除去するという2段階の工程を踏むことを特徴とするものであり、これにより、検査用磁気ヘッドの再生出力が低下せず、且つスクラッチを発生させることなく、効果的に突出部を除去できるという効果を奏するものである。以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1に実施例による磁気ディスクの製造方法の工程を示し、図2に製造される磁気ディスクの断面構造を示す。まず、基板10を洗浄する(ステップ102)。基板10として、厚さ0.508mm,表面粗さが原子間力顕微鏡(以下、AFMという)を用いて25μm2を測定した結果でRp=1.8nm,Ra=0.2nmの1.8インチ型の表面を化学強化したアルミノシリケート系ガラス基板10を用いた。
【0025】
次に、ガラス基板10上に、アネルバ(ANELVA)社製のスパッタリング装置(A3040)を用いて以下の手順により、多層膜を形成した。各層は基板両面に同時に形成した。
【0026】
ステップ104において、基板10を連続多層スパッタリング装置に投入し、Al-50Tiのターゲットを用い、DCマグネトロンカソードにてAr圧力0.5PaでDC−Power:500wを投入し、膜厚5nmの密着層2を形成した。
【0027】
次に、ステップ106において、磁気記録膜1として、軟磁性層3,下地層4,磁性層5を以下の組成及びプロセス条件で形成した。Fe-34Co-10Ta-5Zrを30nm、Ruを0.4nm、更にFe-34Co-10Ta-5Zrを30nm成膜し、APC(Anti-Parallel Coupling)構造の軟磁性層3を形成した。形成時のAr圧力はいずれも0.5Paで一定とした。投入パワーは、DCマグネトロンカソードに、Fe-Co-Ta-Zrの場合850w,Ruの場合40wとした。次に、Cr-50Ti,Ni-8W,Ruの3層構造で、膜厚は、Cr-Ti=2nm,Ni-W=7nm,Ru=17nmの下地層4を形成した。Ar圧力は下層の2層はいずれも0.5Paとし、上層のRu=8nmは7Paとした。次に、Co-17Cr-18Pt-8mol%SiO2,Co-19Cr-10Pt-3Moの2層構造で、膜厚はCo-Cr-Pt-SiO2=13nm,Co-Cr-Pt-Mo=7.5nmの磁性層5を形成した。成膜圧力は,それぞれ4Pa,1Paで、投入パワーを550w,250wとした。
【0028】
次に、ステップ108において、RF−CVDにて保護膜6を形成した。形成時のガスは、エチレン,水素と窒素を用い、投入パワー2100wで、膜厚4nmを形成した。
【0029】
次に、ステップ110において、基板10をスパッタリング装置から取り出し、保護膜6上にパーフルオロアルキルポリエーテルを主成分とする潤滑剤を塗布して、厚さ1.1nmの潤滑膜7を形成した。潤滑剤の塗布は、1カセットに基板を25枚収容し、所望の膜厚になるように濃度を調整した塗布槽内で行った。
【0030】
次に研磨砥粒を固着させたクリーニングテープを用いて、潤滑膜7上でクリーニングを行うのが一般的であるが、本実施例においては、課題である潤滑剤の染みを除去するため、テープクリーニングを行う前に、繊維の織物であるワイピングクロスを用いて潤滑膜7上の拭き取り(ワイピング)を行った(ステップ112)。本実施例におけるワイピングクロスは、図3に示すように長手方向(縦)にポリエステル繊維を、短手方向(横)にポリエステル繊維を85%,ナイロン繊維を15%の比率で織り込んだKBセーレン株式会社製のWO135を使用した。
【0031】
次に、研磨層に研磨砥粒を固着させたクリーニングテープを用いて、潤滑膜7上でテープクリーニングを行い、浮上阻害要因となる微細な突出部の除去を行った(ステップ114)。
【0032】
最後に、浮上検査及びエラー検査を行い(ステップ116)、磁気ディスク100が完成する。なお、浮上検査及びエラー検査の詳細は後述する。
【0033】
図4に、本実施例において使用したクリーニング装置を示す。このクリーニング装置は、前記ステップ112におけるワイピングと、ステップ114におけるテープクリーニングに使用できるものである。ワイピングに用いる場合には、前記ワイピングクロスを取り付け、テープクリーニングに用いる場合には、クリーニングテープを取り付けて使用する。ここでは、ワイピングクロスを取り付けた場合のクリーニング装置の構成について説明する。磁気ディスク100の両面をワイピングするための一対の機構を持ち、各々の機構は、ワイピングクロス50を巻成している送り出しリール30と、リール30から送り出されたワイピングクロス50を案内するガイドローラ31と、このガイドローラ31を介したワイピングクロス50に対してガイドローラ33との間において、エアシリンダによりテンションを与える定テンション機構32と、このテンションを与えたワイピングクロス50を磁気ディスク面に案内するガイドローラ34と、この磁気ディスク面に案内されたワイピングクロス50を弾性体(以下パッドという)37で加圧する加圧機構40と、所定圧力で加圧されたワイピングクロス50を磁気ディスク100に摺動させるスライド機構39と、ワイピング済みのワイピングクロス50を、ガイドローラ35を介して回収する巻き取りリール36とから構成される。なお、加圧機構40、スライド機構39及びパッド37の模式図を、従来例との対比で図5に示す。
【0034】
上記の構成のクリーニング装置は、磁気ディスク100を回転させた状態でワイピングクロス50を所定圧力で加圧し、磁気ディスク100に接触させ、両面を同時にワイピングするものである。ワイピングクロス50の幅は12.6mmで、ワイピングクロスがディスクに接触し所定圧力に達した後、ディスク半径方向に内周側から外周側へ移動することにより、1.8インチ径の磁気ディスク100の浮上保証面全面にわたってワイピングすることができる。
【0035】
この際のディスクの回転速度は、周速を一定とするシーケンスで、1m/sから6m/sの間で実験を行った。また、このときのワイピングクロス50がディスク表面に接触する圧力は、パッド37を所定圧力で磁気ディスク表面に向かって加圧させる加圧機構40で制御されるものである。パッド37の取り付け部には歪ゲージセンサ38が貼り付けられており、圧力の制御は、パッド37がワイピングクロス50を介して磁気ディスク100に接触すると、歪ゲージセンサ38に応力歪みが発生し、歪み出力が電圧信号として増幅器41に入力され、その電圧信号が圧力値に変換され、所定圧力を保持するようにサーボモータ42に指令を出し、サーボモータ42がボールねじ43を介して加圧機構40を駆動させるフィードバック方式である。本実施例は、上記加圧機構40により60gfの圧力でワイピングクロス50を加圧し、磁気ディスク表面のワイピングを行った。また、ワイピング動作後にディスク枚葉で、ワイピングクロスをパッドの長さ以上送り、ディスク1枚毎にワイピングクロス50の未使用面を使うものとした。
【0036】
上記のワイピングにおける課題は、前述したようにワイピングクロス50の繊維が切れてディスク表面に付着することである。そこで発明者らは、繊維が切れないようにワイピングする方法を検討した。
【0037】
第一に、ワイピングクロス50を加圧するパッド37の形状に着目した。従来は、ゴムローラを用い、ワイピングクロスを加圧する方式が一般的である。ゴムローラは、加圧中に或いは加圧後に回転するため、複数のディスクを連続してワイピングする際に同じ面で加圧されない。したがって発明者らは、ゴムローラでは常に幅方向に均一に加圧できないと考えた。均一に加圧できないと、接触面に圧力分布が生じ、圧力が高い部分で繊維が切れ易いと考えた。そこで、常に均一に加圧するために、回転しない固定型のパッドを作成し検討した。図6に検討したパッドの模式図を示す。固定型パッドの第一候補として、接触面が縦5mm×横4mmの平面であるフラット型(比較例)、第二候補としてワイピングクロスに接する面が蒲鉾状に湾曲し、接触面が縦1mm×横10mmの蒲鉾型を検討した。ゴムローラ(従来例),固定型パッドのいずれも硬度が25度(室温での測定値)のエステル系ポリウレタンゴムを使用した。ポリウレタンゴムを用いた理由は、スポンジに比べゴムの方が、加圧した際の時間に対する形状変化が小さいためである。ゴムの硬度は、20度(室温での測定値)以上だとパッドの形状変化が小さく、安定して加圧力を制御でき、一方、40度以上は硬すぎて全面に均一に接触させることが困難である。即ち発明者らは、ワイピングには20度〜40度のゴムが適正であることを事前検討から見出した。したがって本実施例では、加圧力を安定させるため、ゴム硬度25度のウレタンゴム製のパッドを用いた。
【0038】
図7に、光学式欠陥検査装置(日立DECO製OST,以下OSTという)を用いて測定した、ワイピング後のディスク表面パーティクル数を示す。単位面積当たりの加圧力(以下、面圧という)に対するパーティクル数を、上記ゴムローラと固定型パッド(Flat型、蒲鉾型)を用いた場合で比較した。その結果、従来のゴムローラが、固定型パッドに比べパーティクル数が多かった。また、パーティクルを観察すると大半がワイピングクロスの繊維付着であることがわかった。ゴムローラは、ローラが回転するため接触する面積が安定しない。したがって均一に加圧できないために繊維が切れると考えられる。一方フラット型と蒲鉾型のパッドを比較すると、蒲鉾型パッドの方が、パーティクル数が少なく、繊維付着が無いことが判った。接触面をフラットにして接触面積を大きくしたパッドは、ゴムローラよりは繊維の脱落が少ないが、面圧が高いと切れてしまう。蒲鉾型は、ゴムローラと同じく小さな接触面積であるため、接触面を均一に調整し易く、且つ常に同じ接触面で加圧するため、均一に安定して加圧できる。したがってワイピングクロスの繊維が切れ難いと考えた。以上の検討結果より発明者らは、蒲鉾型パッドを用いることで、繊維をディスクに付着させずにワイピングできることを見出した。なお、蒲鉾型パッドのもう一つの利点は、台座部分があるので、台座部分を利用して加圧機構への取り付けを容易に行うことができる点である。したがって、上記の検討では、ワイピングクロスに接する面が蒲鉾状に湾曲した蒲鉾型パッドを用いたが、この形状に限定されるものではなく、パッドとして必要な形状は、ワイピングクロスに接する面が凸状に湾曲していることである。
【0039】
第二に、蒲鉾型パッドを用いて、更に繊維が切れ難いワイピング条件の検討を行った。図8にワイピングクロスのローディング速度とOSTのパーティクルカウントの関係を示す。ワイピングクロスのローディング速度とは、ワイピングクロスを磁気ディスク面に接触させる際の速度のことである。ローディング速度が12〜36mm/minの範囲ではワイピングクロスの繊維が付着しないことが判った。一方、36mm/minより速く、12mm/minより遅い速度でローディングすると、蒲鉾型パッドを用いても繊維が付着することが判った。この結果より、発明者らは、繊維をディスクに付着させずにワイピングを行うには、ローディング速度を12〜36mm/minで制御することが効果的であることを見出した。なお、ローディング速度の制御は、図5に示したように、パッド37の取り付け部に歪ゲージセンサ38を貼り付けて、直接加圧力をモニタする機構が有効である。従来のバネを介して間接的に加圧力をモニタする方式では、ローディング速度の制御が困難である。
【0040】
以上の検討結果から、磁気ディスク表面の潤滑剤染みを除去するために、蒲鉾型パッドを用い、ローディング速度を24mm/minとしてワイピングした結果を以下に述べる。
【0041】
図9に、KLA社製光学式検査装置(Candela6120)のQ-phase channelを用いて測定した潤滑剤塗布後の磁気ディスク表面のイメージを示す。Q-phaseイメージは、潤滑剤の厚みを白黒の濃淡で示すことができる。図9の磁気ディスク外周端に、Q-phaseイメージで周方向に濃淡の濃い部分(染み)が見られる。そこで、研磨砥粒を固着した従来のクリーニングテープによるクリーニングと、本実施例のワイピング(拭き取り)を行った後の潤滑剤の染みを比較した。図10にディスクの回転速度に対する、従来のテープクリーニング後と、実施例のワイピング後のCandelaイメージを示す。ここで、従来のクリーニングテープは、PETフィルム上に平均粒径0.3μmのアルミナ砥粒を固着させ、表面にバーナードセルと称する擂り鉢状の多角形セルを形成した日本ミクロコーティング社製のAWA15000-25 TSY-Aを使用した。従来のテープクリーニングに比べ、本実施例のワイピングの方が潤滑剤の染みをより効果的に除去できることが判った。また、磁気ディスクの回転速度が速いほど潤滑剤染みの除去性が高く、ワイピング時のディスク回転速度が3m/s以上で完全に潤滑剤の染みを拭き取ることができることを見出した。
【0042】
一方、ディスク回転速度に対するワイピング後のOSTパーティクル数を図11に示す。回転速度が4m/s以上でパーティクルが増加し、ディスク表面に繊維の付着が見られた。これは回転速度が高いと、ワイピングクロスの繊維が摩擦により切れて磁気ディスク表面に付着してしまうためと考えられる。以上の検討結果から発明者らは、磁気ディスク外周端の潤滑剤の染みを効果的に拭き取るには、従来のテープクリーニングに比べワイピングが効果的であり、且つワイピングクロスの繊維をディスクに付着させないために、ディスク回転速度を3.0〜3.5m/sでワイピングすることが必須であることを見出した。
【0043】
発明者らは、以上の検討結果より次のように考察した。検査用磁気ヘッドの出力低下要因となる潤滑剤の染みを拭き取るために、ワイピングクロスを用いたワイピングを行うことで、検査用磁気ヘッドに潤滑剤が付着し難くなり再生出力が低下せず、次に研磨砥粒を固着したクリーニングテープを用いたテープクリーニングを行い、浮上阻害要因となる突起やパーティクルを効果的に除去することで、磁気ディスク量産工程における浮上検査、およびエラー検査の歩留まりが向上すると考えた。
【0044】
以下、上記検討で条件を最適化したワイピングと、テープクリーニングを組み合わせ、浮上検査とエラー検査を行った結果について述べる。比較サンプルは、(1)従来のテープクリーニングのみの場合、(2)実施例のワイピング後にテープクリーニングを行った場合、の2種類を作製した。従来のテープクリーニング条件は、ゴムローラの加圧力を60gf,磁気ディスクの回転速度を4m/sとした。一方ワイピング条件は、蒲鉾型パッドを用い、加圧力を60gf,ワイピングクロスのローディング速度を24mm/min,ディスク回転速度を3m/sとした。比較評価は、量産ラインにおける日立DECO製テスターを用い、検査用磁気ヘッドの浮上検査およびエラー検査を行った。図12に浮上検査の合格率、および検査用磁気ヘッド(ピエゾ素子搭載ヘッド)の突起検出平均個数を示す。(1)従来のテープクリーニングのみの場合と、(2)実施例のワイピング後にテープクリーニングを行った場合の、結果を比較すると、検査用磁気ヘッドの突起検出平均個数、浮上検査合格率は両者同等である。
【0045】
一方、図13にミッシングエラー個数、再生出力がクリップレベル以下に低下することによる不良率、およびエラー検査合格率を示す。(1)と(2)を比較した結果、従来のテープクリーニングのみの場合に比べ、実施例のワイピング後にテープクリーニングを行なった場合の方が、ミッシングエラー個数が約1/3に減少し、再生出力の不良率も約10%低減した。その結果、エラー検査合格率が約13%向上した。従来のテープクリーニングは、突起とパーティクルの除去を同時に行なうために、クリーニングテープとディスクの間にパーティクルが挟まれることで、記録膜へダメージを与えるので(軽微なスクラッチが発生するので)ミッシングエラーが発生する確率が高い。一方、実施例のテープクリーニングを行う前にワイピングを行うことで、パーティクルをワイピングクロスの繊維が捕獲し磁気ディスク表面から除去することが出来るため、テープクリーニングを行う際にクリーニングテープとディスク表面にパーティクルが挟まれる確率が極めて小さく、軽微な傷(スクラッチ)が発生しないのでミッシングエラー個数が減少したと推測される。また、ワイピングを行うことで、前述のように磁気ディスク外周端の潤滑剤の染みを拭き取ることが出来たため、検査用磁気ヘッドへの潤滑剤付着が抑制でき、磁気ディスクの検査枚数を累積しても検査用磁気ヘッドの浮上性が安定し、再生出力が低下しなかったと考えられる。これらの効果により、エラー検査合格率を大幅に向上することができた。
【0046】
なお、上記クリーニング装置をテープクリーニングに使用する場合は、ワイピングクロスに代えて、研磨層に研磨砥粒を固着させたクリーニングテープを巻きつけた送り出しリールを装置に装填することにより行われる。あるいは、磁気ディスクの両面をワイピングするための一対の機構と、磁気ディスクの両面をテープクリーニングするための一対の機構を、磁気ディスクの周囲に二式配置したクリーニング装置とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例による磁気ディスクの製造方法の工程図である。
【図2】本発明に係る磁気ディスクの層構成を示す図である。
【図3】ワイピングクロスの部分拡大図である。
【図4】実施例において使用したクリーニング装置の構成図である。
【図5】クリーニング装置の加圧機構、スライド機構、パッドの模式図である。
【図6】3種類のパッドの模式図である。
【図7】3種類のパッドを用いたワイピング後の、光学式欠陥検査装置(OST)で測定したディスク表面パーティクルカウントを示す図である。
【図8】ワイピングクロスのローディング速度とOSTのパーティクルカウントの関係を示す図である。
【図9】潤滑膜形成後に光学式検査装置(Candela6120)を用いて観察した磁気ディスク表面のイメージを示す図である。
【図10】ディスクの回転速度に対する従来のテープクリーニング後と、実施例のワイピング後のCandelaイメージを示す図である。
【図11】ディスク回転速度に対するワイピング後のOSTパーティクルカウントを示す図である。
【図12】実施例および従来例における、検査用磁気ヘッドの浮上検査の合格率、および突起検出平均個数を示す図である。
【図13】実施例および従来例における、ミッシングエラー個数,再生出力がクリップレベル以下に低下することによる不良率,およびエラー検査合格率を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…磁気記録膜、2…密着層、3…軟磁性層、4…下地層、5…磁性層、6保護膜、7…潤滑膜、10…基板、30…送り出しリール、31,33,34,35…ガイドローラ、32…定テンション機構、36…巻き取りリール、37…パッド、38…歪みゲージセンサ、39…スライド機構、40…加圧機構、41…増幅器、42…サーボモータ、43…ボールねじ、50…ワイピングクロス、100…磁気ディスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも磁気記録膜を形成するステップと、
前記磁気記録膜上に保護膜を形成するステップと、
前記保護膜上に潤滑膜を形成するステップと、
前記潤滑膜に面してワイピングクロスを配置し、前記ワイピングクロスと接する面が凸状の湾曲形状であるパッドを、12〜36mm/minのローディング速度で、かつ3〜9gf/mm2の圧力で前記ワイピングクロスに押し付け、前記基板を3.0〜3.5m/sで回転させながら前記潤滑膜の拭き取りを行うステップと、
前記各膜が形成された基板に、研磨砥粒が固着されたクリーニングテープを押し付け、前記基板を回転させながら突出部を除去するステップと、を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
前記パッドは、蒲鉾形状であることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
前記パッドの前記ワイピングクロスと接する面の、当該ワイピングクロスの走行方向の幅が約1mm、走行方向に直交する方向の幅が約10mmであることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項4】
前記パッドは、硬度が20度〜40度のエステル系ポリウレタンゴムであることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
前記ワイピングクロスは、ポリエステル繊維とナイロン繊維の織物であることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項6】
前記ワイピングクロスは、幅が約12.6mmであり、前記基板の内周側から外周側に移動させることを特徴とする請求項3記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項7】
前記ワイピングクロスは、前記基板1枚毎に走行方向に送ることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項8】
前記磁気記録膜を形成するステップは、下地層を介して軟磁性層を形成するステップと、前記軟磁性層上に磁性層を形成するステップと、を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項9】
磁気ディスクを支持し回転させる機構と、前記磁気ディスクの両面をワイピング或いはテープクリーニングするための一対の機構とを有し、
前記一対の機構は、ワイピングクロス或いはクリーニングテープの送り出しリール及び巻き取りリールと、前記送り出しリールと巻き取りリールの間において前記ワイピングクロス或いはクリーニングテープを前記磁気ディスク面に案内する複数個のガイドローラと、前記ガイドローラ間において前記ワイピングクロス或いはクリーニングテープのテンションを一定に制御する機構と、前記磁気ディスク面に案内された前記ワイピングクロス或いはクリーニングテープに歪みゲージセンサを取り付けたパッドを押し当て、該歪みゲージセンサの歪み出力を基に前記パッドの加圧力を制御する加圧機構と、を有することを特徴とする磁気ディスクのクリーニング装置。
【請求項10】
前記一対の機構が前記磁気ディスクの両面をワイピングする機構の場合、前記送り出しリールにはワイピングクロスが巻かれ、前記パッドは前記ワイピングクロスと接する面が凸状の湾曲形状であることを特徴とする請求項9記載の磁気ディスクのクリーニング装置。
【請求項11】
前記パッドは、蒲鉾形状であることを特徴とする請求項10記載の磁気ディスクのクリーニング装置。
【請求項12】
前記パッドは、硬度が20度〜40度のエステル系ポリウレタンゴムであることを特徴とする請求項10記載の磁気ディスクのクリーニング装置。
【請求項13】
前記ワイピングクロスは、ポリエステル繊維とナイロン繊維の織物であることを特徴とする請求項10記載の磁気ディスクのクリーニング装置。
【請求項14】
前記加圧機構は、前記歪みゲージセンサの歪み出力を検出し、検出した歪み出力を電圧信号に変換してサーボモータにフィードバックすることにより前記パッドの加圧力を所定値に制御することを特徴とする請求項9記載の磁気ディスクのクリーニング装置。
【請求項15】
前記一対の機構が前記磁気ディスクの周囲に二式配置され、一式は前記磁気ディスクの両面をワイピングするための機構であり、もう一式は前記磁気ディスクの両面をテープクリーニングする機構であることを特徴とする請求項9記載の磁気ディスクのクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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