説明

磁気ディスク・ドライブ及びそのリフレッシュ・ライト方法

【課題】磁気ディスク・ドライブのパフォーマンスの低下を抑えつつ、データ・トラックへのデータ書き込みによる他のデータ・トラックのデータ消失を防ぐ。
【解決手段】本発明の一実施形態のHDDは、リフレッシュ・ライトの基準となる2つの異なる書き込み回数の閾値を有している。HDDは、ライト・コマンドに付随するリフレッシュ・ライト処理と、アイドル時のリフレッシュ・ライト処理とを実行する。書き込み回数が第1の閾値に達すると、HDDは、リフレッシュ・ライト領域をアイドル時のリフレッシュ・ライト処理のリストに登録する。書き込み回数が第2の閾値に達すると、リフレッシュ・ライト領域は、上記リストからライト・コマンドに付随するリフレッシュ・ライト処理のリストに移される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク・ドライブ及びそのリフレッシュ・ライト方法に関し、特に、データ書き込みの繰り返しからの磁気データ保護に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク・ドライブとして、光ディスク、光磁気ディスク、あるいはフレキシブル磁気ディスクなどの様々な態様のディスクを使用する装置が知られているが、その中で、磁気ディスク・ドライブの一つであるハードディスク・ドライブ(HDD)は、コンピュータ・システムの他、動画像記録再生装置やカーナビゲーション・システムなど、多くの電子機器において使用されている。
【0003】
HDDで使用される磁気ディスクは、同心円状に形成された複数のデータ・トラックと複数のサーボ・トラックとを有している。各サーボ・トラックはアドレス情報を有する複数のサーボ・セクタから構成される。また、各データ・トラックは、ユーザ・データを含む複数のデータ・セクタから構成されている。円周方向に離間するサーボ・セクタの間に、データ・セクタが記録されている。揺動するアクチュエータに支持されたヘッド・スライダのヘッド素子部が、サーボ・セクタ内のアドレス情報に従って所望のデータ・セクタにアクセスすることによって、データ・セクタへのデータ書き込み及びデータ・セクタからのデータ読み出しを行うことができる。
【0004】
HDDは、磁気ディスクの記録面上において、データの書き込みと読み出しとを繰り返す。近年の磁気記録の高密度化により、選択されたデータ・トラックへのデータ書き込みにおいては、ヘッド・スライダからの漏れ磁界が、そのトラックに隣接するトラックの磁気データに影響を及ぼすことが知られている。また、データ・トラック上の反復的な磁化変化は、隣接データ・トラックの磁化に影響を及ぼすことが知られている。このような隣接データ・トラックへの影響を、ATI(Adjacent Track Interference)と呼ぶ。
【0005】
あるデータ・トラックへのデータ書き込みが繰り返される場合、ヘッド・スライダからの漏れ磁界やデータ・トラックの磁化変化による隣接データ・トラックへの干渉が繰り返され、隣接データ・トラックのユーザ・データが変化し、データ消失(リード・ハード・エラー)が発生することがある。
【0006】
このようなリード・ハード・エラーを防止するため、データ・トラックへの書き込み回数をカウントし、書き込み回数が閾値に達すると、隣接データ・トラックのデータを再書込みする技術が、特許文献1において提案されている。この技術は、記録領域をサブ領域に分割し、サブ領域における記録動作の累積回数が制限値を超えると、そのサブ領域のデータを再記録する。このHDDは、ビジー状態にないときに、バックグランド・タスクとしてサブ領域のデータ再記録を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−294231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、同一データ・トラックへの継続的な書き込みが、隣接データ・トラックの磁化状態に影響し、そのデータ・トラックのデータが劣化あるいは消失する可能性がある。これを防ぐため、HDDに、上記先行文献に開示されているように、データ・トラックあるいは複数データ・トラックからなるトラック束に対するデータ書き込み回数をカウントし、規定回数に達するとデータ・トラックを書き直す機能(本明細書においてリフレッシュ・ライト機能と呼ぶ)が実装される。リフレッシュ・ライトは、対象データ・トラックの読み出し及び同一データの対象データ・トラックへの書き込みを行う。
【0009】
データ記録密度の増加に伴い、上記機能は、HDDにとって必須となってきている。しかし、同時に、データ・トラックのリフレッシュ・ライトの基準となる書き込み回数も、データ記録密度の増加に伴って減少している。例えば、過去のHDDは1万回の書き込みに対してデータのリフレッシュ・ライトを行っていたが、最近のHDDにおいては、2千回の書き込みに対してデータのリフレッシュ・ライトを行うことが要求されている。
【0010】
このデータ・トラックのリフレッシュ・ライトは、HDDのパフォーマンスに影響を及ぼす。データ記録密度の増加による上記機能の発動頻度の増加は、パフォーマンスへの悪影響において無視することができなくなってきている。したがって、HDDのパフォーマンスの低下を抑えつつ、データ・トラックへのデータ書き込みによる他のデータ・トラックのデータ消失を防ぐことができる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の磁気ディスク・ドライブは、複数のデータ・トラックを有する磁気ディスクと、前記磁気ディスクにアクセスするヘッドと、前記ヘッドを前記磁気ディスク上において半径方向に移動する移動機構と、前記移動機構及び前記ヘッドを制御するコントローラとを有する。前記コントローラは、リフレッシュ・ライト領域に対応する書き込み領域への書き込み回数を使用して、そのリフレッシュ・ライト領域の優先度を決定する。前記優先度が第1の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域をアイドル時のリフレッシュ・ライト処理の対象に含める。前記優先度が前記第1の閾値よりも優先度が高い第2の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理及びコマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理の対象に含める。この構成により、磁気ディスク・ドライブのパフォーマンスの低下を抑えつつ、データ・トラックへのデータ書き込みによる他のデータ・トラックのデータ消失を防ぐことができる。
【0012】
好ましくは、前記コントローラは、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理において、優先度の高いリフレッシュ・ライト領域からリフレッシュ・ライトを実行する。これにより、より確実にデータ消失を防ぐことができる。
【0013】
好ましくは、前記コントローラは、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理を、パワー・セーブ・モードにおいて実行する。これにより、リフレッシュ・ライト処理中にコマンドを受信する可能性を小さくすることができる。
【0014】
好ましい構成において、前記コマンド対応処理はライト・コマンドに対応する処理であり、前記ライト・コマンドに対応するライト・キャッシュ機能がONであり、前記コントローラは、前記ライト・コマンドの完了通知前に、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理を実行する。これにより、ホストから見えるパフォーマンスの低下を小さくしつつ、リフレッシュ・ライト処理中に新たなコマンドを受けることを避けることができる。
【0015】
好ましい構成において、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理は一つのコマンドに対応して前記リフレッシュ・ライト領域の一部領域のみをリフレッシュ・ライトし、前記コントローラは、前記第2の閾値に達している優先度のリフレッシュ・ライト領域の数に応じて、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理の頻度を変化させる。これにより、パフォーマンスの低下を小さくしつつ、データ消失をより確実に防ぐことができる。
【0016】
好ましい構成において、前記リフレッシュ・ライト領域は、前記書き込み領域を含む近接領域と、その近接領域の内周側及び/もしくは外周側の遠方領域とを含み、前記コントローラは、前記近接領域のリフレッシュ・ライト処理において、前記遠方領域の一部の領域のリフレッシュ・ライトを実行する。これにより、遠方領域のリフレッシュ・ライトによるパフォーマンスへの影響を小さくしつつ、効率的にリフレッシュ・ライトを行なうことができる。
【0017】
好ましい構成において、前記コントローラは、前記書き込み領域への書き込み回数をカウントするカウンタを有し、前記カウンタのカウンタ値が第1の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理のリストである第1リストに登録し、前記カウンタ値が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を、前記第1リストからコマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理のリストである第2リストに移し、前記第2リストを参照して、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理を行う領域を決定し、前記第2リスト及び前記第1リストを参照して、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理を行う領域を決定し、前記第2リストの領域を、前記第1リストの領域よりも先にフレッシュ・ライトを実行する。これにより、シンプルな方法によりリフレッシュ・ライト処理の実行制御を適切に行うことができる。
【0018】
本発明の他の態様は、磁気ディスク・ドライブにおいて、磁気ディスク上のデータのリフレッシュ・ライトを行う方法である。この方法は、リフレッシュ・ライト領域に対応する書き込み領域への書き込み回数を使用して、そのリフレッシュ・ライト領域の優先度を決定する。前記優先度が第1の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理の対象に含める。前記優先度が前記第1の閾値よりも優先度が高い第2の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理及びコマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理の対象に含める。これにより、磁気ディスク・ドライブのパフォーマンスの低下を抑えつつ、データ・トラックへのデータ書き込みによる他のデータ・トラックのデータ消失を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれは、磁気ディスク・ドライブのパフォーマンスの低下を抑えつつ、データ・トラックへのデータ書き込みによる他のデータ・トラックのデータ消失を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るHDDの全体構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】本実施形態において、書き込み回数をカウントする対象領域と、その対象領域に対応するリフレッシュ・ライト領域と、の好ましい例を模式的に示す図である。
【図3】本実施形態において、強制リフレッシュ・ライト・リストとアイドル・リフレッシュ・ライト・リストの例を模式的に示している。
【図4】本実施形態において、リフレッシュ・ライト処理の好ましい例の流れを示すフローチャートである。
【図5】本実施形態において、リフレッシュ・ライト処理の好ましい例の流れを示すフローチャートである。
【図6】本実施形態において、リフレッシュ・ライト処理の好ましい例の流れを示すフローチャートである。
【図7】本実施形態において、書き込み回数のカウント単位であるデータ・トラック束と、それに対応するリフレッシュ・ライト領域と、の他の好ましい例を模式的に示す図である。
【図8】本実施形態において、FTI領域を分割されたセクションの一部をATI領域と共にリフレッシュ・ライトする方法を模式的に示す図である。
【図9】本発明を適用したHDDと適用していないHDDのリフレッシュ・ライト回数及びパフォーマンスのテスト結果を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略されている。以下においては、磁気ディスク・ドライブの一例であるハードディスク・ドライブ(HDD)に本発明を適用した実施形態を説明する。
【0022】
本実施形態は、データ書き込みの近接データ・トラックへの影響によるデータ消失を防ぐ技術に特徴を有している。本実施形態のHDDは、書き込み回数に応じてデータのリフレッシュ・ライトを行う。リフレッシュ・ライトは、対象とする領域のデータを読み出し、さらに、読み出したデータと同一のデータをその対象領域に書き込む。本形態のHDDは、リフレッシュ・ライトの基準となる少なくとも二つの異なる書き込み回数の閾値を有している。これら閾値により、HDDは、リフレッシュ・ライトを行う領域に優先度を付与する。
【0023】
本実施形態のHDDは、さらに、実行タイミングが異なるリフレッシュ・ライト処理を行う。一つのリフレッシュ・ライト処理は、ホストからのコマンドに対応する処理に付随して実行される。もう一つのリフレッシュ・ライト処理は、アイドル時に実行される。コマンド対応処理に付随するリフレッシュ・ライト処理は、高い優先度の領域のみを対象とする。一方、アイドル時のリフレッシュ・ライト処理は、上記高い優先度の領域に加え、低い優先度の領域も対象とする。
【0024】
このように高い優先度の領域のリフレッシュ・ライトをコマンド対応処理に付随して行い、高優先度及び低優先度の領域のリフレッシュ・ライトをアイドル時に行うことで、パフォーマンスの低下を抑えつつ、ATI(Adjacent Track Interference)によるユーザ・データの消失を防ぐことができる。
【0025】
本実施形態のリフレッシュ処理について詳細な説明を行う前に、まず、HDDの全体構成を説明する。図1は、HDD1の全体構成を模式的に示すブロック図である。エンクロージャ10の外側に固定された回路基板20上には、リード・ライト・チャネル(RWチャネル)21、モータ・ドライバ・ユニット22、ハードディスク・コントローラ(HDC)とMPUの集積回路(HDC/MPU)23及び半導体メモリのRAM24などの各回路が実装されている。各回路は、一つあるいは複数のチップに実装される。
【0026】
エンクロージャ10内において、スピンドル・モータ(SPM)14は、所定の角速度で、データを記憶するディスクである磁気ディスク11を回転する。ヘッドであるヘッド・スライダ12は、磁気ディスク11上を浮上するスライダと、スライダ上に形成され磁気信号と電気信号との変換(データの読み書き)を行うヘッド素子部とを有する。ヘッド・スライダ12はアクチュエータ16の先端部に固定されている。
【0027】
アクチュエータ16はボイス・コイル・モータ(VCM)15に連結され、揺動軸を中心に揺動することによって、ヘッド・スライダ12を回転する磁気ディスク11上においてその半径方向において移動する。アクチュエータ16とVCM15とはヘッド・スライダ12の移動機構である。モータ・ドライバ・ユニット22は、HDC/MPU23からの制御データに従ってSPM14とVCM15とを駆動する。
【0028】
アーム電子回路(AE)13は、HDC/MPU23からの制御データに従って複数のヘッド・スライダ12の中から磁気ディスク11にアクセス(リードもしくはライト)するヘッド・スライダ12を選択し、リード/ライト信号の増幅を行う。RWチャネル21は、リード処理において、AE13から取得したリード信号からサーボ・データ及びユーザ・データを抽出し、デコード処理を行う。デコード処理されたデータは、HDC/MPU23に供給される。また、RWチャネル21は、ライト処理において、HDC/MPU23から供給されたライト・データをコード変調し、さらに、コード変調されたデータをライト信号に変換してAE13に供給する。
【0029】
HDC/MPU23において、HDCは様々な機能を有するデジタル回路であり、MPUはファーム・ウェアに従って動作する。HDD1の起動に伴い、RAM24には、制御及びデータ処理に必要とされるデータ(プログラムを含む)が磁気ディスク11あるいはROM(不図示)からロードされる。
【0030】
HDC/MPU23は、RWチャネル21から取得した磁気ディスク11からのリード・データを、RAM24内のバッファに一時的に格納した後に、ホスト51に伝送する。また、HDC/MPU23は、ホスト51からのライト・データをRAM24内のバッファに一時的に格納した後、所定のタイミングでRWチャネル21に転送する。HDC/MPU23はコントローラの一例であり、ヘッド・ポジショニング制御、インターフェース制御、ディフェクト管理などのデータ処理に関する必要な処理の他、HDD1の全体制御を実行する。本実施形態のHDC/MPU23は、特に、リフレッシュ・ライト処理を実行する。
【0031】
上述のように、本形態実施のHDC/MPU23は、リフレッシュ・ライトの基準となる少なくとも2つの異なる書き込み回数の閾値を有している。これら閾値により、HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライトを行う領域に優先度を付与する。以下に具体的に説明する好ましい構成において、HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライト処理において、2つの異なる優先度を有する。設計によっては、HDDは3以上の異なる優先度を有していてもよい。また、HDDは、書き込み回数以外の要素も優先度決定の条件として使用してもよい
【0032】
処理のシンプリシティの点からは、HDC/MPU23は、書き込み回数で決まる2つの異なる優先度を有することが好ましい。HDC/MPU23は、書き込み回数が小さい閾値(小閾値)をこえる領域に対応するリフレッシュ・ライト領域には、低い優先度を付与する。さらに、HDC/MPU23は、書き込み回数が大きい閾値(大閾値)をこえる領域に対応するリフレッシュ・ライト領域には、高い優先度を付与する。
【0033】
また、本実施形態のHDC/MPU23は、ホストからのコマンドに対応する処理に付随してリフレッシュ・ライト処理を実行し、また、アイドル時にリフレッシュ・ライト処理を実行する。コマンド対応処理に付随するリフレッシュ・ライト処理は、高優先度の領域のみを対象とする。一方、アイドル時のリフレッシュ・ライト処理は、高優先度の領域と低優先度の領域の双方を対象とする。3以上の優先度が設定されている構成においては、その全部あるいは一部についてのみアイドル時のリフレッシュ・ライト処理の対象としてもよい。
【0034】
好ましい構成のHDC/MPU23は、ライト処理(ライト・コマンドに対応する処理)に付随してリフレッシュ・ライト処理を行い、それ以外のコマンド(主にリード・コマンド)に付随してはリフレッシュ・ライト処理を行わない。ライト・キャッシュ機能がイネーブルされているとき、HDC/MPU23は、ライト処理の完了をリード処理より早くホストに返すことができる。リード処理に付随するリフレッシュ・ライト処理と比較して、ライト処理に付随するリフレッシュ・ライト処理は、パフォーマンスへの影響を小さくすることができる。なお、設計によっては、HDC/MPU23は、ライド・コマンド以外のコマンドの対応処理に付随してリフレッシュ・ライト処理を行っても良い。
【0035】
アイドル・モードは、ホストからのコマンドに対応する処理を完了し、次のコマンドを待っている待機モードである。本実施形態のHDD1は3つの異なるアイドル・モードを有している。その内の2つは、パワー・セーブ・モードである。一つのパワー・セーブ・モードは、磁気ディスクの回転を維持しつつ、不要回路部分をOFFする。もう一つのパワー・セーブ・モードは、上記回路OFFに加えSPM14の回転を停止し、より大きなパワー・セーブを行う。もう一つのアイドル・モードは、通常待機モードであって、パワー・セーブを行うことなく、ホストからのコマンドにすぐ対応できるように準備している。
【0036】
以下に説明する好ましい構成において、HDC/MPU23は、2つのパワー・セーブ・モードにおいてリフレッシュ・ライトを実行し、通常待機モードにおいてはリフレッシュ・ライトを行わない。これにより、リフレッシュ・ライト処理中に新たなコマンドを受ける可能性を小さくし、処理の複雑さを避ける。設計によっては、HDC/MPU23は、全てのアイドル・モードにおいてもリフレッシュ・ライトを行ってもよく、あるいは、一つのパワー・セーブ・モードにおいてのみリフレッシュ・ライトを行ってもよい。アイドル・モードの種類や数はHDD1の設計により変化し、本発明はいずれの構成にも適用することができる。
【0037】
HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライト処理において、既存データをバックアップする。具体的には、HDC/MPU23は、ヘッド・スライダ12によって書き直し対象のデータを読み出し、そのデータを所定の別のデータ・トラックに書き込む。その後、ヘッド・スライダ12によって、読み出したデータ・セクタに同一のデータを再度書き込む。リフレッシュ・ライトにおいては、一つのデータ・トラック全体を一回の処理において書き直すことが好ましいが、データ・トラックの一部のデータ・セクタのみを一回の処理で書き直してもよい。これらの点は、以下の他の構成において同様である。
【0038】
好ましい構成において、HDC/MPU23は、複数連続データ・トラックからなるトラック束毎に書き込み回数をカウントし、そのカウント値が閾値に達すると、リフレッシュ・ライト処理を行う。図2は、好ましい構成の一つにおける、書き込み回数をカウントする対象領域と、その対象領域に対応するリフレッシュ・ライト領域と、を模式的に示している。
【0039】
図2における下側が内周側であり、上側が外周側である。データ・トラックTr_k〜データ・トラックTr_k+lの領域111が、書き込み回数をカウントする単位領域である。領域111は複数のデータ・トラックで形成されており、データ・トラックの束である。データ・トラックTr_k−m〜データ・トラックTr_k+l+mの領域111、112a、112bがリフレッシュ・ライト領域である。
【0040】
HDC/MPU23は、データ・トラック束111内のデータ・トラックへの書き込みがなされる度に、対応づけられたカウンタをカウント・アップ(あるいはカウント・ダウン)する。カウンタ値が規定の閾値に達すると、HDC/MPU23は書き直し領域111、112a、112bのデータを書き直す。典型的には、カウンタはプログラム内の変数である。
【0041】
図2に示すように、リフレッシュ・ライト領域は、書き込み回数をカウントするデータ・トラック束111に加え、その両側の隣領域112a、112bを含む。図2において隣領域112a、112bは同一数のデータ・トラックで構成されているが、HDD1の構成によって、これらは異なっていてもよい。この点は、以下の他の構成において同様である。
【0042】
磁気ディスク記録面は、複数のデータ・トラック束に分割されており、各データ・トラック束は連続配置されている。HDC/MPU23は、各データ・トラック束の書き込み回数をカウントする。上述のように、カウント値が閾値に達すると、そのデータ・トラック束に対応する領域においてリフレッシュ・ライトを実行する。
【0043】
データ・トラック毎にデータ書き込み回数をカウントするのではなく、複数データ・トラックの束を一つの単位としてデータ書き込みの回数をカウントすることで、リフレッシュ・ライト処理に必要とされるメモリ領域及び演算処理を低減することができる。また、リフレッシュ・ライト領域が、データ・トラック束に加えてその両側の隣接領域を含むことで、データ書き込みによるデータ消失をより確実に防止することができる。なお、本発明は、データ・トラック毎に書き込み回数をカウントする構成、あるいは、書き込み回数をカウントするデータ・トラック束111のみを書き直す構成に適用することもできる。これらの点は、下記他の好ましい構成において同様である。
【0044】
上述のように、本実施形態のHDC/MPU23は、ライト・コマンド対応処理に付随するリフレッシュ・ライト処理とアイドル時のリフレッシュ・ライト処理とを実行する。以下において、前者を強制リフレッシュ・ライト処理、後者をアイドル・リフレッシュ・ライト処理と呼ぶ。それぞれのリフレッシュ・ライト処理に対応する条件閾値が異なり、強制リフレッシュ・ライト処理の閾値は、アイドル・リフレッシュ・ライト処理の閾値よりも大きい。例えば、小さい閾値は1千であり、大きい閾値は2千である。
【0045】
このように、HDC/MPU23は、データ・トラック束111に対して2つの閾値を与える。HDC/MPU23は、さらに、強制リフレッシュ・ライト処理のリストと、アイドル・リフレッシュ・ライト処理のリストとを有している。図3は、強制リフレッシュ・ライト・リストとアイドル・リフレッシュ・ライト・リストを模式的に示している。
【0046】
データ・トラック束への書き込み回数が小閾値に達すると、そのデータ・トラック束はアイドル・リフレッシュ・ライト・リストに登録される。データ・トラック束への書き込み回数が大閾値に達すると、そのデータ・トラック束は強制リフレッシュ・ライト・リストに登録される。図3の例においては、データ・トラック束のID情報として、ヘッド番号と先頭シリンダ番号が登録されている。
【0047】
HDC/MPU23は、ライト・コマンドを受信すると、完了通知をホスト51へ返す前に、強制リフレッシュ・ライト・リストに登録されているデータ・トラック束のリフレッシュ処理を行う。複数のデータ・トラック束が登録されているときは、パフォーマンス低下を防ぐため、選択した一つのデータ・トラック束についてリフレッシュ・ライト処理を行うことが好ましい。例えば、HDC/MPU23は、登録順にデータ・トラック束を選択する。強制リフレッシュ・ライト・リストにデータ・トラック束が登録されていないとき、HDC/MPU23は、ライト処理に付随したリフレッシュ・ライト処理は行わない。
【0048】
HDC/MPU23は、パワー・セーブ・モードに入ると、強制リフレッシュ・ライト・リスト及びアイドル・リフレッシュ・ライト・リストを参照する。HDC/MPU23は、強制リフレッシュ・ライト・リストに登録されているデータ・トラック束から優先してリフレッシュ・ライト処理を行う。一つのリスト内においては、典型的には、登録順にリフレッシュ・ライト処理を実行する。HDC/MPU23は、ホスト51から新たなコマンドを受信するまで、登録されているデータ・トラック束のリフレッシュ・ライト処理を順次実行する。
【0049】
HDC/MPU23は、データ・トラック束のリフレッシュ・ライト処理を実行すると、そのデータ・トラック束に対する書き込み回数のカウントを、初期値から再開する。典型的には、HDC/MPU23は、各データ・トラック束に対応するカウンタを有し、リフレッシュ・ライト処理を実行すると、そのカウンタ値をクリアする。
【0050】
HDC/MPU23によるリフレッシュ・ライト処理のより具体的な例について、図4〜図6のフローチャートを参照して説明する。図4のフローチャートを参照して、リフレッシュ・ライト・リストへの登録方法について説明する。HDC/MPU23は、各データ・トラック束に対応するカウンタを有し、データ・トラック束への書き込みがある度に対応するカウンタのカウンタ値を変化させる(S11)。いずれかのカウンタの値が小閾値に達するまでそれを繰り返す(S12におけるNの処理)。いずれかのカウンタの値が小閾値に達すると(S12におけるY)、HDC/MPU23は、そのカウンタが対応するデータ・トラック束のID情報をアイドル・リフレッシュ・ライト・リストに登録する(S13)。
【0051】
HDC/MPU23は、アイドル・リフレッシュ・ライト・リストに最初のデータ・トラック束を登録すると、リスキ・フラグを立てる(S14)。リスキ・フラグは、二つのリフレッシュ・ライト・リストのいずれか一方のデータ・トラック束が登録されている間、維持される。いずれのカウンタのカウンタ値が大閾値に達していないと(S15におけるN)、工程S11に戻る。特定のカウンタのカウンタ値が大閾値に達すると(S15におけるY)、HDC/MPU23は、そのカウンタのデータ・トラック束のID情報を強制リフレッシュ・ライト・リストに登録し、さらに、そのID情報をアイドル・リフレッシュ・ライト・リストから削除する(S16)。
【0052】
次に、ホスト51からライト・コマンドを受信したHDC/MPU23の処理例を、図5のフローチャートを参照して説明する。HDC/MPU23は、ホスト51からライト・コマンドを受信(S21)すると、ライト・コマンドに対応する処理を開始する前に、リスキ・フラグを参照する(S22)。リスキ・フラグがリスト登録データ・トラックなしを示している場合(S22におけるN)、HDC/MPU23は、ホスト51にライト・コマンドの完了を通知し(S24)、その後、ライト・コマンド対応処理(ライト処理)を開始する(S25)。
【0053】
リスキ・フラグがリスト登録データ・トラック有りを示していると(S22におけるY)、HDC/MPU23は、強制リフレッシュ・ライト・リストを参照する(S23)。強制リフレッシュ・ライト・リストに登録項目がないと(S23におけるN)、HDC/MPU23は、ホスト51にライト・コマンドの完了を通知し(S24)、その後、ライト・コマンド対応処理(ライト処理)を開始する(S25)。このように、ライト・キャッシュ機能がONであり、HDC/MPU23は、ライト完了通知をホスト51に返した後、ユーザ・データの磁気ディスク11への書き込みを開始することが好ましい。
【0054】
強制リフレッシュ・ライト・リストにデータ・トラック束が登録されている場合(S23におけるY)、HDC/MPU23は、ライト・コマンド対応処理(ライト処理)を行い(S26)、その後、登録されているデータ・トラック束に対応する領域のリフレッシュ・ライトを行なう(S27)。予期しない電源遮断やリセットなどを考慮し、リフレッシュ・ライトの前にライト処理を実行することが好ましい。
【0055】
リフレッシュ・ライトの完了後に、HDC/MPU23は、ホスト51にライト・コマンドの完了を通知する(S28)。典型的には、HDC/MPU23は、1データ・トラックずつ、読み出し、バックアップ、そして再書き込みを行う。これは、全てのリフレッシュ・ライト処理において同様である。ライト完了を通知していないので、リフレッシュ・ライト処理の途中で新たなコマンドを受信することはない。HDC/MPU23は、ライト処理の前に、リフレッシュ・ライトを行なってもよい。
【0056】
好ましい構成において、HDC/MPU23は、一つのライト・コマンドに対応してリフレッシュ・ライト領域の一部のリフレッシュ・ライトを行なう。例えば、リフレッシュ・ライト領域が12データ・トラックで構成されており、HDC/MPU23は、一つのライト・コマンドに対応して、3データ・トラックのリフレッシュ・ライトを行なう。設計によっては、一つのライト・コマンドに応答して、リフレッシュ・ライト領域の全てのデータ・トラックを書き直してもよい。
【0057】
このように、領域を分けて複数のライト・コマンドに対応させ、複数ライト・コマンドに対応して一つのリフレッシュ・ライト領域(データ・トラック束)のリフレッシュ・ライト処理を行うことで、ホスト51に見えるパフォーマンスの低下を抑制する。HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライト途中のデータ・トラック束に対応するカウンタを有し、一部領域のリフレッシュ・ライトが終了する度にカウンタ値を変化させることで、各一部領域を順に、適切に書き直すことができる。
【0058】
次に、アイドル時のリフレッシュ・ライト処理の例を、図6のフローチャートを参照して説明する。アイドル・モードの一つであるパワー・セーブ・モードに入ると(S31)、HDC/MPU23は、リスキ・フラグを参照する(S32)。リスキ・フラグがリスト登録データ・トラックなしを示していると(S32におけるN)、処理は終了する。リスキ・フラグがリスト登録データ・トラック有りを示していると(S32におけるY)、HDC/MPU23は、強制リフレッシュ・ライト・リストを参照する(S33)。
【0059】
強制リフレッシュ・ライト・リストにデータ・トラック束が登録されている場合(S33におけるY)、HDC/MPU23は、登録されているデータ・トラック束に対応する領域のリフレッシュ・ライトを行なう(S34)。強制リフレッシュ・ライト・リストの登録データ・トラック束の全てのリフレッシュ・ライトが終了する、あるいは、初めから登録データ・トラック束が存在しないとき(S33におけるN)、HDC/MPU23は、アイドル・リフレッシュ・ライト・リストを参照する(S35)。
【0060】
アイドル・リフレッシュ・ライト・リストにデータ・トラック束が登録されていると(S35におけるY)、HDC/MPU23は、登録されているデータ・トラック束に対応する領域のリフレッシュ・ライトを行なう(S36)。領域のリフレッシュ・ライトが完了すると、HDC/MPU23は、そのデータ・トラック束をリストから消去する。
【0061】
アイドル・リフレッシュ・ライト・リストの登録データ・トラック束の全てのリフレッシュ・ライトが終了する、あるいは、初めから登録データ・トラック束が存在しないとき(S35におけるN)、HDC/MPU23は、処理を終了する。また、リフレッシュ・ライト処理の途中で新たなコマンドを受信すると、HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライト処理を中止する。
【0062】
HDC/MPU23は、次にパワー・セーブ・モードに入ると、登録されているデータ・トラック束のリフレッシュ・ライト処理を最初から行う。あるいは、HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライトの進行状況を示すカウンタを有し、そのカウンタを参照することで、中断したデータ・トラックからリフレッシュ・ライト処理を再開してもよい。
【0063】
好ましい構成において、HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライト処理において、通常のリード・バッファを使用する。これにより、RAM24の容量を少なくすることができる。リフレッシュ・ライト処理がリード・バッファを使用すると、リード・バッファのデータが変更される。誤ったリード・キャッシュ・ヒットの判定を行うことがないように、HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライトのためにデータ・リードを行なう前に、リード・キャッシュ・テーブルを初期化することが好ましい。
【0064】
図2を参照して説明した構成において、リフレッシュ・ライト領域は、データ・トラック束111と、その近くの隣接領域112a、112bとで構成されている。好ましい他の構成において、HDC/MPU23は、データ・トラック111の近くの領域112a、112bに加え、より遠いデータ・トラックの書き直しを行う。これにより、データ書き込みの繰り返しによるデータ消失をより確実に防止することができる。より遠いデータ・トラックのリフレッシュ・ライトを行う構成において、好ましくは、リフレッシュ・ライト領域は複数のセクションで構成されている。
【0065】
図7は、書き込み回数のカウント単位であるデータ・トラック束と、それに対応するリフレッシュ・ライト領域と、を模式的に示している。図7における下側が内周側であり、上側が外周側である。リフレッシュ・ライト領域は、図2において説明した領域(ATI)111、112a、112bに加え、領域113aと領域113bとを含む。領域113aと領域113bとを、それぞれ、FTI(Far Track Interference)領域と呼ぶ。
【0066】
領域113aはデータ・トラックTr_k−n〜データ・トラックTr_k−mまでの領域であり、領域113bはデータ・トラックTr_k+l+m〜データ・トラックTr_k+l+nまでの領域である。領域113aは、領域112aの外周側にあって、それに隣接している。領域113bは、領域112bの内周側にあって、それに隣接している。領域113aと領域113bのトラック数は、同一あるいは異なる。
【0067】
本構成において、リフレッシュ・ライト領域の第1のセクション(ATI領域)111、112a、112bと第2のセクション(FTI領域)113a、113bとには、異なるカウント数の閾値が割り当てられている。データ書き込みによるFTI領域113a、113bへの影響は、ATI領域111、112a、112bへの影響よりも小さい。したがって、FTI領域113a、113bのリフレッシュ頻度は、ATI領域111、112a、112bよりも少ないことが好ましい。
【0068】
HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライトの条件閾値として、FTI領域113a、113bに大きな値を付与し、ATI領域111、112a、112bに小さい値を付与する。好ましい構成において、FTI領域113a、113bのリフレッシュ・ライトの条件閾値は、ATI領域111、112a、112bの公倍数である。これにより、処理をよりシンプルにすることができる。例えば、データ・トラック束111への2千回の書き込み毎にATI領域111、112a、112bのリフレッシュ・ライトを行い、2万回の書き込み毎にFTI領域113a、113bのリフレッシュ・ライトを行う。
【0069】
本実施形態の強制リフレッシュ・ライト処理とアイドル・リフレッシュ・ライト処理とは、このリフレッシュ・ライト領域構成に対しても適用することができる。例えば、HDC/MPU23は、ATI領域とFTI領域のそれぞれに対して、小閾値と大閾値、さらに、強制リフレッシュ・ライト・リストとアイドル・リフレッシュ・ライト・リストを有する。4つの閾値と4つのリストを参照することで、ATI領域とFTI領域のそれぞれの強制リフレッシュ・ライト処理とアイドル・リフレッシュ・ライト処理とを実行することができる。
【0070】
好ましい構成において、HDC/MPU23は、FTI領域を複数のセクションに分割し、ATI領域の各リフレッシュ・ライト処理の対象に、各セクションを含める。つまり、各セクションをATI領域と共にリフレッシュ・ライトする。図8は、このリフレッシュ・ライト方法を説明する模式図である。図8は、強制リフレッシュ・ライト処理の方法を模式的に示している。
【0071】
図8において、各矩形はデータ・トラックを示している。一段の矩形列は記録面の一部を示しており、全て記録面の同一部分である。各段は、各リフレッシュ・ライト処理において書き直される領域を示す。図8において、データ・トラック束111が例示されている。図8は、このデータ・トラック束111へのデータ書き込み回数に応じてリフレッシュ・ライトされる領域を示している。書き込み回数をカウントする単位のデータ・トラック束の単位は、8データ・トラックで構成されている。また、ATI領域115はデータ・トラック束を含む14データ・トラックである。FTI領域は、116a、116bで指示する。
【0072】
図8の例において、HDC/MPU23は、2千回の書き込み毎に強制リフレッシュ・ライト処理を行う。各リフレッシュ・ライト処理は、ATI領域115とFTI領域116a、116bの一部とを対象としている。各リフレッシュ・ライト処理は、それぞれ、FTI領域116a、116bの異なる一部を対象としている。15回のリフレッシュ・ライト処理により、全FTI領域116a、116bの書き直しが完了する。
【0073】
上述のように、強制リフレッシュ・ライト処理の書き込み回数閾値(大閾値)は、2千である。HDC/MPU23は、データ・トラック束111への書き込み回数が小さい閾値に達すると、アイドル・リフレッシュ・ライト・リストにデータ・トラック束111を登録する。例えば、小閾値は1千である。
【0074】
HDC/MPU23は、データ・トラック束111への書き込み回数(カウンタ値)が1千に達すると、データ・トラック束111をアイドル・リフレッシュ・ライト・リストに登録する。カウンタ値が2千に達する前にパワー・セーブ・モードに入ると、HDC/MPU23は、第1段に示す領域をリフレッシュ・ライトする。この領域のリフレッシュ・ライト処理が終了すると、HDC/MPU23はデータ・トラック束111をアイドル・リフレッシュ・ライト・リストから削除し、さらに、カウンタ値を2千にセットする。これにより、カウンタ値2千における強制リフレッシュ・ライト処理はスキップされる。
【0075】
リフレッシュ・ライト処理を実行することなく、カウンタ値が2千に達すると、HDC/MPU23は、データ・トラック束111のID情報を、アイドル・リフレッシュ・ライト・リストから強制リフレッシュ・ライト・リストに移す。HDC/MPU23は、ライト・コマンドに応答して、データ・トラック束111のリフレッシュ・ライト領域のリフレッシュ・ライト処理を行う。リフレッシュ・ライト領域は、ATI領域115とFTI領域116a、116bの一部である。上述のように、リフレッシュ・ライト処理は、コマンド分割されていることが好ましい。つまり、ライト・コマンド毎に、一部の領域についてのみリフレッシュ・ライト処理を行うことが好ましい。
【0076】
HDC/MPU23は、カウンタが3万を示すまで、上述の処理を繰り返し実行する。カウンタ値が3万に達し、FTI領域116a、116bの全てのデータ・トラックのリフレッシュ・ライト処理を完了すると、HDC/MPU23は、カウンタ値を初期化(初期値に設定)する。
【0077】
このように、FTI領域を複数セクションに分割し、各セクションのリフレッシュ・ライト処理をATI領域と共に行うことで、リフレッシュ・ライト処理が必要とする閾値(カウンタ)数及びテーブル数を少なくすることができる。また、FTI領域を複数セクションに分割することで、FTI領域のリフレッシュ・ライト処理によるパフォーマンスへの影響を低減することができる。
【0078】
FTI領域の各セクションは、同一のデータ・トラック数であっても、あるいは異なるデータ・トラック数で構成されていてもよい。一回のリフレッシュ・ライト処理が、内周側と外周側の一部の領域を含むことが好ましいが、一方領域の一部のみを有していてもよい。ATI領域を複数セクションに分割し、それぞれにリフレッシュ・ライト処理の異なるカウンタ閾値を割り当ててもよい。
【0079】
上述のように、HDC/MPU23は、強制リフレッシュ・ライト処理において、リフレッシュ・ライト領域がコマンド分割されていることが好ましい。つまり、HDC/MPU23は、ライト・コマンド毎に、一部の領域のみリフレッシュ・ライトすることが好ましい。パフォーマンスへの影響を小さくするためには、HDC/MPU23は、複数ライト・コマンド毎に、一部領域のリフレッシュ・ライトすることが好ましい。例えば、HDC/MPU23は、100ライト・コマンド毎に、リフレッシュ・ライトを実行する。99のライト・コマンドの受信時には、リフレッシュ・ライト処理を行うことなく、ライト処理を実行する。
【0080】
しかし、ライト・コマンド受信数に対するリフレッシュ・ライト処理頻度が少ないと、ユーザ・データ消失の危険性が増す。そこで、好ましい構成において、HDC/MPU23は、強制リフレッシュ・ライト・リストの登録数に応じてリフレッシュ・ライト処理頻度を変化させる。例えば、その登録数が規定の閾値に達すると、HDC/MPU23は、リフレッシュ・ライト処理頻度を多くする。例えば、100ライト・コマンドに一回のリフレッシュ・ライトを、10ライト・コマンドに一回のリフレッシュ・ライトに変更する。
【0081】
HDC/MPU23は、複数の閾値を有し、それぞれの閾値に対応するリフレッシュ・ライト頻度を設定してもよい。また、HDC/MPU23は、強制リフレッシュ・ライト・リストに加え、アイドル・リフレッシュ・ライト・リストの登録数も参照してもよい。リフレッシュ・ライト・リスト登録数に応じたリフレッシュ・ライト頻度の設定は、図2、図7及び図8を参照して説明したいずれの構成にも適用することができる。
【0082】
図9は、本発明を適用したHDDと適用していないHDDのリフレッシュ・ライト回数及びパフォーマンスのテスト結果を示すデータである。棒グラフはリフレッシュ・ライト回数であり、ハッチングされている棒グラフが、本発明を適用したHDDの測定結果、白の棒グラフが適用していない従来のHDDの測定結果である。折れ線グラフは、パフォーマンスの測定結果を示し、黒丸の折れ線グラフが本発明を適用したHDDの測定結果、白丸の折れ線グラフが従来のHDDの測定結果である。本発明を適用したHDDは、アイドル・リフレッシュ・ライトの閾値として4百回を使用し、強制リフレッシュ・ライトの閾値として1千回を使用した。
【0083】
図9の測定結果から理解されるように、ほとんどのテストにおいて、本発明を適用したHDDのリフレッシュ・ライト回数が、従来のHDDよりも多かった。しかし、パフォーマンスは、本発明を適用したHDDの方が従来のHDDよりも優れていた。また、従来のHDDは、リフレッシュ・ライト回数が増加するとパフォーマンスが低下したが、本発明のHDDは、リフレッシュ・ライト回数によらず、略一定の優れたパフォーマンスを示した。このように、本発明によるデータ保護とパフォーマンス向上の効果を確認することができた。
【0084】
以上、本発明を好ましい実施形態を例として説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。例えば、本形態の制御を、HDD以外の磁気ディスク・ドライブに適用することができる。ヘッド・スライダの移動機構は、回動アクチュエータに限らず、直線的にヘッド・スライダを移動する機構などを使用してもよい。本発明は、ヘッド・スライダが磁気ディスクと常に接触しているHDDにも適用することができる。
【0085】
上記好ましい構成は、リフレッシュ・ライト処理の優先度(いずれのリフレッシュ・ライト処理の対象とするか)を決定するために、データ・トラック束への書き込み回数のみを使用している。HDDは、そのほかの条件を加えて、優先度を決定してもよい。例えば、書き込み回数に加え、書き込み時の環境温度を使用して優先度を決定してもよい。
【0086】
上記好ましい構成は、強制リフレッシュ・ライト・リストとアイドル・リフレッシュ・ライト・リストの二つのリストを有する。このように異なるリストを有することで、リフレッシュ・ライト処理の対象領域を容易に決定することができる。HDDは、一つのリストに、全てのデータ・トラック束(リフレッシュ・ライト領域)を登録してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 ハードディスク・ドライブ、10 エンクロージャ
11 磁気ディスク、12 ヘッド・スライダ、20 回路基板
21 RWチャネル、22 モータ・ドライバ・ユニット
23 ハードディスク・コントローラ/MPU、24 RAM、51 ホスト
111、112a、112b、113a、113b 領域
115 ATI領域、116a、116 FTI領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデータ・トラックを有する磁気ディスクと、
前記磁気ディスクにアクセスするヘッドと、
前記ヘッドを前記磁気ディスク上において半径方向に移動する移動機構と、
前記移動機構及び前記ヘッドを制御するコントローラと、を有し、
前記コントローラは、
リフレッシュ・ライト領域に対応する書き込み領域への書き込み回数を使用して、そのリフレッシュ・ライト領域の優先度を決定し、
前記優先度が第1の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域をアイドル時のリフレッシュ・ライト処理の対象に含め、
前記優先度が前記第1の閾値よりも優先度が高い第2の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理及びコマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理の対象に含める、
磁気ディスク・ドライブ。
【請求項2】
前記コントローラは、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理において、優先度の高いリフレッシュ・ライト領域からリフレッシュ・ライトを実行する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブ。
【請求項3】
前記コントローラは、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理を、パワー・セーブ・モードにおいて実行する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブ。
【請求項4】
前記コマンド対応処理は、ライト・コマンドに対応する処理であり、
前記ライト・コマンドに対応するライト・キャッシュ機能がONであり、
前記コントローラは、前記ライト・コマンドの完了通知前に、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理を実行する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブ。
【請求項5】
前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理は、一つのコマンドに対応して前記リフレッシュ・ライト領域の一部領域のみをリフレッシュ・ライトし、
前記コントローラは、前記第2の閾値に達している優先度のリフレッシュ・ライト領域の数に応じて、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理の頻度を変化させる、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブ。
【請求項6】
前記リフレッシュ・ライト領域は、前記書き込み領域を含む近接領域と、その近接領域の内周側及び/もしくは外周側の遠方領域と、を含み、
前記コントローラは、前記近接領域のリフレッシュ・ライト処理において、前記遠方領域の一部の領域のリフレッシュ・ライトを実行する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブ。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記書き込み領域への書き込み回数をカウントするカウンタを有し、
前記カウンタのカウンタ値が第1の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理のリストである第1リストに登録し、
前記カウンタ値が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を、前記第1リストからコマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理のリストである第2リストに移し、
前記第2リストを参照して、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理を行う領域を決定し、
前記第2リスト及び前記第1リストを参照して、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理を行う領域を決定し、前記第2リストの領域を、前記第1リストの領域よりも先にフレッシュ・ライトを実行する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブ。
【請求項8】
磁気ディスク・ドライブにおいて、磁気ディスク上のデータのリフレッシュ・ライトを行なう方法であって、
リフレッシュ・ライト領域に対応する書き込み領域への書き込み回数を使用して、そのリフレッシュ・ライト領域の優先度を決定し、
前記優先度が第1の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理の対象に含め、
前記優先度が前記第1の閾値よりも優先度が高い第2の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理及びコマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理の対象に含める、
方法。
【請求項9】
前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理において、優先度の高いリフレッシュ・ライト領域からリフレッシュ・ライトを実行する、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理を、パワー・セーブ・モードにおいて実行する、
請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記コマンド対応処理は、ライト・コマンドに対応する処理であり、
前記ライト・コマンドに対応するライト・キャッシュ機能がONであり、
前記ライト・コマンドの完了通知前に、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理を実行する、
請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理は、一つのコマンドに対応して前記リフレッシュ・ライト領域の一部領域のみをリフレッシュ・ライトし、
前記第2の閾値に達している優先度のリフレッシュ・ライト領域の数に応じて、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理の頻度を変化させる、
請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記リフレッシュ・ライト領域は、前記書き込み領域を含む近接領域と、その近接領域の内周側及び/もしくは外周側の遠方領域と、を含み、
前記近接領域のリフレッシュ・ライト処理において、前記遠方領域の一部の領域のリフレッシュ・ライトを実行する、
請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記書き込み領域への書き込み回数をカウンタによりカウントし、
前記カウンタ値が第1の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理のリストである第1リストに登録し、
前記カウンタ値が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達すると、前記リフレッシュ・ライト領域を、前記第1リストからコマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理のリストであるに第2リストに移し、
前記第2リストを参照して、前記コマンド対応処理付随のリフレッシュ・ライト処理を行う領域を決定し、
前記第2リスト及び前記第1リストを参照して、前記アイドル時のリフレッシュ・ライト処理を行う領域を決定し、前記第2リストの領域を、前記第1リストの領域よりも先にリフレッシュ・ライトを実行する、
請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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