説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法

【課題】シアマークに起因する主表面の欠陥を抑制した磁気ディスク用ガラス基板を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、溶融したガラスを切断してなるガラスの塊を鉛直方向下向きに落下させる落下工程と、互いに対向する一対の型から前記塊の少なくとも切断痕がはみ出すタイミングで、前記塊の落下経路の両側から、前記一対の型の面が前記塊を同じタイミングで挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形するプレス工程と、前記一対の型からはみ出したガラス素材を除去する除去工程と、を有することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッド(DFH(Dynamic Flying Height)ヘッド)で磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板には、金属基板等に比べて塑性変形をしにくい性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられている。
【0003】
また、ハードディスク装置における記憶容量の増大の要請を受けて、磁気記録の高密度化が図られている。例えば、磁性層における磁化方向を基板の面に対して垂直方向にする垂直磁気記録方式を用いて、磁気記録情報エリアの微細化が行われている。これにより、1枚のディスク基板における記憶容量を増大させることができる。しかも、記憶容量の一層の増大化のために、磁気ヘッドの磁気記録面からの浮上距離を極めて短くして磁気記録情報エリアを微細化することも行われている。このような磁気ディスクの基板においては、磁性層の磁化方向が基板面に対して略垂直方向に向くように、磁性層が平らに形成される。このために、ガラス基板の表面凹凸は可能な限り小さく作製されている。
また、磁気ヘッドの浮上距離が短いことによりヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を引き起こし易い。これらの障害は磁気ディスク面上の微小な凹凸あるいはパーティクルによって発生するため、ガラス基板の主表面の他にガラス基板の端面の表面凹凸も可能な限り小さく作製されている。
【0004】
ところで、磁気ディスクに用いるガラス基板は、例えば、以下の方法で製造される。具体的には、当該方法では、受けゴブ形成型である下型上に、溶融ガラスからなるガラスゴブ(ガラス材の塊)が供給され、下型と対向ゴブ形成型である上型を使用してガラスゴブがプレス成形されて板状ガラス素材を作製した後、情報記録媒体用ガラス基板に加工される(特許文献1)。
【0005】
この方法では、下型上に溶融ガラスからなるガラスゴブを供給した後に上型用胴型の下面と下型用胴型の上面を当接させ、上型と上型用胴型との摺動面および下型と下型用胴型との摺動面を超えて外側に肉薄板状ガラス成形空間を形成し、さらに上型を下降してプレス成形を行い、プレス成形直後に上型を上昇する。これにより、磁気ディスク用ガラス基板の元となる板状ガラス素材が成形される。この後、研削工程及び研磨工程を経て磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3709033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、切断刃を用いて溶融ガラスを切断して溶融ガラスのゴブを形成する場合、切断刃と接触する部分において、溶融ガラスが急冷され、切断痕が形成される。切断痕を含むゴブをプレス成形する場合、切断痕に起因するシアマークが板状ガラス素材に形成される。シアマークは、例えば、板状ガラス素材の表面から一定の深さの間に密集する小さい気泡の集まりや、表面の凹みとして観察される。
【0008】
なお、1つのゴブを形成するためには2回の切断が必要となるため、通常、1つのゴブには切断痕が2箇所存在し、その結果、シアマークも2箇所形成される。しかし、先に形成された切断痕は、プレス成形されるまでの時間に再溶解し、後に形成された切断痕に由来するシアマークより比較的小さく、消失することもある。
【0009】
シアマークが磁気ディスク用ガラス基板に残存していると、磁気データの読み書きに支障を来たすばかりか、ヘッドと磁気ディスクとの接触を引き起こしてハードディスクドライブを故障させる要因にもなる。そのため、研削工程や研磨工程においては、シアマークを確実に除去できる深さまで研削及び研磨を行う必要があり、磁気ディスク用ガラス基板の製造効率が低下する。従来の上下型によるプレス成型では、このシアマークが成型後の板状ガラス素材のほぼ中心部に形成されるため、研削量もしくは研磨量を大きくせざるを得なかった。
【0010】
そこで、本発明は、シアマークに起因する主表面の欠陥を抑制した磁気ディスク用ガラス基板を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、溶融したガラスを切断してなるガラスの塊を鉛直方向下向きに落下させる落下工程と、互いに対向する一対の型から前記塊の少なくとも切断痕がはみ出すタイミングで、前記塊の落下経路の両側から、前記一対の型の面が前記塊を同じタイミングで挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形するプレス工程と、前記一対の型からはみ出したガラス素材を除去する除去工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、溶融したガラスを鉛直方向下向きに供給する供給工程と、互いに対向する一対の型の上部が接触するように前記一対の型を移動させることにより、前記溶融したガラスを切断し、溶融したガラスの塊を形成する切断工程と、前記一対の型の上部を接触させた状態で、前記一対の型の面が前記塊を挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形するプレス工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、前記板状ガラス素材を加工する加工工程を含み、前記加工工程は、固定砥粒を用いて前記主表面を研削する研削工程と、前記研削工程の後に、遊離砥粒を用いて前記主表面を研磨する研磨工程と、を有し、前記研削工程と前記研磨工程を合わせた取りしろは4μm以上100μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、シアマークに起因する主表面の欠陥を抑制した磁気ディスク用ガラス基板を、効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクの一例を示す概略構成図であり、(b)は、磁気ディスクの断面図であり、(c)は、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面を浮上する状態を示す図である。
【図2】本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
【図3】プレス成形において用いられる装置の平面図である。
【図4】(a)は、溶融ガラスと切断ユニットが接触する前の側面図であり、(b)は、切断ユニットが溶融ガラスを切り出した後の側面図であり、(c)は、プレスユニットが溶融ガラスの塊をプレス成形している状態の側面図であり、(d)は、プレスユニットからはみ出したガラス素材を除去部が除去する状態の側面図である。
【図5】(a)は、固定砥粒による研削に用いる装置の全体図であり、(b)は、(a)に示す装置に用いられるキャリヤを説明する図である。
【図6】板状ガラス素材を研削するときの状態を説明する図である。
【図7】(a)は、第2の実施形態のプレスユニットが備える型の平面図であり、(b)は、第2の実施形態のプレスユニットの側面図である。
【図8】(a)は、溶融ガラスとプレスユニットが接触する前の側面図であり、(b)は、プレスユニットが溶融ガラスを切り出した後の側面図であり、(c)は、プレスユニットが溶融ガラスの塊をプレス成形している状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施形態>
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
(磁気ディスクおよび磁気ディスク用ガラス基板)
まず、図1を参照して、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクについて説明する。図1(a)は、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクの一例を示す概略構成図である。図1(b)は、磁気ディスクの概略断面図である。図1(c)は、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面を浮上する状態を示す図である。
【0017】
図1(a)に示されるように、磁気ディスク1はリング状であり、回転軸を中心として回転する。図1(b)に示されるように、磁気ディスク1は、ガラス基板2と、少なくとも磁性層3A,3Bと、を備える。
なお、磁性層3A,3B以外には、例えば、図示されない付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層等が成膜される。付着層には、例えばCr合金等が用いられる。付着層は、ガラス基板2との接着層として機能する。軟磁性層には、例えばCoTaZr合金等が用いられる。非磁性下地層には、例えばRu合金等が用いられる。垂直磁気記録層には、例えばグラニュラー磁性層等が用いられる。保護層には、例えば水素化カーボンからなる材料が用いられる。潤滑層には、例えばフッ素系樹脂等が用いられる。
【0018】
磁気ディスク1について、より具体的な例を用いて説明する。本実施形態では、スパッタリング装置を用いて、ガラス基板2の両主表面に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、Ruの下地層、CoCrPt−SiO2・TiO2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を順次成膜される。さらに、成膜された最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層が成膜される。
【0019】
磁気ディスク1は、ハードディスク装置で用いられる場合、例えば7200rpmの回転速度で回転軸を中心として回転する。図1(c)に示されるように、ハードディスク装置の磁気ヘッド4A,4Bのそれぞれは、磁気ディスク1の高速回転に伴って、磁気ディスク1の表面から距離Hだけ浮上する。磁気ヘッド4A,4Bが浮上する距離Hは、例えば、5nmである。この状態で、磁気ヘッド4A,4Bは、磁性層に情報を記録し、あるいは読み出しを行う。この磁気ヘッド4A,4Bの浮上によって、磁気ディスク1に対して摺動することなく、しかも近距離で磁性層に対して記録あるいは読み出しを行うことにより、磁気記録情報エリアの微細化と磁気記録の高密度化を実現する。
このとき、磁気ディスク1のガラス基板2の中央部から外周エッジ部5まで、目標とする表面精度で正確に加工され、距離H=5nmを保った状態で磁気ヘッド4A,4Bを正確に動作させることができる。
【0020】
このような磁気ディスク1に用いられるガラス基板2の主表面の表面凹凸は、平坦度が例えば4μm以下であり、表面の粗さが例えば0.2nm以下である。最終製品としての磁気ディスク用基板に求められる目標平坦度は、例えば4μm以下である。
【0021】
平坦度は、例えば、Nidek社製フラットネステスターFT−900を用いて測定することができる。
主表面の粗さ(Ra)は、例えば、エスアイアイナノテクノロジーズ社製走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)を用いて、1μm×1μmの範囲を512×256ピクセルの解像度で測定したときに得られる表面粗さの算術平均Raとすることができる。
【0022】
このような平坦度が例えば4μm以下であり、表面の粗さが例えば0.2nm以下の表面凹凸を有する磁気ディスク用ガラス基板は、後述するようにプレス成形後、研削工程、第1研磨工程および第2研磨工程を経て初めて得ることができる。
但し、このうち平坦度に関しては、本願のプレス成形方法を用いることで、研削及び研磨工程を経なくても4μm以下を実現することが可能である。この場合、プレス成形後は表面粗さの低減のみ達成すればよいため、研削量または研磨量を大幅に減らすことが可能となる。一般的には研削で平坦度を低減、研磨で表面粗さを低減する場合が多いため、本願のプレス成形方法を使うことで、研削工程自体をなくすことも可能となる。
【0023】
ガラス基板2の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
アルミノシリケートガラスとして、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、及び、ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%を用いることが好ましい。また、アミノシリケートガラスとして、モル%表示で、SiO2を57〜74%、ZnO2を0〜2.8%、Al23を3〜15%、Li2Oを1〜16%、Na2Oを4〜14%、を主成分として含有するガラス材を用いると、化学強化を好適に行うことができる。
【0024】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
次に、図2を参照して、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法のフローを説明する。図2は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
図2に示されるように、まず、板状ガラス素材をプレス成形により作製する(ステップS10)。次に、成形された板状ガラス素材をスクライブする(ステップS20)。次に、スクライブされた板状ガラス素材を形状加工する(ステップS30)。次に、板状ガラス素材に対して、固定砥粒による研削を施す(ステップS40)。次に、板状ガラス素材の端面研磨を行う(ステップS50)。次に、板状ガラス素材の主表面に、第1研磨を施す(ステップS60)。次に、第1研磨後の板状ガラス素材に化学強化を施す(ステップS70)。次に、化学強化された板状ガラス素材に第2研磨を施す(ステップS80)。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0025】
(a)プレス成形工程
まず、図3を参照して、プレス成形工程(ステップS10)について説明する。図3は、プレス成形において用いられる装置の平面図である。図3に示されるように、装置101は、4組のプレスユニット120,130,140,150と、切断ユニット160と、除去部165(図3には不図示)を備える。
切断ユニット160は、溶融ガラス流出口111から溶融ガラスが流出する経路上に設けられる。切断ユニット160によって溶融ガラスが切断されることにより、溶融ガラスの塊が鉛直方向下向きに落下する。プレスユニット120,130,140,150は、塊の落下経路の両側から、互いに対向する一対の型の面で塊を同じタイミングで挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形する。
図3に示される例では、4組のプレスユニット120,130,140,150は、溶融ガラス流出口111を中心として90度おきに設けられている。
【0026】
プレスユニット120,130,140,150の各々は、図示しない移動機構によって駆動されて、溶融ガラス流出口111に対して進退可能となっている。すなわち、溶融ガラス流出口111の真下に位置するキャッチ位置(図3においてプレスユニット140が実線で描画されている位置)と、溶融ガラス流出口111から離れた退避位置(図3において、プレスユニット120,130及び150が実線で描画されている位置及び、プレスユニット140が破線で描画されている位置)との間で移動可能となっている。
【0027】
切断ユニット160は、キャッチ位置と溶融ガラス流出口111との間の溶融ガラスの経路上に設けられる。切断ユニット160は、溶融ガラス流出口111から流出される溶融ガラスを適量に切り出して、溶融ガラスの塊(以降、ゴブともいう)を形成する。切断ユニット160は、第1切断刃161と第2切断刃162とを有する。第1切断刃161と第2切断刃162とは、一定のタイミングで溶融ガラスの経路上で交差するよう駆動される。第1切断刃161と第2切断刃162とが交差したとき、溶融ガラスが切り出されてゴブが得られる。得られたゴブは、キャッチ位置に向かって下向きに落下する。
【0028】
プレスユニット120は、第1の型121と、第2の型122と、第1駆動部123と、第2駆動部124と、を有する。
第1の型121と第2の型122の各々は、ゴブをプレス成形するための面を有するプレート状の部材である。この2つの面の法線方向が略水平方向となり、この2つの面が互いに平行に対向するよう配置されている。
【0029】
第1駆動部123は、第1の型121を第2の型122に対して進退させる。一方、第2駆動部124は、第2の型122を第1の型121に対して進退させる。第1駆動部123及び第2駆動部124は、第1の型121の面と第2の型122の面とを急速に近接させる機構を有する。第1駆動部123及び第2駆動部124は、例えば、エアシリンダやソレノイドとコイルばねを組み合わせた機構である。
なお、プレスユニット130,140及び150の構造は、プレスユニット120と同様であるため、説明は省略する。
【0030】
プレスユニットの各々は、キャッチ位置に移動した後、第1駆動部と第2駆動部の駆動により、落下するゴブを第1の型と第2の型の問で挟み込んで所定の厚さに成形すると共に急速に冷却し、円形状の板状ガラス素材Gを作製する。その後、プレスユニットは退避位置に移動し、第1の型と第2の型を引き離し、成形された板状ガラス素材Gを落下させる。
【0031】
プレスユニット120,130,140,150の退避位置の下には、それぞれ、第1コンベア171、第2コンベア172、第3コンベア173、第4コンベア174が設けられている。第1〜第4コンベア171〜174の各々は、対応する各プレスユニットから落下する板状ガラス素材Gを受け止めて図示しない次工程の装置に板状ガラス素材Gを搬送する。
【0032】
本実施形態では、プレスユニット120,130,140及び150が、順番にキャッチ位置に移動して、ゴブを挟み込んで退避位置に移動するよう構成されている。そのため、各プレスユニットでの板状ガラス素材Gの冷却を待たずに、連続的に板状ガラス素材Gの成形を行うことができる。
なお、1つのプレスユニット120のみを用いて、連続的にゴブを挟み込んで板状ガラス素材Gの成形を行うこともできる。この場合、第1の型121と第2の型122は、ゴブGをプレス成形した直後に開放され、次に落下する溶融ガラスの塊をプレス成形する。
【0033】
ここで、図4に示される側面図を参照して、本実施形態のプレス成形工程について説明する。図4(a)は、溶融ガラス材料Lと切断ユニット160が接触する前の側面図である。図4(b)は、切断ユニット160が溶融ガラス材料Lを切り出した後の側面図である。図4(c)は、プレスユニット120が溶融ガラスの塊Gをプレス成形している状態の側面図である。図4(d)は、プレスユニットからはみ出したガラス素材を除去部が除去する状態の側面図である。
除去部165は、例えば、プレスユニット120からはみ出した状態で冷却されたガラス素材を切断する刃である。図4に示されるように、プレスユニット120の上面付近に設けられている。除去部165は、プレスユニット120の上面において、水平方向に移動することができる。そのため、除去部165は、後述するように、プレスユニット120からはみ出したガラス素材を除去することができる。
【0034】
図4(a)に示されるように、溶融ガラス材料Lは、溶融ガラス流出口111から連続的に流出される。図4(b)に示されるように、所定のタイミングで切断ユニット160を駆動し、第1切断刃161と第2切断刃162によって、溶融ガラス材料Lを切断する。これにより、切断された溶融ガラスは、その表面張力によって、概略球状のゴブGとなる。図4(b)に示される例では、切断ユニット160を駆動する度に、例えば、直径15mm程度のゴブGが形成されるように、溶融ガラス材料Lの時間当たりの流出量や切断ユニット160の駆動間隔が調整される。
なお、切断ユニット160を用いて溶融ガラス材料Lを切断する場合、切断ユニット160と接触する部分において溶融ガラス材料Lが急冷される。これにより、ゴブGの上部には切断痕Tが形成される。
【0035】
ゴブGのうち少なくとも切断痕Tを含む一部がはみ出すタイミングで、第1駆動部123と第2駆動部124が駆動される。これにより、図4(c)に示されるように、第1の型121と第2の型122の間にゴブGのうち切断痕Tを含まない部分が捕獲(キャッチ)され、切断痕Tがプレスユニット120からはみ出した状態となる。
【0036】
次に、図4(d)に示されるように、除去部165が、プレスユニット120からはみ出したガラス素材を除去する。なお、プレスユニット120からはみ出したガラス素材を除去できるものであれば、除去部165は特に限定されるものではない。
【0037】
なお、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間隔を一定に維持するために、第2の型122の内周面122aには、突起状のスペーサ122bが設けられる。第2の型のスペーサ122bが第1の型121の内周面121aに当接することによって、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間隔は一定に維持されて、板状の空間が作られる。
【0038】
第1の型121及び第2の型122には、図示しない温度調節機構が設けられていることが好ましい。第1の型121及び第2の型122の温度は、温度調節機構により、溶融ガラスLの歪点以下の温度に調整される。
【0039】
ゴブGが第1の型121の内周面121a又は第2の型122の内周面122aに接触してから、第1の型121と第2の型122とがゴブGのうち切断痕Tを含まない部分を完全に閉じ込める状態になるまでの時間は約0.06秒と極めて短い。このため、ゴブGのうち切断痕Tを含まない部分は極めて短時間の内に第1の型121の内周面121a及び第2の型122の内周面122aに沿って広がり略円形状に成形され、さらに、急激に冷却されて非晶質のガラスとして固化する。これによって、板状ガラス素材Gが作製される。
なお、本実施形態において成形される板状ガラス素材Gは、例えば、直径75〜80mm、厚さ約1mmの円形状の板である。
【0040】
第1の型121と第2の型122が閉じられた後、プレスユニット120は速やかに退避位置に移動する。続いて、他のプレスユニット130がキャッチ位置に移動し、このプレスユニット130によって、ゴブGのプレスが行われる。
【0041】
プレスユニット120が退避位置に移動した後、板状ガラス素材Gが十分に冷却されるまで(例えば、屈服点よりも低い温度となるまで)、第1の型121と第2の型122は閉じた状態を維特する。この後、第1駆動部123及び第2駆動部124が駆動されて第1の型121と第2の型122が離間し、板状ガラス素材Gは、プレスユニット120を離れて落下し、下部にあるコンベア171に受け止められる(図3参照)。
【0042】
本実施形態では、0.1秒以内(約0.06秒)という極めて短時間の問に第1の型121と第2の型122が閉じられ、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの全体に、略同時に溶融ガラスが接触することになる。このため、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aが局所的に加熱されることが抑制され、内周面121aと内周面122aに歪みは殆ど生じない。
【0043】
また、ゴブGから第1の型121及び第2の型122に熱が移動する前に、ゴブGが円形状に成形されるため、成形される板状ガラス素材Gの温度分布は略一様となる。このため、溶融ガラスの冷却時、ガラス材料の収縮量の分布は小さく、板状ガラス素材Gの歪みが発生しにくい。したがって、作製された板状ガラス素材Gの主表面の平坦度は、従来のプレス成形により作製される板状ガラス素材に比べて向上し、磁気ディスク用ガラス基板として必要な主表面の目標平坦度にすることができる。
【0044】
また、内周面121a及び内周面122aの表面の粗さは、板状ガラス素材Gの算術平均粗さRaが0.01μm〜10μmとなるように、好ましくは、0.01μm〜1μmとなるように、調整することができる。
【0045】
プレスユニットが切断痕Tを含むゴブGをプレスする場合、切断痕Tに起因するシアマークが板状ガラス素材に形成される。シアマークがガラス基板に形成されていると、磁気データの読み書きに支障を来たす可能性がある。そのため、後述する研削工程や研磨工程において、シアマークを確実に除去する必要がある。
【0046】
これに対し、本実施形態では、ゴブGのうち少なくとも上部に形成される切断痕Tを含む部分がはみ出すタイミングで、第1の型121と第2の型122とがゴブGのうち上部に形成される切断痕Tを含まない部分を挟み込む。そのため、プレスユニット120によって作製される板状ガラス素材Gに上部に形成される切断痕Tに由来するシアマークが形成されることがない。板状ガラス素材Gにシアマークが形成されない場合、後述する研削工程や研磨工程における取り代を小さくすることができる。このことは、生産効率の向上に寄与するのみならず、研削工程や研磨工程によるクラックの発生を抑制する効果もある。
【0047】
(b)スクライブ工程
次に、スクライブ工程(ステップS20)について説明する。プレス成形工程の後、スクライブ工程では、成形された板状ガラス素材Gに対してスクライブが行われる。
ここでスクライブとは、成形された板状ガラス素材Gを所定のサイズのリング形状とするために、板状ガラス素材Gの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなるスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされた板状ガラス素材Gは、部分的に加熱され、板状ガラス素材Gの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、リング形状の板状ガラス素材となる。
なお、板状ガラス素材をスクライブを必要としない程度の外径、真円度とし、このような板状ガラス素材に対してコアドリル等を用いて円孔を形成することによりリング形状とすることもできる。
【0048】
(c)形状加工工程(チャンファリング工程)
次に、形状加工工程(ステップS30)について説明する。形状加工工程では、スクライブされた板状ガラス素材Gの形状加工が行われる。形状加工は、チャンファリング(外周端部および内周端部の面取り)を含む。
リング形状の板状ガラス素材Gの外周端部および内周端部に、ダイヤモンド砥石により
面取りが施される。
【0049】
(d)固定砥粒による研削工程
次に、固定砥粒による研削工程(ステップS40)について説明する。固定砥粒による研削工程では、リング形状の板状ガラス素材Gに対して、固定砥粒による研削が施される。固定砥粒による研削による取り代は、例えば、数μm〜100μm程度である。固定砥粒の粒子サイズは、例えば10μm程度である。
【0050】
ここで、図5及び図6を参照して、板状ガラス素材Gを研削する工程について説明する。図5(a)は、固定砥粒による研削に用いる装置の全体図である。図5(b)は、この装置に用いられるキャリヤを示す図である。図6は、板状ガラス素材Gの研削中の状態を説明する図である。
図5(a)及び図6に示されるように、装置400は、下定盤402と、上定盤404と、インターナルギヤ406と、キャリヤ408と、ダイヤモンドシート410と、太陽ギヤ412と、インターナルギヤ414と、容器416と、ポンプ420と、を有する。また、容器416は、クーラント418を有する。
【0051】
装置400は、下定盤402と上定盤404との間に、インターナルギヤ406を上下方向から挟む。インターナルギヤ406内には、研削時に複数のキャリヤ408が保持される。図5(b)に示される例では、インターナルギヤ406は5つのキャリヤ408を保持する。
下定盤402および上定磐404に平面的に接着したダイヤモンドシート410の面が研削面となる。すなわち、板状ガラス素材Gは、ダイヤモンドシート410を用いた固定砥粒による研削が行われる。
【0052】
研削すべき複数の板状ガラス素材Gは、図5(b)に示されるように、各キャリヤ408に設けられた円形状の孔に配置されて保持される。板状ガラス素材Gの一対の主表面は、研削時、下定盤402および上定盤404に挟まれてダイヤモンドシート410に当接する。
一方、板状ガラス素材Gは、下定盤402の上で、外周にギヤ409を有するキャリヤ408に保持される。このキャリヤ408は、下定盤402に設けられた太陽ギヤ412、インターナルギヤ414と噛合する。太陽ギヤ412を矢印方向に回転させることにより、各キャリヤ408はそれぞれの矢印方向に遊星歯車として自転しながら公転する。これにより、板状ガラス素材Gは、ダイヤモンドシート410を用いて研削が行われる。
【0053】
図5(a)に示されるように、装置400は、容器416内のクーラント418をポンプ420によって上定盤404内に供給し、下定盤402からクーラント418を回収し、容器416に戻すことにより、循環させる。このとき、クーラント418は、研削中に生じる切子を、研削面から除去する。具体的には、装置400は、クーラント418を循環させる際に、下定盤402内に設けられたフィルタ422で濾過し、そのフィルタ422に切子を滞留させる。
【0054】
研削装置400では、ダイヤモンドシート410を用いて研削を行うが、ダイヤモンドシート410の代わりに、ダイヤモンド粒子を設けた固定砥粒を用いることができる。例えば、複数のダイヤモンド粒子を樹脂で結合することによりペレット状にしたものを固定砥粒による研削に用いることができる。
【0055】
(e)端面研磨工程
次に、端面研磨工程(ステップS50)について説明する。固定砥粒による研削後、端面研磨工程では、板状ガラス素材Gの端面研磨が行われる。
端面研磨では、板状ガラス素材Gの内周側端面及び外周側単面にブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、板状ガラス素材Gの端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0056】
(f)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、第1研磨工程(ステップS60)について説明する。端面研磨工程の後、第1研磨工程では、板状ガラス素材Gの主表面に第1研磨が施される。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。
第1研磨は、固定砥粒による研削により主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的とする。第1研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)で用いた装置400を用いる。固定砥粒による研削と異なり、第1研磨工程では、固定砥粒の代わりにスラリーに混濁した遊離砥粒を用いる。また、第1研磨工程では、クーラントは用いない。また、第1研磨工程では、ダイヤモンドシート410の代わりに樹脂ポリッシャが用いられる。
第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させた酸化セリウム等の微粒子(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。
【0057】
(g)化学強化工程
次に、化学強化工程(ステップS70)について説明する。第1研磨工程の後、化学強化工程では、第1研磨後の板状ガラス素材Gが化学強化される。
化学強化液として、例えば、硝酸カリウム(60%)と硫酸ナトリウム(40%)の混合液等を用いられる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄した板状ガラス素材Gが、例えば200℃〜300℃に予熱された後、板状ガラス素材Gが化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬される。この浸漬の際には、板状ガラス素材Gの両主表面全体が化学強化されるように、複数の板状ガラス素材Gが端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
【0058】
このように、板状ガラス素材Gを化学強化液に浸漬することによって、板状ガラス素材Gの表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、板状ガラス素材Gが強化される。
なお、化学強化処理された板状ガラス素材Gは洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水、IPA(イソプロピルアルコール)等で洗浄される。
【0059】
(h)第2研磨(最終研磨)工程
次に、第2研磨工程(ステップS80)について説明する。第2研磨工程では、化学強化されて十分に洗浄された板状ガラス素材Gに第2研磨が施される。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。
第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)および第1研磨(ステップS60)で用いた装置400を用いる。第2研磨では、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが第1研磨と異なる。また、第2研磨では、樹脂ポリッシャの硬度が第1研磨とは異なる。
【0060】
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径0.1μm程度)が用いられる。
こうして、研磨された板状ガラス素材Gは、洗浄される。洗浄では、中性洗剤、純水、IPAが用いられる。
第2研磨により、主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.2nm以下
の表面凹凸を有する、磁気ディスク用ガラス基板2が得られる。
この後、磁気ディスク用ガラス基板2に、図1に示されるように、磁性層層3A,3Bが成膜されて、磁気ディスク1が作製される。
【0061】
以上が、図2に示されるフローの説明である。図2に示されるフローでは、スクライブ(ステップS20)及び形状加工(ステップS30)は、固定砥粒による研削(ステップS40)と第1研磨(ステップS60)の間に行われる。また、化学強化(ステップS70)は、第1研磨(ステップS60)と第2研磨(ステップS80)との間に行われる。
しかし、これらの工程の順番は、特に限定されるものではない。固定砥粒による研削(ステップS40)の後、第1研磨(ステップS60)、その後第2研磨(ステップS80)が行われる限り、スクライブ(ステップS20)、形状加工(ステップS30)および化学強化(ステップS70)の各工程は、適宜配置することができる。
【0062】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、プレス成形工程が上述した第1の実施形態と異なる。その他の工程は上述した第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。第1の実施形態と異なり、本実施形態の装置101は、切断ユニット160と、除去部165を備えていない。また、本実施形態では、プレスユニットの形状及び動作が上述した第1の実施形態とは異なる。
【0063】
まず、図7を参照して、本実施形態のプレスユニット220について説明する。図7(a)は、本実施形態のプレスユニット220が備える第1の型221の平面図である。図7(b)は、本実施形態のプレスユニット220の側面図である。
図7(a)に示されるように、本実施形態の第1の型221は、略円形状の弧の一部を直線状に切り取った形状である。弧の一部を直線状に切り取られた直線部Lが鉛直上方に位置するように、第1の型221は配置される。なお、図7(a)には示されていないが、第2の型222の平面図も第1の型221と同様である。
【0064】
図7(b)に示されるように、第1の型221と第2の型222は、開状態ではゴブをプレス成形するための面の法線方向が水平方向に対して傾斜した状態で対向するように配置されている。また、閉状態において第1の型221の内周面221aと第2の型222の内周面222aの間隔を一定に維持し、プレスユニット220内に板状の空間を形成するように、第2の型222の内周面222aには、突起状のスペーサ222bが設けられている。
【0065】
次に、図8に示される側面図を参照して、本実施形態のプレス成形工程について説明する。図8(a)は、溶融ガラス材料Lとプレスユニット220とが接触する前の側面図である。図8(b)は、プレスユニット220が溶融ガラス材料Lを切り出した後の側面図である。図8(c)は、プレスユニット220が溶融ガラスの塊Gをプレス成形している状態の側面図である。
【0066】
図8(a)に示されるように、溶融ガラス材料Lは、溶融ガラス流出口111から連続的に流出される。このとき、第1の型221と第2の型222は、それぞれ、図8(a)に矢印で示されるように、水平方向に移動する。第1の型221の上部に配置された直線部Lと、第2の型222の上部に配置された直線部Lとが互いに接触することにより、図8(b)に示されるように、溶融ガラス材料Lが切断される。また、溶融ガラス材料Lが切断されることにより、ゴブGが形成される。この際、切断痕Tは各直線部Lの近傍に位置している。
【0067】
各直線部Lが接触した状態を保ったまま、第1の型221と第2の型222は、ぞれぞれ、図8(b)に矢印で示されるように、第1の型221と第2の型222とが閉じるように移動する。これにより、図8(c)に示されるように、第1の型221と第2の型222の間にゴブGが捕獲(キャッチ)され、板状ガラス素材Gが作製される。
【0068】
本実施形態によれば、各直線部Lが接触することにより形成されたゴブGの切断痕Tが各直線部Lの近傍に位置しているタイミングで、ゴブGがプレス成形される。そのため、切断痕Tに起因するシアマークは、板状ガラス素材Gの外周付近に形成される。
板状ガラス素材Gの外周付近に形成されたシアマークは、スクライブ工程やチャンファリング工程において除去される。その結果、研削工程や研磨工程における取り代を小さくすることができ、研削工程や研磨工程においてクラックが発生するのを抑制することができる。
また、各直線部Lが接触してから第1の型221と第2の型222とが閉じるまでの時間を短くすることにより、切断痕Tに起因するシアマークを、より確実に板状ガラス素材Gの外周付近に形成することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例、比較例を用いて、本発明の効果を確認するためのシミュレーション及び実験の結果について説明する。
【0070】
(実施例1−3、比較例1)
図4を参照して説明した第1の実施形態のプレス成形工程により、板状ガラス素材Gを作製した。実施例1−3、比較例1は、図4(c)に示されるように、第1の型121と第2の型122の間にゴブGが捕獲された状態において、プレスユニット120からはみ出す部分の長さがそれぞれ異なる。プレスユニット120からはみ出す部分の長さは、超高速度カメラによる撮影により測定される。実施例1−3においてプレスユニット120からはみ出す部分の長さは、下記表1に示される通りである。
なお、比較例1は、切断痕Tがプレスユニット120からはみ出すことなく、第1の型121と第2の型122の間に5mm入り込んだ状態でプレスされる。
【0071】
また、実施例1−3、比較例1において作製された板状ガラス素材Gを目視及び顕微鏡にて観察することにより、ゴブGのうち上部に形成される切断痕Tに由来するシアマークの有無、及び、ゴブGのうち下部に形成される切断痕に由来するシアマークの有無を調べた。更に、シアマークが形成されている場合、目視及び顕微鏡にてシアマークの位置を特定し、シアマークの位置において板状ガラス素材Gを割ってシアマークの最大深さを測定した。
ゴブGのうち上部に形成される切断痕Tに由来するシアマークの有無、ゴブGのうち下部に形成される切断痕に由来するシアマークの有無、及び、シアマークの最大深さの測定結果は、表1に示される通りである。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示されるように、ゴブGのうち上部に形成される切断痕Tがはみ出すタイミングでプレス成形を行うことにより、切断痕Tに由来するシアマークが板状ガラス素材Gに形成されないことが確認された。
なお、実施例1−3において、ゴブGのうち下部に形成される切断痕に由来するシアマークは確認されたが、このシアマークの最大深さはいずれも2μm以下であった。最大深さが2μm以下のシアマークは、研磨工程によって十分に除去することができるため、特に大きな問題とはならない。
【0074】
(実施例4−6)
図8を参照して説明した第2の実施形態のプレス成形工程により、板状ガラス素材Gを作製した。実施例4−6は、図8(a)に示される状態において、第1の型221と第2の型222との成す角(初期角度)がそれぞれ異なる。実施例4−6において、第1の型22と第2の型222との成す角は、下記表2に示される通りである。
【0075】
また、実施例4−6において作製された板状ガラス素材Gを目視及び顕微鏡にて観察することにより、ゴブGのうち上部に形成される切断痕Tに由来するシアマークの有無、及び、ゴブGのうち下部に形成される切断痕に由来するシアマークの有無を調べた。更に、シアマークが形成されている場合、目視及び顕微鏡にてシアマークの位置を特定し、シアマークの位置において板状ガラス素材Gを割ってシアマークの最大深さを測定した。
ゴブGのうち上部に形成される切断痕Tに由来するシアマークの有無、ゴブGのうち下部に形成される切断痕に由来するシアマークの有無、及び、シアマークの最大深さの測定結果は、表2に示される通りである。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示されるように、実施例4−6によれば、切断痕Tに由来するシアマークが板状ガラス素材Gに形成されないことが確認された。
【0078】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではない。また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0079】
1 磁気ディスク
2 ガラス基板
3A,3B 磁性層
4A,4B 磁気ヘッド
5 外周エッジ部
101 装置
111 溶融ガラス流出口
112 ガラス把持機構
120、130、140,150、220 プレスユニット
121 第1の型
121a、122a 内周面
122 第2の型
122b スペーサ
123 第1駆動部
124 第2駆動部
160 切断ユニット
161 第1切断刃
162 第2切断刃
165 除去部
171 第1コンベア
172 第2コンベア
173 第3コンベア
174 第4コンベア
180 ゴブ形成型
180c 凹部
181,182 ブロック
221 第1の型
221a,222a 内周面
222 第2の型
222b スペーサ
402 下定盤
404 上定盤
406 インターナルギヤ
408 キャリヤ
409 ギヤ
410 ダイヤモンドシート
412 太陽ギヤ
414 インターナルギヤ
416 容器
418 クーラント
420 ポンプ
422 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
溶融したガラスを切断してなるガラスの塊を鉛直方向下向きに落下させる落下工程と、
互いに対向する一対の型から前記塊の少なくとも切断痕がはみ出すタイミングで、前記塊の落下経路の両側から、前記一対の型の面が前記塊を同じタイミングで挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形するプレス工程と、
前記一対の型からはみ出したガラス素材を除去する除去工程と、
を有することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
溶融したガラスを鉛直方向下向きに供給する供給工程と、
互いに対向する一対の型の上部が接触するように前記一対の型を移動させることにより、前記溶融したガラスを切断し、溶融したガラスの塊を形成する切断工程と、
前記一対の型の上部を接触させた状態で、前記一対の型の面が前記塊を挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形するプレス工程と、
を有することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記板状ガラス素材を加工する加工工程を含み、
前記加工工程は、
固定砥粒を用いて前記主表面を研削する研削工程と、
前記研削工程の後に、遊離砥粒を用いて前記主表面を研磨する研磨工程と、を有し、
前記研削工程と前記研磨工程を合わせた取りしろは4μm以上100μm以下である、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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