説明

磁気ディスク装置および磁気記録に用いるスライダ

【課題】パターンドディスクに対する記録のタイミングを決めるための時間計算の誤差を低減し、記録の信頼性を高める。
【課題を解決するための手段】
記録媒体としてパターンドディスクを用いる磁気ディスク装置において、多数のビットパターンが配列された磁気記録面に対して相対的に移動するスライダに、磁気記録面から磁気情報を読み取るための2個のリードヘッドを媒体走行方向に沿うように並べて配置するとともに、磁気データを記録するためのライトヘッドを2個のリードヘッドの間にビットパターンに配置する。ライトヘッドは、磁気記録面内の同一位置の磁気情報を2個のリードヘッドのうち媒体走行方向の上流側のリードヘッドが読み取ってから下流側のリードヘッドが読み取るまでの時間に基づくタイミングで駆動回路によって駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパターンドディスクを備える磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)と呼ばれる磁気ディスク装置に組み付ける記憶媒体として、パターンドディスクが注目されている。ここでいうパターンドディスクは、データ記録領域が構造的にパターン化された媒体であって、記録トラックがビットごとに独立した磁性パターンからなるビットパターンド型である。ビットパターンド型は、記録情報が変化しにくいので、磁気記録密度のいっそうの向上を実現するのに有用である。
【0003】
しかし、ビットパターンド型パターンドディスクにデータを記録するには、記録のためのライトヘッドの駆動とディスクの回転によるビットパターンの相対移動とを厳密に同期させる必要がある。すなわち、離散的に並ぶビットパターンの記録すべきビットパターンにライトヘッドが対向したときに記録磁界を発生させなければならない。この同期に関して、ライトヘッドおよびデータの読み取りのためのリードヘッドを備えるスライダに磁気パターンを検出するセンサを付加し、センサの出力に基づいて記録のタイミングを制御する技術がある(特許文献1)。
【0004】
図9は従来の記録タイミング制御のためのヘッドの配置を示す。図示しないスライダに支持されて、ライトヘッドW、リードヘッドRおよび磁気パターンセンサPSがパターンドディスク3と対向する。パターンドディスク3は矢印M2で示される媒体走行方向(トレーリング方向)に移動する。ライトヘッドWに対する媒体走行方向の上流側(リーディング側)にリードヘッドRが位置し、さらにその上流側に磁気パターンセンサPSが位置する。ここで、薄膜技術により作製されるライトヘッドW、リードヘッドRおよび磁気パターンセンサPSの相互間の距離は既知である。
【0005】
パターンドディスク3のあるビットパターンにライトヘッドWによってデータを記録するとき、当該ビットパターンを磁気パターンセンサPSによって検出し、検出時点から所定時間が経過した時点でライトヘッドWからデータを出力すればよい。所定時間とは、当該ビットパターンが磁気パターンセンサPSと対向する位置からライトヘッドWと対向する位置まで移動するのに要する時間である。この時間は計算によって求められる。
【0006】
求めるべき値は記録トラック上のある点に磁気パターンセンサPSが対向してからライトヘッドWが対向するまでの時間Tyであり、測定可能な時間Txは記録トラック上のある点に磁気パターンセンサPSが対向してからリードヘッドRが対向するまでの時間である。ただし、この時間Txの測定時および測定結果に基づいてライトヘッドWによってデータを記録する期間中はパターンドディスク3の回転速度Sが一定とする。
【0007】
磁気パターンセンサPSとリードヘッドRとの距離をX、磁気パターンセンサPSとライトヘッドWとの距離をY、リードヘッドRとライトヘッドWとの距離をDとし、距離Xと距離Yとの比(Y/X)を既知とすると、時間Tyは次の式で表される。
Ty=Tx×(Y/X)
【特許文献1】米国特許公報US6,754,017B2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビットパターンド型パターンドディスクに対する記録のタイミング制御の精度を高めるには、ヘッドの熱膨張を考慮する必要がある。ライトヘッドWおよびその近傍の温度は通電に伴う発熱によって変化する。すなわち、上述の距離D,XおよびYは厳密には一定ではない。通常は磁気パターンセンサPSとライトヘッドWの間とライトヘッドWとリードヘッドRの間とで熱膨張率が異なるので、距離Xと距離Yとの比(Y/X)も一定ではない。
【0009】
距離Xに係る時間Txの測定時において、熱膨張によって距離XがαXに、距離DがβDになっていたとする。この場合に測定される時間TxはαX/Sであるので、上記の式を適用して計算される時間Ty’は、
Ty’=Tx×(Y/X)
=(αX/S)×(Y/X)=αY/Sである。
【0010】
しかし、本来計算されるべき時間TyはTy=(αX+βD)/Sである。
【0011】
したがって、計算結果に含まれる誤差ΔTy=Ty’−Tyは、
ΔTy=αY/S−(αX+βD)/S
=[α(X+D)−(αX+βD)]/S
=(α−β)D/Sとなる。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされ、ビットパターンド型パターンドディスクに対する記録のタイミングを決めるための時間計算の誤差を低減し、記録の信頼性を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する磁気ディスク装置は、記録媒体を回転させて磁気データの記録と再生を行う磁気ディスク装置であって、多数のビットパターンが同心円に沿って配列された磁気記録面をもつ前記記録媒体としてのパターンドディスクと、前記磁気記録面に近接配置されて前記磁気記録面に対して相対的に移動するスライダと、前記スライダの端面に媒体走行方向に沿うように並べられた、前記磁気記録面から磁気情報を読み取るための2個のリードヘッドと、前記2個のリードヘッドの間に配置された、前記ビットパターンに磁気データを記録するためのライトヘッドと、前記磁気記録面内の同一位置の磁気情報を前記2個のリードヘッドのうち媒体走行方向における上流側のリードヘッドが読み取ってから下流側のリードヘッドが読み取るまでの時間に基づくタイミングで前記ライトヘッドを駆動する駆動回路とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パターンドディスクへの記録におけるタイミング制御に対するヘッドの熱膨張の影響を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
高密度記録に適する垂直磁気記録形式のパターンドディスクを備えた磁気ディスク装置を例示する。ただし、垂直磁気記録に限定されず、長手磁気記録(面内磁気記録)を行う磁気ディスク装置において本発明を適用することができる。
【0016】
本発明の実施形態に係る磁気ディスク装置は、1個のライトヘッドと2個のリードヘッドとを備える。図1に模式的に示されるように、ライトヘッドWおよび2個のリードヘッドR1,R2は、矢印M2で示される媒体走行方向に相対的に移動するパターンドディスク2の磁気記録面200と対向する。パターンドディスク2は、ガラス、金属または樹脂からなる基板20上に積層された軟磁性裏打ち層21および磁気記録層22を有する。磁気記録層22は、ビットパターン25に対応した磁性体からなる部分とビットパターン25を分離する非磁性体からなる部分とを有する。回転する磁気記録面200内のビットパターン25のそれぞれには、まず媒体走行方向M2の上流側であるリーディング側のリードヘッドR1が対向し、次にライトヘッドWが対向し、最後に媒体走行方向M2の下流側であるトレーリング側のリードヘッドR2が対向する。「リーディング側の」という用語は、注目する物体の位置が比較対象である他の物体の位置に対して、これら3個のヘッドがスライダに一体に支持されて記録トラックに沿って相対的に移動するときのスライダの前縁(滑空面の空気流入端)に比較的に近いことを意味する。「トレーリング側の」という用語は、「リーディング側の」とは逆に、注目する物体の位置が他の物体の位置に対してスライダの前縁から比較的に遠いことを意味する。なお、図1において、リーディング側は左側であり、トレーリング側は右側である。
【0017】
注目すべき特徴は、ライトヘッドWが2個のリードヘッドR1,R2の間に位置するという3個のヘッドの配置の順序である。この順序で計3個のヘッドが配置されることによって次のように記録タイミング制御の誤差が低減される。
【0018】
パターンドディスク2のビットパターン25にライトヘッドWによってデータを記録するとき、ビットパターン25をリードヘッドR1によって検出し、検出時点から所定時間が経過した時点でライトヘッドWからデータを出力すればよい。所定時間とは、データを記録すべきビットパターン25がリードヘッドR1と対向する位置からライトヘッドWと対向する位置まで移動するのに要する時間である。この時間は計算によって求められる。
【0019】
求めるべき値は磁気記録面200内のある点にリーディング側のリードヘッドR1が対向してからライトヘッドWが対向するまでの時間Teであり、測定可能な時間Tgは磁気記録面200内のある点にリーディング側のリードヘッドR1が対向してからトレーリング側のリードヘッドR2が対向するまでの時間である。なお、この時間Tgの測定時および測定結果を反映したタイミングで記録のためにライトヘッドWを駆動する期間はパターンドディスク2の回転速度Sが一定とする。時間Tgの測定では、微小なビットパターン25を検出する代わりに、より確実に検出することができるディスク径方向に長いサーボ制御用のパターンを検出するのが望ましい。
【0020】
常温でのリーディング側のリードヘッドR1とトレーリング側のリードヘッドR2との距離をG、リーディング側のR1とライトヘッドWとの距離をE、ライトヘッドWとトレーリング側のR2との距離をFとし、常温での距離Gと距離Eとの比(E/G)を既知とすると、時間Teは次のように表される。
Te=Tg×(E/G)
=(G/S)×(E/G)
=E/S
ここで、時間Tgの測定時において熱膨張によって距離EがaEに、距離FがbFになっていたとする。この場合に測定される時間Tgは(aE+bF)/Sであるので、
計算される時間Te’は、
Te’=[(aE+bF)/S}×(E/G)
=(aE+aF−aF+bF)×(E/G)/S
={a(E+F)−(a−b)F}×(E/G)/S
={aG−(a−b)F}×(E/G)/S
={aE−(a−b)F×(E/G)}/S
と表される。
【0021】
しかし、本来計算されるべき時間TeはTe=aE/Sであるので、計算結果に含まれる誤差ΔTeは、
ΔTe=Te’−Te
={aE−(a−b)F×(E/G)}/S−aE/S
=−(a−b)×(E/G)×F/S
となる。
【0022】
0<E/G<1であるので、2個のリードヘッドR1,R2のそれぞれとライトヘッドWと間で熱膨張率が異なっていたとしても、誤差ΔTEの絶対値は熱膨張率の差(a−b)と距離Fと速度Sとの積よりも小さい。各ヘッドを構成する積層体の構造が従来のものと類似しているとすれば、熱膨張率の差(a−b)は図9に示した従来の構成でのヘッド間の熱膨張率の差(α−β)と大きくは変わらない。本実施形態に係る熱膨張率の差(a−b)と従来例に係る熱膨張率の差(α−β)とがほぼ等しいとみなし、距離Fが従来構成の距離Dと実質的に等しいとすると、本実施形態に係る誤差ΔTeは、従来の構成に係る誤差ΔTy=(α−β)D/Sよりも小さい。すなわち、誤差ΔTeは誤差ΔTyの(E/G)倍であって、誤差ΔTyよりも小さい。距離Eと距離Fとを同一または近い値に選定すれば、誤差ΔTeは誤差ΔTyのほぼ1/2である。本実施形態に係る熱膨張率の差(a−b)と従来例に係る熱膨張率の差(α−β)とが異なっていても、距離の比(E/G)の選定によって誤差ΔTeを従来の構成に係る誤差ΔTyよりも小さくすることができる。
【0023】
加えて、本実施形態のヘッド配置では、誤差ΔTeが実質的に零になる場合が多い。主たる熱源となるライトヘッドWの両側にリードヘッドR1,R2が配置されているので、片側に配置される場合とは違って、ライトヘッドWとリードヘッドR1との間の温度分布がライトヘッドWとリードヘッドR2との間の温度分布に近いものになる。距離Eに係る熱膨張率aと距離Fに係る熱膨張率bとが実質的に等しい場合には、誤差ΔTeは実質的に零である。誤差ΔTeを零にする上で、リードヘッドR1とリードヘッドR2との中間位置にライトヘッドWを配置するのが好ましく、さらにリードヘッドR1,R2をライトヘッドWに対して対称に形成するのが好ましい。
【0024】
リードヘッドR1、R2およびライトヘッドWは公知の薄膜技術を用いて作製され、図2のようにスライダ5における空気流出端側(トレーリング側)の端面に固着する積層体50に含まれる。ヘッドジンバルアセンブリ7に支持されるスライダ5は、積層体50が形成されたウエハを分割して加工したものである。
【0025】
図3は本発明の実施形態に係る磁気ディスク装置の構成を示す。
【0026】
磁気ディスク装置1は、単数または複数のパターンドディスク2を記憶媒体として備えるストレージであり、周知のハードディスクドライブと同様にパターンドディスク2とスライダ5に支持されたヘッドとを相対移動させてビットデータ列の記録/再生を行う。パターンドディスク2を回転させるスピンドルモータ(SPM)6およびスライダ5をディスク径方向に移動させるボイスコイルモータ(VCM)8はドライブコントローラ9によって制御される。スライダ5上のライトヘッドにはヘッドアンプを含む書込み読出し回路(以下、W/R回路という)10から書込み信号が与えられ、上述した2個のリードヘッドからの読出し信号もW/R回路10へ送られる。W/R回路10は、デジタル信号プロセッサ(DSP)12から与えられる書込みデータに基づいてパターンドディスク2に記録する符合化データを生成するエンコードを行う。また、W/R回路10は、パターンドディスク2から読み出された信号をデコードしてDSP12へ引き渡す信号処理を受け持つ。DSP12はインタフェース17を介して外部装置であるホストとデータの送受を行うとともに、ドライブコントローラ9にパターンドディスク2に対するアクセスの位置を通知する。インタフェース18はデータ送受のタイミング調整のためのバッファを有している。
【0027】
また、磁気ディスク装置1は、DSP12によって実行されるプログラムを記憶するROM14、およびプログラム実行のワークエリアとなるRAM16を有している。ROM14は上述の3個のヘッドに係る距離Gと距離Eとの比(E/G)を示すデータHP1を予め記憶している。データHP1は起動直後にRAM16に転送され、その後の記録に際してDSP12が行う時間Teの計算に用いられる。なお、データHP1をパターンドディスク2に予め記録しておいてもよい。
【0028】
時間Teを求めるための時間Tgの測定では、図4のようにパターンドディスク2に設けられたサーボ領域32内の磁気パターンが2個のリードヘッドR1,R2によって検出される。図4において、パターンドディスク2における円環状のディスク面は、たとえば1周を所定角度ずつ分割する形で周方向に沿って複数のユーザデータ領域31と複数のサーボ領域32とに区画されている。ユーザデータ領域31およびサーボ領域32は周方向に交互に並ぶ。ユーザデータ領域31には同心円に沿うように径方向に一定のピッチで記録トラック23が定められ、サーボ領域32にはサーボ制御のための磁気パターンであるサーボパターンが設けられている。図示の領域設定は角速度一定(CAV)で回転する状態でのアクセスおよび回動式アームによるシーク動作に適合するものである。このため、ユーザデータ領域31およびサーボ領域32はディスク面の外周に近づくほど拡がり、アーム先端の移動経路に沿うよう湾曲した形状をもつ。
【0029】
図5は図4中の破線で囲まれた部分AAの拡大図であり、ユーザデータ領域31およびサーボ領域32の構成を模式的に示す。
【0030】
ユーザデータ領域31は、データをビット単位で記録するための領域である多数のビットパターン25(図中の黒い部分)とビットパターン25を磁気的に孤立させる分離領域26(図中の白い部分)とを有する。図ではビットパターン25の一部に符号を付してあるが、図中の黒丸は全てビットパターン25を表わす。周方向(図の左右方向)および径方向(図の上下方向)に並ぶビットパターン25のうち、周方向に沿う1列のビットパターン25が1つの記録トラック23に対応する(図6参照)。例示のビットパターン26は円形であり、その直径は10nm程度である。各記録トラック23におけるビットパターン26の配列ピッチは15〜20nm程度であり、記録トラック23の配列ピッチも15〜20nm程度である。
【0031】
サーボ領域32はサーボパターン27を有する。サーボパターン27は磁性部分28(図中の黒い部分)と非磁性部分29(図中の白い部分)の配列パターンである。磁性部28はビットパターン25と同じ層構成をもち、非磁性部29は分離領域26と同じ層構成をもつ。サーボパターン27には、サーボ領域32内のプリアンブル部32pに形成されたプリアンブルパターン、トラッキングのためのバーストパターンおよびアドレス情報を表わすグレイコードパターンを含む。プリアンブルパターンはリードヘッドR1,R2がオフトラック状態であっても検出可能なように、ディスク径方向に沿って磁気記録面の内端から外端まで連続した長い帯状に形成されている。
【0032】
図7は磁気ディスク装置1における記録動作の概要を示すフローチャートである。
【0033】
ホストからのアクセス命令を受けると、DSP12はドライブコントローラ9にアクセス開始トラックおよびセクタの番号を通知し、ドライブコントローラ9はアクセスすべき記録トラック23にオントラックするようシーク制御を行う(#01、#02)。DSP12は、リーディング側のリードヘッドR1の出力に基づいてサーボ領域31内のプリアンブルパターンを検出し、検出時点を記憶する(#03)。ここでの「記憶する」という動作はタイマのスタートであってもよい。続いて、DSP12は、トレーリング側のリードヘッドR2の出力に基づいてプリアンブルパターンを検出し、検出時点を記憶する(#04)。ここでの「記憶する」という動作は計時中のタイマのストップであってもよい。リードヘッドR1,R2の両方によってプリアンブルパターンが検出された後、ドライブコントローラ9はトラッキングを始める(#05)。
【0034】
トラッキングと並行して、DSP12は記憶している2つの検出時点に基づいて、プリアンブルパターンがリードヘッド間の移動に要した時間Tgを算出する。タイマによって時間Tgを計時した場合は計時結果を取り込む(#6)。続けてDSP12はRAM16から予め転送されている距離Gと距離Eとの比(E/G)を示すデータHP1を読み込み(#07)、リーディング側のリードヘッドR1からライトヘッドWまでの距離Eに対応する時間Teを計算する(#8)。計算された時間Teはタイミング補正情報としてW/R回路10へ与えられる。
【0035】
W/R回路10は、記録すべきビット列に応じてライトヘッドWを駆動する。このとき、ビットパターン25に有効に記録磁界を作用させるために、時間Teを反映させたタイミングでライトヘッドWへの通電が行われる(#09)。詳しくは、リーディング側のリードヘッドR1によって一列に並ぶビットパターン25を検出しながら、各ビットパターン25の検出時点から時間Teだけ遅れた時点でビット値に応じた方向の記録磁界を発生させる。
【0036】
このような記録動作における時間Teの計算には、データHP1が示す距離Gと距離Eとの比(E/G)の正確であることが要求される。この比の値を特定するのに必ずしも距離E,Gの値を知る必要はない。2個のヘッドを含む上記積層体50の作製における距離Gに係る各層の成膜レートおよび成膜時間と距離Eに係る各層の成膜レートおよび成膜時間とから比(E/G)を算定することができる。すなわち、リードヘッドR1、ライトヘッドWおよびリードヘッドR2を一連の薄膜プロセスで連続的に作製することにより、距離E,Gを実測せずに比(E/G)を特定することができる。積層体50の層構造の一例を図8に示す。
【0037】
図8において、スライダ5の端面5Aに固着する積層体50は、TMR型またはGMR型のリードヘッドR1、単磁極型のライトヘッドW、およびリードヘッドR1と同一構成のリードヘッドR2を有する。リードヘッドR1の上に絶縁層を介在させてライトヘッドWが積層され、ライトヘッドWの上に絶縁層を介在させてリードヘッドR2が積層されている。積層体50は、スパッタリングやめっき法による成膜、電子線リソグラフィおよびイオンミリングによる層の加工、および化学的機械的研磨法による平坦化を組み合わせて行うことによって作製される。
【0038】
リードヘッドR1は、例えばNi80Fe20のような軟磁性体からなる下部シールド52、記録トラックに対応する幅をもつリード素子53、下部シールド52と同じ材質の上部シールド54、およびこれらを磁気的に分離するアルミナ層55からなる。同様に、リードヘッドR2は、下部シールド72、リード素子73、上部シールド74、およびアルミナ層75からなる。
【0039】
ライトヘッドWは、Fe70Co30または磁性体からなる主磁極61、軟磁性体からなるリターンヨーク62、主磁極61とリターンヨーク62とを連結するリターンヨーク接続部63、およびリターンヨーク接続部63を周回するようにパターニングされた薄膜コイル64を備える。主磁極61としてFe70Co30またはNi90Al10を用いることができ、リターンヨーク62およびリターンヨーク接続部63の材料としてNi80Fe20が挙げられる。薄膜コイル64および薄膜コイル64に接続された引き出し線67は例えば銅(Cu)からなる。図示の例では主磁極61がリターンヨーク62に対するトレーリング側に配置されているが、逆に主磁極61がリターンヨーク62に対するリーディング側に位置するようにライトヘッドWの各層の積層順序を図示と反対にしてもよい。
【0040】
図8に示されるとおり、リードヘッドR1とライトヘッドWとの距離Eは、厳密には積層体50のディスク側の端面50Aにおけるリード素子53のリーディング側端縁から主磁極61のリーディング側端縁までの長さである。また、ライトヘッドWとリードヘッドR2との距離Fは、厳密には端面50Aにおける主磁極61のリーディング側端縁からリード素子73のリーディング側端縁までの長さである。
【0041】
以上の実施形態において、リードヘッドR1,R2およびライトヘッドWの層構造を含めて、磁気ディスク装置1の構成の変更は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る記録タイミング制御のためのヘッドの配置を模式的に示す図である。
【図2】スライダ上のライトヘッドおよびリードヘッドの配置を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る磁気ディスク装置の構成を示す図である。
【図4】パターンドディスクのディスク面の領域区分を示す図である。
【図5】ユーザデータ領域およびサーボ領域の構成の例を示す図である。
【図6】ビットパターンの配列を示す図である。
【図7】記録動作の概要を示すフローチャートである。
【図8】リードヘッドおよびライトヘッドの層構造の一例を示す断面図である。
【図9】従来の記録タイミング制御のためのヘッドの配置を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 磁気ディスク装置
2 パターンドディスク
200 磁気記録面
25 ビットパターン
5 スライダ
R1 リードヘッド(上流側のリードヘッド)
R2 リードヘッド(下流側のリードヘッド)
W ライトヘッド
10 W/R回路(駆動回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を回転させて磁気データの記録と再生を行う磁気ディスク装置であって、
多数のビットパターンが同心円に沿って配列された磁気記録面をもつ前記記録媒体としてのパターンドディスクと、
前記磁気記録面に近接配置されて前記磁気記録面に対して相対的に移動するスライダと、
前記スライダの端面に媒体走行方向に沿うように並べられた、前記磁気記録面から磁気情報を読み取るための2個のリードヘッドと、
前記2個のリードヘッドの間に配置された、前記ビットパターンに磁気データを記録するためのライトヘッドと、
前記磁気記録面内の同一位置の磁気情報を前記2個のリードヘッドのうち媒体走行方向における上流側のリードヘッドが読み取ってから下流側のリードヘッドが読み取るまでの時間に基づくタイミングで前記ライトヘッドを駆動する駆動回路と、を備える
ことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記上流側のリードヘッド、前記ライトヘッドおよび前記下流側のリードヘッドのそれぞれが複数の薄膜の積層体であり、
前記ライトヘッドが、前記2個のリードヘッドの間の実質的に中央に配置された
請求項1記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記上流側のリードヘッドおよび前記下流側のリードヘッドの層構造が同一である
請求項2記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
パターンドディスクが有するビットパターンへの磁気記録に用いるスライダであって、
空気流出端側の端面上に記録時の媒体走行方向に沿うように並べられた、前記パターンドディスクに記録された磁気情報を読み取るための2個のリードヘッドと、
前記2個のリードヘッドの間に配置された、前記ビットパターンに磁気データを記録するためのライトヘッドとを備える
ことを特徴とするスライダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−92571(P2010−92571A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264441(P2008−264441)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】