説明

磁気ディスク装置のヘッドスライダ

【課題】スライダに付着した潤滑剤を蒸発しやすくすることで、潤滑剤ドロップに起因する浮上不安定化を引き起こし難くした磁気ディスク装置のヘッドスライダを提供する。
【解決手段】ヘッドスライダの空気流出側端部に形成された非磁性絶縁層404の内部に、ヘッド素子408と熱発生素子410とに加えて、スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の熱伝導機構412が埋め込まれる。熱発生素子410によって生じた熱が効率的に非磁性絶縁層404全体に行き渡り、非磁性絶縁層404全体の温度が高まる。そのため、非磁性絶縁層404のいずれの場所に付着した潤滑剤も効率的に温度が上昇して蒸発し又は流動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は、磁気ディスク装置において記録再生ヘッドを搭載するスライダ(ヘッドスライダ)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の磁気ディスク装置では、その高記録密度化に伴い、記録再生ヘッド(読み書き素子、ヘッド素子、読み書きヘッド等ともいう。)と媒体との距離すなわち磁気スペーシングを低減することが強く望まれている。これを実現するため、記録再生ヘッドを搭載したスライダすなわちヘッドスライダの浮上量を低減することが求められている(例えば、下記特許文献1参照)。近年のヘッドスライダでは浮上量が10nmを切っている。かかる低浮上化に伴い、ヘッドスライダにディスクの潤滑剤が付着する可能性が高くなって来ている。
【0003】
図1は、回転するディスク上に浮上するヘッドスライダの空気流出側端部を横から見た側面図であって、潤滑剤の付着の様子を示す図である。同図において、符号102は、例えばアルミナチタンカーバイド(AlTiC)からなるスライダ本体を示す。符号104は、読み書き素子106が形成される、非磁性絶縁層からなる部分を示す。非磁性絶縁層として、例えば、アルミナ(Al23)が用いられる。符号110は、磁気ディスクを示し、図中の矢印は、ディスク110の走行方向を示す。
【0004】
ディスク110に塗布された潤滑剤が何らかの原因でスライダに付着した場合、空気流の影響などにより、スライダ上を流動する。その流動した潤滑剤は、流出端近傍の浮上面で液滴状の潤滑剤120へと成長し、さらには、流出端の端面の上で液滴状の潤滑剤122へと成長する。
【0005】
液滴状の潤滑剤が大きくなり、許容量を超えた場合、一気にスライダ上から排出されてディスク110上に塊として落下する。このような現象は、潤滑剤ドロップと呼ばれている。潤滑剤ドロップ後、スライダがディスク110上の塊状の潤滑剤液滴に接触すると、スライダの浮上が不安定となる。最悪の場合には、クラッシュが引き起こされる。また、浮上が不安定にならなくても、潤滑剤液滴の膜厚により、当該部分をスライダが浮上した際の磁気スペーシングが増加してしまい、データを読み書きすることができないといった問題が発生することがある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−293701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示技術は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スライダに付着した潤滑剤を蒸発しやすくすることで、潤滑剤ドロップに起因する浮上不安定化を引き起こし難くした磁気ディスク装置のヘッドスライダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によれば、磁気ディスク装置のヘッドスライダであって、該スライダの空気流出側端部に形成された非磁性絶縁層の内部に、ヘッド素子と、熱発生素子と、スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の熱伝導機構とを具備するヘッドスライダが提供される。
【発明の効果】
【0009】
開示のヘッドスライダにあっては、熱伝導機構が設けられたことにより、熱発生素子によって生じた熱が効率的に非磁性絶縁層全体に行き渡り、非磁性絶縁層全体の温度を高めることができる。非磁性絶縁層全体の温度が高まることにより、非磁性絶縁層のいずれの場所に付着した潤滑剤も効率的に温度が上昇し、潤滑剤が蒸発し又は流動する。その結果、スライダのヘッド素子近傍に付着した潤滑剤のみならず、スライダの両脇に付着した潤滑剤も確実に消滅させることができる。スライダに付着した潤滑剤が消滅することにより、潤滑剤液滴の落下等によるヘッドクラッシュ、ハイフライハイト等を高い確率で防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
最初に、図2を用いて、本開示によるヘッドスライダが適用される磁気ディスク装置の概略構造を説明する。磁気ディスク装置は、ヘッド素子(記録再生ヘッド、読み書き素子、読み書きヘッド等とも言う。)を搭載したヘッドスライダが回転型記録媒体上を浮上走行して読み書きする形態の記録装置の一種である。図2は、内部構造を説明するため、矢印Aで示される方向から取付けられるカバーが取り外された状態で示されている。
【0011】
図2において、磁気記録媒体(磁気ディスク)200は、クランプ202によりスピンドルモータに固定され、稼働中、スピンドルモータによって駆動されて所定の回転速度で回転し続ける。その磁気記録媒体200上をnmオーダでヘッドスライダ204が浮上走行する。ヘッドスライダ204に搭載された読み書きヘッドは、磁気記録媒体200に対し所定の間隔を有して動作する。
【0012】
スライダ204は、一定の押し付け力をスライダ204に印加するサスペンション206を介して駆動アーム208に接続されている。駆動アーム208がボイスコイルモータ210により駆動されて磁気記録媒体200上を揺動することで、所望の位置にあるデータの読み書きが実現される。なお、符号212は、ベースを示す。
【0013】
図3は、本開示技術が適用される一例としてのヘッドスライダを媒体対向面側から見た斜視図である。なお、この図は、形状の説明のため、表面における段差が強調されて描かれており、実際のヘッドスライダは、ほぼ直方体に見える。回転する磁気ディスク(磁気記録媒体)に対向して配置されるヘッドスライダは、ディスクとスライダとの間に生ずる空気流を受けてディスクに対し所望の正圧及び負圧を得るように、その媒体対向面すなわち空気軸受け面(air bearing surface)に、例えば、流入パッド302、二つのサイドレール304A及び304B、センタパッド306等を備えている。本開示技術は、このようなヘッドスライダにおいて空気が流出する側の端部を以下のように構成する。ただし、本開示技術は、上述のパッドの形態にとらわれるものではなく、上述以外の種々の形状の空気軸受け面であってよい。
【0014】
図4は、第一実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端部を媒体対向面(スライダ浮上面)側から見た平面図である。また、図5は、その第一実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端面図である。これらの図において、符号306は前述のセンタパッド、符号402はAlTiC(アルミナチタンカーバイド)部、符号404は非磁性絶縁層、符号408は読み書き素子、符号410は熱発生素子、符号412は多層構造伝熱板、符号514は接点端子、符号516は配線ライン、をそれぞれ示す。
【0015】
なお、図4に示される例では、センタパッド306と流出端との間に隙間がある。しかし、この隙間に潤滑剤が停留することがある。そのため、図8に示されるように、センタパッド800と流出端との間に隙間が存在しないようにしてもよい。なお、後述する図6及び図7に関しても同様である。
【0016】
図4に示されるように、AlTiC部402に隣接して、例えばアルミナからなる非磁性絶縁層404が設けられる。非磁性絶縁層404の内部には、読み書き素子408が形成される。読み書き素子408に隣接する熱発生素子410は、例えば、浮上量制御用熱発生機構として設けられた電熱線である。浮上量制御用熱発生機構は、通電により熱を発生してスライダを膨張させることにより、スライダのディスクに対する浮上量を低くする機能を実現する。あるいは、熱発生素子410は、読み書き素子408内にあって同様に熱を発生させる記録コイルであってもよい。
【0017】
図5に示される6個の接点端子514のうちの2個は、リード用の接点端子であり、他の2個は、ライト用の接点端子であり、更に他の2個は、熱発生素子410が浮上量制御用熱発生機構で構成される場合の接点端子である。熱発生素子410が記録コイルによって構成される場合には、接点端子514は4個設けられることとなる。ただし、接点端子の数や設置形態は上述したものに限定されず、種々の接点端子を採用することができる。
【0018】
図4及び図5に示されるように、非磁性絶縁層404の中に埋め込まれた多層構造伝熱板412は、スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の熱伝導機構である。多層構造伝熱板412は、好ましくは、金、銀、銅、またはアルミニウムの高熱伝導材料からなる。
【0019】
図4及び図5に示されるヘッドスライダでは、熱発生素子410から発生した熱が、多層構造伝熱板412によって、非磁性絶縁層404全体に効率よく伝導せしめられ、非磁性絶縁層404全体の温度を上昇させることができる。その結果、非磁性絶縁層404の浮上面部分と流出側端面とに付着した潤滑剤を高い確率で蒸発させ及び拡散させることができる。特に、スライダの中心付近に付着した潤滑剤のみならず、スライダの幅方向の両脇に付着した潤滑剤も高い確率で蒸発させ、拡散させ、及び消滅させることができる。
【0020】
図6は、第二実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端部を媒体対向面側から見た平面図である。この第二実施形態では、図4及び図5に示される第一実施形態と比較して、次の点が相違する。すなわち、図6に示される多層構造伝熱板612は、図4及び図5に示される多層構造伝熱板412を、その各層を連結するように改造したものである。このような多層構造伝熱板612によれば、伝熱効果が増大し、非磁性絶縁層404全体の温度分布が均一化する。なお、伝熱板の少なくとも二つの層を連結することで効果が得られる。
【0021】
図7は、第三実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端部を媒体対向面側から見た平面図である。この第二実施形態では、図4及び図5に示される第一実施形態と比較して、次の点が相違する。すなわち、図7に示されるヘッドスライダでは、非磁性絶縁層404の内部に、更に、多層構造発熱板714が埋め込まれている。この多層構造発熱板714は、スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の潤滑剤蒸発用熱発生機構として機能する。多層構造伝熱板412の層と多層構造発熱板714の層とは、図7に示されるように交互に配置されていてもよいし、交互に配置されていなくてもよい。
【0022】
多層構造発熱板714の各層は、電気抵抗の高い金属が板状に形成された電路となっており、通電により発熱し、非磁性絶縁層404を加熱する。また、多層構造発熱板714の各層が並列接続となるように、各層が接続されている。なお、このように各層を接続することは、必ずしも必要ではないが、こうすることにより、通電のため電圧を印加する構造が容易となる。
【0023】
図7に示されるヘッドスライダでは、多層構造伝熱板412と多層構造発熱板714とにより、非磁性絶縁層404全体が効率的に加熱され、非磁性絶縁層404の浮上面部分と空気流出側端面とに付着した潤滑剤を高い確率で蒸発させ及び拡散させることができる。特に、スライダの中心付近に付着した潤滑剤のみならず、スライダの幅方向の両脇に付着した潤滑剤も高い確率で蒸発させ、拡散させ、及び消滅させることができる。
【0024】
以上の実施形態に係るヘッドスライダを備える磁気ディスク装置では、スライダがアンロード中に熱発生素子410や多層構造発熱板714を駆動させることが好ましい。また、スライダが浮上中に一定時間毎に熱発生素子410や多層構造発熱板714を駆動させるようにすることが好ましい。
【0025】
以上の実施形態に関し、以下の付記を開示する。
【0026】
(付記1) 磁気ディスク装置のヘッドスライダであって、該スライダの空気流出側端部に形成された非磁性絶縁層の内部に、
ヘッド素子と、
熱発生素子と、
スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の熱伝導機構と、
を具備するヘッドスライダ。
【0027】
(付記2) 前記熱伝導機構が高熱伝導材料からなる、付記1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【0028】
(付記3) 前記高熱伝導材料が金、銀、銅、またはアルミニウムである、付記2に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【0029】
(付記4) 前記熱発生素子が浮上量制御用熱発生機構である、付記1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【0030】
(付記5) 前記熱発生素子が記録コイルである、付記1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【0031】
(付記6) 前記熱伝導機構の各層のうち少なくとも二つの層が連結されている、付記1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【0032】
(付記7) 該非磁性絶縁層の内部に、更に、スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の潤滑剤蒸発用熱発生機構を具備し、前記熱伝導機構の層と前記潤滑剤蒸発用熱発生機構の層とが交互に配置されている、付記1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【0033】
(付記8) 前記潤滑剤蒸発用熱発生機構の各層のうち少なくとも二つの層が接続されている、付記7に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【0034】
(付記9) 付記1から付記8までのいずれか一項に記載のヘッドスライダを備える磁気ディスク装置。
【0035】
(付記10) 付記9に記載の磁気ディスク装置であって、スライダがアンロード中に前記熱発生素子又は前記潤滑剤蒸発用熱発生機構を駆動させることを特徴とした磁気ディスク装置。
【0036】
(付記11) 付記9に記載の磁気ディスク装置であって、スライダが浮上中に一定時間毎に前記熱発生素子又は前記潤滑剤蒸発用熱発生機構を駆動させることを特徴とした磁気ディスク装置。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】回転するディスク上に浮上するヘッドスライダの空気流出側端部を横から見た側面図であって、潤滑剤の付着の様子を示す図である。
【図2】本開示によるヘッドスライダが適用される磁気ディスク装置の概略構造を例示する斜視図である。
【図3】本開示技術が適用される一例としてのヘッドスライダを媒体対向面側から見た斜視図である。
【図4】第一実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端部を媒体対向面側から見た平面図である。
【図5】第一実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端面図である。
【図6】第二実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端部を媒体対向面側から見た平面図である。
【図7】第三実施形態に係るヘッドスライダの空気流出側端部を媒体対向面側から見た平面図である。
【図8】図4の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
102 スライダ本体
104 非磁性絶縁層(アルミナ部分)
106 読み書き素子
110 磁気ディスク
120、122 潤滑剤
200 磁気記録媒体(磁気ディスク)
202 クランプ
204 ヘッドスライダ
206 サスペンション
208 駆動アーム
210 ボイスコイルモータ
212 ベース
302 流入パッド
304A、304B サイドレール
306 センタパッド
402 AlTiC(アルミナチタンカーバイド)部
404 非磁性絶縁層
408 読み書き素子
410 熱発生素子
412 多層構造伝熱板
514 接点端子
516 配線ライン
612 多層構造伝熱板
714 多層構造発熱板
800 センタパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク装置のヘッドスライダであって、該スライダの空気流出側端部に形成された非磁性絶縁層の内部に、
ヘッド素子と、
熱発生素子と、
スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の熱伝導機構と、
を具備するヘッドスライダ。
【請求項2】
前記熱伝導機構が高熱伝導材料からなる、請求項1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【請求項3】
前記熱発生素子が浮上量制御用熱発生機構である、請求項1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【請求項4】
該非磁性絶縁層の内部に、更に、スライダ長手方向に積層され、各層のうち少なくとも一つの層がスライダ幅方向両脇付近まで延伸した多層構造の潤滑剤蒸発用熱発生機構を具備し、前記熱伝導機構の層と前記潤滑剤蒸発用熱発生機構の層とが交互に配置されている、請求項1に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【請求項5】
前記潤滑剤蒸発用熱発生機構の各層のうち少なくとも二つの層が接続されている、請求項4に記載の磁気ディスク装置のヘッドスライダ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のヘッドスライダを備える磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−33638(P2010−33638A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192666(P2008−192666)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】