説明

磁気パターン検出装置

【課題】コストを大幅に増大させることなく、ゲインを向上することのできる磁気パターン検出装置を提供すること。
【解決手段】磁気パターン検出装置100では、信号処理部60の増幅部70において、励磁信号により励磁された磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号と、基準電圧とをアンプ71に入力するにあたって、基準電圧生成部72において、励磁信号に連動して変化する信号を生成し、かかる信号を基準電圧としてアンプ71に入力する。基準電圧生成部72は、励磁信号を微分して基準電圧を生成するCR微分回路73を備えており、かかる基準電圧であれば、磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号との差が小さいので、アンプゲインを大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体が取り付けられた物体や磁気インクで印刷が施された紙幣等といった媒体の磁気パターンを検出する磁気パターン検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性体が取り付けられたカード等の物体や、磁気インクで印刷が施された紙幣等の媒体から磁気パターンを検出する磁気パターン検出装置では、媒体が通過した際の磁束変化を磁気センサ素子で検出し、磁気センサ素子から出力されたセンサ出力信号に対して信号処理部での信号処理を行なっている。ここで、信号処理部には、センサ出力信号と、定電圧からなる基準電圧とが入力されるアンプによって増幅部が構成されており、センサ出力信号を増幅部で増幅した後、各種信号処理を行なっている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−241653号公報
【特許文献2】特開2007−241654号公報
【特許文献3】特開2009−163336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の構成では、センサ出力信号を増幅させる際にアンプの基準電圧として定電圧を用いているため、センサ出力信号と基準電圧との差が大きい。このため、アンプから出力される信号が飽和しないようにアンプゲインを低く抑える必要があるため、検出ゲインを高めることができないという問題点がある。一方、ブリッジ回路を用いて磁気センサ素子からの出力信号を差動増幅すると、大幅なコストの増大を招くという問題点がある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、コストを大幅に増大させることなく、ゲインを向上することのできる磁気パターン検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、媒体の磁気特性を検出する磁気センサ素子と、該磁気センサ素子での検出結果に基づいて前記媒体の磁気パターンを検出する信号処理部と、を有する磁気パターン検出装置であって、前記信号処理部は、励磁信号により励磁された前記磁気センサ素子から出力されたセンサ出力信号を増幅する増幅部を備え、当該増幅部は、前記センサ出力信号および基準電圧が入力されるアンプと、前記励磁信号に連動して変化する信号を前記基準電圧として生成する基準電圧生成部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、センサ出力信号をアンプで増幅する際、励磁信号に連動して変化する基準電圧を用いているため、磁気センサ素子から出力されるセンサ出力信号と基準電圧との差が小さい。従って、ブリッジ回路等といったコストが増大する回路を追加しなくても、アンプゲインを高めることができ、S/N比を高めることができる。また、基準電圧は、励磁信号に連動して変化し、センサ出力信号と同期しているので、センサ出力信号を適正に増幅することができる。
【0008】
本発明において、前記基準電圧は、前記励磁信号を微分した波形を備えた信号であることが好ましい。センサ出力信号は、励磁信号により発生する磁束の時間微分に相当するため、励磁信号を微分した波形の信号をアンプの基準電圧として用いれば、センサ出力信号と基準電圧との差が小さいので、ゲインを高めることができる。
【0009】
本発明において、前記基準電圧生成部は、前記励磁信号を微分して前記基準電圧を生成するCR微分回路を備えていることが好ましい。このように構成すれば、キャパシタや抵抗といった安価な電気素子を用いて、励磁信号を微分して基準電圧を生成する微分回路を構成することができる。
【0010】
本発明において、前記基準電圧生成部は、前記励磁信号により励磁されて当該励磁信号を微分してなる信号を前記基準電圧として出力するダミー用磁気センサ素子を備えている構成を採用してもよい。ダミー用磁気センサ素子からの出力信号は、励磁信号により発生する磁束の時間微分に相当し、励磁信号を微分した波形の信号を基準電圧として生成することができる。また、かかる基準電圧であれば、センサ出力信号との差が極めて小さいので、ゲインを高めることができる。
【0011】
本発明において、前記信号処理部は、前記アンプから出力された信号のうち、極性が正の信号成分を積分する第1積分回路と、極性が負の信号成分を積分する第2積分回路とを備えていることが好ましい。このように構成すると、アンプから出力された信号のパルス幅が狭い場合でも、極性が正の信号成分および極性が負の信号成分を各々、積分して振幅変化を面積変化に変換することができるので、簡素な構成で見かけのゲインを高めることができる。
【0012】
本発明の別の形態は、媒体の磁気特性を検出する磁気センサ素子と、該磁気センサ素子での検出結果に基づいて前記媒体の磁気パターンを検出する信号処理部と、を有する磁気パターン検出装置であって、前記信号処理部は、前記センサ出力のうち、極性が正の信号成分を積分する第1積分回路と、極性が負の信号成分を積分する第2積分回路とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明では、センサ出力信号のパルス幅が狭い場合でも、極性が正の信号成分および極性が負の信号成分を各々、積分して振幅変化を面積変化に変換することができるので、簡素な構成で見かけのゲインを高めることができる。
【0014】
本発明において、前記磁気センサ素子は、前記センサ出力信号を差動出力として出力するための複数のコイルを備えていることが好ましい。このように構成すると、外乱の影響を受けにくいという利点がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る磁気パターン検出装置においては、センサ出力信号をアンプで増幅する際、励磁信号に連動して変化する基準電圧を用いているため、磁気センサから出力される信号と基準電圧との差が小さい。従って、ブリッジ回路等といったコストが増大する回路を追加しなくても、アンプゲインを高めることができ、S/N比を高めることができる。また、基準電圧は、励磁信号に連動して変化するため、センサ出力信号と基準電圧とは同期しているので、センサ出力信号を適正に増幅することができる。
【0016】
また、本発明の別の形態に係る磁気パターン検出装置において、信号処理部は、センサ出力のうち、極性が正の信号成分を積分する第1積分回路と、極性が負の信号成分を積分する第2積分回路とを備えているため、センサ出力信号のパルス幅が狭い場合でも、極性が正の信号成分および極性が負の信号成分を各々、積分して振幅変化を面積変化に変換することができる。それ故、簡素な構成で見かけのゲインを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置を備えた磁気パターン検出装置の構成を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置に用いた磁気センサ素子の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置の増幅部においてアンプに入力される信号等の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置において媒体に形成される各種磁気インクの特性等を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置において種類の異なる磁気パターンが形成された媒体から磁気パターンの有無を検出する原理を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る磁気パターン検出装置の回路部のうち、増幅部周辺の構成を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る磁気パターン検出装置の増幅部の構成を示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る磁気パターン検出装置の増幅部周辺の構成を示す説明図である。
【図11】本発明の実施の形態5に係る磁気パターン検出装置のオフセット調整部周辺の構成を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態6に係る磁気パターン検出装置に用いた磁気センサ素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
[実施の形態1]
(全体構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置を備えた磁気パターン検出装置の構成を示す説明図であり、図1(a)、(b)は、磁気パターン検出装置の要部構成を模式的に示す説明図、および断面構成を模式的に示す説明図である。
【0020】
図1に示す磁気パターン検出装置100は、銀行券、有価証券等の媒体1から磁気を検知して真偽判別や種類の判別を行なう装置であり、ローラやガイド(図示せず)等によってシート状の媒体1を媒体移動路11に沿って移動させる搬送装置10と、この搬送装置10による媒体移動路11の途中位置で媒体1から磁気を検出する磁気センサ装置20とを有している。本形態において、ローラやガイドは、アルミニウム等といった非磁性材料から構成されている。本形態において、磁気センサ装置20は、媒体移動路11の下方に配置されているが、媒体移動路11の上方に配置されることもある。いずれの場合も、磁気センサ装置20は、センサ面21を媒体移動路11に向けるように配置される。
【0021】
本形態において、媒体1には、媒体1の移動方向Xに延在する細幅の磁性領域1aに磁気インクによって磁気パターンが付されており、かかる磁気パターンは、残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気インクによる形成されている。例えば、媒体1には、ハード材を含む磁気インキにより印刷された第1の磁気パターンと、ソフト材を含む磁気インキにより印刷された第2の磁気パターンとが形成されている。そこで、本形態の磁気パターン検出装置100は、媒体1における磁気パターン毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出する。また、本形態において、かかる2種類の磁気パターンの検出を行なうための磁気センサ装置20は共通である。従って、本形態の磁気パターン検出装置100は、以下の構成を有している。
【0022】
(磁気センサ装置20の構成)
図2は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置20の説明図であり、図2(a)、(b)は、磁気センサ装置20における磁気センサ素子の等のレイアウトを示す説明図、および磁気センサ素子の向きを示す説明図である。
【0023】
図1および図2(a)に示すように、本形態の磁気パターン検出装置100において、磁気センサ装置20は、媒体1に磁界を印加する磁界印加用磁石30と、磁界を印加した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出する磁気センサ素子40と、磁界印加用磁石30および磁気センサ素子40を覆う非磁性のケース25とを備えている。磁気センサ装置20は、媒体移動路11と略同一平面を構成するセンサ面21と、センサ面21に対して媒体1の移動方向の両側に連接する斜面部22、23とを備えており、かかる形状は、ケース25の形状によって規定されている。
【0024】
磁気センサ装置20は、媒体1の移動方向Xと交差する方向に延在しており、磁界印加用磁石30および磁気センサ素子40は、媒体1の移動方向Xと交差する方向に複数、配列されている。本形態において、磁気センサ装置20は、媒体1の移動方向Xと交差する方向のうち、移動方向Xと直交する媒体幅方向Yに延在しており、磁界印加用磁石30および磁気センサ素子40は、移動方向Xと直交する媒体幅方向Yに複数、配列されている。
【0025】
本形態において、磁界印加用磁石30は、磁気センサ素子40に対して媒体1の移動方向の両側に磁界印加用第1磁石31と磁界印加用第2磁石32として配置されており、矢印X1で示す媒体1の移動方向に沿って、磁界印加用第1磁石31、磁気センサ素子40および磁界印加用第2磁石32がこの順に配置されている。また、矢印X2で示す媒体1の移動方向に沿って、磁界印加用第2磁石32、磁気センサ素子40および磁界印加用第1磁石31がこの順に配置されており、媒体1が矢印X1で示す方向および矢印X2で示す方向のいずれの方向に移動した場合でも、媒体1の磁気特性を検出することができる。ここで、磁気センサ素子40は、磁界印加用第1磁石31と磁界印加用第2磁石32との中間位置に配置されており、磁界印加用第1磁石31との磁気センサ素子40との離間距離と、磁界印加用第2磁石32と磁気センサ素子40との離間距離が等しい。なお、磁界印加用第1磁石31、磁気センサ素子40および磁界印加用第2磁石32はいずれも、磁気センサ装置20のセンサ面21に対向するように配置されている。
【0026】
本形態において、磁界印加用磁石30(磁界印加用第1磁石31および磁界印加用第2磁石32)は、フェライトやネオジウム磁石等の永久磁石35を備えている。磁界印加用第1磁石31および磁界印加用第2磁石32のいずれにおいても、永久磁石35は、センサ面21に位置する側と、センサ面21が位置する側とは反対側とが異なる極に着磁されている。このため、永久磁石35において、センサ面21の側に位置する面が媒体1に対する着磁面350として機能する。すなわち、本形態の磁気パターン検出装置100においては、後述するように、矢印X1で示すように移動する媒体1が磁気センサ装置20を通過する際、まず、磁界印加用第1磁石31から媒体1に磁界が印加され、かかる磁界によって着磁された後の媒体1が磁気センサ素子40を通過する。また、矢印X2で示すように移動する媒体1が磁気センサ装置20を通過する際、まず、磁界印加用第2磁石32から媒体1に磁界が印加され、かかる磁界によって着磁された後の媒体1が磁気センサ素子40を通過することになる。
【0027】
磁界印加用磁石30に用いた複数の永久磁石35はいずれも、サイズや形状は同一であるが、各々は、以下の向きに配置されている。まず、磁界印加用第1磁石31および磁界印加用第2磁石32のいずれにおいても、媒体1の移動方向Xと直交する媒体幅方向Yで隣り合う永久磁石35同士は、互いに反対の向きに着磁されている。すなわち、媒体1の移動方向Xと直交する媒体幅方向Yに配列された複数の永久磁石35のうち、1つの永久磁石35は、媒体移動路11側に位置する端部がN極に着磁され、媒体移動路11側とは反対側に位置する端部はS極に着磁されているが、この永久磁石35に対して媒体1の移動方向Xと直交する媒体幅方向Yで隣り合う永久磁石35は、媒体移動路11側に位置する端部がS極に着磁され、媒体移動路11側とは反対側に位置する端部はN極に着磁されている。なお、本形態では、媒体1の移動方向で対向する磁界印加用第1磁石31の永久磁石35と磁界印加用第2磁石32の永久磁石35とは、磁気センサ素子40を挟んで異なる極が対向している。但し、媒体1の移動方向で対向する磁界印加用第1磁石31の永久磁石35と磁界印加用第2磁石32の永久磁石35とは、磁気センサ素子40を挟んで同じ極が対向するように配置されることもある。
【0028】
(磁気センサ素子40の構成)
図3は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置20に用いた磁気センサ素子40の説明図であり、図3(a)、(b)、(c)は、磁気センサ素子40の正面図、この磁気センサ素子40に対する励磁波形の説明図、および磁気センサ素子40からの出力信号の説明図である。なお、図3(a)では、図面に対して垂直な方向で媒体1が移動する状態を示してある。
【0029】
図1(b)に示すように、磁気センサ素子40はいずれも、薄板状であり、幅方向W40のサイズは厚さ方向T40の寸法に比して大である。かかる磁気センサ素子40は、媒体1の移動方向Xに厚さ方向T40を向けて配置されており、媒体1の移動方向Xと直交する媒体幅方向Yには幅方向W40が向いている。
【0030】
磁気センサ素子40は、両面がセラミック等からなる厚さ0.3mm〜1mm程度の薄板状の非磁性部材47により覆われている。かかる磁気センサ素子40は、磁気シールドケース(図示せず)に収納されていることもある。この場合、磁気シールドケースは、媒体移動路が位置する上方が開口しており、磁気センサ素子40は、媒体移動路11に向けて磁気シールドケースから露出した状態にある。
【0031】
図1(b)、図2(a)、(b)、および図3(a)に示すように、磁気センサ素子40は、センサコア41と、センサコア41に巻回された励磁コイル48と、センサコア41に巻回された検出コイル49とを備えている。本形態において、センサコア41は、磁気センサ素子40の幅方向W40に延在する胴部42と、胴部42から媒体1の媒体移動路11の側に向けて突出する集磁用突部43とを備えている。ここで、集磁用突部43は、胴部42の幅方向W40の両端部から媒体1の媒体移動路11の側に向けて突出した2つの集磁用突部431、432として構成されており、2つの集磁用突部431、432は、幅方向W40で離間している。また、センサコア41は、胴部42から集磁用突部43とは反対側に突出した突部44を備えており、本形態において、突部44は、胴部42の幅方向W40の両端部から媒体1の媒体移動路11の側とは反対側に向けて突出した2つの突部441、442として構成されている。
【0032】
このように構成したセンサコア41に対して、励磁コイル48は、胴部42において集磁用突部431、432で挟まれた部分に巻回されている。また、検出コイル49は、集磁用突部43に巻回されており、本形態において、検出コイル49は、センサコア41の2つの集磁用突部43(集磁用突部431、432)のうち、集磁用突部431に巻回された検出コイル491と、集磁用突部432に巻回された検出コイル492とからなる。ここで、2つの検出コイル491、492は、集磁用突部431、432に対して互いに逆方向に巻回されている。また、2つの検出コイル491、492は、1本のコイル線を集磁用突部431、432に対して連続して巻回してなるため、2つの検出コイル491、492は、直列に電気的に接続されている。なお、2つの検出コイル491、492を各々集磁用突部431、432に巻回した後、直列に電気的に接続してもよい。
【0033】
このように構成した磁気センサ素子40は、幅方向W40および集磁用突部43の突出方向(高さ方向V40)の双方に対して直交する厚さ方向T40が媒体1の移動方向Xに向くように配置されており、磁気センサ素子40において集磁用突部43(集磁用突部431、432)および検出コイル49(検出コイル491、492)が離間する幅方向W40は、媒体1の移動方向Xに対して直交する媒体幅方向Yに向いている。
【0034】
磁気センサ素子40において、励磁コイル48には、図4を参照して後述する励磁回路50から交番電流(図3(b)参照)からなる励磁信号が印加される。このため、図3(a)に示すように、センサコア41の周りには、バイアス磁界が形成されるとともに、検出コイル49からは、図3(c)に示す検出波形の信号が出力されることになる。ここで、図3(c)に示す検出波形は、励磁信号により発生する磁束の時間的な微分信号であり、励磁信号の時間的な微分信号に近いものとなる。
【0035】
本形態において、磁気センサ素子40のセンサコア41は、図1(b)に示すように、非磁性の第1基板41aと非磁性の第2基板41bとの間に磁性材料層41cが挟まれた構造になっている。本形態において、磁性材料層41cは、第1基板41aの一方面に接着層(図示せず)によって接着されたアモルファス(非晶質)金属の磁性材料からなる薄板状のアモルファス金属箔からなり、かかる第1基板41aの一方面には、磁性材料層41cを間に挟むように第2基板41bが接着層によって接合されている。かかる接着層はいずれも、ガラスクロス、炭素繊維、アラミド繊維等の繊維補強材に樹脂材料を含浸してなるプリプレグを固化させてなる層であり、樹脂材料としては、エポキシ樹脂系やフェノール樹脂系、ポリエステル樹脂系等の熱硬化性樹脂が用いられる。磁性材料層41cとして用いたアモルファス金属箔は、ロールによる圧延によって形成されたものであり、コバルト系としては、Co−Fe−Ni−Mo−B−Si、Co−Fe−Ni−B−Si等のアモルファス合金、鉄系としては、Fe−B−Si、Fe−B−Si−C、Fe−B−Si−Cr、Fe−Co−B−Si、Fe−Ni−Mo−B等のアモルファス合金を例示することができる。第1基板41aおよび第2基板41bとしては、アルミナ基板等のセラミック基板や、ガラス基板等を例示でき、十分な剛性を得られるのであれば、プラスチック基板を用いてもよい。
【0036】
(信号処理部60の構成)
図4は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100の電気的構成を示すブロック図であり、図4(a)、(b)は、回路部の要部全体の構成を示す説明図、および回路部のうち、増幅部周辺の構成を示す説明図である。
【0037】
本形態において、図4(a)、(b)に示す回路部5は、概ね、図3(b)に示す交番電流を励磁コイル48に励磁信号として印加する励磁回路50と、検出コイル49に電気的に接続された信号処理部60とを備えている。励磁回路50は、図2に示す複数の磁気センサ素子40の各々に対応する複数の励磁用ドライバアンプ51と、複数の励磁用ドライバアンプ51に対して励磁信号を順次供給するためのマルチプレクサ52と、励磁指令信号から励磁信号を生成するアンプ53とを備えており、複数の磁気センサ素子40の励磁コイル48に対して、励磁用ドライバアンプ51で増幅された後の励磁信号を順次供給する。
【0038】
信号処理部60は、磁気センサ装置20の検出コイル49から出力されるセンサ出力信号から、残留磁束密度レベルに対応する第1信号S1、および透磁率レベルに対応する第2信号S2を生成し、上記の制御部(図示せず)は、かかる第1信号S1および第2信号S2と、媒体1と磁気センサ素子40との相対位置情報に基づいて、媒体1における複数種類の磁気パターンの有無および形成位置を検出する。
【0039】
より具体的には、信号処理部60は、磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号を増幅する増幅部70と、増幅部70から出力された信号からピーク値およびボトム値を抽出する抽出部80と、A/Dコンバータ91を備えたデジタル信号処理部90とを有している。抽出部80は、増幅部70から出力された増幅信号を順次、後段に出力するマルチプレクサ81と、クランプ回路82と、クランプ回路82から出力された信号のオフセット調整を行なうオフセット調整部83とを備えている。クランプ回路82は、増幅部70から出力された増幅後のセンサ出力信号を整流する第1ダイオード821と、増幅部70から出力された増幅後のセンサ出力信号の極性反転を行なう極性反転回路822と、極性反転回路822において極性反転された信号を整流する第2ダイオード823とを備えている。従って、オフセット調整部83は、第1ダイオード821からの出力に対する第1オフセット調整回路831と、第2ダイオード823からの出力に対する第2オフセット調整回路832とを備えており、第1オフセット調整回路831および第2オフセット調整回路832は、オフセット調整用基準電圧生成回路831a、832aと、オペアンプ831b、832bとを備えている。
【0040】
また、抽出部80は、オフセット調整部83の後段にホールド回路84を備えており、ホールド回路84の後段にゲイン設定部85を備えている。ホールド回路84は、第1オフセット調整回路831からの出力信号のピーク値をホードする第1ピークホールド回路841と、第2オフセット調整回路832からの出力信号のピーク値をホールドする第2ピークホールド回路842とを備えている。ここで、第2オフセット調整回路832には、増幅部70から出力された信号を極性反転回路822で極性反転した後、第2ダイオード823で整流した後の信号が入力されている。このため、第2ピークホールド回路842は、増幅部70から出力された増幅信号のボトム値をホールドするボトムホールド回路に相当する。
【0041】
ゲイン設定部85は、第1ピークホールド回路841でホールドされた値のゲインを設定するゲイン設定用第1アンプ851(メインアンプ)と、第2ピークホールド回路842(ボトムホールド回路)でホールドされた値のゲインを設定するゲイン設定用第2アンプ852(メインアンプ)とを備えており、第1ピークホールド回路841および第2ピークホールド回路842でホールドされた値を所定のゲインに設定してデジタル信号処理部90のA/Dコンバータ91に出力する。
【0042】
デジタル信号処理部90は、第1ピークホールド回路841でホールドされた値と、第2ピークホールド回路842でホールドされた値とを加算して第1信号S1を生成する加算回路92と、第1ピークホールド回路841でホールドされた値と、第2ピークホールド回路842でホールドされた値とを減算して第2信号S2を生成する減算回路93とを備えている。また、デジタル信号処理部90は、切替制御信号、励磁指令信号、オフセット制御信号等を出力する制御信号出力部94を備えている。このように構成したデジタル信号処理部90からは、上位の制御部(図示せず)に対して第1信号S1および第2信号S2が出力され、上記の制御部では、第1信号S1および第2信号S2に基づいて媒体1の真偽を判定する。より具体的には、上位の制御部には、第1信号S1および第2信号S2を磁気センサ素子40と媒体1との相対位置情報に関係づけて、記録部に予め記録されている比較パターンとの照合を行って媒体1の真偽を判定する判定部を備えており、かかる判定部は、ROMあるいはRAM等といった記録部(図示せず)に予め記録されているプログラムに基づいて所定の処理を行い、媒体1の真偽を判定する。
【0043】
(増幅部70の詳細構成)
図5は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100の増幅部70においてアンプに入力される信号等の説明図であり、図5(a)、(b)は、励磁信号、センサ出力信号および基準電圧の波形を示す説明図、およびセンサ出力信号と基準電圧の差をアンプで増幅した後の波形を示す説明図である。なお、図5(a)、(b)には、励磁信号を実線L1で示し、センサ出力信号を実線L2で示し、基準電圧を実線L3で示し、センサ出力信号と基準電圧との差をアンプで増幅した後の信号を実線L4で示してある。
【0044】
本形態の磁気パターン検出装置100において、増幅部70は、図4(b)に示すように、複数の磁気センサ素子40の各々に対応する複数のアンプ71(プリアンプ)を備えており、かかるアンプ71には、磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号と、基準電圧とが入力されている。ここで、増幅部70は、励磁信号に連動して変化する信号を基準電圧として生成する基準電圧生成部72を備えており、本形態において、アンプ71には、基準電圧生成部72によって生成された信号が基準電圧として入力されている。
【0045】
本形態においては、基準電圧は、図5(a)、(b)に実線L3で示す波形を備えており、かかる波形は、図5(a)に実線L1で示す励磁信号を微分した波形に相当する。従って、基準電圧は、励磁信号に連動して変化している。より具体的には、本形態において、基準電圧生成部72は、キャパシタCと抵抗RとからなるCR微分回路73であり、かかるCR微分回路73は、励磁信号を微分した信号を基準電圧として生成する。ここで、図5(a)、(b)に実線L2で示すセンサ出力信号は、励磁信号により発生する磁束の時間微分に相当するため、励磁信号を微分してなる基準電圧は、センサ出力信号に同期している。かかる基準電圧であれば、図5(b)に示すように、センサ出力信号との差が小さいので、アンプ71のゲインを高めても、図5(b)に実線L4で示すように、アンプ71からの出力信号は飽和することがない。
【0046】
(検出原理)
図6は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100において媒体1に形成される各種磁気インクの特性等を示す説明図である。図7は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100において種類の異なる磁気パターンが形成された媒体1から磁気パターンの有無を検出する原理を示す説明図である。
【0047】
まず、図1および図2に示す矢印X1の方向に媒体1が移動する際に媒体1の真偽を判定する原理を説明する。本形態において、媒体1の磁性領域1aには、残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気パターンが形成されている。より具体的には、媒体1には、ハード材を含む磁気インキにより印刷された第1の磁気パターンと、ソフト材を含む磁気インキにより印刷された第2の磁気パターンとが形成されている。ここで、ハード材を含む磁気インキは、図6(b1)にヒステリシスループによって、残留磁束密度Brや透磁率μ等を示すように、磁界を印加したときの残留磁束密度Brのレベルは高いが、透磁率μは低い。これに対して、ソフト材を含む磁気インキは、図6(c1)にそのヒステリシスループを示すように、磁界を印加したときの残留磁束密度Brのレベルは低いが、透磁率μは高い。
【0048】
従って、以下に説明するように、残留磁束密度Brと透磁率μとを測定すれば、磁気インキの材質の判別を行なうことができる。より具体的には、透磁率μは保持力Hcと相関性を有しているので、本形態では、残留磁束密度Brと保持力Hcとを測定していることになり、かかる残留磁束密度Brと保持力Hcとの比は、磁気インキ(磁性材料)によって相違する。それ故、磁気インキの材質の判別を行なうことができる。また、残留磁束密度Brおよび透磁率μ(保持力Hc)の測定値は、インキの濃淡や、媒体1と磁気センサ装置20との距離により変動するが、本形態では、磁気センサ装置20が同一位置で残留磁束密度Brおよび透磁率μ(保持力Hc)を測定するため、残留磁束密度Brと保持力Hcとの比によれば、磁気インキの材質を確実に判別することができる。
【0049】
本形態の磁気パターン検出装置100において、媒体1が矢印X1で示す方向に移動して磁気センサ装置20を通過する際、まず、磁界印加用第1磁石31から媒体1に磁界が印加され、磁界が印加された後の媒体1が磁気センサ素子40を通過する。それまでの間、磁気センサ素子40の検出コイル49からは、図6(a3)に示すように、図6(a2)に示すセンサコア41のB−Hカーブに対応する信号が出力される。従って、図4に示す加算回路92から出力される第1信号S1、および減算回路93から出力される第2信号S2は各々、図6(a4)に示す通りである。
【0050】
ここで、フェライト粉等のハード材を含む磁気インキにより第1の磁気パターンが媒体1に形成されていると、かかる第1の磁気パターンは、図6(b1)に示すように、高レベルの残留磁束密度Brを有する。このため、図7(a1)に示すように、磁界印加用磁石30を媒体1が通過した際、第1の磁気パターンは、磁界印加用磁石30からの磁界により、磁石となる。このため、磁気センサ素子40の検出コイル49から出力される信号は、図6(b2)に示すように、第1の磁気パターンから直流的なバイアスを受けて、図6(b3)および図7(a2)に示す波形に変化する。すなわち、信号S0のピーク電圧およびボトム電圧が矢印A1、A2で示すように、同一の方向にシフトするとともに、ピーク電圧のシフト量とボトム電圧のシフト量が相違する。しかも、かかる信号S0は、媒体1の移動に伴って変化する。従って、図4に示す加算回路92から出力される第1信号S1は、図6(b4)に示す通りであり、磁気センサ素子40を媒体1の第1の磁気パターンが通過するたびに変動する。ここで、ハード材を含む磁気インクにより形成された第1の磁気パターンは、透磁率μが低いため、信号S0のピーク電圧およびボトム電圧のシフトに影響しているのは、第1の磁気パターンの残留磁束密度Brだけと見做すことができる。それ故、図4に示す減算回路93から出力される第2信号S2は、磁気センサ素子40を媒体1の第1の磁気パターンが通過しても変動せず、図6(b4)に示す信号と同様である。
【0051】
これに対して、軟磁性ステンレス紛等のソフト材を含む磁気インキにより第2の磁気パターンが媒体1に形成されていると、かかる第2の磁気パターンのヒステリシスループは、図6(c1)に示すように、図6(b1)に示すハード材を含む磁気インクによる第1の磁気パターンのヒステリシスカーブの内側を通り、残留磁束密度Brのレベルが低い。このため、磁界印加用磁石30を媒体1が通過した後も、第2の磁気パターンは、残留磁束密度Brのレベルが低い。但し、第2の磁気パターンは透磁率μが高いため、図7(b1)に示すように、磁性体として機能する。このため、磁気センサ素子40の検出コイル49から出力される信号は、図6(c2)に示すように、第2の磁気パターンの存在によって透磁率μが高くなっている分、図6(c3)および図7(b2)に示す波形に変化する。すなわち、信号S0のピーク電圧は矢印A3で示すように高い方にシフトする一方、ボトム電圧は、矢印A4で示すように低い方にシフトする。その際、ピーク電圧のシフト量とボトム電圧のシフト量は絶対値が略等しい。しかも、かかる信号S0は、媒体1の移動に伴って変化する。従って、図4に示す減算回路93から出力される第2信号S2は、図6(c4)に示す通りであり、磁気センサ素子40を媒体1の第2の磁気パターンが通過するたびに変動する。ここで、ソフト材を含む磁気インクにより形成された第2の磁気パターンは、残留磁束密度Brが低いため、信号のピーク電圧およびボトム電圧のシフトに影響しているのは、第2の磁気パターンの透磁率μだけと見做すことができる。それ故、図4に示す加算回路92から出力される第1信号S1は、磁気センサ素子40を媒体1の第2の磁気パターンが通過しても変動せず、図6(c4)に示す信号と同様である。
【0052】
このように、本形態の磁気パターン検出装置100では、加算回路92において磁気センサ素子40から出力される信号のピーク値とボトム値とを加算した第1信号S1は、磁気パターンの残留磁束密度レベルに対応する信号であり、かかる第1信号S1を監視すれば、ハード材を含む磁気インキにより形成された第1の磁気パターンの有無および形成位置を検出することができる。また、減算回路93において磁気センサ素子40から出力される信号のピーク値とボトム値とを減算した第2信号S2は、磁気パターンの透磁率μに対応する信号であり、かかる第2信号S2を監視すれば、ソフト材を含む磁気インキにより形成された第2の磁気パターンの有無および形成位置を検出することができる。それ故、磁界を印加したときの残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気パターンの媒体1における磁気パターン毎の有無および形成位置を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて識別することができる。
【0053】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の磁気パターン検出装置100では、信号処理部60の増幅部70において、励磁信号により励磁された磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号と、基準電圧とをアンプ71に入力するにあたって、基準電圧生成部72において、励磁信号に連動して変化する信号を生成し、かかる信号を基準電圧としてアンプ71に入力する。このため、磁気センサ素子40から出力されるセンサ出力信号と基準電圧との差が小さい。従って、ブリッジ回路等といったコストが増大する回路を追加しなくても、アンプ71のゲインを高めることができ、S/N比を高めることができる。また、基準電圧は、励磁信号に連動して変化するため、センサ出力信号と基準電圧とは同期しており、センサ出力信号を適正に増幅することができる。
【0054】
また、基準電圧生成部72は、基準電圧として、励磁信号を微分した波形を備えた信号を生成するため、センサ出力信号と基準電圧との差を小さくすることができる。すなわち、センサ出力信号は、励磁信号により発生する磁束の時間微分に相当するため、励磁信号を微分した波形の信号をアンプ71の基準電圧として用いれば、センサ出力信号と基準電圧との差が小さいので、ゲインを高めることができる。
【0055】
また、基準電圧生成部72は、励磁信号を微分して基準電圧を生成するCR微分回路73を備えているため、キャパシタCや抵抗Rといった安価な電気素子を用いて、励磁信号を微分して基準電圧を生成することができる。
【0056】
また、本形態の磁気パターン検出装置100では、共通の磁気センサ装置20によって、磁気パターン毎の有無および形成位置を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するため、残留磁束密度レベルの測定と、透磁率レベルの測定との間に時間差が発生しない。それ故、磁気センサ装置20と媒体1とを移動させながら計測する場合でも、信号処理部60は、簡素な構成で高い精度の検出を行なうができる。また、搬送装置10についても、磁気センサ装置20を通過する箇所のみに走行安定性が求められるだけなので、構成の簡素化を図ることができる。
【0057】
さらに、本形態の磁気パターン検出装置100によれば、ハード材およびソフト材の双方を含む磁気インキにより磁気パターンが形成されている媒体1や、ハード材とソフト材の中間に位置する材料を含む磁気インキにより磁気パターンが形成されている媒体1についても、磁気パターンの検出を行なうことができる。すなわち、磁気特性が第1の磁気パターンと第2の磁気パターンの中間に位置するような磁気パターンについては、図6(d1)に示すように、ヒステリシスループが、図6(b1)に示すハード材の磁気パターンのヒステリシスループと図6(c1)に示すソフト材の磁気パターンのヒステリシスループとの中間に位置するので、図6(d4)に示す信号パターンを得ることができ、かかる磁気パターンについても、有無や形成位置を検出することができる。
【0058】
しかも、本形態の磁気センサ装置20において、磁界印加用磁石30は、磁気センサ素子40に対して媒体1の移動方向の両側に磁界印加用第1磁石31と磁界印加用第2磁石32として配置されている。このため、図1に示すように、矢印X1で示す方向に移動する媒体1を磁界印加用第1磁石31によって着磁し、その後、磁気センサ素子40によって、着磁した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出することができるとともに、矢印X2で示す方向に移動する媒体1を磁界印加用第2磁石32によって着磁し、その後、磁気センサ素子40によって、着磁した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出することができる。それ故、本形態の磁気パターン検出装置100を入出金機に用いれば、入金された媒体1の真偽を判定することができるとともに、出金される媒体1の真偽を判定することもできる。
【0059】
[実施の形態2]
図8は、本発明の実施の形態2に係る磁気パターン検出装置100の回路部のうち、増幅部70周辺の構成を示す説明図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0060】
実施の形態1では、増幅部70は、複数の磁気センサ素子40の各々に対応する複数のアンプ71が設けられていたが、本形態では、図8に示すように、複数の磁気センサ素子40の後段にマルチプレクサ77が設けられ、マルチプレクサ77の後段にアンプ71が設けられている。このため、複数の磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号は、マルチプレクサ77によってアンプ71に順次出力される。このため、複数の磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号を1つのアンプ71で増幅することができるという利点がある。
【0061】
また、本形態でも、実施の形態1と同様、増幅部70では、CR微分回路73を備えた基準電圧生成部72において、励磁信号に連動して変化する信号を生成し、かかる信号を基準電圧としてアンプ71に入力する。このため、磁気センサ素子40から出力されるセンサ出力信号と基準電圧との差が小さいので、ブリッジ回路等といったコストが増大する回路を追加しなくても、アンプ71のゲインを高めることができる等、実施の形態1と同様な効果を奏する。
【0062】
また、実施の形態1では、複数の磁気センサ素子40の各々に対応する複数の励磁用ドライバアンプ51が設けられていたが、本形態では、励磁用ドライバアンプ51の後段にマルチプレクサ54が設けられ、マルチプレクサ54の後段に複数の磁気センサ素子40が設けられている。このため、励磁用ドライバアンプ51から出力された励磁信号は、マルチプレクサ54によっての複数の磁気センサ素子40に順次出力される。このため、1つの励磁用ドライバアンプ51で複数の磁気センサ素子40に励磁信号を供給することができるという利点がある。
【0063】
なお、マルチプレクサ77の切替え時に本来必要ではない信号、例えば、検出信号をマルチプレクサ77で切替え時に生じるノイズ等を後段に通さないことを目的に、マルチプレクサ77の切替えタイミングを微調整してもよいが、図8に示すように、アンプ71の出力段にアナログスイッチ79を追加して、ノイズ等を後段に通さないようにしてもよい。
【0064】
[実施の形態3]
図9は、本発明の実施の形態3に係る磁気パターン検出装置100の増幅部70の構成を示す説明図であり、図9(a)、(b)は、増幅部70周辺の構成を示す説明図、およびダミー用磁気センサ素子の説明図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1、2と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0065】
実施の形態1、2では、CR微分回路73を備えた基準電圧生成部72を用いたが、本形態では、図9(a)に示すように、ダミー用磁気センサ素子74を備えた基準電圧生成部72を設けてある。従って、ダミー用磁気センサ素子74によって、励磁信号に連動して変化する信号を生成し、かかる信号を基準電圧としてアンプ71に入力することができる。ここで、ダミー用磁気センサ素子74は、図1に示す媒体移動路11から離間した位置に設けられており、媒体1や磁気センサ素子40から磁気的な影響を受けることがない。
【0066】
かかるダミー用磁気センサ素子74は、図9(b)に示すように、図2(b)および図3(b)を参照して説明した磁気センサ素子40と同一の構成を有しており、センサコア41に励磁コイル48および検出コイル49が巻回された構造を有している。また、ダミー用磁気センサ素子74の励磁コイル48には、ダミーの励磁用ドライバアンプ510を介して励磁信号が供給され、ダミー用磁気センサ素子74の検出コイル49からの出力が基準電圧としてアンプ71に供給されている。
【0067】
このように構成した増幅部70では、ダミー用磁気センサ素子74は、励磁信号により励磁されて励磁信号を微分してなる信号を検出コイル49から出力する。ここで、ダミー用磁気センサ素子74からの出力信号は、励磁信号により発生する磁束の時間微分に相当し、励磁信号を微分した波形の信号である。このため、基準電圧とセンサ出力信号との差を極めて小さくすることができるので、ゲインを高めることができる。
【0068】
なお、本形態では、実施の形態2をベースにして、ダミー用磁気センサ素子74を備えた基準電圧生成部72を設けたが、実施の形態1に対して、ダミー用磁気センサ素子74を備えた基準電圧生成部72を設けてもよい。
【0069】
[実施の形態4]
図10は、本発明の実施の形態4に係る磁気パターン検出装置100の増幅部70周辺の構成を示す説明図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1〜3と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0070】
実施の形態1〜3では、クランプ回路82の後段にオフセット調整部83を設けたが、本形態では、図10に示すように、オフセット調整部83において、第1オフセット調整回路831のオペアンプ831b、および第2オフセット調整回路832のオペアンプ832bにキャパシタが設けられており、第1オフセット調整回路831および第2オフセット調整回路832は、第1積分回路835および第2積分回路836として構成されている。
【0071】
このため、第1積分回路835は、アンプ71から出力された信号のうち、極性が正の信号成分を積分し、第2積分回路836は、極性が負の信号成分を積分する。従って、アンプ71から出力された信号のパルス幅が狭い場合でも、極性が正の信号成分および極性が負の信号成分を各々、積分して振幅変化を面積変化に変換することができるので、簡素な構成で見かけのゲインを高めることができる。
【0072】
また、本形態でも、実施の形態1と同様、増幅部70では、CR微分回路73を備えた基準電圧生成部72において、励磁信号に連動して変化する信号を生成し、かかる信号を基準電圧としてアンプ71に入力する。このため、磁気センサ素子40から出力されるセンサ出力信号と基準電圧との差が小さいので、ブリッジ回路等といったコストが増大する回路を追加しなくても、アンプ71のゲインを高めることができる等、実施の形態1と同様な効果を奏する。
【0073】
なお、本形態は、実施の形態1をベースに積分回路を設けた構成を適用したが、実施の形態2、3に積分回路を設けた構成を適用してもよい。
【0074】
[実施の形態5]
図11は、本発明の実施の形態5に係る磁気パターン検出装置100のオフセット調整部83周辺の構成を示す説明図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1〜4と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0075】
実施の形態1〜4では、増幅部70に基準電圧生成部72を設けたが、本形態では、図11に示すように、増幅部70に基準電圧生成部72が設けられておらず、アンプ71の基準電圧はグランド電位等の定電位である。
【0076】
但し、本形態では、実施の形態4と同様、オフセット調整部83において、第1オフセット調整回路831のオペアンプ831b、および第2オフセット調整回路832のオペアンプ832bにキャパシタが設けられており、第1オフセット調整回路831および第2オフセット調整回路832は、第1積分回路835および第2積分回路836として構成されている。このため、第1積分回路835は、磁気センサ素子40から出力された信号のうち、極性が正の信号成分を積分し、第2積分回路836は、極性が負の信号成分を積分する。従って、アンプ71から出力された信号のパルス幅が狭い場合でも、極性が正の信号成分および極性が負の信号成分を各々、積分して振幅変化を面積変化に変換することができるので、簡素な構成で見かけのゲインを高めることができる。
【0077】
[実施の形態6]
図12は、本発明の実施の形態6に係る磁気パターン検出装置100に用いた磁気センサ素子40の説明図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1〜5と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0078】
実施の形態1〜5では、磁気センサ素子40および検出コイル49のうち、励磁コイル48のみに励磁信号が印加される構成であったが、本形態では、図12に示すように、励磁コイル48と検出コイル49とが直列に接続されており、励磁コイル48および検出コイル49に励磁信号が印加される。また、励磁コイル48と検出コイル49との接続部分にアンプ71が接続されており、励磁コイル48と検出コイル49との接続部分からアンプ71に信号が差動出力される。
【0079】
このように本形態では、センサ出力信号を差動出力として出力するための2つのコイル(励磁コイル48および検出コイル49)を備えており、差動出力がアンプ71に出力される。このため、温度変化等の外乱れを吸収することができる等の利点がある。
【0080】
また、本形態でも、実施の形態1と同様、増幅部70では、CR微分回路73を備えた基準電圧生成部72において、励磁信号に連動して変化する信号を生成し、かかる信号を基準電圧としてアンプ71に入力する。このため、磁気センサ素子40から出力されるセンサ出力信号と基準電圧との差が小さいので、ブリッジ回路等といったコストが増大する回路を追加しなくても、アンプ71のゲインを高めることができる等、実施の形態1と同様な効果を奏する。
【0081】
なお、本形態は、実施の形態1をベースに積分回路を設けた構成を適用したが、実施の形態2〜5に磁気センサ素子40の差動出力を利用した構成を適用してもよい。
【0082】
(その他の実施の形態)
上記形態では、媒体1と磁気センサ装置20とを相対移動させるにあたって、媒体1の方を移動させたが、媒体1が固定で磁気センサ装置20が移動する構成を採用してもよい。また、上記形態では、磁界印加用磁石30に永久磁石を用いたが、電磁石を用いてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 媒体
11 媒体移動路
20 磁気センサ装置
40 磁気センサ素子
48 励磁コイル
49 検出コイル
60 信号処理部
70 増幅部
71 アンプ
72 基準電圧生成部
73 CR微分回路
74 ダミー用磁気センサ素子
83 オフセット調整部
100 磁気パターン検出装置
835 第1積分回路
836 第2積分回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体の磁気特性を検出する磁気センサ素子と、該磁気センサ素子での検出結果に基づいて前記媒体の磁気パターンを検出する信号処理部と、を有する磁気パターン検出装置であって、
前記信号処理部は、励磁信号により励磁された前記磁気センサ素子から出力されたセンサ出力信号を増幅する増幅部を備え、
当該増幅部は、前記センサ出力信号および基準電圧が入力されるアンプと、前記励磁信号に連動して変化する信号を前記基準電圧として生成する基準電圧生成部と、を備えていることを特徴とする磁気パターン検出装置。
【請求項2】
前記基準電圧は、前記励磁信号を微分した波形を備えた信号であることを特徴とする請求項1に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項3】
前記基準電圧生成部は、前記励磁信号を微分して前記基準電圧を生成するCR微分回路を備えていることを特徴とする請求項2に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項4】
前記基準電圧生成部は、前記励磁信号により励磁されて当該励磁信号を微分してなる信号を前記基準電圧として出力するダミー用磁気センサ素子を備えていることを特徴とする請求項2に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記アンプから出力された信号のうち、極性が正の信号成分を積分する第1積分回路と、極性が負の信号成分を積分する第2積分回路とを備えていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項6】
媒体の磁気特性を検出する磁気センサ素子と、該磁気センサ素子での検出結果に基づいて前記媒体の磁気パターンを検出する信号処理部と、を有する磁気パターン検出装置であって、
前記信号処理部は、前記センサ出力のうち、極性が正の信号成分を積分する第1積分回路と、極性が負の信号成分を積分する第2積分回路とを備えていることを特徴とする磁気パターン検出装置。
【請求項7】
前記磁気センサ素子は、前記センサ出力信号を差動出力として出力するための複数のコイルを備えていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−164794(P2011−164794A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24787(P2010−24787)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】