説明

磁気ボール盤

【課題】簡単な構成でマグネットの防水性を高めるとともに、樹脂モールドの充填作業の簡素化、不慮の事故による修理や交換の頻度の低減等によってコストダウンを図ることができる磁気ボール盤を提供すること。
【解決手段】ボビン7に巻装されたマグネットコイル8をマグネットコア6の凹部6aに収容して成るマグネット2と、該マグネット2の上部に取り付けられたスタンドと、該スタンドに上下動可能に取り付けられた電気ドリルを備えて成る磁気ボール盤において、前記マグネットコイル8の全体をゴム膜等の絶縁層9で被覆するとともに、該マグネットコイル8を前記マグネットコア6の凹部6a内に樹脂モールド10によって固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネット(電磁石)によって被削材等に吸着固定される磁気ボール盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ボール盤は、ボビンに巻装されたマグネットコイルをマグネットコアの凹部に収容して成るマグネットと、該マグネットの上部に取り付けられたスタンドと、該スタンドに上下動可能に取り付けられた電気ドリルを備え、前記マグネットに通電して該マグネットを励磁し、その磁力によって当該磁気ボール盤全体を金属製の被削材に吸着固定し、前記電気ドリルを上下動させて被削材に孔加工を施す工作機械である。
【0003】
ここで、従来の磁気ボール盤のマグネットの構造を図5に示す(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
即ち、図5は従来の磁気ボール盤のマグネット102の横断面図であり、図示のマグネット102は、ボビン107に巻装されたマグネットコイル108を鉄等の磁性体から成るマグネットコア106の凹部106aに収容し、マグネットコア106の凹部106a内のマグネットコイル108との隙間に樹脂モールド110を充填してマグネットコイル108を固定することによって構成されており、マグネットコイル108への水(切削液)の侵入を樹脂モールド110によって防ぐ防水構造が採用されている。
【特許文献1】特開平9−019812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示した従来の磁気ボール盤のマグネット102においては、樹脂モールド110の充填に不具合があったような場合には、マグネットコイル108に外部から水(切削液)が侵入し、最悪の場合にはマグネットコイル108に漏電が発生する可能性があった。このため、樹脂モールド110の充填作業には細心の注意が必要であり、作業工程が長くなってコストアップを招くという問題があった。
【0006】
又、マグネット102のマグネットコイル108への通電のON/OFFによってマグネット102が加熱及び冷却を繰り返すために樹脂モールド110が膨張と収縮を繰り返し、該樹脂モールド110に亀裂が発生したり、樹脂モールド110とマグネットコア106との間に隙間が発生することがある。その他、マグネットコア106を他の物にぶつける等の不慮の事故によって樹脂モールド110に亀裂等が発生することがあり、このような場合には修理或は部品交換の必要が生じ、このこともコストアップの原因となっていた。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、簡単な構成でマグネットの防水性を高めるとともに、樹脂モールドの充填作業の簡素化、不慮の事故による修理や部品交換の頻度の低減等によってコストダウンを図ることができる磁気ボール盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ボビンに巻装されたマグネットコイルをマグネットコアの凹部に収容して成るマグネットと、該マグネットの上部に取り付けられたスタンドと、該スタンドに上下動可能に取り付けられた電気ドリルを備えて成る磁気ボール盤において、前記マグネットコイルの全体を絶縁層で被覆するとともに、該マグネットコイルを前記マグネットコアの凹部内に樹脂モールドによって固定したことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記絶縁層をゴム層で構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気ボール盤のマグネットに設けられるマグネットコイルの全体を絶縁性の高いゴム層等の絶縁層で被覆するとともに、該マグネットコイルをマグネットコアの凹部内に樹脂モールドによって固定する二重シール構造を採用したため、マグネットコイルが絶縁層と樹脂モールドによって二重にシールされることとなり、万一、不慮の事故によって樹脂モールドに亀裂が発生したような場合であっても、水(切削液)のマグネットコイルへの侵入が絶縁層によって確実に防がれ、漏電等の問題が発生することがない。特に、絶縁層を柔軟で弾性変形し易いゴム層で構成すれば、該ゴム層に亀裂が発生することがないため、マグネットコイルがゴム層によって確実にシールされて電気絶縁され、漏電等の問題が発生することがない。
【0011】
又、上述のようにマグネットコイルは絶縁層によって確実にシールされて電気絶縁されるため、樹脂モールドの充填を従来のように細心の注意を払って行う必要がなく、充填作業を簡素化することができ、作業工程を短縮してコストダウンを図ることができる。
【0012】
更に、樹脂モールドが加熱及び冷却されて膨張と収縮を繰り返したために該樹脂モールドに亀裂が発生したり、マグネットコアを他の物にぶつける等の不慮の事故によって樹脂モールドに亀裂等が発生した場合であっても、マグネットコイルは絶縁層によって確実にシールされるため、修理や部品交換の頻度が低減され、これによってもコストダウンが図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明に係る磁気ボール盤の斜視図、図2は図1のA−A線断面図、図3は成形型の側断面図、図4は図3のB−B線断面図である。
【0015】
図1に示す磁気ボール盤1は、通電によって磁力を発生する電磁石としてのマグネット2を底部に備え、該マグネット2の上部にスタンド3を取り付け、ハンドル4の回転動作によって上下動する電気ドリル5を前記スタンド3に取り付けることによって構成されている。
【0016】
而して、マグネット2に通電して該マグネット2を電磁石として機能させることによって磁気ボール盤1全体を磁性金属から成る不図示の被削材上に吸着固定した状態で、電気ドリル5を駆動し、ハンドル4を回して電気ドリル5を被削材に対して上下動させることによって、被削材に孔加工を施すことができる。ここで、磁気ボール盤1による孔加工には、水(研削液)を使用しない乾式加工と、潤滑及び冷却を目的として加工部分に水(研削液)を供給しながら加工を行う湿式加工とがあるが、特に大きな孔を加工する場合や早く孔加工を行いたい場合には後者の湿式加工が採用される。
【0017】
次に、本発明の要旨を構成する前記マグネット2の内部構造を図2に基づいて説明する。
【0018】
マグネット2は、図2に示すように、鉄等の強磁性金属から成るブロック状のマグネットコア6を備えており、このマグネットコア6には、下方が開口する平面視矩形リング状の凹部6aが形成されている。そして、このマグネットコア6の凹部6aには、断面コの字状のボビン7に巻装された矩形リング状のマグネットコイル8が挿入されている。
【0019】
而して、上記ボビン7とマグネットコイル8は、その全体が絶縁性の高いシリコンゴム等のゴム層(絶縁層)9で被覆されており、これらがマグネットコア6の凹部6aに挿入された後にマグネットコア6の凹部6aに樹脂モールド10を充填することによって、該ボビン7とマグネットコイル8がマグネットコア6の凹部6a内に固定されている。ここで、マグネットコア6の底面だけが不図示の被削材上に接触することによって磁気ボール盤1全体が被削材に対して垂直に保持されるように、樹脂モールド10とマグネットコア6の底面との間には所定の隙間δが形成されている。尚、ゴム層9の材質はシリコンゴムに限定される訳ではない。
【0020】
ところで、以上の構成を有するマグネット2は次の手順に従って組み立てられる。
【0021】
即ち、ボビン7に巻装されたマグネットコイル8を図3に示すように上下に2分割された上型11Aと下型11Bから成る成形型11の内部にセットする。尚、ボビン7の上下面(図3参照)と内周面(図4参照)には複数の突起7aが突設されており、ボビン7に巻装されたマグネットコイル8を成形型11内にセットした状態では、ボビン7の上下面と内周面及び外周面と成形型11との間には所定の隙間δ1,δ2,δ3がそれぞれ形成されている。
【0022】
上記状態において、上型11Aの側部に形成された充填孔12から液状のゴムを成形型11内に流し込むと、この液状のゴムはボビン7の上下面と内周面及び外周面と成形型11との間に形成された前記隙間δ1,δ2,δ3に流れ込む。そして、成形型11内に流し込んだゴムが冷えて凝固した後、ボビン7と一体化されたマグネットコイル8を成形型11から取り出すと、該マグネットコイル8の全体が図2に示すようにゴム層9によって被覆される。
【0023】
次に、全体がゴム層9によって被覆されたマグネットコイル8を上下が逆にされたマグネットコア6の凹部6aに挿入セットし、凹部6a内に溶融した液状の樹脂を流し込み、この樹脂が冷えて固まることによって図2に示すようにゴム膜9によって被覆されたマグネットコイル8が樹脂モールド10によって固定され、これによってマグネット2が組み立てられる。
【0024】
而して、以上のように構成されたマグネット2のマグネットコイル8に通電されると、該マグネットコイル8が励磁されて磁力が発生し、マグネット2が電磁石として機能して不図示の被削材上に吸着され、磁気ボール盤1全体が被削材上に固定される。
【0025】
以上において、本実施の形態においては、磁気ボール盤1のマグネット2に設けられるマグネットコイル4の全体を絶縁性の高いゴム層9で被覆するとともに、該マグネットコイル8をマグネットコア6の凹部6a内に樹脂モールド10によって固定する二重シール構造を採用したため、マグネットコイル8がゴム層9と樹脂モールド10によって二重にシールされることとなり、樹脂モールド10が加熱と冷却によって膨張と収縮を繰り返すことによって該樹脂モールド10に亀裂が発生したり、不慮の事故によって樹脂モールド10に亀裂が発生したような場合であっても、水(切削液)のマグネットコイル8への侵入がゴム層9によって確実に防がれ、漏電等の問題が発生することがない。特に、本実施の形態では、絶縁膜を柔軟で弾性変形し易いゴム膜9で構成したため、該ゴム層9に亀裂が発生することがなく、マグネットコイル8がゴム層9によって確実にシールされて電気絶縁され、漏電等の問題が発生することがない。
【0026】
又、上述のようにマグネットコイル8はゴム層9によって確実にシールされて電気絶縁されるため、樹脂モールド10の充填を従来のように細心の注意を払って行う必要がなく、充填作業を簡素化することができ、作業工程を短縮してコストダウンを図ることができる。
【0027】
更に、樹脂モールド10が加熱及び冷却されて膨張と収縮を繰り返したために該樹脂モールド10に亀裂が発生したり、マグネットコア6を他の物にぶつける等の不慮の事故によって樹脂モールド10に亀裂等が発生した場合であっても、マグネットコイル4はゴム層9によって確実にシールされるため、修理や部品交換の頻度が低減され、これによってもコストダウンが図られる。
【0028】
尚、本実施の形態では、マグネットコイル8の全体を被覆する絶縁層として特にゴム層9を使用したが、絶縁層としては絶縁性の高い材質で構成される層であれば他の任意のものを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る磁気ボール盤の斜視図である。
【図2】図2は図1のA−A線断面図である。
【図3】成形型の側断面図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】従来の磁気ボール盤のマグネットの横断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 磁気ボール盤
2 マグネット
3 スタンド
4 ハンドル
5 電気ドリル
6 マグネットコア
6a マグネットコアの凹部
7 ボビン
7a ボビンの突起
8 マグネットコイル
9 ゴム層(絶縁層)
10 樹脂モールド
11 成形型
11A 上型
11B 下型
12 充填孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンに巻装されたマグネットコイルをマグネットコアの凹部に収容して成るマグネットと、該マグネットの上部に取り付けられたスタンドと、該スタンドに上下動可能に取り付けられた電気ドリルを備えて成る磁気ボール盤において、
前記マグネットコイルの全体を絶縁層で被覆するとともに、該マグネットコイルを前記マグネットコアの凹部内に樹脂モールドによって固定したことを特徴とする磁気ボール盤。
【請求項2】
前記絶縁層をゴム層で構成したことを特徴とする請求項1記載の磁気ボール盤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−178775(P2009−178775A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17143(P2008−17143)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】