説明

磁気信号再生システムおよび磁気信号再生方法

【課題】スピンバルブ型MRヘッドを採用した接触摺動型の磁気信号再生システムおよび磁気信号再生方法を提供すること。
【解決手段】磁気記録媒体および再生ヘッドを含む磁気信号再生システム。磁気記録媒体に記録された信号を再生ヘッドを用いて再生する磁気信号再生方法。前記磁気記録媒体は、磁性層表面の原子間力顕微鏡で測定した高さ10nm以上の突起数が50〜2500個/10000μm2の範囲であり、磁性層表面の潤滑剤量は、表面潤滑剤指数で表すと0.5〜5.0の範囲であり、磁性層の表面研磨剤占有率は2〜20%の範囲である。前記再生ヘッドはスピンバルブ層を有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドであり、前記スピンバルブ層は磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層を有し、該反強磁性層はイリジウムおよびマンガンを含む合金からなる。前記磁気記録媒体と前記再生ヘッドとは信号再生時に接触摺動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度記録に対応したスピンバルブ型MRヘッドを使用する磁気信号再生システムおよび磁気信号再生方法に関する。より詳しくは、スピンバルブ型MRヘッドを含む接触摺動型磁気信号再生システム、および磁気記録媒体にスピンバルブ型MRヘッドを接触摺動させながら、該媒体に記録された信号再生する磁気信号再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MR(磁気抵抗)効果を動作原理とする磁気抵抗効果型ヘッド(MRヘッド)が提案されている。MRヘッドは従来使用されていた誘導型磁気ヘッドと比べて数倍の再生出力が得られ、かつ誘導コイルを用いないためインピーダンスノイズ等の機器ノイズを大幅に低減することができる。そのため、特にハードディスクドライブでは、高密度記録再生特性向上のためにMRヘッドが広く用いられている。更に、MRヘッドをフレキシブルディスクシステムに搭載する提案がなされ、バックアップテープシステムでは実際にMRヘッドが使用されるようになってきた。
【0003】
従来、ハードディスクドライブ用MRヘッドとしては、異方性磁気抵抗ヘッド(AMRヘッド)が使用されていた。更に近年のハードディスクドライブでは、更なる高感度化に対応するため、高密度記録された信号を高感度に再生することができる再生ヘッドとして、スピンバルブ型MRヘッドが提案されている(例えば特許文献1参照)。スピンバルブ型MRヘッドは、磁性層を2層有し、一方の磁性層(磁化固定層またはピンド層と呼ばれる)の磁化方向は反強磁性層によって固定されるのに対し、他方の磁性層(磁化自由層またはフリー層と呼ばれる)の磁化方向は外部磁界によって変化する。スピンバルブ型MRヘッドでは、上記二層の磁性層の磁化方向が平行であるときおよび反平行であるときの抵抗値の差により、高出力を達成することができる。
【特許文献1】特開2000−340858公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハードディスクドライブに用いられる磁気ヘッドは、磁気ディスク回転時の空気流によって磁気ディスクとの所定の間隔を維持できるように、磁気ヘッドスライダの磁気ディスク対向面の形状やその磁気ヘッドスライダを支えるヘッドサスペンションアセンブリが設計される。このようなハードディスクドライブでは、媒体(磁気ディスク)と磁気ヘッドが接触しない状態で信号の再生が行われる。これに対し、フレキシブルディスクシステムやバックアップテープシステムでは、磁気ヘッドが媒体から浮上して信号を再生することを前提としていないので、再生時に媒体とヘッドが接触摺動する。媒体との接触摺動時、ヘッドは機械的および熱的に衝撃を受けることになるが、AMRヘッドでは、上記衝撃が再生不可能となるほど大きな影響を及ぼすことはなかった。
【0005】
更なる高密度記録化に対応するためには、再生ヘッドの高感度化が必須である。しかし、再生ヘッドの感度が高まるほど、媒体との接触摺動時の衝撃が高感度に検出されるため、上記衝撃による再生出力の不安定化という問題が顕在化する。特に、スピンバルブ型MRヘッドは、信号再生時にスピンバルブ層に印加するセンス電流に起因して素子部分に生ずる熱を放散することが難しい。このように構造上、熱の放散が困難なスピンバルブ型MRヘッドを接触摺動型システムに使用すると、素子部分の温度が著しく上昇することにより、信号の読み出しが不安定となり再生特性が大きく劣化する。そのため、従来、フレキシブルディスクシステムやバックアップテープシステムのような接触摺動型システムにおいてスピンバルブ型MRヘッドを採用することは、実用上困難と考えられていた。しかし、上記課題を解決し、接触摺動型システムにおいてより高感度なスピンバルブ型MRヘッドを採用することができれば、更なる高密度化が可能となる。
【0006】
そこで本発明の目的は、スピンバルブ型MRヘッドを採用した接触摺動型の磁気信号再生システムおよび磁気信号再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。
まず、本発明者らは、スピンバルブ型MRヘッドとして、接触摺動型システムにおけるヘッド到達温度において安定な再生特性を発揮し得るヘッドを採用することを考えた。しかし、ヘッド側からの熱的な対策のみでは、機械的衝撃等による再生特性低下の問題を解決することはできない。
そこで本発明者らは、媒体側からヘッドへの衝撃を緩和するために磁性層表面に存在する突起を制御することを考えた。しかし、磁性層表面の突起を減らし磁性層を平滑化するほど、ヘッドに対する摩擦係数が高くなり走行安定性(走行性および走行安定性)は低下する。つまり、ヘッドへの衝撃緩和のための磁性層表面平滑性と走行安定性はトレードオフの関係にある。そこで本発明者らは、トレードオフの関係にある磁性層表面平滑性と走行安定性を両立すべく更に検討を重ねた。その結果、所定高さの突起数を制御した磁性層を有する磁気記録媒体において、磁性層表面の潤滑剤量および表面研磨剤占有率を更に制御することにより、ヘッドへの衝撃緩和と走行安定性とを両立できること、そして、この磁気記録媒体を接触摺動型システムにおけるヘッド到達温度において安定な再生特性を発揮し得るスピンバルブ型MRヘッドと使用することにより、スピンバルブ型MRヘッドを接触摺動型システムにおいて採用することが可能となることを新たに見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体および再生ヘッドを含む磁気信号再生システムであって、
前記磁気記録媒体は、
磁性層表面の原子間力顕微鏡で測定した高さ10nm以上の突起数が50〜2500個/10000μm2の範囲であり、
磁性層表面の潤滑剤量は、表面潤滑剤指数で表すと、0.5〜5.0の範囲であり、かつ
磁性層の表面研磨剤占有率は2〜20%の範囲であり、
前記再生ヘッドは、
スピンバルブ層を有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドであり、
前記スピンバルブ層は、磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層を有し、該反強磁性層は、イリジウムおよびマンガンを含む合金からなり、
前記磁気記録媒体と前記再生ヘッドとが信号再生時に接触摺動することを特徴とする磁気信号再生システム。
[2]前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である[1]に記載の磁気信号再生システム。
[3]前記六方晶フェライトの平均板径は10〜50nmの範囲である[2]に記載の磁気信号再生システム。
[4]前記磁性層の厚さは10〜150nmの範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気信号再生システム。
[5]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体に記録された信号を、再生ヘッドを用いて再生する磁気信号再生方法であって、
前記磁気記録媒体は、
磁性層表面の原子間力顕微鏡で測定した高さ10nm以上の突起数が50〜2500個/10000μm2の範囲であり、
磁性層表面の潤滑剤量は、表面潤滑剤指数で表すと、0.5〜5.0の範囲であり、かつ
磁性層の表面研磨剤占有率は2〜20%の範囲であり、
前記再生ヘッドは、
スピンバルブ層を有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドであり、
前記スピンバルブ層は、磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層を有し、該反強磁性層は、イリジウムおよびマンガンを含む合金からなり、
前記磁気記録媒体と前記再生ヘッドとが信号再生時に接触摺動することを特徴とする磁気信号再生方法。
[6]前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である[5]に記載の磁気信号再生方法。
[7]前記六方晶フェライトの平均板径は10〜50nmの範囲である[6]に記載の磁気信号再生方法。
[8]前記磁性層の厚さは10〜150nmの範囲である[5]〜[7]のいずれかに記載の磁気信号再生方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接触摺動型システムにおいてスピンバルブ型MRヘッドを採用することが可能となる。これにより、接触摺動型システムにおける更なる高記録密度化に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体および再生ヘッドを含む磁気信号再生システムに関する。
更に本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体に記録された信号を、再生ヘッドを用いて再生する磁気信号再生方法に関する。
本発明において使用される再生ヘッドは、スピンバルブ層を有する磁気抵抗効果型磁気ヘッド(以下、「スピンバルブ型MRヘッド」ともいう)である。そして上記スピンバルブ型MRヘッドは、信号再生時に磁気記録媒体と接触摺動する。ここで「接触摺動」とは、走行時(信号再生時)に磁気記録媒体と再生ヘッドの一部が物理的に接している状態をいうものとする。本発明では、下記(1)の磁性層表面性を有する磁気記録媒体と、下記(2)の再生ヘッドを使用する。これにより、接触摺動型システムにおいてスピンバルブ型MRヘッドを採用し、高密度記録された信号を高感度に再生することができる。
(1)磁気記録媒体は、
(i)磁性層表面の原子間力顕微鏡で測定した高さ10nm以上の突起数が50〜2500個/10000μm2の範囲である;
(ii)磁性層表面の潤滑剤量は、表面潤滑剤指数で表すと、0.5〜5.0の範囲である;
(iii)磁性層の表面研磨剤占有率は2〜20%の範囲である。
(2)再生ヘッドは、スピンバルブ型MRヘッドであり、スピンバルブ層に含まれる反強磁性層は、イリジウムおよびマンガンを含む合金(以下、「IrMn系合金」ともいう)からなる。
以下に、上記(1)および(2)について順次説明する。
【0011】
前記磁気記録媒体において、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した磁性層表面の高さ10nm以上の突起数は50〜2500個/10000μm2の範囲である。磁性層表面10000μm2あたりのAFMで測定した高さ10nm以上の突起数(以下、「AFM突起数」ともいう)が上記範囲内であれば、MRヘッド素子と突起との衝突回数が減り、接触摺動時の機械的および熱的衝撃を低減し、更には接触摺動時の温度上昇を抑制することができるため、熱や衝撃により再生特性が不安定となることを防ぐことができる。また、磁気記録媒体と再生ヘッドとの摩擦力が低下するため、媒体の耐久性を高めることもできる。
ところで、高密度記録に対応したスピンバルブ型MRヘッドは、トラック幅を小さくする必要があり、それに伴いMRハイト(接触摺動面と垂直な方向のスピンバルブ層の高さ)が小さくなる。これにより、許容し得る磨耗量は少なくなり、短時間で性能が劣化しやすい。また、高密度化に伴い再生ギャップ長を小さくする必要もあるが、これに伴いスメア(MRヘッドを構成する金属材料が媒体との接触摺動時に引き延ばされて電気的なショートを起こす現象)が発生しやすくなる。これに対し、上記範囲内のAFM突起数を有する磁性層であれば、MRヘッド素子と突起との衝突回数が減るため、ヘッド磨耗を低減しヘッド寿命を延ばすことができる。また、上記衝突回数が減ることにより、スメアの発生を抑制することもできる。
他方、AFM突起数が50個未満では、ヘッド/媒体間の摩擦力が過度に高くなりヘッドへの衝撃力が増加しヘッド寿命低下および媒体耐久性低下の原因となる。また、ヘッド/媒体間の摩擦力が高いことによりヘッドへの付着物が増加し、これによりスメア発生や保存時の素子腐食が助長されるという問題もある。また、AFM突起数が2500個を超えると、MRヘッド素子と突起との衝突回数増加によりヘッドの機械的および熱的衝撃が大きくなり安定な再生特性を得ることが困難となる。更に、ヘッド磨耗およびスメア発生が顕著となり、更にはノイズが増大するという問題もある。特に、スピンバルブ型MRヘッドはAMRヘッドとくらべてはるかに高感度であるため、AMRヘッドでは問題とならなかったサイズの突起であってもノイズの原因となる。従って、AFM突起数を上記範囲とすることは、ノイズを低減し良好なSNRを得るためにも有効である。上記AFM突起数は、好ましくは100〜2500個、より好ましくは100〜1500個、特に好ましくは300〜1500個の範囲である。
【0012】
更に上記(i)を満たす前記磁気記録媒体の磁性層表面の潤滑剤量は、表面潤滑剤指数として、0.5〜5.0の範囲である。磁性層表面潤滑剤指数が0.5未満である場合および5.0超である場合はいずれも、走行時のヘッド/媒体間の摩擦力が増大しヘッドへの衝撃力増加により安定な再生特性を得ることが困難となり、更にヘッド磨耗、媒体耐久性低下およびスメア発生が顕著となる。磁性層表面潤滑剤指数は、好ましくは0.5〜4.0、より好ましくは1.0〜3.5、特に好ましくは1.5〜3.0の範囲である。
【0013】
更に驚くべきことに、本発明者らの検討の結果、磁性層表面潤滑剤指数を上記範囲とすることにより、接触摺動型システムにおいてスピンバルブ型MRヘッドの素子腐食を防ぐことができることが見出された。以下、この点について説明する。
スピンバルブ型MRヘッドはAMRヘッドに比べて素子が腐食しやすい。ハードディスクドライブではスピンバルブ型MRヘッドの最表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜のような保護膜を設けて耐腐食性を高めることが行われている。しかし、接触摺動型システムでは、スピンバルブ型MRヘッドにDLC膜を設けたとしても媒体との接触摺動時にDLC膜が削れてしまう。そのため、接触摺動型システムでは、スピンバルブ型MRヘッドにDLC膜を設けることにより、未使用期間中の耐食性を付与することは可能であるが、接触摺動を伴う使用期間中において、その耐腐食性を長時間維持することは困難である。これに対し、磁性層の表面潤滑剤指数を上記範囲とすることにより、腐食保護のためのDLC膜を有さないスピンバルブ型MRヘッドや媒体との接触摺動によりDLC膜が除去されてしまったスピンバルブ型MRヘッドにおいて保存時に素子が腐食されることを防止することができた。これは走行時の再生ヘッドと媒体との接触摺動により磁性層表面の潤滑剤がヘッド表面に転写され、これが保存時の腐食を抑制する役割を果たすためと考えられる。
【0014】
更に上記(i)および(ii)を満たす前記磁気記録媒体の磁性層の表面研磨剤占有率は、2〜20%の範囲である。磁性層表面のAFM突起数を上記範囲としつつ磁性層表面の潤滑剤量および表面研磨剤占有率を制御することにより、走行時のヘッド/媒体間の摩擦力増大を抑制し良好な走行安定性を確保できる。更にスメア発生を抑制することもできる。磁性層の表面研磨剤占有率が2%未満では、媒体の耐スクラッチ性が低下することにより媒体の耐久性が低下し、これによりヘッドがダメージを受けてヘッド寿命が低下するとともにスメア発生が助長される。一方、磁性層の表面研磨剤占有率が20%を超えると、MRヘッド素子へのダメージが大きくなりヘッド寿命が低下する。また、媒体が削れ易くヘッドへの付着物が増加し、これによりスメア発生や保存時の素子腐食が助長されてしまう。また、磨耗性が過度に高くなることもスメア発生の原因となる。磁性層の表面研磨剤占有率は、好ましくは3〜18%、より好ましくは4〜15%、更に好ましくは5〜12%の範囲である。
【0015】
以上説明したように、本発明では、上記(i)〜(iii)を満たす磁気記録媒体を使用することにより、媒体側からヘッドへの衝撃を緩和することができる。更に本発明では、再生ヘッドとしてIrMn系合金からなる反強磁性層を有するスピンバルブ型MRヘッドを使用することによりヘッド側から熱的衝撃の影響を緩和することができる。スピンバルブ型MRヘッドは、その交換磁気異方性を評価する一方向異方性定数、即ち交換結合磁界が大きく保たれ、これが消失する温度であるブロッキング温度が高い反強磁性層を用いることが望ましい。この観点から、ハードディスクドライブ用スピンバルブ型MRヘッドでは、反強磁性層材料として、ブロッキング温度が高いPtMnが広く用いられている。
これに対し、本発明者らは、PtMnよりブロッキング温度が低いIrMn系合金が、媒体と接触摺動し信号を再生する際、安定な再生特性を維持することができることを新たに見出した。これは、IrMnのブロッキング温度の低温成分(常温〜150℃程度)が少ないことによると考えられる。即ち、IrMnのブロッキング温度は約230℃にピークを有するシャープな分布をしているため、前記磁気記録媒体と接触摺動し信号を再生する際のスピンバルブ層の到達温度と予想される常温〜150℃において、安定な再生特性を維持できるのである。加えて、IrMnを反強磁性層としたスピンバルブ型MRヘッドの常温〜150℃における反強磁性層と磁化固定層(強磁性層)との間の交換結合磁界の大きさは、PtMnを反強磁性層とした場合の2倍以上の値を示すことから、反強磁性層によるピンニング効果が大きく耐熱的安定性が大幅に向上する。このことも安定な再生特性に結びついていると考えられる。
【0016】
以上説明したように、本発明は、媒体側およびヘッド側の双方から対策を講じることにより、スピンバルブ型MRヘッドの接触摺動型システムでの採用を可能にした。
以下に、前記磁気記録媒体および再生ヘッドについて、より詳細に説明する。
【0017】
磁気記録媒体
前記磁気記録媒体は、前述の(i)〜(iii)を満たす。以下に、それらの測定方法および制御方法を説明する。
【0018】
(i)AFM突起数
本発明において、磁性層表面の原子間力顕微鏡(AFM)で測定した高さ10nm以上の突起数は、磁性層表面10000μm2あたりの突起数であり、例えば、デジタルインスツルメンツ社製のナノスコープ3を使用し、稜角70度の四角錐のSiN深針で磁性層表面の30μm角中の高さ10nm以上の突起個数を512×512ピクセルの解像度で測定し、測定値を100μm角に換算することによって求められる値をいうものとする。
【0019】
AFM突起数の制御方法としては、以下の方法を任意に組み合わせて用いることができる。
・磁性層塗布液の分散条件(分散滞留時間、分散媒体の粒径等)の調整
・磁性層中の粒状物質(カーボンブラック、研磨剤等)の粒径および添加量の調整
・カレンダ処理条件(カレンダ温度、処理速度、圧力等)の調整
・磁性層塗布液の調製方法の調整
・非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を形成する場合の塗布方法の調整
【0020】
(ii)磁性層表面潤滑剤量
本発明において、磁性層表面の表面潤滑剤指数は、磁性層表面に存在する潤滑剤量の指標であり、オージェ電子分光法を用いて測定することができる。オージェ電子分光法では表面から数10オングストローム(数nm)の深さの元素を分析することができ、極表層に存在する元素とその量論的関係を知ることが可能である。磁気記録媒体の場合、オージェ電子分光法に測定されるC元素量は媒体表面に存在する潤滑剤および結合剤樹脂の量に対応する。同時にオージェ電子分光法により測定されるFe元素量は媒体表面により存在する磁性体の量に対応する。まずオージェ電子分光法により、両者の比C/Fe(a)を求めることができる。この磁気記録媒体から潤滑剤を除去して測定したC元素量は、媒体表面の結合剤樹脂の量に対応する。このときのFe元素量との比C/Fe(b)もオージェ電子分光法によって求めることができる。そして、本発明における表面潤滑剤指数は{C/Fe(a)}/{ C/Fe(b)}で表されるものである。媒体からの潤滑剤の除去は、媒体をn−ヘキサンに浸漬することにより、磁性体に吸着されていない潤滑剤を抽出、除去し、その後、磁性体に吸着されている潤滑剤をシリル化剤と反応させ誘導体化し抽出除去することによって行うことができる。
【0021】
磁性層の表面潤滑剤量は、以下の方法を任意に組み合わせることによってコントロールすることができる。
・潤滑剤の種類および添加量の調整
・磁性層および非磁性層中の結合剤量の調整
・カレンダ処理条件の調整
・磁性層塗布液分散条件の調整
・非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を形成する場合の塗布方法の調整
【0022】
(iii)磁性層の表面研磨剤占有率
本発明において、磁性層の表面研磨剤占有率は走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、加速電圧2kV、作動距離3mm、撮影倍率2万倍における反射電子像を、解像度70ピクセル/インチで1024×764ピクセルのTIFFファイルで取り込み、その後、画像解析装置としてCarlZeiss製KS400 Ver.3.0を用いて2値化し、全面積に対する研磨剤の占有面積の比率として算出した値をいうものとする。
【0023】
磁性層の表面研磨剤占有率は、以下の方法を任意に組み合わせることによってコントロールすることができる。
・研磨剤の粒径、添加量の調整
・非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を形成する場合の塗布方法の調整
・研磨剤の分散方法および磁性層塗布液との混合方法
【0024】
次に、上記調整方法について具体的に説明する。
【0025】
(a)磁性層塗布液の分散条件(分散滞留時間、分散媒体の粒径等)の調整
分散滞留時間は、分散機の先端周速および分散媒体の充填率にもよるが、例えば0.5〜10時間、好ましくは1〜7時間、更に好ましくは2〜5時間とすることができる。分散機の先端周速は5〜20m/秒が好ましく、7〜15m/秒であることがさらに好ましい。分散媒体としては、ジルコニアビーズを使用することが好ましく、その粒径は0.1〜1mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることが更に好ましい。分散媒体の充填率は30〜80%、好ましくは50〜80%とすることができる。なお本発明において充填率は体積基準で表される。分散を強化するほど磁性層表面のAFM突起数は低減する傾向にある。また、分散を強化することにより磁性層中の空隙は減少するため磁性層表面の潤滑剤量は増加する傾向にある。本発明では、以上の点を考慮して分散条件を決定することが好ましい。
【0026】
(b)磁性層中の粒状物質(カーボンブラック、研磨剤等)の粒径および添加量の調整
磁性層中のカーボンブラックの平均粒径は、例えば10〜200nm、好ましくは50〜150nm、更に好ましくは70〜120nmである。磁性層中のカーボンブラック量は、強磁性粉末100質量部あたり0.1〜5質量部とすることが好ましく、0.5〜2質量部とすることが更に好ましい。磁性層中の研磨剤の平均粒径は、例えば10〜150nm、好ましくは30〜150nm、更に好ましくは50〜120nmである。磁性層中の研磨剤量は、強磁性粉末100質量部あたり1〜20質量部とすることが好ましく、3〜15質量部とすることが更に好ましい。磁性層中のカーボンブラックおよび研磨剤の詳細は後述する。磁性層中のカーボンブラックの粒径および添加量によって磁性層表面のAFM突起数を制御することができる。また、磁性層中の研磨剤の粒径および添加量によって磁性層表面のAFM突起数および表面研磨剤占有率を調整することができる。
【0027】
(c)カレンダ条件(カレンダ温度、処理速度、圧力等)の調整
カレンダ条件としては、カレンダロールの種類および段数、カレンダ圧力、カレンダ温度、カレンダ速度等を挙げることができる。カレンダを強化するほど磁性層表面平滑性は高まりAFM突起数は減少する傾向にある。カレンダ圧力は、例えば200〜500kN/m、好ましくは250〜350kN/mであり、カレンダ温度は、例えば70〜120℃、好ましくは80〜100℃であり、カレンダ速度は、例えば50〜300m/min、好ましくは100〜200m/minである。また、カレンダロールとして表面が硬いロールを使用するほど、また段数を増やすほど、磁性層表面は平滑化する傾向にあるためカレンダロールの組み合わせや段数によって突起数を調整することができる。また、カレンダ条件を強化するほど磁性層ごく表面の空隙が減少し、潤滑剤の磁性層表面への供給が抑制され、表面潤滑剤量は減少する傾向にある。本発明では、以上の点を考慮してカレンダ条件を決定することが好ましい。
【0028】
(d)磁性層塗布液の調製方法
磁性層塗布液中の粒状物質の凝集は粗大突起形成の原因となるため、凝集しやすい粒状物質は別分散することが好ましい。例えば、粒状物質である研磨剤および/またはカーボンブラックを別分散した後、磁性層塗布液に添加することにより粗大な磁性層表面突起数を低減する一方で微小な磁性層表面突起数を増やすことができる。
【0029】
(e)非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を形成する場合の塗布方法
(i)非磁性層塗布液を塗布、乾燥させた後に磁性層塗布液を塗布する逐次重層塗布(wet on dry)を行うこと、(ii)上記(i)における非磁性層形成方法(塗布方法、カレンダ処理、サーモ処理等の調整)によってAFM突起数を制御することができる。また、非磁性層塗布液が乾燥した後に磁性層塗布液が塗布されるWet on dry塗布方式では、Wet on wet塗布方式と比べて磁性層塗布時の塗りつけ液量が少ないため、乾燥速度が非常に速く磁性液中の物質移動速度が速くなり、またカレンダ処理時の表面研磨剤の磁性層への沈み込みが抑制されるため、表面研磨剤占有率が高くなる傾向にある。また、Wet on dry塗布方式では、乾燥時の磁性層と非磁性層間の潤滑剤マイグレーションが抑制され、磁性層塗布液中の潤滑剤添加量が表面潤滑剤指数に与える影響が大きくなる。また、非磁性層塗布液が乾燥した後に磁性層塗布液が塗布することにより、磁性層塗布液の乾燥速度が速くWet on wet塗布では実現できない物質移動速度を達成できるため、Wet on dry塗布方式を採用することは表面潤滑剤指数のコントロールに有効である。
さらに、非磁性層の塗布厚、非磁性層塗布後のカレンダ処理有無・条件、非磁性層塗布後原反のサーモ処理有無・条件によって、これら表面研磨剤占有率、表面潤滑剤指数を制御することができる。
【0030】
(f)磁性層および非磁性層中の潤滑剤の種類および添加量の調整
磁性層および非磁性層中の潤滑剤の種類および添加量は、例えば特開2003−132516号公報の記載を参照し設定することができる。更にWet on dry塗布方式を採用すれば、乾燥時における非磁性層と磁性層間の潤滑剤マイグレーションが抑制されるため、各層個別の潤滑剤種類・添加量の設計が可能となる。例えば、表面潤滑剤指数を増やすために、Wet on wet塗布では乾燥時の潤滑剤マイグレーションを考慮して、磁性層と非磁性層両方の潤滑剤添加量を増やす必要あるが、この場合には塗膜全体の可塑化が進み、塗膜強度の低下等が発生する場合がある。これに対し、Wet on dry塗布では、磁性層と非磁性層間の潤滑剤マイグレーションは抑制されるため、磁性層塗布液のみの潤滑剤添加量を増やすことで表面潤滑剤指数を増やすことができ、塗膜全体の強度の低下を防ぐことができる。
【0031】
(g)磁性層および非磁性層の結合剤量
表面に存在する潤滑剤の量は、特開2003−132516号公報に記載されているように、潤滑剤と磁性体を分散している結合剤の相溶性からコントロールできる。更に、Wet on dry塗布を採用すれば、この点でも磁性層と非磁性層の結合剤の種類、添加量の選択の自由度が広がる。例えば、Wet on wet塗布では磁性層と非磁性層の乾燥収縮差による表面性劣化の問題から、一般に、両層のバインダ構造や添加量が著しく異なる設計をすることが困難であった。これに対し、Wet on dry塗布方式では、同様な問題を回避することができるため、非磁性層塗布液では、粉体の分散性を重視して、結合材の添加量を増やし、磁性層塗布液では、表面潤滑剤と分散性を考慮したバインダ量を設定することが可能となる。
【0032】
次に、前記磁気記録媒体の詳細を説明する。
【0033】
[磁性層]
前記磁気記録媒体は、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する。磁性層に含まれる強磁性粉末としては、強磁性金属粉末および六方晶フェライト粉末を挙げることができる。一般に、六方晶フェライト粉末は強磁性金属粉末と比べて高硬度であり塑性変形し難く、また六方晶フェライト粉末を含む磁性層は強磁性金属粉末を含む磁性層と比べてヘッドとの接触面積が小さい傾向にある。磁性層表面が硬くなり、かつ接触面積が小さくなることで走行初期の摩擦力(初期摩擦力)を低く抑えることができ、更に初期摩擦力を低く抑えることにより繰り返し走行による摩擦力変化(μ値上昇)を抑制することができる。そのため、六方晶フェライト粉末を使用することは、走行安定性確保の点で有利である。
【0034】
本発明において使用される六方晶フェライト粉末としては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトおよびこれらの各種の各置換体、Co置換体等を挙げることができる。具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有した複合マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他所定の原子以外にAl、Si、S、Nb、Sn、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Au、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sn−Zn−Co、Sn−Co−Ti、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用することができる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。平均板径は、10〜50nmであることが好ましく、より好ましくは10〜30nm、更に好ましくは15〜25nmである。特に、トラック密度を上げるため磁気抵抗ヘッド(MRヘッド)で再生する場合、低ノイズにする必要があり、平均板径は50nm以下であることが好ましいが、10nmより小さいと熱揺らぎのため安定な磁化が望めない。50nmより大きいとノイズが高く、いずれも高密度磁気記録には向かない。平均板厚は、4〜15nmであることが好ましい。平均板厚が4nm以上であれば、安定生産が可能であり、平均板厚が15nm以下であれば、十分な配向性を得ることができる。
【0035】
板状比(板径/板厚)は1〜15であることが好ましく、より好ましくは1〜7である。板状比が小さいと磁性層中の充填性は高くなり好ましいが、十分な配向性が得られない。15より大きいと粉体間のスタッキングによりノイズが大きくなる。この粉体サイズ範囲のBET法による比表面積は30〜200m2/gを示す。比表面積は概ね粉体板径と板厚からの算術計算値と符号する。粉体板径・板厚の分布は狭いほど好ましい。数値化は困難であるが、粉体TEM(透過型電子顕微鏡)写真より約500個を無作為に測定することで比較できる。分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すとσ/平均粉体サイズ=0.1〜1.5である。粉体サイズ分布をシャープにするには粉体生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粉体に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粉体を選別的に溶解する方法等も知られている。ガラス化結晶法によれば、熱処理を複数回行い、核生成と成長を分離することでより均一な粉体を得ることができる。
【0036】
一般に、抗磁力Hcが40〜398kA/m程度の六方晶フェライト粉末は作製可能である。高Hcの方が高密度記録に有利であるが、記録ヘッドの能力で制限される。Hcは粉体サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粉体生成反応条件等により制御できる。飽和磁化σsは30〜70A・m2/kgであることができる。σsは、微粉体になるほど小さくなる傾向がある。σs改良のためには、結晶化温度、または熱処理温度時間を小さくする方法、添加する化合物を増量する、表面処理量を多くする方法等がある。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。六方晶フェライト粉末を分散する際に六方晶フェライト粉末表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機化合物、有機化合物を使用することができる。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は六方晶フェライト粉末に対して0.1〜10質量%とすることができる。六方晶フェライト粉末のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。六方晶フェライト粉末に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.1〜2.0質量%が選ばれる。
【0037】
六方晶フェライトの製法としては、(1)炭酸バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス化結晶法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱後、洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。
【0038】
強磁性金属粉末としては、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末を用いることが好ましい。強磁性金属粉末には、所定の原子以外にAl、Si、Ca、Mg、Ti、Cr、Cu、Y、Sn、Sb、Ba、W、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Ca、Mg、Y、Ba、La、Nd、Sm、Co、Niの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましい。CoはFeと合金を作ると飽和磁化が増加し、かつ減磁が改良されるので特に好ましい。Coの含有量はFeに対して1原子%〜40原子%であることが好ましく、さらに好ましくは15原子%〜35原子%、より好ましくは20原子%〜35原子%である。Y等の希土類元素の含有量は、Feに対して1.5原子%〜12原子%であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%〜10原子%、より好ましくは4原子%〜9原子%である。Al含有量はFeに対して1.5原子%〜12原子%であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%〜10原子%、より好ましくは4原子%〜9原子%である。Yを含む希土類やAlは焼結防止剤として機能し、組合わせて使用することでより高い焼結防止効果が得られる。これらの強磁性金属粉末には、後述する分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。具体的には、特公昭44−14090号公報、特公昭45−18372号公報、特公昭47−22062号公報、特公昭47−22513号公報、特公昭46−28466号公報、特公昭46−38755号公報、特公昭47−4286号公報、特公昭47−12422号公報、特公昭47−17284号公報、特公昭47−18509号公報、特公昭47−18573号公報、特公昭39−10307号公報、特公昭46−39639号公報、米国特許第3026215号、同3031341号、同3100194号、同3242005号、同3389014号などに記載されている。
【0039】
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、または酸化物が含まれてもよい。強磁性金属粉末としては、公知の製造方法により得られたものを用いることができる。強磁性金属粉末の製造方法としては、下記の方法を挙げることができる。焼結防止処理を行った含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFeあるいはFe−Co粒子などを得る方法、複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末には、公知の徐酸化処理を施すことができる。徐酸化処理としては、含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元し、酸素含有ガスと不活性ガスの分圧、温度、時間を制御して表面に酸化皮膜を形成する方法が、減磁量が少なく好ましい。
【0040】
強磁性金属粉末のBET法による比表面積(SBET)は、40〜80m2/gであることが好ましく、より好ましくは45〜70m2/gである。40m2/g以上であれば低ノイズであり、80m2/g以下であれば表面平滑性が高く好ましい。強磁性金属粉末の結晶子サイズは8〜18nmであることが好ましく、好ましくは10〜17nm、更に好ましくは11〜16.5nmである。強磁性金属粉末の平均長軸長は、25〜100nmであることが好ましく、より好ましくは25〜50nm、更に好ましくは25〜40nmである。強磁性金属粉末の平均長軸長が25nm以上であれば、熱揺らぎによる磁化の損失を招くことがなく、100nm以下であれば、ノイズ上昇によるエラーレート悪化を回避することができる。強磁性金属粉末の平均針状比{(長軸長/短軸長)の平均}は3〜15であることが好ましく、さらには3〜10であることが好ましい。強磁性金属粉末の飽和磁化σsは90〜170A・m2/kgであることが好ましく、より好ましくは100〜160A・m2/kg、更に好ましくは110〜160A・m2/kgである。強磁性金属粉末の抗磁力は135〜279kA/mであることが好ましく、更に好ましくは142〜239kA/mである。
【0041】
強磁性金属粉末の含水率は0.1〜2質量%とすることが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率を最適化することが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は6〜12とすることができ、好ましくは7〜11である。強磁性金属粉末のSA(ステアリン酸)吸着量(表面の塩基性点の尺度)は1〜15μmol/m2とすることができ、好ましくは2〜10μmol/m2、さらに好ましくは3〜8μmol/m2である。ステアリン酸吸着量が多い強磁性金属粉末を使用する場合は、表面に強く吸着する有機物で強磁性金属粉末の表面を修飾して磁気記録媒体を作製することが好ましい。強磁性金属粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Sr、NH4、SO4、Cl、NO2、NO3などの無機イオンが含まれる場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、各イオンの総和が300ppm以下程度であれば、特性には影響しない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は、空孔が少ない方が好ましく、その値は20容量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5容量%以下である。またその形状は、先に示した粉体サイズ、磁気特性を満足すれば針状、米粒状、紡錘状のいずれでもよく、特に、針状であることが好ましい。強磁性金属粉末自体のSFD(switching−field distribution)は小さい方が好ましい。磁気記録媒体のSFDが小さいと、磁化反転がシャープでピークシフトが小さくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。強磁性金属粉末のHc分布は小さくすることが好ましい。Hc分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲータイトの粒度分布を良くする、単分散αFe23を使用する、粒子間の焼結を防止するなどの方法がある。
【0042】
磁性層に使用され得るカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、pHは2〜10、含水率は0.1〜10質量%、タップ密度は0.1〜1g/cc、であることがそれぞれ好ましい。また、前述のように平均粒子サイズは10〜200nmであることが好ましい。磁性層に使用されるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化学製#2400B、#2300、#900、#1000#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン製CONDUCTEX SC、RAVEN 150、50、40、15、RAVEN−MT−P、アクゾー社製ケッチェンブラックEC、等が挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを磁性層塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合は、前述のように強磁性粉末100質量部に対して0.1〜5質量部で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。従って本発明では、所望の物性が得られるように、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性をもとに、使用するカーボンブラックの種類や量を選択することが好ましい。本発明において使用され得るカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧(カーボンブラック協会編)」を参考にすることができる。
【0043】
研磨剤としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料を単独または組合せて使用することができる。モース硬度6以上であれば塗膜強度が高い磁性層を形成することができ、これにより十分な走行耐久性を得ることができる。モース硬度が高い研磨剤を使用するほど磁性層塗膜強度を高くすることができ、かつ少ない添加量でも所望の特性を得ることができる。モース硬度については、特に8以上が好ましく、さらには9以上が好ましく、最大値である10であることが最も好ましい。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90質量%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の粒子サイズについては、前述の通り、平均粒径で、例えば10〜150nm、好ましくは30〜150nm、更に好ましくは50〜120nmの範囲である。特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gが好ましい。本発明に用いられる研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、板状のいずれでもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。研磨剤の具体例としては、住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT−20、HIT−30、HIT−55、HIT−60、HIT−70、HIT−80、HIT−100、レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製WA10000、上村工業社製UB20、日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製TF100、TF140、イビデン社製ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製B−3などが挙げられる。これらの研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0044】
磁性層に使用される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを使用することができる。このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂が挙げられる。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については、朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
【0045】
ポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、OH、NR2、N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、SH、CN、などから選ばれる少なくとも一つ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gとすることができ、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0046】
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはユニオンカーバイト製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡製バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280、大日精化製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化学製MX5004、三洋化成製サンプレンSP−150、旭化成製サランF310、F210などが挙げられる。
【0047】
また、本発明では特開2003−132516号公報に記載されているように、表面潤滑剤指数のコントロールのために、潤滑剤と強磁性粉末を分散している結合剤との相溶性を考慮して結合剤の種類や添加量を調整することが好ましい。相溶性が高い場合は、磁性層内部に潤滑剤が溶け込むことによって、表面量を少なくすることができる。相溶性が低い場合には、その逆に表面量を高めることができる。従って、この相溶性の観点から潤滑剤の種類や結合剤の種類、結合剤樹脂組成物の混合比(塩化ビニル−ウレタン樹脂−硬化剤の比)、P/B比(磁性体等の無機粉体と結合剤樹脂の比)等を最適化することが好ましい。磁性層に用いられる結合剤は強磁性粉末に対し、通常、5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が通常、−50〜150℃、好ましくは0〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.49〜98MPa、降伏点は0.49〜98MPaのものを用いることが好ましい。
【0048】
本発明に用いるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMRミリオネートMTL、武田薬品製タケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル製デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールNデスモジュールHL、等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで用いることができる。
【0049】
磁性層には、潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果などをもつ添加剤を使用することができる。具体的には、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、αナフチル燐酸、フェニル燐酸、ジフェニル燐酸、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、およびこれらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)または、炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数12〜22のアルコキシアルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)とからなるモノ脂肪酸エステルまたはジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステル、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミン、などが使用できる。
【0050】
これらの具体例としては、脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、などが挙げられる。エステル類ではブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−オクチルドデシルパルミテート、2−ヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイル、アルコール類ではオレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、などが挙げられる。また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体、等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類、等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基、などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸または燐酸エステル類、アルキルベダイン型、等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。これらの潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも100%純粋ではなくてもよく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分量は30質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。一般には潤滑剤の総量は、強磁性粉末に対し、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%の範囲とすることができる。
【0051】
[非磁性層]
前記磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することもできる。非磁性層に含まれる非磁性粉末は、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機質化合物から選択することができる。無機化合物としては、例えばα化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを単独または組合せで使用することができる。特に好ましいものは、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムであり、更に好ましいものは二酸化チタンである。
【0052】
これら非磁性粉末の平均粒径は0.005〜2μmであることが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましくは、非磁性粉末の平均粒径は0.01μm〜0.2μmである。非磁性粉末のpHは6〜9の間であることが特に好ましい。非磁性粉末の比表面積は、1〜100m2/gであることが好ましく、より好ましくは5〜50m2/g、更に好ましくは7〜40m2/gである。非磁性粉末の結晶子サイズは0.01μm〜2μmであることが好ましい。DBPを用いた吸油量は5〜100ml/100gであることが好ましく、より好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。比重は1〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。
【0053】
これらの非磁性粉末の表面には、表面処理によってAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいものは、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2であり、更に好ましいものは、Al23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いても良いし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0054】
非磁性層にカーボンブラックを混合させて公知の効果であるRsを下げることができるとともに、所望のマイクロビッカース硬度を得る事ができる。このためにはゴム用ファーネスブラック、ゴム用サーマルブラック、カラー用カーボンブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。カーボンブラックの比表面積は100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gであることがそれぞれ適当である。カーボンブラックの平均粒径は5〜80nm、好ましくは10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmであることが適当である。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlであることがそれぞれ好ましい。本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化成工業社製#3050B、3150B、3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN 8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、アクゾー社製ケッチェンブラックEC等が挙げられる。
【0055】
非磁性層に使用する結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
以上の材料により調製した非磁性層塗布液を非磁性支持体上に塗布して非磁性層を形成することができる。
【0056】
本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層塗布液および非磁性層塗布液製造のどの工程で添加してもかまわない、例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。また、目的に応じて磁性層を塗布した後、同時または逐次塗布で、添加剤の一部または全部を塗布することにより目的が達成される場合がある。また、目的によってはカレンダーした後、またはスリット終了後、磁性層表面に潤滑剤を塗布することもできる。本発明は、公知の有機溶剤を使用することができ、例えば特開昭6−68453に号公報記載の溶剤を用いることができる。
【0057】
[層構成]
前記磁気記録媒体において、非磁性支持体の厚さは、例えば2〜100μm、好ましくは2〜80μmである。コンピューターテープの場合、非磁性支持体としては、3.0〜6.5μm(好ましくは、3.0〜6.0μm、更に好ましくは、4.0〜5.5μm)の範囲の厚さのものを使用することができる。
【0058】
非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に密着性向上のための下塗層を設けてもかまわない。本下塗層厚みは、例えば0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.5μmである。本発明の磁気記録媒体は、支持体両面に非磁性層と磁性層を設けてなるディスク状媒体であっても、片面のみに設けたテープ状媒体またはディスク状媒体でもよい。この場合、帯電防止やカール補正などの効果を出すために非磁性層、磁性層側と反対側にバックコート層を設けてもかまわない。この厚みは、例えば0.1〜4μm、好ましくは0.3〜2.0μmである。これらの下塗層、バックコート層は公知のものが使用できる。
【0059】
前記磁気記録媒体において、磁性層の厚みは用いるヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものである。前記磁気記録媒体において、磁性層の厚さは10〜150nmであることが好ましく、より好ましくは20〜100nmである。磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0060】
非磁性層の厚みは通常、0.2〜5.0μm、好ましくは0.3〜3.0μm、さらに好ましくは1.0〜2.5μmである。なお、非磁性層は実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、または意図的に少量の磁性体を含んでも、本発明の効果を示すものであり、本発明と実質的に同一の構成と見なすことができることは言うまでもない。
【0061】
[バックコート層]
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して、繰り返し走行性が強く要求される。このような高い走行耐久性を維持させるために、バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。
【0062】
カーボンブラックとしては、平均粒子径の異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、平均粒子サイズが10〜50nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子サイズが70〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0063】
微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。なお、括弧内は平均粒子サイズである。
BLACK PEARLS 800(17nm)、BLACK PEARLS 1400(13nm)、BLACK PEARLS 1300(13nm)、BLACK PEARLS 1100(14nm)、BLACK PEARLS 1000(16nm)、BLACK PEARLS 900(15nm)、BLACK PEARLS 880(16nm)、BLACK PEARLS 4630(19nm)、BLACK PEARLS 460(28nm)、BLACK PEARLS 430(28nm)、BLACK PEARLS 280(45nm)、MONARCH 800(17nm)、MONARCH 14000(13nm)、MONARCH 1300(13nm)、MONARCH 1100(14nm)、MONARCH 1000(16nm)、MONARCH 900(15nm)、MONARCH 880(16nm)、MONARCH 630(19nm)、MONARCH 430(28nm)、MONARCH 280(45nm)、REGAL 330(25nm)、REGAL 250(34nm)、REGAL 99(38nm)、REGAL 400(25nm)、REGAL 660(24nm)(以上、キャボット社製)、RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)、Raven 7000(11nm)、Raven 5750(12nm)、Raven 5250(16nm)、Raven 3500(13nm)、Raven 2500 ULTRA(13nm)、Raven 2000(18nm)、Raven 1500(17nm)、Raven 1255(21nm)、Raven 1250(20nm)、Raven 1190 ULTRA(21nm)、Raven 1170(21nm)、Raven 1100 ULTRA(32nm)、Raven 1080 ULTRA(28nm)、Raven 1060 ULTRA(30nm)、Raven 1040(28nm)、Raven 880 ULTRA(30nm)、Raven 860(39nm)、Raven 850(34nm)、Raven 820(32nm)、Raven 790 ULTRA(30nm)、Raven 780 ULTRA(29nm)、Raven 760 ULTRA(30nm)(以上、コロンビアンカーボン社製)、旭#90(19nm)、旭#80(22nm)、旭#70(28nm)、旭F−200(35nm)、旭#60HN(40nm)、旭#60(45nm)、HS−500(38nm)、旭#51(38nm)(以上、旭カーボン社製)、#2700(13nm)、#2650(13nm)、#2400(14nm)、#1000(18nm)、#950(16nm)、#850(17nm)、#750(22nm)、#650(22nm)、#52(27nm)、#50(28nm)、#40(24nm)、#30(30nm)、#25(47nm)、#95(40nm)、CF9(40nm)(以上、三菱化学社製)、PRINNTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(16nm)(三菱化成工業(株)製)。
【0064】
粗粒子カーボンブラックの具体的な商品の例としては、BLACK PEARLS 130(75nm)、MONARCH 120(75nm)、Regal99(100nm)(以上、キャボット社製)、Raven 450(75nm)、Raven 420(86nm)、Raven 410(101nm)、Raven 22(83nm)、RAVEN MTP(275nm)(以上、コロンビアンカーボン社製)、旭50H(85nm)、旭#51(91nm)、旭#50(80nm)、旭#35(78nm)、旭#15(122nm)(以上、旭カーボン社製)、#10(75nm)、#5(76nm)、#4010(75nm)(以上、三菱化学社製)、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製)を挙げることができる。
【0065】
バックコート層において、平均粒子サイズの異なる二種類のものを使用する場合、平均粒子サイズ10〜50nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子サイズ70〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(質量比)は、前者/後者=100/0.5〜100/100の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、100/1〜100/50の範囲である。
バックコート層中のカーボンブラック(二種類のものを使用する場合には、その全量)の含有量は、結合剤100質量部に対して、通常30〜100質量部の範囲であり、好ましくは、45〜95質量部の範囲である。
【0066】
無機粉末は、硬さの異なる二種類のものを併用することが好ましい。具体的には、モース硬度3〜4.5の軟質無機粉末とモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを使用することが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末を添加することで、繰り返し走行による摩擦係数の安定化を図ることができる。しかもこの範囲の硬さでは、接触摺動ガイドポールが削られることもない。またこの無機粉末の平均粒子径は、30〜50nmの範囲にあることが好ましい。
【0067】
モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末としては、例えば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、および酸化亜鉛を挙げることができる。これらは、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
バックコート層内の軟質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して10〜140質量部の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、35〜100質量部である。
【0069】
モース硬度が5〜9の硬質無機粉末を添加することにより、バックコート層の強度が強化され、走行耐久性が向上する。これらの無機粉末をカーボンブラックや前記軟質無機粉末と共に使用すると、繰り返し接触摺動に対しても劣化が少なく、強いバックコート層となる。またこの無機粉末の添加により、適度の研磨力が付与され、テープガイドポール等への削り屑の付着が低減する。特に軟質無機粉末と併用すると、表面の粗いガイドポールに対しての接触摺動特性が向上し、バックコート層の摩擦係数の安定化も図ることができる。硬質無機粉末の平均粒子サイズは80〜250nm(更に好ましくは、100〜210nm)の範囲にあることが好ましい。
【0070】
モース硬度が5〜9の硬質無機質粉末としては、例えば、α−酸化鉄、α−アルミナ、および酸化クロム(Cr23)を挙げることができる。これらの粉末は、それぞれ単独で用いても良いし、または併用しても良い。これらの内では、α−酸化鉄またはα−アルミナが好ましい。硬質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して通常3〜30質量部であり、好ましくは、3〜20質量部である。
【0071】
バックコート層に前記軟質無機粉末と硬質無機粉末とを併用する場合、軟質無機粉末と硬質無機粉末との硬さの差が、2以上(更に好ましくは、2.5以上、特に好ましくは3以上)であるように軟質無機粉末と硬質無機粉末とを選択して使用することが好ましい。バックコート層には、前記それぞれ特定の平均粒子サイズを有するモース硬度の異なる二種類の無機粉末と、前記平均粒子サイズの異なる二種類のカーボンブラックとが含有されていることが好ましい。
【0072】
バックコート層には、潤滑剤を含有させることができる。潤滑剤は、前述した非磁性層、または磁性層に使用できる潤滑剤として挙げた潤滑剤の中から適宜選択して使用できる。バックコート層において、潤滑剤は、結合剤100質量部に対して通常1〜5質量部の範囲で添加される。
【0073】
[非磁性支持体]
非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ガラス転移温度が100℃以上の支持体を用いることが好ましく、ポリエチレンナフタレート、アラミドなどの高強度支持体を用いることが特に好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため、特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などを行ってもよい。
【0074】
非磁性支持体としては、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した中心面平均表面粗さRaが8.0nm以下、好ましくは4.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下のものを使用することが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さが小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。支持体の最大高さRmaxは1μm以下、十点平均粗さRzは0.5μm以下、中心面山高さはRpは0.5μm以下、中心面谷深さRvは0.5μm以下、中心面面積率Srは10%以上、90%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下であることがそれぞれ好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールすることができ、0.01μmから1μmの大きさのもの各々を0.1mm2あたり0個から2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0075】
本発明に用いられる支持体のF−5値は好ましくは49〜490MPaである。また、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は49〜980MPa、弾性率は0.98〜19.6GPaであることがそれぞれ好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であることが好ましく、より好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であることが好ましく、より好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0076】
[製法]
前記磁気記録媒体を製造するために使用される磁性層塗布液、更には非磁性層塗布液を調製する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上にわかれていてもかまわない。本発明に使用する強磁性粉末、非磁性粉体、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は強磁性粉末または非磁性粉体と結合剤のすべてまたはその一部(ただし全結合剤の30質量%以上が好ましい)および強磁性粉末100質量部に対し15〜500質量部の範囲で混練処理することができる。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液および非磁性層塗布液を分散させるためにはガラスビーズを用いることができ、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズを用いることが好ましく、前述の通りジルコニアビーズを使用することが特に好ましい。これら分散メディアの粒径と充填率等の分散条件の詳細は先に説明した通りである。分散機は公知のものを使用することができる。
【0077】
本発明で重層構成の磁気記録媒体を塗布する場合には、前述のように、非磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥させた後、その上に磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥させる方法(Wet on dry)を用いることが好ましい。
また、非磁性層塗布液が湿潤状態にあるうちに、その上に磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥させる方法(Wet on wet)を用いる場合には、以下のような方式を用いることが好ましい。第一に磁性塗料の塗布で一般的に用いられるグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等により、まず非磁性層を塗布し、非磁性層がウェット状態のうちに特公平1−46186号公報や特開昭60−238179号公報、特開平2−265672号公報に開示されている支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により磁性層を塗布する方法;第二に特開昭63−88080号公報、特開平2−17971号公報、特開平2−265672号公報に開示されているような塗布液通液スリットを二つ内蔵する一つの塗布ヘッドにより上下層をほぼ同時に塗布する方法;第三に特開平2−174965号公報に開示されているバックアップロール付きエクストルージョン塗布装置により上下層をほぼ同時に塗布する方法である。なお、磁性粒子の凝集による磁気記録媒体の電磁変換特性等の低下を防止するため、特開昭62−95174号公報や特開平1−236968号公報に開示されているような方法により塗布ヘッド内部の塗布液にせん断を付与することが望ましい。さらに、塗布液の粘度については、特開平3−8471号公報に開示されている数値範囲を満足することが好ましい。
各層用塗布液の塗布には、磁性塗料の塗布で一般的に用いられるグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等を用いることができる。
【0078】
上記塗布、乾燥後、通常、磁気記録媒体にカレンダー処理を施す。カレンダー処理の詳細は先に説明した通りである。
【0079】
[物理特性]
前記磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は温度−10℃〜40℃、湿度0%〜95%の範囲において0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下、表面固有抵抗は好ましくは磁性面104〜1012オーム/sq、帯電位は−500Vから+500V以内であることが好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は面内各方向で好ましくは980〜19600MPa、破断強度は好ましくは98〜686MPa、磁気記録媒体の弾性率は面内各方向で好ましくは980〜14700MPa、残留のびは好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50℃以上120℃以下であることが好ましく、下層非磁性層のそれは0℃〜100℃であることが好ましい。損失弾性率は1×103〜8×104N/cm2の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向で10%以内でほぼ等しいことが好ましい。磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。
【0080】
磁性層の表面粗さRaは、好ましくは3nm以下、より好ましくは1〜2nmである。磁性層の最大高さRmaxは0.5μm以下、十点平均粗さRzは0.3μm以下、中心面山高さRpは0.3μm以下、中心面谷深さRvは0.3μm以下、中心面面積率Srは20〜80%、平均波長λaは5〜300μmであることがそれぞれ好ましい。
【0081】
前記磁気記録媒体が非磁性層と磁性層とを有する場合、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りを良くするなどである。
【0082】
[磁気ヘッド]
本発明において使用される再生ヘッドは、スピンバルブ層を有する磁気抵抗効果型磁気ヘッド(スピンバルブ型MRヘッド)である。
本発明では、高感度なスピンバルブ型MRヘッドを接触摺動型システムにおいて採用するために、前記磁気記録媒体を使用することにより媒体側から接触摺動時の衝撃を緩和するとともに、再生ヘッドとして反強磁性層がIrMn系合金からなるスピンバルブ型MRヘッドを使用する。これにより、媒体側、ヘッド側の双方から、媒体との接触摺動時のヘッドが受ける熱的および機械的衝撃を緩和することができ、従来接触摺動型システムにおける採用が困難とされていたスピンバルブ型MRヘッドを、接触摺動型システムにおいて採用することが可能になった。
記録の高密度化が進行したとしても、高密度記録された信号を高感度に読み取ることができなければ、優れた電磁変換特性を得ることはできない。本発明では、従来接触摺動型システムで採用されていたAMRヘッドと比べてはるかに高感度であるスピンバルブ型MRヘッドを採用することにより、接触摺動型システムにおいて高密度記録された信号を高感度に再生することができる。これにより、接触摺動型システムにおいて更なる高密度化を図ることが可能となる。
【0083】
スピンバルブ型MRヘッドは、少なくとも、磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層を含む層構成を有する。磁化固定層は、反強磁性層によって磁化方向が固定されるのに対し、磁化自由層の磁化方向は外部磁界によって変化する。磁化固定層の磁化方向を、変化する外部磁界の方向と平行にし、外部磁場がないときの磁化自由層の磁化方向を外部磁界方向と直角にしておくと、磁化自由層の磁化方向が外部磁界によって、磁化固定層の磁化方向に対して、逆方向(反平行)となるとき、スピンバルブ層に流れる電流の抵抗値が最大となる。一方、磁化自由層の磁化方向が磁化固定層の磁化方向に対して、同一方向(平行)となるときに、スピンバルブ層に流れる電流の抵抗値が最小となる。スピンバルブ型MRヘッドは、上記のように印加される外部磁界に応じて変化する抵抗値を読み取ることによって、磁気記録媒体に記録された信号を検出することができる。
【0084】
以下に、図1に基づき、本発明において使用可能なスピンバルブ型MRヘッドについて説明する。但し、本発明において使用されるスピンバルブ型MRヘッドは、図1に示す態様に限定されるものではない。
【0085】
図1は、スピンバルブ型MRヘッドの主要部を示す断面図である。磁気記録媒体と接触摺動して信号を再生する場合、図1に示す面が媒体との接触面となり信号を再生する。図1に示すスピンバルブ型ヘッドは、基板上に、第一シールド層1、第一ギャップ層2、スピンバルブ層3、第二ギャップ層4、第二シールド層5をこの順に有し、さらに、バイアス磁界を生成する一対の硬質磁性層6、スピンバルブ層にセンス電流を印加する一対の電極層7を有する。但し、各層の積層順序は、図1に示す態様に限定されるものではなく、適宜変更し得るものである。
【0086】
基板は、膨張率、熱伝導性、電気伝導性、加工性、耐磨耗性などを考慮して適宜選択可能である。基板材料としては、例えばアルチック(Al23・TiC)等が利用できる。基板の厚さは、通常0.5〜10mm程度であるが、特に限定されるものではない。
【0087】
第一および第二シールド層は、スピンバルブ層を磁気的にシールドする役割を果たすことができ、良好な軟磁性を示し、かつ磨耗腐食に優れた材料から構成することが好ましい。例えば、磁性材料であるFe−Si−Al系合金(センダスト)、Ni−Fe系合金(パーマロイ)、Ni−Zn系合金(ヘマタイト)等の多結晶フェライト等から構成することができる。中でも、スメア発生を抑制するためには、第一シールド層および第二シールド層の少なくとも一方の層において、信号再生時に磁気記録媒体と接触する面がCoZrTaやCoZrNb等のコバルトを主体とするアモルファス合金(以下、「コバルト系アモルファス合金」ともいう)からなることが好ましい。一般に、スメアは媒体との接触摺動時に上流に位置する面で生じやすい。ディスク状媒体は信号再生時の走行方向が一方向であるため、少なくとも走行時に上流側となるシールド層の媒体との接触面をコバルト系アモルファス合金から構成することが好ましい。一方、テープ状媒体は信号再生時にヘッド上を往復するため、第一シールド層、第二シールド層とも走行時に上流側に位置し得る。そのためテープ状媒体上の信号を再生する場合は第一シールド層および第二シールド層の両層において、媒体との接触面をコバルト系アモルファス合金から構成することが好ましい。
【0088】
磁化自由層が第一シールド層と第二シールド層との間の略中心に位置するように第一ギャップ層および第二ギャップ層の厚さを調整することが好ましい。第一シールド層と第二シールド層との間の距離(シールド間距離)は、通常40nm〜200nm程度であり、必要な線記録密度に対応して決定することができる。例えば、線記録密度が300〜600KBPI(キロビット/インチ)の場合、60〜160nm程度とすることができる。
【0089】
第一ギャップ層および第二ギャップ層は、スピンバルブ層と一対のシールド層とを磁気的に隔離する役割を果たすことができ、例えば、非磁性材料であるアルミナ(Al23)、酸化シリコン(SiO2)等から構成することができる。
【0090】
第一シールド層、第二シールド層、第一ギャップ層および第二ギャップ層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば第一および第二シールド層は、それぞれ1〜5μm程度とすることができ、第一および第二ギャップ層の厚さは、それぞれ10〜100nm程度とすることができる。
【0091】
前記MRヘッドは、上記の各層に加えて、任意の層を有することもできる。例えば、基板と第一シールド層との間に、絶縁層を有することができる。絶縁層は、例えば、絶縁性材料であるアルミナ(Al23)やシリカ(SiO2)等から構成することができる。また、基板と反対の面上(図1中、第二シールド層上)に、記録用ヘッド(例えばインダクティブヘッド)や保護層、保護板等を有することもできる。記録ヘッドは、通常、高磁束密度(例えば1.6T以上)の磁極と薄膜コイルによって構成される。保護層は、一般に非磁性材料で構成され、各種材料が利用可能であり、例えば、前記した絶縁層と同様に、絶縁性材料であるアルミナ(Al23)やシリカ(SiO2)等から構成することができる。保護層の材料としては、非磁性導電性の材料であれば、上記以外の材料を使用することもできる。ただし、耐環境性や耐磨耗性を考慮すると、アルミナ(Al23)およびシリカ(SiO2)が好適である。保護層の厚さは、その上に保護板を設ける場合は10〜50μm程度、保護板を設けない場合は、30〜100μm程度とすることが好ましい。
【0092】
スピンバルブ層は、少なくとも、磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層を有し、保護層、磁化固定層と磁化自由層を磁気的に隔離するための非磁性層、下地層等を更に有することもできる。スピンバルブ層は、磁気抵抗効果素子として機能し、スピンバルブ層に対して面内方向に流れるセンス電流のコンダクタンスが、磁化固定層と磁化自由層の磁化の相対角度に依存して変化する、いわゆる巨大磁気抵抗効果(GMR)を示すことが好ましい。
【0093】
前記スピンバルブ層は、基板側から、反強磁性層、磁化固定層および磁化自由層がこの順に配置される、いわゆるボトムスピンバルブ型であってもよく、基板側から磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層がこの順に配置される、いわゆるトップスピンバルブ型であってもよいが、ボトムスピンバルブ型の方が良好な結果が得られている。
【0094】
磁化固定層は、ピンド層(pinned layer)とも呼ばれ、反強磁性層との間で働く交換結合磁界により、所定の方向に磁化が固定された状態となっている。磁化固定層の磁化固定のためには、磁化固定層と反強磁性層を隣接して配置することが好ましい。良好な磁化固定を行うためには、磁化固定層の厚さを、1.6〜10nmとすることが好ましく、2〜6nmとすることがより好ましい。磁化固定層は、例えばCoFe等によって構成することができる。また、Ru等の非磁性層を介して二層で構成することが好ましい。
【0095】
磁化自由層は、フリー層(free layer)とも呼ばれ、外部磁界により磁化方向が変化し得る。磁化自由層は、例えばCoFe、NiFe等によって構成することができる。磁化自由層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば1〜10nm程度とすることができる。磁化固定層と磁化自由層の間には、両層を磁気的に隔離するために非磁性層を設けることが好ましい。また、スピンバルブ層の最上面および/または最下面には、例えば下地層および/または保護層を設けることが好ましい。前記非磁性層、下地層、保護層を構成する材料としては、それら層を形成するために通常使用される材料を選択すればよい。また、各層の厚さは特に限定されるものではなく、所望の効果が得られるように設定すればよい。
【0096】
反強磁性層は、pinning layerとも呼ばれる。本発明において使用されるスピンバルブ型MRヘッドは、反強磁性層が、イリジウムおよびマンガンを含む合金(IrMn系合金)からなることを特徴とする。前述のように、IrMn系合金を採用することで、磁気記録媒体と接触摺動する際のスピンバルブ層の到達温度と予想される常温〜150℃において、安定な再生特性を維持することができる。IrMn系合金は、Irが20±5原子%、Mnが80±5原子%程度の組成比であることが望ましい。この範囲の組成比であれば、磁気的特性が良好である。IrMn系合金は、IrとMnからなる合金であってもよいが、特性を損なわない程度(例えば0.5〜10原子%程度)の添加元素を含んでもよい。そのような添加元素としては、Cr、Mo等を挙げることができる。
【0097】
図2は反強磁性層材料として従来から用いられていたPtMnから反強磁性層を形成したスピンバルブ層サンプルと、IrMn(Ir20原子%、Mn80原子%)から反強磁性層を形成した点を除き同様の構成で作製したスピンバルブ層サンプルにおける磁化固定層/反強磁性層間の交換結合磁界の温度特性を表す特性図である。横軸は温度(℃)、縦軸は交換結合磁界Hex(Oe)をそれぞれ示している。
【0098】
図2から分かるように、約250℃以下の温度領域においてIrMnによる交換結合磁界HexはPtMnによる交換結合磁界Hexの2倍以上の値となっている。これにより、反強磁性層にIrMn系合金を用いることによって、接触摺動型システムにおけるスピンバルブ層の動作時温度である150℃以下の温度領域において、より安定した磁化固定(ピンニング)効果を得ることができる。
【0099】
図3は、PtMnおよびIrMnのブロッキング温度特性を表す特性図である。横軸は温度(℃)、縦軸は磁区の変動(反転)頻度(任意単位)をそれぞれ示している。
【0100】
図3から分かるように、接触摺動型システムにおけるスピンバルブ層の動作時温度である150℃以下の温度領域において、IrMnの磁区変動頻度は、PtMnの場合より低くなっている。これにより、IrMnによれば安定した磁化固定(ピンニング)効果を得ることができる。図3に示した特性は、反強磁性層をIrMnまたはPtMnにより構成したスピンバルブ層サンプルについて、25℃から約380℃までの間を約1.78℃間隔で測定したデータを表したものである。以下、このデータに基づいて、150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布の、全温度領域におけるブロッキング温度分布に対する比率を算出する。IrMnのサンプルにおける計測値が282℃以上で約0.0010と一定していたことから、PtMnのサンプルもこの数値がベースラインと判断される。そこで、IrMnのサンプルについては、(25℃〜282℃での計測値−0.0010)の積分値を求めると、0.4136となり(計測点が145)、これが全温度領域におけるブロッキング温度分布に対応する。また、(25℃〜150℃での計測値−0.0010)の積分値を求めると、0.0803となり(計測点が71)、これが150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布に対応する。150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布の、全温度領域におけるブロッキング温度分布に対する比率は、0.0803/0.4136から、19.4(%)となった。一方、PtMnのサンプルについては、(25℃〜380℃での計測値−0.0010)の積分値を求めると、0.4839となり(計測点が200)、これが全温度領域におけるブロッキング温度分布に対応する。また、(25℃〜150℃での計測値−0.0010)の積分値を求めると、0.1369となり(計測点が71)、これが150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布に対応する。150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布の、全温度領域におけるブロッキング温度分布に対する比率は、0.1369/0.4839から、28.3(%)となった。
【0101】
以上から、反強磁性層を構成するIrMnは、接触摺動型システムにおけるスピンバルブ層の動作時温度である150℃以下の温度領域において、ブロッキング温度分布が相対的に小さいことが分かる。このことも、IrMn系合金を用いることにより安定な再生特性が得られる理由の1つである。再生特性の点では、150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布が、全温度領域におけるブロッキング温度分布の25%以下、より好ましくは20%以下)のIrMn系合金を反強磁性層材料として用いることが好ましい。なお、ヘッド作製条件によっては、150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布が、全温度領域におけるブロッキング温度分布に占める割合を0%にすることも可能である。
【0102】
IrMn系合金からなる反強磁性層の厚さは、接触摺動型システムに好適な交換結合磁界およびブロッキング温度を得るためには、5nm以上であることが好ましい。反強磁性層が厚いことにより生じる問題は少ないが、あまり厚いとMRヘッドとしてのギャップ長(シールド間距離)が大きくなってしまい、高密度記録された信号の再生に適さなくなってしまう。この点から、反強磁性層の厚さは100nm以下であることが好ましい。反強磁性層の厚さは、より好ましくは5〜50nm、更に好ましくは5〜30nmの範囲である。
【0103】
本発明において使用されるスピンバルブ型MRヘッドは、スピンバルブ層に電流を印加する一対の電極層を有することができる。スメア防止の観点から、電極層の少なくとも信号再生時に磁気記録媒体と接触する面は、タンタルを主体とする金属からなることが好ましい。
【0104】
スピンバルブ層への電極層の接続位置(接触位置)は、スピンバルブ層にセンス電流を印加し得る限り特に限定されるものではなく、例えば図1に示すようにスピンバルブ層の一方の面の両端に接続させることができる。なお、電極層のスピンバルブ層に接続された端部と反対の端部は、外部回路と接続され、この外部回路から電流が供給される。
【0105】
本発明において使用されるスピンバルブ型MRヘッドは、スピンバルブ層にバイアス磁界を印加するための一対の硬質磁性層を含むこともできる。バイアス磁界の印加により、スピンバルブ層(MR素子)の動作の安定化を図ることができる。硬質磁性層は、例えば図1に示すようにスピンバルブ層の長手方向の両端に接触する位置に配置され得る。硬質磁性層を構成する材料は、スピンバルブ層にバイアス磁界を印加し得る限り特に限定されないが、CoPtCrが好ましい。
【0106】
以上説明した各層は、二層以上の層に分割することもできる。また、本発明において使用するスピンバルブ型MRヘッドは、スパッタリング法、メッキ法、リフトオフ法などの公知の成膜方法を適宜組み合わせて製造することができる。また、スピンバルブ型MRヘッドについては、特開2000−340858号公報、特開2003−223705公報、特開2006−99872号公報等を参照することができる。
【0107】
本発明において、磁気記録媒体と再生ヘッドは、接触摺動型システムであればいかなるシステムに適用してもよい。例えばLTOテープドライブ、ディスクドライブ、ドラムドライブに適用することが可能である。以下に、本発明の一態様として、磁気記録媒体と再生ヘッドを、LTO(リニアテープオープン)規格を有するマルチチャネル磁気テープドライブに適用した例を示す。但し、本発明は以下に示す態様に限定されるものではない。
【0108】
図4は、接触摺動型の薄膜磁気ヘッドを有するマルチチャネル磁気テープドライブ装置の構成を概略的に示す斜視図であり、図5は、図4に示す薄膜磁気ヘッドおよびその周辺部分の構成を拡大して示す拡大斜視図である。
【0109】
マルチチャネル磁気テープドライブ装置においては、多数のチャネルの読出しヘッド素子および書込みヘッド素子を有する接触摺動型のマルチチャネル薄膜磁気ヘッドが使用される。例えば、LTO規格を有するマルチチャネル磁気テープドライブ装置(第3世代)では、16チャネルの読出しヘッド素子と16チャネルの書込みヘッド素子と2チャネルのサーボ用磁気ヘッド素子とを有するマルチチャネル薄膜磁気ヘッドが用いられる。
【0110】
図4および図5において、10は単一リールのテープカートリッジ、11はテープカートリッジ10から引き出された1/2インチ幅の磁気テープ12を一時的に巻き取るテイクアップリール、13は磁気テープ12の往復走行方向14に対して垂直の方向(トラック幅方向)15に往復移動可能な接触摺動型薄膜磁気ヘッドをそれぞれ示している。なお、テープドライブ装置では、通常、接触摺動型薄膜磁気ヘッドと磁気テープとの相対速度は2〜12m/s、テンションは0.3〜1.2Nである。ディスクドライブ装置では、通常、接触摺動型薄膜磁気ヘッドと磁気ディスクとの相対速度は2〜12m/s、荷重はナノサイズスライダーの場合、3〜5g、ピコサイズスライダーの場合、2〜4gである。
【0111】
図6は本態様における薄膜磁気ヘッド13の構成を概略的に示す斜視図である。ただし、図6では、理解を容易にするために、3つの書込み/読出し磁気ヘッド素子のみが図示されており、残りの書込み/読出し磁気ヘッド素子及び書込み/読出し磁気ヘッド素子の上に形成される層等の図示が省略されている。
【0112】
図6において、130a、130bおよび130cは、テープベアリング面(TBS)131に垂直な所定の面132上にトラック幅方向に沿って一列配列された16チャネルのうちの3チャネルの書込み/読出し磁気ヘッド素子、133a、133bおよび133cは、書込み/読出し磁気ヘッド素子130a、130bおよび130cのうちの書込み磁気ヘッド素子に接続されているリード導体、134a、134bおよび134cは書込み/読出し磁気ヘッド素子130a、130bおよび130cのうちの読出し磁気ヘッド素子に接続されているリード導体、135はリード導体を介して16個の書込み磁気ヘッド素子に接続されている16対の書込み用外部接続パッド、136はリード導体を介して16個の読出し磁気ヘッド素子に接続されている16対の読出し用外部接続パッドをそれぞれ示している。
【0113】
図7は本態様における各書込み/読出し磁気ヘッド素子の構成を概略的に説明するべくTBS方向から見た側面図であり、図8は各書込み/読出し磁気ヘッド素子の層構成順を説明するためにTBSに垂直な方向の中心断面を表した模式図である。
【0114】
これらの図に示すように、例えばアルティック(Al−TiC)等による基板40上には、例えばアルミナ(Al23)等の絶縁材料による絶縁層41が、例えば約1μm厚でコーティングされており、その上には例えばコバルトジルコニウムタンタル(CoZrTa)、センダスト、またはNiFe等の軟磁性材料による下部シールド層(第一シールド層)42が、例えば約2μm厚で積層されている。
【0115】
下部シールド層42上には、例えばAl23、酸化シリコン(SiO2)等の絶縁材料による下部シールドギャップ層(第一ギャップ層)43が、例えば約40nm厚で積層されており、その上にはCIP−GMR層44と磁区制御用ハードマグネット層45およびリード導体層とが積層されている。前述のスピンバルブ層が、このGMR層44に相当する。
【0116】
磁区制御用ハードマグネット層45は、本態様では、コバルトクロム白金(CoCrPt)で形成されており、リード導体層は、本態様では、Ta層とCuまたは金(Au)層との多層構造となっている。
【0117】
GMR層44とリード導体層および磁区制御用ハードマグネット層45上には、例えばAl23、SiO2等の絶縁材料による上部シールドギャップ層(第二ギャップ層)46が、例えば約57nm厚で積層されており、その上には例えばCoZrTa、センダスト、またはNiFe等の軟磁性材料による上部シールド層(第二シールド層)47が、例えば約2.65μm厚で積層されており、その上には、例えばAl23等の絶縁材料による絶縁層48が、例えば約200nm厚で積層されている。
【0118】
この絶縁層48上には、インダクティブ書込みヘッド素子における、例えば高飽和磁束密度のコバルトニッケル鉄(CoNiFe)、NiFe等の軟磁性材料による下部磁極層49が、例えば約1.45μm厚で積層されており、その上には例えばRu、Al23等の絶縁材料による書込みギャップ層50が、例えば約130nm厚で積層されており、その上には、例えば高飽和磁束密度のCoNiFe、NiFe等の軟磁性材料による上部磁極層52が、約3.5μm厚で積層されている。
【0119】
下部磁極層49および上部磁極層52間であってTBSから奥まった位置には、図示しない書込みコイル絶縁層に囲まれて書込みコイル層51が形成されている。この書込みコイル層51は、例えばCu等の導電材料を、それぞれ約2.5μm厚および約2.1μm厚の2段のパターンに形成したものである。
【0120】
上部磁極層52上には、例えばAl23等の絶縁材料による絶縁層53が、例えば約41μm厚で積層されており、その上には、Al−TiC等によるクロージャ54が接着されている。
【0121】
これら書込み/読出し磁気ヘッド素子領域のTBS側表面には、ダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護膜55が形成されている。
【0122】
図9は、各書込み/読出し磁気ヘッド素子、クロージャおよび基板について、TBSに垂直な方向を含む断面を表した断面図である。
【0123】
図9に示すように、クロージャ54を絶縁層53上に接着することにより、基板40およびクロージャ54のTBSに対して、書込み/読出し磁気ヘッド素子領域のTBS側の面を奥へ引っ込ませることができる。これにより、この部分にリセスが形成される。このリセス量を調整することによって、磁気テープとの接触摺動によるスメア等の損傷を発生させることなく、読出し磁気ヘッド素子の読出し特性を良好に維持することが可能となる。
【0124】
以上、テープドライブを例にとり本発明について説明したが、後述する実施例に示すように本発明はディスク系への適用にも好適である。本発明において適用可能なディスクドライブシステムについては、例えば特開2007−73131号公報、特開2004−63027号公報、特開2007−179599公報等を参照できる。
【0125】
以上説明したように、本発明によれば、スピンバルブ型MRヘッドを接触摺動型システムに適用することが可能となる。これにより磁気記録媒体に高密度記録(例えば記録密度2〜20Gbits/inch2、更には5〜15Gbits/inch2)された信号を、接触摺動型システムにおいて高感度に再生することができる。
スピンバルブ型MRヘッドで再生された再生信号は、一般に、PR4、EPR4、EEPR4などのPRMLを用いて再生される。孤立波再生波形の形状が磁化反転位置を中心に略左右対称の場合、これらの方法により適切な検出が実現できるが、磁性層に強磁性粉末として六方晶フェライト粉末を用いた場合、その磁化容易軸が面内成分と垂直成分とが混在しており、その孤立再生波形は磁化反転位置を中心に必ずしも左右対称とはならない。この場合、GPRML(一般化PRML)によって適宜ターゲット波形を調整することが好ましい。
【0126】
高密度記録された信号に対応するためには、再生用MRヘッドのトラック幅を小さくする必要があり、それに伴いMRハイトは短くなる。また、高密度記録化に対応するためには、再生ヘッドの再生ギャップ長を小さくする必要がある。しかし、MRハイトが短くなるほど、許容し得る磨耗量は少なくなり短時間でヘッドの性能が劣化しやすい。また再生ギャップ長が小さくなるほどスメアが発生しやすい。
そのため、従来の接触摺動型システムにおいて、高密度記録化に対応するように設計されたMRヘッドを採用すると、ヘッド磨耗やスメアよりヘッド寿命の低下や性能の劣化が起こりやすいという問題があった。これに対し、本発明によれば、先に説明した磁性層表面性を有する磁気記録媒体を用いることにより、良好な走行安定性を維持しつつ、上記ヘッドにおけるヘッド磨耗およびスメアの発生を抑制することができる。これにより、本発明において使用するスピンバルブ型MRヘッドを、高密度記録化に対応するように、例えばトラック幅0.1〜2μm、MRハイト0.2〜2μm、再生ギャップ長0.06〜0.16μmの範囲に設計することが可能になる。更なる高密度化を進行させるためには、高密度記録された信号を検出し高感度に再生することが重要である。従って、高感度なスピンバルブ型MRヘッドを高密度記録化に対応するように設計できることは、接触摺動型システムにおいて更なる高密度化を達成するためにきわめて有利である。
【実施例】
【0127】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、以下に記載の「部」の表示は、特に断らない限り、「質量部」を示す。
【0128】
1.磁気記録媒体の作製
磁性層塗布液A(強磁性粉末:バリウムフェライト)
強磁性板状六方晶フェライト粉末 100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m
平均板径:20nm
平均板状比:3
σs:49A・m2/kg
ポリウレタン樹脂 17部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=400eq/ton
α−Al23(平均粒径:170nm、モース硬度:9) 10部
カーボンブラック(平均粒径:75nm) 1部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 1.5部
ステアリン酸 1部
【0129】
磁性層塗布液B(強磁性粉末:バリウムフェライト)
強磁性板状六方晶フェライト粉末 100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m
平均板径:20nm
平均板状比:3
σs:49A・m2/kg
ポリウレタン樹脂 15部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=400eq/ton
カーボンブラック(平均粒径:75nm) 1部
シクロヘキサノン 100部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 1.5部
ステアリン酸 1部
【0130】
磁性層塗布液C(強磁性粉末:金属粉末)
強磁性針状金属粉末 100部
組成:Fe/Co=70/30
表面処理剤:Al23
Hc:183.1kA/m
結晶子サイズ:12nm
平均長軸長:0.05μm
平均針状比:5
σs:108A・m2/kg
ポリウレタン樹脂 15部
ポリオールとしてダイマージオール含有
Mw:42000、Tg:157℃
−SO3Na=100eq/ton
カーボンブラック(平均粒径:75nm) 1部
シクロヘキサノン 30部
メチルエチルケトン 90部
トルエン 60部
ブチルステアレート 1.5部
ステアリン酸 0.5部
【0131】
非磁性層塗布液
非磁性無機質粉体 80部
α−酸化鉄
表面処理剤:Al23、SiO2
長軸径:0.15μm、
タップ密度:0.8
針状比:7
BET比表面積:52m2/g、
pH8
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 20部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂 20部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=120eq/ton
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 1部
【0132】
研磨剤ペースト液
ポリウレタン樹脂 2部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=400eq/ton
α−Al23(平均粒径:80nm、モース硬度:9) 10部
シクロヘキサノン 8部
【0133】
(サンプルM1の作製)
上記磁性層塗布液Aについて、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(1.0mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が30分になるように分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
また、上記非磁性層塗布液について、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(1.0mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が30分になるように分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
厚さ32μmで中心面平均粗さが1.8nmのポリエチレンテレフタレート支持体上に、上記で得られた非磁性層塗布液を乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布し、その直後、非磁性層塗布液が湿潤状態にあるうちに、上記で得られた磁性層塗布液を乾燥後の厚さが60nmになるように塗布(ウェットオンウエット塗布)し、100℃で乾燥した。更に、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧269.5kN/m、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、直径1.8吋径の円盤上に打ち抜いた。その後、70℃で24時間加熱処理を行い、各塗布層の硬化を促進させた。
【0134】
(サンプルM2の作製)
磁性層塗布液Bについて、各成分をオープンニーダーで 60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(0.5mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が120分になるように分散した。また、上記研磨剤ペースト液について、このペースト液を磁性層塗布液とは別にフロー型の超音波分散機(1200W、周波数20KHz、照射部面の直径50mm、照射部とホルダーとの間隔3mm、振幅30μm)を用いて流量300g/分で2パス処理した。
得られた磁性層塗布液と研磨剤ペースト液をスターラーにより混合し、さらに3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
また、上記非磁性層塗布液について、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(1.0mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が30分になるように分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部、シクロヘキサノン20部を加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
厚さ32μmで中心面平均粗さが1.8nmのポリエチレンテレフタレート支持体上に、上記で得られた非磁性塗布液を乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布し、乾燥させた後、上記で得られた磁性層塗布液を乾燥後の厚さが60nmになるように塗布(ウェットオンドライ塗布)し、100℃で乾燥した。更に、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧269.5kN/m、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、直径1.8吋径の円盤上に打ち抜いた。その後、70℃で24時間加熱処理を行い、各塗布層の硬化を促進させた。
【0135】
(サンプルM3〜10およびM12〜20の作製)
磁性層塗布液の分散媒体粒径および滞留時間、研磨剤の種類・粒径・添加量、磁性層および非磁性層塗布液中のブチルステアレート添加量、カレンダ処理温度および処理圧力を表1に記載した条件に変更した以外は、サンプルM2と同様な方式でM3〜10およびM12〜20を作製した。サンプルM15に研磨剤として使用したダイヤモンドのモース硬度は10であった。
【0136】
(サンプルM11の作製)
磁性層塗布液の分散媒体粒径および滞留時間、研磨剤の粒径、磁性層および非磁性層塗布液中のブチルステアレート添加量を表1に記載した条件に変更した以外は、サンプルM1と同様な方式でM11を作製した。
【0137】
(サンプルM21の作製)
磁性層塗布液の分散媒体粒径、研磨剤の添加量、カレンダ処理温度および処理圧力を表1に記載した条件に変更し、塗布方式をウエットオンドライ塗布からウエットオンウエット塗布に変更した以外は、サンプルM2と同様な方式でM21を作製した。
【0138】
(サンプルM22の作製)
磁性層塗布液Cについて、各成分をオープンニーダーで 60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(0.5mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が120分になるように分散した。また、上記研磨剤ペースト液について、このペースト液を磁性液とは別にフロー型の超音波分散機(1200W、周波数20KHz、照射部面の直径50mm、照射部とホルダーとの間隔3mm、振幅30μm)を用いて流量300g/分で2パス処理した。
得られた磁性層塗布液と研摩剤ペースト液をスターラーにより混合し、さらに3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部とシクロヘキサノン20部を加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
また、上記非磁性層塗布液について、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(1.0mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が30分になるように分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
厚さ32μmで中心面平均粗さが1.8nmのポリエチレンテレフタレート支持体上に、上記で得られた非磁性塗布液を乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布し、乾燥させた後、上記で得られた磁性層塗布液を乾燥後の厚さが60nmになるように塗布(ウェットオンドライ塗布)し、100℃で乾燥した。更に、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧269.5kN/m、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、直径1.8吋径の円盤上に打ち抜いた。その後、70℃で24時間加熱処理を行い、各塗布層の硬化を促進させた。
【0139】
(サンプルM23〜27の作製)
磁性層塗布液に添加する磁性体を、表1に記載した平均板径を有するバリウムフェライトに変更した以外はM2と同様な方法でサンプルM23〜27を作成した。
【0140】
(サンプルM28〜33の作製)
磁性層厚を表1に記載した値に変更した以外はM2と同様な方法でサンプルM28〜33を作成した。
【0141】
(サンプルM34の作製)
磁性層塗布液Bについて、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(0.5mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が120分になるように分散した。また、上記研磨剤ペースト液について、このペースト液を磁性層塗布液とは別にフロー型の超音波分散機(1200W、周波数20KHz、照射部面の直径50mm、照射部とホルダーとの間隔3mm、振幅30μm)を用いて流量300g/分で2パス処理した。
得られた磁性層塗布液と研磨剤ペースト液をスターラーにより混合し、さらに3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
また、上記非磁性層塗布液について、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、横型循環型タイプのピン型サンドミル分散機にジルコニアビーズ(1.0mm)をビーズ充填率80%で詰めて、ピン先端周速が10m/秒で、分散滞留時間が30分になるように分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)6部、シクロヘキサノン20部を加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
上記で得られた非磁性層塗布液を、非磁性支持体である厚さが4μmのポリエチレンナフタレートフィルム(105℃,30分の熱収縮率が縦方向で0.8%、横方向で0.6%、中心面平均粗さ2.0nm)に、乾燥後の非磁性層の厚さが1.5μmとなるように塗布し、100℃で乾燥させた。この上にさらに、上記の磁性層塗布液を乾燥後の厚さが60nmとなるように塗布(ウエットオンドライ塗布)し、100℃で乾燥した。次に、この非磁性支持体の非磁性層および磁性層の形成面とは反対面側に、バックコート層塗布液を、乾燥およびカレンダ処理後のバックコート層の厚さが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧269.5kN/m、温度90℃で表面平滑化処理を行った。バックコート層塗布液は、下記のバックコート層塗布液成分を、サンドミルで滞留時間45分で分散した後、ポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌ろ過して、調製した。
バックコート層塗布液成分
カーボンブラック(平均粒径:25nm)・・・40.5部
カーボンブラック(平均粒径:370nm)・・・0.5部
硫酸バリウム・・・4.05部
ニトロセルロース・・・28部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有)・・・20部
シクロヘキサノン・・・100部
トルエン・・・100部
メチルエチルケトン・・・100部
このようにして得た磁気シートを、7段カレンダ(温度90℃、線圧294kN/m)で鏡面化処理し、60℃、40%RH下、48時間サーモ処理を施した。その後、1/2インチ幅に裁断し、これを100m/分で走行させながら、磁性層表面をダイヤモンドホイール(回転測度+150%、巻付け角30°)で研磨して、磁気テープを作製した。この磁気テ―プをカートリツジに組み込み、コンピユータ用テープとした。
【0142】
2.媒体の評価
(1)AFM突起数
各サンプルについて、デジタルインスツルメンツ社製のナノスコープ3を使用し、稜角70度の四角錐のSiN深針で磁性層表面の30μm角中の突起と凹みの体積が等しくなる面を基準面として高さ10nm以上の突起個数を512×512ピクセルの解像度で測定し、測定値を100μm角に換算した。
【0143】
(2)磁性層表面潤滑剤指数
(i)オージェ電子分光解析
サンプルを二分割し、一方(a)はそのままの状態で、もう一方(b)は以下に述べる方法で潤滑剤成分を除去した状態にして、オージェ電子分光解析装置で測定した。
測定条件
オージェ電子分光解析装置:米国Φ社製オージェ電子分光解析装置(pHI−660型)
一次電子加速電:3kV
試料電流:130mA
倍率:250倍
傾斜角度:30°
運動エネルギー(Kinetic Energy):2.08×10-17〜1.17×10-16
積算回数:3回炭素(C)のKLLピークの強度と鉄(Fe)のLMMピークの強度を微分形で求め、C/Feの比をとり、(a)と(b)の強度比(C/Fe(a)/ C/Fe(b))を算出し、表面潤滑剤指数とした。
(ii)潤滑剤成分の除去方法
サンプル(10mm×30mm)をn−ヘキサンに常温で30分浸漬し、未吸着の脂肪酸、脂肪酸エステルを抽出・除去し、次いで試料瓶に入れ、n−ヘキサン10ml、誘導体化試薬としてシリル化剤であるTMSI−H(ヘキサメチルジシラザラン(HMDS):トリメチルクロロシラン(TMCS):ピリジン混合物 ジエールサイエンス社製)0.3mlを加え、60℃、1時間加熱誘導体化反応を行い、試料を取り出し、エタノールで洗浄した後、乾燥させて潤滑剤成分を除去した。
【0144】
(3)磁性層表面の研磨剤占有率
走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、加速電圧2kV、作動距離3mm、撮影倍率2万倍における反射電子像を、解像度70ピクセル/インチで1024×764ピクセルのTIFFファイルで取り込み、その後、画像解析装置としてCarlZeiss製KS400 Ver.3.0を用いて2値化し、全面積に対する研磨剤の占有面積の比率として算出した。
【0145】
(4)磁性体平均粒子径の測定
(a)媒体サンプルからの磁性体取り出し
以下の手順で媒体サンプル中の磁性体を抽出した。
1.媒体サンプル表面にヤマト科学製プラズマリアクターで1〜2分間表面処理を施し、サンプル表面の有機物成分(バインダー/硬化剤等)を灰化して取り除いた。
2.シクロヘキサノン・またはアセトンなどの有機溶剤を浸したろ紙を金属棒のエッジ部に貼り付け、その上で1.で作製したサンプル表面をこすり、磁性層成分をサンプルからろ紙へ転写し剥離した。
3.2.で剥離した成分をシクロヘキサノンやアセトンなどの溶媒の中に振るい落とし(ろ紙毎溶媒の中にいれ超音波分散機で振るい落とし)、溶媒を乾燥させ剥離成分を取り出した。
4.3.でかき落とした成分を十分に洗浄したガラス試験管に入れ、その中にn−ブチルアミンを磁性層成分中のバインダーを分解できる量(20ml程度)加えてガラス試験管を封緘した。
5.ガラス試験管を170℃で20時間以上加熱し、3成分中のバインダー・硬化剤成分を分解した。
6.5で作製したアミン分解後の沈殿物を純水で十分に洗浄後乾燥して、磁性体・研磨剤等の無機成分を取り出した。
(b)取り出した粒子のサイズ測定
上記(a)で取り出した成分を、純水中で超音波分散し、銅メッシュなどに載せ、透過型電子顕微鏡(HITACHI製H−9000型)を用い、観察倍率10万倍以上の粒子を十分判断できる倍率で観察した。
撮影した写真画像中の粒子の表面を、デジタイザーを用いてトリミングし、サイズ分布測定の画像処理を施し、六方晶フェライトの場合は、300個の磁性体について平板径・板厚を測定し、その平均値を算出した。また、針状金属粉末の場合は、300個の磁性体の長軸長・短軸長を測定し、その平均値を算出した。画像処理には、CarlZeiss社製 KS Imaging Systems Ver.3を用いた。スキャナーからの画像取り込みおよび画像解析の際のscale補正は直径1cmの円を用いて行った。
【0146】
(5)磁性層平均厚みの測定
以下の手順で磁性層の平均厚みを測定した。
(a)媒体サンプル断面像の取得
包埋ブロックを用いたウルトラミクロトーム法により、媒体サンプルから断面超薄切片(切片厚:約80nm〜100nm)を切り出した。透過型電子顕微鏡(HITACHI製TEM H−9000)を用いて、切り出した断面超薄切片中のサンプル断面の写真を、倍率10万倍・磁性層・非磁性層界面を中心に連続して25〜30μm分撮影して、媒体サンプルの連続断面像を取得した。
(b)磁性層平均厚みの算出
得られた連続写真から、目視にて磁性層表面と磁性層/非磁性層界面ラインを引き、磁性層をトリミングし、次に、トリミングした磁性層ラインをスキャナーで取り込み、磁性層表面と磁性層/非磁性層界面の幅を画像処理して磁性層の平均厚みを算出した。画像処理には、CarlZeiss社製 KS Imaging Systems Ver.3を用い、磁性層長手方向に12.5nmおきに約2100点の磁性層厚み幅を測定した。スキャナーからの画像取り込み及び画像解析の際のscale補正は実寸2cmのラインを用いて行った。
【0147】
3.磁気ヘッドの作製
(ヘッドH1の作製)
図1に示す層構成を有するスピンバルブ型GMRヘッドを作製した。表2に示すように反強磁性層としてIrMn(Ir20原子%、Mn80原子%、150℃以下の温度領域におけるブロッキング温度分布が全温度領域におけるブロッキング温度分布の19.4%))、第一シールド層としてCoZrTa(コバルト系アモルファス合金)、電極層としてTaを用いて、GMRヘッドを作製し、第二シールド層の上にAl23からなる非磁性層を介して1.8Tの磁極材料を用いて記録用インダクティブヘッドを作製した。さらに、この上にAl23からなる保護層を約100μmの厚さで形成した。また、接触摺動面側には約2nmのSiを下地として約3nmのDLC膜を形成した。スピンバルブ層は、基板側から反強磁性層(厚さ7nm)、磁化固定層(CoFe製、厚さ4.5nm)、非磁性層(Cu製、厚さ2.5nm)、磁化自由層(CoFe(厚さ1nm)/NiFe(厚さ4nm)の2層)をこの順に積層したボトム型とした。
【0148】
(磁気ヘッドH2の作製)
反強磁性層を厚さ20nmのPtMnに変更した以外は、ヘッドH1の作製方法と同様の方法でヘッドH2を作製した。
【0149】
(磁気ヘッドH3の作製)
図6に概略を示すリニアヘッドを作製した。各書き込み/読み出し磁気ヘッド素子は図7に概略を示す層構成とした。具体的には、アルティック(Al−TiC)製の基板40上に、アルミナ(Al23)からなる絶縁層41を約1μm厚でコーティングし、その上にCoZrTa(コバルト系アモルファス合金)からなる下部シールド層(第一シールド層)42を、約2μm厚で積層した。次いで、下部シールド層42上に、アルミナ:Al23からなる下部シールドギャップ層(第一ギャップ層)43を約40nm厚で積層し、その上にCIP−GMR層(スピンバルブ層)44と磁区制御用ハードマグネット層45およびリード導体層とを積層した。磁区制御用ハードマグネット層45は、コバルトクロム白金(CoCrPt)で形成し、リード導体層は、Ta層とCu層との多層構造とした。スピンバルブ層は、ヘッドH1と同様の構成とした。GMR層44とリード導体層および磁区制御用ハードマグネット層45上に、Al23からなる上部シールドギャップ層(第二ギャップ層)46を約57nm厚で積層し、その上にCoZrTaからなる上部シールド層(第二シールド層)47を約2.65μm厚で積層した。
【0150】
(磁気ヘッドH0の作製)
スピンバルブ層を用いず、AMR膜によるMR効果を利用する以外はH1と同様であり、MR層は、NiFeCr(12nm厚)/Ta(6nm厚)/NiFe(25nm厚)/Ta(4nm厚)よりなる多層構造とした。再生トラック幅は必要な性能を得るために0.9μmとH1の3倍の値に設定した。
【0151】
4.走行方法
(1)ディスクサンプルの走行
ヘッドH0〜H2のいずれかをそれぞれ2個用いてHSA(ヘッドスタックアセンブリ)に組み立てて以下の走行方法で、各ディスクサンプルを走行させた。
上記HSAを協同電子製スピンスタンド(LS90)に搭載し、各ディスクサンプル(直径1.8インチに加工したフレキシブルディスク)をディスク回転数3676rpmで走行させた。また走行中は、HSAが1.8インチのディスク上の半径11mmから半径22mmの範囲(相対速度4.2m/sから8.5m/sの範囲)を10秒間で1往復するように設定しクリーンルーム(クラス1000)の環境内で連続走行を行った。走行時の荷重は4.2g(ナノサイズスライダー使用)であった。
(2)テープサンプルの走行
磁気テープテスタを用いてリールとリールの間でテープを巻き取り/送り出しを行いながら走行速度6m/s、バックテンション0.7N、テープ/ヘッド角(ラップ角の1/2)10度(図10参照)で1巻800mのテープサンプルを走行させた。
【0152】
5.評価方法
各サンプルについて、下記テストA〜Eを行った。テストA〜Cでは各サンプル10個について評価を行い、良品率を算出した。各テストにおいて、良品率が70%以上であれば良好と判断することができる。結果を表1に示す。
[テストA:ヘッド耐久性の評価]
(1)ディスクサンプル
表1に記載した磁気記録媒体と磁気ヘッドの組み合わせにおいて、上記の「走行方法」にて24時間毎に磁気記録媒体を未走行品に交換しながら累積240時間走行させ、走行前後でISI社製 Quasi−Static Tester QST−2002を使用して測定磁界±100[Oe]における出力振幅(Amplitude)測定し、走行前後での低下が50%以内のものを「良」出力振幅(Amplitude)が50%未満になったものを「不良」とした。
(2)テープサンプル
リニアヘッドH3を用いて、上記の「走行方法」にてテープサンプルM34を30往復させる毎に磁気記録媒体を未走行品に交換しながら磁気記録媒体100巻(累積3000往復)走行させ、走行前後でISI社製 Quasi−Static Tester QST−2002を使用して測定磁界±100[Oe]における出力振幅(Amplitude)測定し、走行前後での低下が50%以内のものを「良」出力振幅(Amplitude)が50%未満になったものを「不良」とした。
【0153】
[テストB:ヘッド寿命(スメア)の評価]
(1)ディスクサンプル
表1に記載した磁気記録媒体と磁気ヘッドの組み合わせにおいて、上記の「走行方法」にて24時間走行させ、走行中のMR抵抗値(MRR)変化を測定走行中の抵抗値低下が初期値に対して10%以内のものを「良」、10%を超えて低下したものを「不良」とした。
(2)テープサンプル
リニアヘッドH3を用いて、上記の「走行方法」にてテープサンプルM34を300往復させ、走行中のMR抵抗値(MRR)変化を測定走行中の抵抗値低下が初期値に対して10%以内のものを「良」、10%超えて低下したものを「不良」とした。
【0154】
[テストC:素子腐食の評価]
(1)ディスクサンプル
表1中の水準1〜35:表1に記載した磁気記録媒体と磁気ヘッドの組み合わせにおいて、上記の「走行方法」にて1分間走行させたHSA
これらを85℃−85RH%の環境に96時間放置して、その前後のMR抵抗値(MRR)を測定し、抵抗値変化を求め、2%以内のものを「良」、2%を超えるものを「不良」とした。抵抗値変化はMR素子の腐食によって生じるため、抵抗値変化は素子腐食の指標とすることができる。
(2)テープサンプル
表1中の水準36:リニアヘッドH3を用いて、上記の「走行方法」にてテープサンプルM34を1分間走行させた。その後、H3のリニアヘッドを85℃−85RH%の環境に96時間放置して、その前後のMR抵抗値(MRR)を測定し、抵抗値変化を求め、2%以内のものを「良」、2%を超えるものを「不良」とした。上記ディスクサンプルの評価と同様、抵抗値変化はMR素子の腐食によって生じるため、抵抗値変化は素子腐食の指標とすることができる。
【0155】
[テストD:電磁変換特性(SNR)の評価]
(1)ディスクサンプル
米国Guzik社製リードライトアナライザーRWA1632、協同電子製スピンスタンド(LS90)、新品のHSA、各ディスクサンプル(直径1.8インチに加工したフレキシブルディスク)を用い回転数3676rpm、半径15.7mmの位置において19.0MHz(線記録密度160KFCI)の信号を記録し再生した。再生信号をAdvantest社製:R3361Cに入力し19.0MHzのピーク信号を信号出力(S)、19.0MHz±0.3MHzを除く1MHz〜37.7MHzの範囲における積分ノイズ(N)を測定した。その比をSNRとした。表1に示す結果は水準24に対する相対値として、水準24の測定値からの差として示した。
(2)テープサンプル
リニアヘッドH3を用いて、上記の「走行方法」にてテープサンプルM34を走行させながら、19.0MHz(線記録密度160KFCI)の信号を記録し再生した。再生信号をAdvantest社製:R3361Cに入力し19.0MHzのピーク信号を信号出力(S)、19.0MHz±0.3MHzを除く1MHz〜37.7MHzの範囲における積分ノイズ(N)を測定した。その比をSNRとした。
【0156】
[テストE:走行耐久性(摩擦係数)の評価]
(1)ディスクサンプル
新品のHSAを微小荷重ロードセル(KYOWA製 LTS-50GAA)に取り付け、各ディスクサンプル(直径1.8インチに加工したフレキシブルディスク)の半径17.5mm、Skew角0度になるように設定した。ディスク回転数3676rpmで走行させたときのロードセルが持っていかれる力とヘッド荷重から摩擦係数を算出した。
(2)テープサンプル
リニアヘッドH3を用いて、上記の「走行方法」にてテープサンプルM34を走行させながらヘッド前後(入り側と出側)のテンションを測定し、入り側テンションT1、出側テンションT2、ラップ角θ(=10x2=20度=0.35rad)としたとき、ヘッド接触摺動面を円筒形と仮定してオイラーのベルトの理論を用いて、摩擦係数を下記式により算出した。
【0157】
【数1】

【0158】
【表1】


【0159】
【表2】

【0160】
6.評価結果
(1)AMRヘッドとスピンバルブ型GMRヘッドの比較
水準2と水準3との比較から、AFM突起数が4000個であってもヘッドがAMRヘッドであればヘッド耐久性の評価結果は良好であるのに対し、スピンバルブ型GMRヘッドではヘッド耐久性が著しく低下することがわかる。また、テストDの結果から、AMRヘッドではノイズの原因とならない突起であっても、高感度なスピンバルブ型GMRヘッドではノイズが増大しSNRが劣化することがわかる。
なお、表1では水準2のSNRは水準24(実施例)のSNR−1.5dBにおさまっているが、これは水準2で使用したAMRヘッドH0の再生トラック幅が広いためである。トラック幅換算すると−1.5dBよりはるかに劣化する。このような再生ヘッドでは狭トラックに記録された信号を高感度に再生することは困難である。
【0161】
(2)反強磁性層材料の影響
ディスクサンプルM2を異なるヘッドと組み合わせた水準1と水準4の比較から、反強磁性層をIrMnから構成することによりヘッド耐久性を顕著に向上できることがわかる。これは、IrMnが接触摺動型システムにおける到達温度において良好な耐熱安定性を示すことに起因すると考えられる。
【0162】
(3)磁性層表面性の影響
AFM突起数が50〜2500個の範囲であり、磁性層の表面潤滑剤指数が0.5〜5.0の範囲であり、かつ磁性層の表面研磨剤占有率が2〜20%の範囲である媒体サンプルとIrMnからなる反強磁性層を有するスピンバルブ型GMRヘッドを組み合わせた水準4〜8、10、11、13〜36では、ヘッド耐久性、素子腐食、電磁変換特性および対ヘッドの摩擦係数のいずれにおいても良好な結果が得られた。素子腐食が防止できた理由は、腐食防止のために設けたDLC膜はヘッドとディスクを接触摺動させながら連続走行させたことにより除去されたものの、連続走行中のヘッドとの接触摺動により磁性層表面の潤滑剤がヘッド接触摺動面に転写され、転写された潤滑剤がヘッド表面において腐食防止剤の役割を果たしたことにあると考えられる。この点を確認するため、水準4の組み合わせにおいて、前述の「走行方法」にて1分間走行させた後、ノルマルヘキサンで1分間超音波洗浄したHSAについて、テストCによる評価を行ったところ素子腐食が顕著に発生し良品率は0%であった。このように連続走行後にn−ヘキサン洗浄を行い、ヘッド表面に転写された潤滑剤を除去したHSAにおいて素子腐食が顕著に発生したことは、磁性層表面から転写された潤滑剤がヘッド表面において腐食防止剤の役割を果たしたことを裏付ける結果である。
一方、AFM突起数、磁性層の表面潤滑剤指数および磁性層の表面研磨剤占有率が同じ値であるが使用した強磁性粉末が異なる水準6(六方晶フェライト粉末使用)と水準24(強磁性金属粉末使用)を比較すると、水準6においてより良好な結果が得られた。これは前述のように六方晶フェライト粉末を含む磁性層は強磁性金属粉末を含む磁性層と比べて塑性変形し難く、またヘッドとの接触面積が小さいためと考えられる。
一方、AFM突起数が3000個の水準9では、ヘッド耐久性は低下し、ノイズ増大によりSNRが劣化した。更にスメアによるMR抵抗値低下も顕著であった。AFM突起数が20個の水準12および磁性層表面の研磨剤占有率が1%の水準13のいずれにおいても、摩擦係数は増加し、ヘッド耐久性の低下、素子腐食およびスメアによるMR抵抗値低下が観察された。一方、磁性層表面の研磨剤占有率が25%の水準18では、ヘッド寿命が著しく低下し、スメアによるMR抵抗値低下も顕著であった。これは磁性層表面の研磨剤存在量が過度に多いことに起因すると考えられる。
また、磁性層の表面潤滑剤指数が0.3の水準19では、ヘッド耐久性低下および素子腐食が観察され、更に摩擦係数は大幅に増加し、スメアによるMR抵抗値低下も顕著であった。ヘッド耐久性低下およびスメアによるMR抵抗値低下は、磁性層表面に存在する潤滑剤量が少ないため走行時にヘッド/メディア間の摩擦力が増大することに起因すると考えられる。素子腐食が生じた理由は、磁性層表面に存在する潤滑剤が少なかったため連続走行中に十分な量の潤滑剤をヘッド接触摺動面に転写できなかったためと考えられる。一方、磁性層の表面潤滑剤指数が6.0の水準23では、摩擦係数が増大し、ヘッド耐久性は低下した。
【0163】
以上の結果から、本発明によれば、従来接触摺動型システムにおける採用は困難と考えられていたスピンバルブ型GMRヘッドを接触摺動型システムにおいて使用すること、更には該ヘッドを狭トラック幅、短MRハイト、狭ギャップ長に設計することが可能となり、これにより高密度記録された信号を高感度に再生することが可能になったことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明によれば、スピンバルブ型MRヘッドを接触摺動型システムにおいて採用し、高密度記録された信号を高感度再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】スピンバルブ型MRヘッドの主要部を示す断面図である。
【図2】IrMnおよびPtMnの交換結合磁界の温度特性を示す特性図である。
【図3】IrMnおよびPtMnのブロッキング温度特性を示す特性図である。
【図4】本発明の一態様にかかる接触摺動型の薄膜磁気ヘッドを有するマルチチャネル磁気テープドライブ装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【図5】図4に示す薄膜磁気ヘッドおよびその周辺部分の構成を拡大して示す拡大斜視図である。
【図6】本発明の一態様にかかる薄膜磁気ヘッドの構成を概略的に示す斜視図である。
【図7】本発明の一態様の薄膜磁気ヘッドの各書込み/読出し磁気ヘッド素子の構成を概略的に説明するべくTBS方向から見た側面図である。
【図8】本発明の一態様にかかる薄膜磁気ヘッドの各書込み/読出し磁気ヘッド素子の層構成順を説明するためにTBSに垂直な方向の中心断面を表した模式図である。
【図9】本発明の一態様にかかる薄膜磁気ヘッドの各書込み/読出し磁気ヘッド素子、クロージャおよび基板について、TBSに垂直な方向を含む断面を表した断面図である。
【図10】実施例におけるテープサンプル走行方法の説明図である。
【符号の説明】
【0166】
1 第一シールド層
2 第一ギャップ層
3 スピンバルブ層
4 第二ギャップ層
5 第二シールド層
6 硬質磁性層
7 電極層
10 テープカートリッジ
11 テイクアップリール
12 磁気テープ
13 接触摺動型薄膜磁気ヘッド
14 テープ往復走行方向
15 トラック幅方向
40 基板
41、48、53 絶縁層
42 下部シールド層
43 下部シールドギャップ層
44 GMR層
45 磁区制御用ハードマグネット層
46 上部シールドギャップ層
47 上部シールド層
49 下部磁極層
50 書込みギャップ層
51 書込みコイル層
52 上部磁極層
54 クロージャ
55 保護膜
56 リード導体層
130a、131a、132a 書込み/読出し磁気ヘッド素子
133a、133b、133c、134a、134b、134c リード導体
135 書込み用外部接続パッド
136 読出し用外部接続パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体および再生ヘッドを含む磁気信号再生システムであって、
前記磁気記録媒体は、
磁性層表面の原子間力顕微鏡で測定した高さ10nm以上の突起数が50〜2500個/10000μm2の範囲であり、
磁性層表面の潤滑剤量は、表面潤滑剤指数で表すと、0.5〜5.0の範囲であり、かつ
磁性層の表面研磨剤占有率は2〜20%の範囲であり、
前記再生ヘッドは、
スピンバルブ層を有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドであり、
前記スピンバルブ層は、磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層を有し、該反強磁性層は、イリジウムおよびマンガンを含む合金からなり、
前記磁気記録媒体と前記再生ヘッドとが信号再生時に接触摺動することを特徴とする磁気信号再生システム。
【請求項2】
前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である請求項1に記載の磁気信号再生システム。
【請求項3】
前記六方晶フェライトの平均板径は10〜50nmの範囲である請求項2に記載の磁気信号再生システム。
【請求項4】
前記磁性層の厚さは10〜150nmの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気信号再生システム。
【請求項5】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体に記録された信号を、再生ヘッドを用いて再生する磁気信号再生方法であって、
前記磁気記録媒体は、
磁性層表面の原子間力顕微鏡で測定した高さ10nm以上の突起数が50〜2500個/10000μm2の範囲であり、
磁性層表面の潤滑剤量は、表面潤滑剤指数で表すと、0.5〜5.0の範囲であり、かつ
磁性層の表面研磨剤占有率は2〜20%の範囲であり、
前記再生ヘッドは、
スピンバルブ層を有する磁気抵抗効果型磁気ヘッドであり、
前記スピンバルブ層は、磁化自由層、磁化固定層および反強磁性層を有し、該反強磁性層は、イリジウムおよびマンガンを含む合金からなり、
前記磁気記録媒体と前記再生ヘッドとが信号再生時に接触摺動することを特徴とする磁気信号再生方法。
【請求項6】
前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である請求項5に記載の磁気信号再生方法。
【請求項7】
前記六方晶フェライトの平均板径は10〜50nmの範囲である請求項6に記載の磁気信号再生方法。
【請求項8】
前記磁性層の厚さは10〜150nmの範囲である請求項5〜7のいずれか1項に記載の磁気信号再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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