説明

磁気共鳴イメージング装置、シールドコイル、シールドコイルの製造方法、及び、磁気共鳴イメージング装置の駆動方法

【課題】所望のシールド対象に対して確実で且つ安定したシールド性能を発揮し、使用する超伝導物質を少なくしてより安価に製造することができる磁気共鳴イメージング用のシールドコイルを提供する。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置に設けられた磁場発生用のコイルから発生される磁場をシールドするパッシブ型のシールドコイル12Sが提供される。このシールドコイル12Sを、超伝導物質で形成され、厚さ方向からみたときにシート状を成し、且つ複数の穴部21Bを有する。穴部の形状は、どのような形状でもよく、例えば円形、楕円形、長円形、矩形、菱形の中の一つであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置において発生する磁場をシールドするシールドコイル及びその製造方法などに係り、とくに、超伝導物質で形成されたパッシブなシールドコイル及びその製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
医用の磁気共鳴イメージング(MRI)装置には、静磁場を発生する静磁場コイル、静磁場の均一度を補正するシムコイル、静磁場に重畳する傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル、高周波信号の送受用のRFコイルなどの各種の磁場発生用コイルが使用されている。
【0003】
このうち、シムコイル、傾斜磁場コイル、及びRFコイルは、静磁場コイル(例えば超伝導磁石)が形成する診断用空間としての磁場空間(例えば円筒状空間)の内部に配置される。この場合、通常、シムコイルが静磁場磁石に最も近い位置に配置され、その次に傾斜磁場コイルが配置される。RFコイルは、逆に、診断用空間に挿入された被検体に最も近い位置に配置される。
【0004】
シムコイルには、常伝導シム、超伝導シム、及びパッシブシムが多用されている。また、傾斜磁場コイルにあっては、パルスシーケンスにしたがって発生させた傾斜磁場パルスが静磁場コイルを支持する筐体に渦電流を発生させるなどして画質が低下することを防止するため、シールドタイプのコイルが多用されている。この観点から、傾斜磁場コイルには、アクティブシールドタイプの傾斜磁場コイルとパッシブシールドタイプの傾斜磁場コイルとが在る。
【0005】
このうち、アクティブシールドタイプの傾斜磁場コイルは、一般に、所望の空間分布の傾斜磁場パルスを発生するメインコイルと、このメインコイルの周囲に配置されるシールドコイルとを備えている。メインコイルが発生する傾斜磁場パルスの外部への漏れは、シールドコイルがアクティブに発生するシールド用磁場によって押さえられる。このため、コイルユニットの外部に漏れる傾斜磁場が減少し、この漏れ磁場による渦電流のイメージングへの影響などが押さえられる。
【0006】
一方、パッシブシールドタイプの傾斜磁場コイルは、所望の空間分布の傾斜磁場パルスを発生するメインコイルと、このメインコイルの周囲に配置されるシールド体とを備えている。このシールド体は、シールド材で形成された、例えば円筒状の部材で成り、アクティブタイプとは異なり電流源には接続されずに、傾斜磁場パルスの外界への漏れを減らすようにシールドする。
【0007】
このシールド性能としては、一般に、アクティブシールドタイプの傾斜磁場コイルの方が優れているが、パッシブシールドタイプのものに比べて、構造が複雑になり、またシールドコイルのパターンの設計や製作の精度に高いものが要求される。
【0008】
ところで、近年、傾斜磁場コイルと静磁場コイルとの間のシールドとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この文献1に記載のシールド構造によれば、その図1に示すように、超伝導磁石装置を用いた磁気共鳴イメージング装置において、傾斜磁場コイル及びこのコイルへの電流供給用導線の両方を超伝導多層複合体から作られた磁気シールド体でそれぞれ被うようにしている。これにより、静磁場の中に置かれた傾斜磁場コイル及びその電流供給用導線に、パルス電流が流れることに因る電磁力に起因した打撃音を減らすことができる。また、この構成によれば、かかる傾斜磁場コイルが発生した傾斜磁場パルスの外界への漏れを減らして、この漏れ磁場に因る渦電流を減らすことも可能ではあると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−84712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のシールド構造によれば、例えばNbTi層(30層)、Nb層(60層)、Cu層(31層)を多層化した厚さ1mm程度の超伝導多層複合体で形成されていることから、全面に超伝導物質が分布した超伝導シートの形状になっている。このため、印加される静磁場の分布如何によっては、この超伝導シートが非常に強い磁場の元に曝されることになり、マイスナー効果によって、超伝導物質に流れる遮蔽電流が飽和することがある。このため、この飽和が生じると、超伝導シートの多くの部分で臨界点に達して常伝導状態となり、このときの発熱でシート全体が常伝導状態となり、所望のシールド効果が得られなくなるという問題がある。また、この超伝導シートを製造するには、多層の部材を積層して熱間圧延及び冷間圧延するなどの工程を伴うことから、製造コストが非常に高くなり、現状では実用に供するにはコスト面で困難を伴う。
【0011】
そこで、本発明は、上述した超伝導多層複合体で形成されるシールド構造に鑑みてなされたもので、磁気共鳴イメージング装置で用いる場合でも、マイスナー効果に起因したシールド性能の低下を防止するとともに、所望のシールド対象に対して確実で且つ安定したシールド性能を発揮し、一方、比較的簡単に且つ使用する超伝導物質を少なくして、より安価に製造することができる磁気共鳴イメージングに適したパッシブ型のシールドコイル及びその製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するために、本発明の1つの態様によれば、磁気共鳴イメージング装置に設けられた磁場発生用のコイルから発生される磁場をシールドするパッシブ型のシールドコイルであって、コイル体を、超伝導物質で形成した部分と超伝導物質が無い部分とで形成したことを特徴とするシールドコイルが提供される。このシールドコイルにおいて、前記超伝導物質で形成したコイル体に前記超伝導物質が無い部分を形成し、これにより、前記超伝導物質で形成した部分と前記超伝導物質が無い部分とを形成することができる。例えば、前記超伝導物質が無い部分は、当該超伝導物質の格子欠損による部分である。また、例えば、前記コイル体は、厚さ方向を有し、且つ、当該厚さ方向からみたときにシート状を成す。この構成に場合、前記超伝導物質が無い部分は、前記超伝導物質で形成したシート状の前記コイル体に設けた複数の穴部により構成することができる。
【0013】
また、本発明の別の態様によれば、前記磁場発生用のコイルは、前記磁気共鳴イメージング装置のXチャンネル、Yチャンネル、及びZチャンネルから成る3チャンネルの傾斜磁場コイルであって、この傾斜磁場コイルの外周側の所定位置に配置されて当該傾斜磁場コイルが発生する各チャンネルの傾斜磁場がその外周側に漏れるのを遮蔽するようにしたことを特徴とする。この場合、好適には、前記磁気共鳴イメージング装置に搭載した静磁場発生手段により静磁場を発生させた後に、前記シールドコイルを超伝導状態に遷移させ、これにより、当該シールドコイルに、前記静磁場の磁束の通過を許容した状態で前記傾斜磁場の磁束をシールドさせる磁気共鳴イメージング装置の駆動方法である。
【0014】
さらに、本発明に係る別の態様により、磁気共鳴イメージング装置に設けられた磁場発生用のコイルから発生される磁場をシールドするパッシブ型のシールドコイルの製造方法が提供される。具体的には、超伝導物質で形成された線材の複数本、用意し、この複数本の線材のうち隣接する線材同士を所定間隔で電気的に接続して接続点を形成し、この後、複数の線材をその横方向に引き伸ばして複数の穴部を有するシート状のコイル体を形成することを特徴とするシールドコイルの製造法、又は、超伝導物質で形成された線材をボビンにヘリカル状に巻装し、次いで、前記線材を前記ボビンに、最初に巻装した線材と順次交差するようにヘリカル状に巻装することでシート状のコイル体を形成することを特徴とするシールドコイルの製造法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超伝導物質で形成されるシールドコイルを磁気共鳴イメージング装置で用いる場合でも、マイスナー効果に起因したシールド性能の低下を防止するとともに、所望のシールド対象に対して確実で且つ安定したシールド性能を発揮し、一方、比較的簡単に且つ使用する超伝導物質を少なくして、より安価に製造することができるパッシブ型のシールドコイル及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置のガントリを中心とする概略断面図。
【図2】図1のII−II線に沿った概略断面図。
【図3】Yチャンネルの傾斜磁場コイルの概略構成図。
【図4】Zチャンネルの傾斜磁場コイルの概略構成図。
【図5】X、Y、及びZチャンネルに共通のシールドコイルの、部分的な拡大説明図含む概略構成図。
【図6】シールドコイルの製造方法の一例を説明する図。
【図7】シールドコイルの製造方法の他の例を説明する図。
【図8】実施形態におけるシールドコイルのシールド動作を説明する図。
【図9】本発明のその他の実施形態に係るシールドコイルを説明する概略構成図。
【図10】シールドコイル及びその穴部の変形例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の係るシールドコイルの実施形態を説明する。
【0018】
図1〜8を参照して、本発明に係るシールドコイルの1つの実施形態を説明する。なお、このシールドコイルは、電源供給の不要なパッシブ型のシールドコイルであって、傾斜磁場コイルと一体に組み込まれてパッシブシールド型の傾斜磁場コイルユニットを形成する。この傾斜磁場コイルユニットは、磁気共鳴イメージング装置に設けられるので、この磁気共鳴イメージング装置から説明する。
【0019】
図1に、磁気共鳴イメージング(MRI)装置のガントリ1の概略断面を示す。このガントリ1はその全体が円筒状に形成されており、中心部のボアが診断用空間として機能する。診断時にはそのボア内に被検体Pが挿入可能になっている。ガントリ1は、パルスシーケンスに沿って傾斜磁場及び高周波信号の印加、エコー信号の収集、画像の再構成などの処理を担うイメージング装置に接続されており、これにより、磁気共鳴イメージングが可能になっている。
【0020】
ガントリ1は、略円筒状の静磁場コイルユニット11、このコイルユニット11のボア内に配置された略円筒状の傾斜磁場コイルユニット12、このユニット12の例えば外周面に取り付けられたシムコイルユニット13、および傾斜磁場コイルユニット12のボア内に配置されたRFコイル14を備える。被検体Pは図示しない寝台天板に載せられて、RFコイル14が形成するボア(診断用空間)内に遊挿される。
【0021】
静磁場コイルユニット12は超伝導磁石で形成されている。つまり、外側の真空容器の中に、複数個の熱輻射シールド容器および単独の液体ヘリウム容器が収められ、液体ヘリウム容器の内部に超伝導コイルが巻装・設置される。
【0022】
傾斜磁場コイルユニット12は、ここでは上述したように、パッシブシールド型に形成されている。このコイルユニット12はX軸方向、Y軸方向、Z軸方向毎にパルス状の傾斜磁場を発生させるため、X,Y,Zチャンネル別々にコイルアセンブリを有する。しかも、ユニット全体として、各チャンネルの傾斜磁場を、ユニット径方向の外部に殆ど洩らさないパッシブなシールド構造になっている。
【0023】
具体的には、図2に示すように、この傾斜磁場コイルユニット12にあっては、X,Y,Zチャンネルの円筒状のメインコイル(傾斜磁場コイル)12X,12Y,12Zがコイル層毎に絶縁されながら積層される。さらに、最外層のメインコイル12Zの外側に、全チャンネルのメインコイル12X,12Y,12Zが発生するパルス状の傾斜磁場、すなわちダイナミックに変化する傾斜磁場をまとめてシールドする1つの円筒状のシールドコイル12Sが配置されている。
【0024】
このうち、Yチャンネルのメインコイル12Yは、図3に示すように、平板状の導体を小径のボビンB1に巻装した4個のサドル状渦巻き形の巻線部CR1,CR2,CR3,およびCR4を備える。巻線部CR1およびCR2がZ軸方向に並置され且つ電気的に直列接続される。この巻線部の対を、Z軸に関して180度回転させた位置に、巻線部CR3およびCR4から成る巻線部の対が対向して配置される。各巻線部に流すパルス電流の向きは、Y軸方向傾斜磁場の大きさが線形に変わるように、対向する巻線部同士および並置される巻線部同士で図中の矢印のように設定されている。
【0025】
なお、図3はサドル状渦巻き形の巻線パターンを1つのターン(巻線)について模式的に簡素化して示すもので、実際の各巻線部は複数ターンのサドル状渦巻形のコイルからなる。また、ボビンB1は他チャンネルの巻線層の上に絶縁層を巻装して形成される。
【0026】
また、Xチャンネルのメインコイル12Xも、Yチャンネルのメインコイル12YをZ軸に関して90度回転させた状態で同様に配置される。
【0027】
さらに、Zチャンネルのメインコイル12Zは、図4にその概略を示すように、平板状の導体を円筒状のボビンB2にソレノイド状のコイルパターンに沿って複数ターンに巻装して成る。このメインコイル12Zは、Z軸方向の中心位置Z=0に関して巻線方向が反対方向になっている。
【0028】
シールドコイル12Sは、本発明を実施した特徴的な構造を有するもので、超伝導物質で形成されたパッシブなシールドコイルを形成している。具体的には、このシールドコイル12Sは、図5に示すように、超伝導物質としての例えばNbTi系の超伝導線21を用いて形成したメッシュ状の円筒体(コイル体)12Nから成る。すなわち、この円筒体(コイル体)12Nは、その周面に沿って菱形の紋様を画くように超伝導線21を組み付けただけのシンプルな構成になっている。このため、シールドコイル12Sは、そのコイル部分の実体としては、その周面に沿って形成された超伝導体から成る複数の略菱形の枠部分21Aで構成される。この複数の略菱形の枠部分21Aそれぞれの内部は穴部(空間部分)21Bとなっている。
【0029】
つまり、この「穴部」とは超伝導物質は存在しない部分(領域)を言う。このため、超伝導物質がない部分であればよいので、実際の「穴」であってもよいし、そうでなくともよい。例えば、この「穴部」には、銅などの熱伝導率、導電率のよい物質、例えば常電導物質が充填されて用いられてもよい。さらに、かかる「穴部」は超伝導物質が無い部分であればよいので、例えば、格子欠損という原子レベルの非常に小さな空間的な穴であってもよい。この格子欠損を持った超伝導物質、例えば超伝導シートは、電流密度を高めるために不純物を入れることなどによって、別の目的と共に作り出すことができる。また、本発明に係るシールドコイルを、発熱が少ない動的遮蔽シート(必ずしもシート状でなくてもよい)として形成するには、少なくとも空間的超伝導穴の周りは超伝導体で囲まれていることが望ましい。これは動的磁場変動を遮蔽するために遮蔽永久電流を流したいからである。
【0030】
このように超伝導物質が無い部分を有する、本発明に係るシールドコイルは、従来のように一面に超伝導物質が充填されている超伝導シートを用いたシールドコイルとは全く異なる振る舞いを示す。その振る舞いは、具体的な図面を使って後述するが、ここで、簡単に言えば次の通りである。本発明に係るシールドコイルでは、超伝導物質が空間上に存在しない箇所をわざわざ設けることによって、静的磁場に関しては、あたかも超伝導物質がないかの如く振る舞い、かつ、動的磁場変化に関しては、その超伝導物質のない穴を通過する磁束を打ち消す遮蔽永久電流が超伝導物質上に生成され、動的磁場変化のみを選択的に遮蔽する。このとき、物理的には超伝導物質を保護する目的で充填されている銅などの導電性導体上に渦電流が発生するが、その電流は電気抵抗0である超伝導物質に即座に吸収され、それによる発熱は非常に小さい。
【0031】
再び、実施例に係るシールドコイル12Sの説明に戻る。このシールドコイル12Sは、円筒状に形成された容器22に収納され、超伝導線21を超伝導状態にするために、液体ヘリウムを充填可能になっている。
【0032】
このシールドコイル12Sは様々な方法で製造することができる。図6および図7に、かかる製造方法の例を示す。この何れの製造方法の場合も、導線の内部に、その長さ方向に沿って、例えばNbTi系の超伝導物質から成る超伝導材(芯材)埋め込んだ超伝導線21を用いる。
【0033】
図6に示す製造方法の場合、かかる超伝導線21を複数本、並列に並べ、互いに隣接する線材の間で所定間隔毎に電気的に接続する(電気的接合点CNの形成)(図6(A)参照)。次いで、このように複数個の電気的接合点CNを形成した線材を、それぞれ、4箇所の電気的接合点CNを頂点とする菱形の紋様(穴部21B)を画くように引き伸ばす(同図(B)参照)。次いで、この引き伸ばした線材を円筒状のボビンB3に沿って円筒状に丸める(図5参照)。
【0034】
なお、この製造方法の別の例として、全面が超伝導物質で形成された超伝導シートに所定長さの切り込みを所定間隔毎に複数列に渡って入れ、その後に、このシートを横に広げるようにしてもよい。これにより、切込み部分のそれぞれが広がって穴部21Bを形成し、切込み同士の繋がり部分のそれぞれが上述した電気的接合点CNを成すことになり、図6(B)のものと同様のシールドコイル12Sを形成することができる。
【0035】
これに対し、図7に示す製造方法の場合、用意した円筒状のボビンB3の周面に沿って最初に超伝導線21を所定の斜め角度でヘリカル状に巻く。次いで、超伝導線の巻装方向に交差するように方向を変えて、超伝導線21を再びヘリカル状に巻装する。この2回のヘリカル巻きにより、周面に沿って超伝導線21の交差するそれぞれの位置が上述した電気的接合点CNを形成し、その電気的接合点CNで囲まれた略菱形の紋様部分が穴部21Bを形成する。
【0036】
次に、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置のガントリ1のシールドコイル12Sの作用効果を説明する。
【0037】
このシールドコイル12Sは、傾斜磁場コイルユニット12から静磁場コイルユニット11の方向(ガントリ1の半径の外側方向)への磁場の漏れを防止することを目的としている。このため、静磁場に対してはシールド効果を示さずに、パルス状に変化する傾斜磁場(ダイナミックに変動する磁場)をシールドすることが必要である。このためには、シールドコイル12(すなわち超伝導線21)を超伝導状態に遷移させるときの、静磁場の印加との順序を管理することが重要である。すなわち、最初に静磁場を印加し、その後に、シールドコイル12を超伝導状態に遷移させることが重要である。
【0038】
そこで、この磁気共鳴イメージング装置を用いて磁気共鳴イメージングを実行する場合、かかる順序関係に沿って、最初に、静磁場コイルユニット11を起動させて静磁場を発生させる。この静磁場はガントリ1の内部を通過する静磁場を発生させるので、この静磁場の磁束Bは図8に示すように、シールドコイル12を通過する。つまり、このときのシールドコイル12は未だ超伝導状態になっていないので、静磁場の磁束Bは、その穴部21Bを通して自由に通過できる。
【0039】
次いで、この静磁場の発生後に、シールドコイル12を超伝導状態に遷移させる。これには、容器22に液体ヘリウムを充填させればよい。この充填により、容器22内でシールドコイル12が液体ヘリウムに浸漬される。この結果、シールドコイル12は液体ヘリウムの温度:−269℃の極低温まで冷却されるので、超伝導状態に遷移する。
【0040】
この後、所定のパルスシーケンスに沿って、傾斜磁場コイルユニット12のX,Y,及びZチャンネルの傾斜磁場コイル(メインコイル)12X,12Y,及び12Z、並びに、RFコイル14が駆動されて、エコー信号がRFコイル14を介して収集される。
【0041】
この傾斜磁場コイル(メインコイル)12X,12Y,及び12Zは極めて短時間のうちにオン・オフするパルス信号によって駆動される。このため、各傾斜磁場コイル12X,12Y,及び12Zから発生する傾斜磁場G(Gx,Gy,Gz)は静磁場Bに重畳して空間的な位置情報を静磁場Bに与える。このため、この静磁場Bの元に所望のエコー信号の収集を行うことができる。
【0042】
この各傾斜磁場コイル12X,12Y,及び12Zから発生する傾斜磁場Gは、静磁場Bに重畳する一方で、静磁場コイルユニット11の側へも放射される。この傾斜磁場Gは時間と共にダイナミックに変動する磁場である。
【0043】
このため、この傾斜磁場Gの磁束は、シールドコイル12Sの枠部分21Aは完全非磁性になっているので、その穴部21Bを通過しようする。しかしながら、図8に示すように、かかる穴部21Bはそれぞれが1つの閉ループになっているので、各閉ループに誘起されるループ電流が隣接するループ同士で相殺し合うことになり、結局、電流は流れない。つまり、最初に印加されていた静磁場Bはシールドコイル12Sを通過できるが、その後の超伝導状態への移行の後に印加される磁場、すなわち傾斜磁場Gはシールドコイル12Sを通過できずに、シールドコイル12Sにより遮蔽される。したがって、静磁場Bには何等関与しないことから、静磁場によって臨界点に達してクエンチ現象を発生することなく、傾斜磁場Gだけを選択的にシールドするという高機能のシールド効果が得られる。
【0044】
このため、傾斜磁場Gが静磁場コイルユニット11の側に漏れて、かかるユニット11の筐体で渦電流を発生させ、この渦電流により、再構成されるMR画像の画質を低下させるといった事態を確実に排除又は減らすことができる。
【0045】
しかも、本実施形態に係るパッシブなシールドコイル12Sの場合、1つ(1層)の遮蔽体でありながら、Xチャンネル、Yチャンネル、及びZチャンネル全ての動的変動磁場(傾斜磁場)を遮蔽することができる。すなわち、シールドコイル12Sの内径側(ボア側)に位置する傾斜磁場コイル12X,12Y,12Zの形状や巻装パターンに関係無く、1つのパッシブな遮蔽体でシールドすることができる。このため、シールドコイル12Sは、汎用性に優れた万能型の遮蔽体として使用することができる。
【0046】
また、上述したように様々な用途の傾斜磁場コイルに適用でき、且つ、電流を供給する必要が無いので、静磁場コイルユニット11と採用した超伝導磁石の容器(真空容器)の中にシールドコイル12Sを配置することもできる。このように配置することで、メインコイルである傾斜磁場コイル12X,12Y,12Zとの間の距離をより大きく採ることができる。したがって、メインコイルに供給する電源の容量を減らすことができ、傾斜磁場コイルユニット12の効率をより向上させることができるとともに、一層の小形化を図ることができる。
【0047】
さらには、シールドコイル12Sに用いる超伝導材料はNbTi線などの線材で済むことから、従来の超伝導シートタイプのシールドコイルとは違い、超伝導材料のコストを抑えることができ、より安価に製造することができるという実用上、非常の重要な効果も得られる。
【0048】
さらに、このパッシブなシールドコイル12Sを超伝導状態に遷移させるための機構(容器22やそのためのポート)は必要になるが、アクティブタイプの傾斜磁場コイルユニットと違って、各チャンネルに共通の1層のシールド層(シールドコイル12S)で済むこと、及び、シールドコイル12Sに対する電源や配線の引き回しが不要であることを考慮すると、このシールドコイル12Sを用いたパッシブタイプの傾斜磁場コイルユニット12は、その全体構成は簡単化され、且つ、小形化されたものとなる。
【0049】
ところで、本実施形態に係るシールドコイル12Sは、静磁場を発生させた後で超伝導状態に遷移させるようにしているので、静磁場を継続的に通過せることができる。これに対し、従来のように単純に、全面に超伝導物質を分布させた超伝導シートの場合、そのマイスナー効果によって、静磁場を発生・印加する順序に関係無く、シートの外部に磁束を追い出そうとすることから、静磁場も変動磁場も遮蔽してしまう点で、本実施形態のものとは決定的に相違する。
【0050】
なお、前述した如く、液体ヘリウムを充填させる容器22を備えていない場合、直付けタイプの冷凍機を用い、この冷凍機を起動させることでシールドコイル12Sを超伝導状態に遷移させるように構成してもよい。このため、常伝導状態から超伝導状態への制御ための構成についても、様々な態様を採ることができる。
【0051】
(別の実施形態)
さらに、本発明のシールドコイルに係る別の実施形態を説明する。
【0052】
この実施形態に係るシールドコイルは、磁気共鳴イメージング装置のシムコイルユニット13について実施したものである。
【0053】
このシムコイルユニット13は、図9に示すように、上述した例えば図5に記載のシールドコイル12Sと同様の網目構造のシールドコイル13Sを有して構成される。このシールドコイル13Sには、また、オン・オフ動作が可能な電流供給回路23と、この電流供給回路23をオン・オフ動作させるスイッチ24とを備える。このため、スイッチ24を操作して電流供給回路23をオン動作させたときには、このシールドコイル13Sに電流が供給され、このコイル13Sが加熱される。
【0054】
本実施形態のように、本発明に係るシールドコイルをシミング用コイルとして実施する場合には、前述したようにダイナミックに変動する傾斜磁場Gを遮蔽するのみならず、静磁場をも遮蔽させる必要がある。このためには、前述の実施形態のときと同様に、静磁場の印加とシールドコイル13Sの超伝導状態への移行の時期とのタイミングが重要になる。前述した実施形態の場合、静磁場の印加の後にシールドコイル13Sを超伝導状態に移行させる必要があったが、この実施形態の場合には、その順序が逆になる。
【0055】
この具体的な一例は以下のようになる。いま、容器22に液体ヘリウムを充填させることでシールドコイル13Sも既に超伝導状態にあるとする(このとき、静磁場コイルユニット11は未だ起動させていない)。この状態で、スイッチ24を操作して電流供給回路23からシールドコイル13Sに電流を供給する。これにより、シールドコイル13Sがジュール熱により加熱されるので、シールドコイル13Sは瞬時のうちに常伝導状態に戻る。
【0056】
このように一旦、確実に常伝導状態に戻した後、スイッチ24を操作して電流回路23からシールドコイル13Sへの電流供給を中止させる。このため、容器22内の液体ヘリウムに浸漬されているシールドコイル13Sは、再び、超伝導状態に遷移する。
【0057】
次いで、静磁場コイルユニット11を既に起動させて静磁場を発生させる。これにより、静磁場Bの磁束は既に超伝導状態となっているシールドコイル13Sを通過できず、また、傾斜磁場Gの磁束もシールドコイル13Sを通過できない。つまり、両者ともシールドコイル13Sにより遮蔽される。
【0058】
このようなシールドコイル13Sを配置することで、傾斜磁場Gの遮蔽機能のほかに、静磁場Bを遮蔽機能に拠るシミング効果が得られる。
【0059】
なお、前述した傾斜磁場コイルユニット12(シールドコイル12S)とシムコイルユニット13(シールドコイル13S)とを併用するようにしてもよい。
【0060】
また、なお、上述したシールドコイル12Sにあっては、超伝導線21を用いて略菱形の複数の穴部21Bを形成するようにしたが、基本的には、この穴部21Bの形状は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0061】
つまり、この穴部の最も大きな概念としては、超伝導物質がシールドコイルの全面にわたって分布していなければよく、定形及び/又は不定形の穴部が複数個形成されており、この穴部を介して静磁場の磁束が通過できればよい。定形の穴部を形成する態様としては、一定形状の網目状の穴部の形成がある。
【0062】
この一定形状の穴部21Bは、必ずしも菱形に限定されるものではなく、図10(A)〜(C)に示すように、円形、長円形、正方形、さらに、楕円形、長円形、菱形など、どのような形状であってもよい。この穴部21Bのそれぞれが小さな閉ループのコイルとして機能し、このコイルに進入しようとする磁束を遮蔽することができる。例えば、図10(A)のような円形状の穴部21Bの場合、NbTi線などの線材を用いて、小さなループコイルを複数個製造し、それらのループコイルをボビンの円周面上に連結配置することにより、シールドコイル12Sを形成することができる。
【0063】
また、同じ一定形状の穴部21Bであっても、その大きさを、円筒状のシールドコイル12S(13S)の位置に応じて調整するようにしてもよい。例えば、図5に模式的に示していたように、シールドコイル12Sの円筒軸(Z軸)の方向の中央部では穴部21Bの大きさを細かくし、その反対に円筒軸上の端部寄りになるほど穴部21Bのそれを粗く形成してもよい。これにより、かかる中央部に近づくほど、そのシールド性能を向上させることができるなど、位置の重要性に応じてシールド性能を調整することもできる。
【0064】
さらには、超伝導物質が常伝導物質を介して小さなコイルを複数個形成する構造のシールドコイルであっても、同様のシールド効果を発揮する。この場合には、しかしながら、発熱によるクエンチ現象の問題があるので、超伝導物質が線状に分布してコイルを形成していることが望ましい。
【0065】
さらに、前述した実施例及び変形例に係るシールドコイルを、少なくとも1層、あるいはそれ以上の多層構造として形成してもよい。また、前述した実施例及び変形例に係るシールドコイルを、静磁場を発生する静磁場コイルと同じ真空層又は別の独立した真空層に配置してもよい。
【0066】
さらに、前述した実施例の傾斜磁場コイルを、所謂、自己遮蔽型傾斜磁場コイル(一例として、Actively Shielded Gradient Coil (ASGC)がある)として形成し、これに前述したシールドコイルを適用してもよい。また、本発明に係るシールドコイルを非シールド型の傾斜磁場コイルに実施することもできる。さらには、傾斜磁場コイルを部分的に遮蔽するために、当該傾斜磁場コイルの外側に、本発明に係るシールドコイルを1つ以上配置するようにしてもよい。
【0067】
本発明は、上述した実施形態及びその変形例に限定されるものでは無く、当業者であれば、特許請求の範囲に記載の要旨の範囲内で従来周知の技術を用いて更に様々な形態に変形して実施することができ、それらも本発明の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0068】
1 磁気共鳴イメージング装置のガントリ
11 静磁場コイルユニット
12 傾斜磁場コイルユニット
13 シムコイルユニット
14 RFコイル
12X,12Y,12Z 傾斜磁場コイル(メインコイル)
12S シールドコイル
21 超伝導線
22 容器
21A 枠体
21B 穴部
21N 円筒体(コイル体)
23 電流供給回路
24 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴イメージング装置に設けられた磁場発生用のコイルから発生される磁場をシールドするパッシブ型のシールドコイルであって、
コイル体を、超伝導物質で形成した部分と超伝導物質が無い部分とで形成し、前記超伝導物質が無い部分は、当該超伝導物質の格子欠損による部分であることを特徴とするシールドコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−143661(P2012−143661A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109845(P2012−109845)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2007−100276(P2007−100276)の分割
【原出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】