説明

磁気共鳴イメージング装置および非線形性歪み補正方法

【課題】撮像断面が確定した時点で、その断面での歪み量を、傾斜磁場コイルの形状からBio−Savart(ビオ・サバール)の法則を用いて算出し、非線形性に起因する画像の歪み補正を行うMRI装置を提供する。
【解決手段】磁気共鳴信号に基づいて被検体を収容する空間内の再構成画像を生成する処理手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置であって、処理手段において、傾斜磁場発生手段を構成するパターンに基づいて該空間内の任意の撮像断面における傾斜磁場強度を算出し、算出された傾斜磁場強度を用いて撮像断面における傾斜磁場の歪み量を算出し、傾斜磁場の歪み量に基づいて再構成画像の歪み量を補正することにより傾斜磁場強度の歪みを除去した再構成画像を取得することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、特に、傾斜磁場の非線形性に起因する画像の歪みを補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR(核磁気共鳴)信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
正しい再構成画像を得るためには、NMR信号に位相エンコードを付与する傾斜磁場分布が線形でなければならない。しかし、現在のMRI装置では、磁石のボアを短くしたり傾斜磁場の速度を改善したりするため、傾斜磁場分布の線形性は犠牲にされている。このような傾斜磁場分布の非線形性は、再構成画像に歪みを生じさせる。従って、正しい画像を得ることができない。このため、傾斜磁場分布の歪みから、傾斜磁場分布の非線形性による再構成画像の歪み量を推定し、画像の歪みを補正する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−226199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された歪み補正手法は、あらかじめ3次元空間についての歪み補正テーブルを記憶し、歪み補正テーブルを用いて補正を行う手法である。歪み補正テーブルは、磁場測定器あるいは解析的に求めた2次元の歪み量を複数記憶して3次元空間に対応している。あらかじめ補正テーブルを記憶しておく場合、補正テーブルの精度が歪み補正の精度に影響する。また、補正テーブルと撮像位置が正確に一致しない場合は、近傍の値から、撮像位置に相当する補正テーブルを算出しなければならない。
【0006】
ところで、MRI装置は、3次元的なボリュームを持つ被検体のマルチスライスの撮影ができるので、被検体の内部の様態の詳細な検査が可能である。またMRI装置は、その大きな特徴として、任意の傾きを持つ断面の撮像が可能であることが挙げられる。具体的にMRI装置では、3組の直交する傾斜磁場を用いて、それぞれにスライス方向、位相エンコード方向、及び周波数エンコード方向に割り当てて、その組み合わせにより様々な角度から撮影を行える。アキシャル断面に加えて、それと直交するサジタル断面やコロナル断面、更には面と垂直な方向が傾斜磁場の軸と垂直でないオブリーク断面について撮影することができる。
【0007】
ところが、任意の角度で傾斜されたオブリーク断面の撮像位置と補正テーブルとが、一致しない場合は、近傍の値から、撮像位置に相当する補正テーブルを算出しなければならない。しかし、補正テーブルとのずれが大きいと、補正テーブルとを対応させて、歪み補正を精度良く行うことは、難しい場合がある。
【0008】
従って、傾斜磁場分布の不均一に起因した歪み補正を十分に行わないと、MR画像の歪みやボケや信号欠落につながる。
【0009】
そこで本発明の目的は、撮像断面が確定した時点で、その断面での傾斜磁場の歪み量を傾斜磁場コイルの形状からBio−Savart(ビオ・サバール)の法則を用いて算出し、任意の撮像断面における傾斜磁場分布の非線形性に起因する再構成画像の傾斜磁場の歪み量補正を行うMRI装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本願発明の磁気共鳴イメージング装置のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すると、次の通りとなる。
【0011】
被検体を収容する空間に均一な静磁場を発生させる静磁場発生手段と、静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する信号検出手段と、磁気共鳴信号に基づいて被検体の空間内の再構成画像を生成する処理手段と、を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、処理手段において、傾斜磁場発生手段を構成するコイルのパターンに基づいて空間内の任意の撮像断面における傾斜磁場強度を算出し、算出された傾斜磁場強度を用いて撮像断面における傾斜磁場の歪み量を算出し、傾斜磁場の歪み量に基づいて再構成画像の歪み量を補正することにより傾斜磁場強度の歪みを除去した再構成画像を取得することを特徴とする。
【0012】
また、本願発明の磁気共鳴イメージング装置の傾斜磁場の非線形性補正方法のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すると、次の通りとなる。
【0013】
被検体を収容する空間に均一な静磁場を発生させる静磁場発生手段と、静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する信号検出手段と、磁気共鳴信号に基づいて被検体の空間内の再構成画像を生成する処理手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置における傾斜磁場の非線形性補正方法であって、被検体の撮像断面を決定し、その後、撮像断面を特定するパラメータを取得する第1ステップと、第1ステップで取得した撮像断面上の各位置での傾斜磁場の歪み量を、式(A)を用いて算出する第2ステップと、第2ステップで算出した傾斜磁場の歪み量の最大値あるいは平均値と予め設定された基準値とを比較し、傾斜磁場の歪み量の最大値、あるいは平均値のどちらかが前記基準値を超えていない場合は、次の新たな撮像断面領域が決定されるまで待機する第3ステップと、第2ステップで算出した傾斜磁場の歪み量の最大値、あるいは平均値のどちらかが基準値を超えた場合、計算式である式(A)を用いて、まだ算出処理が施されていない撮像断面領域の他の領域についての傾斜磁場の歪み量を算出する第4ステップと、第4ステップで取得した撮像断面パラメータを用いて、オブリークの単位ベクトルを算出する第5ステップと、各撮像断面の撮像画像の再構成処理が終了した後、第4ステップと前記第5ステップで算出した値を使用して、撮像画像に対して歪み量の補正処理を行う第6ステップとを有することを特徴とする。
【0014】
【数1】

【0015】
(ここで、rは上記空間の原点からの傾斜磁場の歪み量算出位置までの位置ベクトル、δrは位置rにおける傾斜磁場の歪み量、Grは傾斜磁場強度、B(r)は原点から距離rだけ離れた位置における磁束密度を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、任意の撮像断面における傾斜磁場分布の非線形性に起因する再構成画像の歪み量を、傾斜磁場コイルの形状から算出し、補正を行うことにより、歪みの少ない再構成画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の全体構成を説明するための図である。
【図2A】磁束密度を求める式を説明する図である。
【図2B】仮想の磁場強度分布と実際の磁場強度分布を示す図である。
【図3】オブリーク画像のベクトルを定義した図である。
【図4】本発明の処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、図1に示すように、MRI装置は静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて構成される。
【0020】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0021】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0022】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0023】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力されたRFパルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0024】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でデジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
【0025】
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。受信系6からのデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0026】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0027】
なお、図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0028】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0030】
図2Aは、静磁場磁石31により静磁場が形成されている空間、すなわち撮像領域(FOV:Field Of View)33を示す。撮像領域33の上方に傾斜磁場コイル9aが設けられ、さらに傾斜磁場コイル9aの上方には、静磁場磁石31が設けられている。なお、ここで示す傾斜磁場コイル9aは、Y軸傾斜磁場コイル一対の一方のみを図示している。また、当該コイルは、閉回路(C)32を構成している。
【0031】
撮像領域33の位置を表すために、X,Y,Z軸が図に示すように与えられている。それぞれの2軸で決定される平面に平行する面を基準面(アキシャル面、サジタル面、コロナル面など)とし、X,Y,Z軸の原点を記号Oで示し、原点Oから距離rだけ離れたオブリーク断面34上の位置をPとする。
【0032】
ここで、オブリーク断面34は、上記基準面から所定の傾斜、例えばX軸とZ軸で決定される平面に対して、ψ(プシー)なる角度で傾いてなる平面であり、さらに、X軸とY軸で決定される平面に対しても、φ(ファイ)なる角度で傾いてなる平面である。本実施例では、当該平面で被検体の断面を撮像する場合を想定して以下に説明する。
【0033】
なお、ψ(プシー)がゼロ、あるいはφ(ファイ)がゼロなる平面、あるいはいずれもがゼロの場合でも、本実施例は適用できることは言うまでもない。
【0034】
この時の位置Pにおける磁束密度を以下に求める。
Bio−Savartの法則により、図2Aで示す閉回路(C)32に電流Iが流れている場合、原点Oから距離rだけ離れた位置Pにおける磁束密度B(r)は、
【0035】
【数2】

【0036】
で表される。ここで、dsは閉回路(C)32上の微小領域(線分)を、μは透磁率を、ベクトルsは原点Oを始点とし、微小領域dsを終点とするベクトルを、それぞれ示す。
また、式(1)の積分は閉回路(C)32に沿って線積分を行うことを示す。なお、微小領域dsから、位置Pまでの距離は、r−sのベクトルで表記される。
【0037】
ところで、MR撮像は、シーケンサ4からの制御により、SE(Spin Echo)法やFE(Field Echo)法などの撮像法のパルスシーケンスに従って実行される。シーケンサ4から出力されるデジタルの生データをk空間として、k空間データベースが形成される。
取得されたk空間データに対して二次元又は三次元のフーリエ変換処理あるいは、最大値投影処理などの画像再構成処理を施して、非線形な実際のZ軸傾斜磁場における再構成画像領域(FOV)を生成する。
【0038】
図2Bは、図2Aに示す撮像領域33の原点Oから撮像領域33の外側端に向かって形成されるZ軸傾斜磁場の仮想の磁場強度分布と実際の磁場強度分布を示す。
【0039】
仮想の磁場強度分布は、原点Oから線形性を維持して撮像領域33の外側端まで伸びている。
一方、実際の磁場強度分布は、原点Oから一定の領域まで線形性を維持して伸びているが、ある領域から線形性が維持できずに、磁場強度分布は非線形性を示すようになる。なお、図に示す非線形性は、一例を示すに過ぎない。その非線形の特性は、扱うMRI装置により異なる。
【0040】
いま、再構成FOVが狭い範囲の場合、すなわち、図中で示す再構成FOV(1)の場合には、再構成FOV(1)の右端における仮想および実際の磁場強度は、それぞれZ(1)とZ(1)であり、磁場強度の差が殆ど見られない。
【0041】
一方、再構成FOVが広い範囲の場合、すなわち、図中で示す再構成FOV(2)の場合には、再構成FOV(2)の右端における仮想および実際の磁場強度は、それぞれZ(2)とZ(2)であり、磁場強度の差が顕著に現れている。
【0042】
従って、この傾斜磁場の実際の強度分布が非線形であるために、上記位置Pにおける磁場強度は、線形性を有する仮想の磁場強度分布からずれて歪みを生じている。
【0043】
次に、上記式(1)を用いて、その歪の量を求めることにする。
上記位置Pでの傾斜磁場の歪み量は、傾斜磁場強度Grを用いて、以下の式で求められる。
【0044】
【数3】

【0045】
rの座標を、静止座標系の座標表示を(x,y,z)とし、その座標rで表す位置Pにおける傾斜磁場強度のx成分、y成分、z成分を、それぞれGx、Gy、Gzとすると、上式は
【0046】
【数4】

【0047】
と各軸成分に分解できる。
【0048】
実際には、上述したように、基準面に対して傾斜している場合、すなわち撮像断面は静止座標系に垂直または平行ではない場合が多い(オブリークしている場合)。
【0049】
以下、オブリークしている場合の計算方法を以下に述べる。オブリークしていない場合は、後述の単位ベクトルの1成分を0にすればよい。
【0050】
図3に示した撮像画像に対する横ベクトルと、縦ベクトルの単位ベクトルをそれぞれ、R(r、r、r)、C(c、c、c)と表すことにする。横方向の傾斜磁場の歪み量δRを、縦方向の傾斜磁場の歪み量δCとすると、それぞれの傾斜磁場の歪み量は単位ベクトルとオブリークしていない場合の傾斜磁場の歪み量(基準値)は、式(3)を用いて、
【0051】
【数5】

【0052】
と表される。以上より、画像上の全ての点において、画像の横方向と、縦方向に、それぞれδRとδCだけ、画素を移動することでオブリークした画像の歪みを補正する。
【0053】
上記説明は、位置Pにおける磁場強度の算出方法と、その位置Pにおける傾斜磁場の歪み量の算出に関するが、オブリーク断面34の全体に亘って、同様の手法を繰り返して行うことにより、オブリーク断面34全面での磁場強度分布が求まる。求めた全面での磁場強度分布と仮想の磁場強度分布から全面での傾斜磁場の歪み量を算出することができる。本補正方法により、オブリーク断面34における撮像画像のぼけやアーチファクトなどの不具合を低減した撮像画像を得ることができる。
【0054】
傾斜磁場の歪み量の計算は、画像再構成が終了するより以前、撮像断面が決定した段階で実行できるので、位置情報が決定した段階で傾斜磁場の歪み量を計算し、画像を取得してから傾斜磁場の歪み量に応じた歪み補正を実行するように2段階に分けることができる。
【0055】
図2Bに示すように、傾斜磁場の歪み量は磁場中心(ここでは、原点Oを磁場中心としている)から離れるほど大きくなる。そこで、撮像断面の中で最も磁場中心から離れた位置の傾斜磁場の歪み量を最初に計算し、傾斜磁場の歪み量が許容範囲以下であったら、傾斜磁場の歪み量の計算及び歪み補正を実行しないことも可能である。
【0056】
次に処理の流れを、図4を用いて説明する。
撮像断面が決定した後、撮像断面を特定するパラメータを取得する(ステップ401)。
ステップ401で取得した撮像断面の中で、磁場中心から最も離れた(再構成FOV領域の外側端)撮像断面領域を抽出し、式(2)、式(3)により、撮像断面領域上の各位置での傾斜磁場の歪み量を算出する(ステップ402)。
ステップ402で算出した傾斜磁場の歪み量の最大値、あるいは平均値のどちらかが基準値を超えた場合、ステップ404を実行し、超えていない場合は、次の新たな撮像断面が決定されるまで待機する(ステップ403)。
ステップ404では、ステップ402と同じ計算式を用いて、残りの算出していない断面についての傾斜磁場の歪み量を算出する。ステップ401で取得した撮像断面パラメータを用いて、オブリークの単位ベクトルを算出する(ステップ405)。
ステップ401からステップ405は、撮像断面が決定された直後から実行可能である。各撮像断面の画像の再構成処理が終了した後、ステップ404とステップ405で算出した値を使用して、画像に対して歪み補正処理を行う(ステップ406)。
【0057】
上述したように、本実施例によれば、オブリークした画像の歪みを補正することができる。従来のように、事前に特定の位置における補正データテーブルを用意し、対応する画像の位置座標がない場合は、近傍の値を用いる方法、あるいは、適宜に補間法で求める方法に比べ、本補正は、高精度な傾斜磁場の歪み量補正を行うことができる。特に、オブリークした画像の傾斜磁場の歪み量の補正に有効である。その理由は、上述したとおりである。
【符号の説明】
【0058】
1:被検体、2:静磁場発生系、3:傾斜磁場発生系、4:シーケンサ、5:送信系、6:受信系、7:信号処理系、8:中央処理装置(CPU)、9:傾斜磁場コイル、9a:Y軸傾斜磁場コイル、10:傾斜磁場電源、11:高周波発信器、12:変調器、13:高周波増幅器、14a:高周波コイル(送信コイル)、14b:高周波コイル(受信コイル)、15:信号増幅器、16:直交位相検波器、17:A/D変換器、18:磁気ディスク、19:光ディスク、20:ディスプレイ、21:ROM、22:RAM、23:トラックボール又はマウス、24:キーボード、31:静磁場磁石、32:閉回路(C)、33:撮像領域、34:オブリーク断面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を収容する空間に均一な静磁場を発生させる静磁場発生手段と、
前記静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、
前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する信号検出手段と、
前記磁気共鳴信号に基づいて前記被検体の前記空間内の再構成画像を生成する処理手段と、を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記処理手段において、
前記傾斜磁場発生手段を構成するコイルのパターンに基づいて前記空間内の任意の撮像断面における傾斜磁場強度を算出し、
算出された前記傾斜磁場強度を用いて前記撮像断面における前記傾斜磁場の歪み量を算出し、
前記傾斜磁場の歪み量に基づいて前記再構成画像の歪み量を補正することにより前記傾斜磁場強度の歪みを除去した再構成画像を取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記コイルに流れる電流による傾斜磁場強度は、ビオ・サバールの法則を用いて算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記撮像断面は、撮像画像の基準面に対して所定の角度を有するオブリーク断面であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記撮像断面における前記傾斜磁場の歪み量の算出は、前記傾斜磁場強度を用いて算出した前記傾斜磁場の歪み量の最大値あるいは平均値と仮想の傾斜磁場強度より設定された基準値とを比較し、どちらかが該基準値を超えた場合に実行されることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記撮像断面における前記傾斜磁場の歪み量の算出は、前記空間の外側端から前記傾斜磁場の中心に向けて実行を開始することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記撮像断面における前記傾斜磁場の歪み量を算出する処理と、前記信号検出手段を用いて前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出し、前記磁気共鳴信号に基づいて前記被検体の再構成画像を生成する処理は、時系列的に並行して行われることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
被検体を収容する空間に均一な静磁場を発生させる静磁場発生手段と、前記静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する信号検出手段と、前記磁気共鳴信号に基づいて前記被検体の前記空間内の再構成画像を生成する処理手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置における傾斜磁場の非線形性補正方法であって、
前記被検体の撮像断面を決定し、その後、前記撮像断面を特定するパラメータを取得する第1ステップと、
前記第1ステップで取得した前記撮像断面上の各位置での前記傾斜磁場の歪み量を、式(A)を用いて算出する第2ステップと、
前記第2ステップで算出した前記傾斜磁場の歪み量の最大値あるいは平均値と予め設定された基準値とを比較し、前記傾斜磁場の歪み量の最大値、あるいは平均値のどちらかが前記基準値を超えていない場合は、次の新たな撮像断面領域が決定されるまで待機する第3ステップと、
前記第2ステップで算出した前記傾斜磁場の歪み量の最大値、あるいは平均値のどちらかが前記基準値を超えた場合、前記計算式である式(A)を用いて、まだ算出処理が施されていない前記撮像断面領域の他の領域についての前記傾斜磁場の歪み量を算出する第4ステップと、
前記第4ステップで取得した撮像断面パラメータを用いて、オブリークの単位ベクトルを算出する第5ステップと、
各撮像断面の撮像画像の再構成処理が終了した後、前記第4ステップと前記第5ステップで算出した値を使用して、前記撮像画像に対して歪み量の補正処理を行う第6ステップとを有することを特徴とする傾斜磁場の非線形性歪み補正方法。
【数1】

(ここで、rは上記空間内の原点からの前記傾斜磁場の歪み量算出位置までの位置ベクトル、δrは位置rにおける前記傾斜磁場の歪み量、Grは傾斜磁場強度、B(r)は原点から距離rだけ離れた位置における磁束密度を示す。)
【請求項8】
請求項7記載の傾斜磁場の非線形性補正方法において、
前記第2ステップにおいて、前記空間の外側端に接して位置する撮像断面領域を抽出し、前記撮像断面領域上の各位置での前記傾斜磁場の歪み量を、前記式(A)を用いて算出することを特徴とする傾斜磁場の非線形性補正歪み方法。
【請求項9】
請求項7記載の傾斜磁場の非線形性補正方法において、
前記第2ステップにおける前記撮像断面における前記傾斜磁場の歪み量を算出する処理と、前記信号検出手段を用いて前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出し、前記磁気共鳴信号に基づいて前記被検体の再構成画像を生成する処理は、時系列的に並行して行われることを特徴とする傾斜磁場の非線形性歪み補正方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−161354(P2012−161354A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21611(P2011−21611)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】