説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】より良好に歪補正を施したDWI又はDTIを得ることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、イメージング手段及び歪補正手段を備える。イメージング手段は、印加軸が同一で異なるb値に対応するMPGパルスの印加を伴って拡散強調イメージングを実行することによって前記異なるb値に対応する複数の拡散強調画像データを収集する。歪補正手段は、前記複数の拡散強調画像データのうち歪補正の対象となる拡散強調画像データに対応するb値と異なるb値に対応する拡散強調画像データに基づいて前記歪補正の対象となる拡散強調画像データに対する歪補正係数を算出し、算出した前記歪補正係数を用いて前記歪補正の対象となる拡散強調画像データの歪補正を実行することによって前記歪補正が施された画像データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する磁気共鳴(MR: magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングの分野において、エコープラナーイメージング(EPI: echo planar imaging)と呼ばれる撮像法がある。EPIは、MRIにおける高速撮像法の1つであり、1回の核磁気励起に対して傾斜磁場を高速で連続的に反転させ、連続的にエコーを生じさせてスキャンを行うものである。より具体的には、EPIでは、励起パルス(FLIP PULSE)を印加した後、xy平面内の磁化が横緩和(T2緩和)により減衰して消滅する前に位相エンコード(PE: phase encode)のステップにより連続的なグラジエントエコーを発生させて画像再構成に必要な全てのデータが収集される。EPIには、励起パルス及びリフォーカスパルス(FLOP PULSE)の後に発生するスピンエコー信号を収集するスピンエコー法(SE: spin echo)を用いたSE EPIと励起パルスの印加後に発生するエコー信号を収集するフィールドエコー法(FE: field echo)を用いたFE EPIやFFE (Fast FE)法を用いたFFE EPIがある。また、複数回に亘る励起パルスを印加して得られるエコートレインのデータを合わせて1枚分の画像データを作成するEPIがマルチショットEPIと呼ばれるのに対して、1回の励起パルスの印加のみで画像を再構成するEPIは、シングルショット(SS: single shot) EPIと呼ばれる。この他、Hybrid EPIと呼ばれるEPIがある。
【0004】
また、EPIの応用技術として、拡散強調イメージング(DWI: diffusion weighted imaging)が知られている。DWIは、MPG (motion probing gradient)パルスと呼ばれる強い強度の傾斜磁場を印加することによって撮像対象の動きによる位相シフトを強調し、撮像対象の拡散効果を強調した画像を得る撮像法である。一般には、MPGパルスの印加方向を変えて収集した複数の拡散強調画像(DWI: diffusion weighted image)とMPGパルスを印加しないで収集した基準画像とに基づいて拡散係数(ADC: Apparent Diffusion Coefficient)画像や等方的(isotropic) DWI等のパラメータ画像が診断用に作成される。
【0005】
更に、DWIの応用として拡散テンソルイメージング(DTI: diffusion tensor imaging)が知られている。一般にDTIは、MPGパルスの印加方向を変えて複数のDWIの収集を行い、DWIに基づくテンソル解析を行って数学的に撮像部位を画像化する撮像法である。
【0006】
DWI及びDTIに用いられるEPIでは、強いMPGパルスに起因して渦電流が誘起される。このため、渦電流による不均一な磁場の影響により画像に歪みが生じる場合がある。この画像の歪みは、MPGパルスの印加タイミング、大きさ及び方向に依存する。
【0007】
従って、MPGパルスの印加方向や大きさを変えて収集されるDWI間はもちろん、MPGパルスを印加しないで収集される基準画像とDWIとの間にもMPGパルスの条件に応じた画像歪による位置ずれが生じる場合がある。このような位置ずれのある画像に基づいてADC画像を生成するとアーチファクトが発生し、分解能の低下に繋がる。また、歪を有する画像に基づいてisotropic DWIを生成すると、ぼやけた画像となる。DTIの場合にも、MPGパルスの印加方向を変えて収集された画像データには異なる歪が生じるため、正確なテンソル解析を行うことが困難となる場合がある。
【0008】
このような背景から、MPGパルスに起因する画像の歪みを画像空間で補正する様々な技術が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−167374号公報
【特許文献2】特開2009−195584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
DWI及びDTIでは、画像の歪を一層良好に補正することが課題である。
【0011】
本発明は、より良好に歪補正を施したDWI又はDTIを得ることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、イメージング手段及び歪補正手段を備える。イメージング手段は、印加軸が同一で異なるb値に対応するMPGパルスの印加を伴って拡散強調イメージングを実行することによって前記異なるb値に対応する複数の拡散強調画像データを収集する。歪補正手段は、前記複数の拡散強調画像データのうち歪補正の対象となる拡散強調画像データに対応するb値と異なるb値に対応する拡散強調画像データに基づいて前記歪補正の対象となる拡散強調画像データに対する歪補正係数を算出し、算出した前記歪補正係数を用いて前記歪補正の対象となる拡散強調画像データの歪補正を実行することによって前記歪補正が施された画像データを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示す撮像条件設定部において設定されるEPIシーケンスの一例を示す図。
【図4】図2に示す撮像条件設定部において設定される2つのDWIシーケンスの一例を示す図。
【図5】図2に示す歪補正部において歪補正係数を求めて歪補正を行う第1の方法を説明する図。
【図6】図2に示す歪補正部において歪補正係数を求めて歪補正を行う第2の方法を説明する図。
【図7】図2に示す歪補正部において歪補正係数を求めて歪補正を行う第3の方法を説明する図。
【図8】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により歪補正係数の算出処理を伴ってDWIを行う際の流れを示すフローチャート。
【図9】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により予め取得した歪補正係数を用いた歪補正処理を伴ってDWIを行う際の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0016】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0017】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0018】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0019】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0020】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0021】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0022】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0023】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0024】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0025】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0026】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0027】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0028】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0029】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。データ処理部41は、画像再構成部41A、歪補正部41B及び画像処理部41Cを有する。また、記憶装置36は、k空間データ記憶部42、画像データ記憶部43及び歪係数記憶部44として機能する。
【0030】
撮像条件設定部40は、入力装置33から入力された情報に基づいてEPIシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に与えることにより駆動制御させる機能を有する。
【0031】
図3は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるEPIシーケンスの一例を示す図である。
【0032】
図3において横軸は時間を、RFはRF送信パルスを、GSSはスライス選択(SS: slice selection)傾斜磁場パルスを、GPEは位相エンコード(PE: phase encode)傾斜磁場パルスを、GROは読み出し(RO: readout) 傾斜磁場パルスを、ECHOはMR受信エコー信号を、それぞれ示す。
【0033】
図3に示すように、EPIシーケンスは、90°RFパルス及び180°RFパルスの印加によってSS傾斜磁場パルスの印加により選択されたスライスを励起した後、PE傾斜磁場パルス及びRO傾斜磁場パルスを繰り返し印加することによって、選択されたスライスから連続的に複数のMR受信エコー信号を収集するパルスシーケンスである。90°RFパルスの印加時刻からk空間中心におけるエコー信号の収集時刻までの時間は、実効エコー時間(effective TE: effective echo time)と呼ばれる。
【0034】
また、撮像条件設定部40は、MPGパルスの効果の指標であるb値(b factor)を様々な値に設定してDWIを行うためのパルスシーケンスを設定する機能を有する。すなわち、撮像条件設定部40では、互いに異なるb値に対応する複数のDWIデータを収集するための撮像条件を設定することができる。特に、撮像条件設定部40は、印加軸及びb値の絶対値が互いに同一でかつ極性が互いに異なるMPGパルスの印加を伴う2つのDWIシーケンスを設定する機能も備えている。
【0035】
図4は、図2に示す撮像条件設定部40において設定される2つのDWIシーケンスの一例を示す図である。
【0036】
図4(A), (B)において横軸は時間を、RFはRF送信パルスを、GSSはSS傾斜磁場パルスを、GPEはPE傾斜磁場パルスを、GROはRO傾斜磁場パルスを、ECHOはMR受信エコー信号を、それぞれ示す。
【0037】
図4(A)は、PE方向を印加軸とする極性が正のMPGパルスの印加を伴うDWIシーケンスの例を示す。また、図4(B)は、PE方向を印加軸とする極性が負のMPGパルスの印加を伴うDWIシーケンスの例を示す。図4(A), (B)に示すように、MR受信エコー信号の収集、つまりPE傾斜磁場パルスの印加に先だって印加軸及び面積が同一で極性がそれぞれ正及び負のMPGパルス(+MPG PULSE, -MPG PULSE)の印加を伴う2つのDWIシーケンスを撮像条件として撮像条件設定部40において設定することができる。
【0038】
尚、図4(A), (B) は、MPGパルスの印加軸がPE方向である例を示しているが、診断目的に応じて他の方向が印加軸とされる場合もある。
【0039】
また、DWIデータは、複数の画像データの平均をとるアベレージング処理によりAVERAGE画像データとして収集することができる。アベレージング処理を行えば、SNR (signal to noise ratio)を向上させたDWIデータを得ることができる。従って、平均をとるために加算される画像データの数であるAVERAGE数、加算対象となるDWIデータに対応するMPGパルスの印加軸及び加算対象となるDWIデータのb値が撮像条件として撮像条件設定部40により設定される。
【0040】
データ処理部41は、シーケンスコントローラ31からMR信号を受けてk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する機能、k空間データ記憶部42に保存されたk空間データに対する画像再構成処理及び歪補正処理を含むデータ処理によって、歪補正を施した画像データを生成する機能、生成した画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能、DWIデータの歪補正に用いられる歪補正係数を求めて歪係数記憶部44に書き込む機能、画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
【0041】
画像再構成部41Aは、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能を有する。MPGパルスを印加して収集された画像データはDWIデータとなり、各DWIデータは、b値及びMPGパルスの印加軸に対応する画像データとなる。尚、DWIデータではない画像データは、b値がゼロの画像データに相当する。
【0042】
また、画像再構成部41Aは、必要に応じてMPGパルスの印加軸及びb値を同一に設定して収集された複数のDWIデータの平均をとる第1のアベレージング処理によってAVERAGE画像データを生成する機能を有する。すなわち、同一のDWIの条件で収集されたDWIデータを加算することによって特定の印加軸及びb値に対応するDWIデータのSNRを向上させることができる。
【0043】
歪補正部41Bは、MPGパルスの印加を伴って収集されたDWIデータに対して歪補正を行うための歪補正係数を求める機能と、求めた歪補正係数又は歪係数記憶部44を参照して取得した歪補正係数を用いて歪補正の対象となるDWIデータに対する歪補正を行うことによって、歪補正が施された画像データを生成する機能を有する。
【0044】
特に、歪補正部41Bは、DWIによって収集された複数のDWIデータのうち歪補正の対象となるDWIデータに対応するb値と異なるb値に対応するDWIデータに基づいて、歪補正の対象となるDWIデータにに対する歪補正係数を算出するように構成される。また、歪補正係数の算出は、必要に応じてMPGパルスを印加せずにb値をゼロとして収集されたDWIでない画像データにも基づいて行うことができる。
【0045】
より具体的には、印加軸及びb値の絶対値が互いに同一でかつ異なる極性のMPGパルスに対応する2つのDWIデータに基づいて、より高精度に2つのDWIデータの一方に対する歪補正係数を求めることができる。
【0046】
図5は、図2に示す歪補正部41Bにおいて歪補正係数を求めて歪補正を行う第1の方法を説明する図である。
【0047】
図5(A), (B), (C), (D)において各縦軸はx軸を示す。例えば、b値を0, +500, -500に設定してそれぞれ画像データを収集すると、図5(A)に示すように、b値をゼロとして収集された基準画像データIb0は、MPGパルスの影響がないため、理想的には歪のない画像データとなる。一方、b値が+500に対応するDWIデータIb+500と、b値が-500に対応するDWIデータIb-500は、それぞれMPGパルスの影響を受けて歪を有する画像データとなる。
【0048】
また、b値が+500に対応するDWIデータIb+500と、b値が-500に対応するDWIデータIb-500は、それぞれ互いに逆の極性のMPGパルスの影響を受けているため、他の影響が無視できれば、歪方向の極性が原点に関して互いに対称となる。尚、図5(A)は、説明簡易化のためにDWIデータIb+500, Ib-500にx軸方向の1次元の歪みが生じた場合の例を示している。b値が±500である場合に限らず、絶対値が同じで符号が逆のb値に対応する2つのDWIデータは、他の影響が無視できれば、歪方向が原点に関して対称で、歪量が同一となる。
【0049】
このような、0, +500, -500のb値に対応する各画像データIb0, Ib+500, Ib-500に対して、閾値を用いた2値化処理を行うことによって、図5(B)に示すように、それぞれ0, +500, -500のb値に対応する2値化画像データI'b0, I'b+500, I'b-500が生成される。
【0050】
次に、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の各画像点を座標変換して移動させながら、0のb値に対応する2値化基準画像データI'b0の各画像点における画素値と+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の各画像点における画素値との間の2乗差の総和が計算される。すなわち、2値化DWIデータI'b+500の座標変換を表す各係数をパラメータとして、2値化基準画像データI'b0に対する2値化DWIデータI'b+500の画素値の2乗誤差を最小にする最適化処理が実行される。
【0051】
座標変換は、平行移動、回転移動及び伸縮変形の組み合わせて表されるアフィン変換とすることが処理の簡易化に繋がる。アフィン変換による座標変換は、式(1)により表される。
【0052】
【数1】

【0053】
但し、式(1)において、fは座標変換を表す関数、(x, y, z)は座標変換前における画像点の空間座標、(x', y', z')は座標変換後における画像点の空間座標、p0, p1, p2, ..., p8, Tx, Ty, Tzは座標変換の係数である。
【0054】
式(1)の各座標変換係数をパラメータとして、2値化DWIデータI'b+500の画素値の2乗誤差を最小とする最適化処理を行うと、図5(C)に示すように2値化基準画像データI'b0に対する位置ずれが最小となる2値化補正DWIデータI'b+500_corが生成されるとともに行列として複数の座標変換係数が得られる。すなわち、基準画像データIb0と正のb値に対応するDWIデータIb+500間の2値化処理及び座標変換処理後における各画素値の差分値の総和が最小となる座標変換係数の組合せK1を得ることができる。尚、最適化処理は、座標変換係数の逐次探索処理及び画素値の補間処理を含む処理となる。
【0055】
同様な方法で、基準画像データIb0と負のb値に対応するDWIデータIb-500間の2値化処理及び座標変換処理後における各画素値の差分値の総和が最小となる座標変換係数の組合せK2とともに2値化補正DWIデータI'b+500_corを得ることができる。
【0056】
そして、2値化基準画像データI'b0に対する画素値の2乗差の総和がより小さくなる2値化補正DWIデータ(I'b+500_cor又はI'b-500_cor)の生成に用いられた座標変換係数の組合せ(K1又はK2)を選択して歪補正係数として採用することができる。
【0057】
更に、2値化基準画像データI'b0に対する画素値の2乗差の総和がより小さくなる2値化補正DWIデータ(I'b+500_cor又はI'b-500_cor)の生成に用いられたDWIデータ(Ib+500又はIb-500)を、歪補正係数を用いて座標変換することにより、図5(D)に示すように歪補正後のDWIデータIb500_corを得ることができる。
【0058】
図6は、図2に示す歪補正部41Bにおいて歪補正係数を求めて歪補正を行う第2の方法を説明する図である。
【0059】
図6(A), (B), (C), (D)において各縦軸はx軸を示す。図5(A), (B)と同様に、図6(A)に示すような歪のない基準画像データIb0及びb値が±500に対応する歪方向が互いに逆の2つのDWIデータIb+500, Ib-500を収集して2値化処理を行うことによって、図6(B)に示すように、それぞれ0, +500, -500のb値に対応する2値化画像データI'b0, I'b+500, I'b-500を生成することができる。
【0060】
ここで、仮に、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の2値化基準画像データI'b0に対する各画素値の2乗差の総和を最小にする最適な各座標変換係数を2倍にした座標変換係数の組合せ2*K1を用いて+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の座標変換を実行すると、座標変換によって生成される2値化変換DWIデータI'b+500_doubleは、理論的には-500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500と等しくなる。
【0061】
そこで、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の各座標変換係数をパラメータとして、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の2値化基準画像データI'b0に対する各画素値の2乗差の総和SumError1と、2倍の座標変換係数の組合せで座標変換された2値化変換DWIデータI'b+500_doubleと-500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500との間における各画素値の2乗差の総和SumError2の和SumError1+ SumError2を最小とする最適化処理が実行される。
【0062】
この最適化処理の結果、図6(C)に示すような、2値化補正DWIデータI'b+500_cor2及び2値化変換DWIデータI'b+500_doubleが生成される。また、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500とゼロのb値に対応する2値化基準画像データI'b0との間における位置ずれ及び+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500と-500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500との間における実質的な位置ずれの双方を最小とする座標変換係数の組合せK12を得ることができる。
【0063】
そして得られた座標変換係数の組合せK12を+500のb値に対応するDWIデータIb+500に対する歪補正係数として設定することができる。更に、歪補正係数を用いて+500のb値に対応するDWIデータIb+500を座標変換することにより、図6(D)に示すような歪補正後のDWIデータIb500_corを得ることができる。
【0064】
尚、上述の例では、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の各座標変換係数をパラメータとして最適化処理を行う場合について説明したが、同様に-500のb値に対応する2値化DWIデータI'b-500の各座標変換係数をパラメータとする最適化処理を行うことによって歪補正係数を求めることもできる。
【0065】
また、b値をゼロとした画像データを用いずに歪補正係数を求めることもできる。
【0066】
図7は、図2に示す歪補正部41Bにおいて歪補正係数を求めて歪補正を行う第3の方法を説明する図である。
【0067】
図7(A), (B), (C), (D)において各縦軸はx軸を示す。図5(A), (B)と同様に、図7(A)に示すようなb値が±500に対応する歪方向が互いに逆の2つのDWIデータIb+500, Ib-500を収集して2値化処理を行うことによって、図7(B)に示すように、それぞれ+500, -500のb値に対応する2値化画像データI'b+500, I'b-500を生成することができる。
【0068】
次に、-500のb値に対応する2値化画像データI'b-500の各座標変換係数をパラメータとして、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500と-500のb値に対応する2値化画像データI'b-500との間における各画素値の2乗差の総和を最小とする最適化処理が実行される。
【0069】
この最適化処理の結果、図7(C)に示すような、-500のb値に対応する2値化画像データI'b-500の座標変換後における2値化変換DWIデータI'b-500_doubleが生成される。また、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500と-500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500との間における実質的な位置ずれを最小とする座標変換係数の組合せK21を得ることができる。
【0070】
そうすると、2値化変換DWIデータI'b-500_doubleの生成に用いられた各座標変換係数の組合せK21は、+500のb値に対応する2値化DWIデータI'b+500の2値化基準画像データI'b0に対する各画素値の2乗差の総和を最小にする最適な各座標変換係数の2倍に相当する。
【0071】
そこで、2値化変換DWIデータI'b-500_doubleの生成に用いられた各座標変換係数の1/2の座標変換係数の組合せ(K21)/2を+500のb値に対応するDWIデータIb+500に対する歪補正係数として設定することができる。更に、歪補正係数を用いて+500のb値に対応するDWIデータIb+500を座標変換することにより、図7(D)に示すような歪補正後のDWIデータIb500_corを得ることができる。
【0072】
尚、図5、図6及び図7に示す第1、第2及び第3の方法において、最適化処理の対象を画素値の2乗差の総和としたが、2値化画像データ間における位置ずれを表す相関係数等の他の指標を最適化処理の対象としてもよい。また、エッジ検出処理としての2値化処理を行わずにDWIデータIb+500, Ib-500に対する座標変換係数をパラメータとして画像データ間の位置ずれの指標を最小化する最適化処理を実行するようにしてもよい。
【0073】
或いは、2値化処理を含む又は2値化処理を伴わない任意のエッジ検出処理によってDWIデータを含む複数の画像データの各エッジを検出し、検出したエッジ間の位置ずれを表す指標を最小とする最適化処理を行ってもよい。そして、2つのDWIデータに対するエッジ検出を含む処理によって歪補正係数を算出することができる。
【0074】
従って、図5に示す第1の方法は、2つのDWIデータ又は2つのDWIデータに基づいて生成される2つの画像データに対する各座標変換係数をパラメータとして、2つのDWIデータ又は2つの画像データの、b値をゼロとして収集された画像データに対する位置ずれの指標を最小にする最適化処理によって各座標変換係数を計算し、より小さい指標に対応する座標変換係数を歪補正係数とする方法であると言うことができる。
【0075】
また、図6に示す第2の方法は、2つのDWIデータの一方又は2つのDWIデータに基づいて生成される2つの画像データの一方に対する座標変換係数をパラメータとして、一方の、b値をゼロとして収集された画像データに対する位置ずれの指標及び他方に対する位置ずれの指標を最小にする最適化処理によって計算された座標変換係数に基づいて歪補正係数を決定する方法であると言うことができる。
【0076】
更に、図7に示す第3の方法は、2つのDWIデータの一方又は2つのDWIデータに基づいて生成される2つの画像データの一方に対する座標変換係数をパラメータとして、一方の他方に対する位置ずれの指標を最小にする最適化処理によって計算された座標変換係数に基づいて歪補正係数を決定する方法であると言うことができる。
【0077】
ここまでは、絶対値が同一で符号が互いに逆のb値に対応する2つのDWIデータを収集し、歪補正部41Bが、2つのDWIデータに基づいて2つのDWIデータの一方に対する歪補正係数を算出する例について説明したが、歪補正部41Bでは、補正対象となるDWIデータに対応するb値と絶対値が異なるb値に対応し、かつMPGパルスの印加軸が同一のDWIデータに基づいて歪補正係数を求めることもできる。以下、絶対値が異なるb値に対応する複数のDWIデータを収集し、歪補正部41Bが、基準となるb値に対応する歪補正係数に基づいて基準となるb値よりも大きいb値に対応する歪補正係数を算出する例について説明する。
【0078】
具体的には、b値と各歪補正係数K(b)との関係式K(b)=f(b)に基づいて、各b値に対応する歪補正係数K(b)を求めることができる。関係式の係数は、係数の数に対応する数の基準となるb値(bref)及び基準となるb値(bref)に対応する歪補正係数Krefから求めることができる。
【0079】
b値と各歪補正係数K(b)との関係式は、高次式、指数関数、対数関数等の任意の関数で近似することができる。近似に用いる適切な関数の種類及び高次式で近似する場合に2次以上の各項がそれぞれ無視できるか否かは、MPGパルスの振幅を制御することによってb値を調整するのかMPGパルスの印加時間を制御することによってb値を調整するのか或いはMPGパルスの振幅及び印加時間の双方を制御することによってb値を調整するのかといったようなMPGパルスの設計方法に依存する。
【0080】
そこで、MPGパルスの条件を用いたシミュレーション、装置の据付時又はMPGパルスの設計時におけるファントムを用いた試験撮像或いはMPGパルスの印加を伴うプレスキャンによって収集された画像データの画像処理によって予めb値と各歪補正係数K(b)との関係を表す近似式を決定しておくことができる。
【0081】
b値と各歪補正係数が正比例するとみなせる場合には、式(2)に示すように、1組の基準となるb値(bref)に対応する歪補正係数Krefに基づいて各b値に対応する歪補正係数K(b)を求めることができる。
【0082】
K(b) = (Kref/bref)b (2)
【0083】
基準となるb値(bref)は、ゼロでなく、かつDWIの撮像条件として設定され得る小さい値とすることが、歪の小さいDWIに対応する歪補正係数Krefを基準として、各b値に対応する歪補正係数K(b)を精度良く求める観点から好適である。すなわち、より小さなb値に対応する歪補正係数に基づいて、より大きなb値に対応する歪補正係数を推定することができる。例えば、b=0の画像データ及びb=500, b=1000のDWIデータを収集する場合には、b=500として収集されたDWIデータに対応する歪補正係数に基づいて、式(2)によりb=1000として収集されたDWIデータに対応する歪補正係数を計算することができる。
【0084】
基準となるb値(bref)に対応する歪補正係数Krefは、図5、図6及び図7を参照して上述したように符号の異なるb値(+bref, -bref)に対応する2つのDWIデータIb+ref, Ib-ref又は符号の異なるb値(+bref, -bref)に対応する2つのDWIデータIb+ref, Ib-refとb値がゼロの基準画像データIb0に基づいて求めることができる。
【0085】
或いは、正又は負の単一の符号のb値(bref)に対応するDWIデータIbrefとb値がゼロの基準画像データIb0に基づいて基準となるb値(bref)に対応する歪補正係数Krefを求めるようにしてもよい。この場合、DWIデータIbrefを2値化した2値化DWIデータI'brefの座標変換係数をパラメータとして、2値化DWIデータI'brefの2値化基準画像データI'b0に対する各画素値の2乗差の総和を最小にする最適化計算によって座標変換係数として基準となるb値(bref)に対応する歪補正係数Krefを求めることができる。
【0086】
このようにして歪補正部41Bにおいて算出された歪補正係数は、歪係数記憶部44に記憶させることができる。すなわち、MPGパルスの印加軸及びb値ごとに対応する歪補正係数を歪係数記憶部44に保存し、歪補正部41BがDWIの撮像条件に対応する歪補正係数を歪係数記憶部44から読み込んで取得することができる。また、b値から歪補正係数を求める関数自体又は関数の係数を歪係数記憶部44に保存し、b値に応じて歪補正係数を計算できるようにしてもよい。
【0087】
このため、ファントムを用いた試験撮像や過去の撮像において得られたDWIに基づいて歪補正係数を求め、求めた歪補正係数を歪係数記憶部44に保存すれば、歪補正部41Bが歪係数記憶部44を参照するのみで歪補正係数を取得することができる。この結果、各撮像の際に歪補正部41Bによる歪補正係数の計算処理を省略することができる。
【0088】
画像処理部41Cは、データ処理部41において生成された画像データ又は画像データ記憶部43から読み込んだ画像データに対して画像表示のための必要な画像処理を施す機能と、画像処理後における表示用の画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
【0089】
例えば、必要に応じて歪補正後における複数のDWIデータに第2のアベレージング処理を施すことができる。これにより、診断に必要なSNRを有する歪補正後のDWIデータを得ることができる。
【0090】
画像再構成部41Aにおいて実行される第1のアベレージング処理は、歪補正前におけるDWIデータに対して施される。従って、第1のアベレージング処理の対象は、歪量が同等となる、MPGパルスの印加軸及びb値が同一の複数のDWIデータを対象とすることが前提条件になる。
【0091】
これに対して、第2のアベレージング処理は、歪補正後における複数のDWIデータに対して施される。このため、第2のアベレージング処理は、互いに異なるb値に対応する複数のDWIデータに対して行うことができる。そこで、MR信号の絶対値を信号値とする画像再構成処理によってDWIデータが生成される場合には、絶対値が同一で極性が異なるb値等の互いに異なるb値に対応する複数のDWIデータを対象として第2のアベレージング処理を実行することが好適である。これにより、歪補正係数を求めるために追加的に収集されたDWIデータをSNRの向上のために利用することができる。
【0092】
すなわち、診断用に必要でないb値に対応するDWIデータが歪補正係数の算出のために収集された場合であっても、診断用のDWIデータに必要とされるSNRを得るために用いることができる。この結果、必要なSNRを得るために加算対象となる、診断用に必要なb値に対応するDWIデータの数を減らすことができる。
【0093】
一方、診断用に必要となるb値に対応するDWIデータが歪補正係数の算出のために収集された場合には、そのまま診断用のDWIデータの生成用に用いることができる。換言すれば、診断用に本来収集されるDWIデータを歪補正係数の算出用のDWIデータとして利用することができる。
【0094】
従って、上述したような歪補正部41Bにおける歪補正係数の算出に伴う実質的なデータ収集時間及びデータ収集量の増加を回避することができる。換言すれば、単位データ収集時間当たりのSNR向上率を一定にすることができる。
【0095】
第2のアベレージング処理は、MPGパルスの印加軸及びb値が同一の複数のDWIデータを対象として実行されるようにしてもよい。また、第1及び第2のアベレージング処理の一方又は双方を実行しないようにしても良い。従って、歪補正前及び前記歪補正後における所定の複数のDWIデータの少なくとも一方の平均をとるアベレージング処理を行うようにしてもよい。
【0096】
そして、このような構成を有する磁気共鳴イメージング装置20により、印加軸が同一で異なるb値に対応するMPGパルスの印加を伴ってDWIを実行し、異なるb値に対応する複数のDWIデータを収集することができる。また、b値をゼロとして画像データを収集することもできる。
【0097】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。まず、磁気共鳴イメージング装置20により、歪補正係数の算出処理を伴ってDWIを行う場合について説明する。
【0098】
図8は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により歪補正係数の算出処理を伴ってDWIを行う際の流れを示すフローチャートである。
【0099】
まずステップS1において、撮像条件設定部40は、入力装置33から入力された情報に基づいて図3に示すようにb値をゼロとしたEPIシーケンス及び診断目的に応じて必要なb値に対応するDWIシーケンスを設定する。更に、撮像条件設定部40は、最も小さいb値と絶対値が同じで符号が逆のb値に対応するDWIシーケンスを設定する。すなわち、図4に示すように印加方向が同一で極性が互いに逆のMPGパルスの印加を伴う2つのDWIシーケンスを少なくとも含む撮像条件が撮像条件設定部40において設定される。また、必要に応じて、DWIデータの収集及び加算の回数を決定するために必要となる第1及び第2のアベレージング処理のための各AVERAGE数が撮像条件として設定される。
【0100】
ここでは、例えば、b=500及びb=1000に対応する2つのDWIデータが診断に必要であるものとする。この場合には、b=0, b=+500, b=-500, b=1000に対応するEPIシーケンス及び複数のDWIシーケンスが設定される。
【0101】
また、同一のb値を有するDWIデータを対象とする第1のアベレージング処理のAVERAGE数が2であれば、例えばb=0に対応するEPIシーケンス、b=+500の1AVERAGE目に対応するDWIシーケンス、b=-500の1AVERAGE目に対応するDWIシーケンス、b=1000の1AVERAGE目に対応するDWIシーケンス、b=+500の2AVERAGE目に対応するDWIシーケンス、b=-500の2AVERAGE目に対応するDWIシーケンス及びb=1000の2AVERAGE目に対応するDWIシーケンスの順にシーケンスの順序が設定される。
【0102】
次にステップS2において、撮像条件設定部40において設定された撮像条件に従ってDWIスキャンを含むイメージングスキャンが実行される。
【0103】
そのために予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0104】
そして、撮像条件設定部40から撮像条件として設定された複数のEPIシーケンスがシーケンスコントローラ31に順次与えられる。そうすると、シーケンスコントローラ31は、パルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0105】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D (analog to digital)変換することにより、デジタルデータのMR信号である生データを生成する。そして、受信器30は、生成したMR信号をシーケンスコントローラ31に与える。更にシーケンスコントローラ31は、MR信号をコンピュータ32のデータ処理部41に出力する。
【0106】
そうすると、データ処理部41は、MR信号をk空間データとしてk空間データ記憶部42に形成されたk空間に配置する。この結果、k空間データ記憶部42には、b=0に対応するk空間データ、b=+500の1AVERAGE目に対応するk空間データ、b=-500の1AVERAGE目に対応するk空間データ、b=1000の1AVERAGE目に対応するk空間データ、b=+500の2AVERAGE目に対応するk空間データ、b=-500の2AVERAGE目に対応するk空間データ及びb=1000の2AVERAGE目に対応するk空間データが順次書き込まれて保存される。
【0107】
次にステップS3において、画像再構成部41Aは、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する。この結果、b=0に対応する非DWIデータである基準画像データ、b=+500の1AVERAGE目及び2AVERAGE目に対応する2フレーム分のDWIデータ、b=-500の1AVERAGE目及び2AVERAGE目に対応する2フレーム分のDWIデータ、b=1000の1AVERAGE目及び2AVERAGE目に対応する2フレーム分のDWIデータがそれぞれ生成される。
【0108】
また、画像再構成部41Aは、MPGパルスの印加軸及びb値を同一に設定して収集された複数のDWIデータを加算する第1のアベレージング処理によってAVERAGE画像データを生成する。すなわち、b=+500の1AVERAGE目及び2AVERAGE目に対応する2フレーム分のDWIデータ同士の加算、b=-500の1AVERAGE目及び2AVERAGE目に対応する2フレーム分のDWIデータ同士の加算並びにb=1000の1AVERAGE目及び2AVERAGE目に対応する2フレーム分のDWIデータ同士の加算が画像再構成部41Aにおいて行われる。この結果、b=+500, b=-500及びb=1000にそれぞれ対応する3フレーム分のDWI AVERAGEデータが生成される。
【0109】
次にステップS4において、歪補正部41Bは、b値が小さく、かつ符号が逆の2フレーム分のDWI AVERAGEデータに基づいて小さいb値に対応する歪補正係数を算出する。すなわち、歪補正部41Bは、b=±500に対応する2フレーム分のDWIデータに基づいてb=500に対応する歪補正係数を算出する。
【0110】
歪補正係数は、図5、図6又は図7に示すように、2値化処理後のb=+500に対応する2値化DWI AVERAGEデータ及び2値化処理後のb=-500に対応する2値化DWI AVERAGEデータの一方又は双方に対する座標変換係数をパラメータとする最適化処理によって計算することができる。
【0111】
図5又は図6で示される方法で歪補正係数が算出される場合には、2値化処理後のb=0に対応する2値化基準画像データも用いられる。そして、図5に示す方法で歪補正係数が算出される場合には、最適化処理において最小とする対象が2値化基準画像データに対するb=+500及びb=-500に対応する2値化DWI AVERAGEデータの各画素値の2乗差の総和に設定される。
【0112】
また、図6に示す方法で歪補正係数が算出される場合には、最適化処理において最小とする対象が2値化基準画像データ及びb=-500に対応する2値化DWI AVERAGEデータに対するb=+500に対応する2値化DWI AVERAGEデータの各画素値の2乗差の総和に設定される。
【0113】
また、図7に示す方法で歪補正係数が算出される場合には、最適化処理において最小とする対象がb=+500に対応する2値化DWI AVERAGEデータに対するb=-500に対応する2値化DWI AVERAGEデータの各画素値の2乗差の総和に設定される。
【0114】
このような最適化処理により算出される歪補正係数は、歪方向が互いに逆のb=±500に対応するDWIデータに基づいて算出されているため、2値化基準画像データに対するb=+500に対応する2値化DWI AVERAGEデータの各画素値の2乗差の総和を最小とする最適化処理によって算出される歪補正係数に比べて高精度となる。
【0115】
次にステップS5において、歪補正部41Bは、小さいb値に対応する歪補正係数に基づいて大きいb値に対応する歪補正係数を求める。すなわち、歪補正部41Bは、b値と歪補正係数が比例するものとして、式(2)によりb=500に対応する歪補正係数からb=1000に対応する歪補正係数を算出する。
【0116】
これにより、撮像条件として設定された全てのb値に対応する歪補正係数を簡易に取得することができる。取得したb値ごとの歪補正係数は、必要に応じて歪係数記憶部44に書き込んで保存することができる。
【0117】
次にステップS6において、歪補正部41Bは、各b値に対応する歪補正係数を用いてそれぞれDWI AVERAGEデータの歪補正を行う。すなわち、b=500及びb=1000にそれぞれ対応する各歪補正係数を用いてb=500及びb=1000に対応するDWI AVERAGEデータの歪が補正される。
【0118】
次にステップS7において、画像処理部41Cは、b=0に対応する画像データ及び歪補正後のDWI AVERAGEデータに対して、画像表示のための必要な画像処理を施す。例えば、異なるb値に対応する歪補正後の複数のDWI AVERAGEデータ間において第2のアベレージング処理を施すことができる。本例では、b=500及びb=1000に対応する2つのDWIデータが診断に必要であり、b=-500に対応するDWI AVERAGEデータは診断には不要である。そこで、b=±500に対応するDWI AVERAGEデータに対して第2のアベレージング処理を実行することができる。これにより、SNRを向上させたb=500に対応する診断用のDWI AVERAGEデータを生成することができる。
【0119】
次にステップS8において、画像処理部41Cは、画像処理後における表示用のb=0に対応する画像データ及びDWI AVERAGEデータを表示装置34に表示させる。これにより、ユーザは、表示装置34に表示されたb=0に対応する画像、b=500に対応するDWI及びb=1000に対応するDWIを確認することができる。
【0120】
このとき表示装置34に表示されるDWIは、精度良く算出された歪補正係数に基づいて歪補正されているため、良好に歪が補正された画像となる。加えて、表示装置34に表示されるDWIは、第1及び第2のアベレージング処理によってSNRが向上した画像となる。
【0121】
次に、磁気共鳴イメージング装置20により、予め取得した歪補正係数を用いた歪補正処理を伴ってDWIを行う場合について説明する。
【0122】
図9は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により予め取得した歪補正係数を用いた歪補正処理を伴ってDWIを行う際の流れを示すフローチャートである。尚、図8に示すフローチャートのステップと同様なステップには同符号を付して説明を省略する。
【0123】
まず予めファントムを用いた試験撮像や過去の撮像において求められた歪補正係数が歪係数記憶部44に保存される。但し、歪補正係数は、図5、図6又は図7に示すように、絶対値が同一でかつ符号が互いに逆のb値に対応する2フレーム分のDWI AVERAGEデータに基づく座標変換係数をパラメータとする最適化処理によって計算される。また、歪補正係数の算出には、DWIの撮像条件として設定され得る小さいb値に対応するDWI AVERAGEデータが用いられる。例えば、b=500に対応する歪補正係数が歪係数記憶部44に保存されるものとする。
【0124】
次に、ステップS11において、撮像条件設定部40は、入力装置33から入力された情報に基づいてb値をゼロとしたEPIシーケンス及び診断目的に応じて必要なb値に対応するDWIシーケンスを設定する。また、必要に応じてDWIのAVERAGE数が設定される。
【0125】
尚、図8のステップS1とは異なり、あるb値と絶対値が同じで符号が逆のb値に対応するDWIシーケンスを設定する必要はない。このため、例えば、b=0, b=500及びb=1000に対応するEPIシーケンスが設定されるものとする。
【0126】
次に、ステップS12において、撮像条件設定部40において設定された撮像条件に従ってDWIスキャンを含むイメージングスキャンが実行される。すなわち、図8のステップS1と同様な流れで、絶対値が互いに異なる複数のb値(b=0, 500, 1000)にそれぞれ対応するk空間データが収集される。
【0127】
次に、ステップS13において、画像再構成部41Aは、絶対値が互いに異なる複数のb値(b=0, 500, 1000)にそれぞれ対応する画像データ及びDWIデータを生成する。そのために、k空間データに対する画像再構成処理が実行される他、撮像条件として設定されたAVERAGE数に応じてDWIデータに対する第1のアベレージング処理が実行される。第1のアベレージング処理が実行された場合には、DWI AVERAGEデータが生成される。
【0128】
次に、ステップS14において、歪補正部41Bは、歪係数記憶部44からb値が小さく、かつ符号が逆の2フレーム分のDWI AVERAGEデータ又はDWIデータに基づいて算出された小さいb値に対応する歪補正係数を取得する。すなわち、歪補正部41Bは、b=500に対応する歪補正係数を歪係数記憶部44から取得する。
【0129】
これにより、ステップS5において、歪補正部41Bは、b=500に対応する歪補正係数に基づいてb=1000に対応する歪補正係数を算出することが可能となる。そして図8のステップS6からステップS8と同様に歪補正係数を用いた歪補正後のDWIに必要な画像処理を施した画像を表示装置34に表示させることができる。
【0130】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、印加軸及びb値の絶対値が同一で極性が互いに逆のMPGパルスを印加して拡散イメージングすることによって歪み極性が逆の2つのDWIデータを収集し、歪み極性が逆の2つのDWIデータに基づいて精度良く歪補正係数を求めるようにしたものである。
【0131】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、従来よりも精度よく歪み補正が施されたDWIを得ることができる。特に、被検体Pの腹部には限られた方向にのみ拡散する神経の束がない。このため、撮像部位を腹部としてDWIを収集する場合には、MPGパルスの印加軸を1軸方向として、より精度良く歪補正係数を求めて良好に歪が補正されたDWIを得ることができる。一方、MPGパルスの印加軸が複数方向であっても、印加軸ごとに互いに極性の異なるMPGパルスを印加することによって、より精度良く歪補正係数を計算することができる。
【0132】
また、磁気共鳴イメージング装置20によれば、あるb値に対応する歪補正係数に基づいて、他のb値に対応する歪補正係数を計算することができる。このため、歪補正係数の算出に必要なデータ処理量を低減させることができる。
【0133】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0134】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
40 撮像条件設定部
41 データ処理部
41A 画像再構成部
41B 歪補正部
41C 画像処理部
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
44 歪係数記憶部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加軸が同一で異なるb値に対応するMPGパルスの印加を伴って拡散強調イメージングを実行することによって前記異なるb値に対応する複数の拡散強調画像データを収集するイメージング手段と、
前記複数の拡散強調画像データのうち歪補正の対象となる拡散強調画像データに対応するb値と異なるb値に対応する拡散強調画像データに基づいて前記歪補正の対象となる拡散強調画像データに対する歪補正係数を算出し、算出した前記歪補正係数を用いて前記歪補正の対象となる拡散強調画像データの歪補正を実行することによって前記歪補正が施された画像データを生成する歪補正手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記イメージング手段は、絶対値が同一で符号が互いに逆のb値に対応する2つの拡散強調画像データを収集するように構成され、
前記歪補正手段は、前記2つの拡散強調画像データに基づいて前記2つの拡散強調画像データの一方に対する歪補正係数を算出するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記イメージング手段は、絶対値が異なるb値に対応する複数の拡散強調画像データを収集するように構成され、
前記歪補正手段は、基準となるb値に対応する歪補正係数に基づいて前記基準となるb値よりも大きいb値に対応する歪補正係数を算出するように構成される請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記歪補正手段により算出された前記歪補正係数を記憶する記憶手段を更に備え、
前記歪補正手段は、前記記憶手段を参照して前記歪補正係数を取得できるように構成される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記イメージング手段は、b値をゼロとして更に画像データを収集するように構成され、
前記歪補正手段は、前記b値をゼロとして収集された画像データにも基づいて前記歪補正係数を算出するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記歪補正手段は、前記2つの拡散強調画像データ又は前記2つの拡散強調画像データに基づいて生成される2つの画像データに対する各座標変換係数をパラメータとして、前記2つの拡散強調画像データ又は前記2つの画像データの、b値をゼロとして収集された画像データに対する位置ずれの指標を最小にする最適化処理によって前記各座標変換係数を計算し、より小さい指標に対応する座標変換係数を前記歪補正係数とするように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記歪補正手段は、前記2つの拡散強調画像データの一方又は前記2つの拡散強調画像データに基づいて生成される2つの画像データの一方に対する座標変換係数をパラメータとして、前記一方の、b値をゼロとして収集された画像データに対する位置ずれの指標及び他方に対する位置ずれの指標を最小にする最適化処理によって計算された座標変換係数に基づいて前記歪補正係数を決定するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記歪補正手段は、前記2つの拡散強調画像データの一方又は前記2つの拡散強調画像データに基づいて生成される2つの画像データの一方に対する座標変換係数をパラメータとして、前記一方の他方に対する位置ずれの指標を最小にする最適化処理によって計算された座標変換係数に基づいて前記歪補正係数を決定するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記歪補正手段は、前記2つの拡散強調画像データに対するエッジ検出を含む処理によって前記歪補正係数を算出するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記歪補正前及び前記歪補正後における所定の複数の拡散強調画像データの少なくとも一方の平均をとるアベレージング処理を行う画像処理手段を更に備える請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記画像処理手段は、前記歪補正後において互いに異なるb値に対応する複数の拡散強調画像データに対して前記アベレージング処理を行うように構成される請求項10記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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