説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】スライス厚が薄くても、十分な抑制効果が得られる磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、被検体内の第1の物質の信号を前記被検体内の第2の物質の信号よりも小さくするためのパルスシーケンスを実行する。前記パルスシーケンスは、前記被検体を励起するためのα°パルスと、前記α°パルスにより励起された領域のスピンの位相を再収束させるためのリフォーカスパルスと、前記領域から磁気共鳴信号を取得するためのリードアウト勾配磁場と、を有する。前記α°パルスは、前記第1の物質の横磁化を前記第2の物質の横磁化よりも小さくするスペクトル選択性を有する。前記リフォーカスパルスは、前記第2の物質のスピンの位相を再収束させ、前記第1の物質のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α°パルスおよびリフォーカスパルスを備えたパルスシーケンスを実行する磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪抑制を行う方法として、SPSPパルス(Spectral Spatial Pulse)を用いる方法が知られている。このような方法の一つが、非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ジェイ・フォースター(J Forster)他,「MRアンギオグラフィにおける空間的・スペクトル的選択性プレパルスを用いたスライス選択性脂肪抑制(Slice-Selective Fat Saturation in MR Angiography Using Spatial-Spectral Selective Prepulses)」,ジャーナル・オブ・マグネティック・レゾナンス・イメージング(Journal of Magnetic Resonance Imaging)1998年,8(3):p583−589
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SPSPパルスは、複数のサブパルスを含んでおり、機能的磁気共鳴画像法(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)や拡散強調画像法などを用いた撮影で広く使用されている。しかし、通常のSPSPパルスは、サブパルスの最大パルス幅が一定の制限を受けるので、空間励起プロファイルが劣化したり、最小スライス厚が大きくなるという問題がある。サブパルスの最大パルス幅は、例えば、以下の式によって決定することができる(参考文献1:Magnetic Resonance in Medicine, Vol. 43, pp.410-420 (2000)のY.Zurによる「Design of Improved Spectral-Spatial Pulses for Routine Clinical Use」(以下、「Zur」と呼ぶ))。

1/τ≧2Δωwf・・・(1)

ここで、Δωwfは、水と脂肪の化学シフト周波数であり、τはサブパルスの期間である。
【0005】
Zurの方法では、サブパルスの最大期間は、595μsよりも小さくなければならない。したがって、スライスプロファイルが劣化したり、最小スライス厚が大きくなる。例えば、3T(テスラ)のMRI装置では、最小スライス厚は3mm程度であり、これでは、典型的に使用されるFOV(24cm)および面内解像度(128×128)の条件において、等方性拡散強調画像を取得することは困難である。3TのMRI装置の場合、通常のSPSPパルスを用いても最小スライス厚を十分に小さくすることができないので、3TのMRI装置のユーザは、スライス厚を小さくすることができるように、脂肪飽和法(参考文献2:Physics in Medicine and Biology Vol.30, No.4, pp.341-344(1985)のA. Haase et al.による「H1 NMR chemical shift selective (CHESS) imaging」(以下、「Haase」と呼ぶ))を使用することがある。しかし、Haaseの脂肪飽和法では、SPSPパルスを用いた方法と比較すると、十分な脂肪抑制効果を得ることができない。
【0006】
したがって、スライス厚が薄くても、十分な脂肪抑制効果を得ることが望まれている。
【0007】
また、場合によっては、脂肪ではなく、水を抑制したい場合もあり、あるいは、脂肪や水とは異なる別の物質(代謝物など)を抑制したい場合もある。したがって、脂肪以外の物質を十分に抑制できることも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、被検体内の第1の物質の信号を前記被検体内の第2の物質の信号よりも小さくするためのパルスシーケンスを実行する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、
前記被検体を励起するためのα°パルスと、
前記α°パルスにより励起された領域のスピンの位相を再収束させるためのリフォーカスパルスと、
前記領域から磁気共鳴信号を取得するためのリードアウト勾配磁場と、を有し、
前記α°パルスは、
前記第1の物質の横磁化を前記第2の物質の横磁化よりも小さくするスペクトル選択性を有し、
前記リフォーカスパルスは、
前記第2の物質のスピンの位相を再収束させ、前記第1の物質のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有する、磁気共鳴イメージング装置である。
【発明の効果】
【0009】
リードアウト勾配磁場の前には、リフォーカスパルスが送信される。リフォーカスパルスは、前記第2の物質のスピンの位相を再収束させ、前記第1の物質のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有している。したがって、α°パルスによる励起領域の厚さが薄くても、被検体内の第1の物質の信号を、第2の物質の信号よりも小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態の磁気共鳴イメージング装置の概略図である。
【図2】図1に示される磁気共鳴イメージング装置で使用されるパルスシーケンスの説明図である。
【図3】実際の反転領域を示す図である。
【図4】90°パルスPαおよびリフォーカスパルスPr1のブロッホ・シミュレーションの結果を示す図である。
【図5】シミュレーション結果Aのオフレゾナンス周波数0Hzの位置(ラインL1−L1)におけるスライスプロファイルを示す図である。
【図6】シミュレーション結果AおよびBのスライス位置の中心におけるスペクトル選択性を示す図である。
【図7】勾配磁場Gz1の前後にクラッシャー勾配Gcが印加されたときのパルスシーケンスPS2の一例を示す図である。
【図8】複数のリフォーカスパルスを備えた場合のパルスシーケンスPS3の一例を示す図である。
【図9】3個以上のリフォーカスパルスを備えた場合のパルスシーケンスPS4の一例を示す図である。
【図10】拡散エンコードを備えたパルスシーケンスPS5の一例を示す図である。
【図11】グラディエントエコー型EPIのパルスシーケンスに適用された一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0012】
図1は、本発明の一形態の磁気共鳴イメージング装置100の概略図である。
【0013】
磁気共鳴イメージング装置(以下、「MRI装置」と呼ぶ。MRI:Magnetic Resonance Imaging)100は、マグネット2、テーブル3、受信コイル4などを有している。
【0014】
マグネット2は、被検体12が収容されるボア21と、超伝導コイル22と、勾配コイル23と、RFコイル24とを有している。超伝導コイル22は静磁場B0を印加し、勾配コイル23は勾配磁場を印加し、RFコイル24はRFパルスを送信する。尚、超伝導コイル22の代わりに、永久磁石を用いてもよい。
【0015】
テーブル3は、クレードル31を有している。クレードル31は、ボア21内に移動できるように構成されている。クレードル31によって、被検体12はボア21に搬送される。
【0016】
受信コイル4は、被検体12の頭部に取り付けられている。受信コイル4は、被検体12からの磁気共鳴信号を受信する。
【0017】
MRI装置100は、更に、シーケンサ5、送信器6、勾配磁場電源7、受信器8、中央処理装置9、操作部10、および表示部11を有している。
【0018】
シーケンサ5は、中央処理装置9の制御を受けて、被検体12を撮影するための情報を送信器6および勾配磁場電源7に送る。
【0019】
送信器6は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、RFコイル24を駆動する駆動信号を出力する。
【0020】
勾配磁場電源7は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、勾配コイル23を駆動する駆動信号を出力する。
【0021】
受信器8は、受信コイル4で受信された磁気共鳴信号を信号処理し、信号処理により得たれたデータを中央処理装置9に出力する。
【0022】
中央処理装置9は、シーケンサ5および表示部11に必要な情報を伝送したり、受信器8から受け取ったデータに基づいて画像を再構成するなど、MRI装置100の各種の動作を実現するように、MRI装置100の各部の動作を制御する。中央処理装置9は、例えばコンピュータ(computer)を含んでいる。
【0023】
操作部10は、オペレータにより操作され、種々の情報を中央処理装置9に入力する。表示部11は種々の情報を表示する。
【0024】
MRI装置100は、上記のように構成されている。
【0025】
図2は、本形態で使用されるパルスシーケンスの説明図である。
【0026】
図2の上側にはEPIパルスシーケンスPS1が示されており、図2の下側には、パルスシーケンスPS1によって励起されるスライスが示されている。
【0027】
パルスシーケンスPS1は、α°パルスPαを有している(尚、以下では、説明の便宜上、α=90とするが、α°は、90°に限定されることは無い)。90°パルスPαは、4個のサブパルスを有している。90°パルスPαは、脂肪のスピンのフリップ角が0°(又は0°に近い角度)であるが、水のスピンのフリップ角は90°(又は90°に近い角度)になるように設計されている。したがって、90°パルスPαは、脂肪の横磁化をゼロ(又はゼロに近い値)にし、水の横磁化を1(又は1に近い値)にするスペクトル選択性を有している。
【0028】
90°パルスPαが送信されている間、勾配磁場Gz0が印加される。本形態では、90°パルスPαの各サブパルスは、勾配磁場Gz0が負のローブのときには送信されず、正のローブの間にのみ送信されている。しかし、90°パルスPαの各サブパルスを、勾配磁場Gz0が正のローブのときには送信されず、負のローブの間にのみ送信されるようにしてもよい。更に、90°パルスPαの各サブパルスを、勾配磁場Gz0が負のローブと正のローブの両方で送信されるようにしてもよい。90°パルスPαと勾配磁場Gz0とによって、スライスSL1が励起される。
【0029】
リフォーカスパルスPr1は180°パルス(反転パルス)である。リフォーカスパルスPr1は、水のスピンの位相を再収束させるとともに、脂肪のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有している。リフォーカスパルスPr1は、水のスピンを再収束させるので、水信号の信号強度を大きくすることができ、一方、脂肪のスピンの再収束を抑制するので、脂肪信号の信号強度を十分に小さくすることができる。
【0030】
リフォーカスパルスPr1が送信されている間、勾配磁場Gz1が印加される。本形態では、リフォーカスパルスPr1の各サブパルスは、勾配磁場Gz1が正のローブの間だけでなく、負のローブの間にも送信されている。リフォーカスパルスPr1と勾配磁場Gz1とによって、スライスSL1の中のスピンが反転する。その後、リードアウト勾配磁場Greadが印加される。リードアウト勾配磁場Greadは、スライスSL1から磁気共鳴信号を取得するための勾配磁場である。
【0031】
尚、リフォーカスパルスPr1は、180°パルス(反転パルス)であるので、理想的には、スライスSL1の全領域においてスピンのフリップ角が180°になる。しかし、実際には、フリップ角が180°(又は180°に近い角度)になるのは、スライスSL1の中央部分であり、スライスSL1の端部に近づくにつれて、フリップ角は180°よりもかなり小さくなる。したがって、スライスSL1の端部のスピンを十分に再収束させることができない可能性がある。そこで、実際には、図3に示すように、リフォーカスパルスPr1と勾配磁場Gz1との組合せによってスピンを反転させる領域Rinvを、スライスSL1よりも広くしている。これによって、スライスSL1の全領域に渡って、スピンを十分に再収束させることができる。
【0032】
パルスシーケンスPS1によれば、スライスSL1の厚さを薄くしても、脂肪が十分に抑制された画像を得ることができる。この理由を説明するために、シミュレーションを行った。以下に、シミュレーション結果について説明する。尚、シミュレーション条件は、以下の通りである。
【0033】
(1)α°パルスPαに関するシミュレーション条件C1
サブパルスの数:4個
スペクトルバンド幅:150Hz
空間バンド幅:2107Hz
α°パルスPαのパルス全長:11.7ms
ヌルの位置:150Hz
最小スライス厚:1.69mm

(2)リフォーカスパルスPr1に関するシミュレーション条件C2
サブパルスの数:4個
スペクトルバンド幅:400Hz
空間バンド幅:2930Hz
リフォーカスパルスPr1のパルス全長:5.024ms
最小スライス厚:2.45mm

尚、シミュレーション条件C1の「ヌルの位置」については後述する。
【0034】
図4〜図6は、シミュレーション結果を示す図である。
【0035】
図4は、90°パルスPαおよびリフォーカスパルスPr1のブロッホ・シミュレーションの結果を示すグラフである。
【0036】
図4(a)にはシミュレーション結果Aが示され、図4(b)はシミュレーション結果Bが示されている。シミュレーション結果Aは、90°パルスPαの終端における横磁化(Mxy)のブロッホ・シミュレーションの結果を示している。シミュレーション結果Bは、リフォーカスパルスPr1の終端における縦磁化(Mz)のブロッホ・シミュレーションの結果を示している。尚、磁化の初期条件は、平衡状態(Mx=My=0、Mz=+1)とした。
【0037】
シミュレーション結果AおよびBにおいて、横軸はスライス位置を表しており、縦軸はオフレゾナンス周波数を表している。また、磁化の値は、グレースケールで表示されている。
【0038】
尚、オフレゾナンス周波数は、水の共鳴周波数からのずれを表している。水の共鳴周波数は、オンレゾナンス周波数(つまり、オフレゾナンス周波数=0Hz)である。3T(テスラ)のMRI装置では、オフレゾナンス周波数420Hzの位置が、脂肪の共鳴周波数の位置に対応している。
【0039】
また、シミュレーション結果Aには、ヌルの位置が示されている。ここで、「ヌルの位置」とは、横磁化が最も抑制されるオフレゾナンス周波数の位置を表している。尚、一般的に、α°パルスPαのサブパルスが、勾配磁場Gz0の正のローブのときにのみ使用されている場合、「ヌル」は、「トゥルー・ヌル(true null)」と呼ばれる。一方、α°パルスPαのサブパルスが、勾配磁場Gz0の正のローブと負のローブとの両方のローブで使用されている場合、「ヌル」は、「オポーズド・ヌル(opposed null)」と呼ばれる。本形態では、α°パルスPαのサブパルスは、図3に示すように、勾配磁場Gz0の正のローブのときにのみ使用されているので、「トゥルー・ヌル(true null)」に該当する。シミュレーション結果Aでは、ヌルの位置は、小さい順に、150Hz、440Hz、760Hzの位置に現れている。したがって、最初のヌルの位置(150Hz)は、水と脂肪の化学シフト(420Hz)よりも十分に小さくなるように設定されている。尚、上述したシミュレーション条件C1には、最初のヌルの位置(150Hz)のみが示されている。
【0040】
図5は、シミュレーション結果Aのオフレゾナンス周波数0Hzの位置(ラインL1−L1)におけるスライスプロファイルを示す図である。
【0041】
図5の破線は、所望のスライスプロファイルを示しており、太い実線は、本形態の90°パルスPαによるスライスプロファイルを示している。また、図5には、比較のため、細い実線で、別の90°パルスPα′によるスライスプロファイルを示した。別の90°パルスPα′に関するシミュレーション条件は、以下の通りである。
【0042】
サブパルスの数:8個
スペクトルバンド幅:400Hz
空間バンド幅:3461.5Hz
パルスの全長:10.08ms
最初のヌルの位置:375Hz
最小スライス厚:3.63mm
別の90°パルスPα′は、最初のヌルの位置が375Hzであるが、本形態の90°パルスPαは、最初のヌルの位置が150Hzである。このように、本形態の90°パルスPαは、別の90°パルスPα′よりも、ヌルの位置が小さいので、サブパルスの長さを長くすることができる。上記のシミュレーション条件では、本形態の90°パルスPαは、別の90°パルスPα′よりも、サブパルスの長さを70%程度長くすることができる。したがって、本形態の90°パルスPαを使用することによって、図5に示すように、別の90°パルスPα′よりも、良好なスライスプロファイルを得ることができる。
【0043】
図6は、シミュレーション結果AおよびBのスライス位置の中心におけるスペクトル選択性を示す図である。
【0044】
図6の下側のグラフには、細い実線と、太い実線とが示されている。細い実線は、シミュレーション結果A(90°パルスPα)のスライス中心L2−L2におけるスペクトル選択性を示し、太い実線は、シミュレーション結果B(リフォーカスパルスPr1)のスライス中心L3−L3におけるスペクトル選択性を示している。
【0045】
先ず、90°パルスPαのスペクトル選択性(細い実線)について説明する。
【0046】
90°パルスPαのスペクトル選択性(細い実線)を参照すると、周波数領域Rw(水の共鳴周波数(オフレゾナンス周波数0Hz)およびその近傍の周波数)では、横磁化がMxy≒0.8〜1である。一方、周波数領域Rf(脂肪の共鳴周波数(オフレゾナンス周波数420Hz)およびその近傍の周波数)では、横磁化は、Mxy≒0〜0.2である。
【0047】
次に、リフォーカスパルスPr1のスペクトル選択性(太い実線)について説明する。
【0048】
周波数領域RWでは、リフォーカスパルスPr1によって、縦磁化の値は、Mz≒−0.7となっている。縦磁化の初期条件はMz=+1であるので、リフォーカスパルスPr1は、周波数領域RWにおけるスピンの縦磁化を、Mz=+1(正の値)からMz≒−0.7(負の値)に変化させることができる。つまり、リフォーカスパルスPr1は、周波数領域RWにおける縦磁化Mzの極性を反転させるスペクトル選択性を有している。したがって、90°パルスPαによって横磁化がMxy≒1になった水のスピンは、時間とともに位相が分散するが、リフォーカスパルスPr1によって再収束するので、水信号の強度を大きくすることができる。
【0049】
一方、周波数領域Rfでは、リフォーカスパルスPr1によって、縦磁化の値は、Mz≒+0.8となっている。縦磁化の初期条件はMz=+1であるので、周波数領域Rfでは、リフォーカスパルスPr1が送信されても、スピンの縦磁化の極性を正(+)のままにすることができる。つまり、リフォーカスパルスPr1は、周波数領域Rfにおける縦磁化の極性を反転させないスペクトル選択性を有している。したがって、周波数領域Rfにおいては、リフォーカスパルスPr1によるスピンの位相の再収束は抑制されるので、脂肪信号を抑制することができる。
【0050】
したがって、図4〜図6に示すシミュレーション結果から、本形態のパルスシーケンスPS1(図3参照)を用いることによって、スライスの厚さを薄くしても、脂肪が十分に抑制された画像が得られることがわかる。
【0051】
また、本形態では、パルスシーケンスPS1で使用されている90°パルスPαは、脂肪のスピンの横磁化を水のスピンの横磁化よりも小さくするスペクトル選択性を有している。したがって、脂肪信号の抑制効果を高めることができる。
【0052】
パルスシーケンスPS1は、例えば、シングルスピンエコーの拡散強調画像法やシングルスピンエコーのテンソル画像法に適用することができる。
【0053】
尚、リフォーカスパルスPr1による横磁化Mxyの影響を低減するために、勾配磁場Gz1の前後にクラッシャー勾配を印加してもよい。図7に、勾配磁場Gz1の前後にクラッシャー勾配Gcが印加されたときのパルスシーケンスPS2の一例を示す。
【0054】
また、図3および図7に示すパルスシーケンスPS1およびPS2は、リフォーカスパルスを一つ備えているが、リフォーカスパルスは1つに限定されることはなく、複数のリフォーカスパルスを備えていてもよい。
【0055】
図8は、複数のリフォーカスパルスを備えた場合のパルスシーケンスPS3の一例を示す図である。
【0056】
図8では、リフォーカスパルスPr1の他に追加のリフォーカスパルスPr2を備えている。追加のリフォーカスパルスPr2を備えることによって、スライス厚を薄くすることができる。尚、図8では、クラッシャー勾配Gcが印加された例について示されているが、必要に応じて、クラッシャー勾配Gcは除去してもよい。また、図8では、リードアウト勾配磁場Greadは、追加のリフォーカスパルスPr2の後に設けられているが、リフォーカスパルスPr1と追加のリフォーカスパルスPr2との間に、別のリードアウト勾配磁場Greadを設けてもよい。
【0057】
図8に示すパルスシーケンスPS3は、例えば、デュアルスピンエコーの拡散強調画像法やデュアルスピンエコーのテンソル画像法に適用することができる。追加のリフォーカスパルスPr2は、渦電流に起因したアーチファクトを低減するために使用することができる。尚、リフォーカスパルスPr1およびPr2のうちの一方のリフォーカスパルスを、シンクパルス(sinc pulse)や、SLRパルスとしてもよい。例えば、リフォーカスパルスPr1およびPr2の両方又は一方を、IEEE Trans Med. Imaging, Vol.10, pp.53-65 (1991)のJ. Pauley et al.による「Parameter Relations for the Shinnar-Le Roux Selective Excitation Pulse Design Algorithm」に記載されているSLRパルスとすることができる。
【0058】
図8に示すパルスシーケンスPS3は、リフォーカスパルスを2個備えているが、図9に示すパルスシーケンスPS4のように、n(≧3)個のリフォーカスパルスPr1〜Prnを備えていてもよい。尚、図9において、n個のリフォーカスパルスPr1〜Prnのうちのm(<n)個のリフォーカスパルスを、シンクパルスやSLRパルスとしてもよい。また、図9では、リードアウト勾配磁場Greadは、リフォーカスパルスPrnの後に設けられているが、各リフォーカスパルスの間に、別のリードアウト勾配磁場Greadを設けてもよい。
【0059】
更に、必要に応じて、図10に示すパルスシーケンスPS5のように、水の動きを検出するための拡散エンコードDEを備えてもよい。拡散エンコードDEを備えることによって、拡散強調画像法又はテンソル画像法を実行することができる。図10では、勾配磁場Gx、Gy、およびGzの3軸に、同じ振幅の拡散エンコードDEが備えられているが、図10とは別の拡散エンコードDEを備えてもよい。例えば、拡散強調画像法では、各ボクセル内の拡散の量を計測できるようにするため、拡散エンコードDEを、各軸に交互に備えることができる。また、拡散テンソル画像法では、各ボクセル内の拡散テンソルの情報を決定するため、異なる振幅の拡散エンコードDEを3軸に備えることができる。
【0060】
上記のパルスシーケンスPS1〜PS5は、機能的MRI(functional MRI)に適用することもできる。
【0061】
尚、上記のパルスシーケンスPS1〜PS5は、スピンエコー法のパルスシーケンスであるが、本発明は、グラディエントエコー法のパルスシーケンスに適用してもよい。
【0062】
図11は、グラディエントエコー型EPIのパルスシーケンスが適用された一例を示す図である。
【0063】
パルスシーケンスPS6は、α°パルスPαおよびリフォーカスパルスPr1を有している。リフォーカスパルスPr1は、α°パルスPαに隣接する位置に設けられている。このようにリフォーカスパルスPr1を設けることによって、スライスの厚さを薄くしても、脂肪が十分に抑制された画像を得ることができる。
【0064】
これまで、本発明を、好適な形態を参照して詳細に説明したが、当業者は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、本形態の種々の変更が可能である。例えば、本形態では、α°パルスPαは90°パルスであるが、90°パルスに限定されることはない。また、本形態では、リフォーカスパルスPr1は180°パルスであるが、脂肪のスピンの位相の再収束を抑制することができるのであれば、リフォーカスパルスPr1は180°パルスに限定されることはない。また、本形態では、α°パルスPαおよびリフォーカスパルスPr1のサブパルスの数は4個であるが、サブパルスの数は、必要に応じて、変更してもよい。
【0065】
また、本形態では、水を描出し脂肪を抑制する例について説明している。しかし、本発明は、水を抑制する場合や、脂肪や水とは異なる別の物質(代謝物など)を抑制したい場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
2 マグネット
3 テーブル
31 クレードル
4 受信コイル
5 シーケンサ
6 送信器
7 勾配磁場電源
8 受信器
9 中央処理装置
10 操作部
11 表示部
12 被検体
100 MRI装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内の第1の物質の信号を前記被検体内の第2の物質の信号よりも小さくするためのパルスシーケンスを実行する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、
前記被検体を励起するためのα°パルスと、
前記α°パルスにより励起された領域のスピンの位相を再収束させるためのリフォーカスパルスと、
前記領域から磁気共鳴信号を取得するためのリードアウト勾配磁場と、を有し、
前記α°パルスは、
前記第1の物質の横磁化を前記第2の物質の横磁化よりも小さくするスペクトル選択性を有し、
前記リフォーカスパルスは、
前記第2の物質のスピンの位相を再収束させ、前記第1の物質のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有する、磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記パルスシーケンスは、
シングルスピンエコーの拡散強調画像法、およびシングルスピンエコーのテンソル画像法のうちの一方のパルスシーケンスである、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記パルスシーケンスは、追加のリフォーカスパルスを備えており、
前記追加のリフォーカスパルスは、
前記第2の物質のスピンの位相を再収束させ、前記第1の物質のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有する、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記パルスシーケンスは、
前記リフォーカスパルスと、前記追加のリフォーカスパルスとの間に、前記領域から磁気共鳴信号を取得するための別のリードアウト勾配磁場を有する、請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記パルスシーケンスは、
デュアルスピンエコーの拡散強調画像法、およびデュアルスピンエコーのテンソル画像法のうちの一方のパルスシーケンスである、請求項3又は4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記パルスシーケンスは、
前記リフォーカスパルスが送信されている間に印加される勾配磁場と、
前記勾配磁場の前後に印加されるクラッシャーパルスと、
を有する、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記パルスシーケンスは、
x軸、y軸、およびz軸のうちの少なくともいずれか一つの軸に、前記第2の物質の動きを検出するための拡散エンコードを有する、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記α°パルスのスペクトル選択性は、
前記第1の物質の共鳴周波数と前記第2の物質の共鳴周波数との間に、横磁化が最も抑制されるヌルの位置が現れる、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記α°パルスは、90°パルスである、請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記リフォーカスパルスのスペクトル選択性は、
前記第1の物質の共鳴周波数の位置における縦磁化の極性を反転させず、前記第2の物質の共鳴周波数の位置における縦磁化の極性を反転させる、請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記リフォーカスパルスによってスピンの再収束が行われる領域は、前記α°パルスによって励起される領域よりも広い、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記リフォーカスパルスは、180°パルスである、請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記第1の物質は脂肪であり、前記第2の物質は水である、請求項1〜12のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
前記第1の物質は水であり、前記第2の物質は脂肪である、請求項1〜12のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
被検体内の第1の物質の信号を前記被検体内の第2の物質の信号よりも小さくするためのパルスシーケンスを実行する磁気共鳴イメージング装置を用いた方法であって、
前記被検体を励起するα°パルスであって、前記第1の物質の横磁化を前記第2の物質の横磁化よりも小さくするスペクトル選択性を有するα°パルスを送信するステップと、
前記α°パルスにより励起された領域のスピンの位相を再収束させるためのリフォーカスパルスであって、前記第2の物質のスピンの位相を再収束させ、前記第1の物質のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有するリフォーカスパルスを送信するステップと、
前記領域から磁気共鳴信号を取得するためのリードアウト勾配磁場を印加するステップと、
を有する方法。
【請求項16】
前記第2の物質のスピンの位相を再収束させ、前記第1の物質のスピンの位相の再収束を抑制するスペクトル選択性を有する追加のリフォーカスパルスを送信するステップを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リフォーカスパルスと、前記追加のリフォーカスパルスとの間に、前記領域から磁気共鳴信号を取得するための別のリードアウト勾配磁場を印加するステップを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記リフォーカスパルスが送信されている間に勾配磁場を印加するステップと、
前記勾配磁場の前後にクラッシャーパルスを印加するステップと、
を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記α°パルスを送信するステップは、
前記第1の物質の共鳴周波数と前記第2の物質の共鳴周波数との間に横磁化が最も抑制されるヌルの位置が現れるスペクトル選択性を有するα°パルスを送信するステップを更に有する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記リフォーカスパルスを送信するステップは、
前記第1の物質の共鳴周波数の位置における縦磁化の極性を反転させず前記第2の物質の共鳴周波数の位置における縦磁化の極性を反転させるスペクトル選択性を有するリフォーカスパルスを送信するステップを更に有する、請求項15に記載の方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−232113(P2012−232113A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91493(P2012−91493)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】