説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 磁気共鳴イメージング装置の高周波受信系におけるデカップリング回路に生じる発熱を抑制する。
【解決手段】 被検体を配置する空間に静磁場を発生させる静磁場発生手段と、前記静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、前記被検体へ高周波磁場を照射する高周波磁場発生手段と、前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する検出手段と、前記検出された信号を画像化する画像化手段と、前記高周波磁場発生手段と前記検出手段の磁気的結合を防止するためのデカップリング手段と、該デカップリング手段へ電流を供給するためのバイアス手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、前記電流の値を検出する電流検出手段と、該電流検出手段により検出した電流の値に応じて、前記電流の値を調整する調整手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、MRIという。)装置に関し、特に、その高周波受信系におけるデカップリング回路の安定化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
このNMR信号を検出するためにMRI装置には、被検体の検査対象部位や用途に応じて様々な高周波受信コイルが用意されるが、この高周波受信コイルが高周波送信コイルとの間に磁気的結合が生じると、高周波送信コイルによる高周波磁場照射の際不要な電流が高周波受信系に生じ、不要な熱が生じたり、不要に回路がダメージを受けることがあった。それを防ぐため、高周波受信系にはデカップリング回路が設けられ、不要な電流が流れないようにしていた。
【0004】
特許文献1記載には、そのようなデカップリング回路に関する技術が開示されていて、デカップリング回路が温度センサを備え、温度センサにより検出した温度が閾値を超えた場合に、高周波送信コイルを用いた高周波磁場の照射を停止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-212437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の従来技術は、デカップリング回路のダイオードへバイアス回路から電流を流す際に、該電流をどのように制御するかに関する配慮はされていなかった。該デカップリング回路のダイオードへ過剰な電流が流れると、不必要な熱がダイオードに発生される虞があった。
【0007】
本発明の目的は、MRI装置の高周波受信系におけるデカップリング回路に生じる発熱を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明によれば、被検体を配置する空間に静磁場を発生させる静磁場発生手段と、前記静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、前記被検体へ高周波磁場を照射する高周波磁場発生手段と、前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する検出手段と、前記検出された信号を画像化する画像化手段と、前記高周波磁場発生手段と前記検出手段の磁気的結合を防止するためのデカップリング手段と、該デカップリング手段へ電流を供給するためのバイアス手段を備えたMRI装置において、前記電流の値を検出する電流検出手段と、該電流検出手段により検出した電流の値に応じて、前記電流の値を調整する調整手段を備えることを特徴とするMRI装置が提供される。
【0009】
また、前記調整手段には、前記電流の値の許容範囲を記憶する記憶手段が備えられ、前記調整手段は、前記電流の値が前記許容範囲になるように、前記電流の値を調整することを特徴とするMRI装置が提供される。
【0010】
また、前記調整手段は、前記デカップリング手段と前記電流検出手段との間に、前記デカップリング手段へ供給される電流を制限する電流制限手段を備えていることを特徴とするMRI装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、MRI装置の高周波受信系におけるデカップリング回路に生じる発熱を抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を説明するための図。
【図2】従来の高周波送信コイル及び高周波受信コイルを説明するための図。
【図3】本発明の実施例に係る高周波受信コイルの構成を説明するための図。
【図4】図3に示された回路の動作を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、被検体を配置する空間に静磁場を発生させる静磁場発生手段と、前記静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、前記被検体へ高周波磁場を照射する高周波磁場発生手段と、前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する検出手段と、前記検出された信号を画像化する画像化手段から成り、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、図1に示すように、MRI装置は静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPUI)8とを備えて構成される。
【0015】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0016】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0017】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0018】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波送信コイル14aとから成る。高周波発振器11から出力されたRFパルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波送信コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0019】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波受信コイル14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波送信コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波受信コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
【0020】
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。受信系6からのデータがCPUI8に入力されると、CPUI8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0021】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0022】
なお、図1において、送信側の高周波送信コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波受信コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0023】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0024】
次に図2は、従来の高周波送信コイル及び高周波受信コイルについて図2を説明するための図である。図2において、13は高周波増幅器、14aは被検体に高周波磁場を発生させるための高周波送信コイル、32は、高周波送信コイルより照射される高周波磁場、14bはNMR信号を受信する高周波受信コイルである。更に、34は高周波増幅器13により供給された高周波磁場32が高周波送信コイル14aより被検体に印加される際、高周波受信コイル14bが、高周波送信コイル14aとの間に生じる磁気的結合を低減させるためのデカップリング回路であり、インダクタンス35と、ダイオード36とコンデンサ37より構成されているものである。また、38は、デカップリング回路
にバイアス電流を印加するためのバイアス回路である。
【0025】
次に図2で示したデカップリング回路34の動作を説明する。バイアス回路38からデカップリング回路34へは、少なくとも高周波送信コイル14aから高周波磁場を印加する期間に電圧が印加される。すると、デカップリング回路34内のダイオード36が導通され、抵抗が低くなる。これにより、高周波送信コイル14aより印加された高周波磁場32により高周波受信コイル14b内のデカップリング回路34が共振する。その結果、コンデンサ37の両端のインピーダンスが増加するので、高周波受信コイル14bはその一部が開放状態と等価になり、高周波送信コイル14aとの磁気的結合が低減する。結果として、高周波受信系に不要な電流が生じ、不要な熱が生じたり、不要に受信回路がダメージを受けることを防ぐことができる。
【0026】
しかしながら、図2に記載の従来のデカップリング回路34の構成では、高周波送信コイル14aによる高周波磁場32の印加と同時に、高周波受信系に電圧が励起されるが、高周波送信コイル14aより印加される高周波磁場32の出力が増加すると、デカップリング回路34に励起される電圧も増加する。この場合、デカップリング回路34を流れる電流量も増加し、ダイオード36、インダクタンス35、及びコンデンサ37が発熱しやすくなる。この結果、ダイオード36、インダクタンス35、及びコンデンサ37より発生した熱が、コイル表面まで伝導し、被検体への温度刺激が増加する可能性があった。
【0027】
そのため、一般的に、デカップリング回路34を構成する素子で最も発熱量の多いダイオード36の発熱量を低減するために、放熱板を付加したり、発熱量の少ないダイオードを選定する等の工夫がなされていた。
【0028】
ここで、MRI装置の高機能化に伴いMRI装置の発生する静磁場強度の高磁場化が進むと、必要となる高周波磁場強度も高くなるため、高周波送信コイル14aより印加される高周波磁場32が増大し。これによりデカップリング回路34の発熱量が増加し、被検体への温度刺激が増加する問題があった。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について図3、図4を用いて説明する。
図3は、本発明の実施例に係る高周波受信コイルの構成を説明するための図である。図3の構成では、発熱源となるデカップリング回路34と、デカップリング回路34に電流を供給するためのバイアス回路38との間にバイアス回路から出カップリング回路への電流の値を検出するための検出手段である電流検出回路39と、デカップリング手段へ供給される電流を制限する電流制限手段である電流制限回路40が設けられた構成となっている。具体的には、デカップリング回路34の一端に電流制限回路40の一端が接続され、電流制限回路40の他端に電流検出回路39の一端が接続され、電流検出回路39の他端にバイアス回路の一端が接続されている。また、電流制限回路40及び、電流検出回路39及びバイアス回路38は、それぞれシーケンサ4に接続されていて、シーケンサ4によって制御されるようになっている。
【0030】
次に図4は、図3に示された回路の動作を説明するためのフローチャートである。
(ステップ41)
シーケンサ4は、高周波送信コイル14aを用いて高周波磁場32を照射する際、例えば高周波送信コイル14aから照射する高周波磁場の照射量に応じて、バイアス回路からデカップリング回路へ流す電流の電流量を、Isetとして決定する。また、電流検出回路39から出力される電流値データの許容誤差範囲を、最小がIsetminで最大がIsetmaxとして設定する。
【0031】
(ステップ42)
シーケンサ4は、バイアス回路38からデカップリング回路34へ電流を印加するように指令を送る。
【0032】
(ステップ43)
シーケンサ4は、デカップリング回路34へ過剰な電流が流れないよう電流制限回路40を制御する。
【0033】
(ステップ44)
電流検出回路39から出力される電流値データIsenseが、デカップリング回路34に流すべき値Isetの誤差を含めた値を超えたか(Isense>Isetmax)を判断する。超えた場合は、ステップ45へ移行し、超えない場合はステップ46へ移行する。
【0034】
(ステップ45)
デカップリング回路34に流れる電流は、電流制限回路40により電流値Ilimitとなり制限されるが、電流制限回路40で発生する熱を抑制するため、シーケンサ4によってバイアス回路38から出力する電流値Ibiasを減少させる。すなわち、シーケンサ4またはバイアス回路38の内部には、検出手段により検出した電流の値に応じて、電流の値を調整する調整手段が備えられていて、それにより制御する。
【0035】
(ステップ46)
また、電流検出回路39により検出された電流値データIsenseが、デカップリング回路34に流すべき値Isetより低い場合か(Isense<Isetmin)を判断する。低い場合は、ステップ47へ移行し、低くない場合はステップ48へ移行する。
【0036】
(ステップ47)
シーケンサ4はバイアス回路38を制御し、電流検出回路39から検出される電流値がIsetmin≦Isense≦Isetmaxとなるようバイアス回路34から出力する電流値Ibiasを増加させる。すなわち、シーケンサ4またはバイアス回路38の内部には、検出手段により検出した電流の値に応じて、電流の値を調整する調整手段が備えられていて、それにより制御する。
【0037】
(ステップ48)
デカップリングのための電流の印加を終了するかを判断する。終了しない場合は、ステップ45へ移行する。
【0038】
以上のようにデカップリング回路34に流れる電流を制御することで、デカップリング回路34に安定した値の電流が供給され、過剰な電流投入による発熱を抑制し、被検体への温度刺激も低減することが実現できる。
【0039】
以上、本発明の実施例を述べたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
39 電流検出回路、40 電流制限回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を配置する空間に静磁場を発生させる静磁場発生手段と、
前記静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、
前記被検体へ高周波磁場を照射する高周波磁場発生手段と、
前記被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する検出手段と、
前記検出された信号を画像化する画像化手段と、
前記高周波磁場発生手段と前記検出手段の磁気的結合を防止するためのデカップリング手段と、該デカップリング手段へ電流を供給するためのバイアス手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記電流の値を検出する電流検出手段と、該電流検出手段により検出した電流の値に応じて、前記電流の値を調整する調整手段を備えたこと特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記調整手段には、前記電流の値の許容範囲を記憶する記憶手段が備えられ、前記調整手段は、前記電流の値が前記許容範囲になるように、前記電流の値を調整することを特徴とする請求項1に記載のイメージング装置。
【請求項3】
前記調整手段は、前記デカップリング手段と前記電流検出手段との間に、前記デカップリング手段へ供給される電流を制限する電流制限手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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