説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 追加RFパルスの印加を伴う撮像シーケンスの撮像時間を短縮する。
【解決手段】 追加RFパルスの効果が持続する時間範囲内で、該追加RFパルスの印加回数が最小となるようにする。これにより、追加RFパルスの効果が持続した状態で撮像時間を短縮することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、RFプリパルスを伴う撮像シーケンスの撮像時間を短縮する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、被検体に均一な静磁場を作用させた状態で、特定の基本周波数の高周波励パルス(励起用RFパルス)の照射を、撮像部位を特定する1軸方向のスライス選択傾斜磁場の印加とともに行ったあと、スライス方向に直行し、且つ、互いに直交する2軸方向(位相方向、周波数エンコード方向)の傾斜磁場を印加して、励起により発生する磁気共鳴信号(エコー信号)に2次元的な位置情報を付与して計測し、得られたエコー信号を再構成することにより、所望の断層画像を得る。通常、2次元的な位置情報を付与する傾斜磁場を、それぞれ位相エンコード傾斜磁場、周波数エンコード傾斜磁場と称する。これらのRFパルス、傾斜磁場を一定の規則に沿って時系列に並べたパルス列をシーケンスと呼ぶ。
【0003】
このようなMRIにおいて、対象領域から画像用のエコー信号を計測する本計測シーケンスの実行に先立ち、不要信号除去などを目的としたRFパルスの印加のように、本計測シーケンスの実行に先立ってRFパルスが追加される場合がある。これは、本計測シーケンスで得られる画像の情報量の変更や、本計測シーケンスでよりよい画像を得るための準備を行うためのRFパルスで、一般的にRFプリパルスといわれている。RFプリパルスを印加する場合、全体の撮像シーケンスは、RFプリパルスとその後の本計測シーケンスとで構成されることになる。
【0004】
例えば、撮像部位に存在する血流は、得られる断層画像にアーチファクトを発生させることがある。これは、励起してから位相エンコード傾斜磁場又は周波数エンコード傾斜磁場を印加するまでの間に血流の状態が変化するためである。このような血流アーチファクトを回避するため、撮像領域に流入する前に、血流の信号を抑制するためのRFプリパルスを印加するプリサチュレーションが行われている。
【0005】
また、RFプリパルスには、脂肪などの特定の共鳴周波数を有する物質の信号を抑制するCHESS(chemical shift selective)パルスもある。
【0006】
これらのRFプリパルスは、不要部位及びアーチファクト発生部位の信号抑制を行うなど、非常に重要なものであるが、撮像シーケンスの繰り返し時間(TR)内のスライス励起毎に印加されるため、撮像時間が延長する。具体的には、マルチスライス撮像を想定すると、延長時間は、(RFプリパルスの印加に要する時間×スライス枚数×(撮像シーケンスの繰り返し回数)となる。特に、息止め撮像のような短い繰り返し時間(TR)の撮像においては、このRFプリパルスによる撮像時間の延長は好ましくない。
【0007】
この課題に対して、特許文献1では、複数のRFプリパルス機能を1つのRFプリパルスで実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-291388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、RFプリパルスの印加回数は固定であることから、更なる撮像時間の短縮のための解決すべき課題を残している。このように、計測シーケンスに、所望の目的を達成するために追加するRFパルス(以下、RFプリパルスを含めて追加RFパルスと総称する)は、撮像シーケンスの撮像時間の延長をもたらし、仮に、特許文献1のように複数の異なる目的の追加RFパルスを少ない数の追加RFパルスにまとめても、追加RFパルスの印加回数が固定である限り、撮像時間の短縮は不十分とならざるを得ない。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、追加RFパルスの印加を伴う撮像シーケンスの撮像時間を短縮する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、追加RFパルスの効果が持続する時間範囲内で、該追加RFパルスの印加回数が最小となるようにする。これにより、追加RFパルスの効果が持続した状態で撮像時間を短縮することが可能となる。
【0012】
具体的には、本発明のMRI装置は、追加RFパルスと計測シーケンスとを有する撮像シーケンスの撮像条件を設定する撮像条件設定部と、設定された撮像条件に基づいて撮像シーケンスを生成する撮像部と、生成された撮像シーケンスに基づいて被検体からのエコー信号の計測を制御するシーケンサと、を有し、撮像条件設定部は、追加RFパルスが対象とする対象組織の緩和時間に応じて、該対象組織からの信号が所定の抑制度となるように前記追加RFパルスの印加回数を求めて設定する印加回数計算部を有し、撮像部は、印回数設定部で設定された印加回数の追加RFパルスを印加するように前記撮像シーケンスを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMRI装置によれば、追加RFパルスの印加を伴う撮像シーケンスの撮像時間を短縮することができる。したがって、操作者が設定した撮像シーケンス構成において、その構成の追加RFパルスの印加回数をそのまま使用した場合よりも、撮像時間を短縮して撮像を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の全体構成を説明するための図
【図2】本発明の制御系を説明するための図
【図3】本発明の実施フローを説明するための図
【図4】本発明の撮像条件初期設定画面を説明するための図
【図5】本発明のパラメータ設定を説明するための図
【図6】本発明をRFプリパルスに適用する場合の実施フローを説明するための図
【図7】本発明の印加モードが"Manual"の場合のパラメータ設定を説明するための図
【図8】本発明の印加モードが"Auto"の場合のパラメータ設定を説明するための図
【図9】本発明の実施例における、血液のT1緩和を説明するための図
【図10】本発明の実施例における、パルスシーケンスの比較を行うための図(a)はプリサチュレーションが無い場合を示し、(b)は通常印加回数のプリサチュレーションを使用する場合を示し、(c)は本実施例のプリサチュレーションパルスの印加回数の自動設定を行う場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用する実施形態について説明する。以下、本発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
最初に、本実施形態のMRI装置について説明する。図1は、本実施形態のMRI装置10の全体構成を示すブロック図である。本実施形態のMRI装置10は、磁気共鳴現象を利用して被検体11の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生系20と、傾斜磁場発生系30と、送信系50と、受信系60と、制御処理系70と、シーケンサ40と、とを備える。
【0017】
静磁場発生系20は、垂直磁場方式であれば、被検体11の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に、均一な静磁場を発生させるもので、被検体11の周りに配置される永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源を備える。
【0018】
斜磁場発生系30は、MRI装置10の座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル31と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源32とを備え、後述のシーケンサ40からの命令に従ってそれぞれの傾斜磁場コイル31の傾斜磁場電源32を駆動することにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzを印加する。
【0019】
送信系50は、被検体11の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体11に高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」と呼ぶ。)を照射するもので、高周波発振器(シンセサイザ)52と変調器53と高周波増幅器54と送信側の高周波コイル(送信コイル)51とを備える。高周波発振器52はRFパルスを生成し、シーケンサ40からの指令によるタイミングで出力する。変調器53は、出力されたRFパルスを振幅変調し、高周波増幅器54は、この振幅変調されたRFパルスを増幅し、被検体11に近接して配置された送信コイル51に供給する。送信コイル51は供給されたRFパルスを被検体11に照射する。
【0020】
受信系60は、被検体11の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出される核磁気共鳴信号(エコー信号、NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)61と信号増幅器62と直交位相検波器63と、A/D変換器64とを備える。受信コイル61は、被検体11に近接して配置され、送信コイル51から照射された電磁波によって誘起された被検体11の応答のNMR信号を検出する。検出されたNMR信号は、信号増幅器62で増幅された後、シーケンサ40からの指令によるタイミングで直交位相検波器63により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器64でディジタル量に変換されて、制御処理系70に送られる。
【0021】
シーケンサ40は、RFパルスと傾斜磁場パルスとを所定のパルスシーケンスに従って繰り返し印加する。なお、パルスシーケンスは、高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したもので、予め制御処理系70に保持される。シーケンサ40は、制御処理系70からの指示に従って動作し、被検体11の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系30、および受信系60に送信する。
【0022】
制御処理系70は、MRI装置10全体の制御、各種データ処理、処理結果の表示及び保存等を行うもので、CPU71と記憶装置72と表示装置73と入力装置74とを備える。記憶装置72は、ハードディスクと、光ディスク、磁気ディスクなどの外部記憶装置とにより構成される。表示装置73は、CRT、液晶などのディスプレイ装置である。
【0023】
入力装置74は、MRI装置10の各種制御情報や制御処理系70で行う処理の制御情報の入力のインタフェースであり、例えば、トラックボールまたはマウスとキーボードとを備える。入力装置74は、表示装置73に近接して配置される。操作者は、表示装置73を見ながら入力装置74を通してインタラクティブにMRI装置10の各種処理に必要な指示、データを入力する。
【0024】
CPU71は、操作者が入力した指示に従って、記憶装置72に予め保持されるプログラムを実行することにより、MRI装置10の動作の制御、各種のデータ処理等の制御処理系70の各処理を実現する。
【0025】
記憶装置72は、信号を抑制したい部位の縦緩和時間(T1)などの追加RFパルスの印加回数を制限するパラメータを予め保持しており、追加RFパルスの印加回数が自動で設定される場合に使用される。
【0026】
次に、本実施形態の撮像条件の設定支援及び撮像を実行するために、制御処理系70のCPU71が有する各機能を図2を用いて説明する。図2は、CPU71が、記憶装置72に記憶されたプログラムを実行することにより実現する各機能を説明するための機能ブロック図である。
【0027】
CPU71は、プログラムにより、撮像条件の設定を支援し、設定された撮像条件に従って各部を制御して撮像を実現する。これらを実現するため、CPU71は、撮像条件の設定を支援する撮像条件設定部410と、MRI装置10の各部を制御して撮像を行う撮像部420と、を備える。
【0028】
撮像条件設定部410は、追加RFパルスに関するパラメータを含めた撮像パラメータの値を設定するパラメータ設定部411と、パラメータ設定部411で設定した追加RFパルスに関するパラメータが自動の場合に、記憶装置72に保持されている追加RFパルスの印加回数を制限するパラメータによって、追加RFパルスの印加回数を自動計算する印加回数計算部412と、パラメータ設定部411で設定された撮像パラメータと印加回数計算部412で計算された追加RFパルスの印加回数とに基づいて撮像シーケンスの撮像時間を計算する撮像時間計算部430と、を備える。
【0029】
印加回数計算部412は、例えば、選択領域の信号抑制を行う追加RFパルスを使用する場合に、記憶装置72に保持されている信号抑制対象の組織のT1値を用いて、その信号値が所定抑制度(閾値)以下となるよう追加RFパルスの印加回数を決定する。具体的には、信号抑制部位の信号値は励起からの時間Tと、T1値、初期縦磁化M0を用いて(式1)で表せる。
【0030】
【数1】

この式を用いて、所望の信号抑制度(本例では5%以下)を満たすように追加RFパルスを印加する場合、(式2)を満たすTを算出する。
【0031】
【数2】

算出したTが、信号抑制の持続時間であり、追加RFパルスから時間Tの間に行うエコー信号取得では、所望の信号抑制度を持続して得られる。また、信号抑制が持続するスライス枚数Sは、1回の追加RFパルスの印加時間TPと使用するプリサチュレーションの数P、1エコーを取得するのに必要な時間(つまり計測シーケンスの繰り返し時間)T1Echoを用いて、(式3)と表せる。
【0032】
【数3】

追加RFパルスの印加回数は、(式3)により算出したSと撮像条件の全スライス数MSを用いて、(式4)により算出し、決定する。
【0033】
【数4】

撮像部420は、撮像条件設定部410で設定された追加RFパルスに関するパラメータを含めた撮像パラメータに基づいて撮像シーケンスの制御データを生成し、シーケンサ40に通知して、シーケンサ40に撮像を実行させる。
【0034】
ここで、上記の各機能部による、本実施形態の撮像処理の流れを、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態の撮像処理の処理フローである。
【0035】
ステップ301で、操作者は、入力装置74を介して撮像条件を入力する。
ステップ302で、撮像条件設定部410は、ステップ301で入力された撮像条件と、追加RFパルスの印加回数を制限するパラメータとから、追加RFパルスの印加回数を自動計算して最適化を行う。具体的には、パラメータ設定部411が、ステップ301で入力された撮像条件に基づいて、追加RFパルスに関するパラメータを含めた撮像パラメータを設定する。次いで、印加回数計算部412が、パラメータ設定部411で設定した追加RFパルスに関するパラメータが自動の場合に、記憶装置72から読み出した追加RFパルスの印加回数を制限するパラメータによって、式(1)〜(3)に基づいて、追加RFパルスの最適な印加回数を自動計算する。そして、撮像時間計算部413は、撮像パラメータと、追加RFパルスの印加回数とに基づいて撮像シーケンスの撮像時間を計算する。そして、操作者が、計算された撮像時間でよければ撮像を指示する。
【0036】
ステップ303で、撮像部420は、ステップ302で設定された撮像パラメータと、最適化された追加RFパルスの印加回数と、を用いて撮像シーケンスの制御データを生成し、シーケンサ40に通知して、シーケンサ40に撮像を実行させる。
【0037】
以下に、追加RFパルスがRFプリパルス(信号を抑制するプリサチュレーション)の場合の実施形態を具体的に説明する。
【0038】
図4は、本実施形態の撮像条件設定部410が、撮像条件の設定を受け付けるために生成し、表示装置73に表示する撮像条件設定初期画面500の一例である。本図に示すように、本実施形態の撮像条件設定初期画面500は、位置決め画像を表示する位置決め画像表示領域510と、操作者によるRFプリパルスに関するパラメータを含めた基本撮像条件の設定指示を受け付ける基本条件設定ボタン520と、撮像開始の指示を受け付ける撮像ボタン530とを備える。
【0039】
位置決め画像表示領域510には、予め取得した位置決め画像が表示される。基本条件設定ボタン520の押下を受け付けると、撮像条件設定部410は、RFプリパルスに関するパラメータを含んだパラメータ設定部411に後述の基本条件設定処理を行わせる。パラメータ設定部411は、図5に示すようなRFプリパルスに関するパラメータを含めた撮像条件設定画面600を生成し、表示装置73に表示する。撮像ボタン530の押下を受け付けると、撮像部420は、撮像条件設定部410で設定された撮像条件の下で、撮像シーケンスの制御データを生成してシーケンサ40に通知し、シーケンサ40に撮像シーケンスによる撮像を開始させる。
【0040】
パラメータ設定部411は、撮像条件設定部410の指示に従って、基本撮像条件の入力と、後述するRFプリパルスに関する条件の入力と、を受け付け、撮像パラメータとして設定する撮像条件設定処理を行う。本撮像条件設定処理は、RFプリパルスに関するパラメータ以外は、従来の撮像条件設定処理と同様である。また、RFプリパルスに関数するパラメータ入力部分は、撮像条件設定画面600の一部である。
【0041】
図5は本実施形態の撮像条件設定画面600の一例である。本図に示すように、本実施形態の撮像条件設定画面は、基本撮像条件に関するパラメータのテキスト等による入力を受け付ける第一の入力領域610と、RFプリパルスに関するパラメータのテキスト等による入力を受け付ける第二の入力領域620と、入力されたパラメータを撮像条件として設定する指示を受け付ける決定ボタン630と、を備える。
【0042】
印加回数計算部412は、第一の入力領域610を介して操作者が入力したパラメータを相互に反映し、第二の入力領域620の表示を行う。また、印加回数計算部412は、パラメータ設定部411で受け付けたプリサチュレーションに関するパラメータに基づいて、式(1)〜(4)を用いてRFプリパルス回数を自動計算し、その計算値を設定する。
【0043】
最後に、撮像時間計算部413は、撮像パラメータとRFプリパルスの印加回数とに基づいて、撮像シーケンスの撮像時間を計算して、表示領域73の表示を更新する。
【0044】
図6は、RFプリパルスであるプリサチュレーションパルスを使用する場合の撮像処理のフローを具体的に示したものである。
【0045】
ステップ601では、操作者が第二の入力領域620で、信号を抑制したい領域の数であるリサチュレーション数621を1以上とした場合に、プリサチュレーションを使用すると判断する。プリサチュレーションパルスを使用しない場合はそのまま撮像を開始することになる。
【0046】
ステップ602で、操作者は、第二の入力領域620で、印加モード622を選択する。印加モードには、操作者がプリサチュレーションパルスの印加回数623を手入力するマニュアル("Manual")モードと、信号抑制度が持続する範囲内で印加回数を自動で減らすオート("Auto")モードが選択可能とする。"Manual"を選択した場合は図7、"Auto"と選択した場合には図8の入力画面へと切り替わる。
【0047】
操作者が"Manual"を選択した場合、図7において、ステップ603で、操作者は、RFプリパルスの印加回数623を入力する。
【0048】
ステップ604で、撮像時間計算部413は、ステップ603で入力されたRFプリパルスの印加回数に応じた撮像時間を再計算し、表示装置73に表示する。
【0049】
ステップ605で、操作者は、その撮像時間でよければ撮像を開始する。撮像時間を変更する場合は、再度ステップ603から設定し直し、その後、撮像を開始する。
【0050】
次に、操作者が"Auto"を選択した場合、図8において、ステップ606で、操作者は、信号を抑制する対象組織624(血液、脂肪など)を選択する。信号抑制度の持続は、その対象組織の緩和時間(縦緩和時間T1,横緩和時間T2)によって異なるため、操作者が信号を抑制する対象組織を選択する必要がある。
【0051】
ステップ607で、印加回数が¥算部412は、ステップ606で入力された信号を抑制する対象組織624の緩和時間や信号回復度、シーケンス構成から印加回数を式(1)〜(3)を用いて自動計算して表示する。具体的には、1.5[T]では血液を抑制する場合にはT1=1200[ms]、脂肪を抑制する場合にはT1=260[ms]を使用して印加回数を算出する。
【0052】
ステップ608で、撮像時間計算部413は、ステップ607で計算されたRFプリパルスの印加回数を用いて、撮像時間の再計算と表示を行う。
【0053】
ステップ609で、操作者はステップ608で表示された撮像時間の撮像が可能かどうかを判断し、問題なければ撮像の開始を指示する。その指示を受けて撮像部420は、撮像シーケンスの制御データを生成し、シーケンサ40に通知してシーケンサ40に撮像を指示する。撮像時間などで問題がある場合は、信号を抑制する対象組織624を変更するか、設定モードを"Manual"へと変更し、所望の撮像時間となる印加回数へ設定後、撮像を開始する。
【0054】
以上までが、プリサチュレーションパルスを使用する場合の撮像処理のフローの説明である。
【0055】
上記実施形態を、腹部撮像に用いるプリサチュレーションパルスの印加回数の最適化に用いた実施例を以下に説明する。ここでは、自動設定の場合について具体的に説明する。
【0056】
撮像スライスMS=20枚、1エコー信号の計測シーケンスの計測時間T1Echo=6.86[ms]の計測条件に、1回のプリサチュレーションシーケンスがTP=6[ms]のプリサチュレーションを使用するとする。腹部断層画像を撮像する場合、動・静脈によるフローアーチファクトが発生するため、プリサチュレーションパルスを2本(つまり動脈と静脈の2箇所に)使用するため、20スライス撮像するには、撮像シーケンスの繰り返し時間(TR)は通常のプリサチュレーションを使用する場合、最短でもTR=(6.86+6×2)×20=377.2[ms]を要する。
【0057】
ここに、本実施形態のTR内の印加回数の最適化を適用する。ステップ601で、操作者は、プリサチュレーション621に2を設定し、ステップ602で、操作者は、印加モードを"Auto"に設定する。次に、ステップ606で、操作者は、血液を選択することで、印加回数計算部412は、血液の信号抑制が持続するようにRFプリパルスの印加回数の設定を行う。具体的には、印加回数計算部412は、次のような計算を行う。
【0058】
即ち、ステップ606で血液が選択された場合、ステップ607では、図9に示すように、1.5[T]で血液のT1が1200[ms]であることより、例えば、血液の信号を通常の信号値の5%以下を持続するためには、印加回数計算部412は、最長で1200[ms]×0.05/0.63=95[ms]毎にプリサチュレーションパルスを印加する必要がある、と計算する。よって、95[ms]毎に2回のプリサチュレーションパルスを印加する必要があるので、95-6×2=83[ms]の期間に計測シーケンスの実行が可能となり、この期間にINT(83/6.86)=12スライスの撮影が可能になる。よって20スライスを撮像する場合には、2回のプリサチュレーションパルス印加と10スライスの計測シーケンスの実行のセットを2回繰り返せばよい。よって、撮像シーケンスの繰り返し時間TR=6.86×20+6×2×2=161.2[ms]となる。
【0059】
次に、ステップ608では、ステップ607の計算により、撮像時間計算部413は、撮像シーケンスの繰り返し時間をTR=6.86×20+6×2×2=161.2[ms]とし、このTRを用いて撮像時間を計算し、表示装置73に表示されている撮像時間を更新する。この印加回数を最適化した撮像時間でよければ、操作者は撮像をスタートする。撮像の際には、プリサチュレーションシーケンスは印加回数分、TR内で等間隔に印加される。本実施例では、印加回数が2回、スライス枚数20枚であることから、スライス励起10枚ごとに2つのプリサチが印加され、その他のスライス励起では、計測シーケンスのみとなる。通常のパルスシーケンスと、印加回数を自動計算した場合のパルスシーケンス図を図10に示す。(a)はプリサチュレーションが無い場合を示し、繰り返し時間TR=6.86×20=137.2[ms]となる。(b)は通常印加回数のプリサチュレーションを使用する場合を示し、繰り返し時間TR=377.2[ms]となる。(c)は本実施例のプリサチュレーションパルスの印加回数の自動設定を行う場合を示し、繰り返し時間TR=161.2[ms]となる。なお、(a)〜(c)において、白楕円は計測シーケンスのRFパルスを示し、黒楕円はプリサチュレーションパルスを示す。
【0060】
以上の結果、印加回数の自動最適化を用いた場合、通常印加した場合と比べ、TRが377.2-161.2=216[ms]短縮でき、撮像時間を約40%に短縮できる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び追加RFパルス印加回数制御方法は、信号を抑制する組織の信号抑制度が持続する範囲内で、追加RFパルスの印加回数を低減するので、単純に常に所定数の追加パルスの印加回数とする場合と比較して、さらに撮像時間を容易に短縮することが可能になる。
以上、本発明の実施例を述べたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
10 MRI装置、11 被検体、20 静磁場発生系、30 傾斜磁場発生系、31 傾斜磁場コイル、32 傾斜磁場電源、40 シーケンサ、50 送信系、51 送信コイル、52 シンセサイザ、53 変調器、54 高周波増幅器、60 受信系、61 受信コイル、62 信号増幅器、63 直交位相検波器、64 A/D変換器、70 制御処理系、71 CPU、72 記憶装置、73 表示装置、74 入力装置、410 撮像部、420 撮像条件設定部、421 パラメータ設定部、422 RFプリパルス印加回数計算部、500 撮像条件設定初期画面、510 位置決め画像表示領域、520 基本条件設定ボタン、530 撮像ボタン、600 撮像条件設定画面、610 第一の入力領域、620 第二の入力領域、621 プリサチュレーション数入力ボタン、622 印加モード入力ボタン、623 印加回数入力ボタン、624 抑制対象入力ボタン、630 決定ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
追加RFパルスと計測シーケンスとを有する撮像シーケンスの撮像条件を設定する撮像条件設定部と、
設定された撮像条件に基づいて撮像シーケンスを生成する撮像部と、
前記生成された撮像シーケンスに基づいて被検体からのエコー信号の計測を制御するシーケンサと、
を有する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像条件設定部は、前記追加RFパルスが対象とする対象組織の緩和時間に応じて、該対象組織からの信号が所定の抑制度となるように前記追加RFパルスの印加回数を求めて設定する印加回数計算部を有し、
前記撮像部は、前記印回数計算部で設定された印加回数の追加RFパルスを印加するように前記撮像シーケンスを生成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記印加回数計算部は、前記対象組織からの信号が所定の抑制度となる時間範囲の内で最小の印加回数となるように、前記追加RFパルスの印加回数を設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記印加回数計算部は、前記対象組織の縦緩和時間(T1)に基づいて、前記対象組織からの信号が所定の抑制度となる時間範囲を求め、該求めた時間範囲と1回の前記追加RFパルスの印加時間と前記計測シーケンスの繰り返し時間とから、前記追加RFパルスの印加回数を設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記追加RFパルスは、プリサチュレーションパルスであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測シーケンスの繰り返し時間と、前記印加回数計算部により設定された前記追加RFパルスの印加回数と、に基づいて前記撮像シーケンスによる撮像時間を計算する撮像時間計算部と、
前記撮像時間計算部により計算された撮像時間を表示する表示部と、
を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記印加回数計算部による前記追加RFパルスの印加回数の計算及び設定と、操作者による追加RFパルスの印加回数の設定と、の切り替えを受け付けるための入力部を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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