説明

磁気共鳴画像処理装置、それを備える磁気共鳴画像化装置、磁気共鳴画像処理方法、及び磁気共鳴画像処理プログラム

【課題】内部磁場が発生する物質を含む試料に対して、内部磁場の影響による効果を取り出すことにより機能的なMRI画像を作る磁気共鳴画像処理装置、それを備えるMRI装置、磁気共鳴画像処理方法、及びその磁気共鳴画像処理プログラムの提供。
【解決手段】 実空間に対応する複数のNMR信号より、前記実空間に対応して決定されるk空間の複数の座標代表値それぞれのk空間信号情報を含むk空間信号情報群を取得し、前記k空間信号情報群に逆フーリエ変換を施し、前記実空間の複数の座標代表値それぞれの実空間信号情報を含む実空間信号情報群を取得し、前記実空間のうち、少なくとも1つのサブ空間を選択し、該サブ空間の実空間信号情報に対応する前記k空間信号情報群の各成分を取得し、該成分の前記k空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定し、前記判定の結果に応じて、前記少なくとも1つのサブ空間の実空間情報に基づいて、画像を作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴画像処理装置、それを備える磁気共鳴画像化装置、磁気共鳴画像処理方法、及び磁気共鳴画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像化(Magnetic Resonance Imaging:以下、MRIと記す)装置は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:以下、NMRと記す)の原理を利用して、試料(例えば、人体や動物、美術品)の内部を画像化する装置である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
内部磁場が発生する物質を、試料が含んでいると、磁場に対する応答であるNMR信号は、外部磁場に加えて、内部磁場に対しても応答する。よって、NMR信号から画像化されるMRI画像は、内部磁場の影響を受けることとなる。従来技術に係るMRI装置において、このような内部磁場の影響は、例えば、アーチファクト(artifact:偽像)として、MRI画像に出現している。そして、アーチファクトを抑制する様々な技術は開発されている。しかし、MRI画像の機能性向上に、内部磁場の影響による効果は積極的に利用されていない。
【0004】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内部磁場が発生する物質を含む試料に対して、内部磁場の影響による効果を取り出すことにより機能的なMRI画像を作る磁気共鳴画像処理装置、それを備えるMRI装置、磁気共鳴画像処理方法、及びその磁気共鳴画像処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明に係る磁気共鳴撮影装置は、測定領域の実空間に対応する複数のNMR信号より、前記実空間に対応して決定されるk空間の複数の座標代表値それぞれのk空間信号情報を含むk空間信号情報群を取得し、前記k空間信号情報群に、逆フーリエ変換を施すことにより、前記実空間の複数の座標代表値それぞれの実空間信号情報を含む実空間信号情報群を取得し、前記実空間信号情報群に基づいて前記測定領域の前記実空間に対応する画像を作る、磁気共鳴画像処理装置であって、前記実空間のうち、少なくとも1つのサブ空間を選択し、該サブ空間の実空間信号情報に対応する前記k空間信号情報群の各成分を取得し、該成分の前記k空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定し、前記判定の結果に応じて、前記画像を作る、ことを特徴とする。
【0006】
(2)上記(1)に記載の磁気共鳴画像処理装置であって、前記複数のNMR信号は、第1の方向に周波数のずれを生じさせ、前記第1の方向と異なる第2の方向に位相のずれを生じさせるパルスシーケンスを用いて測定される信号であり、前記k空間は、前記周波数のずれと前記位相のずれに対応して決定される空間であってもよい。
【0007】
(3)上記(1)に記載の磁気共鳴画像処理装置であって、前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に含まれる内部磁場が発生する物質の特性に基づいて定められてもよい。
【0008】
(4)上記(1)に記載の磁気共鳴画像処理装置であって、前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に添加される造影剤の特性に基づいて定められてもよい。
【0009】
(5)上記(4)に記載の磁気共鳴画像処理装置であって、前記造影剤とは、磁性物質を含む陰性造影剤であってもよい。
【0010】
(6)上記(4)に記載の磁気共鳴画像処理装置であって、前記造影剤は、超常磁性酸化鉄を含んでいてもよい。
【0011】
(7)上記(4)に記載の磁気共鳴画像処理装置であって、前記造影剤は、カルボキシデキストランで被覆された超常磁性酸化鉄の親水性コロイドを含んでいてもよい。
【0012】
(8)本発明に係る磁気共鳴画像化装置は、前記複数のNMR信号を測定するNMR信号測定部と、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の磁気共鳴画像処理装置と、を備えていてもよい。
【0013】
(9)本発明に係る磁気共鳴画像処理方法は、測定領域の実空間に対応する複数のNMR信号より、前記実空間に対応して決定されるk空間の複数の座標代表値それぞれのk空間信号情報を含むk空間信号情報群を取得する工程と、前記k空間信号情報群に、逆フーリエ変換を施すことにより、前記実空間の複数の座標代表値それぞれの実空間信号情報を含む実空間信号情報群を取得する工程と、前記実空間のうち、少なくとも1つのサブ空間を選択し、該サブ空間の実空間信号情報に対応する前記k空間信号情報群の各成分を取得し、該成分の前記k空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定する工程と、前記判定の結果に応じて、前記少なくとも1つのサブ空間の実空間情報に基づいて、画像を作る工程と、を含んでいてもよい。
【0014】
(10)上記(9)に記載の磁気共鳴画像処理方法であって、前記複数のNMR信号は、第1の方向に周波数のずれを生じさせ、前記第1の方向と異なる第2の方向に位相のずれを生じさせるパルスシーケンスを用いて測定される信号であり、前記k空間は、前記周波数のずれと前記位相のずれに対応して決定される空間であってもよい。
【0015】
(11)上記(9)に記載の磁気共鳴画像処理方法であって、前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に添加される造影剤の特性に基づいて定められてもよい。
【0016】
(12)本発明に係る磁気共鳴画像処理プログラムは、コンピュータに、測定領域の実空間に対応する複数のNMR信号より、前記実空間に対応して決定されるk空間の複数の座標代表値それぞれのk空間信号情報を含むk空間信号情報群を取得する手順と、前記実空間のうち、少なくとも1つのサブ空間を選択し、該サブ空間の実空間信号情報に対応する前記k空間信号情報群の各成分を取得し、該成分の前記k空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定する手順と、前記判定の結果に応じて、前記少なくとも1つのサブ空間の実空間情報に基づいて、画像を作る手順と、を実行させるための、磁気共鳴画像処理プログラムであってもよい。
【0017】
(13)上記(12)に記載の磁気共鳴画像処理プログラムであって、前記複数のNMR信号は、第1の方向に周波数のずれを生じさせ、前記第1の方向と異なる第2の方向に位相のずれを生じさせるパルスシーケンスを用いて測定される信号であり、前記k空間は、前記周波数のずれと前記位相のずれに対応して決定される空間であってもよい。
【0018】
(14)上記(12)に記載の磁気共鳴画像処理プログラムであって、前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に添加される造影剤の特性に基づいて定められてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、内部磁場が発生する物質を含む試料に対して、内部磁場の影響による効果を取り出すことにより機能的なMRI画像を作る磁気共鳴画像処理装置、それを備えるMRI装置、磁気共鳴画像処理方法、及び磁気共鳴画像処理プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るMRI装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るNMR測定に用いられるパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図3】実空間のサブ空間の実空間信号情報と、k空間信号情報群の各成分との関係を示す図である。
【図4】実空間のサブ空間が、SPIO造影剤が添加されていない領域である場合の、実空間信号情報と、サブk空間信号情報群を示す図である。
【図5】実空間のサブ空間が、SPIO造影剤が添加されている領域の外縁を含んでいる場合の、実空間情報と、サブk空間信号情報群を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置によって作成されるMRI画像の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置によって作成されるMRI画像の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3、それを備えるMRI装置1、磁気共鳴画像処理方法、及び磁気共鳴画像処理プログラムについて、以下に、詳細な説明をする。
【0022】
本発明の実施形態に係るMRI装置1の主な構成は、一般的なMRI装置と同じである。図1は、当該実施形態に係るMRI装置1の構成を示す図である。当該実施形態に係るMRI装置1は、NMR信号を測定するNMR信号測定部2と、NMR信号測定部2で測定されるNMR信号により、MRI画像を作る磁気共鳴画像処理装置3とを備えている。磁気共鳴画像処理装置3は、NMR信号測定部2と一体となってMRI装置1を構成していてもよいし、市販のコンピュータであってもよい。
【0023】
当該MRI装置1のNMR信号測定部2の測定領域に、試料を配置する。主磁場コイルによって、z方向に一様な磁場Bが作られる。傾斜磁場コイルによって、z方向に沿って徐々に変化する傾斜付加磁場ΔBが作り出され、一様な磁場Bと傾斜付加磁場ΔBとで、測定領域に、傾斜磁場B(=B+ΔB)が印加される。RF(Radio Frequency)パルスによって作られる交流磁場を、z方向に垂直な方向に印加するすることにより、測定領域に配置される試料のうち、z方向の所定の範囲を厚みとした断面片(スライス)からのNMR信号が測定される。本実施例において、一様な磁場の大きさは、4.7Tであり、傾斜磁場Bの勾配である傾斜磁場勾配Gは、1.95Gauss/cmである。
【0024】
さらに、当該NMR測定において、第1の方向であるx方向に沿って周波数エンコード傾斜磁場を、また、第2の方向であるy方向に沿って位相エンコード傾斜磁場を、それぞれ所定の期間印加するパルスシーケンスが用いられる。それにより、x方向に沿って、周波数のずれが生じさせ、y方向に沿って、位相のずれを生じさせるNMR信号が測定される。第1の方向と第2の方向は異なっており、さらに、MRI画像の画像品質向上のため、第1の方向と第2の方向は、直交しているのが望ましい。
【0025】
図2は、当該実施形態に係るNMR測定に用いられるパルスシーケンスの一例を示す図であり、多断面グラジエントエコーパルスシーケンス(Gradient Echo Multi Slice Pulse Sequence:以下、GEMSと記す)と呼ばれている。図2に示す通り、小さなフリップ角αに対応するRFパルスが周期的に印加される。RFパルスが印加される周期が繰り返し時間Tである。本発明に係るパルスシーケンスは、GEMSに限らず、例えば、スピンエコーパルスシーケンスなど、MRI装置に用いられる一般的なパルスシーケンスであってもよい。
【0026】
RFパルスが印加されるタイミングに応じて、z方向に傾斜付加磁場ΔBが印加される。図2に示す通り、傾斜付加磁場ΔBは、RFパルスが印加されている期間を含んで、正方向に印加され、試料のうち、断面片(スライス)からのNMR信号が測定される。すなわち、傾斜磁場勾配Gは正である。その後、傾斜付加磁場ΔBは負方向に印加され、スピンが再収束される。すなわち、傾斜磁場勾配Gは負である。
【0027】
位相エンコード傾斜磁場が、RFパルス後、印加される。図2には、位相エンコード傾斜磁場の勾配である位相エンコード傾斜磁場勾配Gとして、表されている。位相エンコード傾斜磁場が印加される期間がτである。異なる値の位相エンコード傾斜磁場勾配Gによるパルスシーケンスを用いて、順に、NMR測定がなされる。G=0を原点に、図2に示す通り、位相エンコード傾斜磁場勾配Gの座標をとる。隣り合う2つの値の位相エンコード傾斜磁場勾配Gの間隔をΔGとすると、G=n・ΔGと表される。図2には、異なる値の位相エンコード傾斜磁場勾配Gが模式的に重ねて示されている。あるNMR測定において、nがある整数値である位相エンコード傾斜磁場勾配Gによるパルスシーケンスが用いられる。
【0028】
印加される周波数エンコード傾斜磁場は、正方向及び負方向の反転傾斜磁場からなる。正方向及び負方向それぞれの傾斜磁場は、周波数エンコード傾斜磁場の勾配である周波数エンコード傾斜磁場勾配Gの大きさが等しい。RFパルスから、エコーのピークが出現する時刻tまでの期間を、エコー時間Tとする。時刻tの前後それぞれ、τの期間中、正方向に傾斜磁場が印加され、正方向の傾斜磁場に印加される期間より前に、τの期間中、負方向に傾斜磁場が印加される。時刻tを原点に、図のように、時刻τを定義する。
【0029】
なお、本実施例におけるパラメータは、α=20.0(度)、T=100(ms)、T=10(ms)である。また、NMR信号の信号雑音比(SNR)を向上するために、同じパルスシーケンスで繰り返し測定を行う加算回数NEXは8とする。
【0030】
ある値の位相エンコード傾斜磁場勾配Gによるパルスシーケンスによって測定されるNMR信号より、離散的な複数の時刻τでサンプリングが行われる。すなわち、サンプリング間隔をΔτとして、τ=m・Δτとなる時刻τのNMR信号の信号情報が取り出される。サンプリング個数をMとすると、M個の信号情報の値が得られ、これを、M個のk空間信号情報とする。ここで、信号情報とは、信号強度(振幅)であるが、信号強度に限られず、位相の情報を含んでいても、位相の情報のみであってもよい。
【0031】
これを、異なるN個の値の位相エンコード傾斜磁場勾配G(=n・ΔG)によるパルスシーケンスによって測定されるNMR信号それぞれに対して、上記サンプリングを行うことにより、M個のk空間信号情報が、それぞれN個得られる。これらを合わせて、M×N個のk空間信号情報を、k空間信号情報群とする。なお、k空間とは、次式に示すkベクトルで定義される空間(γは、磁気回転比)であり、M×N個の(k,k)は、k空間の複数の座標代表値である。この式を、数式(1)とする。
【0032】
【数1】

【0033】
k空間信号情報群に、逆フーリエ変換を施すことにより、測定領域の実空間における実空間信号情報群を得る。実空間信号情報群に基づいて、測定領域の実空間に対応するMRI画像が作られる。一般に、MRI画像とは、実空間信号情報群の信号強度に応じて画像化したものであり、ここでは、これを原生MRI画像とする。なお、実空間とは、次式にrベクトルで定義される空間であり、M×N個の(x,y)は、実空間の複数の座標代表値である。この式を、数式(2)とする。
【0034】
【数2】

【0035】
なお、本実施例において、有効視野(Field Of View:FOV)は、40mm×40mmであり、M及びNはそれぞれ128である。すなわち、解像度は、128×128である。
【0036】
本発明の特徴は、MRI装置1のうち、NMR信号測定部2で測定されるNMR信号より、MRI画像を作り出す磁気共鳴画像処理装置3、測定されるNMR信号よりMRI画像を作り出す磁気共鳴画像処理方法、コンピュータにMRI画像を作り出す処理をさせる磁気共鳴画像処理プログラムにある。特に、試料が、内部磁場が発生する物質を含んでいる場合に、得られる実空間信号情報が、内部磁場に起因する信号情報か否かを判定するところにある。
【0037】
内部磁場が発生する物質を試料が含んでいない場合、k空間信号情報は、次式によって、表される。この式を、数式(3)とする。ここで、kベクトル及びrベクトルは、数式(1)及び数式(2)で定義されている。Sは、(k,k)におけるk空間信号情報を、ρは、(x,y)における実空間信号情報を、表している。
【0038】
【数3】

【0039】
k空間におけるk空間信号情報Sは、k空間の原点において最大値となっている。すなわち、(k,k)=(m,n)=(0,0)のときである。
【0040】
これに対して、内部磁場が発生する物質を、試料が含んでいる場合、k空間信号情報は、次式によって、表される。この式を、数式(4)とする。ここで、Gsusベクトルは、内部磁場の勾配を表しており、x方向成分をGsus、y方向成分をGsusとする。また、数式(4)に示すt+Tは、x方向及びy方向における内部磁場が印加される実効的な時間を表しており、実効的な時間は、x方向及びy方向ともに、mΔτ+Tと、表される。
【0041】
【数4】

【0042】
k空間におけるk空間信号情報Sの最大値は、数式(4)の指数項が0となるときであり、すなわち、次式が成り立つ時である。これらの式を数式(5)とする。
【0043】
【数5】

【0044】
数式(5)を解くと、k空間信号情報Sを最大とするm及びnは、次式で表される。これらの式を数式(6)とする。
【0045】
【数6】

【0046】
一般に、内部磁場の勾配は、NMR測定において印加される傾斜磁場勾配と比較して、小さい。すなわち、Gsus≪G及びGsus≪ΔGが成り立つので、m及びnは、それぞれGsus及びGsusに比例すると近似される。
【0047】
以上により、内部磁場が発生する物質を、試料が含んでいる場合は、含んでいない場合と異なり、k空間信号情報Sの最大値をとる(m,n)は、原点ではなく、内部磁場勾配Gsusに対応して、k空間の原点から離れた座標になる。すなわち、k空間信号情報Sの最大値をとる(m,n)により、内部磁場の有無を識別することが出来る。
【0048】
次に、内部磁場が発生する物質として、磁性物質を含む造影剤を例に、当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3、磁気共鳴画像処理方法、及び磁気共鳴画像処理プログラムについて、説明する。ここで、造影剤とは、例えば、超常磁性酸化鉄(Superparamagnetic Iron Oxide:以下、SPIOと記す)という磁性物質を含む陰性造影剤である。SPIO造影剤の例としては、フェルカルボトランであり、フェルカルボトランは、カルボキシデキストランで被覆された超常磁性酸化鉄の親水性コロイドを含む造影剤であり、肝腫瘍の検出のためなどに用いられている。
【0049】
図3は、実空間のサブ空間の実空間信号情報と、k空間信号情報群の各成分との関係を示す図である。図3(a)は、測定領域に、SPIO造影剤が一部領域に添加される試料が配置される場合の、実空間信号情報群である。図には、SPIO造影剤が添加される領域が、SPIOとして表されている。SPIOは磁性物質であり、SPIOが添加される領域には、内部磁場が発生している。一方、試料には、他に、内部磁場が発生する物質は含んでいないものとして、試料のうち、SPIO造影剤が添加されていない領域には、磁性物質は含まれておらず、内部磁場は発生していない。
【0050】
図3(a)に示す実空間信号情報群は、k空間信号情報群に逆フーリエ変換を施したものであり、反対に、実空間信号情報にフーリエ変換を施すことにより、k空間信号情報群を得る。図3(a)に示す通り、実空間を、複数のサブ空間に分割する。1つのサブ空間は、図に正方形で示される領域である。
【0051】
実空間信号情報群より、サブ空間の座標代表値の実空間信号情報が選択される場合を考える。該実空間信号情報は、選択されるサブ空間に対応して、1又は複数の実空間信号情報である。該実空間信号情報にフーリエ変換を施すことにより、k空間信号情報群の一部を得る。これを、該サブ空間に対応するサブk空間信号情報群とする。サブk空間信号情報群は、M×N個のサブk空間信号情報からなっており、k空間のある座標代表値のサブk空間信号情報は、その座標代表値のk空間信号情報の成分となっている。すなわち、サブk空間信号情報群それぞれのサブk空間信号情報は、k空間信号情報群それぞれのk空間信号情報の成分である。
【0052】
なお、該サブ空間の該実空間信号情報にフーリエ変換を施すとは、該サブ空間以外の実空間の実空間信号情報を0にし、該サブ空間の該実空間信号情報を加えたものに、フーリエ変換を施すことをいう。サブ空間の実空間信号情報のみを残し、残りの実空間の実空間情報を0としているので、実空間信号情報群に、該サブ空間のみを選択するフィルターをかけて、フーリエ変換を施す、といってもよい。
【0053】
図3(a)に示す5個のサブ空間にそれぞれ対応して、図3(b)に、サブk空間信号情報群が5枚示されている。前述の通り、あるサブ空間に対応するサブk空間信号情報群は、k空間信号情報群の一部であり、1個のサブk空間信号情報群それぞれのサブk空間信号情報は、k空間信号情報群それぞれのk空間信号情報の成分である。そして、k空間信号情報群は、実空間の各サブ空間に対応するサブk空間信号情報群を、すべてのサブ空間について重ね合わせたものである。
【0054】
図4は、実空間のサブ空間が、SPIO造影剤が添加されていない領域である場合の、実空間信号情報と、サブk空間信号情報群を示す図である。図4(a)に示すサブ空間は、試料のうち、SPIO造影剤が添加されていない領域のみからなる。図4(b)は、該サブ空間に対応するサブk空間信号情報群である。図4(b)に示す通り、サブ空間に、内部磁場が発生する物質を含んでいない場合、そのサブ空間に対応するサブk空間信号情報群のうち、最大となるサブk空間信号情報のk空間の代表値(m,n)は、原点となる。
【0055】
図5は、実空間のサブ空間が、SPIO造影剤が添加されている領域の外縁を含んでいる場合の、実空間情報と、サブk空間信号情報群を示す図である。図5(a)に示すサブ空間は、試料のうち、SPIO造影剤が添加されている領域と、添加されていない領域の境界を含んでいる。図5(b)は、該サブ空間に対応するサブk空間信号情報群である。SPIO造影剤が添加される領域には、内部磁場が発生しており、添加されない領域には、内部磁場が発生しておらず、その境界付近において、内部磁場の勾配は、大きくなっている。図5(b)に示す通り、該サブ空間に対応するサブk空間信号情報群のうち、最大となるサブk空間信号情報のk空間の座標代表値(m,n)は、原点から離れている。原点からの距離をRとすると、R=√m+nと表される。
【0056】
最大となるサブk空間信号情報のk空間の座標代表値(m,n)のm及びnそれぞれは、前述の通り、内部磁場勾配のそれぞれの成分の大きさに比例すると近似されるので、距離Rの大きさは、内部磁場勾配の大きさに対応しており、距離Rの大きさにより、内部磁場勾配の大きさが判定される。
【0057】
当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3は、実空間のうち、1つのサブ空間を選択し、該サブ空間の空間信号情報に逆フーリエ変換を施すことにより、該サブ空間の実空間信号情報に対応するサブk空間信号情報群を取得する。そして、当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3は、該サブk空間信号情報群のk空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定する。すなわち、該サブk空間情報群のうち、最大となるサブk空間信号情報のk空間の座標代表値(m,n)の原点からの距離Rが、所定の条件を満たすか否かを判定する。ここで、所定の条件とは、「Rがある値より大きい」ことであったり、「Rがある範囲内の値をとる」ことであったりしてもよい。この値若しくはこの範囲は、SPIO造影剤が添加される領域や、SPIO造影剤が添加される領域の周辺領域に発生するSPIO造影剤の内部磁場に起因する磁場勾配の大きさによって、定められるのが望ましい。すなわち、SPIO造影剤の特性に基づいて定められるのが望ましい。
【0058】
当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3は、選択された1又は複数のサブ空間のうち、それぞれのサブ空間に対するサブk空間信号情報群が所定の条件を満たしているサブ空間の実空間信号情報に基づいて、MRI画像を作る。これにより、実空間信号情報群に基づいて作られる原生MRI画像と異なり、SPIO造影剤が添加される領域を表す、より機能的なMRI画像を作ることが出来る。
【0059】
また、本実施例において、内部磁場が発生する物質を、SPIO造影剤としているが、SPIO造影剤に限定されないのは言うまでもない。他の内部磁場が発生する物質であっても、所定の条件は、当該内部磁場が発生する物質の特性に基づいて定められるのが望ましい。
【0060】
図6は、当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3によって作成されるMRI画像の一例を示す図である。図6は、SPIO造影剤が一部領域に添加されたファントム(Phantom:実験用被検体)が試料に用いられる場合について、示している。
【0061】
図6(a)は、実空間情報信号群に基づいて作られる原生MRI画像を示す図であり、原生MRI画像には、円形状をするファントム全体が示されるとともに、ファントムの中央付近に添加されるSPIO造影剤の添加される領域が示されている。SPIO造影剤は、陰性造影剤である。陰性造影剤には、一般に、横緩和時間Tを短縮する効果があり、陰性造影剤が添加される領域のk空間信号情報の信号強度が低下する。すなわち、陰性造影剤の添加される領域は、添加されない領域と比較して、画像が暗くなる。図6(a)には、SPIO造影剤の添加される領域が、暗く示されている。
【0062】
図6(b)は、所定の条件を満たすサブ空間の実空間情報信号に基づいて作られるMRI画像を示す図である。ここで、所定の条件とは、「Rがある値以上」であり、サブk空間情報群のうち、最大となるサブk空間信号情報のk空間の座標代表値(m,n)が、原点からこの値よりさらに離れているサブ空間が選択されている。図6(b)に示すMRI画像は、該サブ空間の実空間信号情報の信号強度に応じて画像化したものであり、前述の通り、内部磁場の勾配が大きい、SPIO造影剤が添加される領域の外縁付近、すなわち、SPIO造影剤が添加される領域と添加されない領域との境界付近が強調されている機能的なMRI画像である。
【0063】
図7は、当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3によって作成されるMRI画像の他の一例を示す図である。図7は、試料として、SPIO造影剤を含む腫瘍が体内に培養されるマウスが試料に用いられる場合について、示している。
【0064】
図7(a)は、実空間情報信号群に基づいて作られる原生MRI画像を示す図であり、原生MRI画像には、マウスの断面図が示される。断面図の中央の右側に破線にて囲われている領域に、SPIO造影剤を含む腫瘍が位置しており、前述の通り、SPIO造影剤の効果として、腫瘍のある領域が暗く示されている。
【0065】
図7(b)は、所定の条件を満たすサブ空間の実空間情報信号に基づいて作られるMRI画像を示す図である。ここで、所定の条件は、図6に示す場合と同様に、「Rがある値以上」である。図7(b)に示すMRI画像は、SPIO造影剤を含む腫瘍が強調されている機能的なMRI画像である。図7(b)には、SPIO造影剤を含む腫瘍が位置する領域が、破線にて示されている。
【0066】
前述の通り、陰性造影剤の効果として、陰性造影剤が添加される領域の実空間信号情報の信号強度を低下させるので、MRI画像において、陰影造影剤が添加される領域が暗く示される。しかし、造影剤が添加される領域と、造影剤が添加されていない領域とのコントラストが明確でない場合、原生MRI画像から、陰影造影剤によって暗く示されているのか、判断するのは困難である。それゆえ、SPIO造影剤を用いて肝腫瘍などの腫瘍の検出をする場合は、以下のようにして、2枚の原生MRI画像が作られるのが一般的である。まず、試料にSPIO造影剤を注入する前に、試料を測定し、SPIO造影剤が注入されていない試料の断面図を示す原生MRI画像を作る。次に、試料にSPIO造影剤を注入し、注入されるSPIO造影剤が腫瘍のある領域に局在する状態にした後、SPIO造影剤が注入される試料の断面図を示す原生MRI画像を作る。試料に腫瘍があり、腫瘍のある領域にSPIO造影剤が局在している場合には、腫瘍のある領域が暗くなっている。SPIO造影剤が注入されていない試料の原生MRI画像と、SPIO造影剤が注入されている試料の原生MRI画像とを比較して、暗くなっている領域があるかないかで、腫瘍の有無を判断する。
【0067】
このようにして、腫瘍の検出を行う場合、2枚のMRI画像を作成する必要があるので、検出にコストと時間を要する。また、2枚のMRI画像を作成するために、それぞれの測定の間には、SPIO造影剤が腫瘍のある領域に局在するための時間が必要であり、それゆえ、2枚のMRI画像のために測定する試料の状態は同じではなく、比較する2枚のMRI画像には、SPIO造影剤の効果以外にも、違いを生む様々な要因を含んでいる。
【0068】
これに対して、当該実施形態において、作成されるMRI画像は1枚で十分であり、1度の測定により、SPIO造影剤の添加される領域、すなわち、腫瘍のある領域を強調する、機能的なMRI画像を作成することが出来る。それゆえ、一般的な腫瘍の検出と比較して、コストと時間を要しない。さらに、比較する2枚のMRI画像に違いを生む生じる様々な他の要因も生じていない。
【0069】
また、SPIO造影剤は、他の造影剤の一つであるガドリニウム(Gd)を主成分とする陽性造影剤などと比較して、生物に対する毒性が低いので、試料である生物(例えば、人体)への負荷が小さい。
【0070】
当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理方法は、以上説明した工程を含んでいる。また、当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理プログラムは、磁気共鳴画像処理装置3に備えられるコンピュータに、以上説明した手順を、実行させるためのプログラムである。
【0071】
以上、当該実施形態に係る磁気共鳴画像処理装置3、磁気共鳴画像処理方法、及び磁気共鳴画像処理プログラムについて、SPIO造影剤を例に説明した。しかし、SPIO造影剤に限定されることはなく、磁性物質を含む他の造影剤であってもよい。また、内部磁場が発生する物質として、造影剤に限定されることはなく、例えば、化学シフトを生じさせる物質(例:脂肪)などであってもよい。この場合も、所定の条件は、内部磁場が発生する物質の特性に基づいて定められるのが望ましい。また、内部磁場が発生する物質を、試料が複数種類含んでいる場合は、注目する物質と、他の物質それぞれの内部磁場に起因する磁場勾配の大きさを考慮して、所定の条件を選択することにより、機能的なMRI画像を作ることが出来る。
【0072】
なお、前述の通り、本発明に係るMRI装置1の構成は、一般に用いられるMRI装置の構成と同じで構わないし、NMR測定に用いられるパルスシーケンスも、MRI装置に一般に用いられるパルスシーケンスで構わない。すなわち、本発明は、一般に用いられるMRI装置及びNMR測定に適用することが出来、さらに、本発明により、機能的なMRI画像を作ることが出来る。
【符号の説明】
【0073】
1 MRI装置、2 NMR信号測定部、3 磁気共鳴画像処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定領域の実空間に対応する複数のNMR信号より、前記実空間に対応して決定されるk空間の複数の座標代表値それぞれのk空間信号情報を含むk空間信号情報群を取得し、
前記k空間信号情報群に、逆フーリエ変換を施すことにより、前記実空間の複数の座標代表値それぞれの実空間信号情報を含む実空間信号情報群を取得し、
前記実空間信号情報群に基づいて前記測定領域の前記実空間に対応する画像を作る、磁気共鳴画像処理装置であって、
前記実空間のうち、少なくとも1つのサブ空間を選択し、
該サブ空間の実空間信号情報に対応する前記k空間信号情報群の各成分を取得し、該成分の前記k空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定し、
前記判定の結果に応じて、前記画像を作る、
ことを特徴とする、磁気共鳴画像処理装置。
【請求項2】
前記複数のNMR信号は、第1の方向に周波数のずれを生じさせ、前記第1の方向と異なる第2の方向に位相のずれを生じさせるパルスシーケンスを用いて測定される信号であり、
前記k空間は、前記周波数のずれと前記位相のずれに対応して決定される空間である、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴画像処理装置。
【請求項3】
前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に含まれる内部磁場が発生する物質の特性に基づいて定められる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の磁気共鳴画像処理装置。
【請求項4】
前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に添加される造影剤の特性に基づいて定められる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の磁気共鳴画像処理装置。
【請求項5】
前記造影剤とは、磁性物質を含む陰性造影剤である、
ことを特徴とする、請求項4に記載の磁気共鳴画像処理装置。
【請求項6】
前記造影剤は、超常磁性酸化鉄を含んでいる、
ことを特徴とする、請求項4に記載の磁気共鳴画像処理装置。
【請求項7】
前記造影剤は、カルボキシデキストランで被覆された超常磁性酸化鉄の親水性コロイドを含む、
ことを特徴とする、請求項4に記載の磁気共鳴画像処理装置。
【請求項8】
前記複数のNMR信号を測定するNMR信号測定部と、
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の磁気共鳴画像処理装置と、
を備える磁気共鳴画像化装置。
【請求項9】
測定領域の実空間に対応する複数のNMR信号より、前記実空間に対応して決定されるk空間の複数の座標代表値それぞれのk空間信号情報を含むk空間信号情報群を取得する工程と、
前記k空間信号情報群に、逆フーリエ変換を施すことにより、前記実空間の複数の座標代表値それぞれの実空間信号情報を含む実空間信号情報群を取得する工程と、
前記実空間のうち、少なくとも1つのサブ空間を選択し、該サブ空間の実空間信号情報に対応する前記k空間信号情報群の各成分を取得し、該成分の前記k空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定する工程と、
前記判定の結果に応じて、前記少なくとも1つのサブ空間の実空間情報に基づいて、画像を作る工程と、
を含む、磁気共鳴画像処理方法。
【請求項10】
前記複数のNMR信号は、第1の方向に周波数のずれを生じさせ、前記第1の方向と異なる第2の方向に位相のずれを生じさせるパルスシーケンスを用いて測定される信号であり、
前記k空間は、前記周波数のずれと前記位相のずれに対応して決定される空間である、
ことを特徴とする請求項9に記載の磁気共鳴画像処理方法。
【請求項11】
前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に添加される造影剤の特性に基づいて定められる、
ことを特徴とする、請求項9に記載の磁気共鳴画像処理方法。
【請求項12】
コンピュータに、
測定領域の実空間に対応する複数のNMR信号より、前記実空間に対応して決定されるk空間の複数の座標代表値それぞれのk空間信号情報を含むk空間信号情報群を取得する手順と、
前記実空間のうち、少なくとも1つのサブ空間を選択し、該サブ空間の実空間信号情報に対応する前記k空間信号情報群の各成分を取得し、該成分の前記k空間における分布が所定の条件を満たすか否かを判定する手順と、
前記判定の結果に応じて、前記少なくとも1つのサブ空間の実空間情報に基づいて、画像を作る手順と、
を実行させるための、磁気共鳴画像処理プログラム。
【請求項13】
前記複数のNMR信号は、第1の方向に周波数のずれを生じさせ、前記第1の方向と異なる第2の方向に位相のずれを生じさせるパルスシーケンスを用いて測定される信号であり、
前記k空間は、前記周波数のずれと前記位相のずれに対応して決定される空間である、
ことを特徴とする請求項12に記載の磁気共鳴画像処理プログラム。
【請求項14】
前記所定の条件とは、前記測定領域に配置される試料に添加される造影剤の特性に基づいて定められる、
ことを特徴とする、請求項12に記載の磁気共鳴画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−229774(P2011−229774A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104547(P2010−104547)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】