説明

磁気冷凍作業物質および磁気冷凍方法

【課題】 本発明は、室温近傍の冷蔵庫や冷凍庫などの家電だけでなく、ガス液化産業や
、超伝導デバイスなどを支える冷凍技術に関し磁気冷凍作業物質ならびに磁気冷却方法を
提供する。
【解決手段】 本発明では、磁気冷凍作業物質であるNaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収La(FexSi1-x)13において、LaのPr部分置換を行い、その組成をNaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13およびその水素吸収La1-zPrz (FexSi1-x)13であることを特徴とする磁気冷凍作業物質で、また、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La(FexSi1-x)13もしくわその水素吸収La(FexSi1-x)13を1種類あるいはその組成を変えたものを複数用いて冷却制御を行う磁気冷凍方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫や冷凍庫などの家電および、ガス液化産業や、超伝導デバイスなどに応用することが出来る磁気冷凍の冷媒、磁気冷凍作業物質および磁気冷凍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層の破壊、地球温暖化などの環境破壊を引き起こすフロン系ガスを冷媒として用いる従来の気体冷凍に代わる新しい冷凍方法として磁気冷凍が注目されている。
【0003】
この磁気冷凍は磁性体を冷媒(冷凍作業物質)とし、その磁気熱量効果、即ち、等温状態において磁性体の磁気秩序を磁場で変化させた際に生じる磁気エントロピー変化、および断熱状態において磁場を変化させた際に生じる断熱温度変化を利用するものである。そのため、フロンおよび代替フロンガスを一切使用せずに冷凍を行うことができる。加えて、磁気冷凍の冷凍効率は気体冷凍より高い利点がある。
【0004】
つまり、磁気冷凍は省エネルギー化に貢献し環境にも優しい冷凍方法であることが分かる。このため、近年の技術開発では磁気冷凍の実現に向けて、低い磁場で大きな磁気熱量効果を示す、高性能な冷凍作業物質の開発が注目されている。
【0005】
立方晶のNaZn13型構造を有するLa(FexSi1-x)13は、キュリー温度約180K直上において、遍歴電子メタ磁性転移(磁場印加による常磁性から強磁性への1次相転移)を示す。転移に伴い磁化が大きく変化するため、巨大磁気熱量効果が生じる。(例えば、特許文献1参照)また、La(FexSi1-x)13に水素を吸収させることで、キュリー温度は約180 Kから340 K程度まで上昇し、水素吸収後もキュリー温度直上ではメタ磁性転移が生じる。そのため、水素吸収La(FexSi1-x)13Hyの水素濃度を制御することで、約180 Kから340 Kの任意の温度でメタ磁性転移に起因した巨大磁気熱量効果が得られる。(例えば、特許文献2参照)このことから、NaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収La(FexSi1-x)13Hyは、約180 K〜340 Kの温度範囲おける磁気冷凍作業物質の候補として検討されている。
【0006】
最近、NaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収化合物のLaのCe部分置換により磁気熱量効果が向上することが明らかとなった。(例えば、非特許文献1参照)また、NaZn13型La(FexSi1-x)13のLaのNd部分置換でも、磁気熱量特性は向上する。(例えば、非特許文献2参照)従って、NaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収化合物のLaを希土類元素で部分置換することは、磁気冷凍機の冷凍能力向上に繋がるため応用的観点から興味が持たれる。しかし、CeおよびNd以外の元素によるNaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収化合物におけるLaの部分置換の調査はされておらず、その効果も明らかでない。
【0007】
【特許文献1】特開2003−356748号公報
【特許文献2】特開2002−96547号公報
【非特許文献1】S. Fujieda, et. al., Materials Transactions, Vol. 45, No. 11 (2004) pp. 3228-3231.
【非特許文献2】F. X. Fu, et. al., Journal of Magnetism and Magnetic Materials, Vol. 262, pp. 427-431.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の説明から分かるように、磁気冷凍機の冷凍能力には磁気冷凍作業物質の磁気熱量効果の大きさが強く反映される。本発明では、La(FexSi1-x)13およびその水素吸収化合物のLaのPr部分置換により磁気熱量効果を向上させた磁気冷凍作業物質および、それらを用いた冷凍方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、NaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収La(FexSi1-x)13HyのLaをPrで部分置換することにより、磁気熱量効果を向上させる事ができる。そのため、LaをPrで部分置換したLa1-zPrz(FexSi1-x)13Hyの水素濃度を制御することで、約180 Kから330 Kの任意の温度範囲で、Prを含まないLa(FexSi1-x)13Hyよりも大きな磁気熱量効果が得られる。
【0010】
即ち、磁気冷凍作業物質であるNaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13における、LaをPrで部分置換し、組成をNaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13およびLa1-zPrz(FexSi1-x)13としたことを特徴とする高性能な磁気冷凍作業物質が得られる。
【0011】
また、前記xの値を0.90以下、前記zの値を0.8以下、前記yの値を3.0以下の値において構成することを特徴とする磁気冷凍作業物質が得られる。
【0012】
更に、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13もしくわその水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13を1種類、あるいはその組成を変えたもの複数に5T以下の強さの磁場を印加して冷却制御を行う磁気冷凍方法が得られる。
【0013】
また、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13およびその水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13を用いて、温度180 K付近から340 K付近の範囲を冷却制御することを特徴とする磁気冷凍方法が得られる。
【0014】
また、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13およびその水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13を用いて冷却制御する磁気冷凍方法において、その組成を、温度180 K付近から200 K付近の範囲ではPrの部分置換したLa1-zPrz(FexSi1-x)13を主体として構成し、温度200 K付近から340 K付近では水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13を主体として構成したことを特徴とする磁気冷凍方法が得られる。
【0015】
また、温度180 K付近から200 K付近の範囲では前記磁気冷凍作業物質La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13で構成し、温度200 K付近から340 K付近では前記磁気冷凍作業物質La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13Hyで構成したことを特徴とする磁気冷凍方法が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、180 K付近から340 K付近までの任意の温度で大きな磁気熱量効果を示すLa(FexSi1-x)13およびその水素吸収化合物のLaをPrで部分置換することにより、磁気熱量効果を向上させ、それらを利用した磁気冷凍方法が得られる。
【0017】
本発明を利用することで、大きな冷凍効果が得られることから、極めて即効性があり、小型化、低価格の冷凍システムの装置を構成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1に、La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13のz=0.0、0.3および0.5における0から5 Tの磁場変化(ΔB = 5 T)に伴う磁気エントロピー変化ΔSmの温度依存性を示す。Pr置換量の増化に伴い磁気エントロピー変化のピークは低温側へシフトする。さらに、Pr置換量の増加に伴い磁気エントロピー変化量は増大する。z= 0.5における磁気エントロピー変化は-30 J/kg Kで、この値はPrを含まないz = 0.0の磁気エントロピー変化-29 J/kg Kよりも40 %程度も大きい。
【0019】
また、RCP(Relative Cooling Power)も磁気冷凍機の冷凍能力に強く反映される重要な磁気熱量特性の1つである。RCPは下式で定義される。
【数1】

ここで、ΔSm MAXは磁気エントロピー変化ピークの最大値、δTは磁気エントロピー変化のピークの半値幅である。図1から、z= 0.0および0.5のRCPは、それぞれ、483 J/kgおよび576 J/kgと求められる。つまり、RCPもLaのPr部分置換により増加する。
【0020】
次に、La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13のz=0.0、0.3および0.5における0から5 Tの磁場変化(ΔB = 5 T)に伴う断熱温度変化ΔTadの温度依存性を図2に示す。Pr部分置換により、断熱温度変化のピークも低温にシフトする。また、z=0.5における断熱温度変化は11.9Kで、この値はPrを含まないz = 0.0における8.6 Kよりも大きく、LaのPr部分置換によりメタ磁性転移に起因した断熱温度変化も増加する。従って、LaのPr部分置換により磁気熱量効果は向上するわけである。
【0021】
また、La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13を5 MPaの水素雰囲気中で493 Kに加熱することで水素を吸収し、キュリー温度は室温近傍の324 Kまで上昇した。図3にLa0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13および水素吸収La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13H1.6化合物の0から5T(ΔB = 5 T)の磁場印加による磁気エントロピー変化ΔSmの温度依存性を示す。比較のためにNaZn13型La(Fe0.88Si0.12)13Hyのy = 0.0、0.5、1.0および1.5における磁気エントロピー変化も合わせて示す。La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13H1.6は、キュリー温度324 K近傍で-27 J/kg K程度の磁気エントロピー変化を示す。この値は、同程度の温度領域で磁気熱量効果を発揮するPrを含まないLa(Fe0.88Si0.12)13H1.5における-23 J/kg Kよりも大きい。つまり、水素吸収La(Fe0.88Si0.12)13Hy化合物の磁気熱量効果も、LaのPr部分置換により磁気熱量効果の向上する。このこは、La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13Hyの水素濃度を制御する事で、約180 Kから330 Kの任意の温度範囲で、Prを含まないLa(Fe0.88Si0.12)13Hyよりも大きな磁気熱量効果が得られる事を意味している。
【0022】
図4には、La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13のz = 0.0、0.2、0.4、0.5におけるX線回折パターンを示す。横軸はX線の入射角度、縦軸はX線の回折強度の相対値を表す。また、X線回折パターンの下に、立方晶のNaZn13型構造から得られるブラック反射の角度を棒で示した。La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13のz = 0.0、0.2、0.4、0.5における回折パターンは、NaZn13型構造の回折パターンと一致する。すなわち、NaZn13型構造を有したLa1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13は、z ≦ 0.5の組成範囲で得られる。また、LaのPr部分置換に伴い回折パターンは僅かに高角度側へシフトするので、Pr部分置換により格子は収縮する。Laを50 %程度Prで部分置換することで、格子は約0.18 %収縮する。
【0023】
図5にLa1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13の4.2 Kにおける飽和磁化のPr濃度依存性を示す。Pr濃度の増加に比例して、飽和磁化は増加する。Laを50 %程度Prで部分置換することで、飽和磁化は約1.8μB増加するので、Laを100 %Prで置換すると約3.6μBの飽和磁化の増加が予測される。この値は、Pr3+から理論的に予測される3.56 μBとほぼ同程度である。つまり、La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13におけるFeとPrの磁気モーメントは強磁性的に結合しており、Pr部分置換によるFeの磁気モーメントの変化はほとんど無い。
【0024】
図6にLa1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13の1 Tの磁場で測定した熱磁気曲線を示す。Prを含まないLa(Fe0.88Si0.12)13は強磁性−常磁性間の温度誘起1次相転移により、キュリー温度でヒステリシスを伴った大きな磁化の温度変化を示す。LaのPr部分置換後においても、キュリー温度ではヒステリシスが観測され、温度誘起1次相転移は保持される。また、Pr部分置換により、キュリー温度は低下し、キュリー温度での磁化の変化は顕著になる。
【0025】
図7にLa0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13のキュリー温度185 K近傍で測定した磁化曲線を示す。La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13はキュリー温度以上で、ヒステリシスを伴ったS字型の磁化曲線を示し、常磁性から強磁性への磁場誘起1次相転移であるメタ磁性転移を示す。つまり、Laを50%程度Pr部分置換した後もメタ磁性転移は保持される。
【0026】
磁気エントロピー変化はMaxwellの関係より次式で示される。
【数2】

ここで、Mは磁化、Bは印加磁場、Tは温度である。つまり、上式は一定磁場中における磁化の温度変化が大きいと、大きな磁気エントロピー変化も得られる事を意味している。従って、LaのPr部分置換によりキュリー温度での磁化の変化量は大きくなるために、La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13およびその水素吸収化合物の磁気エントロピー変化増大したと推測できる。
【0027】
また、断熱温度変化は次式で示される。
【数3】

ここで、Cは比熱である。従って、La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13およびその水素吸収化合物の磁気エントロピー変化がPr濃度の増加に伴い急激に増大したために断熱温度変化も増加したと推測できる。
【0028】
また、異なるFe組成のNaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収La(FexSi1-x)13HyおいてもLaのPr部分置換による磁気熱量効果の向上を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るNaZn13型La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13およびその水素吸収La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13Hyは、冷蔵庫、冷凍庫、クーラーなどの様々な磁気冷凍機器に適用できる。また本発明によって得られたNaZn13型La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13およびその水素吸収La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13Hyは、冷却冷媒として広く用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】NaZn13型La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13の0から5 Tの磁場変化(ΔB = 5 T)に伴う磁気エントロピー変化ΔSmの温度依存性。
【図2】NaZn13型La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13の0から5 Tの磁場変化(ΔB = 5 T)に伴う断熱温度変化ΔTadの温度依存性。
【図3】NaZn13型La(Fe0.88Si0.12)13Hy(y = 0.0、0.5、1.0および1.5)、La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13およびLa0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13H1.6の0から5 Tの磁場変化(ΔB = 5 T)に伴う磁気エントロピー変化ΔSmの温度依存性。
【図4】NaZn13型La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13のX線回折パターン。
【図5】NaZn13型La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13の4.2 Kにおける飽和磁化。
【図6】NaZn13型La1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13の1 Tでの熱磁気曲線。
【図7】NaZn13型La0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13のキュリー温度185 K近傍での磁化曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気冷凍作業物質であるNaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収La(FexSi1-x)13において、LaをPrで部分置換し、組成をNaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13およびその水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13であることを特徴とする磁気冷凍作業物質。
【請求項2】
前記xの値を0.90以下、前記zの値を0.8以下、前記yの値を3.0以下の値であることを特徴とする請求項1に記載の磁気冷凍作業物質。
【請求項3】
前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13、もしくは、その水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13を1種類、あるいは該磁気冷凍作業物質の組成を変えたものの複数に5 T以下の強さの磁場を印加して冷却制御を行うことを特徴とする磁気冷凍方法。
【請求項4】
前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13およびその水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13を用いて、180K付近から340K付近の温度範囲を冷却制御することを特徴とする請求項3に記載の磁気冷凍方法。
【請求項5】
前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zPrz(FexSi1-x)13およびその水素吸収La1-zPrz(FexSi1-x)13を用いて冷却制御する磁気冷凍方法において、その組成を、温度180K付近から200K付近の範囲ではLa1-zPrz(FexSi1-x)13を主体として構成し、温度200K付近から340K付近ではLa1-zPrz(FexSi1-x)13を主体として構成したことを特徴とする請求項4に記載の磁気冷凍方法。
【請求項6】
前記構成において、温度180K付近から200K付近の範囲ではLa1-zPrz(Fe0.88Si0.12)13で構成し、温度200K付近から340K付近ではLa0.5Pr0.5(Fe0.88Si0.12)13Hyにて構成したことを特徴とする請求項5に記載の磁気冷凍方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−84897(P2007−84897A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277365(P2005−277365)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】