説明

磁気力顕微鏡及びそれを用いた磁場観察方法

【課題】探針の磁化状態を変化させることなく磁場の絶対値の分布を高安定で測定可能な磁気力顕微鏡を提供する。
【解決手段】カンチレバー6と、探針5と、カンチレバーの変位を検出する変位検出器8と、試料台2と、試料台を移動する移動手段(3,4,11,16,17)とを備え、試料台に載置される試料1の表面の高さ分布と磁場分布を測定するための磁気力顕微鏡において、探針5に磁場を印加する磁場印加器14を更に有し、探針5に印加される磁気力がゼロとなるように磁場印加器14の出力を制御し、試料表面の磁場分布を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面の磁場分布を測定する磁気力顕微鏡及び磁場観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁性材料の表面観察手法には、ビッター法、カー顕微鏡、スピン偏極走査型電子顕微鏡(Spin−SEM:Spin−Polarized Scanning Electron Microscopy、以下にSpin−SEMと称する)、ローレンツ電子顕微鏡、磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscopy)等がある。ビッター法は、古くから用いられている技術であり、磁性体試料表面に磁性微粒子のコロイド溶液をたらし、試料の磁壁近傍に引き付けられた微粒子のパターンを光学顕微鏡で観察するものである。カー顕微鏡は、磁性体試料に直線偏光が入射すると反射光が楕円偏光となる磁気カー効果を用いて、偏光顕微鏡により磁区観察を行う磁気光学的な手法であり、これも古くから知られている。Spin−SEMは、磁性材料に電子線を照射した際に放出される2次電子のスピンを3次元ベクトル成分に分解して検出する手法である(例えば、非特許文献1)。磁性材料から放出される2次電子は試料内のスピン磁気モーメントの情報を持っているので、これを検出しマッピングすることで試料表面の磁化の大きさおよび向きが2次元画像として得られる。ローレンツ電子顕微鏡は、電子線が磁性体試料を透過する際に、試料内部の磁化から受けるローレンツ力による電子線の曲がりを利用して磁壁あるいは磁区を可視化するものである。
【0003】
一方、磁気力顕微鏡(MFM)は光や電子線を用いず、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)と呼ばれる手法を基礎としている。この手法は、磁性体をコートした探針を持ったカンチレバーと磁性体試料との間に働く磁気力をカンチレバーのたわみとして検出しながら、探針を試料表面上で走査することにより磁気力分布をマッピングする手法である(例えば、非特許文献2)。探針には磁気力以外に原子間力等も加わっており、磁気力を他の相互作用から分離する必要がある。そのために、まず、カンチレバーを振動させ、探針と試料の接触時に働く原子間力により減少する振動振幅を一定に保つように探針−試料間距離を調整する。これにより試料表面の高さ方向の位置が決定され、そこから一定の距離だけ探針を試料表面から離した状態で、カンチレバーの振動の位相変化から長距離力である磁気力を検出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小池和幸ら、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス24巻,L542頁,1985年(K.Koike et al.,Jpn.J.Appl.Phys.,24,L542(1985)
【非特許文献2】マーチンら、アプライド・フィジックス・レター50巻,1455頁1987年(Y.Martin et al.,Appl.Phys.Lett.50,1455(1987))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビッター法およびカー顕微鏡は比較的簡便な方法であるが、ともに光学顕微鏡を用いているため分解能は1μm程度であり、微細な磁区構造の観察はできない。Spin−SEMの分解能は数nm程度と高いが、表面感度が高いため試料表面処理により観察対象を露出させる必要があり、さらに、超高真空中での動作を必要とする。また、ローレンツ顕微鏡においては、電子を透過させるために試料を薄膜に加工する必要があるため、加工による試料の変質が懸念される。
【0006】
一方、磁気力顕微鏡(MFM)は大気中動作が可能であり、比較的簡便な操作により10nm程度の高分解能が得られる。しかし、このMFMにおいては、磁気情報を探針先端と試料表面との間に作用する磁気力として検出しており、探針が試料磁場から受ける磁気力の大きさは探針の磁気モーメントの大きさに依存するため、試料表面の磁場の強さの絶対値を測定することは困難である。また、試料からの磁場が探針の保磁力よりも大きい場合、探針先端の磁化状態が変化し、試料磁場を正確に反映した磁気力分布が得られないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、探針先端の磁化状態を変化させることなく、磁場の絶対値を高分解能で測定可能な磁気力顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための磁気力顕微鏡の一実施形態は、磁性を有する試料の表面の高低分布と磁場分布を測定する手段を備えた磁気力顕微鏡において、カンチレバーと、カンチレバーの先端に少なくとも一部分が磁化された材料が設けられた探針と、カンチレバーの変位を検出する変位検出器と、探針に磁場を印加する磁場印加器と、磁場印加器から前記探針に印加される磁気力がゼロになるように磁場印加器から発生する磁場を制御する磁場制御手段と、カンチレバーの変位を前記変位検出器からの信号に基づいて制御しながら探針と試料とが接触しない程度の距離を保持する距離保持手段とを有し、探針に印加される磁気力がゼロとなる状態で、探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持しながら試料表面の磁場分布を取得することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するための磁場観察方法の一実施形態は、磁性を有する試料の表面の高低分布と磁場分布を測定する手段を備えた磁気力顕微鏡を用いた磁場観察方法であって、磁気力顕微鏡は、カンチレバーと、カンチレバーの先端に少なくとも一部分が磁化された材料が設けられた探針と、カンチレバーの変位を検出する変位検出器と、探針に磁場を印加する磁場印加器と、試料を載置する試料台と、試料台を移動する移動手段とを備え、磁場印加器から探針に印加される磁気力がゼロになるように磁場印加器から発生する磁場を制御するステップと、カンチレバーの変位を前記変位検出器からの信号に基づいて制御しながら探針と試料とが接触しない程度の距離を保持するステップと、探針に印加される磁気力がゼロとなる状態で、探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持するステップと、探針に印加される磁気力がゼロとなる状態で、探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持しながら試料表面の磁場分布を取得するステップとを有することを特徴とする。
【0010】
本発明は、試料表面からの磁場により探針が受ける磁気力が、外部磁場を印加することにより相殺できるという新たな知見に基づくものである。
【0011】
これにより、試料からの磁場が探針の保磁力よりも大きい場合であっても、探針先端の磁化状態を変化させることなく、試料磁場を正確に反映した磁気力分布が得られる。本発明に依れば、探針が試料磁場から受ける磁気力の大きさは探針の磁気モーメントの大きさに依存することなく、試料表面の磁場の強さの絶対値を測定することが可能となる。
【0012】
従って、磁場の絶対値を高分解能で測定可能な磁気力顕微鏡を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部磁場により試料磁場を相殺し、探針に印加される磁気力をゼロとすることにより、探針の磁化状態を変化させることなく、試料表面磁場の絶対値の分布を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気力顕微鏡(MFM)の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気力顕微鏡(MFM)の測定手順を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、磁気力顕微鏡(MFM)にかかる発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気力顕微鏡(MFM)の概略構成図である。試料1は磁性材料で構成された試料である。試料1の表面に対向してカンチレバー6が配置され、その先端には探針5が設けられている。探針5はそれ自体が強磁性体で構成されるか、あるいは強磁性体でコートされ、一定の方向に磁化されている。カンチレバー6および探針5は励振器7により、固有振動数かその近傍の周波数(固有振動数の±1%程度以内)で、測定試料1の表面に対して垂直方向に振動させられる。カンチレバー6は励振器7による強制振動の他に、試料1との間の相互作用により変位し、その変位は変位検出器8を用いて検出される。試料1は試料台2を介してXYZ走査機構3および粗動機構4上に固定されており、XYZ走査機構3により探針5に対して3次元方位方向に移動させることができる。また、粗動機構4により試料1と探針5の間の距離を大きく変化させることができる。
【0017】
また、変位検出器8からのカンチレバー6の変位信号は振幅検出器9に入力され、励振器7の励振信号と同じ周波数成分の振幅信号が出力される。探針5が試料1の表面と接触すると、探針5と試料1の距離にしたがってカンチレバー6の振動振幅が減少する。振幅検出器9からの振幅信号が設定された一定の値となるように、第一の制御系10を用いて、Z駆動部11を介してXYZ走査機構3をZ方向に駆動し、試料1の探針5に対するZ方向の位置を調整することにより、探針5と試料1との距離が一定値に保たれる。これにより、試料表面の凹凸によらず探針5と試料1との距離は常に一定となる。即ち、探針と試料表面との間の距離は、振幅検出器9と第一の制御系10とを含む距離制御部により、試料の探針に対するZ方向の位置を調整することにより制御できる。
【0018】
さらに、変位検出器8からのカンチレバー6の変位信号は位相比較器12に入力され、励振器7からの励振信号と、カンチレバー6の変位信号内の励振信号と同じ周波数成分の信号の位相が比較され、位相差に比例した位相信号が出力される。位相信号は探針5に加わる力に応じて変化するが、探針5と試料1が接触しない程度に十分に離す(1nm以上、実用的には5nm以上)ことにより、機械的な接触による力やファンデルワールス力の影響も無視できるため、探針5が試料1からの漏えい磁界から受ける磁気力を反映している。即ち、磁気力と他の力とを分離することができる。また、探針5の近傍には磁場印加器14が置かれ、探針5に対し任意の磁場を印加できる。探針5の先端位置において試料1からの磁場と磁場印加器14からの磁場の強さが同じであるとき、探針5に印加される磁気力は相殺されてゼロとなり、位相信号は探針5に外力が印加されていないときの位相信号に等しくなる。そこで、位相比較器12からの位相信号が探針5に外力が印加されていないときの値となるように、第二の制御系13を用いて磁場印加器14に駆動し、探針5に印加される磁場を調整することにより、探針5に印加される磁気力がゼロに保たれる。このとき、磁場印加器14から出力される磁場の強さは試料1の表面からの磁場の強さと等しくなる。
<磁場観察方法>
図2に、測定手順を示す。先ず、カンチレバー6を励振器7にセットする(ステップS201)。
【0019】
セットした後に、制御部15は粗動部17を介して粗動機構4を駆動することにより粗動を行い、探針5を試料台2に数百nm程度まで接近させる(ステップS202)。粗動は、振幅検出器9から出力される信号があらかじめ設定したしきい値を超えた時点で停止する。
【0020】
次に、距離制御開始ステップにおいて、第一の制御系10による探針−試料台間距離の制御をする開始する(ステップS203)。
【0021】
次に、磁場校正ステップにおいて、制御部15は磁場印加器14を駆動し出力される磁場20,21を変化させ、制御部15は試料台2に取り付けられた磁場検出器18からの磁場信号を取り込み、磁場印加器14への入力信号と磁場検出器18からの磁場信号との関係を記憶する(S204)。このステップは、探針5の先端と試料との近傍の磁場21を正確に実測することを目的としている。
【0022】
さらに、粗動ステップでは、再び探針5を試料台2から十分に距離を離す動作を行う(S205)。
【0023】
試料セットステップで、試料1を試料台2にセットする(S206)。
【0024】
さらに、試料位置調整ステップにおいて、試料1の測定したい所望の位置が探針5の直下となるように試料1の位置を調整する(S207)。
【0025】
次に、粗動ステップで、制御部13は粗動部17を介して粗動機構4を駆動することにより粗動を行い、探針5を試料1に数百nm程度まで接近させる(S208)。粗動は振幅検出器9から出力される信号があらかじめ設定したしきい値を超えた時点で停止する。
【0026】
次に、距離制御開始ステップで、第一の制御系10による探針−試料間距離制御を開始する(S209)。
【0027】
さらに、磁気力制御開始ステップで、第二の制御系13による探針5に印加される磁気力制御を開始する(S210)。この時点で、探針5と試料1の距離が一定、かつ、探針5に印加される磁気力がゼロとなるように制御されている。
【0028】
走査およびデータ取得ステップで、制御部15は走査部16を介してXYZ走査機構3を駆動することにより、試料1を探針5に対してXY方向に走査する(S211)。
なお、試料1と探針5の距離は一定に保たれている。
【0029】
試料1を探針5に対してXY方向に走査する際、制御部15は、各測定点において第一の制御系10からの出力信号を表面形状データとして取り込み、さらに、第二の制御系13からの出力信号を磁場データとして取り込む。表面形状データ表示ステップで表面形状データを、各XY座標を用いて2次元的にマッピングし、表面形状の画像を表示装置(図示せず)に表示する(S212)。
【0030】
さらに、磁場データ表示ステップで磁場データを、磁場校正ステップS204において取得した磁場印加器14への入力信号と磁場検出器18からの磁場信号との関係を用いて、磁場の強さの絶対値データに変換し、各XY座標を用いて2次元的にマッピングし、磁場分布の画像を表示装置(図示せず)に表示する(S213)。
【実施例】
【0031】
本発明を、以下の実施例を用いて詳細に説明する。なお、本実施例に関連する事項で、発明を実施するための形態にすでに記載されているものは、本実施例にも適用するものとする。
【0032】
本実施例に係る磁気力顕微鏡を用いて、ネオジウム−鉄−ホウ素で構成された磁性体試料の表面の磁気力分布を測定した。磁気力顕微鏡の構成は図1と同様である。ネオジウム−鉄−ホウ素磁石は、アモルファス炭素基板表面に形成した厚さ200nmの薄膜を厚さ20nmのタンタル膜を介して10層積層し、最上部の表面を厚さ40nmのタンタル膜で被覆したものを用いた。試料は試料面に垂直方向に磁界消磁した。カンチレバーとして、長さ110μm、幅35μm、力定数0.95N/mのシリコン製のものを用い、カンチレバーホルダーに設けられた励振用ピエゾ素子により、カンチレバーの固有振動数である105kHzで振動させた。振動振幅は5nmであった。カンチレバー先端には長さ20μmの探針が設けられ、その表面を強磁性体であるコバルトを厚さ60nmコートし、さらに保護層として厚さ20nmのクロムをコートした。
【0033】
カンチレバーの変位は、レーザダイオードからのレーザ光をカンチレバー表面に照射し、そのときの反射光を2分割フォトダイオードで検出し、2つの出力の差分を取ることにより検出した。カンチレバーの振幅検出は、変位信号の交流成分に対してRMS/DCコンバータを用いることにより行った。また、位相比較は、励振用ピエゾ素子の励振信号およびカンチレバーの変位信号をデジタル信号の矩形波に変換後、両者の排他的論理和を演算し、ローパスフィルタにより高周波成分を除去することにより行った。ホール素子を取り付けた試料ホルダは、ピエゾ素子を用いたXYZ走査ステージ上に固定され、さらに、ステージ全体はステッピングモータとねじを用いた粗動機構によって上下方向に移動できるようにした。
【0034】
測定に先立ち、粗動機構によってステージ全体を上下方向に移動し、試料ホルダに対向して取り付けられたカンチレバーに試料ホルダを接近させた。カンチレバーの振幅変化が十分に大きくなるまで接近させた後、ステッピングモータを停止した。さらに、フィードバック回路によりカンチレバーの振幅があらかじめ設定した一定の値となるようにXYZ走査ステージをZ方向に調整し、探針−試料ホルダ間の距離を一定に保持した。この状態で、カンチレバーの裏に設置されたコイルに通電する電流を変化させ、電流値とホール素子の出力電圧の関係を制御用PC内に記憶し、この後、粗動機構によってステージを移動し、カンチレバーと試料ホルダを十分に離した。また、このときの位相信号の値を磁気力がゼロの時に対する位相信号の設定値として制御用PC内に記憶した。
【0035】
試料を試料ホルダに固定した後、再び粗動機構によってカンチレバーの振幅変化が十分に大きくなるまで試料をカンチレバーに接近させ、ステッピングモータを停止した。さらに、カンチレバーの振幅が一定の値となるようにフィードバック制御を行い、探針−試料間の距離を一定に保持した。その後、磁気力フィードバック回路を動作させ、位相信号が先に記憶した設定値と等しくなるように、コイルに印加する電流値を制御した。この状態で、XYZ走査ステージをXY方向に駆動して、探針を試料表面に対して10μm×10μmの領域をラスター走査した。各測定座標において、探針−試料間距離のフィードバック回路からの出力値をD/Aコンバータで制御用PCに読み込み、表面形状データとして記憶した。また、磁気力フィードバック回路からの出力電流値をD/Aコンバータで制御用PCに読み込み、先に記憶したコイル電流と磁場との関係を用いて変換した値を磁場データとして記憶した。試料表面のXY座標に対して、記憶した表面形状データおよび磁場データをマッピングすることにより、それぞれ表面形状画像および磁場分布画像が得られた。
【0036】
以上、本実施例によれば、試料磁場をコイルによる外部磁場で相殺し、探針に作用する磁場を常にゼロとすることにより、探針の磁化状態を変化させることなく安定に磁場分布の観察ができる。また、試料磁場の強さと外部磁場の強さは常に同一であるため、印加する外部磁場の大きさから試料磁場の大きさの絶対値の測定ができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、磁石材料の磁区サイズおよび構造の評価、また、ハードディスクドライブヘッド周囲の磁界評価に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1…試料、2…試料台、3…XYZ走査機構、4…粗動機構、5…探針、6…カンチレバー、7…励振器、8…変位検出器、9…振幅検出器、10…第一の制御系、11…Z軸駆動部、12…位相比較器、13…第二の制御系、14…磁場印加器、15…制御部、16…走査部、17…粗動部、18…磁場検出器、20,21…磁場、
S201…カンチレバーセットステップ、S202…粗動ステップ、S203…距離制御開始ステップ、S204…磁場校正ステップ、S205…粗動ステップ、S206…試料セットステップ、S207…試料位置調整ステップ、S208…粗動ステップ、S209…距離制御開始ステップ、S210…磁気力制御開始ステップ、S211…走査およびデータ取得ステップ、S212…表面形状データ表示ステップ、S213…磁場データ表示ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する試料の表面の高低分布と磁場分布を測定する手段を備えた磁気力顕微鏡において、
カンチレバーと、
前記カンチレバーの先端に少なくとも一部分が磁化された材料が設けられた探針と、
前記カンチレバーの変位を検出する変位検出器と、
前記探針に磁場を印加する磁場印加器と、
前記磁場印加器から前記探針に印加される磁気力がゼロになるように前記磁場印加器から発生する磁場を制御する磁場制御手段と、
前記カンチレバーの変位を前記変位検出器からの信号に基づいて制御しながら前記探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持する距離保持手段とを有し、
前記探針に印加される磁気力がゼロとなる状態で、前記探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持しながら前記試料表面の磁場分布を取得する
ことを特徴とする磁気力顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の磁気力顕微鏡において、
前記磁場制御手段は、前記カンチレバーを振動させる励振器と、前記変位検出器からの信号と前記励振器の信号の位相とを比較する位相比較器とを備え、
前記位相比較器からの出力信号が入力され、前記磁場印加器への制御信号が出力に基づいて、前記カンチレバーの位相変化がゼロとなるように制御する
ことを特徴とする磁気力顕微鏡。
【請求項3】
請求項2記載の磁気力顕微鏡において、
前記距離保持手段は、前記励振器の信号と同一の周波数成分の振幅を前記変位検出器からの信号より検出する振幅検出器を備え、
前記振幅検出器からの出力信号に基づいて、前記探針と前記試料表面との間の距離を一定に制御する
ことを特徴とする磁気力顕微鏡。
【請求項4】
請求項1記載の磁気力顕微鏡において、
前記試料を載置する試料台と、前記試料台を移動する移動手段とをさらに備え、
前記試料上に近接した前記探針の位置における前記磁場印加器からの磁場を、前記磁場印加器への入力信号を変化させながら前記磁場検出器を用いて測定することにより、前記磁場印加器への入力信号と前記磁場検出器の出力信号との関係を取得し、取得した関係を記憶する記憶手段を有する
ことを特徴とする磁気力顕微鏡。
【請求項5】
強磁性体の探針を用いて試料の表面の磁場分布を測定する磁気力顕微鏡において、
前記探針を前記試料の表面に対して面内方向および垂直方向への相対的な移動手段と、
前記探針を振動させる励振器と、
前記カンチレバーの変位を検出する変位検出器と、
前記探針に磁場を印加する磁場印加器と、
前記磁場印加装置からの磁場を検出する磁場検出器と、
前記磁場印加装置への入力信号と前記磁場検出器の出力信号との関係を記憶する記憶装置と、
前記変位検出器の出力信号から前記励振器の信号の周波数成分の振幅を検出する振幅検出器と、
前記振幅検出器からの出力が一定値となるように前記前記移動手段を垂直方向に制御する第1の制御部と、
前記変位検出器の出力信号の位相と前記励振器の励振信号の位相を比較する位相比較器と、
前記位相比較器からの出力が一定値となるように前記磁場印加器を制御する第2の制御部と、
前記第2の制御系の出力を前記記憶装置に記憶された前記磁場印加装置への入力信号と前記磁場検出器の出力信号との関係を用いて磁場信号に変換する変換器と、
前記移動手段を面内方向に移動させながら前記第1の制御系の出力及び前記変換器の出力を取得する制御装置と、
前記制御装置で取得した前記第1の制御系の出力および前記変換器の出力を前記移動手段の面内方向の位置に対応させて表示する表示装置とを有する
ことを特徴とする磁気力顕微鏡。
【請求項6】
磁性を有する試料の表面の高低分布と磁場分布を測定する手段を備えた磁気力顕微鏡を用いた磁場観察方法であって、
前記磁気力顕微鏡は、カンチレバーと、前記カンチレバーの先端に少なくとも一部分が磁化された材料が設けられた探針と、前記カンチレバーの変位を検出する変位検出器と、前記探針に磁場を印加する磁場印加器と、前記試料を載置する試料台と、前記試料台を移動する移動手段とを備え、
前記磁場印加器から前記探針に印加される磁気力がゼロになるように前記磁場印加器から発生する磁場を制御するステップと、
前記カンチレバーの変位を前記変位検出器からの信号に基づいて制御しながら前記探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持するステップと、
前記探針に印加される磁気力がゼロとなる状態で、前記探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持するステップと、
前記探針に印加される磁気力がゼロとなる状態で、前記探針と前記試料とが接触しない程度の距離を保持しながら前記試料表面の磁場分布を取得するステップとを有する
ことを特徴とする磁場観察方法。
【請求項7】
請求項6記載の磁場観察方法において、
前記試料上に近接した前記探針の位置における前記磁場印加器からの磁場を、前記磁場印加器への入力信号を変化させながら前記磁場検出器を用いて測定するステップと、
前記測定の結果に基づいて、前記磁場印加器への入力信号と前記磁場検出器の出力信号との関係を取得し、取得した前記関係を記憶するステップとをさらに有する
ことを特徴とする磁場観察方法。
【請求項8】
請求項7記載の磁場観察方法において、
前記移動手段を用いて、前記試料を前記探針に対してXY方向に走査するステップと、
走査された各測定点において表面形状データを取り込むステップと、
走査された各測定点において磁場データを取り込むステップと、
前記取り込まれた表面形状データを、各XY座標を用いて2次元的にマッピングし、表面形状の画像を表示するステップと、
前記取り込まれた磁場データを、前記磁場印加器への入力信号と前記磁場検出器の出力信号との関係を用いて、磁場の強さの絶対値データに変換し、各XY座標を用いて2次元的にマッピングし、磁場分布の画像を表示するステップとを有する
ことを特徴とする磁場観察方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−2970(P2013−2970A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134563(P2011−134563)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)