磁気歯車装置
【課題】磁石片の磁束を通す複数の磁性歯部の変形を防止することができる磁気歯車装置を提供する。
【解決手段】磁気歯車装置は、外歯車と、内歯車と、ステータ7歯車とを備えている。ステータ歯車7は、ベース部47と、複数の磁性歯部53と、内側環状部材42と、外側環状部材43とを有している。ベース部47は、筒孔の軸方向に直交する平面を有し、複数の磁性歯部53は、ベース部47の平面から略垂直に突出して筒孔と同心円上に所定の間隔をあけて並んでいる。内側環状部材42は、複数の磁性歯部53の先端部に内側から嵌合し、外側環状部材43は、複数の磁性歯部53の先端部に外側から嵌合する。
【解決手段】磁気歯車装置は、外歯車と、内歯車と、ステータ7歯車とを備えている。ステータ歯車7は、ベース部47と、複数の磁性歯部53と、内側環状部材42と、外側環状部材43とを有している。ベース部47は、筒孔の軸方向に直交する平面を有し、複数の磁性歯部53は、ベース部47の平面から略垂直に突出して筒孔と同心円上に所定の間隔をあけて並んでいる。内側環状部材42は、複数の磁性歯部53の先端部に内側から嵌合し、外側環状部材43は、複数の磁性歯部53の先端部に外側から嵌合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気引力または斥力を利用して動力を伝達する磁気歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車は、トルクなどの動力を伝達する機械要素である。一般的な歯車は、原動側の歯と従動側の歯が接触することで動力を伝達するため、原動側の歯と従動側の歯との間に摩擦が生じる。したがって、原動側の歯と従動側の歯との間には、潤滑剤が必要になる。また、原動側の歯と従動側の歯との接触による騒音も発生する。そこで、近年、歯の接触の無い磁気歯車が開発されている。磁気歯車は、非接触でトルクを伝達するため、潤滑剤を必要とせず、且つ、無騒音で駆動させることができる。
【0003】
一方、ロボットや複写機等に用いられる減速機構には、過大なトルクが作用したときにそのトルクを遮断(動力伝達を遮断)するトルクリミッタ機能を有するものが要求されている。磁気歯車は、トルクリミッタ機能を有するため、簡単な構造でトルクリミッタ機能を備えた減速機構を構成することができる。
【0004】
磁気歯車装置としては、例えば、非特許文献1に記載されているものがある。この非特許文献1に記載された磁気歯車装置は、円筒状のハイスピードロータ及びロースピードロータを有しており、ハイスピードロータの外周面が、ロースピードロータの内周面に対向している。そして、ハイスピードロータの外周面に取り付けた磁石片とロースピードロータの内周面に取り付けた磁石片との間に生じる磁気引力を利用して、ハイスピードロータの動力をロースピードロータに伝達する。
【0005】
また、ハイスピードロータの外周面に取り付けた磁石片とロースピードロータの内周面に取り付けた磁石片との間には、磁石片の磁束を通す複数の鉄片(磁性歯部)が配置されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Atallah and D.Howe,「A Novel High−Performance Magnetic Gear」,IEEE Transactions on Magnetics,JULY 2001,Vol.37. No.4,p.2844−2846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載された磁気歯車装置では、ハイスピードロータ及びロースピードロータを回転させると、電磁力の作用により鉄片が変形するという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、磁石片の磁束を通す複数の鉄片(磁性歯部)の変形を防止することができる磁気歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明の磁気歯車装置は、外歯車と、内歯車と、ステータ歯車とを備えている。
外歯車は、円形の筒孔を有する外側筒と、外側筒の内周部に取り付けられた複数の外側磁石片とを有している。
内歯車は、外歯車の筒孔に配置され、円形の外周部を有する内側筒と、内側筒の外周部に取り付けられた複数の内側磁石片とを有している。
ステータ歯車は、外歯車と内歯車との間に配置されており、ベース部と、複数の磁性歯部と、内側環状部材と、外側環状部材とを有している。ベース部は、筒孔の軸方向に直交する平面を有し、複数の磁性歯部は、ベース部の平面から略垂直に突出して筒孔と同心円上に所定の間隔をあけて並んでいる。内側環状部材は、複数の磁性歯部の先端部に内側から嵌合し、外側環状部材は、複数の磁性歯部の先端部に外側から嵌合する。
【0010】
この磁気歯車装置は、内側環状部材が複数の磁性歯部の先端部に内側から嵌合するため、複数の磁性歯部の自由端が内側に閉じるように変形することを防止する。また、外側環状部材が複数の磁性歯部の先端部に外側から嵌合するため、複数の磁性歯部の自由端が外側に開くように変形することを防止する。
【0011】
また、内側環状部材と外側環状部材を複数の磁性歯部53に別々に嵌合させるため、内側環状部材と外側環状部材を複数の磁性歯部に簡単に嵌合させることができる。その結果、ステータ歯車を組み立てるときの作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気歯車装置によれば、磁石片の磁束を通す複数の磁性歯部の変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の磁気歯車装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示すA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の分解斜視図である。
【図4】図4Aは本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の断面図、図4Bは図4Aに示すB−B線に沿う断面図である。
【図5】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係るステータ歯車の斜視図である。
【図6】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係るステータ歯車の分解斜視図である。
【図7】図7Aは本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係るステータ歯車の断面図、図7Bは図7Aに示すC−C線に沿う断面図である。
【図8】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第1の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図9】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第2の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図10】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第3の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図11】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第4の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図12】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第1の磁束収束部が図8に示す磁性歯部の隣の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の磁気歯車装置を実施するための形態について、図1〜図12を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0015】
[磁気歯車装置の構成]
まず、本発明の磁気歯車装置の一実施形態の構成について、図1及び図2を参照して説明する。
図1は、本発明の磁気歯車装置の一実施形態の断面図である。図2は、図1に示すA−A線に沿う断面図である。
【0016】
図1に示すように、磁気歯車装置1は、ケース2と、第1の回転軸3と、第2の回転軸4と、外歯車5と、内歯車6と、ステータ歯車7を備えている。外歯車5は、第2の回転軸4に固定され、内歯車6は、第1の回転軸3に固定されている。また、ステータ歯車7は、ケース2に固定されている。
【0017】
ケース2は、非磁性材料により形成された中空部を有する筐体である。このケース2の中空部には、外歯車5、内歯車6及びステータ歯車7が配置される。このケース2は、外歯車5及びステータ歯車7の一部を露出させる開口部2aを有しており、開口部2aに対向する底板11と、底板11に連続して略垂直に突出する第1の支持板12及び第2の支持板13とを備えている。第1の支持板12は、第2の支持板13に対向している。また、第2の支持板13の外面には、補強片14が固定されている。
【0018】
第1の回転軸3及び第2の回転軸4は、非磁性材料から形成されている。
2つの回転軸3,4及びケース2の材料としては、例えば、オーステナイト系ステンレス、アルミニウム、銅等の金属、又は合成樹脂を挙げることができる。
【0019】
第1の回転軸3は、ケース2の第1の支持板12及びステータ歯車7の後述するベース部47を貫通している。この第1の回転軸3は、軸受16によってステータ歯車7のベース部47に回転可能に取り付けられている。
【0020】
第2の回転軸4は、軸部4aと、軸部4aの先端に設けられた円板部4bからなっている。軸部4aは、第2の支持板13及び補強片14を貫通している。この軸部4aは、軸受17によって第2の支持板13に回転可能に取り付けられると共に、軸受18によって補強片14に回転可能に取り付けられている。
【0021】
第2の回転軸4の円板部4bには、第1の回転軸3の先端部が回転可能に嵌合される軸受19が設けられている。つまり、第1の回転軸3は、軸受19によって第2の回転軸4に回転可能に取り付けられている。
第1の回転軸3の軸心及び第2の回転軸4の軸心は、支持板12,13が対向する方向と平行であって、互いに一致している。
【0022】
軸受16,17,18及び19は、それぞれ転動体16a,17a,18a及び19aを有する転がり軸受(ボールベアリング)である。これら軸受16〜19の転動体16a〜19aは、非磁性材料または炭素含有量が多い材料によって形成することが好ましい。通常使用される転がり軸受は、硬度を確保するための焼き入れを行うため、炭素含有量は多い。したがって、そのような通常の転がり軸受を用いてもよい。
【0023】
なお、本発明に係る軸受は、転がり軸受に限定されるものではなく、例えば、すべり軸受、流体軸受等を適用することもできる。
【0024】
外歯車5は、第2の回転軸4の円板部4bに固定された外側筒21と、外側筒21の内周部に取り付けられた複数の外側磁石片22A,22Bから構成されている。
【0025】
外側筒21は、円形の筒孔21aを有している。この外側筒21は、例えば、珪素鋼板などの磁性材料からなる複数の板状部材を積層することにより形成されている。なお、磁性材料からなる複数の板状部材は、カシメ、溶接、接着剤などの固着方法により固着されて一体成形されている。
【0026】
このように、磁性材料からなる複数の板状部材を積層して外側筒21を形成すると、重なり合う板状部材間の微細な間隙が抵抗になり、外側筒21の軸方向に流れる渦電流を遮断することができる。なお、渦電流の遮断をより確実にするために、重なり合う板状部材間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させてもよい。
【0027】
複数の外側磁石片22A,22Bは、それぞれ筒孔21aの軸方向に細長い略棒状に形成された永久磁石である。これら複数の外側磁石片22A,22Bは、筒孔21aの径方向に磁化されている。
【0028】
図2に示すように、外側磁石片22Aと外側磁石片22Bは、筒孔21aの周方向に交互に並べられている。外側磁石片22Aは、外側筒21側がN極であり、ステータ歯車7の後述する磁性歯部53側がS極である。一方、外側磁石片22Bは、外側筒21側がS極であり、ステータ歯車7の後述する磁性歯部53側がN極である。したがって、複数の外側磁石片22Bは、異なる磁極が筒孔21aの周方向に隣り合うように並べられている。
【0029】
本実施の形態では、複数の外側磁石片22A,22Bを磁性材料からなる外側筒21に貼り付けることにより、外側筒21の磁気モーメントを揃えて、大きな表面磁束密度を得ることができる。また、複数の外側磁石片22A,22Bは、磁気吸引力によって外側筒21の内周部に吸着させることができるため、複数の外側磁石片22A,22Bを外側筒21の内周部に簡単に取りつけることができる。
【0030】
[内歯車]
次に、内歯車6について図3及び図4を参照して説明する。
図3は、内歯車6の分解斜視図である。図4Aは内歯車6の断面図であり、図4Bは図4Aに示すB−B線に沿う断面図である。
【0031】
図3及び図4Aに示すように、内歯車6は、外歯車5の筒孔21a内に配置されている。この内歯車6は、円形の外周部を有する内側筒31と、内側筒31の外周部に取り付けられた複数の第1内側磁石片32A,32Bと、複数の第1内側磁石片32A,32Bの上に取り付けられた複数の第2内側磁石片33A,33Bから構成されている。
【0032】
内側筒31は、第1の回転軸3が嵌合される円形の筒孔31aを有する円筒状に形成されている。この内側筒31は、例えば、珪素鋼板などの磁性材料からなる複数の板状部材を積層することにより形成されている。磁性材料からなる複数の板状部材は、カシメ、溶接、接着剤などの固着方法により固着されて一体成形されている。このように、磁性材料からなる複数の板状部材を積層して内側筒31を形成することにより、内側筒31の軸方向に流れる渦電流を遮断することができる。
【0033】
複数の第1内側磁石片32A,32Bは、それぞれ内側筒31(筒孔21a)の軸方向に長い略長方形の板状に形成された永久磁石である。これら複数の第1内側磁石片32A,32Bは、内側筒31(筒孔21a)の径方向に磁化されている。
【0034】
図4Bに示すように、第1内側磁石片32Aと第1内側磁石片32Bは、内側筒31の周方向に交互に並べられている。第1内側磁石片32Aは、内側筒31側がN極であり、第2内側磁石片33A,33B側がS極である。一方、第1内側磁石片32Bは、内側筒31側がS極であり、第2内側磁石片33A,33B側がN極である。したがって、複数の第1内側磁石片32A,32Bは、異なる磁極が内側筒31(筒孔21a)の周方向に隣り合うように並べられている。
【0035】
複数の第2内側磁石片33A,33Bは、それぞれ内側筒31の軸方向に長い略長方形の板状に形成された永久磁石である。これら複数の第2内側磁石片33A,33Bは、内側筒31の周方向に磁化されている。
【0036】
第2内側磁石片33Aと第2内側磁石片33Bは、内側筒31の周方向に交互に並べられている。第2内側磁石片33Aは、内側筒31の周方向における一方がN極であり、他方がS極である。一方、第2内側磁石片33Bは、内側筒31の周方向における一方がS極であり、他方がN極である。したがって、複数の第2内側磁石片33A,33Bは、同じ磁極が内側筒31(筒孔21a)の周方向に隣り合うように並べられている。
【0037】
第2内側磁石片33A,33BのN極は、第1内側磁石片32B上に配置されており、第1内側磁石片32BのN極に内側筒31(筒孔21a)の径方向で隣り合っている。そして、第2内側磁石片33A,33BのN極が隣り合う境界は、第1内側磁石片32Bの中間部に位置している。
【0038】
また、第2内側磁石片33A,33BのS極は、第1内側磁石片32A上に配置されており、第1内側磁石片32AのS極に内側筒31の径方向で隣り合っている。そして、第2内側磁石片33A,33BのS極が隣り合う境界は、第1内側磁石片32Aの中間部に位置している。
【0039】
第2内側磁石片33A,33Bは、内側筒31の周方向における両端に切欠き部を有している。この切欠き部は、隣り合う第2内側磁石片33A,33B間にV字状の溝部である磁束収束部を形成している。磁束収束部では、同じ磁極が内側筒31(筒孔21a)の径方向及び周方向に隣り合うため、磁束が集中する。
【0040】
本実施の形態の磁束収束部は、第1の磁束収束部35A,35Bと、第2の磁束収束部35C,35Dと、第3の磁束収束部35E,35Fと、第4の磁束収束部35G,35Hからなっている。第1の磁束収束部35A,35B、第2の磁束収束部35C,35D、第3の磁束収束部35E,35F及び第4の磁束収束部35G,35Hは、それぞれ第1の回転軸3を挟んで対向している。
【0041】
第1の磁束収束部35A,35Bと第3の磁束収束部35E,35Fは、N極が内側筒31(筒孔21a)の径方向及び周方向に隣り合う。また、第2の磁束収束部35C,35Dと第4の磁束収束部35G,35Hは、S極が内側筒31の径方向及び周方向に隣り合う。
【0042】
[ステータ歯車]
次に、ステータ歯車7について図5〜図7を参照して説明する。
図5は、ステータ歯車7の斜視図である。図6は、ステータ歯車7の分解斜視図である。図7Aはステータ歯車7の断面図であり、図7Bは図7Aに示すC−C線に沿う断面図である。
【0043】
図5及び図6に示すように、ステータ歯車7は、ケース2の第1の支持板12に取り付けられるステータ歯車本体41と、ステータ歯車本体41に嵌合される内側環状部材42及び外側環状部材43から構成されている。
【0044】
図7A及び図7Bに示すように、ステータ歯車本体41は、磁性材料によって形成されており、略円筒状に形成された第1ステータ部材45及び第2ステータ部材46を嵌め合わせることにより一体化されている。
【0045】
ステータ歯車本体41の第1ステータ部材45は、円板状に形成されたベース部47と、このベース部47の一方の平面から略垂直に突出する複数の突出片48とを備えている。
【0046】
ベース部47は、ケース2の第1の支持板12に固定される(図1参照)。このベース部47は、第1の回転軸3を貫通させる貫通孔47aと、この貫通孔47aの周囲に設けられたリング状の凹部47bを有している。リング状の凹部47bには、上述した軸受16が配設される。
【0047】
複数の突出片48は、ベース部47の周縁部から突出しており、ベース部47の周縁に沿って所定の間隔をあけて配置されている。このような複数の突出片48は、一方の端部にベース部47が設けられた有底の筒体を開口部側から軸方向に切欠くことにより形成することができる。
【0048】
複数の突出片48のピッチ角度αは、外歯車5における複数の外側磁石片22A,22Bのピッチ角度βと、内歯車6における磁束収束部35A〜35Hのピッチ角度γよりも小さくなっている(図2参照)。なお、複数の外側磁石片22A,22Bのピッチ角度βは、内歯車6における磁束収束部35A〜35Hのピッチ角度γよりも小さくなっている(α<β<γ)。
【0049】
各突出片48の先端部には、外面側を切り欠いて形成された外側段部48aが設けられている。各突出片48の外側段部48aは、全体でリング状の凹部を形成する(図6参照)。各突出片48の外側段部48aによって形成されたリング状の凹部には、外側環状部材43が嵌合される。
【0050】
図7A及び図7Bに示すように、ステータ歯車本体41の第2ステータ部材46は、第1ステータ部材45の内側に嵌合される。この第2ステータ部材46は、環状部50と、この環状部50の軸方向の一端から略垂直に突出する複数の突出片51とを備えている。
【0051】
環状部50の外径は、第1ステータ部材45における複数の突出片48によって形成される筒体の内径と略等しくなっている。複数の突出片51は、環状部50の周縁に沿って所定の間隔をあけて配置されている。このような第2ステータ部材46は、筒体を軸方向に切欠くことにより形成することができる。
【0052】
各突出片51の先端部には、内面側を切り欠いて形成された内側段部51aが設けられている。各突出片51の内側段部51aは、全体でリング状の凹部を形成する。各突出片51の内側段部51aによって形成されたリング状の凹部には、内側環状部材42が嵌合される。
【0053】
複数の突出片51は、第1ステータ部材45の複数の突出片48に対してベース部47の径方向に重なり合う。つまり、第1ステータ部材45の各突出片48と第2ステータ部材46の各突出片51は、ベース部47の径方向に重なり合って、複数の磁性歯部53を形成する。複数の磁性歯部53は、外歯車5における複数の外側磁石片22A,22Bと、内歯車6における複数の第2内側磁石片33A,33Bとの間に介在される。
【0054】
従来の磁気歯車装置(上記非特許文献1を参照)では、ロースピードロータ(外歯車)とハイスピードロータ(内歯車)が反対方向に回転するため、ステータの磁性歯部の中で渦電流が発生する。渦電流が発生すると、レンツの法則によりロースピードロータ(外歯車)及びハイスピードロータ(内歯車)の回転に抗する電磁ブレーキが生じてトルク損失となる。
【0055】
この解決方法としては、例えば、ステータ歯車本体41を複数の板状部材を軸方向に積層して形成し、渦電流を遮断することが考えられる。しかし、ステータ歯車本体41の磁性歯部53は、一端(基端)を固定支持して他端(先端)を自由にした構造になっている。そのため、複数の板状部材を軸方向に積層してステータ歯車本体41形成すると、組立作業が煩雑になり、生産性が低下する。
【0056】
そこで、本実施の形態では、複数の突出片48と複数の突出片51とをベース部47の径方向に重ね合わせて、その重ね合わせる面と面の間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させることで、渦電流を遮断する。
渦電流を遮断するには、突出片の積層数が多いほど良いが、積層数を多くすると、磁性歯部の強度が減少する。したがって、本発明に係る突出片の積層数は、形成する磁性歯部の強度を考慮して任意に決定することができる。
【0057】
また、突出片の積層数を多くすれば、組み合わせ面に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させなくても、渦電流の遮断が期待できる。しかし、渦電流を確実に遮断するには、重ね合わせる突出片間の少なくともひとつに電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させることが好ましい。
【0058】
複数の磁性歯部53は、一端(基端)を固定支持して他端(先端)を自由にした片持ち形状であるため、曲げに弱い構造なっている。したがって、複数の磁性歯部53は、外側磁石片22A,22B又は第2内側磁石片33A,33B(図2参照)の磁気吸引力によって吸引されて、自由端が外側に開いたり、内側に閉じたりするように変形してしまう。そのため、内側環状部材42及び外側環状部材43によって複数の磁性歯部53の剛性を増加させて、変形を防止する。
【0059】
内側環状部材42は、複数の磁性歯部53における各突出片51の内側段部51aによって形成されたリング状の凹部に嵌合し、複数の磁性歯部53の自由端が内側に閉じるように変形することを防止する。一方、外側環状部材43は、複数の磁性歯部53における各突出片48の外側段部48aによって形成されたリング状の凹部に嵌合し、複数の磁性歯部53の自由端が外側に開くように変形することを防止する。
【0060】
本実施の形態では、内側環状部材42と外側環状部材43を複数の磁性歯部53に別々に嵌合させるため、両環状部材42,43を複数の磁性歯部53に簡単に嵌合させることができる。その結果、ステータ歯車7を組み立てるときの作業性を向上させることができる。
【0061】
例えば、環状部材に環状の溝部(凹部)を設け、その溝部に複数の磁性歯部53の先端部を嵌合させれば、1つの部材で磁性歯部53の変形を防止することができる。しかしながら、環状の溝部に複数の磁性歯部53の先端部を挿入する場合は、全ての磁性歯部53の位置を調整しなければならない。そのため、ステータ歯車7の組立作業が煩雑になり、作業性が低下する。
【0062】
これに対し、本実施の形態では、例えば、初めに内側環状部材42を嵌合させる場合は、複数の磁性歯部53の一部が外側に開いていても、それらの位置を調整せずに内側環状部材42の嵌合作業を行うことができる。その後、外側環状部材43を嵌合させるときに、外側に開いている磁性歯部53の位置を調整するだけで、外側環状部材43の嵌合作業を簡単に行うことができる。
【0063】
内側環状部材42及び外側環状部材43を鉄などの磁性材料によって形成すると、磁束が両環状部材42,43を通ることになる。その結果、外歯車5と内歯車6との間に作用する磁束が減り、伝達トルクが減少してしまう。したがって、内側環状部材42及び外側環状部材43は、非磁性材料によって形成することが好ましい。
【0064】
また、両環状部材42,43と磁性歯部53との間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させることが好ましい。これにより、磁性歯部53に渦電流が流れることを遮断することができる。
【0065】
さらに、内側環状部材42及び外側環状部材43は、炭素繊維強化炭素複合材料や繊維強化プラスチック(FRP)などの粘弾性の高分子材料によって形成することが好ましい。これにより、内側環状部材42及び外側環状部材43が振動減衰特性を有することになり、磁性歯部53の振動を抑制あるいは防止することができる。その結果、磁気歯車装置1は、低振動かつ低騒音を実現することができる。
【0066】
[磁気歯車装置の動作]
次に、磁気歯車装置1の動作について図8〜図12を参照して説明する。
図8は、内歯車6の第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53A,53Bに対向した状態の説明図である。
【0067】
図8に示す状態では、ステータ歯車7の磁性歯部53A,53Bに注目すると、第1の磁束収束部35A,35B対向する側がS極となり、反対側がN極となっている。そして、外歯車5の外側磁石片22Aaが磁性歯部53AのN極に対向し、外側磁石片22Bbが磁性歯部53BのN極に対向している。この状態では、外側磁石片22Aaと磁性歯部53Aとの間及び、外側磁石片22Bbと磁性歯部53Aとの間に生じる磁気吸引力は、半径方向のみならず周方向にも釣り合っている。
【0068】
図8に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第2の磁束収束部35C,35Dがステータ歯車7の磁性歯部53C,53Dに対向する。
【0069】
図9は、内歯車6の第2の磁束収束部35C,35Dがステータ歯車7の磁性歯部53C,53Dに対向した状態の説明図である。
【0070】
第2の磁束収束部35C,35Dがステータ歯車7の磁性歯部53C,53Dに対向すると、磁性歯部53C,53Dの第2の磁束収束部35C,35Dに対向する側がN極となり、反対側がS極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Cと外歯車5の外側磁石片22Baとの間及び磁性歯部53Dと外側磁石片22Bbとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図9に示すような釣り合い状態になる。
【0071】
図9に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第3の磁束収束部35E,35Fがステータ歯車7の磁性歯部53E,53Fに対向する。
【0072】
図10は、内歯車6の第3の磁束収束部35E,35Fがステータ歯車7の磁性歯部53E,53Fに対向した状態の説明図である。
【0073】
第3の磁束収束部35E,35Fがステータ歯車7の磁性歯部53E,53Fに対向すると、磁性歯部53E,53Fの第3の磁束収束部35E,35Fに対向する側がS極となり、反対側がN極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Eと外歯車5の外側磁石片22Acとの間及び磁性歯部53Fと外側磁石片22Adとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図10に示すような釣り合い状態になる。
【0074】
図10に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第4の磁束収束部35G,35Hがステータ歯車7の磁性歯部53G,53Hに対向する。
【0075】
図11は、内歯車6の第4の磁束収束部35G,35Hがステータ歯車7の磁性歯部53G,53Hに対向した状態の説明図である。
【0076】
第4の磁束収束部35G,35Hがステータ歯車7の磁性歯部53G,53Hに対向すると、磁性歯部53G,53Hの第4の磁束収束部35G,35Hに対向する側がN極となり、反対側がS極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Gと外歯車5の外側磁石片22Bcとの間及び磁性歯部53Hと外側磁石片22Bdとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図11に示すような釣り合い状態になる。
【0077】
図11に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53I,53Jに対向する。
【0078】
図12は、内歯車6の第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53I,53Jに対向した状態の説明図である。
【0079】
第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53I,53Jに対向すると、磁性歯部53I,53Jの第1の磁束収束部35A,35Bに対向する側がS極となり、反対側がN極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Iと外歯車5の外側磁石片22Aeとの間及び磁性歯部53Jと外側磁石片22Afとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図12に示すような釣り合い状態になる。
【0080】
磁性歯部53I,53Jは、矢印R1方向で磁性歯部53A,53Bに隣り合う。つまり、図9に示す状態から図12に示す状態になるまでに、第1の磁束収束部35A,35B(内歯車6)は、矢印R1方向へ磁性歯部53のピッチ角度α(図2参照)だけ回転する。そして、外歯車5は、矢印R2方向へピッチ角度αよりも小さい角度(本例では、ピッチ角度αの1/5程度)だけ回転する。
【0081】
本実施の形態の磁気歯車装置1では、隣り合う第2内側磁石片33A,33B間にV字状の溝部である磁束収束部35A〜35Hを形成した。これら磁束収束部35A〜35Hには、磁束が集中する。そして、磁束収束部35A〜35Hの磁束がステータ歯車7の幅の狭い磁性歯部53を通るため、内歯車6と外歯車5との間に生じる磁気吸引力を増大させることができる。その結果、大きな伝達トルクを得ることができ、かつ、伝達効率を向上させることができる。
【0082】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、外歯車5の外側筒21及び内歯車6の内側筒31を磁性材料によって形成した。これにより、複数の外側磁石片22A,22B及び複数の内側磁石片32A,32B,33A,33bで外側筒21及び内側筒31の磁気モーメントを揃えて、大きな表面磁束密度を得ることができる。
【0083】
しかし、磁気歯車装置1では、内歯車6から外歯車5に、又は外歯車5から内歯車6にステータ歯車7の磁性歯部53を介して磁場が作用する。そこで、磁気歯車装置1では、外側筒21及び内側筒31を磁性材料からなる複数の板状部材を積層することにより形成した。これにより、外側筒21及び内側筒31の軸方向に流れる渦電流の発生を防止することができ、トルク損失(渦電流損)を軽減することができる。
【0084】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、外歯車5と内歯車6が反対方向に回転するため、ステータ歯車7の磁性歯部53の中で渦電流が発生することが考えられる。そこで、磁気歯車装置1では、突出片48と突出片51とを重ね合わせて磁性歯部53を形成し、突出片48,51間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させた。これにより、磁性歯部53においてベース部47(筒孔21a)の径方向に流れる渦電流を遮断することができ、渦電流損を軽減することができる。
【0085】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、内側環状部材42と外側環状部材43を複数の磁性歯部53に嵌合させた。これにより、複数の磁性歯部53の剛性を増加させて、変形を防止することができる。
【0086】
しかも、磁気歯車装置1では、内側環状部材42と外側環状部材43を別々に複数の磁性歯部53に嵌合させるため、両環状部材42,43を簡単に磁性歯部53に嵌合させることができる。その結果、ステータ歯車7の組立作業を簡単にすることができ、作業性・生産性を向上させることができる。
【0087】
また、内側環状部材42及び外側環状部材43を粘弾性の高分子材料によって形成することにより、磁性歯部53の振動を抑制あるいは防止することができる。その結果、磁気歯車装置1では、低振動かつ低騒音を実現することができる。
【0088】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、磁束が内歯車6からステータ歯車7の磁性歯部53を通って外歯車5に作用する磁気回路となることが望ましい。しかし、ステータ歯車7の磁性歯部53は、強度を考慮すると、一端(基端)を固定支持して他端(先端)を自由にした片持ち形状にする必要があるため、ベース部47と一体に形成されている。したがって、磁束は、ベース部47にも漏れる構造となっている。
【0089】
そこで、磁気歯車装置1では、ケース2、第1の回転軸3及び第2の回転軸4を非磁性材料によって形成した。これにより、内歯車6からステータ歯車7のベース部47を通って閉じる磁気回路を遮断することができる。また、ケース2を導電性材料で形成する場合は、ステータ歯車7のベース部47とケース2との間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させて、ベース部47からケース2へ流れる渦電流を遮断することが好ましい。
【0090】
以上、本発明の磁気歯車装置の実施の形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の磁気歯車装置は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、上述の実施の形態では、8つの磁束収束部を設ける構成とした。しかしながら、本発明の磁気歯車装置としては、磁束収束部を設けないものであってもよい。その場合は、第1内側磁石片32A,32Bのみを設ける構成となる。また、磁束収束部を設ける場合の磁束収束部の数は、1つ以上あればよく、任意に設定することができる。
【0091】
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、第1の回転軸3を挟んで対向する2つの磁束収束部を1組として、各組の磁束収束部を磁性歯部53に順番に対向させる構成とした。しかしながら、本発明の磁気歯車装置としては、磁束収束部を1つずつ順番に磁性歯部53に対向させる構成であってもよい。
【0092】
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、突出片48,51を筒孔21aの径方向に積層してステータ歯車7の磁性歯部53を形成した。しかしながら、本発明に係るステータ歯車の磁性歯部は、突出片を積層して形成することに限定されるものではなく、1つの突出片から形成してもよい。
【0093】
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、外側筒21及び内側筒31を円筒状に形成した。しかしながら、本発明に係る外側筒は、円形の筒孔を有していればよく、外径は三角形や四角形などの多角形にしてもよい。また、本発明に係る内側筒は、円形の外周部を有していればよく、筒孔は三角形や四角形などの多角形であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…磁気歯車装置、2…ケース、3…第1の回転軸、4…第2の回転軸、5…外歯車、6…内歯車、7…ステータ歯車、11…底板、12…第1の支持板、13…第2の支持板、14…補強片、16,17,18,19…軸受、21…外側筒、21a…筒孔、22A,22B…外側磁石片、31…内側筒、31a…筒孔、32A,32B…第1内側磁石片、33A,33B…第2内側磁石片、35A,35B…第1の磁束収束部、35C,35D…第2の磁束収束部、35E,35F…第3の磁束収束部、35G,35H…第4の磁束収束部、41…ステータ歯車本体、42…内側環状部材、43…外側環状部材、45…第1ステータ部材、46…第2ステータ部材、47…ベース部、47a…貫通孔、47b…凹部、48,51…突出片、48a…外側段部、51a…内側段部、50…環状部、53…磁性歯部
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気引力または斥力を利用して動力を伝達する磁気歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車は、トルクなどの動力を伝達する機械要素である。一般的な歯車は、原動側の歯と従動側の歯が接触することで動力を伝達するため、原動側の歯と従動側の歯との間に摩擦が生じる。したがって、原動側の歯と従動側の歯との間には、潤滑剤が必要になる。また、原動側の歯と従動側の歯との接触による騒音も発生する。そこで、近年、歯の接触の無い磁気歯車が開発されている。磁気歯車は、非接触でトルクを伝達するため、潤滑剤を必要とせず、且つ、無騒音で駆動させることができる。
【0003】
一方、ロボットや複写機等に用いられる減速機構には、過大なトルクが作用したときにそのトルクを遮断(動力伝達を遮断)するトルクリミッタ機能を有するものが要求されている。磁気歯車は、トルクリミッタ機能を有するため、簡単な構造でトルクリミッタ機能を備えた減速機構を構成することができる。
【0004】
磁気歯車装置としては、例えば、非特許文献1に記載されているものがある。この非特許文献1に記載された磁気歯車装置は、円筒状のハイスピードロータ及びロースピードロータを有しており、ハイスピードロータの外周面が、ロースピードロータの内周面に対向している。そして、ハイスピードロータの外周面に取り付けた磁石片とロースピードロータの内周面に取り付けた磁石片との間に生じる磁気引力を利用して、ハイスピードロータの動力をロースピードロータに伝達する。
【0005】
また、ハイスピードロータの外周面に取り付けた磁石片とロースピードロータの内周面に取り付けた磁石片との間には、磁石片の磁束を通す複数の鉄片(磁性歯部)が配置されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Atallah and D.Howe,「A Novel High−Performance Magnetic Gear」,IEEE Transactions on Magnetics,JULY 2001,Vol.37. No.4,p.2844−2846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載された磁気歯車装置では、ハイスピードロータ及びロースピードロータを回転させると、電磁力の作用により鉄片が変形するという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、磁石片の磁束を通す複数の鉄片(磁性歯部)の変形を防止することができる磁気歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明の磁気歯車装置は、外歯車と、内歯車と、ステータ歯車とを備えている。
外歯車は、円形の筒孔を有する外側筒と、外側筒の内周部に取り付けられた複数の外側磁石片とを有している。
内歯車は、外歯車の筒孔に配置され、円形の外周部を有する内側筒と、内側筒の外周部に取り付けられた複数の内側磁石片とを有している。
ステータ歯車は、外歯車と内歯車との間に配置されており、ベース部と、複数の磁性歯部と、内側環状部材と、外側環状部材とを有している。ベース部は、筒孔の軸方向に直交する平面を有し、複数の磁性歯部は、ベース部の平面から略垂直に突出して筒孔と同心円上に所定の間隔をあけて並んでいる。内側環状部材は、複数の磁性歯部の先端部に内側から嵌合し、外側環状部材は、複数の磁性歯部の先端部に外側から嵌合する。
【0010】
この磁気歯車装置は、内側環状部材が複数の磁性歯部の先端部に内側から嵌合するため、複数の磁性歯部の自由端が内側に閉じるように変形することを防止する。また、外側環状部材が複数の磁性歯部の先端部に外側から嵌合するため、複数の磁性歯部の自由端が外側に開くように変形することを防止する。
【0011】
また、内側環状部材と外側環状部材を複数の磁性歯部53に別々に嵌合させるため、内側環状部材と外側環状部材を複数の磁性歯部に簡単に嵌合させることができる。その結果、ステータ歯車を組み立てるときの作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気歯車装置によれば、磁石片の磁束を通す複数の磁性歯部の変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の磁気歯車装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示すA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の分解斜視図である。
【図4】図4Aは本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の断面図、図4Bは図4Aに示すB−B線に沿う断面図である。
【図5】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係るステータ歯車の斜視図である。
【図6】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係るステータ歯車の分解斜視図である。
【図7】図7Aは本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係るステータ歯車の断面図、図7Bは図7Aに示すC−C線に沿う断面図である。
【図8】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第1の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図9】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第2の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図10】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第3の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図11】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第4の磁束収束部がステータ歯車の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【図12】本発明の磁気歯車装置の一実施形態に係る内歯車の第1の磁束収束部が図8に示す磁性歯部の隣の磁性歯部に対向した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の磁気歯車装置を実施するための形態について、図1〜図12を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0015】
[磁気歯車装置の構成]
まず、本発明の磁気歯車装置の一実施形態の構成について、図1及び図2を参照して説明する。
図1は、本発明の磁気歯車装置の一実施形態の断面図である。図2は、図1に示すA−A線に沿う断面図である。
【0016】
図1に示すように、磁気歯車装置1は、ケース2と、第1の回転軸3と、第2の回転軸4と、外歯車5と、内歯車6と、ステータ歯車7を備えている。外歯車5は、第2の回転軸4に固定され、内歯車6は、第1の回転軸3に固定されている。また、ステータ歯車7は、ケース2に固定されている。
【0017】
ケース2は、非磁性材料により形成された中空部を有する筐体である。このケース2の中空部には、外歯車5、内歯車6及びステータ歯車7が配置される。このケース2は、外歯車5及びステータ歯車7の一部を露出させる開口部2aを有しており、開口部2aに対向する底板11と、底板11に連続して略垂直に突出する第1の支持板12及び第2の支持板13とを備えている。第1の支持板12は、第2の支持板13に対向している。また、第2の支持板13の外面には、補強片14が固定されている。
【0018】
第1の回転軸3及び第2の回転軸4は、非磁性材料から形成されている。
2つの回転軸3,4及びケース2の材料としては、例えば、オーステナイト系ステンレス、アルミニウム、銅等の金属、又は合成樹脂を挙げることができる。
【0019】
第1の回転軸3は、ケース2の第1の支持板12及びステータ歯車7の後述するベース部47を貫通している。この第1の回転軸3は、軸受16によってステータ歯車7のベース部47に回転可能に取り付けられている。
【0020】
第2の回転軸4は、軸部4aと、軸部4aの先端に設けられた円板部4bからなっている。軸部4aは、第2の支持板13及び補強片14を貫通している。この軸部4aは、軸受17によって第2の支持板13に回転可能に取り付けられると共に、軸受18によって補強片14に回転可能に取り付けられている。
【0021】
第2の回転軸4の円板部4bには、第1の回転軸3の先端部が回転可能に嵌合される軸受19が設けられている。つまり、第1の回転軸3は、軸受19によって第2の回転軸4に回転可能に取り付けられている。
第1の回転軸3の軸心及び第2の回転軸4の軸心は、支持板12,13が対向する方向と平行であって、互いに一致している。
【0022】
軸受16,17,18及び19は、それぞれ転動体16a,17a,18a及び19aを有する転がり軸受(ボールベアリング)である。これら軸受16〜19の転動体16a〜19aは、非磁性材料または炭素含有量が多い材料によって形成することが好ましい。通常使用される転がり軸受は、硬度を確保するための焼き入れを行うため、炭素含有量は多い。したがって、そのような通常の転がり軸受を用いてもよい。
【0023】
なお、本発明に係る軸受は、転がり軸受に限定されるものではなく、例えば、すべり軸受、流体軸受等を適用することもできる。
【0024】
外歯車5は、第2の回転軸4の円板部4bに固定された外側筒21と、外側筒21の内周部に取り付けられた複数の外側磁石片22A,22Bから構成されている。
【0025】
外側筒21は、円形の筒孔21aを有している。この外側筒21は、例えば、珪素鋼板などの磁性材料からなる複数の板状部材を積層することにより形成されている。なお、磁性材料からなる複数の板状部材は、カシメ、溶接、接着剤などの固着方法により固着されて一体成形されている。
【0026】
このように、磁性材料からなる複数の板状部材を積層して外側筒21を形成すると、重なり合う板状部材間の微細な間隙が抵抗になり、外側筒21の軸方向に流れる渦電流を遮断することができる。なお、渦電流の遮断をより確実にするために、重なり合う板状部材間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させてもよい。
【0027】
複数の外側磁石片22A,22Bは、それぞれ筒孔21aの軸方向に細長い略棒状に形成された永久磁石である。これら複数の外側磁石片22A,22Bは、筒孔21aの径方向に磁化されている。
【0028】
図2に示すように、外側磁石片22Aと外側磁石片22Bは、筒孔21aの周方向に交互に並べられている。外側磁石片22Aは、外側筒21側がN極であり、ステータ歯車7の後述する磁性歯部53側がS極である。一方、外側磁石片22Bは、外側筒21側がS極であり、ステータ歯車7の後述する磁性歯部53側がN極である。したがって、複数の外側磁石片22Bは、異なる磁極が筒孔21aの周方向に隣り合うように並べられている。
【0029】
本実施の形態では、複数の外側磁石片22A,22Bを磁性材料からなる外側筒21に貼り付けることにより、外側筒21の磁気モーメントを揃えて、大きな表面磁束密度を得ることができる。また、複数の外側磁石片22A,22Bは、磁気吸引力によって外側筒21の内周部に吸着させることができるため、複数の外側磁石片22A,22Bを外側筒21の内周部に簡単に取りつけることができる。
【0030】
[内歯車]
次に、内歯車6について図3及び図4を参照して説明する。
図3は、内歯車6の分解斜視図である。図4Aは内歯車6の断面図であり、図4Bは図4Aに示すB−B線に沿う断面図である。
【0031】
図3及び図4Aに示すように、内歯車6は、外歯車5の筒孔21a内に配置されている。この内歯車6は、円形の外周部を有する内側筒31と、内側筒31の外周部に取り付けられた複数の第1内側磁石片32A,32Bと、複数の第1内側磁石片32A,32Bの上に取り付けられた複数の第2内側磁石片33A,33Bから構成されている。
【0032】
内側筒31は、第1の回転軸3が嵌合される円形の筒孔31aを有する円筒状に形成されている。この内側筒31は、例えば、珪素鋼板などの磁性材料からなる複数の板状部材を積層することにより形成されている。磁性材料からなる複数の板状部材は、カシメ、溶接、接着剤などの固着方法により固着されて一体成形されている。このように、磁性材料からなる複数の板状部材を積層して内側筒31を形成することにより、内側筒31の軸方向に流れる渦電流を遮断することができる。
【0033】
複数の第1内側磁石片32A,32Bは、それぞれ内側筒31(筒孔21a)の軸方向に長い略長方形の板状に形成された永久磁石である。これら複数の第1内側磁石片32A,32Bは、内側筒31(筒孔21a)の径方向に磁化されている。
【0034】
図4Bに示すように、第1内側磁石片32Aと第1内側磁石片32Bは、内側筒31の周方向に交互に並べられている。第1内側磁石片32Aは、内側筒31側がN極であり、第2内側磁石片33A,33B側がS極である。一方、第1内側磁石片32Bは、内側筒31側がS極であり、第2内側磁石片33A,33B側がN極である。したがって、複数の第1内側磁石片32A,32Bは、異なる磁極が内側筒31(筒孔21a)の周方向に隣り合うように並べられている。
【0035】
複数の第2内側磁石片33A,33Bは、それぞれ内側筒31の軸方向に長い略長方形の板状に形成された永久磁石である。これら複数の第2内側磁石片33A,33Bは、内側筒31の周方向に磁化されている。
【0036】
第2内側磁石片33Aと第2内側磁石片33Bは、内側筒31の周方向に交互に並べられている。第2内側磁石片33Aは、内側筒31の周方向における一方がN極であり、他方がS極である。一方、第2内側磁石片33Bは、内側筒31の周方向における一方がS極であり、他方がN極である。したがって、複数の第2内側磁石片33A,33Bは、同じ磁極が内側筒31(筒孔21a)の周方向に隣り合うように並べられている。
【0037】
第2内側磁石片33A,33BのN極は、第1内側磁石片32B上に配置されており、第1内側磁石片32BのN極に内側筒31(筒孔21a)の径方向で隣り合っている。そして、第2内側磁石片33A,33BのN極が隣り合う境界は、第1内側磁石片32Bの中間部に位置している。
【0038】
また、第2内側磁石片33A,33BのS極は、第1内側磁石片32A上に配置されており、第1内側磁石片32AのS極に内側筒31の径方向で隣り合っている。そして、第2内側磁石片33A,33BのS極が隣り合う境界は、第1内側磁石片32Aの中間部に位置している。
【0039】
第2内側磁石片33A,33Bは、内側筒31の周方向における両端に切欠き部を有している。この切欠き部は、隣り合う第2内側磁石片33A,33B間にV字状の溝部である磁束収束部を形成している。磁束収束部では、同じ磁極が内側筒31(筒孔21a)の径方向及び周方向に隣り合うため、磁束が集中する。
【0040】
本実施の形態の磁束収束部は、第1の磁束収束部35A,35Bと、第2の磁束収束部35C,35Dと、第3の磁束収束部35E,35Fと、第4の磁束収束部35G,35Hからなっている。第1の磁束収束部35A,35B、第2の磁束収束部35C,35D、第3の磁束収束部35E,35F及び第4の磁束収束部35G,35Hは、それぞれ第1の回転軸3を挟んで対向している。
【0041】
第1の磁束収束部35A,35Bと第3の磁束収束部35E,35Fは、N極が内側筒31(筒孔21a)の径方向及び周方向に隣り合う。また、第2の磁束収束部35C,35Dと第4の磁束収束部35G,35Hは、S極が内側筒31の径方向及び周方向に隣り合う。
【0042】
[ステータ歯車]
次に、ステータ歯車7について図5〜図7を参照して説明する。
図5は、ステータ歯車7の斜視図である。図6は、ステータ歯車7の分解斜視図である。図7Aはステータ歯車7の断面図であり、図7Bは図7Aに示すC−C線に沿う断面図である。
【0043】
図5及び図6に示すように、ステータ歯車7は、ケース2の第1の支持板12に取り付けられるステータ歯車本体41と、ステータ歯車本体41に嵌合される内側環状部材42及び外側環状部材43から構成されている。
【0044】
図7A及び図7Bに示すように、ステータ歯車本体41は、磁性材料によって形成されており、略円筒状に形成された第1ステータ部材45及び第2ステータ部材46を嵌め合わせることにより一体化されている。
【0045】
ステータ歯車本体41の第1ステータ部材45は、円板状に形成されたベース部47と、このベース部47の一方の平面から略垂直に突出する複数の突出片48とを備えている。
【0046】
ベース部47は、ケース2の第1の支持板12に固定される(図1参照)。このベース部47は、第1の回転軸3を貫通させる貫通孔47aと、この貫通孔47aの周囲に設けられたリング状の凹部47bを有している。リング状の凹部47bには、上述した軸受16が配設される。
【0047】
複数の突出片48は、ベース部47の周縁部から突出しており、ベース部47の周縁に沿って所定の間隔をあけて配置されている。このような複数の突出片48は、一方の端部にベース部47が設けられた有底の筒体を開口部側から軸方向に切欠くことにより形成することができる。
【0048】
複数の突出片48のピッチ角度αは、外歯車5における複数の外側磁石片22A,22Bのピッチ角度βと、内歯車6における磁束収束部35A〜35Hのピッチ角度γよりも小さくなっている(図2参照)。なお、複数の外側磁石片22A,22Bのピッチ角度βは、内歯車6における磁束収束部35A〜35Hのピッチ角度γよりも小さくなっている(α<β<γ)。
【0049】
各突出片48の先端部には、外面側を切り欠いて形成された外側段部48aが設けられている。各突出片48の外側段部48aは、全体でリング状の凹部を形成する(図6参照)。各突出片48の外側段部48aによって形成されたリング状の凹部には、外側環状部材43が嵌合される。
【0050】
図7A及び図7Bに示すように、ステータ歯車本体41の第2ステータ部材46は、第1ステータ部材45の内側に嵌合される。この第2ステータ部材46は、環状部50と、この環状部50の軸方向の一端から略垂直に突出する複数の突出片51とを備えている。
【0051】
環状部50の外径は、第1ステータ部材45における複数の突出片48によって形成される筒体の内径と略等しくなっている。複数の突出片51は、環状部50の周縁に沿って所定の間隔をあけて配置されている。このような第2ステータ部材46は、筒体を軸方向に切欠くことにより形成することができる。
【0052】
各突出片51の先端部には、内面側を切り欠いて形成された内側段部51aが設けられている。各突出片51の内側段部51aは、全体でリング状の凹部を形成する。各突出片51の内側段部51aによって形成されたリング状の凹部には、内側環状部材42が嵌合される。
【0053】
複数の突出片51は、第1ステータ部材45の複数の突出片48に対してベース部47の径方向に重なり合う。つまり、第1ステータ部材45の各突出片48と第2ステータ部材46の各突出片51は、ベース部47の径方向に重なり合って、複数の磁性歯部53を形成する。複数の磁性歯部53は、外歯車5における複数の外側磁石片22A,22Bと、内歯車6における複数の第2内側磁石片33A,33Bとの間に介在される。
【0054】
従来の磁気歯車装置(上記非特許文献1を参照)では、ロースピードロータ(外歯車)とハイスピードロータ(内歯車)が反対方向に回転するため、ステータの磁性歯部の中で渦電流が発生する。渦電流が発生すると、レンツの法則によりロースピードロータ(外歯車)及びハイスピードロータ(内歯車)の回転に抗する電磁ブレーキが生じてトルク損失となる。
【0055】
この解決方法としては、例えば、ステータ歯車本体41を複数の板状部材を軸方向に積層して形成し、渦電流を遮断することが考えられる。しかし、ステータ歯車本体41の磁性歯部53は、一端(基端)を固定支持して他端(先端)を自由にした構造になっている。そのため、複数の板状部材を軸方向に積層してステータ歯車本体41形成すると、組立作業が煩雑になり、生産性が低下する。
【0056】
そこで、本実施の形態では、複数の突出片48と複数の突出片51とをベース部47の径方向に重ね合わせて、その重ね合わせる面と面の間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させることで、渦電流を遮断する。
渦電流を遮断するには、突出片の積層数が多いほど良いが、積層数を多くすると、磁性歯部の強度が減少する。したがって、本発明に係る突出片の積層数は、形成する磁性歯部の強度を考慮して任意に決定することができる。
【0057】
また、突出片の積層数を多くすれば、組み合わせ面に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させなくても、渦電流の遮断が期待できる。しかし、渦電流を確実に遮断するには、重ね合わせる突出片間の少なくともひとつに電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させることが好ましい。
【0058】
複数の磁性歯部53は、一端(基端)を固定支持して他端(先端)を自由にした片持ち形状であるため、曲げに弱い構造なっている。したがって、複数の磁性歯部53は、外側磁石片22A,22B又は第2内側磁石片33A,33B(図2参照)の磁気吸引力によって吸引されて、自由端が外側に開いたり、内側に閉じたりするように変形してしまう。そのため、内側環状部材42及び外側環状部材43によって複数の磁性歯部53の剛性を増加させて、変形を防止する。
【0059】
内側環状部材42は、複数の磁性歯部53における各突出片51の内側段部51aによって形成されたリング状の凹部に嵌合し、複数の磁性歯部53の自由端が内側に閉じるように変形することを防止する。一方、外側環状部材43は、複数の磁性歯部53における各突出片48の外側段部48aによって形成されたリング状の凹部に嵌合し、複数の磁性歯部53の自由端が外側に開くように変形することを防止する。
【0060】
本実施の形態では、内側環状部材42と外側環状部材43を複数の磁性歯部53に別々に嵌合させるため、両環状部材42,43を複数の磁性歯部53に簡単に嵌合させることができる。その結果、ステータ歯車7を組み立てるときの作業性を向上させることができる。
【0061】
例えば、環状部材に環状の溝部(凹部)を設け、その溝部に複数の磁性歯部53の先端部を嵌合させれば、1つの部材で磁性歯部53の変形を防止することができる。しかしながら、環状の溝部に複数の磁性歯部53の先端部を挿入する場合は、全ての磁性歯部53の位置を調整しなければならない。そのため、ステータ歯車7の組立作業が煩雑になり、作業性が低下する。
【0062】
これに対し、本実施の形態では、例えば、初めに内側環状部材42を嵌合させる場合は、複数の磁性歯部53の一部が外側に開いていても、それらの位置を調整せずに内側環状部材42の嵌合作業を行うことができる。その後、外側環状部材43を嵌合させるときに、外側に開いている磁性歯部53の位置を調整するだけで、外側環状部材43の嵌合作業を簡単に行うことができる。
【0063】
内側環状部材42及び外側環状部材43を鉄などの磁性材料によって形成すると、磁束が両環状部材42,43を通ることになる。その結果、外歯車5と内歯車6との間に作用する磁束が減り、伝達トルクが減少してしまう。したがって、内側環状部材42及び外側環状部材43は、非磁性材料によって形成することが好ましい。
【0064】
また、両環状部材42,43と磁性歯部53との間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させることが好ましい。これにより、磁性歯部53に渦電流が流れることを遮断することができる。
【0065】
さらに、内側環状部材42及び外側環状部材43は、炭素繊維強化炭素複合材料や繊維強化プラスチック(FRP)などの粘弾性の高分子材料によって形成することが好ましい。これにより、内側環状部材42及び外側環状部材43が振動減衰特性を有することになり、磁性歯部53の振動を抑制あるいは防止することができる。その結果、磁気歯車装置1は、低振動かつ低騒音を実現することができる。
【0066】
[磁気歯車装置の動作]
次に、磁気歯車装置1の動作について図8〜図12を参照して説明する。
図8は、内歯車6の第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53A,53Bに対向した状態の説明図である。
【0067】
図8に示す状態では、ステータ歯車7の磁性歯部53A,53Bに注目すると、第1の磁束収束部35A,35B対向する側がS極となり、反対側がN極となっている。そして、外歯車5の外側磁石片22Aaが磁性歯部53AのN極に対向し、外側磁石片22Bbが磁性歯部53BのN極に対向している。この状態では、外側磁石片22Aaと磁性歯部53Aとの間及び、外側磁石片22Bbと磁性歯部53Aとの間に生じる磁気吸引力は、半径方向のみならず周方向にも釣り合っている。
【0068】
図8に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第2の磁束収束部35C,35Dがステータ歯車7の磁性歯部53C,53Dに対向する。
【0069】
図9は、内歯車6の第2の磁束収束部35C,35Dがステータ歯車7の磁性歯部53C,53Dに対向した状態の説明図である。
【0070】
第2の磁束収束部35C,35Dがステータ歯車7の磁性歯部53C,53Dに対向すると、磁性歯部53C,53Dの第2の磁束収束部35C,35Dに対向する側がN極となり、反対側がS極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Cと外歯車5の外側磁石片22Baとの間及び磁性歯部53Dと外側磁石片22Bbとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図9に示すような釣り合い状態になる。
【0071】
図9に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第3の磁束収束部35E,35Fがステータ歯車7の磁性歯部53E,53Fに対向する。
【0072】
図10は、内歯車6の第3の磁束収束部35E,35Fがステータ歯車7の磁性歯部53E,53Fに対向した状態の説明図である。
【0073】
第3の磁束収束部35E,35Fがステータ歯車7の磁性歯部53E,53Fに対向すると、磁性歯部53E,53Fの第3の磁束収束部35E,35Fに対向する側がS極となり、反対側がN極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Eと外歯車5の外側磁石片22Acとの間及び磁性歯部53Fと外側磁石片22Adとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図10に示すような釣り合い状態になる。
【0074】
図10に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第4の磁束収束部35G,35Hがステータ歯車7の磁性歯部53G,53Hに対向する。
【0075】
図11は、内歯車6の第4の磁束収束部35G,35Hがステータ歯車7の磁性歯部53G,53Hに対向した状態の説明図である。
【0076】
第4の磁束収束部35G,35Hがステータ歯車7の磁性歯部53G,53Hに対向すると、磁性歯部53G,53Hの第4の磁束収束部35G,35Hに対向する側がN極となり、反対側がS極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Gと外歯車5の外側磁石片22Bcとの間及び磁性歯部53Hと外側磁石片22Bdとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図11に示すような釣り合い状態になる。
【0077】
図11に示す状態から第1の回転軸3によって内歯車6を矢印R1方向に回転させると、内歯車6の第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53I,53Jに対向する。
【0078】
図12は、内歯車6の第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53I,53Jに対向した状態の説明図である。
【0079】
第1の磁束収束部35A,35Bがステータ歯車7の磁性歯部53I,53Jに対向すると、磁性歯部53I,53Jの第1の磁束収束部35A,35Bに対向する側がS極となり、反対側がN極となる。このとき、磁気吸引力の釣り合いが崩れ、磁性歯部53Iと外歯車5の外側磁石片22Aeとの間及び磁性歯部53Jと外側磁石片22Afとの間に周方向の吸引力が生じる。その結果、外歯車5が矢印R2方向に回転し、図12に示すような釣り合い状態になる。
【0080】
磁性歯部53I,53Jは、矢印R1方向で磁性歯部53A,53Bに隣り合う。つまり、図9に示す状態から図12に示す状態になるまでに、第1の磁束収束部35A,35B(内歯車6)は、矢印R1方向へ磁性歯部53のピッチ角度α(図2参照)だけ回転する。そして、外歯車5は、矢印R2方向へピッチ角度αよりも小さい角度(本例では、ピッチ角度αの1/5程度)だけ回転する。
【0081】
本実施の形態の磁気歯車装置1では、隣り合う第2内側磁石片33A,33B間にV字状の溝部である磁束収束部35A〜35Hを形成した。これら磁束収束部35A〜35Hには、磁束が集中する。そして、磁束収束部35A〜35Hの磁束がステータ歯車7の幅の狭い磁性歯部53を通るため、内歯車6と外歯車5との間に生じる磁気吸引力を増大させることができる。その結果、大きな伝達トルクを得ることができ、かつ、伝達効率を向上させることができる。
【0082】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、外歯車5の外側筒21及び内歯車6の内側筒31を磁性材料によって形成した。これにより、複数の外側磁石片22A,22B及び複数の内側磁石片32A,32B,33A,33bで外側筒21及び内側筒31の磁気モーメントを揃えて、大きな表面磁束密度を得ることができる。
【0083】
しかし、磁気歯車装置1では、内歯車6から外歯車5に、又は外歯車5から内歯車6にステータ歯車7の磁性歯部53を介して磁場が作用する。そこで、磁気歯車装置1では、外側筒21及び内側筒31を磁性材料からなる複数の板状部材を積層することにより形成した。これにより、外側筒21及び内側筒31の軸方向に流れる渦電流の発生を防止することができ、トルク損失(渦電流損)を軽減することができる。
【0084】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、外歯車5と内歯車6が反対方向に回転するため、ステータ歯車7の磁性歯部53の中で渦電流が発生することが考えられる。そこで、磁気歯車装置1では、突出片48と突出片51とを重ね合わせて磁性歯部53を形成し、突出片48,51間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させた。これにより、磁性歯部53においてベース部47(筒孔21a)の径方向に流れる渦電流を遮断することができ、渦電流損を軽減することができる。
【0085】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、内側環状部材42と外側環状部材43を複数の磁性歯部53に嵌合させた。これにより、複数の磁性歯部53の剛性を増加させて、変形を防止することができる。
【0086】
しかも、磁気歯車装置1では、内側環状部材42と外側環状部材43を別々に複数の磁性歯部53に嵌合させるため、両環状部材42,43を簡単に磁性歯部53に嵌合させることができる。その結果、ステータ歯車7の組立作業を簡単にすることができ、作業性・生産性を向上させることができる。
【0087】
また、内側環状部材42及び外側環状部材43を粘弾性の高分子材料によって形成することにより、磁性歯部53の振動を抑制あるいは防止することができる。その結果、磁気歯車装置1では、低振動かつ低騒音を実現することができる。
【0088】
また、本実施の形態の磁気歯車装置1では、磁束が内歯車6からステータ歯車7の磁性歯部53を通って外歯車5に作用する磁気回路となることが望ましい。しかし、ステータ歯車7の磁性歯部53は、強度を考慮すると、一端(基端)を固定支持して他端(先端)を自由にした片持ち形状にする必要があるため、ベース部47と一体に形成されている。したがって、磁束は、ベース部47にも漏れる構造となっている。
【0089】
そこで、磁気歯車装置1では、ケース2、第1の回転軸3及び第2の回転軸4を非磁性材料によって形成した。これにより、内歯車6からステータ歯車7のベース部47を通って閉じる磁気回路を遮断することができる。また、ケース2を導電性材料で形成する場合は、ステータ歯車7のベース部47とケース2との間に電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜を介在させて、ベース部47からケース2へ流れる渦電流を遮断することが好ましい。
【0090】
以上、本発明の磁気歯車装置の実施の形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の磁気歯車装置は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、上述の実施の形態では、8つの磁束収束部を設ける構成とした。しかしながら、本発明の磁気歯車装置としては、磁束収束部を設けないものであってもよい。その場合は、第1内側磁石片32A,32Bのみを設ける構成となる。また、磁束収束部を設ける場合の磁束収束部の数は、1つ以上あればよく、任意に設定することができる。
【0091】
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、第1の回転軸3を挟んで対向する2つの磁束収束部を1組として、各組の磁束収束部を磁性歯部53に順番に対向させる構成とした。しかしながら、本発明の磁気歯車装置としては、磁束収束部を1つずつ順番に磁性歯部53に対向させる構成であってもよい。
【0092】
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、突出片48,51を筒孔21aの径方向に積層してステータ歯車7の磁性歯部53を形成した。しかしながら、本発明に係るステータ歯車の磁性歯部は、突出片を積層して形成することに限定されるものではなく、1つの突出片から形成してもよい。
【0093】
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、外側筒21及び内側筒31を円筒状に形成した。しかしながら、本発明に係る外側筒は、円形の筒孔を有していればよく、外径は三角形や四角形などの多角形にしてもよい。また、本発明に係る内側筒は、円形の外周部を有していればよく、筒孔は三角形や四角形などの多角形であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…磁気歯車装置、2…ケース、3…第1の回転軸、4…第2の回転軸、5…外歯車、6…内歯車、7…ステータ歯車、11…底板、12…第1の支持板、13…第2の支持板、14…補強片、16,17,18,19…軸受、21…外側筒、21a…筒孔、22A,22B…外側磁石片、31…内側筒、31a…筒孔、32A,32B…第1内側磁石片、33A,33B…第2内側磁石片、35A,35B…第1の磁束収束部、35C,35D…第2の磁束収束部、35E,35F…第3の磁束収束部、35G,35H…第4の磁束収束部、41…ステータ歯車本体、42…内側環状部材、43…外側環状部材、45…第1ステータ部材、46…第2ステータ部材、47…ベース部、47a…貫通孔、47b…凹部、48,51…突出片、48a…外側段部、51a…内側段部、50…環状部、53…磁性歯部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の筒孔を有する外側筒と、前記外側筒の内周部に取り付けられた複数の外側磁石片とを有する外歯車と、
前記外歯車の前記筒孔に配置され、円形の外周部を有する内側筒と、前記内側筒の外周部に取り付けられた複数の内側磁石片とを有する内歯車と、
前記外歯車と前記内歯車との間に配置されるステータ歯車と、を備え、
前記ステータ歯車は、前記筒孔の軸方向に直交する平面を有するベース部と、前記ベース部の前記平面から略垂直に突出して前記筒孔と同心円上に所定の間隔をあけて並ぶ複数の磁性歯部と、前記複数の磁性歯部の先端部に内側から嵌合する内側環状部材と、前記複数の磁性歯部の先端部に外側から嵌合する外側環状部材とを有する磁気歯車装置。
【請求項2】
前記複数の磁性歯部の先端部には、内側環状部材が嵌合する内側段部と、外側環状部材が嵌合する外側段部が形成されている請求項1に記載の磁気歯車装置。
【請求項3】
前記内側環状部材及び前記外側環状部材は、非磁性材料により形成した請求項1又は2に記載の磁気歯車装置。
【請求項4】
前記内側環状部材及び前記外側環状部材は、非磁性であって粘弾性の高分子材料により形成した請求項1又は2に記載の磁気歯車装置。
【請求項5】
前記内側環状部材及び前記外側環状部材と前記磁性歯部との間には、電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜が介在されている請求項1〜4のいずれかに記載の磁気歯車装置。
【請求項6】
各磁性歯部は、複数の突出片を前記筒孔の径方向に積層させて形成される請求項1〜5のいずれかに記載の磁気歯車装置。
【請求項7】
前記複数の突出片間には、電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜が介在されている請求項6に記載の磁気歯車装置。
【請求項1】
円形の筒孔を有する外側筒と、前記外側筒の内周部に取り付けられた複数の外側磁石片とを有する外歯車と、
前記外歯車の前記筒孔に配置され、円形の外周部を有する内側筒と、前記内側筒の外周部に取り付けられた複数の内側磁石片とを有する内歯車と、
前記外歯車と前記内歯車との間に配置されるステータ歯車と、を備え、
前記ステータ歯車は、前記筒孔の軸方向に直交する平面を有するベース部と、前記ベース部の前記平面から略垂直に突出して前記筒孔と同心円上に所定の間隔をあけて並ぶ複数の磁性歯部と、前記複数の磁性歯部の先端部に内側から嵌合する内側環状部材と、前記複数の磁性歯部の先端部に外側から嵌合する外側環状部材とを有する磁気歯車装置。
【請求項2】
前記複数の磁性歯部の先端部には、内側環状部材が嵌合する内側段部と、外側環状部材が嵌合する外側段部が形成されている請求項1に記載の磁気歯車装置。
【請求項3】
前記内側環状部材及び前記外側環状部材は、非磁性材料により形成した請求項1又は2に記載の磁気歯車装置。
【請求項4】
前記内側環状部材及び前記外側環状部材は、非磁性であって粘弾性の高分子材料により形成した請求項1又は2に記載の磁気歯車装置。
【請求項5】
前記内側環状部材及び前記外側環状部材と前記磁性歯部との間には、電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜が介在されている請求項1〜4のいずれかに記載の磁気歯車装置。
【請求項6】
各磁性歯部は、複数の突出片を前記筒孔の径方向に積層させて形成される請求項1〜5のいずれかに記載の磁気歯車装置。
【請求項7】
前記複数の突出片間には、電流絶縁材あるいは電流絶縁塗膜が介在されている請求項6に記載の磁気歯車装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−107719(P2012−107719A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257940(P2010−257940)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(591218307)株式会社ニッセイ (17)
【出願人】(508324433)財団法人大分県産業創造機構 (17)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(591218307)株式会社ニッセイ (17)
【出願人】(508324433)財団法人大分県産業創造機構 (17)
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