説明

磁気熱交換のための構造体とその製造方法

【解決手段】
NaZn13型結晶構造を有する磁気熱量活性相からなる、磁気熱交換のための構造体が、バルク前駆体としての構造体を水素化することによって、提供される。バルク前駆体としての構造体が、不活性雰囲気中で50℃未満の温度から少なくとも300℃まで加熱され、少なくとも300℃の温度に達する時にのみ、水素ガスが導入される。バルク前駆体としての構造体は、選択時間の間、300℃〜700℃の範囲の温度において水素含有雰囲気中で保たれ、その後、50℃未満の温度に冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気熱交換のための構造体、特に、磁気熱交換器の作動媒体として利用するための構造体、並びに、磁気熱交換のための構造体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気熱交換器は、冷却や加熱を与える作動媒体として、磁気熱量活性物質を含んでいる。磁気熱量活性物質は、磁気熱量効果を示す。磁気熱量効果とは、磁気によって誘起されたエントロピー変化が熱の発生または吸収へと断熱的に変換されることをいう。磁場を磁気熱量活性物質に印加することによって、エントロピー変化が誘起され得る。そして、それが熱の発生または吸収をもたらす。この効果は、冷却や加熱を与えるために利用され得る。
【0003】
物質の磁気エントロピーは、磁場が印加されるか否かに応じて、電子スピン系の自由度の違いのために、変化する。このエントロピー変化において、エントロピーは電子スピン系と格子系の間で移動する。
【0004】
従って、磁気熱量活性相は、この相転移が起こる磁気相転移温度Ttransを有する。実際には、この磁気相転移温度が作動温度になる。従って、より広い温度範囲において冷却を与えるために、磁気熱交換器は、いくつかの異なる磁気相転移温度を有している磁気熱量活性物質を必要とする。
【0005】
家庭向け及び商用の空調や冷却を提供するために適した範囲での磁気相転移温度を有する種々の磁気熱量活性相が知られている。そのような磁気熱量活性物質の一つは、たとえばUS7,063,754で明らかにされているように、NaZn13型結晶構造を有して、一般的な化学式La(Fe1−x−y13によって示され得る。ここで、MはSiとAlからなるグループの少なくとも1つの元素であり、TはCo、Ni、Mn、Crのような遷移金属元素の数多くの中の1つでよい。磁気相転移温度は、組成を変えることによって調節され得る。
【0006】
複数の磁気相転移温度に加えて、実際的な作動媒体は、効率的な加熱を与えるために、大きなエントロピー変化もなければならない。しかし、磁気相転移温度の変化を導く元素の置換は、観測されるエントロピー変化の減少をもたらしてしまう可能性がある。
【0007】
従って、異なる磁気相転移温度の範囲と共に大きなエントロピー変化を持つように製造され得る、磁気熱交換器において作動媒体として利用するための物質を提供することが望まれる。また、確実に実用的な磁気熱交換器に取り込まれ得る物理的形状で、物質が製造され得ることも望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、NaZn13型結晶構造と水素を有する磁気熱量活性相から構成される磁気熱交換器において、作動媒体として利用するための構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
構造体は、少なくとも5mmより大きい一辺を有する。更なる実施形態において、構造体は少なくとも10mmより大きい一辺を有するのがより望ましい。
【0010】
磁気熱量活性物質は、ここでは、それが磁場にさらされる時にエントロピー変化を受ける物質として定義される。例えば、エントロピー変化は、強磁性から常磁性挙動への変化の結果であってよい。
【0011】
磁気熱量不活性物質は、ここでは、それが磁場にさらされる時に大きなエントロピー変化を示さない物質として定義される。
【0012】
磁気相転移温度は、ここでは、1つの磁気状態からの別の磁気状態への遷移として定義される。いくつかの磁気熱量活性相は、エントロピー変化を伴う、反強磁性から強磁性への遷移を示す。La(Fe1−x−y13のようないくつかの磁気熱量活性相は、エントロピー変化を伴う、強磁性から常磁性への遷移を示す。これらの物質について、磁気相転移温度は、キュリー温度とも呼ばれている。
【0013】
磁気熱量活性相は、化学式La1−a(Fe1−x−y13によって示されてよい。Mは、SiとAlからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、TはCo、Ni、Mn、Crからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、Rは、Ce、Nd、Prのような少なくとも1つの希土類金属であり、0≦a≦0.5、0.05≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0≦z≦3の関係を有する。
【0014】
少なくとも5mmより大きい一辺をもつ構造体は、熱交換器での利用において、粉末の形状の磁気熱量活性相より実際的である。原理的には、粉末は、より大きな表面積を有し、接触している流体のような熱交換媒体でより優れた熱交換をもたらすが、実際には、粉末の使用は、それを更なる容器の中に入れておかなければならず、熱交換媒体を有する熱交換器系の周辺で詰まらないようにしなければならない不都合がある。
【0015】
また、粉末は熱交換媒体の動きによって容器の側壁に衝突するため、粉末の平均粒径が、その実用寿命の間、減少する傾向があることをも見出されている。従って、これらの問題を避けるために、より大きな固形状の構造体が望ましい。
【0016】
構造体は多結晶であってよく、固形状の多結晶構造体を作るためにまるごと粒状物を焼結または反応焼結させて製造される焼結多結晶構造体または反応焼結多結晶構造体であってよい。
【0017】
用語「反応焼結」は、反応焼結結合によって固結粒状物へと粒状物が結合される構造体を特徴づけている。反応焼結結合は、異なった組成の前駆体粉末の混合物を熱処理することによって作られる。異なる組成の粒子は、反応焼結プロセスの間、相互に化学的に反応し、望まれる最後相または生成物を形成する。従って、粒子の組成は、熱処理の結果、変化する。相形成過程も、粒子同士を結合させ、機械的結着性を有する焼結体を作る。
【0018】
従来の焼結において、粒子は焼結過程の前に望ましい最後相から構成されるので、反応焼結は従来の焼結と異なる。従来の焼結過程は、粒子をお互いに結び付けるように、隣接粒子の間で原子の拡散を引き起こす。従って、粒子の組成は、従来の焼結過程の結果としては、不変のままである。
【0019】
更なる実施形態において、水素はNaZn13結晶構造の隙間に収容されて、少なくとも10mmより大きい一辺から構成される。例えば、構造体は11mm×6mm×0.6mmの大きさを有する反応焼結多結晶板から構成されてよい。構造体は0.02重量%〜0.3重量%の範囲の水素含有量を含んでいてよく、−40℃から+150℃の範囲の磁気相転移温度を持っていてよい。
【0020】
従って、本発明は、NaZn13型結晶構造と水素を有する磁気熱量活性相から構成される、少なくとも10mmより大きい一辺を有している構造体が製造され得る方法を、提供する。
【0021】
磁気熱量活性相は、La1−a(Fe1−x−y13によって示されてよい。ここで、Mは少なくともSiとAlからなるグループからの1つの元素であり、Tは少なくともCo、Ni、Mn、Crからなるグループからの1つの元素であり、Rは、Ce、Nd、Prからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、0≦a≦0.5、0.05≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0≦z≦3であり、望ましくは0.02≦z≦3である。
【0022】
一つの実施形態において、磁気熱交換のための構造体を製造する方法は、NaZn13型結晶構造を有する磁気熱量活性相から構成されるバルク前駆体としての構造体を水素化することからなる。バルク前駆体としての構造体は、初期には無水素であり、その後、不活性雰囲気中で50℃未満の温度から少なくとも300℃までバルク前駆体としての構造体を熱して、少なくとも300℃の温度に達する時にのみ水素ガスを導入することによって、水素化される。バルク前駆体としての構造体は、選択時間の間、300℃から700℃までの範囲の温度で水素含有雰囲気中で保たれ、その後、50℃未満の温度に冷却されて、水素化された構造体を作る。
【0023】
水素化処理前のバルク前駆体としての構造体の磁気熱量活性相は、0.02重量%未満の水素含有量zから構成される。一つの実施形態において、50℃未満の温度は、室温であり、18℃〜25℃の範囲にあってよい。
【0024】
ここで使われている「バルク」は、前駆体としての構造体または粉末以外の最終生成物である構造体を示すのに用いられており、特に粉末を除外している。粉末は、1mm以下の直径を有する多数の粒子を含む。
【0025】
この方法は、例えば、溶解と凝結技術によって、並びに、粉末の焼結または反応焼結により焼結または反応焼結した塊を作ることによって、以前に製造されたバルク前駆体としての構造体を、引き続き、水素化されていない塊の機械的性質を維持しながら水素化されることを可能にする。特に、水素が約300℃未満の温度で導入されるならば、バルク前駆体としての構造体がばらばらに分解してしまうか、少なくとも以前の機械的強度を失ってしまい得ることが見出されている。しかし、これらの問題は、バルク前駆体としての構造体が少なくとも300℃の温度である時に初めて水素を導入することで避けられ得る。
【0026】
この方法は、構造体の水素含有量が異なるように構造体を水素化するために用いられるパラメータを調節することによって、異なる水素含有量、そして、それ故に異なる磁気相転移温度を有する構造体を製造するのに用いられ得る。
【0027】
実施形態の第一グループにおいては、完全に水素化されたかほとんど完全に水素化された構造体が、水素含有雰囲気中で、50℃未満の温度、例えば室温まで構造体を冷却することによって、製造され得る。完全に、または、ほとんど完全に水素化された構造体は、1.7〜3の水素含有量zを有するものとして定義される。
【0028】
300℃から700℃の範囲の温度での熱処理時間の選択時間は、実施形態の第一グループにおいては、l分から4時間までの範囲であってよい。水素化処理後、構造体は少なくとも0.21重量%の水素と−40℃から+150℃の範囲の磁気相転移温度Ttransから構成され得る。
【0029】
より低い磁気相転移温度が、元素Laの一部をCeやPrやNdに置換することによって、または、元素Feの一部をMnやCrによって置換することによって、得られることが可能である。より高い磁気相転移温度が、元素Feの一部をCoやNiやAlやSiに置換することによって、得られることが可能である。
【0030】
これらの磁気相転移温度と水素含有量は、完全に水素化されたかほとんど完全に水素化された物質の典型である。構造体は、水素含有雰囲気中で、0.1〜10K/分の速さで冷却されてよい。そのような冷却速度は、炉の寸法と様式に依存して炉冷することによって成し遂げられ得る。
【0031】
実施形態の第二グループにおいては、水素化を行うのに用いられるパラメータは、構造体の水素含有量を調節して、−40℃から150℃までの範囲で構造体の磁気相転移温度を調節するために、変えられる。第二の実施形態において、バルク前駆体としての構造体は部分的に水素化される。
【0032】
一つの実施形態として、水素ガスは、構造体を50℃未満の温度に冷却する前に、不活性ガスに置き換えられる。言い換えると、300℃から700℃までの範囲の温度で選択時間の間、水素含有雰囲気中で熱処理された後、水素含有雰囲気は、冷却が始まる前にこの温度で不活性ガスに置換される。
【0033】
この方法は、部分的に水素化された構造体、即ち、完全に水素化されたかほとんど完全に水素化された構造体を作る、上述の実施形態の第一グループによって成し遂げられるものより少ない水素含有量を有する構造体を、製造する。この実施形態は、無水素の前駆体の磁気相転移温度より最高60K高い磁気相転移温度を有する構造体を製造するのに用いられ得る。
【0034】
更なる実施形態においては、構造体は、水素含有雰囲気中で、300℃から700℃の範囲の滞留温度から300℃から150℃の範囲の温度まで、冷却される。その後、水素は不活性ガスに置換されて、構造体は50℃未満の温度に冷却される。
【0035】
この実施形態は、水素ガスが滞留温度で不活性ガスと交換される実施形態より、水素の取り込みが大きくてよいので、無水素の前駆体の磁気相転移温度より60K〜140K高い磁気相転移温度を有する構造体を製造するのに用いられ得る。
【0036】
この実施形態の第二グループにおいて、選択時間は、1分と4時間の間でよい。水素化処理後、構造体は0.02重量%〜0.21重量%の範囲の水素含有量を含み得る。構造体は、1K/分〜100K/分の速さで冷却されてよい。この冷却速度は、完全に水素化されたかほとんど完全に水素化された構造体を製造するのに用いられたものよりいくぶん速い。そのような冷却速度は、炉の強制空冷や、炉の作動チャンバーから熱被覆を取り除くことによって提供され得る。
【0037】
上述の実施形態の両方のグループにおいて、方法は、さらに、以下に示すように修正されてよい。
【0038】
バルク前駆体としての構造体は、水素化処理前に初期の外形寸法を有し、水素化処理後の最終構造体は、最終的な外形寸法を有する。一つの実施形態において、初期の外形寸法と最終的な外形寸法の違いは、10%未満である。構造体は、水素化処理の間、分解したりその機械的結着性を失ったりしないため、おおよそ初期の外形寸法を保持する。しかし、構造体の磁気熱量活性相の結晶格子中への水素の収容の結果として、最終的な外形寸法は初期の外形寸法とわずかに異なり得る。
【0039】
更なる実施形態において、水素ガスは、400℃〜600℃の温度に達する時のみ、導入される。これらの実施形態は、改善された機械的強度を有する、水素化処理後の構造体を提供するのに用いられることができる。
【0040】
上述の実施形態の第二グループにおいて、一回の熱処理の間に構造体に導入される水素の量を調節することによって、部分的に水素化された構造体が製造される。
【0041】
更なる方法において、予め水素化された構造体が提供され、その後、水素含有量を減らして構造体の磁気相転移温度を変えるために、部分的に脱水素化される。
【0042】
磁気熱交換のための構造体を製造する、この更なる方法は、NaZn13型結晶構造と少なくとも0.2重量%の水素を有する磁気熱量活性相から構成される焼結多結晶構造体または反応焼結多結晶構造体を与え、少なくとも構造体の部分的な脱水素を行うことから構成される。少なくとも部分的な脱水素化は、選択時間の間、150℃〜400℃の温度で不活性ガス中で構造体を熱して、不活性ガス雰囲気中で50℃未満の温度にまですばやく構造体を冷却することによって、成し遂げられ得る。構造体は、150℃〜400℃の範囲の温度まで予熱された炉に置かれてよい。
【0043】
初期に完全に水素化されたかまたはほとんど完全に水素化された構造体は、無水素の相と完全に水素化された相の間の磁気相転移温度からなる構造体を製造するために、部分的に脱水素化される。しかし、NaZn13型結晶構造を有する磁気熱量活性相の分解を防止するように水素化と脱水素化の条件が選択されるならば、水素化処理過程は完全に可逆的であり、構造体は完全に脱水素され得る。
【0044】
一つの実施形態において、構造体は急冷によってすばやく冷却される。これは、炉の熱い領域から熱い領域の外側の作動チャンバーの周辺端まで構造体を速く動かすことによって、行われ得る。その後、構造体は、急冷の間、炉チャンバーの中で不活性ガス中で保たれる。構造体の酸化が避けられ得る。
【0045】
一つの実施形態において、選択時間は、完全にまたはほとんど完全に水素化された構造体の水素含有量を減らすために、延長される。構造体の水素含有量は、滞留温度で増加した時間に対して一般に対数的に減少し得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、部分的に水素化された構造体についての温度に依存するエントロピー変化のグラフを示す。
【図2】図2は、図1の構造体についてのガス置換温度に依存するキュリー温度のグラフを示す。
【図3】図3は、図1の構造体についてのキュリー温度に依存する水素含有量のグラフを示す。
【図4】図4は、異なる時間に対して200℃で脱水素化された構造体についての温度に依存するエントロピー変化のグラフを示す。
【図5】図5は、図4の構造体についての脱水素化時間に依存するキュリー温度のグラフを示す。
【図6】図6は、異なる時間に対して250℃で脱水素化された構造体についての温度に依存するエントロピー変化のグラフを示す。
【図7】図7は、異なる時間に対して300℃で脱水素化された構造体についての温度に依存するエントロピー変化のグラフを示す。
【図8】図8は、図4及び6及び7の構造体についての脱水素化時間に依存するキュリー温度の比較を示す。
【図9】図9は、異なる金属元素組成を有する3つの構造体についての温度に依存するエントロピー変化のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
磁気熱交換器における作動媒体として利用するための構造体は、NaZn13型結晶構造を有する磁気熱量活性相からなるバルク前駆体としての構造体を水素化することによって、製造され得る。
【0048】
一つの実施形態において、バルク前駆体としての構造体は、一つ以上のLa(Fe1−x−yM)13を主成分とする相から構成され、16.87重量%のLa、3.73重量%のSi、4.61重量%のCo、残余としての鉄から構成される。各々のバルク前駆体としての構造体は、おおよそ11.5mm×6mm×0.6mmの初期の外形寸法、−18.5℃の磁気相転移温度、1.6Tの磁場変化と5.7%のアルファ−Feに対して9.4J/(kg・K)のエントロピー変化を有する。温度に依存するエントロピー変化のピーク幅は、13.7℃である。
【0049】
バルク前駆体としての構造体は、多結晶であり、無水素の磁気熱量活性相からなる圧縮粉末を焼結することによって、または、望ましい無水素の磁気熱量活性相に相当する全体としての組成を有している前駆体粉末を反応性焼結することによって、望ましい無水素の磁気熱量活性相を形成することで製造され得る。
【0050】
アルファFe含有量は、サンプルが外部磁場にさらされた時のサンプルの温度の依存関係として、そのキュリー温度以上に熱っせられたサンプルの磁気分極率が測定される熱磁気方法を用いて、測定された。キュリー−ワイス則に従う常磁性寄与分は差し引かれ、アルファ−Feの含有量は、残りの強磁性信号から推論される。
【0051】
バルク前駆体としての構造体は、鉄の箔で5つのバルク前駆体としての構造体を包み、それらを炉に置いて、不活性雰囲気中で、特にアルゴン中で、50℃未満の温度から100℃〜700℃の範囲の選択温度までバルク前駆体としての構造体を熱することによって、水素化された。水素ガスは、100℃〜700℃の温度に達した時のみ、炉に導入された。1.9バールの圧で水素ガスは炉に導入され、構造体は、選択時間または滞留時間の間、選定温度で水素含有雰囲気中で保たれた。この実施形態において、滞留時間は2時間であった。その後、構造体は、およそ1K/分の平均冷却速度で水素含有雰囲気中で50℃未満の温度にまで炉冷された。
【0052】
100℃と200℃の温度で熱処理された構造体が粉末に分解するのが見出され、300℃で熱処理された構造体の最も外側の部分が壊れることが観察された。400℃、500℃、600℃、700℃で熱処理された構造体は、すべて、水素化熱処理後そのままの状態であることがわかった。
【0053】
エントロピー変化、磁気相転移温度のピークとピーク幅、及び、測定されたアルファ鉄含有量は、表lにまとめられている。
【0054】
100℃と600℃の間の水素化温度で熱せられた構造体は、水素化されていないバルク前駆体としての構造体の磁気相転移温度−18.5℃に較べて112℃と120℃の間の増加した磁気相転移温度を有する。
【0055】
700℃の水素化処理温度に対しては、増加したアルファ鉄の割合、ならびに、およそ45℃のより低い磁気相転移温度と増加した18℃のピーク幅が観察され、磁気熱量活性相が部分的に分解したことが示された。
【0056】
水素含有量は、サンプルに対して化学的方法を用いて決定された。そして、測定値は表2にまとめられている。すべての構造体の水素含有量は、0.2325重量%と0.2155重量%の間にある。
【0057】
磁気熱交換器の作動媒体として利用するための構造体の磁気相転移温度は、その動作温度になる。従って、広範な温度範囲にかけて冷却や加熱を提供し得るようにするために、異なる磁気相転移温度の範囲からなる作動媒体が望ましい。
【0058】
原理的には、構造体の水素含有量が異なるようにバルクのサンプルを水素化することによって、すなわち構造体を部分的に水素化することによって、異なる磁気相転移温度が与えられ得る。従って、異なる磁気相転移温度の複数の構造体が、熱交換器の動作範囲を増やすように、磁気熱交換器の作動媒体として、一緒に使われてよい。
【0059】
実施形態の第一グループにおいて、水素化条件は、異なる水素含有量と異なる磁気相転移温度の構造体が作られ得るように、構造体によって収容される水素の量を制御するために、調節された。
【0060】
上述の大きさと組成を有する5つのバルク前駆体としての構造体は、鉄の箔で包まれて、300℃〜500℃の範囲の水素化処理温度まで不活性ガス中で熱された。水素化処理温度で、不活性ガスは1.9バールの水素で置換され、そして、構造体は10分間水素化処理温度で保たれた。10分後、水素は不活性ガスに置換され、発熱体が炉から取り除かれ、炉の作動チャンバーが50℃以下の温度になるまでできるだけ速く強制空冷された。
【0061】
2つのサンプルに対して、水素化処理は、それぞれ、350℃と450℃で行われ、サンプルは、水素がアルゴンに置換される前に、それぞれ、200℃と250℃まで冷却された。
【0062】
350℃以上の水素化処理温度に対して、構造体はそのままであることがわかった。また、350℃以上の温度で水素含有雰囲気中で初期に熱され、ガス置換を200℃と250℃で行った、2つのサンプルは、熱処理後、そのままであることもわかった。
【0063】
サンプルの測定された磁気熱量特性は、表3にまとめられている。サンプルのエントロピー変化は1.6Tの磁場変化に対して測定された。その結果は図1に示されている。
【0064】
磁気相転移温度とガス置換温度の関係も、図2に示されている。図2は、ガス置換温度を増やすことで磁気相転移温度が減少する、一般的な傾向を示している。250℃から300℃の温度範囲において、磁気相転移温度のガス置換温度に対する強い依存性が観察されている。
【0065】
サンプルの水素含有量は化学的手法を用いて決定された。その結果は表4と図3にまとめられている。図3は、磁気相転移温度とサンプルの測定された水素含有量の間に一般的な線形関係があることを示している。
【0066】
−3.2℃と97℃の範囲のキュリー温度と0.0324重量%と0.1750重量%の範囲の水素含有量が得られた。
【0067】
従って、この方法は、異なる磁気相転移温度と異なる水素含有量を有する、熱交換器で作動媒体として利用するための焼結多結晶構造体または反応焼結多結晶構造体を製造するのを可能にする。
【0068】
異なるキュリー温度を有している一組の構造体は、磁気熱交換器の動作範囲を広げるために、磁気熱交換器の作動媒体として一緒に使われてよい。その磁気熱交換器は、作動媒体の磁気相転移温度範囲に通常相当する温度範囲にかけて加熱や冷却を行うことができる。
【0069】
実施形態の第二の組において、異なる磁気相転移温度を有する構造体は、上述の磁気熱量活性相からなる、完全に水素化されたかほとんど完全に水素化されたバルク前駆体としての構造体を脱水素化することによって、製造された。
【0070】
水素化されたバルク前駆体としての構造体は、サンプルを不活性ガス中で450℃まで熱して、450℃で、不活性ガスを1.9バールの水素で置換することによって、製造された。水素雰囲気中で450℃での2時間の滞留時間後、サンプルは、水素雰囲気中で50℃未満の温度にまで炉冷された。
【0071】
完全に水素化された構造体、あるいは、ほぼ完全に水素化された構造体を部分的に脱水素化するために、構造体は、空気中で異なる時間の間、3つの異なる温度、200℃、250℃、300℃の一つの温度で熱された。特に、10個のサンプルは、予熱されたオーブンに置かれ、10分〜1290分の範囲の異なる滞留時間後、個々に取り除かれた。そして、サンプルの磁気熱量特性が測定された。
【0072】
200℃の温度で熱されたサンプルについての結果は、表5にまとめられている。これらの構造体に対して測定された、1.6Tでのエントロピー変化は、図4に示され、200℃での滞留時間の依存関係としての磁気相転移温度の依存性は図5に示される。
【0073】
250℃と300℃での異なる時間の間に熱されたサンプルについての1.6Tで測定されたエントロピー変化が、図6と7に示され、表6と7にまとめられている。
【0074】
3つの異なる温度で熱された構造体についての滞留時間の依存関係としてのキュリー温度が、図8中に比較されて示されている。
【0075】
一般的に、磁気相転移温度は、滞留時間を増やすことによって、減らされる。さらに、増加した温度に対して、磁気相転移温度の減少は、より速く起こる。磁気相転移温度と滞留時間の関係は、近似的に3つの温度すべてに対して対数関係である。
【0076】
250℃と300℃の温度に対して、エントロピー変化はわずかに減少され、部分的に脱水素されたサンプルについてのピーク幅は、完全に水素化された前駆体サンプルに比較して増加される。このことは、脱水素化がより速く起こるが、脱水素化が200℃で達成されるよりも不均質かもしれないことを示している。その上、アルファ鉄含有量が250℃と300℃で増加することがわかった。これは、磁気熱量活性相の一部が酸化により分解したことを示しているかもしれない。
【0077】
図9は、異なる金属元素組成を有する3つの構造体についての温度の依存関係としてのエントロピー変化のグラフを示している。磁気熱量特性は、表8にまとめられている。
【0078】
サンプルNr.1は、17.88重量%のLa、4.34重量%のSi、0.03重量%のCo、1.97重量%のMn、残余のFeからなる組成を有する。CoとMnは、Feに置換されている。サンプル1は1120℃で焼結されて、その後1050℃で徐冷された。引き続き、サンプルNr.1は、アルゴン雰囲気中で室温から500℃までそれを熱して、500℃で1.9バールの水素ガスと置換することによって、水素化された。500℃で水素雰囲気中での15分の滞留時間後、サンプルは、50℃未満の温度まで水素雰囲気中で1K/分の平均冷却速度で炉冷された。
【0079】
サンプルNr.2は、17.79重量%のLa、3.74重量%のSi、0.06重量%のCo、0重量%のMn、残余のFeからなる組成を有する。CoがFeに置換されている。サンプル2は1100℃で焼結されて、その後1040℃で徐冷された。引き続き、サンプルNr.2は、アルゴン雰囲気中で室温から500℃までそれを加熱して、500℃で1.9バールの水素ガスと置換させることによって、水素化された。500℃で水素雰囲気中での15分の滞留時間後、サンプルは、50℃未満の温度まで水素雰囲気中で1K/分の平均冷却速度で炉冷された。
【0080】
サンプルNr.3は、18.35重量%のLa、3.65重量%のSi、4.51重量%のCo、0重量%のMn、残余のFeからなる組成を有する。Coは、Feに置換されている。サンプル3は、1080℃で焼結されて、その後、1030℃で徐冷された。引き続き、サンプルNr.3は、アルゴン雰囲気中で室温から500℃までそれを熱して、500℃で1.9バールの水素ガスと置換することによって、水素化された。500℃で水素雰囲気中での15分の滞留時間後、サンプルは、50℃未満の温度まで水素雰囲気中で1K/分の平均冷却速度で炉冷された。
【0081】
表8は、Co含有量が増やされるに伴い磁気転移温度が増加することを示している。Mn置換を含むサンプル1は、より低い磁気転移温度を有している。
【0082】
NaZn13型結晶構造と水素からなる少なくとも1つの構造体から構成される、磁気熱交換器に利用するための作動媒体が提供されている。構造体は、少なくとも外形の一辺5mmを持てもよい。これらの構造体の二つ以上を含む作動媒体について、構造体は異なる水素含有量と異なるキュリーまたは異なる磁気相転移温度を有していてよい。構造体は、完全に、または、ほとんど完全に水素化されてよく、また、部分的に水素化されていてもよい。
【0083】
部分的に水素化された構造体は、水素化が実行される温度を調整することによって、並びに、水素化温度、または、水素化温度からの構造体の冷却の間のおよそ150℃以上の温度で水素雰囲気を不活性雰囲気に置換することによって、製造され得る。
【0084】
完全に水素化されたならびに部分的に水素化された構造体について、水素は、一旦炉が300℃以上の温度に加熱された時のみ、構造体を含んでいる炉に導入される。このことは、水素を含んでいる固形状のバルク構造体が提供され得るように、バルク前駆体としての構造体の物理的な分解を防いでいる。さらにまた、エントロピー変化はあまり水素化処理方法に影響されず、水素化された構造体が磁気熱交換器のための効率的な作動媒体を与え得る。
【0085】
更なる方法において、完全にまたはほとんど完全に水素化された構造体は、水素の一部もしくは全部を除去するために脱水素化される。磁気転移温度は水素含有量に依存するので、異なる磁気相転移温度の構造体は脱水素の程度を制御することによって与えられ得る。150℃と400℃の範囲の温度での滞留時間の増大は、水素含有量を減少させ、磁気転移温度を減少させる。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
【表8】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaZn13型結晶構造を有する磁気熱量活性相からなるバルク前駆体としての構造体を与える工程と;
不活性雰囲気中で50℃未満の温度から少なくとも300℃までバルク前駆体としての構造体を加熱し、
少なくとも300℃の温度に達する時にのみ、水素ガスを導入し、
一定時間、300℃〜700℃の範囲の温度において水素含有雰囲気中でバルク前駆体としての構造体を保ち、
水素化された構造体を得るために、バルク前駆体としての構造体を50℃未満の温度にまで冷却することにより前記バルク前駆体としての構造体の水素化処理を行う工程;とを含む、
磁気熱交換のための構造体を製造する方法。
【請求項2】
前記バルク前駆体としての構造体が、水素含有雰囲気中で50℃未満の温度まで冷やされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一定時間が1分から4時間までの間である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水素化処理後、前記構造体が少なくとも0.21重量%の水素を含む、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
水素化処理後の前記構造体が−40℃から+150℃の範囲での磁気相転移温度を有する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記バルク前駆体としての構造体が0.1K/分〜10K/分の速度で冷却される、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
50℃未満の温度まで前記バルク前駆体としての構造体を冷却する前に、水素ガスが不活性ガスに置換される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バルク前駆体としての構造体が、水素含有雰囲気中で300℃から150℃までの範囲の温度に冷却され、その後、水素が不活性ガスに置換され、前記バルク前駆体としての構造体が50℃未満の温度まで冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記一定時間が1分から4時間までである、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水素化処理後、前記構造体が0.02重量%〜0.21重量%の範囲の水素含有量からなる、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記バルク前駆体としての構造体が1K/分〜100K/分の速度で冷却される、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記バルク前駆体としての構造体が水素化処理前に初期の外形寸法を有し、水素化処理後の構造体が最終的な外形寸法を有し、初期の外側寸法と最終的な外形寸法の違いが10%未満である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
水素ガスが、400℃〜600℃の温度に達する時にのみ導入される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
NaZn13型結晶構造と少なくとも0.2重量%の水素を有する磁気熱量活性相からなるバルク前駆体としての構造体を与え、バルク前駆体としての構造体の部分的な脱水素化を、選択時間の間、150℃から400℃の温度で不活性ガス中でバルク前駆体としての構造体を加熱して、磁気熱交換のための構造体を製造するために不活性雰囲気中で50℃未満の温度までバルク前駆体としての構造体をすばやく冷却することによって、行う、磁気熱交換のための構造体を製造する方法。
【請求項15】
前記バルク前駆体としての構造体が急冷により冷却される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
選択時間の間が延長され、前記バルク前駆体としての構造体の水素含有量が滞留時間に依存して減少される、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記バルク前駆体としての構造体が少なくとも1辺5mmより大きい外形寸法を有する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記バルク前駆体としての構造体が多結晶である、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記バルク前駆体としての構造体が焼結されるかあるいは反応焼結焼される、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
磁気熱量活性相がLa1−a(Fe1−x−y13であり、MはSiとAlからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、TはCo、Ni、Mn、及びCrからなるグループの少なくとも1つの元素であり、RはCe、Nd、及びPrからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、0≦a≦0.5、0.05≦x≦0.2、0≦y≦0.2,0≦z≦3である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
NaZn13型結晶構造を有する磁気熱量活性相と更なる水素からなる磁気熱交換器の作動媒体として使うための、少なくとも1辺5mmの外形寸法を有する、構造体。
【請求項22】
前記構造体が多結晶である、請求項21に記載の構造体。
【請求項23】
前記構造体が焼結されるかあるいは反応焼結される、請求項21または請求項22に記載の構造体。
【請求項24】
水素がNaZn13結晶構造の隙間に収容される、請求項21〜23のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項25】
磁気熱量活性相がLa1−a(Fe1−x−y13であり、MはSiとAlからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、TはCo、Ni、Mn、及びCrからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、RはCe、Nd、及びPrからなるグループからの少なくとも1つの元素であり、0≦a≦0.5、0.05≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0≦z≦3である、請求項21〜24のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項26】
0.2≦z≦3である、請求項25に記載の構造体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−503099(P2012−503099A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527429(P2011−527429)
【出願日】平成21年5月6日(2009.5.6)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051854
【国際公開番号】WO2010/128357
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(504227958)ヴァキュームシュメルツェ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (16)
【Fターム(参考)】