説明

磁気異方性多層構造

【課題】反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布を厳格化する磁気異方性多層構造を提供する。
【解決手段】反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布を厳格化する磁気異方性多層構造が開示されている。本発明は交換スプリング概念をより可変でかつ高度な構造まで拡張する。異なる異方性または異方性勾配を有する3つ以上の層は、BPMの単純な硬質/軟質二重層交換スプリング概念を越えて書き込み可能利得を増加させる。本構造は、媒体構造全体にわたる磁壁伝搬の閾値またはピン留め層として働く薄く非常に硬質な高異方性中央層を有する。さらにまたはあるいは、通常使用される軟質表面層と硬質媒体層間の薄く非常に軟質な低異方性中央層は、媒体構造の中央内への磁壁の急速な初期伝搬を可能にする。媒体構造の様々な特性は、より高度な異方性多層スタックを使用すると、より独立して調整することができ最適化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には磁気ハードディスクドライブに関し、特には、反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布を厳格化する磁気異方性多層構造を有する改善されたシステム、方法、および装置に関する。具体的な例としては、ビットパターン媒体における書き込み可能利得をさらに増加するための異なる異方性源、異方性振幅、異方性方向、または異方性勾配を有する3つ以上の層が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
ビットパターン媒体(bit patterned media)(BPM)は、粒状記録媒体に基づく従来の連続垂直磁気記録により実現可能なものを越えて磁気記録の密度を拡大するための最有力候補である。BPMのアイランドは、高ビット面密度(例えば、500Gb/in以上)をサポートするために十分に小さく、かつ十分な磁気品質のものである必要がある。例えば1Tb/inの密度では、アイランドは、約15〜20nm(25.4nmの単位セルを仮定する)の直径と、約10.4〜15.4nmの幅を有する溝を備え、約1以上のビットアスペクト比(bit aspect ratio)(BAR)を有する。また本発明者らは、反転磁場分布(switching field distribution)(SFD)はヘッド磁場勾配と他のシステムパラメータに依存して1000〜1500Oe未満である必要があると予想する。例えば、非特許文献1を参照されたい。さらに、書き込みヘッドの大きさが減少するにつれて書き込みヘッドの磁場がさらに小さくなるので、アイランドの書き込み能力と熱的安定性を維持することは1Tb/in以上の密度のBPMの課題である。
【0003】
BPMの開発の別の重要な課題は、SFD(すなわち保磁場のビット対ビット変動)は隣接ビットを上書きすることなく個々の予め定められたビットの正確なアドレス指定能力を保証するのに十分に狭い必要があることである。SFDは、パターンドットサイズ、形状および間隔、使用される磁性薄膜システムの固有の磁気異方性分布、およびビット間の双極子相互作用における変動等の多くの要因を有する。
【0004】
交換スプリング多層構造は略固定された熱障壁に対する書き込み可能利得を与えることもよく知られており、したがって交換スプリング多層構造は連続媒体とビットパターン媒体とを使用する記録システムに対し提案された。例えば、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5を参照されたい。軟質な核形成ホストに強く交換結合された硬質磁性記憶層を含む多層交換スプリング記録媒体は、記憶層の反転磁場を低減するために提案された。反転磁場を低下させるとともに良好な熱的安定性を維持することを可能にするこの設計は、硬質層のエネルギー障壁を略不変に保つ。例えば、その全体を参照として本明細書に取り込む、特許文献1を参照されたい。このような二重硬質/軟質積層構造においては、垂直磁壁はより軟質な層内の低磁場において核形成される。垂直磁壁は、軟質層を通って伝播し、かつ磁場振幅が磁壁を硬質層(すなわち実際の記憶層)内まで「伝播させる」のに十分に大きくなるまで、硬質層との界面においてピン留めされる。この場合、媒体反転磁場は磁壁ピン留め解除磁場(domain wall depinning field)として定義される。この磁場は媒体反転磁場自体より小さく、したがって交換スプリング構造は媒体反転磁場を低減することができる。さらに、異方性軸に対する外部磁場角θの関数としてのピン留め解除磁場の依存性は、Kondorskyのような法則Hswitching=1/cos(θ)により説明される。この場合、Hswitchingは、θが0から45度まで増加するにつれてあまり変化しないので、交換スプリング媒体は磁気媒体内の緩やかな(easy)異方性軸角分布を起源とするSFDを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0292720号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.E.Schabes,“Micromagnetic Simulations for Terabit/in2 Head/Media Systems,”J.Magn.Mag.Mat.,(2008)
【非特許文献2】D.Suess,et al.,Appl.Phys.Lett.87,012504(2005)
【非特許文献3】D.Suess,Appl.Phys.Lett.89,113105(2006)
【非特許文献4】D.Suess,et al.;J.Magn.Magn Mater.290−291,551(2005)
【非特許文献5】D.Suess,et al.,Appl.Phys.Lett.92,173111(2008)
【非特許文献6】T.Thomson,et al.,Phys.Rev.Lett.96,257204(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明においては、BPMの交換スプリング材料の利得を増強させ、これにより約0.5〜10Tb/inの範囲の面密度におけるBPMの前述の問題に対する解決策を提供するBPMアイランドの新規な構造が開示される。
【0008】
垂直磁壁の伝播に必要な局所印加磁場は、交換長:L(ex)=[A/(2πM)]1/2に等しい深さ内の軟質層との界面における媒体層の特性に主として依存する。この交換長は、交換定数A=4.10−6erg/cmを仮定すると、Co/Pd多層については約20nmであり、飽和磁化M=400emu/cmである。このことは、媒体層内の交換長L(ex)内のいかなる内因性または外因性欠陥も伝搬磁場値の変化(主として増加)を引き起こすことを意味する。実際のパターンドットアレイでは、媒体層は、深さが一様であることは稀であり、媒体層はビット毎に大きな固有の異方性変動を有する。例えば(非特許文献6)を参照されたい。交換スプリング媒体構造は依然として、伝搬磁場を制御する大きな媒体容積のために大きな反転磁場分布を呈する。
【0009】
少なくともこの問題の一部を解決するために、本発明の1つの態様(より一般的な異なる異方性多層構造を導入することを越える)は、軟質核形成ホスト層と実際の媒体層との間に、磁壁伝搬のポテンシャル障壁として働く薄い(高異方性)層を加えることにより磁壁ピン留めを制御する磁気容積を低減することである。この場合、媒体層はもはや磁壁ピン留め特徴を規定する層ではなく、ピン留め層と実際の記憶層の特性から独立して調整および最適化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布を厳格化する磁気異方性多層構造を有するシステム、方法、および装置の実施形態が開示される。本発明は交換スプリング概念をより可変でかつ高度な構造まで拡張する。この例としては、単純な硬質/軟質二重層交換スプリング概念を越えて書き込み可能利得を増加するための異なる異方性振幅、源、方向、または勾配を有する3つ以上の層が挙げられる。
【0011】
いくつかの実施形態では、構造は、媒体構造全体にわたる磁壁伝搬の閾値またはピン留め層として働く薄く非常に硬質な(すなわち高異方性)中央層を有する。さらにまたはあるいは、通常使用される軟質表面層と固質媒体層との間の薄く非常に軟質な(すなわち低異方性)中央層は、媒体界面における磁壁の大きく圧縮することを可能にする。利得は、書き込み能力と熱的安定性において二重層交換スプリング概念を越えて達成される。より高度な異方性多層スタックを使用すると、媒体構造の様々な特性はより独立して調整することができ最適化を図れる。
【0012】
さらに、本発明は、伝搬障壁を導入することにより反転機構としたがって従来の交換スプリング構造の反転磁場分布(SFD)とを改善しさらに良好に制御する。例えば、伝搬障壁は、核形成ホストと実際の媒体層との間に薄い非常に硬質な(または非常に軟質な、または非常に軟質/非常に硬質な)磁性体層または多層(磁気二重層または磁気勾配二重層)を含むことができる。薄い中間層または多層は、伝搬磁場値を規定する容積を低減する。したがって、伝搬磁場に影響を与える最終的な欠陥の数は、媒体層内で作用するもの(例えば内因性異方性分散、内因性または外因性欠陥)の数と比較すると制限される。結果として、ピン留め層を追加することでビットパターン媒体のSFDを低減する。
【0013】
本発明の前述および他の目的と利点は、添付の特許請求の範囲と添付図面と併せて本発明の以下の詳細な説明に照らすと当業者には明白となる。
【0014】
本発明の特徴と利点が達成される方法がさらに詳細に理解されるように、上に簡単に概説された本発明のより具体的な説明を、添付図面に例示されるその実施形態を参照して行う。しかしながら、本発明は他の同等に有効な実施形態を認めることができるので、図面は本発明のいくつか実施形態を例示するのみであり、したがってその範囲を制限すると考えるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の様々な実施形態の概略図である。
【図1B】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の様々な実施形態の概略図である。
【図1C】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の様々な実施形態の概略図である。
【図1D】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の様々な実施形態の概略図である。
【図1E】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の様々な実施形態の概略図である。
【図2A】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の実施形態における反転機構を例示する概略図である。
【図2B】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の実施形態における反転機構を例示する概略図である。
【図2C】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の実施形態における反転機構を例示する概略図である。
【図2D】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の実施形態における反転機構を例示する概略図である。
【図2E】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造の実施形態における反転機構を例示する概略図である。
【図3A】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造のさらに他の実施形態の概略図である。
【図3B】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造のさらに他の実施形態の概略図である。
【図3C】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造のさらに他の実施形態の概略図である。
【図3D】本発明に従って構築された3層交換スプリング構造のさらに他の実施形態の概略図である。
【図4】本発明に従って構築された構造の一実施形態の中間層異方性の関数としての反転磁場のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
媒体自体内に引き起こされる反転プロセスにより規定されるビットパターン媒体の反転磁場を回避することは非常に望ましい。軟質磁性体層(ホスト核形成層としても知られる)と媒体とを結合することにより、外部磁場下の反転プロセスは、第1に低磁場では軟質層内への垂直磁壁の核形成(軟質層を通って伝播し軟質/硬質層界面でピン留めされる)に対応する。第2に、磁場H(N,soft)<H<H(N,media)では、反転は磁壁の媒体層内への伝搬を介して進行し、こうして実際の記憶媒体書き込みプロセスを引き起す。従来の軟質層/媒体層の二重層交換スプリング構造間に高異方性または低異方性を有する追加層を加えることにより、熱的安定性を維持するとともに書き込み能力の利得を拡大する。これにより、独立に調整することができる様々な媒体パラメータをさらに良好に制御することができ、したがってBPM内のSFDを低減するのに役立つ反転機構を設計することができる。特定の異方性プロフィール例の要点については、以下に続く図面の説明においてさらに詳細に述べる。
【0017】
図1〜4を参照し、反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布を厳格化する磁気異方性多層構造を有するシステム、方法、および装置の実施形態が開示される。いくつかの実施形態では、本発明は3層交換スプリングのための構造を含む。図1には、中央磁壁伝搬制御層を有する3層交換スプリング構造、およびそれに対応して調整される異方性プロフィールの例を示す。各副層内の異方性は略一定である。図1Aには、中間K1の中間層を有する3層交換スプリングを例示する。図1Bには、K1ディップ13を有する3層交換スプリングを示す。図1Cには、K1障壁15を有する3層交換スプリングを例示する。実際の媒体特性と微細構造に依存するが、保磁力(すなわち書き込み能力)、ループ角形比、SFD、反転機構、および熱的安定性等の全体システムパラメータを所望性能に向けて調整するためにこれらの構造のいずれかを使用することは有利と考えられる。
【0018】
図1Dと図2には、さらに詳細な1つの例として図1Cに示された異方性構造と異方性反転を例示する。中央の高異方性層は磁壁のピン留め層21として働く。これにより、一旦外部磁場がピン留め層の閾値磁場に打ち勝つと媒体層23全体ににわたる急激な磁壁の侵入が可能となる。より詳細には、この特定の3層スタックにおける磁化構成は次の通りである。印加磁場H<H(N,soft)では、異なる層内の磁化31はすべて平行にアライメントされる(図2A)。図1Eは、異なる異方性磁性体層間の交換結合を磁性体層自体の磁気特性から独立して調整するための異なる異方性磁性体層間の非磁性体中間層を描写する。通常、磁性体層間の交換結合をいずれかの側で精密に調整するために非磁性体中間層の厚さを使用することができる。
【0019】
図2Bでは、磁壁33が軟質層内に核形成される。図2Cでは、H(N,soft)<H<Hの場合、磁壁35はピン留め層に対し圧縮される。図2Dでは、H=Hにおいて、ピン留め層磁化は反転し始め、磁壁37はピン留め層を貫通して媒体層に押し込まれる。このとき、媒体層の異方性はピン留め層より低いので、磁壁は媒体層全体に急激に押し込まれる。媒体層内に存在し得る欠陥は、磁壁がより高い異方性ピン留め層全体を伝播してしまうと磁壁をピン留めすることができない。図2Eでは、Hを越えて、すべての磁性体層は再び外部場方向39に沿って向く。
【0020】
図3には、調整された異方性プロフィールを有する3層交換スプリング構造の他の例を示す。少なくとも1つの副層内の異方性は傾斜が付けられる。図3Aには、中間K1の中間層41を有する3層交換スプリングを例示する。図3Bには、K1ディップ43を有する3層交換スプリングを例示する。図3Cには、K1障壁45を有する3層交換スプリングを、図3Dには二層勾配構造47を例示する。
【0021】
書き込み能力とSFDの改善は、例えば材料選択、欠陥密度、層厚等を含む多くの変数に依存する。図4には、3層構造のマイクロマグネティックシミュレーションを使用することにより本発明の例示的な実施形態の利点の実証を示す。図4は、図1A−1Cにおいて示された構造による例示的な実施形態の中間層異方性の関数としての反転磁場を示す。この図では、多層全体の反転磁場の値は、中間層異方性磁場(HK,mid)と硬質(底部)層異方性磁場(HK.bottom)との比の関数として描写される。中間層ディップ53を使用することにより3層構造の反転磁場を傾斜構造51の異方性未満まで低下させることができる。SFDの計算はさらに、3層構造は硬質記憶層(すなわち上記例の底層)のSFDと比較して著しく低いSFDを一般的に有するということを示す。例えば、単一層BPMとしての硬質記憶層は例示的計算ではHの7.6%のSFDを有したが、図1の3層構造は副層の無相関異方性に対してHの2.6〜3.7%の範囲のSFDを有し、相関異方性に対してはHの4.5〜5.7%の範囲のSFDを有する。
【0022】
このような構造を作製するために使用され得る材料のいくつかの実施形態は次のものを含む。本明細書に示され説明された異方性プロフィール構造を使用することにより、一層(図1C)内の一定な異方性または一層(図3C)内の傾斜が付けられた異方性のいずれかを許容するために合金(CoPt、CoPt、FePt、CoCrPt、TbFeCo、TbCo等)または多層(Co/Pt、Co/Pd、Co/Ni、Fe/Pd、Fe/Pt等)などの垂直異方性材料を使用することができる。これを基礎にして、例えば、軟質核形成ホスト層として軟質Co/Ni MLまたはCoCrPt合金、閾値ピン留め層として非常に硬質なCo/Pd MLまたはCoPtまたはFePt層、そして実際の記憶層として中間異方性Co/PdまたはCoCrPtまたはCoPt層を使用することができるであろう。ここで特定の異方性は、Co/Pd MLの個々の層厚またはFePtまたはCoPt合金層の組成を変更することで細かく調整することができるであろう。
【0023】
図1Dと図2に代表される3層構造とその対応する反転機構の実施形態では、硬質磁気媒体層は適度に高い垂直異方性を有する。核形成ホスト層は1つまたは複数の強磁性体層または強磁性結合層から構成される。核形成層内の異方性は硬質磁性記憶層の異方性より小さい。一実施形態では、ピン留め層の厚さは、媒体内の交換長より小さく、その異方性は媒体層の異方性より大きい。軟質層は、それ自体が実際の媒体層に強磁性的に結合されるピン留め層に強磁性的に結合される。
【0024】
中間層と媒体層との間だけでなく、軟質層と中間層との間の交換結合度を調整および制御するためにこれらの間に結合層を導入することができる。結合層は、単一元素または合金(例えばRu、Pd、Pt、RuCo等)で構成されてよい。
【0025】
この新しい3要素構造により、媒体磁化反転は以下のように発生することができる(図2)。完全飽和状態(図2A)から、磁場Hでは垂直磁壁は軟質層内で核形成される(図2B)。H〜Hでは、磁壁は軟質層内で本構造の中央のピン留め層に対し圧縮される(図2C)。H=Hでは、磁壁はポテンシャル障壁に打ち勝つ(すなわち、本構造の中央の薄い硬質なピン留め層を貫通する)。磁壁は、最初にピン留め層磁化を次に媒体層の磁化を反転させる(図2D)。Hより大きい磁場振幅ではすべてのスタック層の磁化は初期状態の反対方向に一様に向く(図2E)。
【0026】
伝搬障壁の特徴的特性(すなわち、ゼロ磁場障壁高さと伝搬磁場)は、異方性、飽和磁化、厚さ、微細構造等のピン留め層の磁気特性を変更することにより調整可能である。S.Mangin,et al.Phys.Rev.B 60,1204(1999)も参照されたい。中間層は、HN(soft)<H<HN(硬質)のような伝搬磁場値を有するように調整されてよい(すなわち、中間層を貫通して磁壁を押すのに必要な磁場は、軟質層内の磁壁を核形成するのに必要な磁場より高くなければならない)。
【0027】
ピン留め層の挿入は、絶対的反転磁場を低減する通常の交換スプリング媒体構造の利点を損なわず、媒体層の熱的安定性を維持する。逆に、ピン留め層は、これまでの核形成ホスト/媒体二重層構造と比較して媒体のゼロ磁場熱的安定性を高める。
【0028】
さらに他の実施形態では、磁性体層は、面外方向、面内方向、または別の方向の異方性を有してよく、互いに共直線性であってもよいしあるいはそうでなくてもよい。軟質層/ピン留め層の二重層構造を媒体層の両側で使用することができる。その場合、このシステムは、軟質層/ピン留め層/媒体/ピン留め層/軟質層となるであろう。層間の結合は直接的、または中間層を介し間接的であってよい。結合は強磁性的であってもよいしあるいは反強磁性的であってもよい。
【0029】
非常に硬質なサンドイッチ層を通して磁壁伝搬を活性化するために温度を利用することができる。磁壁が障壁に打ち勝つことは、熱アシスト記録時の性能を改善するためのよく知られた熱活性化プロセスである。
【0030】
いくつかの実施形態では、本発明は、反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布(SFD)を厳格化する磁気異方性多層構造である。本発明は、書き込み可能利得を改善するための異なる異方性または異方性勾配を有する少なくとも3つの層を有する交換スプリングを含み、交換スプリングは、軟質表面層、硬質媒体層、および軟質表面層と、ビットパターン媒体内の磁壁伝搬のための閾値またはピン留め層として働く硬質媒体層との間の薄い非常に硬質な高異方性中央層を含む伝搬障壁を有する。
【0031】
他の実施形態では、本構造は、軟質表面層と硬質媒体層との間の薄く非常に軟質な低異方性中央層であって、非常に軟質な層と媒体層との界面の磁壁を安定させることを可能にしかつ媒質層内への最終伝搬の前に磁壁のより大きく圧縮することを可能にする中央層をさらに含むかあるいは代替として含む。軟質表面層は核形成ホストを含んでよく、伝搬障壁は、磁気核形成ホストと硬質媒体層との間に、一定の異方性または傾斜異方性を有する磁性体層または磁性体二重層を含んでよい。核形成ホストは1つまたは複数の強磁性体層または強磁性結合層を含んでよく、核形成ホストの異方性は硬質媒体層の異方性より小さく、ピン留め層の厚さは媒体内の交換長より小さく、その異方性は硬質媒体層の異方性より大きい。
【0032】
さらに他の実施形態では、伝搬障壁は、より狭いSFDを生成するために媒体層の臨界伝搬容積を低減する。外部低磁場において、反転プロセスは軟質層内の垂直磁壁の核形成に対応することができる。外部磁場H(N,soft)<H<H(N,media)では、反転プロセスは硬質媒体層内の磁壁の伝搬に対応することができ、これにより媒体書き込みプロセスを引き起こす。
【0033】
本発明は、書き込み能力の利得が熱的安定性に対し拡大されるように、軟質表面層の異方性と磁気媒体層の異方性との間の異方性を有する追加層をさらに含んでよい。さらに、各副層内の異方性は略一定であってよい。少なくとも1つの副層内の異方性は傾斜が付けられてよい。伝搬障壁は、(a)異方性のディップ、(b)異方性の障壁(ピーク)のうちの1つを与えることができる。軟質表面層は、軟質な核形成ホスト層としてCo/Ni、Co/Pd、Co/Pd ML、CoPd、TbFeCoまたはCoCrPt合金を、閾値ピン留め層として非常に硬質なCo/Pd、Co/Pt MLまたはCoPt、CoPt、FePt合金層を、実際の記憶層として中間異方性Co/Pd、Co/Pt、CoCrPt、CoPt、FePtまたはCoPt層を含むことができる。磁性体層はまた、面外方向、面内方向、または別の方向の異方性の1つを有し、互いに共直線性であってよい。
【0034】
本発明はその形式のいくつかにおいてのみ示されたかあるいは説明されたが、本発明はそのように制限されず、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更が可能であるということは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0035】
13 K1ディップ
15 K1障壁
21 ピン留め層
23 媒体層
25 結合層
31 層内の磁化
35、37 磁壁
39 外部場方向
41 中間層
43 K1ディップ
45 K1障壁
47 二層勾配構造
51 傾斜
53 中間層ディップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布(SFD)を厳格化する磁気異方性多層構造であって、
書き込み可能利得を改善するための異なる異方性または異方性勾配を有する少なくとも3つの層を有する交換スプリングを含む構造において、前記交換スプリングは、
軟質表面層と、
硬質媒体層と、
前記軟質表面層と、前記ビットパターン媒体を貫通する磁壁伝搬の閾値またはピン留め層として働く前記硬質媒体層との間の薄い非常に硬質な高異方性中央層を含む伝搬障壁と、を有する、構造。
【請求項2】
前記軟質表面層と前記硬質媒体層との間の薄く非常に軟質な低異方性中央層であって、前記非常に軟質な層と前記媒体層との界面の前記磁壁を安定させることを可能にしかつ前記硬質層内に伝搬する前に前記非常に軟質な層内の前記磁壁のより大きく圧縮することを可能にする中央層、をさらに含む請求項1に記載の構造。
【請求項3】
前記軟質表面層は核形成ホストであり、前記伝搬障壁は、前記磁気核形成ホストと前記硬質媒体層との間に一定の異方性または傾斜異方性を有する磁性体層または磁性体二重層を含む、請求項1に記載の構造。
【請求項4】
前記核形成ホストは1つまたは複数の強磁性体層または強磁性的に結合された層を含み、前記核形成ホスト内の異方性は前記硬質媒体層の異方性より小さく、前記ピン留め層の厚さは前記媒体内の交換長より小さく、その異方性は前記硬質媒体層の異方性より大きい、請求項3に記載の構造。
【請求項5】
前記伝搬障壁は、より狭いSFDを生成するために前記媒体層の臨界伝搬容積を低減する、請求項1に記載の構造。
【請求項6】
外部低磁場において、反転プロセスは前記軟質層内の垂直磁壁の核形成に対応する、請求項1に記載の構造。
【請求項7】
外部磁場H(N,soft)<H<H(N,media)では、前記反転プロセスは前記硬質媒体層内の前記磁壁の前記伝搬に対応し、こうして媒体書き込みプロセスを引き起こす、請求項1に記載の構造。
【請求項8】
前記書き込み能力の利得が熱的安定性に対し拡大されるように、前記軟質表面層の異方性と前記磁気媒体層の異方性との間の異方性を有する追加層をさらに含む請求項1に記載の構造。
【請求項9】
各副層内の異方性は略一定である、請求項1に記載の構造。
【請求項10】
少なくとも1つの副層内の異方性は傾斜が付けられる、請求項1に記載の構造。
【請求項11】
前記伝搬障壁は、(a)異方性のディップ、(b)異方性の障壁(ピーク)、(c)二層勾配構造のうちの1つを与える、請求項10に記載の構造。
【請求項12】
軟質表面層は、軟質な核形成ホスト層としてCo/Ni、Co/Pd、Co/Pd ML、CoPd、TbFeCoまたはCoCrPt合金を、閾値ピン留め層として非常に硬質なCo/Pd、Co/Pt MLまたはCoPt、CoPt、FePt合金層を、実際の記憶層として中間異方性Co/Pd、Co/Pt、CoCrPt、Co/Pt、FePtまたはCoPt層を含む、請求項1に記載の構造。
【請求項13】
前記磁性体層は、面外方向、面内方向、または別の方向の異方性の1つを有し、互いに共直線性であってよい、請求項1に記載の構造。
【請求項14】
異なる異方性磁性体層間の交換結合を前記磁性体層自体の磁気特性から独立して調整するための異なる異方性磁性体層間の非磁性体中間層をさらに含む請求項1に記載の構造。
【請求項15】
反転機構を制御してビットパターン媒体内の反転磁場分布(SFD)を厳格化する磁気異方性多層構造であって、
書き込み可能利得を改善するための異なる異方性または異方性勾配を有する少なくとも3つの層を有する交換スプリングを含む構造において、前記交換スプリングは、
軟質表面層と、
硬質媒体層と、
前記軟質表面層と、前記ビットパターン媒体を貫通する磁壁伝搬の閾値またはピン留め層として働く前記硬質媒体層との間の薄い非常に硬質な高異方性中央層を含む伝搬障壁と、
前記軟質表面層と前記硬質媒体層との間の薄く非常に軟質な低異方性中央層であって、前記非常に軟質な層と前記媒体層との界面の前記磁壁を安定させることを可能にしかつ前記硬質層内に伝搬する前に前記非常に軟質な層内の前記磁壁のより大きく圧縮することを可能にする中央層と、を有する、構造。
【請求項16】
前記軟質表面層は核形成ホストであり、前記伝搬障壁は、前記磁気核形成ホストと前記硬質媒体層との間に一定の異方性または傾斜異方性を有する磁性体層または磁性体二重層を含み、前記核形成ホストは1つまたは複数の強磁性体層または強磁性結合層を含み、前記核形成ホストの異方性は前記硬質媒体層の異方性より小さく、前記ピン留め層の厚さは前記媒体内の交換長より小さく、その異方性は前記硬質媒体層の異方性より大きい、請求項15に記載の構造。
【請求項17】
前記伝搬障壁は、より狭いSFDを生成するために前記媒体層の臨界伝搬容積を低減する、請求項15に記載の構造。
【請求項18】
外部低磁場において、反転プロセスは、前記軟質層内の垂直磁壁の核形成に対応する、請求項15に記載の構造。
【請求項19】
外部磁場H(N,soft)<H<H(N,media)では、前記反転プロセスは前記硬質媒体層内の前記磁壁の前記伝搬に対応し、こうして媒体書き込みプロセスを引き起こす、請求項15に記載の構造。
【請求項20】
前記書き込み能力の利得が熱的安定性に対し拡大されるように前記軟質表面層の異方性と前記磁気媒体層の異方性との間の異方性を有する追加層をさらに含む請求項15に記載の構造。
【請求項21】
各副層内の異方性は略一定である、請求項15に記載の構造。
【請求項22】
少なくとも1つの副層内の異方性は傾斜が付けられる、請求項15に記載の構造。
【請求項23】
前記伝搬障壁は、(a)異方性のディップ、(b)異方性の障壁(ピーク)、(c)二層勾配構造のうちの1つを与える、請求項22に記載の構造。
【請求項24】
前記軟質表面層は、軟質な核形成ホスト層としてCo/Ni、Co/Pd、Co/Pd ML、CoPd、TbFeCoまたはCoCrPt合金を、閾値ピン留め層として非常に硬質なCo/Pd、Co/Pt MLまたはCoPt、CoPt、FePt合金層を、実際の記憶層として中間異方性Co/Pd、Co/Pt、CoCrPt、CoPt、FePtまたはCoPt層を含み、前記磁性体層は面外方向、面内方向、または別の方向の異方性の1つを有し、互いに共直線性であってよい、請求項15に記載の構造。
【請求項25】
異なる異方性磁性体層間の交換結合を前記磁性体層自体の磁気特性から独立して調整するための異なる異方性磁性体層間の非磁性体中間層をさらに含む請求項15に記載の構造。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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