説明

磁気粘性流体緩衝器とその製造方法

【課題】組み立てが容易な簡便な構造を有する磁気粘性流体緩衝器を提供すること。
【解決手段】シリンダ1内を画成するピストンアッシー2と、ピストンアッシーに形成され、二つの流体室30、31間の磁気粘性流体が通過する流路6と、ピストンアッシーの内部に収容され流路に磁界を作用させるコイル9とを備える磁気粘性流体緩衝器において、ピストンアッシーは、外周にコイルが巻回されたピストンコア3と、ピストンコアの外周に所定の間隔をもって配置されることによってピストンコアの外周との間に流路を形成するピストンリング4と、ピストンリングと一体化して設けられる環状のプレート11と、プレートをピストンコアに固定するナット12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の作用によって見かけの粘性が変化する磁気粘性流体を利用した磁気粘性流体緩衝器とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される緩衝器として、磁気粘性流体が通過する流路に磁界を作用させ、磁気粘性流体の見かけの粘性を変化させることによって、減衰力を発生させるものがある。
【0003】
この種の緩衝器として、ロッドにピストンアッセンブリを固定し、そのピストンアッセンブリをシリンダ内に摺動自在に配置する構造のものがある。
【0004】
特許文献1には、ピストンコアと、磁束リングと、ピストンコアの端部に配置されたエンドプレートとを備える緩衝器が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の緩衝器の組み立ては、各部材を組み付け型内に配置した状態にて、クリンプダイにて圧縮荷重を加え、磁束リングと一対のエンドプレートとをクリンプ部材を介して結合することによって行われる。
【特許文献1】米国特許第6260675号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1における緩衝器では、組み付け専用の型を必要とするため、緩衝器の組み立てを容易に行うことができない。
【0007】
このように、磁気粘性流体を利用した緩衝器は、磁気粘性流体が通過する流路を形成するための部材や、その流路に磁界を作用させるコイル等の複数の部材にて構成されるため、組み立てには大変な労力を要する。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、組み立てが容易な簡便な構造を有する磁気粘性流体緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体が封入されたシリンダと、前記シリンダ内に摺動自在に配置され、前記シリンダ内を二つの流体室に画成するピストンアッシーと、前記ピストンアッシーに形成され、前記ピストンアッシーの摺動によって前記二つの流体室間の前記磁気粘性流体が通過する流路と、前記ピストンアッシーの内部に収容され前記流路に磁界を作用させるコイルと、前記ピストンアッシーが連結されるロッドと、を備える磁気粘性流体緩衝器において、前記ピストンアッシーは、外周面に前記コイルが巻回されたピストンコアと、前記ピストンコアの外周に所定の間隔をもって配置されることによって前記ピストンコアの外周面との間に前記流路を形成するピストンリングと、前記ピストンリングと一体化して設けられる環状のプレートと、前記プレートを前記ピストンコアに固定するナットとを備え、前記ピストンコアが前記ロッドに螺合されることを特徴とする磁気粘性流体緩衝器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気粘性流体が通過する流路を形成するピストンアッシーは、ピストンコアと、ピストンリングと、ピストンリングをピストンコアに固定するプレートによって構成され、ピストンアッシーがロッドに締結される。このように、本発明に係る磁気粘性流体緩衝器は、簡便な構造を有するものであり、組み立てに際して型等の特別な治具を必要とせず、簡便に組み立てることができる。また、プレートを片方のみ設ければよく、部品点数の低減、圧力損失の減少および芯出しが容易になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照して本発明の第1の実施の形態である磁気粘性流体緩衝器100について説明する。
【0012】
図1は磁気粘性流体緩衝器100のピストンアッシー2を含む部分断面図である。
【0013】
磁気粘性流体緩衝器100は、例えば自動車等の車両の車体と車軸との間に介装され、車体姿勢の変化を抑制する緩衝器として機能するものである。
【0014】
磁気粘性流体緩衝器100は、有底薄肉円筒状のシリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に配置され、シリンダ1内を摺動方向に二つの流体室30、31に画成するピストンアッシー2と、一端をピストンアッシー2に接続し、他端をシリンダ1から突出して外部の車体部材等(不図示)に固定されるロッド40を備える。
【0015】
シリンダ1内には磁気粘性流体が封入されており、この磁気粘性流体は、磁界の作用によって見かけの粘性が変化するものであり、油等の液体中に強磁性を有する微粒子を分散させた液体である。磁気粘性流体の粘性は、作用する磁界の強さを変更することによって調節することができ、磁界を除くことによって元の状態に戻る。
【0016】
なお、シリンダ1内には、ロッド40のシリンダ1からの出入りに伴うシリンダ1内の容積変化を補償するガス室(図示せず)が設けられている。
【0017】
シリンダ1内を摺動するピストンアッシー2は、ロッド40の端部が螺合する円筒形状のピストンコア3と、ピストンコア3の外周に所定の間隔をもって同軸上に配置されたパイプ状のリング体4とを備える。なお、ピストンコア3及びリング体4は、磁性材料で構成される。
【0018】
以下、図2を用いてピストンコア3の詳細形状を説明する。
【0019】
ピストンコア3は、円筒形状を有し、外径の異なる小径部17と大径部18を形成する。そしてこの大径部18の外周面の一部に環状の凹部8が形成される。また、小径部17の外周面には端部から雄ねじ2iを形成する。
【0020】
ピストンコア3の内周面には、径の異なる2種類の貫通孔14、15が中心軸方向に段階的に形成され、外径側の小径部17の内側に大径側の貫通孔14が形成され、貫通孔14の一部に端部から雌ねじ16が切られ、図1に示すように、ロッド40の端部の外周面に形成された雄ねじ40aと螺合し、ロッド40の端部にピストンアッシー2が固定される。さらにロッド40の雄ねじ40aとピストンコア3の雌ねじ16との螺合部での磁気粘性流体の流通を防止するため、この界面に第1Oリング32を設置する。
【0021】
一方、外径側の大径18の内側に形成される小径側の貫通孔15には、ピストンコア3の凹部8と連通するように径方向に溝部7が形成され、この溝部7に略U字状のピン10が軸方向に向いて配置される。このピン10は導電性材料からなり、ピン10の一端が凹部8に、他端が貫通孔14内に延出する。
【0022】
大径部18に形成された凹部8には通電により磁界を生じるコイル9が巻回され、その端部がピン10の一端に接続する。ピン10の他端は、貫通孔15を通って貫通孔14内に配置され、中空状のロッド40内を貫通して不図示のコントローラに接続する電線41に連結する。コントローラは、コイル9に供給する電流量を制御し、コイル9が発生する磁界を制御する。
【0023】
そして、ピン10が設置される溝部7及び小径の貫通孔15内にピン10を設置した状態で樹脂が充填され、ピン10の位置が固定される。ここで、充填した樹脂とピストンコア3との間を通じて磁気粘性流体が流通しないように図1に示すとおり、この界面に第2Oリング33が設置される。
【0024】
図1に戻り、ピストンコア3の大径部18の外径と、その外周側に設置されたリング体4の内径との差に応じて、磁気粘性流体が通過する環状の流路6が形成される。このようにピストンアッシー2には環状の流路6が形成され、ピストンアッシー2がロッド40の摺動に伴ってシリンダ1内を摺動することによって、磁気粘性流体が流路6を通過する。
【0025】
ピストンコア3の大径部18の外周面に形成された環状の凹部8にはコイル9が巻回され、コイル9は流路6に面して形成されている。したがって、前述したように、不図示のコントローラの制御によりコイル9に電流を流すことによって、コイル9は磁力を発生し、その磁力は、ピストンコア3及びリング体4が形成する流路6を流れる磁気粘性流体に作用することになる。
【0026】
ピストンコア3の小径部17には、環状のプレート11が挿入される。ここで、プレート11の内周面24は、ピストンコア3の小径部17に摺接し、小径部17と大径部18との段差部2mに突き当てられる。
【0027】
さらに、プレート11には、図3に示すように、摺動方向に貫通する貫通孔21が周方向に所定間隔で形成され、この貫通孔21は、ピストンコア3とリング体4間に形成される流路6に面して開口する。したがって、流路6を流通する磁気粘性流体の流通を妨げることがない。
【0028】
また、プレート11の外周側端部につば部11bが中心軸方向に延出して形成され、このつば部11bとリング体4の小径部19とをかしめて、プレート11にリング体4を固定して、プレート11とリング体4とを一体化する。
【0029】
ピストンコア3の小径部17の外周面に形成された雄ねじ2iに螺合するナット12が設けられ、このナット12は、リング体4がかしめられたプレート11をピストンコア3の小径部17と大径部18との径差により形成された段差部2mに押し付け、固定する。ナット12は、図4に示すように円形の外周形状の一部を平面加工した2つの面を平行に形成してナット締め付け時の作業性を確保している。
【0030】
図1に示すように、ピストンアッシー2をシリンダ1内に配置した状態では、ピストンアッシー2はシリンダ1内を摺動自在であるため、シリンダ1内周面とリング体4外周面との間には僅かな隙間が存在する。しがって、ピストンアッシー2の摺動の際には、この隙間に磁気粘性流体の流れが発生する。この流れは、リング体4やロッド40の偏芯によって乱れる場合があり、その場合には、磁気粘性流体緩衝器100の減衰力にばらつきが発生し、減衰力の制御性に悪影響を及ぼすことになる。
【0031】
このような減衰力の制御性に対する悪影響を防止するためには、図5に示すようにリング体4の外周面に、シリンダ1内周面を摺動する環状のシール部材34を設けてもよい。
【0032】
シール部材34は、ピストンアッシー2の摺動の際に、リング体4外周とシリンダ1内周との間における磁気粘性流体の通過を防止する。したがって、磁気粘性流体緩衝器100の減衰力のばらつきの発生が防止され、減衰力の制御性への悪影響を防止することができる。
【0033】
シール部材34を設けることによって、磁気粘性流体が通過する流路は、流路6のみとなる。この流路6のロッド40に対する同軸度等は、ピストンコア3とリング体4との相対位置によって決定される。そして、ピストンコア3とリング体4との相対位置は、プレート11との寸法精度による。したがって、ピストンコア3とリング体4およびプレート11の寸法管理を行うことによって、流路6を通過する磁気粘性流体の流れの乱れを防止することができ、磁気粘性流体緩衝器100の減衰力のばらつきを防止することが可能となる。
【0034】
以上のように構成されるピストンアッシー2を備えた磁気粘性流体緩衝器100の動作について説明する。
【0035】
シリンダ1内にてピストンアッシー2が摺動すると、ピストンアッシー2両側の流体室30、31の磁気粘性流体が流路6を介して移動する。このとき、コイル9に電流を流すと磁気粘性流体に磁力が作用し、磁気粘性流体の粘性が変化する。これにより、磁気粘性流体緩衝器100は、流路6を流れる磁気粘性流体の粘性抵抗の大きさに応じた減衰力を発生する。
【0036】
コイル9の電流が大きくなるほど磁気粘性流体の粘性は大きくなり、磁気粘性流体緩衝器100の発生する減衰力も大きくなる。このように、磁気粘性流体緩衝器100が発生する減衰力の調節は、コイル9に流す電流を変化させ流路6に作用する磁場の強さを変化させることによって行われる。
【0037】
次に、磁気粘性流体緩衝器100の組立方法について図6を用いて詳しく説明する。
【0038】
まず工程(a)では、ピストンコア3の凹部8にコイル9を巻回すると共に、コイル9に接続するピン10を溝部7に設置する。ピン10には不図示のコントローラに繋がる電線41を接続する。
【0039】
次の工程(b)では、溝部7に樹脂を充填し、ピン10を所定位置に固定する。ここで、充填した樹脂とピストンコア3との間の磁気粘性流体の流通を禁止する第2Oリング33を設置する。
【0040】
工程(c)では、予めリング体4をかしめたプレート11の内周面24をピストンコア3の小径部17に摺接しつつ挿入し、その後、ナット12をピストンコア3の雄ねじ2iに螺合してプレート11を段差部2mに押し付け、固定する。リング体4をかしめたプレート11をピストンコア3に固定することで、リング体4とピストンコア3間に流路6が確実に形成される。
【0041】
このような工程により、工程(d)に示すようなピストンアッシー2が形成され、ピストンアッシー2の雌ねじ16にロッド40の雄ねじ40aが螺合してロッド40にピストンアッシー2が固定される。ロッド40には、ロッド40の軸心を貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔内に電線41が配設され、不図示のコントローラに接続されている。
【0042】
以上のように、本発明によれば、磁気粘性流体が通過する流路6は、リング体4をプレート11にかしめて一体化し、かつプレート11をピストンコア3に摺接して配置し、ナット12により固定してピストンアッシー2を形成し、ピストンコア3とリング体4との間に流路6を形成する。また、ピストンアッシー2のロッド40への固定は、ピストンコア3の雌ねじ16にロッド40の雄ねじ40aを螺合することでなされる。
【0043】
したがって、本発明の磁気粘性流体緩衝器100は、単純な構造を有するものであるため、その組立は、ピストンコア3に各部材を順番に組み付けることのみによって行うことができるため、簡便に行うことができ、組み立てに際して型等の特別な治具を必要としない。
【0044】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、車両に搭載する磁気粘性流体緩衝器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用する磁気粘性流体緩衝器100を示す断面図である。
【図2】ピストンコア3を示す断面図である。
【図3】プレート11を示す断面図である。
【図4】ナット12を示す断面図である。
【図5】リング体4を示す断面図である。
【図6】ピストンアッシー2の組み立て工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
1:シリンダ
2:ピストンアッシー
3:ピストンコア
4:リング体
6:流路
8:凹部
9:コイル
10:ピン
11:プレート
12:ナット
30、31:流体室
40:ロッド
100:磁気粘性流体緩衝器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体が封入されたシリンダと、
前記シリンダ内に摺動自在に配置され、前記シリンダ内を二つの流体室に画成するピストンアッシーと、
前記ピストンアッシーに形成され、前記ピストンアッシーの摺動によって前記二つの流体室間の前記磁気粘性流体が通過する流路と、
前記ピストンアッシーの内部に収容され前記流路に磁界を作用させるコイルと、
前記ピストンアッシーが連結されるロッドと、
を備える磁気粘性流体緩衝器において、
前記ピストンアッシーは、
外周面に前記コイルが巻回されたピストンコアと、
前記ピストンコアの外周に所定の間隔をもって配置されることによって前記ピストンコアの外周面との間に前記流路を形成するピストンリングと、
前記ピストンリングと一体化して設けられる環状のプレートと、
前記プレートを前記ピストンコアに固定するナットとを備え、
前記ピストンコアが前記ロッドに螺合されることを特徴とする磁気粘性流体緩衝器。
【請求項2】
前記ピストンコアと前記プレート間及び前記プレートと前記ピストンリング間は、互いに前記摺動方向に摺接して設けられることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項3】
前記ピストンコアに溝部を設け、この溝部内に前記コイルに接続するピンを配置して、溝内に樹脂を充填し、前記ピンを前記ピストンコアに固定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項4】
前記プレートは、摺動方向に貫通する貫通孔を備え、この貫通孔は前記流路に面して形成され、前記二つの流体室が連通することを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項5】
前記プレートは、かしめにより前記ピストンリングと一体化されることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項6】
磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体が封入されたシリンダと、
前記シリンダ内に摺動自在に配置され、前記シリンダ内を二つの流体室に画成するピストンアッシーと、
前記ピストンアッシーに形成され、前記ピストンアッシーの摺動によって前記二つの流体室間の前記磁気粘性流体が通過する流路と、
前記ピストンアッシーの内部に収容され前記流路に磁界を作用させるコイルと、
前記ピストンアッシーが連結されるロッドと、
を備える磁気粘性流体緩衝器において、
前記ピストンアッシーは、
外周面の一部に前記コイルが巻回される大径部と、この大径部より径の小さい小径部とからなる円筒状のピストンコアと、
前記ピストンコアの外周に所定の間隔をもって配置されることによって前記ピストンコアの外周面との間に前記流路を形成する円筒状のピストンリングと、
前記ピストンリングと一体化して設けられる環状のプレートと、
前記プレートを前記ピストンコアに固定するナットとからなり、
前記ピストンコアの前記小径部の外周面に前記ピストンプレートと一体化した前記プレートの内周面を前記ピストンコアの中心軸方向から摺接しつつ挿入し、
前記プレートを前記ピストンコアの前記大径部と前記小径部との段差部に押し付けるように前記ナットを前記ピストンコアに螺合して形成されることを特徴とする磁気粘性流体緩衝器の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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