説明

磁気粘性流体

【課題】 長期に渡り磁性粒子が安定に分散し、生産性に優れた磁気粘性流体を提供する。
【解決手段】 ウレア系グリース、分散媒及び磁性粒子を含有する磁気粘性流体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体、磁性流体又は磁気レオロジー材料と呼ばれる磁場に感応してその流体特性が変化する液状組成物に関する記述が非特許文献1に見られ、また、特許文献1では分散剤としてオレイン酸鉄等を含有する磁気粘性流体が開示され、その他、特許文献2〜5等にもその技術が開示されている。これらの磁気粘性流体は何れも、含有する磁性粒子(平均粒径:数十nm〜十数μm)が外部から印加された磁場によって配向して鎖状のクラスタを形成することにより、増粘又はゲル化し、その流動特性や降伏応力が著しく変化するものである。
【0003】
磁気粘性流体は、軸受け、シール材、センタリング装置、スピーカー、クラッチ、ブレーキ、ダンパー、緩衝装置、エンジンマウントや、昇降機能用部材、建築物制震装置等に利用されてきた。これらのうち、クラッチ、ブレーキ、ダンパー、緩衝装置等の用途においては、デバイスの作動中に磁気粘性流体が安定した特性を示すだけでなく、非作動状態(静止状態)においても磁性粒子の沈降を生じさせることなく、安定して分散媒中にこれを分散させることが要求されている。
【0004】
通常、磁気粘性流体を構成する磁性粒子の真比重は分散媒の真比重に比して著しく大きいため、磁性粒子の沈降を防止し、長期に渡り安定した分散性を維持させることは極めて困難である。一般に、磁気粘性流体中の磁性粒子の沈降を防止するためには、高粘度の分散媒を用いることが有効である。
【0005】
しかしながら、高粘度の分散媒を用いることは磁気粘性流体自身の粘度の上昇に帰結し、デバイスへの適用を考えた揚合、磁気粘性流体の注入操作が困難になるばかりか、磁力の印加時と非印加時での磁気粘性流体の粘度変化率が小さくなり、充分な性能を発揮することができるデバイスの構築ができなくなるという問題がある。
【0006】
一方、磁性粒子の沈降を防止する別の方策として、チキソトロピック剤(揺変剤)を配合する方法がある。これにより、磁気粘性流体中にチキソトロピック剤の水素結合力やvan der Waals力に由来する物理網目構造が形成され、静置状態において流体の見かけの粘度が上昇して磁性粒子の沈降を防止することができる。磁気粘性流体に力学的刺激が加えられた場合にはチキソトロピック剤による物理網目構造は破壊され、磁気粘性流体は低粘度流体としての挙動を示す。チキソトロピック剤による物理網目構造の形成と破壊は可逆であるため、再度磁気粘性流体を静置すれば、この見かけの粘度は上昇し磁性粒子の沈降を防止することができる。
【0007】
このような効果を発現するチキソトロピック剤としては通常膨潤性粘土鉱物が用いられており、このような技術が特許文献6〜9に開示されている。膨潤性粘土鉱物は分散媒中で膨潤し、水素結合を形成して物理網目構造を形成することによりチキソトロピック性を発現するが、この効果を発現させるために高級アルコール、水、炭酸プロピレン等の極性添加剤(邂膠剤)を添加する必要があり、−30〜−40℃といった低温環境においては極性添加剤(邂膠剤)の粘度上昇に起因する磁気粘性流体の大幅な粘度上昇を招くという不具合があった。
【0008】
また一般に、粘土鉱物は親水性が高く、鉱物油や合成油、シリコン油中では充分に膨潤しないため、これら油類を分散媒として用いる場合には粘土鉱物を長鎖脂肪酸等の疎水性有機化合物等で変性処理する必要があった。更に、分散媒中での粘土鉱物の膨潤には時間を要するため、安定したチキソトロピック性を示すようになるまで長時間に渡って分散媒と粘土鉱物を混練する必要があり、磁気粘性流体の生産性向上を阻害する要因となっていた。
【0009】
更に、特許文献8には、磁気応答粒子、キャリヤー流体及び増粘剤からなる磁気レオロジーグリース組成物が開示されており、増粘剤の一例としてポリウレアが開示されている。しかし、ここでは、使用するポリウレアやキャリヤー流体について詳細には検討されていない。また、磁気粒子の安定性も未だ充分とはいえず、更なる改良が望まれていた。
【0010】
【特許文献1】米国特許第2661596号明細書
【特許文献2】米国特許第3006656号明細書
【特許文献3】米国特許第4604229号明細書
【特許文献4】特開昭51−13995号公報
【特許文献5】特開昭51−44579号公報
【特許文献6】米国特許第5599474号明細書
【特許文献7】米国特許第6203717号明細書
【特許文献8】米国特許第6547986号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2004/84651号明細書
【非特許文献1】AIEE Transactions、「磁気流体の特性」、1955年2月、p.149−152(J.D.クーリッジJr.及びR.W.ハルバーグ著の論文第55−170)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、長期に渡り磁性粒子が安定に分散し、生産性に優れた磁気粘性流体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ウレア系グリース、分散媒及び磁性粒子を含有することを特徴とする磁気粘性流体である。
上記ウレア系グリースは、ジフェニルエーテルのアルキル置換体とウレア化合物とを含むものであることが好ましい。
【0013】
上記ジフェニルエーテルのアルキル置換体は、下記式(1);
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜24の炭化水素基を表す。m、nは、1≦m+n≦4を満たす0以上の整数を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
上記ウレア系グリースの含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.1〜25質量%であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の磁気粘性流体は、ウレア系グリース、分散媒及び磁性粒子を含有するものである。一般に、ウレア系グリースは、ウレア基(−NH−CO−NH−)を2個以上有する有機化合物、例えば、芳香族ジウレア、脂肪族ジウレア、脂環式ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等を増ちょう剤とし、これを鉱物油や合成油等の基油に分散させた非石鹸系の半固体から固体状の潤滑剤である。そして、このウレア系グリースは、針状のウレア化合物が三次元的に擬似ネットワークを形成して基油を抱き込んだ構造を有しているため、チキソトロピック性を示す。
【0018】
従って、本発明の磁気粘性流体は、上記ウレア系グリースを含むものであるため、分散媒にチキソトロピック性を付与することができる。そして、その結果、静置状態の磁気粘性流体中に含まれる磁性粒子を長期間安定に分散させることができ、磁性粒子の沈降を防止することができる。
【0019】
磁気粘性流体において、チキソトロピック剤として膨潤性粘土鉱物を用いる場合、安定したチキソトロピック性を付与するために、分散媒と膨潤性粘土鉱物とを長時間混練する必要があるが、本発明の磁気粘性流体は、ウレア系グリースを使用するものであるため、ウレア系グリースと分散媒とを長時間混練しなくても、容易に安定したチキソトロピック性を付与することができる。このため、本発明の磁気粘性流体は、簡便に製造することができるものである。
【0020】
磁気粘性流体において、チキソトロピック剤として膨潤性粘土鉱物、分散媒として油類を用いる場合、チキソトロピック性を付与するために、膨潤性粘土鉱物を疎水性有機化合物等で変性処理する必要がある。これに対して、本発明の磁気粘性流体では、上記ウレア系グリースを用いているため、このような変性処理を施さなくても、チキソトロピック性を充分に付与することができる。このため、磁気粘性流体の静置状態において流体の見かけの粘度を上昇させることができるため、磁性粒子の沈降を防止することができる。
【0021】
本発明の磁気粘性流体は、上記ウレア系グリースを用いるものであるため、高級アルコール、水、炭酸プロピレン等の極性添加剤(邂膠剤)を必須成分として添加しなくても、チキソトロピック性を発現させることができるものである。このため、−30〜−40℃の低温環境において、極性添加剤の粘度上昇に起因する磁気粘性流体の粘度上昇を防止することができる。
【0022】
上記ウレア系グリースとしては、例えば、基油と、増ちょう剤として用いられるウレア化合物と、必要に応じて添加剤とを含むものを挙げることができる。
上記基油としては、グリースの基油として従来公知のものを使用することができ、例えば、鉱物油及び/又は合成油等を挙げることができる。
【0023】
上記鉱物油としては、石油精製業の潤滑油製造プロセスで通常行われている方法により得られるものを使用することができ、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の処理を1つ以上行って精製したもの等を挙げることができる。
【0024】
上記合成油としては、例えば、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はこれらの水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ3−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン;アルキルベンゼン、ポリオキシアルキレングリコール;ポリフェニルエーテル;ジアルキルジフェニルエーテル等のジフェニルエーテルのアルキル置換体;シリコーン油;これらの混合物等を挙げることができる。
【0025】
上記基油のなかでも、ジフェニルエーテルのアルキル置換体を使用することが好ましい。上記ウレア系グリースのなかでも、基油としてジフェニルエーテルのアルキル置換体を含み、増ちょう剤としてウレア化合物を含むウレア系グリースを使用する場合には、分散媒により高いチキソトロピック性を付与することができる。このため、静置状態の磁気粘性流体中に含まれる磁性粒子をより長期間安定に分散させることができ、磁性粒子の沈降をより効果的に防止することができる。
【0026】
上記ジフェニルエーテルのアルキル置換体は、上記式(1)で表される化合物であることが好ましい。上記式(1)で表される化合物を使用することにより、上述したような本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0027】
上記式(1)中、上記R及び上記Rは、同一又は異なって、炭素数1〜24の炭化水素基を表す。上記炭素数1〜24の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐状のアルキル基を挙げることができる。炭素数が24を超えると、流動点が高くなるおそれがある。なかでも、本発明の効果が得られる点から、炭素数8〜24の炭化水素基であることが好ましく、炭素数10〜20のアルキル基であることがより好ましい。
【0028】
上記炭素数10〜20のアルキル基としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等を挙げることができる。上記アルキル基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。特に、炭素数12〜18のアルキル基であることが好ましい。
【0029】
上記式(1)中、上記m、上記nは、1≦m+n≦4を満たす0以上の整数を表す。m+n>4であると、酸化安定性が低下するおそれがある。上記m、nは、同一であっても異なっていてもよい。なお、上記式(1)で表される化合物において、置換された炭化水素基は、2つの芳香環を有するジフェニルエーテルのいずれの芳香環のいずれの位置に結合したものであってもよい。
【0030】
上記基油の100℃での動粘度は、2〜40mm/sであることが好ましく、3〜20mm/sであることがより好ましい。また、上記基油の粘度指数は、90以上であることが好ましく、100以上であることが好ましい。これにより、特に好適にチキソトロピック性を付与することができるため、磁性粒子をより安定に分散させることができる。
【0031】
本発明において、上記ジフェニルエーテルのアルキル置換体としては、例えば、芳香環を酸素原子で結合した上記式(1)で表される化学構造を有する周知のアルキル化ジフェニルエーテル油を使用することができる。
【0032】
上記ウレア化合物としては、ウレア基(−NH−CO−NH−)を2個以上有する有機化合物(芳香族ジウレア、脂肪族ジウレア、脂環式ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等)を挙げることができる。なかでも、本発明の効果を効果的に得ることができる点から、ジウレア化合物を用いることが好ましく、下記式(2)
A−CONH−R−NHCO−B (2)
(式中、Rは2価の炭化水素基を表す。A及びBは、同一又は異なって、NHR又はNRを表す。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数6〜20の炭化水素基を表す。)で表される化合物の1種又は2種以上を用いることがより好ましい。
【0033】
上記Rで表される2価の炭化水素基としては、直鎖状又は分枝状のアルキレン基、直鎖状又は分枝状のアルケニレン基、シクロアルキレン基、芳香族基等を挙げることができる。なかでも、本発明の効果を効果的に得ることができる点から、炭素数6〜20の炭化水素基であることが好ましく、炭素数6〜15の炭化水素基であることがより好ましい。具体的には、エチレン基、2,2−ジメチル−4−メチルへキシレン基、下記式(3)〜(11)で表される基を挙げることができ、特に下記式(4)、(6)で表される基が好ましい。
【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
上記R、R、Rとしては、直鎖状又は分枝状のアルキル基、直鎖状又は分枝状のアルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等を挙げることができる。具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状又は分枝状のアルキル基;ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、エイコセニル基等の直鎖状又は分枝状のアルケニル基;シクロヘキシル基;メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1−メチル−3−プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、アミルシクロヘキシル基、アミルメチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基、オクチルシクロヘキシル基、ノニルシクロヘキシル基、デシルシクロヘキシル基、ウンデシルシクロヘキシル基、ドデシルシクロヘキシル基、トリデシルシクロヘキシル基、テトラデシルシクロヘキシル基等のアルキルシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;トルイル基、エチルフェニル基、キシリル基、プロピルフェニル基、クメニル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基、ジメチルナフチル基、プロピルナフチル基等のアルキルアリール基;ベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基等のアリールアルキル基等を挙げることができる。なかでも、本発明の効果を得る点から、シクロヘキシル基、オクタデシル基、トルイル基であることが好ましい。
【0044】
上記ジウレア化合物は、例えば、一般式OCN−R−NCOで表されるジイソシアネートと、一般式NH、NHRで表される化合物又はこれらの混合物とを、基油中で10〜200℃で反応させることにより製造することができる。ここで、R、R、Rは、上記式(2)中のR、R、Rと同様である。
【0045】
上記ウレア化合物の含有量は、上記ウレア系グリース100質量%中に、2〜30質量%であることが好ましい。2質量%未満であると、増ちょう剤としての効果が少ないため充分なグリース状とはならないおそれがある。30質量%を超えると、ウレア系グリースが過剰に硬くなり、充分な性能を発揮することができないおそれがある。より好ましくは、5〜20質量%である。
【0046】
上記ウレア系グリースの含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.1〜25質量%であることが好ましい。0、1質量%未満であると、充分なチキソトロピック性を発現させることができなくなり、磁性粒子が沈降して分散安定性に優れた磁気粘性流体を得ることができなくなるおそれがある。25質量%を超えると、磁性粒子の沈降は抑えられるものの磁気粘性流体は流動性が低下し、デバイスに適用した場合に充分な性能を発揮させることができないおそれがある。より好ましくは、1〜20質量%である。なお、上記ウレア系グリース中の基油や添加剤等の成分と、上記磁気粘性流体中の分散媒や添加剤等の成分とが同一である場合、上記ウレア系グリースの含有量には、上記磁気粘性流体中の分散媒や添加剤の量は含まない。
【0047】
上記添加剤としては、従来からグリースに使用される公知の耐摩耗剤、極圧添加剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤(さび止め剤)等を挙げることができる。ここで、上記極圧添加剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤としては、例えば、後述するものを挙げることができる。
【0048】
上記ウレア系グリースは、混和ちょう度が250〜350であることが好ましく、300〜330であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、磁性粒子の分散安定性を向上させることができる。上記混和ちょう度の試験方法は、JIS K2220により、グリースを規定の混和器に採取して、25℃に保持し、更に60回混和した直後のちょう度を求めるものである。
【0049】
上記ウレア系グリースは、離油度(100℃、30時間)が0〜3質量%であることが好ましく、0〜1.5質量%であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、磁性粒子の分散安定性を向上させることができる。上記離油度(100℃、30時間)の試験方法は、JIS K2220により、円錐型の金網ろ過器中で100℃に保った試料から、30時間後に分離した油分の質量割合を求めるものである。
【0050】
上記ウレア系グリースは、離油度(150℃、30時間)が0〜4質量%であることが好ましく、0〜2.5質量%であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、磁性粒子の分散安定性を向上させることができる。上記離油度(150℃、30時間)の試験方法は、JIS K2220により、円錐型の金網ろ過器中で150℃に保った試料から、30時間後に分離した油分の質量割合を求めるものである。
【0051】
上記ウレア系グリースは、蒸発量が0〜1.0質量%であることが好ましく、0〜0.5質量%であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、磁性粒子の分散安定性を向上させることができる。上記蒸発量の試験方法は、JIS K2220により、試料を規定温度(98.9℃)に保った浴中で、加熱空気を試料表面に22時間通じ、試料の減量を求めるものである。
【0052】
上記ウレア系グリースは、滴点が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。これにより、磁性粒子の分散安定性を向上させることができる。上記滴点の試験方法は、JIS K2220により、試料を規定の装置で規定の条件により加熱した場合、半固体から液状になりかけて、その初滴が落下したときの温度を求めるものである。
【0053】
本発明の磁気粘性流体は、分散媒を含むものである。
上記分散媒は、ウレア系グリース剤や磁性粒子を分散させることが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、へキサン等の有機溶媒;石油系炭化水素からなる鉱物油類;アルキルベンゼン、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、ポリブテン、シリコン油、フッ素油等の合成油類;魚油、豚油、牛油等の動物性油;大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、やし油、綿実油、ひまわり油、ひまし油等の植物性油;水やグリコール誘導体類;エチルメチルイミダゾリウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−メチルピラゾリウム塩等に代表されるイオン性液体(常温溶融塩)類等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記分散媒は、磁気粒子を安定に分散させることができる点から、上記ウレア系グリースの基油と同様の構造を有する油類(特に合成油)を用いることが好ましい。なかでも、上記ウレア系グリースの基油、上記分散媒として、共に、ジフェニルエーテルのアルキル置換体を用いることがより好ましく、上記式(1)で表される化合物を用いることが特に好ましい。これにより、本発明の効果をより効果的に得ることができる。
【0055】
上記磁気粘性流体は、磁性粒子を含むものである。
上記磁性粒子としては磁性を有する物質であれば特に限定されず、例えば、鉄、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、ニッケル、コバルト、アルミニウム含有鉄合金、ケイ素含有鉄合金、コバルト含有鉄合金、ニッケル含有鉄合金、バナジウム含有鉄合金、モリブデン含有鉄合金、クロム含有鉄合金、タングステン含有鉄合金、マンガン含有鉄合金、銅含有鉄合金等の鉄合金、ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体からなる常磁性、超常磁性又は強磁性化合物粒子及びこれらの混合物からなる粒子等を挙げることができる。これらの磁性粒子は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記磁性粒子のなかでも、僅かな磁場でも大きな応力を発現する点から、カルボニル鉄が好ましい。
上記磁性粒子は、これらの磁性粒子の表面に分散処理を施したものを用いてもよい。表面に分散処理を施すことにより磁性粒子の分散性が向上し、応答性に優れた磁気粘性流体を得ることができる。表面に分散処理が施された磁性粒子(表面処理磁性粒子)としては、磁性粒子の表面をシランカップリング剤で処理したもの等を挙げることができる。
【0057】
上記表面処理磁性粒子としては、磁性粒子の表面をエポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤によって処理したもの等を挙げることができる。上記エポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤としては、1分子中に少なくとも1つのエポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤であれば特に限定されないが、下記式(12)で表される化合物が好適に用いられる。
【0058】
X−(Y)−SiR3−b (12)
式中、Xはエポキシ基、環状エポキシ基又はアミノ基を表す。Yは(CH、又は、エーテル結合、エステル結合又はケトン結合を含む炭化水素基を表す。kは1〜4の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基を表す。Lはハロゲン原子、水酸基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基等のアルコキシル基、又は、ホルミル基、アセトキシル基、プロピオニルオキシル基、ブチリルオキシル基等のアシルオキシル基を表す。bは1〜3の整数を表す。
【0059】
上記磁性粒子の表面をエポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤によって処理する方法としては、例えば、上記エポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤をアルコール等の溶剤に溶解させた溶液に、上記磁性粒子を浸漬するか、又は、上記シランカップリング剤溶液を上記磁性粒子に噴霧した後、溶剤を揮発させることにより行うことができる。更に、溶剤を揮発させた後に、40〜150℃で5分〜24時間加熱処理を行ってもよい。上記表面処理磁性粒子は、未処理の磁性粒子と比べて、遙に分散安定性に優れる。
【0060】
上記エポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤の使用量としては、磁性粒子の比表面積により適宜調整することができるが、例えば、上記磁性粒子100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましい。
【0061】
上記磁性粒子の粒径は、0.01〜100μmであることが好ましい。0.01μm未満であると、粒径が小さすぎるために磁力印加時の磁気粘性流体の粘度上昇率が小さくなり、デバイスに応用した際に充分な性能を発揮することができなくなるおそれがある。100μmを超えると、磁性粒子の凝集・沈降が起き易くなり、分散安定性に優れた磁気粘性流体を得ることができなくなるおそれがある。0.5〜20μmであることがより好ましい。
【0062】
上記磁気粘性流体において、上記磁性粒子の含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、10〜95質量%であることが好ましい。10質量%未満であると、磁気印加時に磁気粘性流体の粘度が充分に上昇せず、デバイスに適用した場合に充分な性能を発揮することができなくなるおそれがある。95質量%を超えると、磁気粘性流体の粘度が上昇し過ぎて流体としての機能を発現しなくなり、デバイスに適用した場合に充分な性能を発揮することができなくなるおそれがある。50〜85質量%であることがより好ましい。
【0063】
上記磁気粘性流体は、磁気粘性流体の特性、とりわけチキソトロピック性を阻害しない範囲において、油性向上剤、極圧添加剤、固体潤滑剤、洗浄分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、さび止め剤、消泡剤等の添加剤を含むものであってもよい。なお、これらの添加剤は、予めウレア系グリースの中に配合されていても良い。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記油性向上剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪族アミン、脂肪族アミド、エステル類等を挙げることができる。
上記極圧添加剤としては、例えば、オレフィンポリサルファイド、ジベンジルジサルファイド、アルキルリン酸エステル、アリルリン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩、チオリン酸エステル及びこのアミン塩、ナフテン酸塩、塩素化パラフィン等を挙げることができる。
【0065】
上記固体潤滑剤としては、例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。
上記洗浄分散剤としては、例えば、金属スルファネート、金属ホスホネート、金属カルボキシレート、金属フェネート、こはく酸イミド、こはく酸エステル、ベンジルアミン、アルキルフェノールアミン類等をあげることができる。
【0066】
上記粘度指数向上剤としては、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン、オレフィン系共重合体、ポリアルキルスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、水素化スチレン−ジエン共重合体等を挙げることができる。
【0067】
上記流動点降下剤としては、例えば、低分子量のポリメタクリル酸エステル及びポリアクリル酸エステル、塩素化パラフィン−ナフタレン縮合物、塩素化パラフィン−フェノール縮合物、ポリアルキルスチレン類等を挙げることができる。
【0068】
上記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系誘導体、アミン類、ベンゾトリアゾール、リン酸亜鉛誘導体、金属フェネート類、有機窒素化合物類等を挙げることができる。上記さび止め剤としては、例えば、金属石鹸のアミン塩、こはく酸誘導体、金属スルフォネート塩、オレイン酸誘導体、アルキルアミン類、リン酸エステル類等を挙げることができる。
【0069】
上記消泡剤としてはシリコン系化合物、脂肪族アルコール類、金属石験、こはく酸誘導体、ポリアクリル酸エステル等を挙げることができる。本発明においては、上記添加剤として、炭酸プロピレンやポリエチレングリコールベースの非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0070】
本発明の磁気粘性流体は、上述したように高級アルコール、水、炭酸プロピレン等の極性添加剤(邂膠剤)を特に必須成分として用いなくてもよいものである。このため、上記極性添加剤を用いる場合、上記極性添加剤の含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.05質量%以下であることが好ましい。
【0071】
本発明の磁気粘性流体は、25℃、剪断速度1(1/s)における粘度が3〜20Pa・sであることが好ましく、7〜16Pa・sであることがより好ましい。また、25℃、剪断速度500(1/s)における粘度が0.1〜1.0Pa・sであることが好ましく、0.1〜0.6Pa・sであることがより好ましい。この場合、本発明の磁気粘性流体は、良好な特性を有する。なお、上記粘度は、ビスコテック社製ストレスレオメーターRC20−CPS(粘度測定に用いる装置)より測定される値である。
【0072】
本発明の磁気粘性流体は、ウレア系グリース、分散媒、磁性粒子及び必要に応じてその他の添加剤を混錬すること等により製造することができる。ここで、混錬・分散の手順は特に限定されず、計量した総ての磁気粘性流体の構成材料を一度に混練・分散する方法でも、予め磁性粒子以外の材料を予備混錬・分散しておき、ここに磁性粒子を添加して再度混錬・分散を行う多段階混錬・分散法でも良い。混錬・分散の手段は特に限定されず、サンドミル・ビーズミル・ボールミル・ロールミル・ニーダー・プラネタリーミキサー・ハイスピードミキサー・万能混合機・ホモジナイザー等を挙げることができる。また、混錬・分散性を高めるために、加熱装置や超音波浴等を併用することも可能である。
【0073】
本発明の磁気粘性流体は、ウレア系グリース、分散媒及び磁性粒子を含有するものである。このため、上記磁気粘性流体は、充分なチキソトロピック性を付与することができるため、静置状態の磁気粘性流体中に含まれる磁性粒子を長期間安定に分散させることができ、磁性粒子の沈降を防止することができる。また、上記磁気粘性流体は、簡便に製造することができるものである。従って、上記磁気粘性流体は、磁力印加により発生応力の制御を良好に行うことができるものであり、ダンパーや緩衝装置、ブレーキやクラッチ等の応力制御装置に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0074】
本発明の磁気粘性流体は、高いチキソトロピック性を示すため、磁性粒子の沈降防止能に優れており長期間安定した性能を持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
実施例1 磁気粘性流体の作製
表1に示した組成比で、全量が430gとなるように磁気粘性流体の構成材料を計量した。分散媒である合成オイル(松村石油研究所製「モレスコハイルーブLB−15」、アルキル置換ジフェニルエーテル)と、ウレア系グリース(松村石油研究所製「モレスコハイグリースUM−1」、基油 アルキル置換ジフェニルエーテル、増ちょう剤 ウレア化合物)をホモジナイザーにより7600rpmで10分間攪拌してチキソトロピック性を示す予備混合物を得た。ここに磁性粒子であるカルボニル鉄粉(BASF製カルボニル鉄粉CM、粒径D50≒7μm)を加え、1/4インチのスチールボールをメディアとしたボールミルで1.5時間混練して磁気粘性流体を作製した。
【0076】
実施例2
ウレア系グリース(松村石油研究所製「モレスコハイグリースUM−1」)、合成油、磁性粒子の配合量を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法により磁気粘性流体を作製した。
【0077】
比較例1
表1に示した組成比で、全量が430gとなるように磁気粘性流体の構成材料を計量した。分散媒である合成オイル(松村石油研究所製「モレスコハイルーブLB−15」、アルキル置換ジフェニルエーテル)とチキソトロピック剤である有機化ベントナイト(Elements Specialities製「BENTONE34」)及び極性添加剤(1)(炭酸プロピレン)をホモジナイザーにより7600rpmで10分間攪拌した。これを1/4インチのスチールボールをメディアとしたボールミルで24時間混錬してチキソトロピック性を示す予備混合物を得た。これに磁性粒子であるカルボニル鉄粉(BASF製カルボニル鉄粉CM)を加え、再度ボールミルにて1.5時間混錬して磁気粘性流体を作製した。
【0078】
比較例2
表1に示した組成比で、全量が430gとなるように磁気粘性流体の構成材料を計量した。分散媒である炭化水素系鉱物油とチキソトロピック剤である有機化ベントナイト(Elements Specialities製「BENTONE34」)及び極性添加剤(2)(メタノールと水の体積比90:10の混合物)をホモジナイザーにより7600rpmで10分間攪拌した。これを1/4インチのスチールボールをメディアとしたボールミルで24時間混錬してチキソトロピック性を示す予備混合物を得た。ここに分散剤I(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)と磁性粒子であるカルボニル鉄粉(BASF製カルボニル鉄粉CM)を加え、再度ボールミルにて1.5時間混錬して磁気粘性流体を作製した。
【0079】
比較例3
表1に示した組成比で、全量が430gとなるように磁気粘性流体の構成材料を計量した。分散媒であるシリコン油とチキソトロピック剤であるゲルタイプシリカをホモジナイザーにより7600rpmで10分間攪拌した。これを1/4インチのスチールボールをメディアとしたボールミルで1時間混錬してチキソトロピック性を示す予備混合物を得た。ここに分散剤II(アミノ変性シリコンオイル)と磁性粒子であるカルボニル鉄粉(BASF製カルボニル鉄粉CM)を加え、再度ボールミルにて1時間混錬して磁気粘性流体を作製した。
【0080】
なお、実施例で使用したウレア系グリース「モレスコハイグリースUM−1」は、混和ちょう度313、離油度(100℃、30時間)1.4質量%、離油度(150℃、30時間)2.0質量%、蒸発量0.35質量%、滴点260℃以上であった。これらの物性値は、上述した測定方法により得られた値である。
また、「モレスコハイグリースUM−1」中に含まれる基油の100℃での動粘度13.2mm/s、基油の粘度指数124であった。
【0081】
〔磁気粘性流体の評価〕
実施例、比較例で得られた磁気粘性流体の沈降安定性及び粘度を以下の方法により評価した。
【0082】
(沈降安定性の評価)
磁気粘性流体を50mlの共栓付メスシリンダーに50ml入れて栓をし、25℃雰囲気に静置した。静置から3日後、3ケ月後の磁気粘性流体に生じた上澄み液の量を測定し、この体積分率(vol%)〔上澄み液の体積(ml)×100/50(ml)〕を評価した。
【0083】
(粘度の評価)
ビスコテック社製ストレスレオメーターRC20−CPSを用いて25℃、剪断速度1(1/s)及び500(1/s)における磁気粘性流体の粘度(Pa・s)を評価した。
【0084】
【表1】

【0085】
表1から、実施例で得られた磁気粘性流体は、優れた沈降安定性を有し、剪断速度1(1/s)及び500(1/s)において、好適な低粘度流体としての挙動を示すものであった。一方、比較例で得られたものは、沈降安定性に劣るものであり、そのうち、比較例1、2は作製に長時間の混練を要した。また、比較例3で得られたものは、比較的高い粘度を示すものであった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の磁気粘性流体は、ダンパーや緩衝装置、ブレーキやクラッチ等の応力制御装置に好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレア系グリース、分散媒及び磁性粒子を含有することを特徴とする磁気粘性流体。
【請求項2】
ウレア系グリースは、ジフェニルエーテルのアルキル置換体とウレア化合物とを含むものである請求項1記載の磁気粘性流体。
【請求項3】
ジフェニルエーテルのアルキル置換体は、下記式(1);
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜24の炭化水素基を表す。m、nは、1≦m+n≦4を満たす0以上の整数を表す。)
で表される化合物である請求項2記載の磁気粘性流体。
【請求項4】
ウレア系グリースの含有量は、磁気粘性流体100質量%中に、0.1〜25質量%である請求項1、2又は3記載の磁気粘性流体。


【公開番号】特開2006−253239(P2006−253239A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64646(P2005−64646)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】