説明

磁気記憶媒体、情報記憶装置、および磁気記憶媒体製造方法

【課題】記録密度のさらなる向上を実現することができる磁気記憶媒体、そのような磁気記憶媒体が搭載された情報記憶装置、上記のような磁気記憶媒体を製造する磁気記憶媒体製造方法を提供する。
【解決手段】磁性材料によって形成され、情報を磁化の向きとして記憶する複数のドット210と、非磁性材料によって形成され、互いに隣り合うドット210どうしを互いに磁気的に分離する分離部とを備え、各ドット210において、分離部に接する境界部分210Aの磁化反転磁界が、その境界部分を挟んで分離部から離れた中央部分210Bの磁化反転磁界よりも大きいものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、情報を磁化の向きとして記憶する磁気記憶媒体、そのような磁気記憶媒体を備えた情報記憶装置、および、上記のような磁気記憶媒体を製造する磁気記憶媒体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は、データの高速アクセス及び高速転送が可能な大容量記憶装置として、情報記憶装置の主流になっている。HDDには、情報を磁化の向きとして記憶する磁気記憶媒体の一種である磁気ディスクが搭載されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。このような磁気ディスクについては、これまでも記録密度の向上が求められてきたが、今後も、さらなる記録密度の向上が求められている。
【0003】
ここで、近年、さらなる記録密度の向上が期待できる磁気ディスクとして、以下に説明するビットパターンドメディアやディスクリートトラックメディア等が提案されている。ビットパターンドメディアは、磁性材料で形成され各々が単磁区となる複数のドットがディスク基板上に2次元的に配列され、非磁性材料で形成された分離部でドットどうしが互いに磁気的に分離されたものである。また、ディスクリートトラックメディアは、磁性材料でディスク基板の中心の周りを周回するようにトラックが形成され、非磁性材料で形成された分離部で隣り合うトラックどうしが互いに磁気的に分離されたものである。ビットパターンドメディアやディスクリートトラックメディアによれば、磁気ディスクにおけるトラック間隔やドット間隔を効果的に縮めることができるので、さらなる記録密度の向上を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−115519号公報
【特許文献2】特開平9−44831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような磁気ディスクにおいて、トラック間隔やドット間隔をある程度以上に短縮すると、隣り合うトラックどうしやドットどうしで記録干渉が生じ易くなる。この記録干渉とは、即ち、記録時において磁気記録情報が目的外の隣のトラックや隣のドットに重ね書きされてしまう現象のことである。記録干渉は、再生信号のS/N比の低下を招き、エラーレートの劣化を引き起こす要因となる。このため、現状では、ビットパターンドメディアやディスクリートトラックメディアでも、ある程度以上の記録密度の向上が困難となっている。
【0006】
本件は上記事情に鑑み、記録密度のさらなる向上を実現することができる磁気記憶媒体、そのような磁気記憶媒体が搭載された情報記憶装置、および、上記のような磁気記憶媒体を製造する磁気記憶媒体製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する磁気記憶媒体の基本形態は、基板と、情報記憶部と、分離部とを備えている。
【0008】
情報記憶部は、上記基板上に磁性材料によって、その基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成された、情報を磁化の向きとして記憶するものである。
【0009】
分離部は、非磁性材料によって上記基板上の上記所定箇所に形成された、上記情報記憶部の、その所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離するものである。
【0010】
さらに、この基本形態では、上記情報記憶部が、上記分離部に接する境界部分と、上記境界部分が有する磁化反転磁界よりも小さな磁化反転磁界を有する、その境界部分を間に挟むことで上記分離部から離れた非境界部分とを備えたものとなっている。
【0011】
また、上記目的を達成する情報記憶装置の基本形態は、上記磁気記憶媒体と、その磁気記憶媒体に対して、情報記憶及び/又は情報再生を実行するヘッドとを備えている。
【0012】
また、上記目的を達成する磁気記憶媒体製造方法の基本形態は、情報記憶部形成過程と、酸化過程と、分離部形成過程とを有している。
【0013】
情報記憶部形成過程は、情報を磁化の向きとして記憶する情報記憶部を、基板上に、磁性材料によって、その基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成する過程である。
【0014】
酸化過程は、上記情報記憶部において、上記所定箇所を間に挟んで互いに対向している部分に対する局所的な酸化によってその部分の磁化反転磁界を、その部分を間に挟むことでその所定箇所から離れた他の箇所の磁化反転磁界よりも増やす過程である。
【0015】
分離部形成過程は、上記情報記憶部の、上記所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離する分離部を、非磁性材料で上記基板上の上記所定箇所に形成する過程である。
【発明の効果】
【0016】
本件によれば、記録密度のさらなる向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】基本形態について説明した情報記憶装置の具体的な一実施形態に相当するハードディスク装置(HDD)を示す図である。
【図2】図1の磁気ディスクの詳細な構造を模式的に示す図である。
【図3】図2に示す各ドットにおける磁化反転磁界の分布を模式的に示す図である。
【図4】磁化反転磁界が一様に分布している比較例のドット間において生じる記録干渉について説明する図である。
【図5】境界部分の磁化反転磁界が中央部分の磁化反転磁界よりも大きくなった分布によって、記録干渉が回避されることについて説明する図である。
【図6】本実施形態の磁気ディスクを製造するための製造方法を示す工程図である。
【図7】図6のステップS102の処理で形成される複数の層を模式的に示す図である。
【図8】図6の製造方法で実行されるナノインプリント処理の詳細な工程を示す図である。
【図9】図6の製造方法で実行されるドライプロセスの詳細な工程を示す図である。
【図10】第2実施形態の磁気ディスクの詳細な構造を模式的に示す図である。
【図11】図9の各トラックを構成する第1磁性層を、グラニュラ構造が分かるように示す模式図である。
【図12】図10に示す各ドットにおける磁化反転磁界の分布を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、上記に基本形態について説明した磁気記憶媒体、情報記憶装置、および磁気記憶媒体製造方法の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
まず、第1実施形態について説明する。
【0020】
図1は、基本形態について説明した情報記憶装置の具体的な一実施形態に相当するハードディスク装置(HDD)を示す図である。
【0021】
この図1に示すHDD100には、まず、筐体101と、その筐体101に収納され、図示しないディスクコントロールモータによって、回転軸102を中心に回転駆動される磁気ディスク200とが備えられている。また、このHDD100には、磁気ディスク200に対して情報の記録や再生を行なう磁気ヘッド103を先端に備え、回動軸104を中心に回動するキャリッジアーム105が備えられている。そして、このHDD100には、そのキャリッジアーム105を回動させて、磁気ヘッド103を磁気ディスク200の半径が伸びる方向に移動させるボイスコイルモータ106が備えられている。さらに、このHDD100には、このHDD100の全体的な動作を制御する制御回路107が備えられている。
【0022】
このHDD100では、磁気ディスク200に対する情報記録や情報再生の際には、磁気ディスク200が回転駆動されている状態においてボイスコイルモータ106によってキャリッジアーム105が回動される。この回動により、そのキャリッジアーム105の先端の磁気ヘッド103が、磁気ディスク200の表面に沿って運ばれる。これにより、磁気ヘッド103の、磁気ディスク200に対する位置決めが行われる。そして、そのように位置決めされた磁気ヘッド103によって、磁気ディスク200の回転に同期して情報記録や情報再生が実行される。また、本実施形態のHDD100では、情報が、ディスク面に垂直な方向の磁化の向きとして磁気ディスク200に記録されるいわゆる垂直磁気記録方式が採用されている。
【0023】
上記の磁気ディスク200が、基本形態について説明した磁気記憶媒体の具体的な一実施形態に相当する。また、上記の磁気ヘッド103が、上述の情報記憶装置の基本形態におけるヘッドの一例に相当する。
【0024】
以下、このHDD100に搭載されている磁気ディスク200について説明する。
【0025】
図2は、図1の磁気ディスクの詳細な構造を模式的に示す図である。
【0026】
この図2のパート(A)には、磁気ディスク200における図1の領域Aの上面拡大図が示されている。また、この図2のパート(B)には、その図1の領域Aの断面拡大図が示されている。尚、図2のパート(A)に示す上面拡大図では、図中の矢印Xが示す方向が、図1の磁気ディスク200の半径が延びる方向であり、図中の矢印Yが示す方向が、その磁気ディスク200の外周に沿った方向である。また、図2のパート(B)に示す断面拡大図は、パート(A)の上面拡大図中の切断線B−Bに沿った断面を示している。
【0027】
本実施形態の磁気ディスク200は、いわゆるビットパターンドメディアである。即ち、この磁気ディスク200は、ディスク基板201の外周に沿う方向(矢印Yの方向)と、ディスク基板201の半径が延びる方向(矢印Xの方向)とについて、互いに間隔を空けて2次元的に配列された、各々が単磁区となる複数のドット210を有している。また、ドット210どうしは、ドット210間に充填された非磁性材料で形成された分離部220によって分離されている。
【0028】
また、矢印Yの方向に並んだ複数のドット210によってトラックが構成されている。そして、矢印Xの方向のドット210の間隔がトラック間隔となる。以下では、この矢印Xの方向のドット210の間隔をトラック間隔Tsと呼ぶ。また、矢印Yの方向のドット210の間隔については、単にドット間隔Dsと呼ぶ。
【0029】
ディスク基板201が、上記の基本形態における基板の一例に相当する。また、複数のドット210の集合が、上記の基本形態における情報記憶部の一例に相当する。また、分離部220が、上記の基本形態における分離部の一例に相当する。
【0030】
この磁気ディスク200は、ディスク基板201上に、各々後述する軟磁性裏打ち層(SUL:Soft Under Layer)202と、下地層203とが形成され、その下地層203の上にドット210と分離部220とが形成された構造となっている。また、この磁気ディスク200では、ドット210と分離部220との表面が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなる保護膜204で覆われている。
【0031】
また、本実施形態では各ドット210が、相対的に磁化反転磁界が大きい第1磁性層211と相対的に磁化反転磁界が小さい第2磁性層212とが重ね合わされた2層構造を有するものとなっている。この2層構造によれば、まず、第1磁性層211の大きな磁化反転磁界によって、各ドット210について、熱揺らぎに対する高い耐性が実現される。さらに、第2磁性層212の小さな磁化反転磁界が、記録時における第1磁性層211での磁化反転を補助する。これにより、各ドット210について、熱揺らぎに対する高い耐性を損なうことなく、第1磁性層211の大きな磁化反転磁界に起因する情報記録の困難さが緩和されることとなる。
【0032】
このことは、上述の基本形態に対し、上記情報記憶部は、互いに磁化反転磁界が異なる2つの磁性層が重ね合わされた2層構造を有するものであるという応用形態が好適であることを意味している。
【0033】
本実施形態のドット210の集合は、この応用形態における情報記憶部の一例にも相当している。
【0034】
また、本実施形態のHDD100では、上述のように垂直磁気記録方式が採用されている。そのため、各ドット210の第1磁性層211および第2磁性層212は、垂直磁気記録方式に即して、両方とも、ディスク面に垂直な方向に磁化が向き易い磁性層となっている。
【0035】
以下、本実施形態の磁気ディスク200の各構成要素についてさらに具体的に説明する。
【0036】
ディスク基板201は、直径が2.5インチ(63.5mm)のディスク形状を有した板厚が0.635mmのガラス基板である。
【0037】
軟磁性裏打ち層202は、磁気ヘッド103からの記録磁界の磁路として働くものである。本実施形態では、軟磁性裏打ち層202は、厚さが20nmの2枚のCo80Zr10Nb10膜で、厚さが0.8nmのRu膜を挟んだ3層構造を有している。尚、「Co80Zr10Nb10」という記載における下付きの数字は、各数字が添えられている元素の組成比を表わしている。各Co80Zr10Nb10膜は、ディスク面に平行で半径に沿った方向の磁化容易軸を有している。また、両者に挟まれたRu膜は、2枚のCo80Zr10Nb10膜を互いに反強磁性的に結合させる働きをし、これにより各Co80Zr10Nb10膜の磁化は互いに逆方向を向くこととなる。この構造は、アンチパラレル構造(APS:Anti−Parallel−Structure)と呼ばれている。このアンチパラレル構造により、各Co80Zr10Nb10膜の磁化が発する漏れ磁界は互いに打ち消しあうこととなり、軟磁性裏打ち層202からの漏れ磁界が抑制され、情報再生時のノイズが抑えられることとなっている。この軟磁性裏打ち層202が有する飽和磁化は約1200emu/ccであり、異方性磁界は120Oeとなっている。
【0038】
下地層203は、第1磁性層211の形成時に、この第1磁性層211で、垂直磁気記録方式に即した、ディスク面に垂直な方向に磁化が向き易くするための結晶成長を助ける役割を果たすものである。この下地層203は、Ptで形成された、厚さが5nmの層であり、第1磁性層211の形成時に上記のような結晶成長を促すために(111)配向している。
【0039】
第1磁性層211は、ディスク面に垂直な方向に磁化が向き易い磁性層であり、Co60Pt40で形成された厚さが7nmの層である。この第1磁性層211の磁気特性は、飽和磁化が550emu/cc、異方性磁界が30kOeとなっている。この第1磁性層211は、異方性磁界の上記のような大きな値から分かるように、大きな磁気異方性を有している。そして、このように大きな磁気異方性を有しているということは、この第1磁性層211が、大きな磁化反転磁界を有していることを意味している。
【0040】
第2磁性層212も、第1磁性層211と同様にディスク面に垂直な方向に磁化が向き易い磁性層である。この第2磁性層212は、Co80Cr15Ptで形成された厚さが5nmの層であり、その磁気特性は、飽和磁化が1056emu/cc、異方性磁界が1.6kOe、異方性定数が8.5×10erg/ccとなっている。この第2磁性層212は、異方性磁界が上記の第1磁性層211の異方性磁界よりも大幅に小さくなっている。即ち、この第2磁性層212は、第1磁性層211よりも磁気異方性が小さく、延いては第1磁性層211よりも磁化反転磁界が小さくなっている。
【0041】
分離部220は、ドット210間に充填されたアモルファスの非磁性のCoCrの層である。
【0042】
保護層204は、厚さが3nmのDLCの膜である。
【0043】
さらに、この図2では図示が省略されているが、本実施形態では、保護層204の上に、ディスク面に磁気ヘッド103が接触したときのディスク面に対する磁気ヘッド103の滑りを良くするための潤滑剤が厚さ1nmで塗布されている。
【0044】
ここで、本実施形態では、各ドット210における磁化反転磁界が、ドット210内において、以下に説明するように分布している。
【0045】
図3は、図2に示す各ドットにおける磁化反転磁界の分布を模式的に示す図である。
【0046】
この図3のパート(A)には、図2に示す各ドット210における磁化反転磁界の分布が、ハッチング密度の変化によって模式的に示されている。また、この図3のパート(B)には、1個のドット210の拡大図と、ドット210における磁化反転磁界Hsの分布を示すグラフG1とが示されている。
【0047】
また、図3のパート(B)のグラフG1では、ドット210を図中の横断線C−Cに沿って横切ったときの磁化反転磁界Hsの分布が第1ラインL1によって示されている。このグラフG1では、縦軸に磁化反転磁界Hsがとられ、横軸に図中の横断線C−C上での位置がとられている。
【0048】
この図3に示されているように、ドット210内では、分離部220に接する境界部分210Aが有する磁化反転磁界Hsが、その境界部分210Aで囲まれた中央部分210Bが有する磁化反転磁界Hsよりも大きくなっている。この本実施形態のドット210における境界部分210Aが、上述の基本形態にいう境界部分の一例に相当する。そして、このドット210における中央部分210Bが、その基本形態における非境界部分の一例に相当する。
【0049】
本実施形態では、トラック間隔やドット間隔が狭いと発生し勝ちで高記録密度化の妨げとなっていた後述の記録干渉が、ドット210の境界部分の大きな磁化反転磁界Hsによって回避されることとなっている。
【0050】
以下、本実施形態における記録干渉の回避について説明する前に、まず、本実施形態のドット210とは異なり、磁化反転磁界が一様に分布しているドットを比較例として取り上げ、記録干渉について説明する。
【0051】
図4は、磁化反転磁界が一様に分布している比較例のドット間において生じる記録干渉について説明する図である。
【0052】
尚、この図4では、図2に示す本実施形態の磁気ディスク200の構成要素と同等な構成要素については、図2と同じ符号が付されており、以下では、これらの構成要素についての重複説明を省略する。
【0053】
この図4には、この比較例に係る磁気ディスク300における、この磁気ディスク300の半径が延びる方向に並ぶ3つのドット310に跨る断面図が示されている。そして、その断面図の上に、この断面図に対応した、3つのドット310についての磁化反転磁界Hsの分布を示すグラフG2が示されている。
【0054】
尚、この図4の比較例では、図中のドット310の間隔がトラック間隔となるが、この比較例におけるトラック間隔は、本実施形態におけるトラック間隔Ts(図2参照)と同じ程度まで短縮された間隔となっている。
【0055】
図4のグラフG2では、縦軸に磁化反転磁界Hsおよび後述の記録磁界Hwがとられ、横軸に3つのドット310に跨る線上での位置がとられている。そして、このグラフG2には、これら3つのドット310に跨る磁化反転磁界Hsの分布が第2ラインL2によって示されている。この第2ラインL2の形状が示しているように、この比較例の各ドット310では、磁化反転磁界Hsが一様な分布となっている。
【0056】
ここで、この図4のグラフG2には、3つのドット310のうちの中央のドット310に対して磁気ヘッド103が印加する記録磁界Hwの分布を示す第3ラインL3も記載されている。この第3ラインL3の形状から分かるように、記録磁界Hwは、基本的にはドット310の幅とほぼ同じ幅の矩形状となっている。そして、その矩形の高さが、ドット310の磁化反転磁界Hsよりも大きくなっている。これにより、ドット310内で磁化の反転が起こり、情報がそのドット310に記録されることとなる。また、この記録磁界Hwは、完全な矩形状とはならず、第3ラインL3の形状から分かるように、裾が広がった形状となっている。
【0057】
ところで、磁気ヘッド310は、記録時には、記録対象のドット310の真上を通過するように位置制御されている。しかし、この位置制御には若干の誤差が生じることがある。その結果、記録磁界Hwを印加するときの磁気ヘッド310の位置に、ドット310の幅方向(磁気ディスクの半径が延びる方向)や、ドット310の長さ方向(磁気ディスクの外周に沿う方向)の若干のずれ(オフセット)が生じることがある。図3のグラフG2には、磁気ヘッド310が、図中の矢印Dが示す幅方向にオフセットが生じたたときの記録磁界Hwの分布を点線で示す第4ラインL4が記載されている。
【0058】
ここで、上記のように記録磁界Hwの分布は裾が広がっているため、矩形の頂上だけでなくその裾の一部についても、記録磁界Hwはドット310の磁化反転磁界Hsよりも大きくなっている。そのため、ここでの比較例のようにトラック間隔が狭いと、オフセット発生時に、記録磁界Hwの分布における、磁化反転磁界Hsよりも大きくなっている裾の一部が隣のドット103に掛かってしまう。
【0059】
上記の第4ラインL4が示す分布は、矢印Dが示す幅方向にオフセットが生じたときの分布である。この図3の例では、中央のドット310に対する記録磁界Hwの分布における磁化反転磁界Hsよりも大きくなっている裾の一部が、図中左隣のドット103の図中右端に掛かっている。その結果、この左隣のドット103における、図中点線で囲まれた領域Eが示す、このドット103と分離部220との境界部分に、中央のドット310に対する記録磁界Hwが印加される。さらに、その印加される記録磁界Hwは、グラフG2中で点線で囲まれた領域F内の分布が示すように、この左隣のドット103における磁化反転磁界Hsよりも大きくなっている。
【0060】
ここで、ビットパターンドメディアにおけるドットは単磁区となるため、そのドットの端の一部であっても、磁化反転磁界Hsよりも大きな記録磁界Hwが意図せずに印加されると、そのドットで意図しない磁化反転が生じてしまう可能性が高い。
【0061】
図4の例では、中央のドット310に対する記録磁界Hwの一部が、オフセットによって、その記録磁界Hwとは本来無関係であるはずの図中左隣のドット103に印加されている。その結果、この目的外の左隣のドット103に、中央の目的のドット103と同様の磁化反転が生じてしまう可能性が高い。即ち、この左隣のドット103に、中央のドット103用の情報が重ね書きされるという記録干渉が生じる可能性が高い。
【0062】
尚、ここでは、ドットの幅方向のオフセットを例に挙げて記録干渉について説明したが、このような記録干渉は、ドットの長さ方向のオフセットについても同様に生じる可能性がある。
【0063】
以上、説明したとおり、この比較例のようにドットの磁化反転磁界Hsが一様に分布していると、磁気ヘッド103のオフセットにより、ドット間に上記のような記録干渉が生じる恐れがある。そのため、この比較例のように、ドットの磁化反転磁界Hsが一様に分布している磁気ディスクでは、トラック間隔やドット間隔を広く空ける必要があり、記録密度のさらなる向上が困難となっている。
【0064】
これに対し、本実施形態では、図3に示されているように、ドット210内では、分離部220に接する境界部分210Aの磁化反転磁界が、中央部分210Bの磁化反転磁界よりも大きくなるように分布している。
【0065】
図5は、境界部分の磁化反転磁界が中央部分の磁化反転磁界よりも大きくなった分布によって、記録干渉が回避されることについて説明する図である。
【0066】
この図5には、本実施形態の磁気ディスク200における、この磁気ディスク200の半径が延びる方向に並ぶ3つのドット210に跨る断面図が示されている。そして、その断面図の上に、この断面図に対応した、3つのドット210についての磁化反転磁界Hsの分布を示すグラフG3が示されている。このグラフG3では、縦軸に磁化反転磁界Hsおよび記録磁界Hwがとられ、横軸に3つのドット210に跨る線上での位置がとられている。
【0067】
このグラフG3には、これら3つのドット210に跨る磁化反転磁界Hsの分布が第5ラインL5によって示されている。この第5ラインL5の形状が示しているように、各ドット210における磁化反転磁界Hsの分布は、境界部分210Aの磁化反転磁界Hseが中央部分210Bの磁化反転磁界Hscよりも大きくなっている。
【0068】
このとき、上記の図4の例と同様に、ドットの幅方向のオフセットが生じた場合を考える。図5のグラフG3には、記録磁界Hwについて、図4のグラフG2にも記載されている、オフセットの有無それぞれの場合の分布を示す2つのラインL4,L5が記載されている。
【0069】
この図5の例でも、オフセットが生じた場合には、左隣のドット103における、図中点線で囲まれた領域Eが示す、このドット103と分離部220との境界部分210Aに、中央のドット310に対する記録磁界Hwの一部が印加される。しかし、本実施形態では、このオフセットによる意図しない記録磁界Hwが印加される境界部分210Aの磁化反転磁界Hsが、グラフG3中で点線で囲まれた領域F内の分布が示すように大きくなっている。その結果、オフセットによる意図しない記録磁界Hwが磁化反転磁界Hsを下回り、その意図しない記録磁界Hwによる記録干渉が回避されることとなる。
【0070】
尚、ここでは、ドット210の幅方向のオフセットを例に挙げて記録干渉が回避されることついて説明したが、ドット210の長さ方向のオフセットについても同様に記録干渉が回避される。
【0071】
本実施形態の磁気ディスク200では、このような記録干渉の回避により、記録干渉のために困難であった程度までトラック間隔やドット間隔が無理なく短縮されている。その結果、本実施形態の磁気ディスク200では、記録密度のさらなる向上が実現されることとなっている。
【0072】
また、本実施形態では、図2のグラフG1や図4のグラフG3に示すように、各ドット210では、分離部220に近いほど磁化反転磁界Hsが大きくなっている。その結果、ドット210の最外周での磁化反転磁界Hseは、単に中央部分210Bの磁化反転磁界Hscよりも大きいだけでなく、磁化反転磁界Hsの分布における最大となっている。これにより、本実施形態では、上記の記録干渉が、この分布における最大の磁化反転磁界Hsによって、一層効果的に回避されることとなっている。
【0073】
このことは、上述の基本形態に対し、上記情報記憶部は、上記分離部に近い程磁化反転磁界が大きいものであるという応用形態が好適であることを意味している。
【0074】
本実施形態のドット210の集合は、この応用形態における情報記憶部の一例にも相当している。
【0075】
また、一般的に、ビットパターンドメディアは、トラック間隔とドット間隔との双方を短縮することで記録密度を非常に向上させることができる。一方で、上述したように各ドットが単磁区となることから、ドットの一部にでも磁化反転磁界を超える記録磁界が印加されると磁化が反転する可能性が高く、上述したような記録干渉に弱いという一面もある。本実施形態では、ドット210における磁化反転磁界Hsの上述の分布により、ビットパターンドメディアにおける記録干渉に対する弱さを克服し、ビットパターンドメディアの利点を生かした記録密度のさらなる向上が実現されている。
【0076】
このことは、上述の基本形態に対し、前記情報記憶部は、前記基板上に、互いに間隔を空けて2次元的に配列された、各々が単磁区となる複数のドットを有するものであるという応用形態が好適であることを意味している。
【0077】
本実施形態のドット210の集合は、この応用形態における情報記憶部の一例にも相当している。
【0078】
ここで、本実施形態では、各ドット210における上記のような磁化反転磁界Hsの分布は、磁性体が酸化されると磁化反転磁界が増えるという現象を利用し、上記の境界部分210Aを酸化することにより実現されている。また、酸化の程度と磁化反転磁界の増加分との間には安定した関係があり、酸化の程度を調整することにより、所望分だけ磁化反転磁界を増大させることができる。
【0079】
このことは、上述の基本形態に対し、以下に説明する応用形態が好適であることを意味している。この応用形態では、上記情報記憶部は、上記境界部分が酸化されていて、上記非境界部分が、その境界部分における酸化の度合いよりも低い度合いで酸化されているかあるいは全く酸化されていないものとなっている。
【0080】
本実施形態のドット210の集合は、これらの応用形態における情報記憶部の一例にも相当している。また、各ドット210の境界部分210Aは、これらの応用形態にいう境界部分の一例にも相当している。さらに、各ドット210の中央部分210Bは、これらの応用形態にいう非境界部分の一例にも相当している。
【0081】
また、本実施形態では、各ドット210の境界部分210Aに対する酸化は、詳細については後述するが、その境界部分210AへのOイオンの注入により実現されている。Oイオンの注入による酸化では、酸化時間等の調整により、その酸化の度合いが制御される。そのため、このOイオンの注入による酸化によれば、所望の程度の酸化を容易に実現することができる。
【0082】
このことは、上述の基本形態に対し、以下に説明する応用形態が好適であることを意味している。この応用形態では、上記情報記憶部は、上記境界部分と上記非境界部分が互いに同一の磁性材料で形成された後に、その境界部分の磁化反転磁界が酸素イオンの注入でその非境界部分の磁化反転磁界よりも増やされてなるものとなっている。
【0083】
本実施形態のドット210の集合は、これらの応用形態における情報記憶部の一例にも相当している。また、各ドット210の境界部分210Aは、この応用形態にいう境界部分の一例にも相当している。さらに、各ドット210の中央部分210Bは、これらの応用形態にいう非境界部分の一例にも相当している。
【0084】
次に、ここまでに説明した本実施形態の磁気ディスク200を製造するための製造方法について説明する。
【0085】
図6は、本実施形態の磁気ディスクを製造するための製造方法を示す工程図である。
【0086】
この図6の工程図が示す製造方法が、基本形態について説明した情報記憶装置の具体的な一実施形態に相当する。
【0087】
この図6の工程が示す方法では、まず、上記のガラス基板をディスク形状に加工して洗浄することでディスク基板201が作成される(ステップS101)。
【0088】
次に、ディスク基板201上に、以下に説明する複数の層がスパッタ法にて形成される(ステップS102)。
【0089】
図7は、図6のステップS102の処理で形成される複数の層を模式的に示す図である。
【0090】
この図7に示すように、図6のステップS102の処理では、次のような積層物200Aが形成される。この処理では、まず、ディスク基板201上に、図5にも示した軟磁性裏打ち層202および下地層203が形成される。さらに、下地層203の上に、以下に説明する第1連続磁性層211’および第2連続磁性層212’が形成される。第1連続磁性層211’は、各ドット210の第1磁性層211と同じ材料で、この第1磁性層211の厚さと同じ厚さを有する連続磁性層である。また、第2連続磁性層212’は、各ドット210の第2磁性層212と同じ材料で、この第2磁性層212の厚さと同じ厚さを有する連続磁性層である。さらに、図6のステップS102の処理では、第2連続磁性層212’の上に、後述の酸化から各磁性膜を保護するために、Taで厚さが10nmのTa保護層501がスパッタ法にて形成される。
【0091】
図6の工程が示す方法では、次に、上記のTa保護層501の上に、紫外線硬化樹脂であるPMMA(ポリメチルメタクリレート)からなるレジスト502(後述の図8参照)が50nm塗布される(ステップS103)。
【0092】
続いて、その塗布されたレジストにナノサイズの窪みを付けるナノインプリント処理が実行される(ステップS110)。
【0093】
図8は、図6の製造方法で実行されるナノインプリント処理の詳細な工程を示す図である。
【0094】
本実施形態のナノインプリント処理では、まず、紫外線を透過させる材料で形成された、所定の凹凸を有するモールド503が用意される。ここで、このモールド503が有する凹凸は、上記の磁気ディスク200におけるドット210の配列に対応した凹凸となっている。また、そのドット210の配列は、仮にドット内の磁化反転磁界が一様に分布していたとすると記録干渉が発生する恐れがある程度まで短縮されたトラック間隔Tsやドット間隔Dsでの配列となっている。そして、図6のステップS103の処理で塗布されたレジスト502に、上記のモールド503が押し付けられる(ステップS111)。このステップS111の処理により、モールド503が有する凹凸のレジスト502への転写が行われる。次に、モールド503越しに、レジスト502に紫外線UVが照射される(ステップS112)。このステップS112の処理により、レジスト502が硬化される。最後に、モールド503が取り除かれて、このナノインプリント処理が終了する(ステップS113)。
【0095】
図6の製造方法では、以上に説明したナノインプリント処理に続いて、以下に説明するドライプロセスが実行される(ステップS120)。
【0096】
図9は、図6の製造方法で実行されるドライプロセスの詳細な工程を示す図である。
【0097】
このドライプロセスでは、まず、上記のナノインプリント処理で凹凸が付けられたレジスト502越しに、上記の積層物200Aに対して次のようなプラズマエッチングが実行される(ステップS121)。このステップS121でのプラズマエッチングは、プラズマエッチング装置を用いて、Arガス圧1Pa、投入パワー500W、バイアス電圧−200Vで実行される。このプラズマエッチングにより、上記の積層物200Aに含まれたTa保護層501と第2連続磁性層212’と第1連続磁性層211’とについて、レジスト502の凹部の下に位置する部分が除去される。その結果、図2等に示す第1磁性層211および第2磁性層212からなる複数のドット210が形成される。
【0098】
図6のステップS101から、この図9のステップS121に至るまでの一連の処理が、上述の基本形態における情報記憶部形成過程の一例に相当する。
【0099】
次に、以下に説明する酸化処理が実行される(ステップS122)。
【0100】
この酸化処理では、まず、上記のプラズマエッチングを経てドット210が形成された積層物200Aが収納されているプラズマエッチング装置内に酸素ガスが導入される。そして、ガス圧3Pa、投入電力300Wでのプラズマ化により生じたOプラズマ雰囲気中に、上記の積層物200Aが10秒間曝される。この処理の結果、上記のプラズマエッチングで露出された状態となっている各ドット210の側面にOイオンが注入されて上記の境界部分210Aが酸化される。一方、各ドット210の上面がTa保護層501で覆われていること、および、暴露時間が10秒間に制限されていることから、酸化の程度が各ドット210の中央部分210Bでは非常に低くなる。
【0101】
このステップS122での酸化処理により、各ドット210の境界部分210Aにおける磁化反転磁界Hsが中央部分210Bの磁化反転磁界Hsよりも大きく増大される。その結果、各ドット210内における、図3や図4に示した磁化反転磁界Hsの分布が実現されることとなる。
【0102】
このような酸化処理による磁化反転磁界Hsの増大は、上述したように、処理が簡単であることに加えて、酸化時間やOプラズマ雰囲気におけるイオン密度等を調整することで、酸化の程度や酸化の深さをコントロールすることができる。つまり、この酸化処理によれば、各ドット210の磁化反転磁界Hsについて所望の分布を容易かつ確実に得ることができる。
【0103】
以上に説明した酸化処理(ステップS122)が、上述の基本形態における酸化過程の一例に相当する。
【0104】
この酸化処理(ステップS122)の次に、Arイオンによるプラズマエッチングが実行されて、各ドット210の上面を覆うTa保護層501が除去される(ステップS123)。
【0105】
続いて、スパッタ法によって、非磁性材料であるアモルファスのCoCr504が、各ドット210間の隙間に充填される(ステップS124)。そして、Arイオンによるプラズマエッチングが実行されて、各ドット210の上面を覆う余剰なCoCr504が除去される(ステップS125)。ステップS124とステップS125との処理により、各ドット210間を分離する上記の分離部220が形成される。
【0106】
上記のステップS124の処理とステップS125の処理とを合せた処理が、上述の基本形態における分離部形成過程の一例に相当する。
【0107】
最後に、各ドット210および分離部220の表面に、スパッタ法により、炭素原子を3nmの暑さで積層することでDLCの保護層204が形成されて、このドライプロセスが終了する。
【0108】
図6の製造方法では、ステップS120のドライプロセスに続いて、磁気ヘッド103の滑りを良くするための潤滑剤(Lub:Lubricant)が厚さ1nmで塗布される(ステップS104)。この潤滑剤の塗布を経て磁気ディスク200が完成する。
【0109】
そして、最後に、ここまでの一連の処理で得られた磁気ディスク200に対して情報の書込み試験や読出し試験等といった出荷試験が実行されて、この図6の製造方法が終了する(ステップS105)。
【0110】
以上に説明した製造方法によれば、上記のようにトラック間隔Tsやドット間隔Dsが非常に短縮されて高記録密度化が図られたビットパターンドメディアの磁気ディスク200を得ることができる。
【0111】
次に、第2実施形態について説明する。
【0112】
この第2実施形態は、上述の第1実施形態がビットパターンドメディアに対応した実施形態であるのに対し、ディスクリートトラックメディアに対応した実施形態である点が異なっている。以下では、第2実施形態について、この第1実施形態との相違点に注目した説明を行う。尚、この第2実施形態における情報記憶装置については、磁気ディスクを除いて図1のHDD100と同じであるので、以下では説明を割愛する。また、この第2実施形態の磁気ディスクを製造する製造方法についても、使用するモールドが有する凹凸の形状や磁性層の材料が異なっている他は図6〜8に示した製造方法と同じであるので、以下では説明を割愛する。
【0113】
図10は、第2実施形態の磁気ディスクの詳細な構造を模式的に示す図である。
【0114】
尚、この図10では、図2に示す第1実施形態の磁気ディスク200の構成要素と同等な構成要素については、図2と同じ符号が付されており、以下では、これらの構成要素についての重複説明を省略する。
【0115】
この図10のパート(A)には、本実施形態の磁気ディスク400の一部についての上面拡大図が示されている。また、この図10のパート(B)には、その一部についての断面拡大図が示されている。尚、図10のパート(A)に示す上面拡大図では、図中の矢印Xが示す方向が、本実施形態の磁気ディスク400の半径が延びる方向であり、図中の矢印Yが示す方向が、その磁気ディスク400の外周に沿った方向である。また、図10のパート(A)に示す断面拡大図は、パート(A)の上面拡大図中の切断線G−Gに沿った断面を示している。
【0116】
本実施形態の磁気ディスク400は、いわゆるディスクリートトラックメディアの一種である。この磁気ディスク400は、ディスク基板の中心の周りを間隔を空けて同心円状に周回するように磁性材料で形成された複数本のトラック410を有している。また、各トラック410どうしは、トラック410間の隙間に充填された非磁性材料で形成された分離部420によって互いに磁気的に分離されている。以下では、矢印Xの方向のトラック410間の間隔をトラック間隔Tsと呼ぶ。
【0117】
本実施形態では、複数本のトラック410の集合が、上記の基本形態における情報記憶部の一例に相当する。また、分離部420が、上記の基本形態における分離部の一例に相当する。
【0118】
また、本実施形態では各トラック410が、第1実施形態におけるドット210と同様に、相対的に磁化反転磁界が大きい第1磁性層411と相対的に磁化反転磁界が小さい第2磁性層412とが重ね合わされた2層構造を有するものとなっている。この2層構造により、各トラック410について、熱揺らぎに対する高い耐性を損なうことなく、第1磁性層411の大きな磁化反転磁界に起因する情報記録の困難さが緩和されることとなる。
【0119】
また、本実施形態のHDDでも、第1実施形態と同様に垂直磁気記録方式が採用されている。そのため、各トラック410の第1磁性層411および第2磁性層412は、垂直磁気記録方式に即して、両方とも、ディスク面に垂直な方向に磁化が向き易い磁性層となっている。
【0120】
第1磁性層は、Co50Pt50−8TiOで形成されたいわゆるグラニュラ構造を有する厚さが7nmの層である。
【0121】
図11は、図10の各トラックを構成する第1磁性層を、グラニュラ構造が分かるように示す模式図である。
【0122】
この図11には3つのトラック410について、グラニュラ構造を有する第1磁性層411が模式的な斜視図で示されている。この図11に示すように、第1磁性層411が有するグラニュラ構造は、Co50Pt50の柱状粒子411Aの粒界に、不図示のTiOを偏析させた構造である。この図11の第1磁性層411では、グラニュラ構造における柱状粒子411Aがディスク面に垂直な方向に延びている。この柱状粒子411Aの形状に起因して、各柱状粒子411Aは、ディスク面に垂直な方向に磁化が向き易い性質(形状磁気異方性)を有することとなっている。また、各柱状粒子411Aは、内部の結晶構造に起因したディスク面に垂直な方向に磁化が向き易い性質(結晶磁気異方性)も有している。このグラニュラ構造では、各柱状粒子411Aにおける形状磁気異方性と結晶磁気異方性とが相俟って、ディスク面に垂直な方向に強い磁気異方性を有することとなっている。この第1磁性層の磁気特性は、飽和磁化が350emu/cc、異方性磁界が42kOe、異方性定数が7.4×10erg/ccとなっいる。この第1磁性層は、異方性磁界や異方性定数の上記のような大きな値からも分かるように、大きな磁気異方性を有している。このように大きな磁気異方性を有しているということは、この第1磁性層が、大きな磁化反転磁界を有していることを意味している。
【0123】
一方、図10に示す第2磁性層412は、Co80Cr14Ptで形成された厚さが6nmの層であり、その磁気特性は、飽和磁化が1056emu/cc、異方性磁界が1.6kOe、異方性定数が8.5×10erg/ccとなっている。この第2磁性層412は、異方性磁界や異方性定数が上記の第1磁性層の異方性磁界や異方性定数よりも大幅に小さくなっている。即ち、この第2磁性層412は、第1磁性層411よりも磁気異方性が小さく、延いては第1磁性層411よりも磁化反転磁界が小さくなっている。
【0124】
このように、トラック410を構成する2つの磁性層のうち、一方の磁性層をグラニュラ構造とすることにより、その一方の磁性層に非常に大きな磁化反転磁界を、トラック410の全長に渡って満遍なく持たせることができる。
【0125】
このことは、2層構造の情報記憶部を有する上述の応用形態に対し、以下に説明する応用形態がさらに好適であることを意味している。この応用形態では、上記情報記憶部は、上記2つの磁性層のうち磁化反転磁界が大きい方の磁性層が、磁性材料中で磁性粒子の相互間を非磁性の添加物が隔ているグラニュラ構造を有するものとなっている。
【0126】
本実施形態におけるトラック410の集合は、この応用形態における情報記憶部の一例にも相当している。
【0127】
ここで、本実施形態では、以上に説明した2つの磁性層で形成された各トラック410における磁化反転磁界が、トラック410の幅方向に、以下に説明するように分布している。
【0128】
図12は、図10に示す各ドットにおける磁化反転磁界の分布を模式的に示す図である。
【0129】
この図12のパート(A)には、図10に示す各トラック410における磁化反転磁界のトラック幅方向の分布が、ハッチング密度の変化によって模式的に示されている。また、この図12のパート(B)には、1つのトラック410の部分拡大図と、トラック410における磁化反転磁界Hsのトラック幅方向の分布を示すグラフG4とが示されている。
【0130】
また、図12のパート(B)のグラフG4では、トラック410を図中の横断線H−Hに沿ってトラック幅方向に横切ったときの磁化反転磁界Hsの分布が第6ラインL6によって示されている。このグラフG4では、縦軸に磁化反転磁界Hsがとられ、横軸に図中の横断線H−H上での位置がとられている。
【0131】
この図12に示されているように、トラック410内では、分離部220に接する境界部分410Aの磁化反転磁界Hsが、その境界部分410Aを挟んで分離部420から離れた中央部分410Bの磁化反転磁界Hsよりも大きくなるように分布している。
【0132】
本実施形態では、トラック間隔が狭いと発生し勝ちで高記録密度化の妨げとなっていた上記の記録干渉が、トラック410の境界部分410Aの大きな磁化反転磁界Hsによって回避されることとなっている。これにより、本実施形態の磁気ディスク400では、ディスクリートトラックメディアにおいて、この記録干渉のために困難であったトラック間隔の短縮が無理なく行われている。その結果、本実施形態の磁気ディスク400では、ディスクリートトラックメディアにおける記録密度のさらなる向上が実現されることとなっている。
【0133】
尚、上記では、ビットパターンドメディアの磁気ディスクや、ディスクリートトラックメディアの磁気ディスクの各構成要素の材料や組成比や厚みについて、具体的な元素名や数値等を例示した。しかしながら、これらの各構成要素の材料や組成比や厚みは、上記の具体的な元素や数値等に限定されるものではなく、そのような具体例以外の元素や数値等のものであっても良い。
【0134】
また、上記では、上述の基本形態にいう情報記憶部の一例として、ビットパターンドメディアにおける複数のドットの集合の他に、次のようなディスクリートトラックメディアにおけるトラックの集合を例示した。即ち、ディスク基板の中心の周りを間隔を空けて同心円状に複数本のトラックが周回するタイプのディスクリートトラックメディアにおける複数本のトラックの集合を例示した。しかしながら、ディスクリートトラックメディアには、このようなタイプのものの他に、ディスク基板の中心の周りを1本のトラックが螺旋状に周回するタイプのものもある。上述の基本形態にいう情報記憶部は、このようなタイプのディスクリートトラックメディアにおける1本のトラックであっても良い。
【0135】
また、上記では、上述の基本形態にいう情報記憶部の一例として、上述した2層構造のものを例示したが、上述の基本形態にいう情報記憶部は、このような2層構造に限るものではない。上述の基本形態にいう情報記憶部は、単層の磁性層であっても良い。
【0136】
また、上記では、上述の基本形態にいう情報記憶部の一例として、上記の境界部分の酸化によってその境界部分の磁化反転磁界が増やされているドットやトラックの集合を例示した。しかしながら、この境界部分の磁化反転磁界を増やす方法は酸化に限るものではない。上述の各実施形態のように、互いに磁化反転磁界が異なる2つの磁性層が重ね合わされた2層構造を有するドットやトラックでは、ドットやトラックにおける磁化反転磁界が、2層構造における磁化反転磁界が小さい方の磁性層の厚さに左右される。即ち、磁化反転磁界が小さい方の磁性層の厚さが薄いほど、ドットやトラックにおける磁化反転磁界は大きくなる。そこで、この2層構造における性質を利用し、磁化反転磁界が小さい方の磁性層の厚さを、上記の境界部分の方を中央部分よりも薄くするという方法で、境界部分の磁化反転磁界を増やすという方法が考えられる。つまり、上述の基本形態にいう情報記憶部は、上記の2層構造を有し、さらに、磁化反転磁界が小さい方の磁性層の厚さが、境界部分で中央部分よりも薄いという構造を有するものであっても良い。
【0137】
以下、上述した基本形態を含む種々の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0138】
(付記1)
基板と、
前記基板上に磁性材料によって、該基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成された、情報を磁化の向きとして記憶する情報記憶部と、
非磁性材料によって前記基板上の前記所定箇所に形成された、前記情報記憶部の、該所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離する分離部とを備え、
前記情報記憶部が、前記分離部に接する境界部分と、前記境界部分が有する磁化反転磁界よりも小さな磁化反転磁界を有する、該境界部分を間に挟むことで前記分離部から離れた非境界部分とを備えたものであることを特徴とする磁気記憶媒体。
【0139】
(付記2)
前記情報記憶部は、前記分離部に近い程磁化反転磁界が大きいものであることを特徴とする付記1記載の磁気記憶媒体。
【0140】
(付記3)
前記情報記憶部は、前記基板上に、互いに間隔を空けて2次元的に配列された、各々が単磁区となる複数のドットを有するものであることを特徴とする付記1又は2記載の磁気記憶媒体。
【0141】
(付記4)
前記情報記憶部は、前記境界部分が酸化されていて、前記非境界部分が、該境界部分における酸化の度合いよりも低い度合いで酸化されているかあるいは全く酸化されていないものであることを特徴とする付記1から3のうちいずれか1項記載の磁気記憶媒体。
【0142】
(付記5)
前記情報記憶部は、前記境界部分と前記非境界部分が互いに同一の磁性材料で形成された後に、該境界部分の磁化反転磁界が酸素イオンの注入で該非境界部分の磁化反転磁界よりも増やされてなるものであることを特徴とする付記1から4のうちいずれか1項記載の磁気記憶媒体。
【0143】
(付記6)
前記情報記憶部は、互いに磁化反転磁界が異なる2つの磁性層が重ね合わされた2層構造を有するものであることを特徴とする付記1から5のうちいずれか1項記載の磁気記憶媒体。
【0144】
(付記7)
前記情報記憶部は、前記2つの磁性層のうち磁化反転磁界が大きい方の磁性層が、磁性材料中で磁性粒子の相互間を非磁性の添加物が隔ているグラニュラ構造を有するものであることを特徴とする付記6記載の磁気記憶媒体。
【0145】
(付記8)
基板と、該基板上に磁性材料によって、該基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成された、情報を磁化の向きとして記憶する情報記憶部と、非磁性材料によって前記基板上の前記所定箇所に形成された、前記情報記憶部の、該所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離する分離部とを備え、前記情報記憶部が、前記分離部に接する境界部分と、前記境界部分が有する磁化反転磁界よりも小さな磁化反転磁界を有する、該境界部分を間に挟むことで前記分離部から離れた非境界部分とを備えたものである磁気記憶媒体と、
前記磁気記憶媒体に対して、情報記憶及び/又は情報再生を実行するヘッドとを備えたことを特徴とする情報記憶装置。
【0146】
(付記9)
情報を磁化の向きとして記憶する情報記憶部を、基板上に、磁性材料によって、該基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成する情報記憶部形成過程と、
前記情報記憶部において、前記所定箇所を間に挟んで互いに対向している部分に対する局所的な酸化によって該部分の磁化反転磁界を、該部分を間に挟むことで該所定箇所から離れた他の箇所の磁化反転磁界よりも増やす酸化過程と、
前記情報記憶部の、前記所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離する分離部を、非磁性材料で前記基板上の前記所定箇所に形成する分離部形成過程とを有することを特徴とする磁気記憶媒体製造方法。
【符号の説明】
【0147】
100 HDD
101 筐体
102 回転軸
103 磁気ヘッド
104 回動軸
105 キャリッジアーム
106 ボイスコイルモータ
107 制御回路
200,300,400 磁気ディスク
201 ディスク基板
202 軟磁性裏打ち層
203 下地層
204 保護膜
210,310 ドット
210A,410A 境界部分
210B,410B 中央部分
211,311,411 第1磁性層
211’ 第1連続磁性層
212,312,412 第2磁性層
212’ 第2連続磁性層
220 分離部
410 トラック
411A 柱状粒子
501 Ta保護層
502 レジスト
503 モールド
504 アモルファスのCoCr

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に磁性材料によって、該基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成された、情報を磁化の向きとして記憶する情報記憶部と、
非磁性材料によって前記基板上の前記所定箇所に形成された、前記情報記憶部の、該所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離する分離部とを備え、
前記情報記憶部が、前記分離部に接する境界部分と、前記境界部分が有する磁化反転磁界よりも小さな磁化反転磁界を有する、該境界部分を間に挟むことで前記分離部から離れた非境界部分とを備えたものであることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項2】
前記情報記憶部は、前記基板上に、互いに間隔を空けて2次元的に配列された、各々が単磁区となる複数のドットを有するものであることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶媒体。
【請求項3】
前記情報記憶部は、前記境界部分が酸化されていて、前記非境界部分が、該境界部分における酸化の度合いよりも低い度合いで酸化されているかあるいは全く酸化されていないものであることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気記憶媒体。
【請求項4】
基板と、該基板上に磁性材料によって、該基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成された、情報を磁化の向きとして記憶する情報記憶部と、非磁性材料によって前記基板上の前記所定箇所に形成された、前記情報記憶部の、該所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離する分離部とを備え、前記情報記憶部が、前記分離部に接する境界部分と、前記境界部分が有する磁化反転磁界よりも小さな磁化反転磁界を有する、該境界部分を間に挟むことで前記分離部から離れた非境界部分とを備えたものである磁気記憶媒体と、
前記磁気記憶媒体に対して、情報記憶及び/又は情報再生を実行するヘッドとを備えたことを特徴とする情報記憶装置。
【請求項5】
情報を磁化の向きとして記憶する情報記憶部を、基板上に、磁性材料によって、該基板上の所定箇所を間に挟んだ各箇所に形成する情報記憶部形成過程と、
前記情報記憶部において、前記所定箇所を間に挟んで互いに対向している部分に対する局所的な酸化によって該部分の磁化反転磁界を、該部分を間に挟むことで該所定箇所から離れた他の箇所の磁化反転磁界よりも増やす酸化過程と、
前記情報記憶部の、前記所定箇所を挟んで隣り合う箇所どうしを互いに磁気的に分離する分離部を、非磁性材料で前記基板上の前記所定箇所に形成する分離部形成過程とを有することを特徴とする磁気記憶媒体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−218647(P2010−218647A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66128(P2009−66128)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】