説明

磁気記憶媒体及び磁気記憶装置

【課題】磁気ヘッドスライダの空気膜共振を抑制して、高精度なデータの記録再生を実現する。
【解決手段】磁気ヘッドスライダ16に保持された磁気ヘッド70によりデータの記録再生が行われるデータ領域の最内周の半径がRid[m]、最外周の半径がRod[m]であり、データの記録再生時における回転速度がRPS[rps]である場合に、波長がλ1(=2×π×Rid×RPS/300000)から、λ2(=2×π×Rod×RPS/100000)の範囲に属するうねりを、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、磁気記憶媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気ディスク装置は、回転する磁気ディスクと、サスペンションによって支持された磁気ヘッドスライダと、を有する。磁気ヘッドスライダは、磁気ヘッド(記録再生素子)を有しており、磁気ディスクに対して相対的に移動しながら、磁気ディスクのデータ領域に対するデータの読み書きを実行する。このような磁気ディスク装置においては、高記録密度化のため、磁気ディスクと磁気ヘッドスライダの距離、すなわち磁気ヘッドスライダの磁気ディスクに対する浮上量(FH(Flying height))を低減(狭小化)するのが好ましい。
【0003】
FHの狭小化を阻害する要因としては、磁気ディスクの表面形状の凹凸(うねり)が挙げられる。このうねりのうち、数百μm以上の波長を持つうねりは、磁気ディスクと磁気ヘッドスライダの間で発生する圧力の分布に変動を生じさせ、結果としてFHを変動させてしまうことが知られている。また、波長が概ね10μm以下のうねりは、粗さと呼ばれ、更に、波長が概ね数十μmから数百μmの範囲のうねりは、マイクロウェイビネスと呼ばれている。マイクロウェイビネスは、磁気ヘッドスライダの空気膜共振を引き起こすことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献1には、波長100μmまたは200μm以下のマイクロウェイビネスの領域を含むうねりを高くするとともに、それ以上の波長のうねりを極力抑えることで、吸着摩擦と波長の長いうねりに起因するFHの変動を抑制し、結果としてFHの狭小化を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 38, NO. 1, JANUARY 2002“The Effects of Disk Morphology on Flying-Height Modulation: Experiment and Simulation”Brian H. Thornton, D. B. Bogy and C. S. Bhatia
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−203084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気ヘッドスライダの空気膜共振は、信号の記録再生特性を悪化させ、磁気ディスクと磁気ヘッドスライダとの接触を促進するおそれがある。したがって、マイクロウェイビネスは磁気ヘッドスライダの空気膜が共振しない程度に小さいほうが望ましい。
【0008】
しかしながら、磁気ヘッドスライダの空気膜共振は、うねりの波長など、磁気ディスク表面の幾何学的な要因だけを考慮した画一的なうねりのコントロールだけでは、十分に抑制することができないおそれがある。
【0009】
そこで本件は上記の課題に鑑みてなされたものであり、磁気ヘッドスライダの空気膜共振を抑制して、高精度なデータの記録再生を実現可能な磁気記憶媒体及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、磁気ヘッドスライダの空気膜共振とうねりとの関係について鋭意研究した結果、磁気ヘッドスライダの空気膜共振を抑制するには、闇雲にマイクロウェイビネスを低減するのではなく、磁気ディスクの回転数と、磁気ヘッドスライダの空気膜の共振周波数を考慮してマイクロウェイビネスを低減することが効果的であるという考えに至った。本発明は、上記新規知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を採用する。
【0011】
本明細書に記載の磁気記憶媒体は、磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域の最内周の半径がRid[m]、最外周の半径がRod[m]である磁気記憶媒体であり、前記データの記録再生時における回転速度がRPS[rps]である場合に、波長がλ1(=2×π×Rid×RPS/300000)から、λ2(=2×π×Rod×RPS/100000)の範囲に属するうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されている磁気記憶媒体である。
【0012】
また、本明細書に記載の磁気記憶媒体は、空気膜の共振周波数がfr[Hz]の磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域を有し、当該データ領域の最内周の半径がRid[m]、最外周の半径がRod[m]である磁気記憶媒体であり、前記データの記録再生時における回転速度RPS[rps]、共振周波数の前後の幅を規定するΔfr[Hz]を用いて求められる、波長λ1(=2×π×Rid×RPS/(fr+Δfr))と、λ2(=2×π×Rod×RPS/(fr−Δfr))の間の範囲に属するうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されている磁気記憶媒体である。
【0013】
また、本明細書に記載の磁気記憶媒体は、磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域が複数のトラックを有する磁気記憶媒体であり、前記データの記録再生時における回転速度がRPS[rps]である場合に、任意のトラックの半径Rd[m]を用いて求められる波長λ1(=2×π×Rd×RPS/300000)と、λ2(=2×π×Rd×RPS/100000)の間の範囲に属する前記任意のトラック内のうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されている磁気記憶媒体である。
【0014】
また、本明細書に記載の磁気記憶媒体は、空気膜の共振周波数がfr[Hz]の磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域が複数のトラックを有する磁気記憶媒体であり、前記データの記録再生時における回転速度RPS[rps]、共振周波数の前後の幅を規定するΔfr[Hz]、任意のトラックの半径Rd[m]を用いて求められる、波長λ1(=2×π×Rd×RPS/(fr+Δfr))と、λ2(=2×π×Rd×RPS/(fr−Δfr))の間の範囲に属する前記任意のトラック内のうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されている磁気記憶媒体である。
【0015】
本明細書に記載の磁気記憶装置は、本明細書に記載の磁気記憶媒体と、前記磁気記憶媒体に対するデータの記録再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを保持して、前記磁気記録媒体上を浮上する磁気ヘッドスライダと、を備える磁気記憶装置である。
【発明の効果】
【0016】
本明細書に記載の磁気記憶媒体及び磁気記憶装置は、磁気ヘッドスライダの空気膜共振を抑制して、高精度なデータの記録再生を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態に係るHDD100の内部構成を示す図である。
【図2】サスペンションと、サスペンションにより保持されたヘッドスライダの構成を模式的に示す図である。
【図3】図3(a)は、マイクロウェイビネスの小さい磁気ディスクとマイクロウェイビネスの大きい磁気ディスクそれぞれの、波長約10μm以上のうねりの大きさを示すグラフであり、図3(b)は、図3(a)の各磁気ディスクの波長約10μm以下のうねりの粗さ(Ra)を示す表である。
【図4】マイクロウェイビネスの異なる磁気ディスクを用い、磁気ディスクの回転数、及びヘッドスライダの浮上位置を変更しつつ、共振発生FHを測定した結果を示す図である。
【図5】図5(a)は、従来のヘッドスライダのインパルス応答を示す図であり、図5(b)は、一実施形態のヘッドスライダにおいてFH調整機構を用いてFHを小さくしたときのスライダ振動の周波数特性図である。
【図6】Rid,Rod,RPSの具体例を示す表である。
【図7】共振発生FHと、磁気ディスクのうねりのシグマ値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、磁気記憶媒体及び磁気記憶装置の一実施形態について、図1〜図7に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は、一実施形態に係る磁気記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)100の内部構成を示している。この図1に示すように、HDD100は、筺体12と、筺体12内部の空間(収容空間)に収容された磁気記憶媒体としての磁気ディスク10、スピンドルモータ14、ヘッド・スタック・アッセンブリ(HSA)40等と、を備える。なお、筺体12は、実際には、ベースと上蓋(トップ・カバー)とにより構成されているが、図1では、図示の便宜上、ベースのみを図示している。
【0020】
磁気ディスク10は、表面が記録面となっており、スピンドルモータ14によって、その回転軸回りに例えば3600〜15000rpmなどの高速度で回転駆動される。なお、磁気ディスク10は、表面と裏面の両面が記録面であっても良い。また、磁気ディスク10は、図1の紙面直交方向に複数枚設けられていても良い。
【0021】
HSA40は、円筒形状のハウジング部30と、ハウジング部30に固定されたフォーク部32と、フォーク部32に保持されたコイル34と、ハウジング部30に固定されたキャリッジアーム36と、キャリッジアーム36に保持された磁気ヘッドスライダ16と、を備えている。なお、前述のように、磁気ディスク10の表面と裏面の両面が記録面である場合には、キャリッジアーム及び磁気ヘッドスライダが磁気ディスク10を挟んで上下対称に一対設けられる。また、磁気ディスクが複数枚設けられている場合には、各磁気ディスクの各記録面に対応して、キャリッジアームと磁気ヘッドスライダが設けられる。
【0022】
キャリッジアーム36には、例えばステンレス板を打ち抜き加工したり、アルミニウム材料を押し出し加工することにより成型されたサスペンション35が設けられている。
【0023】
図2には、サスペンション35と、サスペンション35により保持された磁気ヘッドスライダ16の構成が模式的に示されている。この図2に示すように、磁気ヘッドスライダ16は、記録再生ヘッド(以下、単に「ヘッド」と呼ぶ)70を有している。磁気ヘッド70は、アルミナ部20と、当該アルミナ部20内に埋め込まれたリード素子60及びライト素子50と、を有する。アルミナ部20は、熱による変形(膨張)が可能であり、かつ原形に復帰することが可能とされている。
【0024】
リード素子60は、磁気ディスク10の記録層から発生する磁界を検知することによって、磁気ディスク10に記録されている情報を読み取るMR(Magneto Resistive)ヘッド又はGMR(Giant Magneto Resistive)ヘッドである。アルミナ部20には、リード素子60を挟むように、シールド22a,22bが設けられている。シールド22a、22bは、パーマロイ系合金(Ni−Fe合金)を材料としている。
【0025】
ライト素子50は、その近傍に設けられたライトコイル44にて発生する磁界により磁気ディスク10の記録層を磁化することにより、情報を磁気ディスク10に記録するための素子である。
【0026】
ライトコイル44の近傍には、ヒータ26が設けられている。ヒータ26からの熱を受けて、ヒータ26周辺の部材が熱変形(熱膨張)する。この熱変形により、リード素子60及びライト素子50が、磁気ディスク10の表面に近づく方向に突出するようになっている。すなわち、本実施形態では、磁気ヘッド70が、磁気ヘッドスライダ16の浮上量(FH(Flying height))を調整するためのFH調整機構(ヒータ26を含む)を具備している、ということができる。
【0027】
図1に戻り、HSA40は、ハウジング部30の中心部分に設けられた軸受部材18を介して、筺体12に回転自在(Z軸回りの回転が自在)に連結されている。また、HSA40が有するコイル34と、筺体12のベースに固定された永久磁石を含む磁極ユニット24とにより構成されるボイスコイルモータ150により、HSA40の軸受部材18を中心とした揺動が行われる。なお、図1では、揺動の軌道が、一点鎖線にて示されている。
【0028】
上記のように構成されるHDD100では、磁気ヘッドスライダ16が、磁気ディスク10上を浮上した状態で、磁気ヘッド70により磁気ディスク10に対するデータ(情報)の読み書きが実行される。磁気ヘッドスライダ16の下面(磁気ディスク10に対向する面)には、磁気ディスク10の回転による空気流によって図2に示す正の力(Fp)と負の力(Fn)の両方を発生する凹凸面(軸受面)が形成されている。すなわち、磁気ヘッドスライダ16は、浮上特性が向上されたいわゆる負圧スライダである。本実施形態では、これら正の力(Fp)、負の力(Fn)、及びサスペンション35による負の力(Fs)が均衡する(釣り合う)ようになっている(Fp=Fn+Fs)。
【0029】
また、負圧スライダは、従来の磁気ヘッドスライダ、すなわち負圧を利用しない磁気ヘッドスライダ、と比較して、減圧特性に優れている。具体的には、従来の磁気ヘッドスライダは、力(Fp)と力(Fs)の2つの力が均衡(Fp=Fs)していたため、磁気ヘッドスライダと磁気ディスクとの間の気圧が下がるにつれて力Fpが減少すると、Fs>Fpとなって、磁気ヘッドと磁気ディスクが接近又は接触するおそれがあった。これに対し、負圧スライダでは、上述したように力(Fp)と力(Fn+Fs)が均衡していることから、空気圧が下がるにつれ、力(Fp)の減少と同時に力(Fn)も減少するので、FHの減少量を抑えることができる。すなわち、磁気ヘッドスライダと磁気ディスクとの接近・接触を抑制することができる。この場合、力(Fp)と力(Fn)を力(Fs)よりも非常に大きく設定することで、FHの減少量をより効果的に抑えることが可能である。また、力(Fp)と力(Fn)を大きくすればするほど、負圧スライダで発生する空気膜の剛性は非常に高いものとなる。具体的には、磁気ヘッドスライダ16の空気膜の共振周波数を、例えば、100kHz以上とすることができる。
【0030】
ただし、力(Fs)を小さくしすぎるとHDD100の耐衝撃性が著しく低下するおそれがあり、また、力(Fp)と力(Fn)は、磁気ヘッドスライダのサイズと空気軸受面の設計に依存して上限があるため、磁気ヘッドスライダの空気膜の共振周波数は高くても300kHzである。
【0031】
前述のように、本実施形態では、磁気ヘッド70が、ヒータ26を含むFH調整機構を有しているが、このFH調整機構により、FHが小さく設定されると、磁気ヘッドスライダ16の空気膜共振が大きくなる。以下においては、共振振幅が所定の閾値を超えるFHを共振発生FHと定義して、説明を行うものとする。
【0032】
以下、本発明者が行った、共振発生FHを利用した磁気ディスク10の設計に関する実験について説明する。
【0033】
図3(a)は、マイクロウェイビネスの小さい磁気ディスクとマイクロウェイビネスの大きい磁気ディスクそれぞれの、波長約10μm以上のうねりの大きさを示すグラフであり、図3(b)は、図3(a)の各磁気ディスクの波長約10μm以下のうねりの粗さ(Ra)を示す表である。これら図3(a)、図3(b)に示すように、各磁気ディスクは、マイクロウェイビネスの波長領域(数十μmから数百μm)のうねりの大きさが異なる一方、その他の波長領域のうねりは、ほぼ一致している。
【0034】
これらマイクロウェイビネスの異なる磁気ディスクを用い、共振発生FHを、磁気ディスク10の回転数、及び磁気ヘッドスライダ16の浮上位置(半径位置)を変更しつつ測定したときの結果が図4に示されている。なお、磁気ヘッドスライダの挙動の測定にはレーザ計測器を用い、そのときの磁気ディスクのうねりの測定にもレーザ計測器を用いた。また、図4は、具体的には、共振発生FHと、共振周波数の1つである180kHzに対応する波長のうねりの高さとの関係を示すものである。ここで、「共振周波数の1つである180kHzに対応する波長のうねりの高さ」とは、うねりのパワースペクトラムの180kHzにおけるパワー値を意味する。
【0035】
この図4からは、共振発生FHは、共振周波数の一つである180kHzに対応する波長のうねりの高さとの間に相関があることが分かる。すなわち、磁気ヘッドスライダの空気膜共振を抑制するには、闇雲にマイクロウェイビネスを低減するのではなく、磁気ディスク10が使用される回転数と、磁気ヘッドスライダの空気膜の共振周波数にあわせて、マイクロウェイビネスを低減するほうが効果的であると考えられる。換言すれば、磁気ヘッドスライダ16の空気膜共振は、うねりの波長など磁気ディスク10表面の幾何学的な要因だけを考慮する画一的なうねりのコントロールだけでは十分に抑制することができないと言える。
【0036】
図5(a)には、従来の磁気ヘッドスライダのインパルス応答が示され、図5(b)には、本実施形態の磁気ヘッドスライダ16においてFH調整機構を用いてFHを小さくしていったときのスライダ振動の周波数特性図(FH=15nmのときのスライダ振動を0dBとした相対比較)が示されている。
【0037】
これら図5(a),図5(b)からは、従来の磁気ヘッドスライダ16は、100kHzを超える振動共振点を有していない一方で、本実施形態の磁気ヘッドスライダ16(負圧スライダ)の空気膜の共振周波数は、概ね100kHzから300kHzの間にあることがわかる。したがって、ディスク回転中にこの共振周波数の全範囲をカバーできる範囲の周波数(100kHz〜300kHz)となるようなマイクロウェイビネス、すなわち、共振周波数(100kHz〜300kHz)の帯域に対応したマイクロウェイビネス、を低減することが、空気膜共振の抑制に効果があると考えられる。ここで、磁気ディスク10のデータ領域の中で、磁気ディスク回転時に周速が最小となるのは最内周であり、最大となるのは最外周である。これらの関係を利用すれば、空気膜の共振を抑制するために低減すべきうねりの波長帯域を求めることができる。
【0038】
具体的には次式(1),(2)で算出される波長λ1,λ2で定義される波長帯域のうねりを十分に小さくすることとする。なお、次式(1),(2)における、Ridは、データ領域最内周の半径[m]、Rodは、データ領域最外周の半径[m]、RPSは、使用回転速度[rps]を意味する。
λ1=2×π×Rid×RPS/300000 …(1)
λ2=2×π×Rod×RPS/100000 …(2)
ここで、各値(Rid,Rod,RPS)としては、例えば、図6の表に示すような値が用いられる。
【0039】
次に、波長λ1〜λ2の間のうねりをどの程度小さくするかについて検討した実験について説明する。
【0040】
図7は、磁気ヘッドスライダ16の共振発生FHと、磁気ディスク10のうねりの標準偏差値(シグマ値)との関係を示す図である。ここで、磁気ディスクのうねりのシグマ値は、具体的にはレーザ計測器を用いて磁気ディスクの表面形状を測定し、100kHz−300kHzの帯域でバンドパスフィルタをかけて得られたものである。また本測定では、様々な半径位置や回転数を設定している。
【0041】
この図7から分かるように、共振周波数100kHz〜300kHzの帯域に対応したマイクロウェイビネス、すなわち、波長λ1〜λ2で定義される波長帯域のマイクロウェイビネスのシグマ値がおおよそ0.05nm以下になったときに、共振発生FHが小さくなる(約10nm以下になる)。したがって、本実施形態では、波長λ1〜λ2で定義される波長帯域のマイクロウェイビネスのシグマ値がおおよそ0.05nm以下となるように設定する。
【0042】
以上のように、本実施形態では、上述した実験結果から、波長λ1〜λ2で定義される波長帯域のマイクロウェイビネスのシグマ値が、約0.05nm以下に設定された磁気ディスクを採用することとしている。なお、磁気ディスク10のλ1以下の波長のうねりについては、吸着摩擦が大きくならないように、適度な大きさであることが好ましい。
【0043】
ここで、一般的には、磁気ディスク10表面の平坦度は、当該磁気ディスク10のディスク基板の有するマイクロウェイビネスがそのまま反映されることになる。このため、上記のようなマイクロウェイビネスの低減された磁気ディスク10を製造するためには、マイクロウェイビネスの低減された基板を製造する必要がある。以下、マイクロウェイビネスの低減された基板(ここでは、ガラス基板)を製造する方法について説明する。
【0044】
まず、下孔加工が施されたガラス円板(ブランクメディア)を用意し、これに対して、角の面取りとラッピングなどの粗加工を行い、大まかな平坦度を実現する。このとき、ラッピングにはSiCやAl23などの研磨材を含むスラリーを用いるのが一般的である。
【0045】
次に、酸化セリウムスラリー及びコロイダルシリカスラリーなどを用いて記録面を研磨する。ここで、うねりを低減するためにコントロールするべきパラメータには、スラリー粒の材質、スラリーの粒径、スラリーの温度、スラリーの濃度、ポリッシュパッドの種類、押し付け圧力、速度などがある。
【0046】
上記研磨工程後は、洗浄を行い、基板表面の機械的強度を向上させるため化学強化を行う。このような処理を経ることで、マイクロウェイビネスが低減されたガラス基板が完成する。なお、上述した基板の製造方法は、ガラス基板の一製法である。したがって、本実施形態のガラス基板の製法はこれに限られるものではない。また、ガラス基板以外の基板を用いても良く、この場合には、それぞれの材料に合わせた製法を採用すれば良い。
【0047】
なお、これ以降は、上記のようにして製造されたガラス基板を用いて、従来と同様にして磁気ディスクを製造することで、マイクロウェイビネスが低減された磁気ディスクを得ることが可能である。
【0048】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、磁気ディスク10が、上式(1),(2)から算出される波長λ1〜λ2で定義される波長帯域のマイクロウェイビネスのシグマ値がおおよそ0.05nm以下となるように設定されているので、磁気ディスクの回転速度(回転数)と、磁気ヘッドスライダの空気膜の共振周波数が考慮されることで、磁気ヘッドスライダの空気膜共振を効果的に抑制することができる。これにより、磁気ディスク10を備えるHDD100において、共振の影響を受けることなく又はほとんど受けることなく、データを高精度に記録再生することが可能である。
【0049】
なお、上記実施形態では、図3(b)に示すように、共振が出現する周波数範囲をほとんどカバーできるように、周波数が100〜300kHzに相当する波長範囲として、上式(1)、(2)から求められる波長範囲を採用する場合について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、磁気ヘッドスライダの共振周波数にあわせてマイクロウェイビネスを低減したほうがより効果的であることは明らかであるので、その磁気ヘッドスライダの共振周波数に応じてλ1、λ2を設定することもできる。具体的には、磁気ヘッドスライダの共振周波数がfrであることが分かっている場合には、下式(3),(4)を用いることとしても良い。ここで、Δfrは、frの前後の周波数の範囲を意味し、各装置ごとに決定される値である。例えば、Δfrとして、10000〜20000(Hz)程度に設定することができる。
λ1=2×π×Rid×RPS/(fr+Δfr) …(3)
λ2=2×π×Rod×RPS/(fr−Δfr) …(4)
【0050】
また、上記実施形態では、ディスク全面に対して、低減するマイクロウェイビネスの波長範囲を定義したが、トラック半径位置毎に低減するマイクロウェイビネスの波長範囲を定義してもよい。この場合、次式(5)、(6)に各トラック半径(Rd)を代入すれば良い。
λ1=2×π×Rd×RPS/300000 …(5)
λ2=2×π×Rd×RPS/100000 …(6)
【0051】
なお、上式(3)、(4)と同様、共振周波数frを用いる場合には、次式(7)、(8)を用いることもできる。
λ1=2×π×Rd×RPS/(fr+Δfr) …(7)
λ2=2×π×Rd×RPS/(fr−Δfr) …(8)
【0052】
また、トラックに限らずゾーンごとに、低減するマイクロウェイビネスの波長範囲を定義しても良い。この場合、ゾーンの中心半径を用い、上式(5)、(6)又は上式(7)、(8)から、λ1及びλ2をゾーンごとに求めても良いし、ゾーンの最内周半径と最外周半径とを用い、上式(1),(2)から、λ1及びλ2をゾーンごとに求めても良い。
【0053】
なお、上記実施形態では、FH調整機構として、ヒータを含む機構を採用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、その他、磁気ヘッドの磁気ディスクとの間の距離を調整できる機構であれば、種々の機構を採用することができる。
【0054】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 磁気ディスク(磁気記憶媒体)
16 磁気ヘッドスライダ
70 磁気ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域の最内周の半径がRid[m]、最外周の半径がRod[m]である磁気記憶媒体において、
前記データの記録再生時における回転速度がRPS[rps]である場合に、波長がλ1(=2×π×Rid×RPS/300000)から、λ2(=2×π×Rod×RPS/100000)の範囲に属するうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されていることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項2】
空気膜の共振周波数がfr[Hz]の磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域を有し、当該データ領域の最内周の半径がRid[m]、最外周の半径がRod[m]である磁気記憶媒体において、
前記データの記録再生時における回転速度RPS[rps]、共振周波数の前後の幅を規定するΔfr[Hz]を用いて求められる、波長λ1(=2×π×Rid×RPS/(fr+Δfr))と、λ2(=2×π×Rod×RPS/(fr−Δfr))の間の範囲に属するうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されていることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項3】
磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域が複数のトラックを有する磁気記憶媒体において、
前記データの記録再生時における回転速度がRPS[rps]である場合に、任意のトラックの半径Rd[m]を用いて求められる波長λ1(=2×π×Rd×RPS/300000)と、λ2(=2×π×Rd×RPS/100000)の間の範囲に属する前記任意のトラック内のうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されていることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項4】
空気膜の共振周波数がfr[Hz]の磁気ヘッドスライダに保持された磁気ヘッドによりデータの記録再生が行われるデータ領域が複数のトラックを有する磁気記憶媒体において、
前記データの記録再生時における回転速度RPS[rps]、共振周波数の前後の幅を規定するΔfr[Hz]、任意のトラックの半径Rd[m]を用いて求められる、波長λ1(=2×π×Rd×RPS/(fr+Δfr))と、λ2(=2×π×Rd×RPS/(fr−Δfr))の間の範囲に属する前記任意のトラック内のうねりが、標準偏差値(シグマ値)にして、0.05nm以下に設定されていることを特徴とする磁気記憶媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気記憶媒体と、
前記磁気記憶媒体に対するデータの記録再生を行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを保持して、前記磁気記録媒体上を浮上する磁気ヘッドスライダと、を備える磁気記憶装置。
【請求項6】
前記磁気ヘッドスライダは、前記磁気記憶媒体が回転している間、前記磁気記憶媒体との間に正圧及び負圧を発生することを特徴とする請求項5に記載の磁気記憶装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−257497(P2010−257497A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102557(P2009−102557)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】