説明

磁気記録媒体、情報記憶装置及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】サーボ領域部を形成するサーボパターンによる磁化の安定とともに磁気記録媒体による高記録密度化を図ることができる磁気記録媒体、情報記憶装置および磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】サーボ領域21は、パターン部22である第一磁性層23と、この第一磁性層23の磁化方向と反平行に磁化され、第一磁性層23より保磁力が低い非パターン部24として形成された第二磁性層25と、第一磁性層23と第二磁性層25との間に設けられた非磁性層26とから形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気記録媒体、情報記憶装置及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(Hard Disc Drive)等の磁気記録装置は小型・大容量化が急速に進んでおり、磁気記録媒体の大容量化に伴い高記録密度化も要求されている。ここで、高記録密度化を図るべく磁気記録媒体の磁気粒子は微細化(直径8nm程度)されており、かかる高密度化の要望に応えるため、記録面に対して垂直方向に磁化を行なう垂直磁気記録方式が用いられている。
【0003】
そこで、磁気記録媒体の高記録密度化を図る垂直磁気記録方式の媒体としては、隣接するトラック間に、非磁性体領域を形成し、磁性体によって形成されるトラック部にのみ記録するディスクリートトラック媒体(DTM:Discrete Track Media)が提案されている。また、磁性粒子を孤立させて、単一のビットパターンを作製し、記録分解能を向上させたビットパターンドメディア媒体(BPM:Bit Patterned Media)が提案されている。
【0004】
ディスクリートトラック媒体の場合は半径方向に、ビットパターンドメディア媒体は円周方向および半径方向ともに凹凸状にパターニングされ、サーボ領域もサーボパターンに応じた凹部(非パターン部)と凸部(パターン部)とを有するパターンが形成されるため記録密度を向上させることができる。
【0005】
ここで、上述したパターンドメディアのサーボ領域の概要について説明する。図11は、従来のサーボ領域21のサーボパターンの一例を説明する断面図である。同図に示すように、磁気記録媒体を形成するサーボ領域21は、基板9の上面に中間層10を積層し、中間層10の上面に凹凸パターンを形成した磁性記録層11を設けた構造を有している。
【0006】
図11に示すように、磁性記録層11は、凹凸パターン部が交互に形成され、凸部であるパターン部12には記録磁性層13が設けられ、凹部である非パターン部14には非磁性層15が充填されている。ここで、サーボパターンでは上向きまたは下向きのいずれかである一方向の磁化の有無で情報を表しているため、同図に示すように、記録磁性層13は、所定の方向(図11では、上向き)にサーボ信号が磁化された記録磁性層13として形成されている。
【0007】
また、この種の磁気記録媒体によるサーボ領域の構造として、サーボ領域を形成する凹凸パターンのうちの凹部の上部磁性層を除去することで、この凹部の保磁力を高めるとともに、サーボ領域を一方向に磁化することで、凸部の磁化方向を反転させた構造が開示されている(例えば、特許文献1)。このように、サーボ領域の凹凸パターンのうちの凸部の磁化方向を反転させた構造とすることで、サーボ領域においてのサーボ信号を増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−95115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上述したように形成されるサーボ領域のサーボパターンの場合には、以下に示す問題がある。すなわち、上述した従来のディスクリートトラックメディアやビットパターンドメディアではサーボ領域のサーボパターンとして形成されている全てのパターン部(凸部)を同方向(図11に示す上方向)に磁化することになる。
【0010】
ここで、サーボパターンはデータビットとは異なり、一方向に磁化されたパターン部(凸部)の水平方向の面積が大きくなる傾向があり、更に、垂直方向の膜厚は高密度化に伴い薄膜化とすることが要求されている。従って、その形状異方性から、垂直方向の磁化は顕著に不安定となるため、製造時に所定の方向に磁化(着磁)しても反磁界などの影響により磁化方向が反転してしまうという問題がある。
【0011】
具体的に説明すると、図12に示すように、サーボ領域21の記録磁性層11はサーボ信号が磁化として記録されているが、磁性記録層13には、この磁性記録層13による磁化方向aと逆方向となる反磁界bが発生する。また、同様に、磁性記録層13には、この磁性記録層13に隣接する別の磁性記録層13から発生する磁界cとが、それぞれ磁性記録層13の磁化方向aとは逆向きの磁界(図12の下向き方向)となって印加される。
【0012】
さらに、サーボ領域21の記録磁性層11の凸部は、膜厚に対して、面内方向の面積が大きくなる傾向があることから、磁性記録層13の内部で発生する反磁界bは大きくなり、これによって、磁性記録層13の磁化方向aはより反転しやすいものとなる。この結果、サーボ領域21を形成する磁性記録層13の磁化を安定させることができないという問題がある。
【0013】
また、上記従来の特許文献1の技術の場合にも、サーボ領域でのサーボ信号を増大させることはできるが、サーボ領域を形成する磁性記録層の安定化を図ることはできないという問題がある。
【0014】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、安定したサーボ信号を得ることができるとともに、磁化の安定を図り、高記録密度媒体を実現することができる磁気記録媒体、情報記憶装置及び磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
開示の発明は、サーボ領域内でのデータ部であるパターン部として形成された第一磁性層と、第一磁性層の磁化方向とは反平行に磁化されるとともに、第一磁性層よりも保磁力が低い非パターン部として形成された第二磁性層と、第一磁性層と第二磁性層との間に形成された非磁性層とを有する磁性記録層を備えたことを要件とする。
【発明の効果】
【0016】
開示の発明によれば、サーボ領域の磁性記録層は、パターン部として形成された第一磁性層と磁化が逆向きで保磁力が低い非パターン部として形成された第二磁性層を有するとともに、両磁性層の間には非磁性層が設けられているので、第二磁性層による反平行な磁化により安定したサーボ信号を得ることができ、これによって、磁気記録媒体による高記録密度化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施例1に係る情報記憶装置の内部を示す外観図である。
【図2】図2は、図1のサーボ領域のサーボパターンを説明する断面図である。
【図3】図3は、サーボ領域のサーボパターンを説明する拡大断面図である。
【図4】図4は、サーボ領域のサーボパターンを説明する拡大断面図である。
【図5】図5は、磁気記録媒体の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図6は、磁気記録媒体の製造方法を示す説明図である。
【図7】図7は、磁気記録媒体の製造方法を示す説明図である。
【図8】図8は、磁気記録媒体の製造方法を示す説明図である。
【図9】図9は、磁気記録媒体の製造方法を示す説明図である。
【図10】図10は、磁気記録媒体の製造方法を説明する図である。
【図11】図11は、従来のサーボ領域のサーボパターンの一例を説明する断面図である。
【図12】図12は、従来のサーボ領域のサーボパターンの一例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本願の開示する磁気記録媒体、情報記憶装置及び磁気記録媒体の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施例1により本願に開示する磁気記録媒体、情報記憶装置及び磁気記録媒体の製造方法が限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
先ず、実施例1に係る情報記憶装置1の概要について説明する。図1は、実施例1に係る情報記憶装置の内部を示す外観図である。図1に示すように、情報記憶装置1は、磁気記録媒体2と、スピンドルモータ4とボイスコイルモータ5と磁気ヘッド7を先端部に設けたアクチュエータ3とを有する。
【0020】
磁気記録媒体2は、各種の磁気情報を高記録密度に記録する磁気記録媒体であり、スピンドルモータ(以下、「SPM」という)4により所定の方向に回転駆動される。この磁気記録媒体2は、各種の情報を記録する凹凸部のパターンとして形成されたサーボ領域21(図2)を有するとともに、互いに孤立した記録再生のための磁化領域が非磁化領域によって隔離されて配置されているパターンドメディアである。
【0021】
磁気記録媒体2は、サーボ情報等を記憶するサーボ領域21(図2)と、ユーザデータを記憶するデータ領域(図示せず)とを有する。アクチュエータ3の先端部には、磁気記録媒体2の読み書きを行なうための磁気ヘッド7が設けられている。
【0022】
すなわち、アクチュエータ3の一方の端に設けられたヘッド駆動機構であるボイスコイルモータ(以下、「VCM」という)5の駆動により、アクチュエータ3が軸6を中心とする円弧上を回動する。そして、磁気記録媒体2のトラック幅方向に磁気ヘッド7を移動させることで読み書き対象となるトラックを変更する。
【0023】
磁気ヘッド7は、磁気記録媒体2の回転によって生じる揚力によって、磁気記録媒体2の表面からわずかに浮いた状態を維持しつつ、読み書き対象となるトラックまで移動し、リード処理及びライト処理(データの読み書き処理)を行う。
【0024】
[磁気記録媒体2の構成]
次に、図2を用いて、情報記憶装置1に設けられる磁気記録媒体2の構造について説明する。図2は、実施例1に係る情報記憶装置1が備えた磁気記録媒体2の構造を示す図であり、磁気記録媒体2を形成するサーボ領域とデータ領域とのうちのサーボ領域を説明する図である。
【0025】
サーボ領域21は、磁気ヘッド7の位置決め制御に利用されるデータであるサーボ情報等を記憶する領域である。そして、図2に示すサーボ領域21を構成するサーボパターンは、磁化部分と非磁化部分の配列(磁気の有「1」、無「0」の組み合わせ)によってサーボ制御のためのビット情報を表す。図2では、上向きまたは下向きのいずれかである1方向の磁化の有無で情報を表している。
【0026】
図2に示すように、磁気記録媒体2を形成するサーボ領域21の概要は、非磁性材の基板30(図6)の上面に中間層34および中間層35を積層し、中間層35の上面に凹凸パターンを形成した磁性記録層36を設けた構造を有している。
【0027】
具体的に説明すると、サーボ領域21を形成するサーボパターンは、サーボ信号を出力するパターン部22(凸部)であり強磁性材料からなる第一磁性層23と、各磁性層23間の非パターン部24(凹部)に埋め込まれた強磁性材料からなる第二磁性層25とを設けている。ここで、第二磁性層25は、第一磁性層23の磁化とは反平行となる逆方向の磁化を有する。
【0028】
ここで、第二磁性層25は、第一磁性層23よりも保磁力が低い磁性材料を使用し、両磁性層23、25の間には非磁性層26を設けることとしている。すなわち、図3に示すように、静磁気相互作用(磁界α)の存在のもと、第二磁性層25は、外部磁界が小さい時に第一磁性層23の磁化(磁化方向a)とは逆向きの磁化(磁化方向a´)を有する。
【0029】
このように、両磁性層23、25の磁化を反平行とすることにより、第一磁性層23の磁化をエネルギー的に安定とし、この結果、サーボ領域21を形成するパターン部22(第一磁性層23)の磁化を反転しにくくすることができるようにしている。
【0030】
また、図4に示す別の実施形態では、第一磁性層23と第二磁性層25との間にはRuなどの交換相互作用(RKKY:Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)を発生させる材料である非磁性層26が設けられている。
【0031】
このように配置された第一磁性層23と第二磁性層25と非磁性層26間には、静磁気相互作用および交換相互作用が作用する。すなわち、第一磁性層23には、第二磁性層25(磁化方向a´)の静磁気相互作用による磁界α(図3)に加え、非磁性層26を介した交換結合磁界βが加わるため、この第一磁性層23の磁化をより安定化とすることができる。
【0032】
以下、図3及び図4を用いて静磁気相互作用および交換相互作用による作用効果について説明する。図3は、サーボ領域のサーボパターンを説明する拡大断面図である。また、図4は、サーボ領域のサーボパターンを説明する拡大断面図である。
【0033】
すなわち、図3に示すように、サーボ領域21の第一磁性層23には、反磁界bが存在する。ところが、このように、サーボ領域21の第一磁性層23に対する反磁界bが存在する場合であっても、第一磁性層23の磁化による磁化方向aと逆向きとなる第二磁性層25から発生する磁界αにより、第一磁性層23の磁化(磁化方向a)は反転しにくくなるため、これによって、この第一磁性層23の磁化は安定となる。ここで、第二磁性層25の保磁力は第一磁性層23の保磁力よりも低いことから第一磁性層23の磁化は最初に所望の方向に磁化した方向から反転しない。
【0034】
また、図4に示すように、第一磁性層23と第二磁性層25との間にはRuなどの交換相互作用を発生させる材料である非磁性層26が設けられているため、第一磁性層23には、磁界α´に加え、非磁性層26を介した交換結合磁界βが加わるため、この第一磁性層23の磁化をより安定化とすることができる。
【0035】
[磁気記録媒体2の製造方法]
次に、本実施例1に係る磁気記録媒体2の製造方法を図5および図6〜図9を用いて説明する。ここで、図5は、実施例1に係る磁気記録媒体2の製造工程を示すフローチャートである。
【0036】
また、図6〜図9は、実施例1に係る磁気記録媒体2の製造工程を説明する図である。なお、以下の説明において、本実施例の磁気記録媒体2の製造方法は、磁気記録媒体2をを所定の手順で製造する製造システムにより行なうこととして説明する。
【0037】
図5のフローチャートに示すように、磁気記録媒体2の製造システムでは、多層膜形成工程(ステップS1)と、レジスト工程(ステップS2)と、パターン形成工程(ステップS3)と、非磁性層形成工程(ステップS4)と、磁性層形成工程(ステップS5)とを順に行なう。
【0038】
すなわち、図5のフローチャートに示すように、本実施例1の製造システムでは、基板の上面に複数の薄膜を積層させる多層膜形成工程を行なう(ステップS1)。この多層膜形成工程は、非磁性の基板30の上面に下地層31と結合層32と下地層33と中間層34と中間層35とを順次積層させる工程である。
【0039】
具体的に説明すると、本実施例1に示す磁気記録媒体の製造システムでは、図6に示すように、略円盤状に形成された基板30を用意する。この基板30には、例えば、Al合金、NiPめっき付きのAl合金やガラス材などの非磁性材料を使用する。なお、この基板30としては、表面の平坦性が高く、機械的強度の高い磁気特性に影響を与えないような非磁性板が望ましい。
【0040】
そして、この基板30の上面にスパッタリングにより、下地層31と、結合層32と、下地層33と、中間層34と、中間層35とを順次積層する。なお、後述するが中間層35の上面には、磁性記録層36を積層する。
【0041】
下地層31は、磁気ヘッド7(図1)の書き込み磁界を引き込むための軟磁性の補助層として設けられる。また、この下地層31には、通常、飽和磁化力Bの高い軟磁性材料(例えば、FeCoZrTa)を使用する。
【0042】
結合層32は、この結合層32の上下に積層する軟磁性の下地層31、33の磁化を反平行とするために用いる膜層体(0.5〜3nm程度)であり、例えば、Ruなどの非磁性材料が使用される。
【0043】
下地層33は、下地層31と同じく磁気ヘッド7(図1)の書き込み磁界を引き込むための軟磁性の補助層として設けられる。また、この下地層33には、下地層31と同じく飽和磁化力BSの高い軟磁性材料(例えば、FeCoZrTa)を使用する。
【0044】
中間層34は、この中間層34の上面に積層する中間層35の結晶配向性や結晶粒径を制御するための膜層体である。この中間層34は、アモルファス系や結晶系の材料(例えば、Ta)が使用される。
【0045】
中間層35は記録磁性層の結晶配向や結晶粒径などを制御するための膜層体である。ここで、中間層35の上面に積層する磁性記録層36にCo合金を使用する場合、この中間層35には、Co合金と同じhcp結晶構造を有する非磁性材料である非磁性CoCr合金やRu合金などを使用する。なお、上述した中間層34、35は、複数の材料を組み合わせた3層以上としても良い。
【0046】
そして、次に、図5のフローチャートに示すように、本実施例1の製造システムでは、多層膜体上にレジストを形成するレジスト形成工程を行なう(ステップS2)。このレジスト形成工程は、多層膜体上にレジストを形成するとともに、このように形成されたレジストに、サーボ領域21の凹凸パターンとは、逆の凹凸部を有する原盤を用いてナノインプリントにより凹凸部を形成する工程である。このように形成されたレジストはパターニングを行なうためのレジストマスクとなる。
【0047】
そして、次に、図5のフローチャートに示すように、本実施例1の製造システムでは、多層膜の上面をパターニングするパターニング工程を行なう(ステップS3)。このパターニング工程は、多層膜の上面に形成した磁性記録層36の所定の位置にパターン部22となる複数の第一の磁性層23を形成する工程である。
【0048】
具体的に説明すると、レジスト形成工程により形成されたレジストマスクを用いて、イオンエッチングにより中間層35および中間層35の上面に形成した磁性記録層36をパターニングする。図7に示すように、パターニングによりサーボ領域21(図1)となる多層膜上(中間層35の上面部)の所定の位置に複数のパターン部22である第一磁性層23を形成することができる。
【0049】
ここで用いたパターンは、データ部が60nm周期(凸部と凹部それぞれが、約30nm程度)であり、サーボ領域21はサーボ信号に対応した所定の周期(200〜500nm程度)を有する。
【0050】
そして、次に、図5のフローチャートに示すように、本実施例1の製造システムでは、非磁性層形成工程を行なう(ステップS4)。この非磁性層形成工程は、サーボ領域21である非パターン部24の所定の位置に非磁性層26を形成する工程である。
【0051】
具体的には、図8に示すように、凹部である非パターン部24のうち、中間層35の膜厚に相当する分にのみ非磁性層26をスパッタにより埋め込む。非磁性層26は、第一磁性層23の磁気特性に影響を与えないように非磁性材料である膜厚寸法が0.5〜1.5nm程度のRuを使用する。
【0052】
ここで、非磁性層26をスパッタにより埋め込む際は、基板30とスパッタリングターゲットの距離を調整することで、パターン部22の側壁部にも十分なスパッタを行なうことができる。
【0053】
すなわち、このようなスパッタにより、第一磁性層23と第二磁性層25とは確実に分離され、さらに第一磁性層23と第二磁性層25との間には非磁性層26が充填されることとなる。なお、この非磁性層26の材料としては、Ru以外に非磁性CoCrやCr合金などを使用してもよい。
【0054】
そして、次に、図5のフローチャートに示すように、本実施例1の製造システムでは、磁性層形成工程を行なう(ステップS5)。この磁性層形成工程は、非パターン部24に第二磁性層25を形成する工程である。
【0055】
具体的に説明すると、非パターン部24のうちの磁性記録層36の膜厚に相当する分のみ強磁性材による第二磁性層25をスパッタにより埋め込む。この第二磁性層25には、高品質なデータ記録が可能なCoCrPt合金などの強磁性材を使用する。
【0056】
前述したように、この第二磁性層25の磁化は、第一磁性層23の磁化とは反平行となる磁性層として形成される。また、第二磁性層25の保磁力は、第一磁性層23の保磁力よりも低い磁性材料を使用する。
【0057】
ここで、第二磁性層25の保磁力を第一磁性層23の保磁力よりも低い材料とするのは、一つの理由は保磁力に差をつけることで両者の磁化を反平行にしやすくするためである。
【0058】
そして、もう一つの理由は、第一磁性層23は高品質なデータ記録を行なう磁性層であり(通常、高保磁力)、第二磁性層25の保磁力を第一磁性層23の保磁力よりも高い材料とすることが難しい上に、フォーマット(初期着磁)に大きな磁界が必要となるために着磁が難しくなるためである。
【0059】
なお、非パターン部24(凹部)に埋め込まれた第二磁性層25の余剰部分は、イオンビームエッチング(IBE)などのエッチングによりエッチング処理され平坦化する。また、図9に示すように、平坦化された磁性記録層36の上面には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの保護層37と、潤滑のためのフッ素系潤滑層38とを順に積層する。そして、以上のS1〜S5までの工程により製造した磁気記録媒体2に対してサーボ領域21のサーボパターンに所定の磁気情報を与えるフォーマットを行なう。
【0060】
ここで、サーボ領域21を形成するサーボパターンである第一磁性層23と第二磁性層25の磁化方法について説明する。図10は、磁気記録媒体の製造方法を説明する図であり、磁気層の磁気特性であるヒステリシスループ(MHループ)を示している。
【0061】
すなわち、の本実施例1の磁気記録媒体の製造方法で製造する磁気記録層36の凹凸パターンを含むサーボ領域のMHループは図10のようなMHループとなる。
【0062】
図10は、第一磁性層23と第二磁性層25の体積と飽和磁化の積がおおよそ同じであり、第二磁性層25の保磁力Hcが第一磁性層23のよりも小さい場合を示している。すなわち、図10のように膜面に垂直方向のどちらか一方に外部磁界を印加することで、パターン部22である凸部(第一磁性層23)を所望の方向へ磁化する。
【0063】
この時、凹部(第二磁性層25)も同方向に磁化されたとしても、磁界がなくなる過程で、第二磁性層25は磁気的な相互作用により反転し、反平行とすることができる。
【0064】
具体的には、図10の(1)で示すように、サーボパターンの磁性記録層を一方向(第一磁性層23および第二磁性層25の磁化が上向き方向)に着磁させ(例えば、2.5T程度の磁界中)、さらに外部磁場をとりさること(図中のH=0付近)で、図10の(2)で示す第二磁性層25の磁化が反平行となったサーボパターンとすることができる。
【0065】
同じく、図10の(3)で示すように、サーボパターンの磁気記録層を一方向(第一磁性層23および第二磁性層25の磁化が下向き方向)に着磁させ、さらに外部磁場をとりさること(図中のH=0付近)で、図10の(4)で示す第二磁性層25の磁化が反平行となったサーボパターンとすることができる。
【0066】
ここで、本発明者は、本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造した磁気記録媒体2のサーボ領域21を形成する第一磁性層23と第二磁性層25との両者の磁化が反平行となっていることを確認するための検証実験を行なった。
【0067】
具体的には、ハードディスク用に使用されている一般的なTMR型の磁気ヘッドを用い、サーボパターン内の第一磁性層23となる約120nmのパターン部22(凸部)と第二磁性層25が埋め込まれた約120nmの非パターン部24(凹部)が周期的に連続している箇所の磁気信号を読み取る「磁気信号読み取り試験」を行なった。
【0068】
すなわち、「磁気信号読み取り試験」により取得される磁気信号の上方向(正「1」)と下方向(負「0」)とにより、第一磁性層23および第二磁性層25がどちらの向きに磁化されているかがわかる。
【0069】
そして、この「磁気信号読み取り試験」によりパターン部22(凸部)および非パターン部24(凹部)をそれぞれ約10万個の信号を検査したところ、全ての第一磁性層23が同じ方向の磁化であり、さらに全ての第二磁性層25は凸部と逆向きの一方向の磁化であることがわかった。
【0070】
以上のことから、サーボ領域21を形成するサーボパターンの第一磁性層23および第二磁性層25をそれぞれ単独に磁化することなく、本実施例1の磁気記録媒体の製造方法で製造した媒体を一方向の磁界中に晒すだけで、本発明の磁気記録媒体を実現することが可能であることが分かった。
【0071】
以上説明したように、本実施例1の磁気記録媒体によれば、サーボ領域21は、パターン部22である第一磁性層23と、この第一磁性層23の磁化方向と反平行に磁化され、第一磁性層23より保磁力が低い非パターン部24として形成された第二磁性層25と、第一磁性層23と第二磁性層25との間に形成された非磁性層26とから形成されているので、これによって、サーボ領域21のサーボパターンは磁化の安定を図ることができる。
【0072】
以上の実施例1を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0073】
(付記1)サーボ領域内でのデータ部であるパターン部として形成された第一磁性層と、
前記第一磁性層の磁化方向とは反平行に磁化されるとともに、前記第一磁性層よりも保磁力が低い非パターン部として形成された第二磁性層と、
前記第一磁性層と第二磁性層との間に形成された非磁性層と
を有する磁性記録層を備えたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0074】
(付記2)前記非磁性層は、Ruによって形成されることを特徴とする付記1に記載の磁気記録媒体。
【0075】
(付記3)前記第一磁性層と前記第二磁性層は、強磁性材料であることを特徴とする付記1または2に記載の磁気記録媒体。
【0076】
(付記4)前記第一磁性層と前記第二磁性層は、Co合金であることを特徴とする付記1または2に記載の磁気記録媒体。
【0077】
(付記5)サーボ領域内でのデータ部であるパターン部として形成された第一磁性層と、前記第一磁性層の磁化方向とは反平行に磁化されるとともに、前記第一磁性層よりも保磁力が低い非パターン部として形成された第二磁性層と、前記第一磁性層と第二磁性層との間に形成された非磁性層とを有する磁性記録層を備えた磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対してデータの読み書き処理を行なう磁気ヘッドと
を備えることを特徴とする情報記憶装置。
【0078】
(付記6)サーボ領域内でのパターン部として形成された第一磁性層の磁化方向と反平行に磁化されるとともに、前記第一磁性層よりも保磁力が低い第二磁性層を非パターン部として形成するパターン形成工程と、
前記第一磁性層と、前記パターン形成工程により形成された第二磁性層との間に非磁性材である非磁性層を形成する非磁性層形成工程と
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【符号の説明】
【0079】
1 情報記憶装置
2 磁気記録媒体
3 アクチュエータ
4 スピンドルモータ
5 ボイスコイルモータ
6 軸
7 磁気ヘッド
9、30 基板
10、34、35 中間層
11、36 磁性記録層
20、21 サーボ領域
22 パターン部
23 第一磁性層
24 非パターン部
25 第二磁性層
26 非磁性層
31、33 下地層
32 結合層
37 保護層
38 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボ領域内でのデータ部であるパターン部として形成された第一磁性層と、
前記第一磁性層の磁化方向とは反平行に磁化されるとともに、前記第一磁性層よりも保磁力が低い非パターン部として形成された第二磁性層と、
前記第一磁性層と第二磁性層との間に形成された非磁性層と
を有する磁性記録層を備えたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非磁性層は、Ruによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
サーボ領域内でのデータ部であるパターン部として形成された第一磁性層と、前記第一磁性層の磁化方向とは反平行に磁化されるとともに、前記第一磁性層よりも保磁力が低い非パターン部として形成された第二磁性層と、前記第一磁性層と第二磁性層との間に形成された非磁性層とを有する磁性記録層を備えた磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対してデータの読み書き処理を行なう磁気ヘッドと
を備えることを特徴とする情報記憶装置。
【請求項4】
サーボ領域内でのパターン部として形成された第一磁性層の磁化方向と反平行に磁化されるとともに、前記第一磁性層よりも保磁力が低い第二磁性層を非パターン部として形成するパターン形成工程と、
前記第一磁性層と、前記パターン形成工程により形成された第二磁性層との間に非磁性材である非磁性層を形成する非磁性層形成工程と
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−257555(P2010−257555A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109951(P2009−109951)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】